憲法の岐路 憲法審査会 合意の原則に反しては

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憲法の岐路 憲法審査会 合意の原則に反しては

強引に改憲を進めようとする安倍晋三首相の姿勢は、国民が政治に求めているものから懸け離れている。議論が進まなかったのはその帰結と見るべきだ。

衆参の憲法審査会が実質的な審議をしないまま今国会の日程を終えた。直接の原因は下村博文・自民党憲法改正推進本部長の発言だ。審査会開催に野党が消極的だとして「国会議員としての職場放棄だ」などと批判した。

立憲民主党など野党は反発し審議をボイコットした。衆院憲法審の森英介会長(自民)はその後、主要野党が欠席する中、審査会を会長職権で開催。火に油を注ぐ結果になった。

流れを追うと、安倍首相の姿勢が根っこにあって一連の無理押しにつながっていることが分かる。

首相が昨年の憲法記念日にビデオメッセージで、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と述べたのが始まりだった。最近は10月の会見で「自民党がリーダーシップを取り次の国会に改正案を出すべきだ」とハッパを掛けた。今国会の所信表明でも「国会議員の責任を果たしていこう」と述べている。

自民執行部は首相に合わせて憲法関連の党内人事を一新している。野党との協調を重視してきたメンバーに代えて、下村氏ら首相に近い議員を起用した。

下村氏の「職場放棄」発言は首相の意に沿おうとしたあまりの勇み足だったのだろう。執行部の狙いが裏目に出た形である。

そもそも自民党の改憲4項目、▽9条への自衛隊明記▽緊急事態条項▽参院選の「合区」解消▽教育充実―は党内事情や野党対策が優先された結果、全体の整合性が取れていない。いまなぜこの4項目なのか、説得力が乏しい。

各種世論調査を見ると、国民の多くは改憲を緊急テーマと見ていない。国民が求めるのは暮らしの安心である。改憲を急ぐ安倍政権の姿勢に無理がある。

審査会の前身である衆参の憲法調査会は与野党合意を重視する運営を続けてきた。5年間の審議を経て2005年4月に報告書をまとめ、発表している。調査会として一致できたこと、できなかったことを整理し、その後の議論のたたき台とした。

審査会の運営が広い合意を目指す原則に立ち返らない限り、議論の深まりは期待できない。国民の理解も得られないだろう。

(12月7日)