読売社説:憲法審査会 緊急時に備えた建設的議論を
2020/05/29 05:00
社会が変化する中、憲法の観点から掘り下げるべき課題は多い。憲法審査会は本来の責務を果たさねばならない。
衆院憲法審査会が今国会で初めての自由討議を行った。昨年11月以来、半年ぶりだ。
開催が遅れたのは、野党が新型コロナウイルスの流行を理由に反対したためだ。感染症対策が急務だったのは確かだが、他の委員会で議論している。長期にわたり審査会を拒む理由にはなるまい。
自民党は討議で、緊急時に関して、「国会機能を確保する観点からの議論が早急に必要ではないか」と提起した。日本維新の会も「緊急事態条項を創設する議論は待ったなしだ」と強調した。
憲法は、衆参両院の本会議開催には総議員の3分の1以上の出席が必要と規定する。感染症が蔓延した場合などには、本会議を開けなくなるとの懸念も出ている。緊急時の立法府のあり方について、憲法の論議は欠かせない。
国会議員の任期は衆院4年、参院6年と憲法に明記されている。任期満了近くに大災害などが発生すれば、国政選の実施が難しくなり、一部地域で議員が不在になる事態も想定される。
だが、立憲民主党や国民民主党などは審査会で、緊急事態について踏み込んで言及しなかった。憲法改正を悲願とする安倍首相の下で、改正論議が進むことへの警戒感があるのだろう。
感染症の拡大は、社会や国民の生活に影響を及ぼした。国の非常事態に対し、政府や国民はどう備えるか。憲法の解釈や課題を常に議論しておく必要がある。与野党は、大局的な立場から議論を深めなければならない。
自民党は審査会で、継続審議になっている国民投票法改正案の成立を求めた。商業施設などに共通投票所を設置できるようにし、投票の利便性を高める内容である。速やかに成立させるのが筋だ。
立民党などは、改正案よりも、国民投票でのテレビ・ラジオCMの規制を強化するための議論を優先すべきだと主張した。資金力がある政党や団体が、大量の広告を流す影響を懸念している。
活発な意見表明を促すため、国民投票運動は原則自由となっている。法の趣旨に照らし、規制強化は慎重に検討すべきだ。
インターネットの広告費は、テレビ広告費を上回る。個人が自由に発信できるSNSが普及する中で、テレビに限って規制を強めることが適切なのか。改正案とは別に、幅広い議論が求められる。