北朝鮮の核実験に対して、麻生内閣と与党は「制裁」の強化を主張し、国連でも「制裁決議」採択の先頭にたって動き、同時に日本の独自追加制裁として北朝鮮向け輸出の全面禁止を決定した。
くわえて現在、麻生内閣と与党は、北朝鮮に出入りする船舶の公海上での貨物検査(臨検)を盛り込んだ6月12日の国連安全保障理事会決議1874「北朝鮮の核実験をめぐる安保理決議」を受けて、「北朝鮮に係る船舶検査活動等に関する特別措置法」(仮称)の制定を企てている。麻生内閣は北朝鮮の核実験は現行「船舶検査法」(有事法制)の想定する「周辺事態」ではないので適用することはできないが、「国連決議の要請に応えなければならない」として、7月上旬の法案提出をめざし、大急ぎで新法=特措法の準備に入っている。
もとより、憲法9条を持つわが国が、自国領土、領海を超えて警察権を行使することはできず、国連安保理決議1874のようなものの採択を先頭に立って呼びかける資格はないはずである。また国連決議だからといって、日本が憲法上実行できないものがあることは1956年の国連加盟に際して行った重光全権の演説でも立場は明確である。与党のこの法案に対する憲法解釈は二重の意味に於いて誤りである。
報道によれば、現在検討されている「北朝鮮関係船舶臨検特措法」案では、活動区域は『領海またはわが国周辺の公海』とし、貨物検査の実施主体は海上自衛隊と海上保安庁の双方とされ、公海上の臨検は対象船舶の所属国の同意を得て行い、ミサイル関連物資などの禁輸品があれば、航路変更などを要請する、武器使用基準は正当防衛や緊急避難の場合に限定する、としているといわれる。しかし、自民党内では強制的な船舶捜査に備えて、武器使用権限の拡大を含めた私案を作成している議員たちもいる。
これに対して北朝鮮は「海上封鎖は戦争行為とみなす」と宣言し、6月23日、政府の意志を代弁して「朝鮮中央通信」は「彼らがいう貨物検査(臨検)のための『法整備』とは戦争行為を合法化するためのものだ」「万一、朝鮮の平和的な船舶を検査すれば、わが革命軍は千倍の無慈悲な復讐の攻撃を加える」などと主張している。
こうした情勢の下で特措法の制定と、それによる「船舶検査」(臨検)の実施が戦争の誘発につながる可能性が少なくなく、この特措法は憲法第9条に違反することが明白である。
この臨検特措法には多くの重大な問題点がある。まず、どのようにして北朝鮮関係船舶に対して「公海での検査の同意を要請する」のか。船舶を停止させる際の航路妨害や、P3C哨戒機による各種の威嚇、自衛艦あるいは巡視艇による信号弾の発射、照明弾の発射などは武装した船舶が行う場合、相手からは武力による威嚇(または攻撃)と受け取られる可能性がある。その上、相手船舶が臨検を拒否して、停船要請を武力威嚇とみなして、武力抵抗すれば「正当防衛・緊急避難」の理由で応戦することになり、戦闘が発生する。また、相手船舶に「要請」が無視された場合、どうするのか。国連安保理決議は「近くの港に誘導する」というが、これには強制力をともなわずには不可能である。
自衛隊による海上封鎖と臨検という危険な措置をもてあそぶ麻生内閣も、核実験と「幾千倍の無慈悲な復讐」を叫ぶ北朝鮮政府も、いずれも冒険主義の戦争瀬戸際政策であり、東アジアの緊張を限界にまで拡大する愚かな行為である。
私たち「市民連絡会」は先の「北朝鮮の核実験に抗議する声明」(5月27日)の中で以下のように指摘した。
「いま、求められているのは東北アジアの緊張の緩和と非核・平和の確立であり、そのための真剣な対話と協議である。北朝鮮政府はただちに朝鮮半島の非核化のための『6カ国協議』に復帰し、東北アジアの平和のために各国政府との対話をすすめるべきである。また、日本政府や米国政府はこの機を利用して制裁を強めるなど、いたずらに北朝鮮を敵視し、東北アジアの緊張を激化させる行動をとるべきではない。そして両国政府は2002年の小泉訪朝の際に発表された『日朝平壌宣言』を基礎とした対話による関係の回復のため力を尽くすべきである」。
いま麻生内閣と与党がとっている道は、これとは正反対の危険な北朝鮮敵視政策であり、いっそう東北アジアの軍事的緊張を激化させるものである。麻生内閣と与党は東北アジアに戦争の危険をもたらす「北朝鮮船舶臨検特措法」の企てをやめるべきである。
日本政府は日本国憲法第9条をはじめとする平和主義の条項を厳守し、東アジア関連諸国と共同して有効なあらゆる可能性を大胆に追求し、「日朝平壌宣言」を基礎とした対話の努力に全力をあげ、真摯に事態の平和的打開の道を探るべきである。
2009年6月24日
許すな!憲法改悪・市民連絡会