声明・論評

安倍内閣の改憲策動は二重に敗北した。安倍内閣は歴史的敗北の政治責任をとり、ただちに総辞職すべきである

注目の参院選が終わった。結果は野党が議席の過半数を獲得し、民主党は目標の55議席を上まわる60議席を獲得し、参院第一党となった。安倍自民党は37議席という歴史的な敗北を喫し、与党公明党も議席数を後退させた。改憲反対などを掲げた共産党、社民党はそれぞれ2議席、1議席づつ減らしたが、沖縄、東京などでは無所属の護憲派候補が議席を獲得した。投票率は58.63%と前回よりも増え、有権者の関心の高さを示した。

2006年秋、約50年ぶりに改憲を正面から掲げて登場した安倍内閣は、この選挙で憲法問題においては二重の意味での敗北を喫した。

第一に安倍首相と自民党は、この参議院議員選挙の「155の重点政策」の筆頭に<新憲法制定を推進する>という項目を掲げ、「次期国会から衆参両院に設置される『憲法審査会』の議論を主導しつつ、平成22年の国会において憲法改正案の発議をめざし国民投票による承認を得るべく、新憲法制定推進の国民運動を展開する」と書いた。安倍首相は本年年頭の記者会見では「新しい時代にふさわしい憲法をつくるという意思を今こそ明確にしなければならない」と述べていた。そして「当然、参院選でも訴える」と改憲を争点にする考えも示したはずである。

だがこの選挙戦において安倍首相と与党は、この改憲の主張を有権者の前で全く展開しなかった。与党は選挙戦の全ての期間において、その改憲の主張を鮮明にできず、主張する改憲の中身の説明を全くできなかったのである。彼らは全選挙戦を通じて、その主張のほとんどを「年金問題」での空約束と野党に対する攻撃に終始し、憲法問題を素通りした。改憲を至上命題として登場したはずの安倍内閣の選挙戦術は、まさに羊頭狗肉そのものであった。安倍内閣と与党がこの選挙で堂々と改憲を掲げて有権者に信を問うことができなかったこと自体が、安倍内閣の重大な敗北であったといわねばならない。

第二に、にもかかわらずこの選挙で有権者は、発足以来、「改憲」、「戦後レジームからの脱却」などの主張を掲げて、新保守主義的政治色を濃厚にしてきた安倍内閣の強権政治に「NO」という判断を突きつけたということである。たしかにこの選挙戦の大きな争点が「年金」問題にあったことは疑いない。しかし有権者の安倍内閣に突きつけた不信任は、それだけではなく「日本会議議連」など安倍晋三首相の特異な同志、とりまきを主体に構成された安倍内閣の強権政治や政治的腐敗への不信を強め、教育基本法改悪や防衛省昇格、集団的自衛権の行使や日米軍事同盟の強化などにはやる安倍晋三首相の危険な政治路線に待ったをかけたものだと言って間違いない。その意味で、まさに今回の選挙の「争点は安倍晋三」だったのであり、安倍晋三首相は有権者によって拒否されたのである。

安倍内閣はこの有権者の審判に従い、ただちに総辞職しなければならない。にもかかわらず、安倍首相は開票後、「私の国づくりはスタートしたばかりだ。これからも首相として責任を果たしていかなければならない」などと述べ、「続投」を表明した。二院制のもとでの参議院の選挙だから政権選択選挙ではなく、安倍首相は敗北の責任をとる必要がないなどという与党幹部諸氏の言辞は重大な欺瞞であり、有権者に対する冒とくである。まさに今回の選挙は安倍内閣が初めて有権者に信を問うた選挙であり、有権者の審判がはっきりとでた。安倍内閣は民意に従い、総辞職してその政治責任を明確にしなくてはならない。そして自民党は自らの「新憲法草案」など、改憲の策動を中止しなければならない。

また小泉・安倍内閣とつづく新自由主義的経済政策を後押しし、推進することで、自らの莫大な経済的利権を確保し、未曾有の格差社会をつくってきた財界、特に御手洗富士夫会長の日本経団連など財界の責任も重大であることを指摘しておきたい。同時に、この安倍内閣の与党として自民党と共にそれを支えてきた公明党の責任もまた問われなくてはならない。公明党は「加憲」などといいながら、9条改憲をすすめる安倍内閣に協力してきた責任を明確にし、それを清算して連立政権から離脱すべきである。選挙の結果、参議院の第一党の座を占めた民主党は、この選挙を通じて「世の中の状況が変化し、国民のためになるなら(憲法を)改正すればいい。ただ、参院選で憲法問題を掲げる緊急の必要性は認識していない」と言いつづけ、憲法問題の争点化を回避しつづけた。これは当面、民主党が改憲策動に加担しないと公約をしたことを意味することを忘れてはならない。

この間、私たちがくり返し指摘してきたように、各種メディアの調査によれば安倍内閣や改憲派が企てる憲法9条改憲を支持する声は世論の少数でしかなく、9条支持は世論の圧倒的多数である。そればかりか、この数年らい、9条に限らず憲法のどこかを変えよという声すら減少傾向を示してきている。今回の安倍政権与党の敗北にはこうした背景がある。人びとはとりわけ小泉内閣から安倍内閣へとつづいた対米追従、日米同盟強化、「戦争のできる国づくり」の路線に大きな不安と不信を抱いてきたのである。

私たちは安倍内閣とその与党が、次の国会から両院に設置される「憲法審査会」を、改憲案の審議の場にすり替えようとするくわだてに強く反対する。先の通常国会で成立した改憲手続き法は、明確に改憲案の作成作業を3年間凍結している。今回の選挙結果を真剣に受け止めるなら、まず憲法審査会がやるべきことは、この「改憲原案作成の3年間凍結」規定を厳格に守り、同時に「法」の強行成立に際して付けられた18項目の付帯決議の慎重な審査と、それによる改憲手続き法の抜本的再検討から始めなくてはならないし、その結果として「出直し」のために同法は廃止されるべきである。

また安倍内閣は米国の要求に従って、「集団的自衛権の行使」の口実づくりのために設置した首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」をただちに解散し、憲法違反の企てを止めなくてはならない。なぜなら、首相のとりまきのみで構成された不公正な「有識者懇談会」が出すであろう結論は、最初から誰の目にも明らかであり、歴代の内閣の見解すら踏みにじってすすめようとする集団的自衛権行使の「合憲解釈」は憲法違反そのものだからである。立憲主義の立場に立つならば、一安倍内閣にそのような憲法蹂躙をする権限など断じてあり得ない。

今後の国会に於いて、安倍内閣はしゃにむに改憲策動を強める可能性がある。憲法9条の改悪に反対する院内の全ての勢力は連携を強めて安倍内閣の企てに共同して立ち向かうべきである。私たちはこうした院内の共同を断固として支持しながら、ひきつづき憲法改悪に反対してたたかう全国の市民運動、民衆運動と連携し、とりわけ「九条の会」をはじめとする全国各地の草の根の人びとと連携して、思想・信条・政治的立場の違いを超えた「9条改憲反対」の大きなネットワークを形成し、発展させ、改憲を阻止し、アジアと世界の平和を実現するために奮闘する決意である。

2007年7月30日
許すな!憲法改悪・市民連絡会

このページのトップに戻る
「声明・論評」のトップページに戻る