声明・論評

民主党が4月10日に提出した「日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案に対する修正案」について

(高田健)

(1)与党が3月27日にだした「併合修正案」をこの12日にも衆院憲法特で強行採決する構えであることから、民主党は10日、昨年春に提出した同党案の修正案を決定し、国会に提出した。

しかし、この法案は私たちが従来、同党案の問題点として指摘してきた点を一部(従来からの私たちの主張であった「テレビなどの有料意見広告(スポットCM)」を国民投票運動期間は禁止したことは、評価できる)を除いてまったく解決していない。それどころか、「公務員・教員の地位利用の禁止」規定や、与党案にある「「組織的多数人買収・利害誘導罪」の新設」があらたに盛り込まれるなど、より改悪された点もある。

与党の「併合修正案」は9条改憲のための、9条改憲に有利に仕組まれた改憲手続き法案であり、廃案以外にないが、民主党修正案も与党がねらう9条をはじめとする憲法改悪に導く法案になる可能性が強いものとなっている。

そうである以上、私たちは一旦、両案とも廃案にして、広く世論に問い、出直すべきであることを主張したい。

以下、民主党の修正案について、その案に関する範囲(これ以外にもすでに発表しているように私たちは改憲手続き法案に対して多くの批判点がある)で概略、問題点を指摘する。
末尾に、修正案の「骨子」を添付する。

(2)国民投票の対象
「国民投票の対象となる案件」については、与党などの批判を一定考慮し、憲法改正のほか、「国民投票の対象とするにふさわしい問題として別に法律で定める問題に係る案件」としたが、これによって本来めざした国民投票の対象が限定され、骨抜きにされる可能性があり、注視しておく必要がある。

(3)投票権者の年齢
修正案では投票権者の年齢は「18歳以上」とされており、民主党案にあった「国会の議決により、当該国民投票に限り16年以上」も有するとしていた規定を放棄した。これによって約200万人以上の青年が国民投票から排除されることは容認できない。とりわけ憲法9条の改定に伴う国民投票は、直接、戦争に関わることになる青年たちの意志を重視すべきであり、私たちが主張してきた義務教育終了年齢者の投票権を考えるべきである。

(4)投票用紙への賛否の記載方法と「過半数」の意義
修正案は「白票等は無効とし、過半数の分母となる投票総数に算入しない」という重大な変更を加えた。このことによって、民主案はもっとも少ない賛成で改憲を成立させようとする与党案に屈服した。有権者総数の過半数という問題はさておいたとしても、本来、憲法96条は「賛成が投票の過半数」であることを想定しており、改憲の承認に必要な「賛成票」は、「反対票」や「白票」、その他の無効票などの総計を超えるものであるべきで、民主党の修正はこの原則的見地から外れるという重大な誤りを犯している。

(5)公務員等・教育者の国民投票運動の制限
修正案は当初の民主党案にはなかった(1)「公務員等・教育者の地位利用による国民投票運動の禁止規定については、要件を明確にした上で設けるが、罰則は設けない。(なお、公務員の悪質な国民投票運動については、公務員法制上の「信用失墜行為」等の懲戒事由に該当する。) (2)公務員が憲法改正の発議から投票期日までの間に行う国民投票運動及び憲法改正に関する意見の表明並びにこれらに必要な行為については、国家公務員法、地方公務員法等の公務員の政治的行為の制限規定は適用しない」という項目を入れた。これは「罰則は設けない」「国家公務員法、地方公務員法等の公務員の政治的行為の制限規定は適用しない」としても、公務員・教育者に「萎縮効果」を与えるものとして私たちが批判してきたものであり、与党がねらってきたものである。重大な後退である。中川昭一政調会長をはじめ、自民党の幹部が「自治労」「日教組」を名指しで、その護憲運動を妨げるという暴言を吐いている中で、こうした民主党の与党案へのすり寄りは絶対に容認できない。
「組織的多数人買収・利害誘導罪」の新設も同様に、与党案にすり寄った危険な条項である。

(6)国民投票放送に対する留意及び制限
「テレビ等の有料意見広告(スポットCM)については、憲法改正の発議から投票期日までの間は禁止する」とした点は、現状においては評価できる。

(7)憲法審査会の設置
修正案においても憲法審査会の設置を規定しており、これが解釈改憲の機関化し、あるいは事実上、改憲案を準備する機関過する危険があるという私たちの批判は従来どおりである。

日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案に対する修正案の骨子

第一 国民投票の対象
一 国民投票の対象となる案件は、憲法改正のほか、国政における重要な問題のうち憲法改正の対象となり得る問題、統治機構に関する問題、生命倫理に関する問題その他の国民投票の対象とするにふさわしい問題として別に法律で定める問題に係る案件とする。

二 附則において「この法律が施行されるまでの間に、国政問題国民投票に関し、日本国憲法の採用する間接民主制との整合性の確保その他の観点から検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする」との規定を置く。

第二 投票権者の年齢
一 投票権者の年齢は、「18歳以上」とする。

二 附則において「この法律が施行されるまで(3年後)の間に、公職選挙法、民法等の関連法令について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする」との規定を置く。(当該法制上の措置による関連法令の施行の有無にかかわらず、本則の18歳投票権が施行されることとなる。)

第三 投票用紙への賛否の記載方法と「過半数」の意義
一 ○×自署式ではなく、あらかじめ投票用紙に記された賛成・反対の文字を○で囲むことにし、二重線等で消したものも有効とするなど無効票をできるだけ少なくする方式に変更する。

二 白票等は「無効」とし、「過半数」の分母となる「投票総数」に算入しない。

第四 国民投票運動が禁止される特定公務貫の範囲
在職中の国民投票運動が禁止される特定公務員は、民主党原案どおり、選管職員等のみとする。

第五 公務員等・教育者の国民投票運動の制限
一 公務員等・教育者の地位利用による国民投票運動の禁止規定については、要件を明確にした上で設けるが、罰則は設けない。(なお、公務員の悪質な国民投票運動については、公務員法制上の「信用失墜行為」等の懲戒事由に該当する。)

二 公務員が憲法改正の発議から投票期日までの間に行う国民投票運動及び憲法改正に関する意見の表明並びにこれらに必要な行為については、国家公務員法、地方公務員法等の公務員の政治的行為の制限規定は適用しない。

第六 「組織的多数人買収・利害誘導罪」の新設
明確な勧誘行為の明記等、その適用要件を限定した上で、「組識的多数人買収・利害誘導罪」を設ける。

第七 国民投票における周知広報
一 国民投票公報には、客観的かつ中立的な憲法改正案・要旨・憲法改正案に係る新旧対照表その他参考となるべき事項に関する分かりやい'説明及び賛成意見・反対意見を掲載する。

二 説明会の開催及び新聞における無料広報枠の規定は削除する。

三 テレビ等における無料広報枠においても、憲法改正案の内容に関する客観的かつ中立的な広報枠を設けるとともに、その残余の部分については、賛成意見・反対意見を「公正かつ平等」に扱うものとする(=国民投票公報における賛否の扱いと同様)。また、賛否の意見の放送は、政党が指名する団体も行うことができる。

第八 国民投票放送に対する留意及び制限
一 一般放送事業者等は、国民投票に関する放送については、放送法第3条の2第1項の規定(政治的公平など)の趣旨に留意するものとする。

ニ テレビ等の有料意見広告(スポットCM)については、憲法改正の発議から投票期日までの間は禁止する。

第九 憲法審査会の憲法改正原案の審査権限の凍結等
一 国民投票本体の施行期日は、公布の日から3年を経過した日とする。

二 施行されるまでの間は、憲法審査会は『調査』に専念し、憲法改正原案の提出・審査を行わない旨を確認する規定を設ける。

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