安倍首相は8月8日の閣議で、内閣法制局の山本長官を退任させ、小松一郎駐仏大使を長官にする人事を決定しようとしています。この人事は、歴代自民党内閣においても内閣法制局が堅持してきた「集団的自衛権の行使は憲法上認められない」という従来からの憲法解釈を覆し、「憲法上、認められる集団的自衛権の行使がありうる」というものに大転換させるための露骨な強権発動であり、断じて許すことができません。
安倍内閣は、集団的自衛権の行使を含む「国家安全保障基本法案」を「閣法」(内閣提出法案)として国会に提出する方針ですが、その場合、内閣法制局による憲法との整合性の審査が必要であり、従来の法制局の見解では憲法9条に抵触するとして、そのままの内容では提出ができません。内閣法制局長官が“憲法の番人”と呼ばれてきたのもこのためです。そしてそのため、法制局長官の後任には、次長が昇格するのが慣例とされ、内閣法制局の自律性がそれなりに担保されてきました。安倍首相は、これを強引に突破するため、集団的自衛権の行使を容認する長官に変えることで法案提出にゴーサインを出させ、憲法9条に抵触しないという国会答弁をさせようというのです。
これは、長く維持されてきた立憲主義の柱の一つである、内閣法制局による法案の憲法審査という重要な役割をねじまげ、内閣法制局の自律性を奪うものです。
実際、新長官に任命されることになった小松一郎氏は、第一次安倍内閣で設置され、集団的自衛権行使の「4類型」をまとめた安保法制懇(安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会)において、その構成と立案にかかわった人物といわれています。憲法を否定する議論を誘導し、憲法を覆す法律をつくることを提唱する諮問機関を動かしてきた人物を、憲法解釈の重要な責任者に任命するのは、憲法への公然たる反逆であり、憲法の尊重擁護義務を定めた99条への違反にほかなりません。
いったん、集団的自衛権の行使に風穴が開けば、その範囲は限りなく拡大させられ、日本は世界のどこででも戦争ができる国になるでしょう。最近出された「防衛計画大綱見直し」に向けた中間報告」は、その方向を随所で打ち出し、第二次安保法制懇は集団的自衛権行使を全面的に認める答申を出す構えです。麻生副総理は「ナチスの手口を学んで」憲法を変えたいという趣旨の発言をしましたが、安倍首相も、「安全保障環境が大きく変わる中で、何が必要かという観点から議論を進める」と実質的な憲法の形骸化を進めることを表明し、憲法違反の既成事実を積み重ねた上で「憲法と現実の乖離」を口実として明文改憲に持ち込もうとしているのです。
私たちは、憲法違反を容認するための今回の内閣法制局長官人事を撤回し、集団的自衛権の行使が明らかな憲法違反であることを内閣と国会が再確認するよう要求します。
2013年8月7日
国会前抗議集会参加者一同
5・3憲法集会実行委員会
FAX03-3221-2558 kenpou@annie.ne.jp