高田 健
今井一さんたちの「みんなで決めよう『原発』国民投票」のサイトで、6月25日に行われた同会の結成総会の記録をみた。
http://kokumintohyo.com/
その結果、この間、私たちが指摘してきた同会の原発国民投票法案(以下、今井案と略)に対するいくつかの問題点が明確になったので指摘しておきたい。
※[A案] 日本国民で年齢満18年以上の者は、国民投票の投票権を有する。
※[B案] 年齢満16年以上の日本国民および永住外国人は、国民投票の投票権を有する。
今井さんはこの案について、B案は同会の理想の案だが、今井さんたちがめざす2012年3月25日の国民投票実施日までに実現することは不可能だという判断をしていると明言する。今井さんによれば、いまの国会ではB案が実現できないのはわかっているが、この案を書いておかないと、同会が分裂してしまうので苦肉の策だという。B案の意見が会の中でかなりの意見を占めている(永住外国人の投票権は3分の2、16歳投票権は3分の1の割合)からだという。会の目的は永住外国人の投票権ではないのに、この問題で分裂するということは本意ではないから避けたいので「併記」した、と説明している。
要するに、B案はできないのはわかっているが、「分裂」しないために「併記」して、永住外国人を差別するなという意見の人びとの参加をつなぎ止めるのだというのだ。
こういうやり方はまったくフェアではない。最初からB案が実現不可能というのなら、併記ではなくて、一本にしなければならない。会の中の批判者に対して、どうしても理想は同じだと言いたいのなら、法案とは別に「解説」を作って「本当はこうしたいが、それでは12年3月までには間にあわないので、A案でいく」と正直に言えばいいだけだ。それで満足させられるかどうかはわからないが。
私たちは今井さんたちの原発国民投票運動が「大事なことは主権者が国民投票で決めよう」などと「民主主義」を標榜するなら、国民投票は民主主義的に行われるべきで、国民投票法は民主主義を最大限に保障しなければならないと考えている。すでにいくつかの文章で論じてきたように、私たちはいま「原発国民投票」はやるべきではないと考えているが、万一、やることになったとして、国民投票を実施するための「国民投票法」の制度設計で検討しなければならない課題はたくさんあると考えている。
なかでも「投票権者」をどう設定するか、「投票の際の設問」をどう設定するかは、最低限の前提的な問題だ。事故が起きれば誰でも被曝するのだから、この国に居住している人びとは国籍を問わず投票権を有していると考えるし、原発という未来世代に負荷を残す問題である以上、年齢はできれば中学入学年齢該当者(13歳以上)がベストで、少なくとも中学卒業年齢該当者(16歳以上)にすべきだと考えている。今井案のB案は当然の、最低限の設定である。
この問題点についてはすでに指摘しているので、問題点の指摘はここではくり返さないが、この問題で今井案がいまの国会で多数を得て国民投票法を成立させることは困難であることだけ指摘しておく。
http://www.annie.ne.jp/~kenpou/seimei/seimei145.html
今井さんの案では「原発国民投票」は12年3月25日(期日前投票開始は3月11日)としている。「国民投票期日」は「60日以後90日以内」としている。この投票期日は大きな問題だ。国民投票運動がどれだけの期間行う事ができるかどうかを定めるものだからだ。私たちは改憲手続法に関する議論の時に、例えば「1年であっても不十分だ」と指摘したことがある。どれだけ、市民の側の運動が展開できるか、原発推進側と比べて、組織もカネも圧倒的に弱い市民側からすれば、その意見を浸透させるに十分な運動期間があるかどうかは大きな問題である。それを今井案はわずか「2~3ヶ月」という短期間にしている。悪名高い改憲手続法ですら「60日以後180日以内」としているのに、である。これでは決定的に不十分である。今井案が短期間に急いでいるのは、ただ震災発生1年後の「3月11日」投票開始というイベント的な発想から国民投票をやりたいだけだ。これは無意味だ。もっと、有権者全体の中で十分な議論ができるようにしなければならない。
今井氏らの工程表は、3・11を前提に、11月に法案を衆議院に提出し、12月に投票法成立などとしている。国会での議論が1ヶ月程度しかない。これでは国民投票法案についても全市民的な議論は保障されない。強行採決と同じ発想だ。
いずれにしても、国会の力関係などからして、今井案による2012年3月、原発国民投票は不可能だ。
「いま国民投票はやるべきではない」
http://www.annie.ne.jp/~kenpou/seimei/seimei143.html
で指摘した点を引用して替えたい。「どのような「国民投票法」のもとで行われるのかは極めて重要だ。現行の改憲手続法(国民投票法を含む)は、法律の制定過程でいくつもの「附則」や18項目もの「附帯決議」がつけられたように、民主主義の保障に関する制度設計上も問題点が多すぎる欠陥立法だ。これに依拠するようなことがあってはならない。
国民投票の設問の仕方、年齢や定住外国人など投票権者の設定、周知期間や国民投票運動期間、国民投票の宣伝・広報のあり方などなど議論すべき未解決の 問題が多々ある。これらによって投票の結果が大きく左右される。何しろ、日本では国民投票は1度も行われたことがなく、その法制の整備には極めて慎重さが 要請されると思う。」
今井さんは同会は「脱原発」でも「原発容認」でもない、原発のような問題は国民投票で決めようということだと説明する。要するに「国民投票が目的」なのだ。はじめに国民投票ありきなのだ。
私たちは一日も早く、本当に「脱原発」を実現したい、そのための運動をどう構築するかを考えている。ここが「原発国民投票」についての両者の意見の分かれ目だ。
(2011・7・11)