声明・論評

参議院選の結果と今後の課題~困難の突破に大胆に着手を

(1)09年の政権交代後、初の本格的国政選挙となった7月11日投開票の参院選挙は、政治の激動期を象徴するように、民主党主軸の与党が敗北して過半数割れし、自民党が改選第1党となり、与野党の議席数が逆転した。衆参の与野党の力関係は前回と与野党が異なり、与党が衆院で3分の2を持っていないという違いがあるが、波乱含みの「ねじれ国会状況」になった。小泉・竹中新自由主義路線の徹底をめざす「みんなの党」が第3党になり、その他の党は軒並み議席を減らした。衆院選後、自民党から分裂して立ち上げたいくつかの新党の試みは成功しなかった。かつての「ねじれ国会」で自民党など与党が非常手段に使ったような、参院で否決された法案を衆院の3分の2(欠員2で、318議席以上)で再議決する方法は、現在、民主系無所属を含めて308で、あと10議席程度不足している。

菅首相が唱えた消費税の引き上げに反対し、普天間基地撤去、辺野古新基地建設反対などを掲げて闘った「護憲」派の共産党、社民党がそれぞれ議席数、得票数(比例・選挙区)、得票率(比例・選挙区)の全てにおいて後退したことは、市民運動の一角を担う私たちにとって重たい結果である。

結果を数字で確認すると、議席数は民主党が新議席44で非改選と合わせて106議席、比例区得票18.450.139票(31.56%)、自民党は新議席51で計84議席、比例区14.071.434票(24.07%)、公明党は新議席9で、計19議席、比例区7.639.438票(13.07%)、みんなの党は新議席10で計11議席、比例区得票7.943.800票(13.59%)、共産党は新議席3で、計6議席、3.563.557票(6.10%)、社民党は新議席2で計4議席、2.242.736票(3.84%)、たちあがれは新議席1で、計3議席、改革は新議席1で、計2議席、国民新は新議席0で、計3議席、その他が計4議席である。自民党は比例区で民主党を下回った。自民党も民主党も得票数・率を減らしている。民主党や自民党、各種新党はタレント候補を続々立候補させ、票の伸張をねらったが、有権者に見抜かれ、あまり成功しなかった。

(2)鳩山民主党は普天間基地問題での公約破りの日米合意を強行し、反対した社民党の福島党首を閣僚から罷免して、連立政権崩壊の端緒をつくった。「政治とカネ」の問題を抱えた小沢幹事長とともに鳩山首相が退陣して菅直人首相と交替し、さらに郵政民営化見直し法案の審議先送りで、国民新党の亀井代表が内閣を去るなど、昨年の政権交代で成立した3党連立政権はガタガタになった。菅首相は日米合意の継承をオバマ大統領と約束し、さらに公約に反して突然持ち出した消費税10%引き上げなどで、批判をあびた。民主党は沖縄選挙区で公認候補すら立てられなかった。

今回の民主党の敗北は、政権交代以降の10ヶ月の政治での同党の相次いだ公約破りにその最大の原因がある。民主党の政治姿勢全般が問われたのである。民主党は「生活第一」を掲げて、小泉・竹中構造改革に反対する政治を唱え、自公から政権を奪還したのに、この点で人びとに失望をあたえた。しかし数字が明らかに示すように、民主党に失望した票は自民党には戻らなかった。そのかなりの部分がみんなの党に移行した。菅首相の消費税10%引き上げは批判を浴びたが、消費税引き上げの本家である自民党には向かわなかったし、消費税の引き上げをきびしく批判した共産党、社民党の支持も増大しなかった。民主党の敗北の要因は消費税問題だけではないのである。

(3)選挙戦を通じて、浮かび上がってきた問題点をいくつか指摘しなくてはならない。
第1に、沖縄の選挙区で自民党の候補までが、「普天間基地の県内移設反対」を言わざるを得なかったように、普天間基地撤去は沖縄の民意である。このあと、8月の辺野古新基地の図面や工法の対米約束期限をへて、9月の名護などでの市議選、11月の県知事選挙と日米首脳会談がある。沖縄の民意を前に、日米合意の破綻は火を見るより明らかである。沖縄のたたかいは菅内閣の死命を制する問題となるにちがいない。沖縄の人びとが突き出した日米安保体制の根本的な見直しの課題を全国的な課題と押し広げる努力が必要だ。これは平和と共生の東アジアをつくり出すという歴史的な課題である。

第2は消費税引き上げと財政再建論議である。第3はこれにからんで持ち出される国会議員の定数削減問題である。比例定数を削減して限りなく小選挙区制に持って行こうとする議論は事実上の2大政党制実現の企てである。民主党も自民党も財政危機と結びつけて消費税引き上げ論議をテーブルに乗せようとしている。そのためにも、ということで議員定数削減が語られる。これはためにする嘘である。「ギリシャの二の舞になる」などと脅迫しながら、法人税を引き下げておいて、消費税の大幅引き上げに持って行く。その前に「我が身を削る努力をせよ」などという無責任な評論家やメディアの俗論に悪のりして、事実上の2大政党制を作り上げ、多様な民意の反映という民主主義を犠牲にする。実際には、衆議院議員を80人も削減しても、米軍思いやり予算の30分の1程度、政党交付金の10分の1程度の額の削減でしかない。議会制民主主義の自滅ともいうべき議員定数削減を主張する点では民主党も自民党も、みんなの党も、諸新党も同じである。もろもろの保守新党は最終的には2大政党のどちらかの予備軍にすぎない。ターゲットは護憲派政党の共産党と社民党に絞られている。

第4は改憲を掲げる自民党が力を増した参院では憲法審査会「規程」の制定と憲法審査会始動の要求も強まるにちがいない。今回の選挙で民主党が憲法問題を回避したために論戦にはならなかったが、自民党は自主憲法制定を公約の第1位においた。自民党から分離した新党の多くも改憲を掲げた。選挙で民主党のリベラル系の議員が何人か落選したことも合わせて考えると、憲法問題も容易ならない事態である。

第5はこの秋から政権交替後、初の防衛大綱の制定が始まる。経団連などが要求する武器輸出3原則緩和の要求とあわせて、選挙で民主・自民の両党が「防衛装備品の民間転用推進」を掲げた問題もある。「日米同盟深化」などといいながら進められる米軍の武器購入の動きと合わせて、こうした日本国内の軍産協同体制の強化をめざす動きも見逃せない。加えて、民主党の一部には自衛隊の海外派兵恒久法の制定を企てる勢力がある。これらと自民党などが政策上、呼応しあっていく可能性がある。

第6は政権交代後、獲得しつつあったか、着手されつつあった労働法制、雇用、福祉、人権などの諸問題の後退を許さない課題である。本来、待ったなしの労働法制の抜本的見直し、郵政民営化の見直し、公共事業の見直し、民法改正、在日外国人の参政権実現などなどの諸課題が、保守野党の抵抗で中断される恐れがある。

(4)今回の護憲派政党の敗北がより深刻なのは、この両党の後退傾向がこのところ長期にわたってつづいていることである。たしかに小選挙区制という選挙制度の問題は大きいし、その民意を正しく反映しない不当性は幾度指摘しても指摘したりないほどである。しかし、問題は制度にあるだけではない。両党の得票自体が長期にわたって相対的に減少してきているのである。

この問題を解決するためにはさまざまな課題がある。今回の参議院選挙の結果をみて、いっそう明らかになってきたことは、沖縄の人びとが示しているように闘って前進する以外にないということである。13年にわたって、大衆運動のちからで辺野古新基地を阻止してきた沖縄は、7月9日、県議会が再度、全会一致で普天間基地の辺野古移設に反対する決議をあげた。仲井真知事もこれにそって、8月の辺野古移設計画作成はムリだとの談話をだした。沖縄は日米両国政府を相手にしてひきつづき頑張っている。

しかし、その沖縄でさえ参議院選挙では社会、共産が分裂し、自民党の候補を勝たせてしまった。共産系の伊集候補が5万8千、社民系の山城候補が21万5千で、県内移設反対を掲げた自民の島尻候補の25万8千に敗れたのである。共産党が最重点区とした東京は、小池候補が55万2千、社民党の森原候補が9万5千で、加えると東京5位当選の松田候補(みんなの党)の65万6千に肉薄している。それぞれが大きく前進できると考えてたたかった選挙であり、これは結果論ではある。それぞれに言い分も事情もあるだろう。国政選挙での共同が容易ではないことは私たちも承知している。しかし、この問題の解決を求める声に両党は応えるべきではないだろうか。一挙に、全ての選挙区での共同をめざす必要はない。部分的にでも共同に着手できないだろうか。沖縄にはすでにその経験がある。知恵を絞り、力を合わせるべき時である。

この点で7月14日の共産党の「赤旗」紙「NHK討論スペシャル志位委員長の発言」の以下の指摘(12日付中央常任幹部会声明と同主旨)に注目したい。「私たちは、今度の選挙結果を重く受け止めております。国政(選挙)で巻き返すための本格的な態勢構築を図るために、党内外の方々のご意見、ご批判に真摯(しんし)に耳を傾けて、私たちの政策の問題、組織の問題について自己検討を徹底的にやって、前途を見いだしていきたいと思っております」。こうした姿勢を歓迎したい。

もとより、共産党と社民党の選挙協力だけで、直面する重大な問題が解決するわけではない。それぞれの党の真摯な総括と対策が必要であることは明らかである。しかし、この問題は外部の私たちがあれこれ言う問題ではない。こうした斬新な対策を契機に、ぜひとも解決していってもらいたい。

選挙だけではない。当面する課題の比例区定数削減などの課題では公明党なども巻き込んでもっとも広い共同を造りだして闘う必要があるだろう。この問題では民主のリベラル派にも反対は少ないが、これも与党であるだけに民主主義の問題として共同することは重要だ。この点で前出の「赤旗」紙が以下のように紹介していることにも注目したい。「社民党の福島瑞穂党首は、国会議員の比例定数削減について、『反対の立場での共同戦線を張りたい』と発言しました」と。社民党本部の声明は以下のように言っている。「今後、民主・自民の2大政党や新党によって日本政治全般の保守化と民主主義の後退が進むなかで、社民党は、あくまでも政策の基本を日本国憲法に置き、国民主権に徹し、平和を守り、働く者の権利を守り、社会保障を充実させるために奮闘します」。

憲法審査会問題しかり、自衛隊の海外派兵問題しかり、生活と基本的人権の問題しかりである。こうした国会外での共同行動をいかに構築するか、これにまつわる困難を大胆に突破する試みこそが、いまこそ重要だと思う。

私たちには経験がある。東京の「5・3憲法集会実行委員会」の10年の歩みがその参考になるのではないか。この運動ではさまざまな市民団体が積極的に共同を造りだしている。毎年、共産党、社民党の党首クラスの代表がスピーチし、民主党の国会議員が連帯のメッセージを寄せている。この経験を生かすことが求められている。大事なことは、お互いが違いをあげつらって非難合戦をするのではなく、誠心誠意、共通の課題で共同することではないだろうか。このことこそが、この間の、国政選挙での後退の連続を断ち切る契機になるのではないだろうか。困難なことではあるが、いまこそ、この道に挑戦すべきだと考える。そして、院内外から政治の流れを変えようではないか。

(2010年7月14日 高田健)

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