2009年6月11日、衆議院本会議は野党各党が反対する中、与党が提出した衆院憲法審査会「規程」を強行採決した。これは憲法第9条をはじめとする平和憲法の破壊を進めようとする麻生内閣とその与党の歴史的な暴挙であり、私たちは心からの怒りを込めて糾弾する。
周知のとおり衆議院の多数派は2005年の小泉内閣当時のいわゆる「郵政選挙」によって形成されたものであり、今日の民意を正当に反映しているとは言い難いものである。いま、改憲問題は多くの人びとにとって、衆議院が強引に強行採決するほど緊急の課題にはなっていない。それどころか、各種の世論調査がはっきりと示しているように、この国の圧倒的多数の人びとは憲法第9条の改悪に賛成していない。
にもかかわらず、麻生政権と与党は衆院憲法審査会規程づくりを強行し、衆議院のみで憲法審査会を始動させようとしている。今回の採決強行の根拠法となった「改憲手続き法」は2007年5月、安倍内閣と与党によって強行成立させられたものである。それは衆議院では審議不十分なまま強行採決され、参議院では18項目もの「附帯決議」がつけられて採決されたという、与党も認めざるを得ないほどの欠陥立法であった。その直後、改憲を掲げた自民党は参院選で大敗し、安倍内閣は退陣した。そして次の福田内閣、麻生内閣は民意の審判をまったく問うていない政権である。こうした政権与党が憲法という最高法規の「改定」に関わる重大問題を単独で採決したのである。
そもそも「改憲手続き法」には、その「附則」によって、2010年5月の施行前に、(1)満18歳以上の者が国政選挙に参加できるようにするなど、公選法、民法、その他の法令の規定について必要な措置を講ずるものとする(附則第3条)、(2)「公務員が国民投票に関する賛否の勧誘その他の意見の表明が制限されることとならないよう」国家公務員法、地方公務員法、その他の法令について、必要な措置を講ずる(附則11条)などが定められている。これらについて政府・与党はまともに実行せず、衆院だけの審査会規程の強行を先行させたのである。この間、衆院議院運営委員会で与党は「改憲手続き法があるのに、審査会規程をつくらない野党は法令違反である」などと中傷しつづけたが、その実、与党自らがこの法令を実行していないことは「ご都合主義」のそしりを免れないものである。
また先ごろ、総務省は「平成22年5月18日から『憲法改正国民投票法』が施行されます」などと題し、あたかも来年から「憲法改正国民投票」が始まるかのようにミスリードするリーフレットを、莫大な予算を使って大量にばらまくなどして批判をあびている。
そしてこの改憲手続き法がいかに欠陥法であり、最初から出直す以外にないことを明白に示すものが、2007年の参議院での同法の採決に関して確認された18項目もの「附帯決議」である。
そのいくつかを列挙すれば以下のようなものである。
これらを一瞥しても明らかなように、改憲手続き法は法律として不可欠の重要な問題を曖昧にしたり、先送りしたもので、法としての体をなしていない欠陥立法である。これは「任期中の改憲」を公言して、憲法問題をひらすら党利党略で扱い、突っ走ろうとした安倍内閣と与党(自民党・公明党)の責任である。
以上のような重大問題を不問に付したまま、まして衆議院解散総選挙を目前に控えた今日、民意を問うことなしに強行された衆議院憲法審査会規程は不当きわまりないもので容認しがたいものがある。
よって、私たちは今回の衆院憲法審査会規程の撤回と、あらためて「改憲手続き法」の抜本的な再検討のために現行「手続き法」の廃止を要求するものである。
同時に、私たちは憲法に定められた主権者として国会のすべての政党と議員に憲法の遵守を要求し、憲法に違反する一切の戦争法に反対し、自衛隊の海外派兵に反対する。現行憲法の前文や第9条に示された平和主義を守ることは国会議員の責務である。私たちはすでに衆議院で強行された「海賊新法」の廃案を求め、国会議員による無責任な「敵基地攻撃論」「集団的自衛権行使合憲論」「武器輸出3原則の緩和」など戦争をあおり立てる言動を厳しく糾弾するものである。
9条をはじめとする憲法改悪の動きはいたずらに東北アジアの緊張を強めるものである。アジアと世界の平和を求める私たちは、憲法改悪に反対する市民の運動をいっそう強めると同時に、来る総選挙では主権者の権利を積極的に行使し、改憲を企てる勢力に対する明確な審判を下し、憲法改悪につながる一切の策動を打ち破るため奮闘する。
2009年6月11日
許すな!憲法改悪・市民連絡会