声明・論評

海賊対策に名を借りたソマリア沖自衛隊派兵特措法の制定は憲法違反であり、取りやめるべきである

麻生太郎内閣はソマリア海賊対策に名を借りた海上自衛艦の派兵のための特別措置法案を、次期第171通常国会に上程しようとしている。

麻生内閣は第170臨時国会で、当初、ほとんど成立をあきらめていた「インド洋派兵給油新法延長法(テロ特措法延長法)」を民主党の拙劣な国会対応でタナボタ式に衆院再可決という非常手段によって手に入れた。先ごろ浜田防衛相は今春の名古屋高裁判決で違憲とされた航空自衛隊のイラク派兵を年内に引き上げる命令を出したが、このことで、自衛隊の「反テロ戦争」における主要な国際的プレゼンスはインド洋での補給活動のみとなった。米国はオバマ新大統領の誕生で、その対テロ戦争戦略の重点をイラクからアフガンに移そうとしている。米国の新政権の下で、日本政府に対するアフガン戦争などへのいっそうの加担の要求は強まる方向である。政府与党には米国などの要求に対応して、ソマリア沖海賊問題をテコに特措法を制定し、自衛隊の海外派兵を拡大し、これをさらに一般法化して、自衛隊の海外派兵恒久法の制定につなげたいとのねらいがある。

任期中の明文改憲実現を唱え、9条改憲をめざした安倍晋三内閣の崩壊で、90年代からの9条明文改憲の動きは一頓挫した。これは安倍内閣が教育基本法の改悪や改憲手続き法の強行成立に成功したものの、世論の支持を失い、明文改憲の野望が挫折した結果であった。改憲派はいま、再び迂回戦略に方針を転換し、解釈改憲による9条の事実上の破壊をすすめようとしている。海賊問題に名を借りたソマリア派兵特措法の制定は、そうした危険なねらいの一環である。いま衆議院解散を前にした171通常国会で、このソマリア派兵特措法を制定させないことは、平和を求める日本の民衆運動の重大な課題となっている。

ソマリアの海賊の状況

ソマリアは東アフリカのアフリカの角と呼ばれる地域を領域とする人口840万人の国家で、ジブチ、エチオピア、ケニアと国境を接し、インド洋とアデン湾に面する。海岸線はアデン湾とインド洋をあわせて約3000キロ。アデン湾は欧州とインド洋を結ぶスエズ運河に通じており、対岸はイエメンで、この湾は年間約2万隻の船舶が航行する。うち日本関係船舶は1割の約2000隻。1991年に勃発した内戦により国土は分断され、エチオピアの軍事支援を受けた暫定政権が首都モガディシオを制圧したものの、依然として内戦状態が続き、無政府状態である。

麻生内閣と自民党は東アフリカ・ソマリア沖で頻発する海賊問題に対処するためと称して、海上自衛隊の現地派遣を可能にする特措法を制定しようと、その準備を進めている。防衛省によると、ソマリア沖やアデン湾では、今年、未遂も含めて102件の海賊被害事件が発生しており、日本関係は3件にのぼる。4月には日本郵船の大型タンカー「高山」が襲撃され、8月にも日本のタンカーが海賊に乗っ取られる事件が起きた。

ソマリアの「海賊」はそのほとんどが漁民出身であり、漁船を改造した母船を中心にした高速艇に自動小銃やロケット砲で武装しており、全体で300人ほどを数えるという。そのねらいは人質に取った船員と船の身代金奪取にあり、人質に危害を加えた例はまだない。

11月15日の『朝日新聞』の報道では、海賊の一人が「みんな漁民だった。政府が機能しなくなり、外国漁船が魚を取り尽くした。ごみも捨てる。我々も仕事を失ったので、昨年から海軍の代わりをはじめた。海賊ではない。アフリカ一豊かなソマリアの海を守り、問題のある船を逮捕して罰金を取っている。ソマリア有志海兵隊(SVM)という名前もある」と語っている。

国連安保理は6月8日(決議1816号)と10月9日(1838号)に、海賊対策の決議を出した。各国も対策に動いており、11月20日にはカイロで紅海沿岸諸国による国際的な対策会議が開かれていたし、すでに欧米諸国からは10カ国ほどが艦船を派遣している。しかし、海賊は活動領域をアデン湾からケニア沖に移動するなど、掃討作戦はいたちごっこで、続発する海賊事件を防ぐことができないでいる。

ソマリア沖派兵特措法制定に向けた動き

<民主党長島昭久議員と麻生首相の同調>

これに関連して、第170臨時国会の10月17日、衆院テロ防止特別委員会で民主党の長島昭久委員が行った質問に麻生首相が「いいことだ、検討する」と同意するという出来事があった。これは民主党と麻生内閣が共同して同法を制定する動きに直結するような驚くべきやりとりであった。

そのあらましを民主党ホームページでは次のように報じている。

長島昭久議員は、17日午後の衆議院テロ防止・イラク支援特別委員会で、海上における日本の国益を守るため今緊急に必要な政策は日本関係船舶の安全確保だという見解を示し、麻生首相らと議論した。(中略)

また、ソマリア沖アデン湾の海賊脅威の拡大に言及して「1年間に起こった新しい現実を踏まえて、新しい法律案も含めて議論しなくてはならない」と対策の必要性を提起、……首相は「海上警備行動としては極めて有意義だ」として、海賊被害対策として建設的な議論を進めることに前向きな姿勢を示した。
  長島議員は、海賊対策に関する国連決議について、共同提案国である日本の対応を中曽根外務大臣、浜田防衛大臣と議論。P3C哨戒機による警戒監視などの海上阻止活動は現行法のもとでも可能であるとして実効的な対策を求めた。海上警備行動の発令における地理的制約を問われた浜田防衛相は「任務達成に必要な限度において公海に及ぶ」と答弁。長島議員は「日本関係船舶が実際に海賊に襲われる事例が頻発する場合、当該海域を危険として海上警備行動を発令することは可能か」と質し、「ソマリア沖の海域が必ずしも排除されているものではない」とした。
  長島議員は、武力行使を目的とせずに派遣された海上自衛隊の護衛艦が船舶をエスコートすることについて海賊襲撃の抑止効果があるという見解を示し、国連決議の存在や欧州諸国の本気の取り組み例を挙げて「いつまでもただ乗りのそしりをうけるわけにはいかない」と主張した。
  政府案の燃料の無償提供については「間接的な協力貢献」、政府の進める沿岸国の能力強化については「中長期的課題」との認識を示し、直接的に日本関係船舶を自衛隊によりエスコートし、安全確保するための政策の立案が今緊急に必要で、海上における日本の国益を守るとした。麻生首相は「こういった提案をいただけるのはいいことだ。検討する」とした。

<日本政府、国連安保理決議の共同提案国に>

すでに述べたように、国連安全保障理事会は今年6月、ソマリア領海内での海賊取り締まりを認める決議を採択した。この二つの決議は米仏などが主導し、そのいずれにおいても日本政府は共同提案国に加わっている。ソマリア沖ではすでにアフガン戦争に関する「不朽の自由作戦(OEF)」の一環と位置づけて米国などの多国籍軍が「海上阻止活動」を実施している。くわえて、この安保理決議を受けて欧州連合(EU)の有志国が海軍軍艦を派遣しようとしている。すでに米国は陸上での作戦も不可欠として、ソマリア沿岸部での空爆を含む拠点制圧作戦実施を1年の期限付きで認める決議案を安保理各国に配布した。

この自衛隊ソマリア沖派兵は、自衛隊が海賊に対して武力行使した場合、憲法第9条が禁じている「武力の行使」に抵触するおそれがあり、また同地域で外国船が海賊に攻撃された場合に海自艦船が駆けつけて応戦することは政府が憲法が禁じていると解釈している「集団的自衛権の行使」に該当する恐れがあると、各方面から指摘されている。憲法違反の可能性が指摘されている自衛隊のソマリア沖派兵について、日本政府が国会でこの問題を検討する以前に、国連での共同提案国になっていることは重大な問題である。そのうえ、この国連決議を根拠に日本政府が憲法破りをすすめようとするのは、まさにマッチポンプであり、許されない違憲行為というべきである。

<『産経新聞』主張が「法的不備をただせ」と>

この特別委員会での長島議員と麻生首相のやりとりの後、『産経新聞』主張(10月18日)は、「中東に原油の9割を依存する日本にとって、シーレーン(海上交通路)の安全は死活的に重要だ。国際社会は海賊を取り締まる行動をとっており、日本としても国際共同行動に参加できるとすれば、意味は大きい。自国のタンカーなどの護衛は、どの国にとっても当たり前のことだが、日本は海自にそうした任務を与えていなかった。……こうした海賊行為を排除することができない法的な不備は一刻も早く是正されねばならない。首相がこうした問題の解決に意欲を示したことを率直に評価したい。……首相は『法制上どういう問題があるかを含めて検討する』と語った。海賊掃討を含め、国際平和協力のための恒久法制定は必要とされながらも、与野党による具体案づくりは進んでいない。……国連安保理も海賊制圧の決議を行っている。日本は共同提案国だ。世界の平和と安定のための役割をきちんと担いたい」と。この産経紙の主張は憲法に関わる「法的不備」を正せと言い、海外派兵恒久法制定を推進することを主張している。

民主党の鳩山幹事長は翌18日、記者会見で「日本の船だけでなく、海外の船を守るのであれば、法律の制定は必要だ」「政権交代の後、積極的、前向きに検討する」と問題のありかすら知らないかのように無責任な評価をした。しかし、民主党はこのあと、党内外の批判を受けて「衆院選後、正当な政府ができた上での責任ある議論が必要だ」(直嶋政調会長)などと、消極姿勢に転じたと言われている。民主党は先の国会におけるテロ対策特措法の民主党対案が含んでいたISAF(国際治安支援部隊)やPRT(地方復興チーム)協力などによるアフガン陸上派兵と海外派兵恒久法の容認につながるような問題点を撤回し、ソマリア沖海自派兵に明確に反対すべきである。

<『日本財団』、提言発表>

その後、政財界での特措法への動きは急速に強まった。

日本財団(笹川陽平会長)と海洋政策研究財団は14日、「ソマリア沖海賊対策提言」を発表し、自民・民主の議員に賛同を求めた。提言は<1>海自艦を調査目的でソマリア沖に派遣、他国艦船に情報提供する。<2>海賊行為があったら自衛隊法の海上警備行動を発令して対処する、<3>抵抗する海賊に武器使用を可能にするため特別法を制定する、などが盛り込まれた。

<自民党、PTを発足>

10月24日、自民党国防関係合同会議は「ソマリア沖海賊対策新法」制定に向け、プロジェクトチーム設置を決めた。この会合で防衛省は「護衛艦の派遣は自衛隊法の海上警備行動の発令で可能であり、現行法で対処できる」との見解を示したが、出席議員からは「海上警備行動は日本周辺での事態を想定している」「護衛艦は日本船舶しか守れないので、他の海軍と協力する上で問題が生じる」などの異論が続出、今後、PTで検討していくとしたという。

28日、浜田防衛相はテロ特措法で活動していた自衛隊補給艦がソマリア沖で海賊対峙の活動をする米海軍などの艦船に給油していたことを認め、「二重任務」の実施を認めた。これは昨年問題になった、イラク作戦に従事する米艦への給油と同様に「新テロ特措法」違反である。

<超党派議連『若手議員の会』、法案とりまとめへ>

11月20日には自民・公明・民主などの議員でつくる議員連盟「新世紀の安全保障体制を確立する若手議員の会」(101人が加盟、世話人代表は中谷元=自民・元防衛庁長官、前原誠司=民主党副代表、上田勇=公明党政調副会長。会の取りまとめは安倍晋三前首相の側近の西村康稔衆院議員=自民が担当)が特措法案のとりまとめと、次期通常国会への提出をめざすことを決めた。特措法案では武器使用につながる海賊取り締まりより、被害を未然に防ぐ対策に重点をおくと説明。具体的には護衛艦による日本関係船舶の護衛や、P3C哨戒機による監視などを想定しているという。

<政府、特措法案素案をとりまとめ>

11月20日、政府は6月の国連決議を法的根拠とする「海賊行為防止活動特別措置法案」(仮称)素案をまとめた。同素案は自衛官の正当防衛、海賊が武力で抵抗した場合の武器使用を容認し、護衛対象に外国船も含めた。

活動範囲は「日本領海とソマリア沖」と規定し、自衛隊部隊による活動として(1)同海域を航行する船舶の監視や伴走(2)海賊船への停船命令や立ち入り検査、を例示。周辺海域で戦闘行為が発生した場合は、活動を中断して避難する。(3)武器使用については「海賊行為防止活動の実施に対する抵抗を抑止するため武器を使用できるほか、自衛官は、自己保存のための武器を使用できる」と明記した。

報道によれば、この特措法案と並行してソマリア沖に限らず公海上すべてで活動が可能になる「一般法」も検討されているという。これはまさに自衛隊海外派兵恒久法の先取りに他ならない。

ソマリア沖特措法の問題点

<1>「まず自衛隊派兵ありき」の発想の問題

この問題に対する各界の反応は、「日本が大きな経済的利益をこうむっているのに何もしないでよいのか、日本も積極的に貢献しなければならない」ということで、まずなにはともあれ自衛隊を派遣しようという動きで、そのための法整備をはかろうとしているのである。「国際貢献は自衛隊で」という発想はこの間のイラクやアフガン支援の問題で明らかになったように平和の実現に逆行するものであり、大きな問題がある。この動きは「海賊から商船を守るのは当然」という世論の支持があるであろうことを前提にした動きである。海賊対策に名を借りて「まず自衛隊派兵ありき」の立場から、自衛隊の海外派兵を恒常化させたいという危険なねらいによるまやかしをうち破らなくてはならない。

ことは民間船舶の商業活動の防衛の問題である。商業船舶の運航なのであるから、危険があらかじめわかっているスエズ運河廻りを通らないで、比較的安全なアフリカ南端の喜望峰を廻るということは考えられないのかという当然の疑問がある。この疑問に対しては「所用日数が大幅に増え、費用が大幅に増大するから困難だ」というのである。いまなされているのは、民間の商業活動による利潤の追求のために、憲法が禁じている行為を行い、膨大な国家財政をかけて自衛艦やP3C哨戒機を派遣するという度し難い議論なのである。

海賊対策がどうしても必要というのなら、本来、こうした海賊船の襲撃に対処するのは自衛隊の問題ではなく、警察活動である。この場合、海上警察活動は日本では自衛艦ではなく、海上保安庁の巡視船が行うべき問題である。

早稲田大学の水島朝穂教授は「ソマリア沖の海賊と自衛隊」という論文(12月8日、水島氏のブログ)で以下のように述べている。「国連海洋法条約100 条は、『すべての国は、最大限に可能な範囲で、公海その他いずれの国の管轄権に服さない場所における海賊行為の抑止に協力する』と定めている。海賊船の拿捕は、『軍艦、軍用航空機その他政府の公務に使用されていることが明らかに表示されておりかつ識別されることのできる船舶又は航空機でそのための権限を与えられているものによってのみ行うことができる』(107条)。それぞれの国は『最大限に可能な範囲で』協力すればよいのであって、憲法上疑義のある自衛隊海外派遣ではなく、もしどうしても必要ということになれば、『政府の公務に使用されて』おり、かつ海上警察権限をもっている、海保の巡視船を派遣するのが妥当だろう」「海上保安庁は、ヘリコプター搭載の大型巡視船(PLH型)を13隻保有し、とりわけ『しきしま』(第3管区海上保安本部所属、全長150メートル、排水量6500トン)は、ヘリ2機(AS332L1)搭載の世界最大クラスの巡視船である。『はたかぜ』級護衛艦と同クラス。航続距離は2万海里の遠洋型で、日本から欧州まで無寄港で航行できる。35ミリ連奏機関砲2、20ミリ機関砲2を装備。高性能レーダーを備え、武装した高速船にも対応可能とされる。海賊は組織犯罪であり、それに対応するのは海の警察であるべきだろう」と。にもかかわらず、政府与党が考えるのは「はじめに自衛隊派兵ありき」なのである。

しかし、それにしても海上保安庁の任務として、日本領海をはるかに超えてアフリカ東部のソマリア沖まで派遣できるのかという法的問題が残るのである。

<2>自衛艦の派兵は海賊対策に役立たない

なぜ自衛隊派兵しかないのか。それは本当に有効なのか。

前出の『朝日新聞』(11月15日)の記事では、ソマリアの隣国イエメンから来日したアルマフディ沿岸警備隊長は「自衛隊より財政援助を」として次のように語っている。

「(海上自衛隊の派遣は)高い効果は期待できず、必要ない。むしろ我々の警備活動強化に支援をしてほしい」とのべ、交通の要所であるアデン湾は、向かいのソマリアが無政府状態のため、約2300人のイエメン沿岸警備隊が主に海上警備を担っている。だが現態勢では約1200キロの海岸線の3分の2は手が回らない。「この海域では麻薬密輸や人身売買も横行している」として、基地港5カ所の新設や高速警備艇10艇導入などの財政支援を求めた。海上保安庁からは警備の技術指導も受けたいという。「日本から自衛隊を派遣すれば費用がかかるはず。現場をよく知る我々が高性能の警備艇で取り締まった方が効果があがる」という。

当然である。広い東アフリカの海域や海底の地形が複雑なアデン湾で、その海に詳しくない自衛艦が地元の漁民を主体にした海賊を追いかけても、いたちごっこになることはあきらかであろう。

外務省も「ソマリア周辺地域における海賊行為は、沿岸諸国の治安維持能力、国境管理能力の欠如が大きな要因のひとつであると考えられ、わが国はこれらの能力の向上を目的として以下のプロジェクトを実施中」として、1)ソマリア暫定政府の国境管理強化セミナーに100万ドル拠出。2)暫定政府警察官の治安維持能力強化訓練に400万ドル拠出予定。3)イエメン海上保安能力強化のため沿岸警備隊2名の研修実施。4)タンザニアの税関行政、イエメンのテロ事件捜査セミナー、イエメン、タンザニアの上級警察幹部セミナー、ケニア、タンザニアの警察行政セミナーなどの研修員受け入れ、等に取り組んでいる。こうした支援の本格的な延長で、例えばこのイエメン沿岸警備隊の要請など、東アフリカ諸国との協力強化の要請に応える方が、より現実的で、効果的であろう。

従来、大きな問題になったマラッカ海峡の海賊問題でも、日本政府は1)ASEAN諸国、中国、韓国、インド、バングラデシュなど関係各国の協力円滑化のための法的枠組み整備、2)各国海上保安期間にたいする無償資金協力、3)海上保安期間の連携強化、4)各国海上保安期間取り締まり能力向上支援、⑤)ASEAN地域フォーラムにおける海上安全保障会期間会合、などによりその対処に取り組んできたのである。これが教訓とされるべきであろう。

派兵論者がこうした具体的な対策をとるのではなく、まず自衛隊派兵だととなえているのは、「海賊被害」問題を真に解決しようとするところとは別の危険なねらいがある。

<3>国連決議の問題点

派兵論者は国連決議を盾に派兵を主張する。すでに紹介したように、国連安保理は6月8日(決議1816号)。10月9日(1838号)、海賊対策の決議を出した。いずれも日本政府も共同提案国である。「同決議は、ソマリア暫定『政府』( Transitional Federal Government , TFG )(日本は政府承認していない)による安保理への要請に基づき、国連憲章第 7 章下で、関連する国際法の下で海賊に関し公海上で許容される行為に合致する方法で、対象地域、目的、期間を一定のものに限定しつつ、 TFG に協力する各国に対して海賊・武装強盗対策のために必要な措置をとることを承認する等を内容としている」(外務省)。

これはソマリアの海賊の掃討のためソマリア領海内での武力行使を含む制圧行為など「必要なあらゆる措置」をとることを加盟国に認める決議である。しかし、この決議には重大な問題がある。国連憲章第7章は侵略国家対策とは異なる海賊行為などの組織犯罪に適用できるとするのは無理があるとの指摘がある。

そしてなによりも、この両決議のいう武力の行使を含む「必要なあらゆる措置」は日本国憲法第9条の禁ずるところであり、日本の自衛隊はこの軍事行動には参加できない。決議1816、1838のいう海賊対策には日本政府は参加できない。言うまでもないことであるが、このこと自体、日本は何ら恥ずべきことではない。これを日本政府が国連に於いて共同提案すること自体が憲法違反である。

<4>政府案は憲法違反

 政府がいう自衛隊法82条の「海上における警備行動」を適用して自衛隊を派兵するというのは、同法の主旨が自衛隊の出動は海上保安庁の手に負えない事件であり、また立法当時の主旨から見てその活動は日本の主権の及ぶ領海内での活動と考えられ、遠くソマリア沖などという領海外の活動は隊法の想定外であり、権限逸脱になるのではないかと考えられる。

さらに政府案がいうような派遣自衛艦の活動として「海賊船への停戦命令や立ち入り検査」「抵抗抑止のための武器の使用と自衛官の自己保存のための武器の使用」「外国船も護衛対象」などの任務を規定しようとするのは、憲法が禁ずる「武力の行使」と「集団的自衛権の行使」に直結するものであり、憲法違反になる恐れがあるので、目的、対象、期間などを限定した特措法をもってしても、憲法上不可能である。

これと並行して検討されているという同法制の「一般法制化」は、いつでもどこへでも海外派兵できるものであり、この間、自民党が狙ってきた自衛隊海外派兵恒久法制定の先取りそのものである。

根本的な解決はソマリアの内戦の終結以外にない

すでに指摘したように、ソマリア沖の海賊の実態は困窮した漁民である。漁民が困窮する原因はソマリアの内戦と無政府状態である。

ソマリアはイタリアとイギリスの植民地だったが、1960年に独立した。言語・宗教は単一だが、多くの氏族、準氏族に分かれており、60年代に社会主義を名乗るバーレ政権が政権掌握、米ソの経済・軍事援助競争の舞台になる。80年代に北部はソマリア国民戦線、中部は統一ソマリア会議、南部はソマリア国民戦線が分割支配、三つ巴の内戦が起きる。1991年、アイディード派の統一ソマリア会議がバーレ大統領を追放し、首都モガディシオを支配するが、内紛で分裂し、米ソから供与された武器を使って内戦が起きる。内戦は全国に拡大して無政府状態となる。「独立から31年目、ソマリア国はなくなった」と言われる。飢餓が広がり、隣国のイエメン、ケニアなどに脱出する難民が激増した。国連やNGOによる『援助』は武装勢力により阻害された。国連は「人道目的発のPKF活動」を決議。米軍を主力とする国連平和維持軍がソマリアに派遣されるが、アイディード派が激しく抵抗。米軍は多数の死傷者を出し、1994年、米軍は逃げるように脱出し、国連PKFは失敗に終わる。2000年には国外でソマリアに基盤を持たない暫定政府が発足、首都モガディシオを支配していたイスラム法廷連合に、エチオピアの支援を受けて攻撃。エリトリアの支援を受けた法廷連合との内戦が激化した。現在も無政府状態が続いている。

ソマリアの内戦と人道被害、無政府状態は、旧来の帝国主義の植民地支配と米ソの覇権争奪による無責任な軍事介入の結果である。この問題の解決なくして、ソマリア海賊問題の真の解決はない。日本政府のいうような海上輸送路の確保などという自国の利害から、自衛隊を派兵し、介入することでは問題の解決にはならない。大国の支持を受けた隣国による内戦への介入でも問題は解決しない。

東アフリカ地域に於いても和平を模索する動きはある。9条を持つ日本のとるべき道は、いかに困難であってもアフリカ連合(AU)などによる和平の道の模索を支援することである。(2008年12月14日 高田健)

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