私と憲法(2009年1月25日号)


東北アジアの軍事的緊張を高める北朝鮮船舶臨検特措法の制定に反対する~「臨検って。戦争じゃないか!」

北朝鮮の核実験に対して、麻生内閣と与党は「制裁」の強化を主張し、国連でも「制裁決議」の先頭にたって動き、同時に日本の独自追加制裁として、北朝鮮向け輸出の全面禁止を決定した。くわえて政府は今国会中に戦争につながる可能性のある「北朝鮮船舶臨検特措法」の制定に乗り出そうとしている。

あろうことか、麻生内閣はこれを目前に迫った総選挙での野党対策の手段と見ているフシがある。この特措法をもって民主党を揺さぶり、野党間に亀裂を入れることで、不利になりつつある選挙の挽回に資したいというのである。戦争につながるこうした危険な立法をもてあそぶ麻生内閣の企てに怒りを込めて抗議する。

民主党鳩山代表も麻生首相との党首討論などで、この立法化には前向きで対処すると表明している。もしも民主党が賛成せず、参議院で反対するなら、7月28日が会期末になっている今国会での成立は困難になる。しかし、与党と民主党が合意するならこの法案は成立する可能性がある。国連決議であっても、日本が無条件に従う必要はないのである。憲法第9条を持つわが国ができることと、できないこと、やるべきことと、やってはならないことがある。民主党は麻生内閣と与党が企てるこの危険な臨検法案に反対すべきである。

市民連絡会は先の「北朝鮮の核実験に抗議する声明」(5月27日)の中で以下のように指摘した。
「いま、求められているのは東北アジアの緊張の緩和と非核・平和の確立であり、そのための真剣な対話と協議である。北朝鮮政府はただちに朝鮮半島の非核化のための『6カ国協議』に復帰し、東北アジアの平和のために各国政府との対話をすすめるべきである。また、日本政府や米国政府はこの機を利用して制裁を強めるなど、いたずらに北朝鮮を敵視し、東北アジアの緊張を激化させる行動をとるべきではない。そして両国政府は2002年の小泉訪朝の際に発表された『日朝平壌宣言』を基礎とした対話による関係の回復のため力を尽くすべきである」。

いま麻生内閣と与党がとっている道は、これとは正反対の危険な北朝鮮敵視政策であり、いっそう東北アジアの軍事的緊張を激化させ、戦争の危険を増大させる冒険主義的な道である。

麻生内閣と与党は、北朝鮮に出入りする船舶の公海上での貨物検査(臨検)を盛り込んだ6月12日の国連安全保障理事会決議1874「北朝鮮の核実験をめぐる安保理決議」を受けて、「北朝鮮に係る船舶検査活動等に関する特別措置法」の制定を企てている。国連で米国と共に北朝鮮への制裁決議実現の先頭に立ってきた麻生内閣は、北朝鮮の核実験は現行「船舶検査法」の想定する「周辺事態」ではないので適用することはできないが、「国連決議の要請に応えなければならない」として新法=特措法の制定をめざしている。

報道によれば、この「北朝鮮関係船舶臨検特措法」案には海上保安庁または自衛隊による貨物検査および、自衛隊による米軍など外国軍の活動への後方支援活動という2種類の活動が盛り込まれている。

そして、「船舶検査は、首相の判断で海保、自衛隊のいずれかが実施し、船舶が所属する国の同意と船長の承認を得たうえで積荷を調べる。ミサイル関連物資などの禁輸品があれば、航路変更などを要請する。活動区域は『領海またはわが国周辺の公海』とし、外国軍の活動区域とは『明確に区別し指定する』としている」とのことである。「武器使用権限」は「正当防衛・緊急避難に限定する」としているようであるが、自民党内では強制的な船舶操作に備えて、武器使用権限の拡大を含めた私案を作成している議員たちもいるという。自衛隊でないにしても、海上保安庁の20ミリ機関砲などで武装した巡視船による停船要求・臨検要求は戦争行為寸前である。この場合、自衛隊でなく、海保だからよいなどと言う論理は、相手国の立場を度外視した勝手な論理に過ぎない。そしてまず海保でということにしても、ソマリア海賊対処の場合に見られたように自衛隊の「海上警備行動」が発令されることになる。

しかも、北朝鮮は「海上封鎖は戦争行為とみなす」と宣言しているのである。

こうした情勢の下で行われる「船舶検査」が戦争の誘発につながる可能性が少なくなく、憲法第9条1項に違反することは明白なことである。

第一、どのようにして「公海での検査の同意を要請する」のか。航路妨害や、信号弾の発射、照明弾の発射も武装した自衛艦あるいは巡視艇が行う場合、相手からは武力による威嚇(または攻撃)と受け取られる可能性がある。

第二、相手船舶が臨検を拒否して、武力抵抗すれば「正当防衛・緊急避難」の理由で応戦することになり、戦闘が起こる。

第三、「要請」が無視された場合、どうするのか。国連安保理決議は「近くの港に誘導する」というが、これには強制力をともなうことになる。戦闘になる危険性がある。

一方、米国国務省のモレル報道官は16日、「アメリカ軍が、北朝鮮の船舶が武器や核関連物資などを積んでいる疑いがあると判断した場合には、まず任意の立ち入り貨物検査の実施許可を求めることになる。これが拒否された場合には、その船舶を適切な港に停泊させるよう求めたうえで、入港先の国と協力して検査を実施したい。必要があれば我々にはこうした措置を行う権限もあるし、手段もある」と述べた。

これはまさに武力による強制的な臨検であり、当該の船舶の抵抗と、相手国の反撃が予想されるものである。この活動をする米軍への「後方支援」は相手国から見れば日本も交戦国となる。

 麻生内閣と与党は東北アジアに戦争の危険をもたらす「北朝鮮船舶臨検特措法」の企てをやめるべきである。

日本政府は東アジア関連諸国と共同して、有効なあらゆる可能性を追求し、「日朝平壌宣言」を基礎とした対話の努力に全力をあげ、打開の道を探るべきである。(事務局 高田健)

このページのトップに戻る


政府、軍拡路線に転換、敵基地攻撃能力保持を検討、次期防衛大綱の策定基本方針

 政府が今年度末に決定する新「防衛計画の大綱」の基本方針が報道で明らかにされた。その中では1995年度から縮減方針に転じていた防衛予算を増加させることに転換することや「敵基地攻撃能力」を保持するなど、重大な防衛政策の転換が企てられている。反撃の取り組みが急がれる。

これに先立って、自民党国防部会の次期防衛大綱への提言がまとめられている。政府の基本方針はこの自民党の提言に沿ったもの。
  以下、自民党の国防部会の報告の要旨を紹介する。

  1. 敵基地攻撃能力(策源地攻撃能力)(敵基地の所在確認、敵の防空能力の無力化、十分な打撃力などが必要とされる)の保持(情報収集衛星や通信衛星、巡航ミサイルなどを有機的に組み合わせる)
  2. 積極的に宇宙を利用し、早期警戒衛星、情報収集衛星を研究・開発。イージス艦の弾道ミサイル対処能力の強化。地対空誘導弾パトリオット(PAC3)の導入促進。
  3. 自民党新憲法草案(05年)の確認と、自衛隊の位置づけ明確化、軍事裁判所の設置などの早急な憲法改正。国家安全保障基本法の制定。
  4. 自衛隊出身の首相秘書官配置など、首相補佐機能の強化。国家安全保障会議(日本版NSC)新設。
  5. 武器輸出3原則を見直し、米国以外の企業との共同研究・開発・生産。武器関連技術の輸出禁止先はテロ支援国家、国連決議対象国、紛争当事国などとする。

このページのトップに戻る


東京・中目黒の「国際平和協力センター」をめぐる攻防

宮本なおみ

東京都目黒区には三宿と中目黒と、2つの自衛隊駐屯地・基地がある。その中目黒地区に「国際平和協力センター(仮称)」ができるということがはじめて明らかにされたのは、2008年10月10日、目黒区議会の議会運営委員会においてであった。

それを聞いた「9条でつなごう!めぐろネット」では、その取り組みを検討した。私たち15名ほどが福島みずほ参議院議員(社民)の斡旋で防衛省側の説明を受けたのは、12月15日である。そのときに「住民の所に出向いて説明をしてもよい」との回答があり、私たちは12月26日、「中目黒・防衛研究所新施設の説明を聞く会」(連絡責任者 中村正子)を立ち上げた。地元説明会は1月16日と決まり、私たちは地区センターの会場を押さえたが、開会直前になって、防衛省側は一方的にキャンセルし、「東京新聞」が大きくそのことを報道した。

中目黒の陸上自衛隊駐屯地、海上自衛隊・航空自衛隊の基地は面積約15万平米。戦前から不気味な一帯として、戦争に関する研究を行ってきた場所である。そこに床面積7千平米、鉄骨7階建ての幹部学校を建てることになったのである。

その幹部学校の教育機能としては、国際平和協力活動に関する企画・立案等を担当する要員や国際機関の司令部要員等を育成する教育棟など4項目が並び、広報機能としては、国際平和協力活動に関する日本及び諸外国の取り組み状況の展示、現場映像の上映、各種イベントがある。その裏に隠された中身に、私は計り知れないものを感じた。

私たちははじめて、身近にある不気味な場所の問題に触れる機会をもったと言える。行動は国会議員への働きかけから始まり、福島みずほ議員秘書、谷博之参議院議員(民主)秘書の立ち会いで再度の説明会設定の交渉をする。その間、目黒区長に地元説明会の必要性を説き、情報提供の要請をした。目黒区建築審査会の傍聴、藤田幸久議員(民主)の斡旋による院内説明会(2009年2月27日)などが開かれた。

説明会ではこの幹部学校だけでなく、「個人装備・防護服の研究センター」や研究用器財の高性能化、及び現有施設の老朽化に伴う、作業効率の向上をはかった各種試験を実施する「弾道研究センター」についての説明もあった。制限された時間の許される限りでの質問をしたが、中身についてはここで触れるゆとりはない。

防衛省の側は地元に来ての説明をずるずると延ばしている間、私たちは中目黒防衛省陸上自衛隊駐屯地及び航空自衛隊・海上自衛隊の基地にはいることの交渉を市ヶ谷の防衛省と行い、成功した。何と広大な敷地。防護服研究施設、そこと少し離れた場所の弾道実験場などは施設の建設過程にあった。

そうした過程を経て迎えた防衛省北関東防衛局通知による6月9日の地元説明会に於いて、「プルトニウム239が32グラム保存されている」ことが明らかとなった。再度「東京新聞」はそれを大きく報道した。そのときの防衛省側の参加者は約30名、町内会の役員や、すぐそばにある清掃工場に悩まされつづけた住民、そして私たちを含めて住民側約80名。私たち「聞く会」は多くの議論の末、ともかく聞くことに徹するという確認をしている。目黒区と町内会と私たちとの認識の落差、再度の説明会の開催という課題をいまかかえている。(6月18日記)

このページのトップに戻る


2009年5・3憲法集会スピーチ(続)

前号で落合惠子さんと益川敏英さんのスピーチを紹介しました。今号では主催者挨拶と福島瑞穂さん、志位和夫さんのスピーチを紹介します。(採録にあたっては「憲法会議」のご協力をえました。文責・編集部)

2009年5・3憲法集会主催者あいさつ

憲法改悪阻止各界連絡会議 柴田 真佐子

お集まりのみなさん、会場の外のみなさん。「5・3憲法集会」は、2000年1月、国会に憲法調査会が設置されるという事態を受けて、それまで、それぞれに運動していた諸団体が、改憲への流れを食い止めようと共同開催するようになって、今年で9回目になります。日本国憲法が施行されて62年目の今年の集会は、不戦の誓いである憲法9条を守り生かす運動の高まりと、深刻な雇用破壊、生活破壊の中で、生存権や社会権など憲法の理念を生かしたとりくみの広がりの中で開かれていることを、確認しあいたいと思います。

いま、憲法9条を骨抜きにし、「戦争のできる国」づくりを推し進めようとする動きが急です。政府は、自衛隊を再びインド洋に送ったことに続き3月には、海上自衛隊をソマリア沖に派兵しました。通常国会では、わずか4日間の審議で、武器使用を拡大し、世界のどこの海へも自衛隊を派兵する「海賊対処」法案を衆議院で可決しました。これは、究極の解釈改憲である「自衛隊の海外派兵恒久法」へ道を開くものです。廃案に向けての運動を急速に強めましょう。また、米国の領土に日本の税金で米軍基地を作る「グアム」協定の強行など米軍再編による日米軍事同盟と自衛隊の強化がすすめられています。

私たちは5国会にわたって、憲法審査会を始動させませんでしたが、衆議院で今国会中にも、憲法審査会規程を定める動きが強まっています。来年の「国民投票法」の施行を前に、政府は、改憲手続き法の宣伝パンフレットを発行し、「国民投票」システム作りを準備するなど、明文改憲に備える動きをすすめています。

先日、日本高等学校教職員組合が「高校生1万人憲法意識調査」をまとめました。それによると60.9%の高校生が「憲法9条を変えない方がよい」と回答しています。前回2004年調査では、43.9%でしたので、急増しています。高校生は平和への意識を高めていることがわかります。

また、安い賃金で労働者を使い、史上空前の大もうけを続けてきた大企業が、業績悪化を口実に、「非正規切り」を行い、住むところも食べる物もなく、路頭に迷う労働者を大量に作り出しています。人間をモノのように使い捨てにする「非正規切りは許せない」の世論が高まり、社会的な支援、連帯の輪が広がっています。

平和であってこそ国民の雇用、くらし、いのちを守ることが出来ます。全国各地で草の根から展開されている9条を守る運動に確信を持ち、憲法改悪に反対し、憲法の理念をいかす運動をいっそう強めましょう。

本日は、会場内外のみなさまのご協力で、集会と銀座パレードを大きく成功させ、9条を生かして世界とアジアの平和を実現するために、「武力で平和はつくれない」という共同行動の輪をさらに広げていきましょう。

このページのトップに戻る


2009年5・3憲法集会スピーチ(続)

社会民主党党首 福島みずほ

皆さん、こんにちは。社民党の福島みずほです。
今日は大好きな日本国憲法の62回目の誕生日です。ここにいらっしゃる皆さん、そして多くの国民の皆さんと、「ハッピー・バースディー日本国憲法」とお祝いをしたいと思います。そして今日の集会が、国会の中、政治の場面で憲法「改正」をやろうとしている、そういう動きを食い止める大きな一歩になるようにと心から思います。皆でがんばっていきましょう。

私は、この日本の国が大好きです。世界に誇るべき日本国憲法があるからです。この日本国憲法を皆で使って、世界のために貢献をしたいと思います。また、会場いっぱいの皆さん、そしてオーロラビジョンを見ていらっしゃる皆さん、私たち1人ひとりの手で大きな動きをまたまた作っていきましょう。
今日は3点お話をいたします。

 まず初めに、なんといってもやはり平和の問題です。平和の問題のまず第1にソマリア沖への自衛隊の派兵、このことへの強い抗議と、そして私たちはこれを許さない、ということを申し上げたいと思います。

国会でも質問しました。なぜ立法なくしてやるんだ、と。麻生総理の答弁は、応急措置的に自衛隊を出す、その後海賊新法をつくるというものでした。私は本当に舐められていると思いました。自衛隊は応急措置的に出す、そんな存在でいいのでしょうか。また、今回、たとえば4月14日、麻生総理は本会議場で、「国益を脅かす死活的問題だ」と答弁をしました。「国益」という言葉が出てきました。イラク派兵、アフガンの問題、テロ特措法、イラク特措法で出てこなかった「国益」という言葉が大手を振るって出てきました。

私は思います。日本人の保護、日本人のために、日本の製品のために、日本の物のために自衛隊を派兵する、これは戦前おこなった侵略戦争とどこが違うのでしょうか。世界中に、日本の人、物、企業、船、あらゆるものがあふれ返っています。それが危険だということで自衛隊がいくことになれば、どんな海にも、どんな地域にも、場合によってはどんな陸にも自衛隊が行けることになってしまいます。実際、海賊新法はソマリア沖に範囲を限っていません。つまり、いつでも、「どこでもドア」のドラエモンのドアではないけれど、「どこでもドア」を使って自衛隊が世界中に出ていく、そのことへの大きな第1歩と今回の自衛隊派兵はなるのではないかと、大きな危惧を感じています。戦後最大の憲法違反の自衛隊の派兵です。

海賊新法が、これから参議院で審議になります。どんな観点からも許すわけにはいきません。国会の事前承認もありません。2005年に発表された自民党「新憲法草案」では必ずしも国会の事前承諾なしに自衛隊を出せることになっていますが、私はこれの先取りだと思います。この先には自衛隊派兵恒久法案が地続きとして提案されると思います。だからこそ、ここにいらっしゃる皆さん、国民の皆さん、海賊新法を許さないためにもっともっと大きな運動をいっしょに作っていこうではありませんか。
もちろん、民主党の修正案でもダメです。国会の中でがんばります。応援をしてください。

2つ目は、武器、それから軍縮のことをお話します。
国会で、民主党の議員が武器輸出禁止3原則をゆるめるべきだと質問をして、私は落合恵子さんではありませんが、怒髪天を衝く、という思いになりました。

戦後の日本のいいことは沢山あります。武力行使を海外でしなかったこと、そして日本製の武器が世界中の子どもたちを殺したりはしなかった、ということです。これを堂々と日本国憲法下で武器輸出禁止3原則を緩和すべきだという質問が出たことに大変な危惧を感じます。危険です。

そして核軍縮のことについて一言申し上げます。アメリカのオバマ大統領がプラハで核軍縮について発言をしました。アメリカは核超大国です。そのアメリカの大統領が初めて言ったことはやはり大きいと思います。社民党はオバマ大統領のアフガン政策、テロとの戦いには断固反対です。でもこの核軍縮については、社民党も先頭に立って、もっと言えば日本も先頭に立ってやるべきだと思います。
  オバマ大統領は核兵器を落とした国として、広島、長崎の名前をあげました。日本は核兵器を落とされた国として、もっと先頭に立つべきだと思います。

国会の中にも核軍縮やいろいろな議員連盟があります。それこそ超党派で、日本の国内で大きく運動を作っていきたい。
社民党はまた脱原子力の政党です。核廃絶といったときに核兵器廃絶とプルトニウムの問題、この2つをきちんとなくしていくために全力をあげたいと思っています。

3点目に米軍再編の問題です。グアム移転協定と言われていますが、私はこれは米軍再編強化協定だと思います。
横須賀港が原子力空母の母港になり、米軍はメンテナンスも含めて修理をしているという大問題です。「東京に原発を」ということが現実の問題になりました。あの沖縄のジュゴンがすむきれいな辺野古の沖に、米軍のために基地を作っていく、そのことを政府は着々とすすめようとしています。でも皆さんどうでしょうか。来年7月、名古屋で生物多様性会議が日本政府の主催でおこなわれます。しかし、ジュゴンが住む沖縄の海をつぶす日本政府に、生物多様性の国際会議をやる資格があると思われますか。私は、日本政府は生物多様性というのであれば、この辺野古の沖や海上基地の建設、米軍再編をやめるべきだと思っています。ごいっしょにがんばりましょう。

平和の問題の4番目です。
国会で憲法審査会をこの5月3日より前に動かす。そのために自民党はがんばりました。私たち野党はがんばって、そんなの許さない、と国会の中で大きな攻防戦になりました。社民党は今日出席している保坂展人衆議院議員に議院運営委員会でがんばってもらいました。

国民投票法があの安倍内閣で成立し、私たちは国会でそれを動かさないためにがんばっています。しかし、運営規則をつくり委員会を動かしていく動きが国会のなかで強まっています。もう衆議院選挙目前なのに、なんでこんな憲法審査会を動かして憲法「改正」案づくりを始めなければならないのでしょうか。私たちは国会の中で憲法審査会を動かさないために他党にもはたらきかけ、全力をあげていきます。

そして皆さん、これは「平成22年5月18日から、憲法改正国民投票法が施行されます」。ここにお兄ちゃんが国民投票をしている図がのっているリーフレットがあります。これを政府は去年の予算で500万部、全国に配りました。熊本では町内会で回覧板でまわしたという話を聞きました。これを500万部、税金で総務省が配りました。そして今年の予算46.9億円が国民投票のために使われています。システム費のために自治体にお金をおろし、今年の本予算で300万部またリーフレットをつくると総務省は計画をしています。合計800万部。でもうちの親などこれを見ると、「あ、来年は国民投票があるんだ」と思ってしまいかねないような中身です。これを見た人は、「裁判員もあるけれど国民投票も来年5月にあるんだ」と思ってしまいかねません。

でも皆さん、貴重な税金使って国民をだますようなこんなリーフレットをつくることは許されないと思いますが、どうですか。私たちの税金使ってこんな国民をだますようなリーフレット800万部も配るなと思っています。総務省と交渉して、憲法改正の発議がなければこんなのムダじゃないか、と言いました。ここにいらっしゃる皆さん、国民の皆さんに申し上げます。こういうお金の使い方は許さない。こんなリーフレットがムダになるように、どんなことがあっても国会のなかで憲法改正の発議がおこなわれないように一緒にがんばっていこうではありませんか。

2番目に基本的人権の問題です。ここ日比谷公園には、年末年始、派遣村に日参しました。そこで出合った人たちは、私は、国会の中で労働法制の規制緩和をやってきた犠牲者だと痛感しました。国会でやっていることが、こんな形であらわれている。そう思いました。憲法25条は、すべて国民は健康で文化的な生活を営む権利を有する、そう規定しています。そのことが生活の底が抜けそうな人たちを政治が大量につくり、生存権、これがまさにいま私たちが実現をしなければならない条文になりました。いままさに「生存権を守れ」「生きさせろ」、このことを大事に皆さんたちと憲法25条を生かすたたかいを国会の内外で果敢にやっていきたいと思っております。

排除型社会ではなく、共生や連帯の社会へ、皆さん、世界を見てみると社会保障を充実させている国ほど厳罰化にすすんでいないという現実があります。「自己責任だ」「おまえのせいだ」という社会ほど、厳罰化になっている。そういう状況があります。刑務所が満杯になっていく。落合さんも草なぎ剛さんの話をしました。この社会おかしくなっている、そう思っています。私も酔っ払って、吐いたり、他人に迷惑をかけることがあるかもしれない。それはよくないとは思います。しかし逮捕をするような問題なのでしょうか。私は死刑をばんばんばんばん強行してきた鳩山大臣が「最低の人間だ」というのは許せない。そう思いますが皆さんどうですか。政治こそが責任を果たさなくてはいけなくて、たかだか酔っ払った人間、裸になったのは悪いですが、「最低の人間だ」というのはおかしい。

そして今、ビラを配って有罪判決、「日の丸」「君が代」で学校現場でがんばったら懲戒処分、そのことが精神的自由権を本当に脅かしています。

基本的人権は生存権も大事、でも精神的自由権も含めて本当にそういう権利がこの社会の中で保障される、そのためにがんばりあいたいと思います。

最後に、やっぱり政治を変えようということです。
新しい政権は新しい政治改革が必要です。国政における世襲の禁止、企業・団体献金の禁止、それから天下りの禁止、この3つをやらなければなりません。2世、3世議員が跳梁跋扈し、公共事業をゆがめて、軍需産業からお金をもらい、天下りをしてそこの業界をやっていく。迎撃ミサイルだって軍事演習みたいにやるではないですか。国会のなかでたんたんと迎撃ミサイルのことを質問しても、騒然となってしまう。それが、いまの国会の現実です。私は政治改革、この3つをやって今の国会を一掃したい。政治大掃除作戦をやりたいと思っています。一緒にがんばっていきましよう。

皆さん。いよいよ衆議院選挙がやってまいります。私は、日本国憲法に公然と挑戦をしつづける自公政権を許すわけにはいきません。日本国憲法のもとで、日本国憲法を脅かし、侵害し、亡きものにしようとし、そしていまだ日本国憲法を変えようという野望を捨てない、公然とやっている自公政権をなんとしても許すわけにはいきません。1票で政治を変えましょう。

日本国憲法の前文は、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることがないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」と規定しています。主権者は国民です。政治がひどいものであれば、主権者はその政治を変えられる。「主権者である国民はしっかりしなさい」と日本国憲法は主権者である私たちを励ましています。私たちが政治かえる番です。

最後に、ちょっと個人的なことになりますが、「おくり人」の映画を見ました。市井の人々の人生に対する敬意にあふれている映画だと思いました。今の政治が普通に生きる人びとに敬意を表しない。だから5月には派遣法の抜本改正案を何としてでも国会に出しますが、市井の中で生きる人びとを政治は敬意を払わない。このことに怒りを感じています。その映画を見たあと、私も父親を見送り「おくり人」になりました。12月末に父が亡くなりました。父は特攻隊の生き残りでした。父はほとんど語ってはくれませんでした。突撃の日が決まっていました。でも終戦間際ですから、滑走路が爆破されて父は飛び立つことができませんでした。戦争が終わって、父は命びろいをしました。戦後、結婚して私が生まれました。8月15日には父が泣いていたりしていて、私は父親に近寄れない、いつもこわいと思っていました。映画「スカイ・クローラ」があります。あの中で同じような境遇の人が、「同情なんかするな」という場面があります。私も言いたい。「政治家は同情なんかするな。政治家は戦争がなくなるような社会を全力でつくるべきだ」、そう思っています。

父が命びろいをしてくれたおかげで、日本国憲法ができたおかげで、私も命をもらいました。私は親の存在そのもの、親の生存そのものから、戦争はダメだ、命が本当にすべてだ、ということを親から学びました。だから私はとことん平和が大事、日本国憲法が大事という立場です。そんな方はこの中にも、日本中にもたくさんいらっしゃるでしょう。そして世界中にも戦争はイヤだ、命を大事にしてくれ、そう思う人が本当に沢山いると思っています。

憲法が大事だと思う私たちにとって、重要な局面を迎えました。憲法審査会を動かさない、国会で憲法改正案づくりをさせない、自衛隊を派兵させない、そして主権者である皆の力によって日本国憲法を輝かせていく、そのためのまさに正念場がやってきました。皆さんととともに、全国の皆さんとともに、そしてもっと欲張って全世界の人びととともに日本国憲法を輝かせる、そのたたかいにともになっていきたいと思っています。
がんばりましょう。

このページのトップに戻る


2009年5・3憲法集会スピーチ(続)

日本共産党委員長 志位和夫

みなさん、こんにちは。ご紹介いただきました日本共産党の志位和夫でございます。今日は、広い会場いっぱいのみなさんにくわえ、外でも多くの方々にお集まりいただき、感激しております。どうか最後までよろしくお願いします。

今日、私は、「核兵器廃絶と日本国憲法」というテーマでお話しさせていただきたいと思います。
核兵器廃絶を求める運動と、憲法9条を守り生かす運動は、戦後の日本国民の平和を求めるたたかいの2つの柱として発展してきましたけれども、この両者はどういう関係にあるのか。このことを世界と歴史の大きな視野からごいっしょに考えてみたいと思います。

世界を見ますと、この間、核兵器をめぐる情勢の大きな進展が起こりました。
米国のオバマ大統領が、4月5日、プラハで行った演説は、世界に対して大きな問題を提起するものとなりました。私は、オバマ演説を、次の3つの点に注目して読みました。1つは、米国が「核兵器のない世界」――核兵器廃絶を国家目標とすると初めて公式にのべていることです。2つは、広島・長崎への原爆投下が、人類的道義にかかわる問題だと初めて表明し、その立場から行動する責任について語っていることです。3つは、「核兵器のない世界」にむけて諸国民に協力を呼びかけていることであります。私は、日米関係のあり方については、米国政府とはもとより立場の大きな違いがありますが、オバマ大統領のこれらの一連の言明は、心から歓迎するものであります。

私は、この演説はたいへん重要だと考え、4月28日、オバマ大統領に核兵器廃絶への具体的行動を要請する書簡を送りました。アメリカ大使館を初めて訪問し、ズムワルト臨時代理大使に書簡を手渡しました。

書簡では、私の歓迎の気持ちを伝えるとともに、「同意できないこと」も率直にのべました。それは大統領が「核兵器のない世界」を呼びかけながら、その実現は、「おそらく私の生きているうちには無理だろう」といっていることです。

私がこれに「同意できない」といったのは、理由があります。今年で戦後64年になりますが、核兵器保有国が、核兵器廃絶を正面からの主題にして国際交渉に取り組むことは、歴史上誰の手によってもまだ行われていないからです。交渉はおろか、交渉の呼びかけすら行われたことがありません。もちろん交渉の呼びかけから、交渉の開始、そして合意、さらに実行までには時聞かかかるかもしれませんが、どれだけの時聞かかかるかは、取り組んでみないとわかりません。取り組む前から「生きているうちには無理」というのは、気が早いのではないでしょうか。

その意思さえあれば、すぐにでもできることがあります。それは米国大統領として核兵器廃絶を正面の主題にした国際交渉を呼びかけ、交渉を開始することです。これはすぐにでもとりかかれることではないでしょうか。ぜひ大統領のイニシアチブで、核兵器廃絶のための国際条約の締結をめざして国際交渉を始めてほしい。私は、書簡で、このことを強く要請しました。

アメリカに前向きの変化を促した根本の力は何でしょうか。私は、それは平和を願う世界諸国民のたたかいだと思います。そして、この人類の生存がかかった大問題の帰趨(きすう)を決めるのも、諸国民のたたかいであります。みなさん、いまこそ唯一の被爆国・日本で、「核兵器廃絶をめざす国際交渉を開始せよ」の声を広げようではありませんか。

みなさん。核兵器廃絶のたたかいと、憲法9条を守り生かすたたかいは、実は深くむすびついています。そのことを歴史の視野から見てみたいと思います。

憲法9条はどうやって生まれたか。1945年6月に決められた国連憲章では、2度にわたる世界大戦の惨禍をふまえて「武力の行使、武力による威嚇」を厳しく禁止しました。翌46年11月に公布された日本国憲法第9条は、国連憲章のこの立場を踏まえながら、さらに進んで「戦争放棄」とともに一切の「戦力保持の禁止」を明記しています。

日本国憲法9条には、国連憲章を踏まえつつ、国連憲章からさらに前に向かっての飛躍があります。恒久平和主義を徹底する方向への飛躍があります。それでは、この飛躍はいったいどうして生まれたか。

日本軍国主義の侵略戦争がもたらしたアジアで2千万人、日本国民で360万人という甚大な犠牲とそれへの反省が、憲法9条を生み出す土台となったことはいうまでもありません。同時に、私たち日本国民が憲法9条を持つにいたったのには、私は、もう1つ事情があると思います。

国連憲章が決められた1945年の6月の時点では、人類はまだ原子爆弾を知りませんでした。そのあとの7月に人類初の核実験が行われ、8月に広島・長崎に原爆が投下されました。この原子爆弾によって、20万人を超える無辜(むこ)の人々の命が一瞬にして奪われ、美しい2つの都市が一瞬にして廃虚と化し、幾世代にもわたる言語を絶する犠牲をこうむりました。この地獄を、世界のどこでも2度と繰り返してはならないという強い思いが、憲法9条という私たちの宝を生み出した。私は、歴史のこの事実を強調したいと思うのであります。

ここに日本国憲法が公布された1946年11月に、内閣が発行した『新憲法の解説』と題する冊子があります。この冊子では、憲法第2章「戦争の放棄」の意義について、次のようにのべています。

「一度び戦争が起これば人道は無視され、個人の尊厳と基本的人権は蹂躙され、文明は抹殺されてしまう。原子爆弾の出現は、戦争の可能性を拡大するか、又は逆に戦争の原因を終息せしめるかの重大段階に到達したのであるが、識者、まず文明が戦争を抹殺しなければ、やがて戦争が文明を抹殺するであろうと真剣に憂えているのである。ここに於て本章の有する重大な積極的意義を知るのである」

昔は政府もずいぶん良いことをいっています。
原子爆弾の出現によって、文明と戦争は両立しえなくなった。「文明が戦争を抹殺しなければ、やがて戦争が文明を抹殺する」。そういう恐るべき現実が目の前に生まれました。それならば文明の力によって戦争を抹殺しよう。戦争を放棄し、陸・海・空軍、一切の戦力を放棄しよう。それを世界に先駆けて実行しよう。こうして私たちの誇る日本国憲法第9条が生まれたのであります。

憲法9条には、「2度と戦争を起こしてはならない」という決意とともに、「核戦争を絶対に阻止したい」という願いが込められており、それを世界の人々に呼びかけたところに、この条文の世界史的な意義があるということを、私は訴えたいと思います。

 麻生・自公政権は、この平和の課題にどういう態度をとっているでしょうか。
この政権には、アメリカの前向きの「変化」は目に入りません。
中曽根外務大臣が、4月27日、オバマ演説を受けて、「ゼロヘの条件――世界的核軍縮のための『11の指標』」なる講演を行っています。ここでは、オバマ演説を「強く支持する」といいながら、米国には核兵器廃絶のための具体的努力を何1つ求めていません。世界によびかけた「11の指標」のなかにも核兵器廃絶という項目がありません。「ゼロヘの条件」というけれど、核兵器廃絶という点では“零点”をつけなければなりません。そしてこの講演では、「日米安全保障体制の下における核抑止力を含む拡大抑止が重要」と、米国の核戦力への依存を続ける態度を表明しています。米国大統領が、「核兵器のない世界」への協力を呼びかけているときに、米国の核戦力への依存を言う。被爆国の政府として恥ずかしい限りではありませんか。

他方、この政権は、アメリカが「変化」していない部分では、いいなり政治をつづけています。オバマ政権は、いまのところ日米関係では「変化」が見られません。米軍基地を強化・永久化し、自衛隊海外派兵を求めるという点では、「変化」が見られません。日本政府は、こういう問題に限っては忠実そのものです。

アフガニスタン戦争を支援するための自衛隊派兵を、何が何でもつづけています。そして、ソマリア沖に「海賊対策」として自衛隊の軍艦を派兵し、武器使用基準を緩和し、これまでともかくも「正当防衛」に限られていた武器使用を、「任務遂行」にも拡大しようとしています。米軍などが行っている銃撃戦や、「海賊」の殺害、船の撃沈を可能にする、本格的な武力行使への道を開こうとしています。戦後初めて「殺し、殺される」危険が目の前に迫っています。日本の軍隊は戦後1人も他国の国民を殺さずにきました。これは9条の偉大な力によるものであります。この歴史を守ろうではありませんか。憲法違反の海外派兵法を許すなの声を、ここでいっしょにあげようではありませんか。

自民、民主の両党から、集団的自衛権――海外での武力行使容認の合唱が起こり、憲法審査会を始動させて、憲法改定原案を作ろうという動きが起こっています。わが党は断固として反対であります。こうした逆流を許さず、憲法9条を守る、揺るぎない国民的多数派をつくろうではありませんか。

麻生・自公政権は、世界の平和の声に促されて起こったアメリカの前向きの「変化」は目に入らず、ついていけない。「変化」していない部分では異常ないいなり政治をつづけています。良いところにはついていけなくて、悪いところには追随する。哀れな姿ではありませんか。こんな政治に未来はないことは明らかではありませんか。

 みなさん。いま世界は大きく変わりつつあります。軍事力にモノを言わせて世界を支配する時代は終わりつつあります。どんな問題でも、外交的な話し合いで平和的に解決する、新しい時代が到来しつつあります。私は、日本国憲法第9条の出番の情勢だと訴えたいと思います。

この新しい情勢のもとで、憲法9条を守り生かすたたかいと、核兵器廃絶を求めるたたかいを、それぞれを大きく発展させながら、平和をつくる1つの大きな流れに合流させ、核兵器のない世界、そして戦争のない世界を築こうではありませんか。
ともにがんばりましょう。

このページのトップに戻る


第41回市民憲法講座(要旨)
税のありかたを憲法から考える

浦野広明さん(立正大学法学部教授・早稲田大学社会学部講師・税理士)

(編集部註)5月23日の講座で浦野さんが講演した内容を編集部の責任で集約したもの。要約の文責はすべて本誌編集部にあります。

法律の定めによって負う、納税の義務

みなさん、今晩は。憲法が税金の基本ですけれども、憲法の条文の中に税という漢字が出てくる条文がふたつあります。それがこの税金の問題を考える際の基本になります。

ひとつは憲法30条です。憲法30条は「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ」という規定になっています。ここで重要なことは、国民が法律の定めによって納税の義務を負うということです。この「国民」には個人と法人も含みます。

ではこの「法律の定め」をどこでつくるのかということで、次に税の漢字が出てくるのが憲法84条になるわけです。「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」、税金の法律の定めというのは国会でつくるというのが憲法84条です。いま消費税をはじめ庶民を大変苦しめる税金と、一方では大企業だとか資産家からあまり税金を取らない法律ができているわけですけれど、いずれもそれは国会で決まったことによってその制度が実施されています。

この「法律の定め」は一般的にどのようにしてできるのかを考えてみたいと思うんです。いまある税法の大半は年度改定というかたちで、毎年税金が新しくできたり、現行の税金が変わったりして決められたもので、99%くらいそういうもので日本の税法の体系ができあがっています。この年度改定というのは、一昨年くらいまでですと、毎年2月上旬に国会に上程されて3月下旬には無修正で成立するという流れでした。2カ月くらいの間国会で論議がなされる体裁をとって、無修正で流れるということです。ですから国会に出てからいくら「けしからん」といっても、これは間に合いません。無修正で成立するという流れは変わっていません。

この無修正で3月末、年度末に成立していたものが、昨年だけはちょっと変わった状況になりました。昨年の場合は、2007年の参議院選挙の結果がありましたのでそう簡単に衆議院、参議院で税法案が成立することは難しいだろうと、例年2月に国会に上程していたものを1週間早めて1月下旬に国会に上程しました。衆議院では2月29日に可決して参議院に送ったわけですけれども、参議院ではさすがに、昨年の場合も大企業の税金を大変まけるような中身があったものですから、そう簡単に議決するということにはなりませんでした。そこで憲法59条をつかって、4月下旬に参議院で否決したものと見なしてまた衆義院に戻して成立させたということで、第二次世界大戦後、日本で初めて3月末日までに成立しなかったのが昨年のことでした。]

このことは何を物語っているかというと、やはり参議院選挙で増税推進勢力である与党が敗れたとので、例年より1カ月くらい遅れて、しかし無修正で成立した。無修正で成立したのは、衆議院で成立して60日経ったら参議院で否決したものと見なして、また衆議院に送って3分の2の多数で議決すれば法案として成立するということで、いまだ衆議院では与党が3分の2以上を持っている状況があるわけです。そのことによって今年の場合も解散、解散と言われていても、当然税制法案を通さなければいけませんから解散はしないで、昨年は1カ月遅れでしたが今年は遅れないで年度内に税制改定法案が成立しました。それは民主党が議決することに賛成しましたので、参議院で否決し、また衆議院で可決することで年度内に成立しました。

ここで私たちが考えなければいけないのは、とにかく国会に出たらその税法案はいままでの流れですと無修正で成立するということです。しかし国会に出た法案がどんな中身のものなのかということは、ほとんどの人はその法案が成立してから1年、2年、3年経ってだんだん自分に痛みがきたときにわかるという状況なわけです。ですからこれからいまの政治状況が進んだ場合にどのような税制になっていくのかを考えた上で、法律を決める議会をどのようにするのかを考えていかなければ、いつまでたっても国民サイドの税制はできないことになります。

庶民増税と大企業減税の政府税調中期答申

ではこれからの税制はどのような方向に向かおうとしているのか、あるいはいままで向かってきたのか、ということを解明しなければいけないんですけれども、その解明する手だてはないわけではないんですが、なかなかる、内閣総理大臣が正式の委員20名程度を任命してつ難しいわけです。解明する手だては、国の審議会に税制調査会という審議会があります。内閣府に所属している、内閣総理大臣が正式の委員20名程度を任命してつくる政府税制調査会というものが存在するわけです。この政府税制調査会は今後の税制についていろいろと意見を発表しております。例えば答申というものもありますし、それ以外の考え方を述べるものもあります。ここに書かれていることがそのままの政治状況ですと実現していくというのがいままでの流れでした。

政府税制調査会の方々は税金の素人の集まりです、はっきり言えば。ですから税金のことを何も知らない人がなぜ膨大な税制に関する書類をつくれるのかということを考えなければいけません。毎年国会に出される税法案をつくっているところは財務省主税局という役所です。税法案は政府提案として提出されますので、結局財務省主税局が作文して国会に膨大な税法案を提出するんですけれども、政府税制調査会、素人の集まりの文書をとりまとめているのも、事務局が財務省主税局です。ですから政府税制調査会の各種文書は、税法案をつくっているところが発信しているもので、これがやがて法律として国会に出てくるということをつかまえなければいけないわけです。

政府税制調査会の委員の任期は3年です。3年ごとに出す一番重要な文書が「中期答申」といわれている文書です。これは「中期」となっていますが決して中間的なという意味ではなくて、中長期的な今後の税制についての答申です。最近では2000年7月14日に膨大な答申が出ました。それはA4版でほぼ400ページの長文のものでした。そしてそこに書いてあることがいままで8年、9年かかって法律になってきています。

もちろんその前からだったのですが、2000年の中期答申を見ればいまのような税制改悪がなされることは一目瞭然だったんですね。しかしその400ページの中期答申というのは一般の人が読んでもほとんど理解ができません。というのは財務省の頭のいい方がどうやって国民を煙に巻くかということでインチキな意見も述べておりますし、税金の法律というのはなかなか難しい表現になっていて一般の国民に理解されないような表現で書かれています。したがって税法の解釈は、例えば法律家、法曹と言われている裁判官だとか弁護士だとか検察官とか、みんなよくわからないというのが現状です。しかしそれを読み解いていかなければいけません。読んだ上でこれはどういうことを言っているのかということを、かなり省略したりもしていますから、過去の一連の文章も読んでいかないとどういうことを言っているのかということもわからないわけです。

とにかくその2000年7月の膨大な中期答申に続いて2003年にまた中期答申が出ているんです。流れからいくと2006年に中期答申が出なければいけなかったわけですけれども、これはいまだに出ておりません。なぜ出ていないかというと、その2006年には安倍さんが総理大臣になることが決まっておりましたので、庶民増税と大企業減税、資産家減税を謳ってきた政府税制調査会の中期答申が出たら痛い目にあうだろうと、安倍さんは内閣官房長官でしたから内閣府に所属する政府税制調査会をストップしてしまったんです。ですからいまだにそれが出ていないという、変な話です。そういうことでなるべく国民の目を背けさせようとして答申を出さなかったんだけれども、参議院選挙では安倍さんはうまくいかなかったというのが状況だと思います。

与党が決めた庶民大増税の税制改定

そこで今年は大変なことを国会で決めました。つまり、税法案は「平成」とつけていますので一応便宜的に、元号主義者ではありませんけれども、法案の名前で言いますと「平成21年度税制改定法案」は、ほかの法律もそうですけれども、法律というのは本則と附則から成り立っているんです。これがいずれも「法律の定め」なんです。「附則」は新聞記事などでは「付則」としているものもありますが、税法の条文としては「附則」となります。本則と附則から成っているんですけれども、今年はその附則の中で今後の大増税、庶民増税と大企業減税、お金持ち減税を決めたんです。つまり「法律の定め」で今後庶民大増税をすすめていくことを決めたので、もう決めたんだから既成事実として来年度以降、あるいは今年の国会で決めるかもしれませんけれども、その税制改定を行っていくことを法律で決めたんですね。

その附則では、まず「税制の抜本的な改革を行う」を言っています。平成23年度、もう2年を切ったわけですけれども、平成23年度までに「必要な法制上の措置を講ずる」、つまり法律を決めるんだ、そしてここではもちろん消費税を中心に抜本的改革を来年やるか、再来年にやるのか、いずれにしてもやると言っています。そして「個人所得課税について税制改定を行う」んだ、それから「法人についても税制改定を行う」、さらに「消費税」のことも言っている。「資産課税」というのは相続税だとか固定資産税です。こういうことについても庶民の部分を上げるんだ、「地方税」についても「地方消費税」を上げるんだというようなことを言っているんです。

これだけ聞いたって何のことかわからない。それでは具体的にどういうことを言っているかといいますと、政府税制調査会の「平成21年度税制改定に対する答申」というものが昨年の11月に出たんですけれども、これは非常に短い、4ページくらいのものだったんですね。中身がないということを言われた方もいますけれども、そうではなくてこの答申はいまから言えば一昨年の11月の税調答申を「堅持せよ」ということを言っているんです。その一昨年の答申が「2007年11月答申」です。

通常であれば、11月の答申は翌年の税制改定に関する答申になるのが普通ですけれども、この「2007年11月答申」に限っては「抜本的な税制改革に向けた基本的考え方」というタイトルの答申を出しました。なぜかというと、先ほど言いましたように2006年の中期答申を出さなかったわけですね。そのために年度答申になるべきものを、中期答申の代わりにするようなかたちで決めたんです。ですから今の段階で今後与党がすすめていこうとする税制改定は、この2007年11月の答申の中身になります。これを重視する必要があると思うんですね。それが具体的に読み解いていくとどういうことになるかということをお話ししたいと思います。

消費税導入で破壊された累進課税構造

個人所得課税の現状ですが、個人所得課税も税制の「負担能力に応じた税金」というあり方のもとでは、所得が少なければ低い税率、だんだん高くするという累進課税ということが大切なことです。けれども消費税導入以後この累進課税構造がどんどんどんどん狭められちゃったわけです。つまり所得の多い人は税率が低くなり、少ない人は高い負担を負わされるかたちになる。日本でも所得税の累進課税というのは19段階あったんです。10%から出発して75%まで、所得税だけですが。現在は5%から出発して40%です。ついこの間までは所得税の最高税率は37%でした。住民税を一律10%としたために、それとのバランスで現在は所得税の最高税率は40%となっています。

こういう応能負担原則、累進課税構造を破壊していながら税調の文章では「大多数の納税者に対して極めて低い水準で負担を求めるようになった」んだ、というごまかしを言っています。負担が少なくなったのは上の方の所得が多い人ですけれども、そのことを「大多数の納税者に対して極めて低い水準で負担を求めるようになった」、これを直さなければいけないということで、いま考えているのは最低税率の部分をもっと圧縮して、そしてもっと負担させようということです。

「税制は簡素でなければいけない」というもっともらしいことがよく言われるんですけれども、税率は簡素じゃいけないんです。税率自体はたくさんなければいけない。簡素にしたのは、2006年の税制改定で住民税、これは県民税や市町村民税、東京都の場合は都区民税など、をあわせて住民税といいますが、これが2006年の改悪までは5%、10%、13%という税率だったんです。それを1律10%にしちゃったんです。これは結局高額所得者は13%から10%に下がって、5%の部分に国民の納税者のうち6割が所属していましたから6割の人は倍になったわけです。

これは消費税の導入とともに、この住民税という所得にかける税率を「フラット化」という名前のもとで行ったんです。一律、ひとつの税率にしたというのは、私は第二次大戦後の二大改悪、消費税増税とこれが二大改悪だと位置づけています。やがて所得税もそういうふうにしていこうというのが政府の腹なんです。税率については簡素というのは10%だったら簡素なのは当たり前ですけれども、こういう簡素はダメなんです。

私は東京新聞で税率は100あってもいいとコメントしたことがありますが、100あっても別に難しいことはないんです。自分の所得が出て、税額表を見て何%かを見ればいいだけの話ですから。それから今給与所得者とかいろんな方の所得計算はコンピュータでやる時代ですから、別にたくさん税率があっても構わないんですね。だから税率の簡素化は悪政ということになりますから、それはダメです。

簡素にしなければいけないのは、実は大企業だとか大金持ちを優遇している税制、租税特別措置法の中にほとんど規定されているわけです。この租税特別措置法というのは、もちろんインターネットでも読めますから読んでいただければと思いますが、読んで理解できる人はいないと思います。こういうものは、ほとんどは一部の法人を含めた人の税金を払わなくてもいいという規定になっていますから、こういうものを簡素にする、やめてしまうということが一番重要なことなんです、本来の「簡素」ということで言えば。

世帯構成と控除・税負担のあり方

次は世帯構成と税負担のあり方ということですが、所得税というのは所得を計算して、事業所得者であれば収入金額から必要経費を引いて事業所得の金額を出して、そこから扶養控除や配偶者控除を引いて課税の対象になる課税所得を出します。給与所得者であれば給与所得の金額は年収から所得税法で決められた控除額を引いて給与所得の金額を計算して、それから所得控除額を引いて課税所得を出すということになっています。その所得控除額の中で課税最大限を構成している扶養控除だとか配偶者控除をやめちゃおうということを言っています。

所得計算の方法は、例えば給与所得控除。給与の所得は年収から給与所得控除額を引いて給与所得の金額を計算します。よく103万円でパートをやめるといますが、これも給与所得控除額と関連しています。年収が103万円の場合では給与所得控除額は65万円で、これを引くと38万円となりますね。本人の所得が38万円の場合に所得税の基礎控除が38万円になっていますので、給与所得の金額38万円から控除が、基礎控除だけだったとしても、課税所得はゼロになるから本人に税金はかからないんです。

もうひとつは例えば子どもがアルバイトをして扶養控除を親が受ける場合には所得が38万円以下という制限があります。本人もかからないし親あるいは夫の控除対象、配偶者、扶養家族になる場合は所得が38万円以下ということで、103万円で年間のパートなどをやめるということがあります。この場合の給与所得控除額は103万円に対して65万円ですから6割以上が給与所得控除額になっています。それから年収が500万円の人の場合、給与所得控除額は154万円で、ほぼ3割が給与所得控除額になります。

この給与所得控除額を激減させようというのが政府の考えです。先ほど言いましたように、この給与所得控除額については膨大な400ページの2000年中期答申では「主要国で給与所得者に認められている勤務費用に相当する支出を含め、給与所得者の必要経費でないかと言われるものを拾い出してみると、その金額は平均で年間50万円程度になり、年間収入(674万円)の1割程度という試算がえられる」。ですから政府税調の考え方は例えば年収500万円だったら30%、103万円だったら60%くらいある給与所得控除額を、1割あるいは50万円くらいに抑えちゃうということです。

給与所得者は毎月税金を源泉徴収されて年末には給与の支払者が年末調整で税の精算をしますから、税に対してあまり反乱ができない、眠らされているというのが現状ですね。給与所得者なんて何をやったって騒がないだろうというのがこの答申が言っていることです。500万円の年収、あるいは103万円の年収の人が給与の1割しか給与所得控除額が認められないとなったら103万円の人だって80万円、90万円の所得で、扶養家族にもなれないし、本人も税金を払う。500万円の人が今だったら350万円くらいが給与所得控除の金額だけれども、それが50万円、それに連動して所得税、住民税、健康保険等がかかってくるわけです。とんでもない増税をやっていくということです。

給与所得者だけではなくて、個人事業者の所得は収入金額から必要経費を引いて所得計算をするわけです。けれどもこの税調が言っているのは。零細な事業者についてはもう必要経費を認めないということです。必要経費を認めないということは、売り上げの何%が所得だとすることなんですね。

農業所得、退職金、年金の控除も削減

例えば現在農業をやっている方は専業でやっている方が8%くらいですから、あとの方はみんな兼業というかたちで不動産所得だとか働きに出て農業をやっているわけですね。その零細な農業の場合には、赤字が多いので現行では他の所得から引いて、「損益通算」というんですが、それで申告している人が多いです。けれども、この零細な事業については必要経費を認めない、売り上げの何%が所得だとされたら絶対に赤字にならないわけです。費用を見ないわけです。そういうことを零細な事業者にやろうとしています。

それから給与所得者で一定の年月を勤めて退職金が支給される場合があるわけですけれど、これも今の社会状況のように退職金どころか正規雇用もされないような状況だから、退職金についてもたくさん税金を取ろうといっています。

退職後、年金を受給する。年金の所得は現行では雑所得に区分されています。かつては給与所得でした。年金の雑所得の金額は、年金の年収から雑所得の控除、公的年金等控除というんですけれども、それがあって、年齢65歳未満の場合は最低70万円から出発します。65歳以上になると最低120万円から出発します。収入に応じて増えていくんです。この65歳以上の120万円というのは、やはり5年くらい前の税制改定で140万円から120万円にすでに削られているんです。いずれにしても現在は年収から公的年金等控除を引いて雑所得の金額を計算することになっています。

今でも国民年金の受給者の方は非常に少ない年金額です。月に3万円、4万円、5万円の年金の方がずいぶんいます。仮に月に5万円もらっていて年間60万円の雑所得があったとしたら、現在は年齢65歳未満でも控除額は最低70万円からですから、60万円の場合は所得ゼロになりますね。しかしこの所得ゼロの国民年金受給者であっても、すでに税金を1割以上取られているのは介護保険料という税金です。税金と呼んでいませんけれども、これは税金なんですね。1割以上取られています。

政府税制調査会は年金についてどう言っているかというと、「公的年金等控除については、社会保険料控除がある以上、本来不要と考えられる」。つまりこの年金のもとになるような国民年金という税金あるいは厚生年金という税金を払ったときは、所得税の計算をするときに社会保険料控除という所得控除になっているんですけれども、そんなことは当たり前なんです。それを逆手に取って、払ったときに控除を受けているから、もらったときは、公的年金控除をなくしてしまえばいいんだと言っているんです。わずか月5万円で年間60万円の年金をもらっている人も控除ゼロになったら、所得60万円ですよ。扶養家族にもなれないし、本人は1割以上の介護保険料という税金を取られているんですが、さらに所得税、住民税等が加算されることになるわけです。

ですから給与所得者の場合も大変、あるいは派遣労働者も大変ですし、請負者にされているような労働者についても必要経費を認めないということがなされるでしょう。やっと年金をもらえたとしても今度は年金控除ゼロという攻撃も考えられているわけです。これだけ聞いてもとんでもない、つまり「消費税が上がる、大変だ」ということは言われていても、消費税だけじゃないんです。 いままでも住民税一律10%ということをやった。老年者控除で65歳以上になれば所得税の所得控除、老年者控除50万円があったんですけれども、これも廃止してしまった。これはもともと金持ち、年間所得が1千万円の場合は老年者控除なんて適用されなかったんです。だから廃止になったって金持ちの人は何ら関係ないということになるわけですね。これが所得課税を上げていくということです。

個人住民税の大改悪――均等割アップ

個人住民税については、一律10%という大改悪をしました。これを例えば一律12%にしたら金持ちも上がってしまう、庶民からは取れるかもしれないけれども、これじゃあやっぱりまずいということで、今度は均等割を上げるというんです。住民税は所得にかかるもの以外に頭割りでかける均等割があります。年間4000円です。これを1万円にしちゃうということです。そうすればこれは均等ですから所得に関わりなくとられます。イギリスに「人頭税」というのがありましたけれども、そういうものですね。これは共働きの場合の同一家計では、例えば夫が均等割を払っていれば妻にはかかっていなかったんです、何年か前までは。今度は妻からも取ることにして、均等割を上げると言っています。

法人への課税はさらなる引き下げ

法人課税とは何かと言いますと、法人というと株式会社が一番多いと思いますが、この株式会社にも所得に税金がかかります。株式会社にもうけが出た場合にかかる税金は、まず法人税、これは国税です。それから地方税の法人住民税、それからこれも地方税の法人事業税、この3つがかかります。税調はどう言っているかというと、「法人実効税率のさらなる引き下げが求められている」ということなんです。

税金の場合だけではありませんけれども、悪いことをやる場合に使われるのはひとつはカタカナです。先ほどの住民税一律10%の場合には「フラット化」といわれました。「フラット化は世界の流れだ」とか言って煙に巻くわけです。日本語で使う場合には法人の国税、地方税を下げるために言うのが「実効税率の引き下げ」です。実効税率なんて言われても理解できないんですけれども。

法人が負担する税金のうち、事業税というのは法人の費用になるということですね。その費用になることを見越して法人税と法人住民税、法人事業税の3税を合わせて普通に払ったらいくらになるかということを実効税率といっています。現在ほぼ40%ということになっています。これが高すぎるからもっと下げようと言っているわけです。この下げろというのは中小企業が言うのであればまだわかるんです。というのは、今年は中小企業の800万円までのもうけについては下げましたけれども、いま決算をやっているような場合には、中小企業については800万円までの課税については22%です。800万円を越えると30%になるんです。つまり法人税は基本的には30%の一律税率なんです。

中小企業はほとんど赤字ですから、法人税も払えない状況ですけれども、仮に中小企業でがんばって所得が出たという場合については、私が言っているのは今のように一律30%ではなくて5%くらいから出発して10段階くらい、最高45%くらいまでの法人税率にするべきだ、それが累進課税ということです。ですから中小企業がやっとの思いで仮に所得が出ている場合に下げろというのだったら理があるんですけれども、下げろと言っているのは大企業なんですね。例えば最近の発表を見ると、大銀行の税負担が40%かかると言われているのに、ほとんど払っていないんです。

これは法人税も所得税と同じで1年間を課税単位にして税金計算をするんですけれど、昔の損、不良債権処理をしたようなものを引いてくれる制度があって、それで税金を全然払っていない状況があります。それから大きな法人でも40%といわれているんですけれども商社などは10%前後しか払っていないという数字も出ているんです。それはいろいろな租税特別措置があって、そういう仕組みが法律でできてしまっているためにそういうことになっているんですね。ですから表面的な中小企業がもうけた場合にこれくらい取られるというものを、大企業はいろんな減税措置があってそんなに取られていないんだけれどももっと下げろと言っているわけです。

消費税と連動する地方消費税率

消費税については、「地方消費税を充実する」ことを法律の中でも決めて、消費税も上げると言っていますが、この地方消費税の充実ということを説明すると今の増税の方向がだいたい見えてきます。消費税は1989年4月1日から実施されたんです。このときの税率は3%、そして法律の名前は消費税法でした。それから9年ほど経って消費税率が上げられました。このときは、国税である消費税が3%から4%になったんです。今も4%です。そして新しく地方消費税というものをつくった。地方税としての消費税――地方消費税。これが結果的に1%ですけれど、法律としては国税の100分の25を負担せよという規定になっています。ですから4%×25/100=1%、あわせて5%が消費税と地方消費税の税率です、正確に言うと。

この地方消費税は、国税を上げると自動的に25%の地方消費税が連動してくるという、税金を取るためには非常に便利なものをつくったわけです。今、地方消費税の充実ということでは、例えば2006年でしたか東京都の税制調査会の会長は政府税制調査会の会長代理のような立場の神野直彦さんという東京大学経済学部教授ですけれども、この方が東京都税制調査会として答申したのが地方消費税を2.5%にせよ、ということでした。2.5%にするためには100分の25のままだとしたら、消費税を10%にしたときに地方消費税が2.5%になりますね。あわせて12.5%です。あるいは4%のままだとしたらこの100分の25を100分の62.5としたときに2.5%になるわけです。

今後の流れとしてはこの100分の25をもっと増やす、例えば100分の50にして消費税を10%にすれば、あわせて15%になる。いずれにしても二桁のことを考えているわけです。今年の税制改定法案の附則では、こういうことを決めました。これからの、解散しない国会でまさか税制改定法案を決めるとは思われませんけれども、しかし補正予算みたいなもので新規の国債を大量に発行していますからそういうものを庶民増税でまかなうとすれば、すでにそういう口火を切ったとも言えるかもしれません。いずれにしても国会の中でこういうことが決められていくかいかないかということは、やはり当面の衆議院選挙ということになるんだろうと思います。

さらに言っておかなければいけないのは、相続税についてです。今相続税を払っている方は100人の方が亡くなったとして4%くらいの遺族の方です。それは別に悪いことではなくて、なぜ4%で済んでいるかというと都心部の場合は土地が非常に高いわけですね。道路に値段がついています。国税庁がつけるんですが、路線価といいます。この本郷通りなどでは路線価が1㎡あたり80万円とかついていると思うんですが、そうしますと30坪くらいの自宅があって100㎡だとしても8000万円という値段がつくわけです。それが現在は小規模宅地の評価減という制度があって最高8割引きです。それに基礎控除があって、例えば夫が亡くなって妻と子ども二人という場合には基礎控除が8000万円です。これに救われたかたちで4%の方々が税負担を負うことになっています。政府税制調査会は負担水準をこのまま放置するんじゃなくて、ほとんどの人に払ってもらおうという作戦をとっています。

税金の取り方は応能負担が原則

それでは税金の取り方はどうあるべきか。先ほど説明もしないで言いましたけれども、応能負担原則というもの、日本国憲法からいけばこれしかありません。この場合の租税というのは国税、地方税、それから社会保険料といわれている目的税、これらすべてが応能負担原則に基づいて払うことにしなければいけない、取るようにしなければいけないということです。その根拠としては日本国憲法の、主に13条、14条、25条、29条です。

法の下の平等というのは負担能力に応じて税金は払うものだと考えるわけです。例えば所得税について言えば、所得を漏れなく集めて低い所得から高い所得にだんだん税率を上げていく累進課税構造をとる。それから所得の量だけではなくて質の面も見るということで勤労所得については軽く、非勤労所得については重くという考え方になります。それから応能負担原則は最低生活に課税しない、生存権的財産、先ほど言った固定資産税とか相続税、小規模な事業に使っているものは生存権的財産ですから課税しないとか、そういうことが応能負担原則ということになります。

このことで消費税を考えると、ペットボトルのお茶が100円だとして5円の消費税が入っている、そうすると収入が月5万円の年金者が飲んでも5円、100万円の所得がある人が飲んでも5円です。分母に所得を持ってきて分子に払った消費税を入れて割り算をすると低所得者ほど高い負担になるわけですから、消費税の場合は応能負担原則に反する憲法違反の税金ということが言えます。所得課税が非勤労所得については重くという応能負担原則の考えが一番ひどいのは、株の売買益あるいは株の配当益です。これが現在は何十億のもうけがあっても、住民税3%、今は住民税は一般の人は最低も最高も10%ですけれども、その3分の1以下です。そして所得税が7%、あわせて10%です。

日本で一番配当が多いのはシアトル・マリナーズのオーナーの山内さんという方が年間100億円の配当です。100億円もらって1割の負担、90億円は手元に残るということです。ホリエモンの保釈金が何億円なんていったって1割しか税金を取られていないわけですから、何百億、何十億というぼろもうけしたお金は残っているわけですね。それが応能負担原則からいってどうなのか。例えばかつてあった19段階の所得税、住民税も13段階あったときのように総合課税にして、そして山内さんの100億円の税金を仮に8割取れたとしたら、今は1割で済んでいるわけですから70億円の減税になっているわけです。じゃあ100億円もらって80億円の税金を負担したら生活が成り立たないかといったってまだ20億円残るわけですよね。応能負担原則というのは負担能力に応じて取るものですから、能力を超えて取るものではないんです。

それから累進課税構造というのも今は超過累進課税構造というものを採用していますからいくらまでは何%、いくらまでは何%と積み上げていくんです。最初から高い税率を取るわけじゃないんですね。ですから累進課税にしていくということが重要なんです。

税金の使い方――すべての税金が「福祉社会保障目的税」

税金の使い方ですが、憲法でいくと結局憲法が予定しているような方向に税金は使うんだということになるわけです。先ほどは税という漢字が出てくるのは2つの条文だと言いました。憲法を最初から読んでいくと前文では平和的生存権が謳われていて、9条では戦争放棄の規定があって25条では国民の生存する権利と、その国民の権利を国は保証する義務があるという規定になっていて、結局、日本国憲法は平和、福祉を規定しているということになります。そうしますと、日本国憲法から考えるとすべての税金が「福祉社会保障目的税」だということです。「すべての税金が」というところが重要なんですね。

今、消費税を上げるために社会保障目的税にすればいいと言われています。この社会保障目的税の誤りは負担能力に応じない消費税をさらに上げるということと、すべての税金が福祉社会目的税であるのに、消費税だけに限定してそこでしか社会保障の費用を使わないということです。税金の使い方の面でも憲法に反することになります。それは、社会保障費が増えれば消費税でまかなう、そうなれば消費税をまた上げるという悪循環になっていくわけです。

消費税の本当の目的はどこにあるのかというと、トヨタ自動車に恨みがあるわけではありませんが、トヨタ自動車は消費税を導入する前から入れろ、入れろと一番熱心に言っていた会社で、入れてからは上げろ、上げろと言ってきました。現在、トヨタ自動車は消費税を1円も払っていないどころか月に250億円以上還付を受けています。消費税の税金計算は、課税売り上げに5%をかけて、そして事業をやって支出した、消費税がかかっている支出に5%をかけて、その差額を納めるという仕組みになっています。

ところが消費税法7条を見ると、輸出した売り上げには消費税をかけない――0%をかけると書いてあります。その結果、2007年で見ると、トヨタ自動車の総売上が12兆793億円、そのうち輸出が8兆5279億円、国内が3兆5513億円、課税仕入れという消費税がかかっている支払いですけれども、これが9兆9990億円、12兆円の売り上げに対して10兆円ある。消費税がかからない費用というのは、人件費、正規雇用者への人件費です。ですからトヨタ自動車は正規雇用者への人件費がないということです。みんな下請け、外注、子会社になっている。輸出についてはいくらあっても0%ですから0円。国内販売、3兆5513億円×5%で1776億円、支払った消費税が9兆9990億円×5%で4995億円、差し引き3219億円が還付になるということです。

すでに消費税率を上げたときに申告回数も大きい会社は年12回にしました。それを今後小さな会社にも年12回にしています。滞納が非常に多い、払えないから。毎月にすれば取れるだろうということで。だけどもうひとつ、トヨタは毎月還付されるということです。3200億円ですから毎月250億円ずつ振り込まれてくる。10%になればこれが6000億円、15%になれば1兆円の還付を受けるということです。こういうことはほとんど知らされていないですね。

かつて私を取材した大きな新聞社の署名記事を書いた記者がこのことに触れました。その後二度と筆を持つことができなくなった。病気になったわけではなくて、事務職に転勤させられました。私が週刊金曜日にこのことを書いたときも投書の山です。よく言ってくれたという投書はゼロですね。財界からあいつの言っていることはインチキだというような投書がたくさん来るわけです。そうすると私が変わったことを言っているのかということで編集者の動揺を狙っているんでしょうが、もちろんそんなことで動揺はしませんけれども、そういうことなんですね。

リストラと消費税

リストラと消費税ということですが、外注だとか子会社に払うとその分5%引けますから正規雇用者は減っていくことが消費税の宿命です。かつて株式会社の場合は最低資本金が1000万円でしたから、1000万円の資本金の場合は最初の年から消費税がかかっていたんです。ところが会社法という新しい法律ができて株式会社は資本金1円でもできることになった。巨大企業は、例えば資本金500万円で株式会社をつくってそこに仕事をやらせる。そうしますとそこに払ったものは消費税の引ける対象になる。

それからもらった側は普通だったら消費税がかかるはずだけれども、資本金が500万円だと2年前の売り上げが、1000万円が免税点とよく言われますが、2年前の売り上げが1000万円までだったら2年後の消費税はかからないのが今の消費税法です。だから大企業はこぞって資本金500万円くらいの子会社を、会社の中にたくさん会社をつくって、消費税を払わないようにしている。払わないどころか、子会社、外注に出したものは5%引くということです。それでトヨタ自動車のようなことになっていくんです。

租税の根拠は法律の定めによってということですが、トヨタ自動車についていえば法律の定めによって還付を受けているわけです。私たちは応能負担原則だとかすべての税金は福祉社会保障目的税だということを、憲法を盾に言うことは出来るけれども、現実にそういう制度にしていくのはそういう法律の定めを改正していかなければ実現しないわけです。

「法律の定めによって納税の義務を負う」ということは、フランス革命のことを市民革命とも言いますけれども、市民革命の結果勝ち取られた制度です。つまり市民革命前、いまから220年前のフランスは封建制でしたから国王が勝手に税金を取っていたのを1789年のフランス革命でこの憲法30条、84条のような人権宣言をつくったんです。これを輸入していまの日本国憲法の規定の中にもあるわけです。つまり法律の定めをどうするのかということが一番重要なことであって少なくとも今の制度、議会で法律の定めをつくるという制度は当面変わらない、これ以上のものはないということになるんでしょうから、そこをいじっていかなければいけないということだと思います。

消費税を社会保障目的税というのはうそだ、それから応能負担原則の税制をどうすればいいのかということですが、消費税が導入された翌年、1990年の国税の主だったものは、所得税26兆円、法人税18兆4000億円、消費税(3%)5兆8000億円でした。2009年、今年の政府予算では所得税が15兆5720億円、法人税は10兆5440億円、あわせて18兆2840億円で約20兆円の減収です。消費税(5%)だけは12兆6652億円で2%増えても倍以上になっています。

これはよく言われていますけれども、所得税、法人税の減少は大金持ちと法人の税率の引き下げです。それが毎年20兆円近くの所得税、法人税の減税につながってきているということですね。そして負担能力に応じた、かつてあった制度に緩やかに戻した場合にどうなるのかということを、「不公平な税制をただす会」というところが計算しています。最近の版では国税、地方税で20兆円くらいの財源があるといっています。

消費税率5%でも国税収入に占める割合は高水準

それから5%の消費税が外国に比べて低いのではないかということも言われていますけれども、低くありません。国税収入に占める消費税の割合を各国と比べると日本は5%だけれども24.6%、イギリスは消費税17.5%、昨年の12月から15.5%にしましたけれども、割合は23.7%です。こういうふうに見ても日本は世界最高水準にあります。日本とイギリスの品目別消費税率を比べてみると、食料品等について日本はすべて5%を取りますけれども、イギリスは0%。全部にかけてしまう消費税ですから日本はいまでも世界最高水準です。税率が高いという国でも生活関連費については非課税にしているところが多いわけですね。そういうことを全然やっていないのが日本です。

国債費の重荷で福祉や地方財源が減少

ことしの一般会計の当初予算は、規模では史上最高の88兆5480億円、歳入は税収が46兆1030億円、新しい借金の新規国債が33兆2940億円です。歳出を見ますと国債費が20兆2437億円、元金が10兆円くらいで利息が10兆円くらいといわれていますから、結局元金10兆円払って新規が33兆円、補正予算でもっと増やしましたけれども一般会計でいっても23兆円くらいの新しい借金が生まれる。この借金が生まれることによって国債費がどんどん増えていきますので、地方に国税の中でまわすもの、それが地方交付税ですが、それを減らす。これは小泉内閣が三位一体改革なんてわけのからないことでやり始めたんです。そして一般歳出も軍事費は減らしません。5兆円くらい、税収の10%以上が軍事費に消えるわけです。一般歳出のうち福祉をどんどん削っていくので、この借金財政の結果、国債費が多くなることが福祉カットにつながってくる、地方の財源が少なくなることにつながっていくわけです。

それから税金を上げたら外国に逃げるということもデタラメです。政府が実施した調査でも、外国に行くのは税負担ではなくて労働コストが安いからだということを言っています。法人実効税率についても商社、40%以上払っているはずのものが、8.1%だとか9.3%です。

このからくりをひとつだけいいます。いま多国籍企業化して、日本の大企業は世界中に進出しています。海外に支店を置くとその国の税金がかかる。その場合、日本の税金から引くのを「外国税額控除」といいます。この外国税額控除には、いわゆる産業後進国といわれる東南アジアを中心に、企業を誘致するために税金を取らない、あるいは取っても普通の税金より安くする国がたくさんあります。その取られなかったり、安くしてもらった税金をまともに払ったらいくらになるかを計算して引いてくれるのを「みなし外国税額控除」といいます。その結果、三菱商事は本当は40%なのに8.1%だとか、三井物産は9.3%だとかという数字になっています。さらに大企業の社会保障負担も税金です。そういうものも含めると資本国主義国の中でも低いということになっています。

こういう悪税制ができてくる元は、やはり日本経団連の政党評価基準です。これは毎年、政党評価基準の優先政策事項を決めて、例えば消費税を上げるとか、憲法9条を改悪するとか、そういう政策に賛成した場合に政党に献金をあげるということです。日本の政党は日本共産党だけ例外ですけれども、他の政党は国からの政党助成交付金、1年に国民ひとり250円を払うことになっているものと、企業献金で成り立っています。この政党評価基準、今は自民党が一番もらっていますけれど、こぞってここに賛成することで献金を増やそうとしている問題があります。だからお金をもらっていてスポンサーの意向に反するような税制をつくることは難しいことになると思います。

08年度については年度内に税制改定法案が未成立だったと先ほど申しました。これは第二次世界大戦後初めてのことで、参議院選挙結果のプラスの点だと思います。しかし衆議院では2005年の郵政選挙の結果、与党が得た3分の2以上の議席があるので何でもできる。特に今年の税制改正、附則の大改悪の法案を出してきたということですね。

税金の取り方、使い方に憲法を活かそう

最後に、憲法の前文には国政の存在理由ということで「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基づくものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」と書いてあるわけです。

つまりわれわれが本来信託しているのは憲法に基づいた税金の取り方、応能負担原則と、それからすべての税金が福祉社会保障に使われるということのはずです。しかし税制の方向がそうなっていないのは、やはり議会が憲法を軽んじている。もっと言えばその議会をつくる選挙民の行動自体も税金のことをあまり知らされていないために税金の取り方、使い方は政治のやることだという感覚があまりないといえるかと思います。

軍事の増大は福祉の切り捨てにつながるわけで、第二次世界大戦末期を見ても税金を全部投入しても軍事費が足りなくて国債を発行し、こぞって国民が買わされて、戦後になったらインフレで紙切れになっちゃったということは歴史が示すところです。ですから憲法を活かすというかたちで税金のこともぜひ考えて頂きたいと思います。

このページのトップに戻る


「私と憲法」で~す。お話し聞かせてくださ~い。
「いのちの山河~日本の青空Ⅱ」製作委員長・小室晧充(こむろてるみつ)さんに聞く

‘映画の力’で平和憲法を生かそう

監督:大澤豊 企画・製作:小室晧充
主要キャスト:長谷川初範(深澤晟雄) とよた真帆(妻・ミキ) 加藤剛(父・深澤晟訓) 
大鶴義丹(太田祖電) 宍戸開(佐々木吉男) 小林綾子(中野美代子)

現在の日本国憲法誕生に民間の立場から貢献した「憲法研究会」。これを題材にした映画「日本の青空」は、改憲を強める動きに対して憲法の出生を広く明らかにし、改憲に反対する取り組みに格好の材料を与えてくれた。

日本の青空」につづく平和憲法シリーズ第2弾の映画が近く完成する。1961年に老人・乳児医療無料化を行った岩手県沢内村を舞台にした「いのちの山河~日本の青空Ⅱ」で、憲法25条がテーマになる。前作のプロデュースも行った製作委員長の小室晧充さんにお話をうかがった。

憲法を映画に――「日本の青空」

小室さんはこれまでも「映画を通して何か考えてもらったらいいな」という映画作りを重ね、たくさんの作品を送り出している。憲法を変えようという動きが目立つようになり、小室さんは憲法を映画にしようとした。しかし映画という芸術、一方の憲法は堅い法律で、なかなか結びつかない。しかも憲法を題材にした原作が見つからなかった。

5~6年前から憲法での切り口を探り、小室さんは悩んでいたが、9条に一番こだわっていた。当時はマスコミや新聞のアンケートでも何となく「押しつけられたから、変えた方がいい」くらいのことでの答えが一般には多く見受けられた。国会図書館はじめ方々で資料を探した。「憲法研究会」を軸にして1年ほどかけてシナリオを作り、さらに1年かけて「日本の青空」は完成した。

多くの国民に優しくしっかりと説得する

映画人は欲張りなんですね。100万人に見てもらいたいと思ったんですよ。でも全国で800カ所、50万人に見てもらえました」。観客数について品川正治さん(経済同友会終身幹事)が「自分も年間100回ぐらい講演しているが、聞いてもらえるのはあわせても3万人ぐらいです。それに比べれば50万人とはすごいことだよ」と小室さんに話している。別の人からは、「50万人が見たと言うことは500万人に影響を与えたことだ」と言われた。「映画の持つ力はすごい」と周りの人たちが言ってくれるようになり、憲法改正に反対する大きな力になったかなと「少しずつ自身がわいてきている」ようだ。

映画を見た人から『劇映画なので講演や論文より説得力がある』という手紙ももらいました」。確かに「憲法改正に反対とはっきりしている人には見てもらわなくてもいい」のであって、「多くの国民に見てもらえるのが映画の特徴」だからと小室さんは静かに語る。講演会は、良い話を聞いても次の日には忘れてしまったりするし、必ずしも多くの民衆に分かり易いとはいえない。小さな子どもでも年配者でも「日本の憲法は日本人が書いたものが原点かな」とわかってもらい、「そういう印象をずうっと持ってもらえる」映画の力に小室さんは賭けてつづけている。

自主製作――資金づくりの過程が力に

「映画作りにはお金がかかります」。だいたい今度の作品も2億円かかるそうで、「日本の青空」もまだ赤字だという。憲法を題材にした映画には文化庁などの助成も難しい。小室さんは何十年ぶりかに「日本の青空」で自主製作運動にとりくんだ。映画の製作に当たり、市民に先に協力券を出してもらい資金を集める方法だ。1口10万円の単位で製作協力券(1000円×100枚)を買ってもらう。「製作協力券」は製作支援を目的にした券で、映画が完成するまでの期間に発売・普及し、完成後は全国どこの上映会でも鑑賞できる。

各地の説明会では「途中で資金が集まらなくなったらどうするのか」という質問も出た。こうした質問に「資金を集めるのは自分たちの問題だ」「これが集まらなかったら憲法は守れない」など会場からの声があがった。小室さんは「みんなの話し合いの中で力をもらい激励され、頑張らねば」と思った。

生きること、25条としての権利がある

「一昨年の暮れぐらいから次の企画として憲法25条に決めていました。そうこうしているうちに後期高齢者の問題が出ました」。後期高齢者問題の学習会に出ると、どこでも「沢内村」が話題になっていた。シナリオの準備を始めていたら、日に日に貧困問題、福祉切り捨てが真正面からでてきた。

昨年は反応がまだまだだったが、日比谷公園の派遣村などもあり、今年になって憲法25条は急速に関心が高まっている。「いまではインディーズは先見の明があると言われます」。映画では、憲法25条に基づいた社会なら医療や社会福祉がどうあるべきか、という視点で取り組んで、議論が巻き起こるように期待している。いま公立病院の閉鎖や医師不足も本当に深刻で、各地域ではこうした課題に関連した多くの市民の団体が出来ている実情も伝わってくる。こうしたところからもすでに協力券の申し出がきている。

包括医療(予防、医療、福祉)を実現した沢内村

「いのちの山河」の主人公は、村の村長として行政を率いた深澤晟雄(ふかさわまさお)さんだ。小室さんは「個人を英雄化するな、という声もあるが、ドラマには主人公がいなければ」と言う。小室さんは深澤さんが、憲法25条を頭に置いていたかがポイントだと考え調査してきた。戦後すぐのころに沢内村でも青年会の運動が盛んだった。この活動のリーダーの一人だった深澤さんは、青年会の学習会で憲法を講義していた。深澤さんは東北大学で法文学部を卒業し、村の人の命を守ることが行政の一番の目的だと考えていたことがわかった。このことは映画には登場しないが、深澤さんと憲法25条のつながりを小室さんは確信している。

1962年に策定された沢内村の包括医療の目的と目標には、「誰でも(どんな貧乏人でも)、いつでも(24時間365日生涯にわたって)、最高の包括医療サービスと、文化的な健康生活の保障を享受することが必要」と記してある。

9月完成、製作協力者を募集中!

沢内村は豪雪と病気と貧困との闘いだった。そこを題材にした映画に豪雪は欠かせない。今年2月に行われた撮影で、予定していた資金がオーバーした。自主製作の映画だから資金を再構築し、この7月から最後の撮影に入り、完成は9月になる。製作協力者の募集は2009年8月までになっている。

最近1口の製作協力券を応募した女性がいる。彼女は一人で100枚の券を引き受けた。この券を売ることでいろいろな人と憲法の話しをして行き、映画を上映したときに九条の会を出発させたいと思っているのだという。

“まもろう!9条 いかせ!25条”という「いのちの山河」の完成が待ち望まれる。

このページのトップに戻る
「私と憲法」のトップページに戻る