福田内閣は安倍前内閣が失敗して当面困難になった9条の明文改憲による集団的自衛権の行使にかわって、当初めざした今169通常国会での「自衛隊海外派兵恒久法案」上程に失敗し、さらに秋の170臨時国会中にも間に合いそうにもなくなった。その結果、自衛隊海外派兵恒久法については、2009年1月からの第171通常国会上程をめざし、与党プロジェクト・チームは今秋の臨時国会中にも法案要綱をまとめようとしている。この穴埋めとして福田内閣は今年年頭に再議決で強行した派兵給油新法(新テロ特措法)の延長を企てている。もしも野党が多数の参議院で否決されれば、再度、衆議院で再議決をして強行突破する構えであるという。そのための福田内閣の対策は、異例の8月下旬からの臨時国会の召集と、アフガニスタンでのISAF(国際治安支援部隊International Security Assistance Force)への陸上自衛隊の派兵もあわせて検討する構えも示している。
ISAF派兵を検討するのは、この問題で昨年雑誌『世界』の11月号で民主党小沢代表が「今こそ国際安全保障の確立を」と言う論文を発表し、ISAF派兵合憲論を展開したことから、野党の足並みを乱して新テロ特措法の強行に有利な局面を作り出そうとしているからである。福田内閣にとっての難問は、
という問題が生じていることである。自衛隊のアフガン、イラク派兵問題は政府与党にとって抜き差しならない問題になりつつある。
08年2月にも立ち上げるはずであった与党派兵恒久法プロジェクトチームの発足が遅れに遅れて、5月から始まった。しかし、当初めざした通常国会中の法案要綱策定に至らず、20日、「与党・国際平和協力の一般法に関するPT中間報告」をまとめてお茶を濁すことになった。防衛庁の疑獄事件やイージス艦あたごの漁船衝突事件などで防衛省・自衛隊の印象が悪化している下で、派兵恒久法の議論などには入れないという公明党の動揺がそうさせてきたのである。
福田内閣はやむをえず、自衛隊海外派兵恒久法の臨時国会での成立を断念した形であるが、当面、公明党と連立を組む自民党にとっては、安倍政権がめざしたような集団的自衛権の歴代内閣の解釈の変更は断念せざるを得ず、明文改憲も先の課題となるならば、この派兵恒久法しか道は残されていない。
「与党・国際平和協力の一般法に関するプロジェクト・チーム」は山崎拓・自民党外交防衛委員長を座長に10名で構成されている。自民党側は、衆議院から山崎拓、中谷元、浜田靖一、岩屋巌、参議院の佐藤昭郎、公明党側は代表格の山口那津男参院議員、衆議院の田端正広、赤松正雄、佐藤茂樹、参議院の浜田昌良、計一〇名である。
このプロジェクト・チームには「国際平和協力活動のための一般法の検討について」という「山崎・山口案」という基本方向の確認文書(二〇〇八年五月二八日)がある。
これは公明党側とその支持母体である創価学会側にある安倍政権下での自民党の集団的自衛権問題などの進め方への不信と不満を、自民党山崎側が受け入れ、「現行憲法の範囲内」「解釈改憲をしない」「集団的自衛権に関する解釈を変更しない」など、公明党が弁明しやすいように配慮されている。「現行憲法の範囲内」という接頭語的な文章は公明党などがこうした場合要求する常套語であるが、169国会で超特急で議決された宇宙基本法にもこの文言が入っている。今回の名古屋高裁判決で「航空自衛隊のイラクでの活動が憲法違反」とされても、そのまま継続されるという憲法感覚の政治家たちのもとで、こうした用語に信用を置くことはできない。
このプロジエクトチームは以下のような4点について、9回にわたって議論した結果を「中間報告」としてまとめた。
この検討のねらいは明確である。現在(1)のみにPKO法で自衛隊を派兵し、(2)については特措法で対応している状態が与党にとっては不満であり、派兵の対象を(3)にまで拡大したいということである。つまり、与党PTの検討は「いかにして(3)に対応するか」の議論になると思われる。
自衛隊の部隊の派遣については、原則として個別案件ごとに国会の事前承認を要することとする。
これらの条件は、従来「解釈」の積み重ねで枠が突破されてきたことを考えると与党PTがいま、こうした内容で自衛隊海外派兵恒久法を検討し始めたことの危険性は大きい。
こうした派兵恒久法の準備と、給油新法延長の動きとあわせて、見逃せないのは政府がアフガニスタン、スーダン両国への陸上自衛隊部隊派遣に向けた本格検討に着手したことである。アフガンについてはすでに6月7日、内閣官房、外務、防衛両省からなる調査団を現地に派遣する。両国とも陸自施設部隊による復興支援活動を念頭に置いており、アフガンでは米国などのニーズが高い航空自衛隊による物資輸送も検討している。アフガン調査団は、現地で必要とされている支援内容に加え、物資輸送を念頭に置いた拠点候補地の調査なども行う予定。アフガン全土で展開し、治安維持活動を行う国際治安支援部隊(ISAF)の担当者とも協議する。ただ、政府はISAFへの参加は憲法違反の疑いがあるとして、参加しない方針で、現地の治安情勢などについて意見交換が行われる見通しだ。アフガンへの陸自部隊派遣には国会で根拠法を通す必要もある。
ISAF派遣など自衛隊のアフガン派兵についてについて、「ペシャワール会」の中村哲医師が以下のように述べていることを確認しておきたい。
「(復興支援活動としてアフガニスタン本土への陸上自衛隊の派遣を政府が検討していることに反対し、)もし実際に派遣されれば安全確保のため日本人スタッフはすべて帰国させざるを得ない」と述べ、同会の現地活動が全面停止する可能性があることを明らかにした。
中村氏は、アフガンでは干ばつや世界的な食料危機に加え、米軍や国際治安支援部隊(ISAF)への反発から暴動や自爆テロが頻発していると指摘。「(自衛隊派遣の前提となる)『非戦闘地域』などどこにもない。米国への従属軍としか受け取られない自衛隊の派遣は、民生支援などで培われてきた日本への信頼を完全に崩壊させ、日本人も殺りくの危険にさらす」と強く批判した。
政府が政略で画策するアフガン派兵が現地でのNGOの活動を困難に陥れることは二重の犯罪である。
私たちはこの秋、次期通常国会での自衛隊海外派兵恒久法制定阻止、次期臨時国会でのインド洋北部派兵給油新法(新テロ特措法)延長とISAF派兵阻止、イラク特措法の廃止と自衛隊のイラクからの撤退をめざして、積極的に行動を起こさねばならない。 (事務局・高田健)
飯島滋明さん(名古屋学院大学講師)
(編集部註)5月19日の講座で飯島さんが講演した内容を編集部の責任で要約したもの。要約の文責は全て本誌編集部にあります。
今日は海外派兵恒久法がどういった問題点を持つのかということについて簡単にお話をさせていただきます。私は専門がドイツ憲法ということもあって、今の社会と何らかの比較ができるだろうと思うのは、ドイツのヴァイマール期の話です。ドイツはあの時代に、経済的に破綻している状態で、「こういう危機を救うのは独裁国家しかない」とまことしやかにいわれ、それに乗る人も多かった。危機感を持ったヘルマン・ヘラーという学者が「いま民主主義を選ぶか、独裁国家を選ぶか、どちらしかない。民主主義がヨーロッパの伝統であるから、私たちはそちらを選ぶべきだ」と訴えたけれども、ヒトラー独裁に至ったことはよくご存じだと思います。ヘルマン・ヘラーという学者はいまのドイツ学会ではかなり評価を受けてきた人です。大げさじゃなくていまの日本もそういう状況と変わらないところがあるだろうと思います。
いまの憲法九条あるいは前文にある国際協調主義を守るのか、あるいは変えるにしろ変えないにしろ自衛隊がどんどん外で戦えるような国家になるのか、私たちや自治体が戦争にどんどん協力させられていく国になるのかということが問われています。どんな軍隊も外国を侵略するに当たっては、侵略のために行くなんて言わないわけです。いま自民党などが進めているひとつの理由は国際貢献のために自衛隊を外に出す、場合によっては武力行使もやむを得ないということです。けれども、本当に自衛隊を外に出すことが国際貢献なんだろうか。いまインド洋に海上自衛隊の補給艦が浮かんでいます。5月15日付けの「朝雲」という自衛隊の準機関紙を見ますと2月21日から15回、3145リットルをアメリカ、イギリスなどに給油しているそうです。いま、ガソリンが1リットル160円くらいですね。私たち国民に対して重い負担を課している一方で、外国の軍隊には3145リットルもの給油をしている。これは国際貢献として私たちは従うべきなんだろうか、そういったあたりが問われていると思います。
国際貢献という話では、4月にイラクへの自衛隊派遣は憲法違反だという判決が名古屋高裁で出たことはよくご存じかと思います。それに対して航空自衛隊の幕僚長が「そんなの関係ねえ」と言った、これはどうなのか。先ほどの自衛隊の準機関紙では、実は4月30日の段階で700回の支援任務を達成した、これは偉業だということが書かれています。本当にそれが国際貢献だろうかということを考えてもらえればと思います。
その一端として、現在の憲法9条を巡る政治の動きを紹介します。ひとことで言いうと、とても国際協調主義であるとか平和主義といえるような政治ではないということです。2001年にテロ対策特別措置法ができたとき、フランスの「ル・モンド」には日本に詳しい人がいて、その人が書いたのは「テロ特措法は憲法違反だ」ということです。やっぱり外国人から見てもそう思うんですよね。確かに戦ってはいないかもしれないけれど、戦っている軍隊に対して給油支援を行うことは憲法9条違反だと書かれてあった。そういうところからもうかがえるようにいまの憲法の状況は、とてもじゃないけれども平和主義に反する政治になっている。これも現在進行形であり自民党・公明党政権が続く限りは未来進行形にもなるかと思いますが、米軍の出撃基地としての地位ということもますます強化されている。そもそも日本にアメリカ軍がいるのは、安保条約によりますと、極東の安全とも書いてありますが、基本は日本を守るためだということです。実はアメリカ軍は日本を守るためじゃなくてアメリカが出撃する、そのための基地になっている、そういった基地としての地位が強化されている。それだけじゃなく、自衛隊もアメリカ軍と一緒に行って戦える、そういった態勢が強化されているわけであります。
まず神奈川県の座間基地ですけれども、アメリカ本土から陸軍の第1軍団司令部が来ます。この第1軍団の作戦領域は、実はアジア・太平洋だということになっています。日本じゃないんですよ。のみならず、この第1軍団司令部は「確かに俺たちはアジア・太平洋だけれども世界各地に行ける」と、たびたび公言しています。第1軍団は世界中どこにでも行ける、そういった司令部が座間に来るわけです。それと歩調を合わせて、去年の3月に中央即応集団、CRSというのができました。これはひとことで言えば日本版海兵隊、殴り込み部隊です。この司令部も一緒に座間に移ってきます。お互いの司令部同士が座間に集まるんですよね。これが何を意味するかということです。
次に横須賀基地に原子力空母が今年の8月に来ます。日本を守るために原子力空母って必要ですかね。これは明らかに違うと思います。原子力空母を迅速に世界に出せる基地としての状況が強化されています。また青森県の車力というところにXバンドレーダーというレーダーの基地が置かれます。車力というのはまわりになんにもない農村で、本当にのどかなところです。なんであんなところにレーダー基地を置いたんだという感じ。一昨年の5月くらいまでは見えたけれど、いまは隠されちゃいました。これは日本を守ることでは全然ないわけで、アメリカもこのXバンドレーダーに関しては細かいところは明らかにしていないのでわからないところはありますが、この高性能のレーダーでアメリカに情報が送られているのは間違いないといわれています。
それからアメリカの第3海兵隊が8000人ほどグアムに移転するといわれています。これも沖縄の負担軽減なんていわれていますけれども、クエスチョンマークのところがございます。米軍再編の一環として「蓮の葉戦略」といわれる、冷戦期のようにソ連を仮想敵国としてガチンコ勝負ではなく、どちらかというと世界中どこにでも迅速に兵隊を出せるように兵力の配備を変えています。実はその一環としてグアムにたくさんの兵隊を置こうという方針があります。ですから沖縄の海兵隊をグアムに移すのは、ある意味で既存の方針だったところもあります。本当に移るかどうかもよくわかりませんけれども、とにかく7000億円くらいの費用が負担いわれています。昨日の琉球新報の報道を見ますと、この人数が13000人だと急遽発表されたらしいんですよね。じゃあこの増えた5000人分は誰が出すんでしょうか。ふっかけられるかもしれないという懸念もあります。米軍の出撃基地として地位がどのように強化されているのかは、これだけに止まりません。
アメリカと一緒に海外で戦える態勢も強化されています。代表的なものをあげると、2001年のテロ対策特別措置法をはじめとして、2003年には有事三法がつくられている。同じ2003年にはイラク対策特別措置法もつくられ、イラク内地まで自衛隊が入り込んでいる。翌年には有事関連7法がつくられている。余談ですけれども、このとき小泉首相が「親父の敵を討った」と真っ先に言っていたのがすごく印象的だった。これは1965年2月10日の衆議院予算委員会で、自衛隊の三矢研究がばれてしまった。ときの佐藤栄作首相が岡田春男議員につきつけられた三矢研究は、2週間で87の法律を強行採決するとか、中国・北朝鮮は仮想敵だとかいう研究が自衛隊の内部でなされていたことが明らかになりました。その責任をとって時の防衛庁長官であった小泉純也が辞任しています。その敵を討ったというのが、息子の小泉純一郎の言い分だったんでしょう。
2006年には自衛隊法が改正されまして自衛隊が海外に行くことが本来任務になった。それまでの自衛隊の任務は、直接及び間接の侵略に対して対処するというものでした。2008年1月には新テロ対策特別措置法がつくられています。これは1年間の期限しかありません。だからもし代わりの法律ができなければ自衛隊をインド洋に浮かべておくことはできない。そうすると去年の11月のように自衛隊は引き返してこいということになる。のみならずテロ対策特別措置法、あるいはイラク対策特別措置法もやっぱり憲法の制約を完全には無視していないところがあります。それは屁理屈ですが、彼らが活動できるのは非戦闘地域だということです。いちおう理屈では非戦闘地域であって、もし紛争になりそうだったら引き返してこいというのが、このテロ対策特別措置法とかイラク対策特別措置法の建前になっている。そこの壁をぶち破ってしまおう、もし攻撃されそうになったら戦ってしまえ、そういったことを目指すのが「憲法改正」になると思います。
ただ憲法改正では時間がかかりそうだ、とりわけ去年の7月に参議院選挙で負けてしまって憲法改正なんか待っていたらいつになるかわかったもんじゃない。だから憲法を変えないで自衛隊が戦えるようにする、そのための法律が派兵恒久法です。いまの段階で法案がどのようなものかはわかりません。けれども場合によっては憲法改正に匹敵するようなものになる可能性も高い法案だということをご理解いただければと思います。
自衛隊がどんどん海外に出られる法的な仕組みを整える一方で、自衛隊の装備もどんどん海外で戦えるものになりつつありますし、そういった訓練もしています。いくつかあげます。「おおすみ」は輸送艦といいますが、LCAC(エルキャック)という海から発進して陸地まであがれる揚陸船みたいなものを2隻持っています。そのLCACには90式戦車を2台積めますし30人の武装兵を乗せることができます。ですから海からずらーっと攻撃できるような装備を整えています。去年の8月に進水したヘリコプター搭載護衛艦「ひゅうが」は、かたちは完全に空母です。11機のヘリコプターを運用することができ、場合によってはもっと積めるという専門家もいます。ヘリコプターを積んでそのまま外国まで行き、ヘリコプターで上陸作戦もできます。派兵恒久法で臨検みたいなことをする場合、ヘリコプターはある種必須ですので、そういったことにも一役買う可能性もございます。こういった、いままでであれば持てないような兵器を持っていたりする。
陸上自衛隊では、去年の3月に中央即応集団ができました。防衛省のホームページでも中央即応集団のことをけっこう宣伝していますし写真もありますので、ぜひ見ていただきたい。その写真で中央即応集団の特殊作戦軍は覆面をして出てきています。覆面をしている軍隊はいったいどんな役割を果たすんでしょうかね。たぶん都心のど真ん中でも軍服を着た人が覆面をして出てきたら、正直言ってギクッてくると思います。国際貢献のためだといってもこれは当然そんなことないわけで、これは外国に出る殴り込み部隊なわけです。こういったものを防衛大臣の直轄にして直ちに動けるような集団をつくっています。
次にF2とかF25といった空中給油兼輸送機あるいはAWACSです。実は敵の基地を攻撃してもいい、という議論が国会でもしばしばなされています。最近では、1998年9月18日の衆議院安全保障委員会で安倍晋三、のちの総理大臣が言っています。北朝鮮みたいな国家にはこちらから先に手を出してもいいんじゃないか、F2とかF15で攻撃できないのかと何度も質問しています。そのときの額賀防衛庁長官は「そんな仮想敵はいません」「そんなことはできません」と何度もなだめています。この国会審議で安倍晋三は「いいんじゃないか、テロ国家だ」と何度も繰り返しています。2003年1月24日にも、北朝鮮がミサイルに燃料なんかを入れた場合にはこっちからたたいてしまってもいいんだ、というようなことを国会で発言し、そのあと小泉首相なんかもそういったことを発言しています。
そのあと2003年4月に沖縄、2003年6月にアラスカで、空中給油機を使って長く飛ぶ訓練などが行われています。1973年にF4戦闘機を導入する際、空中給油装置が付いていたので、そんなものが付いていたら外国まで行って爆弾が落とせるじゃないか、と国会で議論になった。時の総理大臣の田中角栄さんは、それはまずいと、空中給油はしない、空中給油装置は外してしまうことを実際にやったんです。そのあとのF15は多少クエスチョンマークのところはありますが、F4戦闘機を導入する際は外国まで行って爆弾を落とせるような装備にはなっていなかった。爆撃装置も外していますので、ここに憲法9条の制約がまがりなりにもあったといえます。戦闘機、爆撃機が外国にまで行って爆弾を落とせるシステムにはなっていなかった。
ところがそういったものが小泉内閣、安倍内閣、さらには福田内閣のもとでは破られつつある。アラスカまで行った空中給油の訓練で、飛んだ距離は4500キロ、中国の奥地まで行けてしまします。去年の6月にはグアムの周辺でF2という戦闘機が初めて実弾を使った爆撃訓練を行っています。このとき、ニューヨーク・タイムズなどには「爆撃につぐ爆撃、日本は軍事的制約を突き破る」という記事が扱われ、一面にはかなり大きく載っていました。一昨日の自衛隊の準機関紙「朝雲」には、航空自衛隊がアメリカと一緒にやった去年1年間の訓練がだいたい15回、その中でも目玉になるのがグアムあたりで行った爆撃訓練だと書かれています。かつて憲法9条のもとで、爆撃機は外国まで飛べる能力がそもそもなかった、というあたりがどんどん破られてきて空中給油機などを使って外国まで行けるようになっている。レーダーなどとの関係もあるので完全にできるとまではまだいっていませんけれども、そういう方向に向かっているのは確かです。こういったように自衛隊は法的にも、装備的にも海外に行けるようになっています。
実は今年の3月に空中給油機は愛知県に来ていて、すでにそういう装備を持っているということです。余談になりますが、「空中給油兼輸送機」なんですよね。輸送もするというのが政府の言い分です。彼らの言い分は、戦闘機は長く飛べないけれども空中給油機を使うと長く飛べるから騒音対策になる。どうなのかな。
法の整備という面でも、自衛隊の組織という面でもどんどん外国に行けるようになっています。それでも憲法9条という縛りが完全になくなっているわけではない。自衛隊がこっちから先にいっていいのかというと、それは憲法9条のもとでは許されないという立場がとられています。非戦闘地域で戦闘が行われそうになったら引き返せというのが少なくとも法の建前です。実際に自衛隊員がそうするかどうかはともかく、法の建前としてはそうです。そのあたりを取っ払ってしまえというのが自衛隊の海外派兵恒久法です。
自衛隊が海外で人を殺し殺される
自衛隊海外派兵恒久法でまず問題点としてあげられるのは、いままでと違ってこっちから先に手を出していいよということになると、自衛隊が海外の戦闘で人を殺してもかまわない、場合によってはそれが可能になる。2006年8月にいまの防衛大臣の石破茂氏が派兵恒久法の案をまとめています。この石破私案では「憲法ぎりぎりいっぱいのところを考えた。憲法で許されるぎりぎりのところを考えた」というんです。でも、私がお腹いっぱいになったというのと、みなさんがお腹いっぱいになったというのは多分違うと思うんですよ。同じように、彼のぎりぎりというのとふつうの人のぎりぎりというのはかなり違うと思うんですよ。
ですから公明党は、これは乗っかれないというところもありますし、福田首相自身もどれだけ乗っかる気があるんだろうか、石破氏自身も一生懸命売り込んでいるようですけれども、どうもその辺は素っ気ない対応もあるようです。福田首相自身が、昨日の琉球新報の記事ではもう1年、新テロ対策特別措置法の延長を指示したということが書いてあります。この記事が本当ならば、派兵恒久法は遠のいたのかもしれません。ただ自民党というのは何を考えているのかわからない政党で、宇宙基本法というのを2時間で通しちゃったらしいですね。こういうことを平気でする党ですから何をするかわからない。ですから、とりあえず今の段階ではこの石破私案を手がかりにして、この法案の問題点を紹介させていただきたいと思います。
つい最近も後期高齢者医療制度、ネーミングが良くない、「長寿医療制度」に変えろと。そうやってだまそうとする。2004年6月に出した自民党の憲法改正のパンフレットには、「己もみんなも幸せに」、「自民党が出す憲法改正は国民しあわせ憲法です」と書いてある。この派兵恒久法も名前でだまされてはいけない。石破私案でも、海外派兵を恒久的に自衛隊の本来任務とする「国際平和協力法」だといっています。実際はアメリカに協力して自衛隊が戦争に参加する法律になっています。例えばテロ特措法やイラク特措法は、武器は使っていいことにはなっていますが、その場合「自己又は自己の管理の下にあるもの」、人が危険な場合にだけ武器を使っていい。法律的に言うと刑法36条の「正当防衛」、あるいは刑法37条の「緊急避難」と呼ばれるものです。この派兵恒久法では、任務遂行のために必要であればこっちから先に武器を使っていいことになっています。去年の11月に民主党もアフガン復興支援特別措置法を出していますが、これも一種の派兵恒久法です。任務遂行の場合には手を出してもいいというのは、本質的な違いは民主党案でもありません。
安全確保活動の場合にも武器を使っていいとなりますと、例えばファルージャの攻撃でも、こっちから先に手を出すことが可能になります。テロの巣窟だなんてアメリカは言いますけれども、ファルージャに米軍が来たとき、はじめは歓迎ムードがありました。それが反米の拠点に変わるには原因があります。アメリカは当初、小学校は占領しないと住民に約束していた。ところが約束を破って小学校を占領しだした。そうなると当然小学校で授業なんかできない。のみならず小学校の屋上に上って誰か怪しいのがいないか監視していた。イラクは長年にわたる戦争の結果インフラが破壊されていて電気がつかない。イラクですと50度近くなってしまうので女性だって仕方がないから窓を開けて寝る、屋根の上で寝ていたんですよね。それを米軍がのぞいているような格好になるので、米軍が小学校を占領するのはやめてくれと、2003年5月17日にデモを起こしたら、アメリカ軍が発砲した。17人の死者が出ています。こういったデモに対しても、実は石破私案の25条8項を根拠としますと発砲できてしまいます。
25条8項1号には「多衆集合して暴行若しくは脅迫をし、又は暴行若しくは脅迫をしようとする明白な危険があり」、要するにデモがやってきて何かやりそうだという危険があるとこっちが判断すれば、手を出していいというのが石破私案です。そうであればファルージャ住民が行ったようなデモに対しても自衛隊の方から手を出してもいいことになりかねない。5月17日のアメリカ軍発砲に対して、仕返しとして翌年の3月にファルージャでアメリカ人4人が殺されています。それに怒ったアメリカ軍が4月と11月にファルージャを攻撃しています。この時も国際法違反も甚だしく、アメリカ軍は包囲したファルージャで、動けば何でも撃っています。特に救急車を撃てという指令があったようで救急車を運転していた人の左胸が撃たれているというケースがかなり多い。こんなに民間人を攻撃するのは国際法違反の最たるもので、こういうことを平気でやっている。クラスター爆弾や骨まで焼き尽くすという化学兵器も使っている。2004年4月の攻撃ではサッカー場2面が死体で埋まるほどの死者が出ています。死者の数は正直言ってよくわからず、1600人という統計もあり、少なくとも700人以上だといわれています。その半分が女性や子どもです。そういったことも石破私案を根拠にすればできてしまう。
25条8項2号の規定では「自衛隊の部隊等が第12条第1項の規定により安全確保活動の実施を命ぜられた場合において、(略)小銃、機関銃(機関けん銃を含む。)、砲、化学兵器、生物兵器その他その殺傷力がこれらに類する武器を所持し、又は所持していると疑うに足りる相当の理由のあるものが暴行又は脅迫をし又はする高い蓋然性があり、武器を使用するほか、他にこれを鎮圧し、又は防止する適当な手段がないとき」、こういった場合は人を殺してもかまわない、人を殺すような武器の使用もかまわないといっています。
こういった規定をみても2004年4月とか11月のような攻撃も、自衛隊の方から先にしてもいいということになりかねない。このファルージャの攻撃は国際社会でも批判が多く、2回でやめています。時の国連事務総長のアナン氏は、これは市民が犠牲になる明白な国際法違反の攻撃だといっていますが、実はそれを支援している総理大臣がいたんですよ。誰かといえば小泉首相です。そういった人たちが派兵恒久法みたいな規定があったらどういうことになるか。こっちから先に手を出してもいいとなりかねない。こういった危険性を派兵恒久法は持っているということを認識していただければと思います。
2つめは、この派兵恒久法では警護活動を行えます。要するに外国の軍隊みたいな、あるいは重要人物を警護する、そのためには武器を使ってもいいというのが警護活動の内容です。いま参議院議員になった佐藤正久、ヒゲの隊長といわれていた自衛隊の隊長ですが、彼が何を言ったか。オランダ軍が攻撃されたとき、情報収集の目的で行って、それで巻き込まれて応戦するつもりだった。警護活動はこういう駆けつけ警護のようなかたちでの参戦を可能にしてしまう。
船舶検査活動も石破私案にはあります。これは止まれといって止まらない場合は攻撃してしまうわけですから、事実上憲法で禁じられている臨検です。臨検するためにはヘリコプターで乗り込むことをしますので、ヘリコプター搭載の護衛艦「ひゅうが」が生きてくる可能性があります。歴代政府の解釈でも、臨検は憲法9条で禁じられた交戦権にあたるからダメだということをずっといってきています。ですから、臨検といわずに船舶検査という言い方をしている。この船舶検査活動はまさに臨検で、武力による威嚇または武力の行使あるいは交戦権を禁じた憲法に違反するものだと言えます。
2000年に船舶検査法ができています。そこでも船舶検査はできることになっていますが、それと質的に違うのは、派兵恒久法は地理的制限がないんですね。船舶検査法は、地理的制限があるかというとグレーゾーンですが、ただそれほど遠くでやることまでは想定されていません。これは1999年のガイドライン関連法ができたとき、自民党と公明党の合意ができなかったので別につくったというところがあって、日本近海というのがまがりなりにも想定されています。石破私案に出てきた船舶検査活動はそれこそ地理的制限なんていうものはありません。インド洋であっても平気でやれてしまうというものです。結論から言うと、派兵恒久法は平和活動だなんて言われていますが、平和活動に貢献するものではまったくないところがある、アメリカの違法な戦争あるいはファルージャの例を紹介しましたが残虐な戦争に荷担するだけ、そういう側面が強いわけであります。
私が「だまされないで欲しい」といいましたのは、一般にはイラクに自衛隊が行っているのは平和活動だからいいんだということをいう人がいるんですよね。実際に戦っている軍隊に補給するのが平和活動なのか、というべきですけれども、政府がだますような宣伝をしています。この石破私案でも医療や給水活動をおこなうとも書いてありますけれども、それは自衛隊の方が適切なんだろうか?NGOであれば1年間1億円の費用で約10万人の給水が可能ですよね。にもかかわらず、自衛隊では年間300億円以上の予算を使って実際に給水活動ができるのは15000人分にすぎない。子どもでもどちらがいいのかわかる話だろうと思います。派兵恒久法の危険性、自衛隊を海外に出す、場合によっては戦うという問題点の2点目の指摘です。
1つの例ですが、包丁そのものが武器なのか、悪いのかという議論はできないと思います。包丁も腕のいい料理人に渡せばちゃんとした料理をつくる道具になる。一方で変な人に渡せばそれこそ武器になってしまう。似たように、派兵恒久法自体、これは正直に言って悪い法律だと思いますけれども、これ自体が直ちに悪くは利用されないかもしれません。けれども、それをやろうとしている自衛隊ですとか、つくろうとしている自民党や公明党の性質も考えて、この法案の危険性を指摘する必要はあります。去年の6月に陸上自衛隊の情報保全隊が国民を監視していたことが明らかになったことも記憶に新しいと思います。私も資料を見ましたが詳しいですよ。15人位しかいない集会に何気なく市民のような顔を装って参加していたりする。それで、この人はこんなことをしゃべったということを書き留めている。だから資料にするとかなりの厚さがあります。
私は大学院生の時、大学の警備員の仕事をしていまして、夜中によく学生が塀を乗り越えて入ってくるんですよ。そうしますと、ご丁寧にそれを警察に通報してくる市民の方がいるんです。警察は大学の門の前まで来るんですが、入っていいですかと聞くんですね、こういう通報がありました、申し訳ありませんが学長の許可を取って下さい、許可があれば入ります、とかなり慎重な対応をします。なぜなら憲法23条で学問の自由が保障されています。その一環として大学の中に警察は、もちろん明らかな現行犯でもあれば別ですが、学長の許可がない場合は入れない、これは憲法原則としてあるんです。実はこの情報保全隊の人たちは山形大学に入って自治会の活動なども監視しています。情報保全隊の資料で出たのは東北だけで、関東などではもっとやっているかもしれません。あの文章を見て一番気になったのは、治安を乱す危険分子みたいな書き方がされているんです。守るべき国民を「分子」なんて表現するんだろうか。そういったあたりも軍隊が国民を守るなんて考えていたら大間違いだなと思います。
クラスター爆弾を陸上自衛隊と航空自衛隊は持っていて、何に使うんだということが問題になったときに、いざとなれば、外国が侵略してきたとき海岸沿いに撒くといったんです。市民が犠牲になるけれどもいいのかって質問した人がいたけれども、やむを得ないと。昔の軍隊と何が変わったんだろうか。一部の国民の犠牲はやむを得ない。これはやっぱり違うだろうと思います。前回の市民講座で、女性の人権の話をされました。そこでびっくりしたんですが、強制わいせつを受けた女性自衛官に憲法と自衛隊法とどっちが上なんだと聞かれたとき、自衛隊のトップの方が答えられなかったということでした。そのときにも思いましたが、セクハラなんかして謹慎3日や4日で終わってしまうなんて一般企業であるんだろうか。1年前くらいに問題になったと思いますが、海上自衛隊では合コンで女性を落とすと「撃沈」と表現していた、いったい国民をなんだと思っているのか。そういった事例に事欠かないわけですよね。
こういった国民を軽視する、あるいは人権に配慮のない人たちを外国に送ったらどうなるのか。それプラス、日本は軍が勝手に動き出して政治や日本の運命をあらぬ方向に持っていった歴史には事欠かないわけですから、日本の文民統制といったことが自衛隊の人たちにはたしてどれだけ浸透しているんだろうか。「ヒゲの隊長」はいざとなれば情報収集の名目で巻き込まれて戦うつもりだったといっています。政府から命じられてもいないのに勝手に軍隊が戦い始めちゃう、こんなことを平気でしようとする人たち、この人はいま参議院議員です。こんなので大丈夫なんだろうか。今年4月にイラクの自衛隊の活動は憲法違反だという判決が名古屋高裁で出ました。それに対して航空自衛隊の幕僚長が「そんなの関係ねえ」と言い放った。裁判所というのは憲法81条にいう違憲法令審査権を持っていて、法の最終解釈権者です。憲法とはこういうものだと判断するのは裁判所です。その判断に「そんなの関係ねえ」と言い切ってしまう、こういった自衛隊が海外に出て、しかも戦えるかもしれない。こういった危険性を認識することも必要ではないでしょうか。
3番目は、自衛隊を海外に出して戦えるようにすることに対する近隣諸国の疑いはかなり強いと思います。アメリカとかカナダ、オランダ挙げ句の果てには欧州議会からも日本政府に対して「従軍慰安婦」に関して謝罪しろという決議が採択されていますね。それに対して「狭義の強制はなかった」と平気で総理大臣が言ってしまう。「嫌がる人を無理矢理性的な相手にしたのは軍人でしょうけれども、軍隊が連れてきたんじゃない」なんていう訳のわからないことを平気で言う。こんな、過去に対して謝罪もしない人たちが自衛隊を外に出す、しかも戦えるようにする法律に基づいて自衛隊を外に出すのは、やっぱり危険だという認識は持つべきだと思います。
4番目は加茂市長の小池清彦さんがよく言っていることですが、もし自衛隊が外で戦えるようになったら徴兵制の可能性がある、ということです。自衛隊員が外で戦闘に巻き込まれて死んでしまったら、おそらく自衛隊員になろうとする者は減ってしまうだろう。そうしたら徴兵制という事態もあり得るかもしれない。実際に1976年にエクスパンド条項というものを政府がこっそりつくっていたことがありまして、徴兵の検討をしていたなんていうこともあります。石破防衛大臣も防衛庁長官時代に、「徴兵制を憲法違反と言ったら、これは正気の沙汰とは思われない」「外国の方に徴兵制を奴隷的、苦役に当たると言ったら、あまりにも恥ずかしくて日本人をやめたくなる」。こんなことをホームページに堂々と掲載していた。いまはさすがに消されていますけれど。実際には軍人を連れて行く以上に医師とか看護師、建設業者という人たちを連れて行く可能性はもっと高くなる。自衛隊法103条に業務従事命令があります。これを改正して無理矢理海外に連れて行く可能性が出てこないと言い切れるのか、そこら辺の危険性も認識する必要があると思います。
派兵恒久法の問題点としてあとひとつ指摘すると、戦争は一度始まってしまったら収拾させるのは大変だというのはいまイラクとかアフガニスタンをみれば事実が証明しています。そもそも戦争になる場合は事前にわかっていることが多いんですよね。むしろその段階でしっかり介入するべき、紛争予防というところに重点を置くべきというのがいまの国際社会の方向ですけれども、この派兵恒久法ではそのあたりは全然ない。本当の国際貢献あるいは国際平和というのであれば、いかに国際平和に向けた外交を進めるのかに重点が置かれるべきですが、この派兵恒久法にはそういうところはみじんもない。
私はこの派兵恒久法を報告するときに、15年くらい前のPKO協力法の時の議論を見たんです。正直言って何も変わっていない。彼らは自衛隊を送りたいということしか考えていないものですから全然議論の進化がない。自衛隊の海外派兵が国際貢献だというそれだけを言いたいがために、参加はできないけれども協力はいいとか、そんなわけのわからない国語論争に徹しているようなところがあります。まず、真剣に考えるべきは何が国際貢献かをしっかり判断した上で、国際貢献のあり方を考えるべきかと思います。
わたしはカンボジアに行って地雷博物館を見てきました。カンボジアではポルポト時代とそれ以降の内戦で、自分の家族で殺されなかった人がいないというくらい家族が殺されています。そのカンボジアでも、カンボジア製の武器があったかというと、どの人に聞いても「ない」っていいます。みればアメリカ製であったり中国製であったり旧ソ連製です。紛争予防ということであれば、例えば日本には武器輸出三原則があります。そういったものを国際社会に向けて働きかけていくべきであろうと思います。ウガンダの内戦は斧で殺し合っていた。そういう人たちに銃を与えれば銃撃戦になってしまいます。そういったものをなくす外交努力が必要だろうと思います。ところが今の日本は武器輸出三原則を緩和しようなんていう動きをしている。あるいは日本は非核三原則なんていっていますけれども国際社会でどれだけこれが信じられているかご存じでしょうか。核兵器の被害を受けた日本が1963年以降、国連の場で非核決議に棄権、反対を繰り返していますよね。1994年には、期限を切っての核兵器廃絶決議にも反対している。こんなことでいいんだろうか。こういう日本が、例えば麻生太郎氏とか中川昭一氏が核武装論みたいなことを言い出す。外国はどう見るだろうか。青森県の六カ所を見れば日本はいつでも核兵器をつくれる。そうじゃなくて武器輸出三原則もそうですし核兵器をはやくなくすという外交をすべきであろうと思います。核廃絶決議に反対してきたのもアメリカに遠慮してです。こんな国が外国に行って戦えるような法律を作ったら、実際はそれに流されてしまうだろうというのは認識する必要があります。
日本はかなり無駄な軍備を持っています。漁船一隻も避けられないようなイージス艦に1400億円ものお金を使っている。潜水艦は毎年一隻買い換えています。ミサイル防衛には数兆円はかかります。お金がかかるからテストもしないと最近報じられましたが、それじゃあ当たるかどうかもわからない。そんな無駄なことをしている。さらにF22という戦闘機は1機200億から250億円といわれています。これを買ったら2兆円とか3兆円のお金が動くことになりますが、いまの政権はこういうお金を使おうとしています。いっぽうで毎年、福祉に関するお金は2200億円ずつ削っています。
国際貢献が今年はひとつのテーマになるだろうと思い、先週の火曜日までカンボジアに行っていました。そのときの写真を紹介します。鍬で農作業をしていまして、私の右隣に女の子がいます。この子は私の肩の高さくらいの身長でも年齢は14歳です。かなり背が低く、カンボジアで出会った人たちはだいたいこのくらいの背の高さです。それは食糧事情です。その隣の男の子は冬物の洋服を着ています。こんな暑い時期なのに、金銭的な事情で冬物を着ているんですよね。これは日本からの支援です。次の写真でVサインをしている女の子の髪の毛、はじめ見たときカンボジアの女の子っておしゃれだなと思ってしまったんです。金髪に染めているのかと。私は本当に申し訳ないと、この子に対して思ったんですけれども、この子は5歳で、栄養がなくて髪の毛がこんな感じになってしまうらしいんです。隣の子も黄色っぽい髪の毛になっています。背が低いということで、こういう例を出して失礼かもしれませんが、憲法学者の杉原泰雄さんという一橋大学名誉教授がいらっしゃいます。150㎝ちょっとの身長です。杉原先生は、私は静岡の農村で、お金がなくてお米が食べたかった、そうしたらあと10㎝は背が高くなった、だから戦争は嫌いだということを常におっしゃいます。似たような状況がカンボジアにもあります。次の写真はアンコールワットで「さくら」の演奏をしているところです。義足が写っていますが、この演奏をしていたのは地雷の被害者です。地雷の被害者が農作業をしている場面を見ました。杖を持ちながら鍬を使って、しかも地面が固い、だからなかなか難しい。カンボジアの人は1日1ドル以下でしか暮らせない人たちがたくさんいます。
水で囲まれているアンコールワットに至る橋があります。その橋の半分はフランス政府が支援して、もう半分の橋は上智大学が支援しています。シュムリアップというアンコールワットがあるところからトンレサップ湖にいく道路はがたがたです。けれども首都のプノンペンからシュムリアップまで行く道路は舗装されています。私が会うカンボジア人には、日本人、やさしい、道路を造ってくれたといわれます。シュムリアップでは15歳以下の子どもは無料で診るという日本のNGOがつくった病院があります。そういう意味で実は日本人はかなり好意的な評価をされています。やっぱり国際貢献とはこういうものだろう。自衛隊が行って何ができるか、武力紛争の場に入って殴り合いを仲裁するなんてできないと思いますし、ましてや一方の当事者の支援をしているとなればこのイメージはがらりと変わると思います。そういった意味でも自衛隊を海外に派兵する、場合によっては戦うなんていうのは以ての外だということがおわかりいただけるかと思います。
今年の3月にドイツに行ってきました。ブランデンブルグ門はドイツ人にとっては東京タワーのようなもので、近くに連邦議会があります。ブランデンブルグ門から200メートル、連邦議会から550メートル、ドイツ人は几帳面ですから何メートルと書いてありますが、そこに「私たちはこんなことをしました」という記念碑を建てています。ベルリンの街中にこういうものが至る所にあります。連邦参議院には写真やいろいろな説明があり、「KaDeWe」というデパート、日本でいえば新宿の伊勢丹のようなところに黄色い文字で書いた看板があって「私たちが忘れることが決して許されない恐怖の場所」ということでアウシュビッツなどの名前が書いてあります。これだけではなくドイツは反省している、反省しているということをアピールしています。私がドイツに行ったときは、メルケル首相がイスラエル議会で永久的な責任があることを発言した最中でした。こういったようにドイツは事あるごとに「申し訳ございませんでした」と謝罪している現実があります。日本はどうか、南京大虐殺はなかった、従軍慰安婦は民間人がやったと権力者が平気で言う。靖国神社について、「罪を憎んで人を憎まず」と総理大臣が平気で言ってしまう。そういった国が軍隊を出すのは以ての外です。
ドイツなんかを見ていますと仲良くしようとする姿勢こそが非常に大切だなという気がします。1990年にドイツが統一するとき、フランスなどは猛反対した。フランスとドイツはむかしから戦争をしてきたので仲が悪いですが、フランスからも友好関係を引き出すためにドイツはさまざまなことをしています。いまの若い人たち、特にフランス人にドイツとフランスが戦争をすることがあると思いますかと聞きますと、テロがあるから100%とは言えないという人もいますけれども、ほとんどの人が「考えられない」といいます。パリの凱旋門はドイツに勝った証ですし、ベルリンにも「ジーゲスゾイレ」というフランスとの戦争に勝った記念碑があります。それでも仲良くしようという外交をドイツが積極的にやってきた結果、いまでは戦争はできないというようなことになっています。国際協力というのであれば、そういった外交をすべきであるだろうというのが私の意見です。
最後になりますが、本来国際貢献あるいは国際協力というのであれば近隣諸国と仲良くするのも大切ですし、もっと武力によらない国際貢献とは何かということを見つめた上での貢献をすべきであると思います。けれども、どうもいまの自民党、公明党の政権はそういう方向に向かっていない。憲法を変えるのは大変だから法律レベルで、すぐに派兵恒久法みたいなものを制定して実質的には憲法改正と同じことをしようとしている。挙げ句の果てには最終目標として憲法を変えようという動きを自民党、公明党はしています。特に憲法改正という場面では去年の5月に改憲手続き法ができました。あの法律をみると、国民投票の仕組み次第ではいくらでもいかさまができるんです。ミャンマーの国民投票などもいい例かもしれません。投票の仕組みを変えてしまえばいくらでも国民がこういった、みたいな結果を出せるような場合があります。これから注意すべき、闘うべきだろうと思うのは、私たちは憲法9条は大切だ、いまの政権はとんでもない、ということを絶えず訴えていって権力者に好きなことはさせないぞという世論をつくっていく。だから九条の会とかこういった会があるのは権力者に対するひとつの歯止めになると思っています。
5月4日から6日に9条世界会議がありました。入れない人が出た、実は私も入れませんでした。それはともかくとして、やっぱりああいうことがありますと権力者もむやみやたらにそういうことをしないと思います。そういった運動、勉強会を盛り上げて主権者として選挙の場であるいはこういった場で意思表示していくことが非常に大切なことだろうと思います。派兵恒久法に関しても2007年1月の段階では、7月の参議院選挙が終わってから出そうと安倍首相は考えていた。 1月とか2月とかの段階で派兵恒久法を出すと参院選で負けてしまうかもしれない、参議院選挙が終わってから派兵恒久法だとかホワイトカラーエグゼンプションとかを出そうとしていたんですよね。そんなひまもなく彼は大負けしてくれた。こういった法律を実際に出させないためにも、危険だということをみんなに認識してもらうことが非常に大切なのだと思います
今回の会議にあふれるぐらいの人たちが詰めかけたのは、みんなが戦争や武器、武力では物事は解決できない、ということを本当に気づき始めたからです。人々の気づき、何かをやりたいという思いなど、とてもうれしい希望をみることができ、勇気をもらいました。私自身が大切な家族を離れて会議などに参加するのは、本当にそれが必要で大切なことだと思うからです。本当に重要なことについて、自分が何かの役にたてるならそれをすることは私の責任だと思います。この9条は日本だけでなく、世界にとって本当に大事なものだと心から思います。この会議に参加して本当に良かったです。
若い人たちが多く参加していることにも希望を感じます。日本はいろんな面で本当に恵まれている国、もっと多くの人がそれに気づいて、それだけ恵まれた環境にいるからこそできること、やらなければならないこと、目を向けなければならないことがたくさんあります。日本の若い人たちにも多く期待したいです。
マイレツド・コリガン・マグワイア(アイルランド)
9条世界会議は(初日)東京に1万人以上を動員し、数千人が会場に入ることができず会場の外で集会を開くほどでした。加えて、広島を含むその他3都市でも様々な会議が催されました。要した組織力は並ならぬものだったと思います。それはまた、戦争廃絶と平和へ向けた人々の渇望の結果だったとも思います。1999年のハーグ平和会議のように、様々な団体が参加した実行委員会があり、相当数の市民社会団体(や活動家)が呼びかけ人となり、2つの全体会・参加型のワークショツプ、映画上映会、自主企画やシンポジウムが行われました。音楽・踊り・太鼓と文化的要素も多く盛り込まれました。発表の内容も大変濃いものだったと思います。1999年5月から9年、ハーグ平和会議は今も息づいていることを感じることができました。皆さんは間違いなく正しい道を歩んでいると確信しています。そんな素晴らしい会議に参加できて本当に嬉しく思います。事前の準備、当日ビデオなどのグッズ販売、会議後の参加者への連絡など、本当にお疲れ様です。変わります!ここ米国でも今年の11月の選挙で平和の文化と戦争のない世界(www.world without war)が実現する可能性が生まれることでしょう。人々は暴力に疲れ、変化を望んでいることが、今回の会議で証明されたのです。
コーラ・ワイス(米国)
9条世界会議に参加させていただいたことは私にとって素晴らしい経験となりました。特に、本当に大勢の方による参加・ボランティアの方々の献身、そして効率的な組織運営に感動しました。この一連の努力の大きな成功は、私自身の平和活動への想いとともに、「グローバル9条キャンペーン」に対しての私の想いを強くしました。
フレデリツク・デュラン(スイス)
皆様との東京と大阪での素晴らしい時間の後、無事セネガルに戻りました。日本での9条世界会議にお招きいただき、参加者の皆様と9条を通して平和ならびに正義の価値を共有できる機会をいただけたことに感謝しています。日本の法制度の中で憲法9条はもっとも誇るべきものです。今後、私自身の国ならびに(アフリカ)大陸において9条を広める努力を行うことを約束します。
エル・ハジ・ムポッチ(セネガル)
会議の一つの成果として、海外の参加者も参加できる英語でのメーリングリストが立ち上がることを期待しています。このメーリングリストによって、それぞれの国で(平和)活動を続けていく上で持ち上がる様々な問題を共有し意見交換する場ができました。9条世界会議は、本当に素晴らしい会議でした。皆様の尽力とゲストに対するもてなしも申し分のないものでした。あのような成功を得ることは今もって私の想像の域を超えます。本当におめでとうございます!
エレン・卜一マス(米国)
とても素晴らしい会議でした。特に、イラクで起きていることを多くの人に知ってもらい、エイダンと高遠さんとも経験を共有できる良い機会でした。
カーシム・トゥルキ(イラク)
皆さんの友情と暖かい受け入れに感謝します。会議に参加させていただいたことで私自身本当に元気づけられました。皆捧の今後の活動を応援しています。
フローレンス・ンパェイ(ケニア)
今回の会議に参加できたことを光栄に思います。なかなかの「会議」でしたね! 9条世界会議が、平和憲法を守る運動の中で、歴史的、政治的、そして文化的な砦としての役割を果たすことを願っています。このような重要なイベントに参加する機会をいただけたことを本当に感謝します。皆さんがこの成功を祝い、少し体を休める時間を持てていることを願っています。皆様のご多幸を祈ります。
ジョセフ・ガーソン(米国)
9条世界会議は、戦争廃絶と非軍事的手段による平和を達成する見通しをもたらしました。
クラウス・シュリヒトマン(ドイツ)
2008年5月4~6日 9条世界会議
日本国憲法9条は、戦争を放棄し、国際紛争解決の手段として武力による威嚇や武力の行使をしないことを定めるとともに、軍隊や戦力の保持を禁止している。このような9条は、単なる日本だけの法規ではない。それは、国際平和メカニズムとして機能し、世界の平和を保つために他の国々にも取り入れることができるものである。9条世界会議は、戦争の廃絶をめざして、9条を人類の共有財産として支持する国際運動をつくりあげ、武力によらない平和を地球規模で呼びかける。
人類は、戦争のない世界に向けてたえず努力してきた。歴史の中で、土着の伝統や偉大な人物たち--とりわけ女性たちは戦争に積極的に反対してきた--は、たえず人類を平和へと導こうとしてきた。
20世紀の近代戦争でもたらされた犠牲は、この流れをさらに前に進めた。1928年のケロッグ・ブリアン不戦条約は、国策の手段としての戦争を明確に放棄した。1945年の国連憲章は、明確に定義された異常事態の場合を除いては「武力による威嚇または武力の行使を慎まなければならない」ことを加盟国に義務づけた。
日本によるアジア太平洋への侵略戦争と広島・長崎への原爆投下の後に1947年に施行された日本国憲法9条は、武力の行使を認めるいかなる例外ももたないという点において、世界平和のための国際規範の発展におけるさらなる一歩前進である。この日本の動きに続いて、コスタリカは1949年、軍隊や自衛隊をもたなくても国家は平和的に存在できるという例を世界に示した。
9条の精神はまさに、すべての戦争が非合法化されることを求めている。そして、すべての人々が恐怖や欠乏から解放され平和のうちに生きる固有の権利を有することを世界に投げかけている。
しかし今日の世界は、武力紛争、大規模な貧困、格差の拡大、武器の拡散、地球規模の気候変動に覆われている。アメリカによる全面的な「テロとの戦い」は、戦争をもたらし、国連の役割を台無しにし、地球規模の軍備競争を復活させ、世界中で拷問を助長し、人権をむしばんでいる。
さらに、紛争が民間人--とりわけ女性、子ども、高齢者たち--に与える影響に対する関心が高まっているにもかかわらず、戦争において殺され傷つき避難を余儀なくされる民間人の割合は、空前の高さに達している。
このような絶望的な状況は、イラクにおける戦争と占領にはっきりと示されている。平和や民主主義が武力によってもたらされないことは、もはや明らかである。こうした世界的な流れのなかで、9条の原則を保持し、地球規模の平和と安定のための国際メカニズムとして強化することが、かつてないほどに重要になっている。
それにもかかわらず日本は、憲法9条の義務を果たしていない。さらに、9条の存在自体がいま脅かされている。今日の日本の自衛隊は世界最大規模の軍隊の一つであり、アメリカは日本中に軍事基地をもっている。日米軍事協力がますます強化されるなか、日本の現実は憲法9条の精神からの乖離をいっそう深めている。
日本によるアメリカへの全面的軍事支援を可能にさせるために憲法を改定しようという動きは、日本国内、アジア近隣地域そして国際社会で不安をかきたてている。そればかりでなく、日本は近隣諸国への戦争責任を果たしておらず、和解はいまだなされていない。東北アジアには、不安定な冷戦構造がいまだに残されている。
歴史的には、国家のみが国際関係の主体であると考えられてきた。しかし、市民の運動が重要な役割を果たしてきたこともまた事実である。1990年代より、地球規模の市民社会が、草の根レベルで国境をこえて団結し、人類の将来の決定に参加するようになってきた。そして、平和、人権、民主主義、ジェンダーおよび人種の平等、環境保護、文化的多様性といった課題について、主要な役割を果たすようになってきた。
1997年の対人地雷禁止オタワ条約、1999年の「ハーグ平和アピール」国際市民会議、2002年の国際刑事裁判所の設立、2003年のイラク戦争に対する空前の世界的反戦運動といった例はいずれも、地球市民社会が変革の主体としての力を明確に示したものであった。さらに今、クラスター爆弾の禁止や小型武器の管理を求める運動、核兵器の非合法化を求める運動、また地球規模の平和と経済的・社会的正義を求める運動が広がっている。
いまこそ地球市民社会は、9条の条項とその精神に着目し、その主要な原則を強化し、地球規模の平和のためにそのメカニズムを生かしていこう。
9条の主要な原則を国際レベルで実行するためには、大国から小国まですべての国々は、暴力紛争の発生を予防する責任を果たし、いかなる状況下でも武力による威嚇や武力の行使を放棄しなければならない。そして安全保障というものを、人間の観点またジェンダー・バランスの視点から見直す必要がある。
貧困と不平等が紛争の根源的要因となっていることは、古くより知られるところである。現在のグローバリゼーションは、南北の格差をさらに深刻にしている。こうしたなかで各国政府は、国連ミレニアム開発目標の達成を第一歩として、すべての人々にとっての持続的繁栄と社会正義を築くために資源を使わなければならない。
日本の9条は、国家の平和的存在を可能にし、人間の発展のための革新的な資金メカニズムを創ろうとする努力を後押しするものである。それは、軍備を規制し世界の資源の軍事費への転用を最小化すると定めた国連憲章26条を補完している。
9条の精神は、小型武器、地雷、クラスター兵器、核兵器、生物・化学兵器などを含むあらゆる軍備の拡大および拡散や、軍事産業の活動を否定する。それはさらに、安全保障政策における核兵器への依存を拒否し、核兵器の非合法化と廃絶を求めている。
潘基文国連事務総長が再確認したとおり、世界的に軍事費を削減し限られた資源を持続可能な開発に振り向けることは、地球規模で人間の安全保障を促進し、軍事活動による環境への悪影響を軽減することにつながる。
持続可能な開発に関する世界サミットおよび国連委員会は、各国政府および企業に対して、地球の気候、水、森林、生物多様性、食糧、エネルギー供給を保全するよう求めている。同時に、気候変動は紛争の発生、悪化、助長をもたらす危険があり、気候変動の過度の影響から地球を守ることに投資することが重要である。
2005年7月、「武力紛争予防のためのグローバル・パートナーシップ(GPPAC)」の世界提言は「日本国憲法9条はアジア太平洋地域全体の集団的安全保障の土台になってきた」と指摘した。すなわち9条が、この地域の安定に重要な貢献をしており、包括的かつ持続的な平和の構築のために大きな潜在力をもっていることを認知したのである。世界の他の地域においては、欧州連合、アフリカ連合、東南アジア諸国連合といった形で、平和のための地域メカニズムがつくられている。東北アジアにおいては、9条が、地域の平和的統合の土台になりうる。
私たちは、平和で持続可能な世界をつくることができる。しかしそれは、すべての国が真の多国間主義に参加し、国連をはじめとする国際的誓約を尊重してはじめて可能になる。9条を実行し、他の国々もまた9条をもつようになるためには、国際システムの改革が同時並行的に必要である。さらに市民社会は、暴力に対する平和的オルタナティブをつくり出し、地元、国内、地域、世界の各層におけるネットワークを通じて平和を構築する力をもっている。軍事主義を止め将来の戦争を予防するために、市民社会の力を発揮していこうではないか。
これらの目標を達成するために、9条世界会議に参加した私たちは、以下の通り提言する。
私たちは、すべての政府に以下のことを求めます。
私たちは、日本政府が以下のことに取り組むことを奨励します。
私たち市民社会は、以下のことに取り組むことを誓約します。
グローバル化がすすむ世界の中で、人類が直面する課題はかつてないほどに相互連関を深めています。環境の課題や、ミレニアム開発目標の達成をはじめとする開発の課題、そして「対テロ戦争」や核不拡散を含む政治的課題は、もはや切り離して取り組むことはできなくなっています。それだけでなく、こうした課題は、平和なくしては前進することができません。
大国たるG8諸国は、暴力の連鎖を断ち切るとともに、人権を尊重し人間の安全を満たすような、すべての人にとって平和で、非暴力的で、ジェンダー・バランスのとれた公正で持続可能な世界を築くために、多国間協力のなかで率先して取り組んでいかなければなりません。この目的を達成するために、軍縮を実行し、開発のための革新的資金メカニズムをつくり出さなければなりません。
この問題に関し国連は、毎年の総会決議において、国際社会に対し「拡大し続ける先進国・途上国間の格差を縮小することをめざしつつ、軍縮と軍備制限の実行によって得られる資源の一部を経済・社会の開発に振り向けること」を求めています。決議はまた、各国政府に対して「軍縮、人道、開発の活動をさらに統合する努力をすること」を奨励しています。9条世界会議は、軍縮と開発の関係に関するこのような重要な議論を発展させようとする国連の努力を支持します。
G8諸国は世界の軍事費の70パーセントを支出しています。このような主要軍事費支出国として、G8諸国は、軍事費を大胆に削減するとともに、その資源を平和、開発、環境保護のために転換しなければなりません。
以下に署名した9条世界会議の参加者・支持者たちは、日本国憲法9条を国際平和メカニズムとして活用することをうたった「9条世界宣言」の提言を想起しつつ、G8サミットが日本の北海道・洞爺湖で7月に開催されるにあたり、G8諸国が以下の事項について検討するよう求めます。
平和的手段による紛争予防、平和構築、人間の安全保障の取り組みを支持し、平和のうちに生きる基本的人権を広め実現すること。
アメリカが主導する全面的な「対テロ戦争」は、恐怖と抑圧を生み、憎悪と暴力を世界中で助長しています。このような「対テロ戦争」を終わらせ、テロリズムの根源となっている要因について、人権を尊重し国際法を活用しつつ、国際協力によって対処すること。
核兵器廃絶に向けた核不拡散・軍縮のための多国間の取り組みを強化すること。同時に、G8諸国は武器貿易条約の早期締結に向けた交渉を進めるとともに、クラスター兵器の全面禁止に向けた政府間プロセスを促進し、対人地雷禁止条約を完全に実行すること。また、劣化ウラン兵器の使用を禁止するための国際合意をつくること。これらを第一歩として、全面的な軍縮と非軍事化のためのプロセスを進めること。
軍縮を開発および人間の安全保障と結びつける取り組みを進めること。軍事費の一定率をミレニアム開発目標およびそれ以上の開発資金に振り向けること。
戦争と軍事が環境にもたらす負の影響を認識し、転換すること。また、希少化する天然資源およびエネルギー資源の管理をめぐる外部からの干渉や争いが紛争を助長する危険はよく知られているところであり、こうした危険に対処すること。
平和、人権、環境保護を含むような企業の社会的責任を支えるための仕組みを構築し、実行すること。
日本国憲法9条は、広島・長崎への原爆投下がもたらしたすさまじい破壊と人間の激しい苦痛の上に生まれた。両都市に対する核攻撃の後に、日本は、戦争および国際紛争解決の手段としての武力による威嚇や武力の行使を放棄するとともに、軍隊およびその他の戦力の保持を禁止したのである。それゆえに、憲法9条の精神は、「ノーモア・ヒバクシャ、ノーモア・ヒロシマ・ナガサキ、ノーモア・ウォー」というヒバクシャたちの訴えと重なるものである。そしてそれは、核兵器に依存した安全保障政策を拒否し、すべての核兵器が非合法化され廃絶されることを求めている。
しかしながら今日、国際的な議論は核廃絶よりも核不拡散を優先し、実質的な軍縮は何ら進められていない。そればかりでなく核保有国は、核不拡散条約(NPT)第6条の下での軍縮義務を果たしておらず、核兵器の近代化と新型の核兵器および運搬手段を開発している。NPT加盟の核保有国は、核兵器廃絶条約への交渉をただちに開始し、核軍縮と核兵器廃絶のプロセスを再生させなければならない。
以下に署名した9条世界会議の参加者および支持者たちは、核兵器の非合法性と非道徳性をあらためて強調するとともに、5月3日に年次総会を開催したNGOネットワーク「アボリション2000」への強い支持と連帯を表明しつつ、ジュネーブで開催されている2010年NPT再検討会議第二回準備委員会にあたり、以下の通り提言する。
私たちは、すべての政府に対して以下のことを求める。
簑輪喜作
高田 健様
箕輪喜作
お忙しいのにまたこんなものを送って大変すみませんです。
●聞かれればただ誠実にと署名の秘訣われの言うこと多し
「9条」署名2年5ヶ月続け来て11200となる
4月のはじめ1万になったときにも書いたのでどうかと思ったのですが、その後2ヶ月でまだ日も浅いのですが、いろいろなことがあり、いま書いておかないと忘れてしまうので書いてみました。
万になったとき私の体調は持病の前立腺の数値が高くなって薬が増えたことで血圧が上がったこともあって、もう万になったからほどほどにと言ってくれる人もあり、自分でも少し加減しようかなどとも思ったのです。しかし、そのうち血圧の方はクスリによって安定するようになり、5月3日は都心での憲法集会、4日、5日、6日と千葉の幕張メッセでの「9条世界会議」となり、参加できなければ出来ないなりに自分に出来ることをと、幸い血圧も安定したので公園に通い、署名数は3日66、4日55、5日48。6日は以前から我が家を訪問したいと言っていた女性4人につきあい署名は休んだ。
たしかにこのところ風のむきは変わって来ました。いま問題になっている後期高齢者医療なども自分たちのこととしてとらえる若い人も出て来て、バーベキュー広場などでも、いまこんなことがやられると私たちのときにはもっとひどくなる、どうすればよいかと言いながらみんなで署名してくれたグループもあり、最後はともにたたかってゆきましょうと別れた。最近ではこのようなグループも見られるようになったのだが、このところ私にとって嬉しいことは2年5ヶ月の署名を通じての出会いの中でその幾人かが活動家にもなっておられるということだ。
まず4月のはじめ1年ぶりにお会いした女性だが、それまでやっていた小学校のPTA会長をやめられたので今度は私も少しばかりお手伝いしたいと言ってくれた。それから署名のとき九条の会に入っていただいた人で、その後お会いできずどうなったか心配していた50代の男性が今回の「9条世界会議」でお会いしたと参加された方に聞いてびっくりしている。
次に6日に我が家を訪問してくれた4人の女性だが、いずれも初対面の人で公園にも案内し、スケボーの青年たちにも会っていただき私の話も聞いていただいた。そしてこのほど私への応援と手紙にそえて署名30筆が送られてきた。
その手紙から
話していただいた一言一言、大切にこれからの私たちの行動に活かしたいと思います。あせらずに、おしつけがましくなく、前向きに次につなげるために、一歩づつ歩みたいと思います
と。
それから7月の19、20日と平和展があるのですが、その準備で一昨年署名していただいた40代の女性が活動家となり、DVDの製作で我が家にも来てくれました。
また以前にも書いたことのある、ある私立学校で署名で知りあったことが縁で、私の署名おじさん役も登場する演劇に発展し、それを観た小学一年生の女の子が父母にお願いして、この5月の連休に「ひろしま」に行きその子の書いた作文をいただいたので紹介します。
ひろしまでみいつけた 小2女子
1年生のときえんげきぶの人たちがやった広しまのおはなしをみて広しまに行ってみたくなりました。それをお父さんお母さんにはなしたら、つれていってくれるということになったので、このれん休に行ってきました。そしてげんばくドームへ行きました。テレビでしか見たことがなかったので、あまりの大きさにびっくりしました。そしたらたまたまボランティアの人とおあいしました。そしてはなしをきいたら、その人はひばくしゃでした。その人はひばくしたときはお母さんのおなかのなかだったそうです。おなかにいてもほうしゃせんをあびて、小さいときからびょうきにかかりやすかったそうです。そのほかにもひばくじぞうや、ばくしんちのところへつれていってくれました。ひばくじぞうの頭はさわったらざらざらでした。石もとけるほどあつかったなどのいろんな話しをしてくれました。それをきいて私はせんそうはいけないなと思いました。でもせかいにはまだまだかくをもっている国があることを、しりょうかんで知りました。なんでだろう。どうして??と思いました。
二どとこんなことがおこらないように、ひばくしゃの人からきいた話を私からみんなに、みんなからだれかに、とつたえていけると、とてもいいのになあーと思いました。
とても感動する文なので皆さんにも読んでいただきたいと思い、子どもさんのご両親、先生の承諾は得ているのですが学校名と名前は略させていただきました。
それから5月の19日は以前から上京したら会いたいと言っていた熊本県の人吉の元中学校教師が私のところに来てくれました。この方は何冊もの著書もあり、現在九条の会の中心的な人で演劇の指導や映画の上映運動など力のあるすごい人の訪問を受けました。
その後も雨の日をのぞいては1時間~2時間ぐらいは散歩もかねて署名に出るようにしていますが、さすがに公園は土・日以外はもう殆ど署名をいただいた人たちなので、毎日次々と新しい人の来る東八道路の自動車試験場のバス停などに行っています。ここは公園とちがって会話の時間は短いのですが、ここも若者がよいです。「こんな老人が居るということを頭のどこかにおいてください」と言うと、署名した人もまだ出来なかった人もみんなハイと答えてくれ、1時間で20人から30人ぐらいはいただきます。道を歩いていた人で毎日新聞で見て一度お会いしたいと思っていたと言ってくれた人もいました。また署名している私に「きさくさん頑張って」と言いながら自転車で通る女性もいました。そんなことで土、日でなければ公園にゆかないようになり、「蓑輪さん体調をくずしたのでは」と心配して下さる人もおるようです。
それから最後に「あなたのその署名をする力はどこから出るのですか」と言う人もあり、最近その方のお宅に寄せていただきました。まだ63歳、団塊世代でその方に言われたことですが「はじめは共産党か社会党かと思ったが、しかし党ならばここまでやらないだろう」と言われびっくりし、私はそれでは共産党、社会党さんには失礼ではないかと思ったが、それにはふれず、私のいつも言っていることですが、大きなものは大きなものとして、それを実現させるには、いま自分になにが出来るのか、自分の身近から考え行動してゆくことで、私の長い間の体質にもなっており、用務員人生で学んだものですと言っておきました。このことについては毎年やっており、今年も8月1日に行われる年金者組合の「戦争と平和を語り継ぐつどい」で私に九条署名について話せと言われているので、そのときに自分の人生を振り返りながら話してみたいと思っています。
さてお忙しいところいつもお励まし感謝しています。いまのところまだ遠出は出来ませんが体調は落ち着いて来ているのでまだまだ続けてゆきたいものだと思っています。ほんとうにバカみたいな数ですが、人生の最後に来てこんな経験をさせていただいたことは大変有難いことだと思っています。(5月31日)
追伸
このところ4・5日雨続きで署名出来なかったのですが、今日は朝から晴天となり、午前は所用があって出来なかったものの、久しぶりに午後から日曜日で人の集まる公園のバーベキュー広場にゆき1時間ほどで50筆いただき署名用紙がなくなって帰ってきたのです。声をかけても断られることも少なく、またあるグループでは一昨年に署名しておりますが、その時まだ赤ちゃんだった子どもがこんなに大きくたくましくなりました、と元気な男の子を紹介してくれたお母さんも居て私は子どもさんと握手をさせていただきました。
こうして2年半、署名で沢山の人との交流がありましたが、次に私が署名のときいつも若者に言っている言葉を書いてみます。
2年と半年、こんなことを言い続けて来たのが私の越後訛りも若者の心をゆさぶるらしい。そしてさらに私の歳を聞く者もいて「79歳」というと「お体にきをつけて頑張ってね」とあたたかい眼差しが返ってくる。それから今回の1万筆では92歳という方からもお励ましのお手紙をいただいており、まだまだ頑張らなければと思っています。(6月1日)
半田 隆
ニューヨークの原油取引所ではこの6月、WTIの原油価格が1バレル140ドル寸前まで高騰しました。この原油高騰に伴って、燃料や原材料、そして多くの関連商品や穀物などの価格を押し上げ、インフレの兆候さえ見せています。
ガソリン、軽油、重油など化石燃料の高騰は、運輸業者や漁業者や農業者など中小企業に深刻な打撃を与え、欧州では英国、フランス、スペイン、イタリア、ポルトガル、ベルギーなどで運送業者や漁業者が抗議のストライキに入り、アジアでは韓国、タイではトラックの運転手がストライキに入り、日本ではイカ釣り漁業が抗議のために休漁をし、日・中・韓・台4ヵ国のマグロ漁業者団体も休漁を検討し始め、インドネシアでは市民が燃料高騰への抗議行動を起こしました。独占企業や大企業が石油高騰分を商品に転化したことで、電力、ガス、および食料品などの価格は上昇し、一般の家計にも少なからず影響を及ぼしています。
原油高騰の理由として、「1,中国をはじめとする世界の需要の急増。2,地政学リスクといわれる中東情勢の不安定化。3,投機資金の流入。4,OPECの余剰生産力の低下。」などが上げられています。
確かに中国の使用量は増加しており、現在は1日当たり760万バレルに達していますが、それでも世界の総需要量8600万バレルの8.8%にすぎず、しかもその内の輸入量は330万バレルで3.8%にしかなりません。この輸入量の中の年間の増加分が、原油高騰をもたらしたとするには無理があります。この需給バランス説だけでは、サウジアラビアが増産を表明した直後に、原油価格が高値を付けた現象も説明できません。
需給バランスだけでは説明がつかないので、最近は投機資金が雪崩れ込んでいるためだとの説が強調されるようになりました。それに対してポールソン米財務長官は、「原油高騰は投機資金によるものではない。需給バランスによるものだ」とこれを否定するコメントを出しました。ポールソン米財務長官はゴールドマン・サックス証券出身ですから、当然の発言なのでしょう。
世界の主な原油市場は3ヵ所あります。「ニューヨーク取引所」、「ロンドン取引所」、「東京ドバイ取引所」です。この3ヵ所の取引所で当業者といわれる石油メジャーを含む石油業者や石油精製業者、石油化学会社、そして銀行や証券会社や投資ファンドなどが原油の取引に参入しています。ニューヨーク原油取引所はアメリカ産の原油価格を決めるものですが、ニューヨーク取引所に流れ込んでいる投機資金は、1500億ドル・16兆円程度です。原油市場の総額は現在4兆0807億ドル・436兆6349億円の市場規模に脹らんでいますから、1500億ドルは僅か3.7%にすぎません。この3.7%の投機資金が、ロンドン取引所の欧州産の原油価格や東京ドバイ取引の原油価格を誘導し、いずれをも1バレル130ドルを超えるほどに高騰させました。しかし、3.7%がそうさせたのではなく、高値を維持し続けているのは別の要因が作用しているからです。
通常は原油が高騰すれば買い控えが起こるはずですが、供給不安から石油関連の当業者も、利鞘をかせぐ銀行や証券会社や投資ファンドとともに先物買いに加わって高価格を維持しているのです。
この供給不安の要因は何でしょうか。供給不安の最大の要因は「地政学的リスク」といわれる中東にあります。中東での主な不安定要因はイラク戦争とそれに続く占領にあるのです。イラク戦争が避けられないと見てとった原油市場は、02年の後半から買いが入り、03年3月の開戦時には40ドルにはね上がりました。しかし、ブッシュ米大統領がイラク戦争の終結宣言をした直後に、原油価格は暴落します。ところが、03年の後半にイラクの抵抗勢力が米軍に対して武力抵抗を始めると、原油価格は再び値上がりし始めました。それ以来、一時的な停滞はあったものの現在の高騰に繋がったのですから、イラク戦争に起因していることは明白です。
イラク戦争の原油価格への波及については当初から多くのシンクタンクが注目しており、評論家の森永卓郎氏や和光大学の岩間教授などもイラク戦争が原油を高騰させることを指摘していました。しかし、イラク戦争が見かけ上あっさりと占領状態に移行したからでしょうか、それとも米国に追随した日本政府批判になるのを避けたためでしょうか、イラク戦争が原油高騰の原因となっていると指摘する主要メディアは見られませんでした。需給バランス説やハリケーン・カトリーナの影響とか投機説やドル安など、一過性の事件までまぜこぜにしてまことしやかに原油高騰説をあげるのみでした。
米大統領の予備選では、イラクの米軍の撤退が政策のテーマとして取り上げられていましたが、その政治的な意見表明とは別に、最近アメリカの経済学者からイラク戦争と占領継続政策に批判が出されました。
ノーベル経済学賞を受賞した元世界銀行副総裁のジョゼフ・スティグリッツ氏が、近著の「イラク紛争の真のコスト」で、米国のイラク戦争のコストと原油高騰の因果関係に真っ向からの批判を繰り広げたのです。
スティグリッツ氏はこの著書で、原油高騰の原因にイラク戦争・占領政策を上げています。分析するに当たって、スティグリッツ氏は独断を避けるために、米国の石油関係の専門家の意見を求めました。専門家の殆どは、原油高騰がイラク戦争・占領継続に起因しているとの分析に同意しました。つまり、米国の石油専門家たちは、原油高騰はイラク戦争・占領政策にあると判断しているのです。スティグリッツ氏は、イラク戦争の影響による原油高騰分の算定そのものは困難だとしながら、控え目な数字を幾つか提示するとともに、原油高騰分の半分くらいは影響を受けていると見なすこともできると指摘しました。現在、1バレル130ドルを超えていますから、イラク戦争前の20ドルからの高騰分の110ドルの半分の55ドルが、イラク戦争と占領継続の影響で上昇している可能性があることになります。55ドルの高騰分だとしますと、日本は年間15億バレル輸入しているので825億ドル・8兆8275億円の負担になります。これが毎年続くとなると、経済的負担は莫大です。
スティグリッツ氏は、当然のことながらイラクの占領状態を解消して速やかに撤退すべきだと主張しています。イラク作戦の継続を主張する人たちは、「作戦完了前に撤退するのは無責任」という理由を強調していますが、スティグリッツ氏はこれらの主張は錯誤に基づくもので、今後数年間占領を続けても改善は保証されず、期待もできない。占領状態が長引くほど、米軍もイラク側も被害が加重し、死者の増大と建造物の破壊のみか、イラク内各派の亀裂を深めることになるのだから、速やかに止めることこそが最善であり、それが世界の経済的負担をも低減する、と述べています。
日本では、メディアが原油高騰の現象だけを追い、原因を殆ど追求しないので、国民も現象だけに目を奪われています。それを良しとして、政府は米国に気遣いをして、このことに一切触れてきませんでした。
しかし、さすがに08年版の「エネルギー白書」では石油高騰に「章」を割いています。原油価格を「ファンダメンタルズ」と「プレミアム」に分類し、ファンダメンタルズには需給バランスや季節変動やドル安などを上げ、プレミアムには「地政学的要因」と「先物市場」を上げています。この地政学的不安定要因としてイラク、イラン、ナイジェリア、ベネズエラの政情不安に言及しています。「白書」はイラク要因を強調しているわけではありませんが、イラクは米軍の攻撃とその後の占領継続に対する武装勢力の抵抗によって先が見えないほどの混乱を来したのですから、原油生産にとって最大の不安定要因と言っていいでしょう。投機筋は、不安定化した産油国イラクの原油生産が停滞すると読み、先物買いで原油価格を押し上げ続けたのです。
「エネルギー白書」は原油価格分析で、ファンダメンタルズとプレミアムの占める割合を、およそ60%対40%と試算しています。それを援用しますと、現在の1バレル130ドルの内、需給バランスなどのファンダメンタルズ分が78ドル、プレミアム分が52ドルとなります。ファンダメンタルズの中にも不安定要因による高騰分が含まれているはずですが、プレミアムの高騰分の52ドルは、スティグリッツ氏の指摘する高騰分の55ドルに見合うと見るべきなのでしょう。
原油高騰の最大の要因がイラク戦争・占領継続による不安定さにあるのですから、これを正常化しない限り高騰原油が正常な価格に戻ることはあり得ません。G8は原油や穀物の高騰対策などを協議していますが、肝心の高騰の原因への検討に踏み込んでいないので、有効な対策を立てることができそうにありません。
ゴールドマン・サックス証券は、原油価格が1バレル150ドルから200ドルになる可能性を指摘していますが、もし200ドルになるようなことになれば、日本の運輸業者、漁業者、農業者、中小企業などの受ける打撃は計り知れず、世界の同業者も苦境に陥り、暴動などの社会不安を誘発することになります。これを避けるためにも、速やかにイラクおよびアフガニスタンの占領行為を止めさせなければならないのです。米軍が占領継続政策を改めて撤退すれば、原油価格は劇的に低下し、世界経済は安定へと向かうはずです。
穀物の高騰も、高コストだったエタノール製造が原油高騰によって採算が取れるようになったからであり、原油が暴落すればエタノール製造も抑制され、穀物価格も低下することは疑いありません。
日本政府は、アメリカのイラク戦争を安易に支持した失政が原油高騰をもたらし、経済を混乱させていることを自覚し、イラクの占領状態解消に尽力することが、日本および世界への貢献になるのだから、早急に是正すべきでしょう。「イラク特措法」と「テロ特措法」の延長などは、思考停止的な愚かな選択です。