私と憲法60号(2006年4月25日)


この国の21世紀の進路をかけて 2006年5月3日憲法記念日に際して

この国会を見ていると、改憲派があらためて憲法9条を変えてどこに進もうとしているのかがよくわかる。
韓国とは靖国問題だけでなく独島=竹島問題まで極度の緊張状態に入った。中国とはほとんど外交らしい外交ができなくなった。日本政府は中国へのしっぺ返しのつもりか、日本大使館員の自殺問題や、駐日中国大使館員の違法活動問題などのキャンペーンを張っている。北朝鮮政府に対しては言うまでもない。公式には言わずとも、東アジアの多くの国々と民衆も日本政府に不信を強めている。この間の小泉首相、安倍官房長官、麻生外相らの発言は極めて粗雑で、聞くに堪えないほどにギスギスしている。かくも周辺諸国との関係が悪化した状態は戦後60年、かつてなかったことだ。その中で排外主義や他民族蔑視の風潮が煽られている。

国会では教育基本法の改悪が具体的な過程に入り、愛国心教育が復活させられようとしているし、憲法改悪のための手続き法案の動きも急速だ。入管法改悪、代用監獄法、共謀罪などの治安関係法の改悪や立法化も相次いでいる。防衛省昇格法案まで再浮上してきた。多くの人びとの抗議の声を無視し、米軍基地再編と自衛隊との軍事一体化への動きも急速だ。与党の多数議席のうえにあぐらをかいた何でもありの政局運営だ。マスメディアに批判の力がなくなった。格差が異常に拡大している。社会の至るところから人びとの悲鳴が聞こえてくる。この社会が急速に息苦しくなっている。その不満を政治が排外主義へ流し込んで行こうとしている。

一方、この数年の憲法運動の急速な発展は私たちに大きな希望を与えてくれるものだ。「九条の会」をはじめとする新しい運動がかつてない勢いで広がっている。「若者の立ち上がりがいまひとつだ」などと嘆く人もいるが、この時期に戦争を体験した世代が危機感を持って真剣な思いで立ち上がっていることの意味を軽視してはならない。この動きは早晩、若い世代に波及するに違いないし、すでにそうした兆候が各所で見られる。そして日本の危険な動きを憂うるアジアの人びとが、憲法9条に連帯する声をあげ始めた。今年の5月3日を前後して、全国各地でそうした流れが大きくなるだろう。

この国を戦争のできる国にしようとする9条改憲派と、9条をかかげてこの国の新しい進路を進もうとする勢力の激突が始まった。

今、私たちの「憲法改悪を許さない」運動の役割と責任が極めて大きいことを痛感する。この危険な流れを阻むために、全国のいたるところに九条改悪に反対するという1点で広範な共同をつくり出し、いま可能な限りの努力を強めなくてはならないと思う。この成否が、この国の21世紀の進路を左右することは間違いないのだから。(T)

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自民党の「憲法改正手続き法案」(骨子素案)について

(編集部註・自公両党は4月18日、憲法改悪のための「与党協議会」を開き、この自民党による「修正案」で大筋合意した。与党はこれをもとに民主党との協議に臨む方針だ。今後の国会動向を分析していくうえで、本稿は有効であると考える)

自民党憲法調査会(船田元会長)は06年4月12日、「日本国憲法の改正手続きに関する法案」(骨子素案)を了承した。法案の国会上程、早期成立のため、従来の自公の「国民投票法案」を一部修正して民主党に歩み寄る姿勢を見せつつ、新たな仕掛けを組み込んでいる。

1)国民投票法案と発議手続き法案を合体---一挙に両方を成立させる狙い

これまでの自公の国民投票法案は発議手続き法案とは別で、後者は事実上、別途検討の扱いになっていた(01年の改憲議連案、05年の民主案でも分離)。今回の案はそれを「日本国憲法の改正手続きに関する法案」として一本化した。国会の審議を省略、短縮し、一回の採決で両方同時に成立させることを狙っている。

2)投票までの期間は民主の「60~180日」を受入れ---これでも短すぎる

これまでの自公案は、国会が発議して国民投票までの期間は「30~90日」(改憲議連案は「60~90日」)だった。しかし民主党の同意を得る必要があることと、自民党の新憲法草案が膨大な全面的改憲案であることから、民主案の「60~180日」を受入れたもの。しかしこれでも、あまりに短期間である。

3)投票人は「選挙権を有する者」で自公案を維持----「当分20歳、将来18歳」で民主と談合か

国民投票に公選法を準用することは、投票権が 日本国籍を有する者、20歳以上、禁錮以上の刑で公民権停止中でない者、住民基本台帳の「3カ月居住」、のすべてを満たした者に限られることを意味する。民主案は「原則18歳以上」としており、自民党は党内でそれを認める意見も出ていたが、「公選法の規定が『18歳以上』となるまでは『20歳以上』とする」ことで集約していた。今回の「(公選法上の)選挙権を有する者」という表現は、従来の「20歳以上」を意味するとともに、「将来、公選法が変われば『18歳以上』も認められる」という解釈で、民主党と「政治的合意」を狙うという思惑が込められている。

なお、「選挙権を有する者」には公民権停止中の者は含めないのは従来案と同じだが、これは後の「運動規制」(7項)でふれる。

4)国会に「憲法改正案広報協議会」を設置---改憲派に有利な広報機関

これは民主党の「国民投票委員会」案をほぼそのまま受け入れたものである。したがって、協議会の委員は「所属議員数」で「各会派に割り当てて選任する」というので、協議会の運営や活動は改憲派が決めることになる、改憲案の「要旨と解説」は第三者がその問題点も含めて客観的に記述するのでなく、改憲推進派が自分たちに都合いいように記述できる、「改憲案に対する賛成・反対の意見」の割合(1対1か、2対1か)や掲載方法も改憲派が決めることになる、など民主党案の問題点も引き継がれている。

5)投票は「内容的に関連する事項ごとに」---「関連」の範囲を決めるのは改憲派

今回の自民案は「改憲案の提出は内容的に関連する事項ごとに区分して行うよう努めなければならない」とし、投票用紙も「国会の発議に係る改憲の議案ごとに調製(作成)する」としている。これは民主党の主張に沿ったもので、事実上、自民党案にあった「一括投票」の方式を断念したものと読める。しかしそれでも、改憲案の内容的区分提出は「努力規定」であり、一括提出・一括投票を禁じたものではない、「内容的に関連する事項」かどうかを最終的に判断・決定するのは多数派(改憲派)であり、異なった性格(たとえば「新しい人権」と称する各種の権利)や異なった次元(たとえば9条改憲で、「自衛軍」の保有と、それが海外で戦闘できるかどうかという問題)を「内容的に関連する」と強弁する余地が十分に残されている。だからこそ自民党は、民主案に乗ることで改憲に支障はないと判断したのであろう。

6)「有効投票の2分の1」は変えず---「投票総数の2分の1」(民主案)、最低投票率制度は拒否

自民は今回も、国民投票での承認には「有効投票の2分の1超」でよいとする立場を変えていない。民主案のように白票や無効票も「賛成票ではなかった」として反対票にカウントすることになれば、過半数の賛成を得ることの困難さが大きくなると考えているからだ。「最低投票率制度は導入しない」というのもそのためで、できるだけ少ない賛成票でも改憲が成立する方式に固執している。

7)国民投票運動の規制は「やや緩和」---それでも多くの重大問題が存続

<投票事務関係者の運動禁止>
その対象に「会計検査官」「徴税官吏」も含めることには、すでに疑義が出ている。これらの公務員が「投票事務関係者」として運動を禁止される理由は説明されていない。

<公務員の地位利用による運動禁止>
この規定は従来案と同じ。「地位利用」の言葉が拡大解釈され、一般公務員の運動が弾圧される危険性があり、一般公務員の「個人としての権利」が萎縮・侵害される。

<教育者の地位利用による運動禁止>
教育者の運動禁止は独立した規定となり、「学校の児童、生徒及び学生に対する教育上の地位を利用して」という文言が追加された。一見、「地位利用」の幅を狭めたかのようだが、児童、生徒、学生の面前で行なわれる国民投票について、その意味や問題点を学校で教えることも禁止することになりかねず、憲法についての生きた政治教育、社会教育を封殺することになる。

<外国人の運動禁止>
従来案は外国人の運動は全面的に禁止するというものだった。今回案では、外国人の「組織的な国民投票運動や国民の投票行動に重大な影響を及ぼすおそれのある」運動は禁止することになった。さて、「組織的」とはどのようなもので、どの程度の規模のものか、「重大な影響」とはどんなものかは何も明らかにされていない。だから、米国の大使や政府首脳が「改憲賛成」と発言しても、「それは組織的でない」とか「重大な影響は及ぼさない」と容認し、複数の定住外国人やその団体・グループが「改憲に懸念」と発言したら、「組織的運動で重大な影響がある」として弾圧することも可能になる。

<犯罪者の運動禁止>
国民投票に公選法を準用するため、選挙人名簿から排除されている「禁錮以上の刑に処せられたために選挙権及び被選挙権を有しない者」の運動(発言・表現)まで禁止している。改憲の是非についての意思表明は公職の選挙権・被選挙権とは別の次元のもので、衆院憲法調査特別委員会でも参考人から、その運動・投票の禁止は「主権者の地位から追放を意味し、憲法上許されない」という意見も出た。しかし自民党は、「国民として十分に責任も義務も負うことができない者は省くべき」と主張してきた。

<報道機関の自主規制>
従来案は、新聞社、通信社、放送機関などが「虚偽事項の報道、事実を歪曲して記載」することを禁止していたが、今回案は「報道基準の策定、学識経験者による機関設置等の自主的な取組みに努める」という表現になっている。そんな規定をわざわざ置く必要はない。もし報道が改憲派の気に障れば、「報道基準がよくない、こんな基準にしろ」とか、「このような『自主規制』をしろ」と干渉・強要できる根拠規にされかねない。

8)政党のテレビ放送、新聞広告は無料、改憲派が決める方法で---国民に一方的な意見を押しつけ

今回案には、「政党等は、テレビにより、無料で、改憲案に対する意見の放送をすることができる」「新聞に無料で意見の広告をすることができる」という規定が入れられ、その費用は「国庫負担」とされている。その方法は「憲法改正広報協議会が定める」とされているから、テレビ放送や新聞の意見広告の回数、面積などは改憲賛成・反対政党の「所属議員数」によって割り当てられることになろう。そうなると改憲派は自動的に、国費(税金)によって大々的なテレビ、新聞広告ができることになる。これは「主権者」である国民に公平な情報・意見を示して適切な判断を保障するどころか、一方的な情報・意見の洪水に溺れさせることになる。

9)テレビ、ラジオ広告の制限---投票前1週間の広告禁止では事前の大宣伝をした方が勝ち

従来の自公案にも民主案にも、テレビ、ラジオ広告についての制限規定はなく、民主党の一部から「テレビ広告の独占の影響」を懸念する声が出ていたくらいだった。国民投票の先進国であるスイスでは、テレビ広告は視聴者に偏ったイメージを与える影響が大きいとして禁止し、公平なテレビ討論は認めるという制度を採用している。今回案はそれを多少考慮して「1週間」だけ禁じている。しかしそれでは、「60~180日マイナス7日間」のテレビ、ラジオ広告の洪水は合法的なものとなり、その効果はきわめて大きいものとなろう。テレビ、ラジオ広告は全面的に禁止すべきである。

10)国民投票無効の訴訟は「短期裁判」---「訴訟提起があっても国民投票の効力は停止しない」

国民投票無効の訴訟は「30日以内、東京高裁だけ」という規定は変わっていない。今回はそれに「他の訴訟の順序にかかわらず速やかに裁判をしなければならない」という規定が加わった。これは主権者の異議申し立てが「30日以内」に限られ、裁判での十分な審理が保障されず、しかも重大な投票違反があっても投票の効力が停止しない(改憲が成立しうる)、ということを意味している。今回案にも無効判決が出た場合の「再投票」の規定はあるが、それは事実上、空文でしかなくなろう。投票結果の判明から確定(発効)までに一定期間(たとえば1年間)の猶予を設けないことにより、何としても改憲を急いで成立させるというゴリ押しの手法である。

11)国会発議の規定(国会法改訂)も---「憲法審査会」が改憲案提出、衆参合同審査も

改憲案の提出には「衆議院で100人以上、参議院で50人以上の賛成」が必要という規定は従来案と同じだ。「提出にあたっては、内容的に関連する事項ごとに区分するよう努力」という規定についてはすでに触れた。くわえて今回案には、両院に「常設機関として憲法審査会を設け」、「憲法審査会は改憲案及び改正手続き法案の審査と提出ができる」という規定が登場した。これは、いよいよ現実に国会に改憲案づくりの舞台を置き、いつでも(そして何回でも)改憲案とその手続き法案を提出できるようにする仕組みである。

しかも憲法審査会は、初めから両院の「合同審査会」とすることができるようになっており、そこが各院の憲法審査会に改憲案を「勧告」できることになる。これは民主党が示した制度案で、自民党はそれを民主党懐柔と「効率的な改憲作業」の観点から取り入れたものである。これには少数(反対)意見を反映させる制度的保障はない。

この改憲案の国会発議の手続き法案は、それ自体多くの問題点を持つため十分な検討が必要だが、自民党は「国民投票法案」に潜り込ませる形で一挙に押し通そうとしている。

12)その他

なお、民主党が提起している「重要な国政問題での国民投票」という部分は自民党は無視した。結局、今回の自民案は、民主案のうち自民党に不都合でなく、改憲が促進できる規定をつまみ食いし、それにさらに自分たちに有利になる方式を加えたものである。
2006.4.14 T.T.]

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第10回市民憲法講座
改憲のための国民投票法案の問題と9条改憲阻止の展望

高田健(国際経済研究所)

(編集部註)3月25日、市民憲法講座で高田さんが講演したものを、編集部の 責任で大幅に要約したものです。文責はすべて編集部にあります。

164通常国会と憲法改悪などの動向

今、164通常国会が行われています。この国会が始まったときは四点セットという話があった。あの耐震偽装、牛肉の輸入の問題、それから堀江さんの問題に、防衛施設庁のあの大汚職の問題だってあるでしょ。これ以外にもいくつも重大問題があるんですね。今の日本のアジアからの孤立。この状態になったのは小泉さんの責任で、日本の政治家としては重大な問題なんですね。それから国連常任理事国入りだって、外務省がこの問題で責任をとったという話を聞いたことがない。米軍基地の再編だの名護の基地をどうするか普天間基地をどうするかという話がずうっと議論になっています。それから「勝ち組」「負け組」の問題ですよ。これはやっぱり小泉さんの構造改革の中で出てきたことですよね。「もの」を生産することではなくて新自由主義のもとで格差社会が拡大していく。俺は下流だなんて、いつの間にか当たり前になった。小泉さんの言う日米同盟優先と新自由主義がいずれもこれらと関係する問題なんですよね。そしていま小泉さんは教育基本法とこの憲法改正国民投票法、このふたつをやる。もちろん構造改革法関連は仕上げるといって、この3つくらいが後半国会の焦点だというんですね。

国民が知らない間に成立ねらう

国民投票法案の問題でNHKの世論調査があるんです。3月10日朝のニュースで、そこでは、国民投票法案について知っているという人は3%だというんです。1000人に聞いた調査です。少しは知っているという人は24%だった。あまり知らない48%、まったく知らない16%。あと1~2か月、3か月くらいで決めてしまおうというこの国民投票法案について、少しは知っているという人を含めて27%しかいないんです。知らない人が64%いる中で、国会の多数だ・少数だという中で決められちゃうんです。何の法律でもそういう状態で決めるのは良くありませんけれども、ことは憲法に関する法律なんですよ。憲法の行方を左右するような法律がこれほど国民の間にその内容が知らされないままに決められていいものかどうか、あるいは小泉内閣をどうやって生き残らせるかという駆け引きの道具に使われるようなかたちで進められていいものなのかどうか。やっぱり私たちはもっと怒らなければいけないというふうに思うんですね。これは本当に日本の民主主義、代議制民主主義、議会制民主主義あるいは立憲主義の自殺行為につながっていくようなことではないかと思います。

自民党新憲法草案の特徴

去年自民党の結党50周年で自由民主党の新憲法草案というのが出たんですが、これ自身いまの憲法に対する全面的な対案ですから膨大なものです。私たちはよく「改憲」という言葉を使ってきました。これはやってもいいということになっているんです。憲法96条に書いてある。ところが今度自民党からでてきた案というのは「全取っ替え案」なんです。だから彼らは「改憲案」といっていません。「新憲法草案」といっています。その意味では言葉は正確です。国会の憲法調査特別委員会がヨーロッパに調査に行っていろんな国から聞いたんだそうですよ。自民党の人たちはヨーロッパに行って憲法なんてしょっちゅう変えた方がいいよっていわれるのを期待していったんですね。それに社民党の辻元さんとか共産党の笠井さんなんかもいったんですよ。オーストリアで全取替えについてどう思うかと聞いたそうですよ。そうしたらオーストリアの人は、例えば連邦制になるか、あるいはいまは共和制なんですけれども君主制にでも戻るか、あるいは革命をやるか、それくらいのことしか全取替えといったら考えつかないといったそうです。新憲法草案をだしてそれを実現したいということは革命をやるか、クーデターをやるか、昔の天皇制そのものに戻るかそのくらいのことしかないほど重要な問題なんですけれども、自民党はそれをどこまで考えているのかはわかりません。だから私はこれは一種のクーデターだということを言うようにしています。こういうことはいまの憲法の中で認められておりません。

憲法全取っ替えの自民案

いまの憲法は全取替えを想定していません。これを国会で最大党派の与党、政権党の自民党が出してくるんですよ。これはまずいですよ。憲法の99条には、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」と書いてあるわけですよ。だから変えるというのはいいですよ、百歩譲って。しかしそれはこの憲法の下で変えるということなんです。この憲法をまるまる捨て去っていいなどということは国会議員には許されていないわけです。自民党の指導部の国会議員が憲法の全取替えを提案すること自身が大問題なんです。これが自民党案の第1番目の問題です。

歴史の断絶と新国家主義にいろどられた前文

次に自民党の案を読んでみますと、「前文」というのがあります。いまの憲法にあって、自民党の憲法前文にないところがあります。何がないか。戦争の反省がまったくなくなった。二度と政府の行為によってああいう惨禍が起こることのないように、私たちは堅く決意したんだと、私たちはこれから平和国家でいくんだというその反省に基づいた平和主義、そして人々はみんな平和のうちに生きる権利があるんだという平和的生存権、この一連のものが自由民主党の新憲法草案の中には全くないんです。自民党は「それは確かにいまの憲法には歴史のことが書いてありますよ。しかし憲法の前文というものは歴史のことをあれこれ書くようなものではないんです」と説明するんですよ。こう言われると「なるほど」と思わされるんですね。ところが彼らの好きなアメリカの憲法の前文に歴史がないか、フランスはどうなんだ。こうやってみていくとみんな過去の歴史があって、その歴史の上に私たちはそれをどう継承しどう否定してこれからこの憲法の下で新しい社会をつくるかと書いてあるんですよ。私たちが知らないと思って平気で言うわけです。そして前文の中ではもう一つ大変な文句が書いてある。いくら何でも愛国心とか国防の義務とかがそのまま言葉で復活してきたらみんなピーンときますよ。どうやって自民党の大好きなこの言葉を盛り込むかを大変な苦労された。こう書いてあるんですね。「帰属する国や社会を愛情と責任感と気概をもって自ら支え守る責務を共有」すると。「愛国心」、「国防の義務」というのをみんなばらしただけなんですよ。憲法というのは私たちのこういう義務について書くもんじゃないんです。しかし自民党の新憲法草案の前文にはそれが書いてあるんです。

「自衛軍保持」の持つ意味

3番目の問題というのは九条なんです。しかし九条についても朝日新聞が「九条は残った」という意味の見出しを書くほど結構上手なんです。そして自衛「隊」を自衛「軍」に変えただけだと。それで多くの人は「そうだなあ、現実に自衛隊というのは自衛隊というけれども外国からみても軍と言われているし、自衛隊というよりは自衛軍というほうが現実にあっているかもしれない」。ここで民主党さんは、自衛隊が際限なく拡大していくことを防いだ方がいい、と。じゃあ本当にそんなに違わないものだろうか、という大問題なんですよね。

一番大事なところは自衛隊が軍に変わると「集団的自衛権」が行使できるようになるということなんです。集団的自衛権ってなんだというと、昔のNATO(北大西洋条約機構)みたいなものかとか、例えば日本と韓国と台湾とフィリピンあたりがどこかの国から攻められたら共同して守りましょうというのが集団的自衛権のようにすぐに思われてしまうんですけれども、そういう話ではありません。集団的自衛権といいますけれども実は二つでいいんです。集団的自衛権の行使というのは日米二カ国です、日米同盟です。アメリカが戦争やるときには自動的に日本の戦争になるという考え方です。アメリカが攻撃されたら自動的に日本に対する攻撃とみなすということです。いまの日米安保条約は日本が攻撃されたらアメリカは自動的にアメリカの敵とみなしてアメリカは戦うよ、というものです。しかしアメリカが攻撃されたからといって自衛隊がそれに即出て行くという仕組みはないんです。アメリカがイラクと戦ったからといって日本の自衛隊が安保条約の責任の下でサダム・フセインと戦うということはないんです。これは日米安保条約と集団的自衛権の違いですよね。集団的自衛権が行使できるようになるということは「アメリカの敵は日本の敵」、「日本の敵はアメリカの敵」というふうになるということなんです、大違いでしょ。だから自衛隊が自衛軍になるとこう違うわけです。

憲法にもしも自衛軍と書いたら、そこから日本は米英同盟と同じようになる。そういう意味で文字通り「戦争ができる国」、「戦争をする国」になるということです。いまかろうじてそこのところを踏みとどまっているわけですよね、憲法九条のおかげで。

立憲主義の180度の転換

4番目はある意味でこの九条よりも大問題なんです。それは「憲法とは何か」という問題ですね。この点で自民党の今度の新憲法草案はコロッと180度変えている、立憲主義あるいは権力制限規範といわれる問題です。私たちは憲法上、主権者です。この主権者が一部の人に対して政治権力を行使することを選挙その他の方法によって委託するわけです。裁判官なども別のかたちで法律の中で選ばれている。主権者ですけれども私たちは直接政治をするわけにはいかない。権力を委託するに当たってはこういう事をしてはなりません、という契約書をつくるわけですね。それが憲法なわけですよね。

何年か前、全国憲法研究会という憲法学者の集会がありまして、そこで初めて立憲主義というテーマを取り上げたんですよ。憲法学者の人たちにとってはある意味で常識なんですけれども、この立憲主義という考え方は、当時は知られていなかった、少なくとも私は知らなかった。日本に法律はゴマンとありますけれども、憲法とその他の法律の唯一の違いはそれなんです。それ以外の法律はみんな私たちが守らされるもの、破れば、はずれれば、当然処罰されるもの。しかし唯一憲法は、そうする権力者たちが守らなければならないもの。憲法99条です。

憲法を守らなきゃいけない人は「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員」。みなさんに守れとはひとことも書いていないんです。今度の自民党の新憲法草案ではそこをぶち壊しちゃえというわけですよ。これはだからある意味で九条よりも大きな問題なんですよ。町のおっちゃんはいまの憲法は権利ばっかり書いてあるからいまの子どもたちは悪くなったんだ、せめて権利と義務くらいは憲法に半々に書いたらどうだっていう議論をするんですよ。それだけ聞くと、また私たちは人がいいから「なるほど」と思わされるわけですよね。大嘘なんですよね、これは。これは私が言うんじゃないんですよ。アメリカ人のトマス・ジェファーソンが言っているんです。彼はもともと権力というものは疑ってかからなきゃいけないというんです。いつの間にか権利と義務をタイタイに書くのが民主主義だみたいな話が通用してしまう、こんなデタラメ許せませんよ。

いまの天皇が天皇さんになるときに憲法のことを言ったんですね。だから右派、民族派はすごいびっくりして嫌だと思っているそうですけどね。就任するときに「私は国民とともに憲法を守ります」と言ったんですよ。これ絶対昭和天皇なら言わないですよ。どこが間違っていますかというクイズの話。「国民とともに」なんて言ってもらいたくないわけです。「あんたが守れ」とは書いてあるけど、国民とともになんて「だし」にしてもらいたくはないんですよ。見事に嘘を言っている。この発言は立憲主義を否定する発言ですよ。ある意味で憲法違反です。そうやっていつの間にか憲法の立憲主義という考え方を否定されて、今日では自民党がそれをまったく否定したこういう新憲法草案というものを出してきているということなんですよね。

改憲の発議は2/3から1/2へ

最後ですけれども96条の問題ですね。96条は改憲条項ですから、この改憲条項を変えるというんでしょ。一番最初、自民党は国民投票をなくしちゃおうとに考えていたんです。いくら何でもちょっと露骨かなというので考えたのは2/3を過半数にするということなんですね。2/3と過半数の問題についてはちょっと説明をしておきます。民主主義というのは多数決だと私たちはずっと思いこまされてきているんですね。けれど、もし多数決だったらもう国会はいらないですよね。選挙が終わってどことどこの党が多数になったといったら、以降はもう議論はいらないんです、多数党がいってくるものに全部従いましょうで終わりなんです。

実は多数の中にも間違いがあり少数の中にも真理があって少数の中にも聞くべき事があるという前提のもとでいろいろ議論が成り立つんですよね。もし憲法を多数決で変えられるようにしたらどういうことになるかというと、政府は一般的には、多数決で多数派が政府をつくります。もし改憲を過半数で提案していいということになると、いつでも政府が思うように変えられるということなんです。しかし憲法はそれを想定していません。特に日本国憲法はそこでは厳密に考えています。だからその時その時の過半数をもった多数派の意図によっていつでも自由に変えられるようなことはやめようと。野党のかなりの部分まで賛成しない限り憲法は変えられない仕組みなんですよ、2/3という。いま衆議院は与党だけで2/3になりました。しかしいま自公は参議院では2/3にならないんですよ。ここなんですよ、2/3というのがどういう重みをもっているか、どういう先人の知恵の中で民主主義のたたかいの中でこういう考え方が出てきたか。

来年の参議院選挙で自民党と公明党が2/3をとれる保証というのはなかなかないんですよ。だから一部の政党だけで、与党だけで憲法を変えられない仕組みにしているというのはそういう大事な重みがあるんです。それで戦後60年変えられなかったんです。社会党と共産党をあわせるといつも1/3はいたんですよ。日本の憲法が長い間変わらなかったのはどうのこうのって自民党はいいますけれど、それは国民が選挙を通じて野党に、改憲反対の政党を1/3以上は選んでいたんです。2/3というのはそういう意味がありまして、2/3なのか過半数なのかというのは簡単に変えていい問題ではありません。

ありうる改憲案は日本経団連の提言に

この案を自民党はいますぐに通そうと思っているのかというとそうではないんです。自民党は自分たちの理想の案というふうに出しているんですよ。だから次にくる彼らの改憲案というのはこれだ、と思ったらまた私たちは間違うと思うんです。去年の春に日本経団連が憲法問題に関しての提言を出しています。この経団連は実は奥田さん以前は、政治にはあまりに露骨に表向きには口を出さないのが建て前だったんです。奥田さんになってからはすごいですね、一番先に出したのは政党評価というのを出した。その評価によって金も出すっていうんですよね。そういう金も出す・口も出す奥田さんの経団連が去年の冒頭に出したのが憲法提言なんです。私はこれが多分この次に自民党なりいろんな改憲派が出してくる一番あり得る改憲案だと思いますね。その経団連の提言の中で、まずふたつ変えればいいといっているんですね。ひとつは九条です。自衛軍なり軍隊を認めればいい、そうすれば自動的に集団的自衛権も持てる。財界にとってはこういう集団的自衛権を行使できる軍隊がもてるかどうかというのは実は大変な問題なんですね。もう国際活動なしには日本の財界は成り立ちません。とりわけマラッカ海峡から中東までのシーレーン、ここのエネルギー、全世界に日本の経済は広がっているわけですからこれをしっかり守ることなしには成り立たないんですね。財界にとってはこれはすごい真剣な問題なんですよ。だから九条はやっぱりどうしても変えてほしい、緊急の問題だといっています。それからもうひとつは96条なんです。このふたつを変えておけば、あといろいろ経団連からみていまの憲法に不満なところはあるけれども、それはだんだんに変えればよろしい。これが去年の初めに出した経団連の提言の一番の骨子です。

それはそうだけれど、それだけでは勝てそうもないからという中で出てくるのが、第三章の問題です。国民の権利と義務、ここのところを変えましょうという。だから2○○○年にもし自民党から改憲の提案が国会に出るとしたらこの3つという可能性は非常に大きいんです。しかし3つといいますけれども、第三章で、「環境権」だの「知る権利」だの「犯罪被害者の権利」だの「知的財産所有権」だのなんだのいろんな権利を具体的に付け加えましょうと、より通りやすくオブラートの役割として第三章というのを出してきている。これが出てくる可能性が非常に大きいのがいまの改憲の状況だろうと思います。あり得る改憲案というのはそういうことなんじゃないかなあというふうに思います。

「国民投票法案」の今国会上程阻止を

国民投票法案の国会上程を阻止したいと思っているんですけれども、出るかもしれません。この法案が出るかどうかはこれはもう民主党さんのいまの動向ひとつにかかっています。自民党がいまこの国民投票法案を国会に出したいという理由をどういっているかです。必ずこう言うんです。いま憲法を、九条を変えるか変えないということは別にして、憲法96条があるんだからこの国民投票法案というのは本来必要なんだ。いままで作ってこなかったことが立法不作為なんだ、立法の怠慢だ、国会の怠慢なんだと。市民運動は「憲法改悪のための国民投票法案」なんてすぐ言う、そうじゃないんだ、というんですよ。これがいかに嘘かというのはもう言うまでもありません。これはもう九条を変えたいから出してくるんですよ。じゃなかったら、なんでまだ国民が2割なんぼしかこの法案について、知っているという人がいないのに、この後半国会で強引に多数決で決めちゃうなんて言うんですか。私たちはこれを一般的に憲法改正国民投票法案とは呼んでいません。「憲法九条破壊の手続き法案」だというのが一番本質です。憲法改悪のための手続き法案なんですよ。そうじゃなかったらあとでやってくださいというようなものですよ、本来。でもこれはこの程度にしておきます。

私たちは「改憲」を止められるか

それで、実際に私たちはこの憲法改悪の流れを本当に止めることができるかのどうかという問題ですね。私がいくつか道があるというふうに思っているその一つの根拠があの世論調査ですね。憲法を変えようという人はいま多数いますけれども、九条を変えないほうがいいという人はどの世論調査をみてもほとんど5割近くいるんですよ。しかし選挙で九条を変えるのに反対だという政党に投票する人はこの前の選挙だと社民党と共産党をあわせて13%くらいですかね。「九条を変えない方がいい」と思っている残りの37%の人たちは自民党か公明党か民主党に入れているんですよね。

選挙ってこういうものなんですよ。それはそうだと思います、選挙は別に九条だけで争うんじゃありませんから。うちは代々あの人を支持ということで投票する人もけっこう多いです。しかし憲法九条を守ろうという人たちがじゃあ何が何でも憲法九条があった方がいいと思うか、それほどではないんですよね。聞かれれば、まああった方がいいんじゃないと答える人が多いってことなんです。だから私は過半数憲法九条を変えない方がいいという世論調査があるからみなさん安心しましょう、それで九条は守れます、なんてこんな話をしようと思っているんじゃないんですね。若い人というのは自分の興味はたくさんありますから、その中の30番目かもしれませんよ、憲法九条というのは。だから「聞かれれば」、若い人も「それはそうだ、変えられない方がいい」というふうに思うわけですよね。ただ問題はそういう条件があるのを生かさない手はないんだと。

自民党の立場から考えて下さい。憲法を、九条を変えようという側にとってはこの世論はすごい心配ですよ。これをどうやって覆して、九条改憲にもっていくかという作戦を一生懸命自民党は考えているんだと思うんですよ。私たちもだから逆にそこを考えなきゃいけないんだと思うんですね。私たち側のいわば、むかしでいう軍事用語ですけれども「戦略・戦術」があっていい。世論でわれわれはマジョリティなんだということなんですよ。

どうやるかなんです。しかし例えば国民投票が来たとします。その直前に北朝鮮がミサイルを準備をしてる、などと新聞が一斉に一面書いたらどうなるでしょうか。あるいは台湾海峡が非常に緊迫したとか、中国の原子力潜水艦が石垣島に出没した、対馬海峡に出没した、などということが新聞に一斉に書かれたらどうなるでしょうか。軍事問題を研究している人に言わせると、日本海なんていうのは中国、朝鮮、韓国、ロシア、アメリカなどの潜水艦がうようよしているといいます。日本の自衛隊は全部知っているんだと思います、必要な時に小出しをして新聞の一面でやればいいわけですよ。これで一気に国会情勢がかわっちゃったこともある。そういうふうになってくるといま私がいった九条は多数であるなどというのはきわめて危ないもの、不安定なものになるわけですよ。これはできますもんね、マスコミを動かせる人、世論の状況というのは作れるんだと思うんです。今度の郵政民営化選挙だってひどかったでしょ。小選挙区制のときは政治改革をいわないものはもうアホじゃないかと思われて、一気にダーッと小選挙区制というのがやられていった。あの人たちにもう一度お聞きしたいんですよ。2大政党制になってよかったでしょうか、政権交代できたでしょうかと。九条のことだって同じことをやろうとすればあの人たちはやれる。

たとえ逆風でも、それに打ち勝つ運動を

それでも私たちがそういう流れの中でこの逆風に打ち勝っていくにはどうするかということですね。それを獲得した方がいいと思うんですよ。みんなの中で民主的に憲法改正は賛成か反対かなんて議論をちゃんとできるような、私たちもいろいろビラ配って、いまビラ配ったら逮捕されちゃう時代ですが、そういう中で私たちが憲法九条改悪反対ということに勝利をしなければならない。ただ私はそう言うときに歴史のことを考えなきゃいけないと思うんです。あの岸内閣を打倒した60年安保のたたかいですよね。国会を何十万の人が取り囲んだ。岸内閣は倒れたんです。しかし私たちの力はそこまでで、自民党政権そのものを倒すまではいかなかった。70年安保はもっと小規模ですね。しかしあの安保闘争があったから、そのあと出てきた池田内閣は低姿勢で出てきたんですよ。所得倍増、そして私は憲法改正などはやりませんといって登場したんです。そう言わざるを得なかったんです。逆に言えばどのくらいその当時の民衆の力が強かったかですよ。

この安保反対のたたかいは当時安保改定阻止国民会議というのがあったんです。当時総評というのがありました。「昔陸軍、今総評」なんて言われていた。あの総評が中心になって共産党も社会党も、そして中野好夫さんとかそういう文化人が、ちょうど今の加藤周一さんとかああいう人たちと同じような文化人です、あの人たちが呼びかけて広い共同戦線をつくったんですよね、それが安保改定阻止国民会議なんです。これが全国で中央でもできました。各県に各地域にまでできたんですね。それが私の田舎のような郡山のあたりにもできたんです。それがデモをしょっちゅう組織したんです。だから国会を取り囲んだ数十万ののデモだけじゃないんです。全国でやったんです。

そしてあまりいわれませんけれど、あの当時は中国でもベトナムでも世界のいろんな国で日本の安保改定阻止闘争を支持するというデモをやったんですよね。私はその当時ちょっと変に思いましたね、中国で日本を支持するデモをやって何の力になるのかな思いましたけど、でも今考えるとすごいですね、全世界で日本人民の安保改定阻止闘争を支持するという運動があったんですよ。いまのイラク戦争反対のあの大きな運動と雰囲気はある意味で似ているかもしれない。

私はこの九条改定を本当に阻止するとしたら、この60年安保闘争以上のそういう安保改定阻止国民会議のようなものをつくるかどうかなんですよ。そうすればマスコミやいろんなところから誹謗中傷が流されて、あるいはいろんな危機感が煽られてもそういう思想信条、政治的立場の違いを超えたネットワークがいろんなところでできてきたら、それはそう簡単にだまされませんよ。私たちが説得できると思うんです。いろんなところで多くの人々と一緒に討論できると思うんです。本当に勝つためにはいまは漠然と聞かれれば九条はあった方がいいなあ、戦争はやっぱり嫌だよと思う人たちのところに、そこに声が届くくらいのところにまで私たちのネットワークができるかどうかという夢みたいな話なんですよ。これができなければ私は本当に大丈夫だというふうに言えないんだと思うんです。

九条改憲阻止の1点でネットワークを

だから今からこの「大丈夫だ」という体制をつくる必要があるんだと思うんです。1年半前に加藤周一さんや大江健三郎さんたちが「九条の会」を呼びかけたときは本当にうれしかったですね。いま「九条の会」はだいたい全国各地に4500です。この勢いはすごいと思います。もちろんこの中には本当はこうあった方がいいのにと思う、いろんなものがありますよ。それはもうしょうがないですよ。「九条の会」は○○党系だなんていわれることはけっこうありますもん。しかし、そうじゃないところもある。そしてどれが一番私たちのあるべき「九条の会」なのかというのを見極めて、それを本当に拡げていくことなんだと思うんですよ。

この前、広島県福山市で九条の会をつくった仲間に会った。福山市の「九条の会」の中には本当に自民党の党員さんたちもずいぶん入っているんだそうです。つくっている間でも自民党を中心にした部分とそうじゃない部分にすぐ分かれようとするといっていました。事務局をやっているとどんなに胃が痛いか、どんなに心臓がきついかといっていました。高田たちはすぐ「思想信条、立場の違いを超えて広範なネットワークをつくる」とひとことでいうけれどもそのひとことがどんなに難しいかということをいっていました。私はあの報告を聞いてうれしかったですね。確かに○○党系ばっかりしかいない「九条の会」もあります。不幸にしてみなさんの周りにはそういうのだけかもしれません。しかし例えば、町会議長さんを先頭に全部の町会議員が参加しさらに町の中の仲間もいろいろな町会、自治会の人たちがみんな入った「九条の会」なんかもつくったという話もききます。中心を自民党の人がやっているという話もききます。

私はこれが本当に地域にできていったときに強いと思うんです。さっきの50%と13%の話ですよ。残りの37%は自民党か公明党か、いま改憲を進めるという人たちを支持している人に投票している人なんです。もしそういう頭の人たちが、そのほかの政治ではおまえらと違うけれども九条は変えない方がいいというところだけだったら一緒にやるという自民党員はいるんですね。今日も昼のシンポジウムでも話が出ていた後藤田正晴さんなんかもそうでしょう。あの人はやっぱり九条だけは守るというのは非常に頑固でした。いま九条の会には三木睦子さんという方が入っておられます。三木武夫さんの連れ合いですよね。三木睦子さんは「九条の会」に入ってくるときに、自分は三木武夫が嫌いだ、もう自民党総裁は嫌だと思って「九条の会」に入ってきたんじゃないんです。あの人はいまでも一番立派な人は三木武夫だと思っているんです。日本の政治家で一番九条を守ろうとしたのはうちの三木武夫である、という彼女の確信ですよ。

これでいいんだと思うんですよ。こういういろんな政治的な幅の人たちがもし、「九条の会」でもいい、気にくわなかったら名前は別に何会でもいいです。要するにそういう思想信条を超えたネットワークをいまどれだけたくさん準備しておくかというところにかかっているんだと思うんですね。それが例えば、いま私たちは全国の小学校区単位に「九条の会」をつくろうといっています。そうすると2万から2万5千くらいになるんです。いま4500ですからまだまだ前途は遠いんです。しかしそれをやり遂げようと思っています。小学校区単位にもし党派の違いを超えて「九条の会」ができたらどういうことになりますか。子どもを持っているお父さんやお母さんはお互いに知り合いですよ。そうするとあそこは選挙になるとすぐ公明党さんに入れてくれっていうお母さんだとかお互いにけっこう知っている人いますよね。そういう知っている人の間で九条だけは一緒にやりませんかという、顔を知った関係の中でできると思うんですよ。それがもしできるとしたら私たちは勝つんじゃないか。どんな逆風がきても九条の問題だったらやれると。いまからの仕事はこれだと思うんですよ。だから時間が欲しい。

国民投票法に私はいま反対しています。この国民投票法を私たちは何としてもこの国会での通過を阻止したいと思っているのは、単に遅らせたいという理由だけではなくてもう一つあるんです。自民党が憲法を変えるための国民投票だといってくるまでに、どんなに短くてもあと4、5年は欲しいんです。そうしたらみんなとよく話ができる、本当の意味の民主主義、いろんな人が憲法について考える時間が、こっちの側から取れる。そういう間に思想信条、政治的立場の違いを超えた憲法九条のネットワークをつくっていこうと思うんですよ。改憲派は時間がない間に一気にやりたい、その争いだと思う。

9条をかかげて21世紀の東アジアの共生へ

今日、シンポジウムの中で面白い話がありました。民主党の憲法問題の責任者、先ほどからいっている梁瀬さん。それにある人が質問したんです。「もしいま改憲派といっている人たちは国民投票で負けたらどうなるんでしょう」とね。梁瀬さん「そういうことをいま考えている人はひとりもいません」と答ました。そうだと思いますよ。私は市民運動もたまには勝った場合のことを考えましょうよと全国でいっているんですよ。もし勝った場合はどうなりますか。梁瀬さんはその質問に「否決された場合は空前のアナーキー状況になるでしょうね。政治的空白、憲法体制が一挙に崩れるでしょうね。だからやっぱり本当に慎重に提案はしなければいけないと私は思います」と答えた。立場は違いますけれどもそういうことだと思いますよ。国民投票で否決された時にはその政治勢力は、有権者から基本的なところで「ノン」といわれたことになるわけですよ。辻元さんは「そういうことは考えている人はいないけど、もし勝ったら(要するに九条改憲が国民投票で否決されたら)私は、それ、自衛隊はどうするんだっていってやりたいですよね」っていっていました。その通りですよ。否決されたら集団的自衛権なんか使っちゃいけない、日本は戦争できる国になっちゃいけない、あの戦争の反省を投げ捨てるような国になってはいけないということになるわけですよ。そしてなによりもこれを否決した市民自身が自信を持つと思うんです。そしてアジアの人々がこの国にもう一度信頼を寄せると思うんです。そして実は否決する運動の中で、アジアでもきっといま憲法九条を支持するという運動が起きるはずです、この何年間かの間に。

実は市民連絡会はここ数年そのことを考えています。アジアの人たちと世界の人たちとどうやって連携しながらこの九条改憲に反対していくか。経済同友会の終身幹事の品川正治さんという方がいます。品川さんは、「もし憲法九条改正というのを日本の国民が阻止をしたら、それは東西ヨーロッパの統一以上に世界史に大きな影響を与えるモニュメントになるに違いない」と言っています。そういう意味なんですよ。もし日本の憲法九条改悪を阻止できたら、日本にとっては平和国家だというのを再確認し、それに基づいてもう一回この社会を作り直すというだけではなくて、実はアジア的な世界史的なモニュメントになってもう一回21世紀の平和をどうやってつくっていくかという、そういう契機になるんですよ。

先日、大変うれしい報告を韓国の人から聞きました。韓国に「参与連帯」という組織があります。そこの人たちが、韓国の中で日本の憲法九条について理解する運動をつくる組織をつくったという報告をしてくれました。いまピースボートがモンゴルや中国や韓国や東アジアの国々と一緒になってこの憲法九条の討論をしています。若い人たちは2008年には「憲法九条世界会議」というのをやりたいといっています。そして日本国内でも運動の盛り上がりと国際的な九条擁護の運動の中でこの憲法九条改悪の流れを打ち返していきたい。その時にはじめて戦争責任を含めて日本があの過去の戦争の歴史を本当の意味で清算してアジアの人たちと一緒に手をつないでいけるような、そういう新しいモニュメントになるかもしれない。そういう運動が始まったんです。

ここ数年めざましい変化がこの憲法の分野にも出てきています。ですから市民の側が主権者として、具体的な運動と対抗戦略をつくりそれを具体化していく時期に入ってきていると思っています。市民がこれから本当に訓練され熟達しなきゃいけないのは、市民の運動の中でいろんな議論をしながら、同時にいま最大の焦点になっている憲法九条に関しては、いろんな意見が違う人とまで一緒にスクラムを組んで運動ができるというところで市民はもっとたくましくなる必要があると思うんです。あまりナイーヴではダメなんですね。ここがもっともいま改憲派の恐れることではないかと私は思ってます。こうした運動をいまから数年、全力を挙げてあとで悔いることのないように、つくっていきたいと思います。

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4月6日 憲法改悪のための国民投票法案に反対する昼休み国会デモ

憲法改悪のための「国民投票法案」審議のために05年の臨時国会で衆議院に設置された「憲法調査特別委員会」は、4月13日現在通算14回開催されている。

まぎれもなく9条改悪を狙う「国民投票法案」審議は、与党議員が圧倒的優位の委員会のなかで「中立的に国民投票法には賛成」とする(一部の民主党の)人たちを否応なく飲み込んでいくのは当然だ。「いまこの時期に国民投票法は必要ない」(共産党・社民党)とする大事な論点は置き去りにされたままになっている。「憲法改正に向けた準備のための整備でないこと」を前提に議論したいという(3月9日、枝野幸男民主党議員)発言も、何ら担保されることもなく、3月30日から「論点協議」に入った。

国会状況はいま大変厳しい方向へ大きく動いていると言えます。このようななかで4月6日、「憲法改悪のための国民投票法案に反対する」市民、労働者の声を緊急に国会に届けようと、「2006年5.3憲法集会実行委員会」主催による昼休みデモがおこなわれた。12時頃には霞門の日比谷公園入り口に組合や市民団体の色鮮やかなのぼりや、各自のメッセージボードが立ち並び、4月の陽光のなかでひときわ目をひいていた。

12時15分、主催者側から「国民投票法成立を阻止しよう」と挨拶があり、すぐに国会へ向けてデモに移る。満開の桜を遠目にしながら「改憲のための国民投票法はいらない」と昼休みの官庁街にシュプレヒコールを響かせた。デモが終わればすぐに職場に戻らねばならない人も大勢参加している文字どおりの昼休みデモ、自然と早め早めに歩く。

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第8回けんぽう市民フォーラム
どう考える『憲法改正国民投票法案』

3月25日、東京・神保町の専修大学で「第8回けんぽう市民フォーラム」が開かれた。専修大学社会科学研究所と同法学研究所の共催で行われたシンポジウムのテーマは「どう考える『憲法改正国民投票法案』」。第164国会の後半の焦点として改憲のための「国民投票法案」が大きく浮上している。

古川純さん(専大教員)の司会で進められたシンポでは、冒頭に高田健さんが「NHKの電話での世論調査では、国民投票法案について知っていると答えた人が2割、知らない、あるいはほとんど知らないと答えた人は69%に達している。こうした状態で国民投票法案を上程し、拙速に可決・成立に持ち込むのは問題だ」と提起した。シンポジウムのパネリストは簗瀬進さん(民主党、参院憲法調査会会長代理)、辻元清美さん(社民党、衆院憲法調査特別委員会委員)、菅沼一王さん(日弁連憲法委員会事務局長)の3人。

簗瀬さんは「私は憲法9条を改正すべきという立場だ。このままだと文民統制もないままに海外派兵を進めていくことになる」と明らかにした上で「9条改正の前提は、歴史認識と歴史総括をはっきりさせることだ。なぜ間違った侵略戦争をしたのかについての自己反省、自己分析が9条を変えるために不可欠の条件だ」と述べた。

「今まで国民投票法案がなかったことには意味がある。国民投票法は憲法改正と一体となったものであり、国民の意識が高まってから手続き法を作るべきだ。しかしこの『不作為』を続けている間に世界の状況は変化し、米ソ冷戦の終焉とともに地域紛争が全世界で激発している。日本にも海外で貢献するニーズが高まっている。しかし今の自衛隊はシビリアンコントロールが利かなくなっている。そのためにも憲法九条を改正して議会による民主的統制を行うことが必要だ」。こう語った簗瀬さんは、「改憲とは何かということをリアルに国民がイメージしていくことが必要であり、そのためには手続きの議論を行うのが一番いい。その上で国民の理解を深めた上で手続き法を決めていけばいい。民主党は今秋までに11カ所で憲法対話集会を開催し、民主党の『憲法提言』と国民投票法案についての対話を進めていきたい。わが党の渡辺国対委員長が『国民投票法案を作らないのは憲法違反だ』と語ったと報じられているが、あまりそういうことは言わないようにクギを刺している」と述べた。

辻元さんは次のように語った。 「衆院の憲法調査委員会は定数50人の最大委員会だが、前回私がしゃべった時にはなんと16人しかいなかった。憲法を変える、国民投票法を作ると言っている自民党の委員が出席していない。残った人びともおしゃべりをしている。私が『ちゃんと人の話を聞きなさい』と注意したら『聞くに耐えないからだ』とヤジを飛ばす始末だ」。

「自民党の新憲法草案は憲法の質を変えるものだ。この新憲法草案を作った人びとが国民投票法案を急がせている。憲法九条を変えた上で、自衛軍の構成や任務については法律に丸投げする形になっている。そもそも憲法条文に歯止めがない。こうした状況で近代憲法の原理を破壊する『新憲法』と一体のものとして改憲の手続き法案を作るのは反対だ」と語った。
日弁連の菅沼さんは、昨年2月に出した国民投票→法案与党案への日弁連意見書について「日弁連の中には、憲法そのものについて意見が詰まっていない段階で、こうした意見を出すことには国民投票法案を作ることそれ自体には賛成していると受け取られかねない、という意見もあった」と紹介した上で、国民投票法案について「・国民に正しく改憲事項についての情報が伝えられる必要がある・十分に議論しあうための条件、期間が必要・国民の意見が正しく反映される投票方法・国民の少数だけで改憲賛成とならないように投票率の下限を設定すること・教員や公務員にも自由な言論を保障し、『虚偽報道の規制』などという口実でマスメディアを規制することのないようにする」などの立場を述べた。

補足発言の中で簗瀬さんは「自公両党が、野党の注文をマル飲みしかねない状況の中で、民主党としては『憲法改正国民投票法案』と国政問題一般に関する国民投票法案という2本の柱を立てて、なんとか自公にマル飲みさせないようにしている」と述べた。
また辻元さんは「人びとの関心が弱いところでは野党の抵抗には限界がある。一人でも国会前で座り込み行動をやってほしい。国会のまわりを包囲するような大結集を実現してほしい」と参加者に檄を飛ばした。(K)

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憲法共同会議が国民投票法案阻止で連続行動

憲法共同会議(憲法を愛する女性ネット、憲法を生かす会、市民憲法調査会、全国労働組合連絡協議会、平和憲法21世紀の会、平和を実現するキリスト者ネット、平和をつくり出す宗教者ネット、許すな!憲法改悪・市民連絡会)が「改憲のための国民投票法案」に反対する活発な連続行動を続けている。

3月30日午後、憲法共同会議は平和フォーラムとの共催で、改憲のための国民投票法案反対、米軍基地再編反対の「市民と国会議員の緊急院内集会」を開いた。平日の昼であったが、衆議院第2議員会館の会議室があふれる180人の市民が参加し、住民投票を成功させた岩国市議の田村順玄さんも駆けつけた。民主党の国会議員が4人、社民党の議員が8人、共産党と無所属の議員が各一人と14人が参加した。民主党の国会議員が国民投票法案反対も掲げられた市民集会に複数参加するのは画期的なことであった。

4月6日の昼休み国会デモ(本誌別掲)につづいて、4月13日には12時から国会前集会を路上で行い、100人を超える市民や労組員が参加し、社民、共産、民主の国会議員が挨拶した。

4月20日には衆議院憲法調査特別委員会の理事懇談会が開かれる憲政記念会館(国会前)の門前に約40人の市民が集まって、要請アピールを行った。

この理事懇にたいする行動は初めてであり、憲政記念会館前というのも国民投票法案反対の行動としては初めてであった。当日は朝から雨で案じられたが、午後からの行動の直前にはからりと晴れ上がった。警察はバス3台分の機動隊も用意するなど緊張した様子で、場所の移動を執拗に要求してきたが、参加者はこの不当な干渉を跳ね返して計画を貫徹した。特別委員会の理事たちは車や徒歩で、プラカードと横断幕が立ち並ぶ前を通り、会場に入っていった。

これらの一連の行動は毎週木曜午前に開かれる衆議院憲法調査特別委員会と、午後に行われる理事懇に向けたものだ。すでに民主党の理事と自公与党の理事の間では、今国会での法案主旨説明と質疑まではOKという線の話がされているなど、事態は厳しいが、院内で反対している社民、共産の議員に呼応する院外の行動を盛り上げ、民主党の良心派議員を激励していく必要がある。今後、さらに積極的にロビー活動や集会を重ね、運動を大きく盛り上げて行くことが求められている。

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