7月24日「『九条の会』発足記念講演会」が開催された。1000人分の整理券が1週間前には全部捌け、会場となったホテルオークラ曙の間は満席となった。報道関係者も予定された席を埋め尽くす関心の高さだった。呼びかけ人は9人のうち8人が出席した。
小森陽一氏、渡辺治氏の司会で始まり、井上ひさし氏が最初の挨拶に立った。与えられた短い時間の中で吉野作造の「憲法は人民が時の権力に対して発する命令である」という言葉を紹介し、「現憲法の命令の中心は9条である。これはアメリカの押し付けではなく、国際的な不戦条約の条文とも一致するものである」とその普遍性を説明し、「これを守るために最後の何人になろうとも守り抜く決意である」と固い決意を表明した。
次に挨拶された三木睦子氏は故・三木武夫元首相に「なぜ自民党なんかにいるの?」と尋ねたら「僕が他党に行ったら9条が守られなくなる」との返事が来たといい、その遺志を継ぐためにも「軍隊を外国に出し、戦争したいという人がいる以上、それに抗わなくては」と決意を述べた。
記念講演のトップを切った大江健三郎氏は、「最近の経団連会長の武器輸出禁止三原則等の見直し発言、アーミテージ米国務副長官の憲法9条は日米同盟関係の妨げという発言などからも、次の国会は改憲の場になる」という状況判断を示した。それに抗する者の倫理観として「死者に向き合う想像力」を指摘し、「折鶴を折ることを通して広島の少女に連なろうとする想像力によって、いま日米で進められている宇宙をも含めた核支配権力に対して抵抗できる」と主張した。
奥平康弘氏は、「改憲派は9条に限定せずに、あれやこれやの論点を出したり引っ込めたりしているが、改憲論の焦点は9条だ」と断言。「憲法の3つの思想(平和主義・基本的人権の保障・主権在民)は相互関連性をもって1つのシステムとなっている。日本国憲法の平和主義はカントの世界平和主義を引き継いだものであり、しかも単なる宣言ではなくシステムとして制度化されたものである。そして今ようやく日本国内で成熟されようとし、全世界に向けて発信する地点に来た。国際的な平和を創っていくための積極的な手段として9条をアピールすべきだ」と訴えた。
小田実氏は、自らの空襲体験を語った後に「米国は一方的な破壊と殺戮と共に、素晴らしい民主主義を持ってきた。我々は、どんな正義を言っても戦争はいかんと受け止め、平和主義を民主主義と結合させた」と説明。「9条はその象徴でアメリカの民主主義・自由主義とは違う日本独自のものだ。ベトナム戦争の脱走兵もこの憲法のある日本で暮したいと言ったことからも、日本国憲法は世界平和宣言であると言える。がたがたにされている世界平和を作り直す根本原理が9条である」と強調した。
加藤周一氏は現在の政界の改憲ムードを見て「来るべきものが来た感じだ」と言い、「吉田茂以来の解釈改憲に限界が来たためにいよいよ条文改憲に動き出している」と指摘した。その上で、もし現在の憲法がなかったら何が起こっていたかを想定して、「(1)集団的自衛権=日米軍事同盟の強化 (2)徴兵制 (3)軍産体制 (4)軍事力増強=外交的選択肢の狭隘化・孤立化」を挙げた。そうさせないためにすべきこととして、「九条の会アピール」を広め、賛同者を増やすことを提起した。
澤地久枝氏は、「自衛隊は時の政権による嘘の積み重ねによってどんどん大きくなった。軍事力はある程度整うと力を発動したくなるもの。日本も今の経済的閉塞状況の中で軍事に頼る動きが出てくる恐れがある。アメリカが第2次大戦後常に戦争をしてきたのに対し、日本が戦争をしてこなかったのは9条が歯止めになっていたからだ。世界に向かって9条の意味を宣言し、子ども達に9条の誇りを伝えたい。小さなことでも良いから意思表示をしよう!」と訴え、自らも「ここから1ミリもひきません」と力強く決意を表明した。
鶴見俊輔氏は、「法律は初めから法律なのか」と問題提起し、法の前にあるもの、法を支えるものについて自らの体験を基に話した。「軍隊にいてたまたま敵を殺す立場に遭遇しなかったからといって、私は人を殺したことがありませんと言っていいのか、という問題意識が根底にあって9条を尊重する意志となっている。この例のように、政治ももっと広く解釈しないと分からないものであるから、政治を職業政治家集団に委ねてはならない」と主張した。
講演の後、事務局よりこれから取り組むべきこととして以下の3点が提案された。(1)「九条の会アピールに賛同する会」を各地・各分野でつくる。(2)ビデオ・ポスター・ブックレットを活用して「九条の会」のメッセージを全国に広める。(3)大小様々な講演会・学習会を各地で開催する。
2時間余の短い講演会ではあったが、各氏が主張のエッセンスを凝縮して話されたので、充実した集会になった。呼びかけ人をはじめ賛同者はいずれも各界で活躍されている見識のある方々で、まさに日本の良心の総結集という観があった。短期間にこれだけの人々が参加したということは、国民の多くがこの結集を待っていた証ではないか。護憲を言うと「まだそんなこと言っているのか」と冷笑する永田町と国民との乖離を如実に示しているのではないか。「改憲」「加憲」等を言うことが政権担当能力を示すことであるかのような錯覚をもった政治家に対して、はっきりと「NO!」という時が来ている。「戦争の20世紀」が終わり、「戦争の無い21世紀」を創り出そうとしていた時に、高邁な理念無き指導者を抱いた不幸を嘆いてばかりはいられない。この集会を皮切りに、護憲勢力の総結集で反撃を開始しようではないか。
(平和憲法を広める狛江連絡会 小俣三郎)
高田 健
先の参議院選挙のさいに自民党から猛烈な抗議を受けたパロディストのマッドアマノ氏の作品「あの米国を想い、この属国を創る」を改めて思い出した。自民党が「この国を想い、この国を創る」のコピーを小泉首相の立像と組み合わせたポスターを選挙用に制作したことへのアマノ氏の痛烈な批判であった。この自民党によるアマノバッシングは「パロディというものを理解しない」「権力をカサにきた攻撃だ」という批判を浴びたが、いま言いたいのはそのことではない。
報道によると、訪米中の中川秀直自民党国対委員長らにたいして、7月21日、アーミテージ米国務副長官が「憲法九条は日米同盟関係の妨げのひとつになっている」と語り、日米同盟関係の強化のため憲法9条を変えて集団的自衛権の行使を可能にすべきだとのべ、「われわれは日本の国連安保理常任理事国入りを強く支持してきたが、国際的利益のために軍事力展開の役割を果たさなければならない。それができないならば常任理事国入りは難しい」と言ったという。
アーミテージ氏といえば2000年末に発表したいわゆるアーミテージ・リポート(米国防大学戦略研究所特別報告「米国と日本 成熟したパートナーシップに向けての前進」)で日本に集団的自衛権の行使を要求したことが知られている。「集団的自衛権を日本が禁止していることは同盟協力の制約になっている。この禁止を取り払えば、より緊密で、効果的な安全保障が可能になる。これは日本国民だけができる決定である」として、憲法を変えるかどうかは日本人が決めることだと憲法問題に直接ふれることは回避していた。
今回はその発言の枠を踏み越えた。
米国は日本に対してアフガン攻撃の際には「ショウ・ザ・フラッグ」と言い、イラク攻撃の際には「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」「逃げるな!(イラクへの復興支援は)お茶会ではない」と言って、露骨に日本の安保防衛問題に介入し、派兵を要求する発言を繰り返してきた。こんどはとうとう「憲法第9条は日米同盟の妨げだ」とまで言うに至ったのだ。こうした米国政府当局者の発言には我慢がならない。民族主義的な反発のレベルの議論に与するつもりはない。しかし、これはあからさまな内政干渉であり、グローバルな規模で日米攻守同盟にしっかりと組み込んで、日本を戦争をする国に仕立て上げようとするものだ。
さらに問題なのは中川議員が意図的にこの発言を引き出そうとしたことだ。改憲の世論を高めたい自民党の幹部としては、その援護射撃が欲しくて、こうした発言を引き出したということのようだ。このアーミテージ発言は中川氏が「憲法見直しの議論を始めなければならない時代に来ている」「時間が少ないので憲法改正の話はあまりできないかもしれないが」と持ちかけたことに「いや、どんどんやろう」とアーミテージが応じた発言なのだ。
マスコミも「情けない外圧頼み」(朝日)、「考える順序が逆ですよ」(毎日)などと社説で批判した。
もしもわが政府や与党に本当に「この国を想い、この国を創る」気概があるなら、せめて「アーミテージ氏がわが国の憲法に口を出し、改正しろなどというのは大きなお世話だ、憲法が日米同盟の妨げになるなら、そのような日米同盟は考え直す。憲法9条が常任理事国になれない理由なら、ならなくて結構だ」というくらいのことは言うべきではないのか。中川氏らはこうした米国のタカ派政治家に付き従って、この国を滅ぼそうというのか。
(本稿は朝日新聞7月26日投書欄に掲載された原稿に大幅に加筆したもの)
南風原在 松井裕子
4月19日に始まったボーリング調査阻止の座り込みも3ヶ月になります。
私は6月は丸々行けませんでした。「命を守る会」から日々発信される晋君メールによると、那覇防衛施設局員は月曜から金曜日の午後3時から4時にかけて現れ、「基地建設を進めたいので……」と言っているようです。足を運んで説得に努めているというアリバイつくりなんでしょう。
テントには海外からも人びとが訪れています。米国の映画「チョムスキー9・11~」の監督ジャン・ユンカーマンさんらが取材して、「こんなにたくさんの人が平和を守ろうと努力していることに希望と敬意を感じる」と語ったそうです。彼らは今「世界からみた日本国憲法」をテーマにしたDVDを制作中とのことです。6月30日から県内で開かれた「国際サンゴ礁シンポジウム」に参加した米国のNGO「生物多様性センター」のメンバーらは記者会見で基地建設計画がサンゴ礁を始め生態系に悪影響を与えると述べ、その撤回を求めて、米国防総省や議員連盟などに要請する考えを示したと聞きます。沖縄を恒久基地にしようとする米本国でこそ事実を知ってもらい、反対の手を挙げて欲しいということです。
7月11日投票の参議院選挙では久しぶりに野党共闘が実現したことで、焦点も絞られ、前県議の糸数慶子さんが全県的に自公候補に圧勝しました。職場近くにも支部事務所が開かれたので少し手伝いましたが、入れ替わり立ち替わり訪れる人たち、とりわけ野党共闘時代を経てきた面々の「ここで負けてなるものか!」という革新魂をひしひしと感じたものでした。
8日に久しぶりに辺野古へ行きましたら、とても大きな青いジュゴンのアドバルーンが挙がり、「投票に行こう!」と呼びかけていました。建設反対を明らかにしている慶子さんへの期待の表れでしょう。懐かしい顔がさらに日焼けしているのを見るにつけ、座り込みの日々の重みが胸に迫ってくるようでした。沖国大の教授がゼミの学生を連れて、祐治さんの話を聞きにきています。一坪関東ブロックの仲間や湯布院からお米と梅干しを持って訪れた友人と会えたのはうれしいのですが、いつもいるはずの顔が見えないのは心配でした。
今月12日から伊波洋一宜野湾市長は普天間飛行場の5年返還を求めて、米国務省、米国防総省などへ直接、出向いています。日本政府の最も嫌う直接行動です。彼は国務省日本部長との会談で『普天間』を米軍再編論議の中に位置づけるよう主張し、部長が「最終的には日本政府の判断だ」というのにたいして、「米国こそが当事者である」と主張したそうです。こうした行動をとても評価したいと思います。でも部長の「16年もかかることに(代替基地建設)フラストレーションが溜まっている。みなさんと共通した思いだ」という言葉には唸るほかありません。思いは全然違うだろう!と。『普天間』返還のために辺野古への移設を、という日本政府の建前を、私たちは辺野古での建設は不可能、従って移設という前提が崩れた『普天間』は早期に返還されるべき、という風に変えていきたいものです。
憲法の主権在民原則に沿って判断するのが政府であれば、建設反対多数の民意が尊重されて、7年前に決着がついていたはず。今や防衛施設庁の推進の拠り所は「県と名護市が受け入れたこと」です。ですから改めて名護市長と知事を変えることが現実的課題として浮かび上がっていると思います。
現場である辺野古で調査を阻む闘いを継続するとしても、計画そのものを白紙撤回させるには全国各地で、国民の税金を一兆円もかけることの是非を問う声を上げて欲しいところです。日本政府が本当のところどのように処理しようとしているのか、国会議員などに働きかけることも必要ではないかと思います。
選挙も終わり、13日には慶子さんも座り込みに訪れたオバアたちと手を握りながら、これからの思いを語っていたようです。私は久しぶりの団結弁当作りに勤しみました。この日は一枚海苔でつつんだ大きなおにぎりとソーキ汁(骨付き肉、コンブ、人参、シブイ=トウガンの煮込み汁)をおいしくいただきました。
翌日はピースリンク広島・呉・岩国という市民団体の湯浅一郎さんが訪れて、彼らが平和船団を仕立てて自衛艦・隊員に働きかけてこられた運動の様子を車座になってうかがいました。何か授かる知恵はないものかと、一同、真剣な眼差しです。読谷村からは知花昌一さんが作業所の青年たちと10名ほどで来られ、ゆで卵を差し入れてくださいました。
日差しが確実に強くなった辺野古で、見渡す海は幾重もの青さが眩いばかりです。祐治オジイが「政府はいつまで俺たちを野ざらしにするつもりか!私らのやっていることはただ事ではないよ」と言います。
本当にただ事ではないのです。
九条の会の当面の「3つの提案」と連絡先など
7月24日、「九条の会」発足記念講演会が都内で開かれ、1000人の参加者を前に、井上ひさし、三木睦子、大江健三郎、奥平康弘、小田実、加藤周一、澤地久枝、鶴見俊輔の各氏がお話をしました。澤地さんは「ここから1ミリもひきません」と笑顔で、しかし強く決意を表明しました。みなさん、同感だったと思います。
当面、九条の会は「3つの提案」をしました。
九条の会は各地のみなさんと協力しながら、順次、講演会も開催する予定です。憲法9条をめぐる闘いはいよいよ重大な局面にさしかかりました。壮大な運動を作り出し、改憲を阻止するために、みなさんの協同をよろしくお願い致します。
九条の会の公式サイトはhttp://www.9-jo.jp/
九条の会事務局・電話03-3221-5075 FAX03-3221-5076