私と憲法36号(2004年4月20日発行)


有効だった市民の国際ネット
~5人の救出の成功から、さらに自衛隊撤退へ

4月7日、イラクで日本人のNGO活動家2人とフリーのジャーナリスト人が拘束された。つづいて14日にはフリーのジャーナリストなど2名が捕まり行方不明になった。以来、15日夜の3人解放と、さらに2人が17日に解放されるまでの10日あまり、無策の政府とは対照的に全国の市民たちは全力で被害者の救出に動き、特筆すべきことに、その努力が功を奏したのだ。

WORLD PEACE NOW(呼びかけ団体51団体で構成、私たちの市民連絡会もその構成部分、以下WPNと略)は、(1)NGOの国際ネットワークを使ったイラクの「拘束者」たちへのメッセージの送信、(2)首相官邸前での連日の集会やデモなどによる抗議行動、(3)主要駅頭などでの街頭宣伝と署名運動などを、メールやFAXなどで人びとに発信しながら、精力的に行動し続けた。

市民たちはインターネットを通じて、イラクの拘束者グループに「あなた方が拘束した3人は私たちの仲間であり、イラクの人びとの友人です。ブッシュのイラク攻撃と小泉の自衛隊派遣に抗議している人びとです。3人を直ちに解放してください」との発信を続けた。たとえば「ATTAC Japan」は世界社会フォーラムのネットワークに情報を発信した。「ピースボート」は代表者がカタールまで飛んでアルジャジーラに出演し、イラクの人びとに訴えた。街頭でチラシを配り、署名運動をするグループなどもいくつもあった。全国各地でも行動が組織された。

国会周辺では金曜日の昼から昼夜の連続集会が5日間、警察の厳しい規制に抗しながら、WORLD PEACE NOWの主催で開かれた。

9日(金)正午に国会前で600人、10日昼に国会前に1000人、日曜日には昼の集会に2500人、夜の集会に2500人、翌12日(月)昼に600人、夜に1200人が集まり、首相の救出の無策と派兵政策を批判した。延べ1万人近い人びとの行動で国会周辺は騒然となった。院内集会では厳禁のはずのマイクによる演説が、チエを絞って実現したのも画期的なことだ。官邸に近づくのを阻止しようと、規制を強化する警官隊との攻防が続いた。非暴力の、しかし毅然とした行動だった。日本山の僧侶たちは市民の先頭に立って、団扇太鼓を高く掲げ鳴らしながら、警官の阻止線を押し戻した。徹夜で座り込む人びともいた。人質となった今井君と同世代の若者たち、中学生や高校生も多く参加している。集会では中学3年の生徒も発言した。

多くの市民たちがいてもたっても居られないと、自発的に動いたのだ。この経過は実に感動的だった。昨年のWPNは「戦争が始まる前に、戦争に反対した運動」として、多くの「フツーの市民」が参加した新しい市民の反戦運動として注目された。

今回の運動は国境を超えた草の根の市民の国際ネットワークが実現した「解放」であり、勝ち取られた成果だ。日本国憲法の平和主義の思際主義の思想が市民運動の中で結実したようだ。日本の市民運動はまたひとつ、貴重な財産を作り出したのだ。

これらのNGOの発信の一つ(ATTAC Japan発信)が拘束者のグループに届いた。在パリのイラク人組織=イラク民族民主潮流のアブドゥル・アル・リカービさんが欧州やイラク国内の宗教団体、民主化運動団体を通じて送ったメッセージだった(リカービさんとは昨年12月、私も東京で友人たちと一緒に会ったことがあるし、今年のムンバイでの世界社会フォーラムでは彼はスピーカーの一人だった)。10日午前7時(以下日本時間)、私たちのメッセージが拘束者グループに届いたとの連絡がアタックに届いた。続いて午後3時、「3人は一両日中に解放する。日本人は自衛隊の撤退のために活動してほしい」というメッセージが届いた。しかしWPNはこれを公表しなかった。もし居場所が突き止められれば、米軍の襲撃で皆殺しにされるおそれすらあったからだ。日本のマスメディアが「24時間以内に解放する」という「解放声明」を入手したのはその12時間後、11日の午前3時だった。この間の経過は国境を超えた市民たちの説得で、イラクの武装グループが3人をイラクの人びとの友人だと認識したことの何よりの証明だ。

だがそれで終わりではなかった。期限が来ても3人は解放されなかった。正直に言えば、私たちのルートは有効ではなかったのかという疑念も頭をよぎった。しかし、間もなくイラクから「約束は有効だ。解放するために必要なセキュリティの確保が難しく手間取っている」という連絡が入った。以後、極度の緊張が続いたが、とうとう無事の解放が実現した。

しかし、それまで米国に頼むことと、ヨルダンのアンマンに大仰な、かつ無力な現地対策本部なるものを設置したこと以外は何もしなかった政府は、厚顔無恥にも「『自衛隊を撤退させない』という断固たる姿勢が人質を『解放』させたのだ。政府はさまざまな手を尽くしたが詳細は言えない」などと言い始めた。彼らは何もしなかっただけでなく、米軍に「救出協力依頼」をし、最初に「自衛隊を撤退させない」と言明して、解放のための努力を妨害したのだ。それでいて警察の特殊部隊まで、現地対策本部に送るなどだけはやったのだ。それだけでなく、「自作自演説」や「自己責任説」を陰に陽に流して、「費用の弁済」などまで言いつのって被害者や家族を中傷し始めた。自らの無為無策を責任転嫁で乗り切ろうとするこの内閣の卑劣さを、私たちはまざまざと見た。

イラクの戦闘は激化し、多くのイラク人が毎日、傷つき、殺されている。私たちは米国すら動揺し、スペインを始めいくつもの国々が撤退を言い始めたとき、なにも動揺がないかのようにただただ対米追従を堅持し続ける小泉内閣を絶対に許せない。自衛隊の撤退と米軍によるファルージャ攻撃の停止、イラク占領軍の撤退をめざして、私たちは活動を休むことができない。とりあえず、5人の解放に協力してくれた全国と全世界の市民に心から感謝の言葉を申し上げたい。(高田健)

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学習会報告
気をつけよう!憲法改正国民投票にしくまれるワナ

澤野義一さん
2004年2月28日 於アピオ大阪

イラク派兵を承認した今国会において、いよいよ憲法「改正」の手続きを定める2法案が上程されようとしている。また、来年1月には憲法調査会の最終答申が予定され、さらに自民党(2005年)民主党(2006年)が改憲案を出すという。

この状況に対処すべく、憲法9条の会・関西では表記のテーマで学習会を行った。法律に関する地味なテーマであるにもかかわらず、30余名の参加者で熱気のこもった学習会になった。以下に澤野さんのお話を要約する。

イラクヘの派兵が実施され、さらに今国会では有事関連7法案も上程される、なし崩しの解釈改憲は今や留まる所を知らない。並行して明文改憲の動きも一気に加速されてきた。

憲法「改正」には、一般的に全面改正と部分改正とが考えられるが、憲法96条第2項(資料参照)によれば、日本国憲法では「全面改正」はありえない。言いかえればこの憲法の3原則とされている人権尊重、国民主権、平和主義は貫かれねばならない。(もっともこの3原則のとらえ方にも幅があるが)このことはまずおさえておくべきである。

また日本国憲法は「改正」に国民投票を必要とする「硬質憲法」である。政治家の中には96条を改めて、もっと改正しやすい憲法にするべきだと、他国の例を挙げたりして主張する向きもあるが、これはこの憲法の精神を理解しないナンセンスな主張である。

改憲のために必要な2法案については、2001年に当時の憲法調査推進議員連盟(中山太郎会長。当時の構成は自民12、保守4、公明3、民主7、自由1、無所属1、計28名 以下「議連」)が作成したものがあり、与党が国会に出す案も、おそらくこれがベースになると思われる。そこで本日は、この案について問題点を見ることにする。

議連はまず、この案を提出する理由として、「憲法96条があるにもかかわらず、その手続きを定める法がこれまで制定されなかったことが『立法不作為』に当たる」と言っている。この主張は正しくない。『立法不作為』とは、そのことによって、具体的に権利を侵害された事実があるとき(例えば障害者の選挙権行使の権利など)言われるもので、これまで96条の手続きに関する法律は必要がなかったから作られなかっただけのことである。

1、国会法の一部を改正する法律案

  1. 「議員が憲法の改正案(原案)を発議(提出)するには、衆議院では100名以上、参議院では50名以上の賛成を要する」としている。これでは少数意見は全く排除される。
  2. 「改正案について両院の意思が異なった場合、両院協議会を設ける」とある。96条ではそれは想定されていない。明らかに改憲派に有利になるための手段である。
  3. 発議が条文ごとにされるのか、あるいは改正案のすべてを一括してなのか明示されていない。これは投票方法にもかかわる重要な点である。

2、日本国憲法改正国民投票法案

  1. 投票権
    「国政選挙の選挙権を有する者のほか『選挙犯罪により公民権を停止されている者』とする」とあるのはどういうことであろうか。
  2. 期日等
    「国民投票は国会が改正を発議した日から起算して60日以後90日以内、また改正案は官報により投票の20日前に告示」とある。いずれも短すぎるのではないか。
  3. 投票および開票
    「改正に賛成するときは○、反対のときは×をそれぞれ投票用紙の記載欄に自ら記載」ここで改正内容が複数の場合、どんな方法(一括か条文ごとか)をとるのか明記されていない。改憲派にとっては9条がターゲットであることを考えると、この点がどうなるかは大きい問題である。
  4. 投票の効果
    「賛成投票が有効投票((1))の二分の一を超えるとき、改正について国民の承認があったものとする」とある。96条でいう過半教とは、その分母として(1)のほかに、(2)投票総数、(3)有権者総数が考えられるが、もっとも小さい(過半数を得やすい)(1)を採っている。
    また、投票率がきわめて低い場合、その効果をどうするかについては全く触れられていないのも問題であろう。
  5. 訴訟
    「投票の効力に関して異議があるときは、中央選管が投票の結果を告示した日から30日以内に東京高裁に訴訟を提起できる」とあるが、この期間も短すぎないか。しかも「訴訟が提起されても、判決が確定するまでは投票の効果に影響を及ぼさない」とあるのも問題だ。
  6. 投票運動に関する規制
    要約すると、次のようなことがある。
    1. 「公務員等及び教育者の地位利用による国民投票運動の禁止」
      適用のされ方によっては公務員等の時間外の運動や、教員が学生・生徒に国民投票について話すことも規制されるだろう。
    2. 「外国人は投票運動をすることができない」
    3. 「投票に関し、結果を予想する投票の経過または結果を公表してはならない」
    4. 「新聞または雑誌の虚偽報道等の禁止」
    5. 「国民投票に影響を及ぼす目的をもって、新聞または雑誌に対する編集その他経営上の特殊の地位を利用して、国民投票に関する報道及び評論を掲載し、または掲載させることができない」

これらはいずれも適用のされ方によっては、憲法改正について国民が自由に主義主張を述べる機会を著しく阻害することになろう。

以上のように問題点が多い。したがってこの法律自体が憲法違反であると言わざるを得ない。このような内容で法案が提出されるとすれば、我々としてはどう対処すべきであろうか。

昨秋、今井一氏(ジャーナリスト、「住民投票立法フォーラム」事務局長)はその著書(「憲法九条」国民投票 集英社新書)の中で「市民派の人たちも、積極的にかかわることにより、第9条を守ることを考えてはどうか」と言っている。しかし、それはあくまで、国民投票が公平なルールのもとで行われることを前提とした話であり、ここまで見てきたような法案では、それは期待できない。

一方、多くの市民団体は「国民投票法」の必要性を認めず、法案の国会提出をあくまで阻止する方向である。私(澤野さん)も現段階ではそう思う。

編集部より:本文は「憲法9条の会・関西」の会報(4月15日発行)からの転載です。転載を承諾してくれた同事務局のみなさんに感謝します。

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◆署名第2次提出は27,000筆◆

3月3日の第1時提出(42,318筆)に続き4月5日、2004年5・3憲法集会実行委員会は衆議院議員面会所で署名提出集会を行い、第2次分27,000余筆を社民党、共産党の国会議員を通じて、衆議院議長に提出した。集会では社民党の山本喜代宏衆議院議員、共産党の山口富男衆議院議員が挨拶した。

この署名は5月3日を目標に取り組まれているものだが、情勢の急展開と目前の諸課題の運動が立て込んで来ている中で、当初の予定から見て、大変に立ち後れている。現在、総計約7万だ。なんとかして次回の締め切りの5月3日まで、さらに大規模な運動を展開する必要がある。

各地のみなさんに再度の努力をお願いします。

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