私と憲法

特別発言 憲法を取り巻く状況

「世界」編集長 岡本厚

今日、私がお話ししたいのは(1)不安定化する世界、(2)流動化する日本についてです。これからの憲法論議に大きくかかわってくる問題だと思います。米国のイラク占領政策は失敗するだろうといわれている。ブッシュは攻撃することだけを考え、その後のことを考えていなかったという説があるが、本当だろうか。もしかしたら米国あるいは巨大な軍需資本や巨大な情報産業は、この地域が安定することを望んでいないのではないか、極度に不安定なことも困るが、イラクに民主的な政権が確立されることを望んでいないのではないかという説もある。最近のグルジアの政変などもこの地域をコントロールし、石油を狙う米国がしかけたものだ。しかし、米国が考えているような、軍事力によるコントロールは容易ではない。アルカイダのような部分も含めて、抵抗が生じる。長期にわたって不安定化する。

このアルカイダだといわれるが、自衛隊が来るなら日本を攻撃するといっている。そのとき日本社会はどうなるだろうか。すでに一昨年の北朝鮮の拉致問題で、日本社会がいかにこうした問題に弱いかが示された。一挙に空気が変わる。そのときに「武力によって問題を解決しない」という立場を堅持できるかどうかが問われてくる。

日本の流動化は小泉政権ができたときから始まった。1970年代から作られてきた日本の政治・経済の構造が壊れつつある。自民党田中派(橋本派)の崩壊が象徴している。公共事業を中心にして経済発展を図るという構造も崩壊した。グローバル化するなかで日本社会には大きな変化が生じ、従来、日本を支えてきたものが崩れていった。中小零細企業や農業が没落し、自民党の支持基盤も崩壊した。だから創価学会の支持なしには今回の選挙でも自民党は数十人が当選できなかったのではないか。社会に不安や、動揺、強いリーダーシップへのあこがれ、弱者へのバッシングなどの風潮が現れている。努力しただけでは報われない社会になった。社会に怨念がたまっている。冷静に物事を考えるような、ブレーキが効かなくなっている。かつて、イタリアやドイツのファシズムを支えたのはこうした没落中間層だ。グローバリゼーションや規制緩和は国家の力を弱める。教育基本法の改正ででてきている「こころ豊かな日本人をつくる」などという考え方は、こうした流れに対する右派からのバックラッシュだ。

国民保護法制は今度の国会にでれば簡単に通るだろう、民主党がもともと要求していたものだからだ。憲法改悪のための国民投票法案もでてくるだろう。教育基本法は公明党の意向もあってすぐには難しいが、このことも不気味だ。

憲法違反だし、世論の7割もが反対しているイラク派兵をブッシュとの約束だけでやってしまう。民主主義ならこんな政府を変えるしかない。7月には参議院選挙がある。その後、3年は大きな国政選挙はない。この期間に教育基本法や憲法改悪の動きがすすむだろう。明文改憲にするか、解釈改憲にするかは別として、憲法改悪の狙いは集団的自衛権の行使だ。米国とともにいつでも戦争ができるようにしたいのだ。

だから参院選は大事だ。参院選に向け、イラク派兵反対の多数派を結集し、小泉政権を追い込んでいくことだ。イラク問題が小泉政権の最大の弱点だともいえる。米国追従ではなく、アジアの仲間になる。これがポイントだ。これが唯一、9条を守れる道だと思う。

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