私と憲法30号掲載(2003年9月発行)


臨時国会と通常国会を前に、「国民保護法制」「米軍支援法」など有事関連5法、派兵恒久法、改憲問題などの動向について

イラク派兵と占領支援に反対する

自民党の総裁選挙が終わると、9月26日に臨時国会が召集される。この臨時国会では11月1日に期限切れとなる「テロ対策特措法」(アフガン占領の米軍に対し自衛隊の兵站支援などを実行する法律)の2年延長案などが審議される。もともと同特措法は憲法違反の集団的自衛権の行使にあたるものであり、米軍のアフガン占領はアフガニスタンの問題の解決にならないことはこの間の事実で明らかで、2年の時限立法をさらに延長するなど許されないことだ。政府与党はこれを衆議院で2日、参議院で5日程度の審議で強行しようとしている。そして10月10日に特措法を成立させ、衆議院の解散という日程を描いている。この解散も小泉人気の高い内に解散して、議席を確保しようという党利党略の解散であり、まともなものではない。首相は11月9日投票で、11月17日に特別国会を召集するという。

この間、10月17日にはブッシュ米国大統領がAPEC首脳会議に参加する途中で来日する。10月下旬にはラムズフェルド国防長官も日韓両国を訪問する。ブッシュの来日の目的は泥沼に入り込みつつあるイラクでの米軍の窮地を脱出するため、自衛隊の派兵はもとより、より重要な日本の「戦費の分担」と「イラク復興支援資金」の分担を押しつけることにある。その額は2兆円を超えるだろうといわれている。ラムズフェルドの日韓訪問のねらいはイラク問題と会わせて、対北朝鮮対策のてこ入れであることも明らかだ。さきにアーミテージ国務副長官は自衛隊の派遣で動揺する日本政府を「逃げるな、お茶会ではないぞ」と恫喝した。これらの恫喝に震え上がった日本政府は、躊躇していたイラクへの政府調査団の派遣日程を急遽決めて送り出したり、首相が「ひるまない」と再三発言するなど、大わらわだ。

イラクでは米英軍などへの民衆の不満は高まり、それを背景にしたゲリラ戦もつづいている。イラク攻撃と占領が誤りであったことはもはや明白だ。先の国会で強行したイラク派兵法も誤りであることはいうまでもない。自衛隊をイラクにいかせてはならない。政府は米軍などの占領に加担するのではなく、イラクの民衆自身による復興を援助しなくてはならない。

さらに国会の召集とは別にいくつか見逃せない動きが進んでいる。

有事3法の成立の後、政府はいま「自衛隊法施行令の改正案」(有事における自衛隊への支援。医療や航空整備態勢など)を9月中に閣議決定するよう準備している。これによって、従事命令の対象者(医療関係者、運送事業者など)は「心身の故障」など業務に従事できないと都道府県知事に申請することができるが、「相当の理由がある」と認められなければ命令に従わなければならないことになる。従わなければ罰を受けるのだ。そしてこの要請権者には防衛庁長官だけでなく、自衛隊の方面司令官、自衛艦隊司令官、航空総隊司令官も含まれ、制服が民間に命令することができる仕組みだ。

また、政府は早ければ年末に「防衛計画大綱」を改定をめざしている。このなかで自衛隊の「国際平和協力業務」を「本務」へ格上げし、「国際貢献部隊」の創設も検討しているといわれ、本稿で後にふれる「派兵恒久法」との関連が想定されている。
高田健(事務局)

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次期通常国会に出される有事関連5法案の危険性

先の通常国会で採択された有事関連3法はいわばプログラム法であり、それをすすめるにはさらに具体化する諸法律群が必要だ。そのため、来年年頭からの通常国会には有事関連で5つの法案が提出されようとしている。

(1)「国民保護」法制

いわゆる「国民保護」法制で、このネーミングは「個人情報保護法」が人権を侵害する法律であったと同様に、「国民保護」どころか、住民を戦争に協力させるための法案だ。その内容は(ア)「住民保護」体制の確立、(イ)住民の避難、(ウ)防空対策、(エ)死傷者対策、(オ)情報確保、(カ)被害の復旧、(キ)住民生活の安定、(ク)業務従事命令、徴用、(ケ)民間船舶・航空機の安全航行確保、(コ)保健衛生確保などの各方面にわたるもの。

片山知事の鳥取県が本年9月に作った「住民避難マニュアル(研究案)」は「わが国に弾道ミサイルが着弾し、『武力攻撃事態』と認定された。またある国では上陸用舟艇を含む多数の艦船が結集しており、上陸進行が予想された」ことを前提にしているように、北朝鮮を仮想敵国としている危険な、挑発的なものだ。

「マニュアル」は「交通規制」、「避難の支障となる銃刀について、所持・所在の確認」「ゲリラ等の活動を阻止するため、各要所地点に検問所を設置し、警察、自衛隊との共同運営とする」などと治安対策の規定も入れるなど、「国民保護」法制の危険性を表している。

今後、法案が示される中で、これらがどのように規定されるのか、注視しなくてはならない。また上記項目以外にも、「治安・世論対策」に関連する法律も出てくると思われる。その場合、(ア)秘密保護、(イ)マスメディア統制、(ウ)電波使用制限、(エ)パソコン・携帯電話統制、(オ)流言飛語の取り締まり、(カ)大衆行動の規制、(キ)労働運動の規制、(ク)監視・盗聴、(ケ)疑わしいものの逮捕・収容などが、問題となるに違いない。これらは基本的人権を破壊するもので、憲法の思想とは全く相容れないものだ。

(2)米軍支援法

「武力攻撃を排除するために必要な行動をする米軍に、物品、役務、施設の提供、あるいはその他の措置を実施するために必要な法制」であり、米軍が自衛隊と同様に戦場で円滑に行動できるためのものだ。

しかし、戦闘地域における米軍への武器弾薬の提供を含めた米軍支援は憲法違反とされる「集団的自衛権行使」の容認そのものだし、米軍への地方公共団体の協力義務等や、新施設・基地の提供等も規定されることになるだろう。

(3)自衛隊の行動を円滑化するための法制

有事3法の一つは「自衛隊法および防衛庁の職員の給与などに関する法律の一部を改正する法律」だったが、さらに以下の項目などの自衛隊法改定が必要になってくる。

(ア)部隊の移動の円滑化、(イ)土地の使用、(ウ)物資の徴用、(エ)物資の保管命令、(オ)業務従事命令、(カ)私有地の緊急通行、(キ)武器使用の条件、(ク)野戦病院の設置、(ケ)死体処理、(コ)予備自衛官の募集、(サ)給与・手当の支給、(シ)防衛司法、軍法会議はないので、通常裁判所内に防衛庁専門の法廷を設置するなどの準備、などだ。

(4)捕虜の待遇に関する法制

もともと日本国憲法は戦争を想定していないので、このもとでの法体系は捕虜問題などを想定していない。有事法制で「戦争をする国」になったため、急遽、必要になった。国際人道法(ジュネーブ4条約)の捕虜の待遇に関する規定を国内法化する必要がでてきた。

(5)非人道的行為の処罰に関する法制

前項と同様に、国際人道法に違反する戦争犯罪行為を行った者に対する処罰の制度と法的な手続きを決める必要がでてきた。

9条を死文化する派兵恒久法

内閣官房は8月1日から作業チームを設け、恒久法案(自衛隊の海外派兵恒久法)づくりにはいっている。

当初、年内に法案の「大綱」を作るとして作業が急がれていたが、「拙速はさけたい」との首相の判断で年内にこだわらず、再来年の通常国会までに法制化するということになっている模様だ。

この包括法案は、現在のPKO法、テロ対策特措法、イラク復興支援特措法などをも包括するものとされている。自衛隊派兵の活動では、多国籍軍にたいする後方支援は戦闘中も可能とすることや、活動領域は憲法との関係でひきつづき「非戦闘地域」に限定することなどがいわれている。

石破防衛庁長官は、法案作成の意図を「事態のたびに特別措置法をつくっては迅速な対応ができない。(自衛隊海外派遣の)恒久法をつくることが議論されるべきだ」と説明している。米国が次々と先制攻撃によるあらたな戦争を起こすのにたいして、いちいち対象国を明記した法律で対処・協力するのでは間に合わないというものだが、もともと特措法は憲法との関連で恒常化するのは問題が大きいということでの「特別措置」なのだ。それを今さら恒久法などというのは恥知らずだ。またこれには「対北朝鮮」問題が含まれることになることを見落としてはならない。恒久法によって、「北朝鮮特措法」の策定は必要でなくなり、朝鮮有事の際には自動参戦できるしくみとなるのだ。

こうなれば憲法9条の規定などは全く死文化してしまうほどの悪法だ。

次期通常国会に出される恐れがある他の悪法と改憲の策動

ほかにも悪法がぞくぞくと準備されている。まさにこの国の進路の曲がり角だ。挫折感などにとらわれることなく、あきらめずに、いま不屈に闘い、力を蓄えなくてはならない。

個性重視の看板でエリート優先の能力主義教育をすすめ、自由という名で統制を強化し、国を愛し奉仕の心を育て役に立つ国民づくりをめざす教育基本法「改正」案もいよいよ通常国会に出される可能性がある。

憲法「改正」のための国民投票法案など憲法改正手続き法案もこの国会会期中に出る可能性が高い。自民党の山崎幹事長は「(改正手続き法を)早期に成立させたい。来年か再来年の通常国会になる」「新しい連立政権がスタートするときの協議事項にしよう」と発言しているし、連立与党の扇・新保守党参議院議員会長も「国民投票法を05年までにつくると明確にしてほしい」と主張している。与党では公明党が「手続き法はいま急がなくても良いんじゃないか」という立場だが、公明党の場合は政権協議の過程で立場を変更する可能性は少なくない。

また、衆議院憲法調査会の中山太郎会長は「憲法調査会最終報告書」を次期通常国会会期末にだしたいと述べている。5年をメドとした調査会発足当時の合意からすると、半年も早められている。調査の実態が進んだのではなく、政治的必要から急がれているのだ。小泉首相は「2005年自民党結成50周年に自民党の改憲草案を提示せよ」と自民党に指示した。今行われている自民党の総裁選では亀井が「2年以内に憲法改正試案を作成、3年以内に国民投票を実施」と主張したし、他の候補も9条改憲を公然と主張している。

集団的自衛権の行使の問題

集団的自衛権の行使の問題では、憲法の明文改憲の動きと並行して、有事法や各特措法で憲法をふみにじり、実体的に集団的自衛権を行使するのを容認しつつあるが、同時に集団的自衛権の行使に関する憲法解釈をあらため、行使は「合憲」だと確認しようとする動きも強まっている。

この文脈で、従来の解釈の理論化を引き受けてきた内閣法制局に批判が集まっている。9月9日には訪米した中山憲法調査会長にアーミテージ国務副長官が内閣法制局を批判するなど、常軌を逸した感がある。さかのぼって6月23日には与党や民主党などの若手議員で作る「新世紀の安全保障体制を確立する若手議員の会」が声明を発表し、「専守防衛の見直し」と「相手基地攻撃能力の保有」へ向けて安保防衛政策の転換を主張し、集団的自衛権の行使についての現在の政府の憲法解釈の見直しを提言している。また中曽根康弘元首相などは従来から「国家安全保障基本法」の策定による集団的自衛権行使の合憲化を主張している。

政府自民党などから聞こえてくる核保有発言もそうだが、武器輸出三原則への批判も強まっている。「日米安保産業フォーラム」では武器輸出管理政策の柔軟な運用を求める共同宣言を出した。本年2月に出された自民党国防部会・防衛政策検討小委員会「日本の防衛政策の構築」では「防衛産業・技術基盤維持のための適切な施策(武器輸出三原則の見直しを含む)が必要」と明記している。防衛白書も「(MD導入について)武器輸出三原則との関係を本格的に検討」と明記した。

今後の国会は憲法問題から見ると、きわめて重大だ。改憲と戦争に反対し、平和を願う人々の奮起が求められている。

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