私と憲法296号(2026年1月25日号)


高市の自分勝手解散 市民と労働者の力で バラバラになった信頼と絆を取り戻す

年明けから世界情勢が大きく動いている。突如として米国大統領のトランプ氏がベネズエラ攻撃を始めた。どんな理由にしろ、他国を抗議し、大統領夫妻を自国に拉致してくることは侵略戦争そのものであり絶対に許されない行為だ。

また、米国内において高まる反移民政策に異を唱える反政府デモに参加した女性を警察官が発砲し殺害した。まだ幼い子どもを抱えた母親だった。この事件に関し、トランプ氏は謝罪するどころか、正当防衛だと主張し、女性を射殺した警官を擁護した。そのうえトランプ氏は自身のSNS上で「プロの扇動家」、「暴力と憎悪の過激な左派運動」だと主張した。許しがたい発言であり世界中から糾弾されるべきだ。

国内においても年末年明けにかけて高市政権の悪政が猛威を振るっている。

臨時国会が閉じた翌日の2025年12月18日に、「国家安全保障に関する重要政策及び核軍縮・不拡散問題担当」の首相補佐官である尾上定正氏が「日本は核兵器を保有すべきだ」と記者らに述べた。発言は、オフレコを前提とし、個人的な見解と断ってはいるものの、「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」とする、これまでの政府の方針に完全に反するものである。

尾上氏は高市首相と同じ奈良出身であることから、個人の勝手な発言ではなく、首相と何らかのつながりがあるがうえの核保有発言なのではないだろうか。首相自身の台湾有事発言と合わせて責任を取って今すぐに退陣すべきだ。

そんな最中に起きたのが、1月23日の通常国会冒頭解散だ。突然の知らせに日本中が驚愕し、慌てふためいた。自民党内にも話が行き渡っていない状況だったようだ。それが本当であれば完全なる首相の独裁、暴走政治ではないか。何が「働いて働いて働いて働いてまいります」だ。働くどころか、中国との関係を悪化させ、日本経済を混乱へと陥らせ、物価高による市民の暮らしのひっ迫に追い打ちをかけただけではないか。その上で突如浮上した自民党と統一協会との癒着が暴露され、新たな報告書に焦った高市政権が、莫大な税金を投入して勝手に解散総選挙を打ちださざるを得なくなったのだ。これは「統一協会・萩生田隠し解散」に他ならない。

突如の解散報道が出て1週間も経たない、1月14日の夜、立憲民主党と公明党が新党を立ち上げるというニュースが飛び込んできた。

去年公明党が自民党との連立を離脱してから、割とすぐに立憲と水面下でその話が進んでいたそうだ。その頃、連合の芳野会長が、突然公明党とは政策が近いなどといった秋波を送っていた報道が出るなど、今思えば連携があったことをうかがわせる。多くの立憲の議員たちは新党結成の報道を通じて知った。そして翌日から大混乱となった。2017年の民進党解体、希望の党事件を誰もが思い起こしたのではないだろうか。安保法制、原発、改憲の容認を踏み絵にして、できたばかりの「市民と野党の共闘」をバラバラにしようとしてきた。それに反発して立ちあげられたのが立憲民主党だった。

公明党の中道政策5本の柱に立憲民主党の人たちが賛同して集まってくると、斉藤代表が仕切りに公明党のSNSにおいて説明をしていた通りだとすると、安保法制、原発、改憲の容認を踏み絵にすると言っているに他ならない。これでは何のために2017年に立憲民主党を立ち上げたのだろうか。さらに狡猾なことに2017年のように他の新党を立ち上げられないよう、冒頭解散も突然だったが、新党の結成発表も突然知らされた。そして綱領の発表前に新党の党名とロゴが発表され、どんな中身の政党になるか19日まで分からない状態で自身の進退を決めざるを得なくなったのだ。さらに19日の午後に政策発表、翌日20日の午前中までに立憲民主に離党届を出して新党に入党するよう連絡が入った。考えたり、地元の市民や政党と相談する時間なんて微塵もないではないか。考えさせず、相談させず、そのために時間を与えないという策略であり狡猾すぎるやり方だ。

新党結成の理由として右傾化する高市政権に対抗する塊を作るためだと言っているが、最大の問題点は「市民」の存在が完全に抜け落ちているという点だ。このような姿勢で果たして民衆から信頼を得られることはできるのだろうか。右傾化しているのは高市政権ではなく新党の方ではないだろうか。このような疑念、不安が付きまとう。

市民不在で和の計算だけで有権者が動くと思っていたら大変失礼な話だ。松下政経塾のような「政治のプロ集団」が政治の中心を担うようになり、市民・労働者と距離ができ始めている。「真ん中がウケる」「清濁併せ呑め」など、ファシズムや戦争に向かう道に徹底的に立ち向かわない動きが政治の世界では良いとされていることに、毎回悲しい気持ちになる。それは憲法に立脚し、市民・労働者の力を信じられていないのだということを突き付けられるからだ。この繰り返しが政治への不信、無関心、無期待となり政治離れが進んでいるのではないだろうか。

このような政治を続けていては絶対にだめだ。

リベラル左派の中にもお花畑理論がある。心のどこかで「所詮市民の力なんて」「市民外交で世界平和だなんて」というような気持ちを持っている人たちも一定数いる。このような理論にどう対抗し、論破できるかということを一生懸命考えていかなければならない。長いものに巻かれてはならない。

市民運動に関わる私たちを待ち受けているのは、選挙後にバラバラになった信頼と絆をかき集めて取り戻すことだ。今回の新党がどのような結果をもたらすかはわからない。未来を覗ける機械があったら覗いてみたいほど、今の立場や動きをどうするか全国の仲間は迷っていると思う。

しかし、選挙が終わった後も私たちの運動は続くのだ。どのような結果になっても私たちは前を向いて信念を決して変えることなく進んでいくしかない。

高市政権が続くのか、はたまた違う首相になるかもわからないが、右傾化が進んでいる危機的事態であるということは明らかだ。新党が出来ようとも私たちの闘う相手は変わらない。ぶれずに頑張ろう、しっかりと市民労働者の力を見せつけよう。
(事務局長 菱山南帆子)

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米国によるベネズエラ軍事侵略抗議

許すな!憲法改悪・市民連絡会緊急声明

トランプ米国大統領は3日、南米ベネズエラへの大規模な軍事侵略を行い、同国のマドゥロ大統領夫妻を拘束・拉致し、幾多の市民を殺害し、同国の占領を開始したと発表した。

どのような理由であれ、いかなる国も他の主権国家に対して軍事攻撃し、その国の指導者を逮捕・連行する権利はない。私たちはこの国連憲章と国際法を蹂躙する米国政権の暴挙に対して全身の怒りを込めて抗議する。

戦争の20世紀が終り、多くの国々と市民が戦争を拒否し平和と自立を求め、東西の覇権大国の支配に南の大多数の国々が抗うこの時代に、今回のトランプ大統領の行動は、歴史の流れに逆らうものであり、許しがたい蛮行だ。ウクライナ、パレスチナをはじめ、覇権大国の軍事攻撃の身勝手な正当化によって、膨大な数の市民が殺され、傷つけられている。

この事態に直面して、日本の高市政権の立場と行動が問われている。高市政権はいかなる口実であれトランプ政権による独立主権国家ベネズエラに対する軍事侵略を支持してはならない。断固として抗議の姿勢を示せ。同時に高市政権は、紛争の多国間の対話による解決という人類史の到達点に立ち返り、自らがすすめているような米国と結託して西太平洋地域での軍事的緊張を高めるすべての画策をやめなくてはならない。まず、先の「台湾有事=存立危機事態」発言こそきっぱりと撤回するべきだ。

2026年の年頭にあたり、私たちは改めて全世界の平和を求める大多数の人々と手を携え、すべての侵略戦争に反対し、平和を実現するために奮闘する決意を表明する。
2026年1月4日

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昨年の12月の「12.19集会」でのキム・ジョンミンさんのあいさつ

(韓国YMCA副総長 日韓プラットホーム共同代表)

韓国の市民社会を代表して挨拶します。

最初に昨年の12月3日、韓国で発生した非常威厳事態の直後、日本の市民社会が迅速に示してくれた連帯に、心から感謝を申し上げます。この声明は、韓国の市民社会に“私たちは一人ではない”という大きな勇気と希望を与えました。その後、韓国の市民社会と進歩勢力はより深く連帯して、憲政秩序を破壊し戦争を誘発した伊政権を弾劾し、李在明政権を誕生させました。

しかし、政権交代がそのまま内乱勢力の一掃を意味するわけではありません。憲法を踏みにじり民主主義を破壊しようとした勢力に対する市民社会のたたかいは、いまこの瞬間も続いています。なぜなら、政権は変わっても体制を根本から変革するための光の革命は続かなければならないのです。

日本でも政治的変化がありました。高市早苗首相の就任により、古い保守的な姿はより克明になっています。現在、日本政府は中国を明確な的と位置づけ、日米韓の外交・軍事・経済の障害となることを自認しています。その過程で、平和憲法の精神は踏みにじられ、損なわれ、東北アジアの軍事的緊張は一層高まっています。

さらに申告なのは、イ・ジェミン政権もまた歴史正義と地域の平和地秩序の構築に対して、消極的、あいまいな態度をとりつづけている点です。

このことに対して韓国の市民社会は、深い懸念を表明してきました。2025年6月22日、日韓基本条約60年にあたって発表された「日韓市民社会の共同声明」において、敵を想定しない東北アジアの平和態勢を日韓市民社会が連帯してつくっていこう、と強調されたことをあらためて思いおこしたいと思います。この声明は今も有効であり、本日の「19日行動」の精神と重なっています。今ほど日韓市民社会の連帯と共同が求められている時はありません。

米国は日本と韓国を、中国を牽制する最前線として利用するために絶え間ない圧力をかけています。米国の派遣を維持するために、日韓市民に生活の犠牲を押しつけているのです。この圧力は朝鮮半島において更に露骨になっています。南北問題に対して米国は、内政干渉のレベルをはるかに超えて統制と圧力を加えています。南北対話そして米朝対話の開始条件である米韓合同軍事演習の問題をめぐっても、大統領の発言と国家安保室の立場が食い違うなど、韓国政府内部の深刻な混乱が露呈しています。

韓国市民社会の成長と民主主義の歴史には、日本市民社会の献身的な連帯がありました。私たちがこの連帯を大切にする理由には、正しい歴史認識と東北アジアと朝鮮半島の平和構築の願いを前提としているからです。昨年12月19日に続いて今日、再びこの集会で発言し連帯することに深く感謝します。日韓市民は青年たちの参加によって民主主義と平和の新たな中心をつくり出す課題に直面しています。青年が新たな中心になれるような新たな課題に直面しています。青年世代との課題も新たに協議していきましょう。市民と青年との連帯によって東アジアの新しい未来をともにつくっていきましょう。

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2026年衆院選に向けた市民連合政策要望

2026年1月22日
○○○党
党首○○○○さま

「信じられる未来」へ――平和を守り、真に豊かな生活をとりもどす。

市民連合は、立憲主義の回復と安保法制の廃止を求めて、立憲野党と連携しつつ、これまで7回の国政選挙を闘ってきました。先の参院選に際しても、2025年6月に政策協定「『信じられる未来』へ――平和を守り、真に豊かな生活をとりもどす」を提出し、可能な限りの野党共闘を目指すことで、少なくとも1人区32選挙区の内、17選挙区で実質的な「共闘」が実現し、その中の12選挙区で勝利し、また1人区全体では、野党は18選挙区で勝利し、衆参両院における政権の少数与党化に大きな役割を果たすことができました。

しかし2025年10月に高市政権(自民-日本維新の会連立政権)が誕生し、「非核三原則」や「防衛装備移転(武器輸出)三原則」の見直し、防衛費の対GDP比2%目標の前倒しなど、次々と立憲主義のみならず平和主義の根幹を脅かす方針を示しました。さらには、自らが抱える未解決の裏金問題や統一教会問題、そして自らが招いた中国政府との軋轢による外交・経済問題などにも行き詰まり、窮乏する国民生活に対する何らの措置もないまま、突如、この時期異例の「自己保身解散」を強行することになりました。私たち市民連合は、このように政治が流動化し、本格的な多党化時代を迎える時代の中でも、ぶれることなく来るべき日本の行く末を見つめ、立憲主義と平和主義の理念を具現化するべく行動します。私たちは、次の衆議院選挙に向けても、排外主義と軍拡を続ける高市政権(自民-日本維新の会連立政権)の暴走を食い止め、それに代わる立憲野党勢力による新たな政権の実現と、その先にめざす「信じられる未来」の三つの方向性(①②③)を共有しながら立憲各野党の真摯な連携を強く要望します。

(1)戦争と暴力に基づかない社会――憲法や国民生活を無視する軍拡は許さない

(2)暮らしといのち第一(ライフ・ファースト)の社会―市民の生活と命を守る健全な経済政策

(3) すべての個人の尊厳が尊重される社会――ジェンダー平等

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法治主義をかなぐり捨てたトランプと自民党政権

小川良則(憲法9条を壊すな!実行委員会) 

【「法の支配」は何処へ】

日本時間の1月3日午後(現地時間では同日未明),米国はベネズエラを急襲し同国の大統領の身柄を拘束し米国内に拉致した。反米政権の転覆や石油利権の確保という隠された動機については本稿の任ではないので割愛するが,麻薬密売容疑での逮捕状の執行という表向きの説明は論理的に破綻していると言わざるを得ない。

まず,どこの国でも刑法典に国外犯条項を置いているが,それは裁判の際にどこの国の法令を適用するかを定めたものであって,容疑者の取り調べや起訴等についての手続法とは全くの別物である。そして,国家統治権の一部である警察権や裁判権は当該国の領域内でしか行使できず,主権の及ばない他国領域に押し入って逮捕状を執行するなど許されず筈もなく,相手国に対する主権侵害以外の何物でもない。ましてや,選出過程に疑義があるにせよ,一国の元首を強制的に引きずりおろすのは内政干渉にあたる。

警察権の行使では説明できない以上,他国への武力行使は交戦権の行使というほかないが,合衆国憲法では第1条第8項第11号で宣戦や船舶の拿捕は議会の権限とされており,戦争権限法でも議会報告が義務付けられているのに,この間,一貫して議会は蚊帳の外に置かれている。すなわち,国際法ばかりか国内法すら無視されているのである。

各国も米国への「遠慮」や「思惑」から温度差はあるものの,国際法違反については疑義や懸念を表明している。それなのに,高市総理の対応はこの点への言及はなく,黙認と受け取られても仕方ない。トランプは報道陣の取材に対し「自分を止められるのは自分自身だけだ」と述べ,ルールを無視して恥じない姿勢を示している。そのトランプとともに安倍や高市は共同会見や外遊先等で「法の支配という価値観の共有」を訴えてきたが,今回の対応ぶりを見ると,それも虚しく響く。それよりも,横須賀の空母上で満面の笑みを見せた両首脳の背景の横断幕に掲げられた「力による平和」という表現が真相を突いていると言えよう。

【安倍内閣から続く議会軽視】

翻って,日本ではどうか。高市内閣が目論む非核三原則の見直しも含む大軍拡路線の源流をたどると,安倍内閣による集団的自衛権の解禁にまで行きつくが,これは歴代内閣が一貫して否定してきたものを国会閉会後に閣議決定で覆すというものであった。安保三文書にしても,会期末の土曜日に本会議を開いてまでも国会を閉じた上で,閣議だけで決めてしまった経緯がある。議会への説明はおろか与党内での機関手続さえも経ずに対米公約して既成事実化してしまった例は枚挙に暇がない。
これは彼らが国会論戦から逃げ続けていることを意味しているが,追及する野党議員のバックには野党に1票を投じた多くの有権者がいることを考えると,主権者への説明責任を放棄するものと言わざるを得ない。2012年の自民党の新憲法草案では第21条の2として政府の説明責任が明記されているにもかかわらずである。

【改憲論に立法事実なし】

解散や任期満了による衆院不在時に発生した緊急事態における議員任期の延長は,東日本大震災の時から唱えられてきた。しかし,一方の院を半数改選とする二院制を採っている以上,最悪でも参院の半数は常に存在する。戦前のような内閣による緊急政令を認めず,緊急集会の制度を設けた趣旨は政権による暴走を防ぐためであることは制憲議会での金森答弁からも明らかであるし,憲法審査会でも少なくとも参院側は自民党ですらこのことを認めざるを得なかった。

被災者の救援や被災地の復興と補正予算は緊急集会で対応すれば済む話なのに,ことさら全国的に長期間にわたり選挙が不可能となる事態を持ち出すことの真意が明らかになったのが2024年5月23日の衆院憲法審査会で,維新の三木議員は3年目に入ったロシアのウクライナ侵攻を引き合いに出してきた。ついつい本音が漏れてしまったのかもしれないが,戦争を招かないように努めるのが政治の役割ではないか。そもそも,主権在民の民主政治の一丁目一番地である主権者の参政権の停止などあってはならない。

また,2024年元旦の能登の大震災では,通信網や交通網が寸断される中で現場判断による臨機応変の対応が求められこそすれ,官邸に権限を一元化する必要はどこにもなかった。しかも,すぐに国会を召集できたのに1月26日まで先送りされた。その上,震災の傷跡が残ったまま台風14号による水害に襲われた際も,野党側が要求した補正予算の編成は拒否したまま,首班指名直後の解散が強行された。一部の野党議員は「被災地は選挙どころではない」と書いた横断幕を掲げたが,自民党は災害時の解散を禁じる改憲案を自ら否定して見せた。これが緊急時でも国会機能を維持するために改憲が必要だと主張する人たちの取る態度だろうか。立法事実の不存在を自ら証明したことになる。

彼らは被災地代表不在のまま復興論議はできないから,解散や任期満了で失われた議員の身分の復活まで主張する。皮肉を込めて言うならば,現実に起きていない想像上の出来事でも地元の声を尊重するのなら,現実に存在する沖縄の民意はどうして一顧だにされないのだろうか。今なお事実上の軍政下で人権が軽んじられている沖縄の現状を無視して日本列島の戦場化を前提とした基地の要塞化やミサイル配備など許されない。

ちなみに,投票時間が短縮され投票所も減らされた能登半島が属する石川3区は,投票率は前回より減ったものの全国平均を上回る63%となり,野党側が制した。

【党利党略解散を許すな】

報道によれば,高市総理は通常国会冒頭の解散の意向を表明した。私たちの暮らしや景気に直結する新年度予算の審議を後回してまで長期間の政治空白を作るのは無責任の誹りを免れない。最短距離で2月前半に投票日を迎えたとしても,選挙後の勢力比がどうなるにせよ,組閣までには一定の時間がかかるため,1~2か月程度の予算の空白期間が生じることは避けられない。まさに「経済後回しの党利党略解散」である。2024年6月13日の衆院憲法審査会では,吉田内閣が衆院を解散した上で予算を参院の緊急集会で処理することを検討したエピソードも紹介されているが,こうした無法が許されてはならない。

おそらく早期解散論の背景には,台湾有事発言での日中関係の悪化や統一教会問題等での追及を避けたいという思惑もあると推察されるが,国会論戦から逃げようとした時点で指導者失格である。資源のない日本は交易によって経済を回すしかないし,人口減の止まらない今,海外からの人材の受け入れは不可避である。それなのに対外的な緊張を煽り,これを政局に利用するような人物には退場を願うしかない。

政治とカネの問題への怒りが爆発した一昨年の衆院選,コメが高くて買えないという悲鳴とともに迎えた昨年の参院選で自民党は歴史的な大敗を喫した。しかし,自民党は維新や国民民主党を抱き込み,これまで以上に国家主義的な政策を志向している。これでは何のために自民党を少数与党に追い込んだのかわからない。もし,解散・総選挙となれば,自民党はメディアを動員し,フェイクも交えて情報戦を仕掛けてくることは疑いない。それに対抗するには,あくまでも「事実」を基に,自分の頭で判断していくしかない。いま,リテラシーという市民の理性が問われているし,暮らし優先の政治への転換のカギを握っているのは,私たち・皆さんたち主権者自身である。

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第200回市民憲法講座 大軍拡と「台湾有事」の煽り 高市首相発言の問題点と日本の進路

布施祐仁さん(ジャーナリスト)      

(編集部註)12月20日の講座で布施祐仁さんが講演した内容を編集部の責任で要約したものです。要約の責任はすべて本誌編集部にあります。  

「存立危機事態」とは

11月7日、衆議院予算委員会での発言をめぐって、いま日中関係、大変な状況になっています。来年はこの国の平和、そして、暮らし、さらには、自由と民主主義にとって、本当に正念場の一年になるのではないかと思います。平和、暮らし、そして、自由と民主主義を守っていく上で、鍵を握るのは、本当に市民、主権者一人一人の声ではないかと思います。

この高市発言についてですけれども、台湾有事が存立危機事態になり得る、さらには存立危機事態に当たる可能性が高いと言い切った発言でした。

これは何を意味するか。武力行使の3要件というのがあります。日本が武力行使をする要件を定めた、2014年7月1日、安倍内閣の時に閣議決定をしました。この日は忘れません。それまでは日本の武力行使の要件というのは、一つだった。日本が武力攻撃を受けた場合、つまり日本が直接外国から武力攻撃を受けない限り、武力を使えなかった。憲法上は、そもそも武力を使えなかった話ですけれども、自衛隊があって、その自衛隊が武力を使うというのは、日本が攻撃を受けた場合だけでした。いわゆる個別的自衛権です。

安倍政権が2014年閣議決定で武力行使の要件を変更して、ここに存立危機事態を付け加えた。日本が武力攻撃を受けていなくても、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由や幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること。これを加えてしまった。そのことによって、日本が攻撃を受けてなくても、自衛隊は武力を使えるようになりました。国際法上の集団的自衛権ということで。台湾有事がこれに当たるということは、つまり武力を使うこと、つまり戦争に参加することです。

中国が猛反発する理由

そういうことを高市さんは国会で述べたことで、中国がこれに猛反発をしています。なぜ中国はこんなに怒っているのかということを確認しておきます。

まず、台湾は中国の領土の一部というのが中国の立場です。そして、日本は1972年に中国と国交を樹立した際、この中国政府の立場を「十分に理解し、尊重」すると約束した上で、中国と国交を結びました。ですから中国からすると、台湾有事で日本が軍事的に関与する、参戦をするという発言は、内政干渉と受け取られているということです。

これも重要ですけれども、これ以上に私は重要だと思っているのは歴史です。かつて日清戦争がありました。1894年から1895年にかけて、日本と中国(当時は清国でしたけれども)の戦争で日本が勝利をして、下関条約という講和条約が結ばれました。その中で日本は、清国に台湾を割譲させた。それ以降1945年、太平洋戦争に敗れるまで、台湾は日本が植民地支配を行った。当初は台湾の人々も抵抗しましたけれども、抵抗する台湾の人々を弾圧し、虐殺し、そして文化も奪い、同化政策を行い、挙句の果て、日本の戦争に動員をして戦争に巻き込んでしまった。それが日本の台湾に対する植民地支配50年の歴史でした。だから中国にとってみれば、日本というのは、かつて戦争という手段によって台湾を奪い取った国です。

そういう歴史を持つ日本が、再び、いわば中国に対する侵略の象徴的な場所の一つである台湾を巡る問題に干渉する。しかも軍事的に干渉するということは、中国にとってみれば絶対に容認できないことだろう。こうした歴史を見れば、本当は想像できるはずですね。残念ながらこういう歴史を、若い人たちも、多分国会議員も含めて、恐らくあんまり共有されてないか、すっとばされているので、なんでそんなに中国が怒っているのか。中国が不当に日本に圧力をかけてきていると思っている人が、多いと思いますね。

しかし、こういった歴史を見れば、この中国の怒りというものは理解できるのではないかと思います。こういう歴史があるからこそ、1972年の日中共同声明だけではなくて、その背景にある歴史を踏まえて歴代の日本の首相は、台湾有事への日本の対応については言及してこなかった。それを言ってしまえば、今のような反応になるのも分かっていましたので、何も得にもならないということで、言ってこなかったわけです。それを高市さんは言ってしまった。

台湾有事でアメリカとともに進めていた参戦準備

なぜ高市さんがああいう発言をしてしまったのか。

これは高市さんの頭の中を開けてみることができないので、私の推測になってしまいますが。11月7日の予算委員会での質疑で、立憲民主の岡田さんは、高市さんが昨年9月の自民党総裁選の最中のテレビの番組で台湾有事になったらどう対応しますか、と質問された。そこで高市さんは、これ、存立危機事態になり得ると、同じような発言している。岡田さんはその発言や、麻生さん、安倍さんの発言を引用して、軽々しく戦争に参加するようなことを、政治家が言うべきではないだろうということを問いかけた。高市さんからすると、自分の発言や、高市さんの師匠みたいな安倍さんとか麻生さんの発言を引用されて、軽々しくそんなことを言うな、なんて言われたので、何らかの弁明をしたくなってしまった。そこで官僚が用意したペーパーではなく自分の意見を言ってしまった。官僚が用意したペーパーには、何か特定のことを挙げて言うのは控える、という答弁案が用意されていたけれども、高市さんは持論を述べてしまって、こういう事態になったということだと思います。

これはもう、中国からすると絶対に容認できないがゆえに、撤回を求めているわけです。高市さんが撤回しない限り、中国は振り上げた拳を下ろすことはないでしょう。ちなみに2012年に尖閣諸島を野田政権が国有化した際は、野田政権から安倍政権に変わって、4年半にわたって日中首脳会談は開かれませんでした。今回も高市さんが撤回しない限り、おそらく首脳会談というのは開かれないと思います。要は、外交がストップしてしまうということです。

非常に重大な状況だと思います。私は撤回すべきだと言っていますが、一方でこれは撤回して済む話でもない。岩波の世界の1月号に高市発言について、本当に考えなければならないことを私は書きました。高市発言はもちろん問題です。ただそれ以上に、高市さんは本当に台湾有事が起きたら、存立危機事態と認定して参戦しようと考えているから、ああいうことを言ったわけです。これは、高市さんだけが考えているのではなくて、実は、日本政府として、近年、台湾有事が起きたら、アメリカと一緒になって戦うという戦争の準備を着々と進めてきています。

最近、立憲民主党が安保法制を合憲化しようとしています。それとも非常に関わる話ですけれども、よく政治家の口から出るのは、ここまでアメリカと一緒に準備してきた。2015年の安保法制ができて、集団的自衛権を認めました。その集団的自衛権を台湾有事に適用して、アメリカと一緒になって戦う準備を一体化して進めてきた。もちろん彼らは抑止のためと言いますけれども、今さら後には引き返せないでしょう。もうやらないとなったら、アメリカとの関係は壊れてしまう。それが彼らの認識です。立憲に対しても、それを認めないと政権なんか一緒に組めませんよと。今さら安保法制廃止とかしたら、アメリカとの関係が壊れるということで、国民民主党、維新とかが、立憲を右に引っ張ろうとしているわけです。

高市さんの言葉の問題ではなくて、台湾有事が起きたらアメリカと一緒に戦う準備を、アメリカと一体に進めてきた。そのことが一番問題です。今回の発言を機に、本当にそれでいいのかということを、国民全体で考え直さなければいけないのではないかということを書きました。

台湾有事の共同作戦計画策定・日米同盟と台湾有事

これは、昨年11月25日の沖縄タイムズ一面トップです。見出しは「台湾有事でミサイル網」。ここに「対中 日米作戦策定へ」とあります。台湾有事を想定して米軍と自衛隊が共同作戦計画を作ってきて、ほぼ完成に近づいているという共同通信のスクープでした。

こういう動きがいつから始まったのか。転機となったのが2021年4月です、菅さんとバイデン大統領の初の首脳会談が、ホワイトハウスで開かれました。その時に発表された共同声明で、52年ぶりに「台湾海峡の平和と安定の重要性」が明記をされた。日米首脳会談は、ほぼ毎年開かれていますけれども、52年間は台湾に関して言及したことはありませんでした。

それはなぜか。日本もアメリカも中国と国交を結んだ際に、台湾は中国の一部という北京政府の立場を十分に理解し尊重する、とした。アメリカはちょっと表現は違います。いずれにせよ、そこに異論は唱えない、というスタンスで国交を結びました。ですから、その台湾の問題に関して、日本の首相とアメリカ大統領の会談の中で、ああだこうだ述べることはしてこなかった。ところが、52年ぶりに、台湾に関する言及が入ったことが非常に大きな意味を持った。つまり、日米の大きなテーマに、この台湾の問題が入ってきたわけです。台湾有事が起きたら、日米が連携してこれに対応する、そういう合意だったわけですね。

その3ヶ月後です。当時、財務大臣兼副総理だった麻生太郎さんが、クローズドの講演会の中で発言しています。台湾で大きな問題が起きれば存立危機事態に関係しても全くおかしくない。そうなると、日米で一緒に台湾の防衛をやらないといけないと。4年前に、副首相がクローズの場ではあっても、台湾で何か起きれば存立危機事態になり得ると言った。そして日米で一緒に台湾の防衛をやらないといけないと。これも存立危機事態の本来の概念と違うけれども、本質的にはこういうことです。

その年の秋です。同じく共同通信が、アメリカのインド太平洋軍司令部(ハワイにあり、日本やフィリピン、この地域全体の米軍を統括する司令部)と自衛隊統合幕僚幹部が、台湾有事を想定した共同作戦計画の原案を作成したというスクープをしました。ここから始まったんですね。これまで、日本有事――日本がどこかの国に攻撃を受けた場合の日米共同作戦計画とか、朝鮮半島有事の共同作戦計画は作ってきました。けれども台湾有事を想定して、米軍と自衛隊が一緒に戦う計画は無かった。

2021年に、それを作り始めました。まず4月に大統領と首相がそういった政治的な合意をして、それを踏まえて米軍と自衛隊の間で具体的な計画作りがスタートした。その翌年、岸田政権が安保三文書を改定します。その中では、中国をこれまでにない最大の戦略的挑戦と位置付け、防衛力を抜本的に強化する。いわば大軍拡方針を決定したわけです。その象徴が、日本の防衛費を、GDPの2%に倍増させる。なんで、こういうことが打ち出されたかというと、その前年の2021年の台湾有事に日米が一緒に対応するという政治的合意が前提になっています。そのために必要なものは何かということの中で、この日本も大軍拡をするということを決めた。

翌年4月には、岸田さんがこれをお土産にアメリカに国賓として行って、上下両院議会で演説をしました。全国会議員がいる前で、You are not alone. We are with you.と言って、日本は常にアメリカと共に立ちますと宣言した。この岸田さんのスピーチを、アメリカの防衛当局者、安保当局者がどう受け取ったかというと、アメリカが西太平洋で戦争するときは日本が一緒に戦ってくれる、そういう宣言だと受け止めました。そういう一連の流れがあります。

防衛予算をGDP比3.5%、20兆円超に

その流れの中で、高市さんは首相に就任した直後の所信表明演説で、岸田さんが決めた2027年までに、日本の安保関連予算をGDPの2%にするという目標を前倒しする。この補正予算で今年度中に達成し、来年は安保3文書をまた見直しです。安保3文書は2022年なので4年しか経っていない。来年それを見直して、防衛費の目標もさらに上方修正する。おそらくGDPの3.5%という数字が一つの目標として出てくるのではないかなと私は見ています。

というのは、NATOが今年6月首脳会議を開き、国防費をGDPの3.5%にすることを決めました。関連インフラ整備を入れると、5%という数字も出ていますけれども、純粋な意味の国防費は3.5%。そして、つい先日、韓国も、なるべく早期に国防費をGDPの3.5%にするという方針を打ち出しました。おそらく日本も、そこに足並みを揃えて3.5%という目標を設定してくるのではないかと思います。3.5%というと20兆円を超えます。2022年まで日本の防衛費は5兆円台でした。今、概算要求が出て、9兆円台に乗ると言われています。これでも大軍拡なのに、20兆円超にすることになりますから、超大軍拡になります。これも台湾有事になった時に、中国と戦うという想定での軍拡計画だということです。

米国の対中軍事戦略

では、この沖縄タイムズの記事にあるように、米軍と自衛隊がこの間、策定をしてきた日米共同作戦計画。台湾有事において中国とどう戦争するかという計画がどういうものか、簡単に説明します。

非常に分かりやすい地図がこれです。九州から台湾の間には、日本の奄美大島、沖縄本島、先島諸島、いわゆる南西諸島という島々が連なっています。台湾の南には、バシー海峡を経てフィリピンの様々な島々が連なって、中国が第一列島線と呼んでいる島のラインです。丸い円の中心にはミサイル発射機が置かれていて、島々のラインでミサイルを並べています。ここにミサイルのバリア――防壁を作ると、この壁によって中国が出てくるのを抑え込む。さらに中国の海軍が太平洋に出てくるのを防ぐ。これがアメリカの考えている台湾有事の戦い方です。ここに自衛隊も巻き込んでやろうというのは、今構想されている作戦です。

なんでこういうことを考えているか。アメリカが最近やった戦争、例えばイラク戦争でどう戦っているか。拠点はだいたい空母です。空母を近くまで展開して、そこから戦闘機が出て爆撃する。あるいは、その周辺の随伴艦がトマホークを撃つ。そういう空母を中心とした作戦が、この間アメリカが海外でやってきた戦い方でした。でも今アメリカは、もし台湾有事が起きて中国と戦争になった場合に、空母はもう近寄れないと思っています。それは、中国が多くのミサイルを持っているからです。「空母キラー」って聞いたことないですか。中国は、もし台湾有事が起きた時、米軍が介入してくる時に、介入させないための能力を強化してきました。長距離のミサイルで空母を攻撃して、空母が近寄れなくなるような状況を作ろうとしている。

米軍としても空母というのは、ものすごくアメリカの税金をかけた超高額です。また、数千人の米兵が乗っていますから、攻撃されるところには出ていかないんですね。だから近寄れない。では、どうやって戦うか。そこで着目しているのが、中国に近い場所にある、この第一列島線です。いわば、この第一列島線を不沈空母にして、ここからミサイルを撃ったり、作戦を行う。空母とか航空機は、海や空の上ですから隠れられない。それで攻撃を受けやすいけれども、地上というのは、山があったり地形があったり隠しやすいので、攻撃は受けるけれども、海の上とか空の上にむき出しの状態よりはいいだろうという判断です。こういう戦い方を今アメリカは考え、作戦計画を実践して検証する訓練を重ねています。

米軍の最新鋭ミサイルが石垣島に展開

この写真は今年9月、沖縄県の石垣島で行われた日米共同訓練の一コマです。右側に映っているのが、2023年3月に石垣島に配備された陸上自衛隊の地対艦ミサイル、地対空ミサイルです。左側に映っているのが、アメリカ海兵隊のネメシスという最新鋭ミサイル発射機で初めて石垣島に持ち込まれました。

ここでは、自衛隊のミサイル部隊と海兵隊のミサイル部隊が一緒になって、近海を通る中国の軍艦を、ミサイルで攻撃して撃沈する想定での訓練をやりました。台湾有事になった島々にずらっとミサイルを並べて、中国を攻撃できる体制を取るという、この作戦計画に基づいた訓練です。こうした訓練はこれまで日本では、奄美大島とか日本の各地で重ねてきました。今回、与那国島でもやる予定でしたが、与那国島では8月に町長選挙があって、日米共同訓練に対して慎重姿勢の新しい町長が誕生しました。その影響で、ミサイルを持ち込んでやる訓練は中止になりました。

より実践的な訓練はハワイでやっています。ハワイでは、ハワイの島の一部と周辺の海も含めた米軍のミサイル訓練場があり、実際にミサイルを撃って訓練することができます。その時の映像を米軍が公表していますので、ご覧いただきます。(動画上映)

こういう形で、最初にミサイルを撃ったのは米軍のミサイルではなく、九州沖縄地域に配備されている陸上自衛隊の、12式地対艦誘導弾(ひとにしきちたいかんゆうどうだん)というミサイル発射機です。さっき石垣島にも出ていました。後に奥から撃っているのが米軍のハイマースという、アメリカがウクライナに提供して、ウクライナがロシア軍に対する攻撃に使っているミサイル発射機です。それを米軍が撃っている。つまり、自衛隊のミサイル部隊と米軍のミサイル部隊が、一緒にミサイルを撃つ。海の上には、アメリカ海軍の退役した軍艦を実際に浮かべて、ミサイルで攻撃をして撃沈する。当然、想定は中国の船です。そういう実践的な訓練をハワイでやっています。

この訓練を視察した太平洋アメリカ陸軍の司令官が、コメントをしました。日本政府としては、そんなこと言うなよ、というふうに思ったコメントだと思います。日本政府がひたすら隠していることだからです。アメリカにとってみれば当たり前なので言ってしまいます。なんと言ったかというと、自衛隊の兵器システムが、アメリカの火力統制下(英語にしますとUnder US, Fire Control)に置かれたと。つまり、自衛隊の撃ったミサイルは、米軍の指揮統制のもとで撃った。自衛隊のミサイルだけれど、どこに向かって、いつ撃つかという命令は、米軍が出しているということです。これが今の日米軍事一体化の実態です。別の言葉で言うと、自衛隊は米軍の手足となって米軍の命令の下に動く、それが日米共同作戦の実態です。

米軍の指揮下で動く、これが自衛隊の本質

これは、今に始まった話ではありません。1980年代、陸海空自衛隊のトップを務めた統合幕僚会議議長、今でいうと統合幕僚長の栗栖弘臣さんという方が自衛隊の性格を次のように語っています。――日本の現在置かれているポジションと自衛力形成の過程を見ますと、陸上自衛隊は米陸軍、海上自衛隊は米海軍、航空自衛隊は米空軍が、それぞれ自分の手足として使う目的で育ててきた――。自衛隊は米軍の指揮下で動くとか、米軍の手足になったと、自衛隊のトップだった方が述べています。これが自衛隊の本質です。それが、今まさにそういう形で台湾有事を想定した戦争の準備が進められているということです。

沖縄のQABというテレビ局が、アメリカのワシントンまで記者を送って取材に行きました。何を取材に行ったのか。この近年、ペンタゴンとか国務省も、アメリカ政府の中でも、安全保障関連のシンクタンク、民間のシンクタンクも含めて、台湾有事を想定したウォーゲームを重ねています。ウォーゲームとは、戦争のシミュレーションです。とくに民間レベルでは、CSISという有名な大きなシンクタンクがあります。ちなみに、今の防衛大臣の小泉進次郎さんは、ここの研究員をやっていました。しかも日本政府は毎年、このシンクタンクになぜか、税金からかなりの金額のお金を出しています。このシンクタンクは政府と非常に近いです。元政府の高官、米軍の高官も入って、このシンクタンクから、また政府にいろんな高官を送り出す。そういう機能を持ったシンクタンクです。

アーミーテージ、ジョセフ・ナイは、2人とも最近亡くなってしまいました。この2人が2000年から、定期的に対日要求書を発表していました。例えば、日本は集団的自衛権を認めるべきだ。もっと自衛隊を海外に出せるようにするべきだとか。武器を輸出できるようにするべきだ。そういう日本に対するメニュー表みたいなのを作って、対日要求をしてきた人たち。その人たちが所属したシンクタンクです。このシンクタンクが、台湾有事を想定した大規模なウォーゲームを行って、報告書も発表しています。沖縄の放送QABがその責任者・マーク・カンシアン氏に取材に行きました。その番組の一部をご覧いただきたいと思います。(動画を再生する)

この人が言っているように、南西諸島の島々にミサイルを置いて、そこから中国を攻撃する。あるいは日本の基地から米軍が中国を攻撃し、自衛隊も一緒になって攻撃すれば、向こうからも攻撃を受ける。当たり前ですよね。数百発のミサイルが日本に撃ち込まれるだろうと述べています。今、ワシントンでは、地図のボードゲームみたいな形で、地図上にコマを置いて、ここに、このミサイルを置くと有利に戦えるみたいなことをやって、戦争の作戦計画を議論して作っています。そういう机上のウォーゲームだけではなくて、実際に日本で行われている部隊を動かしての訓練でも、日本が攻撃を受ける、南西諸島が攻撃を受けるという前提で訓練が行われています。それは私も、石垣島とか与那国島に通って、こういう訓練をずっと見てきて、見ていれば、もう分かります。

頻繁に行われている攻撃を受けるのが前提の訓練

これは実際に私が撮った写真です。石垣空港で行われた訓練の一場面で、陸上自衛隊のオスプレイが民間空港である石垣空港を使って訓練を行いました。これは、海兵隊員と自衛隊員が一緒になってタンカを運び込んでいる。タンカには人が寝ています。どういう訓練が行われたのか。陸上自衛隊石垣駐屯地の中での様子を米軍が公表していました。野戦病院を作る訓練です。これは海兵隊の女性の衛生兵で、負傷兵役は自衛隊員がやっています。攻撃を受けて兵士が負傷する。その負傷した兵士に現場で救急救命措置をとるという訓練です。当然、機材は整っていないので、手術なんかはできない。重傷者については、オスプレイで自衛隊病院のあるところに搬送する訓練でした。

訓練の様子を見ても、石垣島が攻撃を受けて、兵士が負傷するというのが前提になっている。実際に海兵隊のウォーゲームでも、この作戦、つまり南西諸島の島々に散り散りになって、そこにミサイルを置いて攻撃するというような訓練のウォーゲームをやっている。その結果どういう結論が出たかというと、人と装備の損耗は避けられない。自軍にも大きな被害が出るのは避けられない、という結論を出しています。

これだけではなくて、最近よくやっている訓練は、九州でやっています。鹿児島空港とか、熊本空港の民間の飛行場を使って、自衛隊の戦闘機なんかが離着陸や給油をする訓練を頻繁にやっています。なんでそんなことをやっているか。九州には、築城基地(ついききち)と新田原基地(にゅうたばるきち)という、航空自衛隊の滑走路のある航空基地があります。そこは真っ先にミサイル攻撃を受け、使えなくなる。ではどうするかとして、民間の飛行場、空港を使って作戦を行う訓練です。さらに良くやっている訓練は、滑走路の修復訓練です。自衛隊と米軍の工兵隊が出ていって、破壊された滑走路をコンクリートですぐ埋めて修復するという訓練も頻繁にやっています。つまり、もう攻撃を受けるというのが大前提になっている。

先島諸島からの「住民避難」計画

もう一つの動きとしては、これですね。台湾に近い先島諸島の宮古、石垣、竹富、与那国、多良間とつらなる島々、大体12万人の住民がいます。その全員を九州、山口県に避難、というか戦時中の疎開ですね、政府が指示をして移動させる。そういう計画作りを急ピッチで進めています。ただ、これは現実的にも、島の現地に取材に行っても、地元の方は無理だろうと。避難計画を作っても実際には厳しいのではないか、という意見が非常に多い。私もそう思います。

原発の避難計画とも似ていますが、誰がやるかなんですよ。この12万人を誰が運びますか。これは主に民間の航空会社です。JALとかANAとか、そういう民間の航空会社が、国民保護法の中で指定公共機関に指定されています。民間企業ですから、法律に基づいて国民保護計画というのは策定しています。例えばJALの国民保護計画でも、はっきり書いてある。それは、武力攻撃の恐れのあるところには我々行きません、行けませんと。そうですよね。民間企業ですから、自分たちの従業員に対して、もしかしたら死ぬかもしれないところには行かせられない。攻撃の恐れがあるから避難するわけです。武力攻撃予測事態は、政府が認定して初めて国民保護計画で動き出すので、武力攻撃が予測されるから避難する。でも、JALの計画には、武力攻撃が予測される場所には行けませんと書いてあるから、実際には行けないでしょう。

これは、やってるふりですね。軍備増強とか戦争の準備だけではなくて、住民の保護も政府は考えていますよという、ある種の、姿勢を示すための動きではないかと思います。一方で、もし政府が本当に命令をして、例えば、断ったら罰則を課すとか、そういうふうにやってきたら本気です。

それをやる動機もあります。自衛隊と米軍が作っている共同作戦計画は、台湾有事になった時に、南西諸島の島々を基地として使おうとしています。そこに米軍のミサイルを持っていく。自衛隊も、あらかじめ、そこにミサイルを配備し、ミサイルを貯蔵する弾薬庫も作る。そういう動きをしている。実際それをやるときに、そこに民間人がいたらどうか。はっきり言って、軍事作戦上は民間人がいない方がいいわけです。島じゅう動き回って作戦を行いますから、そこに民間人がいたら作戦上はやりにくくなる。だから住民を全部いない状態にして、丸ごと基地として使うという動機はあり得るとは思います。それをやるためには、本当に強制的に避難させるし、強制的に民間の企業を協力させる体制を作らなければいけない。実際そういうのをやるべきだと言っている人もいます。そのあたりは、今後しっかり注視していかなかればいけないです。

不安を募らせる南西諸島の住民

地元の方は、どんな思いを抱いていらっしゃるか。石垣島のパイナップル農家の方は、「もし戦争が起きたら巻き添えを食うのは明らかです。住民は避難させると政府は言っていますが、現実的には不可能だと思います。最近は台湾有事の話がよく出てくるようになって怖いですよ。自分たちは捨て石にされるのじゃないか」とおっしゃっていました。この方は、石垣駐屯地のすぐ近くに畑もあり、お住まいなので、戦争が起きたら真っ先に攻撃されるのではないか。しかも避難させると言うけれど、現実は難しいし、不可能ではないか。やっぱり住民が犠牲にさせられるのではないかと、そういう不安を募らせています。

私も、石垣島以外の他の島でも、捨て石という言葉は何度か耳にしてきました。これは沖縄の人たちにとっては非常に重い意味を持った言葉です。歴史の記憶、過去の沖縄戦の記憶と重なるわけですね。沖縄は、また捨て石にさせられるのだはないか、そういう不安を抱いていらっしゃる。

石垣駐屯地の近くの畑の中に看板も立っていて、「標的は嫌だ!!命どう宝(ぬちどぅたから)」と。ただ、実際に台湾有事が起きた時に、日米共同作戦計画、つまり、米軍と自衛隊、アメリカと日本が一緒になって参戦していくという方向になった時に、攻撃を受けるのは先島諸島だけなのかというと、決してそうではありません。さっきのカンシアン・CSISの人が言っていましたけれども、当然、先島諸島だけではなくて、日本中の米軍、自衛隊基地が攻撃を受ける、そのリスクがさらに今高まろうとしています。

本土への日米の長射程ミサイル配備と基地強靭化

この9月、大きな動きがありました。それは山口県の岩国基地にアメリカ陸軍の、完成したばかりの新型の長射程ミサイルシステム、タイフォンというものが、初めて日本に持ち込まれました。岩国基地に、輸送機でアメリカの本土から持ち込まれました。タイフォンというのは、射程1600キロの長射程ミサイルを発射できるシステムです。山口県の岩国基地に置いた場合に、中国の北京まで届きます。そういうものを今回初めて持ってきた。訓練で持ってきたということは、台湾有事で戦争になれば、日本にそういうミサイルを持ってきて、日本から、場合によっては中国本土北京まで攻撃する、そういう想定をアメリカはしているということです。

これは米軍だけではなくて、自衛隊もそういう作戦――中国本土に対するミサイル攻撃も、日米共同でやる体制を作ろうとしています。具体的には来年3月から、陸上自衛隊としては初の、これまでは持ってなかったような射程1000キロの長射程ミサイルの運用を開始します。まずは、熊本県の健軍駐屯地に第一弾として配備する。2022年の防衛力整備計画では、全国8つの地対艦ミサイル部隊に、この長射程ミサイルを配備すると書いていますので、今後さらにあちこちに、これを配備していくことになります。

つまり、台湾有事になれば、場合によっては本土の米軍の長射程ミサイルと自衛隊の長射程ミサイルで、一緒に中国本土に対する攻撃を行う。そういう想定もしているということです。であれば当然、そういうミサイルが配備された場所というのは、向こうからも攻撃を受けるリスクが高まります。

しかもミサイルというのは、攻撃を受けるのは分かっているから、いかに攻撃をかわすかを考えています。どう攻撃をかわすかというと、一つは分散です。一箇所に固まって団子みたいにはいない。あちこちに分散しておく。もう一つは移動です。撃ったら移動、撃ったら移動と。だからもう基地にはいないわけですね。基地は攻撃を受けますから、民間地域に展開する。どこどこの何々市の運動公園、そこから発射したら、すぐ移動して、別の場所のどこどこの漁港、もっと山とか多いと思います。そういう移動を繰り返しながら作戦を行うので、当然、そういったエリアは、向こうからも攻撃を受け、非常にリスクが高まります。

そういうことも念頭に置きながら、自衛隊は全国の自衛隊設備の施設の強靭化を進めようとしています。自衛隊の設備というのは、ぶっちゃけ言って冷戦までは、本当に戦争するつもりはなかった。実際そう言っていました。だから自衛隊の施設は、普通のお役所と同じ基準で作っていました。でもこれからは、ミサイル攻撃を受けるかもしれないという前提で、例えば建物の強度も高めるとか、あるいは今、優先的に進めているのは主要な司令部の地下移設です。地下に司令部を持っていく。攻撃を受けても簡単に部隊が継戦できなくなるような状況にならないように、司令部の地下化を進めようとしています。

ミサイルから本当に「避難」できるのか?

では、そういう形で日本中にミサイルが飛んできた時に国民はどうなってしまうのか。日本政府が今やっているのはこれです。いわゆる弾道ミサイル国民保護訓練というのを全国の自治体でやっています。去年、東京の中野でも地下鉄の駅を使ってやっていましたが、日本中で今やっています。

どういう訓練かというと、Jアラートをまず鳴らして、いわゆるミサイル警報ですね。政府の作っている、ポスターがあります。3つで、「逃げる、離れる、隠れる」と。まずミサイルから逃げてください。屋外にいる場合は、建物や地下に避難しましょう。離れるは、窓から離れる、ですね。着弾した後、爆風で窓ガラスが割れて吹き飛んできて危険なので、窓ガラスからなるべく離れ、窓ガラスのない空間に行く。隠れるというのは、避難する地下とか、コンクリート製の建物に避難する、時間がない場合には、車の影とかでに隠れて、何よりも頭を守りなさい。身を伏せて頭を守りましょうと書いてあります。実際にそういう訓練やっている。場所によっては学校でやったりしています。与那国では学校でもやっていました。

こんなんで守れますか?ということを、私が取材に行くと皆さん言います。与那国で取材したときも、私がたまたま話を聞いた人が、自衛隊与那国駐屯地の司令官の家族の方でした。知らずに聞いたら、「こんなんじゃ守れないんじゃないですか」と言っていました。とくに、その人は広島出身らしくて、やっぱり今の兵器は威力も昔の兵器とは全然違うから、こんなんじゃ、守られんじゃないでしょうかというふうに率直に延べていらっしゃいました。

しかも、与那国でこの訓練を取材に行った時、まず訓練に入る前に東京から内閣官房の担当者が説明会をやりました。その担当者が何を強調していたかというと、とにかく時間がない、避難にかけられる時間は3~4分だと思ってくださいと言っていました。

実際でもそうですよ。仮に中国や北朝鮮からミサイル日本に撃ってきたとしたら、日本に来る発射から着弾までの時間は5分とか10分とかそれぐらいです。しかも発射した瞬間には、日本はJアラートを鳴らせない。何故かというと、ミサイルを中国が発射したことを掴む能力は、日本にはありません。持っているのはアメリカです。早期警戒衛星という宇宙空間の衛星で、熱探知をします。発射のときにロケットを噴射しますね。その熱探知をして、ミサイルが発射されたという情報をアメリカはまず掴みます。

でも、発射されたことが分かっても、どこに向かうか分からない。まずミサイルをずっと追尾して、軌道を計算して、だいたいここに落ちるだろうという計算をする。それにも時間がかかる。しかも日本はそれを独自にできません。アメリカ頼みなんですね。アメリカから入ってきた情報に基づいて、日本政府が、Jアラート鳴らします。Jアラートが鳴った時には、もう数分間経っている。だから、避難にかける時間はよくて数分、場合によっては、鳴った瞬間には着弾しているようなこともあり得ると思います。だから、本当にこんなんじゃ守れないですね。

アメリカのシンクタンクの人が、数百発のミサイルが打ち込まれるだろうという状況になってしまうと、地下司令部にいる自衛隊の幕僚たちは、もしかしたら大丈夫かもしれないけれども、国民・市民は本当に大変な状況になってしまう。被害は避けられないということです。これは決して、先島諸島だけの話ではありません。米軍と自衛隊は、日本全体をある種の日本列島を丸ごとミサイル基地として使おうとしていますから、当然向こうからも、日本列島を丸ごと攻撃されると考えておい方がいいです。

実際にそういう状況になってしまうと、本当に国民の保護どころの話ではありません。もちろん直接的にミサイルの被害というだけではなく、日本みたいに、食料やエネルギーの多くを海外から輸入に頼っている国は、当然船とかも入ってこれなくなります。ミサイルに当たらなくても生きていけなくなります。お金を持っている人は、物価が高騰しても、いろいろ買えるかもしれないけれども、少なくとも私は死にます。本当に日本の市民、住民、国民には大変な状況になってしまいます。

「台湾有事抑止論」の誤り

私が考える、台湾有事抑止論の誤りを3つ指摘したいと思います。

(1)【民主主義の観点から】

まず1点目、一つは民主主義の観点からです。日本はずっと憲法9条に基づき、専守防衛という考え方を取ってきました。専守防衛とは、相手から日本が武力攻撃を受けた時に、初めて防衛力、自衛隊を用いるというのが専守防衛です。だから、日本が武力攻撃を受けない限り、武力行使はできないという、武力行使の要件だったわけです。そういう専守防衛の考え方からすると、日本が攻撃を受けてないにもかかわらず、アメリカと一緒になって台湾を防衛する、これはもう専守防衛ではないわけです。そういうことについての国民のコンセンサスはありますかという話ですね。

現にいろんな世論調査を見ても、かなり専守防衛は日本の国民の中に浸透しています。自衛隊のこれからの在り方を尋ねても、多くは専守防衛であり続けるべきだという世論が多い。日本は民主主義国家なのに、国民的なコンセンサスもないことを、この近年、政府はアメリカと一緒になって、台湾有事を想定した戦争の準備を進めてきたわけです。それはある種、曖昧戦略を隠れ蓑にして、これは言えないからということで、説明もせずに進めてきました。

今回、高市さんが言ったことは一つの機会として、これまでみたいに特定の事態を想定していませんとか、ぼやかせないですよ。もう首相が言ったわけですから。やっぱり本当にその道でいいのかということを、みんなで考えなければいけない。そういう状況だと思っています。

(2)【国際法の観点から】

2つ目、国際法の観点からです。日本もアメリカも中国と国交を樹立して以降、中華人民共和国政府が中国を代表する唯一の合法的な政府として承認をしました。同時に、それまでは、日本もアメリカも、台北の中華民国政府を、中国を代表する政府として扱っていた。そこを180度変えたわけです。台北の台湾の政府とは、国と国の関係、政府として、国として認めることは、その時点でやめました。

では、日本とアメリカが仮に台湾が攻撃された場合に、自分たちは直接中国に攻撃を受けていない。にも関わらず、台湾を防衛するために介入するというのは、国際法上は集団的自衛権の行使になるわけです。でも台湾を国としては扱っていないわけです。台湾に対して集団的自衛権を行使するということは、国際法上できないはずですよ。そうなったら国として承認する、とかいう理窟はあると思いますけれども。少なくとも今の時点では、そういう前提で、ものは言えないですね。台湾を国として認めてないわけですから。

(3)【安全保障の観点から】

3つ目、これはもう安全保障上の観点です。軍事力による抑止です。また台湾自身も、中国の台湾侵攻を抑止する必要があるということで、大幅に台湾の防衛軍事費を上げる。またアメリカからも、つい先日、1兆円を超える武器を購入することがニュースになっていました。これも抑止力という考え方です。

しかし、この抑止というのは、戦争で相手を打ちまかせるだけの力を持つということですから、それを対象とされた相手というのは、当然打ちまかされる方なわけです。脅威になるんですね。そうなったら相手も打ちまかされないためには、もっと軍事力を強化しなければいけないとなり、軍拡をします。際限のない軍拡競争がエスカレートしていきます。

さらにその力を誇示するために、軍事演習をやる、相手に力を見せつけて威嚇をする。そういうことをお互いやり合っていると、まさに最近、沖縄の東方海域で中国の空母が来て、日本を牽制するために演習をやりました。そこに当然自衛隊も出てくるわけです。スクランブルをかけて、とレーダーを照射してということで、かなり危ない状況になってくるわけです。そういうことが近年いろんな場所で、危険な状況が強まってきている。この抑止一辺倒で進むと非常に危ない。非常に強い副作用があります。

だから平和を維持するためには、同時に緊張を緩和したり、もっと言うと信頼を醸成したり、そういう外交努力、あるいは経済的な相互依存関係を維持強化、進化させる。これも戦争を予防する一つの重要な要素になります。具体例を挙げると、例えば尖閣諸島、中国は、中国の領土だというふうに主張していますけれども、ではその領土を取りに、尖閣に中国軍が上陸しようとしたりしてこないじゃないですか。これは日米安保条約があるから抑止されているのか、自衛隊の能力で抑止されているのか。私はそうではないというふうに見ています。

自衛隊だけでは当然中国は恐れに足らずということなので、抑止にならないでしょう。日米安保という点でいうと、果たして中国が仮に尖閣に上陸してきた、侵攻してきた時に、アメリカが尖閣諸島を守るために介入して、中国と戦争するという選択肢を選ぶか。まずそれはないだろうというのが、専門家の常識です。あんな誰も住んでいない岩を守るために、アメリカ兵の血を流させるのか、もっと言うと中国と戦争するのか、そんなのは、まずありえない話です。ということから見ても、軍事力によって別に抑止されているわけではないと思います。一番大きいのは、中国にとっても、あの無人島を取るために日本と戦争するってことが、中国の利益になるのか。普通に考えてそれはならないですね。中国も日本ともそうで、世界の国々と貿易をすることによって経済を成長させ、繁栄するという、そういう国際関係の中にいるからです。そういう点を見ても、やはり抑止一辺倒の安全保障は極めて危険だろうと思っています。

台湾有事は差し迫っているのか?

中国が台湾に侵攻することが、あたかも差し迫っているように言われています。急いで抑止力を強化しないと、中国が今にでも台湾に攻め込むのではないかというような言説が、近年とりわけ日本で、メディア等も通じて言われてきたように感じています。では、本当にそうなのかということを考えたいと思います

いつから、そういうことが言われ始めたか、というと2021年3月です。何があったかと言うと、この地域の米軍を統括する司令官、ハワイのインド太平洋軍司令官が、アメリカの議会で「今後6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある」という証言をしました。2021年ですから2027年までです。2027年は、習近平主席3期目の任期の終わりです。つまり自らの任期中に台湾を統一することを、何が何でもやろうとするだろう、そういう前提で、インド太平洋軍司令官は発言した。それが非常に日本で大きく報道され、アメリカ軍のこの地域の責任者の発言だから、何か根拠があって言っているんだろう。だから急いで中国の台湾軍事侵攻、台湾の武力による統一を阻止できるような、戦争の準備をする必要があるということで、急ピッチで進められてきました。

でも、インド太平洋軍司令官がこの発言をした3ヶ月後ですか。当時、この司令官よりも偉い、米軍の文字通りトップの統合参謀本部議長でマーク・ミリーという人が、同じくアメリカ議会の公聴会で次のように発言しています。「実際に侵攻を行う意図や意思決定の証拠は今のところ見当たらない」「習近平主席と軍部は(台湾侵攻は)コストが利益をはるかに上回ると計算するだろう。あれだけの人口と防衛能力を備えた大きな島を侵攻し占領するのには大きなコストがかかることを彼らは知っている」と述べています。

私はこれを納得するところが非常に大きいです。冷静に考えたら、中国が軍事力によって、台湾を侵攻して統一をするというのは、ほぼ成功する可能性はゼロに近いだろう、と私は見ています。そんなことをやることは、相当な賭けというか、リスクの方がはるかに大きい決断になるので、その可能性はそんなに高くないだろうと私は思っていました。マーク・ミリー米軍トップも、同じような見解を述べているわけです。

さらに、統合参謀本部議長は、なんでインド太平洋軍司官がそういった発言をしたか。これはあくまでも能力のことで、2027年までに、中国軍が能力を強化しようとしているのは事実だ。でもそれが台湾侵攻のためにとか、何のためかというのは分からない。しかも、台湾を武力で統一しようとしている意図を示すような証拠は、今のところ無いと言っています。こういう見方は、ほとんど紹介されずに、2027年までに侵攻する可能性があるというここだけが注目されて、「さあ急いで抑止力強化だ」となった。

当の台湾の人たちも、今の状況をどう見ているか。昨年10月公表の世論調査で、これは国防安全研究院といって、日本でいうと防衛研究所みたいな台湾国防部の関連のシンクタンクです。そこが行った世論調査でも、6割の人が今後5年で中国の進行を受ける可能性は低い、非常に低いと回答しています。確かに中国が台湾に対して武力を行使する選択肢は排除しないと言っています。ただ、そのレッドラインというのは、基本的には台湾の独立です。つまり台湾が、中国とは別の台湾共和国という国になる。でもそれは台湾の今の政権はやろうとしていない。これは今の民進党だけではなく、国民党もそうですし、台湾の世論の多数はあくまで現状維持だというところです。決してレッドラインを超えるような状況でもないという点で見ても、少なくとも、それが差し迫っているような状況ではないというのが、冷静な見方かなと思います。

そういう状況も踏まえても、台湾有事の脅威をことさらに煽って、とにかく軍事の抑止だということは、かえって緊張を高める。それこそレーダー照射とかから始まる、偶発的な武力衝突を生み出すようなリスクを高めているのではないか、というのが私の基本的な認識です。

日本は外交による戦争予防を

日本がやるべきことは、麻生さんが言うように、アメリカと一緒になって中国を抑止するために戦争の準備をすることではないだろう。日本は憲法9条を持つ国として、軍事力によらない方法で平和に貢献すべきです。具体的には、対話や協力の推進によって緊張を緩和し、信頼を醸成する。あるいは経済的相互依存関係を維持進化させる。そういった非軍事の方法で戦争を予防する。そういう外交が必要だと思います。

とくに台湾海峡の平和と安定について言えば、何よりも、この問題を対話によって平和的に解決をすること。大陸側と台湾側がしっかりと対応して信頼を醸成し、少なくとも武力によって解決するようなことはしないという状況を作るってことが重要です。過去には、そういったことが進んだ時期もありました。とりわけ中国政府に対しては、台湾に対する軍事的威嚇をするというようなやり方ではなくて、あくまでも平和的な解決を促していくことが重要だと思います。

もう一つ重要なこと、それはアメリカです。とくに第一次トランプ政権以降のアメリカは、対中国政策を大きく転換しました。どう転換したか。第一次トランプ政権以前のアメリカは、基本的に対中政策は関与政策でした。積極的に関与し経済的な関係も作りながら、アメリカにとって好ましい方向に中国を促していく、というのがアメリカの政策だった。

第一次トランプ政権の時に、それは失敗だったと明確に結論付けました。その上で、これからは中国を関与ではなくて抑止する、封じ込める。中国の台頭を抑え込んでいくと、同盟国とともに、そういう戦略に切り替えました。以降、中国を敵視し、対抗する姿勢を強めていきます。

そのことが台湾海峡の緊張を高めてきたというのも、一つの事実です。日本はいま一緒になって行動しているわけですが、アメリカに対しても緊張を高めるような行動をするな、と言う立場にならなければいけないと思っています。

台湾海峡の緊張はどう高まってきたか

どのように台湾海峡の緊張が高まってきたのかということを、簡単に振り返ってみます。一つの大きな転機は、台湾での政権が、国民党政権から民進党政権に変わったこと、蔡英文総統になったのが一つの大きな転機でした。国民党の時は、中国と台湾はいろんな関係、交流を深めていきました。しかし、民進党の蔡英文総統になってから、このまま交流を深めていくと、中国に飲み込まれてしまうのではないかという不安を、台湾の人々が強めていったのは事実です。

一つの中国ということで、国民党の時、中国側は台湾は中国の領土の一部だという考え方で、一つの中国です。台湾側も、一つの中国だが、それは、台湾が中華人民共和国の一部ではない。我々は中華民国と名乗っているのだから、当然中国の一部だ。我々は中国なんだ。そういうお互いの解釈の違いはあるけれど、少なくとも、中国は一つだという認識では同じです。そういう前提のもとに交流をしていった。蔡英文総統、民進党になってから、いや、それはもうしない。一つの中国という合意は無いという立場に立った。中国としては、それは「絶対に独立しようとしている」、みたいに言い始めたわけです。

そこが、一つの大きな転機になりました。とはいえ、すぐに中国は台湾に軍事的に威嚇を始めたかといえば、そうではないです。軍事的な行動で見ると、大きな一つの転機は、台湾海峡の真ん中の中間ラインを中国が超え始めた。それは2019年です。でもいきなりではなく、その直前にアメリカでトランプ政権が誕生して、例えば、政府高官の台湾との相互訪問を解禁する、台湾旅行法というのが成立します。それまでアメリカは、中国と国交を結んだ時点で、台湾とは、国と国の関係、政府と政府の関係を断ち切ったので、高官同士の相互訪問はやってこなかった。それを解禁する法律を作りました。さらに2019年、米軍が、ほぼ毎月のように台湾海峡をわざと航行するという、「航行の自由作戦」をやるようになります。さらには27年ぶりに、台湾に戦闘機を売却しました。こうしたことが行われる中で、中国の戦闘機が、台湾海峡の中間線を超えるようになりました。

次に、中国が台湾に対する威嚇を強めたのが2022年の8月です。何をやったかというと、初めて、台湾を全部、台湾海峡側だけではなく太平洋側も含めて、取り囲むような形で大規模な軍事演習を実施しました。中国は、台湾を海上封鎖する想定で、訓練をやっているというふうに見られています。なんでそれをやったかというと、その直前にアメリカのペロシ下院議長が台湾を訪問し、蔡英文総統と会談した。さらにその前の年には、バイデン大統領が台湾防衛を明言するということもありました。下院議長というのは、大統領継承順位2位ですから、大統領が倒れた時に代行するのは副大統領ですけれども、副大統領もできない場合は下院議長が代行します。

そういう職責にある下院議長が台湾を公式訪問し、蔡英文総統と会談するというのは、中国からすると、また政府間の関係にしようとしているのではないのと見えてしまう。絶対にそれは認められないということで、それの対応措置として、こういった軍事演習をやるようになった。という経緯から見ても、やはりアメリカのこうした行動にも、この緊張を高めた要因はあるだろうと思います。こうしたことをしないように、日本はストップ役を果たさなければいけないのではないか、というのが私の考えです。

しかし台湾海峡の緊張の高まりを、いわば追い風にして、この間、日本はアメリカと一緒になって、抑止力強化、台湾有事を共に戦う戦争の準備を進めてきたということです。

米国の対中政策の変化と国家安全保障戦略

ここに来て、そのアメリカが大きく政策・戦略を変えてきています。10月30日、トランプ大統領が習近平主席と首脳会談を行いました、そこで貿易戦争の一時休戦で合意をしました。この直後、アメリカのテレビ局のインタビューでトランプ大統領は、「中国を叩きのめすのではなく、むしろ協力することによって、アメリカはより大きく、より良くより強くなれると思う」と発言しました。これまでは、戦争になったら叩きのめすと言っていた。戦争になったら打ちまかす、そういう準備をすると言っていた。しかし、むしろ中国と協力することがアメリカの繁栄成長にとっても絶対必要なことだと、はっきり言った。トランプ大統領は言うことがコロコロ変わるのですが、これはその時にただ言ったということではありません。

12月初めにアメリカ政府としての国家安全保障戦略という安保戦略の最上位文書が発表されました。この中で、アジア太平洋、インド太平洋地域に関する章があります。その最初に書いてあって、しかも分量として一番多いのは、中国といかにいい関係を作っていくかということです。それは経済です。中国と経済的にうまくやることが、アメリカの経済成長と繁栄にとって欠かせないことだと。そういうことが強調して書いてあります。その後に付け加えて、それが一番大事だけれども、一方で中国を抑止する必要があるということも書いてあります。ただ、最初に書いてあるのは、中国と互形的な経済環境を維持することが、アメリカの経済成長繁栄にとって重要だと書かれています。もう完全にアメリカファーストですから。

バイデン政権までは何と言っていたか。やっぱり自由や民主主義を守らなきゃいけない。自由世界の台湾を防衛しなければいけない、みたいなことを言っていた。けれど、アメリカの経済的な利益を第一に考えるのであれば、何よりも中国との関係は互恵的な関係、良好な関係を作る必要があると言っています。

今後、台湾の安全保障よりも、中国との経済関係から得られるアメリカの利益を優先する可能性も、かなり高くなっていると思います。それが現れたのは、まさに高市首相の発言に対して、高市さんを支持する、後押しするのではなくて、逆に台湾問題で中国を刺激するなと忠告したという報道もあります。それはアメリカの考えの変化に大きく示されていると思います。

日本に対しては軍事費の増額を要求する二枚舌外交

アメリカ自身は、中国を敵視対抗するのではなく、良好な関係を築いていく方向にシフトしている。一方で日本や同盟国に対しては、国家安全保障戦略が、次のように述べています。

敵対者を抑止し――中国と書いてないですよ。敵対者を抑止し、第一列島線を防衛するため、必要な能力を構築するために、敵対者を抑止しなければいけない。そのために必要な能力を構築するために、日本や韓国、さらには台湾、オーストラリア、フィリピン、そういう国々に対して、防衛力の増額を促す必要があると明記されています。二枚舌外交ですね。自らは中国とはうまくやるけれども、日本や韓国とか、アジアの同盟国に対しては、中国を抑止するために、もっと軍拡をしろ、というわけです。

そうしたアメリカの要求に対して、高市政権は忠実に実行しようとしています。GDP比2%の目標を今年度前倒しで達成し、来年中には安保三文書を改定して、新たな目標を設定する方針です。NATOや韓国に倣ってDGP3.5%、20兆円超です。そういう方向に目標を設定する可能性もあると思います。そのお金で何をするのか。恐らく、アメリカからたくさん兵器を買うでしょう。さらには原子力潜水艦を日本としても持つとか、韓国も持とうとしていますが。そういう方向を高市政権は考えています。

このように進んでいくと、どうなるのか。戦争になるならない以前の話で、国民負担増は避けられません。所得税1%というのを、2027年度からやる方向ですけれども、あれはGDP比2%を前提とした数字です。GDP比3.5%を目指すのであれば、それこそ1%では済まない話になってきます。もっと増税をするとか、社会保障を切り捨てるとか、あるいは国債をさらに発行するとかですか。すでに日本は、海上自衛隊の艦船とか、防衛関係のインフラ整備に建設国債もどんどんつぎ込んでいる。もう7兆円になっています。どんどんと後の世代に付けを回す。そうすれば債務残高がどんどん膨れ上がっていって、結果的に、日本が売られるような事態になりかねない。そういう意味では、平和にとってだけではなくて、国民の暮らし、この国の経済、この国の存立を脅かすような状況になるのではないかと私は危惧しています。

これで喜ぶのは誰なんですか、得をするのは誰なんですか。もちろんアメリカは喜ぶでしょう。日本が防衛費を上げて、アメリカからたくさん兵器を買えば。あとは日本の兵器を作って、政府に買ってもらう三菱重工とか、そういう会社だけじゃないのか、ということです。そういう意味でも、こういう大軍拡路線は、本当に止めなければいけないと思っています。

よくピンチはチャンスという言葉がありますけれども、本当に、このピンチをチャンスに変えていかなければいけない。そのチャンスとは何か。一つは、これまで日本の戦後の安全保障政策は、ひたすらアメリカに追随してきた。いかにアメリカの軍事戦略のニーズに応えていくのか、期待に応えていくのかということを、やり続けてきた。でもいい加減、それではいけないだろう。そこを転換していく必要があるのではないかというのが私の考えです。

トランプ2.0で世論が大きく変化

今年4月の朝日新聞の世論調査で、こういう結果が出ています。アメリカとの外交、なるべく自立すべきだという人が68%。こんな数字、私25年間、安全保障問題を追ってきて見たことがありません。日本の世論調査で、アメリカから自立すべきだと言っている人が68%もいる。サブ見出しで、「いざという時アメリカは日本を守ってくれるか」、「いや守ってくれないのではないの」という懐疑派が77%だった。これが今一番大きな変化だと思います。

私は、ずっと安保神話と呼んできましたが、いざとなったらこんなにアメリカに尽くしてきたんだから、アメリカは日本を守ってくれるだろう。在日米軍は日本を守るために駐留しているんだろう、ということが、なんか知らないけど、日本の中で共有されてきました。だから世論調査をやっても日米安保支持派が8~9割という数字になってきました。

少なくとも私が25年間、事実を追いかけてきた中で言えるのは、アメリカは別に日本を守るために日本に米軍を置いているわけでもないですし、アメリカは隠してもいないんです。けれどもなぜか日本では、アメリカが日本を守ってくれると、みんなが、なんとなく思っているような状況が続いてきた。トランプ政権になって、それは単なる幻想だったということに、多くの人が気づき始めています。だったら、もうアメリカにひたすらついていくのではなくて、日本が自立する必要がある。そういうチャンスが今、生まれているのではないかというのが私の考えです。

ただこれは、危ういところでもあります。アメリカが守ってくれないのだったら、日本がもっと軍拡をして、場合によっては、核兵器も持って守らなければいけないのではないか、という声が高まる危険性もあります。現にそういう声は出てきていますよね。

それに対しても言わなけらばいけない。軍拡をしなくても、アメリカに頼らずとも、日本の安全を守っていけるというもう一つの道を示していかないといけない。これは、べき論ではなくて、できるというふうに思っています。それをまさに実践している国が、世界にはたくさんあります。特にこのアジアでは、東南アジア諸国連合ASEANが、そういう方向を目指してきています。まさに軍事力ではなく外交によって、戦争を予防する。そのことによって安全を確保していくということをASEANは追求しています。

ASEANの安全保障

ASEANは1971年に、(東南アジア平和・自由・中立地帯)宣言をしています。これは、域外大国の勢力争いの場に東南アジアがならないように、自分たちの手で平和と安定を実現することを目指していくという方向性を打ち出したものです。1971年はどういう時代か。まさにベトナム戦争の最中です。ASEANの諸国も、当初は冷戦時代でしたから、共産主義が拡大して、自分たちの国もそういう革命が起きることを止めないといけない。そのためには、アメリカの力を借りなければいけないという考え方をしていた時期もあります。自分たちでは強い力を持てないので、アメリカの力を、大国の力を借りる。でもその結果、冷戦の米ソ対立という大国間の争いの、まさに冷戦ではなくて熱戦の場になったわけです。

東南アジアはそういう経験をへて、こういうことにならないためには大国の力を借りて安全保障をするのではなく、自分たちの手で地域の安全と平和を作り出していかないといけないということになりました。その一つの転機になったのは、ベトナム戦争が終わった時です。翌年の1976年に、ASEAN初の首脳会議が、インドネシアのバリで開かれて、そこで東南アジア友好協力条約を締結します。このコンセプトは、共産主義だ何だと言って敵視をし、敵対するのではなく、体制の違いがあっても、少なくともお互い認め合って平和的に共存し合う。戦争だけはしない。そういう地域を作る方向を目指します。その方向性を本格的に追求し始めるのは、冷戦崩壊後、まさに、ベトナムとかカンボジアとかラオスといった国々がASEANに加盟して、東南アジアの全ての国が、体制の違いを超えて、ASEANに結集した後なんですね。

1994年、東南アジアでは体制の違いを受けいれて、全ての国がASEANに結集したので、今度は範囲を広げてアジア太平洋地域全体に、そういう流れを広げていこう。そのために、まずはアジア太平洋地域の国々が一同に毎年集まって、対話によって戦争のリスクがある問題について話し合う。そこで信頼を醸成し、紛争予防を図るASEAN地域フォーラムという会議を開催します。これにはASEANの国々だけではなく、日本、中国、韓国という東北アジアの国、さらには、アメリカやオーストラリアといった国々を招待して、対話の場を作ります。

さらに2019年に、ASEAN独自のインド太平洋構想を採択しました。これはASEANとして、こういう地域を作っていくというビジョンを示したものです。そこでは、対抗ではなく対話と協力の意図を目指す。そのためにASEANは誠実な仲介者であり続ける。ASEANが仲介者になって、対立したり、奪い合ったりするのではなく、みんながウィン・ウィンになるような協調的な地域秩序を作っていくという方向を目指して外交努力を進めています。平和を目指す日本も、こういう形で目指すべきではないかと考えます。

こういう話をすると、外交によって平和を守るなんていうのは、お花畑だと言う人がいます。中国や北朝鮮やロシアみたいな国に話し合いなんか通用するわけはないだろうという人は多いですね、日本では。でもASEANの指導者にそんなこと言ったら、何言っているのかと言われると思います。

ASEANは、実際に外交努力によって戦争を予防してきました。ただ理念じゃないんです。理想を言っているだけではないんですね。ASEANにとっては南シナ海を巡る領有権を巡る問題、中国との問題が一番戦争の被害になる問題です。それをどうやって戦争にしないかといえば、ASEANはまさに中国との外交対話によって、努力を続けてきました。

当初は中国も、ASEANとしてまとまって対話をすると自分たちにとって不利だと思って、ASEAN相手には話し合いをしません。それぞれの国と個別にはやりますけれどもASEANとは話し合いをしませんという態度だった。それを粘り強く働きかけて、中国にASEANと対話をしていくということをのませて、テーブルに載せて、2002年には、南シナ海に関する関係国の行動宣言を、ASEANと中国が一緒に発表するところまでもっていきました。南シナ海の領有権の問題は、あくまでも平和的に解決をする。武力を使っては解決しないという合意を結びました。

今、その宣言をさらに拘束力のある規範に高めるということでも、既にASEANと中国が合意をしています。もう原文もできていて、2026年までに策定することで交渉を進めています。

そんなことをやっても中国はいろいろ南シナでやっているじゃないか。日本の報道だけ見ているとそういうふうに思われる方も多いと思います。けれども丁寧に見ていただけると、中国がやっているのは、軍艦とか中国軍は一切出ていっていません。漁船とか、日本でいうと海上保安庁の船を使ったレベルではいろいろやっています。これはもちろんいいことではないですよ。フィリピンの漁船に水ぶっかけたりするのは絶対危険ですし、止めろと言うべきです。けれども、少なくとも軍事力を使って他国が支配している島を奪い取るみたいなことは一切やっていないんです。

それはASEANとの約束ごとに反しますし、何よりもそれをやってしまうと戦争になってしまうからです。ASEANをめぐる問題を戦争にしてこなかったのは、軍事力による抑止力ではなくて、ASEANのこうした中国との外交であり、同時に経済的な相互依存関係です。これ非常に大きいですよね。

アメリカがASEANに対して、中国に対して100%を超える関税をかけた時に、中国は、何故それを乗り越えられたかというと、トランプ政権になったらそういうことをやってくるだろうと予測して準備していた。その準備は、アメリカに向けて輸出していたものを他のところに振り向けられるような準備です。どこかというとASEAN東南アジアです。中国にとって最大の輸出相手国はアメリカですけれども、ASEAN全部まとめて10カ国、最近、東ティモールが入って11カ国になりましたけれども、まとめて、ほぼアメリカに匹敵する額です。

尖閣諸島でも、南シナ海のどこかの岩を取るためでも、ASEANと戦争して、そういった貿易関係ができなくなったら、中国にとってもマイナスでしかないわけです。だから、やらないという面もあります。そういう、外交と経済的な関係を深めることによって、この南シナ海を巡る問題を戦争にしないってことにASEAN自身は成功してきています。だから、中国なんて外交しても無駄だとか、話しあいができる国じゃないなんていうのは、ASEANの指導者からすると、何言ってるのか、です。ではあなたたち、中国と戦争をやってどうなるのですか、という話になります。

冷静な思考と議論を!

怖いのは、高市さんの発言をめぐって、経済的にも、旅行業、水産業の人たちは、非常に大きな影響を受けていますね。自衛隊員も、現場で非常に危険な状況に置かれている。あの高市発言というのは、日本にとって何の利益にもならなかったことだと思います。

しかし高市さんの支持率、異常に高いじゃないですか。むしろ中国が、あの発言をめぐって撤回を求めたり、いろんなことをすればするほど、日本国民の嫌中、反中感情がより増幅されて、撤回をしない高市さん偉いとかいう雰囲気になっているように感じますね。 言ってみれば、全て中国が悪い、何か不当に日本に対して圧力をかけてきている。高市発言の撤回は、中国への屈服を意味する。

私のように撤回せよなんて言っている人間はSNSでどういう反応が来るか。皆さんも、そういう経験されているのではないかと思います。お前は中国の犬だとか、中国のスパイだとか、お前は中国のハニートラップに引っかかったとか、お前は中国人だろうとか、散々言われるわけですよ。

あと、僕が怖いなと思うのは、中国軍機の自衛隊機に対するレーダー照射についても、レーダー照射されたなら先に撃ってしまえ、みたいなことも平気で言う人がいます。一般の人だったらまだしも、朝日新聞の記者とかも、ネットのニュース番組で平気で言う。俺だったら、もう発射ボタン押してるよって。そういう発言が支持されてしまう。勇ましく中国に対して強い態度に出ればなるほど、何かそういうことが支持されるような空気が、すごく増幅されている気がします。

これを私が想起するのは、日中戦争に入っていった時の日本の空気と非常に似ているのではないか。暴支膺懲(ぼうしようちょう)ですよ。とにかく中国が悪い。日本の満州鉄道や、日本軍に対してゲリラ攻撃をしてくる中国が悪い。だから中国に反省を促すために軍事作戦をやる。そういうロジックで、どんどん入っていった。でも、なんで日本軍が攻撃されたか。それは日本が侵略していったからですよね。その理由を見ないで、とにかく攻撃してくる中国は悪いんだ、懲らしめると言って、ナショナリズムが高まっていって、どんどん戦争に深入りしていった。その時代の空気と異常に似ているのではないかと思います。

怖いのは何か。軍拡をして強い軍事力を持って、潜水艦を持つ。すると何か自分たちが強くなっているような気になって、中国に対してやってやろうじゃないかとなる。

今、当のアメリカは中国とうまくやろうとしていますから、仮にそれで何かが起こっても、アメリカは助けにきてはくれません。日本だけで中国と戦争することになりかねない状況にも。今、台湾有事だ、台湾有事だと煽っていますけれど、下手をすれば、日本が変な方向に行ってしまう。台湾の人は、わりと冷静に見ています。とにかく中国をやっつけるみたいになってしまうと、下手すれば、日本だけで中国とやるような事態になりかねない。そういう危惧すら抱かざるを得ないような状況にあるのではないかと思います。

「脱亜入欧」思考の克服を

そういう状況にならないためにも、明治以降の「脱亜入欧」思考を克服する。これは日米安保体制の生みの親と言われるジョン・フォスター・ダレス(サンフランシスコ平和条約と日米安全保障条約の米側の交渉責任者)が述べたと言われている言葉です。「他のアジアの国に対して日本人がしばしば持っていた優越感と西側陣営の『エリート・アングロサクソン・クラブ』に入るという憧れを満たすことで、日本人のアメリカやイギリスなどの西側陣営に対する忠誠をつなぎとめさせるべきだ」と。まさに手の平で踊らせようとしたわけです。日本人というのは、アジアの人々を見下して、アメリカとか、西側陣営の仲間入りをしたがっている。そういう日本人の感情を、うまく利用して、自分たちに都合いいように日本を利用しようと考えたのがダレスです。

まさに、このアメリカの手の平に乗ってきたというふうに私は思います。この手の平から脱却して、アメリカに踊らされて、軍事費用をたくさんあげて、アメリカからたくさん兵器を買うような状況にならないためにも、アジアの人たちと、ちゃんと信頼関係に基づく平和を作れるようになる。中国蔑視とか、アジアの人々に対する蔑視、日本の方が上だというところを乗り越えていく、変えていくというのが、私たち市民社会に、求められていることなのではないかと思っています。

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