6月31日~6月1日と、6月6日と7日、連続して全国から東京に各地の市民運動の活動家たちが集まってきて、交流討論集会や対省庁交渉をおこなった。前者は27回の歴史を持った集会で、13都道府県からのべ70名が参加し、後者はリアル参加250名とネット視聴300名の参加だった。詳細は別に譲るが、前者のタイトルは「第27回 許すな!憲法改悪・市民運動全国交流集会公開集会 『戦争する国』の道を止める」で、後者は「戦争止めよう!沖縄・西日本ネットワーク東京行動」だった。
タイトルを一見してわかるのは「戦争を止める」という問題意識と決意だ。参加者はみな真剣だった。前者では「靖國神社」のフィールドワークがあり、後者では防衛省をはじめ各省庁の役人と市民が対峙して交渉した。
米国防総省のショーン・パーネル報道官は6月20日、日本を含むアジアの同盟国の軍事支出を国内総生産(GDP)比で5%に引き上げる必要があるとの見解を示した。この異常な米国の要求をまえに、日本政府は狼狽している。
このところ日本周辺の西太平洋で、臨戦態勢と見まごうばかりの軍事演習がしきりに繰り返されている。防衛省統合幕僚監部が公表したところによれば、2024年10月23日から11月1日にかけて、中国を仮想敵視して陸海空自衛隊および米軍が参加して展開された日米共同統合演習(実動演習)「キーンソード25」は、のちに言及するが、2022年12月に岸田内閣によって閣議決定された「安保3文書」の具体化ともいえる極めて大規模なものだった。防衛省によれば「本訓練は、強固な日米同盟の下、日米の即応態勢及び相互運用性を向上させるもの。自衛隊と米軍は力による一方的な現状変更の試みは断じて許さないという強い意志の下、あらゆる事態に対応するための抑止力・対処力を強化し、我が国の防衛及び地域の平和と安全の確保に寄与していく」とされた。
実施場所(基準)は「(1)自衛隊施設、在日米軍施設及び区域、(2)民間空港・港湾、(3)奄美大島、徳之島、沖永良部島、およびわが国周辺海空域等」とされた。
演習参加部隊は、(1)自衛隊は統合幕僚監部、陸上自衛隊、海上自衛隊、 航空自衛隊、(2)米軍はインド太平洋軍、太平洋陸軍、太平洋艦隊、太平洋空軍、太平洋海兵隊、在日米軍、インド太平洋宇宙軍等で、参加規模は(1)自衛隊:人員約33,000名、艦艇 約30隻、航空機約250機、(2)米軍:人員約12,000名、艦艇 約10隻、航空機約120機だ。 (3)同志国は豪軍及び加軍にくわえ、仏国、独国、印国、伊国、リトアニア、蘭国、新国、比国、韓国、西国、英国及びNATOからオブザーバーを招へいした。
陸上自衛隊は、今年度の訓練・演習の特色として、①これまで12月におこなわれていた日米豪共同指揮所演習「ヤマサクラ」を8月に移動し、9月におこなわれる米豪陸軍との実動訓練「オリエント・シールド」を時期的に連接させる。②新たな訓練として、多国間空挺演習を国外(イタリア)と国内で実施し、空挺部隊の共同作戦能力の向上および同盟国・同志国との防衛協力を強化する。③これまで国外でおこなってきた地対艦誘導弾年次射撃訓練を国内(北海道など各地)で実施する。
3月27日、政府は中国が台湾に武力行使をする台湾有事などを念頭に、沖縄県の先島諸島5市町村(石垣市、宮古島市、竹富町、与那国町、多良間村)の住民ら約12万人を避難させる計画をとりまとめて公表した。計画には避難に必要な移動手段や受け入れ先のホテルの確保策が盛り込まれた。計画では、自衛隊や海上保安庁の船舶、民間のフェリー、航空機などで、1日約2万人を6日間程度かけて輸送するというもの。全く実施不可能としか言いようのない計画で、これらは6月6日の省庁交渉の重要問題の一つだった。
まさにそういう時代になりつつある。5月31日、シンガポールで開かれた「アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)」(英国際戦略研究所主催、朝日新聞社など後援)で演説した中谷元防衛相は「インド太平洋全体を俯瞰的に捉え、各国の防衛当局の自主的な取り組みの間で協力と連携を強化する構想として「OCEAN(オーシャン)の精神と呼ぶこととしたい」と提案した。オーシャンという命名は中谷氏によれば「共通の価値と利益を共有し合う諸国が、協力的な取り組みを通じ、シナジー(筆者註:相乗効果、共同作用)を発揮して一つの大きな取り組みとしていく(One Cooperative Effort Among Nations)」の略であり、太平洋とインド洋を合わせて一つの「オーシャン(海)」と捉える意味も込めたという。中谷氏は、3月末のヘグセス米国防長官との会談で東シナ海や南シナ海を中心とした地域を一体の「戦域」と捉え、日米が同志国とともに防衛協力を強化する対中国包囲網の形成を念頭に、「ワンシアター(一つの戦域)」構想を打ち出していたが、この用語は戦争色が強すぎることから、賛同を広げるために理念を和らげてオーシャンと言い換えた。その一方、日米豪比の連携強化や、欧州諸国や北大西洋条約機構(NATO)のインド太平洋地域への関与の強化を「勇気づけられる動き」と歓迎し、31日には日米豪比の防衛相会談にも出席した。
見逃してならないことは、日米防衛相会談でヘグセス氏が、「米軍の兵士たちは自衛隊と肩を並べ、抑止に取り組んでいる」とのべ、米国は台湾海峡を含むインド太平洋で「盤石で万全な」抑止力を維持すると述べたことに続いて、「西太平洋で有事に直面した場合、日本は前線に立つことになる」と語ったことだ。シャングリラ会議では中谷氏は、「オーシャンのもとで各国が手を携え(軍事的圧力を強める中国に対抗し)ルールに基づく国際秩序の回復を図っていくべきで、日本はその中心であり続けることを約束する」と言い切った。これは日本がインド太平洋地域での米国の中国包囲網形成に尖兵として積極的に参加し、この広大な地域での米中の覇権争奪の最前線に自ら加わっていくことの意思表明であり、従来の「専守防衛」という日本政府の憲法解釈や、安保法制の立場すら大きく逸脱するものだ。
24年8月、総選挙を前にして岸田文雄首相(当時)は、唐突に「憲法改正」をめぐり、自衛隊の明記に向けた論点整理を行うよう指示した。これは改憲国民投票を行う際には新たに「自衛隊の明記」と「緊急事態条項」の2つの論点を問いたいという考えにもとづくものだ。
もともと自民党は安倍総裁時代の2018年に当面する改憲のテーマとして、(1)安全保障に関わる「自衛隊」、(2)②統治機構のあり方に関する「緊急事態」、(3)一票の較差と地域の民意反映が問われる「合区解消・地方公共団体」、(4)国家百年の計たる「教育充実」の4つを優先的な改憲検討項目としてきた。しかし、この4項目では公明党など国会の改憲派全体の合意を得るのは困難で、憲法審査会の改憲派の中で党派を超えて連携できる項目として、②のごく一部分にすぎない、緊急事態に国会議員の任期を延長するための「緊急事態条項」を先行して検討してきた経緯がある。この岸田改憲指示は従来の自民党の方針の変更だ。
岸田首相は米国の強い要求の下、2022年12月16日、国会にも諮らず敵基地攻撃能力保有に象徴される大軍拡と軍事費の倍増のための「安保3文書」(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)を閣議決定した。24年8月の岸田発言は「安保3文書」にそって改憲を進めようとするもので、みずからの退陣を前提にした自民党総裁選に際して、憲法審査会での議論の方針変更ともいえる遺言のようなものだ。
25年6月12日、衆院憲法審査会幹事会に、突然、強引に憲法審改憲派5名(船田元・自民、馬場伸幸・維新、浅野哲・国民民主、濱地雅一・公明、北神圭朗・有志)によって「『選挙困難事態における国会機能維持条項』の骨子案とさらに深堀するべき検討課題(メモ)」が配布された。一部の議論に煽られて、市民運動の一部からもこれが憲法審査会に出されたら明文改憲の前夜だといわんばかりに騒ぎ立てる議論がある。しかし、メモの提出は先の総選挙後に憲法審査会の主導権が取れなくなった改憲派が行ったパフォーマンスに過ぎない。
さきの岸田政権の遺言ともいうべき改憲路線は当然のように岸田氏が後継として支持した石破茂首相に受け継がれた。石破新首相は従来の持論と矛盾するものも含め、この日米合意による岸田安保3文書の路線を丸呑みした。かつて石破は安倍の「9条維持+自衛隊明記」の2018年の4項目改憲論を徹底的に批判していた。当時、石破氏は「安倍元総理が突然提唱された『加憲案』---憲法9条の1項、2項はそのままで、3項に自衛隊を明記すればいいという案---は思考停止の最たるものと言えるのではないでしょうか。矛盾は矛盾として固定化してもいい、『実』はなくとも、憲法改正という『名』が取れればいいという思考の放棄。わたしにはそのように思えました」と言っていた。石破氏は首相のポジションについて初めて変節し、かつて論難した安倍改憲の域に達したのだ。こうして現在の石破自民党は24年8月の岸田2項目改憲実現という立場に立っている。だからこそ、25年6月12日の衆院憲法審査会に配布された「検討課題(メモ)」は、自民党の討議も経ていない「幹事会配布資料」という位置づけにとどまり、議事録にも残らないかたちで配布されたのだ。
安保3文書は中国や朝鮮に届く長射程ミサイル(1000キロ~3000キロ)の配備を中心とする敵基地(のちに「領域」との言い換えも許容)攻撃能力の保有を柱とする大軍拡路線だ。軍事予算上は2022年~27年度の5年間で43兆円にものぼり、25年度予算では8兆7000億円に達するもので、「専守防衛に徹する」「反撃能力」だなどというが、全くの欺まんだ。くわえて、今回の5%要求だ。2%でも世界第3位と言われるのだから、5%なら日本はまごうかたなき超軍事費大国になる。
すでにトランプ米政権の下で進んでいる乱暴な関税引き上げ交渉の中で、米国からは兵器の購入の露骨な要求がちらつかされている。来る日米首脳会談でどういうパッケージになるか、案じられるところだ。
本論冒頭に紹介した「戦争止めよう!沖縄・西日本ネットワーク東京行動」に参加した琉球諸島・西日本各地のミサイル基地・自衛隊基地反対などを掲げた市民団体の行動は、まさにこの安保3文書の西日本各地での具体化に関連する切実な行動だ。九州各県や琉球諸島に自衛隊のミサイル部隊が配備される、民家の近くに弾薬庫がつくられる、オスプレイの基地がつくられる、民間空港・港湾が軍事利用される、島が破壊され、海が埋め立てられる。全国各地で自衛隊基地の司令部の強靭化が進んでいる、などなど、住民の怒りは切実だ。安保3文書はこのように具体化されつつある。もはや「戦争する国」は物語ではない。これらの住民にとっては具体的な現実の課題だ。
6月6日、あらかじめ質問書を届けて準備したにもかかわらず省庁交渉では、官の側からまともな回答が示されず、怒りの声があがった。
こうして、日本の自衛隊が米中の覇権争奪戦のはげしいインド・太平洋で戦争ができる体制が急速に進められている。これにインドや豪州がまきこまれ、NATOがまきこまれて、ASEAN諸国の分断がすすんでいる。
5月31日の全国交流集会では講師の猿田佐代さんがアジア各国から「米中いずれか選ばせるな(Don’t make us choose)」の声が上がっていることが紹介された。日本が選択すべき道は本来、まさにこれだ。6月3日、韓国の民衆は伊前政権に代えて、平和と民主主義と自由を希求する李新政権を選んだ。これは米国や日本の政府がくわだてる米日韓の軍事同盟強化の道の大きな障害となるだろう。「安保3文書」が選んでいる道を止めることは緊急の課題だ。インド太平洋を大国の覇権争奪の海にするな!
日本は対米追従の軍拡・戦争準備をやめよ
(共同代表 高田健)
ようやく雪が溶け、肥料を撒き、田んぼにトラクターを入れ始めたのが5/20。例年より半月程遅いスタート。田んぼ3枚だけ集中的に進め5/23に植えました。今年は特に在庫切れで待たせてしまっているお客様が多いので。
←雪が多いと水路の汚れもひとしお。秋に掃除してもこれです。そして長距離。中山間地では田んぼ自体の作業より、それを維持するための作業の方が厄介です。スコップ作業よりトラクターや田植え機に乗っている方が楽です。農水省大臣は知らないと思いますが。
←13トンのお米が穫れる予定の苗。原因不明のムラもありますが、余分に作っているので大丈夫。苗が育ち過ぎてもいけないので、田植えまで少々焦り気味です。
北魚沼の山の中でお米を3町歩ほど作っている兼業農家です。
前大臣様の「米は買ったことありません。云々」という発言には夫婦で声を挙げて笑わせていただきました。これがこのご時世においての農政トップのセリフかと。予想通りのお別れでした。
何を大切にしたいのか不明な現大臣様。その知識と軽い言葉に非常に懸念を抱いておりました。就任早々「5㎏の米を2千円程度で店頭へ」とのこと。インパクトだけはありましたね。まさに農家赤字の破滅論。それでは米農家が継続できないことをまだご存じありませんか?お米屋さんだって深刻です。もくろみとして、アメリカの米を輸入するための農家つぶしAつぶしの準備としては有効かもしれませんが。ただしそれは農家だけでなく国民も求めていないこと。選挙へ向けてのリップサービスであれば失敗だと思われます。
これまでの減反政策についても厳しい意見があります。米余りのためやむを得ない側面もあったのかもしれません。ですが、考えなしで市場経済に放り出すだけであればこういう結果になるのは当然です。政府が買い取り調整をしたり、同時に農業を育てる政策を怠ってはいけませんでしたね。生産者は減る一方なのですから。例えば鳩山内閣時の山田正彦大臣が実行した作付面積に則した個別所得補償。最低限それは復活させるべきでしょう。強引になくした自民党が責任を持って。そろそろ財務省への忖度もおしまいにして。
当然消費税も大きな負担です。うちのような小さな農家でも昨年の経費の消費税分は34万円。消費税を主要因とする30年間の経済不振が無ければ5㎏のお米は4000円だって高くなかったはず。世界を見渡せば不景気に消費税を下げるのは王道です。財源的には、自ら国債を発行でき資産もたくさんある日本は破綻しないそうですね。農業経営や米価格の視点からも消費税は廃止すべき。農水省の管轄ではないでしょうが、農業上でのデメリットとしてお伝えしておきます。
JAへの天下り農水省28人が米高への影響を与えているという話を耳にしますが、本当ですか?天下りは即刻廃止しかありません。そんなところに1人何千万円も払うより、真面目に働いているJA職員や農家に還元すべきでしょう。
政府が2023年度米を備蓄米で買い入れた平均価格は一俵13000円。今回の放出3回における平均落札価格は一俵20000円強(しかも2021・2022年産米!)。差額は7000円。放出量312000トン=520万俵
520万俵×7000円=364億円
これだけのマージンを得た政府。一体何にお使いですか?保管料は毎年の必要経費で計上されているはず。農家や国民に還す気はありませんか?
最後に、大臣様、どうぞこのまま恥ずかしい発言を繰り返してください。愚かさが分かり易く、国民が選挙に行きたくなるかもしれませんから。
敬具
2025.5.27 工房茶助 市井晴也
◎◎◎ 主催者基調挨拶 菱山南帆子 ◎◎◎
今日は、さまざまな地域の市民運動を日々頑張っている仲間の皆さんが、集まって一緒に共に学びあい、これからどうやって闘いを進めていくかという集会です。
さて、去年の衆議院選挙で野党が多数をとり、少数与党の状態にまで追い込みました。2009年の民主党の政権交代の時と同じくらい自民党は票を減らし、民主党も同じぐらい票を増やしています。でも、なぜ政権交代が起きなかったのか、それは投票率が低かったからなんですね。
私は2月8日、韓国のユン弾劾集会に日本から参加して、集会でスピーチさせてもらいました。その時、向こうの仲間と「これから選挙になるかもしれない」という話になりました。私が、「日本は、もう投票率めっちゃ低いんよ」という話したら、「韓国もそうなの。すごく投票率低くなっている、60%」と言います。日本で60%もあったら、もう政権交代です。杉並区の岸本聡子さんの時も、吉田晴美さんの時も、杉並区だけは60%超えました。私は30%なんて言えなかった。韓国の人たちの政治への関心の高さはすごいと思いました。
一方で、日本はこの低投票率につけいって、選挙をおもちゃにしたり、選挙で金儲けする輩が、この間増えてきています。これは権利意識の薄弱化があるのかと思います。私の年代も、私より年下の若い子たちも、生まれた時には労働組合が潰されたような状態で、労働組合に入ったらむしろ痛い目に遭うみたいな状況に置かれてきた若い人たちがいっぱいいます。政治的な発言をしたらネットでは叩かれる。テレビで政治的な発言をしたら干される。
そういった中で、自分の意見が言えなくなる。権利で守られた経験がないので、権利意識も労働者意識もなくなってくる。今の若い子たち、自分たちのことを労働者だと思っていませんから。肉体労働者のことを労働者だと思って、自分たちは違うみたいな。そういった権利意識、労働者意識の薄弱化が、低投票率に結びつき、さらには声のでかいものについていく、強いものに憑依することによって自分も強くなれたような気持ちになってしまう。こういうところから石丸現象とか、この前の兵庫県知事選挙。こういった現象が起きてしまいます。これは、日本に限らず、最近もイギリスでZ世代を調査したところ、民主主義よりも独裁がいいという、そういう結果が出ています。選挙だけが政治でありませんから、やはり私たちの運動、私たちの労働組合、そういったものも一つの未来の選択肢だということを、私たちは若い人たちに示していかなければなりません。
せっかく少数与党に持ち込んだにもかかわらず、学術会議解体法案は通され、能動的サイバー防御法も通されてしまい、選択的夫婦別姓なんてやっと審議入りですよ。今まで審議もできなかった。この選択的夫婦別姓を阻む人たちとは一体何なのかということですが、やはり戦争ができる国にしたい人たちです。
新たな戦前っていうのは本当に今まさに深刻です。今日は九州の仲間も来ていますから、集会の最後に詳しくお話ししていただければと思います。例えば、2025年には熊本の健軍、そして大分の由布院で、長射程ミサイルを配備する。
鹿児島の教職員組合の方から聞いたお話ですが、馬毛島でミサイル基地容認になったことで国が市に金を出し、その金を市が子供たちの給食費に当てました。そうすると、子供たちの中で給食を食べない子たちが出てきた。子どもが、お父ちゃんが基地反対派だからっていうそうです。親がそう言ってるんでしょうけれども、戦争というのは、横の分断から始まるということもつくづく感じて、本当に怖いなと思いました。
米の値上がり、そして米農家が本当に辛い思いをしている。米農家を潰すような政策を長年続けてきたのは自民党です。まさに戦中の節約運動みたいな、そういう状態になってきて、私たちは新たな戦前というよりはもう戦中なんじゃないかなって思うほど深刻な状況になってきていると思います。
そして沖縄のことですね。もうひどいですよ。この間私たちが運動してきたから、沖縄での米兵による性暴力、色々明るみに出てきていますけれど、明るみに出てきてない方がずっと多いわけです。沖縄の人たちと連帯をしていこうと思っている矢先に、自民党参議院議員の西田の発言。それに便乗するかのような参政党の神谷の発言。差別が票になると思っている。こういうことは絶対許してはなりません。
こういったことに対して、市民運動は大きな重要な役割を担っていると思います。沖縄・西日本の沖西ネットという団体が立ち上がり、6月に東京で集会と省庁交渉を行います。そういったところに参加しながら、日本全体で繋がっていきたいと思っています。
デマやフェイクに対抗するのは、やはり対話運動でしかないと思います。SNSでバズるというのは、やっぱり露悪的なことでないと広がらない世の中です。そんなことは私たちにはできませんよ。私たちはやはり対話運動をしっかりと繋げていかなければいけない。SNSが広がったせいで、若い子たちは、自分の意見を言えなくなっています。怖がっている。だからこそ安心して言えるような場を私たち自身が作っていかなければならない。安心して政治の話をできる場所を提供することによって、若い人たちが一生懸命政治の話をしていることを体験しました。こういった掘り起こしを、大人の責任としてやっていかなければならないと思います。
例えば、街頭宣伝や、いろんなところで話す時に、希望を語っていかなければならないと思うんです。最近日本に来たアイスランドの首相は36歳。私と同じ歳です。労働時間を短縮して週3休、それでも十分国の生産力は変わらない。そうやって労働組合を伸ばしてきたわけです。デンマークも訪問介護に力を入れて、一人ひとりが生まれてから死ぬまでを大事にされる社会を作っている。そういったことを実際にやっている国があるので、日本もやろうと思えばできることを、私たちは具体的例を出して訴えていきたいと思います。
若い人たちが運動に関心を持ち始めていることを、私は今肌で感じています。パレスチナの運動や環境問題、そしてこの軍拡の問題で、ものすごく関心を持っている。さらに選択的夫婦別姓の問題でも、こういった若い人たちと共に手を携えて運動をやっていきたい。
今回、参議院選挙に向けて、市民連合は「信じられる未来」というスローガンを立てました。これはアメリカのサンダースの言葉をそのまま日本語に直訳した言葉です。大人の私たちがきちんと頑張って若い人たちに未来を手渡していくという決意を込めたスローガンを、市民連合は掲げることにしました。
今日の講師は2人です。最初は志葉玲さん、後半は猿田佐世さんです。このお2人とも、実はイラク戦争の時、「ワールドピースナウ」というのがあり、イラク戦争の時から一緒にやっている大事な仲間です。志葉さんも超若かった。あの頃の志葉さんが今も運動を私たちと一緒に続けてきてくださっている。私は子供でした。若者だった私たちが、大人になって、みんなと一緒に運動を続け、引き続き、次の未来へとバトンをつなごうとしています。今日はたくさん学んで、必ず運動に生かす。そのための濃厚な1日にしていきたいと思います。
志葉 玲さん(ジャーナリスト)
私はもともとはイラク戦争を契機にこういった紛争地取材をするようになりました。イラクから始まってパレスチナを取材したり、主に中東が多かったけれども、ロシアという大国が始めた侵略戦争なので、これは無視するわけにはいかないと、2022年の開戦から2ヶ月後の4月、初めて現地入りしました。それを含めて過去3回取材しています。最近は今年の2月で、停戦の国際交渉なんかも含めて話をさせていただきます。現地の話の前に、戦争がなぜ起きたのかということと、ロシアが停戦に何を求めているのということから話をさせていただきます。
ロシアがこれまで停戦条件として求めてきたのがウクライナの北大西洋条約機構NATO加盟の放棄です。日本ではNATOが一番問題なのかと思われているかもしれませんけども、ここにだけ注目していると、このウクライナ侵攻が全くわらなくなるので、ちょっと注意が必要です。あと、ウクライナの東部と南部の4州です。そしてクリミア半島のロシアの領土化ということです。さらに、ロシアが一方的に併合したウクライナ東部南部4州からのウクライナ軍の撤退、ウクライナという国家自体の非武装化、さらにはゼレンスキーの退陣、ウクライナの「非ナチ化」です。
ロシア側はウクライナの政府はナチス政権だ、ネオナチだみたいなことを言いますが、ロシア側はウクライナ民族主義と民族自立と、ウクライナ民主主義が気に食わないだけです。それをナチスと言っています。
あとはウクライナ国内の「ロシア語話者」の保護。これもややこしくて、ウクライナのとくに東部とか、ロシアと国境に近い辺りだとか、第1言語がロシア語の人たちが結構います。それをロシア側はロシア系ウクライナ人という風に言っています。あるいはロシア人と言っています。はっきり言うと、ウクライナ人はみんなロシア語を喋れます。ゼレンスキー大統領も第1言語はロシア語です。一生懸命ウクライナ語を勉強した。それでウクライナ語が公用語ということに最近なってきているわけです。それがプーチンとしては気に食わないというのがあるわけです。
だからロシアが言っていることをそのまま言葉通り受け取ると、だいぶウクライナのことを誤解するところがあると私は思っております。
そもそも何で戦争が始まったかです。時系列的に一番大きいのは、この写真です。ウクライナ首都キーウのマイダン広場で、2014年にマイダン革命が起きて、ウクライナはそれまでロシアの操り人形みたいな国だったけれども、自立して、これからはヨーロッパとかとも仲良くして、経済的にも豊かになりたいし、自由や民主主義を国の中で確立していきたいという人々の思いがあったわけです。
そもそも何で戦争が始まったかです。時系列的に一番大きいのは、この写真です。ウクライナ首都キーウのマイダン広場で、2014年にマイダン革命が起きて、ウクライナはそれまでロシアの操り人形みたいな国だったけれども、自立して、これからはヨーロッパとかとも仲良くして、経済的にも豊かになりたいし、自由や民主主義を国の中で確立していきたいという人々の思いがあったわけです。
それに対して、当時のウクライナ大統領のヤヌコーヴィチが、機動隊を100倍怖くしたような治安部隊を投入して弾圧した。それに人々が怒って、キーウだけで50万人とも80万人とも言われるような人々がデモに参加して、ヤヌコーヴィチ政権を倒した。
それで怒ったのがプーチンです。それは、ヤヌコーヴィチは自分の子飼いの、いわば傀儡の政権だった。ウクライナという国は、もともと自分の属国だという風にプーチンは考えていました。だから、プーチンとしては飼い犬に手を噛まれたような感じだった。気に食わないので、いきなりクリミアを奪い取って、さらにウクライナ東部に武装集団を送り込み、地域クーデターを起こさせた。市役所なんかを武装したロシア系の人たちが乗っ取って、ここはロシア側の土地だみたいなことを言い出すわけですね。
それに対してウクライナ側がそれを排除しようとしたらロシア軍が入ってきて、ウクライナ軍と交戦になります。当初はロシア軍の方が強かったから、かなりの土地をウクライナが奪われたこともありました。ちょっとややこしいのは、ウクライナ人と話しているときに“戦争が始まったとき”と言うと、それは2014年のことなのか、2022年のことなのかというような感じで聞かれます。ウクライナの感覚としては、実は2014年から戦争は始まっていた。ただ、ウクライナのほぼ全土に渡るような大規模攻撃が始まったのは2022年だっていうだけの話です。
停戦の交渉でゼレンスキーを退陣させろ、という風にロシア側が言っているのは、要するに、民主主義で選ばれたウクライナのリーダー、かつウクライナをロシアの操り人形じゃなくて自立した国家としてヨーロッパとも付き合っていくとか、そういう国が気に食わないんですよ。いつまでもウクライナはロシアのいわば属国の一部のような感じの国で、自分の言うことを聞いてればいいという、そういう支配力なんですね。そういうところがあるので、やっぱりウクライナの人たちは嫌だと言ってるわけです。
よく日本の識者だとか、あるいは平和運動の中でも、もう全面停戦、全面降伏すればいいという言い方をする人もいます。ただ、全面的に降伏しろということは、今ロシアが要求していることを考えると、ウクライナの人たちに、「お前ら自由や民主主義はいらないよな」と言っていることとほぼ同じだと思っていただければと思います。だから難しいんですよ。
今回の取材でもかなりいろいろな被害はありました。例えば、これは私がウクライナ東部のクラマトルスクで取材した動画ですけども、取材した前日にここにロシアのミサイルが落ちてきて、この辺りの家が全部吹き飛んだ。このインタビューに応じているこの人は、たまたま家の外にタバコを吸いに行って助かって、お連れ合いの方は爆撃で亡くなってしまった。
日本のテレビで、たまにウクライナの空爆の報道がありますけども、日本のニュース番組に出ているのはほんの一部です。私が取材してる間もほぼ毎日空爆があって、必ずどこかしらで人が亡くなっているような状況でした。プーチンは平和を望んでいる、停戦したい、みたいなことを言っているけれども、そういう口の下の根が乾かないうちから民間人の住宅を空爆し、攻撃している。そこの部分はちゃんと考えてもらいたいと思います。
これも別のウクライナ東部の小さな村です。ウクライナは寒い国です。北海道より緯度は高いですから、冬場に家が壊されると、隙間風が入ってとても寒いわけです。皆さん援助団体や政府からも、家の修復とかの支援を受けているけれど、追いつかない。あちこち毎日壊されているから。そういう中で、壊れた家の中で怯えながら暮らしている人も結構いました。
過去、私が取材した例えばハリキウ、住民の半分近くがロシア語話者で、ウクライナの東部はそういう地域が多いわけです。そういったところにロシア側は毎日の無差別空爆です。ロシア系住民を保護しろと言いながら、そこに無差別空爆をやっている。例えばこれは小児科病院です。小児科病院を攻撃するというのは、国際人道法違反の戦争犯罪ですけども、そういったことを繰り返しやっている。
取材している時に、まさにそれを目の当たりにしたことがあります。爆撃の音で、私が走って逃げた後に着弾した。地元の消防が、ハリキウで安全なところはどこにもないと言っていました。この日14~18回攻撃があって、1回の攻撃で砲弾だとかロケット弾が無数に落ちてくる。しかも完全に無差別に。住宅地とも関係なく。ここに住んでる人たちは生きた心地がしかったでしょう。
今ハリキウはウクライナ側が押し返していて、少し状況は良くなっているけれど、私が今年2月にいったとき、友人の持っているアパートがロシア側のドローン・無人攻撃機が飛んできて直撃しました。部屋が焼けちゃった。たまたま友人はそこにいなかったので助かりました。そういうようなことがずっと続いています。友人は、ロシア系住民を助けたい、ロシア語話者を助けたいというのであれば、なんで俺たちのところにやたら空爆してくるんだよ、と言っていて、完全に矛盾しているじゃないかという話です。
本当にプーチンは、正直にものを言わない。必ずプーチン流の独特の言い回し、独特の意図があります。それを理解しないで、ただそれを受け入れればいいじゃないか、みたいなことを言うと、それは結局ウクライナの人たちにとって非常に不利な状況になってしまいます。
問題は、トランプがそれを理解できる頭がないということです。私が現地に行っている間、トランプとゼレンスキーが会談して、途中からバンスがしゃしゃり出てきてきた。すごくパワハラ的な会談になりましたが、トランプは、1日で戦争を終わらせるみたいなことを言って収まりがつかなくなって、だったら、ウクライナがさっさと折れればいい、弱いやつは強いやつの言うことを聞けばいいんだよみたいな、そういうスタンスになるわけです。
ウクライナの人たちに話を聞くと、彼らすごく反骨精神強いですから、たとえ非常に不利な状況であってもロシアには屈しないと言っています。それもウクライナの人たちの一つの大きな特徴です。結局2014年から停戦交渉はずっと続けられてきたわけです。その度にロシア側が停戦合意を破ってきたので、もうウクライナ人としては完全に疑心暗鬼になっています。だから残念ながら、そんな簡単に交渉がうまくいくとも考えづらい状況があります。
そうこうしている間に、私が取材しているキーウでも空爆が始まった。夜、キーウの中心部にいて、空に対空砲火をしている。それはウクライナ側の防空システムが、わりとしっかりしているから、なんとか被害が防げているわけですけれども、それも完璧ではないんですよ。私が取材している間にもウクライナのジャーナリストの方だったか、自宅にドローンが落ちて亡くなったということがありました。
これはウクライナの政府のホームページからとったものですが、このミサイルみたいなのがロシアドローンです。シャヘドといって、もともとはイランの技術を使った攻撃用ドローンですが、こういったものが
100機とか一晩に飛んでくる。キーウだけで100機飛んでくるような状況です。
そういう中でウクライナ側も抵抗は続けています。正直、ウクライナ軍の兵士なんかに聞いてみると、やっぱり圧倒的に物量はロシア側が多くて、人員も多くてなかなか大変だという話です。だから、普通ローテーションで数ヶ月だったら前線から自宅に戻ったりとかするけれど、私が聞いた人は4日間前線出て、4日間後方の宿舎で休養して、また4日間前線に出るみたいな。そういう生活がずっと続いて、家に帰れないような感じですね。そういう中で、どこでも兵士が不足している。徴兵なんかも行われていますが、中には徴兵を逃れて家に隠れている人はいるんですね。
これはウクライナ東部のとある町で、壊れた風が吹きさらしの壊れた家の中に人が住んでいて、顔にモザイクをかけています。なんでこんなところに住んでいるのと聞いたら、家族の男性がいわゆる戦闘可能年齢なので、確か25歳から60歳ぐらいだったかと思いますが、徴兵される恐れがあると。だから下手に移動して見つかると家族が徴兵されちゃうから、ここに住んでいるようなことを言いました。反対に自分から兵士になって、いわゆる志願兵としてウクライナ軍に入る人もいて、いろいろです。けれどもやっぱり、そういう葛藤というのが、やっぱりウクライナ人たちの側にもあるということですね。
基本的には、ウクライナ人たちはロシアの侵略に対して賛成してる人はほぼ誰もいない状況ですけども、例えば今の状況で降伏することもやむなしと考えている人たちもいないわけではありません。それは、毎日毎日攻撃は行われてくるし、前線の兵士たちは大変な目にあっている。そういうような状況の中で本当に道がないと言ったんですね。他にどうしようもないという言い方をしていた。だから、決してロシアを歓迎しているわけではないということですね。そこのところを汲み取ってもらえたらな、と思うわけです。
だから、安易に日本の人たちが、ウクライナ人たちに対して降伏すればいいじゃんとか、多少は譲歩すればいいじゃないか、みたいなことを言うのは、やめてもらいたいなと思うわけです。停戦すべきだって思っている人たちだって本当に苦肉の策なので、苦渋の決断なので、そこは重要なポイントとして理解してもらいたいなと思うわけですね。
一方で、何が何でも徹底抗戦するべきだと言っているウクライナ人たちもいます。それは「占領は戦争より悪い」と言います。どういうことかっていうと、ロシア側が支配していた地域で様々な問題が起きている。一番有名な例としては、ブチャでの虐殺ですね。
これ、私が2022年4月に現地取材したときの東京新聞の切り抜きからのものです。ブチャは1ヶ月弱ロシア側に占領されていた。ウクライナ側が押し返してブチャを解放したけれど、街中に遺体が転がっていた。これは私が撮ったものですけれども、本当に住宅地の裏のすぐ林のところに遺体が転がっているような状況でしたね。親族の人が近くにいたから、彼の持っている生前の写真だとかいろいろ本人確認みたいなことをして、それで実際に殺された人だということを確認したわけです。
この人たちは、別に兵士でも何でもなくて普通の住民です。ところが街の中で、例えばシェルターの中に入っていて食料や水が尽きたから雨水でも何でもいいから水が欲しいということで、探しに出てきたらいきなり撃たれるわけです。なんでこんなひどいことをするか。結局ロシア側は恐怖をウクライナ人に植え付けて、それで早く降伏しろ、そういうようなことを、いわゆる占領政策の一環としてこういうことをやっていた、というようなことが言われています。
これだけではなく、これは町の中心部にある教会ですけれども、ここは集団墓地になっています。殺された人々の遺体を、腐ったり、犬に食べられたりとかするから、とりあえずここの教会の牧師さんが頼み込んで遺体を敷地に埋めていた。その数、ブチャ中心部だけで400体ぐらいがあったんです。
そういうことなんです。戦闘と関係ないのに住民が殺されている。日本の発想だと、停戦すればそれでもう平和になるというふうに思うかもしれないけど、占領が続いている限り暴力は続くんですよ。
さらにまたいろいろ聞いてくるに従って、どうもロシア軍による性暴力がかなり広範に行われてたんじゃないかという話を聞いていて、それについてキーウ警察の報道官に聞いてみたんですよね。
(報道官)
「ロシア兵がやってきて、夫を撃ち殺した後、妻を何度もレイプした」「その後もロシア兵たちは何度もやってきて、『抵抗したら子どもを殺す』と脅かして、その女性をレイプし続けた」
「女性は何度もレイプされたが、子どもを連れて逃げることに成功し、そして我々に通報した」
こういう話は私も何となくは色々聞いていたのですが、やはり外国人のジャーナリストだし、男性なので、女性たちはあまり話をしてくれないわけですね。
ただ、報道官が話してくれたことは、国際刑事裁判所に提出するためにかなり確度の高い情報、噂話ではなくて、捜査を行っているような状態の情報を話ししてくれました。要はロシア軍の兵士たちがウクライナ人の一般家庭に襲いかかってきて、その家の男性を殺して女性に性的暴行をする。しかも繰り返しというような、子どもを人質にとって、ひどいケースだと、5歳とか6歳の子どもたちまで被害になっています。これは国連の報告書なんかでも報告されていて、こういった性暴力も、ロシア側の占領政策の一環として行われた可能性が極めて高いわけです。
いずれにしても、占領されている地域でこういうようなことが繰り返し行われ、それゆえにウクライナ人たちは「占領は戦争よりも悪い」っていうふうに言うわけですね。ひたすら一方的にやれるだけですから。
もう一つ大きな問題としては人権問題があります。
この方は、オンラインで取材に応じてくれました。30代の娘さんが、ウクライナ南部のヘルソンというところがロシア側に占領されていた時にロシア側に捕まった。ロシアで裁判が行われ、10年以上の判決が出るのではないかと言われています。ウクライナ軍のスパイをやっていたとロシア側は言っています。
最初逮捕されたのは、彼女の家にウクライナ国旗があったからという話です。結局、占領地域ではウクライナの国旗だとかは認めないし、ウクライナの言語も認めないし、そういった形でウクライナ人としてのアイデンティティを全部捨てさせる。そういうような占領政策を行われています。ロシアのパスポートを取れと言うんですよ。ロシア人になれと。ロシアのパスポートを取ると、ロシア軍に入れられてウクライナの戦線に送り込まれる。つまり、ウクライナ人同士で戦わされるわけです。そういう問題があります。
彼女の話に戻ると、めちゃくちゃな裁判で、やってもないこともいろいろでっち上げられて10年くらいの懲役刑になるのではないかと言われています。
こういったケースは結構あって、顔写真を公開していいようなケースっていうのをちょっと紹介します。この人も似たような状況ですね。彼も、さっきの彼女もボランティアだった。人々に食料だとか、水だとか医薬品を配っていただけなんです。ところが、おまえはスパイだろうと変ないちゃもんを付けられて、逮捕されて、この人は過去に交通事故にあった古傷があって、定期的に医療ケアを受けないといけないのに、そういうことを全くされないまま、ひどい環境に放り込まれているという状況です。
子どもたちも誘拐されているんですね。
これはウクライナ政府のサイトから取ったものです。ここに写っている子どもたちは、ロシア側に連れていかれた、あるいは行方不明になった子どもたちです。実はその子どもたちの数というのは半端なくて、2万人近くいます。誘拐されてどういう状況か。私は占領地域から逃げてきた人たちに話を聞きました。要は学校でサマーキャンプがある。そのサマーキャンプに子どもたちを参加させろというようなことをロシアが言ってくるわけです。占領地域で親が渋々子どもたちをサマーキャンプに連れていくと、夏合宿から子どもたちが帰ってこない。子どもたちはロシア側に送られて、ロシア人として再教育されている。しかも、プロパガンダ要員にされている。「私たちはウクライナからロシアに助けてもらってとても良い生活をしています。ロシアに感謝しています。ありがとうございます」みたいなことをロシアのメディアで言わせたりする。そういうことのために子どもたちを誘拐する。とんでもない話ですよ。
だからロシア占領下のウクライナの地域では、ウクライナ人たちは怖くて、子どもたちを学校に行かせることもできないんです。教育を受ける権利を子どもたちが侵害されています。そういうことも考えてもらいたいなと思います。
では、どうしたらいいのかということです。日本国憲法前文を思い出してもらいたいんですね。私のように実際の紛争をあちこち取材している人間から言わせてもらうと、「新しい戦前」ということで、南西諸島の軍事要塞化だとか防衛費の倍増に反対で、そこは皆さんと意見は同じです。一方で「これから戦争が起こるかもね」となって、今まさに戦争が起こっている地域のことを忘れないでほしいと思いますね。
「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と日本国憲法前文に書いてあります。だから、日本の国是として、日本だけの平和ではなく、世界をもっと平和にしないといけないと言ったりする。それを悪用して日本は集団的自衛権を行使すべきだ、みたいなことをネトウヨな人たちが言います。そうではなくて、いかに平和的な手段で平和を作るかという、そこのところの知恵が必要だと思います。
「軍事費増やして生活壊すな」。これ大事ですよ。なんでロシアが戦争を続けられるかというと、中国が支援しているからです。表だって支援はしてないですよ。だけど、ヨーロッパとの貿易が減った分、中国とかインドとかトルコとかそういった国々との貿易を続けていて、それでまだ経済制裁の効果が完璧になってないわけです。
なんで中国はロシアに寄っていくか。その一つは、日本がアメリカにくっついて、やたら中国に敵意をむき出しにしている。そうしたら中国は、「いいよ。お前らがそういうことなら、俺はロシアと組むから」みたいな感じですね。日本は、我々の生活費を削って税金を防衛にぶち込んで、一生懸命中国をロシアの方に追いやっている。その結果として、ウクライナ戦争はいつまで経っても終わらない。これは間違いです。
あと、やっぱりこれですね。在日ウクライナ人の方がデモのプラカードで、ロシアのガスを買うなと。ロシアの最大の収入源は石油、天然ガス、そういった化石燃料です。化石燃料をやめて再生可能エネルギーに変えていけばいいんです。実際ヨーロッパのほうなんか、そういう形になってきていますよ。
海外のNGOのサイトで見ると、どこがロシアの天然ガスや石油を買っているか。2025年4月の主な分析では、中国、インド、トルコ、EUもまだ買っています。とくに中国、インド、トルコあたりを説得しないとダメなんです。日本はトルコと非常に関係が深い国なので、説得しやすいポジションにあります。
そういう日本が主体となった外交を、もっとちゃんとやってもらいたい。要するに憲法の精神というのは大事で、それを活かしていきましょう。
猿田佐世さん(新外交イニシアティブ)
今日は朝起きたら、シンガポールのシャングリラ会議で、フランスのマクロン大統領が基調講演をしたというニュースに触発されて、この講演の準備をそれに合わせて作り直したという、出来立てほやほやのものを皆さんにお届けします。
マクロンさんの演説の何にそんなに触発されたか、これから日米同盟はどうなっていくのか。今トランプ2.0、政権交代をして、日々大騒ぎでガチャガチャしている。南アフリカの大統領に嘘八百たれて、ウクライナのゼレンスキーさんにも、侮辱に侮辱を重ねている。ただ中国との間でバイデンさんよりも戦争をする感じもないし、アメリカ離れも各国で進んでいる。世界の秩序が、今までと変わって嫌だけれど、若干ポジティブに見ている人もいるのかなと思います。今日は、今日本がどういう状態にあるのかを整理した上で、これからどんなふうになっていきそうなのかというところのお話をしていきたいと思っています。
新外交イニシアティブという私どもがやっている団体の、政策提言書をお配りさせていただいています。これは、この月曜日に発表をしたばかりです。提言書では活動の紹介があります。政策提言書を何本も書いてきました。最新のものは、「トランプ政権とどう向き合うか」で、他にシンポジウム等もやっています。
今、日本にはっきりと存在をしているにもかかわらず、日本の政府に任せると、全く伝えてくれない声、例えば沖縄の基地に反対をする、憲法9条を守れという声、核兵器禁止条約に入れとか、日本の中ではマジョリティであるにもかかわらず、放っておくと日本政府は外交課題にしない。そういうものを伝える活動をしていきます。海外に行くことが非常に多くなっていて、「あなたの声が外交に届きます」という、そんな活動をしている団体です。
この写真は今年の2月7日に石破さんと、就任したばかりのトランプ大統領の会談です。石破さんは、アメリカについては比較的に対米自立の方向を取る。今までの安倍さんとはちょっと違う総理大臣というふうに、まあ触れ込んで総理大臣になりました。トランプさんは就任以来たかだか2週間ちょっとの間に、ものすごくたくさんの大統領令を発して、めちゃくちゃなことをやっていた。ですから持論は封じ込めて、とにかくごまをすって、日本に対するアメリカの防衛を維持してもらおうと必死になったわけですね。
図の吹き出しでは、「アメリカは日本の外交・安全保障にとって最も重要な国」とかって言っています。それに対して、その場では、トランプさんはそんなに反発するようなことは言わなかった。石破さんが、たくさん投資するよとか、日本はもともと一番投資してきた国だよとか、天然ガスも買うからねとか、日本の防衛予算ももっと増やすよとかいろいろ言いました。文句もあまり言われずに共同声明は出ました。でも3月上旬ぐらいから、もともと同盟嫌いのトランプさんの持論が出てきて、日米同盟についても、「我々は日本を守らなくてはならないが、日本は我々を守ってくれないと、誰がこんなディールを結んだのか。」みたいな文句を言うようになりました。
2月の末には、ゼレンスキー・ウクライナ大統領とトランプさんの首脳会談が行われ、世界中のメディアが見ている前で、世界中の人が見ている前で、ご存知な展開で侮辱をするような形で終わりました。トランプ大統領は、お前にはカードがないんだ。ウクライナを支援することを、アメリカはとりあえず一時停止する、というようなことを言ったわけです。
アメリカ自体はNATOという同盟国のつながりで、ヨーロッパへは防衛を提供していることになっています。そのヨーロッパに対して、これからはヨーロッパの防衛は自分たちでやりなさいと言った。その上で、もしかするとNATOでずっと占めてきたトップの司令官のチームも、アメリカはいらなくなるかもみたいなことを言いだした。要するにアメリカはヨーロッパから退きます、というような話を、口頭では言い放ったわけです。本当にするとは私は思っていませんけれど。実際にウクライナへの支援は停止をしたということで、いろんなところで大激震が走っています。ヨーロッパは自分たちで、とにかく防衛をやっていかなければいけないという風になり、多くの国は軍拡に邁進をしている状態になっています。
日本にどういう影響があったかというと。大変だ。ウクライナについて、こんなにロシア寄りの考えをする大統領だと、中国とアメリカの戦いの中で、アメリカは日本を守ってくれなくなるかもしれない、というような懸念が出ました。ではどうするかといったときに、大きく分けてAとBの選択肢に日本の世論は分かれているだろうと私は思っています。
Aは、日米同盟を今まで通り強化し続けて、抱きつき戦略なんて言いますけれど、とにかくアメリカに守ってもらう。そのためにはアメリカの言うことを聞いていかなくてはいけないので、対米従属という要素は、さらに強化をされる。私は自発的対米従属という言葉を作って、ずっと言っています。防衛費を日本はGDP比の2%に倍増するということを決めて、2027年までにそれが実現することになってしまっていますが、それをさらに超える。アメリカのエルブリッジ・コルビーなんかが言っているように、GDP比3%まで増加するようなことを聞いていく。関税も、一定程度反対するかもしれないけれども、最後は、守ってもらっているので、合意をしていく。とにかく今まで通りの路線で、既定路線で同盟強化をしていこうというのは抱きつき戦略です。
かたや、Bはどういう選択肢なのか。Bは、アメリカが日本を守ってくれる保障というのは、もちろん今までだってなかった。トランプさんに至っては、本当にどうなるかはわからないところが、誰の目から見てもあります。守ると言ったからと言って、守られるとも思えないというところがあります。そんなのでは、やっぱりアメリカとの距離は変えざるを得ない、というような考え方がかなり日本の中で広まり始めている。日本の中でアメリカ離れというものが、具体的な政策議論の俎上に上がった瞬間というのは、1月20日からのトランプ政権の時代、戦後80年、初の出来事が今起きている。そういう意味では大きく大きく、歴史的な展開になり得る瞬間だと思っています。
これにはいろんな程度があります。ものすごく完全に離れましょうという人もいれば、もしかすると中国のほうと一緒にやるべきだという人もいますね。いやいや、第3極を目指すべきだという人もいれば、全方位外交だという人もいる。実際のところはアメリカとも仲良くして、かなり今の状況は続けつつ、でも一定バランスを取って少し離れるよねと、アメリカの相対化という感じになる可能性が高いと思います。程度の差はあれ、アメリカからの距離を一定置きましょうよ。もうアメリカが全てというのをやめましょうよ、ということが起きている。それがBです。
Bですが、そんなに単純じゃないよ、というのが今日のお話ですね。Bの中にはB1とB2がある。B1は、アメリカは守ってくれない。でも、隣にいる中国、北朝鮮めちゃくちゃ怖い。だから、日本が独自に防衛力を強烈に拡大して、アメリカ抜きでも日本が防衛できるようにしていきましょう。もしかすると核兵器も持たなきゃいけないかもね、という防衛力強化派というのがB1です。
ではB2。そうは言ってもねと。防衛力ばっかり増強したって、結局、軍拡競争になって全然安全にならない。防衛力に頼るのではなく、外交努力に注力をしていかなければいけない。外交しなくちゃいけないと思う、いわゆる護憲派の立場は、ここになるのかと思います。これもいろんなパターンがあって、防衛力は現状維持という方もいれば、減らさなければいけないという方もいます。いろいろパターンはありますが、少なくとも今よりすごく増やすことはしないで、外交をしっかりやりましょうっていうのはB2です。
このAとB1、B2と、これからどの道を日本が行くのかという局面に私たちは差し掛かっていて、皆さんは各地で地域のリーダーとなって、憲法集会とか平和運動をやってこられている方が多いと思うので、どのようにB2に向かっていけるのかということを考えていかなくてはいけないと思っています。
その中で、どういう選択肢が現実的なのかということを考えるときに、7つのQ&Aの問題提起とそれに対する回答ということで頭の体操をすると、どの選択肢が現実的かを見ていく助けになると思います。
日米同盟の今後と現実的な選択肢を考えるための7題((1)~(3))
(1)トランプ政権のアメリカは日本を守るのか
(2)トランプ政権で日本が戦争に巻き込まれる可能性は高まったか
(3) トランプ政権で、中国の台湾侵攻の可能性は高まったか
(1)、まず「トランプ政権のアメリカは日本を守るのか」というところです。これはもう、トランプさんはどうなるのか全然わからないので、非常に危ういということになります。アメリカの態度でヨーロッパとアジアは違います。アメリカは確かにヨーロッパについては自分たちで守りなさい、と明言しています。けれども中国については、マクロンさんが演説をしたシャングリアダイアローグでも、ヘグセス国防長官は中国のことを仮想敵国のように取り上げた。何としてもそれに打ち勝っていかなくちゃいけない、という演説を、中国も参加しているのに繰り返しています。
トランプさん本人の真意は測りかねるところはあるものの、トランプ政権総体としては、どうやら中国に対しては、今まで通りかそれ以上にアメリカの全ての先進性を投入して対抗していこうという意識を持ち続ける。トランプさんになっても、手を引いたりはしないということです。
トランプ政権ができた1月の頃は、もしかするとここからも手を引いて、日本から米軍基地が少しでも減るのかもしれないみたいな考えが成り立ち得ました。けれども4ヶ月経って、まず、それは残念ながら無さそうだ。なぜならば、Make America Great Againのトランプさんは、アメリカ第1なので、アメリカは世界で一番でなければいけない。その覇権国である一番という地位を、もしかして、どこかに奪われるとすれば、それは中国だからです。
ロシアも強いけれど、ロシアが覇権国になるような能力は、経済的にも軍事的にも無い。アメリカがその地位を脅かされるなら中国なので、中国に対しては手を緩めない。ヨーロッパから手を引くと言っているのも、中東もあまりやりたくないと言っているのも、全ての兵力をアジア地域に投入して中国に対抗するためです。日本に対しては、対中国という意味でアメリカが日本を捉えた場合に、その駒としては大変重要であるというふうに認識はしている。ヨーロッパみたいにはならない。統合司令部が日本でもできましたけれど、そっちが全部米軍を動かしていいよ、みたいな日は絶対に来ない。アメリカの、特に軍隊がものすごく力を入れてこの地域にいろんなことをやり続けるだろう、という意味で大きく違います。
そのことと、アメリカが日本を守るかということはだいぶ違ってきます。トランプさんはプーチンさんと大国間の対話をするのが好きで、多分、勢力圏という概念で物事を考えているロシアのプーチンさんとほとんど同じような考え方です。小国の考えることは聞き置くかもしれないけれど、大事にする必要はあまりない。大国同士が対話をして世界の秩序は作っていけばいい。その場合の大国というのはロシアと中国という中で、もしかすると中国と何かいいディールができるのであれば、日本や台湾がそのカードとして切られていく、というようなことも大いに考えられます。
(1)①の命題については、どれだけアメリカに対して抱きつく戦略を日本が提供しても限界があります。つい先日、米軍駐留経費をものすごく増やすくらいのことはニュースになっていました。でも駐留経費を100%以上日本が出そうと、日本が軍事費を3%にしようと、NATOに対してトランプさんが言っているように、5%GDP比にしようと、そんなものはアメリカに守ってもらっているという事実が残る以上、トランプさんの不満はどこまでいったって消えないわけです。どこまで抱きついても、限界があるというところがあります。
これに関しては世論調査が出ています。日本外交はアメリカの意向にどう対応したらいいのか、とか、いざという場合、アメリカは本気で日本を守ってくれるのか、というようなことについて、朝日新聞が4月末に聞いた世論調査では、顕著にアメリカ離れというのが日本の国民の傾向として出ているということが明らかになっています。
アンケートの1つ目「日本外交はアメリカの意向にどう対応するべきか」については、なるべく自立をしたほうがいい、というのが7割方になっています。アメリカは日本を守ってくれるのだろうかという私の命題の①ですけれども、本気で守ってくれると思っている人は、たったの15%しかいません。そうは思わないが7割以上で、5倍以上の人が、そうは思わないと思っています。そうなると、さっきの選択肢のA、「アメリカに抱き付く」という選択を、日本人は心の中ではそうあってほしいと思うかもしれないけれど、もうすでに心も離れています。しかも、どれだけ経っても安心することはできないという意味で、Aを日本政府はやり続けるに決まっているけれども、どう見ても、もうやっている。しかしそれはいつまで経っても信頼できるものにはならないというのも決まっていて、安心できる最終的な選択肢からもAがほぼ消えつつあります。実際問題、その後どうするかというのが極めて大事です。以上が①の答えになります。
次に(2)の「トランプ政権で日本が戦争に巻き込まれる可能性は高まったか」というところです。お配りした提言では、第1部として、「トランプ政権が世界に及ぼすもの」として、「1 トランプ政権が提示する課題」や、それを理解するための「2 トランプ政権の秩序感」を書いています。それから「3 トランプ政権の安全保障政策」で、一般的な総論と東アジア戦略に分けて書いてあります。
第2部は「日本への影響と求められる対応」という項目です。第2部の「1 抑止偏重の危うさと安心供与の重要性」というところが、②「トランプ政権で日本が戦争に巻き込まれる可能性は高まったか」というところの解になります。
提言を読みましょう。
「台湾有事が日本に波及するのは、単に地理的に近接しているからではない。米国が参戦を決意し、日本の基地からの出撃や自衛隊の支援を日本政府が承認することによって日本が戦争当事者となるからである。それは政治の決断にかかっている。」
要は、台湾有事、台湾戦争というのは、本当は日本の戦争ではないのに、岸田さんから安倍さんからして、なんでこんなに台湾有事や日本有事だと言うか。もし、台湾で戦争になると、それは台湾自身の戦争ですらなくて、中国とアメリカの戦争、あるいは代理戦争なわけですね。その戦争のときにアメリカ軍が日本にある米軍基地から戦闘機を飛ばしたり、空母を派遣したりするので、中国がその基地を反撃する。そうすると、日本にある米軍基地が狙われた、日本の領土が狙われたということで、自衛権の行使で戦争に入っていく。日本も戦場になっていくという関係になります。
トランプさんが、台湾の民主主義とか人権とか別に関係ない、中国といいディールもできそうだし、いいんじゃないの、別にアメリカは参戦しませんよと、アメリカ人の血を流してまでやることじゃないよね、武器をあげるかもしれないけどさ、みたいなことになったら。もう日本から米軍は飛んでいかないってことになったら、中国に反撃される可能性もありません。
よもや、日本の政府が自衛隊機をバンバン飛ばしましょうみたいなことになったら、それは日本が戦場になるのは覚悟でやるわけだから、それは知ったことではないというか、日本人の決断なので受け入れますけれど。勝手にアメリカ軍が飛んでいって戦争をして、その被害が日本の領土に及んでいくという事態は、トランプさんになったことによって、バイデンさんの時より確実に低下している。そういう意味からすると、この②「トランプ政権で日本が戦争に巻き込まれる可能性が高まったのか」というのは、これだけ日本の中で防衛力強化のメディアの嵐が吹き荒れているのに、冷静になってみると、実は日本って安全になっている可能性っていうのは高いんです。トランプさんになってです。というのがまず②番目の答えです。
(3)については、とは言っても中国が台湾侵攻したら、すぐ隣だし、沖縄なんかすぐそばだし、いっぱい難民も来るかもしれない。やはり隣で火の粉が飛んでいるときに、日本も何もしないわけにはいかないから、自衛隊も来るようなこともあるかもね、みたいな話になったときです。それじゃあ、トランプ政権になって、中国が台湾に侵攻する可能性って高まったか、そういう質問が3番目に出てきます。まずその前から考えると、中国は日本自体を攻撃することは、どんなに保守的な中国大嫌いの人でも、中国は日本を直接攻撃するようなことというのを考えている人は、ほぼいません。そんなことをする理由がないから。中国と戦争になるとすると、日本が台湾有事に巻き込まれて、あるいは、率先して組み込まれていったときです。
中国が台湾との戦争を今するかというと、中国が目指している大国アメリカが、ハーバード大学から留学生を追い出している。USAIDOで一応、世界の人たちが感謝をしていた大量の国際援助物資が、全部なくなっている。ほっといてもアメリカは、世界の君主から転がり落ちていく。敵失だけで食っていけるような状態になっている。中国はこれからの国際秩序、今までの国際秩序を守っていくのは自分たちですというような顔をして、淡々とというか、粛々とというか、王者への道を駆け上っているわけです。
あえて別に攻撃なんかしなくても、アメリカは自滅していくことが今回は非常によく分かってきました。美味しい千載一遇のチャンスに、自ら軍事攻撃をして、威信を失墜して、経済制裁の対象になりますか。しかもトランプさんも怒ったら、核兵器のボタンを簡単に押しちゃうような可能性もある人なわけです。どっちかわからないというのはトランプさんの強みだと思うけれど、結果論としては、なかなか台湾を侵攻することもできない。トランプさんになって世界はザワザワしているし、なんとなく気な臭い感じが増えてるような気もするけれど、台湾戦争に関して言えば、別に可能性が増えているわけではない。グレーゾーンとか、あるいは情報戦とかいうものでは可能性は増していると思いますけれど、実際に火花が散る戦争の可能性が増えているかというと、そんなことはないだろうと思います。それが③番ですね。
日米同盟の今後と現実的な選択肢を考えるための七題((4)~(7))
(4)日本は中国に軍事力で勝てるのか(抑止できるか)
(5)日本に防衛力拡大が可能なのか
(6)日本の防衛力を強化すれば日本は安全になるか
(7)「外交」とは何をすべきか
中国は軍事力をものすごく拡大していて、日本はそれにたいして防衛強化で頑張っているわけです。中国の経済力は、2010年に日本を抜き去った後、どんどん大きくなっていって、中国が5倍、6倍のGDPを持っています。現在、だいたいGDP比1.8%ぐらいの軍事力、軍事予算を使っています。日本もGDP日1.8%ぐらいで、同じ1.8%だったら、経済力が5倍、6倍なら軍事力も5倍、6倍です。
防衛省の中には、別に同じだけ持つ必要もない。攻者三倍の原則とかいうのは、昔の中国の歴史から学んだことがまことしやかに流れています。攻者、つまり攻め入る者は、守る者の3倍の能力がなければいけないということです。少なくとも軍事予算では6倍ぐらいあるわけです。守るだけでも敵わないし、核兵器もあります。権威主義なので簡単に動員ができるというところも含めて、なかなかですね。
アメリカが、この戦争に関与すると決めない限り、ヨーロッパを頼ると言ったって、ヨーロッパもロシアで忙しいし、世界のグローバルサウスの国々は中立を宣言している国ばっかりです。そもそも軍事力で勝とうと思うこと自体が間違っている。そういう現実があります。これが④番の答えですね。
(5)の「日本に防衛力拡大が可能なのか」というところです。もちろん少し武器を増やしたり、少し兵器を改良したりとか、石破さんがやろうとしているように、アメリカから新しい武器を買ったりすれば、可能ではあると思います。けれども、これもまたGDP比1%以上に増やせません。というのは、2022年に今後5年間で2%の倍にすると決めた、自民党の中ですら、財源が見つけられずに先送りして、あと2年で2027年を迎えようとしている。これをもっともっと増やし、3%にとなった場合にはどこからお金を持ってくるのかという話です。一時期、核兵器を持つとした場合には、消費税を15%、13%ぐらいに上げようみたいな議論がありました。今度の参議院選挙の争点は、消費税減らしますか、どうするかという争点です。
お金あるんですか?日本全体の出費の中で、防衛予算の割合はどんどん増えています。減らされていくのは福祉なのか、教育なのか、医療なのか。そういったものからお金を回さない限り、防衛予算を増やすことはできません。しかも、防衛予算というのは使わないで済むほうがいい。兵器を作り続けるので、基本的に普段は役に立たないものになってしまう。日々必要なものから、お金を回していくと、日本の国民は自分の生活のレベルを激しく落としていかなければできなくなる。また自衛隊の募集をかけても人が集まらないということがずっと続いています。口先でいろいろ言うのは勝手だけれど、本当に防衛力拡大って、実際、あなた方が言ってるぐらいできるのかというと、これもかなり難しいのが現実だろうと思っています。
この⑥は肝中の肝です。さっきのB1とB2の分かれ目になるのは、ここが大事です。要するに、軍事力で平和はやってくるのかというところです。外交で平和を作るなんて言うけれど、そんなこと可能なのか、というのが⑥番の問いです。
ここの答えは否です。どれだけ軍事力を拡大しても、日本が拡大をすれば、当然ながら中国も北朝鮮もロシアも軍事力は拡大をします。それは安全保障のジレンマと呼ばれていて、当の昔に、そんなものが始まっていて、ジレンマの中にも落ち込んでいるわけです。お互いがパツパツの防衛力で、お互いを抑止している。その中で誤った情報が流されています。中国が領空侵犯をして、この前、長崎に入った時は、すぐに出たみたいだけれどももう居座っている。こういうようなことが本当でもないのに情報として流れた時に、ずっといるということでスクランブルをかけなきゃいけない。スクランブルしても出ていかない。どうするんだみたいなことになっていく。最大限パツパツに増強している軍事力を両国は持っているわけで、何か起きた瞬間に、ものすごく大きな戦争にエスカレートしてしまうという危険自体は絶対になくなりません。
私どもの提言書の中に「トランプ氏の下で」というところがあります。その中に「抑止とは反撃の“確からしさ”であり、誤算の可能性を含んでいる。それゆえ、相手との対話を通じて政治的レッド・ラインを相互に認識し、それを超えないことを明示する努力(安心供与)が必要となる。米国の政治的意図が不透明化する時代に、米国の“決意”を前提とした抑止に固執する発想の硬直性は、危うい。日米両政府は、節度を持った抑止行動とともに、中国との対話を強化しなければならない。戦争の回避こそ政治の最大の使命なのだから。」というふうにあります。
この会場にいる方は、そもそもこういう形で節度を持った抑止行動といっても、抑止力に頼るのかというところで、ご意見は分かれるかと思います。けれども、仮に抑止力を一定肯定する立場に立ったとしても、いくらでも軍事力を高めれば、抑止力がどんどんそれについていって高まるものではありません。これは、政府に物を言うときの便利な言い方というふうに捉えていただいてもいいと思います。軍事力を高めたところで、軍拡競争になり、ちょっとした誤解錯誤で紛争は起きると。何をしなくてはいけないかというと、相手との外交、対話を通じてです。これをしてしまうと、そちらは戦争に出なきゃいけなくなるよねと。
台湾が独立してしまったら、あるいは台湾が独立をするような気運が高まってしまったら、それはメンツが潰された自分たちの確信的利益が侵害されたということで、中国は軍事力を使うしかなくなってくる。それは中国に関して言えばレッド・ラインなわけです。そのレッド・ラインを、お互いにちゃんと認識をして、戦争に出る動機をお互いから奪って、その動機を絶対に実現させない。それを超えないということを、お互いに約束をしていく。お互いに安心を預け合うということで、安心供与というのが専門用語です。
安心供与というものが必要になって、それをするためには相手のことを知らなくてはいけない。自分があなたの戦争に出る動機を、絶対にレッド・ラインに超えませんからね、ということも伝えていかなくてはいけない。外交努力が必要になるという意味で、仮に抑止力を必要であるという。それは最低限必要であるというような立場を大前提とする日本政府の立場であったとしても、軍事力を高めれば、抑止力がついてくるみたいな考え方を、国民に対して非常にちゃんと説明をしていない。本当に防衛力をただ増やしたいというようにしている説明というトートロジーのような形ではないかなと思っています。
(7)番の「『外交』とは何をすべきか」というのは、時間がないから今日は話しません。習近平さんと石破さんが会うのが外交かなと思ってらっしゃる方もいますけれど。とくにアメリカがこれまで展開してきた世界に広げている外交というのは、USAIDOもそうですけれど、人がちょっと会うぐらいのものではないんですね。国家を挙げての大事業です。では、そういう外交を日本は中国に対してやってきたのか。これからやっていけるのか。私たち一人一人は戦争をさせないだけの外交力を、一人一人がつけていけるのかということを普段話しています。一人の総理大臣が会うなんていうのは、それは一番大事なことではありますが、やるべきことは山のようにあります。それさえできれば戦争にはならないというお話をしています。外交には、お金もかかるし、時間もかかる。でも、それが本当にできたときには戦争にはならないです。
日本が、どんな立場を取り得るのかということにもつながると思います。東南アジアの話です。東南アジアに限らず、グローバルサウスと言われる世界の4分の3の国は、東南アジアと同じ立場を取っています。東南アジア、中国にすごく近い。アメリカの同盟国もタイとフィリピンとあって、アメリカの友好国もマレーシア、インドネシア、シンガポールと、たくさんあります。親米派の地域であり、中国の裏庭というか、失礼ですかね。つまりすぐそばですね。日本がAなのかB1なのかB2なのか、どんな立場を取るのかというときに、非常に参考になる例が、中国とアメリカの狭間に揺れる、非常に日本に立場も距離も近い国の実践から学ぶことができると私は思っています。
最初から答えを言うと、「Don't make us choose.」どちらかいずれかを選ばせてくれるなよ、です。僕たちはアメリカと中国どっちも選べない、ということを、東南アジアはずっと言ってきました。2020年に、シンガポールの前首相であるリー・シェンロンさんが、アメリカの世界で最も影響力のあるフォーリンアフェアズという外交雑誌に寄稿して、アジア諸国は、米中のいずれかを選ぶことを、選択を迫られることを望んでいないよ、「Don't make us choose.」。私たちに選ばせるなよ、どっちを選ばされても、めちゃくちゃ困って、最悪なことになるからということです。
この地域は、アメリカに近い、シンパシーのあるエリアです。中国との領土紛争を日本と同様に抱えているので、アメリカの軍隊の力も必要としている。けれども、発展途上国の地位から、もう少しで先進国に仲間入りをするところまで経済力をつけてきたのは、ひとえにも中国との貿易があったからである。中国との貿易を切ってしまったら、また発展途上国の地位に舞い戻ってしまう。ということで、どっちも絶対に選べないという確信から来ている発言です。
それはシンガポールに限ったことでなく、ASEAN全体に広がっている。もちろん濃淡は、一番アメリカ寄りのシンガポールから、一番中国寄りのカンボジアまでいろいろあります。でも各国全てがそうで、オークスという、アメリカ、イギリス、オーストラリアの原子力同盟が2021年にできましたけれども、これも一重に対中強化をするためのオーストラリアを助けるための同盟です。それができた瞬間にマレーシアとインドネシアが声明を出して、軍拡競争反対と、この地域での紛争の可能性を高めていくのではないかと、いろいろなことをメッセージとして出して批判をする。日本は当然、素晴らしい同盟ができ、ウェルカムというメッセージをこの時に出しています。今大きくなりつつありますけれども、日本よりは軍事力や経済力がかなり小さいマレーシア、インドネシアという国が、なぜ真逆の声明を出せるというのはどういう胆力かというふうに思います。
有識者と言われる人たち、あるいは政府関係者の人たちに、米中対立の中でASEANはどうするべきですかという世論調査をしても、ASEANの対応力と一体性を強化してASEANで頑張るというふうに言っている人たちが半分近くです。アメリカと中国のいずれのサイドも取らないと言っている人が30%です。第3極を目指すと言っているのは16%、アメリカか中国どっちかを選ぶと言っているのが8%という数字になっています。
要するに92%の人は、アメリカも中国も、どっちも選べないと言っています。この世論調査は非常にしつこくて、そんなこと言うけど、君たち米中どちらか選ばなきゃいけない、絶対選べと言ったら、どっち選べますかと畳みかけるように聞いています。最新の世論調査では初めて、中国派がアメリカ派を超えました。2020年から行われている世論調査で初めてです。これはアメリカのいろんな新聞に載って、また激震が走ったよ、というようなニュースになっていました。
このアメリカと中国ほぼ半々について、アメリカの49.5%は、中国と領土紛争をやっているフィリピンがものすごく多く、次にベトナムで、あとの国は大体中国派です。肌感覚で言うとはっきりと中国寄りになっているなと。外務省の人と話すと、中国はずるいよね、ASEANを2つに割ろうとしているのではないか。半分に割ろうとしても許せないと言いますが、いやいや、半分とかじゃないか、と私なんかはいつもコメントを返します。こういう状態です。
中国とアメリカを比べたら、アメリカ寄りになっている国の代表がベトナムです。この前行ってきたので様子をお話しします。
ベトナムは、全方位外交にものすごく労力をかけています。まず外交政策の看板が、バンブーディプロマシー、竹外交というものです。竹外交、竹と聞いたらどんな図を頭に描きますか。竹は揺れるじゃないですか。節操無いように見えるかもしれないけれど、ふらふら揺れる。アメリカ寄りになってみたり、ロシア寄りになってみたり、日本に行ってみたり、韓国との貿易量がものすごく上ですし、ASEANは当然自分の一番の基盤だし、ヨーロッパも大事だよね。というような形で本当に全方位外交をやっている国です。
ベトナムは国連の安全保障理事会の理事国全てと仲がよく、世界に200国弱あるどこの国とも全部仲がいいですね。竹というのはフラフラしているだけというけれど、根っこはしっかり埋まっていて、ものすごく張り巡らされています。地震なんかがあると竹藪に逃げなさいというふうに、親に言われたことがあり、根っこは絶対に揺るがない。その根っこを自分たちの国の自主自立オートノミーというのに据えている。経済で必要なら中国だし、軍事で必要ならばアメリカです。でもその2カ国に頼りすぎるのは問題だからヨーロッパや日本やASEANだよねと思いつつ、でも絶対に自分の国の自主自立は譲らないというのを示すのが、バンブーディプロマシーという政策です。
命がけのベトナム全方位外交
●Bamboo Diplomacy 安保理常任理事国5カ国を含む全ての国と良好な関係
●「4つのNO」
(1)「軍事同盟に参加しない」
(2)2国間関係に第3国の介入を求めない
(3)他国に基地設置や領土利用による他国への対抗させない
(4)国際関係における武力行使、武力による威嚇をしない
バンブーディプロマシーをさらに具体化したものとして、4つのNOという政策があります。2つだけ取り上げてご説明をします。
ベトナムは今でもなお共産主義国、共産党政権の国なので、ソビエトとの繋がりが深いわけです。今でもロシアとの関係もすごく深くて、ウクライナ戦争でロシアも経済的に厳しいでしょう。
私は去年の10月にベトナムに行きました。9月には大台風があって被害がものすごかった。ベトナムで何百人が亡くなっています。真っ先に多額援助をしているのはロシアです。留学生もベトナムの人は以前からソビエトに留学していましたし、今でもロシアに留学する人は行っている。ロシアはこういうご時世になっているので、ベトナムに基地を置かせてくれないかということを頼みます。
隣の国の中国とは、首都のハノイにいれば中国行きの電車が目の前を通っていきます。そういう距離の中ですが、中国とは領土紛争を持っているベトナムです。アメリカとは、ベトナム戦争で戦っていた相手だけれど接近をしようとしています。アメリカもよしきた、中国の隣の国と仲良くできるなら、とてもありがたいということで、非常に強い関係をアメリカとベトナムは結んでいます。だからアメリカは基地を貸してくれない?と、ベトナムにお願いするわけです。米軍基地を、です。ベトナムはどっちにもNOと言います。軍事基地は絶対に置かせない、③ですね。それとともに、軍事同盟にもアメリカとも組まないし、ロシアとも組まないということにしています。
この①③というのは、バンブーディプロマシーの中でも具体的な政策として非常に重要だと思います。この平和に対する思いはもう本当にものすごく強い。お集まりの方々は、憲法9条への思いはものすごく強くて、ベトナムの平和の思いというのも同じように強いものだと思います。種類が違う感じの平和主義で、どこの国も信じられないので、とにかく自分たちで頑張る。ベトナムの場合は他の国に頼ったところでいつか裏切られるから、という感じの平和主義です。ちっちゃい国だからどの国とも平等に全方位で外交しなくちゃいけない。そういう感じなんですね。
これは歴史がそうさせています。今から150年ぐらい前に、ベトナムはフランスに占領されました。非常に厳しい占領政策のもと、ついにフランスがいなくなったと思ったら、それは日本の占領によって解放されて日本が占領した。日本に占領されたと思ったら、アメリカが日本を倒してくれて、日本の占領がなくなったと思ったら、またフランスが戻ってきた。第1次インドシナ戦争でフランスと戦った。「ディエンビエンフーの戦い」でベトナムはフランスを追い出して勝った。ついに真の独立だと思っていたら、今度はアメリカが北と南にベトナムを分けて、ベトナム戦争になる。20年以上戦争を続けて、やっとベトナムは1990年、戦争も占領もなくなって本当の意味での独立を手に入れる。その時のベトナムは、世界1番の最貧国です。今はどうなっているか。GDPは世界30番台です。何で190番ぐらいから30番台まで、たったの30年ぐらいで追いついているのか。それがベトナム人の平和の思いなんですね。
平和でなければ絶対この経済発展はありえなかった。ずっと、占領と戦争の歴史だった。絶対この平和逃すまい。そういう思いからの平和への強い思い。その中には、日本に占領された時アメリカが助けてくれた。その後アメリカと300万人の命を落とすベトナム戦争をやらされた。その時は中国が助けてくれた。反共のアメリカの戦いで、共産党であれば中国が助けてくれた。そう思ったらアメリカの次に占領してくるのは中国です。中越戦争というのがあります。ついこの前まで味方をして応援してくれた中国が戦争してくる。アメリカも中国もベトナムを裏切っている。
どんな大国でも、自分の都合のいい時だけ自分の国を支援はしてくれるけれど、都合が悪くなったら、どの国だって敵に回って刃を向ける。これが彼らの信念ですね。残念ながら、悲しいかな、学んできた歴史の知恵で、その結果です。バンブーディプロマシーという政策を取り、軍事同盟に参加は絶対にしない、他国に基地を置かせない、そういう政策を取っています。
ベトナムの例が最たるものです。そのベトナムは、東南アジア10カ国のうちでフィリピンに次いでアメリカ寄りの国だと思います。他の国は、中国、アメリカのどちらを選びますかといったときに、いずれかを選ぶと答えた人は8%しかいない。これが東南アジアの国々の人たちと喋ると、本当に国是中の国是という感じで、もう誰かれとなく言いますね。
私は東南アジアに惚れ込んで、ベトナムに行ったり、タイに行ったり、フィリピンに行ったりしています。私たち、憲法9条守れとか安保法制反対とか安保3文書改訂反対とか運動を頑張ってやるけれども、だいたい変えられちゃっています。あるいは大きな集会やったり、街で集会のチラシ配っても、受け取ってもらえなかったりして、マイノリティーな僕たちって感じながら政治活動することが残念ながら多いかなと思うけれど、皆さん疲れたら東南アジア行ったらいいですよ。もうマジョリティ感半端ないですよ。何を言っても、その通りだねって言ってもらえる。マレーシアの研究者なんかもね、泣きながら寄ってきて、こんな日本人がいるんだったら早く会いたかったと言われました。どっちの側にもつかないというのが大事でした。
日本だって、そうなわけです。だって、経済的には中国とのつながりが一番深いわけで、中国と切れるのかと言ったら切れないわけですね。別に日本とアメリカの関係を切れと思ってるわけではありません。どこまで行ってもアメリカに全てを尽くして注ぎ込みましょう、みたいなこともやりかねない日本政府なわけです。いやいやとそうじゃないことをやっている国は、実は世界の4分の3がそうです。日本みたいに力がない国でもそんなことができてるんだよという意味で、しかも中国の近くで米中との関係が日本とすごく似てるという意味では、ASEANの国は、すごくいい例なのかなと思います。
フランス、マクロンさんシャングリア対話でこんなことを言っていました。
・「米中いずれかを選べば、世界の秩序を壊す」・「欧州とアジアが協力して自立のための連合、脅迫されないための連合を築くことを呼びかけたい」・「リスクは2つの超大国家の分断であり、(米中が)他国に対してこちら側を選べと指示してくることだ」・「いずれかを選べば、世界の秩序を壊すことになる」
すごくないですか?きっと私の講演、どこかで聞いていたのかなって(笑)。ついにフランスが、アメリカと中国いずれかを選べば世界の秩序が壊れると言いました。アメリカの同盟国であるフランス、そして、ヨーロッパの国の中では、フランスも核の傘で他のヨーロッパの国々にも与えるとマクロンさんは言ったりしています。一気に存在感を増しているフランスではあります。それが、中国も経済的に大事だし、アメリカも大事で、両方大事で対話していきましょう、ではありません。いずれ変われれば世界の秩序が壊れるぐらいのことまで言ったんですから、本当にびっくりしたわけです。
フランスはもともとNATOに入るのも慎重でしたが、非常に核兵器神話が強い国です。自分が核兵器を持っていることから来る、フランス革命以来、非常に自主独立という精神を強く持っている国です。今フランスとドイツがEUの中では2つの巨頭ですが、マクロンがここまで言い切るというのは大きな出来事です。
フランスだけで終わるのかなというのは、終わらないでしょう。それは私の確信で、ヨーロッパにも行く機会が増えていて、ドイツやスペインの欧州議会議員ともお話をさせていただいています。ドイツの場合は、防衛力をヨーロッパ各国が強化して、自分たちで何とかしなきゃいけないと。安全保障ではもちろん縁は切れないし、ヨーロッパもアメリカに対して抱き付き戦略をやってはいるんですが、諦め度合いですね。本当にアメリカいなくなったよね感というのは、このマクロンも、ドイツの人もそうだし、スペインの議員もそうです。最近、インドの国際会議で会ったたくさんのヨーロッパ人もそういう感じでした。
ドイツは、その中で一番の経済力があるヨーロッパの国ということで、軍事予算を増やして軍事力をつけている。いずれにしてもアメリカには頼れない。軍事でも頼れないし、価値観に至っては、むしろ真逆の、自分たちが守ろうとしている価値観を壊すのがアメリカでしょ、みたいになっています。もちろん最後は軍事力で頼らなければいけないから、完全に切るようなことにはならないように努力はしています。けれども気持ちの中でのヨーロッパの離反ぶりはすごいなというふうに思います。
スペインは、ご存知のとおり社会労働党という左派が政権与党です。例えばパレスチナを国家承認したのがスペインで、ヨーロッパの中で数少ない国です。ロシアが遠いということもあるんですけれど。ドイツやフランスにも非常に不満をたれながら、いずれにしてもアメリカのことについてはもちろん、頼れるなんて思ってはいないという感じです。
グローバルサウスの数を数えると、世界の中で4分の3あるわけです。残りは西欧諸国とアメリカとカナダと日本と韓国とオーストラリア、ニュージーランドで、その一角が、こういうふうに崩れ始め、中立だというふうに言い始めています。カナダは関税のことで51番目の州とか言われ続けて、一番頑張ってトランプさんには反発しています。ですから、もしかすると日本と韓国とオーストラリアぐらいが、アメリカに抱きつく戦略を最後までやり続ける国なのかなというふうに思います。
さて、そうなったときにAとB1、B2がどうなっていくのか。今後の日本の方向性はどうなのか、どういうトーンを広めていくかということを考えていかなくてはいけない。代表的なものの中で、そんなに過激でないものを取り上げるとどんなものなのか。朝日新聞に載っていた2つをご紹介すると、一番過激なのは日本が核兵器を作りましょうとかです。
そこまではいかない、この防衛研究所の方のご意見は、日米同盟を基軸に、通常兵器を強化していきましょうという姿勢で、日米の結束力を弱めないように努力していくという典型的なAだと思います。
朝日新聞の2つの意見のうち、多分、防衛研究所の方が朝日新聞的に許容のできる鷹派で、もう一方の細谷先生が朝日新聞的に許容のできるハト派でしょうか。私には両方あまり違わないように見えましたが。
細谷先生の方は、「日米同盟強化の努力は続けるべきだが、『自立とは何か』の模索も必要。」ということで、日本とアメリカの関係を見直す。さっきのB1とか、まずBですね。アメリカとの関係を程度の差はあるが見直していこうと言っています。
私と細谷さんの違いは、どういうふうに中国に対して向き合うのかです。外交については、2022年に改訂された日本の安全保障戦略にもたくさん書いてあります。でも、制度化され、こみ入った、どこまでも市民連携がつながるような本気の外交を、中国とやっているのか。その外交をやる気があるのか。自由民主主義や法の支配が理解できる国とつながることはとっても大事だけど、必ずしもそれが100%理解できない国とだって、つながっていかないと戦争を避けられないでしょう。というのが私の意見で、私は細谷さんの意見にちょっと不満な部分だと思います。
日本とアメリカの関係についてというのは、AなのかBなのかというと、AとBの分かれ目になります。朝日新聞の世論調査でも、もうアメリカは守ってくれないと思う人は、守ってくれると思う人の5倍います。これは多分、もう時間の問題だと思います。アメリカを相対化していく動きは、多分、オーストラリアも時間の問題でしょう。日本と韓国は、最後の最後まで残って、日本が最後まで抱き付き戦略でいくと思います。それでも日本政府の人たちでも、やっぱり相対化していかなくてはいけないという意識はあると思います。これは、それこそ程度の差はあれ時間の問題で、日本も別の方向を向き始めるのではないか。マクロンの話を聞いたぐらいでここまで言い切っていいのか。でも、そういうぐらいの大きな地殻変動は、この世界に起きているのではないかと思っています。
これで日米同盟についていろいろ意見を言うのやめていいということではないし、地位協定を変えてとか、やることは満載です。とはいえニュアンスは、だいぶ変わってきているというのが1番です。
次に、B1かB2になるかという大きな別の戦いが待っていて、これからの主戦場はそっちだろうと私は思っています。アメリカとの関係をどうにかするかは、今までだと日米同盟の中で日本の役割を増やし、アメリカに抱きついて日本を守り続けてもらうために、防衛費を増やしていた。そうではなくて、日本が独自に、アメリカがいなくても守れるように核兵器を増やしたいというような自民党の政治家の人たちも蠢いています。そうでなくても通常兵器を何倍にもするために3%の防衛予算はしょうがないというような人たちが出てくる。もう政治家の中にもいます。
しかし、それは先ほどの7つの命題のうちの6番目です。防衛力を高めれば日本は平和になるのかというと、そうではないだというところがあります。世界中、ヨーロッパ、フランスはものすごい軍事大国ですよ。各国の専門家と話してみると、ものすごく軍事的なものに対する信望が強い国でもあるし、社会の中の存在として兵器産業、軍事産業がものすごく大きいですね。それが今は儲かる機会にもなっている。そういう意味で、軍事力を高めれば平和になるというのは誤りです。防衛力拡大についての、B1になるのかB2になるのかの、その分かれ目についての戦いを、私たちはこれから強めていかなければいかないと思っています。
日米同盟に皆さん80年間いろいろ取り組んできたけれども、新しい局面に入ったということを認識することは、ものすごく重要なことなので、今日は、あえてそっちのほうだけを取り上げてお話をさせていただきました。外交なんかで何で戦争が避けられるのか。外交、大変ですよ。めちゃくちゃ大変ですよ。外交で戦争を回避するというのはものすごい努力もしなきゃいけないし、ものすごく時間もかかるし、ものすごくお金がかかるし、みんなやらなきゃいけない。だけど、その大変さは戦争になって、それを受け入れなきゃいけない大変さよりはマシでしょう、というようなことで、最後まで外交は諦めてはならないという、ことで私の講演は終わらせていただきます。