今回の総選挙の結果は、与党が過半数割れを起こして、国民民主党と事実上の「部分連合」を組まずには新内閣が組織できなくなり、また自民党などが至上課題としてきた「改憲」に必要な3分の2議席にも、自公以外の改憲勢力(維新の会、国民民主、参政、日本保守、無所属与党系)を加えても達しないという事態となった。
石破政権に対する党内外からの風当たりは強まり、右派系メディアまでが「政権に居座り、政局の混乱を長引かせることは許されない」(読売社説:10月29日)、「責任をとって潔く辞職すべき」(産経主張:10月29日)とか、「改憲勢力冬の時代」(産経記事)というなど、危機に直面している。国民民主党の助けをえて、どうにか第2次石破内閣は船出したわけだが、日本の政治は「安倍政治の時代の終焉」で、政治危機の時代、大動揺の時代に入ったことは疑いない。
自民党だけでなく、国会の諸政党は軒並み危機に直面した。公明党は代表を変えて選挙に臨んだが、石井代表、佐藤副代表が落選し、臨時の党大会で斎藤体制に交代した。維新も大幅議席減の責任を取って馬場代表が辞任し、代表選となった。議席増を果たしたと有頂天になったのもつかの間、国民民主党は玉木代表の不倫問題が急浮上し、大動揺の渦中だ。
「永田町は一寸先は闇」の警句の通り、国会の風景が激変した。従来、安倍政治と呼ばれてきた立法府での圧倒的多数議席を背景に、行政府が独走(「閣議決定」の乱発と内閣人事局による霞が関の省庁支配など)する政治が終焉した。予算委員長は立民の安住氏、法務委員長は立民の西村氏、憲法審査会長は立民の枝野氏、など国会の計27ポストのうち野党が12の委員長、会長ポストを獲得し、内閣独裁の政治が許されなくなった。
11月11日に行われた特別国会の『首相指名選挙』は『誰も過半数に届かない』ので、『決選投票』になり、与党・石破氏(221票)VS立憲・野田氏(151票+共産8票+無所属1)、無効84票(維新、国民民主、れいわ新選組、それぞれ自党議員に投票)という構図で石破氏が首相に選ばれた。
共産党の田村智子委員長は「立民の野田代表から決選投票での協力の要請を受け、総選挙で示された民意に応えて裏金問題の真相解明と企業・団体献金の全面禁止を行うことで一致した」。「健康保険証廃止の凍結や選択的夫婦別姓制度の実現、大学学費値上げストップなど緊急の要求を進めることでも前向きの協議となったとして「『自公政権ノー』という民意に応え、野田代表に投票する」と表明した。それにしても、決選投票で無効票を投じた諸党は、結果として石破自公政権の成立を助けたことになり、総選挙で与党過半数割れを実現した民意に反したと批判を受けてもやむをえない行動だ。
いずれにしても、安倍独裁時代からの国会の風景が大きく変わったのは間違いない。「政治は変えることができる」という真理を私たちは目の前で見ている。産経新聞は「改憲勢力『冬の時代』」「改憲、自民が白旗、議席3分の2割り腰砕け」などと書いた。
外務省の発表では、11月7日午前の5分間(わずか5分間!)、石破首相は米国大統領に復帰することになったトランプ氏と祝意表明の電話会談を行い、「日米同盟を新たな高みに引き上げるために協力していく」ことを確認したという。この「新たな高みに引き上げる」約束は、今後の日米関係を拘束する極めて危険なものだ。
日本政府は岸田・バイデン政権の間で「安保3文書」を確認し、敵機地攻撃能力の保有や軍事費の対GDP比2%などを約束している。統合司令部の設置など、軍事の一体化を進めている。トランプ次期政権がこれを足場にかさにかかって対日要求を強めてくるに違いない。今後、軍事費拡大等の問題で従来以上の違憲状態が作られ、東アジアの軍事的緊張が増大することになるだろう。
先の自民党総裁選で、党内最右派が推した高市早苗候補と争ったことや党内最弱小派閥が足場であるだけに、石破首相のタカ派的本性が見えにくくされてきたが、彼は究極の改憲派であり、軍事オタクと揶揄される政治家だ。石破首相は一貫して悪名高い自民党改憲草案の実現を目標にしている。2012年草案作成時は草案起草委員(委員長・中谷元)として「9条部分」(「戦争放棄」の章立てを「安全保障」に変え、「国防軍を保持する」と明記した)の起草担当で、自民復権の直後の2年間は幹事長職でこの路線を擁護してきた。今度の石破内閣・執行部には岩屋毅外相、中谷元防衛相、経済再生相・防災相設置準備担当相の赤沢亮正などの「国防族」が配置され、安保担当首相補佐官に長島一久、党政調会長に小野寺五典元防衛相が当てられている。
石破氏の9月10日の総裁選の政策発表記者会見では、他の8人との差別化のために熟議重視とか、選択的夫婦別姓、原発縮小など、一見リベラルな主張を並べるいっぽう、彼のライフワークの安全保障分野で独自色を打ち出した。集団的自衛権などを明文化した「安全保障基本法」の制定、憲法9条への自衛隊明記や緊急事態条項の新設を念頭に「党(自民党改憲実現本部WT)で決めた路線を維持していく」とし、総裁任期中の改憲実現に意欲を示した。ロシアによるウクライナ侵攻など安全保障環境の激変を挙げ、台湾有事を念頭に安全保障体制の抜本的見直しを訴え、「長らく安全保障に関わってきた経験を今こそ生かさねばならない」。アジアにおける集団安全保障体制の構築に向け、「アジア版NATO」の創設に向けた外交努力を積み重ねると主張した。
くわえて米国の保守系シンクタンク「ハドソン研究所」は9月27日、自民党の石破茂総裁の外交政策に関する寄稿文を公表した。
この論文で石破総裁は「日米安全保障条約を『普通の国』同士の条約に改定する条件は整った」と述べ、「日米同盟を米英同盟並みに引き上げることが私の使命だ」と強調、相互に防衛義務を負う安保条約への改定に意欲を見せた。また改定に必要だとみられる憲法改正の実現を改めて掲げ、持論の「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」創設に合わせて、米国の核兵器の共有やアジア地域への持ち込みを検討する必要があるとのべた。
さらに現状の日米安保条約は「米国は日本『防衛』の義務を負い、日本は米国に『基地提供』の義務を負う仕組みになっている」という「『非対称双務条約』を改める時は熟した」と強調。日米安保条約改定後は、自衛隊をグアムに駐留させる構想も披露。「在グアム自衛隊」の法的地位を整理するために、日米地位協定を改定すると説明した。
しかし、日米安保条約改定やアジア版NATO創設には、集団的自衛権を全面的に認めるような憲法改正が必要だ。これは日本の戦後の外交・安全保障政策を覆すだけに、与野党や世論の支持を得るのは容易ではない。すでに「所信表明演説」では口をぬぐって、引っ込めてしまった。
総選挙で衆議院の3分の2を改憲派が失ったことは明文改憲派にとって極めて困難な条件となった。
憲法審査会も憲法調査会発足以来、初めて改憲反対派が会長職を奪った。こうした状況の下で改憲原案を作るのは容易ではないし、それを国会の3分の2で採決して発議するのはなおさら困難だ。しかし、前述した日米関係からみて、軍備の増強などの実質改憲はいっそう推進しなければならないだろう。究極の憲法違反状況が現れることになる。
日米安保の変質と「戦争する国」への過程は、2015年安保による集団的自衛権行使の合憲解釈を経て、2022年の安保3文書閣議決定、2024年の「日米2+2」による日米両軍の統合司令部体制確立などを経て、「戦争する国」の体制を固めてきた。
自民党の改憲論の変質・転換の過程をみると、戦後の自民党保守本流勢力と、安倍政権以降の新自由主義潮流による立憲主義への向き合い方には重大な差異があった。歴代政府は曲がりなりにも「専守防衛」や「防衛費GNP比1%以内」などを「国是」化することで憲法との決定的な対立・破綻を回避してきた。だからこそ改憲をして軍事大国への道を歩もうとしてきた。
しかし、今日の日米同盟強化や欧米各国などとの軍事協力体制と自衛隊の軍備拡張の実態は、違憲実態状態を覆い隠しようもなくなった。この憲法違反状況を改めるべく安倍・岸田は「改憲」を画策してきた。安倍政権以降は「軍事大国の実態を作った」うえで、憲法をそれに合わせて変えようとしているのであり、立憲主義の「転倒」だ。
2024年4月の日米首脳会談を経て、7月29日、日米両国の外務・防衛の閣僚協議、「2プラス2」が米日の対中国戦争の共同作戦体制強化にむけて行われた。これは日本の戦争国家化への重要な一歩だ。ここでは自衛隊とアメリカ軍の部隊連携を円滑にするための指揮・統制の向上に向け、両国で作業部会を設置し協議していく。自衛隊が来春までに、陸海空の部隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を設けるのにあわせて、米国が在日米軍を再編し、統合軍司令部を新設する方針(市ヶ谷に近い麻布基地に置かれるという)や、迎撃ミサイルなどの共同生産、サイバーセキュリティーに関する協力強化、「核の傘」を含む米国の戦力で日本への攻撃を思いとどまらせる「拡大抑止」などについて話し合われた。
軍事的に南西諸島だけでなく、全土にミサイルやオスプレイなどの配備が進み、麻生の「台湾有事は日本有事」発言をはじめ、石破氏もふくめ国会議員の台湾訪問が相次ぎ、マスメディアを使った台湾有事が煽られている。岸田前首相まで発言した「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」などのフレーズが飛び交っている。
東アジア、インド洋など一帯で米国やNATOなどとの合同軍事演習がひんぱんに繰り返され、自衛隊護衛艦の台湾海峡航行も初めて強行されるなど、軍事挑発も続いている。自衛隊員の靖国集団参拝をはじめ、国家神道との結びつきの強化も繰り返し行われている。これらへの中国などの対応も尋常ではなく、アジアの緊張は高まっている。
前述した最大規模の日米共同統合実動演習「キーン・ソード」(KS25)が10月23日から11月1日まで、全国23都道府県で数万人の日米両軍を動員して実施された。「米中対立」の最前線となる南西諸島では、日米のミサイル部隊による訓練が行われた。
政局の激動期がきた。25年は参院選がある。少数与党の下で、衆議院解散もいつあるかわからない。激動期は多くの市民が政治に関心を寄せる条件となる。石破自公政権を倒し、維新・国民の改憲勢力を暴き、孤立させることが可能だ。市民運動の力で世論をつくり、野党に働きかけ、市民と野党の共闘の再構築を実現しなくてはならない。
運動圏では多くの市民が市民と野党の共闘の推進をねがっている。自公の過半数割れと改憲勢力の3分の2割れを出発点に25年参院選では必ず市民と野党の共闘を再確立しなくてはならない。今回の総選挙におけるオール沖縄の運動を背景に3人の当選者をだした沖縄、県段階の市民と野党の共闘を背景に圧勝した新潟、宮城、長野の各選挙区、市民運動の粘り強い積み生かさねの上に市民主導型の共闘で勝利した東京8区、東京24区などのたたかいは教訓に満ちている。
この新しい条件のもとで石破自公政権の軍事同盟強化と軍備増強の路線に、有権者がが「NO!」を突き付け、戦争する国の道を止めることができるかどうか。政治の大きな転換の時代を迎えよう。野党のかなめとなるべき立憲民主党も、危惧されるような野田体制の下でもリベラル勢力は決して少なくない。市民と野党の共闘の再構築は可能だ。運動圏でも2014~2015年安保、安倍国葬反対のたたかいなど、市民が政党を動かしてきた経験は少なくない。
反戦、反軍拡、反改憲の巨大な運動の形成が課題だ。軍備拡大の根拠にされる「抑止力」論は「平和の維持」の保障ではなく、軍事緊張の際限ない拡大の論理であることを徹底して広め、世論獲得の論戦にも勝利しよう。トランプ次期大統領への祝電で中国の習氏は「中米が協力すれば双方の利益となり、戦えばいずれも傷つくと歴史が示している」と指摘し、「安定して健全な中米関係は両国の利益と国際社会の期待にかなう」と述べた。言うまでもないことだが、軍事的緊張の拡大競争は直ちにやめなくてはならない。
私たちは戦争反対、軍拡反対、改憲阻止のたたかいでアジアと世界の平和共存を訴える。日本にできることは憲法を根拠にした「安心供与(専守防衛・憲法9条)」だ。」あらゆる機会を活かして、政権側も、民衆同士も対話によって、緊張を緩和する努力をしなければならない。
(共同代表 高田 健)
菱山南帆子(事務局長)
今回の衆議院選挙では全国でも1番注目されていたであろう、東京24区(八王子市)。あの萩生田光一氏を選出し続けた土地で、選挙中、何が起き、どのような運動が繰り広げられたのかをまとめる。
まず大前提として八王子がどんなところかを説明しよう。八王子はかつて、自由民権運動が盛んな場所であった。八王子の御殿峠には蜂起した数千人の農民が集まったこともあった。ちなみに八王子市内には川口困民党を結成した塩野倉之助氏を偲ぶ「困民党首領塩野倉之助之碑」もある。当時、神奈川県だった八王子と町田は自由民権運動が強すぎたせいで、多摩川を水道水として東京都へ移管するに伴い運動潰しも兼ね合わせて、神奈川から東京都に追いだされたのは有名な話だ。
それから140年ほど経った現在の八王子はどうなっているのか。
八王子駅からバスで20分ほど離れたところには創価大学がそびえ立っている。その周辺は大学の寮や創価学会の関連施設が密集し、住宅地に一歩入ればどの道を進もうが曲がろうが、公明党のポスターがお出迎え。そのような3色に染まった空間は方向感覚を失うほどである。選挙中うっかりその空間に選挙カーで入り込もうものならば、冷たい視線を送られ「シラ~」という空気が車内に充満し、ほうほうの体で脱出するのは「八王子あるある」だ。
八王子駅に戻れば、南口から徒歩7分もしない所に大きな統一教会の支部があり、反対の八王子駅北口側に行けば、統一教会女性部の事務所が萩生田光一事務所近くに構えられている。商工会議所や青年会議所が強く力を持ち、過去に都内の各所で革新市政区政が誕生した際にも、多摩川を渡って八王子まで革新の風はとうとう届かず、保守系市政のままであった。
そんな八王子。長年、地元出身の萩生田氏によるねじれた八王子愛の押し付けとカネによる恫喝政治が続いていた。民主党政権時代に一度落選を経験した萩生田氏は落選期間中、加計学園の加計氏と関わったり、統一教会の支援を受けたりしながら、どす黒い人脈と金脈を作っていったことは間違いない。
権力の座に意地汚くしがみついた萩生田氏は次の衆議院選挙で完全勝利。相手候補の比例復活も許さなかった。
ここまで読むと、八王子はカルトと金権政治渦巻く絶望の地のように思われるであろう。半ば間違ってはいない。ところがここが凄いところであるのだが、八王子は市民運動がとても強い。岩盤保守層が多いからこそ、運動もたくましく継続的に存在し続けてきたのだ。
高尾山の裏を破壊し、高速道路を通す際には大きな住民運動が巻き起こった。高尾山の天狗様が怒るぞと、集会後のデモを「天狗の行進」と名付け幅広い市民に受け入れられ広がって行った。当時子どもだった私も、親に肩車されながら天狗の行進に参加した。参加者の子天狗たちは山中で開かれる集会中、川でびしょぬれになりながら遊びほうけ、屋台の食べ物をむさぼり食う。今思い出しても素晴らしい住民運動の姿だった。しかし、住民への弾圧と工事が進む中、集会場所の山中は狭められ、裁判が進むにつれて参加者の高齢化により天狗の行進の距離が短くなり自然と行動は無くなって行った。それでも天狗の行進の参加者や実行委員の市民運動家たちは、多岐にわたる運動に散らばり根強く運動を続けてきた。
2011年の原発事故以降今に至るまで、毎週金曜日に行われている脱原発デモ。金曜日の八王子デモなので通称「金八デモ」と呼ばれている。他にも八王子市内で女性たちの緩やかにつながるネットワークもあり、フラワーデモやMeToo運動を八王子で実施する際にはそのようなネットワークを駆使して広がりを作っている。環境問題や平和、アジア連帯、コロナ禍以降は困りごと相談会など様々な市民運動が点在しながらも緩く繋がり合っている。それはまるで竹やぶのような状態であり、私は勝手に八王子の「竹やぶ運動」と呼んでいる。それぞれ自立しながら竹は生えているが、土の下ではがっちり横の竹の根と絡み合っている。だから八王子は運動の地盤が強いのだ。
2015年の安保闘争時にも、八王子は真っ先に八王子版「総がかり行動」を結成した。戦争法が通ってしまった後も、国会前での19日行動に呼応して毎月1回100人ほどの超党派の市民集会を続けている。強かに、虎視眈々と安倍政治の終焉と萩生田氏をやっつける機会をずっと狙いながら活動を続けてきたと言っても過言ではない。何度も衆議院選挙は野党統一候補の擁立が上手くいかず、惨敗を繰り返してきたが、私は心の中で「負けて勝つんだ」という言葉を何度も繰り返しながら地域での運動を積み重ね、仲間との信頼関係を築いてきた。
そんな八王子に最大のチャンスが2つ訪れた。それが「統一教会との癒着と裏金」の発覚だった。
1つ目の安倍元首相の銃撃により明らかになった統一教会と自民党議員の癒着。名前が挙がった萩生田氏の地元の八王子では、当時参議院議員選挙で落選していた有田芳生さんを呼んで学習会が開かれた。その学習会の情報を得る少し前に、「八王子で萩生田氏と闘えるのは有田さんしかいないのではないだろうか」と考えていた私には絶好の機会が到来した。学習会が終わるや否や有田さんに駆け寄り「八王子で選挙に出てくれませんか?」と直談判した。しかし、その場で有田さんに「八王子は接点がないから私が出るのは不自然では?」と言われて、けんもほろろに断られてしまった。まあ、そんなことでは簡単に諦めないのが長年の市民運動の中で仲間から学んできた私の最大の強みである。
私は自分の周りの人をできる限り巻き込み、「有田しかいない」という空気を作り上げてきた。有田さんと親しそうな人には「八王子で出るように説得してくれ」とお願いをしたり、市民運動の場に連れ出し、講演会をしてもらったり、集会で発言をしてもらうなど「萩生田退治」のため、有田さんの出馬実現にむけて動いた。そして総選挙の練習のような八王子市長選挙を、元自民党議員も巻き込む超・超党派形式で闘ったあと、萩生田氏の「裏金引き出しに隠していました事件」が明るみに出た。裏金に関しては、物価高で生活が苦しくなってきている市民にとっては激怒するような出来事であり、前々から萩生田氏のことを気に食わなく思っていた人々の怒りは爆発した。そして「光ちゃん」などと言って萩生田氏に親しみを持っていた人たちも、「さすがに裏金脱税はダメ」だと見放し始めた。
市民連合の力も借りながら1年間、毎月1回の超党派の集会に有田さんが参加し常連のようになった頃、解散風が強く吹いた。有田さんは人生後期の闘いの場を24区で頑張ると決意を固め、私たちに伝達をしてきた。これが8月下旬。自民党総裁選が終わり、これは本当に選挙になるなという雰囲気になった。立憲民主党は代表選も終わり野田新代表が選出された。
有田さんの立憲公認は10月2日だった。15日の告示日まであと13日。2週間を切っていた。事前ビラはもう間に合わない。長く八王子24区には立憲の支部長不在だったため、事前の選挙運動もなにもない状況からのスタートだった。もちろん、選挙期間中に使用する幟もない。「信じられる未来を」「市民の力で政治を変えよう」の2種類の幟が届いたのはなんと投票日5日前だった。私たちはそれまで本番中ずっと手ぶらで選挙をやっていたのだ。これは今思い出しても背筋が凍る。更には、立憲が野田代表になったことで、安保法制の廃止や市民と野党の共闘への考えの不一致から、市民と野党の共闘が大きく崩れそうになるという危機まで告示日の13日間の期間に経験し、毎日がカオスのような状況であった。
みんなが混乱し動揺した。それでも何とか運動を保てたのは長年にわたる超党派での市民運動による信頼関係の積み重ねだ。八王子の運動圏外からどんなに罵詈雑言言われようと、SNSやリアルで組織の理論を外野からぶつけられようと、「八王子モデルを貫く」という意思は固かった。
有田さんは立憲民主党公認であったが、地域の共産党、社民党、生活者ネットワーク、新社会党、れいわ勝手連が応援し、連合傘下の私鉄総連や自治労などの単産組織が続々と推薦を出した。八王子モデルとは、市民運動をベースとしてその後方から各政党、労働組合が団子になって選挙を闘うことだった。それが今回短期間に実現したことは素直に嬉しいし、今後に希望を持てる成功例となったことは間違いない。
さて、告示日までに他にもこんなことがあった。まずは選挙事務所借りられない事件だ。空きテナントになっているのにも関わらず、私が名乗ったり、有田さんの名前を出すと態度が一変、貸してくれないのだ。不動産関係者に聞いたところ、「有田陣営には貸すな」というお触れが回っているとのこと。これを聞いたときには絶望した。そこまでやるのか!と。最後は、私が夜歩きながら探していた時に見つけた神奈川県の不動産会社の物件を、ようやく借りることが出来た。契約を交わし、事務所のカギを開けたのが10月11日。告示日まであと4日。
頭にきていた私たちは、「裏金議員いらないデモ」を決行することにした。当初、デモ出発地点のほど近くに常設の萩生田事務所があるため、その事務所を一周するコースを考えていたのだが、デモ申請の時点で警察側から「道路が狭いからダメだ」と言われ、許可が下りなかった。おそらく萩生田事務所があるということを分かっていてダメだと言ったのであろう。デモの権利まで捻じ曲げる、これが萩生田王国の恐ろしさだ。
当然散々ゴネたが、結局、小さな公園で流れ解散をするというコースを渋々提案した。警察も「これなら」と納得し、許可が下りた。
萩生田事務所前を通れず至極残念そうな表情の裏で、私はほくそ笑んでいた。なぜならば、その流れ解散地点である小さな公園の向かいには「萩生田選挙事務所」があるのだ。しかもデモ決行日は事務所開きの日でもあった。「権力め、油断しよったな」うつむき加減でにんまりとしながら八王子警察署を出た。さあ、準備は整った。萩生田退治の始まりだ。
デモ当日。集まった100人近い人々と「裏金議員を落選させよう!」「萩生田議員はもうおしまい!」とコールをした。街中の反応が違う。手を振ったり頷いたり。こんな反応の良いデモは久々である。萩生田選挙事務所に差し掛かった時、萩生田事務所はまるで台風が来たかのようにドアとシャッターを閉めはじめ、萩生田事務所スタッフがカメラを持って私たちを盗撮し始めた。私たちも負けない大きな声でシュプレヒコールをし、そのまま向かいの公園で警察との打ち合わせ通り流れ解散をした。まるで野犬を放つかのようだった。
これには萩生田陣営は相当ムカついたようで、今でもネチネチ自民党側から文句を言われているが、八王子定番のデモコースに事務所を構える方が悪い。それにデモは権利だ。裏金脱税しておいて何を言うか!と全面対決の姿勢を打ち出した。
そして迎えた10月15日告示日・・・・
―次号へ続く――
2024年10月28日
安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合
裏金政治をめぐって自民党に鉄槌が下った。国会解散まで戦後最短の審議で選挙に臨み、「禊(みそぎ)」をはかった石破新政権だったが、議席の単独過半数どころか、勝敗ラインとしていた自公による過半数獲得も達成できなかった。与党の一翼を担った公明党の新代表と副代表も、選挙区での落選を余儀なくされた。
選挙の公示前、自民党は、裏金問題への対応として自党の候補者10人を「非公認」としたが、間もなくそれら候補者支部への2000万円の資金供与も明らかとなり、同党の政治改革への不信を増長させた。今回、この「偽装公認」問題、そして裏金問題自体を幾多のマスメディアに先駆けて明らかにし、野党躍進の契機をつくりだしたのが日本共産党の機関紙『しんぶん赤旗』であったことは、記憶にとどめておくべきである。今回の選挙では、いかなる強大な権力も、その体内に巣くう腐敗の事実が明らかとなり、国民の信頼を失えば、一夜のうちにその基盤が瓦解するという、民主政治の真実が再確認されることになった。日本の有権者は、今回の選挙で明確に、政治権力に対して抜本的な政治改革の必要性を突きつけた。
しかし他方で、派閥からのキックバックが政治資金収支報告書に不記載だった自民党議員46人中18人が当選を果たし、「旧安倍派5人衆」のうち4人が議席を維持した。したがって裏金問題は、依然としてまったく解決しておらず、引き続き国会内外での追及が続けられなければならない。そして今回争点となったこの裏金問題の解決も、民主政治にとってはいわば最低限のスタートラインにすぎないことも再確認すべきである。私たちの眼前には、自公政権12年間、あるいは「失われた30年」で蓄積された多くの政治課題が山積している。しかし、選挙期間中に全国で、それらの重要争点が十分に議論されたとはいえない。
私たち市民連合は、立憲主義の回復や安保法制の廃止というこれまでの取り組みにもとづき、先の立憲野党(立憲・共産・社民・沖縄の風)との「政策合意」において、憲法9条や専守防衛を逸脱する集団的自衛権の行使、そして敵基地攻撃能力を許容することはできないという点を再確認した。またこれに加え、逆進性の強い税制の是正など市民の生活を守る経済政策や、誰もが個人として尊重されるジェンダー平等と人権保障、原発にも化石燃料にも頼らないエネルギーへの転換といった、来るべき立憲政治の指針に関する共通原則も確認した。そしてこれらの確認にもとづき、今回の選挙戦においても、市民と野党との共闘で戦うために全国各地でさまざまな取り組みを行い、結果的に、改憲政党(自民・公明・維新)による3分の2の議席獲得を阻止することにも寄与することができた。ただその一方で、全国的には、野党共闘が実現した選挙区だけではなく、野党同士が競合した選挙区も生じ、今後の共闘のあり方に課題を残した。
しかしいずれにせよ、選挙期間中に必ずしも十分に議論されなかった重要課題について、今後不確実性を高める国会内の政治過程においても、立憲各野党がしっかりとその当初の方向性を見失わずに歩みを進められるかどうか、私たちはそれをしっかりと見守り、またその実現のために多くの市民団体と連携しつつ、独自の取り組みを行っていきたい。
いかなる政党といえども、永田町の権力闘争に拘泥し、つい昨日まで街頭で触れ合い、語り合ってきた有権者や国民の存在を忘れ、立憲政治の大きな原則を踏み外すようなことを、私たちはけっして許容しない。「政権交代は最大の政治改革」であり、その訴えは総選挙で大きく有権者に届いた。しかし、むしろその政権交代への過程で実現される具体的な政治の「中身」こそが、さらに重要な争点であることも、ここで確認しておきたい。
残念なことに、この度の総選挙では、戦後3番目に低い投票率に終わった。ほぼ2人に1人が選挙に行かなかったことになる。この国では、有権者の政治そのものへの無関心、あるいはさらに言えば「絶望」が顕著である。現在の選挙制度において、今回のような一部野党の躍進も、冷静に見れば、その多くが与党側の失策とそれに対する与党支持層の離反に起因するものにすぎない。したがって、今、勝利に沸き立つ立憲野党も、けっして奢ることなく、今後の国会活動においては、むしろ現在政治への期待を失った多くの国民でさえもが微かな希望を見い出しうるような政治の姿を実現してほしい。
私たち市民連合は、選挙後も引き続き、戦争へと向かう国のゆくえを正すべく、各地域でたゆまぬ活動を展開し、市民の立場から政治に参加し、これを創り、またこれを監視する。来年の参議院選挙に向けても、立憲主義と平和主義にもとづくあらゆる政党や組織、政治家と連携し、「市民と野党との共闘」を引き続き追求したいと願う。
憲法公布記念の日である11月3日は全国各地で憲法を守れという行動があった。東京では総がかり行動実行委員会の呼びかけによる集会が国会正門前で行われ2300人が憲法まもれ!の声をあげた。今年の集会タイトルは「憲法変えさせない!戦争反対!今こそ平和と人権 11.3国会大行動」。
はじめに「公園でCHILL」さんによるオープニングライブで、「踊ろう女たち」「さようなら自民党政治」の歌で参加者が一体となった。
集会は14時から菱山南帆子さんのシュプレヒコールで開始した。主催者を代表して挨拶をした染裕之さん(戦争させない1000人委員会)は、「衆議院選挙で皆さんが奮闘し、有権者は与野党の緊張ある政治を選んだ。被災地・能登町の投票率は62.5%と全国平均より高く自身の1票を政治に託したものだ。公職選挙法の災害時への対応が急がれる。改憲への国会論戦が始るが、立憲野党をしっかり支え憲法を守っていこう」と話した。
国会議員からは、社民党党首の福島みずほさんが初めに挨拶した。福島さんは「こんな政治はごめんだ、という声が衆議院選挙で自公与党を過半数割れに追い込んだ。軍拡、憲法改悪の道は止まっていない。南西諸島への自衛隊配備、軍事要塞化が進んでいる。防衛や軍事産業ではなく公立病院や教育、福祉へ予算を振り向けるべきだ。憲法破壊も軍拡も一緒になって止めていこう。憲法を生かす政治を実現しよう。」と決意を語った。
つぎに日本共産党・参議院議員の小池晃さんが挨拶した。小池さんは「衆議院選挙は自公を過半数割れに追い込んだ。しかし今後の闘いが大事になっている。選択的夫婦別姓や企業団体献金禁止、軍拡増税反対などを実現する状況を作り出した。確信を持って進もう。石破政権の延命に手を貸すのか、退場を求めた民衆に応えるのかがすべての政党に問われている。展望は市民と野党の共闘にある。世論と運動を広げていこう」と訴えた。
最後に今回の選挙で当選した立憲民主党の衆議院議員・有田芳生さんが登壇した。有田さんは「各政党、党員、労組、市民運動、市民の皆さんとともに東京24区で闘った。今後、野党の協力がなければ大きな流れを食い止めることはできない。東京都では立憲が20議席、自民は16議席だった。この力を来年の都議選、参院選と、あるかもしれない衆議院選挙で政権を争う局面が目の前にある。都知事選のころから歴史の圧縮過程、新しい日本をつくる兆しにたっていると言ってきた。私たちの力で新しい一歩を踏み出していこう」と力強く挨拶した。
次いで韓国とミャンマーからの海外メッセージが紹介された。韓国からは「日韓和解と平和プラットホーム韓国運営委員会」、ミャンマーからは「在日ビルマ市民労働組合会長ミンスイ」さん。
記念のスピーチは高山佳奈子さん(京都大学教授)が話した。高山さんは、自身が安保法制に反対する学者の会の呼びかけ人でもあることを紹介した。そして、安倍元首相が殺されてから2年4ヶ月になるのに公判が始まらないのは異常だ。私たちの知る権利と民主主義が害されている。経緯が明らかになると都合が悪いのは統一教会の関係者であり、関係する自民党や野党の関係者だ。一方、日本学術会議の任命拒否問題は今年から裁判が始っている。裁判手続きの中で明らかになっていることがある。任命拒否は菅首相ではなく、すでに安部首相のときに8名の名前が挙がっていたということだ。いま、私は京大のタテ看訴訟を提起している。京都市の景観条例違反というが、なぜ撤去されたのか不明だ。森友学園の問題も明らかにしていない。こうしてことごとくが不明であり、民主主義が守られていると言えるのか。
選挙では教育費の無償化を多くの候補者が言っていた。私は公立大学の教育費が無償のドイツに留学したいたので、ドイツにできることが日本で出来ないとは思えない。先週、厚労省から人口妊娠中絶が1年で12700件あったという報道があった。結婚しているカップルの中絶が相当あり、今の日本では子育てにお金がかかりすぎるから子どもをあきらめているのではないか。東大が授業料を値上げするといっている。大学の経営に財界人を入れたこともあり、このままでは日本のノーベル賞は平和賞と文学賞だけになってしまうのではないか。すぐにも教育費を無償化すべきだ。
先週ウクライナに北朝鮮が兵士を送っているという報道があった。日本の若者が徴兵されないのは平和憲法のおかげなのだ。なぜ日本は国連PKOに兵を送らないのか。それは日本には核軍縮と軍縮の役割が課せられているからだ。各国の役割は国によって違いがあり、同じ敗戦国のドイツは連邦制の廃止が出来ない。その理由はナチスの独裁制に戻らないように固定化されたからだ。日本は戦争放棄を戦後の再出発点にした。国連憲章には敵国条項というものがあり、日本は安保理決議なしに軍事的制裁の対象になる国なのだ。
日本の自殺率はG7の中で一番高い。コロナ下で経済的理由でも自殺は増えた。武器商人ばかりを設けさせるのは止めよう。若い方たちも手をあげてほしい。
武藤美良さん(護憲原水禁千葉県実行委員会)
木更津からきた。オスプレイについて報告する。
木更津にはオスプレイの定期機体整備の基地として2016年に国から提案があった。木更津市と千葉県は1ヶ月もしないうちに了承した。翌年の1月から定期機体整備が始り11機が来ている。そのころから反対運動に取り組んでいる。機体整備というが、1機あたり20ヶ月が費やされていて、8機目はすでに27ヶ月かかっている。オスプレイは構造に欠陥があるといわれていて機体整備は事故や故障と関係がある。
騒音問題も深刻で、飛行ルートの真下に民家があり、低周波振動に悩まされている。米軍のオスプレイ屋久島沖事故の原因も明らかになっていない。陸自の事故原因も不明となっている。
木更津受け入れの最低5年という期限まではあと1年を切っている。市は防衛省に期限を守るように言っている。私たちは何としても期限を守らせるように市や防衛省に反対運動を続けていく。「日本の空にオスプレイはいらない」を合言葉にして運動を続けていきたい。
新倉裕史さん(横須賀平和船団)
自衛隊が400発の導入を決めたトマホークについて報告する。
安保3文書と防衛費の倍増、敵基地攻撃能力の保有という安保政策の大転換が行われた。集団的自衛権の象徴が巡航ミサイルの保有だ。しかし、なぜか警戒心が薄いように感じる。トマホークは飛翔速度が遅くステルス性がないと言われているが本当か。アメリカでは使い物にならないと言われているが本当か。トマホークが先制攻撃兵器として使われ始めたのは湾岸戦争で、イラク戦争、シリア空軍基地攻撃にも使われた。今年の1月には米英がイエメンの12箇所への攻撃で使用している。
横須賀には11艘のイージス艦が配備され、すべてにトマホークが搭載されている。今も米軍はトマホークを攻撃兵器として配備し続けている。(次頁下段へ)(前頁から)トマホークは速度が遅いことで低空飛行が可能で、レーダーに補足されにくい特徴がある。自衛隊は現役性の高いトマホークを保有しようとしている。トマホークの運用訓練は3月から自衛隊が横須賀で始めているし、11月末にも訓練が行われる。湾岸戦争、イラク戦争でトマホークを最も早く多く打ち込んだのは、横須賀を母港とする米国の艦船だ。その横須賀配備のイージス艦の戦闘指揮所で、米兵から発射までの操作手順のシステムを海上自衛隊員は直接訓練されている。
日米同盟は守りから攻めに変わったと、エマニエル駐日米国大使は豪語している。彼は訓練に立会いトマホークが目的の場所に着弾すると米軍とハイタッチし、自衛隊がトマホークを完全に運用できるように記者会見で発表し、まるで自衛隊のトマホーク運用が米軍の指揮下にあるような言いぶりだ。訓練をみても日米一体の運用が前提とされていて、専守防衛を超える心配は払拭できない。日本の軍事大国化を止めるのは市民です。がんばろう!
最後に木下興さん(憲法共同センター)が行動提起し、コールを青空に響かせて終了した。
志葉 玲さん(ジャーナリスト)
(編集部註)10月26日の講座で志葉玲さんが講演した内容を編集部の責任で要約したものです。要約の責任はすべて本誌編集部にあります。
私はどちらかというと紛争地で取材しているイメージが強いかもしれませんけれども、温暖化に関しても結構記事を書いているので、そこをメインで話をしていきたいと思います。今日話す方法は大体4つありまして、その1つは「やばいぞ」ということです。温暖化ってやっぱり日本の人々、まだまだ危機感が足らないという感じがすごくします。2つ目は、一人一人にできることって、よく環境問題で言うことはダメなんですね。一人一人がちょっとレジ袋を断りましたとかシャワーを節水しましただとか、クーラーの温度を28度設定にしていますとか、何の意味もないです。ちょっとは意味があるけれど、そういうレベルでどうこうできる問題ではもうないという話ですね。3番目、だからこそ政策が重要になってくるわけです。もう明日が選挙ですけども、やっぱりこの温暖化政策というのは、本当に社会だとか経済のシステムそのものを入れ替えないとダメなので、政策として、国家として取り組まないとダメな問題です。だからこそ、各党の政策がしっかりしてないと困るけれども、案の定自民党は最悪ですね。4番目は「ピンチはチャンス」だよ。温暖化って皆さんなんとなく避けて通るのは、やっぱり気分が鬱になっていくじゃないですか。将来大丈夫なのか、子どもや孫たちの世代は大丈夫なのかとか、絶望的な話ばっかりが出てくるので、ついつい、避けていきたいみたいなところがあるわけです。けれども日本の報道の問題点の一つとして、そもそも温暖化そのものをちゃんと報道しないという問題があります。温暖化対策のポジティブな部分に関してあまり報道しない。考えようによっては、対策を行うことはこれはすごく社会にとっていいことで、そういったことを話していけたらなと思います。
最初はやっぱり「やばいぞ」という話をしないといけません。私がなんで温暖化の問題を非常に重要視しているかというと、これは結局命に関わる問題だからです。私は紛争地なんかの取材もしていて、命に関わることはそれなりに重きを置いて取材をしていることが多いんです。温暖化は、ほっとくと本当にとんでもない数の人々が、とんでもないことになるようなところがあります。ちょっと前は日本の大手メディアなんかも最悪でした。要するに、温暖化懐疑論、「実は温暖化してないんじゃないの?」みたいな報道が結構ありました。一時期確かに温暖化の伸びが少し緩やかになった時期がありました。専門用語で「ハイエイタス」と言うんです。ハイエイタスというのは、結局海が熱を吸収していたから気温が上がっていなかっただけであって、温暖化は進行していたんですね。ハイエイタスが海で吸収できる部分がだいぶ少なくなってきたのか、ともかく最近気温の上昇が顕著になっています。
このグラフを見ればわかります。その年によって温暖化以外の要因によって温度が下がったり上がったりするけれども、全体的な傾向としては、この赤い線、上昇傾向にあるというのは間違いないんですよね。ちなみに大先輩の悪口を言うのはあんまりよろしくないので、名指しはしませんけども、原発なんかで有名な本を書いてらっしゃる方、「温暖化していないよ」みたいなことをよく言っていて困ったものだなと思ったりします。ここのハイエイタスのところの2010年くらいのグラフで切っちゃうんですね。あるいは2000年くらいのところで切って、そこから上がっていると言っている。
これはグラフのマジックなので覚えておいてもらいたいですが、意図的に下がっていたり、ハイエイタスの部分で切って、二酸化炭素濃度は上がっているけれど気温は上がってないよ、みたいなことを言う人がよくいます。そういう人は困った人だなと思ってください。原発関係ではいいことも言ってらっしゃる方なので、あんまりケチをつけるのもどうかと思います。ただやっぱり信頼されている方なので、しっかりしてもらいたいなと思ったりするんですよね。
はっきり言いますと、温暖化で猛暑が増えているとか、大雨が増えているとか、そういうことは気象庁のホームページにはっきり書いてあることです。今年の4月の顕著な高温をもたらす大規模な大気の流れに関する模式図があります。気象庁のホームページから取ってきたものです。全球的に気温が高い地球温暖化とはっきり書いてある。しかもこれは文字で読むとさらにはっきり書いてあって、今年の猛暑というのは温暖化の影響なしにはありえなかったと、そこまで断言しているわけです。なんでそれがわかるかというと、世界的にも日本もスーパーコンピューターを使って、地球が温暖化していない状態と現在の実際の状態を分けて、比較してシミュレーションしていて、その精度がかなり上がっています。そういったシミュレーションをやってみると、どう考えてもこの部分は温暖化の部分だというのが顕著に出ています。今まで気象庁は慎重だったけれど、最近では温暖化の影響を隠さなくなってきました。
ちなみに、この紫の線のジェット気流――中緯度の偏西風です。この蛇行が結構重要です。なぜかというと、この偏西風はいわばカーテンみたいなものだと思ってください。北半球で言うと北極側の冷たい空気と赤道側の暖かい空気、これを切り分けているカーテンだと思ってください。そのカーテンがめくれてわさわさ動いたりとかすると、例えば北極の方の冷たい空気がわーっと下がってきたりする。逆に赤道側の熱い空気がわーっと北の方に上がってきたりとか、そういうことが起きるんです。そういったジェット気流の蛇行というのが最近頻繁に起きるようになってきている。それによって、本来季節的にもっと涼しいはずなのに異常に暑くなったりだとか、あるいは逆に突然ものすごい大寒波が襲ったりだとかいうようなことがあります。アメリカで大寒波が襲った時に、トランプさんが大統領だった時で、「寒い!こんなに寒いのに地球温暖化なんか嘘だ!」みたいなこと言っていた。これは違うんですよ。温暖化の影響によって一時的にものすごい大寒波が起きるということもあり得るんです。それは、北極側の冷たい空気が、本来あるところよりもっと南に下がってくるからなんです。そういうようなことが起こってくる。
どういうことなのか。ものすごく大雑把な話をすると、ジェット気流は温暖化が進むと蛇行しやすくなります。ジェット気流の力の源というのは、地球の赤道側と極側――北半球でいうと北極側――そこの温度差なんです。そこの温度差が少なくなってくると、ジェット気流が弱くなる。だから、様々な要因でジェット気流が弱くなっているから、ちょっとしたことで蛇行しやすくなる。これが強ければあんまり蛇行しないでまっすぐ流れるわけです。水だってそうじゃないですか。勢いよく流れている水はまっすぐ行くけれど、ゆったり流れている水はあっちゃこっちゃに行くじゃないですか。そういうものだと思ってください。そういうようなことで、この偏西風が蛇行することによって、さらに蛇行に合わせて、そこに南の方から水蒸気なんかが上がってきたりとかすると、場所によってはものすごく集中的な豪雨が降るようになったりします。蛇行だけが原因じゃないけれど、そういう現象が起こりやすくなります。
最近線状降水帯というのがよく言われるようになってきましたけれども、これもそういった温暖化の影響によって起こりやすくなっていると言われています。線状降水帯が起こりやすくなっている要因としては、一つは海水温が高くなっているからです。海面の水温が高くなっていると、それだけ上昇する水蒸気が増えます。海水温が高くなれば、それだけ雨の源となる水蒸気がどんどん蒸発するわけですから、結論として雨は強くなりますね。しかもジェット気流だとか、あるいは高気圧だとか。そういったものによって一箇所に水蒸気がグッと集まって、それで線状降水帯みたいなのもできるんですね。しかも南の方からどんどん水蒸気が来るから、それで供給されて長いこと雨が降るということが起きています。この雨に関しては、気象庁が温暖化の影響はありますとはっきりと言っています。
この4月、日本各地での大雨もそうだし、最近能登半島はひどかったじゃないですか。能登半島の9月の海水温のデータを見ると、能登半島周辺の海水温の表面温度が例年より高い。だから、やっぱり大雨が発生しやすい状況が能登半島の周辺にあったということです。それですごい大雨が降った。ある種これ人災ですよね。災害というのは基本的に天災なわけですけれど、プラス人間の影響がはっきり出てきてしまっているようになっている。これはもう認めざるを得ない状況ですね。
IPCCという世界的な国連の下でやっている気候変動に関する政府間パネルがあります。第6次評価報告書というのが2,3年前に公表され、温暖化の影響がさらに顕著に出ますよということが書いてあります。何て書いてあるかというと、現在産業革命以前に比べてもうすでに1度高くなっている。かつてに比べて50年に1回発生するような暑さが、4.8倍起こりやすくなっているという感じです。これが1.5Cの後、8.6倍に激増する。2°C上がると13.9倍、4°Cになると39.2倍とかになる。50年に1回発生するような極端な気温が、非常に発生しやすくなるということです。これは暑さだけの話ですけれど、豪雨とか水害なんかも起こりやすくなってくるような状況です。
日本に関係のある話でいうと、日本は台風が結構ひどいです。2019年に台風15号が千葉県を襲って、私も現地に取材に行ったんですけれど、まあひどかったです。この時、怖いなと思ったのは、これです。風で家が壊れている。窓ガラスが割れると、そこから風が吹き込んで家の中をめちゃくちゃにして、それで壁が壊れたり、そういうのも起こったりする。あと、屋根が吹っ飛んだりとかね。凄まじかったです。居南市ですけれど、これを見てみたら、壁に飛んできた瓦が突き刺さっている。やっぱり一定以上の強さになってくると、風がものすごく怖くなってくる。吹っ飛んだものがみんな凶器になるわけです。木造住宅なんかだと風でそもそも倒れてしまう状況があったり、走っている車なんかもトラックがひっくり返ったり横転してそのまま転がっていったりします。風速50mとかそういうような強さになってくると、そういうことが起こり得るということです。
環境省と三重大学や、愛知の方でも似たような研究をやっています。ともかく、今後起こり得ることは、スーパー台風というものが発生しやすくなる。スーパー台風は何かというと、日本の気象学の概念ではなく、どちらかというとアメリカの方の話ですけれど、このスーパー台風というのは風速60メートルとか70メートルを超えるようなとんでもない化け物台風みたいなのが発生しやすくなるということですね。10年近く前にフィリピンを襲ったハイエンというとんでもない台風がありました。あれは国民の1割ぐらいが被災した、とんでもない状況でした。映像を見ていると本当に津波みたいで、高潮で沿岸の家とか全部流されて大変な被害が出ました。ハイエンはスーパー台風だと言ってもいいかと思います。そんなとんでもない台風が日本にも来るようになってくる。
なぜかと言いますと、台風の力の源は水蒸気なんですよ。だから、海水面の温度が高くなるほど、台風の力の源である水蒸気がどんどん蒸発して、台風が強くなるわけです。しか、日本近海の海水面の温度が高ければ高いほど、台風が強い勢力を維持したまま日本の本土に上陸してくる可能性が高まります。今年もそうなるかなと思ったけれど、うまい具合に向きが変わって助かりました。ただ、あれが直進して上陸していたらかなり大変な大惨事になったんじゃないか、と言われていました。
そういうようなスーパー台風が発生して、想定される風速が100mを超えるとか。風速50mで大変なのにもう巨大な竜巻ですよね。竜巻って、あくまでも通る道がそんな広くない。でもやっぱりすごいから、家とか吹っ飛んだり、建物とかめちゃめちゃに壊れたりとかそういうようなものですけど、それが台風の規模で竜巻が起こると思ってください。まともな普通の家はたまったものじゃないです。こんなのが毎年来るようになったら、災害の規模がひどすぎて多分、日本は国家財政破綻しますよ。しかもそれがしょっちゅうやってくるので。能登半島の地震があった後にああいう雨の被害があったようなことが、下手をすると、毎年起きる。災害の復興が追いつかないということが起こり得ます。スーパー台風とか本当に来てほしくないわけです。
温暖化の怖い話というのがまだまだあって、例えば2年前の2022年の時点で世界人口の4割以上が気候変動、温暖化に対応できず、すでに被害を受けやすい状況になるということをIPCCが言っています。さらに台風の被害もすごくて、2018年は西日本豪雨もあったし、台風の被害も多かったから、日本損害保険協会によれば、この気象災害での保険金支払額は東日本大震災のそれを上回る規模だといいます。地震は毎年来ないけれど、台風は下手すれば毎年来ます。今後そういうことが起こるようにも予測されています。
さらに怖い話を言いますと、これは一番起きてほしくない最悪のケースですけれども、この図は、温暖化は時限爆弾のようなものだというイラストです。温暖化が一定以上進行すると、ティッピングポイントを超えるのではないかと言われています。ティッピングポイントというのは、ある種の臨界点というか、これを超えてしまうとどういうことが起きるか。温暖化がさらなる温暖化を引き起こして暴走する。いわば温暖化が暴走状態になって、人間の手ではもはや止められなくなる、そういう状況があるわけです。どんどんどんどん温暖化していってしまう、というようなことが起こると言われています。
そのティッピングポイントはどこなのかというのは諸説あるけれども、ともかく破局的な影響を避けるためには、地球の平均気温、世界の平均気温の上昇を1.5度未満に抑えないといけないという話です。しかも、すでに1度上がっているから、その0.5度を死守しないといけないわけです。そうしないと、ティッピングポイントを超えてしまうかもしれない。
温暖化が温暖化を引き起こすのはどういうことかというと、例えば北極です。北極というのは皆さんもご存知の通り、大陸があるわけではなくて、海が凍っているんですね。北極は巨大な氷に覆われている鏡だと思ってください。鏡のように太陽光を反射している。ところが、これが温かくなって氷が小さくなっていく。鏡が小さくなっていくとどうなるかというと、反射されたはずの太陽光が海に吸収されてしまいます。それで地球全体の温度が高くなってしまうという状況は、地球の温度、特に北極の温度が高くなって、北極の氷がまた小さくなって、という悪循環ですね。
皆さん永久凍土という言葉を聞いたことはありますね。シベリアだとかのある程度の高さへ行くと土が凍っているんですけど、温暖化が進行するとこの永久凍土が溶けるんですよ。溶けると何が起きるかというと、地下に封じ込められているメタンガスが地上に出てきます。これ最悪で、メタンガスというのは、CO2の26倍とか28倍ぐらい強力な温室効果ガスです。その膨大なガスが地下に蓄えられているわけですけが、これが出てきちゃう。さらに海の温暖化が進行して、深海の部分にまで暖かい水がいくようになってくると、メタンハイドレートが溶けるということがおこります。メタンハイドレートというのはメタンが凍って固体化したものです。氷みたいな感じになっている。これが海底にたくさんあるわけで、それがボコボコ出てくるとまた温暖化が進行してしまいます。これが「温暖化が暴走する」ということです。専門的な用語で言うと、「正のフィードバック」と言います。
ちょっと問題だと思うのは、やっぱり専門家の方々が使っている言葉が難しいんですよね。「正のフィードバック」とか言われても、一般の人は「なんじゃそりゃ」という感じですよね。やっぱり如何に分かりやすく話していくかというのが大事だと思います。この正のフィードバック、温暖化の暴走が進行すると、これはもう人類お手上げですよということです。では、その温暖化が進行するとどうなるのかというと、はっきり言って暑くなるぐらいじゃ済まないんですよ。まず、暑くなるだけでも結構大変なんですよ。イギリスのエセクター大学研究チームの予測による研究報告では、このままの温暖化対策では、今世紀末に20億人――その時点での世界人口の総人口の5分の1、地球の5分の1の人口が、暑くてそこには暮らせませんよ、という状況になります。
私がこれまで取材したイラクなんかも、気温50度を超えるような状況がザラにあります。もともとイラクはとんでもなく暑い国で、もう「人間が住めるレベルじゃないぞ、これ」というぐらいの暑さになっちゃう感じです。そういうようなところが広がっていって、世界人口の5分の1ぐらいが住めなくなってしまう状況ですね。例えばインドもすごく暑くなって、北に逃げようという感じになります。インドの北は中国で、パキスタンもあって、インドもパキスタンも中国も核保有国ですよね。この辺で、大幅な人口の移動があって、それに伴う政情不安なんかあったりすると、もう目も当てられないことになります。だから、温暖化が今後戦争を引き起こすということも十分あり得ると私は思っております。非常に怖い話です。
さらに最悪の状況としてはイギリスのレスター大学の研究で、これはかなり極端なケースですけれど世界平均気温が6度上昇した場合、多分人類は終わります。どういうことか。皆さんが吸っている酸素はどこから来ているのかという話です。もちろん野山、山林とか陸上の植物からというのもあるけれど、実は大多数の7割ぐらいは海から来ています。海の小さい植物プランクトン、しかしものすごい数――これがせっせと酸素を私たちのために作ってくれているわけです。ところが、海水面の温度があんまり高くなりすぎると、植物プランクトンが「夏バテ」しちゃって酸素を作れなくなる。ということはみんな酸欠で死ぬという話です。過去に「ペルム紀の大絶滅」が、何億年前かにあった。このとき、大規模火山の連続的な噴火で地球の気温が上がって植物プランクトンが酸素を作れなくなった。そもそも水の温度が高まると酸欠状態になりやすくなる。そういうようなこともあって、97%とか9割以上の生物が死滅したということが「ペルム紀の大絶滅」。その再来になるのではないか、というぐらいやばい話です。
だから科学的なデータだとか、今起こっていること自体を見て、普通に大変だということは分かっているし、世界が酸欠で滅ぶというのはすごく極端なケースですけれど、ありえないことではないんですね。起こりうることとしては過去の実例としてもあるし、やっぱり温暖化は我々が思っている以上に相当やばいんですよ。温暖化対策は、国益を超えた全人類的な課題だと私は思います。だから対策を急がないといけないけれど、ダメなんですよね。ちょっとエアコンの温度を下げるくらいではどうしようもない。なぜかといったら、2016年のデータですが、世界の温室効果ガス、どこから出ているかといったら、圧倒的にエネルギーの利用です。要するに、化石燃料、石炭だとか石油だとか、天然ガスだとか、それを燃やしてそこから出ているCO2が圧倒的に多いです。それ以外では、例えば「Agriculture、Forestry&Land Use」、これは農業や森林破壊、土地利用、そこから出ているものの割合としては大きいです。それ以外では、産業だとか、意外とセメントとかを作るときにCO2が出たりします。ただし、圧倒的に多いのは7割以上を占めているエネルギーなので、これを何とかしないとどうしようもない。
今、エネルギーというのは基本的に使わないとみんな生活できないわけです。エネルギーの大半は結局化石燃料です。だから、この化石燃料を使わずにエネルギーを確保することが非常に重要になってくる。だから、私たちにできることとかよくテレビで芸能人の方が言ったりしますけど、そういうレベルの話ではなく、社会の全体を変えなくてはいけない。ちなみに、日本でCO2の排出割合を見ていくと、基本的にはほぼ全てと言ってもいいでしょう、化石燃料を燃やしているからです。運輸部門とかもそうです。運輸部門というのは車ですよ。飛行機とか船舶とかありますけど、圧倒的に車です。電車だって電気で動いているけれど、電気というのは結局、石炭とか天然ガスとか石油を燃やしているわけです。エネルギーそのもの自体を変えないとダメなんです。今、日本のエネルギー供給は圧倒的に化石燃料です。困ったものですね。この圧倒的に多い化石燃料を何とかしなくてはならない。
具体的に見てみると、石油はちょっと減っている。高いからね。でも石炭は使っています。天然ガスも使っていますよって感じです。自民党の皆さんが大好きな原発ですよね。なんか、原発はどの程度のものかと言うと、実はこんなものですよ。だからAIでデータセンターが増えるからやっぱり原発増やさないとダメだ、みたいなこと言っていたりとかね。某河野太郎さんとかね、「あんたさ、脱原発派じゃなかったのかよ」みたいな。あの人はもう完全に「オワコン」になっているので無視してもいいんですけれど。
結局日本の一定の層の人たち、最近沖縄の平和運動を馬鹿にするようなことをして炎上した某漫画家さんとかもそうですけれど、原発大好きなんですよね。あんまりその層全体が悪いというわけじゃないですけれど、一言で言うと「おっさん、じいさん」層ですよね。そういう原発に夢を求めちゃっているみたいな層ね。昔、原発って「未来のエネルギー」って感じで、すごい明るいものだって言われていたじゃないですか。その幻想が抜けていない、「鉄腕アトム」だとかそういうようなノスタルジックなものに浸っちゃっているような人たちが結構メディアの中にも多くて困ったもんなんですけれど。端的に言うと、原発って実はこの程度のもんなんですよね。だって、事故が起きる前だって割合としてはマックス3割ですよ。あの福島第一原発事故が起こった時はもう全部停止しました。それでもまあ一応、日本は回っていたわけですから、原発っていうのはその程度なんですね。だから、原発にあんまり夢を持っても地球温暖化対策にはなりませんということです。原発で日本経済を全てまかなうというのは無理、これは不可能です。
ではどうすればいいの、ということですけれど、はっきり言えば再生可能エネルギーです。これは環境省が出しているデータです。環境省の試算では、再生可能エネルギー、太陽光だとか風力とかは今の電力総需要の大体2.6倍あるという話です。日本は実は再生可能エネルギー大国なんです。なぜかと言ったら、海に囲まれています。昔から船は帆に風を受けて走っていたくらいです。海の上は一定的に風が吹いて、しかも結構強い風が吹く。とにかく。この洋上風力のポテンシャルがでかい。これだけで、実は日本の電力総需要の全部を賄ってもおつりが来ます。
さらに言うと、太陽光発電。これが最近、山を削ってメガソーラーやったりして、それが悪いと言われています。あれは私も悪いと思います。自然破壊して再生可能エネルギーとかでは意味不明ですから、絶対やめた方がいいですね。じゃあ、何やったらいいのかと言ったらこれですよ。小田原で私の知り合いが実際やっていますが、ソーラーシェアリングと言いまして、水田だとか、あるいは畑の上にちょっと切れ目をしっかり入れて太陽光が入るような感じにして、太陽光パネルを屋根状に置くという感じです。農業と共存するような形でこの太陽光パネルをやっている。このポテンシャルがすごくでかい。これだけでも日本は行けるのではないかくらいの話です。
2021年、岸田首相が地球温暖化に関する国際会議に出た時に「これからはゼロエミッション火力だ」、要するにCO2を出さない火力だ、みたいなことをぶち上げた。「太陽光パネルは置ける場所が限られているから無理で、やっぱりゼロエミ火力にいきましょうよ」みたいなことを言った。それを官邸が言っているという風に「報道ステーション」が報道しました。メディアというのは、政治家や中央省庁が言っている嘘をそのまま鵜呑みにするのではなくて、言っていることを「おかしくねえか」とツッコミを入れることが仕事なんですけれど、受け売りでやった。私は記事を忖度しないで書きましたが、大事なことはちゃんと言わないとダメだということですね。
ちょっと話がそれましたけど、太陽光パネルが置ける場所が限られているみたいなことを、岸田首相や経済産業省資源エネ庁がよく言うんですよ。実際は農地だとか、あるいは休耕地を活用すると、太陽光パネルを置けるところが一気に広がります。これをやっていけば基本的には再生可能エネルギー100%は全然夢じゃない。逆に、原発でどうこうしようというのがちょっと無理なんです。原発は作るのに時間かかる。稼働させるのにも時間かかります。例えば、30基くらいある日本の原発が全部稼働したとして、それでも過去の実績から言っても全体の2割ぐらいです。だったら、これを5倍できるかという話です。無理じゃないですか。まず建設に時間かかる。地元の合意を取らないといけなかったりするから、短期間で原発を4倍とか5倍に日本で増やすのはありえないです。しかも、南海トラフがどうこう言われているこの時期に。地震大国なわけだから、そもそもそういう原発を増やすのは非現実的です。
では世界で再生可能エネルギーが昨年1年間だけどれくらい増えたと思いますか。なんと設備容量が473ギガワットも増えた。この1ギガワットは大体100万キロワットぐらいだと思っていただいて、100万キロワットといったら大体原発1基分です。あくまでも設備容量、数字上の話ですけれど、昨年1年間だけで原発473基分の再生可能エネルギーが増えたということです。
再生可能エネルギーは増やすのは簡単です。特に太陽光パネルを作っておけばいいだけだから圧倒的に早い。この圧倒的に早いというのがすごく重要で、なぜかといったら温暖化対策は時間との戦いなんですよ。2030年までに排出を60%減らさないといけないというかなり「無理ゲー」ですけれど、本当に時間との戦いです。とにかく2030年から35年の温室効果ガス削減の目標設定がありますけども、とにかく60%削減するためには、ちんたらちんたら原発でやっていては絶対無理です。だから、太陽光パネルだとか、風力発電だとかスピードで一気に増やしていくことがすごく大事なわけです。
ついでに、原発があることによって、日本では再生可能エネルギーの普及が遅れているのもあります。これは資源エネ庁から取ってきた図ですが、太陽光発電は、日中にものすごく発電する。特に九州だとか東北だと発電しすぎたからということで、太陽光発電施設から電気を受け付けないということになる。つまり、発電しすぎたから電気を捨てているんですよ。なんで電気捨てているかというと、このベースロード電源というのがあるからです。安定的に電力を供給する一番ベースとなる電源というのが、このベースロード1電源というものです。原発は一度稼働させると調整できないから、稼働させたらずっと稼働させているしかない。しかも出力も調整できない。火力発電所は多少は調整できます。でも原発はその辺の融通がきかないので、結局再生可能エネルギーをプツンと切る、ということをやっているわけです。おかしくないかって話ですよ。なんで、そこで再生可能エネルギーが一番下に見られているかというのがあるわけですが、もすごく発電しているわけです。
それをみすみす活用することなく捨てている。それは結局のところ、原発を守るためです。原発はベースロード電源だからということで、再生エネルギーは発電すればするほど、接続を切られたりとかして出力制御されることが定番化しているので、やっぱりちょっと二の足踏んじゃいますね。太陽光発電の事業者なんかは、出力制御をやられたらその間発電のお金は入ってこないわけです。そうなったらやっぱり「損するかもしれないからやめた方がいいわね」ということになります。だから、この原発があることによって再生可能エネルギーの普及が阻害されるという問題は確実に日本ではあります。
でも、太陽光発電は、天気が良かったりするときはいいけど、曇ったらどうするのか。安定しないというようなことをよく言われます。それももう10年くらい前の話です。メディアなんかも枕言葉的に、「太陽光や風力などは安定してない」とか「不安定だ」ということをよく言います。そういうのも対策があるのに、10年くらい前の決まり文句で物事を語っているという問題があります。
では、その対策って何かということでね。いろいろあるけれど、巨大な蓄電施設、充電施設みたいなものを使って、そこに電力を貯めるというのは、やり方としてあります。蓄電施設の価格というのも以前よりも随分経済的にやれるようになったので、その辺は非常に実用性が出てきています。もう一つはEV・電気自動車です。電気自動車、各家庭の電気自動車。各事業所の電気自動車。たくさんの電気自動車が、あたかも蓄電施設からのように機能するということができます。そこに電気を貯めたり、あるいは電気をもらったり、当然もらったときはその分の電気のお金はちゃんと払いますよ、というのがあります。
電気自動車を普及することの何がいいかというと、自動車から出る排ガスが減るというのがまず一つと、再生可能エネルギーの弱点をカバーする。不安定だけど、例えば電気が足らないときは、各家庭、事業所の電気自動車から電気をもらいます。逆に、発電しすぎて、ちょっとこれは大変だというときは、各家庭や事業所の電気自動車に貯めてもらう。そういう調整機能を電気自動車が担うようになる。面白いでしょ。こういうようなことが実際にできる。これは東京都なんかも推進している政策で、バッテリートゥハウスとか言って、これは、太陽光発電で発電して電気自動車に電気を貯めて太陽光発電してないときは、電気自動車から家に電気を回して、というそういうこともできる。それに対する補助金も出すということを、東京都なんかやっています。実際にそういうようなことが実証段階に入っているということです。EVも、大規模蓄電システムも、そういったものが基本的には実際に使われているので、そういうようなことをやっていけば、別に太陽光だとか風力が不安定だから、という話にはならないわけです。
さらに、余った電力を有効に活用する方法もあります。水素をエネルギーとして活用するというのがあって、再生可能エネルギーで得られた電気を使って、小学校の頃に電気分解みたいな実験で、水から酸素と水素を分離して、マッチの火を近づけるとポッと燃やしたりしたじゃないですか。水素は何がいいかというと、燃えた時にCO2が出ない。電気が余ったら水素を作ればいいんです。水素は何がいいかというと溜めておけます。液体水素にしてタンクに溜めておく。これをエネルギー源としても使ってもいいです。また自動車なんかは電動にしていくのは簡単です。
乗り物で何が一番困るかといったら、飛行機ですね。飛行機を電気でというのはできなくはないけれど、長距離を飛ぶとか大型旅客機は無理ですね。でも、ロケットが何で飛んでいるかといえば、液体水素燃料ですから、飛行機でも使えるのではという話です。電化が難しい飛行機だとか大型船舶なんか水素を燃料にしていけばよく、それでCO2は出ません。あるいはアンモニアなんかを自然エネルギー由来の電気で作って、アンモニアを燃やしたり燃料にするやり方もあります。ただ政府は今、よせばいいのに、水素を石炭火力に混ぜて燃やすということを言っています。何かと言ったら、火力発電の延命措置です。
火力発電をやめろと言われて困っているのは大手電力です。火力発電施設をいっぱい持っているから、本音ではやめたくない。これを無理矢理使っていこうということで「石炭に水素を混ぜて燃やしたらいんじゃない。アンモニアを混ぜて燃やせばいいんじゃない。そうしたらゼロエミッション火力できるじゃーん」みたいな感じです。そもそも「エミッション」というのは排出物です。その排出がゼロではないわけです。石炭を燃やせばCO2は出るわけで、多少は減るというだけです。その生産過程の全部に混ぜたら、逆に何かCO2を出しているみたいなところも水素を作る過程であるのに、石炭から水素を作ろうみたいなことを言っている。「そこからCO2が出るじゃないか、バカ!」というところがあって、このゼロエミッション火力というのはとんでもない詐欺です。
これは2021年の記事ですが、今回の選挙でも、よせばいいのに、ゼロエミッション火力を自民党が主張しています。ゼロエミッション火力は、電力会社が自分たちの保身のために言っていることであって、最近テレビなんかでジェラとかが二酸化炭素が出ない火を作るみたいなことを言ったりしますけど、ああいう詐欺広告をやっているわけです。こういうものは無駄が多いし、全然ゼロエミではないし、要するに化石燃料を続けたいだけなので、そういうものがはびこっている限り、やっぱり温暖化対策は進まないから、これはやめた方がいいですね。
水素は正しく使うとしたら、例えばすごい異常気象なんかで、太陽光や風力なんかが使えないときに水素があれば安心という保険なのと、飛行機とかに使えるということです。こういう正しい水素の使い方をやってくださいという話です。ちなみにトヨタなんかが水素で車を動かそうと言っていますけれど、あれは「バカ」ですね。なぜかというと、水素は扱いが難しいんです。あの水素ステーションは普通のガソリンステーションの5倍くらいのコストがかかります。そんなものをあちこちで作れるわけがないじゃないですか。でもトヨタは電気自動車でテスラだとか、あるいは中国勢、あとヨーロッパ勢に遅れを取っている。だから悔しいから、「うちには水素の技術がある」みたいなことを言っている。水素はできなくはないけれど、電気自動車のお手軽さに比べると全然負けます。電気自動車だって充電時間がかかると言われるけれど、車って大概、駐車しています。駐車している間に電気を貯めればいいじゃないですか。皆さん1日6時間から8時間くらい寝られますよね。その寝ている間に充電しておけば、いいんですよ。携帯電話と同じです。そうすれば別に困らない。
最近の航続距離で言えば、東京から大阪まで充電なしで一気に行けたりします。トラックの運ちゃんとかだったら話は別でしょうけど、一般の人はせいぜいちょっとお買い物に行ったりという程度ですね。旅行に行くと言ったって、東京から大阪まで運転することはあるけれど、結構大変ですよね。新幹線を使えばいいので、そう考えると電気自動車でOKですね。ただ、火力発電と同じで、日本の大手メーカーが時代遅れなことをずっとやっていて、それをごまかすために、メディアにいろいろ嘘をつくわけです。政治家にも嘘をついて、それで誤った幻想をもっている。無能な大企業のトップが政治家と癒着して自分たちの都合のいい、あるいは自分たちが努力しなくていい、そういうような楽な方向に流れていったから全体として衰退しているわけですね。努力も競争もしなかったらやっぱり衰えていくばっかりですからね。
この間の自民党が経済界とくっついて、彼らにとって都合のいいことばっかりやっていたことがあだとなって、日本の競争力全体が劣っていることは他の分野でも言えることだけれど、この温暖化対策でも顕著にある話です。温暖化対策といったって、再生可能エネルギーへの移行というのはすごい投資の対象です。投資を呼び込むためにも、うちはこれだけ脱炭素やっていますよとか。地球温暖化対策、一生懸命やっていますよっていうのが投資の基準になったりします。そういったものが、アメリカとか中国、フランス、ドイツだとかいった国々なんかで活発です。でも日本は非常にその辺がまだまだです。これも結局、銀行だとか金融機関のトップの発想が古すぎるということです。世界的に見ればかなりすごい投資も行われていて、うなぎのぼりで再生可能エネルギーが増えている。1年間で原発473基分が作られるくらい、それだけのお金が動いているわけです。
経済大好きな自民党あるいは自民党の支持者の皆さん、「やっぱりさ、経済のこと考えたら自民党だよね」みたいなことを言う。でもこの失われた30年間で自民党が政権を取っていました。経済が良くなりましたか、むしろ悪くなっている。結局こういうビジネスチャンスを逃しているわけですよ。これは経済から考えてもおかしくないのかという話です。再生可能エネルギー、脱炭素社会というのは、全て社会のインフラとかシステムを入れ替えるわけで、そこに膨大なビジネスチャンスが出てくるわけです。それをちゃんとやれば景気も良くなるはずなのに、選挙で温暖化対策だとか憲法だとか人権だとかいろいろ大事なことがあるのに、バカの一つ覚えて、経済、経済とか言っている。エコノミックアニマルといわれた、1980年代の頃から日本人の発想ってあんま変わってない感じがあります。
経済ということでお金が大事だとしたら、やっぱり脱炭素社会への移行、グリーンエコノミーを活用していけばいいわけです。これはCO2排出係数の各国比較ですけれど、電気を作る際にどれだけCO2を出しているのかということでは、日本は今や中国やインドとあんまり変わらない。日本はアメリカよりは悪いわけです。こうなると日本の製品はCO2をいっぱい出すから、買うのをやめようという話になります。冗談じゃなくて、ヨーロッパとかでは外国からの輸入に関して一定の炭素税をかけるというようなことをいろいろ議論しています。日本の製品はCO2をいっぱい出しているから日本の製品には炭素税かけましょう、ということが起こり得るわけです。ビジネスチャンスとしても脱炭素をやってないのは非常にまずいことです。日本のエネルギーは、原則化石燃料をバカスカ燃やしているわけで、この分のお金が海外に流出しているということです。日本の皆さんが大好きなお金が海外に流れているってことです。
再生可能エネルギーで国産エネルギーにすれば、このお金が国内で回る。それは素敵な話じゃないですか。これは結構膨大な額です。ウクライナ侵攻前の話で言うと、年間25兆円と言われていました。ところがロシアによるウクライナ侵攻で、世界の化石燃料の価格がバッと上がった。2022年に限定すると35兆円、とんでもない額のお金が流出している。この20兆円とか30兆円のお金を国内で回せたら、みんなハッピーだということです。日本は資源を海外に頼っているので、それはイコール本来日本に留まっているはずのお金を海外に流しているという、もったいない話です。まずエネルギーを国産のものに変えておけば、何かしらの理由で輸入できなくなったときに安心ということもあるし、それとは別にエネルギーにお金を外に流さなくて済むということです。国内経済の活性化に使えるということです。内部留保でため込んじゃダメですけれど。
とにかく、日本が流出させてしまっている20兆円、30兆円を様々な形で国内で回していけるとすれば、それだけ日本の経済が豊かになるということです。だから、再生可能エネルギーを使うことは、実は理にかなっている話です。皆さんも最近、電気料金が高いなということを日々感じていますよね。ガソリンの値段も高い。それは結局、化石燃料に頼っているからです。中東情勢が悪化している。中東情勢が荒れると、大体石油価格がガーンと上がる。それにつられて他の天然ガスだとか石炭の価格もガーンと上がったりする。化石燃料を使っていると、やっぱりそういう世界情勢に思いっきり影響を受けるわけです。だから、それに対して政府が電気とかガスに対して補助金を出して価格が上がらないように抑えているわけですけれど、それももともと税金じゃないですか。やっぱり化石燃料を使っている以上、個人としても国としても負担が増えていく。そう考えたら、再生可能エネルギーを使っていく方が賢いよね、ということです。
「そんなこと言ったって、再生可能エネルギーって高いじゃないか。安い電力はやっぱり原発だ」みたいなことを言ったりする人が出てきます。でも最近の世界のデータで言うと、実は再生可能エネルギーは前よりもずっと安くなっています。それは技術が進んだことと、普及が進んだことです。普及が進むと単価が安くなる。そういうことを考えて、1kWhあたりで考えると、これアメリカの通貨単位(1セント)になっていますけど、この赤いのが原子力で「あれ、原発高い」ということです。洋上風力は8.1セントで、太陽光は4.1セント、陸上風力は4セント。「あれ、原発、原子力に比べて3~6倍安い。これ、使わなかったらバカでしょ」という話です。だから、再生可能エネルギーが高いと言われたのは昔の話です。いまだに昔の話をどや顔で話したりする政治家だとかメディア関係者がいますけれど、古い人なんだなと思ってください。今の常識としては、再生可能エネルギーは最も安い電力になりつつあるということですね。
石炭火力よりも安くなりつつある。石炭火力は安いから石炭を使っている、みたいなことはあるわけです。けれども、石炭火力は他の火力発電に比べてもCO2をいっぱい出します。LNGというのは天然ガスで、最新型LNGでもこれぐらいだった数として、従来型でも倍ぐらい出しています。高効率型でも似たようなものです。岸田元首相も菅さんもですが、その前の安倍さんの頃から「日本の優れた石炭火力の技術をアジアに使っていけば、脱炭素のために役に立てる」みたいなことを言っていた。実際はこれですよ。最新鋭の次世代型の石炭火力だってこんなものです。石炭火力をやっている以上、脱炭素にはならないわけです。先日イギリスで石炭火力を全廃しましたけれど、一番最初にやめないといけないのは石炭火力の発電ですよ。ところが、安倍政権の時から、日本の低炭素型石炭火力はうんぬんかん、みたいな恥ずかしい話を国際会議の場とかで繰り返し言っている。他の国々の人たちが呆れているってことがここ何年も続いています。
石炭火力だって、CO2が多いだけではなく、そろそろ価格面でも再生可能エネルギーで勝てなくなりつつあるわけです。一部の国ではすでにそういう状況になっています。一番安いのは太陽光だというような状況になっています。価格面で有利で、建設のスピードが速くて、かつCO2を発電時はほとんどなさない。原発や、石炭火力でやる意味がなくなってくるわけです。だから、いかに原発や石炭火力に固執している日本のエネルギー政策というものが古いかという話です。本当に時代遅れ。
今回の選挙で見ますと、脱石炭火力の発電の方向性で言うと自民、公明、日本維新の会、国民民主はダメです。立憲の意思が三角なのは気になるな。立憲は党を立ち上げた当初はもっと前向きだった。再生可能エネルギーにしても脱炭素社会にしてもね。脱原発もそうですよ。脱原発なんてまさに一丁目一番地ぐらいの勢いで言っていたぐらいですけど、やっぱり連合に配慮するようになってきてからダメですね。歯切れがすごく悪くなった。ただ長い目で見れば、連合もそろそろ方針変えた方がいいと思います。やっぱり世界的なトレンドから日本の電力業界が明確に遅れている。それが時代遅れというだけじゃない。日本の製品はCO2排出係数が高いから、炭素税かけましょうね。税金かけましょうね、みたいな。そういうことで日本の競争力は落ちますから、それは労働者にとってもよろしい話ではないと思います。
そう考えると、そろそろ舵を切り替えた方がいいかと思います。国民民主党は脱原発をやらないというのは、本当に分かりやすいという感じがします。水素も、結局火力発電のために使うみたいです。日本において脱炭素だとか地球温暖化防止に取り組もうと言っている人たちは、共産党だとか社会民主党だとか、れいわ新選組だとか、どちらかというとリベラルな人たちです。今や脱炭素の方に舵を切ってそこでしっかり対策をやっていくというのは、日本の利益ひいては人々、個人個人の利益からいっても正しい方向です。倫理的な話だけではなくて、経済的にもメリットがある。もうこれをやらない理由はないですよ。だから本当に「ピンチはチャンス」で、これだけ条件が揃ってきたわけです。
能登のことを私もニュース見ていて、石川県に知り合いもいますから本当に心が痛むわけです。温暖化はもう誰の目にもちょっとやばくねえかっていうのがわかってきている。技術も発展してきて、以前よりもやれることがすごく増えている。日本がこれまで損してきた部分で、むしろメリットが増えて、人々がより豊かになれる可能性だってあるわけです。本当にピンチはチャンスで、それだけ状況は深刻ですけれど、ここでうまく切り替えれば明るい未来があるかもしれない。とても合理的で、みんなにとっていい方向行くかもしれないのだったら、やりましょうという話です。
私はウクライナなんかも取材しているから指摘しますが、結局ロシアは何で金を儲けているかというと化石燃料ですよ。石炭だとか、天然ガスが多い。石油もすごい。最近、あまりにもガザの状況がひどすぎて、そっちの方にみんなの目が行っていると思いますが、相変わらずロシアはウクライナの住宅地にミサイルとかロケット弾とかをぶち込んでいます。発電所なんかにもインフラ攻撃をやっている。これは国際人道法違反ですけれど、そういう侵略行為を未だに続けている。その最大の資金源は、天然ガスや石油です。日本は天然ガスに関して、いまだにロシアから買い続けていて、戦争に加担しているわけです。私たちは嫌なのに加担させられている。そういう戦争に加担しないためにも、再生可能エネルギーの比率を増やして、ロシアの天然ガスなんかいりませんというようなことを言えるようにしていくことって、すごく平和のために大事だったりするんです。
私は最近よく言いますが、ウクライナの平和とアジアの平和を両立させることが大事なのではないか。日本がロシアから天然ガスを買ったりだとか、防衛費にお金をバーンと使って、中国なんかを威嚇していたりすると、ロシアは天然ガスを買ってもらってウハウハになる。中国を威嚇すればするほど中国は、「いいよ、だったらロシアと組むから」ということで、ロシアにとってはおいしい状況です。これを変えていく。つまり防衛費を下げて、中国とは対立ではなくて対話をしていく。それでリスクを減らし、ロシアから中国を引きはがす。「こっち側に来て」という感じで。そうするとウクライナの人たちにとってもハッピーということです。
さらに私は中東もまぜたいということがあります。ウクライナのことでアメリカは偉そうなことを言っていますけれど、ヨーロッパも偉そうなことを言っています。けれどもドイツの緑の党、緑の党ですよ。緑の党のドイツの外務大臣が、「イスラエルには民間人を攻撃する権利がある」と言った。「はぁー!」ちょっと言っちゃ悪いけど「どうした?ナチス時代に戻ったか」みたいな、そういうようなことを言っている。さんざん「法の支配」だとか「力による現状変更がどうたらこうたら」とか言ってきたアメリカやヨーロッパが、イスラエルに関してはオールオッケーだったら、「ウクライナのために頑張りましょう」と欧米が言えば言うほど、みんなどっちらけになりますよ。それはウクライナにとっても不幸なことだし、中東にとっては言うまでもないです。そのダブルスタンダードやめる。ダブルスタンダードをやめて、「お前ら言ってきたじゃないか。法の支配だと、力による現状変更はいかんと。だったらイスラエルの暴挙をやめさせろよ」という話です。
今、ロシアとビジネスしている国は、中国、インド以外に割合の大きい国としてトルコがあります。トルコというのはご存知の通り、イスラム教が国教みたいなものです。イスラム教の国といっても間違いない。それ以外の少数派もいますけれど。日本はトルコと歴史的にすごく関係が深いこともあって、日本は独自外交で「イスラエル、やっぱりひどいよね」ということで、トルコを味方につける。中東問題に関してイニシアチブをとりながら、「トルコさん、やっぱりロシアと組むのはあんまり良くないと思いますよ。お勧めしませんよ」、みたいなことを言ってトルコをロシアから引きはがす。そうすれば、中東の平和とウクライナの平和を両立させることができる。そういう面白いポジションに日本はいるんですよ。面白いポジションにいるけれど、悲しいかな、政治家がアホすぎる。特に自民党がアホすぎるので、独自ポジションで世界の平和を作っていくことが、発想としてない。アメリカにくっつけばオールオッケーみたいな。
でも、ガザの1年間を見ているだけでも、アメリカにくっついているだけではあかんというのは、もう誰の目にも明らかじゃないですか。だから、今回の選挙大事ですよね。外交安全保障も中東だとかウクライナのことで、日本がどう関わっていくかという議論がないような気がします。けれど本当は日本のポテンシャルがめっちゃあります。そういったことを市民の方から訴えていって、耳を傾けてくれる政治家をちゃんと選ぶということはすごく大事なことだと思います。世の中の状況は、毎日ニュースを見ていても頭が痛くなるような状況です。諦めないで、本当に何をすべきかということをきちんと追求していけば、できることはいろいろあります。だから頑張りましょう。
内閣総理大臣
石破茂様
去る11 月 11 日、第215回特別国会にて首相に選出されました石破茂首相に、日韓和解と平和プラットフォーム(以下、日韓プラットフォーム)は、以下の通り謹んで要望いたします。
日韓プラットフォームは2020 年、日本と韓国との真の和解と平和を求め実現することを願う両国の市民と宗教者によって結成された組織です。私たちは東京・代々木にて、去る11 月14 日から本日まで、合同運営委員会を開催し、これまでの日韓、また朝鮮半島を取り巻く世界と東アジアの情勢について議論し、そして来年2025年の日本敗戦80年・朝鮮半島の「光復」(植民地支配からの解放)80年と日韓基本条約締結60年をいかに迎えるべきかについて協議しました。
その中で私たちは、ウクライナ戦争をはじめ戦争の泥沼化と拡大の危機にある世界と、東アジアの平和の危機について意見を交わし認識を共有し、この状況において日韓両国はいかにして平和構築の道を進むべきか議論を深めました。
私たちのたどり着いた共通認識とは、敵意に根差した冷戦的思考によっていたずらに安全保障強化の名の下に軍事力拡大の防衛政策に突き進むことは、憲法 9 条の精神に根差した平和外交の道を放棄することであり、「抑止論の罠」という矛盾によって戦争誘発の危険をはらんでいる、ということです。それは、世界を疑心暗鬼と敵意によっていっそう対立構造の中に追い込むことになると、私たちは考えます。
そのような破局に至る道とは、日本と朝鮮半島との真の和解と平和の道がこれまで封印されてきたこととも無関係ではないと、私たちは理解します。
そのような認識と理解に立ち、私たちは石破政権に以下のように強く要望します:
ウクライナ戦争とイスラエル・パレスチナ戦争の終結の見通しは未だ見えない状況ですが、しかし世界は大局的な歴史の流れにおいて、一極覇権主義的な世界構造から、多極的共存の世界へと移行しようとする産みの苦しみの中にあります。私たちは今その兆しをこの暗澹とした現実の中でも感じています。
敵意に根差した冷戦的思考は、さらに時代錯誤の矛盾を露呈させるばかりでなく、これまで果たせなかった植民地支配の過去清算の課題を隠蔽させる口実ともなってきました。このような虚構の政治はすでに破綻し、そこには未来への展望は見出せません。
私たち日韓和解と平和プラットフォームは、公正かつ誠実に過去の歴史に向き合い、そこで犠牲になった人々の立場から過去の清算を果たすことによって、敵意に囚われ、ひたすら軍事力に依存する政治への隷属から解放され、真の和解と平和に向かう平和外交と市民連帯の道が開かれていくことに希望を抱き続けます。
地球規模の破滅の危機が迫る今、日本政府がまず最も足元に置かれた課題として私たちの要望に向き合い取り組み、解決に向けて踏み出していくように、私たちは石破茂首相に心より要望します。
2024年11月16日
日韓和解と平和プラットフォーム
合同運営委員会一同