私と憲法277号(2024年5月25日号)


日米首脳会談と共同声明

「戦争できる国」から「戦争する国」への日本の転換

日米軍事同盟体制を前例にない高みに引き上げた?
「国賓待遇」のふれこみで4月8日から14日までアメリカを訪れた岸田文雄首相は、日米首脳会談や米国議会での演説、共同声明の発表などを行った。このバイデン大統領による「歓待」の対価は、米国のグローバル・パートナーとして付き従って、「戦争する国」になる国際公約であり、今後の日本の針路にとてつもなく重くのしかかるものとなった。

4月10日の日米首脳会談では、両国は軍事協力を深めるとともに、経済安全保障や宇宙など、幅広い分野での連携強化を確認するなど、戦後の日米関係の歴史的な節目となるものだった。

バイデン大統領は「この3年間、日本とアメリカの関係は真のグローバルなパートナーシップへと変化した。これは岸田総理大臣の勇気あるリーダーシップによるものだ」と岸田首相を持ち上げた。そして「岸田総理大臣はアメリカとともに南シナ海を含む航行の自由のために毅然とした態度を取り、台湾海峡の平和と安定を維持し、われわれ皆がともに協力できるよう韓国との関係修復という勇敢な一歩を踏み出した」とたたえ、対中国包囲網の強化を宣言した。

発表された「日米共同声明」は「日米同盟は前例のない高みに達した。……わずか数年前には不可能と思われたような方法で、我々の共同での能力を強化するための勇気ある措置を講じた」とのべ、日米軍事同盟の歴史的大変質を確認した。

これに対して岸田首相は「日本は米国と共にある」と応じた。岸田首相は自分が発したこの言葉の重大性を理解しているのか、どうか、疑いの念は消えない。

「わずか数年前には不可能と思われたような方法で、我々の共同での能力を強化するための勇気ある措置を講じた」とは何を意味しているのだろうか。それは憲法の基本に関わるような内外政策に置ける重要方針の転換にあたって、三権分立の原則は崩され、国会の議論が軽視され、わずか20人程度の閣僚による「閣議決定」として既定方針化され、それが米国などとの協議で国際公約化されていくという、異常な政治手法のことではないのか。安倍晋三政権に端を発して、岸田政権のもとでとりわけ顕著になったこうした政治手法、憲法がないがしろにされ、違憲国家状態が常態化され、行政府が突出して「戦争の準備」が進んでいく現状に戦慄を覚えざるをえない。

「日米共同声明」は「我々のグローバルなパートナーシップの中核は、日米安全保障条約に基づく二国間の防衛・安全保障協力であり、これはかつてないほど強固である。我々は、日米同盟がインド太平洋地域の平和安全及び繁栄の礎であり続けることを確認する」とのべた。

これは米中のインド太平洋での覇権争奪のもとで、米国側の陣営に参加する約束だ。ここには平和憲法を持つ日本には可能であるはずの、この地域の緊張緩和と真の平和のための構想も独自の役割りの追求のかけらもない。

米軍指揮下での日米両軍司令部のシームレスな統合

5月10日の参院本会議は自衛隊の統合作戦司令部創設など「改定防衛省設置法」を成立させたが、これによって自衛隊は米国のインド太平洋軍の下にある統合任務部隊との一体化が進められる。

日米首脳会談の際の首相の歓迎式典でバイデン大統領は、1960年、アイゼンハワー大統領と岸信介首相が署名した「新日米安全保障条約」にふれ、今回の首脳会談で約束された「米軍と自衛隊の指揮統制の連携強化のための日米合意」は、それ以降最も意義深い進展だと述べ、64年前からの「ゴールは達成された」などと宣言した。

「共同声明」は2022年に閣議決定された「安保3文書」を高く評価し、「米国は、日本が自国の国家安全保障戦略に従い、2027年、日本会計年度に防衛力とそれを補完する取組に係る予算をGDP比2%へ増額する計画、反撃能力を保有する決定及び自衛隊の指揮・統制を強化するために自衛隊の統合作戦司令部を新設する計画を含む、防衛力の抜本的強化のために日本が講じている措置を歓迎する。これらの取組は共に、日米同盟を強化し、インド太平洋地域の安定に貢献しつつ、日米の防衛関係をかつてないレベルに引き上げ、日米安全保障協力の新しい時代を切り拓くこととなる」とのべ、「我々は、作戦及び能力のシームレスな統合を可能にし、平時及び有事における自衛隊と米軍との間の相互運用性及び計画策定の強化を可能にするため、二国間でそれぞれの指揮・統制の枠組みを向上させる意図を表明する」と述べた。

まさに両国の軍隊の統合司令部の一体化であり、それは米軍による軍事情報の独占のもとでは、自衛隊の指揮・統制権の移譲に他ならない。

米国中心の多国間軍事同盟へ

共同声明は「我々は、日本固有のスタンド・オフ・プログラムを強化するための米国の物品及び技術的支援を含む、日本の一連の反撃能力の効果的な開発及び運用に向けた二国間協力を深化させることを決意する。米国は、日本がトマホーク(TALAM)システムの運用能力を獲得するための訓練計画及び艦艇の改修を開始するとのコミットメントを表明した。我々はまた、ハイエンドな地域の極超音速の脅威に対抗するための滑空段階迎撃用誘導弾(GPI)協力開発プログラムを追求することを改めて確認した。日米両国は二国間関係を強化するのと同時に、志を同じくする地域のパートナーとの関係を引き続き構築していく」と述べた。そして「我々は本日、増大する経空脅威に対抗するため、日米豪の間で、ネットワーク化された防空面におけるアーキテクチャーに関して協力するビジョンを発表する。日本の強み及び AUKUS 諸国との間の緊密な二国間防衛パートナーシップを認識し、AUKUS 諸国 ― 豪州、英国及び米国 ― は AUKUS 第2の柱における先進能力プロジェクトに関する日本との協力を検討している。キャンプ・デービッド首脳会合からのモメンタムを維持し、我々は、日米韓の間の毎年の複数領域における共同訓練の実施に向けた進展を歓迎する。米英間の大西洋宣言及び日英間の広島アコードにおけるコミットメントを認識し、また、インド太平洋地域及び欧州・大西洋地域がかつてないほど相互に関連している中で、我々は、共通のかつ揺るぎない安全保障を強化するに当たり、22025 年から開始される定期的な日米英三か国共同訓練の発表を歓迎する」などとした。

現代世界は多極化しつつあり、米国は相対的に国力を後退させている。米国はもはや単独で世界の覇権を握ることは不可能になった。米国は日本との同盟を利用し、「志を同じくする国々」「自由、民主主義、法の支配などの基本的価値を共有する国々」との軍事的同盟という看板を掲げて、中国などに対抗しようとしている。

日本の独立放棄と日米攻守同盟

米国は日本に「拡大抑止(核の傘)」を約束して、「バイデン大統領は、核を含むあらゆる能力を用いた、同条約第5条の下での、日本の防衛に対する米国の揺るぎないコミットメントを改めて表明した。岸田総理は、日本の防衛力と役割を抜本的に強化し、同条約の下で米国との緊密な連携を強化することへの日本の揺るぎないコミットメントを改めて確認した。バイデン大統領はまた、日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されることを改めて確認した」。

日本は辺野古新基地建設など在日米軍の再編に協力し、「我々は、日本の防衛力によって増進される米国の拡大抑止を引き続き強化することの決定的な重要性を改めて確認し、二国間協力を更に強化していく。この観点から、我々は、次回の日米「2+2」の機会に、拡大抑止に関する突っ込んだ議論を行うよう、日米それぞれの外務・防衛担当閣僚に求める」。

「日米両国は、抑止力を維持し、及び地元への影響を軽減するため、普天間飛行場の継続的な使用を回避するための唯一の解決策である辺野古における普天間飛行場代替施設の建設を含め、沖縄統合計画に従った在日米軍再編の着実な実施に強くコミットしている」。

今回の日米首脳会談とその共同声明に見られる軍事同盟と軍事力の強化による安全保障という選択は、共同声明が掲げる大義名分、インド太平洋の、ひいてはグローバルな規模での平和の実現に逆行するものでしかない。とみに国力を増強させている中国などに対抗するため、米軍と自衛隊の戦略的一体化をはかり、米軍の指揮下に自衛隊を置き、攻撃力(反撃力)を強化することで軍事力の均衡を謀るという措置は、不可避的に相手側の対抗手段の強化を招き、緊張を激化させ、戦争の危険を招くことになるのは必定だ。

私たちはこの意味で、今回の日米首脳会談と、その共同声明に反対する。平和を実現するうえで最も現実的で、有効な選択は軍事力の強化による対抗ではなくて、覇権主義に反対し、日本国憲法の第九条をはじめ平和主義に則った平和外交と、名実ともに「専守防衛」を保障することで相手国に対する「安心供与」を実行し、緊張緩和と平和を実現する道を選択することだ。
(高田健 共同代表)

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3万2千人が結集 節目の第10回 2024憲法大集会(東京有明防災公園)

池上 仁(会員)

憲法施行77年目の今年も、憲法を護り生かそうと全国各地でさまざまな集会が行われた。東京では「武力で平和はつくれない!とりもどそう憲法を生かす政治を 2024年憲法大集会」が、大阪では「輝け憲法!平和といのちと人権を!おおさか総がかり憲法集会」が開かれた。

10回目の憲法大集会、確かすべて参加しているはずだが一度も雨にあった記憶はない。今日も快晴の好天気。横浜で開催された第1回では大江健三郎さんがスピーチで「“人権をまもり差別を許さず、多文化共生の社会を求めます”これが私たちの思想、生き方の根本にある。これを私のこういう場での最後の言葉としたい」と語り会場がどよめいたことを思い出す。もう一人スピーチされた澤地久枝さんは今もご高齢をおして集会に参加し後輩を励ましてくださっている。10年は決して短い年月ではない、まさに継続は力だ。

松村真澄さん(ピースボート)と伊集院ヒロキさん(総がかり青年PT)の司会で開会。松村さんは発足したばかりの核兵器をなくす日本キャンペーンの事務局を担い、伊集院さんは高3の時からこの集会に参加しているそうだ。

オープニングは沖縄音楽の第一人者・古謝美佐子さんが、沖縄からの熱い風を届けてくれ、会場は参加者からの絶大な拍手と共感がひろがった。

小田川義和さん(総がかり行動実行委員会共同代表)が主催者挨拶…2015年のこの日、横浜臨港パークに3万人以上が結集して戦争法反対を訴えてから10回目の憲法集会だ。戦争法は強行され自衛隊がアメリカ軍と一緒に海外で武力行使できる法的根拠を与えてしまった。2022年末には安保三文書が閣議決定され、そして4月10日の日米首脳会談。力を合わせて奮闘してきたがここまで事態は悪化してしまった、まさに崖っぷちだ。核をもつ国が他国を侵略し、ジェノサイドを行っている。他方グローバルサウスが影響力を強めアメリカの覇権は後退している。台湾立法院選挙、韓国の総選挙、いずれもアメリカと手を結ぶ勢力が敗北した。東アジアで軍事力に対し軍事力を、の政府は支持されていない。3補選の結果は自民党に対する国民の怒りの表れ、市民と野党の共闘の成果だ。これを一層強化して自民党政治を終わらせるため力を合わせよう。

〇スピーチ

伊藤真さん(弁護士・伊藤塾塾長)

7年前にこの集会で挨拶した。変えていかなければならないものと絶対に変えてはいけないものがある。今も私の憲法への愛は変わらない。当時安倍さんは自衛隊明記を言っていたがいまだ実現していない。私たちが求めるのは平和で心安く個性を生かせる世の中だ。変えなくてはならないものに改憲手続法がある。金に糸目をつけず広告が流せる。アメリカの軍需産業が金で介入してくることだって可能だ。個人の尊重のために同性婚とか選択的夫婦別姓を可能にする法改正が必要だ。それを議論するのが憲法審査会の仕事のはずだろう。現行憲法の下、日本は一度も戦争で他国の人々を殺傷せず、日本国民も犠牲にならずに来られた。日本国憲法に感謝したい。憲法無視の政治がまかり通っているが、しかし今私は言いたいことを自由に言える、これだけ多くの人が集会に参集している、選挙権がある。選挙制度を変えなくてはならない。衆院選挙、得票率で47%の政党が63%の議席を獲得する、これを正さなくてはならない。人口比例選挙を実現しなくてはならない、参院選では、11ブロック制にすべきだ。憲法の破壊に抗い、これまで憲法に守られてきた私たちが、今度は憲法を守らなくてはならない。頑張りましょう!

猿田佐代さん(新外交イニシアティブ代表・弁護士)

大結集壮観だ。岸田首相は訪米して日米首脳会談で世界中至る所でグローバルパートナーに任ずると約束し、軍事面でも「常に共にいる」と約束して帰ってきた。日本は残念ながら名実ともに軍事大国であることを否めない。抑止力強化を口実にしているが本当にそうか?尖閣諸島を中国人が侵略したというデマがSNSに流れただけで戦争が起きかねない。ささやかなことからも戦争が始まる、第一次世界大戦が1発の銃弾から始まったように。軍備増強でなく外交で平和を、というが外交って具体的に何をすることだろう。4月、アメリカ国務省の招きで私は韓・日・米ツアーに参加し実に多くのことを学んだ。これは昨年8月のキャンプデービッドサミットでの3国の合意に基づくもの、アメリカは他国と密接に協力しなくてはやっていけない。そのために莫大なお金を使ってこのような企画を実行する。私は女性の安全保障の専門家として、アメリカ、韓国、日本から5人ずつ参加して回った。実にアメリカの前のめりな外交はここまでやるのかと思った。軍事や外交だけでなくガン撲滅や女性の地位向上、サイバー攻撃への対処等々あらゆる問題で日常的に常に連絡できる態勢が必要で、外務省・防衛省だけでなくすべての省庁が関わる。本気の外交とはここまでのものなのかと思った。

〇政党・会派からの連帯挨拶

立憲民主党の逢坂誠二代表代行・憲法審査会筆頭幹事

3補選で勝利させてもらったことに感謝する。憲法審査会だが憲法に基づく法律を破る裏金議員に憲法の議論をする正当性があるか。緊急事態に名を借りて国会議員の任期延長について議論している。順番が違うだろう。災害に強い選挙、参院緊急集会の強化こそ議論すべきだ。この10年国会では嘘の答弁が積み重ねられ公文書改竄、廃棄、捏造、隠蔽が行われてきた。こんなことをやらせない未来志向の憲法議論をしよう。

日本共産党の田村智子委員長

岸田政権は訪米で米軍と自衛隊とのハイグレードな連携を約束してしまった。アメリカのミサイル戦略IAMDの基本方針にはシームレスな統合とあり、その解説書にはインド太平洋の同盟国を米軍の指揮下に置く、主権の一部を切り離させると書いてある。自衛隊の指揮権という日本の主権をアメリカに委ねることだ。これを国会で追及してもまともに答えない。アセアン諸国との対話を根気強く続けることこそが大事だ。札幌高裁は同性婚できないことを違憲だと判断した。妨害勢力は伝統的な家族観にしがみついている。憲法を生かす政治こそが新しい日本の希望ある道だと示していこう。

れいわ新選組の櫛渕万里共同代表

岸田首相は訪米して「アメリカは一人ではない、日本は共にある」さらに「孤独感や疲弊、その重荷をアメリカが一人で強いられる理由はない」と言い放った。私の質問に上川外相はグローバルパートナーと答えたが、自衛隊が米軍の二軍になるということだ。日本はこれまで軍事よりも経済、民生とすることで外国の人々から信頼されてきた。北東アジアの非核化こそを目指すべきだ。能登半島ではいまだに4000人近くが避難所生活を強いられている。災害対策のための緊急事態条項という茶番を演じている。日本を守るとはあなたを守ることから始まると理解している。

社会民主党の福島瑞穂党首

中国を仮想敵国として沖縄南西諸島に自衛隊を配備し全国130カ所に弾薬庫、湯布院ではミサイル発射準備が進められている。敵基地攻撃を行えば相手国からは先制攻撃とみなされ日本全土が戦火にまみれる。現行憲法の大事な役割は戦争しないこと、日本を戦場にしないこと、死の商人国家にさせないことだ。札幌高裁は同性婚認めないのは憲法24条、14条に違反するとの判決を下した。最高裁は生殖能力を奪って性別変更を認めることは憲法違反だと言った。生存権が保障されていないのが今の日本。金権腐敗政治追放、自民党政治打倒、政権交代実現、そのために一緒に頑張ろう。

「沖縄の風」からはメッセージが寄せられた。

ここでプラカードアピール「いまこそ平和」「守ろう命」「守ろうくらし」「ピース&ヒューマンライツ」「武力で平和はつくれない」「取り戻そう憲法を生かす政治を」のコールが快晴の空一杯に。会場からのアンコールで2度繰り返した。

市民連合・長尾詩子さん連帯挨拶

4/28の3補選での勝利は市民と野党共闘の勝利だ。ジェンダー平等を今すぐに!をスローガンとするフェミブリッジの仲間が壇上に上がっている。3月のフェミブリッジアクションでは、全国27箇所1500人が街頭で訴えた。連続テレビドラマ「虎の翼」の冒頭に憲法14条を読んで涙する姿があった。家父長制を止めさせよう。女性を生む機械として戦争に突き進んだ歴史を繰り返さない。誰の子どもも殺させない、誰の暮らしも壊させない。戦争は絶対にさせない。来たる総選挙では自公でも維新でもない、市民と野党の共闘のみが新しい政治をつくる。市民連合は市民と市民、市民と野党、野党と野党の懸け橋となって憲法を実現する社会をつくりあげていく。沖縄県議選、都知事選でも勝利しよう!

〇リレートーク

武藤類子さん(福島原発告訴団団長)

能登半島地震で3.11がよみがえり、多くの被害者が心穏やかではいられなかった。原発が動いていなくてよかった、と心底思った。それでも原子力規制委員会は災害対策指針の見直しをしないと言った。本来は温暖化対策のはずのGX脱炭素電源法の下に原発再稼働が粛々と進んでいることに更なる恐怖を感じる。世界中で地震や火山噴火が頻発し、戦争による原発への攻撃も現実味を帯びている。世界のすべての原発を止めなくてはならない。福島の事故を忘れないでほしい。自宅に帰れない人がいる、立ち入り禁止の場所がまだある、未だ収束していない中での過酷な被曝労働、汚染水の海洋投棄、汚染土の再利用、避難者の住宅追い出し、小児甲状腺ガンの増加、そして莫大なお金をかけて国が推進するイノベーションコースト構想-軍事開発の気配のある復興加速化計画、被災者が望む復興との大きな乖離、と次々と問題が起こり続けている。次の原発事故が起こる前に原発を止めよう。もうひとつどうしても止めたいものはアルプス汚染水の海洋投棄だ。世界の共有財産である海への環境破壊だ。東電の刑事責任を問う裁判は地裁、高裁で敗北し、最高裁に上告している。他にも幾つもの裁判が最高裁に係属している。一昨年4件の損害賠償裁判が最高裁で不当極まる判決を受けた。その後そのコピーのような判決が地裁・高裁ででている。司法の劣化を許さない、裁判所は正義の場であれと求めていく。

山岸素子さん(移住者と連帯する全国ネットワーク事務局長)

今、平和主義や民主主義が音を立てて崩れ落ちようとしている。排外主義やマイノリティーへの差別が剥き出しになっている。2023年6月、改悪入管法が強行成立した。難民申請中の人も、家族がいるので在留許可を求める人々も排除の対象となる。2024年、今度は日本に定住・永住する外国人を差別的に取り扱う入管法改悪案が現在衆議院法務委員会で審議中だ。外国人労働者の受け入れ制度見直しのための改正と言っているが、技能実習生制度に代わる育成就労制度は看板の架け替えに過ぎない。債務労働を排除し転職の自由など労働者の基本的権利を担保する国際人権規約に適うものになることを求める。ドサクサ紛れに永住許可制度の見直しと称して軽微な法令違反でも在留許可を取り消せるようにしようとしている、90万人近い外国人を不安に陥れる。私たちが求めるのは外国人も日本人も安心して生きられる社会。排外主義の拡大を許さず平和と共生の社会をつくっていこう。

高里鈴代さん(オール沖縄会議共同代表)

4月28日はサンフランシスコ条約公布の日、これによって日本は国際社会に復帰したが、沖縄と奄美大島はアメリカの支配の下に渡してしまった、屈辱の日だ。72年5月15日、沖縄は日本に復帰したが、沖縄の米軍基地は全国の53%から70.3%になった、わずか0.6%の面積の沖縄に。幾つかの米軍基地は返還されたがそのまま自衛隊基地となり、今は強化されてミサイル基地となっている。新たな戦争の準備をしている状況だ。この憲法が本当に沖縄を守っているだろうか。2月29日、最高裁は国の代執行を認める判決を出した。全国で初めてのことだ。3度の県知事選挙・県民投票で沖縄はずーっと辺野古基地ノーの意志を示し続けてきたのに一顧だにしない。これまで座り込みの際はコロナ禍を配慮し機動隊員と接触しないよう自分の足で移動していたが、代執行後は自分から立つことをやめた。機動隊に強制的に運ばれている。皆さんもぜひ辺野古に来て機動隊に運ばれてください。

大内由紀子さん(コネクトヒロシマ代表)

核兵器禁止条約が発効して3年経った。史上初めて核兵器の開発や保有、使用などを全面禁止するもの、70ヵ国が批准、93ヵ国が署名している。昨年11月、第2回の締約国会議が国連本部で開催された。日本はせめてオブザーバー参加せよと求めて署名4万筆以上を提出したが、政府は1週間前に不参加を表明した。35ヵ国がオブザーバー参加した。大半が日本と同様アメリカの核の傘下にある国、なぜ日本が参加できないのか、悔しくて残念だ。岸田首相は核兵器禁止条約は「核なき世界への出口」と言うが、「核なき世界への入り口」である。2023年6月現在12,520発の核が全世界に拡散している。核兵器は存在する限り使われる。条約は世界各地の小さな活動が積み重ねられて生まれた。私たち一人一人が意志をもち団結して声を挙げていこう。

猫塚義夫さん(北海道パレスチナ医療奉仕団団長・医師)

2009年イスラエルが初めてガザを空爆し1500人が虐殺された。雪の札幌でキリスト教会関係者がキャンドルデモを提起し、共鳴して私も大通り公園から薄野まで行進した。デモだけで良いのか、私たちもパレスチナに行こうと2010年に医療奉仕団を設立し、現在に至っている。奉仕団の基軸は、憲法前文の規定している「平和的生存権」を核として「人間の尊厳」のためだ。何故ハマスが奇襲反撃せざるを得なかったのか、イスラエルの長年にわたる抑圧が誘発したのだ。10数年前ガザを「天井のない世界最大の監獄」として200万人の人々を閉じ込めた。今や「天井のない世界最大の虐殺の場」と化している。アメリカは一見人道主義的なことを言っているが、毎日軍事物資をイスラエルに届け、二枚舌だ。一人一人の暮らしが崩されている。6月7日には西岸と東エルサレムに4人のメンバーで医療こども支援に行く。西岸が第二のガザになるのではないかと現地の人々は恐れおののいている。支援活動を行い、そして現地の状況をつぶさに報告したい。

最後に染裕行さん(戦争をさせない1000人委員会)が行動提起、集会参加者が32000人と報告すると大きな拍手が湧いた。当面の国会前行動や街頭宣伝活動等の行動への参加が呼び掛けられた。ユキヒロ&「5.3憲法集会みんなで歌う合唱隊」の「HWIWAの鐘」の歌声を背に参加者はデモ出発点に向かった。

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5月晴れの憲法記念日、大阪扇町公園に5,000人を超える市民が参加

松岡幹雄(@とめよう改憲!おおさかネットワーク)

毎年晴天に恵まれる5.3憲法記念日。今年も暑いぐらいの晴天に恵まれた。おおさか総がかり行動実行委員会が主催する「輝け憲法!平和といのちと人権を!おおさか総がかり憲法集会」は大阪各地から5,000名を超える多くの市民が参加した。集会の司会は、市民連合高槻・島本の二木洋子さん。司会者から高らかに開会宣言された後、プロのサックス奏者SwingMASAさんと梅田解放区Don‘tKILLアンサンブルによるオープニングコンサート。晴天の憲法集会にポップなビートが鳴り響き、集会参加者がSwingする躍動感あふれる音色を楽しんだ。

集会にうつり先ず主催者を代表して大阪憲法会議幹事長の丹羽徹さんが挨拶。丹羽さんは、「岸田政権は、安倍政権来の集団的自衛権行使容認をひきつぎ社会全体、経済活動にまでも戦争に向けて統制を強化しようとしている。本日の憲法集会を成功させ反撃していこう」と集会の意義を訴えた。

続いて、メインスピーチは、東京からピースボート代表、核兵器廃絶全国キャンペーン(ICAN)国際運営委員の川崎哲さん。今年はウクライナとガザで戦争が続く中、平和をどう創り出すかがテーマだ。川崎さんは「残念ながら世界は今、第3次世界大戦一歩手前という状況」になっている。「世界が全面的な戦争の事態に入ってしまうことを私たちの力でとめなければならず」そのためには、「79年前に第2次世界大戦があの凄惨な形で、ほんとうにむごたらしい被害を世界中に与えて終結した、その時に手にした国連ともう一つ日本国内においては平和憲法、この二つをいかして今強くすることが必要だ」とのべた。そして、「それを生かすことができるのは、私たちのひとり一人の行動にかかっている。」と強調。また、政府が今進める軍事力の強化は「抑止力というが、実際は戦争を始めるリスクを高めている」として、そもそも軍事力によって抑止できるという考え方は、国連憲章や憲法9条で「慎む」とされている武力による威嚇そのものであり「国際法上も重大な疑義がある」と訴えた。また、「戦争で何か解決したことがあったでしょうか。たとえばイラクやアフガニスタンでアメリカは20年間戦争対テロ戦争というものをやって最終的に両国から引き揚げて両国がいまだに混乱の中にあります。あるいは、日本がかつてアジア・太平洋戦争で朝鮮半島を支配し、中国やアジア諸国に侵略をしていったその傷は、それが終わって79年たついまも癒えていません、和解も達成されていません。そのことが、この地域の国際関係を不安定にしている。ということは、かりにいま、ウクライナやガザで起きている事態が、今この瞬間停戦ということになったとしても、あきらかにヨーロッパにおいても中東においても平和は訪れないです。その憎しみや恨みや仕返しをしてやりたいという感情が人びとをまた暴力へと動かしていく。そうした連鎖をくり返すわけです。」と軍事力では何ら問題を解決することはできず、平和はつくれないことが訴えた。そして、軍事力強化ではなく「核兵器禁止条約などの平和のための法規、それは憲法であり条約であり、様々なところから発生するルールを強めていくことこそ必要である」と訴え、スピーチを締めくった。20分間にもなる熱のこもったスピーチに会場から大きな拍手が送られた。

市民スピーチでは、パレスチナの即時停戦について関西ガザ緊急アクション、辺野古新基地建設について月桃の花歌舞団、万博カジノ中止についてカジノに反対する大阪連絡会からそれぞれスピーチが行われた。続いて、立憲野党の連帯挨拶にうつり、立憲民主党から森山浩行衆議院議員、日本共産党から宮本たけし衆議院議員、社会民主党から大椿ゆうこ参議院議員、れいわ新選組から大石あきこ衆議院議員からそれぞれ力のこもったアピールが行われた。また、参加者全員で「とめよう大軍拡」「いかそう憲法」のポテッカーをかかげ会場全体がひとつにまとまりアピールを行った。

最後に戦争させない1000人委員会・大阪の米田彰男代表が閉会の挨拶を行った。米田さんは、「今日の集会を契機に、様々アピールがあったガザや沖縄、万博などの諸問題に力を合わせて取り組んでいこう。特に岸田政権が進めている戦争するための大軍拡や改憲を許さない運動をともに強化しよう」と訴え、全体の拍手で確認し集会を終えた。その後、集会参加者は2コースに分かれ市民パレードを行った。

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怒りと希望と―

暉峻淑子著「承認をひらく 新・人権宣言」を読む
四六判 253頁
岩波書店 ¥2300+税

池上 仁(会員)

「これまでも私が本を書きたいと思う動機には、一つの共通性があったように思います。社会の中に、ある種の深いひずみが生じて、周りから悲鳴をあげる声が聞こえ、私の心がその悲鳴に共振する時でした」(おわりに)。かつて「豊かさとは何か」が書かれたバブル絶頂期も地上げやらなにやら殺伐とした世相が繰り広げられていたが、本書が書かれた現在、状況は一層悪化しているように思う。それだけ悲鳴の声は大きく、著者はいてもたってもいられなかったのだろう。90代半ばにして改めて渾身の力で怒りの声をあげ明日に繋がる希望の芽を育てようとするのだ。

第一章 人生をかけた承認欲求の葛藤

「選ばれる側は選ぶ側の思考や好みを常に最大限に忖度し、それに沿った容姿とふるまいをしなければならない」文字通り身を削るようなダイエット願望は痩せた女を美的に評価する社会の承認基準に合わせようとするもの、他方自己主張の強い女性は嫌われる―女性に強いられる葛藤。頻発する官民エリート層の不祥事は承認願望と喪失への恐怖が背景にある。一見乱暴でぞんざいなふるまいをする障がい者や自閉症児に対し、まずありのままを受け容れることによって関係が改善された実例。褒めることと承認との違い。「承認欲求の呪縛」。

第二章 社会的承認から排除された人びと

1980年の新宿西口バス放火事件(死者6人、重軽傷者10人)と2008年に起きたアキハバラ事件(死者7人、負傷者10人)について丹念に資料にあたり犯人の実像に肉薄している。「かけがえのない一個人として、社会から承認されたいと願いながら叶わなかった、鬱屈した孤独な人生」の持ち主たちの共通点。堀川惠子「永山則夫」、見田宗介「まなざしの地獄」等と並んで内在的に他者を理解しようとする貴重な試み。

第三章 「承認」という新しい概念がなぜ必要か

自己申告制に依拠する日本の社会保障制度について生活保護制度に焦点を当てて検証している。厚生省が1981年に出した123号通知(「生活保護の適正実施の推進について」)がいかに生活保護行政のひどい事態を招いたか(最近も桐生市の実態が大きく取り上げられた)。厚労省の「被保護者調査」の数字(保護率)、1980年 1.22%→90年 0.82%がまざまざと物語っている。経済格差に対処する再分配と、社会的排除を巡る承認の問題をテーマとしたナンシー・フレイザー、アクセル・ホネット「再配分か承認か?」を紹介し、ホネットの「アイデンティティが形成される前提には相互承認という関係が必要で、そのまた前提には、ひらかれた平等な社会参加が重要な意味を持つ」「相互承認とは相互に尊敬を持ち、補い合うという合意である」という考えに深く共鳴している。

第四章 社会参加のない民主主義はない

日本人の社会参加意識について複数国を含む各種世論調査や著者が滞在したドイツでの経験をもとに検討している。日本の高校生は「社会参加志向」が他国を大きく下回り、「自分本位」の因子が高い。「新自由主義化した日本の子ども・若者の成育環境は、保護者や学校、大人社会からの『監視』の目にさらされている」「ストレスを受けないように『自分を守る』ようになるのは、自然なことではないか」という分析者の言葉に共感している。幾度も行政との軋轢に苦しみながら壮絶な闘いを繰り広げ、維持発展してきた愛知県小松市の障がい者授産施設「すずかけ共同作業所」。訪問した著者は「障害児の抱える困難も、失敗も、進歩がないように見える毎日も、発達の一段階として受け止め、温かく、見守り働きかけている『すずかけの哲学』」を看取する。登校拒否の問題の出口を求めてフリースクール等の活動を積み重ねてきた親と教育者たちが、着実に社会を変えてきた事実を紹介する。希望の芽はここにある。

第五章 私たちの生活と公的な承認

民法の「嫡出推定」の問題、ジャーナリストへのパスポート交付拒否、一人の公務員を自殺まで追い詰めた森友学園問題、生活保護基準の引き下げに抗する「いのちのとりで裁判」を取り上げ、「権力を持つ者とのタテ関係のなかでの」「承認/不承認」をめぐる紛争を検証している。

学生時代、著者は「人権という概念に、ある種の分かりにくさを感じた」「裸の個人が自己申告制によって人権を与えられているような現実のイメージには無理があるのではないか」と。そして今「人間にとって大事なのは個人を取り巻く関係性なのに、人権の概念はその関係性を軽視しているのではないか」(おわりに)見事に初発の疑問への回答にたどり着いている。著者の強調する「相互承認」はブレイディみかこの言う「『共感』でない他者理解」「エンパシー」(「他者の靴を履く」)と繋がると思う。

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映画「戦雲(いくさふむ)」

監督:三上智恵  東中野ポレポレにて

中尾こずえ(事務局)

琉球、日本、アメリカ、中国。様々な権力に翻弄され続ける小さな島々。太平洋戦争で悲惨な戦場となった沖縄の島々にまた自衛隊のミサイルが次々と運び込まれている。「また私たちの島は戦争に使われるの?」必死に抵抗する島々の声と映像の作品。

○台湾に最も近い島与那国に自衛隊の駐屯地ができたのは2016年3月。カジキ漁で知られる、久部良という漁師町。軍隊のなかった与那国島では、最初は自衛隊基地ができることに反対の声が圧倒的だった。しかし次第に島は分断され、容認と諦めの空気が広がった。カフェを営む猪俣哲さんは住民投票に向けた署名活動を行ったが、署名に協力してくれた人に圧力がかけられた事に責任を感じ、また島の分断が進むのを目のあたりにし、孤立感を深めていた。自衛隊の経済効果に期待する人も多かったが、7年経っても生活は厳しくなる一方。自衛隊と米軍は南西諸島を戦場に見立てて合同訓練を繰り返す。2022年11月、とうとう与那国に戦車が運び込まれる。自衛隊基地に反対してきた「イソバの会」のメンバーが集まった。
戦車と軍用車両列が列をなして自分たちの島の一般道を走っていく姿を見て涙を流す。
更にその直後、与那国町には何も知らせないまま防衛相がミサイル部隊も配備すると発表。これには誘致派だった保守系の人びとも「有り得ない」と口をそろえるが、糸数健一町長は「町長権限だ」と言い、「受け入れる」

○与那国島の次に基地計画が進んだ宮古島。既に航空自衛隊の分屯地がある野原落の向いにミサイル基地工事が着工された。(2017年11月)
幼い娘を連れて抗議行動に通う有香子さんの声が、開設式に訪れていた岩屋防衛大臣の演説に被さって響く。「なんで安心して子どもを育てる未来を奪われなければならないんだ!」と。宮古島駐屯地が完成すると、南西にある保良にも工事のトラックが押し寄せるようになった。集落すぐ隣の採石場にミサイルや火薬の弾薬庫が新設されたら「もう地域の発展はない」と家族で抵抗運動を続ける。弾薬庫を備えた保良訓練所は完成し、2021年11月島にミサイルが運びこまれた。空港、訓練場の入り口でも座り込みの抵抗を続ける。座り込んでいる一人の女性は4人の警官に力ずくで排除されていた。この日、集落と目と鼻の先にある弾薬庫にミサイルを積んだトラックが収まった。生活道路に15台の巨大なトラック。運転席前には赤く火の文字が。「危険だぞ」のメッセージのつもりか。
住民は生活圏が脅かされることへの当たり前の「NO!」を訴え続けた。

○石垣島ではミサイル基地の予定地(於茂登、たけだ、開南、川原)の4つの集落が結束して反対していたのでなかなか計画は進んでいなかった。これらの集落は戦後に移住してきた人びとが命がけで開拓した場所だ。於茂登で農業を営む峯井善さんの一家も、先祖の土地を米軍が奪い嘉手納基地がつくられたため石垣に移り住んだ。困難を乗り越えて作り上げた農地に誇りを持っている。「若者と仕事を作って静かな環境を渡したい」というのが願いだ。ある日、防衛局が住民の目を盗んで測量を行ったのが発覚。集落に緊張が走る。「島の未来は自分たちが決めたい」と「石垣市住民投票を求める会」を発足させ、若者たちが立ち上がった。若者たちの行動は未来を明るくするものだった。署名は1万4000筆を超えた。しかし、条例案を石垣市議会は否決したうえ、市議会は「自治基本条例」から住民投票の条文を削除した。住民が示した意志はまたも潰された。(次頁下段へ)
(前頁から)山里節子さん(命と平和をまもるオバーたちの会・1937年石垣島出身)は祖先から受け継がれた歌を謳う。ゲートの前で、島の小高い丘に向って、海に向かって。「戦雲がまた湧き出て来るよ」「ああ憎い権力者どもよ」と様々なところで繰り返し謳う。その歌声をもっと聞きたかった。凛として美しい。が、辛い。歌詞は、繰り返す理不尽の根っこを鋭く見据えているようにも聴こえてくる。節子さんは言う・「祈るだけでは平和は来ないけれど、祈りなしには平和はつかめないのよ」と。

○沖縄本島の各地が急速な軍事化の波にさらされている。
山里節子さん(命と平和をまもるオバーたちの会・1937年石垣島出身)は祖先から受け継がれた歌を謳う。ゲートの前で、島の小高い丘に向って、海に向かって。「戦雲がまた湧き出て来るよ」「ああ憎い権力者どもよ」と様々なところで繰り返し謳う。その歌声をもっと聞きたかった。凛として美しい。が、辛い。
歌詞は、繰り返す理不尽の根っこを鋭く見据えているようにも聴こえてくる。節子さんは言う・「祈るだけでは平和は来ないけれど、祈りなしには平和はつかめないのよ」と。

○沖縄本島の各地が急速な軍事化の波にさらされている。
なので、女性相談支援センターの女性相談支援員はどこの県にもいます。人数も仕事の内容もいろいろです。

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第182回市民憲法講座 なぜ"女性"支援か?~女性支援新法までの道のりとこれから~

お話:細金和子さん(一般社団法人 Colabo 理事 社会福祉法人 慈愛会 理事 )

婦人保護事業から女性支援事業へ

私は「慈愛寮」という婦人保護施設にいました。この4月から新法により女性自立支援施設と変わり、名前も「慈愛寮」から「慈愛jiai」に変わりました。この「慈愛」は妊産婦さんとそのお子さんをお世話する施設です。子どもの父親や親族の支えが全くなく出産を迎える。多くは行き場を失って住む場所もない女性たちのための女性自立支援施設です。

妊産婦と新生児に特化している婦人保護施設は、慈愛寮だけです。単身の女性を中心に、妊婦さんも入所できる女性自立支援施設も中にはありますが、東京は5施設、全国には47施設と少なく、施設がない県もあります。4月からは売春防止法が根拠法ではなくなりました。売春防止法の4章の部分が、「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」に変わり、この新法とDV防止法とストーカー規制法、法律ではないですが人身取引対策行動計画の被害にあわれている方の施設でもあるという、女性自立支援施設です。

この「慈愛寮」には福祉職の支援員、看護師、栄養士、心理職、保育士がいて、女性と子どもたちへの支援を24時間365日おこなっています。大体、妊娠30週から36週ぐらいから入り、産後1ヶ月から6ヶ月ぐらいまでの妊産婦さんを、次の生活の場が決まるまでということで支援しています。利用料は無料で3食提供され、衣食住がとりあえず困らない。特に、妊婦さん、赤ちゃんの成長のために必要なお食事が提供されて、心も身体も休められるようにという施設です。定員は女性と子どもを含めて40人で20部屋。お母さんが20人までは入れます。入所するには市

婦人保護施設-女性自立支援施設は、新法ができても任意設置のままなので、ない県があります。未設置と休止中を含めて8県には、女性自立支援施設はありません。さきほど福祉「的」な事業といったのは、この女性自立支援施設、旧婦人保護施設は第一種社会福祉事業なので、ちょっと福祉につま先ぐらいを乗せたようなことになっていました。ただ売春防止法は特別刑法であって福祉法ではないので、福祉法による福祉施設より利用者さんにかける費用がものすごく低かったし、職員の配置基準も低かった。福祉とは名ばかりというような状態でやってきました。女性自立支援施設も県によって全くスタイルが違います。女性相談支援センターと別の場所に、民間の社会福祉法人などが運営しているところもあります。また本当に狭い婦人相談所(現女性相談支援センター)の10部屋ぐらいのところの9部屋が一時保護所で、残りの1部屋が婦人保護施設(女性自立支援施設)で施設はほとんど使われていないような県もあります。運営も県によって公設公営・公設民営・民設民営と様々で、全くナショナルスタンダードがありません。県の社会資源の状況によって、婦人保護施設の使われ方は全く違い、県によってバラバラというのが婦人保護事業でした。

慈愛寮利用者から見える「暴力」「貧困」「差別」

慈愛寮は、ここで暮らすことで心の傷が癒えていく場に、という思いで支援をしている施設です。たくさんの心の傷を抱えた方たちがここにたどり着く。そして、守られた生活の中で赤ちゃんと自分の命を守っていく場です。慈愛寮の利用者の生活歴には、暴力、貧困、差別という本当に過酷な状況があるので、私たちは「ここはあなたのお家よ、安心して暮らせるお家よ」、ということをメッセージとして発していきたいと思ってきました。慈愛寮の利用者の生活歴を少しご紹介すると、そういうことなのか!と思われると思います。

赤ちゃんを産むときに、子どもの父親はもちろんのこと、親族からも何の支援も得られないということは、どういうことか。9割近くの人たちがこれまで何らかの形での暴力を受けてきています。小さいときから虐待や性虐待を受けて育った方もいて、家出して転々とする中での妊娠ということもあります。育った家庭がDV家庭だったり、母子家庭や生活保護家庭などでご両親の離婚や再婚を経験するような中で育っている。だから自分の妊娠・出産、それも行き詰まって、子子どもの父親も頼りにできないというような出産のときにも、助けてくれる家庭もない方が多いわけです。

そういう生育歴の中で2割から3割は、児童養護施設など社会的養護での生活を経験しています。学歴も今の全体の学歴からはとても低い。中卒や高校中退が約半数で、中には家庭環境も関連してのいじめや不登校の経験がある方たちも多い。そして特徴的なのは知的障害や発達障害があっても障害児としての教育を受けられずに、障害者としての支援を受けられていない方たちが多い。これは婦人保護施設全体の特徴です。例えば、知的な障害があるというと、障害の施設にいる方たちを連想されると思いますが、実際は障害の施設などに入れない。支援にもつながらず、その結果、女性の場合は、目をつけられて性搾取の被害に遭うということが非常に多いわけです。親との交流があるにしても、親世帯が貧困で頼れないとか、あるいは親は助けてあげたいけどDVで、娘を見てあげたくても場所が知られている。実家では危険で避難させてあげることができないというような場合もあります。

そして、責任を取れない子どもの父親も、類似の環境で育って生計を維持できない人たちも非常に多い。あるいはホストなど、この頃はメンズ地下アイドルとかメンズコンカフェという低年齢層をターゲットにしたものが多いですが、そういう女性を搾取の対象にする男性たちも、子どもの父親であったりします。そして、遺棄される。ホストが自分の恋人のように振る舞ってくれていたので、一生懸命性風俗で貢いできたら妊娠して、喜んでくれると思ったら「俺の子どもじゃないよ、客の子どもだろう」というような形で遺棄される。慈愛寮には守られることなく性搾取の場で生きてきた女性たちも多いのです。中には外国にルーツを持つ方もいます。例えば、人身売買や移住労働などで日本に来た方の2世もいます。お母さんが子どもを本国に預けて日本で働き、中学生ぐらいになって日本に呼び寄せられたけれど、言葉もわからない。お母さんの新しい夫から性暴力を受け、そこから逃げて、逃げる中で妊娠をしたような方たちも非常に多かった。そういう複合的な困難を抱えていたけれど、支援にはつながらなかった人たち。妊娠・出産、もう赤ちゃんが産まれるということがなければ支援にはつながらなかった女性たちが、慈愛寮を利用していました。

一番大切なのは、そういう困難な背景のある方が安全で守られることです。「あなたはあなたであっていい」というそういうメッセージが必要です。「ほら、赤ちゃんが産まれるこの時に、今まで経験してこなかった青い空を見上げてみようよ」というような、人生のターニングポイントとなることが、施設の中で守られ確保されていくようにと思ってきました。心理職のいる部屋には、こころ室「こもれび」・かたり室「かくれが」という名前がついています。お母さんで頑張らなきゃっと言っても、もともとが、それだけ損なわれてきたものが多い方たちですから、本当につらい時も多いわけです。ですから、頑張るお母さんでなくてもいい、泣くことも、大笑いすることも怒ることもできる。そういう中で赤ちゃんを守っていけるようにしていきましょうという。そういう施設でした.

夜の町を彷徨う少女に出会い、つながるColabo

もう一つ私が関わっている団体はColabo(以下コラボ)です。コラボのことは昨年来、いろいろな誹謗中傷妨害などで報道されることも多く、会計に「不正」があるというようなデマによって、また正しい報道がされなかったことによって、いかにも「不正な団体」であるかのように思われたりすることもありました。コラボは、“全ての少女たちに衣食住と関係性を”“夜の街をさまよう少女に出会いつながる”という活動をしている団体です。ピンクのバスで、10代の女の子の夜のカフェをしています。「寒いね、こんばんは」「10代の子がただでご飯食べられるところあるよ」と夜の街で声をかけてアウトリーチをする。相談に行くとか、支援を受けるとかではとてもハードルが高い。今の状態が困っているのか困っていないのかも自分でわからない状態の女の子たちが性を買う男や業者に狙われます。女の子たちに、性搾取加害者より先に、ご飯がある、洋服もある、生理用品もある、行く場所がなかったらシェルターもあるよ、とつながり、この人にだったら頼ってもいいかな、というような関係性をつくっていく。そういう活動が大切です。

本当に困ったことが言えるようになったときには役所につなげて同行支援をすることもあるし、中長期の生活を支えることもある。仕事、就労をしていけるように、あるいは緊急避妊薬の処方につなげることもあり、妊娠してコラボから慈愛寮につながってきた女の子たちもいます。また必要な弁護士や、医療の支援とのつながりもつくりながらやっていく。この映像は、ピンクのバスの中に女の子たちが必要なもの、欲しいと思うようなものが並べられて、自由に持ち帰ることができるバスカフェの様子です。去年、バスカフェは妨害に屈した行政によって、新宿区役所前を追い出されましたけれども、今も歌舞伎町の周辺の地域で月に2回開催しています。「Tsubomi Cafe」という女の子たちの当事者グループの名がついています。

コラボに来る子たちはどういう子たちなのか。コラボの活動から見えてくるものは、虐待や性虐待を受けた若年女性がどれほど孤立しているかということです。虐待や性虐待から逃げて家出すると、声をかけるのは性を目的に近づく男性ばかりです。スカウトであったり、それから性を買いたい男だったり、本当に危険な場に置かれて誰も助けてくれる人がいない状態なのに、「性非行」だと見られることが多い。「非行少女だ」と。児童相談所にようやくつながったら、非行少女だということですごく厳しい扱いをされて、もう2度と児童相談所に行きたくないとなってしまった子もいました。行き場がないからSNSで、家出したとか、誰か泊めてくださいと発信すると、5分くらいの間に40件、50件、男たちからアクセスがあります。それも「援助します」なんていう言葉で、性を目的に騙して近づく。しかし「援助している」と本気で思っている認知の歪んだ男もいると思います。

虐待・性虐待を受けた若年女性の孤立

そういう子たちは行き場がないので、報道でも取り上げられている「トー横」といいますが、歌舞伎町の東宝の横の「トー横」が居場所となっている実態があります。ここは12歳~14歳、それぐらいの低年齢の子たちがメン地下、メンコンというような若い女性をターゲットにした性搾取の業者たちに狙われる。これはこの頃始まった話のように報道されたり、歌舞伎町の男性支援者みたいな人が「この頃の悪質ホスト問題」なんていうふうに解説をしているけれど、とんでもないです。私が慈愛寮で働くようになった4半世紀前からあった性搾取構造で、ホストと性産業の業者・スカウトとがつながっている中で、女性たちを食い物にしていく構造は昔からありました。女の子たちが困ったときの必要を、性風俗のスカウトは、よくわかっていて必要を満たします。食べ物もお金も、携帯も、住まいも、もう親は頼れない少女や女性たちの、家庭や家族の代わりになって取り込んでいきます。

慈愛寮に来た女性たちも、何だかよくわからない携帯を持っていることがありました。「その携帯どうしたの」と未成年の子に聞くと、「これはキャッチが貸してくれている」とか、「スカウトに借りている」ということがしょっちゅうありました。ある女性は「歌舞伎は家だよ。ホストは家族だよ」と言いました。「ホストは恋人にしたら危ない。ホストは家族でいい。家族がないから、お兄さんや弟がいたらこういうふうに頼れるっていう感じだ」と説明をした子もいます。もちろん、恋人だと思い込んで騙されていく人たちもたくさんいました。そういう性風俗業に誘引されやすい人は環境的にも孤立していますし、心理的にも性虐待や性暴力の被害女性という心の傷は、また同じような危険なところに近づきやすい特徴があります。

自分に起きたことがわからない、小さい時から性虐待を親に受けた子は何が起きたかわからないままに成長していますから、自分の中で何が起きていたんだろうと確かめるような思いがあります。あるいは「ただでやられちゃった。自分の意思じゃなくやられちゃったから、今度は自分の意思でやったらどうなるかと思った」という言葉にしてみた人もいます。いろいろ葛藤する中で一番危ないところにまた近寄ってしまうことを、トラウマ精神医学のドクターが「再演」とか「再被害」という言葉で言われます。そういうことが心の中で起きてしまうような深刻な被害の状態ということです。外国にルーツのある方はビザの問題もあり、二重三重の困難の中で仕方がなく言うことを聞かざるを得ない。それぞれの抱える困難の中で、スカウトの言うことを聞いているのが一番いいみたいな形になって、性搾取の中で繰り返される性暴力に、ますます痛めつけられて病んでいく。そういう状態が繰り返されるのがコラボの活動などからも見えます。

仁藤夢乃さんは、自身が家の中に暴力があって行き場がなかった。夜の街をさまよっていたときに、声をかけてくるのはスカウトや性を買おうとする性買者だけだったということがこの活動を始めるきっかけだったと話されています。家庭が担っているものを何も与えられてこなかったので、コラボでは今まで誕生日を祝ってもらったことがない子とか、成人式だけど誰も祝ってくれないような子たちのために、居場所で誕生日を祝うとか、成人式に着物を着てみんなでお祝いしてお写真を撮るとか、そういう当たり前の生活を取り戻すことも、とても大切にしています。

売春防止法の歴史・買う男性を問わず人権理念も無し

「困難な問題を抱える女性の支援に関する法律」が売春防止法から66年を経て、2022年に成立し、この4月から施行されました。国の基本方針が2023年3月に公布され、それにのっとって都道府県は基本計画の策定が義務となっています。そろそろ発表されているところもありますが、まだ発表されていないところもある段階です。市区町村の基本計画は努力義務です。ここからどう変わっていくか。国による女性福祉の黎明だと思っていますが、本当に世が明けてくるかどうかがとても気になるところです。

ここに来るまでの歴史について少しお話しします。売春防止法ができるまでも、すごく道のりは長かったわけです。日本には公娼制度というのがありました。国が売春を認めて国家管理する制度です。これは1900年の娼妓取締規則によってですが、その少し前1872年にマリア・ルス号事件というのがあって、日本には人身売買があると国際的に批判された。それで芸娼妓解放令という形だけを整えることを日本の国家はしました。どうしてかというと、近代国家だと思われないといけないから。それで公娼制度ができて、形の上では自分の意思、女性の意思でなる。しかし前借金というのがあって、前借金を返し切らないと解放されない。ですから自己責任論です。でも、実は親兄弟や夫のために身売りする。歌舞伎や文楽で今でもやっていますね。親兄弟のために、夫のために身を投げ出すのは素晴らしいことだ、美風だと、家父長制の中でされていました。この時代、国家も女性を守ってはくれない中で廃娼運動というのが起きました。

廃娼運動は、これでは女性たちを守れないということで、公娼制度廃止をめざしました。女性たちに遊郭を脱出することを勧めます。今、芸大美術館で「大吉原展」をやっていますが、堀に囲まれている中から逃げてくるのは命がけでした。逃げてきても行くところがない。それで婦人矯風会や救世軍が、逃げてきた人たちをかくまう施設を作りました。婦人矯風会は女性たちで慈愛館をつくりました。これが慈愛寮のルーツで、1894年ですから、130年前のことです。でも、廃娼運動を一生懸命やってきた人たちがいたにもかかわらず公娼制度はなくなることはなく、1946年に占領軍が公娼制度廃止としたことで、ようやく日本政府は娼妓取締規則を廃止ししました。その時、占領軍が言っているからいうことを聞いているだけで、日本が独立したらまた公娼制度にもどっては困ると、女性たちの運動が盛り上がりました。

婦人参政権を求めた女性たち。市川房枝さんとか神近市子さんとか矯風会の人たちなどが運動して、超党派の女性議員による議員立法として最初は売春処罰法をつくろうとした。買う男性も罰せられる。売った女性も罰せられるという法律です。それが4回否決されます。これには業者の妨害がありました。遊郭の業者と男性議員が癒着して売春汚職が後で発覚します。そういうお金の流れがあって否決されます。同じ年に政府提案の売春防止法が成立しました。どうしてかというと、近代国家になるために公娼制度を作ったように、今度は国連に入るために必要な法整備だと日本の国は考えた。業者の妨害がすごかったので、買う男性を処罰しない形にしないと業者は納得しない。しかし売春防止法で業者は処罰されることになった。親が子どもを売ることも処罰される。これは良かったことです。ただ、買う男性は問われない。そして、風俗営業法ができました。風営法で性行類似行為という形で性風俗業が生き延びられるようにしたわけです。

問題なのは、勧誘する女性が罰せられることです。去年のブキウギという朝ドラで「パンパン」と呼ばれた女性たちが出てきました。街娼です。街娼の方たちは、実は進駐軍のために日本の国家から差し出された女性たちでした。そして性病が蔓延して、進駐軍用の「慰安施設」を閉じた後に、行き場を失った人たちが街娼として町に立った。その人たちを風紀を乱すとして取り締まるという、本当に差別的な部分を持った売春防止法として成立した。これでようやく公娼制度は終わり、業者も処罰されるようになりました。

しかし、女性に対しては、「要保護女子の保護更生」といって、もともとの超党派の女性議員たちが作った処罰法には「婦女子の人権を擁護し」という文言が入っていましたが、それは消えました。そして社会浄化思想になりました。売春防止法の中に「要保護女子の保護更生」が入りました。他の福祉法も、最初はあまり人権の思想はなかった。児童福祉法も障害者の福祉法も、だんだんと他の福祉法は人権に基づく改正がされていく中で、売春防止法は人権保障の理念も支援の概念もないまま、66年間、根幹に関わる改正がされずにきました。

売春防止法の改正・女性支援新法への運動

支援現場の私たちは、「こんな女性たちの深刻な実態があるのに、売春防止法での支援なんてもう限界だ」と思って声を上げてきたことがこの新法のきっかけになりました。複合的な困難を抱える女性たち、制度の狭間に置かれる女性たち、児童福祉と女性福祉の狭間に置かれている若年女性や、支援につながらなかった障害のある女性たちは、みんな性搾取の餌食になっていく。福祉に女性支援の視点が欠けていることによる2次被害もたくさんありました。障害女性が福祉の場でレイプされるとか、子どもの施設でも非常に差別的な言葉を浴びせられる。ある自立援助ホーム(児童養護施設を出た子たちなどが入る施設)で、妊娠中絶をした子に対して、男性の職員が「お前は子どもを殺したんだからな」と、しつこく言ったと聞いてそれは職員による二次被害だと思いました。妊娠は一人でできないのに、相手の男性が問われず、その女性だけの責任にしていく。そういう社会通念そのものが福祉の中にもあり、今もあります。そこも女性支援の新法の影響で、変えていかなければいけないと思います。

若年女性に対する性暴力や性的搾取は、SNSができたことによってものすごく被害が拡大しているし、性搾取の形態が巧妙化している。そして、成人年齢が引き下げられたから、なおさら若い人たちが狙われているという実態があります。しかし被害は潜在化してSOSを出せない。支援にたどり着けない女性たちがすごく増えています。

コロナ禍にあっても、婦人保護の3機関では、婦人相談員の相談は増えたけれど、婦人相談所の一時保護も婦人保護施設も利用が増えなかった。みんなコロナで仕事や住まいを失って行き場がないのに。これは仕組みに問題があるのではないか。こんなことではダメだ。本当に困った女性たちのために使われなくてはいけないと思いました。

DV法ができた時も、DVの女性たち、被害を受けている被害者たちの存在が注目されたのはとても良かったけれど、何の予算もつかなかった。売春防止法の婦人相談所が全国にあるからこれを使えばいいじゃないかという形でした。私たちの施設も、DV防止法ができた時は国の人員配置基準も施設のセキュリティも変わらずでした。でも、新聞などでDV防止法ができたということが報じられ、ニーズは増えますから、ものすごくたくさんの方たちが来られました。私たちはこれではもう無理だということで、声を上げていきましたが、どうにも事態が動かない。

それで全国の婦人保護施設の連絡協議会の会長が民主党政権の時、厚労大臣の小宮山洋子さんに直訴したのです。この間のロビー活動でわかったのは、普通の国会議員は売春防止法を知らないということです。でも小宮山さんは知っていた。児童買春・ポルノ禁止法を作った時の中心になった議員さんだったからです。売春防止法をなんとかしたいということでお話に行ったら、「私も売春防止法はなんとかしなくてはいけないと思っていました」と、すぐ反応してくださって、翌月には「婦人保護事業の課題に関する検討会」が設置されました。これで変わるかと思いました。その時に売春防止法第4章の保護更生は、新しい女性の人権のための法律にしないといけないということは、すでに厚労省の考えにもありました。しかし民主党政権が終わって、この検討会は5回で終了しました。

それからも私たちはこの灯を絶やしてはいけないとロビー活動をしたり、全国各地で地域フォーラムを開いて訴えました。2018年に厚労省子ども家庭局長の下に「困難な問題を抱える女性への支援に関する検討会」が設置され、初めて政策課題となりました。2019年の中間まとめで、新たな枠組みが必要だとされ、2022年5月19日にようやく「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」が成立しました。

新法に掲げられた女性支援のキーワード

新法に掲げられた女性支援のキーワードと思えるものがあります。目的は「女性は女性であることにより、さまざまな困難な問題に直面する」、ここが新たな法律の出発点です。そして困難な問題を抱える女性の定義に、「性的な被害」が入りました。「性的な被害」という言葉が法律の本文に入ったのは初めてだそうです。基本理念の中には「心身の健康の回復」があります。私たちは「被害からの回復」ということをずっと訴えていました。そしてセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(SRHR)ですね。「性と生殖のための健康と権利」、これは権利だと書いてほしいと思いましたが、自民党はだめなようですね。歩み寄った表現で、「心身の健康の回復のための援助」という言葉が入りました。でも、「回復」という言葉がとても大事だと私たちは思いました。それは本当に痛めつけられてすぐに立ち上がることができないような女性たちを見てきたからです。「女性の意思の尊重」、これは当たり前のことのようですけれど、初めて明記されました。しかしこれしか選択の余地がないという中で「どうしますか」と言われて、「いいです」というほかなかったら、それは意思の尊重が保障されているとは言えないわけです。ですから、意思が尊重されるためには豊かな支援メニューが必要です。

この新法で一番特徴的なのは、「民間団体との協働」が謳われたことです。行政と民間団体との対等な関係での協働ということ。今までの婦人相談所、婦人相談院、婦人保護施設という公的な性格を持つ機関だけではなくて民間の柔軟な支援と結びつくことで、初めて女性たちに必要な支援が届くということが明記されました。「国及び地方公共団体の責務として」、これも福祉法としては当たり前のことですけれど、それが今までなかったということです。

では売春防止法はどうなったか。この4月施行で、目的の「・・売春を行うおそれのある女子に対する補導処分及び保護厚生の措置を講ずる・・」の部分が抜けました。ただ、1章2章はそのまま残って、2章の中にある5条の勧誘罪は変わりません。「パンパン」と蔑まれた女性を罰したのと同じ法律で、いま歌舞伎町の大久保公園周辺の女性たちも逮捕されています。買う男性は問われない。これが一番大きな今後の課題です。第3章の補導処分、婦人補導院という使われもしなかったものも削除になり、婦人保護事業は削除になり新しい法律になりました。一番の問題は、性売買のない社会を求めて、私たちはどういう法律をこれから作っていったらいいのか。北欧モデルとしては買春禁止法があります。そういった検討がされていくことが、これからの大きな課題になっていくと思います。

なぜ“女性”支援なのか?コロナ禍で顕在化

今日は、なぜ女性支援なのかということを皆さんと確認し合いたいと思いました。それは、思いを同じくしてきた方たちの中にも、必ずしもこの女性支援ということが理解され尽くしてはいないと感じているからです。ロビーイングをして国会議員のところを回っていたときに、多くは男性議員から、「なんで女性なの?」と言われたんですね。「生活困窮と一緒にはダメなの?」「男性と一緒はダメなの?」とか、「男も性被害とかあるんじゃないのかな?」とか、そういうことは必ず聞かれてきました。なぜ女性支援が必要なのかということですね。

SDGsの目標5にも、「ジェンダーの平等を達成し全ての女性と女児のエンパワーメントを図る」とあります。なぜ「女性と女児」なのかを考えていきたい。日本はジェンダーギャップ指数世界125位です。前の年より9位下がっています。そういう中、コロナ禍で女性支援のニーズは顕在化しました。まず2020年4月にステイホームになって、その時に国連のグテーレス事務総長が「パンデミックで家庭内での女性や子どもへの暴力が起きる」ということを警告しました。その通りのことが日本でも起きたわけです。

警告は4月だったと思いますが、8月あたりで女性の自殺だけが急増しました。特に若い女性の自殺が増えました。民間団体には夫や親が家に居るようになり、暴力がひどく家にいられないという、ものすごいSOSが寄せられました。コラボもその頃ホテル支援をすごくやっていました。東京都は2020年の年の瀬にホテル支援の予算を少し付けたけれど、コラボはその前からホテル支援をしました。とてもシェルターでは間に合わず、ちょうど閉鎖中のホテルの協力もありました。こういう実態を訴えることで、自治体もホテルのお金を年越しに当たっては出さなきゃしょうがない、ということで予算化した経緯がありました。

休業要請に応じた職場で最初に職を失うのは、非正規雇用の多い女性です。男性も非正規雇用の方が先に切られたはずです。蓄えも尽きて住まいを失う。ホームレスの女性の傷害致死事件が起きたのを覚えていらっしゃると思います。あの女性は大林さんとおっしゃいます。女性たちは「大林さんは私だ」と、本当に多くの女性がそう思って集会をしたことを覚えています。あの女性は若いときはお写真を見てもキラキラ輝いていて演劇などをされていた。結婚されてDVで離婚した後、一回も正規の仕事に就けませんでした。コロナのときはスーパーの試食パートをしていた。試食はコロナで全てできなくなって、それで職を失ってホームレスになった。意地悪な凸凹した椅子で横になることもできず、座って寝ていたところを襲われて亡くなった。それは本当に、女性にとって、いつ誰がそうなってもおかしくない状態だったと思います。

特別定額給付金が支給されたのも、つい4年前です。世帯主に支給されたから、DVで避難している人は手にできない。それで早い時期から民間のシェルターの団体などが訴えました。家族からの暴力を受けている虐待の若い女性たちもいます。そういうところはコラボなども一生懸命国会議員さんに働きかけて、毎日のように厚労省からの通知が変更になって、なんとか取りこぼさないようになりました。役所の婦人相談員は毎日のように「よかった。じゃあこの人も救える、この人も救える」というような状態で特例措置が取られ、特例措置を申請したのはほとんどが女性でした。性的搾取に直面するのも女性たちでした。

本当にお金がない、どうしたらいいだろうかというときに芸能人の差別発言が問題になりました。お笑い芸人が「コロナが終わったら、お金がなくなったお嬢がみんな性風俗に来るから、楽しみに待っている」と言ったんですね。本当にひどい話で、女性たちの怒りは爆発しました。でも、それはある意味、実態を反映している言葉で、それを「楽しみにしている」というあからさまな女性蔑視が明らかになったという意味では「なるほど。これが日本の社会ね」と思いました。女性たちは不本意にも性風俗業に就いたり道に立ったりせざるを得なかった人たちもいるだろうし、その中で病み、またそれがどうしても嫌で命を絶った人もいるでしょう。特に若い女性に自殺が増えたことに表れました。そういう中で役所に行くことは本当にハードルの高いことで、そこにたどり着くまでにどんなに大変かということも分かってきました。でも婦人相談所の一時保護の数は全然増えない。この状況に押されて女性支援の新法が成立することにつながった。それは多くの女性たちの犠牲の上に成り立った法律だったということが言えると思っていて、に亡くなった女性たちのことを絶対に忘れてはいけないと思います。

性虐待・性暴力に起因する生活困難の深刻さ

途上国だけではなくて日本でも、女性はマイノリティとしての困難を抱えていて、命の危険にすらさらされていることが明らかになってきました。例えば慈愛寮には1回も受診しないで陣痛になって、周りの人が気がついて救急車を呼んでくれて、お母さんも赤ちゃんも死ぬところだったというような方たちも入ってこられていました。周りの人に気づかれないままに、赤ちゃんが亡くなるケースも多かったと思います。そういうときに責められるのは女性、逮捕されるのも女性です。一人で妊娠できるわけはないのに、男性が問われることはありません。そういう人たちがたどり着いた婦人保護施設で私たちが女性たちから教えられてきたことは、性虐待や性暴力の被害によって本当に深刻な生活上の困難が起きるということです。

まず、信頼感を喪失します。人間関係の距離感もわからなくなる。本当だったら自分を守ってくれるはずの父親から性虐待を受けてきたような方の場合、人間関係の距離や信頼という大もとの線引きがわからなくなってしまう。生活の中で、お風呂に入るのが苦手とか、浴槽に入れないとか布団に寝られないなどが、虐待や性虐待の影響であることを女性たちから教えられました。手洗いやシャワーが止まらない、カギ閉めが気になって出かけられない。そういう強迫性の症状もあり、ぼんやりしたり、色々忘れてしまう。忘れないと生きてこられなかったのです。起きられないほどの深い眠り、道に迷うなど、普通だったらそうじゃないと思うことがたくさん起きる。あまりにも苦しくて、解離してなんとか生き延びてきた。それらが性虐待や性暴力の影響だったことが、精神医学のトラウマ精神医学という中でも明らかにされてきました。

夜寝ていたときに性暴力を受けた人は怖くて寝られないです。朝日が差してくると、やっと眠れるみたいなことですから、普通の生活のパターンがなかなかできない。フラッシュバックやパニック障害が起きる。いろいろな身体症状が出るし、依存症も出る。自傷行為もある。「再演」「再被害」としての性産業に近づいてしまうこともある。そういう深刻さは婦人保護施設の中で、私たちが女性たちからものすごく教えられてきたことで、このことを解決しないでどうしたらいいんだというふうに思いました。

山本潤さんという法制審議会の委員として刑法性、犯罪の改正に尽力された方が書かれた「13歳『私』をなくした私」(朝日文庫)は、とてもいい本なのでぜひ読んでいただきたいです。山本潤さんは13歳の時から父親の性暴力を受けてきた。その体験だけでなく、自分がいろんな症状を起こして、それが苦しくて、自分に起こっていることは何だろうとずっと学び続けた。カナダにまで勉強に行き、そういう中で自分に起きてきたことを知ろうとしながら回復の道を一生懸命歩まれました。山本さんは、「父と離れて性的被害が終わった。しかし、その影響は長く続いた。回復に何十年もかかることを、私も身近な人も知らなかった。どうして私は普通の人のように生きられないのか理解できず、悩み苦しんだ」と書いておられます。文庫版には、性暴力被害を実名で告発した伊藤詩織さんが解説を書いています。山本潤さんは、いろいろな知識や回復の方法を自分で手繰り寄せながら、法制審議会に当事者としても関わってくださった。

刑法の性犯罪の規定が2017年には110年ぶりに改定されたけれど、ごく一部でした。暴行強迫要件はそのまま残り、3年後の見直しに端を発して2023年にもう一度改正になったときに、初めて不同意性交等罪という言葉が使われたことはすごく大きかったと思います。まだまだ不十分だけれども、性交同意年齢も3歳だけ上がったとか、16歳未満へのいわゆるグルーミングですね。性暴力を、わいせつを目的とした面会要求が罪になるというような、そういう改正がされてきました。2017年には、女性だけではなくて男性にも及ぶ形になったことも大きかったと思います。それは山本さんや伊藤さんや、それから2018年にフラワーデモが始まり、これが全国に広がった。女性たちが自分たちのことに耳を傾けてくれる人の存在によって、声を発することができるようになったことが非常に大きかったと思います。

国の基本方針「施策の対象者及び基本理念」

こういう経緯の中でできた女性支援新法の国の基本方針は、私たち支援現場にいた者から見ても、被害経験者の方から見てもなかなかよく書けていると思います。国の基本方針の施策の対象者及び基本理念というところに「法はそもそも女性が女性であることにより、性暴力や性的虐待、性的搾取等の性的な被害により遭遇しやすい状況にあることや、予期せぬ妊娠等の女性特有の問題が存在することのほか、不安定な就労状況や経済的困窮、孤立などの社会経済的困難に陥る恐れがあることを前提としたものであり、このような問題意識の下、法が定義する状況に当てはまる女性であれば、年齢、障害の有無、国籍を問わず、性的搾取により従前から婦人保護事業の対象になってきたものを含め、必要に応じて法による支援の対象者となる」ということがはっきり書かれました。

売春防止法では、「要保護女子の保護更生」とされ、厚労省通知には街娼であった女性たちのことが、公文書に「闇の女」と書かれていた。そういうところからようやく脱却できたと思いました。売春防止法による要保護女子は、「性的搾取により従前から婦人保護事業の対象になってきたもの」と位置づけ直されました。これが新法の中核ともいえる支援ですが、被害による心的外傷から回復して安定的な生活を営めるようになるための中長期的な支援が必要で、性暴力、性的虐待、性的搾取は、女性の尊厳を傷つけて女性の人格を軽視するものであるということ。これが書かれたことは非常に大きいことだと思います。

ステージに合わせたさまざまな支援の留意点

では、この新法の中核ともいえる支援を見つめていただきながら、なぜ女性支援かということをもう一度整理してみたいと思います。ロビー活動をしていたら、「男だって性被害もあるでしょう」とか「なんで女性だけなの」と言われたと言いました。もちろん当然、性被害は男性にもあります。ジャニーズが昨今問題になりましたけれど、学校や施設の中でも男児に対する被害、いじめの中や権力関係を利用されて起きてきたことは、私たちも従前から訴えてきたところでもあります。でも社会の中で性暴力、性虐待、性搾取による被害はないもののように扱われてきました。

そして、MeToo運動や日本での伊藤詩織さんや山本潤さんやフラワーデモの中でようやく語られ始めた女性たちの存在。刑法がマイノリティである女性たちの声によって変わったという、そのことが例えばジャニーズジュニアだった男性たちの背中を押したと思います。これが最初から「男も女もだよね」、「女だけじゃないでしょ」と言っていたら、この状況は決して変わらなかったわけです。やはり一番弱いところに置かれた人たちの声に焦点を合わせて、社会を変えていく。そのことで、もっと広い範囲の、例えばマジョリティである男性の中のマイノリティであったジャニーズジュニアだった人たちのところにも変化の波が起きてくる。そういうことが社会を変えていくと思います。ですからやはり、女性支援。ここからの出発は大きなものがあると思います。

さらに、基本方針には困難を抱える女性たちの姿が非常に的確に、そして詳しくも述べられています。「女性たちが過去の経験によって、性的搾取の構造に何回も取り込まれやすい状況にある。」これは重要です。公的な相談機関が1回限りみたいなことを言ったりする。とんでもないですね。途切れても途切れても、繰り返しつながって支えていく支援の姿勢が必要です。「性的搾取による被害が性非行として捉えられやすい若年女性については、背後にある虐待、暴力、貧困、家族問題、孤立、障害などの問題を十分に踏まえる」ということが、この国の基本方針に書かれたということは大きかったと思います。そして「児童相談所等の関係機関と連携しつつも」という、「しつつも」が非常にいいと思っています。公的機関はだいたい、児童相談所は女性相談で、女性相談所は児童相談所と押しつけあいっこしますよね。そうではなく、連携しつつも狭間に落ちるようなことのないように一歩踏み込むことが言われています。

妊娠、出産、中絶などと、中絶が入ったこともすごく大きかったと思います。これこそ「性と生殖に関する健康と権利」です。女性たちは傷つけられてきた結果、自分たちの意思や意見を決定したり、表明できるようになるためにも支援が必要なことが多い、ということもちゃんと踏まえている。意思決定過程を支えることが大事です。心身の健康の回復を時間をかけて図っていくことによって、性搾取の構造から離れていくことができる。ここで特に言いたいのは、自立というのは右肩上がりのとんとん拍子で描かれやすいんですね。生活保護もそうですけれど、ともすると行政は、どんどん働けるようになって、国の世話にならないで生きなさいという、これが自立だとなりがちである。けれどもそうではない、ということがはっきり書かれています。自立とは経済的自立の意味を指すものではなくて、個々の状況や希望や意思に応じて必要な福祉サービスも利用しながら、その人らしい生活を獲得していくことだということが述べられています。

民間団体との協働の経験・Colaboへの攻撃

「女性支援新法で変わるか」、ここは一番大問題のところです。民間団体との協働が重要だと書かれ、民間団体は都道府県や市町村と対等な立場で協働するということが書かれている。そして人材や運営費の確保が困難な民間団体への支援、国や地方公共団体による支援が必要で、民間団体の安全かつ安定的な運営継続にあたって支援していくと書いてあります。しかし現実はコラボへの攻撃が起きたとき、行政は引いてしまいました。一言「遺憾だ」と言えばいいのに、むしろコラボの側を押さえつけようとした。それは、他の民間団体に攻撃が波及することを招きました。攻撃した人たちは「成功体験」ですから、面白いからもっともっとやる。そして、業者とつながる団体などが支援と称していろいろ出てきている現状があります。

コラボへの攻撃を中心とする若年女性民間団体への攻撃と、行政のことをまとめましたが、本当にびっくりしたのは誹謗中傷です。情報公開請求をして、それをネットにさらす。「コラボに訴えられた」といってお金を集める。YouTubeでそれを再生して、お金を集めるマネタイズ。金集めの道具になっている。それをまた議員と名乗つく人たちが使います。YouTubeでコラボ叩きをすると、YouTubeの回数が稼げる。そうすると自分の票と金が増える、というような使い方をする人がいることは、私などには考えもつかなかったことで、本当に大きな驚きであり怒りです。実際にコラボのバスが傷つけられたり、シェルターの場所が晒されて使えなくなり、行き場のない女性たちへの支援ができない状態に追い込まれたという事実です。そこをはね返しながらやろうとしている女性支援団体を、行政は傍観し、我が身を守ることに汲々として、女性支援団体の自己責任みたいな形にしようとする。そういう状況が一昨年から去年ずっと続いてきました。

コラボは妨害者を提訴して、7月18日に最初の判決の予定です。そういう状況の中で、去年の3月に新宿区役所前も追い出されました。歌舞伎町を追い出されたら、お金をもらって雇われていた妨害男たちが来なくなりました。歌舞伎町の性売買の業者たちが金を出していたことがよくわかりました。私などはあまりツイッター、Xとか見ないのでわからないけれど、そういうのを見ると誰だというのも大体予想がつくみたいです。私は、売防法ができたときに市川房枝さんが「命の危険も感じる」と言った、同じ状況が起きていると思います。性売買の業者は、コラボが歌舞伎町で活動することが怖かったのだと思います。コラボに限らず、女性支援全体へのバックラッシュが起きていることを皆さんと共有したいと思いました。

女性支援新法への攻撃にもつながりました。コラボの仁藤さんは国の基本方針をつくった有識者会議の構成員でした。厚労省は妨害を恐れてオンラインだけの傍聴にしたところ、「暇空茜」という妨害者は傍聴を呼びかけ、開催時にゲームのようにツイートして遊ぶわけですね。「なんで女だけなんだ」とか「女性支援新法を無効化することが俺たちの最終目標」みたいにして、ゲームのように陰謀論をいうわけです。その4つの団体の頭文字を取って、これを村木厚子が裏で糸を引いているとか。事実の「じ」の字もないような陰謀論です。「暇アノン」と私たちは言っていますが、本当に「Qアノン」と一緒だなと思いました。「仁藤に反対するパブリックコメントを寄せろ」と言ってSNSで煽りました。厚労省は予定していた有識者会議の回数を減らすことになりました。

なんとか国の基本方針は大きなところは守られたと思います。けれども、仁藤さんが一生懸命主張していた、女性支援の団体は、男性目線でなく女性を中心とした支援団体にしてほしいということは入らなかった。その結果、男性の目線だったり、当たり前のように業者ともツーカーになったりするような「支援」と称する人たちが増えているのが実態です。

女性支援へのバックラッシュ

AV新法自体は、私は大いに問題のある法律だと思っています。なぜならば、性行為の実写を認めて対等ではもともとありえない業者と女性との契約関係を基本にしているという点で、私は阻止したい気持ちで反対していました。しかしそんな法律でもAV業者にとっては脅威となっているらしいです。今年は見直しの時期になっていますが、今もAV業者は必死で「AVがなくなる」とか「AV業界が崩壊の危機」という旗を立てて、ティッシュペーパーを配ったり、女性たちを使って街宣をやっている。本当に酷いバックラッシュだと思います。

今一番問題なのは、離婚後共同親権の問題です。自民党は法制審議会が両論併記で答申を出した時に政治介入までして、拙速に進めようとしています。DVや虐待は除くけれど、当事者同士で合意ができない場合は家庭裁判所が決めるということで、共同親権が導入されてしまいそうです。DV虐待は除くと言っても、どうやって除くのかというと、判断は家庭裁判所です。この共同親権は子どもを守るためだというのが「錦の御旗」ですが、対立や葛藤のある両親の間で、共同親権になったら子どもは守れません。子どもは必要な教育も医療も受けられなくなります。「無限ループ」と言いますが、一方が許可して他方が不許可をする。お母さんがいいと思っても、お父さんがダメという。共同親権を声高に訴えている男性たちを見ると、お父さんが嫌がらせ目的の不許可はあると思います。

例えば、特別支援学校に行かせた方がいいのではないかとかというときに、「いや、反対だ」と。お母さんが教育委員会に相談しても、父親の反対があればそれは決められない。いじめにあっているから転校させたいと思っても、引っ越ししたいと思っても、転居もできないですね。共同親権になったら、転居したくても片方が知らないところにはいけないわけです。海外修学旅行も、枝野議員が国会質問で(立憲民主党は賛成したのにとても不思議なところですが)海外修学旅行のパスポートが、片方の親が反対したら取れないということを追求しておられました。そのとおりです。

医療ではカテーテル検査などの侵襲性のある検査を受けることが、進められなくなる可能性がある。今死んでしまうとしたら急迫の事態になるわけです。けれども心配だから検査を受けましょうとなったときに、これはお医者さんがひるんでしまいますね。片方からダメと言われたら決められない。そのことによって必要な医療が遅れていく。

私が一番困ったことになると思うのは、人工妊娠中絶です。今でも未成年の場合、親の許可が必要です。共同親権になって片方がダメだと言ったら、できなくなります。女の子がいろいろ考えたけれど、今回は中絶をして、進学しようと考えたときにも、それができなくなるかもしれない。期限のあることですから、ずるずると産むしかなくなる。そして、産んでちゃんと育ててくれる人に託そうと思って特別養子というときも、未成年の子が産んだお子さんは、その未成年の子の親が親権を持ちます。共同親権だとこれが決められなくなる可能性があります。養育費が支払われない場合でも、父母の収入が合算されて、就学支援金とか保育料とか高校授業料の無償化等が決まります。養育費も払わないのに未成年の子どもが産んだ子の特別養子も認めないで、母親と赤ちゃんを産んだ娘に全部押し付けられていく。こういうことが平気で起こっていくだろうことを、私はすごく心配だと思っています。

支え合う安心な社会の扉としての“女性支援”

家庭裁判所に認定されない命に関わるDVとか虐待があるであろうことは、私たち現場にいた者は絶対にあると確信します。DVの支配によって無力化されて、自分で止めたかったのに止められずに子どもが虐待死していった。お母さんも止められないで、父親から殺された女の子たちの千葉や野田の例や、いろいろこれまで見てきました。大体そういう加害者は外面がいいんですね。暴力を受けている母親のほうはフリーズしてしまって、言葉も出ない。片方で子どもたちは、外面の良いお父さんだから「お父さんと一緒でいいわね」なんて言われて、言うことを聞かないともっと虐待されるので、訴えられない。訴えられない中で、虐待する親からの子連れ避難も転居になりますから、できないことになってしまいます。家庭裁判所がそれをちゃんと認定できるかといったら、これまでの例で、できていないことはたくさん見てきています。家庭裁判所は人手不足ですから、そんなに丁寧に見られない。共同親権に関して、子どもたちの命と人生に関わる問題に、子どもの意見表明権がないんですね。

私は慈愛寮に来る前は母子生活支援施設にいて、本当にしつこく追っかけてくる父親に出会いました。最初はものすごく外面が良くて、大きな誕生日のケーキなんか持ってきたりする。こちらはケーキは受け取りお渡ししますけれども、会わせることはできませんと丁重にお断りすると、ものすごく暴力的になっていくのをしょっちゅう見てきました。そういう父親像が、私などは刷り込まれています。でも考えてみたらそういう父親ばかりじゃなく、ちゃんと合意形成できる離婚もあるわけです。前に荻上チキさんが「暮らしの手帖」の「みらいめがね」という連載で、「今、子どもたちには『パパの家』と『ママの家』がある。二人はどちらに行き来するのも自由だ。いずれの家に入る時も『ただいま』と言う。二つの家で、ご飯を食べ、遊び、学び、眠る」と書いてらっしゃったのを読んで、ああそうか、こういうお父さんもいるのだなと再認識しました。私が母子生活支援施設で出会ってきたのは、話し合うことが不可能な、暴力になる父親ばかりだったけれど、別れる時に子どもを育てることを話し合える人たちもいるわけです。そして、話し合って離婚できる両親は、今の単独親権であっても問題なく共同養育ができているわけです。

共同養育できないのは話し合いができない人たちで、どうにも手がつけられない、話し合えない状態の人たちに共同親権を強制しようというのが、今回の離婚後共同親権の法案です。これは絶対に廃案にしなければなりません。子どもたちは許可・不許可の無限ループになっていたら、やっぱり自分の希望する学校も行けないんだなとか、だんだんに諦めていくと思います。子どもたちのためにならない。人生を諦めて病んでいく女性と子どもたちの姿が本当に見えるので、何とか廃案にしたいと私は思っています。

女性支援についてお話をしてきまして、女性支援新法、嵐の中での船出だと思います。マイノリティや社会的弱者が生きやすい社会は、全ての人にとって安心な社会です。女性が生きやすい社会は男性も生きやすくなるわけです。支え合う安心な社会の扉として、この法律をちゃんと女性福祉の実効性のあるものに着地させていきたいと思います。そのためには女性支援の攻撃に屈しないで、国や地方自治体がしっかりして、予算も伴った変革にしていきたいです。今ぼちぼち出てきた各県の基本計画は、本当に具体性がなく、何とかこれが具体的なものになっていくように、皆さんで注視して声を上げ続けていきたいと思います。

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