私と憲法265号(2023年5月25日号)


歴史が大きく動くとき

全国の仲間とつながり、岸田政権を揺るがそう

すべて戦争につながる悪法続出の今国会

5月19日からG7サミットが広島で始まった。

核の傘下にいてかつて安倍元首相は「核シェアリング」だと言い、現岸田政権も「敵基地攻撃能力の保有」だと言っている主催国日本の下に核保有国が集まり、核兵器廃絶と真逆の政治をしながら広島で「核のない世界G7サミットを開催するなど、言語道断だ。G7の加盟国に核兵器禁止条約に批准している国は一つもない。このような広島の政治利用を決して許すことはできない。

国会では悪法が続出し、通常国会会期末に向けて国会内外の闘いは激しくなっている。入管法の改悪と同時並行でGX束ね法案、軍需産業支援法、軍拡財源確保特措法案などが今国会で通過しようとしている。これらの悪法に共通することはすべて戦争につながるということだ。戦争は差別排外主義に他ならない。日本に来た外国人労働者を低賃金で長時間、重労働をさせ、使い捨てした上に、まるで犯罪者かのような扱いを受ける。入管施設では暴行が相次ぎ、ウィシュマサンダマリさんは適切な医療処置も行われず食事も与えられず、亡くなった。このような事件が後を絶たない中での入管法の改悪は許されない。在日外国人の人権を踏みにじるその先に戦争があるということ、戦争によって排外主義がより吹き荒れることは歴史で散々学んできたはずだ。それなのにも関わらず、また同じ過ちを繰り返すというのか。

100年前の関東大震災時に日本が行った、朝鮮人大虐殺を忘れてはならない。差別排外法=入管法改悪と戦争につながる悪法を通そうとしている与党その他の政党に国会に居座る資格はない。とりわけ、日本維新の会の梅村みずほ議員による差別・虚偽発言は議員辞職にあたるものだ。世論の批判から梅村氏は更迭されたが、梅村氏が書いた原稿は維新の会として出したものではないか。維新の会として責任を取るべきであり、梅村氏のみのトカゲのしっぽ切では済まされない。今回の梅村発言は維新の本質をそのまま映し出しているに等しかった。差別排外主義の党、それが日本維新の会だ。このような党とは一緒には闘えないのだということをきっぱりと市民の方から再度声を上げていこう。

異常なペース開催で改憲へすすむ憲法審査会

衆議院憲法審査会が毎週開催されている。はっきり言って異常なペースとしかいいようがない。6月21日の会期末に向けて毎週、改憲へと話が進められていることに危機感を持ち、全力で国会外での闘いを強めよう。衆議院ほどではないが、それでも頻繁に開催されてしまっている参院から)参議院の憲法審査会では先日、自民党は合区の解消は法改正でできると言い始めた。何のための改憲4項目だったのであろうか。改憲のための改憲は許されない。改憲への動きと歩みをそろえて進められている、軍拡財源確保特措法や軍需産業支援法などの戦争への法整備を許さず世論を巻き込んで反戦運動を広めていこう。

市民と野党の共闘に活路を開こう

先日、立憲民主党代表の泉健太氏が連合会長の芳野友子氏と会談し、次期衆議院選挙では日本共産党とは候補者調整しないといった話しあいの内容が報道された。この間の国政や首長選挙などにおける一人区での画期的勝利は市民と野党共闘にこそあったのだということを泉氏はもう一度思い出していただきたい。野党共闘だけではなく、その前に市民がいるということを忘れてはならない。泉氏の言動により、全国各地の心ある立憲民主党関係の人たちが困っているということを念頭に置き、私たちは市民と野党の共闘の旗を掲げ続け、つないだ手を離さずに「共闘にこそ活路あり」と言い続けていかなければならない。泉氏のここ一年の動きを振り返ると、国葬出席をにおわせる発言から一転、執行部は欠席をすると決めたり、入管法を巡っての立憲の動きもそうだが、市民の声が大きければ大きいほど、態度を変えてきた。岸田首相よりも聞く耳はあるということだ。つまり、私たちの市民運動が強くなることにこそ、市民と野党の共闘を進める力がある。諦めず連帯を求めていこう。

先月行われた統一自治体議員選挙で、東京の八王子市では選挙運動と同時に市民による萩生田光一氏とカルト集団統一協会との癒着について展開したチラシを数万作成し、手配りでまき、自民党の落選運動を行った。それを見た統一協会が選挙期間中に反撃ビラを配布。発見した仲間からの知らせにより即座に統一協会と政治家の癒着ビラを増刷りし、再びまき直すという市民の大健闘が繰り広げられた。その結果、自民党は前回よりも8,000票も落とし、議席も失った。一方、市民連合に結集する無所属を含めた立憲野党は現職も新人も1人残さずに当選することができた。市民運動が本気で取り組めば結果は必ずついてくる。自治体選挙などでの疲れやあまりに多くの課題に押しつぶされ、流されてしまいそうだが、ここを踏ん張り、一つ一つの闘いを丁寧に取り組んでいこう。

さらなる大きな運動の高揚と様々な課題はすべて改憲への道=戦争への道に繋がっているのだという一致点で文字通り「総がかり」での運動を全国各地で作り出していこう。いま歴史が大きく動こうとしている。「あの時もっとこうしていれば」といった後悔はしたくない。新たな戦前にしないために全国各地の仲間と繋がって岸田政権を揺るがそう。
(事務局長 菱山南帆子)

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“新たな戦前”への危機感抱き25000人が結集―新たな戦前にさせない! 守ろう平和といのちとくらし2023憲法大集会―

池上 仁(会員)    

好天に恵まれ続々有明防災公園に向かう人の波、何人も組合関係の知り合いに会ったが、今日はメモ取りに専念しなくてはならないのでメインステージの近くに腰を据える。あきおさん(フェミニスト・コメディアン)の歯切れのいい司会で集会が始まる。

初めに集会実行委員会の高田健さんが開会挨拶・・・2015年5月3日、横浜臨港パークでそれまで分散していた運動が大きく統一して憲法集会を開催した。そこで先日亡くなられた大江健三郎さんが力強い挨拶をしてくれた――私たちははっきりした意志を持っている。今日の集会ビラに記されている。私が今一番大切だと思う言葉だ。「私たちは、『平和』と『いのちの尊厳』を基本に、日本国憲法を守り、生かします。集団的自衛権の行使に反対し、戦争のためのすべての法制度に反対します。脱原発社会を求めます。平等な社会を希求し、貧困・格差の是正を求めます。人権をまもり差別を許さず、多文化の共生の社会を求めます」これが私たちの思想、生き方の根本にある――と。

本日の集会のタイトルは「あらたな戦前にさせない!守ろう平和といのちとくらし 2023憲法大集会」。「新たな戦前」という言葉が現実味を持って語られる時代になった。この言葉は日本の支配層が海外で米国の戦争の手助けをする80年代から、一部の人びとの間で語られてきた。このフレーズが人々の口に膾炙するようになったのは昨年末、テレビ番組でタレントのタモリさんが、黒柳徹子さんに「来年はどんな年になりますか」と問われて、「新たな戦前になるんじゃないですかね」と応じたことからだ。今、岸田政権の下で私たちは「新たな戦前」をめぐる分水嶺にある。安倍元首相から始まったこの改憲の動きには「立憲主義の破壊」という際立った特徴がある。それまでの自民党の改憲の動きは、それが建前であるにせよ立憲主義への一定の敬意があった。だから歴代政権は日米軍事同盟下での軍国主義の復活を狙いつつも、まず憲法9条を変えようと必死になっていた。安倍政権とそれを引き継いだ岸田政権はこの関係を恥じらいもなく「転倒」させた。専守防衛を放棄して敵基地攻撃能力をもつなど、戦争の準備を進めている。敵基地攻撃能力をもったら攻撃したくなる、戦争の準備をしたら戦争がしたくなる、私たちがしなくてはならないことは平和の準備だ。

ロシアのウクライナ侵略は許されない。即時撤退して平和を実現しなくてはならない。このロシアの戦争にかこつけて、岸田政権によって台湾有事、朝鮮有事が声高に語られている。国会の憲法審査会では緊急事態条項改憲と自衛隊挿入改憲が語られ、本日の産経新聞で岸田首相は1面トップで「自分の任期中に改憲をする」と宣言している。この岸田発言は許せない。絶対にこれを止めなくてはならない。私たちは腹をくくって「あたらしい戦前」を拒否しなくてはならない。戦争に反対し、軍拡に反対して行動するときだ。

かつて、「日米ガイドライン安保」が語られるようになった1978年の、9月の朝日新聞の歌壇に「徴兵は命かけても阻むべし 母、祖母、おみな牢に満つるとも」という石井百代さんの短歌がのったことは知られている。歌壇の選者の近藤芳美さんは「ひとつの時代を生きてきたもののひそかな怒りの思いがあらわれている」と評した。この「戦争の時代」を生きた石井さんの思いを受け継ごう。そして本日の集会を契機に、反戦平和の大きな波を巻き起こそう!来年9月までに国民投票など絶対にさせない!

続いて3人の方のスピーチ。

清末愛砂さん(室蘭工業大学教授・憲法学)
「新たな戦前」という言葉にもやもやとした思いをしつつも、それが“生きる”という根源的な営みと対極にある何かを指すのではないかと思った。 “生きる”とは将来への希望と自分がひとつの人格を持つ生身の人間であることを実感させ、それを支える尊厳というものが備わっていること。それを教えてくれたのはパレスチナの特にガザの人々、アフガニスタンの女性たち、不条理に対する怒りを胸に闘っている人々だ。願いは持続可能な小さな幸福であり、これを支えるものが人間の尊厳だ。「新たな戦前」はこれを否定するものと理解する。職場の労働組合委員長を務めて直面したこと、それは非常勤職員の時給1000円の要求が通らない。憲法25条「健康で文化的な…」とあるのに数10円のアップすら拒否さる。片や防衛費予算の43兆円への増大、全く異次元のことに思える。武力で脅し戦争を仕掛けようとする発想は、権力関係を利用し他者を支配しようとする?Ⅴ、ハラスメントと似ている。彼らの冷笑をはねつけて声を出していこう。

泉川友樹さん(沖縄大学地域研究所特別研究員)
沖縄は昨年復帰50周年を迎えた。1995年に起きた米兵による少女レイプ事件に対し85000人の大抗議集会が行われ、高校生だった私も学校を休んで参加した。今は亡き母親はウチナンチュなら行ってこいと言って送り出した。2004年、母校沖縄国際大学に米軍ヘリが墜落。私は中国留学から帰り挨拶回りをしていた。もし私が大学に行くのがもう少し早かったら、こうして話をできていないかもしれなかった。状況は悪化している。それは主権者である私たちの責任でもある。中国脅威論について、1972年は日中国交正常化の年でもあった。9月29日の日中共同声明は日本による中国侵略の処理としての重みのある文書だ。日中平和友好条約締結から45年、憲法は条約遵守義務を定めている。昨年の日中貿易総額は43兆円だ。軍事緊張を煽るのではなく台湾問題の平和的解決に向けて促すべきだ。尖閣問題では2014年に棚上げ合意がなされている。今年は日中防衛当局間にホットラインが設けられた。沖縄県議会は3月30日に日中間の平和的問題解決を求める意見書を可決した。1879年の琉球処分の前、琉球国は万国津梁、周辺国と友好関係を保つ独立国だった。冷戦の終焉宣言は地中海のマルタ島だった。沖縄は新たな冷戦を終結させる東洋のマルタ島であるべきだ。

東村アキコさん(漫画家)はビデオメッセージで参加
軍拡に反対する女性たちの会の記者会見に同席した。今日は韓国に来ている。韓国・日本で漫画を同時発表している。台湾・中国でも翻訳されている。仕事をしながらテレビをつけっぱなしにしているが、軍拡のことが全く報道されない。少しも議論されないままにどんどん進められている。文化面で日韓両国の若者の間に垣根はない。周囲の若者は奨学金借金を抱えてやりたいことができず大変シンドイ状況にある。なのにアメリカに言われるまま何でトマホークに巨額を使う?これまでこの種の発言をしてこなかったが、もう我慢できない。

つづいて集会アピールが実行委員会の谷雅志さんより提案され、満場の拍手で採択した。続いて国会議員からの挨拶。

立憲民主党代表代行・西村智奈美衆議院議員
自己責任ばかりが強調される政治の流れを変えたい。憲法審査会では自民党などが緊急事態条項導入を主張している。現行憲法は徹底した国会中心主義に立っている。様々な緊急事態への対応のそれぞれについて基本法制がある。緊急事態条項など必要ない。憲法53条に基づく野党の臨時会開催要求を長期間無視することを繰り返してきた政権、憲法違反の政権に憲法を変える資格などない。世界の憲法をめぐる議論の趨勢は、人権規定を増やし権力を制限する統治規定を増やす方向に進んでいる。

共産党・志位和夫委員長
岸田政権が敵基地攻撃能力として導入を予定しているミサイルは中国をすっぽり射程に入れる。これのどこが専守防衛なのか?アメリカの先制攻撃の原則を持つ統合防空ミサイル防衛IAMB戦略の一環に組み込まれる。日本が武力攻撃されなくてもアメリカの先制攻撃が始まれば、米軍と一体となって自衛隊が相手国に攻め込むことになる。そうすれば報復攻撃があり、結果国土の焦土化だ。自衛隊施設に核戦争にも耐えられるよう地下シェルターを掘るという。日本を守るなど大嘘だ。国会では軍拡財源確保法案が大問題になっている。詐欺まがいの内容だ。医療や年金を軍事費に回す岸田大軍拡反対!この一点で国民的大運動を巻き起こそう!

れいわ新選組共同代表・櫛淵万里衆議院議員
今ある憲法を守れ!話はそれからだ。昨年の自殺者は2万1881人、女性が増え続けている、特に小中高生は過去最多の人数だ。憲法15条に公務員の国民への奉仕義務が謳われている。しかし政権を握っている政治家は一部の人たちに奉仕するばかりだ。国が壊れている。国を30年間も壊し続けた人々に内閣ですべてを決めることができる緊急事態条項など絶対に許せない。憲法審査会の役割の1つは憲法に根差して政策や行政が機能しているかのチェックで、2つ目が憲法改正や手続きを検討すること。後者ばかりが議論されている。歴史を作るのは主権者である私たちだ。

社民党・福島瑞穂党首
現行憲法があるから、権力者は戦争をしたくてもできなかった。この憲法をさらに活用し使っていこう。12月16日、安保3文書が閣議決定された。岸田政権は集団的自衛権の行使で敵基地攻撃を行うと断言している。他国から見れば先制攻撃そのもの、倍返し、10倍返し、100倍返しされるかもしれない。沖縄・南西諸島の人々は再び戦さ場にされることを心配している。日本全土が戦火にまみれるかもしれない。成立した予算案は防衛費が10兆円を超えている、中小企業関係、農業関係予算は減らされ、これでは生活が壊れる。戦争準備でなく平和の準備を!平和と平等は手を携えてやってくる、戦争と差別排外主義も手を携えてやってくる。

ここで実行委員会菱山南帆子さんのコールでプラカードアピール。シュプレヒコールが青空に広がった。
市民連合からの連帯挨拶が新潟市民連合佐々木寛さんから・・・今起こっていることは憲法が背骨から砕かれようとする事態だ。これは伸るか反るかの闘いだ。有識者会議の詳しい内容について岸田首相は「手の内は明かせない」と公表しない。国民は取り残されている、一種の詐欺にあっているようなものだ。まさか戦争は起きないだろう、という緩んだ雰囲気がある。市民連合は2014年に戦争法に反対して発足した。今はその上に先制攻撃だ。まさに中曽根元首相が言った不沈空母に日本がなろうとしている。広く共闘してこれを押し返さなくてはならない。

次いでリレートーク

移住者と連帯する全国ネットワーク事務局長の山岸素子さん
入管法改正案が衆院法務委員会で4月28日に強行採決された。絶対に認められない。2年前名古屋入管局で死亡したスリランカ女性ウィシュマさんへの非人道的な扱いに抗議の声が巻き起こり、強い反対の声で廃案となった法案がほぼそのままの内容で、難民の管理を強化し社会から排除するものだ。日本は難民認定率が1%に満たない特異な「難民鎖国」。難民を厳罰化でさらに追い詰め命さえ危うくする。日本で生まれた在留資格のない子どもも親も強制送還される。4月25日、反対署名19万筆を提出した。さらに皆さんに大きな声を挙げて欲しい。

馬毛島への米軍施設に反対する市民・団体連絡会副会長前園美子さん
種子島から来た。西12Kmの沖合に馬毛島があり、政府防衛省によりここに恒久的な米軍艦載機離着陸訓練FCLP基地が建設されている。米軍・自衛隊が年間130日訓練する、1日平均180回の訓練が想定される。爆音、轟音はいかばかりか、生活が根底から脅かされる。防衛省が建設に着手し800人以上の工事関係者(将来は4000人)が種子島に入った。家賃が暴騰し、ごみ処理が混乱し、子どもの安全通学が心配だ。住民税を払わない人々の出すゴミが堆積している。豊かな自然環境と穏やかな空気があっという間になくなった。目の前の馬毛島で戦争の訓練が行われる、事が起きれば攻撃対象になる。反対派、賛成派と住民の間に分断が生じるのが怖い。日本のどこにも基地はいらない。力は小さいが、水つもりて河を成す。力を貸してほしい。

次に東京新聞のコラムでおなじみの宮子あずささん(看護師)
35年間看護師をしてきた。老い、障害を持ち、病む人々の生きる権利を否定してはばからない言動が後を絶たないことに怒りを感じている。colaboへの攻撃のように弱い人に手を差し伸べる行動にも妨害が入る。統一地方選では多くの女性が議員になった。背後には女性たちの大きな活動があった。やっと声を挙げ始めた女性たちに大きな妨害があるのでは、と心配だ。特に男性はあれこれ批判する前に自分を見つめてほしい。差別と闘うことは常に自己を見直すこととセット。護憲、人権尊重、平和・・・きれいごとと言われる理念こそが私たちを救うのだ。

最後に小田川義和さん(集会実行委員会)が行動提起
本日の集会参加者は25000人、これからの闘いを励ます結集だ。共同通信の世論調査では「憲法改正の気運が高まっていない」が71%、朝日の調査では「43兆円の軍事費」に50%が反対、「軍拡のための増税」に68%が反対。市民は決して騙されていない、現行憲法を受け容れてきた市民の力がある。改憲発議No!の憲法署名、大軍拡大増税No!の国会請願署名を津々浦々で展開していこう!
「5.3憲法集会みんなで歌う合唱隊」の「HEIWAの鐘」が流れる中、参加者は続々デモ行進に出発していった。

あらたな戦前にさせない!守ろう 平和といのちとくらし、2023憲法大集会アピール

2015年5月3日、憲法の改悪を許さず、憲法理念の実現を求めて、横浜臨港パークで多くの市民や労働者の参加のもとで開催した「5・3憲法集会」は、全国各地の市民の皆さんの共同行動とともに継続され、コロナ禍を乗り越え、今年で9回目になりました。

しかし、国際情勢をみると、少なからぬ国々と地域で戦火はやまず、昨今はわたしたちの日本でも「新たな戦前」という言葉が現実味をもって語られる時代になりました。

昨年2月、ロシアは2度にわたる世界大戦を経て人類が獲得した国連憲章の「国際紛争を平和的に解決する原則」に反し、ウクライナへの軍事侵攻を開始しました。このウクライナでの戦争は多くの人々の犠牲を伴いながら、1年以上をすぎてもいまなお収束の兆しがありません。ロシア軍の即時撤退・停戦が切実にのぞまれています。
しかし、逆に東アジアでもこれを口実とした軍事的緊張がつよまっています。

岸田文雄政権は昨年末、「台湾有事」などの危機を煽りながら、閣議決定のみで「安保3文書」採択を強行し、軍事費の対GDP比2%、5年間で43兆円という異常な軍拡を企て、従来からの「専守防衛」原則を投げすて、敵基地攻撃能力の保有と南西諸島のミサイル基地建設強化をめざすなど、日米同盟を支えに、戦争する国への道を突き進んでいます。

憲法9条にもとづいた外交努力による近隣諸国との友好共存関係の積み上げを怠り、列強との軍事同盟や軍事協力を強化し、軍事力を強化して緊張を煽り立て、いたずらに他国を誹謗し、戦争の危機をあおり立てるこの道は、日本を際限のない軍拡競争にひきづりこみ、やがて壊滅的な戦争の勃発を招きかねないものです。この道は日本がかつて歩んだ道に他なりません。

いま通常国会では、衆参両院で3分の2の議席を占めるに至った改憲勢力によって憲法審査会がひんぱんに開催され、憲法への自衛隊の明記や緊急事態条項の新設など、憲法改悪への議論が強引に進められています。

私たちは現在の審査会の論議が、戦争の危機を煽りながら進められている軍事大国化、「戦争する国」づくりの正当化のため、性急な憲法改定のみを求めるものとなり、憲法が示す平和・人権・民主主義の理念の実現を真剣に議論するものになっていないことを深く憂慮します。

本日、日本国憲法施行76周年にあたる5月3日、東京都防災公園に集まった私たち市民は、集会の総意において、平和を希求する全世界の民衆に連帯し、なかんずく戦禍の下で苦しむウクライナやミャンマーなどの民衆に連帯して、憲法9条を掲げ世界の市民とともに反戦・平和の闘いに全力を挙げてとりくむことを、宣言します。

2023年5月3日
あらたな戦前にさせない!守ろう 平和といのちとくらし、2023憲法大集会

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第171回市民憲法講座 ウクライナ現地報告と身勝手な米国の外交

お話:志葉 玲さん (ジャーナリスト)

(編集部註)4月22日の講座で志葉玲さんが講演した内容を編集部の責任で要約したものです。要約の責任はすべて本誌編集部にあります。

はじめに

私は、イラク戦争が開戦して2日目に現地入りしました。それが事実上の自分の戦場ジャーナリストとしてのデビューというかたちになりました。それからもう20年になりますが、イラクやパレスチナなど、それぞれ10回ずつくらい取材を重ねまして、結構最初は若造だったんですけれども気がついてみたら紛争地を取材する年下のジャーナリストたちが出てきているという感じです。日本の紛争地域を取材するジャーナリストの方々で、ベテラン勢が次々と現地で亡くなったり殺されたりあるいは誘拐されたり、そういう問題がございまして、なかなか紛争地をちゃんと取材できる日本人ジャーナリストが以前よりかなり数が減ってしまったということはあります。私はウクライナには全然縁がなかったけれども、やはり大きな戦争だし、そこはとりあえずがんばって行ってみようということで昨年4月と今年2月に取材に行ってまいりました。

今日は大きく分けて前半でウクライナの現地の状況とウクライナに関する議論の問題をお話しさせて頂きます。後半で「アメリカの身勝手な外交戦略」がどういうかたちで現在の世界に影響を与えているのか、またそれがどういうようなかたちでウクライナに絡んでいるのかという話もできればと思っています。また安保3文書を岸田内閣が書き換えて、非常に軍国主義的な方向になっているという問題があります。その辺の話をウクライナとどういう関係があるのかないのかも含めて話ができたらと思います。

ウクライナの人々の人となりは

写真と映像を見せながら話をします。まずウクライナという国の、現地ならではのお話をしたいと思います。ウクライナの人たちの特徴としてやたら動物好きということがあります。猫とか犬とか本当に大好きですね。避難所に行っても普通に猫とか犬とかがいます。だから動物たちも一緒に非難します。カフェとかも、動物OKなカフェがほとんどです。逆に「動物NG」というカフェの方が少ないくらいです。それくらい動物が大好きな国民性みたいなところがあって、特に猫とか犬が好きだという話ですね。この避難所ですが、ハルキウというウクライナ東部の、ウクライナ第2の都市です、昨年4月に取材に行ったときにはもう大変な状況で、それこそロケット弾だとか砲弾とか雨あられのように降り注ぐわけです。ですから地下鉄の中にみんな逃げていますが、ちっちゃい動物を連れてきて一緒に逃げてきています。日本もちょっと前だったら、避難所に動物なんかを連れて行くと「なんで動物がいるんだ」みたいな感じで追い返されたり、ペットがいるから避難できないという人も結構いたと思います。そういうのと雰囲気が違って、ウクライナの国民性として私がかなり印象に残ったことを最初に紹介させていただきました。

ウクライナ人の人柄についても少し話します。素朴な人柄の人が多くてあまり意地悪な感じの人はいないですね。基本的に親切です。私は現地の友人の家に泊まったりもしたけれど、ロシアのお隣ということもあってお酒が結構好きですね。ご飯をごちそうになったときに、その家のブドウでつくったハウスワインとビールとウォッカが出てきて3つ並んでいる。これ、全部飲めっていう感じで。私もお酒は好きなので飲みましたけれども、ウクライナ人とお酒を飲むと次の日2日酔いになりそうなところはありましたね。そういう感じでフレンドリーな国民性です。

ウクライナの人というと、ゼレンスキー大統領の顔ばかり出てきたりしますが、日本の人になじみが深い人といえば、このミラ・ジョヴォヴィッチさんという女優さんがいます。「バイオハザード」という日本のゲームをもとにしたハリウッド映画のシリーズがあって、そのシリーズを通して主人公をやっていました。シリーズは完結しましたけれども、世界的に大人気の女優さんです。それから格闘技を好きな人は覚えているかもしれないですが、日本で「PRIDE」という格闘技イベントがありました。その「PRIDE」で活躍していたのがイゴール・ボブチャンキンさんという人で、この人はウクライナの出身でいまハルキウにいます。ハルキウでウクライナ軍をサポートするようなボランティアをやっているということです。

この方は、ダリヤ・ザリツカヤさんと言いまして非常に人気のあるユーチューバ-です。1970年代から1990年代にかけての、例えばレッド・ツェッペリンだとかガンズ・アンド・ローゼスだとかニルヴァーナといったいわゆるハードロック、へヴィーメタルの曲をコピーというかカバーしているカバーバンドをやっている方でした。私はユーチューブでそういうのを見るのが結構好きで、戦争前からザルツカヤさんのユーチューブを見ていました。私がウクライナに行くひとつの理由になったのが「ザルツカヤさん、かわいそうじゃん」という感じがあるわけです。いま結構世界のいろいろな国の人々の活動をユーチューブとかインターネットで見られますので、そういうかたちで世界の人たちとつながるのも悪いことじゃないなと思ったりします。

このザルツカヤさん、とにかくユーチューブチャンネルのフォロワーが80万人くらいいるのかな。それくらい大人気なので、彼女がウクライナから逃げても助けてくれる人はいっぱいいると思うんです。ところが彼女は逃げないで、ウクライナにとどまっている。なぜかというと、バンドのほかのメンバーは男性です。男性はいま、よほどの事情がない限りウクライナから逃げられないんです。正確にいうと18歳から60歳くらいまでの戦闘可能年齢の男性が、出国を禁じられています。国民動員令みたいなのがあります。それでサルツカヤさんのバンドのメンバーたちも逃げられない。

私は昨年4月にキーウでザルツカヤさんにインタビューして、「なんで逃げないの?」といったときに「バンドのメンバーどうするの」という話があって、「ああそうか」という感じなんですね。これに関しては日本でも批判的な意見、つまり国民の逃げる権利を奪って動員しているという話がありますが、ともかく彼女は首都のキーウに残って音楽活動を続けることが、自分なりの戦争に対する抗い方なんだといっていました。このときはオリジナル曲はなかったんです。そのあと私がインタビューしたときに、「いまオリジナルの曲を作っているところだ」という話をしていました。「戦争が始まったから、技術屋さんとかそういう関係の人が逃げていろいろ大変だ」といっていましたが、そのあとウクライナ侵攻をテーマにつくったので紹介します。何でこういう話をしているかというと、ウクライナの人々ということをイメージしてもらいたいからです。

ウクライナの話で米ロの対立みたいな、そういう大国間のパワーゲーム的な話ばかりになるのは、それは何かものごとをわかっているようで、大事なところを見落としているような感じがするので、ウクライナにはこういう人がいるよ、ということをわりと時間をかけて話をしています。この歌詞がいいなと思うのは、いまウクライナの歌手とかバンドの歌詞を見ていると「われわれは戦うぞ」とか「われわれは勝利する」という戦意高揚系の歌が多いです。それが悪いというか、しょうがない面もあるなということもあります。例えば「クリミアを取り戻すぞ」とかそういうのがある。このザルツカヤさんの「アッシュ」という曲は「灰」という意味で、英語で歌っていますが、ウクライナ人の市民の率直な感情を歌っていると思います。まず戦争になって「とにかく怖い」「パニック」「つらい」、そういう気持ちがあるのと、戦争に対するものすごい怒り、「許せない」という気持ち、本当に自分がどうなっちゃうのかと思いながらも負けていられない。屈してたまるか、そういう負けん気の強さ、ある種の希望を持ち続けることも忘れない。そういういろいろ複雑な感情が歌詞の中に歌われていて、それはウクライナの人たちと話をしていて私が結構感じていたことなんです。だからこの歌はすごくいいなと思ったりするわけです。

ロシアがウクライナに軍事侵攻した理由は?

なぜ戦争が起きたかということについてはさらっと話させてください。日本のメディアの解説で、NATOの東方拡大が原因だという話がかなり多いわけです。そういうことが全然ないというつもりはまったくありません。けれどもNATOが拡大していってロシアが追い詰められたという話、こればっかりに着目していると米ロの大国のパワーゲームということになって、ウクライナの人たち、当事者の頭をすっ飛ばした話になってしまうんですね。日本でウクライナに関しての議論を見ていると、当事者不在のパワーゲームの話が、陰謀論めいたかたちとくっついて、要するにバイデンが戦争を仕掛けたみたいな話しになる。ウクライナにも攻められる理由があるというかたちで、結果的にロシアを擁護してしまうような論調につながっていることは、ちょっと残念なことです。

ウクライナの人たちに聞いてみると「NATOが・・・」という話をすると「はっ?」っといって鼻で笑われます。どういうことかというと、プーチン大統領は「偉大なソ連を復活させるんだ」という個人的な野望にとりつかれている、ということが多いですね。実際にプーチンの演説を注意深く見ると、例えば「ウクライナ」という国名をいわない。「キーウ政府は」とか「キーウ政権は」という言い方をしています。プーチン大統領は、そもそもウクライナという国家自体を認めていない。それどころかウクライナ人とロシア人は同一の民族であるというようなことを言っています。プーチン大統領はこれを繰り返し言っています。本来ウクライナ人なるものはいないという、ウクライナ人のアイデンティティを端から全否定しています。そういうことでウクライナ人としては、「ふざけるな」という気持ちがとても強いわけです。

2014年、ヤヌコビッチ政権というロシアのパペット、「操り人形」みたいな大統領がいました。汚職がすごくひどかった。それで民衆がヤヌコビッチ大統領の政権をデモで倒しました。そのときのデモに参加した人にも取材しました。キーウだけでも50万人から80万人の人々がデモに参加して、町中がデモで覆い尽くされたわけです。それでヤヌコビッチ大統領はロシアに亡命しました。ロシアがあからさまにウクライナに軍事介入をしてきたのは、それからですよ。まず、クリミアを併合しました。それだけではなくてウクライナの東側、ドンバス地方というドネツク州とルガンツク州、ここで反政府武装勢力に大量の武器を渡して、ウクライナ軍と戦わせるわけです。当初はウクライナ軍の方が強くて反政府武装勢力が負けそうになったら、ロシア軍が国境を越えてウクライナ側に入ってきた。それでウクライナ軍が殲滅されるということがありました。それがいわゆるドンバス戦争と言われるもので、2014年から現在に至っています。

ですからウクライナ人に言わせると、2022年2月に戦争が始まったわけではなく、「2014年からすでに戦争は始まっていた」ということですね。このドンバス戦争を「内戦」だという言い方をする人もいます。そういう面もないとは言えないけれども、やっぱりロシア軍がはっきり関与していて、しかも入ってきているわけです。それでウクライナ軍と戦っていることを考えてみると、「侵略」と見なすのが妥当なところかなと思います。ちなみにウクライナの反政府武装勢力、これを引き入れたのがイーゴリ・ギルキンというロシアの軍人です。だから完全にロシアの出来レースで、そういう武装蜂起みたいなことが起きていました。そういうこともあるので、ウクライナでは「NATO」とか言うと「はっ?」といわれてしまうわけですね。

ロシア国境に近い東部の町・ハルキウ

私が今回取材したところですが、キーウと近くのブチャ、そして先ほどから話が出てくるハルキウ、クラマトルスクという東部の街、それとバフムトです。なぜこちらを取材したかというと、こっちが激戦地だからです。私のポリシーとして情勢が厳しいところであればあるほど、それは取材する必要があるというか、現地で何が起きているのかということを伝える必要があると思いますから。危ないところであればあるほど取材しないといけないという話です。安全にはもちろん気をつけています。先ずハルキウの話からしますね。なんでハルキウが重要かというと、ここはロシア国境に近くて、いわゆるロシア語話者が多い所です。ウクライナの言語としてウクライナ語はありますが、ウクライナ人のほとんどがロシア語をしゃべります。ゼレンスキー大統領も、第一言語は実はロシア語です。大統領になるときに一生懸命ウクライナ語を勉強したんですね。ハルキウは、ウクライナの中でも特にロシア語話者が多い、ロシア国境近くです。

人的交流もかなりあります。そのことが何を意味するのかというと、プーチン大統領が戦争を始める際の演説で「キーウの政府はロシア系住民を弾圧している」と言って、「われわれはウクライナの中のロシア系住民を助けるために進攻を始めた」と正当化していたわけです。ではそのロシア系住民、ロシア語を第一言語にするロシア語話者が多いハルキウで、どういうことが起こっていたのか。ちょっと動画を見てみましょう。これが昨年4月の状況です。ハルキウはこのとき本当に大変厳しい状況で、先ほどの映像で近くに砲弾だかロケット弾だかが落ちて私も非常にびっくりしました。一緒にいたウクライナ人に「さっきびっくりしたね」と話をしたところ、「いやびっくりしたけど、これいつものことだから」って言われたんですね。それくらい状況が厳しい。

この写真は後ろの集合住宅、壁が崩れて部屋の中がむき出しになっています。手前の建物は幼稚園で、攻撃を受けて丸焼けになっている。これはキーウの中心部で、商業ビルが攻撃されています。映像にもあったように、小児科病院も攻撃を受けています。こういった市民に対する、民間人に対する攻撃は戦争犯罪なんですね。戦争だからといって何をやってもいいというわけではなくて国際人道法というものがあって、ジュネーブ条約だとかそういうものを無視して民間人や民間施設を攻撃することは戦争犯罪で、戦争の中であっても許されない行為です。

ハルキウはロシア語話者が多いところです。プーチン大統領が「ロシアにルーツのある人々を助けるために」と言っているわりには、ロシア語話者やロシアにルーツがある人がいっぱいいるハルキウにバカスカ無差別攻撃をやっている。「これは皮肉なことだよね」ということをハルキウの住民もいっていました。それがすごく印象に残っていたことです。本当に街の至る所に攻撃があるので、どこも安全じゃないという状況でした。私が取材していたときで多い日は1日に18回くらい攻撃があって、しかも1回の攻撃で1発落ちてきたのではなくて、どんどんどんどん降り注いできます。こういう中でハルキウ市内にはどこにも安全なところはないと、現地の消防署の人が言っていたくらいです。ハルキウの市長もいっていたかな、そういう状況でした。

私の友人のイヴァン君の深い悩み

私の友人のイヴァン君の話をします。セキュリティ上の理由でイヴァン君というのは仮の名前です。彼はウクライナ人ですけれども、ロシアに住んで仕事をしていて、音楽活動などをやっていたみたいです。ロシア人の女の人と結婚したけれども、その後戦争になって、自分の国が大変だからと戻ってきて、ボランティアなどをやっていました。その中で私と出会って、私の仕事を手伝ってくれるようになりました。彼は、この戦争は非常につらいといいます。なぜかというと、彼はロシアが大好きだった。現地で住んでいたくらいですからね。ですから自分の中のアイデンティティが崩されたようだというようなことを言っていました。実はそういうウクライナ人はかなりいます。特にロシアと国境が近い地域、ハルキウもそうですけれども、ふつうにロシア人と友好関係、友達として付き合ったり、仕事仲間として付き合ったり、あるいは親戚だとか結婚していたりだとか、「僕のお父さんはロシア人だけどお母さんはウクライナ人だよ」とか、そういう人だって結構いるわけです。そういった人々にとって、この戦争は本当に悲劇的だなと感じます。

イヴァン君には昨年4月にあいましたが、今年の2月に彼の家を訪れて、その後どうなったかという話をしました。彼の一番大きな変化としては、自分の中にロシア人を憎む気持ちがすごく沸き上がってしまって、どうしたらいいかわからないというんですね。インターネットのハッシュタグで「#NotOnlyPutin」というのがあります。つまりプーチン大統領だけが悪いわけじゃない、ロシア人みんなが悪いというようなハッシュタグです。最初はイヴァン君などもロシアの人たちもかわいそうだよね、みたいな話をしていました。プーチン大統領が悪いだけで、ロシアの人が悪いわけじゃないと。だけどロシアの人たちが戦争を支持していて反戦デモとかをほとんどやらない。やってもすぐにつぶされる。そういう中で「プーチンだけが悪いんじゃないんじゃない?」みたいな感じの、ウクライナの人たちのロシアが憎いという気持ちが沸き上がってしまって、そういう反ロシア感情がロシア大好きでロシアに住んでいたイヴァン君ですらそういうものに影響されつつある。これは非常によろしくないことですよね。プーチン大統領が悪いわけですが、彼は本当に悩んでいます。ロシアが憎いという気持ちは抑えられないけれども、自分のパートナーはロシア人なんですよ。まだ結婚しています。

そういう中で本当にどうしたらいいかと悩んでいる。「なぜそういうことになっちゃったの?」と聞いてみると昨年夏の終わり頃に、彼の家のすぐ近くにミサイルが落ちてきて、そのミサイルが落ちてきたところを彼は見たらしいんです。すごい衝撃と音で、けがは幸いしなかったけれども、そのことがトラウマになっていると話していました。本当に戦争というのは、壊してしまうのは物理的なものだけじゃないですね。家とかそういうものが壊されるのはそれだけでも大変ですが、それだけじゃない。人々の絆とかアイデンティティとかそういうものも壊してしまうということですね。イヴァン君は比較的冷静で、自分の中のそういう感情をある程度分析できているということはあるかと思います。あとはパートナーの方がロシア人だから、ぎりぎりのところで歯止めがかかっているところもあります。こういうものが今後も尾を引くんじゃないか。それはロシアとウクライナにとって非常に不幸なことだなと思ったりします。やっぱりプーチンはよくないですね。

ただ在日のロシア人の人たちが、ある種顔出しで渋谷とかで反戦デモをやっていることも触れておきたいと思います。これも非常に勇気ある行動で、彼らはロシアにまた帰るかもしれないわけです。そのときにこういった反戦運動に参加していたことがわかってしまったら、逮捕されるかもしれない。あるいは、自分が逮捕されなくても家族がロシアにいるから、やっぱり非常にリスキーなことなんです。でも声を上げたいという気持ちがある。この中の人のある家族が軍に動員されてしまって、ウクライナに送られたという悲惨さもあります。私としては、ウクライナ人のロシアに対する怒りの気持ちはよくわかるけれども、ロシアの中の苦しい思いをしている人々、そういった人たちのことも忘れないようにしたいなと思っています。

東部の重要都市・クラマトルスク、バフムト

私は今年の4月にクラマトルスクとバフムトに参りました。なぜここが重要かというと、ロシア軍の当面の目標はとりあえずこのクラマトルスクを奪えたらいいということなんです。ロシア軍というかプーチン大統領の目的は最終的にキーウを奪うということですけれども、正直いってすぐには全然無理だ。だからドンバス地方、ドネツク州とルガンスク州はとりあえず奪っておきたい、というところがあります。このクラマトルスクはドネツク州ですが、州の中でも非常に大きな工業都市で交通の面でも重要な場所なので、ロシア軍としてはぜひ奪いたいところです。その前線基地になったのがバフムトで、ここを奪うことで、そこからクラマトルスクに進攻していきたいというロシア軍、一方ウクライナ側としては、バフムトでロシア軍の侵攻を止めておきたい。そいいう両者の思惑があってここはいまやウクライナの中で最激戦地となっています。

クラマトルスクの状況ですが、この映像はクラマトルスクに向かう道すがらです。ここはもうロシア軍から開放された地域ですが、解放されたとはいっても村々が完全に壊滅して廃墟になっています。そういったウクライナの情勢の厳しさをうかがわせるようなところでした。これはクラマトルスクの中心部で駅です。この駅にも攻撃がありました。私が取材に行く1週間前くらいにロシア軍のミサイルが着弾して、集合住宅が倒壊しています。20人くらいが死傷したといわれています。この男性は現地のジャーナリストの方で、私の取材を手伝ってくれた人です。この近くにウクライナ軍の拠点がないわけではないけれども、ここに撃ち込まれたのはイスカンダルミサイルというもので精密誘導系です。なぜこんな一般住宅に精密誘導ミサイルを撃つのかというところが疑問だと、現地のジャーナリストはいっていました。

この映像はスーパーマーケットだった場所です。ウクライナの東部は、ロシア軍が直接来ていないところであってもロケット弾とか砲弾がかなり遠くまで飛んで来るので、結果的にこのようにあちこち破壊されている状況です。食べ物を売っている店でも攻撃を受けてしまうので、店があちこち閉まっています。だから人々にとって、例えば食糧を調達するというのもなかなか大変なことになっています。

そこで、これはボランティアグループが車で食糧がいっぱい入った段ボールを住民に配っているところです。この配っている最中でも遠くの方で砲撃音だとか爆発音が聞こえて、結構危ないわけですけれども、本当にウクライナのボランティアたちは勇敢ですね。自分の安全も省みずやっている。段ボール箱の中を見せてもらいました。小麦粉、缶詰、油とか、そういう必要最低限のものがいろいろいっぱい入っている感じです。World Food Programmeと書いてあり、WFP(国連世界食糧計画)ですね。そういった支援が来ています。

建物なども窓ガラスが割れているところがたくさんあって、板を張っています。ウクライナはとっても寒いんですよ。私が取材していた2月は、北海道と同じかもっと寒いくらいです。窓が少し割れただけでも寒い空気が入ってきて大変です。だからこうやって板を張ってしのいでいる。住宅の中も見せてもらいました。何とか窓は直したものの、この女性はクラマトルスクの工場で働いていたそうです。その工場が戦争で閉鎖されてしまって、仕事がなくなって困っている。物価はどんどん高くなるということで、そういう人たちにとってボランティアが配ってくれる食糧などが本当に命綱になっているんですね。そういう苦労話などもいろいろ聞いているところです。クラマトルスクにはロシア軍は入ってきていないけれども、遠距離から攻撃されているので実質非常に前線に近いという感じです。

最激戦地バフムトに入る

 私はバフムトにも入りました。ここは本当に厳しい状況で、私が入った2月の時点で、すでにバフムトはあと数日でロシア軍によって陥落するのではないかといわれていました。それから2か月あまり経ってまだ陥落していないあたり、ウクライナ軍側も相当がんばっていのだろうなという気はします。当時は人道支援団体ですら現地に入ることがすでに難しい状況になっていて、メディア関係者なんてほとんどは入れなかったんです。私はあの手この手でがんばって交渉して奇跡的に入れたので、その映像を見せたいと思います。この人は、日本人とわかったら「アントニオ猪木」と言ってきた。ウクライナの特に男性は柔道とか空手とか大好きで、その延長でたぶんプロレスも見ていたんだと思います。お茶目なおじさんでした。彼はお母さんが病気で動かせない。だからこの街に残らざるを得ないけれども、状況はどんどん厳しくなるからとてもストレスだという話をしていました。住民のだいたい9割くらいは避難したけれども、このおじさんみたいにやむにやまれぬ事情で残っている人たちもまだいるわけです。

これは人道支援団体の拠点です。ここでみなさん暖房があったり、食糧や水だとかそういったものを確保したりしています。基本的に市内は電気やガスや水道はダメになっているので、本当に厳しい状況です。寒かったですね。ウクライナ東部はキーウよりも寒いです。実はバフムトは午後3時を過ぎると街の出入り口が閉まってしまいます。だからのんびりしていると、バフムトから出られなくなることがあるんですね。それはさすがにやばいなということで、本当に滞在時間は1時間強くらいでした。まずは入れるかどうか自体が当日にならないとわからなかったし、入る際にもまたいろいろあったり、そんなこんなで何とか入れたんです。バフムトに取り残されるリスクを考えた場合、出た方がよかろうということになって出ました。そういう厳しい状況でしたけれども、今でも、まだまだバフムトで戦いは続いています。この時点では、あと数日で陥落するといわれていましたが。

「即時停戦」論とウクライナの人々の現実

戦争が長期化して犠牲がどんどん出る中で、日本の有識者の間でもをG7に向けて働きかけたらどうなのかという意見がありました。私もその会見を取材に行きました。「即時停戦」ということが果たしていいのか悪いのかということでいうと、私も似たような質問をウクライナの人にしました。これは首都キーウですけれども、キーウだけではなくてハルキウだとかクラマトルスクだとか、いろいろあちこちで聞いてみたんですね。「即時停戦」論は、少なくとも日本のどちらかというとリベラルだとか左翼だとか、そういった人たちには受けはいいかもしれません。けれどもウクライナの人たちが受け入れるかといったら、それは別だなということを感じました。インタビューしてみると、だいたい同じような答えです。端的にいえば、「早く、もう1日も早く戦争は終わってもらいたい。だけどロシアに妥協するのは嫌だ」という話です。

「なんで?」と聞いてみると、ひとつには2014年のドンバス戦争のことがあります。ドンバス戦争でも、ロシアだけではなくドイツやフランスが仲介して停戦合意みたいなものが結ばれたりしました。しかし停戦合意違反が相次いだわけです。結局ドンバス戦争だけではなくて、キーウを目指してロシア軍が攻めてきたことがあって、どうせ今回の戦争で停戦しても、結局はまた攻めてくるだろうという不信感がウクライナの人たちにはあるということです。本当にそうかというところは保証はないわけですけれども、少なくともウクライナ人はそう考えている人が多いわけです。もうひとつの理由は、やっぱりブチャのことは大きいですね。ブチャというのはキーウから車でだいたい30分弱くらいのところにある閑静な住宅街でした。ここは昨年3月に、1ヶ月間ロシア軍によって占拠されていた間に、ロシア軍による住民虐殺が行われた。3月に占拠されて、4月になってウクライナ軍がブチャを解放して、一般のメディアも現地に入れるようになった。私も4月に入りました。

ブチャの虐殺を巡って目撃したこと

ブチャの虐殺を巡っては、ロシア側はたくさんの死体が発見されたことに対して、これはウクライナ側がよそから持ってきた自作自演だ。虐殺なんかなかったということをいっています。その辺がどうなのか、私も取材してみました。街の中心部に亡くなった人たちの遺体がまとめて埋められていた。集団墓地みたいな感じです。私が見ている間も、こうやって遺体を掘り返している。何をやっているかというと、法医学グループが海外から来ていまして、検死を行っているんです。どういう状況で殺されたのか。見ると後ろから頭を撃たれていたとか、拷問の跡があるとか、そういう遺体が多いということです。私はウクライナ当局がプレスを呼んでやっている遺体の掘り返しの部分だけではなくて、街中を歩いて遺体を探しました。実際に見つかるわけです。犠牲者の身内の人などにもインタビューをして、身元を確認して、どういう状況で殺されたのかということなどを事細かく聞きました。

そういうことから考えて、やっぱり「虐殺がなかった」というのはあまりにも無理がある話でした。日本でもわりと有名な方、どちらかというとリベラル、護憲派といわれる人たちの中でも有名な方が、誰とはいいませんけれども、ブチャの虐殺はなかったとか、あるいはブチャの虐殺が本当にあったかどうかはわからない、ということをいっています。私は少なくとも現地に行って、被害者の遺体を見つけて、被害者の家族にインタビューして状況を確認しました。やっぱり虐殺はあったとしか言えませんね。こういった遺体を発見する際に、ウクライナ当局から私が協力を得たかというと、全然得ていません。あえて私は独力で探すことにしました。それはプロパガンダとか、そういうことをいわれるのが嫌だったし、独立した立場で取材することによって取材の信頼性を高めたいということがあったわけです。

でも簡単に遺体は見つかりました。これなどは単純に人々が、建物の中にいるときに砲撃を受けて殺されるパターンと、家の中に隠れていたときにロシア軍がその人を連れて行って処刑するパターン、そしてさっきの遺体などは隠れていて水や食糧が尽きて、そういったものを探しに外に出てきたときに問答無用で撃たれるパターンと、いろいろあるわけです。さらにこれは街の外に逃げようとした人たちが車ごと攻撃を受けて、破壊された車が街の空き地にとりあえず集められたところです。そこで遺体回収をしていたボランティアの人たちにも話を聞きました。ある家族は大人が3人で、小さな10歳くらいの男の子が一緒に乗っていたけれども、その男の子も額に大穴があいて殺されていたということです。具体的な写真も見せてもらいましたが、あまりにもえぐすぎるのでここで見せるのはやめておきます。実際にそういう写真も確認しております。

この壊された自動車の中を見てみると、猫の死体があるんですよ。たぶんこの返り血から見て、それから座席のところにも穴があいていたから、恐らく飼い主と一緒に逃げようとして、飼い主が撃ち殺されてこの猫ちゃんも巻き添えになって死んでしまったということでしょうね。動物が殺されるのは心が痛みますね。人間もかわいそうですけれども、動物には全然罪はないわけですから。これはブチャのヤブルンスカ通りというところですが、ここで恐らく飼い主が殺されたかあるいは飼い主からはぐれたかという猫を見つけまして、この写真を撮ってSNSに投稿したところ大反響で、それが私の本の表紙にもなりました。要するにまず人々が殺されていること自体が悲劇的なんですけれども、動物たちも戦争の被害者であるということも忘れてはいけないなということです。ブチャの状況は、いまはロシア軍が近くにいないので情勢的には安定していますが、逆にウクライナ東部や南部の激戦地からたくさんの避難民がブチャに逃げてきています。そういう人たちにもインタビューをしましたが、ロシア軍に占領されている地域では多かれ少なかれ大変な人権侵害が行われていて、人々が殺されたり拷問されたり性的暴行があったり、そういうことが相次いでいるわけです。

ですから「即時停戦」の大きな問題点として、「じゃあ仮に戦闘が収まったとしてロシアに占領されている地域での人権侵害だとか、そういういったものをどうするの?」という問題があるわけです。日本のわれわれの感覚からすると「まず戦争やめた方がいいんじゃない?」みたいな感じがあるわけですけれども、現地の人々からすると仮に戦闘がいま止まったとして、それでイコール平和かといったらそうじゃないんです。人々が殺されたり、拷問されたり、性的暴行を受けたりすることが相次いでいる状況は、それは平和じゃないですよね。そういうことなんですよ。いまロシア軍から占領されている地域を取り戻さない限り人々は大変な目にあい続けているというのが、ウクライナ人の感覚としてやっぱりあるわけです。

 そういう中で、性暴力に関してはかなり取材が難しいし、私が男性ということもあるし、そういったことを知りもしない人間に話はできないという状況もあります。そういった性暴力の調査を行っているというのでキーウの警察の報道官に話を聞いてみました。この報道官はかなり確度の高い、実際に被害者から相談を受けているケースについていろいろと話をしてくれました。ひどいケースだと、ウクライナ人の家庭にロシア兵がやってきて家の男性を撃ち殺した後、妻である女性に性的暴行を加えてしかも子どもをいわば人質に取るようなかたちで、何度も家に来て性的暴行を加えるというケースがあったということです。5歳くらいの女の子が性的暴行の被害になったということもあったそうです。私が現地で住民から何となく聞いた話でも、かなり広範囲にこういった性的暴行が行われていたような感じです。それこそ手あたり次第にウクライナ人の家に押し入って金品だとかものを奪ったり、その家の女性に性的暴行を加えたり、かなりそういった問題が広範囲に行われていたというように聞いています。実際に被害者が話を直接私にするということは今回なかったんですけれども、現地の人たちが「そういうことがあった」と話をしてくれました。

人々が殺されたり、拷問されたり、性的暴行を受けたりする状況は平和じゃない

われわれは軍隊というものに対するイメージが、過去の戦争もあってあまりよろしくないわけですが、ウクライナではウクライナ軍はいま完全にヒーローですね。こどもたちがこういう絵を描いているわけです。こういった状況の中で、日本の中の議論では「即時停戦」の話だとか、あるいは欧米がウクライナに武器を供与するのはどうなのか、という話もあります。現状は、私は少なくとも日本の人たちがウクライナの人たちに戦うのをやめろだとか、あるいは欧米の武器を受け入れるのをやめろといったところで、たぶん聞いてもらえないだろうというのが正直な感想です。ではどうするのか。私は、もしウクライナの人たちに「戦うな」とか「欧米の武器を受け取るな」と言うのであれば、私たちが平和的手段でいかにこのロシアの暴走を止めるのかを真剣に考えなければいけないと思います。私がすごくお世話になった元朝日新聞記者でジャーナリストの伊藤千尋さんという方がいらっしゃいますけれども、彼は「護憲から活憲へ」と言っています。憲法を活かした取り組みを、もっとするべきだという感じで言っているわけですけ。じゃあどうするのかという話ですよね。

キーとなるのは、いわゆる中立国と言われる国々、特に中国の動き方ですね。資料の中でも最後に書きました。結局ロシアが欧米や日本も含めて経済制裁を受けていて、頼っているのは中国です。中国やインド、さらに言えばトルコやサウジアラビア、そういう国々です。この中立国を説得して、「侵略戦争ってどう考えても国連憲章違反じゃないの? 国連憲章を守れ、ロシアの侵略に加担するな」ということを中立国にしっかり言っていくということが、外交として大事なんじゃないかなと思います。そのためには、私はちょっとアイデアがあるんです。中国に対して「ロシアの肩を持つなよ」ということを言っていくことはすごく大事で、それはがんがん言った方がいいんです。他方でパワーゲームの話になるけれども。中国がなぜどちらかというと中立ないしはロシア寄りなのかというと、結局米中の対立があるからです。アメリカが中国に対して圧をかけている。中国側にまったく問題がないとは言いませんが、とにかくアメリカが圧をかけている、その尻馬に乗るようなかたちで日本も岸田政権が中国に対する圧をかけているわけですね。南西諸島での軍事拠点化のようなかたちでミサイルを配備したりして中国に圧をかけているわけです。

しかも安保3文書を改悪して軍事費を倍増したり敵基地攻撃能力を保有したり、そういうことをやっている。岸田政権は、ロシアの侵略を受けたら国を守らなきゃいけない、みたいなことを言っているけれども、ウクライナの侵攻って日本の防衛と何が関係あるんですか。全然関係ないでしょ。ロシアが日本に攻めてくる可能性なんてほぼゼロですよ。はっきり言ってウクライナにかかりきりでそんな余力ないですよ。ウクライナをダシにするなと私はすごく言いたいですね。岸田政権がアメリカと一緒になって中国に圧をかければ圧をかけるほど中国はロシアの方に行ってしまうんですよ。それはウクライナの人たちにとってとてもまずい状況じゃないですか。中国がロシアを支えている限りロシアは継戦能力があるわけです。逆に言うと中国をいかにロシアから引き離してロシアが戦争ができないような状況に持っていくかということが、実はすごく大事なんですよ。

そのためには、日本が軍事費を倍増したり敵基地攻撃能力を持ったりということは逆効果です。だからやめた方がいい。東アジアの緊張を緩和して、いまはロシアの暴走を一緒に止めようという歩み寄りをしたらいいんですよ。つまりウクライナの平和と東アジアの平和を両立するということです。だって米中対立ががんがん高まって、その中に日本も巻き込まれていって、それで日本の平和と安全が守れますかという話ですよ。在日米軍基地が中国側のターゲットになる可能性が極めて高いわけですよ。台湾有事とか本当に米中がやると思いますか。どちらも失うものが大きすぎるでしょ。だから本当は避けたいということですよ。台湾の人たちだってそうで、世論調査の結果を見ても中国と完全に事を構えるのは嫌だというのが圧倒的です。無理して独立するという感じではなく、現状維持がベストなんです。中国にとっても日本にとってもアメリカにとっても台湾の人たちにとっても。中国だって本音でいえばロシアよりも欧米や日本とビジネスした方がよっぽど儲かるわけですから、本当は対立を緩和したいわけです。だから日本が率先して対立を緩和していく役割を担ってロシアの暴走を一緒に止めましょうという方向にしていく。中国が働きかけて、ウクライナから軍を撤退させなさい。「停戦」じゃなくて「即時撤退」を求めていくということがすごく大事なんじゃないかなと思ったりするわけです。

国連憲章違反の米国のイラク攻撃はどうなのか

イラク戦争から20年経つわけですが、みなさん思い出してください。ありもしなかった大量破壊兵器のことでアメリカがいちゃもんをつけてイラクに攻撃を仕掛けていった。国連安保理の決議もとらないで開始した侵略戦争です。国連憲章違反です。ロシアのやっていることと何が違うんですかという話です。やっぱり国連憲章違反はダメだよ、侵略戦争をするなということを力強くいうためには、アメリカはもっと反省しろよという話です。オバマが大統領に当選して、イラク戦争は失敗だったみたいなムードがアメリカの中でありますけれども、そういうことじゃない。最近になってブッシュ元大統領なんかも元大統領面して表に出てくるようになってきましたね。トランプ大統領があまりにひどかったからですけれども、トランプ大統領よりもブッシュ大統領の方がひどかったじゃないですか。なに善人面してるんだということですよ。プーチン大統領は戦争犯罪人だということで国際刑事裁判所が逮捕状を出しましたけれども、ブッシュ元大統領だって戦争犯罪人じゃないですか。国際刑事裁判所がちゃんと逮捕状を出さないとダメですよ。アメリカが率先してオランダのハーグに引き渡すくらいじゃないと。それくらいしないと反省したということになりませんよね。

私は取材しまくっていましたけれども、これはバクダッドで、米軍への攻撃があったというだけでその地域の住民を根こそぎ捕まえて捕虜収容所送りですよ。そこで散々拷問とかしている。水責めと電気ショックとか殴る蹴るの暴行、そういう拷問で死んだ人もたくさんいます。そういった拷問をされている中で反米感情がすごく高まって、結局捕虜収容所から出た後に武装勢力に入った人もいっぱいいるわけです。「イスラム国」なんてまさにそうです。実際に「イスラム国」の幹部がイギリスの「ガーディアン」という雑誌のインタビューに答えて、「われわれは米軍の捕虜収容所からやってきた」と言っています。私の知り合いでもそういった米軍の収容所に行った人がいますけれども、彼が言うには「あれはね、テロリスト製造工場だ」。「あそこの中にいるととにかく米兵にひどい目に遭わされて、まともだった人も反米感情が強くなり過ぎちゃってイスラム過激派になっちゃう」。「本当はイスラムはそういうのじゃない」と彼は力説して、「もっと命を大事にする宗教なんだ」といっていました。そういうように過激化し、武装勢力になってますます状況が悪化してきたわけです。

でもこういった拷問を繰り返したり市民の人権を無視しておいて、ロシア軍が占領しているウクライナの地域でやっていることと何が違うんですか。同じでしょというという話です。これはイラク最激戦地のひとつのファルージャです。ここでは米軍が街ごとファルージャを包囲して、とにかく住宅地から病院からかたちあるものすべてに対してめちゃくちゃに攻撃したわけです。動くものはなんでも殺されるみたいな状況だった。これは、ファルージャのサッカー場を掘り返して集団墓地にした写真です。あまりにもたくさんの人が殺されて、これまでの集団墓地がなくなったからです。埋めるところがなくなって、新しい空き地とかサッカー場までも掘り返して集団墓地にした。ブチャの虐殺と何が違うんですか。同じでしょという話です。本当にアメリカには反省してもらいたい。

日本だって全然反省していないですよ。岸田首相は国会で野党の議員からイラク戦争についてどうなんですかと聞かれたときに、山本太郎議員ですけれども「われわれとして答える立場にない」とか、「当時の判断に問題はない」とか言っています。問題は大ありでしょ。戦争の大義は完全に間違っていたわけだし、しかも国連憲章の違反じゃないですか。結局戦争に対してちゃんと反省していないということでいうと日本もアメリカと同じですよ。国連憲章を守りましょう、侵略をやめましょうと世界に向けて日本が発信する際に、「じゃあイラク戦争はどうなんだよ」といわれたらまずいじゃないですか。だから今からでも検証して反省するべきですよ。じゃないと、世界の中で戦争をやめましょうということを日本が言いづらい雰囲気になっちゃっている。もったいないですよ、せっかく憲法9条がある国なのに。憲法9条を最大限生かすためには、武力によらないで平和的に問題を解決して、戦力を持たないというのであれば、国際秩序が重要なんですよ。国際秩序が完全に守られること、「法による支配」、国連憲章であり国際人道法であり侵略戦争はいけませんよ、民間人を殺してはいけませんよ、民間施設を攻撃してはいけませんよという部分がちゃんと国際社会の中でしっかりとしたルールとして守られないと、非常に不安じゃないですか。そういったところに改憲派はつけ込んでくるわけです。憲法を守ろうという人たちこそ日本の平和だけ守られればいいというわけじゃなくて、世界の中で、国際社会の中でちゃんと国連憲章だとか国際人道法が守られるということを常識にしていく。そういう雰囲気をつくっていかないといけないということがあるわけですね。それでこそ9条はすごく生きてくるわけです。逆に、9条を世界に広めることによって攻撃しちゃいけませんよという考え方を広めていくということもありだと思います。

ウクライナ危機と米国のダブルスタンダード

私はパレスチナの取材も長いので、これも言わせてください。「力による現状変更」という話がありました。イスラエルがどんどんと入植地を増やしていったり、「エルサレムは自分のものだ」みたいなこととか、エルサレムの帰属はどっちになるかというのは議論が分かれるところで、パレステチナ側は東エルサレムを将来の首都にするといっているわけです。でも実際にはイスラエルがエルサレムを完全に自分たちのものだみたいな感じで、イスラエルの旗を掲げて宗教右派がパレステチナ人が多く住む地域を練り歩いているわけです。しかもそれをイスラエル軍ががっちりガードしている。こういう過激派を止めないんですよ。逆にそれに抗議するような人たちは、イスラエル警察あるいはイスラエル軍によって排除されたりするわけです。これこそが「力による現状変更」そのものです。バイデン大統領にいいたいのは「お前、勝手すぎるだろ」という話ですよ。ロシアに対して「力による現状変更」が許せないというのなら、イスラエルに対してもそういうことをちゃんといいなさい、と。アメリカは年間30億ドル、日本円にすれば4000億円とか5000億円くらいの規模の軍事支援を毎年している。それでパレスチナの人たちが傷つけられたり殺されたりしている。

私は実際に2014年のガザ攻撃、イスラエル軍によるパレスチナ自治区へのガザ攻撃を取材しました。その映像もダイジェストで見せます。インフラ攻撃みたいなことをロシア軍がウクライナへやっていましたけれども、イスラエル軍もインフラ攻撃をパレスティナの人たちにめちゃめちゃやっている。(ガザの友人が言った言葉「また、何年か後に会いましょう。その頃、また大きな戦争が起きてあなたもガザに戻ってくるでしょうから」の映像のあと)、そのあと実際にガザに戻る羽目になりました。衝突が相次いで、2018年もそうだし近年もガザへの空爆は毎年のように起きています。そういうアメリカのダブルスタンダードに対して、パレスチナの人たちだけじゃなくて、中東の人たちがすごく怒っているわけです。ウクライナに対する戦争はいけない、それはもちろんそうです。アメリカがロシアは許せないといっていることに対して、非常に中東の人たちは複雑な思いを抱えている。

例えば、ウクライナの人はよくイラクに行ったり逆にイラク人がウクライナに行ったり、人的交流は結構活発だったりしています。だけどそういったイラク人にとっても、自分たちの国の状況と世界中が応援しているウクライナということに対してすごく落差を感じるということを言っています。実際そういったイラク人ジャーナリストの寄稿がアルジャジーラに掲載されました。それはイラク戦争20年をテーマにしたエッセイでしたけれども、私もその内容に本当にその通りだなとうなずかざるを得ない。たくさんの人々が殺されて、方やウクライナに関してはプーチン大統領の戦争責任が問われて、戦争犯罪の責任が問われる。方やブッシュ大統領は最近では「いい人」のように扱われていたり、そういう落差があまりにもひどすぎるというようなことを書いていました。まったくその通りだなと思います。ウクライナに対する戦争はダメだという声をもう少し高めていく上でも、アメリカのダブルスタンダードに対して「何とかしろよ」ということをしっかり言っていくことが大事だと思います。

如何に戦争を終わらせるのか?

関連ですが、アメリカの外交安全保障の身勝手さというものが、思いっきりウクライナにも影響しています。それは、トランプ政権のときの核合意の一方的破棄です。核合意とは、イランが核兵器の開発をやめる代わりに、イランに対する経済制裁はやめることをオバマ政権のときに合意したんですね。平和的利用はOKです。ところがオバマのやることとは気にくわないということで、当時のトランプ大統領が核合意から一方的に離脱したわけです。しかも、なぜトランプ大統領が離脱したかというとイスラエルなんですよ。イスラエルはイランとすごく仲が悪くて、イランが核兵器を持つなら先制攻撃をしてでも止めさせるというようなことをいっていて、核合意は原発をイランが持つことを禁止していないからそれでは不十分だということで、イスラエルは核合意そのものに反対していました。トランプ大統領は、イスラエルの右派政治家と家族ぐるみというか非常に仲良しです。正確にいうとトランプの娘婿のクシュナーという人が、イスラエルの右派政治家たちとべったりです。そういうこともあってトランプ大統領はイスラエルとべったりで、そのイスラエルが核合意に反対しているからということで、一方的に離脱した。

バイデン大統領になって核合意に復帰するかと思ったら、意外とそうでもない。バイデン大統領はアメリカの右見て左見てみたいなバランスをとることばっかり考えていて、核合意もそのままなんです。その中でイランとしては経済的に苦しくなってきて、ロシアとか中国などに依存するようになったわけです。イランはいまやロシアにとって一番の軍事支援国、ロシアが経済制裁を受けて国内での兵器の開発や生産が難しくなってきた。それでイランの武器をもらいましょう、みたいな感じになってきています。代表的なのは、シャヘドという自爆型ドローンです。「カミカゼドローン」ともいわれますけれども、ミサイルみたいな感じでドローンが飛んでいって、ウクライナの発電所やインフラ施設を攻撃したことが昨年の秋くらいに大きな問題になりました。いまは少し被害が減って、それはシャヘドの在庫が切れたというのと、ウクライナ側の迎撃技術が上がったということもあります。とにかくイランがロシアべったりで兵器まで供与しているというのは結局アメリカが招いたことだとも言えるわけです。

本来であればオバマ政権のときに核合意を結んで、経済活動などを再開するはずだった。それが反古にされて、結局頼れるのがロシア、中国だということになった場合、それはロシアから兵器を寄こせといわれたら「出すよ」と、イランとしてはそうなっちゃうじゃないですか。そういう状況にイランを追い込んだのはアメリカの一方的な核合意からの離脱ですよ。しかもそれが当時の大統領の、トランプさんの個人的な関係性から行われたわけですよね。非常によろしくない。結局イランとの対立というのが現在まで尾を引いて、バイデン大統領も優柔不断でアメリカ国内での意見のバランスをとることばっかり考えているからこういうことになってしまっているということです。

女性のヒジャブ、頭にかぶるスカーフですが、イランでは女性が髪をスカーフで隠さなくてはならないということがあって、これは国によって全然違います。イランは宗教的戒律は厳しいけれどもレバノンなんかはもっと開放的だし、イラクも場所によってだいぶ違います。パレスチナも地域によって違います。トルコのユーチューブを見ると日本よりもある意味女性が大胆というか過激で、トルコのアイドルとかはK-POPも真っ青という感じの状況だったりします。それはさておき在日イラン人の方々が女性に対する暴力をやめろ、スカーフの強要をやめろということでデモをやっていますね。それはイランでもデモをやっていて、イラン本国でのデモに連帯するというかたちで最近も毎週のように在日イラン人の人がデモをしています。そのデモの参加者がウクライナの旗を持っている。ウクライナの人々に連帯するといっているわけです。人権に国境はなく、人の命に国境はないわけです。そういった在日イラン人の人たちがウクライナの人たちにも連帯するという、さういう精神をわれわれも見習いたいなと思います。

要するに、国境というものに関係なく、国とか関係なく、人の命だとか人権というのは等しく尊いわけです。アメリカが嫌いだとかロシアが嫌いだとか、そういう話ではなくて普遍的な価値として人権だとか命というものを守っていこうという、そういう価値観が大事です。アメリカのダブルスタンダードみたいな「お前のところはOK、お前のところはダメ」という、命を選別するようなやり方に対してしっかり抗議していかないといけない。そう思っています。それは私たちにも問われることで、アメリカが嫌いだからといって「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」という感じで、アメリカが支援するウクライナまで「あれはウクライナが攻められる理由がある」みたいに言う。そういうことを言っちゃう人が、普段平和だとか人権だとか言っている人たちの中にもいますけれども、それじゃダメなんですよ。本当に普遍的に命だとか平和だとかを守っていく、そういうことをしっかりといっていくことが、ゆくゆくは日本の平和と安全のためにも役に立つんじゃないかなと思います。

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