第211通常国会が始まった。この国会は「日米首脳会談」などで国際公約した安保政策の大転換など今後の国の進路を左右する重大問題を抱えた国会だ。
昨年末、タレントの森田一義(タモリ)氏がテレビの「徹子の部屋」で語った「新しい戦前」の言葉を引くまでもなく、岸田文雄政権のもとで、日本が米国の中国包囲網の先兵となって、東アジアの緊張を激化させていることは容易ならないことだ。米軍と日本の自衛隊は過剰な「台湾有事」と「離島有事」を演出し、それに備えて南西諸島シフトをいそいでいる。13日の読売新聞が報じるところでは自衛隊の幹部は「台湾有事は起きるかどうかではなく、いつ起きるかの問題だ。南西諸島に資源を集中するための検討を続けている」と語った。
明らかにこの国の中枢では「戦争」が検討されている。目を凝らし、耳をすませば「戦争へ、戦争へ」という濁流の音がする。
20世紀の末、当時、運動圏で随一の政治評論家の山川暁夫氏がしきりに「あの15年戦争が始まる直前も、多くの人々は忍び寄る戦争に気づくことなく、墨田川では花火が上がり、若い女性たちは浴衣をきて、下駄の音を鳴らして歩いていた」と警告していたことを思い出す。
この国はいま、そういうところに来ていないだろうか。
昨年末、臨時国会が閉会して間もなく岸田内閣によって、戦後の歴代政権の憲法解釈と安保政策に関わる「歴史上もっとも重要な決定の一つ」(1月14日、米国ジョンズホプキンス大学での岸田首相講演)と首相が自賛する「安保3文書」が閣議決定された。これは非公開の与党協議とか、お手盛りの「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」などだけで、国会の議論も経ないで決められた。そして一方的に「国民一人一人が主体的に国を守る意思の大切さ」が強調された。この岸田首相の政治手法は「官邸独裁」というほかはない。
岸田首相の米国の大学での「安保3文書」などの解説は驚くべきものだ。
彼はこの講演で「(今回策定した敵基地攻撃能力の保有や大軍拡は)戦後の安全保障を大転換する決断」であり、「日米同盟の強化にとって、吉田茂元首相による日米安保条約の締結、岸信介元首相による安保条約の改定、安倍晋三元首相による安保法制の策定に続き、歴史上最も重要な決定のひとつだ」と述べたのだ。吉田、岸、安倍の安保政策に匹敵する大転換とは、従来からの歴代政権による「専守防衛」のタガを外し、日本自衛隊も「敵を攻撃できる」安保に、異次元の大転換をしたということだ。それは従来の安保条約解釈の「盾と矛」の関係も変え、戦略攻撃兵器の不保有の原則も突破し、「相手からミサイルが発射される(過去形ではない)際にスタンドオフミサイルで攻撃する」ことも可能としている点で、事実上「先制攻撃」も想定していることなどに見られる「変質」だ。
この岸田の異様な「高揚ぶり」は極めて危険だ。自民党内で安倍派(清話会)や櫻井よしこら右派から、岸田宏池会政権にくり返し掛けられてきた圧力に対して岸田は、自らの政権延命のためにこのように応じたのだ。
岸田首相は2023年から2年間、日本が国連安保理の非常任理事国に就任することになり、5月に広島市で開く先進7か国首脳会議(G7サミット)に向け、各首脳と個別に会談し、事前調整を行うという目的で、通常国会前に欧州3か国とカナダ・米国を訪問し、この「安保3文書」にもとづいて、日本の軍事力の抜本的強化の方針を説明して歩き、それを「公約」した。
この1月11日の日米安保協議委員会(2+2)につづいて、13日にはバイデン米国大統領との日米首脳会談でこれを報告し、「日米共同声明」を発表、事実上、中国を念頭においた「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)の実現に向けて日米軍事同盟の緊密な連携を軸に置いた国際戦略の一層の強化を確認した。
それにしても、このような重大問題について、岸田首相から、私たち市民は何一つまともな説明を受けていない。反撃能力(敵基地攻撃能力)はどのように理解すれば憲法第9条に違反しないのか。それは従来から事実上の「国是」とされてきた「専守防衛」の範囲を、本当に踏み越えていないのか。「台湾有事」をいかにして回避するのか。これによって日本が戦争に巻き込まれることはないのか。防衛費(軍事費)の増額が本当に必要なのか。なぜそれは国内総生産(GDP)比の2%なのか。増税でなければ軍事費の拡大は許されるのか。国会内外で議論されるべきことはたくさんある。いまこそ、徹底審議に向けた野党の真価が問われている。
立憲民主と維新の院内共闘が確認されているが、問題は院内共闘一般ではない。この安保3文書の問題点を軍事費の額の多寡の議論にしたり、財源問題の議論に矮小化してはならない。戦争の準備のために「台湾有事」を作り出し、中国包囲網形成に走り、軍事的緊張を拡大することに反対しなくてはならない。
中国や朝鮮との緊張が進んでいるからと言って、国と国は好き嫌いで引越しすることはできない。意図をもって軍事的な緊張を作り出してはならない。隣国とは平和的に共存する以外にない。日本は軍事力を強化することを安全保障政策の柱にする道ではなく、もう一つの道、憲法9条による隣国への「安心供与」と、対話と外交による平和の保証の道を進まなければならない。
各種の世論調査でも防衛費増額に反対がかなりの部分を占めているし、政府が言う増税による防衛費増は圧倒的に反対が多い(1月7~9日NNHK調査:増額する防衛費の財源のための増税実施に「賛成」が28%、「反対」が61%)。
自民党の麻生太郎副総裁は1月8日、福岡市で「もっと『反対』との反応が出てくる可能性を覚悟して臨んだが、多くの国民の理解をいただいている」などと発言した。これは民意をなめ切った発言だ。
こうして事実上の憲法破壊を進めておきながら、岸田首相が「自民党総裁の任期までに憲法改正を実現したい考えにいささかの変わりもない」(1月1日・読売新聞)などと繰り返し語ることは容認できない。安保3文書で憲法9条を軸とする平和憲法を先行して踏みにじっておきながら、あとからそれに合わせる改憲をやるというのか。これでは立憲主義はなりたたない。
首相の任期は2024年秋、それまでに改憲を実現するには、改憲手続法(国民投票法)で国民投票は国会の改憲発議後60日から180日以内と定められているので、遅くとも24年の通常国会では改憲を「発議」しなくてはならない。そのためには今年中に改憲原案をまとめることが必要になる。自民党が提起している改憲4項目をどうするのか。一部条項のみの改憲を強行的に先行させるのか、憲法審査会と国会の同意を得るためには難問山積だ。岸田首相はちょうど安倍晋三元首相が「任期中の改憲」を唱えて自縄自縛に陥り政権を放り出したようなジレンマにはまりつつあるのではないか。
岸田首相が自ら公言したように、彼は憲法第9条の精神を破壊した戦後4人目の首相だ。そ(次頁下段へ)(前頁から)れどころか、現行憲法下の戦後70余年、この国がもっとも戦争の危険の瀬戸際にある時、台湾有事を喧伝して米国の指揮棒のもとでの戦争準備に入ろうとしている戦後最悪の首相だ。岸田首相があゆもうとしている道は歴史に対する反動だ。
各種の世論調査をみても、内閣支持率は極めて低率だ。1月中旬の読売の世論調査ですら、内閣支持率は39%で不支持の47%を大きく下回っている。衆議院の年内解散を望む声は51%だ。もはや一時喧伝された「黄金の3年」どころではない。
私たちは全力を挙げて新しい戦争を阻止しなければならないし、そのために岸田政権を退陣に追い込まなくてはならない。
(共同代表 高田 健)
2023年があけましたが、おめでとう、とは素直に言えません。
22年は、後世の人がふりかえったとき、歴史の転換点、分岐点となった年だったと総括されるでしょう。2月のロシアによるウクライナ侵略からはじまり、7月には安倍元首相の銃撃事件、国葬、参議院選。旧統一教会をめぐる数々の自民党と教会の癒着、というより自民党そのものが、教会と一体であったこと。統一教会が日本の政治の根っこまで、浸食していたことに震撼とさせられました。さらに年末には、ロシアの侵略や台湾有事を口実に、岸田政権は安保関連3文書を改訂し、憲法破壊、専守防衛もかなぐりすてた軍拡路線への大転換。しかも国会での熟議も国民への提案もなく閣議決定のみ。「悪夢の民主党政権」と安倍元首相は誹謗していましたが、岸田政権こそ「悪魔の政権」であることが明白です。
一方昨年2月から、若者たちが、札幌駅前広場で、ウクライナ戦争反対の抗議行動をはじめました、それにあわせて、市民の風のなかに「ウクライナプロジェクト」を立ち上げました。毎週日曜日11時からのスタンディングはしんどい時もありましたが、市民の風の会員以外の方も含め、毎回5~60人から100人を超える人が参加。市民の風の会員で音楽好きなメンバーで結成された、ライヴ隊は音楽・歌を通じて平和を訴えました。足を止める人々が多く、若者はピースサインをしたり、投げ銭をしてくれたり、音楽の力を感じた日々でもありました。雪の多い札幌で、外でのスタンディングは厳しいものがあり、10月30日からは「金平茂紀さんの講演会」など屋内での集会でしたが、新年1月から、スタンディングの「聖地」札幌駅南口で再開。戦争させない市民の風PJとして、ウクライナでの戦争反対はもちろん、軍拡をはかる岸田政権打倒を掲げ、パワーアップをめざします。
今年4月には、統一自治体選挙。札幌は、市長・市議会そろって2030年冬季五輪パラリンピックの招致をめざしています。しかし、スポーツのすばらしさとは程遠い「金権五輪」が一層あきらかになり、そんな五輪を招致することはありえない、市民の67%が誘致反対です。自治基本条例が制定されている札幌市、最低でも「住民投票」で決めるべきという請願もたった1回の審議で否決され、共産党・市民ネット以外のオール与党市議会の弊害が示されました。国政に目を奪われがちですが自治体選挙もしっかり目を見開いて、主権者として権利を行使することが重要な時です。様々な課題、事件が山積の政治、ともするとどうでもいいや~と思いがちです。でも北海道出身のアーティスト中島みゆきの「ファイト」にあるように、産卵のため自分の生まれた川を上っていく「鮭」のように、「いっそ流れに身を任せたら楽なのに」「あきらめという名の鎖を身をよじってほどいていきたい。2023年安保闘争を全力でがんばりましょう。
岸田政権の大軍拡路線は財政破綻が不可避だ!
「帝国ノ国防ハ攻勢ヲ以テ本領トス」とは1907年(明治40年)に定められた「国防方針」の要旨である。これこそ侵略的拡張主義の公然たる決定であり、先制攻撃で戦端を開いた「日中戦争」「真珠湾攻撃」等を経て完膚なきまでの敗亡に至った根源である。岸田政権は「敵基地攻撃能力の保有」やGDP2%・防衛費倍増などを軸とする「安保関連3文書」を国会での議論もなく閣議決定した。これは明白な憲法9条と国際法違反の先制攻撃を可能とするものであり日本を戦争国家にする決して容認出来ない「大転換」である。
とりわけ長距離巡航ミサイル「トマホーク」500発をアメリカから2113億円を含む23年度当初予算案の防衛費は対前年比26%増の約6兆8000億円で過去最大となった。増額した1兆4768億円のうち大半の1兆971億円はアメリカからの武器購入が占めている。23年度からの5年間で防衛経費の総額を43兆円程度とすることとしたのに伴い、その財源として「防衛力強化資金」という財源管理をする「財布」を別に設け23年度分約3.4兆円を含めると10.2兆円(歳出構成比8.9%)の大軍拡予算となっている。
2023年度予算政府案は前年より6兆7848億円増加し一般会計歳出総額141兆3812億円とし増加幅及び総額とも過去最大となった。歳入中、借金に当たる新規国債発行額は35兆6230億円と前年より1兆3030億円減り歳出総額に占める割合である公債依存度は31.1%低下した。しかし税収が約4.2兆円増えているのに国債発行は1.3兆円しか減っていないので如何に防衛費増加に充てているかがわかる。しかし「安保関連3文書」の実現にとってこれから足かせになりかねない課題は、今後5年間で防衛費を43兆円増額する財源問題であり「増税」VS「国債」と自民党内を二分する事態が生じている。
一方では自民党内の醜い論争は、財政面の裏付けなしにあらゆる軍備拡張は不可能であることを示している。憲法9条の改憲を許さない論拠は、平和主義と「安全保障」の問題としてだけでなく、軍備拡張と戦争への財政的な裏付けを決して許さないことを不可欠な構成要素としている。第2次大戦における日本政府は膨大な戦費調達のため「日銀引受国債発行制度」導入した。これは「財政ファイナンス」であり、赤字国債を大量発行する際、国債を市中に売却して民間資金を吸収するのではなく、政府が国債を直接日銀に引き受けさせ通貨を供給したことにより歯止めない戦争を財政的に支えたのである。そのため戦後の激しいインフレーションと「預金封鎖」「新円切り替え」(旧円の紙屑化)、民間資産を最大90%没収した財産税の実施となり多くの中小企業の倒産と大量解雇による失業者の増大を引き起こし人々の生活は困窮を極めた。こうした深刻な教訓から憲法9条2項の「戦力の不保持」が制定されたのであり「戦力」とは「戦争を遂行するための能力」(war potential)であり広義の「国力」でもある。それは「まずもって軍に対する財政支出を禁止する、立憲的財政の観点が含まれている」(「改憲の論点」集英社新書 第8章「真ノ立憲」と「名義ノ立憲」石川健治東大教授執筆237P)のである。そしてこの憲法に基づく財政法第5条では日銀の国債の引受けを原則として禁止しており、「建設国債を除き、借金財政を禁ずる財政法4条。『特別の事由』がなければ、日銀の国債引受を禁ずる財政法5条。いずれも戦前の轍を踏まないように定められた条文であること、とりわけ九条との関連を意識しておかれた条文である」(前掲書239P)
しかしアベノミクスの根幹を支える黒田日銀は国債の大量買入れ行い国債発行残高の5割を保有するに至った。国債の累積残高は対GDP比262%(21年度)1250兆円を超え先進国で最悪である。日銀が保有する国債(バランスシートBSの資産)の加重平均利回りはわずか0.214%しかない。一方日銀のBSの負債である日銀当座預金には民間金融機関が所有する563兆円(22/3)の大半は付利0.1%の金利である。インフレ等によって10年物国債の金利を上げれば当座預金の金利も上げざるを得なくなり日銀は利子による収入より金利払いが多くなる「逆ざや」に転落しかねない。そうなれば日銀は債務超過となり民間企業における破産状態となる。日銀はその事態を回避するため金利を強引に0.25%に抑えるため国債を爆買いし、2022年年間の購入額は100兆円(紙幣の増発=インフレ要因)を超えた。昨年12/20に日銀は海外勢の売り圧力に屈して10年物国債の許容変動幅の上限を0.5%まで引き上げたが、今年に入っても売り圧力は止まらず1月中旬で日銀の国債購入額は過去最高の16兆円を超え金利を強引に0.5%に押さえつける限界が迫っている。一方では物価高が進行しており2022/12月の消費者物価指数CPIは4%に上昇し、川上の企業物価指数は22年9.7%上昇し過去最高となった。アベノミクス=黒田日銀は「2%の物価目標」をはるかに超えたにも関わらず「異次元の金融緩和」を継続する矛盾が露わになっている。
今後は昨年の貿易赤字約20兆円となりエネルギー・資源価格の高止まりで円安は今後一層進行すると想定される。ロシアのウクライナ侵攻・アメリカの政治経済とインフレに苦しむ世界経済の動向・国内の物価高次第によっては政府・日銀の金利抑制が破綻し、日銀の債務超過→政府が日銀救済資金投入→財源のない政府の多額の国債発行→日銀による国債購入→通貨の大量発行→歯止めのない通貨安によるハイパーインフレーションに進行する可能性を否定できない。防衛費倍増の強行は政府の財政破綻の引き金になりかねない。「バカな大将、敵より怖い」(武井正直元北洋銀行頭取講演録のタイトル-北海道新聞社刊)という通り、一刻も早く岸田政権を退陣させる運動の拡大が重要となっている。
河北新報へ投稿した川柳から
河北新報社の「河北川柳」に掲載された川柳を紹介します。
佳作〈人はただ平和な暮らし望んでる〉
2022.3.18付
選者評:コロナ禍、ウクライナ侵攻の脅威等々のすさまじい時代。今こそ平和という言葉をしみじみ考えてみたい。
死してなお忖度される元総理〉2022.8.17付
〈保険証私しは紙で良いんです〉2022.11.4付
〈総裁選歯がゆい思い蚊帳の外〉2018.9.12付
〈核の傘ならぬ九条盾にして〉2018.1.26付
2023年の年明けは、いつにもまして暗さを感じるものでした。今は既に「戦前」なのだろうかという気持ちに何度も襲われましたが、「決してそうさせてはいけない」とも強く感じます。では、何ができるのだろうと思うと、いつも虚しさが過りますが、私たち市民にはできることを一つずつしかできないのだから、と気を取り直します。
福島原発事故からの11年もその繰り返しの年月でした。しかし、昨年暮れに岸田内閣が次々に出してきた原発の再稼働、新増設、リプレース、運転期間の延長の方針には、失望と怒りが溢れました。事故からたった11年、収束すらしていない事故炉、今も7つの市町村に残る帰還困難区域、故郷に帰れない人々、汚染水、汚染土、健康被害など山積みされる問題。それなのに、もう忘れてしまったのですか。反省や教訓はどこに行ってしまったのですか。事故の反省から決めた政策や法律をことごとく崩していくこの国のありように、ただ唖然とします。もちろん、原子力ムラが除染や廃棄物焼却、廃炉事業など、事故をチャンスとしてまた利権を貪り、原発回帰を虎視眈々と狙っていたことは感じていますが、いとも簡単に変わっていく流れに恐れを感じるのです。何としても歯止めをかけましょう。もう誰もが原発事故など経験してはなりません。
1月18日、東京高裁で東電旧経営陣の福島原発事故の責任を問う刑事裁判控訴審の判決が出されました。控訴審もまた「全員無罪」でした。法廷で判決と長々しい理由を聞きながら、怒りと虚しさが同時に押し寄せてきて、思わずメモを取っていたノートに「裁判所、これでいいのか」と書きました。私たちが望んだ現場検証や証人尋問、東電株主代表訴訟の判決の証拠採用を却下し、審理を尽くすことなく出した結論ありきの判決は、岸田政権の原発回帰への忖度が伺えます。日本の司法は、多くの人に甚大な被害を及ぼした歴史的な公害事件を公正に裁くこともできないのか、私たちの社会はこんな社会でいいのかと、悔しさが胸に溢れます。起こした事故に対して誰も責任が問われないのであれば、次の事故を準備することになってしまいます。この判決を確定したままにしたくはありません。是非、指定弁護士に上告をして頂きたいです。
怒りの年頭の言葉になってしまいましたが、私たちが未来の世代に手渡していく社会が、少しでも良い社会であるように、めげずにできることをやっていきましょう。
政府は昨年12月16日「敵基地攻撃能力」の保有と軍事費の倍増等を柱とした防衛3文書を閣議決定した。以前から兵器の長射程化や空母の建造など、その内容を先取りする既成事実が積み上げられてきたし、「骨太の方針」でも防衛力の抜本的な強化が盛り込まれている。これは「専守防衛」を大きく踏み外し「先制攻撃」に道を拓くとともに、その財源調達のために増税まで目論むものであり、断じて認める訳にはいかない。
思い起こせば、歴代内閣が一貫して否定してきた集団的自衛権を解禁したのも2014年7月の閣議決定であった。今回も、会期末の土曜日に本会議を開き、統一教会の被害者「救済」法案を多くの課題を積み残したまま強行してまで国会を閉じた上での閣議決定である。しかも、国会論戦からは逃げ続ける(主権者への説明責任を放棄する)一方、5月23日のバイデンとの首脳会談で早々に対米公約している。いつからこの国は法治国家であることを放棄してしまったのか怒りを禁じえない。
そもそも、ミサイルのような誘導兵器は偵察衛星等での正確な位置の測定が必須なことを考えれば、米軍からの情報提供を前提に発射ボタンを米軍に握られていると言っても過言ではない。そして、安保法制下で米軍との一体化が進む中で「敵基地攻撃能力」を保有することは、米国と交戦中の国を日本が集団的自衛権に基づき攻撃(相手国にとっては日本からの先制攻撃)することで全面戦争に突入しかねない事態となる。
これがこのタイミングで出てきた要因の一つとして、ロシアによるウクライナ侵攻が台湾海峡や尖閣の「脅威」論に火を点けたことは否定できない。しかし、「専守防衛」の枠を突破する構想は今に始まったことではない。2013年の国家安全保障戦略では「積極的平和主義」、2010年の防衛大綱では「動的防衛力」として登場してくるが、更に遡れば2007年の経団連「御手洗ビジョン」にまで行きつく。つまり、この背景には在外権益確保のため世界中に軍隊を展開したいという多国籍化した財界の永年にわたる要求があると見ておかなければならない。
そして、この大軍拡の財源として公然と増税が持ち出されているし、当面は公債を増発するとも言われている。震災復興増税の他目的への転用は被災者を冒涜するものである上、法人税分をさっさとやめてしまったこととの辻褄も合わない。また、建設公債の対象に防衛費を加えるのも無理がある。耐用年数の長いものについて世代間の負担の公平を図るのが趣旨の建設公債に、壊し・壊されることが前提の兵器や軍事施設は馴染まない。加えて、近衛内閣時の「時局収拾」までを1会計年度とし財源は戦時公債で賄うという臨時軍事費特別会計制度が敗戦直後のハイパーインフレや新円切り替えによる経済の混乱をもたらした過ちを繰り返す訳にはいかない。
また、世界一の軍事大国である米国は、健康保険は大半が民間任せ、年金も原則的には国庫負担がないということや、防衛費の対GDP比の引き合いに出される欧州諸国の消費税率は20%前後であることも指摘しておかなければならない。
各種世論調査を注意深く読むと、防衛予算増への賛成自体は増えているものの、社会保障費をはじめ生活関連予算の削減には反対論も根強い。ここに私たちが対抗していくための手がかりがある。市民と野党の共闘を再構築し、全国的に主権者が意思表示する最大の機会である統一自治体選挙で岸田軍拡にノーを突き付けていくことが目下の最大の急務である。
我が家の東に見える暗い山並みの上に広がる青い空が赤く染まり、時間とともに広がっていく。やがて白い光の筋とともに輝く太陽が顔を出す。目の前のさわやかな光の演出に心が洗われる今年の「初日の出」だ。
だが、そんな良い気分はたちまち現実の憂鬱にかき消されてしまう。4年目になるコロナ禍も収束の兆しが見えてこない。物価上昇は確実に家計を直撃している。ロシアによるウクライナ戦争も収束する見込みは見えてこない。この国にも世界にも格差と貧困が蔓延し、人々は必死に生きている中で異常な事件も多発している。ついため息が出るような状況だ。
そんな中、この国の政治からは全く希望が見えてこない。7日間の欧米歴訪をやって見せても岸田内閣の支持率は上がらなかった。それは「原発回帰」も含めて、岸田政治のどこを切っても「生活者の目線」に合っていないからだ。
特に問題なのは、すでに批判する動きは始まっているが、岸田政権が閣議決定した「安保3文書改定」と、それを土産に首相自らが「安保政策の大転換」を強調して回ったことだ。そして、「米国から様々な厚遇を受けた」と喜んで見せたが、自衛隊員と国民の命をアメリカの戦争に提供し、武器を爆買いすることを約束したのだからアメリカが歓迎するのは当然だ。何たることかだ。恥を知れと言いたい。
「国家安全保障戦略」をはじめとする「安保3文書の改訂」は国会での議論も国民が納得のいく説明もなく、「反撃能力保有」を含む「防衛力増強ありき」で「防衛増税」の方針と議論だけを先行させようとしている。大半の国民が支持しないのは当然のことだ。
「国家安全保障戦略」には「平和国家として、専守防衛、非核三原則の堅持は不変」「この反撃能力は憲法及び国際法の範囲内で、専守防衛の考え方を変更するものでなく、武力行使の三要件を満たして初めて行使され、武力攻撃が発生していない段階で自ら先に攻撃する先制攻撃は許されないことはいうまでもない」と書いてある。しかし、ここにいう「武力行使の三要件」は具体的に言うまでもなく、2015年安保法制に明記されたものであり「アメリカの行う戦争」と一体となり得るものであるのは明らかだ。
また、「反撃能力保有」は「相手側に日本を攻撃する意志を持たせないための抑止力」だともいうが、これは憲法9条が禁止する「武力による威嚇」に他ならない。さらに、防衛費を5年間でGDP比2%以上にして、軍事費世界第3位の軍事大国になるとなれば、実態は憲法9条2項「陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない」に違反する。これは日本国憲法を大きく逸脱する戦争準備であることは明らかだ。絶対許容することはできない。
そして「日本を取り巻く厳しい安全保障環境」の原因として中国の軍事力増強や朝鮮の核・ミサイル開発などを強調しているが、その一方で頻繁に行われている日米の大規模な軍事演習や今南西諸島を中心に強行されている基地建設及び装備拡大の実態は正当化され、かつまだ不十分だというのだ。とんでもない。これが「安全保障のジレンマ」であり、それこそが戦争を誘発する原因になっているのだ。
今日本の政治に求められるのは、アメリカが喜ぶ「実質改憲の軍拡」を進めることではなく、平和外交に徹し、食料自給率を向上、老朽化したインフラの整備、社会福祉、子育てや教育、災害対策を確実に優先させることだ。間もなく通常国会が始まるが、国会内の論戦だけに任せてはおけない。立憲野党の一部の不甲斐なさに怒りを感じる昨今だからなおさらだが、戦争に対する想像力も持てず、戦時には後方にいる可能性が高い政治家たちに日本の命運を決めさせてはならない。そのためには市民運動が元気を出して進むしかない。
いま、2015年安保闘争、「安倍国葬反対」闘争以上の市民運動の高揚が求められている。全国の仲間の皆さんとともに、楽しく元気に行動して、未来に希望を見出したいと思っている。来年こそは初日の出を心から喜べる1年にしたいと思う。(2023.1.20信州上田から)
テレビを観ていたら、1月13日に岸田首相が安保3文書・大軍拡・アメリカ兵器の爆買い等などの手土産を持って訪米し、バイデン大統領と暖炉の前での2ショットが映し出されました。いつもの茶番の演出が始まったと思った次の瞬間、女性記者が、大統領の自宅から機密文書が発見された問題を追及しているコメントが出て、バイデンが無言で困惑していたシーンになり笑える場面でした。私は、この報道を観てアメリカの記者は、日本の提灯記者と違って凄い!と感心したと同時に、岸田政権が更なる日米軍事同盟の強化を報告した「日米共同声明」は、戦争中毒の政治家や武器商人にとっては、日本国民向けのニュースとしては重要な話しですが、アメリカの人々にとっては、バイデン・岸田の2ショットで苦労の演出をしても、機密文書問題のほうがはるかに重いんだと感じました。
昨年から起きている世界の政治状況の大変動は、誰もが予想した以上ものであり、私自身も何かをしないといけないと思っていても、なかなか積極的な動きが出来ないジレンマに陥っています。
私は静岡県浜松市で地域の仲間とともに、2016年2月に「戦争させない・9条壊すな!浜松総がかり行動」を結成して以降、毎月の19日行動をJR浜松駅前でアピール行動を続けて、今年の1月19日で84回目を迎えました。
また、総がかりの全国行動呼びかけに連帯した活動として、2016年5月1日に300人で集会とデモ。同年6月5日には、200人で集会とデモを行いました。ただ、それ以降の参加者は20人から150人ほどですし、静岡県内で「総がかり」として活動しているのは、浜松だけのところも残念です。
そして2023年の活動の想いですが、あまり奇抜なことを考えずに、「継続は力なり」で展望を見出すことしかないと考えています。そのためには、従来行なっている毎月の19日行動を始めとした「総がかり行動」を継続していくことで、当面の取り組みとして、2月には19日行動と合わせて、「安保3文書を読む学習会」と2月24日に「ウクライナへのロシア侵攻1カ年抗議行動」を行います。
また、地域の仲間の様々な活動に積極的に連帯していくということで、①毎週金曜日の夕方、JR浜松駅前で「反原発金曜アクション(10年間活動している)」への参加、②宗教関係者が中心になって毎年行っている「2・11建国の日反対」集会への参加、③反原発3・11福島原発12カ年抗議行動、7月のピースサイクルによる浜岡原発廃炉申入れ行動、④年に3回開催している「浜松・憲法9条の会」集会との共催等などです。この1年、「継続は力」を合言葉に全国の仲間と連帯して頑張りますので、よろしくお願いします。
なんとも憂鬱な気分の年末年始でした。安全保障政策や原発政策など岸田政権のタガが外れたような暴走ぶりとそれに対抗する立憲をはじめ野党の動きや市民運動の現状にすっきりした気持ちになれないというのが実感です。それでも、日々頑張っている仲間をみると落ち込んではいられません。
昨年、10月「憲法をくらしと政治にいかす改憲NO!あいち総がかり行動」は、総がかり行動の今後を考える討論集会を持ちました。結成以来、19日行動を中心に様々な活動をしてきましたが、結集力の低下や運動スタイルのマンネリ化、個々の運動の弱体化などの課題があり、これからの運動のあり方を考えるというものでした。情勢分析の上に運動の長期的な戦略、それぞれの団体・個人の具体的な課題を結集し、それを実現させていく手法などなど討論は多岐にわたりました。運動を好転させる決定打はなかなか難しいですが、総がかり行動に結集していない団体・個人への働きかけの強化や、スローガンや集会・デモの工夫などできるところからやっていくということを確認しました。
その現状を踏まえ、今年の最大の課題は何といっても年末に出された安保3文書による大軍拡、大増税に対抗する運動をどう広げるかだと思います。ウクライナ戦争や中国の脅威を、台湾危機を煽りながら、「軍拡やむなし」という世論にどう向き合っていくかが課題です。明文改憲をしなくても9条ばかりではなく、生存権や表現の自由など様々な権利が侵害され続けているということを、具体的な運動で示し、対向していく運動が必要だと思います。昨年は、3年がかりで「私たちの表現の不自由展・その後」展を多くの人たちの協力で開催しました。河村市長はじめ歴史改ざん主義者や表現の自由を侵害し、歴史を改ざんしようとする者たちに、一矢報いた思いです。 こうした成功体験を積み重ねていくことが大事だと思います。
軍拡の問題で言えば、愛知には最大の軍事企業の三菱重工があり、敵基地攻撃農能力を持つミサイル「12式地対艦ミサイル」の改造や、航空自衛隊のF2戦闘機の後継となるステルス戦闘機の開発など進め夜討ちしています。大軍拡の反対する運動を、集会やデモはもちろんですが地域の課題として引き続き取り組んでいきたいと思います。
1月に京都のウトロ平和祈念館にツアーを組んで行ってきました。土地の立ち退き問題は裁判では負けたけれど、住民と日韓の市民が政府も動かし土地を購入し運動を成功させたところです。信念を持って闘えば困難な中でも必ず希望はある、ということを学びました。困難な時代ですが、諦めたら終わり。戦争の時代を再び迎えないように希望をもって創意工夫をしながら進んでいくしかないと改めて決意をしています。
原点に立ち戻って!
天からのお祝いか・・、春のように暖かい成人式会場!「成人おめでとう!」声をかけながら手作りの4つ折り8ページのリーフレットを晴れ姿の成人一人一人の届けるのも“いせ9条の会”の恒例活動。
今年のリーフレットは、コスタリカ知ってる?サッカーで沸いたコスタリカは軍隊廃止、幸福度世界NO1、韓国の人気スターTBSは頭を丸刈りにして兵役義務で入隊を余儀なくされた。
そして日本は・・・・憲法9条を持つ日本の立ち位置、日本のなすべきこと‥‥具体的、わかりやすいせ言葉で呼びかけた。
ウクライナ情勢を悪用して脅威を煽る今日、“9条で日本が守れる?の問いかけにしっかり答えられるために・・成人に限らず、周りの仲間たちにこのリーレットを届けたいと思います。今こそ原点に立ち返って9条の貴重さをみんなに気づいてもらうために。・・リーフレットを皆さんにお届けいたします。
『君死にたまふことなかれ』は大阪・堺出身の歌人、与謝野晶子が詠った反戦詩だ。日露戦争(1904~05)に出征した弟に「戦死しないで生きて帰ってほしい」と想いを込めた。ロシアによるウクライナ侵略戦争の戦場の報道に加え、12月16日の「安保3文書」の閣議決定後、自衛隊に関する報道が増えた。ミサイルが発射されるシーンや防衛装備品、戦闘訓練の様子などの映像を見せつけられると、戦場がリアルに想起され、身体が震え、自然と目を背けていた。重苦しい重苦しい年末、ふと気が付くと、私は毎日のように「君死にたまふことなかれ」とつぶやいていた。そして、ようやく気を奮い立たせることができるようになった。今こそ闘わなければ!平和憲法を守らなければ!
「敵基地攻撃能力保有」とは、他国の領域を攻撃できるようになることだ。平和憲法のもとで「専守防衛」が身体にしみこんでいるので、言葉を聞いてもすぐに具体的にイメージできなかった。しかし、メディアの図解で、日本の領域から他国の領域にミサイル等を打ち込むことだとわかり、大きな衝撃を受けた。しかも、解釈改憲による集団的自衛権の行使を可能とした戦争法制(安保法制、2015年9月)があるため、米軍と一体で他国を攻撃することができるのだ。米軍の戦争に従軍できるのだ。「専守防衛」から180度の大転換だ。このような大転換を国会の議論を経ずに閣議決定だけですますとは、立憲主義、民主主義のもとではあり得ない。さらに「安保3文書」は中国を敵視し、メディアは台湾有事を煽っている。中国を敵国とし、その防衛を掲げ「戦争前夜」を醸し出し、防衛費倍増で軍備を増強し、戦争準備を始めようというのだ。いや、もうすでに着々と準備をしていたと言ってよい。
それは、住民の反対を押し切って強行されている琉球弧の軍事基地化だけではない。日常化してしまった日米軍事演習、さらに訪英した岸田首相は、1月12日、「日英円滑化協定」を結んだ。英軍と自衛隊の共同訓練を増やすためだ。他国の軍隊と共同行動するということは、まぎれもなく連合国軍の一員となって、戦争をするということだ。すでに、18歳及び22歳の住民の4情報(住民基本台帳に記載されている氏名、住所、生年月日、性別)を提供し、自衛隊員募集に協力している市町村もある。サッカー部が陸上自衛隊に体験入隊、迷彩服を着て訓練を受けた高校もある。監督は「闘争心をつけたい」からと説明しているが、「人殺し」の訓練ではないか。スマホのゲームでも人を殺すものが多く、日常生活のなかに、軍隊、戦争が、どんどん入り込み、「平和」が遠のいていくことを実感せざるを得ない。
与謝野晶子は戦争賛美の詩も晩年には詠った。女性の参政権を訴えた市川房枝も戦時中は戦争に協力する側にたった。戦争はある日突然始まるのではない。少しずつ少しずつ「色」が変わっていくのだ。『茶色の朝』(フランク・パブロフ)にならないように、大政翼賛化に流されず、自らの感性を研ぎ澄まし、「君死にたまふことなかれ」と叫び続けよう。戦争体験者が少なくなった今、戦争体験をじかに聞くことができた団塊の世代、私もその一人だ。いずれ人生に幕を下ろすときがくる。未来を担う若者たちを戦場に送り出すことがないよう、殺す側にも殺される側にも立たせないよう、全力を尽くそう。これが、戦後生まれで平和を享受してきた私の責任だ。
伊江島と広島の8.6
広島の原爆投下から3年後の1948年8月6日、伊江島でLCT爆発事故が起きた。米軍が、沖縄戦未使用の爆弾を海洋投棄するためLCT輸送船に積み込み爆発したのだ。伊江島は沖縄戦が始まった1945年4月、米軍の砲弾を浴び占領された。住民は強制移住させられ、島には本土空襲用の大量の爆弾が集積された。戦後、伊江島に残った爆弾30万トンは野積み状態で、47年に住民が島に戻れた時には「爆弾の島」になっていた。米軍は、事故を隠し、島民も押し黙り、2008年になってやっと米公文書で明らかになった。海洋投棄にはフィリピンやアフリカ兵士を当たらせ、爆弾は過剰に積み込んで足の踏み場もなく、その上喫煙があったらしい。周りの船や住民も巻き込み死者107人のうち県民は94人 、負傷者は70人で生き残っても今も苦しみは続いている。この事故を忘れず、伝えていきたいと「伊江島86の会」や小学校の教員・生徒たちが「時を超え、伝えよう」と劇を演じるなど活動を続け、そのメンバー7人が広島で語ってくださった。広島と沖縄で伝え合い、交流していきたい。
伊江島は、沖縄戦では飛行場が島を守るどころか「標的」にされ、島民は日本軍に集団自決に追い込まれ、命を奪われた。その後、米軍に「銃剣とブルドーザー」で土地を接収され基地建設が進められ、立ち退きを拒む住民は暴徒として銃剣を突き付けられた。戦後もこのような爆発事件が起き、「沖縄の縮図」のようだ。米軍は報道機関を抑え、伊江島の人々も押し黙ってきたが、今やっと「8.6の会」の活動で私たちも知ることができた。辺野古や琉球弧の島々での新基地建設で、軍港、弾薬庫の建設が続く。地元で荷役作業など請け負うことになるかもしれない。伊江島の爆発事件を伝える「8.6の会」と、きのこ雲の下で何が起こったかを伝えるヒロシマ市民と、過ちを繰り返さないよう力を合わせていきたい。
G7サミットを問う広島のつどいにご賛同ください!
広島では5月にG7サミットが開催される。それにあたり、岸田首相は「核兵器のない世界への機運を高める」と強調する。G7サミット=世界の頂上にいる首脳たちが広島に来るのだから、きのこ雲の下で何が起こったか知ってもらい、被爆者と語り合い、核兵器禁止条約批准を促し核廃絶を進めたい、その思いは同じだ。しかしG7サミットでは世界の経済、食料、環境、外交・安全保障などが議題のようだが、決して平和会議ではない。私たちの願いが本当に聞き入れられるだろうか。
岸田首相は、1月に欧米5か国を歴訪したが、アピールしたのは日本の「防衛力強化」であって、原爆資料館訪問や被爆者との面会などを各国首脳に働きかけることはなかった。かつて日本は増税と戦時国債を連発し人々を苦しめながら軍拡を行い、近隣諸国に「武力行使による現状変更」=侵略戦争に突き進んだ。首相はトップダウンで「敵基地攻撃保有」にまい進し、大軍拡をしながら核兵器廃絶をめざすなど、到底納得できるものではない。
一方G7の米、英、仏3カ国は核兵器保有国だ。独、伊、加もNATO主要国であり、この間のウクライナへの軍事支援は異例づくめだ。日本に軍事費GDP2%を強く要求したのも彼らだ。
もっと許せないのは、1997年京都議定書に米政府が圧力をかけ、軍事活動からの温室効果ガス排出は、国の排出量にカウントせず報告もしないという合意を書き込ませたことだ。こんなトップダウンで軍事優先のG7首脳を、私たちは喜んで迎えるわけにはいかない。「G7サミットを問う広島のつどい」を立ち会上げ、広島はもちろん全国からも思いを集めて声を上げている。皆さんにはぜひご賛同を、可能であれば5月12~14日集会に参加をお願いしたい。(ブログをご覧ください。
https://www.jca.apc.org/no-g7-hiroshima/)
私が少し前まで住んでいた北九州市門司区というところの、門司港という港は、日本の6大港の一つです(正式名称は関門港)。日本からの輸出第1位は中国で、全体の約22%を占めているそうですが、中国にさらに近い門司港を含む北九州港ということになると、中国への輸出コンテナの場合は約40.8%、中国からの輸入になると48.5にもなります。
昨年のいつだったか、全港湾の青年らと懇談した時、上海がコロナでロックダウンした際は、上海向けのものすごい量のコンテナが滞留したという話を聞きました。上海港はコンテナ輸送量では12年連続世界1位で、話にならないくらいの規模のようです。北九州でそれほどの影響を与えるのだから、仮に中国との間で、紛争が起きようものなら、日本経済はたちまち危機に瀕するといっても過言ではなく、世界経済さえも深刻な打撃を受けることになるはずです。全港湾のその青年は「中国とそんな戦争とかになったら、うちの会社とか成り立たないですよ。食っていけないですよ。」と語っていました。
昨年12月16日、岸田内閣は「安保3文書」を閣議決定しましたが、標的は中国であることはいうまでもありません。全港湾の青年でなくとも、中国と取り引きのある企業、あるいはそれらの関連企業などにとっては「バカなまねはするな」というのが本音だと思います。
日本という国、借金だけは山のようにあるけれど、国宝を守るお金すらない貧しい国みたいです。食料も、エネルギー資源も、原材料も何もかも外国頼み。おまけに少子高齢化で若者は少なく、どうかすると稼ぎが少ないということで、この国を出ていく若者もいます。いつ壊れるかわからない原発は54基もあります。社会は新自由主義でいたるところに歪や傷みがあり、費用対効果を考えるまでもなく、他国がこの国を侵略しても獲るものがないと思います。攻撃を受けそうになるから、抑止力というのでしょうけれど、普通なら攻撃を受けそうになる理由がない。攻撃を受ける理由があるのは中国に照準を当てている米軍や自衛隊の基地があるから、というその一つだけではないでしょうか。
米国にそそのかされて、敵基地攻撃能力保有だとかいって、長射程ミサイル配備を含めた軍拡を進めようとしていますが、経済関係も密接な相手に「銃口」を突き付ける者がどこの世界にいるでしょうか。「銃口」を突き付けながら「仲良く商売やりましょう」はあり得ません。仮に中国が牙をむいてきたとしても、軽く諭すほどの余裕と冷静さを持って、落ち着いた行動をとれば良いわけで、武器まで持って構える必要はありません。だいたい、武器を持って戦えとは憲法に一行も書いていない。
2022年で日中国交回復50周年ということでしたが、この間、政府間レベルだけでなく、ピンポン外交などのスポーツ交流もあったし、パンダ交流もあり、民間レベルでもさかんに交流が行われてきました。労働組合レベルでいえば、かつての総評と中国の全国総工会の交流窓口があって、今もそれが引き継がれていると聞いています。今はあまり見かけることはありませんが、一昔前ぐらいは、どこの労働組合に行っても、中国の絵画や記念ペナント、刺繍、彫刻など訪中団記念品の一つは飾ってありました。それぐらい日中間の労働者交流は盛んに行われていたのではないでしょうか。そのような交流を最初に手掛けてきた方々は、双方とも、かつての戦争の体験者だったはずで、いろんな思いを抱えながら、平和共存の道にたどり着いたのだと推測します。それを思うと、これらの努力が一気に台無しにされそうな今を、どうあっても見過ごすわけにはいきません。
戦争を起こすのはいつの時代でも支配者ですが、戦争を止めて平和を実現する原動力は、やはりそれぞれの国の市民であり労働者です。強い連帯で、戦争の危機を回避し、平和共存できることを願って、今年の活動に力を入れようと思います。
「突撃せよ?!」という軍曹の掛け声。日の丸を掲げ、竹槍を小脇に抱えて「うおーっ!」と叫びながら走り出す「上等兵」。でも、彼の軍靴には小さな小石が潜んでいました。
「痛、たたた、、、。やべえ、小石が、、、、。」「どうした! 上等兵! 進まんか!」
上等兵を盾にした軍曹が怒鳴ります。上等兵、匍匐(ほふく)のまま振り返り、
「軍曹殿、ちょっとタイム。靴に石が、、、。」「なぬ??? なっちょらん!軍法会議じゃぁーっ!」「そ、そんな殺生な。すぐに脱いで石を出します。ご勘弁を、、、!」
上等兵が脱いだ軍靴に潜んでいた小石がポロリ、、、。「待て待て?っ!この小石め?っ!」
コロコロコロ転がる小石、、、『ぽちゃりっ、、、』と落ちた先は、なんと温泉!上等兵、勢い余って“ざぶんっ!”と入ってしまいました。湯船の底に落ちた小石が、あら不思議。上等兵に語りかけます。
「上等兵さん、ちょっと聞いちょくれよ。」「ややや!なんだ、一体??小石がしゃべった!」「戦争なんてバカげたことはもうやめてくださいよ。人を殺して何の得がありますか。」「何を言うか。畏れ多くも軍曹殿の命令じゃ。」「まあ、まあ、落ち着いて。少しだけ考えてみてくださいよ。」「『考える』だと?何だ、その概念は。聞いたこともないぞ。」「立ち止まって『はてな?』と思いをめぐらすことですよ。」「ふむ。して、何を『考え』よ、と言うんじゃ?」「はい。そもそも、この戦争は誰が仕向けたもので、誰が儲かるのか、誰が笑って、誰が涙流すのか、ってことですよ。歴史が教えてくれていますよ。例えば、沖縄では13才の子どもが戦場に駆り出されたんですよ。日本は神国だから絶対に負けない、皇国民は死して虜囚の辱めを受けず、命はお国のためにある、なーんて教育を受けて、国民全体がその気になったんです。ひめゆり学徒隊ってご存知ですか?すぐ隣にいた学友の首がもがれ、腕がちぎれ、死んでいく、、、。そんな光景がたくさん繰り広げられました。軍人は国民を守りませんでした。逆に邪魔だと言って、国民を殺す側に立つんです。住民の食料を騙し奪ったりもしたんです。どこの国にも勝ると教えられていた日本軍。何のことはない、ただの弱い『人間』でした。戦争で死ぬなんてのは犬死にです。あなたの竹槍の先にいるのは、やっぱりあなたと同じ人間です。幼い子どもかもしれません。それでも、戦争する気ですか?本来あるべき福祉や教育の充実をかなぐり捨ててミサイルはじめ軍拡に走った結果、暮らしはどうなりました?市民は年金を削られ、教育費もままならず、「子ども食堂」は増える一方、医療にかかるお金でさえも値上げ。たまったもんじゃあありません。」
軍曹さんも上等兵にならい、やおら湯船に浸かりながら、「ふぃ~、いい湯じゃの~。言われてみればその通りじゃが、しかし、ほかの国が攻めて来たらどうするんじゃ?」「白旗あげればいいんですよ。『何が何でも戦争は絶対にしない』っていう世界に誇る憲法の通りに。」「白旗かぁ。それもそうだなぁ。戦争なんてつまらんものな。温泉にゆっくり入る方がよっぽど幸せじゃな?」「でしょ。」「で、小石さんや。一体、お前は何者なんじゃ?」「私ですか?私は歌を歌う一介の教育公務員です。平和憲法を守る義務があります。
こんな歌、いかがです? 『戦争を知らない子どもたち』の替え歌ですがね、、、。
(『選挙で生きる子どもたち』♪ C Em F G7 C)
戦争が終わって 僕らは生まれた
戦争で死なずに 僕らは育った
おとなに なって 歩き始めた
平和が 崩れる いつか来た道を
僕らの名前を 覚えてほしい
戦争を許さない 子どもたちさ
/選挙に行こう 選挙に行こう
選挙に行こう 選挙に行こう
雨が降ろうと 風が吹こうと
命のために 選挙に行こう
僕らの名前を 覚えてほしい
戦争を許さない 子どもたちさ
/戦争をしたがる 議員を落とそう
安保を通した 政治家を落とそう
この先 ずっと 武器を 持たない
平和な 世界を 創っていこう
僕らの名前を 覚えてほしい
戦争を許さない 子どもたちさ ♪
ちゃんちゃん♪ ここで目が覚めたのでした。
お話:岡田 充さん(ジャーナリスト、元共同通信客員論説委員)
(編集部註)12月24日の講座で岡田充さんが講演した内容を編集部の責任で要約したものです。要約の責任はすべて本誌編集部にあります
先週岸田政権が閣議決定、事実上専守防衛という憲法9条精神に反する、戦後の安全保障政策の大転換を、憲法改定なしに、憲法解釈で事実上行うという6年前と同じ悪例をもう一回繰り返したという事実を私は非常に重く受け止めています。
最初の写真は戦車です。台湾から東に位置する、日本の最西端にある与那国島に初めて陸上自衛隊の戦車が上陸して、アメリカ軍との合同軍事演習「キーン・ソード」という演習をやった。自衛隊とアメリカ軍を合わせて2万5千人くらいが参加する大規模な軍事演習を与那国島でやった。私は1998年から2002年まで台湾に駐在して取材をしていましたけれども、実はそのときから与那国島というのは頭から離れたことはないんですね。台湾の花蓮という東海岸の有名な都市があります。与那国島はその花蓮の東110㎞です。与那国島に行きますと天気の条件がいいときには台湾島がもっこり浮き上がって見える、そういう場所もあります。
日清戦争で日本が当時の清国、大清帝国を破って台湾を割譲した。1895年です。台湾割譲をしたあと、日本領になったわけです。台湾に一番近い与那国島は、日本統治時代は台湾経済圏の一部でした。台湾本島から与那国まで500㎞、日本本土まで1900㎞くらいですね。なぜ台湾経済圏の一部になったかというと、当時から与那国島には高校がありませんでした。小学校だけ、国民学校だけでした。中学に進むには、一番早いのは台湾の中学に進むことでした。第2次世界大戦の最中も与那国には警官がわずか3人だけ、軍人はいなかった。
戦後沖縄は米軍の施政権下に置かれますけれども、この間も与那国の治安は警官3人が守っていたわけです。いま初めて与那国に戦車が上陸した。与那国の人口はわずか1500人です。いまから4年ほど前、陸上自衛隊のミサイル監視部隊、家族をあわせると200人が与那国島に駐屯した。与那国は人口が一気に増えたわけです。いま1700人くらいでしょうか。そのうち200名が自衛隊及びその家族です。これまで軍事とは無縁だった平和な島、みなさんテレビドラマでご存じの「Dr.コト-」の舞台になったところです。その美しい島がいまや陸上自衛隊の戦車に象徴されるように軍事の島に変わりつつある。そういう時代にいまわれわれは直面しているということで、この写真を使わせていただきました。
今日お話しさせていただくのは、まず先週の安保関連3文書、この3文書の台湾絡みの部分を抜き出して説明したあと、バイデン政権のアジア太平洋戦略というのはいったい何なのかということを2番目にご説明し、3番目にバイデン政権のアジア政策に基づいて日米首脳がこの2年間、台湾有事を念頭に進めてきた新しい安保体制の仕組みを説明します。その上で中国にとっての台湾問題というのは何なのか、武力侵攻をする客観的条件あるいは中国共産党にとっての主体的条件はあるのか、そのあたりを考察しながら台湾有事のリアリティについてご説明したいと思います。最後にわれわれはそういう状況の中でいったいどういう道を取るのか、この東アジアできな臭い状況が生まれてきた中で、これを緊張激化につなげずに緩和に役立てるために何をすべきかということを結論部分でお話ししたいと思います。
先週12月16日、国家安全保障戦略、略称NSSを始め安保3文書の改定が閣議決定されました。ここでは4点特徴をあげます。
第1は「敵基地攻撃能力を保有し」「2027年に防衛費をGDP比2%に倍増させる」、これは明らかに憲法9条が定める専守防衛、憲法9条の精神に基づくこれまで自民党政府がずっと守ってきた専守防衛政策を骨抜きにする新しい政策です。日本を「戦争国家」に変質させる、一言で言えばそういった安保政策の大転換になったわけです。われわれは自民党、公明党の与党が憲法調査会で自民党の憲法改定案なるものを審議していることをよく知っています。そのたびに、どうやら自民党は憲法改定を目指しているという警戒はするけれども、今回のやり方を見ていると、明文改憲をしなくても憲法解釈で日本の安全保障体制は180度変えることができるということを私たちは学んだのではないかという気がします。
2番目の特徴、中国をどう見るかということについてです。ちょうど11年前に安倍政権が誕生した翌年に策定された国家安全保障戦略では、「国際社会の懸念」と表現していた中国評価を、「これまでにない最大の戦略的挑戦」と改変しました。4月に出た自民党案では、北朝鮮と同様に中国についても「脅威」という表現をすべきであるという主張を盛り込んだ。けれども、結局「脅威」という表現は強すぎるという、公明党と言われていますが、公明党の反対でこの表現に変わった。とは言え、「最大の戦略的挑戦」と「脅威」ってどれほど違うの?と考えてみると、ほとんど「脅威視」しているといっていいと思います。
われわれの常識から見ると、安倍さんというのは2015年の安保関連法案をごり押ししたタカ派中のタカ派ということになっています。けれども、彼が2018年末に中国に行ったときに、習近平との間で日本と中国との関係について次のように言っています。「日本と中国はパートナーとしてお互い脅威とならない」と合意しているんです。防衛省などの記者会見に行きますと、「なぜ防衛省は北朝鮮を脅威と認定しているのに1200発も日本に向けて中距離ミサイル、弾道ミサイルを配備している中国を脅威視しないんだ」という質問が出ます。これに対して防衛省の役人は、この2018年の安倍-習近平の合意、「お互いに脅威とならない」と約束したことをあげます。
これはなかなか面白い論理で、もし「脅威」と認定したら安全保障政策上はこの「脅威」を除去しなければ日本の平和が守れないということになる。とするならば除去するために、中国に対してそれこそ1200発と言われる(これはアメリカが言っている)短距離、中距離ミサイルの撤去を求めなければいけないわけです。ただそれはいちおう中国の内政問題だからそんなことはできない。「脅威」と認定するというのはなかなか大変なことなんです。それがいま自衛隊、防衛省の基本的な認識といっていいかと思います。
3番目です。アメリカは中国への軍事抑止力を強化するため、日本との「統合抑止」を強調しています。自衛隊は米軍との一体運用が求められ、陸海空自衛隊と米軍との調整を担う「常設統合司令部」を自衛隊に設置します。これは有事に入ったとき米軍との連絡の窓口になります。これはものすごく大きなポイントです。自衛隊と米軍が事実上一体化する、とりわけ台湾有事を睨んで一体化する仕組みがこれによって完成したということができます。冒頭の写真でお見せした与那国島の戦車を含めて、いま自衛隊は石垣島に続いて宮古島のミサイル配備を進めています。南西諸島、特に八重山地域におけるミサイル要塞化を急速に進めているのも、こうした台湾有事を念頭に置いた日米軍の一体化があることをぜひ頭に留め置いていただきたいと思います。
4番目、バイデン政権は台湾有事という危機をつくり出し、日本を主体的に関与させる「グランドデザイン」、今回の3文書はバイデン政権の「グランドデザイン」の中間決算に過ぎないというのが私の認識です。「グランドデザイン」の最終目的は何か、これは恐らく日本の「自主国防化」にあるだろう、というのが新防衛3文書の私の「読み」であります。
米中の戦略的対立-「米中新冷戦」と呼びたい人もいるようですけれども、まずアメリカが中国との戦略的な対立をどのように進めてきたか、これを概観してみます。
トランプ政権は2018年、まず中国輸入品に25%の高い関税をかけるという対中貿易戦を仕掛けたわけです。これが米中戦争の第1弾。第2段階はみなさんお持ちのスマホあるいは携帯、中国で一番大きいファーウェイというメーカーがありますけれども、ファーウェイの排除など半導体、IT分野でアメリカと中国の経済を完全に分断することを狙う動きに出ました。ここまでは経済です。続いてトランプは2020年の再選を目指す大統領選挙に向けて「主戦場」をどんどん変えていきます。1番目は2019年の香港それから新疆問題、あるいは意図的に武漢の研究所からコロナウィルスを拡散させたというコロナを巡る動き、そして台湾問題と次々と「主戦場」を変えていきます。最終的にトランプは中国の「核心的利益」――協議や話し合いで妥協できない、そういう利益を「核心的利益」といいます。
ちょっと誤解する向きがあるけれども、10年前に私がここで尖閣問題についてお話をさせていただいたときに、日本のメディアは当時「尖閣も核心的利益である」「南シナ海も核心的利益といっているじゃないか」という報道をしていましたが、実は尖閣も南シナ海も中国にとっては「核心的利益」ではありません。
中国の領土問題の基本的な原則は3つあります。尖閣を含め中国が領土紛争の解決を目指す原則は、第1は「主権は我が方にある」、2番目に「しかし領有権紛争は棚上げし」、3番目は「共同開発をする」。これが尖閣問題に対する中国の基本的原則です。つまり「核心的利益」というのは話し合いで妥協したりすることは一切しません。ところが領土問題は妥協可能なんですね。最終的目標は「共同開発」。これはいまでも習近平が言っていますけれども、領土問題は「核心的利益」ではない。ところが台湾問題は「核心的利益」です。アメリカとの戦略的解決の中で話し合いで解決できる問題ではないということをトランプもバイデンも知った上で、台湾問題を出すことによって中国が引くことができない、そういうテーマとして台湾問題を設定したわけです。
2020年の大統領選挙、トランプがいまだに敗北を認めていないけれども、2021年にスタートしたバイデン政権は、トランプのインド太平洋戦略をそのまま引き継いだ上でさらにバイデン色を出してきます。それは何か。①中国を「唯一の競争相手」と見なす、②中国との競争は「民主と専制の競争」である、③アメリカとの同盟の再編強化――これは具体的にいいますとまずアジアでは日米同盟、米韓同盟もあります、それからフィリピンとも同盟関係にある。アジアではないけれどもオセアニア、オーストラリアやニュージーランドとも同盟を結んでいる。つまり同盟関係の強化、特にインド太平洋、アジアでは日本との同盟関係の強化を打ち出します。そして日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4ヵ国によるQUAD(クアッド)、それからアメリカ、イギリス、オーストラリア3国によるAUKUS(オーカス)の新設を通じて日米同盟の再編を目指す。アメリカを中心とするアジアの同盟再編強化を打ち出したわけです。その目的は何なのかというと、中国の追い上げを阻止あるいは遅らせることによって、すでに凋落しつつあるアメリカのグローバルリーダーとしての一極支配、一極覇権の回復にあると私は考えています。
きましょう。今年の2月に発表したものです。アメリカの安全保障戦略についてはこの秋にアメリカの国家安全保障戦略を見直す、改定する新しいものを出していますが、これはインド太平洋戦略で2月に出したものがベースになっています。ですからアメリカ全体の軍事戦略は国家安全保障戦略に詳しいけれども、アジア戦略はこのインド太平洋戦略の方が詳しいです。ここではインド太平洋戦略を具体的に見ることによってアメリカが現在アジアで何をしようとしているのか、これを見ていきたいと思います。
1番目、戦略上最も重要視したのは中国に対する抑止戦略です。この抑止戦略をなぜ出すのか。これはアメリカ一国ではもはや中国に対抗できない。同盟国と友好国がともに築く「統合抑止力」を強化すること、これを謳っています。先週の3文書でも出てきますけれども日米同盟の強化、深化をベースに、なおかつクアッド、オーカスの重要性を強調しています。
2番目、台湾海峡、台湾問題を前面に打ち出します。台湾海峡を含めアメリカと同盟国への軍事侵攻を抑止することを明記しました。軍事的な対中抑止の前面に、台湾問題を初めて打ち出すわけです。ご承知のように1979年アメリカは台湾と断交して、中国を唯一の中国を代表する政権として認める国交正常化をします。それ以降、台湾との関係は台湾関係法という、議会が成立させた法律に基づいて台湾に防衛的兵器を売却する、供与する。それによって台湾の防衛を側面から支援するという関係を築いてきたわけです。国交はもちろんない。国家として扱ってはいけないけれども、この間事実上、台湾を国家として認めるような動きがどんどん前面に出ていきます。
3番目は、これも3文書に出てくる内容です。米軍と自衛隊との相互運用性を高める。先進的な戦闘能力を開発・配備すると明記しました。台湾有事を想定した日米共同作戦計画に基づいて作戦共有や装備の配備、最新技術の共同研究などを想定しました。
4番目、これは今年の5月24日、バイデンさんが韓国・日本を訪問するアジア歴訪を行った際、東京で岸田さんとの日米共同声明に署名したあと、「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を発足させました。貿易やハイテクを巡るルール作りで、中国から主導権を奪ってしまうことが目的です。デジタル経済で自由な越境データ規則を定めて、中国に依存しないサプライチェーン(供給網)を模索する。これがIPEFの1番の肝です。中国に依存しないサプライチェーン、特に半導体、これを構築することを目的として5月24日に発足しました。これには14ヵ国が参加しましたが台湾は参加していません。
さきほどの3番目に、「日米共同作戦計画に基づき」とあります。この日米共同作戦計画を細かく見ていきましょう。去年4月、当時の菅首相がワシントンに行ってバイデンとの首脳会談で合意したのが「日米共同作戦計画」の策定です。こういう固有名詞では文書には出てきません。これはいちおう秘密ですから。これを共同通信の社会部で有名な軍事記者がいまして、彼が2021年12月23日にこの共同作戦計画の原案をスクープした内容であります。これは恐ろしい内容です。これを見ると南西諸島というのは、もし何かあったらまた犠牲になるのかという思いを新たにすると思います。
具体的に見ていきましょう。「台湾有事」――中国軍と台湾軍の間で戦闘が発生する。日本政府は、放置すれば日本の平和と安全に影響が出る「重要影響事態」と認定する。「重要影響事態」は、2015年に安倍さんがごり押ししてつくった安保法制の中でできあがった法的枠組みです。
2番目は台湾有事の初動段階で、米海兵隊は自衛隊の支援を受けつつ鹿児島から沖縄の南西諸島に臨時の攻撃用軍事拠点を設置する。これが「遠征前方基地作戦(EABO)」という新しい海兵隊の作戦のやり方、固定基地ではなくて移動基地をつくりながら機動的な攻撃などをする。これが新しい海兵隊の戦略・戦術です。
3番目、拠点候補は陸上自衛隊がミサイル部隊を配備する奄美、宮古、配備予定の石垣を含め40ヵ所の有人島です。人が住む島でないと水が出ない、水が出ないと戦争ができないということです。
4番目、対艦攻撃ができる海兵隊の高機動ロケット砲システム「ハイマース」、ウクライナ戦争で聞き覚えがあると思いますが、この「ハイマース」を拠点に配備する。自衛隊に輸送や弾薬の提供、燃料補給など後方支援を担わせる。「重要影響事態」と認定するとこれができるんです。集団的自衛権の限定的行使と防衛省がいっているやつです。
そしてアメリカの空母が南西諸島周辺、台湾海峡に展開できるように、つまり中国艦艇の排除に当たるのが目的です。海上封鎖をアメリカ軍と自衛隊が共同して臨時の攻撃基地を変えながらやる。これが新しい共同戦争シナリオです。これに基づいて去年の夏からすでに十数回、この共同作戦計画を検証するための日米合同演習がおこなわれています。冒頭でお伝えしたものを含めるともうすでに十数回になるかと思います。これはあくまでも原案ですけれども、この原案に基づいて日米の軍事一体化がすでに進んでいることがおわかりになるかと思います。アメリカの戦略、その戦略に基づく日米の軍事一体化についての説明は以上であります。
それではアメリカの戦略に基づいて日本政府はアメリカとどういう合意を達成したのか、それを振り返ってみましょう。去年の3月16日、「2プラス2」が共同発表されました。2プラス2というのは日米安全保障協議委員会の外務・防衛担当者会談のことです。これはワシントンで行われましたが、これがまさに今回の安保3文書のベースになっています。まず中国の行動は、日米同盟及び国際社会に対する政治的、経済的、軍事的及び技術的な挑戦である。ルールに基づく国際体制を損なう威圧や安定を損なう行動に反対すると謳いました。これをうけて翌月4月17日に菅さんがワシントンに飛んでバイデンと首脳会談を行い、共同声明を発表しました。
この中に今回の安保3文書の肝が出てきます。肝の1番目、台湾問題を半世紀ぶりに共同声明に明記しました。「台湾海峡の平和と安定は地域の平和と安定にとって極めて重要である」という認識です。50年前、1969年に当時の佐藤首相がワシントンに行って、当時のリチャード・ニクソン大統領との間でやはり首脳会談を行い共同声明を発表しました。その日米共同声明で初めて台湾問題が出てきます。このときなぜ台湾問題が出てきたのか。
1969年というのは日米で沖縄返還に合意した年です。佐藤・ニクソン会談で沖縄返還の合意が発表されるけれども、そのときにニクソンが一番心配したのは何か。当時アメリカは北爆をやってベトナム戦争の最中でした、そのベトナム戦争に出撃する拠点が嘉手納の空軍基地でした。海兵隊は普天間を含めていたわけですけれども、仮に沖縄の施政権を返還した場合、アメリカは沖縄の米軍基地を自由に使うことができるかどうか、これが最大の懸念でした。だから台湾海峡問題を出すことによって、日本とアメリカが共通の安全保障観を持ち、沖縄の米軍基地返還後も台湾有事が仮にあった場合には、あるいはベトナムに進撃するアメリカ軍の戦闘機、爆撃機を自由に使える拠点として保障させる。そういうものとして、沖縄返還と米軍基地の問題が絡んでいたがゆえに台湾問題をだしてきた。今回も、まさに台湾有事というアメリカの戦略が打ち出される中で、やはり台湾問題が共同声明に明記された。つまり水面下で沖縄の米軍基地が50年前も今もつながっていることがわかるかと思います。同時に日米安保条約の性格を「地域の安定装置」から「対中同盟」に変質させた。この意味は極めて大きいと思います。
2番目、これは声明の冒頭に「日本は軍事力を飛躍的に強化する」とはっきり謳っています。日本の新聞は外務省発表にものすごく引きずられているなと思うけれども、この部分はほとんど報じられていないんです。だけど安全保障関連3文書を見ると、2027年には軍事費は43兆円、このことをいっていたんだなということが今になってわかるかなと思います。
3番目、先ほど紹介した「日米共同作戦計画の策定」で合意します。このとき、つい最近引退を表明した岸信夫さん-安倍さんの実弟ですが、彼が面白いことをしました。この共同声明が発表された日に、なんと与那国島へ行くんです。防衛大臣が与那国島に行ったのは歴史上2回目です。最初に行ったのは、浜田さんが最初に防衛大臣をやった頃に、与那国島に自衛隊のレーダー監視部隊を置くための視察にいったことがある。これはちょうど民主党政権ができる2011年の直前でした。それから岸防衛大臣がほぼ10年後に、防衛大臣が与那国島に行った。いかに与那国島を重視しているかということがわかるかと思います。これは「与那国島=台湾」と考えてください。
では岸田に変わってさらに日米関係はどう変わったのか。今年のバイデンのアジア歴訪の話に移ります。バイデンのアジア歴訪の目的、繰り返しになりますが、中国との戦いを有利に展開する上でアジア太平洋地域が「主戦場」になる、そういうメッセージを発信することが目的だったと思います。
具体的に共同声明では次の3項目が謳われます。①日米同盟の抑止力、対処力の早急の強化。抑止力というのは今回安保3文書でも強調されているように統合抑止、日米の統合抑止と同時に陸海空の自衛隊の統合抑止、二重の意味があります。対処力、これはまさしく敵基地攻撃能力のことです。「早急の強化」といっています。「早急」というのはまさに「早急」ですよね、半年ですからね。②日本の防衛力を抜本的に強化、防衛費増額を確保する。47兆円がここに謳われています。昨日閣議決定された2023年度予算で、総額114兆円の予算のうちなんと防衛費はこの1年で1兆円上回ります。これまでの防衛費は調べてみると30年間で1兆円増えていたのが、今回の安保3文書によって1年間で、つまり2022年度予算から2023年度予算の1年間で1兆円増える。そういう馬鹿げた防衛費増額が実行されます。わずか半年で。③アメリカは日本の防衛関与を表明します。核を含む拡大抑止を約束する。
来年G7、日本が「名誉白人」であることを唯一自慢できるG7の議長国になる。広島でやる。バイデンさんには長崎にも行っていただく。そういうことを岸田さんはおっしゃっているけれども、核を含むアメリカの拡大抑止をバイデンは約束する。核保有国、いわゆる「パーマネントファイブ」といわれる安保理5ヵ国に限っていっても、先制核攻撃はしない約束をしていないのはアメリカだけです。共同声明では国家安全保障戦略に敵基地攻撃能力の保有、防衛予算のGDP比2%増額に含みを持たせた「相当な増額」と表現するわけです。これで最終的に3文書の中味が決まってしまったといって大げさではないと思います。
どうでしょう、以上振り返ってみると、もうすでに去年の始めからわずか2年で安全保障3文書の中味が着々と日米共同で積み重ねられ、合意しただけではなく実行される。予算面ではすでに来年度予算に反映されてしまう。そういう動きがわずか2年でできてしまった。これはすごいですよね。安倍さんでもこんなに早くできただろうかと私は思うんです。以上が日米の共同の動きの中味です。
元アメリカ国防次官補のアーミテージさんの発言と浜田防衛大臣の発言を拾ってみました。
今年6月24日、日経新聞のインタビューでアーミテージは次のように言います。「日本に武器供与拠点を」という見出しの記事の中で、「台湾有事があれば米国が台湾に送る武器や物資を日本で保管を」と明言します。つまり台湾で使う武器や弾薬を、はっきり言うと沖縄に貯蔵してほしい、こういうことをいったわけです。アメリカはウクライナ戦争の教訓から、燃料・弾薬の補給体制が非常に不十分である。いまアメリカは代理戦争でウクライナに武器を供与しているけれども、実際は武器・弾薬は足りません。戦争が長期化すれば、それは明らかになる。だから補給すべき燃料や弾薬を事前に南西諸島に置く、そういう発言を平気でしています。これを受けて浜田防衛相もやはり日経新聞の9月6日のインタビューで、南西諸島地域に「燃料タンクや火薬庫などを増やす」方針を明言しています。これは明らかに台湾有事を前提にアメリカ軍の燃料・弾薬を含む火薬庫を増やして、その中に貯蔵する。台湾有事に向けた「日米台」、ここで台湾が出てきます、この軍事連携を加速させる方針を打ち出しているわけです。冒頭の「キーン・ソード」に話がつながっていくわけです。
話は3番目に入ります。「台湾有事」、実は私はいま沖縄の有識者を中心に日本側からも入って、岸田政権が煽り続ける台湾有事に絡んで、南西諸島が中国軍の標的になるだろうということで、沖縄と台湾、沖縄と中国が対話を進める、そういう運動の実行委員に名を連ねています。その過程で沖縄の若者と沖縄の有識者が意見交換、対話する場が今月設けられました。その場でシニアが驚いたのは、沖縄の若者が「台湾有事、台湾有事というけれども、『台湾有事』って何ですか」と質問したことです。確かに新聞では「台湾有事」という言葉が踊らない日がないくらい政権側が煽っているけれども、その実態というのはあまりよくわかっていない。一言で言えば「中国が台湾を武力侵攻すること」といっていいと思うけれども、それでは中国は台湾に武力侵攻する、そういう意志があるんだろうかということをまず検証しなければ、台湾有事の主体が何を考えているかわからないわけです。主体の意図をまず見ていきましょう。
私は台湾に4年ほど駐在して、そのときに台湾問題に目覚めたわけです。それ以来勉強していることは、やはり中国共産党にとって台湾とは何なのかということでした。まず第1番目ですが、台湾統一は日本を含む帝国主義列強に分断・侵略された国土を統一し「偉大な中華民族の復興」という、習近平が立てている戦略目標です。この戦略目標は実は3つあり、「3大任務」です。10月に中国共産党の20回党大会がありました。中国共産党の憲法である党規約が一部改定されました。しかしこの党規約の中にあった「歴史的な3大任務」の中身は一切変わりませんでした。「3大任務」とは、①中国の現代化の達成、②平和的国際環境、③祖国統一これが台湾統一です。同時に習近平は戦略目標として「中華民族の復興と社会主義強国の実現」をあげるわけですね。2017年の党大会でも、①平和的国際環境作り②4つの近代化③祖国統一、この3つの任務があげられました。
この「3大任務」から考えると、いま中国共産党にとって何が最大の目的かというと、中国共産党による一党支配の維持と一党支配のもとでの統一性の維持、なんです。これが中国共産党にとってのプライオリティです。このプライオリティを実現する上で「3大任務」の何が重要か。これはまず「近代化建設」です。つまり共産党の一党支配を持続するには豊かな生活を人民に保障する必要がある。経済的な成長を維持し(だんだん成長そのもののカーブは落ちてきていますけれども)、人民に豊かな生活を維持するためには近代化建設をおろそかにできない。同時に近代化建設を実現するには国際的な平和的環境が必要です。これが中国共産党のプライオリティにとってのふたつの優先順位であって、3番目の「祖国の統一」の優先順位はその次に来る。「3大任務」のうちの3番目というのが私の理解です。
資料に赤字で「中国的思考(大局観)」をあげましたが、これは皇帝時代、中華帝国時代からある中国人的発想、つまり「大局は何か」ということをまず位置づけて、その他の要因は大局に従うもの、つまり従属するものという考え方です。これが「中国的大局観」です。よく中国人は「日本人には大局観がない」という、そこですね。日本人というのはわりと細かい芸当が得意で、新しい発明も結構小さいところに目をつけて誰も気がつかないところでは新しい発想を発揮するけれども、どうも大局観に欠けるのではないかという言い方を、よく日本に向けてします。
次に習近平の台湾政策は何かをおさらいしておきます。5点あります。2019年1月2日、党の台湾問題に関する集会で発表されたものです。①台湾に対しては平和統一を宣言する。つまり武力統一ではないということです。振り返ってみますと、1979年にアメリカと国交正常化するまでは中国の台湾政策は「武力解放」でした。武力で台湾を解放する武力統一路線です。1979年にアメリカと国交正常化した直後に、これが平和統一戦略に変わります。台湾と交流を深めていく中で平和統一を実現する、これが1979年以来の中国の変わらない台湾統一戦略であるということをぜひ覚えておいてください。②台湾統一を「中華民族の偉大な復興」とリンクさせる。20回党大会で習近平は2049年、中国建国100年の年までに「中華民族の偉大な復興」と「社会主義強国」、このふたつを実現するという大きなグランドデザインを発表するわけで、統一は「中華民族の偉大な復興」とリンクさせました。論理的には、中国は台湾統一の時間表、タイムテーブルを提起したことはありません。しかしこのリンクをさせたことによって、2049年以前には、台湾統一を実現している必要が出てくるということが論理的に引き出されます。
具体的な統一のやり方、これはなかなか難しいけれども、台湾との融合発展を深化させ平和統一の基礎にする。これは何をいっているかというと、いま中国大陸には台湾のビジネスマン、特に半導体などのIT関連が多くだいたい100万人、家族も入れると150万人から200万人が住んでいます。この人たちが中国大陸で当然車を運転しますね。台湾では免許証を持っているけれども中国で免許を取っていない。つまり台湾の免許証を中国でも通用するようにしたらいいじゃないか。健康保険も、いまコロナがはやっていて昨日台湾の中国時報という新聞がこの12月1日から20日までで、コロナに感染した人が2億4千万人に上るというびっくりするような数字をあげました。200万人に上る大陸の台湾人が病気になったらどうするか。健康保険を持っていませんでは済まない。だから台湾の健康保険証を中国でも使わせるようにする。これが「融合発展」なんですね。
例えば台湾には医者が多い、これは日本時代に台湾のエリートたちの道として役人になるよりも医者になる方が早いということで医者がものすごく多く、台湾で医師免許を取った人も中国でも医者をすることができる。それからアカデミーの世界で、博士号、修士号、これも中国の大学で認める。というように経済、社会の基盤を台湾と中国で融合発展させる。そのことによって中国社会、中国大陸と台湾との経済、社会の基礎はあまり変わらなくなっていく。中国と香港との間と同じようになっていくのではないか。これを平和統一の基礎にする。これが習近平が考えている平和統一戦略のひとつです。
それから香港での中央に抗議するデモですっかり「一国二制度」という言葉は手垢にまみれてしまったけれども、習近平は台湾向けの一国二制度を出すという提案をしました。中味は明らかではありません。
次に台湾独立勢力、外部干渉勢力に対して武力使用の放棄をしない。ここで初めて「武力行使」という言葉が出てきます。10月に20回党大会が開かれたときに、「台湾政策変化なし」ということで、「20回党大会で習近平は統一のためには武力行使を辞さない姿勢を示した」とNHKはいまでもこういう報道をしています。これは私から言わせると明らかに誤読に基づく誤報です。統一は平和統一以外主張していません。つまり武力統一は主張していません。よく読むと「武力行使は否定しない」と、否定しない対象をあえていっています。それがいま言った「台湾独立勢力と外部干渉勢力に対して武力使用の放棄はしない」、これを繰り返し20回党大会でいった。確かにこれは誤解を与えるような表現はありますが、NHKは「統一でも武力行使を否定しない」と読み誤っています。
2005年のことになります。陳水扁政権、台湾初の民主進歩党政権の時代に、中国政府が反分裂国家法(日本語では反国家分裂法)の中で武力行使3条件を定めました。それは、①台湾を中国から切り離す事実をつくる、これは台湾独立宣言などのことを指すと思われます。②台湾の中国からの分離をもたらしかねない重大な事変が発生、これは恐らくアメリカなど外国勢力の干渉と思われます。③平和統一の可能性が完全に失われたとき。この場合に限り武力行使、「非平和的方式」と呼んでいますけれども、武力行使を認めるとはっきり謳ったわけです。
では現実はどうなのか。現在台湾は独立していない。中国の認識は中国の主権はすでに台湾に及んでいるということです。具体的に言いますと、反国家分裂法の中でも次のようにいっています。「台湾は統一していないといえども中国の主権と領土は分割していない」、これが中国の主権論です。つまり中国の主権はすでに台湾に及んでいるから、現状維持であれば独立とは見なさないという認識が引用できる。これについてみなさんは、台湾は日本にとってもアメリカにとっても国家ではないといえども、実効支配しているのは民主進歩党政権ではないだろうかという疑問を持たれるかもしれません。中国の認識は主権と施政権を分けています。「主権は台湾に及んでいる」というのが中国の認識です。これも覚えておいていただければと思います。
私の結論、中国は台湾に武力行使しないということです。その理由の第1番目、客観的な条件です。中国は艦船数ではアメリカを上回っていますが、総合的軍事力では大きな差がある。キッシンジャーは2021年4月30日、「米中衝突は核技術と人工知能の進歩によって世界の終末の脅威を倍増させる」と核戦争に対して警告しました。
2番目、これは台湾の世論です。台湾の世論調査では統一支持は1%から3%にすぎない。つまり統一に反対する人が圧倒的に多いわけです。台湾の民意に逆らって武力統一をすれば台湾は戦場化します。抵抗運動が起きる。武力制圧しても新たな分裂勢力を抱えるだけになる。「統一の果実」なんてまったくない。統一の意味がないじゃないですか。
3番目、武力行使への国際的な反発と経済制裁は「一帯一路」にもブレーキをかけ、発展の足を引っ張ります。中国共産党のプライオリティ、最重要課題である経済建設の足を引っ張る。結果的には一党支配が揺らいでいく、動揺していく。武力統一などは最悪中の最悪の選択だということが私の見立てであります。恐らく習近平もそう思っていると思います。ただしアメリカや、アメリカに同調して台湾独立の動きを強める蔡英文政権がより一層独立に向けた動きをしたり、あるいは中国の主権を無視するような挑発に出た場合、限定的な武力行使はあり得るだろう。例えば離島です。中国大陸の厦門(アモイ)、福建省厦門から2㎞しか離れていない金門島、小金門あるいは福建省沿いの小さな島がありますが、この小島に対する限定的武力行使はあり得るというのが私の考えです。
ここでアメリカの戦略の復習をしておきたいと思います。これは特にウクライナ戦争とも絡みますので、みなさんご関心があるのではないかと思います。2019年にアメリカの保守系シンクタンク「ランドコーポレーション」がアメリカ陸軍の研究に基づいたリポートを提出しました。「ロシア拡張-有利な条件での競争」というウクライナ戦略を中心にしたリポートです。この中で大変面白い項目が3つあげられます。1番目、アメリカがロシアを挑発し―これは中国とも同じことです―中国と競争するように仕向ける。ご承知のようにウクライナの場合は、2014年にロシアがクリミア併合をしました。これについてはアメリカ含め西側は認めていないわけです。その後アメリカを含めNATO諸国は、ウクライナの要請に基づきウクライナのNATO入りという「禁じ手」、ロシアから言えばこれはもう「禁じ手中の禁じ手」なんだけれども、この「禁じ手」という挑発に出るわけです。これと同じように中国にも競争するように仕向ける、ということが1番目に出てきます。
2番目、ロシア、これは中国と読み替えてください。中国に軍事的、経済的に「過剰な対応」を引き出させる。そして3番目、国内外で中国あるいはロシアと読み替えてもいいと思いますが、中国の威信や影響力を喪失させる。そういう敵対国に対する戦略的行動パターンをこのリポートが説明しています。これを見るとウクライナと同じことを、いまバイデン政権は中国に対してもやっているなという気がします。
それでは1番目のアメリカの台湾挑発、これは具体的にはどんなものなのかを見ていきましょう。①金額と量で史上最大の武器を台湾に売却する、②ペロシ下院議長がこの8月に台湾に行きましたけれども、閣僚・高官を繰り返し台湾に派遣する。ペロシさんは下院議長で、大統領にもしものことがあったら、副大統領に次いで2番目に大統領を継承する権限がある。そういう意味では単なる下院議長ではないんですね。政権そのものを担う高官であるということが言えます。③軍用機を台湾の空港に離発着させる。これはしょっちゅうやっています。アメリカの議員をわざわざアメリカ軍の軍用機に乗せている。④米軍艦の台湾海峡の頻繁な航行。⑤アメリカ軍事顧問団が台湾入りして2~3か月の期間で台湾軍の訓練に当たっています。
この写真はジョセフ・ナイさんです。彼は民主党系ですけれども「ジャパンハンドラー」と言われる日本に影響力を与える人の一人です。20年前のアメリカの台湾有事シナリオがありました。ジョセフ・ナイによる「対日超党派報告書」というものがあります。「アメリカ軍は台湾側に立ち、中国との戦闘を開始する。日米安保条約に基づき、日本の自衛隊もその戦闘に参加する。中国軍は米・日軍の補給基地である日本の米軍基地、自衛隊基地を本土攻撃する」、「米軍は戦争が進行するに従い、徐々に戦争から手を引き、日本の自衛隊の中国軍との戦争が中心になるように誘導する」。こんな内容の「対日超党派報告書」なるものが20年前に出回ったことがあります。これは真偽についてはちょっと疑わしいです。
ただ最近、現役の米軍トップ、マーク・ミリー統合参謀本部議長が今年4月7日の上院公聴会でこんな発言をしています。①台湾は防衛可能な島である。中国軍の台湾本島攻撃・攻略は極めて難しい。②最善の防衛は台湾人自身が行うこと。――これは面白いですね。③アメリカはウクライナ同様、台湾を助けられる。次を赤字で書きました。「台湾有事でも米軍を投入せずウクライナ同様『代理戦争』を示唆したのではないか」と私は睨んでいます。米国は自分の手を汚さずに済む。米軍兵士を送らないわけです。中国と台湾それに日本のアジア人同士が戦うシナリオを想定したのではないか。米国は参戦せず台湾問題で「主役」の日本が結果的にはしご外しにあうよ、という警告を私はしたことがあります。
これを見ると、アメリカにとって台湾・日本というのは中国抑止のカードに過ぎない、ということをぜひ頭に置いていただきたいと思うんです。つまり中国と戦う上で日本・台湾を利用する。カードとして利用するのがアメリカの本音であって、最終的に台湾の安全保障というのは、実はアメリカ本土の安全保障にとっては関係ないわけです。日本の安全保障も同じです。つい最近、岸田さんも含めて尖閣諸島は日本に施政権があるから日米安保条約第5条の発動の対象になるという公約を、日米共同声明のたびにアメリカに言わせていますけれども、アメリカが尖閣諸島で何かことがあった場合に米軍を出すなどという気はさらさらないと私は考えています。「日本が守るものでしょう」とアメリカは考えているはずです。
最後になります。12月9日に共同通信が配信した記事で、「防衛省が人工知能(AI)技術を使ってSNS、ツイッターとかフェイスブック、を利用して国内世論を誘導する工作の研究に着手した」という報道です。インターネットで影響力のある「インフルエンサー」を使って、無意識のうちに防衛省に有利な情報を発信するように仕向ける。防衛政策への支持を広げ、特定国への敵対心を醸成して国民の反戦気運を払拭するネット空間でのトレンドづくりを目標としたものだと言われています。これより先の10月5日のこと、閣議後の記者会見で岸信夫防衛大臣が、「インフルエンサーと呼ばれる方々に、まず理解をして頂けるような説明を行うことは重要だ」と語ったと朝日新聞は報道しています。事実上これを認める発言だと私は考えています。
次に日本では比較的冷静な防衛族のひとりと言われている石破茂さんは、ペロシ訪台の直前に浜田前防衛相とともに、自民党防衛族を引き連れて台湾を訪問した。そのときに蔡英文総統と会ったあとの記者会見で、石破さんは台湾有事が起きたときに2万人を超える邦人の退避を検討する計画を早く策定しなければいけないと、台湾有事の邦人退避計画策定の必要性を指摘します。台湾には2万5千人くらいの邦人がいる一方で、中国大陸に邦人は10万人くらいいます。これは台湾有事が起きたときに「人道支援」を前面に出す、早く邦人を退避させなければ危ないじゃないか、そういうことを言うことによって台湾有事の切迫を煽る、そういう効果をもたらしたのではないか。邦人退避計画を台湾問題に日本が主体的関与をする「入り口」にしていると私は思います。
南西諸島、特に石垣島など自治体も退避計画を進めていますが、いざ台湾有事となったときに本当に島民を退避させることが可能なのか。台湾から2万人の邦人を退避することを台湾当局は優先順位として認めるだろうか。普通に考えるとそれはありえない。同時に考えていただきたいのは、もし台湾有事になれば日本は中国と敵対関係になるわけです。では中国に住む10万を超える邦人の退避はどうするんだろう、そのことに一切触れない、こうした自民党防衛族の無責任な発言として紹介したいと思います。
今後の台湾問題の焦点のひとつを最後に紹介しておきます。蔡英文さんがヘルメットをかぶった写真を入れましたけれども、アメリカの民主・共和超党派の上院議員が提案をした法案に「2022台湾政策法案」があります。これは・台湾を同盟国として攻撃的兵器を供与・在米機関の名称を「台湾代表処」に改称し外交特権を与える、というものです。2022年9月15日に上院の外交委員会を通過しました。下院では共和党が多数を占めましたので新しい下院議長が共和党から出ます。恐らく、そのもとで下院の本会議で審議が行われる予定です。具体的内容を見ると、ほとんど台湾を同盟国扱いにしています。これを見ると日本に対しても同じことをやっているなと思われること、特に日本の「NATO化」に近いことを台湾でもやろうとしています。
ちょっと読んでいきます。①台湾当局者との公的交流の制限を撤廃する、②中華民国の国旗掲揚など台湾主権を象徴する行動の解禁する、③台湾を主要な非NATO(北太平洋条約機構)同盟国に指定する、④台湾関係法を改訂し攻撃用兵器を供与できるようにする、⑤5年間で1兆円弱の武器購入資金の融資をする、⑥戦争計画を策定する。結果的に言うと、アメリカと台湾の暗黙の軍事同盟をさらに強化し、その上で日本との軍事同盟を入れて、アメリカを要とする日本・アメリカ・台湾、この3者の軍事同盟関係を確立する。これが先週閣議決定された安全保障3文書の「グランドデザイン」の最終目標であり、その先には恐らく日本の自主防衛というものを見据えているのではないか、と私は考えます。
安保3文書から話はだいぶ飛びましたけれども、「台湾有事」なるものがどのようにしてつくられていったのか。それをアメリカの戦略、日米の安全保障対話とその対話の先にある具体的な共同声明の中味、そして将来的には日米台の暗黙の同盟を強化することによって日本・台湾を台湾有事の主役に踊り出させて、アジア人同士を戦わせるということがアメリカのグランドデザインである。このことを私の今日の結論にしたいと思います。