私と憲法256号(2022年8月25日号)


「国葬」反対!9月27日は「武道館」を圧倒しよう!

ロシアによるウクライナ侵略、アメリカ下院議長ペロシ氏の台湾強行訪問、安倍元首相の暗殺と「国葬」策動、改憲と大軍拡。
ざわざわと胸の中に湧いてくる違和感は何だろうか。自己問答の末の結論は「すでに新たな世界大戦がはじまっている」だった。新たな世界大戦は核兵器が飛び交い「勝者なき廃墟」をもたらすだろう。破滅への流れは加速し勢いを増している。この流れを私たちが止めることができなければ破滅は避けられない。「核抑止」「武力による平和」が破滅に向かう流れのイデオロギーだ。これに対抗できるものは何か。それは「お花畑理論」と揶揄され続けた「対話と外交による平和」の路線=平和憲法の実践に他ならない。ここにこそ破滅への流れをくい止めて逆転させる力があるのだ。

「戦争回避に全力を尽くすが、相手があることなのでいざとなれば、やむを得ず武器をとることもある」という考えはひとたまりもなく破滅への流れに飲み込まれるだろう。

維新、参政党、N国などが最早翼賛勢力と化してしまった現実がある。私たちは破滅への流れをくい止めるリアルパワーとして「対話と外交による平和」運動と勢力を足元からそして海を越えて作り出すことが求められている。

7月22日の朝、首相官邸で開かれた閣議において7月8日に演説中に銃撃されて死亡した安倍元首相の「国葬」を9月27日に日本武道館で実施することが決定された。「内心の自由」を侵害し弔意を強制する「国葬」は、なんら正当な法的根拠もない違憲違法な決定だ。それはあの「集団的自衛権行使容認」を決めた2014年7月1日の閣議決定に通じるものとして徹底的に弾劾されなければならない。巨額な費用が伴う「国葬」を国会での議論もなく一方的に決定したことは岸田政権の急の表れに他ならない。

「アベ政治」というフレーズに象徴される、改憲、軍拡、大資本優遇、格差と差別の拡大、民主主義破壊といったここ10年あまり展開されてきた政治は、安倍晋三という政治家を推進力としてこそ成り立ってきた。2度までも政権を投げ出し、そして、復活。さらに3度目の登板まで囁かれていた。このような「アベ」の喪失自体が自民党そして自公政権の危機をもたらしている。また、安倍元首相が推進力となってきた改憲、軍拡、アベノミクスの路線を変えることも政権の瓦解に繋がってしまう。このような危機を打開するために、外国の要人らによる「安倍礼賛」を利用してアベ政治批判を封じ、改憲軍拡を更に正当化して弾みをつけようとしているのだ。

安倍「国葬」はアベノミクスによって生活を破壊され自死に追い込まれた多くの女性や、安倍元首相による政治の私物化の犠牲となった赤木俊夫さんたちを今再び死に追いやるものではないか。2015年安保闘争をはじめアベ政治と闘い続けてきた市民の圧倒的な声は無かったことにされるのか。私たちはものすごい侮辱の只中にいることに、心の底から怒りをたぎらせなければならない。閣議決定の同時刻の8時半。緊急行動の呼びかけを受けて首相官邸前に駆けつけた400名の市民が「国葬反対」のシュプレヒコールを叩きつけた。この官邸前緊急行動を機に、8月6日に「国葬」に反対する実行委員会が結成された。そして8月10日には記者会見を行い、東京だけではなく、半旗=弔意の強制に反旗を翻す全国各地での取り組みを呼びかけた。

7月8日安倍暗殺、7月10日参議院選、安倍「国葬」決定、「国葬」反対の運動と世論の盛り上がり等日本の政治状況が流動化しているなかで、8月2日アメリカのペロシ下院議長の台湾訪問が強行された。怒った中国は台湾を包囲する6カ所の空海域で実践並みの軍事演習を繰り広げ台湾をめぐる緊張は一気に高まった。ロシア、アメリカ、中国による「現状変更」の応酬は確実に「新たな世界大戦」を手繰り寄せている。

その中で沖縄本島を含む琉球弧、南西諸島の戦場化が更に現実性を増大させている。「沖縄を再び戦場にさせてはならない」ためにも、9月の沖縄県知事選挙には玉城デニー知事をおし立てて何としても勝利しなければならない。岸田政権は改憲、軍拡のためにはオール沖縄が体現する沖縄の闘いの解体が絶対的課題として攻め込んできている。

「国葬」反対と沖縄県知事選の闘いをひとつのものとして勝利しよう。

岸田首相は参議院選後の内閣改造を予定よりも1ヶ月も前倒しして8月10日に行った。安倍氏殺害後、次から次へと反共カルト集団旧統一協会と自民党との長く広く深い癒着ぶりが明らかになっている。そして、内閣支持率が急落し、政権の存続を揺り動かしはじめた。慌てふためいた岸田首相は打開のための内閣改造を急いだ。

旧統一協会と関係を持っていないか、持っていても今後は関係を断つことを条件に組閣したが、蓋を開けてみると、岸田氏を除く閣僚19名中7名が、副大臣、政務官54人中23人が旧統一協会とのかかわりがある人物だった。与野党全体の議員を見ても旧統一協会との接点のある国会議員106人中、8割が自民党の議員である。もはや、自民党は旧統一協会無くしては成り立たないカルトに染まりきった政党だということが白日の元に晒されている。

ジェンダーギャップ指数がどうして上がらないのか、なぜ頑なに自民党だけが選択的夫婦別姓に反対するのか。なぜ改憲に執念を燃やしているのか、その全てにカルト集団の教義が絡み合っていた。総務大臣政務官に杉田水脈氏が任命された。「男女平等は妄想だー「日本には女性差別がない」「同性カップルは生産性がない」「女はいくらでも嘘をつく」などの差別発言を撒き散らすことで、安倍元首相に重用されてきた。このような人物が、更にまた「LGBTは種の保存に反する」などと優生思想を公言する梁和生氏が文部科学副大臣に任命されているのだ。

このように、岸田政権は反共カルトと差別主義者で大半が占められていると断言できるだろう。そしてこの事実こそが政権と政策の好戦性と差別性を裏付けるものとして、もっともっと暴露し訴えていく必要がある。

経産相から政調会長になった萩生田氏は「経産相を続けたかった」と殊勝なコメントを述べているが、実は旧統一協会から「家族同然」と言われるほど一体化していることが追及され、窮地に立たされることを回避しようという魂胆を隠蔽するためのコメントに他ならない。この萩生田氏の兄貴分である安倍元首相こそ、旧統一協会と最も太いつながりを維持していることが明らかになっている。祖父の岸信介からのつながりであり、政治内容を含めほとんど一体化していた。国会の場で「共産党!」「日教組!」という野次を平気で飛ばすなど反共カルトそのものであった。

非常識なほど効果な壺や教典を買わせるなど、違法な活動に対する取り締まりに対して制動するだけではなく、積極的に広告塔を演じることで被害を拡大させてきたことは明らかである。旧統一協会を権力を利用して擁護されてきた安倍元首相にとって、伊藤詩織さんに性暴力を行った友人の元TBS記者の山口敬之氏の逮捕を止めさせることなど簡単なことだったのだろう。逮捕を取りやめた中村格警察庁刑事部長は警察庁長官へと大出世している。森友学園、加計学園、桜を見る会、山口敬之氏の逮捕取りやめ、そして旧統一協会との癒着と相互利用、これほどの権力の私物化をした政治家をなぜ「国葬」にしなければならないのか、改めて怒りが沸き立つ。

日本は右傾化してきたと言われてきたが、実は右傾化ではなくカルト化していたという事実があらわになった。これから私たちはカルトに支援される右派勢力と向き合い闘いっていかなければならない。安倍氏の死によって数多くの疑惑のベールがはがされてきているが、まだ氷山の一角に過ぎない。ここからが勝負だ。

安倍氏殺害で改憲への弾みがつくかと危惧したが、カルトとの癒着の追及によって世論を動かせる機運も見えてきた。必ず国民投票で勝てる状況でなければ改憲発議はできない。私たちはカルト疑惑追及、「国葬」反対の大闘争を巻き起こし政治状況を大きく変えていこう。もっともっと街頭に出て創意工夫し、対話を繰り広げよう。8月31日(水)18時から「安倍元首相国葬反対8.31国会正門前大行動」を成功させ、9月19日(月・休)は13時半から「安倍元首相国葬反対、さようなら戦争、さようなら原発9.19大集会」(於・代々木公園)を成功させよう。そして9月27日、国葬当日は、国会正門前だけではなく、全国各地で声をあげ、「武道館」を圧倒しよう!
(事務局 菱山南帆子)

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安倍元首相の「国葬」に反対し全国津々浦々から共に立ちあがろう

安倍元首相の『国葬』に反対する実行委員会
2022.8.6

憲法改悪に反対し、平和と人権、民主主義の実現をねがう全国津々浦々の市民の皆さん

参院選の最終盤、7月8日に安倍元首相が銃撃によって殺害されました。容疑者は家族が安倍氏と密接に連携していたカルト集団「旧統一協会」の苛酷な被害を被っていた元海上自衛官でした。

選挙演説中の安倍元首相に対するこのような暴力は決して許されることではありません。

しかし、岸田内閣がこれを「民主主義への挑戦だ」と安倍政治を全面的に賛美する立場で世論を煽り立て、自らの政治的利害の貫徹のため、7月22日、異例の速さで「安倍氏国葬」を閣議決定したことは重大な問題であり、容認できません。各種の世論調査も明らかにしているように、安倍政治に対する日本社会の評価はおおきく分かれているにもかかわらず、国葬の強行は一方的に安倍政治を全面的に賛美・礼賛することになります。

あえていいますが、安倍元首相が亡くなったことによって、彼のこれまでの数々の悪政の責任が消えるわけではありません。安倍氏は日本の憲政史上最長の首相となり、「安倍一強政治」ともいわれるような状況をつくりだし、その間、行政を歪め、権力を私物化し、歴史修正主義、民主主義破壊、軍拡、解釈改憲、その他数多くの憲法違反の悪法を強行成立させてきました。

私たちは、今までの安倍元首相の悪政を絶対に忘れてはならないし、なかったことにしてはなりません。安倍政権8年8カ月の悪政は民衆の手で清算されなくてはなりません。
ましてや、岸田政権による今回の閣議決定は法的根拠が存在せず、かつ憲法が保障する信教の自由、良心の自由、および法の下の平等の原則に反する憲法違反の企てです。

全国に疑問と反対の声が渦巻いています。
今こそ私たちは声を大にして、安倍元首相の国葬に反対し、改憲と軍拡、戦争準備、暮らしの破壊の岸田政治に反対の声をあげましょう。

全国の市民の皆さん。

  1. 全国各地で緊急に行動を起こしましょう。
  2. 学習会を開き、署名、スタンディング、デモ、集会などで街頭に出て、あるいは共同で声明をつくるなど、個人や団体があらゆる可能な形態で多様に、創造的に安倍元首相の国葬に反対する運動にとりくみましょう。
  3. とりわけ、国葬が予定されている9月27日(時間未定)を目途に、全力で市民の行動を起こしましょう。当日は同時の抗議行動を起こし、おおきな反対の声をあげましょう。
  4. 改憲と軍拡に反対し、戦争への道に反対し、民主主義と人権と平和のために!

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いま求めるべきは「停戦」か「撤退」か――運動圏の混乱を危惧する

筑紫建彦(憲法を生かす会)

ロシアがウクライナ侵攻を始めて6カ月。ロシア軍は攻撃を続け、支配地を広げてロシア領土に併合する動きを進めていますが、ウクライナ側は頑強に抵抗し、長期戦の様相になっています。この間、双方の戦死は万単位と言われますが、ウクライナ側では多数の市民が死傷し、国外と国内の避難民は人口の半分以上の2200万人を超えています。ロシア軍には、民間施設や市民への攻撃が「軍事的効果をもつ」と考えているフシもあります。

欧米日などは侵略を非難し、ロシア軍の「撤退」を求め、ロシアに経済制裁も課しました。ロシアの市民も戦争反対の声をあげました。しかし、戦局が長期化する中で、欧州にも「支援疲れ」が表れたり、ロシアからの石油・天然ガスの供給急減などで動揺や意見の違いも出てきています。これに対しプーチン政権は、徹底した弾圧と情報操作で国内を固め、長期戦になっても制裁の効果は小さいと宣伝、国際世論の分断を図ろうとしています。

この状況で最近、ロシア/プーチン批判や「撤退」要求ではなく、「まずは停戦を」と提案する動きが複数の国で出てきています。それには著名な学者や評論家、法律家なども加わり、運動圏や言論界にも影響を与えています。「撤退」と「停戦」は、いずれも「戦闘が終わる」という印象を与えますが、紛争当事国や国際法では重大な違いがあります。

◆「撤退」と「停戦」には大きな違いが

「撤退」は通常、侵攻した側が自らの判断で行うもので、①侵攻の目的を達成した、②目的は達成していないが国内的、国際的な事情で戦争継続ができなくなった、③敗勢に陥り軍を引かざるをえない、などの理由が考えられます。「撤退」の決定や実施は比較的短期に可能で、侵攻した側が軍を退去させれば戦争は実体的に「終了」します。

これに対し「停戦」は通常、紛争当事国の合意によってのみ実現するので、停戦の条件・内容は優勢な側が有利になり、劣勢の側は不利な条件・内容でも呑まざるをえないことになりがちです。また、合意までに多くの要素の扱いなどで時間を要し、しかもあくまで一時的な「停戦」なので、双方の兵力は支配地から撤収せず、「停戦ライン」をはさんで対峙し、小競り合いから衝突が再燃・拡大する危険性も残ります。

トルコが仲介した交渉でロシア側は、ウクライナの中立化や非武装化とともに「クリミア併合の承認」や「ドンバス2州の分離」も要求しました。ドンバスで親ロ派はドネツク州とルガンスク州の一部地域で「人民共和国樹立」を宣言しましたが、プーチン氏は「解放は両州全域」とし、ラブロフ外相は「南部のへルソン州とザポリージェ州も、あるいはそれ以上も」と語り、すでに南部2州でも併合への「住民投票」を準備しています。なのでロシアが停戦に動くとしても、停戦までに占領した地域の支配権も求める可能性があります。これは「占領による領土併合」という国際法違反を停戦条件で正当化するに等しく、「切り取り強盗」に対し被害者が財産を差し出すことに「合意」する形で「平和と安全」が与えられるという図式です。「停戦」では、このような結果も伴う可能性があります。

◆「戦闘が長引けば犠牲が増えるだけ」と言う意図は?

「まずは停戦」の提案者たちは、「戦争が続けばつづくほど、ウクライナ人、ロシア人の生命がうばわれ…将来に回復不能な深い傷をあたえる」(3.15和田春樹氏らの共同声明)と言います。たしかに、戦争はすべてそのような悲惨と悲劇をもたらします。なので私たちは誰もが、今回の戦争が一日も早く終わることを切望しています。

しかし、すみやかな「停戦」の可能性について、「開戦からわずか4日後にベラルーシで停戦のための会談が行われた」ので、「双方に戦争はしたくない。話し合いに応じようという態度がある」という説明(6.8 AERA和田氏)は、非常に疑問です。また、国連事務総長あての「日韓市民・研究者の共同書簡」(7.7和田氏ら)では、「いまなら双方が『負けていない』といえる状況があり、両軍ともに停戦する名目が立ち得る」とまで記していますが、双方が、特に侵攻中のロシアがそのように判断する状況とは思えません。

上述のように、ロシア側は侵攻の「達成目標」を次々に引き上げています。またウクライナ側は、「NATO加盟申請の撤回と代替の国際的安全保障」、「クリミア問題の協議続行」などを提案して合意を探りましたが、ブチャの虐殺やマリウポリの攻防と捕虜の爆死事件などから「徹底抗戦」の姿勢をむしろ強め、双方の距離は開く一方です。

また、ある法律家は、「軍隊による応戦は、実際には国土も国民も守ったことにはならず、兵士の犠牲者以上の膨大な市民の犠牲者と国土破壊をもたらす。…ウクライナへの軍事支援は軍隊による戦争を長引かせ、市民の犠牲を招く」と述べています。戦争はそういう悲劇を生むからこそ私たちは戦争に反対し、「抑止力」論も批判してきました。しかし、すでに武力で「膨大な市民の犠牲者と国土破壊」にさらされているウクライナ側に対し、「応戦するな」と求める権利は私たちにあるでしょうか。「私たちはロシアの侵攻を止められないが、あなた方は応戦せずに降伏し、ロシアの要求と支配に屈服すれば命は助かるはず。奴隷になっても死ぬよりましだろう」など、私には言えません。

また、ある高名な学者は、「夫が妻や子どもに暴力をふるっている場面で、妻や子どもにこん棒や銃を渡すだろうか?」として、「どんなレベルでの暴力も反対」を唱えています。これは的外れの比喩です。では、夫が銃や刃物で妻や子どもを殺そうとしているときに、妻は子どもや自分の命を守るためにこん棒で抵抗することもすべきではない、と?

 ベトナム戦では「米国による軍事介入反対」ではなく、「世界最強の米軍と戦うのは犠牲が増えるだけだ。抵抗はやめるべきだ」と提案すべきだったと? イスラエルに土地を奪われるパレスチナ民衆には、「石を投げたりデモをすると撃たれるから、黙って我慢すべきだ」と? ミャンマー軍は非暴力デモにも銃撃するから「デモも抵抗もするな」と?

 抵抗と犠牲は、たしかにジレンマです。しかし、根本原因の「軍事侵攻」と侵略側の意図などを見誤らず、「戦争反対、侵略軍は撤退せよ」と声を上げ続けることが必要ではないでしょうか。そうではなく、安全な場所から「強大、残虐な相手には力で抵抗するな」と言う言説には同意できません。ラブロフ外相などは、この意見はロシア側に有利とみて、「ウクライナに武器を与え続ければ戦闘が長引き、犠牲が増えるだけ」と脅しています。

◆単一の「国際社会」は存在しない――世界は「多極化」から「複合的二極化」へ

東京新聞の社説(7.24)は、上記の日韓有識者の要望書やロシアとの対話を模索する独仏などを紹介し、「国連が機能を果たせないのなら、国際社会が協力して和平合意を実現するしかない」、「停戦の可能性を探り続けることは国際社会の責務」と論じています。その善意は疑いませんが、そのような「国際社会」はどこに存在するのでしょう。

中国やインドには和平仲介を期待する声もありましたが、両国はロシアへの批判や制裁には参加せず、むしろロシアから石油や天然ガスの輸入を急増させています。特に中国は、米国との対立関係を戦略的課題として、この戦争で米国とその同盟国がどう動くか、対処能力がどの程度かを見極めようとしていると思います。インドは米日豪とのクアッドに参加しましたが、上海協力機構で中ロとも連携し、ロシアとの軍事協力を重視し、動こうとはしていません。アフリカやASEA、中南米などの諸国も、ロシアからの軍事協力、中国の投資、政治的な反米感情などから、欧米への同調を控える姿勢をとっており、プーチン氏も先日、それら諸国とさらに軍事協力を進めると宣言しました。

国連では、安保理での侵攻非難決議は中ロの反対で実現せず、総会で拘束力のない「ロシア軍の即時撤退」決議は賛成141で採択されましたが、反対・棄権・無投票は計52。「人権理事会でのロシアの資格停止」決議は賛成93で、反対・棄権・無投票の計100か国が賛成しませんでした。国連に置かれた国際司法裁判所(ICJ)は3月、ロシアに対し直ちに軍事行動をやめるよう暫定命令を出しましたが、ロシアは無視。国連憲章には「判決の義務を履行しないときは、安保理は勧告又はとるべき措置を決定できる」とありますが、ロシア、中国が反対すれば勧告も決定もできません。

伊勢崎賢治氏も「まずは停戦」を唱え、「OSCEなどによる停戦監視団も増強し、国連のお墨付きを与え、監視と合意違反の…裁定能力を高める。ロシアの戦争犯罪などについてはICJで調査し裁くことを国連も確約」し、そのため「ロシアの戦争犯罪といった『正義』に関わる問題を一時棚上げする必要もある」として「停戦」が可能かのように解説(8.15東京新聞)。しかし彼は、国連もICJ もOSCEも動けないことは承知のはずです。

また、欧米側も、独仏伊などに「停戦」や「和平」呼びかけの動きがあり、逆にポーランドやバルト三国、イギリスなどは「ロシアには代償を支払わせるべき」という姿勢で、ハンガリーは制裁自体に反対。米国は、「ウクライナの勝利とロシアの弱体化をめざす」が、「米ロ戦争を避けるため米軍は派遣しない」し、提供する武器も数量や機種、能力などを限定。「ロシアは勝たせたくないし、ウクライナは負けさせたくないが、ロシアを(核を使うような)完敗には追い込みたくない」というようにも読めます。

プーチン氏は、長期戦の様相と支援疲れ、制裁のブーメラン効果によるエネルギー危機や物価高騰などによる欧米の足並みの乱れ、米中対立の深刻化、他の諸国の態度保留などの状況を見て、長期戦に耐えれば有利な情勢が開けるという自信さえ持ち始め、「中ロ枢軸」で欧米に対抗し、それに各国を結びつける「多数派戦略」を展望しているようです。それは、もはや単なる「多極化」ではなく、「複合的二極化」と表現すべき流れかもしれません。そうなら、一般的な「国際社会」論には解決も効果も期待できないと思います。

◆ロシア側は何をどこまでめざすのか――プーチン独裁の論理と倫理と心理を考える
●「一理ある」かのようで疑問多い言説

プーチン氏が侵攻の理由としたいくつかの項目に対応して、「NATOの東方拡大が原因」とか、「ワルシャワ条約機構(WTO)が解散したのでNATOも解散すべきだった」、「だから責任は米欧にもある」、「プーチンはやむなく侵攻せざるをえなかった」などの議論があります。たしかにWTOの解散やNATOの東方拡大は事実で、東西ドイツ統一の際の(口頭)「約束」に違反にも根拠があり、プーチン氏の主張には「理がある」かのようです。

しかし、ロシアは旧ソ連の核を独占し、WTO解散直後から軍事同盟の再構築を進め、94年には集団安全保障機構(CSTO)を発足させました。ロシアは「裸になった」のではありません。一方で94年には「欧州安保協力機構」(OSCE)が発足し、欧州、北米、ロシア、中央アジアの57か国が参加。97年には「NATO・ロシア合同常設評議会」も発足し、現在はOSCE、NATO、CSTOの3つが併存状態です。ただ、ロシアはこの枠組みが自国に有利に機能するよう試みてきましたが実現せず、不満を募らせていました。

一方、ウクライナのNATO加盟交渉は97年に始まり、同国は「準加盟国」の地位を求めましたが、NATO側はロシアを刺激しないよう加盟申請を棚上げしてきました。また、99年にチェコ、ハンガリー、ポーランドが、04年にバルト三国とスロバキア、スロベニア、ブルガリア、ルーマニアと、旧ソ連の多くの東欧諸国がNATOに加盟しました。しかしプーチン氏は、モスクワやサンクトペテルブルクに非常に近いバルト3国にも、最近NATO加盟を決めた北欧2か国にも、「安全保障上の重大な脅威」とは言いませんでした。これら諸国にロシアと敵対する意思も能力もないことを知っているからです。

プーチン氏は「ロシア軍はいつの時代も他の民族に自由をもたらしてきた」と言いますが、ウクライナでの人為的大飢饉や、ハンガリー動乱やプラハの春の戦車による制圧などの歴史から、東欧諸国には「ロシアへの恐怖」や「反ロシア感情」が根強く、北欧諸国も同様です。NATOもEUも決して安心や豊かさを保障するものではありませんが、加盟は、東欧、北欧の人びとが「シェルター」として支持した要素が大きいと思います。

●プーチン独裁が掲げる「大ロシア主義」――ウクライナ侵攻の本音は?

プーチン氏は、ソ連崩壊後にKGBを辞めたものの、その経歴を利用して99年にFSB(連邦保安庁)長官→首相代行→首相→大統領代行と駆け上り、首相の時に第2次チェチェン戦争を強行(人口80~100万人中、死者20万人とも)。その「勝利」で名声を得て2000年に大統領に当選するや、終身大統領が可能になる憲法改正を行いました。

プーチン氏の権力維持の手段は、野党や市民運動、独立系メディアなどを徹底的に弾圧することです。第2次チェチェン戦争の闇を報じた記者は毒を盛られ、射殺されました。政府の汚職を暴露した野党指導者ナワリヌイ氏も神経剤で重体になり、今は獄中です。独立系のノーバヤ・ガゼータ紙は活動停止。「戦争反対」を唱えた市民1万数千人が逮捕され、「ロシア軍について虚偽情報を流した者」は最高15年の懲役、政府批判のNGOは「外国の代理人(スパイ)」とする法律も施行。情報発信は国営放送に一元化されました。

一方でプーチン氏は、18世紀のピョートル大帝を称賛して「領土を奪還し強固にすることは我々の責務」、「ロシアは戦いを通じて祖国を守ってきた」、「先人らの功績と戦勝を誇りに思う」、「ロシアとウクライナは同じロシア民族なので単一国家であるべき」などと高言。「ロシアに権威と栄光をもたらす指導者」を演じ、それをロシア正教会のキリル1世は、「ウクライナは邪悪、プーチンの統治は『神による奇跡』」と“祝福”しています。

 このような「大ロシア」の野望は、ウクライナがロシアから離れて欧米と結びつくなら実現しません。「その方向に動くウクライナには懲罰を与え、『改心』させる」??それが今回の侵攻の真の理由であると思います。侵攻目的とした「中立化」や「非武装化」は、<ロシアに服属するウクライナ>実現への前提条件であり、「ゼレンスキー政権の排除」もその延長上にあります。プーチン氏が「停戦」に応じる場合、そうした条件・内容を獲得するために戦争で圧倒的な優位を確立しておく――これがシナリオでしょう。

●「住民迫害」「ネオナチ」「マイダン革命はクーデタ」だから侵攻

なお、プーチン氏は、侵攻の目的として次のような項目も列挙しました。実態を踏まえるなら、いずれも言いがかりか虚偽、針小棒大な宣伝の類で、情報操作には要注意です。

「ロシア系住民の迫害」:OSCEの報告では、ドンバスの武力衝突では「誘拐、虐待、略奪、殺害」などは双方が行い、どちらかといえば親ロ派によるものが多いとされています。なお、マイダン革命後のウクライナで「公用語からのロシア語排除」が法定されたことは問題ですが、この法制の改廃を求めても、侵攻や併合を正当化する理由にはなりません。

「ネオナチ政権」:ウクライナの政権自体がネオナチというのはウソです。ただ、初期の「アゾフ大隊」や右翼民族主義勢力は、ナチスの標章などを「反ロシア・反権力」のシンボルにしたようです。そのような「アゾフ大隊」にサッカーの熱狂的なファンの若者たちも参加し、2014年のマイダン革命では市民防衛に従事。その後ドンバスでの戦闘を経て、ウクライナ内務省が準軍事組織に編入、改革されたとも言われています。この経過の一部を使い、ウクライナ政府自体を「ネオナチ」とするのは誇大な歪曲です。なお、「反ナチ」は、凄惨な独ソ戦を経験したロシア国内ではほぼ無条件に支持され、ロシア軍が戦争犯罪を行っても「反ナチ作戦」と強弁して黙認される傾向さえがあります。

「ウクライナが核開発」:これは、まったく根拠がありません。「ロシアに敵意を抱く隣国が核武装」という宣伝は、ロシアでは通っても国際的にはまったく通用しません。

「マイダン革命」:ウクライナの歴代政権は、20年間近くEU加盟かロシアとの連携かで揺れてきました。そして2010年に大統領になった親ロ派のヤヌコヴィッチ氏が、かつては自分も公約したEUとの協定調印を見送ろうとしたため、数万、数十万の市民がキーウの独立広場マイダンに集まり、退陣を求めました。ヤヌコヴィッチ氏は武力鎮圧を命じましたが、「市民防衛隊」も形成され、武力衝突の状況に至ってロシアに亡命しました。他方、欧米もEU加盟の世論づくりや野党へのテコ入れを行ったため、ロシアはこの政変を「米国が画策したクーデタ」と呼び、市民が政変の主役であったことを認めていません。

「クリミアとドンバス」:プーチン政権は、マイダン革命の直後に「クリミア半島のロシア人保護」を名目に派兵、「住民投票」を行って「ロシアの領土」にしました。続いてドネツクとルガンスクでも親ロ派が「人民政府」樹立宣言を行いましたが、OSCE観測員は、2017年までに「ロシアから軍服を着た3万人がドンバスに越境」したと把握しています。

なお、ウクライナでの18~60歳男性の原則出国禁止の措置は人権侵害として内外から批判があり、同国政府は7月、出国基準の緩和法案を出したと報じられています。

おわりに

ウクライナでの戦争は進行中で、戦闘の趨勢や結果が今後の当事者や関係者の立場やその行動にも大きく影響してきます。「停戦」には、ここに述べたような思惑や難題、リスクも伴い、今回のウクライナ侵攻には特殊な「思想や戦略」も伏在しています。なので、こうした側面への十分な考慮とウクライナの人びとへの配慮を欠くような「提案」は“バランス失調”になり、悪影響を及ぼすおそれさえあります。プーチン・ロシアへの批判を手控え、ウクライナ側を非難して「停戦」を唱えれば「中立・公正」だとは思えません。

私たちがなすべきこと、できることは、事態の核心が「ロシアの野望による軍事侵略」であることを見失わず、その責任があるロシア政府にあくまで「殺すな」、「撤退せよ」と求め、ウクライナの市民、避難民、子どもたちが一人でも多く生き延びることができるよう励まし、支援の手を差し伸べることではないでしょうか。それが、強権政治の下でも「侵攻反対」で苦闘するロシアの市民たちとも呼応、連帯する道であると思います。
【2022.8.20記】

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第162回市民憲法講座 参院選の結果と改憲動向

高田 健さん(当会共同代表・総がかり行動実行委員会共同代表)

(編集部註)7月16日の講座で高田健さんが講演した内容を編集部の責任で要約したものです。要約の責任はすべて本誌編集部にあります。

勝利に必須の野党一本化、市民と野党の共闘

選挙が終わって、まだ一週間もたっていない中でお話しするのは非常に難しいです。みなさん印象はどうでしたか。3分の2を取られたというのは結構大きいですよね。だから何となく今ひとつ元気が出ない。何か改憲がもうすぐやってくるかのような感じもする。あわせて安倍の銃撃事件まであって、これがまた雰囲気が悪い。私はもしかして「国葬」の話しが出るんじゃないかと思ったけれども、「国葬を」って岸田が言ったときに、ああやっぱりだと思いました。彼はこういうことまで言ってくるんだと思いました。

安倍殺害のおかげで、憲法改悪に反対する候補者たちが何人か確実に落ちました。それだけじゃなく、新聞のインタビューを見ていたら、50代のおっさんが「いままで選挙に行ったことがないけれども、ああいうかわいそうなことになったので今度の選挙に行って自民党に入れようと思う」と、何かお線香を上げに行くような気分の人がいたくらいですね。これは統計の取りようがないけれども、どこの選挙区でもこういう人がいっぱいいたと思うんです。選挙で数%というのは当落を左右します。安倍氏が殺されたあと、岸田首相が山梨と新潟に行った。もともと安倍は長野に行こうとしていた。この3つの選挙区はものすごく重要なところで、ここで競っていた。長野はなんとしても勝たないといけないと、安倍はもともとの予定では長野に行って杉尾さんを落とそうと思っていたんです。しかし、自民党候補のスキャンダルがあって、予定が変わって奈良に行ったんです。そのあと岸田が山梨と新潟に行った。ここは立憲野党が強いところだと思っていましたが、負けちゃった。やっぱりお線香を上げに行った有権者がいっぱいいたと思うんです。今度の結果は、安倍さんが亡くなったことが選挙に大きく影響したことは間違いない。

しかしそれだけで負けたわけではない。とくに参議院選挙の場合には1人区、当選者が1人しかいないという選挙区がどういう結果になるかというのが非常に大きく、これが32あるわけです。この32の選挙区で、市民連合が直接推した人は3人しか通らなかった。青森と長野と沖縄。沖縄はよかったですよね。今度の県知事選を考えたら、伊波さんが勝ってくれたことはすごく大きなことだったと思うんです。

少し振り返ってみましょう。市民連合と野党が一緒になって、野党と市民の共闘が始まったのは2016年の参議院選挙からです。参院選は3年に1回ありますから、次が2019年、次が今度の2022年です。衆議院は別として、野党と市民が一緒になって選挙をたたかった経験はこの3回です。その前の2013年、ここは野党と市民の共闘はありませんでした。だから野党もばらばらで、このときに野党で当選した人は2人です。ひとつは沖縄。もうひとつは岩手。岩手というのは小沢さんです。あそこは小沢王国みたいなもので、小沢さんが出たり小沢さんの仲間が出ると絶対に通る。ところが今回、岩手が落ちた。

そのあと2014年、2015年の安保反対闘争をやりました。みんなと一緒にデモに行って、国会の前に10何万人も集まった。全国で何十万人ものデモをやった。あれだけデモをやって国会の外でたたかったのに、国会の中で数を持っている自民党と公明党が、安保法制で強行採決をやって通ってしまった。あのときに私たちは考えた。国会の外でたたかうことも大事だけれども、国会の中とも連携しないと勝てない。国会の中と外と一緒になる必要があるということで、市民連合は2015年にできたわけです。

初めての選挙が2016年で、このときには32の1人区を全部一本化した。野党の人たちにも働きかけて、ばらばらの活動はやめよう、自民党と公明党は一緒になっているんだから、われわれの方が一緒になって悪いわけはない。そうしないと勝てないという運動をずっとやる中で、2016年は11人当選した。それまで2人だったところが10人以上多く当選した。これは明らかに、野党と市民の共闘の効果なんですね。はっきりわかる。次の2019年は10人だった。1人減ったんです。考えてみると全国の32の1人区で、ざっと見て14くらいの選挙区は野党が一本化すれば勝てるという選挙区がだいたいわかってきた。だから今度の選挙はこの14の選挙区で、とりわけ勝ちたいとそう思っていたんです。

ところが全然一緒にならないわけですよ、野党の人たちがああだこうだいって。そして脇から連合の幹部がごちゃごちゃ言う。結局今回は3選挙区しか勝てなかったという経過をたどりました。

私たちはこの一連の経験を考えてみると、まず野党は一本化しなければ勝てない。1本化すれば勝てるという事ではないが、前提条件だ。野党が一本化するだけじゃなくてきちんと支え、それをつないでいく市民と野党の共闘ができないと勝てない。それを本当に真剣にがんばらないと勝てない。いろいろなことをこの中で学びました。

野党自らが協働を壊した選挙の結果

今日配っている市民連合が出した声明を読んでみます。「7月10日に行われた参議院選挙は、大方の予想通り、自由民主党や日本維新の会が議席を大幅に増やし、衆議院に続いて参議院でも改憲勢力が議席の3分の2を超える結果となった。かたや立憲野党は、社会民主党が1議席を死守する一方で(よかったですよね、社民党という存在が国会に残った)、立憲民主党も日本共産党も選挙前に比べて議席減となってしまった。より詳細に見ると、自由民主党が議席を増やしたのは1人区を含む選挙区に限られており、比例区ではむしろ1議席減らしている。逆に立憲民主党は、比例区では改選議席数を維持、議席減となったのは1人区を含む選挙区でのことであった」。

何で減ったんですかね。他の野党と一緒にやらなかったからですよ。市民連合と一緒にやらないで、あのユニオン連合とだけ一緒にやったからこういう結果になったんです。1人区を含む選挙区で立憲民主党は減らした。比例区では減らしていない。

声明は続けて「2016年、2019年と立憲野党が積み重ねてきた32の1人区すべての候補者の一本化が今回はわずか11か所でしかできなかった。またその11の選挙区でも選挙共闘体制の構築が不十分に終わった結果、勝利できたのは、青森、長野、沖縄の3県だけに終わった」。この比例区と1人区と選挙区で、自民党と立憲民主党の議席の増減はよく覚えておいてください。

なかなか選挙結果の数字だけ見ているとわからない。ここに原因がはっきり書いてあるんですよ。ここは泉さんの執行部がきちんと総括ができるのかどうか。どうもいまのままだとあまりできそうにない。これをわかってもらわなきゃいけない。野党みんなが団結して、そして市民と一緒になってこの選挙を団子になってたたかう。自民党と公明党が一緒になってやっているのに、われわれの方がばらばらなのはおかしいですよ。「共産主義者と一緒にやれない」というのが連合の芳野さんの言い分です。そういう主義・信条を問題にするんですか。選挙では政策でたたかうのに主義・信条で争うなら、お聞きしますけれども、公明党と自民党の主義主張は一緒ですか。創価学会という宗教団体、それを背景にした公明党と、国家神道を背景にした自民党。今度のどさくさ紛れに出てきた統一協会のようなものにも一生懸命手伝ってもらう自民党。これでも自民党と公明党は一緒にやっているじゃないですか。野党の方が一緒にならない理由はないのに、野党が自ら内部から協働を壊したんですよね。

「対決」を回避し「提案型」に転換した野党の教訓

そのほかにも理由はいろいろあります。この前の総選挙のあと、一斉に攻撃がされました。市民と野党、市民連合にも、こんなに来るものかと思うくらい市民と野党の共闘に関しては攻撃が来ました。それは市民と野党の共闘をやってもらいたくない人たちなんです。これを何とかして壊さないと、自分たちの自公政権が維持できないと思ったから、一生懸命攻撃しました。私たちの方はこういう攻撃に結果として慣れていませんでした。だから十分反撃できていません。あれだけ一斉に攻撃してきたのに対して、よたよたしちゃうんですね。何でかなと思うくらい。新聞、とくに産経新聞とか読売新聞が、野党は反対ばかり言う、それが悪いという。一斉に書かれると、じゃあ反対しないで建設的な意見を言おうか。あまり大きな声で反対と言わないで小さな声で言おうかとか、軟らかく言おうかとか、そうなってくる。そして共産党と一緒になったのが悪いと言われると、じゃあこれからしばらく共産党とつきあうのはやめようか。この前の総選挙のあと、選挙区の総括でそういう話にどんどんいってしまったんですね。

もとも民進党がなくなるときに枝野さんが一人で立ち上がって、やっぱり野党らしい野党をつくるんだ、政権交代を実現するんだということで枝野さんが全国に呼びかけた中で、小池百合子さんの「希望の党」へ行こうと思ったような人たちもたくさん戻ってきて立憲民主党ができたんですよね。立憲民主党の創設者でしょ、枝野さんというのは。ところがいまのような攻撃が一斉にやられる中で、結局枝野さんは辞めたとなっちゃうわけですよね。私は枝野さんがやっていたらいいと、個人的には思うんですね。枝野さんが全部万々歳だとは思いませんが、少なくとも泉さんよりはちゃんとたたかったんじゃないか。だってあの人は間違ったことも言いますけれども、たたかうときにはたたかう。枝野さんとか、辻元さんが落ちたこととか、そういうことを含めて、立憲民主党がガタガタになったと思いますね。

自民党は総裁選をやって大成功した。4人の候補者を立てて、新聞、テレビ、ラジオは1か月くらい自民党の大宣伝をやった。これでいけばいけると思ったのかどうか知りませんけれども、立憲民主党も真似して代表選をやりました。新聞は取り上げない、テレビは取り上げない。だいたい誰が出ているのかわからない。いまでも「泉さんって誰?」という人が結構いるくらいほとんど宣伝されなかった。与党の宣伝はやりますけれども野党の宣伝はやりませんよ。そういう意味では作戦も含めて、立憲民主党はかなり間違ったと思うんですね。ここは本当にしっかり考えてもらいたい。

今日、私はフェイスブックに書きましたけれど、今度の国葬の問題で、あなたはしっかりした態度を取れなかったらだめだよ。ここで多くの市民が疑問に思って怒っているのに、しばらく様子を見ますみたいなことを党首が言っているようではだめだ。ちゃんと態度をはっきり出しなさいと、初めて自分の名前を出して泉氏に批判を言いました。ここまで来ると言わざるを得ないです。立憲民主党の中でも、杉並の吉田はるみさんとか、全国だったら辻元清美さんとか、何人もしっかりと、国葬に反対だと言っていますよ。この時期に国葬なんてないでしょう。これだけ統一協会と自民党の結びつきが明らかになってきているときに、国葬やるなんていうことが許されるわけがないです。でもやりますね。岸田さんは、国会で決めなくていいって言っている。岸田内閣が閣議決定すればそれで国葬をやりますよ。何億円使うのかわかりません。2億円とか3億円とか。しかし金の問題だけじゃないです。いま国葬をやりますか。安倍さんがやってきたあの仕事をチャラにするんですか、水に流すんですか。そういう方向に行こうとしているのに、いまだに立憲民主党はちゃんとした態度を取らない。さいわい共産党と社民党とれいわ新撰組はこの国葬に反対だという態度をはっきり出してくれた。これはありがたいです。これに、もし立憲民主党が出していれば、そう簡単に岸田さんはやれないんですよ。

民意が改憲を承認したことではない2/3確保

 レジメに「改憲派の2/3確保は民意が改憲を承認したことではない」と書きました。憲法96条に基づいて両院の総議員の2/3以上の支持があれば改憲の発議ができると憲法に書いてあります。だから2/3の議席があれば改憲の発議、提案ができるということです。しかし2/3を取ったから改憲が支持されたということとは違います。2/3を取ったということと、有権者が改憲を支持したこととは違います。いくつか理由があります。選挙が終わってからマスコミがよくやる出口調査。「何の問題を一番大事にしましたか」、「憲法」なんていうのはほとんどいないんですよ。事前にアンケート調査をやって「何を基準に投票しますか」という中では「憲法」といったのは2%。ある社は5%。100人のうち2人か5人くらいしか憲法問題で選ぶといっていない。出口調査を見てもそうです。この選挙で確かに自民党、公明党、維新の会、国民民主党は2/3を取ったけれども、それは決して憲法を変えることに対する支持ではない。それを新聞は、見出しで「改憲議席2/3を確保」と書いちゃうんですよ。あたかも改憲が決まったの?というように。全然決まっていないですよ。いつも「改憲、改憲」といっている議員たちが2/3選ばれたというだけで、多くの人たちは改憲を支持はしていない。このことを私たちは勘違いしてはいけない。

数だけ確認しておきますね。今回改憲4党で93取りました。非改選の議席と合わせると177議席に参議院はなりました。2/3は166だから11議席多かった。それを改憲派4党――いまは、そうもういっていますが、自民、公明、維新それに国民です。前回の参議院選挙までは国民民主党というのはわれわれの側、改憲反対の側だった。この3年の間に改憲派の方に移ったから改憲4党になって、この人たちが2/3を取った。だから岸田さんは、できる限り早く発議に至る取り組みを進めていくということを選挙が終わったらすぐにいっています。

ところが、自民党の候補者の演説の中で、憲法についてきちんと説明した候補者はいましたかね。たぶん、ほとんどいないですよ。憲法についてパンフレットには一番後ろの項目に4行か5行書いてあるのは間違いないです。「憲法を変える」と。しかし街頭演説であの人たちは言わないですよ。選挙で結果当選してくると、自分が支持されたんだから改憲が支持されたと言う。これはペテンですよ。野党の方は憲法で論争しようと繰り返し言ったんですよ。共産党も社民党も。立憲民主党はあまり言わなかったみたいだけど、とくに共産党、社民党は選挙が終わったら改憲を狙ってくるに違いないから、憲法について態度を明らかにしなさいとかなり明確に言ったけれども乗らなかった。だからこの選挙全体では憲法は論争になりませんでした。それでいて、終わると「憲法を変えるというのが支持された」。こんなペテンはないでしょう。これは絶対おかしいんですね。

主張を鮮明にしない戦術で高支持率の岸田自民党

それで「岸田さんって何であんなに支持率が高いんですかね」と、新聞記者なども含めていろいろな人に聞いたりしてみました。「なるほどね」と思ったのは、あの人の主張はいずれもほとんどはっきりしないんですよ。昔「言語明瞭、意味不明」っていう政治家がいたけれども、岸田さんというのはあれの二代目みたいです。言葉は非常にはっきりしているけれども、自公政権が政権を取ったら何をやるのかということを有権者にはっきりさせない。有権者から見ると「言語明瞭、意味不明」だけれども、「言語明瞭」というのはわかりやすくていいんですよね。なにかはっきり言っているような。前の人たちがいい加減だったから、それから見ると岸田さんはなかなかよく見える。すごくマッチョな総理大臣が2人続いたでしょ。あれから見ると岸田さんは何となく「これもいいかな」と。要するに中味があまりないんですよ。それでいつの間にか岸田さんに対する支持率は50何%にずっと止まっている。おかしな話で、岸田さんの支持率は落ちないですよね。

あの人はご存じのように伝統的な宏池会ですね。池田勇人からずっと来る歴代の自民党の中の保守リベラルに属する方で、安倍さんとかそういうのとは違います。ところが今回は岸田さんが考えていることは、伝統的な、自民党の中の国家主義とか、そういうものに非常に影響を受けた、安倍さんに象徴されるような影響です。

総裁選の争いの中で第4派閥ですから自民党の中でほとんど力のない派閥で、そこが総裁になるというのは大変です。結局第1派閥の安倍派と取引をすることによって総理大臣にさせてもらった。この過程で彼の政治主張は大きく変わって、安倍さんとの取引の中で改憲派に身も心も売ってしまったような状態になってしまった。安倍さんは、2020年9月の辞任の演説で「敵基地攻撃能力を持つような日本になれ」と、わざわざ後の総理大臣に言い残していった。これを真面目に実行しようとしているのが岸田さんですよ。こうしないと自分の地位を維持できないわけです。マスコミはおもしろがって書きますから、安倍さんが亡くなったら安倍派・清和会はどうなるんだろうと言っています。もしかしたら分裂ということはありますよ。もしかしたら岸田さんはそれを待っているかもしれない。これから合従連衡がいろいろ出てくると思いますけれども、いま岸田さんが考えていることは本当に並大抵のことではない。

戦争と改憲・大軍拡の方向に曲がった岸田政権

私はこの選挙、大きな曲がり角になったと思います。ほぼすでに曲がっちゃったというか。この曲がったものをもう一回戻すのは大変ですよね。これからどうしていくのかという大きな問題が私たちの目の前にあるんだと思っています。

レジメに「ウクライナ戦争と安倍襲撃・殺害事件の影響」これが「岸田政権にとっては僥倖」だったと書きました。岸田改憲は、その次に書いた「改憲・大軍拡か、アジアと日本の平和か」、「戦争か平和か」どっちを選ぶのかというところで、明らかに戦争の方に曲がった。「改憲・大軍拡」の方に曲がった。これは大変な事態です。もうすでにそこに日本がいるわけです。ウクライナ戦争は2月24日から始まりましたから、まもなく5か月になる。誰が予想していたよりもたぶん長く続いている。あの悲惨な戦争が5か月近くも続いている中で、急速に世界が分化し分裂化している。日本はその一方に公然と立場を明らかにしている。

最近はNATOとまで一緒に会議をやるようなところまでいきました。NATOというのは軍事同盟です。NATOの首脳会議に日本の首相が参加する。どういうことですか。なかったですよ、こういうの。若い人がいたら勘違いしないでください。ああいう会議に日本の首相が行くのは当たり前じゃないんです。私は反対ですけれども、日本で軍事同盟は、一応法律的に許されていたのはアメリカとの関係だけです。ところが最近では、日本とフランスでも、日本とイギリスでも、日本とそのほかの国々でも、お互いに軍事協力を積極的にやるなんていうのが当たり前になった。新聞でもそんなに悪いこと、大変なことだと書かなくなった。これはもう曲がっちゃったからなんです。こんなことはありえないことだったのに、日本はほかの軍事同盟と協力をする。それどころではないですよ。日本のまわり、外国の軍艦と自衛隊が共同訓練をしょっちゅうやっている。小さな、せいぜいベタ記事で10行くらいにしかならない。「南シナ海で日本の自衛隊とイギリスとオーストラリアで合同訓練をやりました」とか。アメリカとだけではないんですね。

こんな時代にいつからなったのか、誰が許しているのか。そして新聞に大きく書かれるのは、津軽海峡をロシアと中国の軍艦が通ったとか、日本のまわりをロシアと中国の軍艦が一周した情報です。私はデータを取って計算したことはないけれども、たぶんロシアと中国の軍艦が日本のまわりを動くのの10倍以上くらいは、自衛隊とどこかの外国との軍事訓練をやっているはずです。これは、どこかの国のまわりまで行ってやるわけです。中国とか朝鮮とかのまわりまで行ってやっている。そういうことはもうあまりメディアには書かれなくなった。何となくやって当たり前という状態になってしまった。いまこういう状態になっていることは非常に大きな問題だと思います。

私はロシアのウクライナ侵略戦争に絶対反対です。はっきりしているのは、ロシアとウクライナの国境を軍隊が越えたのはロシアです。ウクライナは、いまロシアに攻めて行っていません。これをウクライナが過去にいろいろな問題があったり、ゼレンスキーも含めていろいろな良くない人だよという人はいっぱいいます。昔の資料を持ち出して、ゼレンスキーは国内でこんなに悪いことをやっていると並べ立てる。だからロシアのことだけ批判するのは良くないという。これは違います。ゼレンスキーが悪かろうが良かろうが、あの国境を越えて人の国に攻め入って国連憲章に違反した戦争を始めたのはロシアなんです。だからゼレンスキーを批判するなら、一回国境から引き揚げて、その上で、外交で堂々とゼレンスキーを批判したらいいじゃないですか。

これは市民運動の中にも結構あるんですね。ちょっと勉強した人にこういう人が多いからすごく困ります。あれこれあれこれ理屈を言って「ロシアもゼレンスキーも悪い」。確かにゼレンスキーだって酷いですよね。16歳から60歳の男性はみんな国境から出ちゃいけないと言う。そんな強制をして戦争をやるなんて絶対おかしいですよ。だけど、これだからロシアはそんなに悪くないとか、ゼレンスキーが悪いと言っては済まないです。まず原因を解決して、ロシアは撤退し、引き揚げてもらう、そこからしかこの戦争は解決しません。

15年戦争の歴史から獲得した憲法9条

実は同じことをかつて日本はやったんです。満州国というのをつくって、もうすぐ9.18記念日がきます。柳条湖事件をやって満州国をそのあとでっち上げて、満州国は中国じゃないということで中国から切り離す。そこを足場にして1937年7月7日には「7.7事件(慮溝橋事件)」で対中国全面戦争に入っていった。同じじゃないですか。満州国をでっち上げたのと、いまドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国、これは満州国みたいなものですよ。そういう国をつくって、独立国であると言って、この独立国から支援を頼まれたからわれわれは行くんだという。

満州国もそうですよね。そして五族協和とか言って、中国をめちゃめちゃにした戦争をやった。憲法9条というのは、あの戦争の結果生まれてきた憲法9条なんです。ああいう人の国を侵略することは二度とやりません、そういうためにできた憲法9条ですよね。いまのウクライナを見ていると本当にそっくりだなと思います。そのことをはっきりさせないで、せっかく生まれた憲法9条を岸田内閣は壊そうとしている。これは本末転倒もいいところだと私は思います。

あの15年戦争の結果、憲法9条が生まれ、そのあと70数年にわたって本当に幸いにも、日本の軍隊は外国で人をまだ殺していないんですね。心配したときは何回もありました。でもまだ日本の軍隊の鉄砲で直接殺してはいない。それから外国の軍隊にも、日本の軍隊は直接銃で殺されてはいない。憲法9条がなかったらベトナム戦争にも行ったんですね、韓国は行ったんだから。韓国は行って大変に悲惨な戦争をしている。アメリカからベトナムに行けと言われたときに、日本には憲法9条があって野党が騒ぐし、国民も納得しないから難しいとアメリカに即OKと言わなかった。イラク戦争のときにも、もたもたする理由に憲法9条がなったんですね。その当時の日本のリーダーたちが本当にそう思ったかどうかは別にして、憲法9条はそういう役割をしてきた。

ところが、私たちが街頭でいろいろ宣伝すると右翼がなんと言うか。「お前ら、憲法9条を持ってウクライナに行ってロシアの前に立ってみろ。憲法9条で守れるならやってみろ」、「九条の会?へー、たいしたもんだ。九条の会みんな行ってウクライナの戦争を止めてこい」、「9条なんて何の役にも立たないだろう」と。

憲法9条の役割は、日本が再び侵略国にならない。日本が再びアジアに攻めていかない。そして憲法9条の平和の理念がどんなに大事かということを、世界の人たちに知らせていく。決して憲法9条は「盾」ではありませんから、これで鉄砲の弾を止めるものではないですよね。しかしそれはあの満州国のでっち上げとか、そういう歴史の中から日本で憲法9条を獲得してきた、すごく大事な歴史があったと思うんですね。

戦争する国づくり=自民党・国家安全保障提言

 日本は曲がり角を曲がった。明らかに曲がった端緒にいます。この秋から日本では防衛3文書が書き換えられます。いままでの防衛3文書と、岸田内閣のもとでやられる防衛3文書は大きく違ってきます。これがどう書き換えられていくのか。自民党の政調の中に安全保障調査会があります。小野寺五典という、昔防衛大臣をやって、辞めたあともずっと自民党の中で軍事問題をやってきた人です。この人が中心になって、4月に岸田内閣に提言を出しました。「新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言~より深刻化する国際情勢下におけるわが国及び国際社会の平和と安全を確保するための防衛力の抜本的強化の実現に向けて~」という15~16ページある提言です。どういう中味なのか、今までだと防衛大綱とか中期防とか、耳慣れた言葉ですが、この名称も変えます。

一番上にあるのが「国家安全保障戦略」です。そして昔の防衛大綱が「国家防衛戦略」、中期防というのが「防衛力整備計画」です。「国家安全保障戦略」は国の軍事方針全般について、国全体の戦略を書く文書で、大きく言ってこの国はこれからどういう軍事戦略、軍事方針を持っていくのかについて書きます。それから「国家防衛戦略」は、だいたい10年単位くらいで、その戦略に基づいて日本はどういう軍事方針を持っていくかという文書です。さらに当面5年くらいは具体的には何をやるか、いろいろな武器をどのくらい買うかということまで含めているのが「防衛力整備計画」です。これらの中味はとっくに報告されていますから、岸田内閣は「よし、これで行きましょう」、と年内に政府として方針を決めると言っています。

いくつか重要な問題だけ言います。まず、日本はこれからどういう情勢認識でいくか。中国、ロシア、北朝鮮、それぞれに関して分けて書いてあります。「中国の軍事動向などは、わが国を含む地域と国際社会の安全保障上の重大な脅威となってきている」。「北朝鮮は核兵器とその運搬手段であるミサイル関連技術の開発に注力してきており、わが国の安全保障との関連で、より重大かつ差し迫った脅威である」。「ロシアによるウクライナ侵略は、人類が築き上げてきた武力の行使の禁止、法の支配、人権の尊重といった国際秩序の根幹を揺るがす暴挙であり、決して許されない。安全保障上の現実的な脅威となっている」。そういう情勢認識です。ですからこの3つは日本の敵、日本が戦う相手として中国、北朝鮮、ロシアを挙げて、それらはいまこういうことをやっていると書いてあります。

これらと戦っていく準備をするために「防衛関係費」のところがどう書いてあるのか。「かつてなく厳しい安全保障環境を踏まえれば、抑止・対処を実現するため、防衛力の抜本的な強化は一刻の猶予も許されない。自国防衛の国家意思を示す大きな指標となるものが防衛関係費である」。要するに軍事費をどのくらい使うのかというのが大きな指標になる。「必要な経費を積み上げ、納税者である国民に対して丁寧に説明し、理解を得ていかなければならない」。大きな防衛費をつくる、そのために国民の理解を得てもらうような、そういう政策をとっていく。「NATO諸国の国防予算の対GDP比目標(2%以上)も念頭に、わが国としても、5年以内に防衛力を抜本的に強化するために必要な予算水準の達成を目指すこととする」。日本もこれを念頭に置いてNATOと同じくらいの割合にしよう、それが今回書いてあります。

ところが同じ2%といってもその規模が違うんですね。経済規模がどのくらい、GDPがどのくらいあるかによって、2%の額が全然違ってきます。日本がGDP比2%、NATO並みにしたら世界第3位の軍事大国になる。NATO各国をとっくに追い越します。ドイツとかフランスとか、ああいう国々よりすっと日本は上に行ってしまう。1位はアメリカで、2位は中国です。日本はこの結果世界第3位の軍事費大国になる。これは自民党の提言の中でそういうふうに言っています。来年あるいは来年の半ばくらいまでに、6兆5000億円くらいにする。これは安倍さんが生きているころに言っていました。いま5兆なんぼくらいですね。そうやってできるだけ早く5年のうちに10数兆円のところまでにする。

もうひとつは、「反撃能力」ということを言っています。「相手領域内への打撃についてはこれまで米国に依存してきた」。これは日米安保条約でよく言われてきたんですね。アメリカは「矛」、日本は「盾」だ。「しかし、ミサイル技術の急速な変化・進化により迎撃は困難となってきており、迎撃のみではわが国を防衛しきれない恐れがある」。もう守れない可能性がある。盾で守るだけではもう不可能だ。「専守防衛の考え方の下で・・・」――ここが日本語で全然理解できないわけです。「専守防衛の考え方の下で、弾道ミサイル攻撃を含むわが国への武力攻撃に対する反撃能力を保有し」、――全然意味不明です。「反撃能力の対象範囲は、相手国のミサイル基地に限定されるものではなく、相手国の指揮統制機能等も含むものとする。このため、スタンド・オフ防衛能力」。「スタンド・オフ」の意味は「侵攻する相手方の艦艇などに対して、脅威圏外の離れた位置から対処を行えるように、相手方のミサイルがとんでこない距離の、もっと遠くのところから日本のミサイルを撃って相手をやっつける」。自分だけは安全で相手だけを攻撃する。そのスタンド・オフ能力を持つと言っています。

それから「衛星コンステレーション・無人機等を強化する」。この無人機というのもスタンド・オフの考え方と非常に似ています。自衛隊員が乗らないで無人機を飛ばして相手の基地を攻撃する。そういう能力を持つように日本のこれまでの防衛政策を変えると言っています。

産・軍・学複合体の育成

それから「防衛生産・技術基盤、研究開発」。私はここがすごく大事だと思うんです。「『防衛力そのもの』の担い手たる防衛産業が適正な利益を継続的に確保することは必要不可欠である」。「力強く持続可能な防衛産業を構築する」と書いています。日本の防衛産業は弱いんです。そんなに儲からないんですね。三菱にしてもほかの大きな企業にしても防衛産業を持っていて、それなりには儲けていますよ、自衛隊が必ず買ってくれるんだからこんな確実な商品はなくて儲かりますが、外国と比べると儲からない。いろいろな理由があって防衛産業がそんなに育たなかった。だから日本ではまともな軍用機ひとつつくれない。軍用機ではないですけれども、三菱重工はスペースジェットという旅客機を日本独自につくろうとずっとやってきて、ほぼ断念しました。日本の技術はいまそういうところです。

これではだめだ。だから今度出した小野寺さんの提言ではここを変える。金をつぎ込んで、アメリカのように産軍学、学校、研究者までを一体にして、金をジャブジャブつぎ込んで強くする方針を出した。防衛産業はすごく太っていくと思います。それだけじゃなく日本で自前の軍事産業をどんどん興していく。トランプさんには散々爆買いを強要された。こんなことを続けていちゃまずいと思っている可能性があります。日本が自前の軍需産業を興していくという方針です。これが今度の提言の中に出ている。世界第3位くらいの金をつぎ込まなきゃできない。日本はすごく変わっていくんだと思うんですね。

それから「戦い方の変化」についても、いろいろ書いてあります。こんな長い文書ですから、「こんなことも言っている」ということがいっぱいありますから、ぜひ読んでもらいたいと思います。「そういう日本になっていいんですか」ということが、私たちと、岸田さんの政府に対するたたかいだと思います。日本をそんな国にしちゃいけない。単に戦争のできる国なんてものじゃなくて、戦争を本当にやる国に日本はこのままでいくとなってきます。

次の市民憲法講座では映画をやります。沖縄周辺の南西諸島で、日本の自衛隊基地のミサイル基地建設が急速に進んでいます。このことを記録して、反対運動を撮影してきた湯本さんにやってもらいます。いまアメリカや日本の戦争のやり方は変わっています。嘉手納とか横須賀とかに巨大な基地をつくって相手を脅かすような、そういう戦争のやり方ではなくなります。基地があったら標的ですから。さきほどの提言で、「相手の基地を攻撃するときに、ミサイル基地を叩くだけではなくて、その司令部まで叩く」と書いてある。日本はこれからそういう戦争をやるといっています。横須賀や横田やあるいは市ヶ谷、そういう司令部だけではなく、これに当然永田町が入ると思います。首相官邸も含めて攻撃対象になるという、そういう戦争をやるということを、小野寺さんの提言が言っている。

日米同盟の強化と拡大抑止

死んだ安倍さんは、「台湾有事」ということを繰り返し言っていました。ウクライナで戦争があったから、中国が台湾に攻めてきて台湾で戦争が起きることは十分考えられるだろう。ロシアがやったんだから中国もやるだろう。そのときに日本はどうするんだ。安倍さんがこの間ずっと言っていたことです。これに対する基本的な考え方は、中国と台湾で戦争があっても日本はこれに介入してはいけないんです。これは中国と台湾の問題です。中国と台湾の問題は内政問題だということを、アメリカも中国も日本も認めている。今日の資料にいくつか関連する外交文書をつけておきました。たとえ中国と台湾が戦争になったとしても、自衛隊が台湾を手伝うとか、そういうことはあってはならないということが日本の国是になっています。国の基本的な方針です。1972年からずっと日本はそういう方針を確認してきました。

実はアメリカもそうです。バイデンは、いろいろなところで中国が台湾に攻めてきたらどうするかと聞かれると、格好をつけて「アメリカは台湾を防衛する」といいます。けれども、そのあとアメリカ本国の国務省が慌てて「いやいやそんなことはありません。いままでの方針通りです。バイデンさんが言ったのは誤解です。そんなことを言わないでください」って取り消すんですね。いわないと格好がつかないから、中国が攻めてきたらアメリカは台湾を防衛するとバイデンは言います。しかしそれはできない。やっちゃいけないことだというのをアメリカの国務省も国防省も知っている。だからああいう口を滑らせたときに、後で「いや違う、違う」と弁解します。そういうことに中国と台湾の問題はなっています。

だから台湾には米軍基地はないんです。中国と台湾の関係を考えたら、日本のように、沖縄のように、たくさん基地があっても良さそうでしょう。ありません。もし安倍さんが言っていた台湾有事が起きたら、アメリカはどこから出撃して中国と戦うんですか。それは南西諸島以外ないんですよ。グアムからというのもあると思いますけれども、やっぱりすぐそばは南西諸島です。ここに140万の県民がいるんですよ。ある国会議員が、もしそうだというのなら、この140万の県民の避難計画はどうなっているのかという質問をしました。ないんです。戦争が始まったら一緒に死んでくださいというようなものですよ。これは2011年からの福島原発事故の中で明らかになったように、原発をいろいろなところにつくっていますけれども、そこの住民の避難計画はないんです。そして原発が爆発したら、そのまま放っておく状態になるわけです。

こういうことを平気で政府が言っちゃいけないですよ。1人でも140万人でも同じですけれども、政府がそういうことを認めていいことではない。避難計画すらない中で、台湾有事が起きたらということで、今度やる映画のようにどんどんミサイル基地をつくっていく。日本の自衛隊基地は米軍が自由に使うことになっていますから、ここから出撃していく。大きな基地から出て行って戦うのではなくて、てんでんばらばらのところにロケット基地を置いて、そこから攻撃をするというのがいまの戦争です。一発でやられないようにいろいろな島にミサイル基地を配備してそこで戦う、そういう戦争になっていくわけです。いまアメリカが考えている戦争はそれです。それをやろうというわけですから、大変な時代です。

こんな戦争が始まったら南西諸島だけで済むわけがありません。横須賀はどうなるんですか、横田はどうなるんですか、岩国は三沢はどうなるんですか。日本の狭い国土の中に米軍基地が次々にあって、台湾有事となったときに当然ながらここが戦場になります。日本から相手の司令部機能を攻撃するということを認めたわけです。ロケットを撃つ基地を攻撃するだけではなくて、その司令部がある機能を叩くというわけです。たぶん北京とか上海の、そういう主だった機能を叩くでしょう。向こうだって当然反撃しますよ。反撃してきたら、南西諸島だけで止めておきましょうかなんて話になりませんよ。

そういうことを想定して、今度の提言は書かれているという問題です。でも大事なことは、こういうことをどうやって防ぐかということです。こういう戦争を起こさないということがすごく大事なことです。いま日本の政府は戦争を想定している。これを止めなきゃいけないということがこれからの私たちの非常に大きな課題だと思います。

今後、改憲はどうなるか

今度の防衛大綱とか中期防がどんどん進んでいくと、いつの間にか日本が世界第3位の軍事大国になるような状態で、この5年くらいの間でやると言っています。この障害になるのは憲法です。日本国憲法はそういうことを認めていないですから、いくらいまの政府が図太く考えても、憲法を今のままにしてこういう戦争の準備をするというのはほとんど不可能だと思います。誰が見ても憲法違反ですから。そうすると、いまのようなことをやってもよろしいという憲法に変える必要がある。戦争の準備をどんどん先に進めておいて、憲法はあとからそれに合わせて憲法違反ではない状態にしていく。いま改憲の問題がいろいろなかたちで問題になってきているのはそういうことだと思います。

憲法96条によれば、参議院も衆議院も全体の総議員の2/3の賛成があれば憲法を変える提案することができる。自民党は憲法改正のための4項目案を持っています。自衛隊それから緊急事態条項、教育、選挙での合区問題です。この教育と合区問題は、憲法を変えなきゃどうにもならないなんて話ではありません。いくらかまともな憲法問題なのは、やっぱり自衛隊を9条に書き込むということと、緊急事態条項を憲法に書き込む項目です。ですから本格的な憲法問題としては、このふたつを処理したいというのが自民党の狙いだと思います。

ただ、なぜわざわざ自民党は4項目にこだわっているのかということです。私はもしかしたら、この方が支持されやすい、最初から緊急事態条項とか自衛隊の問題ではなくて、教育と合区などということから憲法を争うということも万が一の問題としてあり得る。たぶんそういうためにこの4つという、不均衡な項目を挙げている可能性があるなと思いますから、なかなか油断できない。要するに9条から来ないよと言っている意味ではないんですけれども、いろいろな考え方があり得ます。

「国民投票にそなえる」前にやるべきこと

実際に改憲というのはどういうことになるのかということを一応考えておこうと思います。
総務省が解説を書いています。憲法審査会が過半数で可決し両院の本会議で総議員の2/3以上が賛成すれば、その上で衆議院で賛成したらそのあと参議院にかける。どちらも2/3を取ったら可決になって、ここで新しく改正案を国民に発議して、発議後60日から180日以内に国民投票が行われる。この国民投票で改正案に過半数が賛成したら改憲になります。改憲の項目がいくつかに分かれるときには項目ごとにそれぞれ国民投票をやるということです。

自民党はもう少しわかりやすく言っています。「衆参両院憲法審査会で提案・発議を行い、国民が主体的に意思表示をする国民投票を実施し、改正を早期に実現する」。衆参両院の憲法審査会というのは、いま衆議院は50人、参議院は45人の憲法審査会の委員がいます。そのうちの圧倒的多数は自民党です。50人の憲法審査会で29人が自民党です。そのほかに公明党があって維新の会があってということになりますから、改憲に賛成する人がこの憲法審査会では圧倒的に多数派です。ちなみにこの前ある問題で、憲法審査会で裁決をやりました。そうしたら反対した人は1人です。それ以外は全部賛成だった。49対1だったか、48対1か、そこはよく見ていなかったけれども、反対した人だけは見ました。共産党の赤嶺さんは反対した。いくらがんばって反対だといっても採決し、終わりです。衆議院憲法審査会で改憲案をつくるというのは、やる気になれば、いまのままだったら圧倒的にできます。

参議院でもそういう割合になると思います。参議院ではいくらか共産党の委員の人数がちょっと多かった。3人だったですかね。福島みずほさんのような人もいて、参議院は反対派が何人かいます。でもたった何人かであって、採決すればすぐにすぐ負けます。そういう割合の憲法審査会で、改憲の原案を作る。憲法審査会で採決されれば、そのあと国会の本会議にかかって、本会議で2/3の賛成が得られれば国民投票です。憲法審査会の裁決は過半数であって、2/3なくていいんです。それを本会議にかけたときは2/3で、それが法律で決まっているやり方です。

ただ、いまこういう国民投票とか憲法審査会での裁決がすぐ始まるわけではありません。いくつか問題があります。いま市民運動の仲間の中には「大変だ、今度取られてしまったから国民投票について勉強して国民投票に対応するためにがんばらなきゃ」という人がいます。「国民投票怖い、怖い」とか、「何とかこれを阻止するようにやろう」とか。

ところが国民投票というのはそう簡単にできません。いろいろな問題があります。まず改憲4党がまとまっていない。これをまとめて案をつくる仕事が大変です。単に裏で話し合うだけではなくて、どういう妥協をするのか、市民が政党を監視しているもとで、この4党の統一した案をつくるというのは大変です。いま公明党は、一応建て前として憲法9条改正に賛成はできないんです。維新の会は憲法9条改憲に賛成という案を、ついこの前の国会で出しました。維新の会と自民党はほぼ同じ案を憲法9条に関して持っています。国民民主党になるともっとわけがわからない。国民民主党はこの前の選挙までは、改憲に反対して私たち市民連合と協定を結んでいたんですから。それを変えてくるには、やっぱり多少時間がないと格好がつかないんでしょうね。どういう理屈をつけて自分達が変わったかをいわなきゃいけないですから。それでいま国民民主党は9条についての明確な考え方はいっていません。だから9条について4党で2/3だといっても4党の案をつくるのが大変です。その間私たちはいっぱい騒ぎましょう。「おかしい」「こことここが矛盾している」「こんなのは無理だ」。そういう大騒ぎの中で4党が妥協案をつくれるかどうかというのがひとつです。

それから緊急事態条項でも、これも各党は違います。これで一番先頭を走っているのは維新の会です。自民党よりももっと過激です。この連中は「緊急事態条項、緊急事態条項」って一生懸命言っている。自民党がそれにだいたい歩調を合わせようと思っている。ところが緊急事態条項で私有財産の制限とかそういう問題までいろいろやることには、公明党はまたぐじぐじ言っています。創価学会の人たちに格好つけないといけないからですね。自分達のところはがんばった、政権のブレーキ役だ、そういう役割を果たしているから公明党に入れるのはすごく大事だ、と言わなければいけない。自民党や維新の会が言うように即同じことをやってはまずいので、いまあれこれと抵抗しています。国民民主党はだいたいこれでいいという方向に行っています。緊急事態条項でこの4つがすぐにまとまるというのは、これも大変です。

だから憲法改正案がどのくらいの時間を経ってできるか。この時間をできるだけ引き延ばす。さあ国民投票だと言う前に、どんなにこれらの案が酷い案なのかということを暴露して世論をつくって、公明党でも国民民主党でもそう簡単に自民党に同調できないような状態をつくる。自民党自身がそういうことをやりにくい状態をつくる課題が非常に大きいんです。

勝てそうなとき以外に国民投票をやるとは言わない

もうひとつ「さあ国民投票だ」という話の間違いは、国民投票を自民党がやろうと決めているときに、よく「国論が二分される」と言うでしょ、国論が二分されているときに改憲の提案ができると思いますか。勝つか負けるかわからないけれどもやってみよう、と岸田さんは思いますか。これはありえないんです。われわれは提案はできません。国民投票の提案をするのは自民党、公明党の改憲派です。この連中が考えているのは、勝てそうなとき以外に国民投票をやると言わない。提案するのはあの人たちですから、時間をいくら延ばしてもいいんです。だから勝てそうじゃない状態を私たちがつくったら、やれないですよ。国民投票だと慌てる前に、国民投票をやらせない状態、とくに自民党が勝てると思えるような状態をつくらない。もしかしたら負けそうだぞというところをつくったらわれわれの勝ちですよ。

それからもうひとつあります。法律です。改憲手続き法-国民投票法という法律です。これがまだできあがっていません。去年の暮れにあった国会で、最後に立憲民主党がその法案に賛成しちゃったんです。私たちはすごく腹を立てたんですね。反対しようとずっと話し合ってきたのに最後に賛成しちゃう。賛成したときに、立憲民主党なりにかたちはつけたんです。ただ単に自民党にやられたわけじゃなくて、附則4条をつけた。附則4条は、コマーシャルの問題とか、そういうのでこれをきちんとやらないと投票の公正・公平が保障されないから、国民投票をするときにはここをちゃんと直し、とくにこの3年以内にこの法律の弱点を変えようと決めた。ところが自民党はいまだにこれをやっていない。だから立憲民主党はここでがんばってもらいたいですね。附則4条はどうしたと。

今回の憲法審査会の中で、立憲民主党の発言の場になると何回か言いました。委員の人たちが附則4条の問題でと言っていたけれども、自民党はまったく無視なんですね。言っても右から左に抜けていく。しかしこれは市民運動が同調して、おかしいじゃないか、附則4条は約束ではないか。こんなあやふやな法律のもとで国民投票はやれないよという世論を私たちがつくっていくことです。「国民投票をやられたら仕方がない」ではなくて、いまの改憲手続き法のもとではやってはいけないという世論をつくることがすごく大事なことです。などなどをもって、簡単に2/3を取られたから、これで国民投票だ、さあ国民投票ってどうやるんだろうなんて、そういう研究に入っていく時期ではありません。

だからここは慌てて「さあ国民投票だ」と行く前に世論をつくることです。世論にもう一回働きかけて9条を変えさせちゃいけない、緊急事態条項をつくらせちゃいけないという世論を一生懸命つくることです。それが勝負の分かれ目だと私は思うんですね。これがすごく大事なことです。もちろん署名というのはあると思います。署名もやる、デモもやる、スタンディングもやる、あらゆる方法をやって9条を変えさせない世論を、私たちがこれからどれだけつくれるか、これが勝負だと思います。

アジアの平和を積極的につくり出す

日本の軍事方針が転換して、アメリカと一緒になって中国や朝鮮と戦争をやる準備をしている。こういう準備をさせちゃいけない。戦争させちゃいけない。アジアには体制が違っても、国と国の仕組みが違っても、ASEANというものがありますね、いま10ヶ国入っています。これはいわゆる「反共軍事同盟」だった。5ヶ国くらいのときは、その当時の社会主義国と戦うためにASEAN5ヶ国は結束して戦いましょうという軍事同盟だった。それをアメリカが指導していた。

いまASEANは違っていますよね。そういうことをいつまでも続けていてはいけない。今まで反対していた相手の国々もASEANに入ってきたんです。10ヶ国でASEANをつくって、戦争をやる必要はなくなった。いまASEANはいろいろな平和的に生きていく工夫をやっています。国も違うし体制も違うんですよ。指導者もとんでもない指導者はいますよね。麻薬やったらばんばんって撃って殺しちゃう指導者がいたり、いろいろな人がいて、ひとつひとつの国を見れば大変なす。しかしASEAN10ヶ国は戦争をやらない、この国が平和的に共存していくんだという、そういう体制をつくっている。もしアジア全体でこういう体制をつくることができたら戦争にならない。国民投票をやって憲法を変えて、なんていうところにいかなくて済む、そういう状態をつくれると思うんです。

日本と中国の間でも1972年から4つの大きな条約や協定をつくっています。この条約を読むと「ああ、こういうふうになったら体制が違っても一緒に生きていけるな。戦争しなくていいな」と思える条約で、日本の外務省のホームページにもきちんと載っています。そして先日、日本の憲法改正問題がどんどん進んでいることを中国政府が知って、「歴史の教訓を真摯にくみ取るよう望む」という声明を中国外交部が出しました。以下に紹介すると、――外交部の汪文斌報道官は11日の定例記者会見で、「日本が歴史の教訓を真摯(しんし)にくみ取り、平和発展の道を歩むことを望んでいる」と強調しました。報道によりますと、日本の与党連合は参議院選挙に勝利し、改憲勢力は3分の2を超える議席を獲得しました。これに関する質問に対し、汪報道官は「中国は日本と共に、中日間の4つの政治文書で確立された諸原則に基づき、両国の善隣友好協力関係を引き続き発展させていきたい。歴史的原因により、日本の憲法改正問題は国際社会とアジアの隣国から高い関心を集めている。日本側が歴史の教訓を真摯にくみ取り、平和発展の道を歩み続け、実際の行動でアジアの隣国と国際社会の信頼を得るよう望んでいる」と述べました。――

過去に結んだ4つの文書に沿って日本政府が政治をやってくれることを望んでいます、ということは中国もこれを守るということです。条約ですから片方に「守れ、守れ」というだけではありません。片方に「守れ」というときには「自分らも守ります」ということです。本当に中国がこの文書に基づいて日本との外交をやってくるなら、こんなにいいことはないと思うような文書です。それこそASEANみたいになるじゃないか。台湾有事なんていうことを心配しなくていいじゃないかという、そういう文書です。

これができなくなったのはなぜですか。石原慎太郎がこれをぶっ壊したんです。こういう日中の条約があって、当時日本と中国の民衆の関係は非常に仲が良かった。日本人が好きだという中国人は7~8割、中国人が好きだという日本人が7~8割いた。いまは考えられないでしょ。その当時私もアンケートを取られたら、中国人を好きだと丸をつけたと思うんですよ。この4文書で良好関係を築いているときには、そういう時代があった。ところが石原慎太郎は、日中、日朝、これらが仲良くしているのが大嫌いなんですね。あの人が演説するごとに「支那が」というわけでしょ。相手がそれは蔑称だから使わないでくださいと言っているのに、わざわざ使う。もう完全に喧嘩を売っているじゃないですか。そして、東京都のお金で尖閣諸島を都有化するといった。都有化されると大変だということで、あわてて当時の民主党の野田さんが、またこれもどじなことをやって国有化した。中国とずっと話し合っていた最中に、一方的に日本の方から都有化、国有化を実行してしまった。それは怒りますよ。それからどんどんどんどん関係が悪くなって、この4文書があるのにこうなった。

平壌宣言というのもそうなんです。「9.17」がまもなくやってきます。この日に集会があるので、ぜひその集会に出てほしいと思います。当時の小泉首相と朝鮮の指導者金正日が声明を出している。いまそれが活かされていない。これを活かしていく状態をつくれば、アジアの緊張は大きく改善されていく。そういう道をわたしたちがこれから選んでいけるかどうかという話になると思います。

カルトとたたかい、平和を大事にする土壌に依拠

 最後に市民運動に関連することを少しだけ付け加えておきたいことがあります。この前の統一協会・原理のことでいまカルトが非常に話題になっています。このカルトというのはこの社会のいろいろなところに、陰に陽に影響を与えていると思うんですね。このカルトとのたたかいも決して軽視してはいけないと思っていることがあります。例えば、今度の選挙中に私の団地にたくさんビラが入ってきました。その中に「緊急事態条項に反対しましょう」というビラがありました。「おお、こういう人がいるんだ」と思って見たら、大変なことが書いてあるんです。「緊急事態条項が通ったら身体の中にチップが埋め込まれて人間が支配される」と書いてあるんですよ。

ついこの前まではやっていたのは、選挙の投票というのはみんな操られている。あの投票用紙は全部でたらめで、大量に書き換えられる。ムサシという会社がやる。だから鉛筆で書かせて、そのあと名前を書き換えるからああいう投票結果になる。こういうのを一生懸命真面目に説明する人がいます。私はいくつかの講演会に行って、「高田さんはムサシのことを知っていますか」という質問を受けるんです。「選挙の投票用紙を書き換えて投票結果に影響を与えるのがいまの日本の選挙の仕組みだから、こんなのにだまされちゃいけません」と言います。たぶんこの人は真面目で、一生懸命考えているんです。私の答えは簡単です。「私はありえないと思いますけれども、あなたがありうると思うのなら告訴しなさい。裁判で争ってください。日本の裁判は確かにわれわれに不利な判決ばかり出す。あまり信用できない。でもそんなでたらめはやりませんよ。書き換えの問題でわれわれが訴訟を起こして弁護士をちゃんと立ててたたかって、そんなに簡単に負けることはやりませんよ」。ところがそういう人たちは、まともに裁判を1件もやっていない。やらないで、選挙はウソだ、ごまかしだ、ペテンがあるということだけ言っている。

さきほどの、緊急事態条項ができたらチップを入れて人間が支配される、という。こんなことを言っていたら、緊急事態条項に反対する連中はそんなバカなことを考えるのかと、多くの人が思いますよ。多くの人から見て「あなたたちは私と頭の中が違うね」「もう別の人」といわれてしまう。運動をやるなら真正面から堂々と、緊急事態条項とたたかわなければいけないと思うんです。ところが緊急事態条項反対だという人の中にそういう人がいるから難しい。言っていると喧嘩になったりします。これはやめてくださいと私は本当に思いますね。カルトがいろいろなかたちで動いているときに、われわれの運動もそのカルトの一種に見られていくような、こんなことはやめましょう。

私たちの市民運動は、いま慌てて「さあ国民投票だ」というのではなくて、正面から自民党、公明党がどんなに大変なことをやろうとしているかを明らかにする。このまま戦争する国にして本当にいいのかどうか、徹底して暴露して多くの人たちにもう一回ここを訴えていく、そういう仕事をやりたいと思います。私はこの運動は展望があると思っています。戦後の70数年間この日本国憲法のもとで多くの人たちの意識の中に、やっぱり平和は大事だ、戦争はだめだ、そう簡単に9条を変えさせちゃ困る。こういう大変な時代だから軍事は必要だといわれると、そうかなと思うけれども、そうじゃない方向があるのかもしれない。それを聞く土壌はこの日本に非常に広汎にあります。私たちはそこに依拠して運動をやっていかなきゃいけないと思います。

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