私と憲法255号(2022年7月25日号)


岸田政権による軍備拡大と改憲の道を阻もう
安倍氏「国葬」の政治利用反対

2022参院選の結果は改憲派4政党(自民・公明・維新・国民民主)で非改選議席も併せて参議院の総議員の3分の2以上を占める結果となり、両院で改憲発議に必要な議員数は整った。一方、立憲野党は立憲民主党も、共産党も議席を減らした。れいわは3議席を獲得し、社民党は1議席を維持した。

ただし、自民党が議席を増やしたのは1人区の圧勝をはじめとする選挙区であって、比例区では1議席を失った。逆に立憲民主党が議席を失ったのは1人区など選挙区で、比例区は改選議席数を維持した。

原因ははっきりしている。
選挙前から予測されたことだが、2016年、2019年の参院選で、32の一人区すべてで「市民と野党の共同」が進み、野党の候補が1本化したときに比べて、今回は32選挙区中、11区でしか1本化できず、その11区にしても共闘の密度は薄く、極めて不十分だったことから、勝利できた選挙区が3選挙区にとどまった。一方、複数区を中心に全国政党化をめざした維新の会は東京、京都などで敗北し、その企ては失敗した。

日本の現在の選挙制度の下では、野党と市民の共闘による候補の統一を実現し、有権者に選択肢を鮮明にする以外に活路はないことが、改めて明らかになった。

加えて、投票日直前の7月8日、安倍晋三元首相が遊説の最中に、元海上自衛隊員に銃撃され死亡するという前代未聞の事件が起きた。各メディアは安倍元首相の政治上の業績をたたえ、合わせて銃撃が「民主主義への挑戦」であることを強調した。自民党は安倍氏への追悼を自らの選挙に最大限利用した。この結果、与野党が激戦を演じていた選挙区のいくつかでは自民党の候補を当選させることになった。

しかし、この事件により、「旧・統一協会」という反共カルト集団の異様な活動と自民党などの政治家の癒着ぶりが暴露され、関係のあった自民党の国会議員たちは窮地に立たされている。

安倍元首相の下で推進された悪政の数々は、安倍氏が亡くなった後でも「なかったこと」にはできない。

安倍元首相らの「戦後レジームからの脱却」などという独特の歴史修正主義史観にもとづく改憲路線の推進は異常だった。とりわけ安倍元首相が強行した2015年の安保法制(戦争法)は歴代政権が日本国憲法のもとで「国是」としてきた集団的自衛権と専守防衛などに関する原則を破壊し、日本が海外で戦争のできる国になる道へ大きく踏み出した。その結果、東アジアの国際関係は緊張した。今日では与党は「核シェアリング」「敵基地攻撃能力の保有」「軍事費の対GDP比2%」などを唱えるまでになった。

「アベノミクス」の「三本の矢」と呼ばれた経済政策の下で、政府が日本銀行を「子会社」あつかいする金融政策をすすめ、日本経済は深刻な長期不況から脱出できず、人びとが生活に苦しみ、社会の格差が拡大した。

またその過程で世界的に深刻化した新型コロナのパンデミック対策は後手後手の繰り返しで対応できないままに、多くの人びとが病に伏せ、生命の危険に追い込まれた。

そしてなによりも「アベ政治」と揶揄された森友・加計・桜を見る会問題などの「政権の私物化」と虚偽に基づく政治の質の低下と腐敗が生み出された。衆議院調査局の調査では、「桜を見る会」の前夜祭の費用補填の問題では安倍首相側が国会で事実と異なる答弁を少なくとも118回繰り返していたなど、世論の政治に対する極度の不信が生じた。

このところの報道は「死者に鞭打つな」という俗論に隠れて、あまりにも事実を歪曲している。そうした傾向が参院選の投票日を前にした報道であっただけになおさらだ。

ともあれ改憲派は改憲発議に必要な3分の2以上の議席を獲得した。しかしながら、投票日直前の安倍元首相殺害事件の発生と、それへの同情票の集中は決して有権者の改憲への支持を意味しない。くわえて今年2月のロシアによるウクライナ侵攻とその長期化は、有権者の間に「攻められたらどうする」などという安全保障への危惧を煽り立て、改憲派を有利にさせた。

「攻められたら」ではない。戦争の準備をすれば戦争がやってくる。日常から周辺諸国との間に平和・協力関係を積み重ね、緊張の緩和と、平和的共存関係を打ち立てることこそ真の安全保障だ。

バイデン米国大統領らが主張する「民主主義と専制主義のたたかい」は世界を分断し、対立させ、多極化させた。ロシアのウクライナ侵略はーロッパだけの問題にとどまらず、今日では東アジアにおける「台湾有事」の可能性や朝鮮半島の危機として語られ、改憲と軍備拡張の必要性が語られている。

さきの国会の衆議院憲法審会では会議の開催回数だけが重ねられ、改憲の雰囲気が作り出された。しかし、改憲案の中身では改憲4派の主張はばらばらだ。「9条改憲」の方針を持っていなかった維新の会はあたふたと自民党改憲案にそっくりな「9条改憲イメージ案」を発表し、9条改憲には消極的だった公明党も、北側副代表らが憲法72条、73条に自衛隊を書き込むという改憲案を唐突に語り始めた。国民民主党も9条に対する立場は明確にしきれないが、緊急事態条項改憲には積極的に賛成している。

 岸田首相は選挙後、「(改憲4項目が)喫緊の課題だ」と述べた。同党の茂木敏充幹事長は、「1年以内、2年以内にやろうということも含めて、主要政党間でスケジュール感を共有することが重要」(BSフジ)と改憲のテンポをあげる発言をした。

だが、自民党の選挙政策や選挙広報には改憲の主張がある程度掲載されたものの、参院選の現場での首相らの演説では改憲についての言及はほとんどなかった。選挙戦では改憲の論争がほとんどかみ合わなかった。

各種の世論調査をみても、投票に際しての「政策の優先度」では「憲法」はわずか2~3%であり、物価対悪・経済対策などの41・8%%に比べて極度に低い。有権者の間では改憲の要求が高まっていない。

選挙後の共同通信の世論調査では「憲法改正に前向きな「改憲勢力」が3分の2以上の議席を維持したことを踏まえ改憲を「急ぐべきだ」との回答は37.5%、「急ぐ必要はない」は58.4%だった。

しかし、選挙が終われば改憲派諸政党が「選挙で改憲が承認された」と言い張るのは目に見えている。こんな詐欺的な手法による強引な改憲が許されていい筈はない。岸田政権は安倍元首相の死を「国葬」の強行までして、彼の死を政治利用し、改憲と軍拡の道を突き進もうとしている。

全力でこの危険な企てと闘おう。野党、とりわけ立憲民主党は先の総選挙をめぐって与党やメディアなどから受けた一斉攻撃によるブレと動揺を克服し、市民と野党の共同を再組織する道に立ち戻らなくてはならない。国会の内外で共同闘争を再構築し、世論を変え、改憲と軍拡の企てを打ち破らなくてはならない。
(共同代表 高田 健)

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市民連合「声明」/2022年参議院議員選挙公示に際し平和と生活の保障か、破壊かの分岐点に立って

今回の参議院議員選挙は日本社会の明日を決定づける分岐点となります。
この選挙は長年にわたる自公連立(安倍・菅)政権を継承し、東アジアの軍事的緊張の増大とコロナ禍対策の失敗、経済政策の破綻によるインフレなどの悪政を人々に押し付け、人々の安全と生活を破壊する「翼賛国会」の道をすすむのか、それともこの悪政を転換する希望の政治への契機をつくるのかの分岐点です。

今年の通常国会では、3年以上も続いてなお出口が見えないコロナ禍に加えて、生活破壊の物価高騰が人々の生活を直撃し、社会の貧困と格差が猛烈な勢いで拡大しました。長年続いた「アベノミクス」のもとでの異次元金融緩和政策は破綻し、岸田首相がいう「新しい資本主義」とか「所得倍増」などは大企業と大金持ちは富ませても、庶民の生活の苦境と困難が急速に進行しています。いったいこの国の政治はどこの、誰に向いているのでしょうか。いまこそ、長年続いた自公政権に断を下し、有権者の一票で厳しいお灸を据えなければなりません。

折から勃発したロシアによるウクライナ侵攻に便乗し、改憲と軍備増強の合唱が繰り返されています。声高にさけばれる憲法9条の改憲や緊急事態条項の導入などの声の下で、軍事費の倍増、敵基地攻撃能力保有、核兵器の共有、「台湾有事は日本有事」などなど、従来の日本政府がとってきた「専守防衛」「平和主義」「非核3原則」など「国是」とされてきた政治の原則が相次いで壊される議論が言論界やマスメディアを覆っています。

昨年の総選挙で自公など与党が圧倒的な多数をしめた国会では、こうした議論に日本維新の会や国民民主党までが加わって、人々が切実に望んでもいない「改憲」を緊急の課題として騒ぎ立て国会の憲法審査会の議論を強引に進める一方で、経済安全保障法など危うい法律が十分な議論がないままに強行されました。

圧倒的多数の与党とその追随勢力、翼賛的なメディアの報道のもとで、内閣提出法案成立100%という異常な事態です。民主主義が危機にさらされています。

ふりかえってみれば前回2019年の参院選の投票率は48.80%で、これは1995年の44.52%に次ぐ低投票率でした。こうして有権者の4分の1程度の支持しか得ていないような政権のもとで、政治が重大な岐路に立たされていることは深刻です。いまこそ私たちはこの国の主権者としての自覚と責任をもって声をあげ、この選挙に参加していかねばなりません。

さる5月9日、私たち「市民連合」は、立憲民主党、日本共産党、社会民主党、碧水会、沖縄の風の3党2会派との間で平和、くらし、環境、差別など4つの項目から成る「政策要望書」に合意しました。これらの立憲野党が共同して大きく前進し、明日の政治の変革への希望を切り拓くことができるかどうかは、この参議院選挙の最大の焦点になります。
7月10日、ここが歴史の分岐点です。

2022年6月22日
安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合

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第26回参議院選挙に関する市民連合声明

7月10日に行われた参議院選挙は、大方の予想通り、自由民主党や日本維新の会が議席を大幅に増やし、衆議院に続いて参議院でも改憲勢力が議席の3分の2を超える結果となった。かたや立憲野党は、社会民主党が1議席を死守する一方で、立憲民主党も日本共産党も選挙前に比べて議席減となってしまった。

より詳細に見ると、自由民主党が議席を増やしたのは1人区を含む選挙区に限られており、比例区ではむしろ1議席減らしている。逆に立憲民主党は、比例区では改選議席数を維持、議席減となったのは1人区を含む選挙区でのことであった。2016年、2019年と立憲野党が積み重ねてきた32の1人区すべてでの候補者の一本化が今回わずか11にとどまり、また、その11の選挙区でも選挙共闘体制の構築が不十分に終わった結果、勝利できたのは青森、長野、沖縄の3県だけに終わった。

2016年に11議席、2019年に10議席を1人区で勝ち取ったことと比較して、野党共闘の不発が今回の選挙結果に結びついたことは明らかである。各地の選挙区で厳しいたたかいを最後まで懸命にたたかい抜いた全国の市民連合の皆さんに深い敬意を表するとともに、立憲野党各党には本格的な共闘への取り組みをまずは国会で一刻も早く再開することを呼びかけたい。

むろん1人区だけでなく、複数区や比例区のたたかい方でも課題は見られた。複数区で日本維新の会の全国政党化を阻止したのは極めて重要な成果であったが、特に比例区において立憲野党各党は伸び悩み、日本維新の会や右派小政党に隙を突かれた。これらの課題は立憲野党だけでなく、私たち市民連合も今一度大きな広がりを作り直していくことが不可欠であることを示している。

結果としては改憲勢力に3分の2を許してしまったが、安倍元首相の殺害という重大事件によって選挙戦が最終盤で大きく歪められてしまったことに加えて、もともと岸田自民党がいかなる政策も明確に訴えなかったこともあり、9条改憲や歯止めなき軍事力強化路線が信任されたとは到底言えない状況である。市民連合としては、自己目的化した改憲の企てを阻止し、いのちと暮らしを守る政治の実現を求める広範な取り組みを建て直していきたい。

2022年7月11日
安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合

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立憲野党と政策協定を結ぶにいたらず「憲法を守る政党・候補者を応援しよう」を掲げてとりくむ

千葉選挙区での選挙戦 大滝敏市(事務局)

参議院選挙区千葉選挙区は、定員3。ここ3回の参院選では、連続して自民2、立民(民主)1の議席獲得。前回2019の選挙では、千葉市民連合が、立民、共産の候補とそれぞれ政策協定を結び、「立憲野党で2議席を!」を合言葉に支援活動。東京都と境を接する私の地元の市民連合も、両候補の顔写真入りチラシを作り公示前に大量配布したりした。結果は、国民、社民がともに推薦した立憲候補が、2位で当選。共産候補は落選したものの3位の自民候補に得票率で3.3%差までに追い上げた。

今回の参議院選挙は、国民、維新や小政党が加わり、14名が立候補するという乱戦模様。立憲野党からは、立憲民主党・小西ひろゆきさん、日本共産党・さいとう和子さんが出馬。
こうした中、県市民連合は「立憲野党で2議席を!」を引き続き掲げたものの、“連合ショック”の影響なのか、立憲野党候補との政策協定を結ぶまで至らず。地域の市民連合が、立憲、共産の候補を並べるチラシを作ろうとしたら、立民事務所から「止めてくれ」だ。この状況に、仲間の中には怒り心頭の方もおられましたが、ここはぐっと我慢。

一人でも多くの立憲野党の議員を国会に送るため、地元市民連合は、「憲法を守る政党・候補者を応援しよう!」を掲げ、取り組むことになった。具体的には次のような行動を呼びかけた。

○賛同者(会員)に、立憲野党の各政党・候補者への支援活動を個人の立場で最大限おこなっていただきたい旨を呼びかけた。そのために、連日、各政党・候補者の街頭演説会スケジュールなどをメール配信。SNSをやっていない方も、このメール情報で演説会に駆けつけてくれた。

○SNSでの支持・支援の訴え。

○街頭アピール
(公示前)チラシ3枚セット(率民・小西、共産・さいとう、社民・比例候補)を配布しながら、憲法を守る予定候補者・政党への支援を訴える。高校生が、「誰に投票すれば良いんでしょうか?」と尋ねてくることもあった。

(公示後)紙芝居『戦争放棄だけじゃない!?憲法9条』や「物価高に対策を打ち出せない与党に白紙委任になるので投票にいきましょう」「改憲への道を許さないためにも投票にいっていただきたい」などの市民のスピーチで、「投票に行こう!」をアピールした。

選挙結果は、今回も、自民2、立民1が議席獲得。立民・小西ひろゆきさんが当選して良かったが、地元の比例票は、維新が立民を抜き、得票率3~4%で野党第1党になった。
このままでは、統一地方選も立憲野党が危ないということで、「市民の力をどうつけていくのか」も含め、仲間たちと論議中だ。

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【声明】 安倍元首相の「国葬」に反対する

2022年7月21日
許すな!憲法改悪・市民連絡会事務局長 菱山南帆子

2022年7月22日の閣議決定により9月27日に安倍元首相の国葬が行われると言われています。
安倍政権下で一部の大企業が儲かることによって格差が広がり、「雇用を増やした」と言っていますが実は非正規雇用が増え、経済優先のコロナ対策を進めた結果、非正規労働者の雇止めが増加し、自死や孤独死、路上生活者が後を絶ちません。さらに、教育基本法改悪、秘密保護法、安保法制、働き方改革、カジノ法、TPP 法、共謀罪法と様々な悪法を強行してきました。

森友学園、加計学園、桜を見る会などの政治の私物化、疑惑隠蔽、国会での118回にも及ぶ虚偽答弁。伊藤詩織さんへの性暴力を行った山口氏の逮捕状もみ消しなど実に許されない事件が沢山ありました。

この間報道されているように「旧統一協会」と安倍元首相らの癒着が明らかになってきています。悪質で違法な商法を隠ぺい擁護し、主張を政策に反映させた見返りに、人やモノや金を得るような政治を行ってきたことが、今回の山上容疑者の行動に繋がってしまったのではないでしょうか。

このような金と利権の疑惑が次々と出てくる中で「国葬」の強行により「なかったことにする」わけにはいきません。またこのような「国葬キャンペーン」の中で「安倍元首相の悲願であった改憲を実現しよう」というような流れにさせてはなりません。

岸田首相による安倍元首相の政治利用、改憲のための利用は許されません。莫大な税金を投入し、1 人の人間を「国葬」という形で特別扱いし、全市民に「哀悼」を強制する「国葬」に反対します。

志を同じくする全国のひとりひとりの市民の皆さんがそれぞれの可能なやり方で安倍元首相の「国葬」に反対する行動に立ち上がるよう呼び掛けます。

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第5回目の「女性による女性のための相談会」報告

相談で見える女性の暮らしの実態
物価高/心ゆくまで遊べない子ども

菱山南帆子(事務局)

去年の3月から始まった「女性による女性のための相談会」。第5回目の相談会が7月1、2日の2日間、文京区民センターで開催されました。今回は第2東京弁護士会に加え、文京区の後援ももらうことができました。5月に成立した女性新法ができてから初めての行政との連携です。

冬は屋外、夏は屋内というように、両方の形で開催すると実に屋内開催の時にはDV被害の相談が多いのです。

はじめて、初日だけは平日開催だったので、平日は子どもが学校に行っている間に母親だけで来る方もいました。私は今回も託児担当でしたので、初日の金曜日は来場する子どもの数も少なく、むしろ、平日に相談会に来る子どもは何らかの事情で保育園や小学校にいけていないという子どもの背景を感じることができました。

翌日の2日目の土曜は、その反動でてんやわんや。今回は過去最多の保育士5名体制でも、髪の毛を引っ張られたり、馬乗りになられたり、飛びつかれたり、戦いを挑まれたりと大騒ぎ。昼食にも行けないほどの大盛況でした。

大人の保育者が5人もいて手厚く、思いっきり遊んでくれるので、子どもたちは頭のてっぺんから発するような大声を出し、笑い転げ、母親が相談を終了して迎えに来ても「嫌だ、もっと遊んでいく」と言い張り、帰らないという状況に!心行くまで遊んだ後はバギーに座ったとたんに指をくわえてウトウトし母親から「帰りは静かに帰れてうれしい」とお礼を言われるほどでした。

保育士不足、待機児童、少子化、不寛容な社会の中、コロナ禍で、子どもが思いっきり遊ぶ場も、遊ぶ相手も、泣き声一つで通報されてしまう社会の中で、母親も子どもも息苦しかったのだなと思いました。

子どもたちが帰り道、遊び疲れてコテンと寝てしまうくらい手厚い保育体制や、誰もが入園できるような福祉体制を求めているのに実現しないのはなぜなのだろうかと思っていた矢先に安倍元首相の殺害事件が起きました。それによって明らかになった旧統一協会との癒着で、家族の在り方や保育園への軽蔑など、カルト思想を政策に反映していたから、日本はいつまでたっても遅れていたのだということがわかりました。

安倍元首相とべったりの日本会議の中に入っている「親学」という団体は、「子どもは3歳まで親元で育てないと発達時障がい者になる」「粉ミルクではなく母乳を飲ますことで母子のきずなが深まる」などといった非科学的、3歳児神話、母性愛神話、優勢思想、排外主義的主張をしている団体です。このような団体との癒着によった政治が、子どもや親を苦しめていたのです。

相談会が開催されるほんの数日前に、日銀総裁の黒田氏が「家計の値上げ許容は高まっている」という発言がありました。しかし、いざ相談会を開いてみると、物価高のあおりを受けて大変苦しい思いをしている女性たちが大勢いました。お米も、いつもは2キロ入りの袋からなくなっていき、重たい5キロは残るのに、今回は5キロの米から無くなっていきました。

託児に来られる母親からも、「粉ミルクやオムツが高くて困っている」という声も聞きました。本来ならば子どもがたくさんミルクを飲むことは喜ばしいことなのにもかかわらず、ミルク缶の残りを覗き、ヒヤヒヤしながらミルクを作るなんて・・・。(次頁下段へ)(前頁から)このような実態を日銀黒田総裁はじめ、岸田政権は全く把握も理解もできていないと思いました。「子どもを3人以上産まなければ」「子どもを産まないのは勝手な考え」「子どもを産まないと人の金で施設の世話になる」などといった歴代自民党の失言に加え、最近は同じく自民党の桜田議員の「結婚率が低いのは女性が寛大ではないからだ」というような許しがたい発言がありました。

女性にとって、子どもを産むことがどれだけ大変で、環境や生き方の変更が求められるのかということを知らない、理解しようとも思わない男性が、国会には圧倒的な数でいる。このことが、このような影響を及ぼしているということを痛感させられました。

これだけの女性が生活に困っている中で、軍事費をGDP2%に引き上げるなんてとんでもないことです。軍事費を上げるのではなく、女性の雇用を増やし、女性の賃上げを実現することが今、政治に求められていることではないでしょうか。

先日、東京の市民連絡会の事務所にこんな嫌がらせの電話が来ました。きっかけは鹿児島での講演が地元紙に掲載されたことでした。その記事の見出しは「軍事費増額は『世界への挑発』・護憲団体の事務局長が講演で訴える」というもので、その横に私の写真が載っていました。おそらく、軍事費増額は挑発行為というところに加え、護憲団体の事務局長が「女」だったことが嫌がらせの電話をするという行動に繋がったのだと思います。

その電話は「俺はいつも会社で重たい荷物を女の代わりに持たされている。男の方が労災が多い。女の方が優遇されていて、差別されているのは男だ」という内容でした。すかさず私に「重たいものを持ちたくないなら持ちたくないと言えばよいのでは?女性の雇用が増えたら女の労災も増えますよ」と言い返され、その後、執拗に事務所に電話をかけてきて、会議が中断されるという事態になりました。

このように女が意見したり、団体や会社の中で何らかの肩書きを持つと、いまだに攻撃されます。さすがジェンダーギャップ指数116位の国だなとしみじみ思いました。

女が生きやすい社会のために引き続き相談会のような「女のよりどころ」を全国各地で広めていかなければならないと思っています。

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第161回市民憲法講座 環境と平和・海から見た地球~気候正義と核廃絶平和運動~

武本匡弘さん(NPO法人気候危機対策ネットワーク代表・プロダイバー・環境活動家)

(編集部註)6月18日の講座で武本匡弘さんが講演した内容を編集部の責任で要約したものです。要約の責任はすべて本誌編集部にあります。

地球規模でのサンゴの白化現象

僕はいつも自分が撮影した水中映像を使って報告しています。本職は水中映像で、長いこと水中を撮影してきました。水中の色をきれいに見ていただくためにこのように電気を消してやるんですよ。環境問題に関してはまったく関心がないという人の方が圧倒的に多いですが、非常に深刻な状況になっているので実際に目にしてもらう。単に報告で危機感を煽るということではなくて、楽しく笑いながら学習して、絶望の中にも必ず希望があるという話にしたいと思います。核廃絶平和運動はわかるとしても、「気候正義」という言葉は今日初めて聞かれた方が多いと思います。

「気候正義」、英語で「climate justice」ですけれども、この「気候正義」という言葉をキーワードにして前半報告します。それで質問を入れてから、後半に気候危機に対して立ち向かう行動、気候変動問題と核廃絶平和運動はまったく同じである。これを今日の僕の報告で「なるほどな」と思っていただければいいと思うんですね。そのあと今日こちらにいらっしゃっている世代以外の、もうちょっと若い方にもちゃんと話ができるようになってくれればなと思っています。平和の話と気候の話を一緒にできるぞ」となるのが今日のゴールでしょうかね。

 私はプロダイバーで環境活動家、NPO法人気候危機対策ネットワークの代表をしています、僕はこれまでNPO法人を5つもつくったんですよ。NPO活動で大事なことは、参加する人たちが自主的に主体性を持って参加し運営していくことが基本ですから、「よし、もうこの人に任せられるぞ」「よし、やってみて」ということで、どんどんつくっては人に任せていて、

事費増額は『世界への挑発』・護憲団体の事務局長が講演で訴える」というもので、その横に私の写真が載っていました。おそらく、軍事費増額は挑発行為というところに加え、護憲団体の事務局長が「女」だったことが嫌がらせの電話をするという行動に繋がったのだと思います。

その電話は「俺はいつも会社で重たい荷物を女の代わりに持たされている。男の方が労災が多い。女の方が優遇されていて、差別されているのは男だ」という内容でした。すかさず私に「重たいものを持ちたくないなら持ちたくないと言えばよいのでは?女性の雇用が増えたら女の労災も増えますよ」と言い返され、その後、執拗に事務所に電話をかけてきて、会議が中断されるという事態になりました。

このように女が意見したり、団体や会社の中で何らかの肩書きを持つと、いまだに攻撃されます。さすがジェンダーギャップ指数116位の国だなとしみじみ思いました。

女が生きやすい社会のために引き続き相談会のような「女のよりどころ」を全国各地で広めていかなければならないと思っています。

つくったNPOは全部活発に行動を続けています。これが6つ目のNPOになるので、もしかしたらこれが最後になるかなと思っています。

最初の映像ですけれども、このようなきれいな海、これは私がダイビングを始めた44、45年前くらいは普通にあった。「生物多様性に富んだ海」という言い方をしますね。魚もサンゴもいろいろな生物がどこに行っても見られた。サンゴ礁も30年前、40年前、僕がプロに成り立ての頃も、世界中の海のどこに行っても、サンゴの場合は熱帯や亜熱帯でエダサンゴやテーブルサンゴがありました。

ところが20年ほど前になりますと、サンゴがこのように白くなる状況が起きたんです。これはマーシャル諸島のマジュロという首都のあるところの海です。僕は定点観測をマーシャル諸島でやってきていますが、同じ所のサンゴがこんなふうに白くなって、最後はこのように瓦礫化して死に至るんです。こんなことが地球上の至る所で起きていて、現在少なく見積もっても地球上のサンゴの6割以上はなくなっています。瓦礫化しています。「地球上の6割以上のサンゴがなくなった」なんて初めて聞いた人が多いんじゃないですか。普段海を見ていないからわかりませんよね。僕もこれに気がつくまで15年かかっています。

僕は明日の飛行機で環境省の自然保護官のところに行って、沖縄のサンゴの調査をやるんです。これは那覇、本島沖の海です。サンゴもすごくきれいだし、モデルさんもきれいでしょ、私の妻なんです。このサンゴが見事な沖縄本島の海は、いま本当にないんです。恐らく9割方、このような海になっているといわれています。沖縄本島全体のサンゴの状況は、だいたい10%くらいしかなくなっています。さらにせっかくまだ元気な、残りわずか1割のサンゴも、新たな基地建設でなくなる運命にあるという状況です。沖縄本島よりもっと台湾の方の八重山郡島、石垣島、西表島、こういったところに行くと、まだこのような見事なサンゴが残って「いた」。「いた」なんです。

この写真は約10年前ですが、同じところで去年撮った写真がこれです。石垣島、西表島海域も現在は、こんなふうになってしまった。このときは共同通信社の記者を2人連れて行って、一緒に撮影して彼らが書いた記事が全国に拡散されました。そのときの調査の正式な結果が「石垣島~西表島海域におけるサンゴの平均被度」です。被度というのは海の底を覆っているサンゴの度合いですが、それが11.5%、これしかなくなってしまった。この10年の間にこんなになくなってしまった。これは環境省の石垣自然保護官事務所の2020年度の調査結果です。こんなことが沖縄に起きています。

そして石垣島、南西諸島の台湾側は、どんどん軍事化が進んでミサイル基地ができています。飛行機の上から見ると海上保安庁の巡視船がぶわーっとあって、日本一巡視船がある基地になってしまった。石垣島には16隻も巡視船がいる。こんなところは日本にないんですよ。あまり近くだと怒られてしまいますが、明後日にはドローンで巡視船がたくさんいるすごい光景を写してこようと思います。ジェットエンジンを搭載したすごい馬力の巡視船がずらーっと並んでいますから、海洋汚染もすさまじい。そのうち石垣島、西表島からサンゴがなくなってしまうんじゃないかと僕はとても心配しています。とにかくこのような状況が、いまの地球上の海なんですよ。

去年、国連がこのままでは地球規模で2034年にはサンゴの白化が常態化して、日本周辺の海域では2024年にサンゴがなくなってしまうといっています。みなさんびっくりするでしょう。でも僕は、あながち大げさ予測ではないと思っています。実はそういう姿を僕は見てきているからです。2024年ということはあと2年しかない。すっかり沖縄からサンゴが消えるということが考えられるわけです。

海水温の上昇が原因の気候変動

こういったことがなぜ起きたのか。これが、「気候変動」という状況です。みなさんは、「地球温暖化」という言葉は聞かれたことがあると思います。どちらでも間違いではない、ただし「異常気象」と言ってはだめです。これは「異常気象」ではないんです。これが普通になっていますから。

気候変動で何が起きているか。何といっても本当に海が熱くなっています。これは気象庁のホームページですけれども、日本近海の海の濃い赤は32℃以上で、すさまじい高温です。何が起きているかというと、台風の発生場所や台風の経路がすっかり変わったんです。もっと東カロリン諸島から、昔の言い方でいうとトラック諸島、いまはチューク諸島といいますが、その辺でできていたんですね。いまでもフィリピンの方でも発生しますけれども、いまは北マリアナ諸島、グアム、サイパン、テニアン、この辺でできたりします。ここで発生した台風は沖縄の方になかなか行かずに、この辺をふらふらしながら関東を直撃する。こういうパターンが多くなっている。

実は沖縄や南西諸島全般でいうと年間7~8回は台風が接近していました。この接近台風が何をもたらしたかというと、もちろん被害もあるけれども、真夏の海水温がどんどん熱くなるのを台風が接近することによって攪拌してくれていたんですね、熱くなりすぎないように。草津の温泉に行くとあるでしょ、かき混ぜるやつね。そういう役目だったんですよ、台風って。台風が沖縄に接近してこなくなったことで何が起きたか。夏に32℃、33℃、34℃と海水温がどんどん上がっていって、サンゴが生きていられない。30℃が限界です。それでどんどんサンゴがなくなっていく。台風も全然経路が変わって、魚の移動もあったりして獲れなくなったり、いろいろなことが起きている。これが気候変動の主な原因です。

僕はずっと潜る仕事をしていたけれども、これは大変だ、子どもに環境教育をやらなければいけないということで、20数年前から、最初につくったNPOで環境教育もやっていました。本職は30数年ダイビングの専門会社の経営をやっていました。29歳の時に起業して、会社経営をやりながらNPO活動をやっていた。ところがサンゴがどんどんなくなって海がどんどん変わっていく姿を見たら、子どもの目の前からすーっと未来が消えていくことを実感し始めたんですね。これは大変だということで、経営者と環境活動の両立がだんだんできなくなってきた。それで58歳の時に、自分で会社つくったくせに自分で早期退職したんです。当時14支店あって、アメリカにも、ハワイにもグアムにも会社があって、従業員も70数名いたんです。全部あげるから、悪いけどお先に失礼させて下さいと辞めたわけです。環境活動一本でいこうと。

太平洋の島々で命と生活を脅かされる「気候難民」と「気候正義」という考え方

そういうことでダイビングだけでなく、海の沖の方はどうなっているのかと太平洋航海プロジェクトを始めました。自分でヨットを操船して、1回の航海が1か月、2か月、長くて70日間くらい太平洋をずっと風を頼りに航海をして、気候変動やいろいろな観測をやっています。今年はまだコロナ影響もあって国内航路をやっていました。国内でも気候変動の影響は当然あります。太平洋を航海していて何を感じたかというと、気候はまさに本当に危機的になっているということです。例えば、太平洋の島のほとんどがサンゴでできています。サンゴ礁でできている島ですから、山もないし谷もないし川もないし、海抜が全然ないんです。だから気候変動の影響をもろに受けて、椰子の木が強くなった風でどんどん枯れている。椰子の実は食料としてすごく大事なものなんですね。だから食糧問題も深刻になっているし、海面上昇でどんどん島が沈んでいく。

この島はウォッジェという島で、マーシャル諸島の中の小さな島です。昔日本軍が駐留していたところです。ここの村長がでてきて「オレの家はとっくに海面上昇でなくなった。流された」「どんどん海が迫ってきている」という話をしてくれた。島の人たちは日本人を見ると寄ってきて、「日本人は気候変動問題はどうしているんだ」と聞いてくるんですよ。「何かやってくれているんだろう」「対策しているんだろう」と聞いてくる。でも僕の本心は「全然やっていないよな」「何か悪いな」という気持ちですよね。これは私たちに責任があるんです。大統領にも会って話をしました。

この人は前の大統領で、ミクロネシアで最初の女性大統領、ヒルダ・ハイネさんです。僕がずっと核被害者、被爆者の支援をやってきた関係から交流があって、このときも航海でマーシャルに行ったときに会って話を聞きました。このときは被曝や核被害の話ではなくて、気候変動の話ばかりになっちゃったんですね。いま必死なんです。ニュージーランド、オーストラリア、アメリカ本国に難民の要請をしているというんです。国が沈む、島が沈む、自分の国に住んでいられない。だから難民を要請している。このことを「気候難民」と言います。「気候難民」という言葉もあるんですね。このような状況に南の島はなっている。

わたしたちはこういう太平洋の島々に住む人たちを犠牲にして、その上に成り立って便利な暮らしをしている。これって不公平、不公正で、こういったことで「気候正義」という言葉です。「気候正義」という言葉がメディアその他に出ない日は、日本以外の国ではありません。普通に使われています。若い人たちも普通に「気候正義」という言葉を使っています。

こういうことです。だいたい国家間の不正義、排出量がすごく多い日本だの中国だのアメリカだのヨーロッパの各国、たった10ヶ国が地球上の7割のCO2をばんばか出しているわけです。そしてかなりリスクの高くなっている33ヶ国の国の人たちってCO2をそんなに出していないんですよ。マーシャル諸島はスタディツアーで原水協とか民医連のお医者さんとかで行っている。とにかくビキニの近くの島に行って、車なんかないし、エアコンもないし、CO2なんか誰も出していない。

でも彼らはそういう責任がないのに一番被害を蒙っている。これって不公正じゃないかという意味です。もうひとつは、私たちが「経済成長、経済成長」とがんばってきたけれども、そのツケをいっぱい残した。だから今の若い人たちも10年後、20年後、僕たちの世代がちゃんとやってくれないと私たちの未来がないじゃないかと叫んでいる。これが世代間の正義。合わせて「気候正義」ということです。諸外国では若い人たちが、「climate justice」という看板を持ってストライキをやっている。こういうことで「気候正義」という言葉を覚えていただきたいと思っています。

国内にも拡がる「磯焼け」現象

 これは伊豆半島の伊東沖ですけれども、まあびっくりしますね。これは真冬の2月ですけれども、いま普通に熱帯魚が泳いでいます。僕は40年以上伊豆半島で潜っていますが、この10年間特はまるで沖縄の海のようになっている。僕は小樽市出身ですけれども、子どものころ積丹半島で素潜りしていました。15年前に、泊原発の影響で昆布やわかめなど、いろいろ無くなったんじゃないかという話があって、頼まれて撮影に行きました。そこで泊原発の影響もないことはないけれども、でもちょっと違うなと思いました。それだけじゃないなと。これはもしかしたら日本全国に広がっている。つまりベロンと海草がなくってしまう状況――これを「磯焼け」、「磯枯れ」とも言います。ウニがすごく目立って見えるけれども、海草がないので身が全然入っていません。何度か磯焼けを見た中で、積丹半島は一番酷かったけれども、これは全国規模で広がるぞと思ったんですね。

案の定、僕のいまの地元の江ノ島の写真です。海草が繁茂している海だったけれども、これは10年前で、これは去年の江ノ島ですけれども、こんなになってしまった。まったく海草がないでしょ。これはひじきです。ひじきは煮ないと黒くならないんですね。このひじきが全然とれなくなった。葉山でも7~8年前と、去年同じ岩で撮影した写真ですが、一本もない。これが全国的に広がっていて、日本海は酷いことになっています。今回2週間航海して瀬戸内海の手前まで行ってきましたが、どこの港に寄っても「海草なんかない」「アワビもサザエもとれない」とみんな言います。そのうち地球上の海はこのように死の海、まったく生物が住めなくなっていきます。pH、酸性・アルカリ性の数値も変わっちゃって、生物が全然住めない海があります。日本沿岸に拡大している状況です。

先ほどマーシャル諸島で家を流された人の話をしましたけれども、これは私たちものんきでいられないんですよ。昭和30年代の鎌倉の稲村ヶ崎で、このように浜が広くて、この写真の解説には「ここで野球をやっていた」とあります。海の家もたくさんあった。稲村ヶ崎にいま行くと、浜なんかないんです。これを見てください。これは中潮といって大潮でも何でもない。普通の潮のときにもう浜がない。大潮で満潮になると、もっと道の近くまで海が来るんです。湘南道路という道路は、しょっちゅう壊れて工事している。ですから日本だって海面上昇は進んでいるし、何と砂浜の消失が激しい。日本から渚がなくなる。恐らく2070年代以降は、房総半島から砂浜がなくなるという予測があるんです。九十九里浜の砂浜がなくなっちゃうんですよ。それほど砂がどんどんどんどん減り続けている状況で、湘南海岸全体でいうと砂浜海岸の後退は平均して15~16メートルなくなっているというデータがあります。こういったことは普通に生活しているとなかなかわからないというか、行ったこともないし聞いたこともなかったなということもあると思うんです。

気候変動・地球規模での危機的な状況

気候変動の勉強会の機会がいままであまりなかったとしたら、これだけは覚えておいてください。「気候変動」と「異常気象」という言葉は違います。ほとんどのメディアは間違っている。「最近、異常気象で」とか言うけれどもこれは間違いです。「異常気象」というのは、その定義からすると「30年に一度偶発的な発生で起きること」を言います。「気候変動」とは違います。いまは「気候変動」と言わなければだめなんです。

なぜか。実は気候変動の原因ははっきりしていて、私たちの人間活動が原因だからです。CO2排出だということです。「気候変動」になると、恐らくみなさんのこれまでの情報や知識などだと「また暑くなる」とか「猛暑だな」「熱中症だ」というくらいで終わりがちですけれども、そんなものじゃすまないということです。すべてが狂ってくる。地球の気候そのものがどんどん崩壊していく。

そこで、いま真剣に考えなくてはいけないのは「新たなウィルス」ですね。コロナのようなパンデミックはパンデミックの間の期間が短くなって、どんどん新たなウィルスが発生している。これは気候変動を起こした森林伐採などももちろん関係している。それから私たちが肉食中心の食生活に変わってきていることも関係しているので、一緒に考えるべきなんですね。ほとんど報道されていません。たまにNHKの特番とかBSなどで、イギリスのBBCがつくった番組などでコロナやパンデミックの原因を探ったものがあるけれども、日本にはなかなかないんですね。

新たな紛争のタネは、気候変動で間違いなく起きてくるということです。これは水不足や食糧危機、気候難民の発生、こういったことです。この下で新しいかたちの戦争が起きてくるといわれています。特にいまアフリカは本当に雨が降らないんですね。中央アフリカなんか酷いし、アフリカ大陸の東側にあるマダガスカルの北部は、7年も雨が降っていないんですよ。そこはまったく農業ができなくなった。ですからマダガスカルは、世界で最初に食糧危機で気候難民が発生する国なんです。実際にいま発生しています。国を出て行っている人たちが多く、まったく農業ができなくなっている。それからご存じのように昆虫の大発生です。中国でも起きています。こういったことをひとつひとつあげたらきりがないけれども、気候変動というのはすべてのサイクルが狂ってしまうということ、このように認識していただければなと思います。

プラスチックスープの海

これに加えて海洋プラスチック、海洋ゴミ問題も触れて前半を終えます。これは僕が太平洋を航海している航跡図です。ダイビングの仕事でもいろいろな国で潜ってきましたけれども、太平洋の真ん中などは当然潜れません。ヨットで行きますので、マーシャル諸島まで風だけですから26日間かかった。これに初めて乗るという人も一緒に航海しました。みなさんも一回ヨットに乗りに来てください。半日コースとか体験コース、横須賀にある船でやるので。誰でも乗れます。大丈夫、大丈夫。乗るときもぱっと乗れますからね。なんて言うか知っていますか。「あーら、ヨット」。そうやって乗るんです。

先週まで行っていた航海は、23歳の女性とか、下田で降りたんですけれども小学校4年の子もお母さんと一緒に乗ったり、70代の人も乗って2週間一緒に過ごしました。マーシャルまで26日というのは、本はいっぱい読めるけれども、大変なんです。太平洋の真ん中って何にもないんですから。鳥も飛んでこないし島もない、大陸棚もないから釣りをしても魚なんか釣れないんですよ。

そういった太平洋の真ん中に必ず流れてくるのがペットボトル。誰ですか、ここにこれを置いたのは。(講師用のペットボトルを指す)僕はちゃんとボトルを持ってきている。ペットボトルは朝から晩まで太平洋のどこでも見られますよ。よくこんなにみんな飲んでいるなというくらいにね。それからビニールゴミやらバケツやら。

目に見えるビニールやプラスチックゴミも太平洋にぷかぷか浮いているけれども、見えないゴミを見なければいけないものだから、一度科学者と一緒に実験をしました。これはプランクトンを採取するプランクトンネットという網です。これを30分船の後ろから引っ張っていくと、中にプランクトンと一緒にゴミが入ってきます。この目に見えるゴミは日本近海です。ところがパラオというところまで16日間かけて毎日毎日採取したんですけれども、全回入ってきます。何が入ってくるのか。マイクロプラスチックが必ず入ってくる。100%入っていました。

これを顕微鏡で見ると、オタマジャクシみたいなのがプランクトンです。魚ようなかたち、蟹のようなかたち、いろいろありますけれども、プランクトンの中にこうやって混じっているもの、魚は食べちゃいます。僕はいろいろなところで採取してみていますから、はっきりいいまして、地球上の海はプラスチックスープの海です。採れないところがないんですから。海面は2割なんですよ。8割は沈降、海底に沈んでいますから、すさまじい量のプラスチックが海を漂っているということです。

こういう状況を見て、やっぱり私たちは気がつく必要があります。ただ単なるゴミ問題ではなく、プラスチック問題というのは気候変動と海洋プラスチックと同じ問題として捉えてくださいということです。なぜならプラスチックというのは化石燃料です。化石を掘ってつくるわけで、それに熱を加えたりいろいろなことをやって、大量のCO2をばんばか出しながらつくるのがプラスチックです。リサイクルしているんでしょ、という人がいるけれども、リサイクルしたって熱を使いますから全然CO2は減らない。しかも日本は全然リサイクルなんかしないで、全部燃やしている。そういうことで、プラスチック製品はつくればつくるほど将来世代のツケになる一方だということです。

国家間の不正義 世代間の不正義

こういったことがずっと起きていくと、2030年頃には地球は臨界期を迎えるという予測を、欧米の気候学者などは出している。若い子の中にはそういうことを知っている人が結構いて、実はノイローゼのようになっている子も結構います。私たちは2030年になったら臨界期になっちゃうと思っていたり、子どもを産めない、子どもの将来を考えるととても子どもをつくる気がしないという子が最近増えてきていて、本当になんとかしなきゃという気持ちでいっぱいです。

ですから脱炭素化というのは本当に急がれます。そのためには、私たちひとりひとりが、できることはやるべきです。大きな問題なので、新自由主義を基本とするような資本主義は完全に地球を壊しているという認識を、若い人と一緒に持ちましょうということです。グレタさんが、たったひとりのストライキを高校生のときに国会前でやってから、あれだけの世界中の若い人がワーッと盛り上がった。いろいろなスピーチや彼らの意見を聞いていると、ただ単に「気候変動、気候変動」というだけじゃない。資本主義経済がもう限界だと彼らは言っている。よく勉強していると本当に思うけれども、基本的に資本主義経済システムの原理と環境保全というのは、地球を守るというのではまったく相反するので、そもそも無理だということを彼らははっきり言っている。

残念ながら、日本の若い人たちはかなり遅れています。これは彼らのせいではもちろんありません。がんばっている子も僕のまわりにはたくさんいるけれども、絶対数としてはとても少ない。これを何とかしなきゃいけない。ロシアによるウクライナへの侵攻がこれだけメディアにでていますから、その中で私たちは伝えるべきことをちゃんと伝えていく。そのときに平和の問題と気候の問題を一緒に伝えて、ともに変えていこう。こういうふうにする必要があると思うんですね。

前半はここまでで、後半に「気候正義」をもう一度使い、「戦争と気候正義」ということをやろうと思います。いままでの問題で質問、ご意見、感想をぜひ出していただければと思います。

質問:温暖化で海が熱くなっているということはサンゴの再生は無理なのでしょうか。

答:難しいですね。地球規模で海水温が上がっているものですから。黒潮でさえ経路が変わってきているくらいですから、期待できないですね。それでも研究者たちがやっていることがあります。ひとつはサンゴの移植。もうひとつはやっぱり基地建設反対。このふたつです。

サンゴの移植というのは確かにある程度再生することはある。でも相当再生確率は低いんですよ。以前、辺野古の基地建設で大事なサンゴがなくなってしまうことについてNHKで討論会をやりました。当時の首相「アホノミクス」、彼が「サンゴはちゃんと移植しますから大丈夫です」と言って、もう僕は椅子から転げ落ちるほどびっくりしました。そういうことをあの人は118回も国会で言っているそうなので、別に「まあ、言うわな」と思いました。気をつけたいのは、サンゴの移植は科学的な知見でやっているけれども、そういう人に利用されるとまずいなと思っています。基地建設でサンゴはどんどん死んでいっています。

大事な視点は、それでもサンゴの被度が11%ということは、1割はまだ残っているということで、これを死守しようという活動です。海の流れはなかなか変えられないので。もっともっと研究する。それから国の予算も、軍事ではなくてやはり自然に生きているものの再生、人間の手で壊したものは人間の手でまた蘇らせないとだめなんですよ。自然に蘇るということはなかなか難しい。特にそれは森や山に言えることです。

日本の山は2次的自然といって、もともと人が入っていた。炭をつくったり木材を伐採したり、いろいろなことをやって、手入れしていたんです。いま日本中の山の何がだめになっているかというと、人が入らなくなったからですね。それで土砂災害が起きたり、保水力が変わったり、浸透水の質が変わったりしている。一度人間が負荷を与えてしまったら、人間の手で守る。自然に放っておいて蘇るものというのはなかなかないから、これは科学の力でやっていかなければいけないと思います。心配されるように、「蘇らないのでしょうか」ということへの答えに関しては、「難しい」じゃなくて「僕はだから夢を持ってNPOをやっているんです」と、これを答えにしてくれますか。「何とか武本さんが蘇らせてくれるんだ」と思ってください。

質問:コンビニ袋を使わないでマイバッグを使うことが、温暖化対策ということでキャンペーンがありましたが、一方でペットボトルは減っていません。マイバック運動は欺瞞的だと思いますが、ペットボトルやプラスチックの使用は、他の国ではどうなっているのでしょうか。

答:海外に行く機会があったらぜひスーパーマーケットに行ってみてください。もちろんペットボトルは日本だけです。海外には自動販売機なんてないですね。日本だけです。でも、こんな過剰包装はどこの国もやっていません。全部裸売りですよ。芋だってトマトだって全部裸売りで、1個2個買ったりする。まれに袋に入っているのもあります。日本みたいに、中に何が入っているかわからないくらいくるんでいるのは酷い。特にコロナになってから酷いですよね。バナナを袋に入れて売っている国は日本くらいで、全部裸売りです。あんなものいらないですよね。だって「バナナ」を間違ってなすを買った人はいませんよね。なのに、「バナナ」ってわざわざ書いて袋に入っていること自体が変なんですよ。でも「変だ」と誰も言わない。実は環境問題って、みんなが普通に思っていたことが「えっそうなの」ということばかりです。だから海外に行くことはとても大事で、日本とこんなに違うのかということに気がつく。ペットボトルはこんなにないです。

レジ袋ですが、また「アホノミクス」が出てきます。実は、2019年に大阪サミットがあって、そのときにあの人は、環境のことをやっているような感じを出さなきゃなと。その前に、海洋プラスチック条約にアメリカと一緒になってサインしなかったくせに、大阪サミットでやってる感を出さなきゃと、レジ袋の有料化を持ち出しました。これははっきり言って「おとり」です。実はレジ袋は海洋ゴミのたった2%です。やめた方がいいですが、有料にすればいい。それよりも削減するものは、「ペットボトル」です。

実は欧米では拡大生産者責任といって、例えばコカ・コーラをペットボトルで100円で売っているとしたら、生産者、メーカーは110円に仮にしたとして、その10円を回収費にするのがいま欧米の常識です。つまりゴミの処理やペットボトルの再生の費用までを、売る側が最初から負担せよということが常識です。これが拡大生産者責任といいます。日本は使ったあとに一生懸命ラベルをはがしたりキャップを取ったり「ペットボトルの日」に出したり、丁寧な人は中まできれいに洗ったり、そうやって消費者がものすごく苦労してゴミに出して、それを回収しているのは自治体です。そのお金は誰のお金か、ですよね。私たちの税金で、コカ・コーラのペットボトルまで回収している。みなさんの中で「コカ・コーラはあまり飲まないないな」という人、どのくらいいますか。文句言ってくださいよ、コカ・コーラに。私たちの税金でゴミの費用まで出している。こんなバカなことが日本では行われています。

当時の大阪サミットでは、そのことには彼は一言も触れない。私たちゴミの問題に取り組んでいるグループ、その中で代表して意見を言ってくれたのは東京農工大の高田秀重先生です。プラスチックの権威ですけれども、意見を出したけれども経団連につぶされてしまいました。だから、このレジ袋というのは「おとり」だったんですよ。しかもレジ袋をつくっているのはほとんど中小零細業者です。大企業はまったく屁とも思わない、そういう状況です。あのレジ袋の削減・有料化とは何だったのかという総括をちゃんとしないで、いままたプラスチックどうこうとやっています。けれどもザル法というか、残念ながらそういうことが日本の状況だと言わざるを得ない。もちろんマイバッグを持ち歩いたり、それはやりましょう。でも「あれはおとりだった、もっと本質は違った」ということを知っている必要はあると思います

質問:海の中にある大量にあるマイクロプラスチックというのは解決できるのでしょうか。

答:難しい質問です。「3R」という言葉があります。7年くらい前から、小学校4年から3Rをやっと習うようになりました。私たちの世代は環境教育ゼロでしょ。道徳しかやっていない。「ゴミを捨てるのはやめよう」「電気がもったいない」とか、環境問題は道徳でやっちゃだめなんです。学校教育の「倫理道徳」で環境問題を教えようとするのは間違いで、科学で教えなきゃいけないんですね。ヨーロッパではみんなそうです。いま小学生は環境教育を少しずつ受けているから、みなさんもちんぷんかんぷんじゃいけません。だから最低3Rを覚えてください。3Rというのは「Reduce(リデュース)」、削減という意味です。「Reuse(リユース)」、もう一回使おうということ。最後が「Recycle(リサイクル)」。3Rっていまの子どもたちは習っています。高校生ももちろん知っているし大学生も、もう知っていると思います。小学生も3年、4年で習っています。

ちょっと前は、キャップを集めてワクチンを送ろうということを学校でやっていました。これはとんでもない話で、キャップを集めるのに競わされるものだから、「お母さん、ペットボトル買って買って」と言っていました。これを仕掛けたのは飲料会社で、かなり強い反対運動が起きました。一本のワクチンを買うのに、ペットボトルを300本とか500本くらいかかる。それだったらみんなで10円ずつ出した方がよっぽどいいわけです。国民はだまされて消費を加速させられてしまった。

この3Rで大事なことは、「減らす」と「もう一回使う」のと「リサイクルに出す」ということと全部循環しているという教え方のパンフレットをつくっているのが飲料会社です。ふざけるなと僕たちは言っています。「そうじゃないんだ」と。まず「リデュース」、とにかく減らす。蛇口を閉めない限り解決しないよということです。まず、なるべく使わない。減らそうということを、徹底的にしないといけない。だから小学生、中学生は「マイボトル」「マイバック」という言葉もわかっているし、ペットボトル、リサイクルという教え方を、先生方はしないでくださいという運動を僕らはやっています。だから、リサイクルよりも減らそうということです。

「海洋プラスチックの解決策はあるんですか」という質問に関しては、いま海洋に漂って蓄積しているものはこの先500年も600年も700年も800年も残っていきます。あれを溶解させるようなことはまず無理だと思います。それから海洋分解性の素材というもの、これもインチキがほとんどですから、全然分解していないこともわかっています。これもあの「アホノミクス」が、海洋分解性のあるものを日本の技術が開発していると言ったんですよ。とんでもない。全然分解しないものが多いんですね。ですから、これ以上蓄積させない、堆積させないように私たちが素材のことを考えたり、生活スタイルを変えたりすることしか道がないと思っています。

僕が学校の授業で教えていることですごく大事にしたいと思っているのは、これを買って開けて飲む、3分です。3分の便利さのために800年残しますか。それを考えましょうといっています。環境教育というのは数字でやるべきです。道徳や倫理で「そういうことはやめようね」じゃなくて、数字で訴えていく必要があると思っています。

質問:私もダイビングをやっています。サンゴの移植について、東京経済大学の大久保奈弥先生が実際に自分で移植したけれども育たない。辺野古の埋め立てで、移植すればいいだろうといっても移植しても育たないから、それは無駄だといわれていました。マイクロプラスチックの問題は、魚が食べるということはそれを食べる人間にもマイクロプラスチックが入っているということだと思います。世界中で津波が起こったとか、この前はオーストラリアで山火事があったりして世界的に環境破壊が起きているとということだと思います。

答:大久保さんと僕はまったく同じ意見です。サンゴの移植は、まったく回復しないわけではないんです。それから、サンゴの移植ツアーといって観光でやっているのは啓蒙にはすごくいい。必ず増殖するというということではないけれども、それまで全然関心のなかったダイバーが、「えー、サンゴはこんなになくなっている、このツアーは意義があるんですね」とちょっとでも思ってくれるという意味ではいいんです。問題は、学校の総合学習で藻場の再生とかサンゴの再生について、学術的・科学的に証明されていないものを環境教育でやることは問題があると思います。大久保さんもそれは強く言っています。それと、そういう「再生」とかの名前が付くと自治体から予算が出るんです。だからみんな「やってる感」を醸し出しているというか、それはちょっと問題ですよね。大久保さんも僕も結構嫌われることはありますよ、「せっかくやっているのに」って。

戦争準備から戦後処理まですべてが環境破壊

 戦争と気候問題について、戦争というと戦闘行為が思い浮かぶけれどもそうではありません。基本的に考えないといけないのは、準備段階から戦後の処理まですべてが環境破壊だという視座が必要です。辺野古の話が出ました。辺野古は毎年潜っていて、ハラハラしています。基地建設や準備段階で、激しい環境破壊が行われています。その象徴が辺野古です。これは一番新しい写真で、去年11月に撮影したものです。基地建設の場所から、辺野古の大浦湾の一番離れたところです。そこにはまだ残ってくれている。でも僕にしてみれば「死刑宣告」を受けたようなサンゴに見えてならない。大浦湾の真ん中あたりから、少し基地建設の場所に近寄ってくると、もう土砂の影響を受けて全然サンゴがなくなってきている。基地の建設と、もうひとつは準備段階での訓練、軍事訓練もすさまじい環境破壊をしています。ジェット戦闘機というのはすさまじいCO2を出すだけでなく、二酸化硫黄や窒素酸化物などのすごい汚染物質を出すわけです。

もっとわかりやすいところでは燃費です。みなさんの中でハイブリッドの車を乗っている方、なるべく自転車という方、だいたい歩いている方はどのくらいですか。僕はほとんど自転車で行くようにしています。こんなに努力して、少しでも燃費のいいものに乗ったり、なるべく車を使わないようにしようなんていっても、例えば戦車はどうですか。

ハイブリッドカーはリッター30㎞とか40㎞走ります。戦車って、最新式でリッター100メートルしか走らないんです。35トンから40トンもある戦車が1時間走行するだけで、普通乗用車1年分の燃料を消費します。すさまじいですね。戦闘機は1時間飛ぶだけで8年分、戦艦は1時間航海するだけで普通乗用車21年分の燃料を消費する。これはカローラクラスの普通乗用車で換算したものです。こういうことを考えると、戦争になると地球環境とかどうでもよくなる、そうですよね、人の命なんかどうでもよくなるのが戦争ですから。これがまずありますね。

それから、ひとたび戦争の準備をするとなったら、人以外の動物まで狩り出される。聞いたことはありますか。いまアメリカ海軍はイルカとアシカを「武器」として、恐らく500固体くらい所有していると言われています。湾岸戦争のときに250固体のイルカを持っていきました。何をさせているかというと、イルカの条件反射を利用して、例えば敵の軍艦や黒ずくめで水中に潜って爆弾を持っているようなものを見ると突っ込んでいくという訓練をするわけです。イルカの「特攻隊」ですよ。こういった訓練をしていて、人だけじゃなくて動物まで狩り出されていく。

戦争になるとひたすら環境破壊です。ここでウクライナの映像を思い出してください。先ほど房総半島の砂浜がなくなるとか、稲村ヶ崎の砂浜が後退したという話をしました。実はいま地球規模で砂がどんどん減少しています。砂がなくなる一番の原因は建築、つまりセメントです。ドバイには、ものすごい高層ビルがどんどん建っている。ドバイの都市を造るときにインドネシア、マレーシア、フィリピンからどんどん砂を持っていって、砂浜が一気に消失してしまったというくらい都市建設には砂が欠かせないんです。戦後復興するためにまた建設が始まるわけで、またどんどん砂浜が消失する。ひとたび戦争が始まると地球を壊し続ける。戦争が終わったあとも戦後の環境汚染、兵器の破棄は続くわけです。

一瞬にして人の命と地球環境を破壊する核兵器

これはグアム島です。グアム島の海底は武器の捨て場みたいになっていて、これは戦車です。それから戦闘機の残骸だとか軍艦がばらばらになって捨てられて、いろいろなものが海の中に捨てられています。墜落したりそこで爆撃されたりしたというのではなく、グアムではあるところの基地から古くなった兵器を全部捨ててしまうんです。極めつけが、このマーシャル諸島のエニウェトク環礁の「ルニットドーム」という核のゴミ捨て場です。ビキニ環礁とエニウェトク環礁で行った計67回の原水爆実験のいろいろな廃棄物をこのように、ドカーンと原水爆実験で開いた穴にゴミを全部捨ててコンクリートで蓋をしただけです。中はどうなっているかというと、この下処理なんかは本当にいい加減です。ここにコンクリートを埋めて、核実験施設の鋼材だとか汚染土だとかをつめて上から蓋をしただけです。

先ほどマーシャル諸島は海面上昇で沈んでいくという話をしました。これだって海面上昇で廃棄物がどんどん沈んでいく。汚染されたものが海洋に漏出しているわけですね。これをアメリカのコロンビア大学が調査をしていました。たまたまそのときに僕はマーシャルにいて彼らから直接話しを聞いたんだけれども、恐らくチェルノブイリの1000倍の放射能がいまだにこの付近にあるということでした。特に近代兵器になりますと、これが半永久的に残っていきます。核兵器に関しては、地球という星を宇宙から消滅させるほどの核兵器があり、何回も地球を破壊できるほどの核なんですね。若い人にこういう話をするとよくわかってくれます。私たちが地球の自然を残したい、地球の環境を何とかしたい、地球を救いたいと思ってがんばっている。でも核兵器を一発使うとお終いだぞ、という話はよく響きます。これまで、発射しそうになったことも何回もあったけれども、そのうち運が尽きるぞ、爆発しなかったのはただ単に運がよかっただけだ、という科学者はいっぱいいますね。

太平洋航海をしていてつくづく思うのは、太平洋の国々はいつも大国のエゴに振り回されてきた歴史を持っているということです。戦争によって支配され、冷戦時代は核実験の被害を受け、今度は気候変動による被害を受けている。いつもこのように私たちの犠牲になっているわけです。そこで、これからますます真剣に考えなければいけないのは、戦争も気候危機も若者の未来を奪う。「経済的徴兵制」という言葉がありますが、太平洋の島々の人たちと一緒に行動するにつけ、彼らは貧困によって徴兵されているのと同じだなと思うことがたくさんあります。日本でも貧しい若者を戦場に送る企みはとっくに始まっています。太平洋の場合は気候変動によって奪われた自給自足生活、ができなくなってしまった。魚が全然いなくなって、サンゴもどんどんなくなっているので自給自足ができなくなった。現金が必要になって、モノを買わないと食べていけなくなってしまった。

いま地球規模で見ると50年間で、私たちが食べる食用魚、中型魚が9割なくなりました。10分の1に減っています。それだけ魚がなくなっている。これはマーシャル諸島のアイルックという島で、日本人が初めてヨットで来たということで大歓迎してくれて、もてなしてくれました。けれども、この食事の中で、もう動物性タンパク質のものはないんです。魚が獲れないからです。本当に申し訳ない気持ちになりました。彼らは魚が大好きだけれども、もう食べるのにも困っている。

若者の目の前から未来を奪う戦争と環境破壊

そういう状況は私たちが「気候正義」、「正義」という言葉で考えれば、これはもう我慢できないな、こんなことをしていいはずがないと思います。けれども、このことを都合よく利用している人たちがいるわけです。これが軍事産業です。グアム島はアメリカ国防省のリクルート天国といわれています。どんどん軍隊に入っている。全部の高校に軍隊クラブがあって、大学にはもちろん予備役の訓練クラブがあります。チャモロという現地先住民の子たちが、軍隊クラブに入って行進をしたりしています。「制服が格好いい」とか、そういうこともあるのかもしれないけれども、みんなやっぱり現金が必要で、子どもたちが軍隊に入らなければならなくなっている。これをアメリカ国防省の人たちは「太平洋の槍の先端」といっています。戦死者率はアメリカ本国の4倍です。

湾岸戦争のときも、グアム島の出身のチャモロの男性3人が、地雷でいっぺんにやられたというニュースが新聞に載っていました。マーシャルからも、パラオからも行っている、チューク、ポナペ、ヤップ島からも兵隊に行っています。いまグアム国際空港に行くと、ほとんど日本人の観光客が行かないところですけれども、ずらーっと戦死した若者たちの写真が飾ってあります。どんどん増えていっています。

こうしたことが太平洋の遠い島々に起きているのではなく、いま日本でも起きている「経済的徴兵制」、これに私たちは強い警告を発する必要があると思っています。とうとう空母まで造ってしまっている国ですから、巨大な軍事費はどんどん増やしている。その巨大な軍事費を再生エネルギーの開発に回せと、若い人たちと一緒に言っています。そうじゃないと、いま若い世代には「二重負債」を私たちは押しつけている。ひとつは環境負債もうひとつは赤字国債、財政負債ですね。若い人たちの未来を奪って平気でいられるか。もう一度ここで出しますけれども、「気候正義」はこれなんです。若い人たちの未来を奪う。私たちは「逃げ切り世代」と言われている。逃げ切っちゃいけないということですね。

遅れている日本の環境教育と敏感な若者の感覚

 実はこの辺の話は、僕は若い人たちがよく集まる気候の問題に関するセミナーや、大学の授業もやっていますが、若い人がいっぱい集まるんですよ。どんな話をしているかというと、まず留学経験があったりする子がすごく多いんです。海外に行って日本との違いにびっくりするんですね。海外から帰ってきて日本が遅れていることに気がついたということ。共通していることは「気候問題は親に言ってもだめだ」。「お父さん、お母さん、ペットボトルなんかだめ」とか、「地球は2030年には臨界期だ」なんて言うと、「お前、今度は何の宗教だ」となります。「親に話したってだめだ」ってみんな言うんですよ。これはやばいなと僕は思っているんですね。

もうひとつは、「ダイベストメント」ということが若い人たちの中で「やろう、やろう」となっています。これは、化石燃料に投資したりお金を貸している銀行には、お金を預けるのはやめようということです。ヨーロッパではこれでずいぶん成果を上げています。このあいだも、「お宅の銀行が石炭火力発電所に融資しているので、定期をやめますと言ってきたんです」というから、「偉いね、いくら出してきた」と聞いたら、「10万円です」ということでした。「いいじゃん、10万円でも」と言ったけれども、健気ですよ。

みなさん、SDGsというのはピンときますか。SDGsは大事ですよ。SDGsというのは国連が中心になって世界みんなで何とかがんばろう、これをやらないと大変なことになるということでやっている世界的な運動です。日本は全然だめなんです。もうひとつは「エシカル」という言葉に、若い女性がこの言葉にひかれています。「倫理的に」「道徳的に」という言葉で、そういった講座を受けたとか芸能人や有名なタレントさんに「エシカル」と言っている子が増えたということで、少しずつ増えてきています。こういうことに敏感である必要があると思うんです。

例えば、みなさん感じたことはありますか。日本のパスポートは世界最強ですよ。なんといっても193ヶ国にビザなしで入国できる。こんなパスポートはないんですよ。これを海外によく行っているとか、留学していたという子たちにすると「えー、何でですか」、「憲法9条があるからだよ」と。だから他の国はみんな「お宅の国はいいね、平和憲法があって」と思っているんだぞ。日本は憲法9条があるからビザなしで入れるんだという話をすると、「えー、知らなかった」ってみんないうんですね。これは堂々と言ってください。「世界最強だ」「こんなパスポートはないんだぞ」ということですね。こういうことを若い人向けに普段話しています。

平和関係や憲法関係の集まりではどうしても若い人は少ないんですよね。そこで、みなさんにはこういうお願いをしています。まず日本は環境教育がものすごく遅れていて、政策も国民意識も遅れている。だから自分達を責めても仕方がない。私たちはこういうことを学校教育で受けてこなかったわけですから、そのことをまず知りましょう。30年遅れているということはだいたいの気候学者やジャーナリストが言っています。「30年遅れている」ということは、チェルノブイリなんです。あのときに原発事故があっていっぱい放射能がヨーロッパに降ってきたわけです。そのときにヨーロッパ中の気候学者、もちろん政治家も含めて「科学の敗北だ」と言ったんです。子どもたちの未来を守るには、科学を根本から考え直さなければいけないということで、みんなで環境教育のプログラムをつくりました。そのときに学校にいた子たちがいま政治経済の中枢にいる人たちです。チェルノブイリのときの子どもたちがいまヨーロッパで活躍しています。日本も福島でああいうことがあって、本当にいつまでも忘れずにちゃんと振り返って検証していく必要があるし、裁判や訴訟でがんばっていく必要があるわけです。

環境と平和をめざすSDGs と日本国憲法

もしSDGsっていまひとつわからないなという人がいたら、SDGs は日本国憲法とまったく同じだと言っています。まずSDGsの前文と憲法の前文を比較すると「えー、同じじゃないか」ということがよくわかります。SDGs は「誰ひとり取り残さない」ということがひとつの合い言葉になっています。これは日本国憲法にもちゃんと書かれている。SDGsは17の目標がありますが、それを細部に分けると100条になります。「貧困をなくそう」――前文と日本国憲法25条、それから「飢餓をゼロに」――これも前文と25条と言う具合に、ほとんど日本国憲法そのものなんですね。こういったようなことをよくよく考えると、気候危機、気候正義、気候の問題というのは人権問題だということに気がつきます。そのことを僕はなるべく若い世代と一緒になって勉強しようとすると、ついてきてくれるんですね。

最近あったその最大の成果が、横須賀であったグレタ・トゥーンベリさんの映画の上映会です。これは僕自身が横須賀の石炭火力発電の行政訴訟の原告なっているものですから、裁判をずっとやっています。11月に判決が出るんですけれども、この訴訟の原告団長が鈴木陸郎さんという70歳以上の元学校の先生ですが、原告団には中学生もいます。中学生が原告になっているんですよ。この石炭火力発電所反対というのは世代を超えて集まっていて、しかも軍事問題も抱える横須賀市の人口30万ちょっとしかいない町で、この映画会に1100人も集まった。これは奇跡が起きたということになったんです。みんなで記念撮影すると、真ん中にいる70いくつの鈴木さんを若い人もみんな尊敬して、一緒に学習を進めているということですね。このように一緒に世代を超えて活動が盛り上がってくると、若い子たちは「No Peace Without Climate Justice」「気候正義なくして平和はない」となってきます。これが今後の運動で大事なことではないかと思っています。

コスタリカは平和憲法を持っているだけじゃなくて、プラスティックフリー、カーボンフリーを実現した国です。2022年、世界で最初の国で、環境でもリードしているんです。「エコツーリズム」という言葉はコスタリカが発祥です。エコツーリズムは、ベトナム戦争で兵役を拒否して国外に出たアメリカ人が、コスタリカに来てつくったんですよ。そういう意味でも平和と環境はつながっていて、環境を大事にする、教育を大事にする、軍隊を廃止したという国からヒントをもらいましょうとやっています。

平和運動と環境運動の世代を超えた連帯を!

私たちは地球環境、地球を守るためにまず平和憲法を守る。これをもっとやりましょうということで、大事なことはひとりで勉強するのではなくてこうやって集まって学習することがどれだけ意義深いかということ。もうひとつは憲法9条は、ただ単に日本の平和主義の象徴みたいなものではない。憲法9条は地球と全人類を救う平和憲法だということを訴えていく必要がある。そのためには気候変動をもう一度基本から学んで包括的に知る。そして戦争が一番の環境破壊であるということ、私たちの星-地球を守るために一緒に行動しよう。「若い人、力を貸してくれ」という、こういったことが必要だと思います。そして私たちは自信を持って、長いこと平和運動をやってきたという歴史を、ちゃんと伝える必要も同時にあると思います。戦後すぐの1946年に婦人民主クラブができて、お母さん方はがんばったんです。そして1955年、僕が生まれた年に母親大会の第1回が豊島公会堂で行われた。やっぱりお母さんががんばった。核兵器禁止条約は間違いなく日本がリードしてきて、ここまで長い運動をしてきたからで、継続は力だと思います。

 最後に、今日聞いたことで新しく覚えていただいたことを、ぜひ普通の会話の中で「気候正義」とかを使って欲しいなと思います。去年11月に「海の中から地球を考える」という本を出しました。今日ここでお話ししたようなことが書いてあります。そしてなぜ平和と環境が大事かということを小学生向けに書いた本です。これが基本的なサンゴの話、環境の話、戦争と平和の話、それから僕自身がなぜ平和と環境に取り組んだのかということ、実は長崎が母親のルーツなものですから、そのときの話などを入れてあります。初めて聞いたことも含めて、とりあえずは知ることが希望です。ここから一緒に学んでいきたいと思います。

質問:もうすぐ参議院選挙ですが環境問題はあまり話題にならない。自民党は原発再稼働を言っているし軍事費も増やそうとしています。でも気候危機と平和は同じだということで、野党の方がもっと政策的に環境問題とかいってくれないかと思っているのですが。

答:ヨーロッパでは与党も野党も関係なく、環境政策を上げていない政党はゼロです。環境政策を上げないと誰も投票しないくらいになっています。日本は恐ろしくその辺は遅れている。ところが去年の選挙のときに、それぞれの政党が掲げている環境政策を表にしたものがSNSでずいぶん出回りました。WWFとか気候ネットワークとか、かなりメジャーな環境NGOがかなり詳細に調べて比較した表が出回りました。そこでは、いまの政権政党はほぼ環境政策がゼロでした。現実は環境では選挙は勝てないというのは確かにあったし、僕も正直ちょっと思っていました。もっとびっくりしたのは、ちゃんと政策を掲げている筆頭は日本共産党、その次が社民党、それから立憲民主党、れいわも出していました。去年は、選挙は環境では勝てないよって言った人もいるかもしれないけれども、僕はそう思っていないですね。若い人が、「次の選挙は、これからの活動で選挙で勝たないと変わらないね」って、そういう言葉を使ったのを初めて聞いたんですね。ずっと平和運動をやっている人たちが「なんだかんだ言って選挙で勝たなきゃどうしようもないよね」と言うと、若い子はちょっと引くんですよ。でもいまそのような言葉が若い人から出てきたということ自体が、僕は変化だと思っているんですね。

環境政策で決定的なのは、科学者と共に歩む政党であり国民である必要があります。その科学者をないがしろにする、特に学術会議の問題もそうでしたけれども、こんなことがあったら地球に未来はないです。だからそれをちゃんとお互いに確認すること。僕はつい先週も、航海から帰ってきてからすぐに湘南学園という中学校の授業を頼まれて行ったんです。学校でははっきり選挙の話をします。校長が嫌な顔をしようが何をしようが、「あと何年で投票に行くの」と。自分達の未来を考えたいんだったら、環境政策を上げている政党に投票しないと自業自得だぞ、という話をしています。僕もがんばるけれども、みなさんも一緒にやってくれというようにやっています。それが今後の僕らの合い言葉のように、「環境政策がない政党なんておっかなくて入れられないよ」といいうくらいになっていけばいいなと思っています。

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