私と憲法252号(2022年4月25日号)


岸田自民党による安保防衛政策の大転換

「国是」の変更

1976年に三木武夫内閣が防衛費(軍事費)は「国民総生産(GNP)比1%を超えない」ことを閣議決定した。以来、1987年度に中曽根内閣が1%枠を撤廃したが、1990年度以降は、リーマン・ショックでGDPが落ち込み1%を超えた2010年度を除き、ともかくも事実上「1%未満」で推移してきた。

これは歴代内閣の「専守防衛」政策と不可分で、「専守防衛」は日本国憲法第9条との関連で解釈され、日本の防衛戦略の基本的姿勢とされてきた(筆者は異論はあるが「専守防衛」論の是非はここでは一旦わきに置きたい)。専守防衛は「相手から武力攻撃を受けたとき初めて防衛力を行使し、行使は自衛のための必要最低限度であり、保持する防衛力(軍事力)も自衛のための必要最低限度のものに限られる」とされてきた。

いま、岸田文雄内閣の下で、この「国是」ともいうべき「専守防衛」路線、「GNP比1%」以内という路線が、「海外で戦争のできる国」に向かって大きく転換されようとしている。
岸田内閣は従来の政府の路線を大きく転換するために、年内に防衛3文書、「国家安全保障戦略」「防衛大綱」「中期防衛力整備計画」を改訂しようとしている。この間、自民党はその文書に反映するための「提言」案をまとめるための討議を進めてきた。

反撃能力

岸田首相は今年年頭の施政方針演説で、「いわゆる『敵基地攻撃能力』をふくめ、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討する」とのべた。「あらゆる選択肢を排除しない」と言明したことで、従来の政府与党がとってきた安保防衛政策に対する縛りがほどけた。

この岸田首相が示した指針に沿って、自民党安全保障調査会(会長・小野寺五典元防衛相)は昨年末から20回近くの会合を重ねて来たが、このほど党の防衛関係の幹部も参加して4日連続の異例の会議を行い、4月21日の会合で、国家安全保障戦略の改定に向けた「提言案」をとりまとめ、大筋了承した。参院選挙を経て、この「提言」が反映された防衛3文書がつくられていくことになる。

提言案は従来使用してきた「敵基地攻撃能力」の呼称を「反撃能力」に改め、その能力を保有することを政府に求める内容だ。攻撃対象には相手国のミサイル基地だけでなく、指揮統制に関連する機能も含める。防衛費については従来の額の倍増になる「国内総生産(GDP)比2%以上」への増額を念頭に「5年以内」に達成することを盛り込んだ。

提言案は、公明党の北側一雄副代表らが強硬に求めて来た「先制攻撃」を連想させる「敵基地攻撃」との呼称を回避して、「攻撃」という文言を削除し、「弾道ミサイル攻撃を含むわが国への武力攻撃に対する反撃能力を保有し、抑止、対処する」などと記したうえで、小野寺会長の判断で呼称を「反撃能力」に置き換えた。自民党による人びとを愚弄するやりかただ、

そして軍事技術力を向上させつつある中国や朝鮮の軍事動向を踏まえ、「迎撃のみではわが国を防衛しきれない恐れがある」と強調する。相手国が車両や潜水艦などからの発射能力を持っていることなどミサイル発射方式の多様化も見据えて、「基地に限定する必要はない。向こうの中枢を攻撃することも含めるべきだ」などの意見を反映し、「(攻撃対象は)基地に限定されるものではなく、相手国の指揮統制機能等も含む」と明記した。

従来日本政府がとってきた基本方針である「専守防衛」との関係でも重大な変更だ。従来の考えでは専守防衛は、相手から武力攻撃を受けた場合、初めて防衛力を行使するものであり、それは「必要最小限の行使」であり、装備も必要最小限のものに限っていた。安倍首相も2018年当時「防衛戦略としては大変厳しい。ミサイル攻撃の第1弾は甘受しなければならないが、この考え方は憲法の精神にのっとったものだ」と発言している。

これに対して今回の提言の「反撃能力」はそうではなく、「敵の第一撃」を甘受することは想定していない。「相手側の攻撃が、明確に意図があって、すでに着手している状況であれば、(敵基地攻撃の)判断を政府が行う」(小野寺会長)として、先制攻撃を容認している。「やられる前にやってしまえ」と。相手側の武力攻撃の内容でも、「弾道ミサイル攻撃を含むわが国への武力攻撃」とし、サイバー、電磁波などへの対処も織り込んでいる。

これは一大転換であり、「能力の保有」と「専守防衛」の関係、従来の安保体制の下での米軍との役割分担の関係など、底が抜けたような大問題だ。

戦争する国

今回の自民党安全保障調査会で議論されたものは、ロシアのウクライナ侵略戦争や、「台湾有事」は「日本有事」などというトンデモない議論を口実にして、従来の日本政府の「専守防衛」などの立場を大きく転換することになるものだ。

安倍晋三元首相などは「敵基地攻撃能力の保有」とともに、「核の共有」なども叫び始めた。2020年9月の安倍辞任「談話」などによって、この間、議論を巻き起こしてきた「敵基地攻撃能力の保有」論は、相手国の弾道ミサイルの発射拠点を直接攻撃する能力のことで、従来はミサイルの早期迎撃に主眼を置いた議論だった。

しかし、安倍元首相は最近「私は打撃力といってきたが、(目標を)基地に限定する必要はない。向こう(相手国)の中枢を攻撃することも含むべきだ」「(攻撃を)基地に限定する必要はないわけでありまして、向こうの中枢を攻撃するということも含むべきなんだろうと」(4月3日、山口市)などと発言し、折木良一元統合幕僚長も「相手の基地にかぎらず、指揮・統制施設や通信施設への攻撃も含む」(日経1月21日)などと言って政府機関やインフラまで攻撃対象にするような議論をいっそうエスカレートさせている。これは「防衛」の名のもとにウクライナの首都キーウまで攻撃したロシアのウクライナ侵攻と同じで、世界を揺るがせているロシアのウクライナ侵略という惨事に便乗したショックドクトリンだ。

安保調査会で飛び交った「従来の必要最小限では抑止力にならず、国民を守れない」とする意見や「攻撃範囲を相手国のミサイル基地に限定せず、指揮統制機能まで攻撃する能力を持つ必要」などの意見も、専守防衛どころか、国際法違反の「先制攻撃能力保有」にまでつながるものだ。

「敵基地攻撃能力」では聞こえが悪いので、「反撃能力」と呼ぶなどということは、人々を愚弄するものだ。なんと呼称しようと、これは「戦争」そのものだ。
憲法第9条はその第1項で「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」と明確に書いており、「敵基地攻撃能力の行使」はまさにこの第9条が禁止する「戦力」であり、その保有は憲法違反に他ならない。こんなことは敢えて論ずるまでもない自明のことだ。

5年以内に軍事費11兆円

自民党は昨年の総選挙の公約でNATO諸国が米国の要求する国防予算の目標を2%以上としていることに倣って、日本の防衛費もGDP比2%以上にすることを主張しました。岸田首相は「防衛力の抜本的強化」をかかげている。

防衛費対GDP比2%以上に目標を変更することは、1976年の三木内閣以来、憲法9条の解釈との関連で「専守防衛」「必要最小限」という考え方を前提に政府を縛ってきた防衛費の上限の「対GNP比1%以内」を変更するものだ。とりわけ安倍政権からの9年でも防衛費は年々増額してきたとはいえ、対GDP比1%以内に抑えてきたものを大幅に突破するものだ(ちなみに、NATOは防衛費の計算に恩給費やPKO関連費なども含めているので、21年度の防衛予算は1.24%になると岸防衛相の答弁がある)。提言は軍事費についてNATO(北大西洋条約機構)が目標としているGDP比2%以上に足並みをそろえようとしているが、今年度の当初予算は5・4兆円であり、5年以内に11兆円以上の規模とする大軍拡を企図していることになる。21年度防衛予算を2%で計算すると、日本は米国、中国につづく世界第3位の軍事費大国になる。憲法9条がある国で、このようなことが許されていいはずはない。

相手国との全面戦争

この巨大な軍拡が2015年の安保法制の下で進められていることは見逃せない。従来は相手国を攻撃する「矛」の役目は米軍がにない、防衛の「盾」の役目は自衛隊が担うという役割分担をしてきた。ゆえに自衛隊は航空母艦、弾道ミサイル、戦略爆撃機などの「戦略的兵器」は保有して来なかった。安保法制は従来の集団的自衛権行使に関する憲法解釈を変えて、集団的自衛権の行使を拡大し、武力攻撃事態、存立危機事態などという名目で、日本への武力攻撃がなくても、米国が例えば中国等との戦争を開始した場合、日本の自衛隊が米軍とともに相手国のミサイル基地などと合わせて、「指揮系統機能」=司令部を攻撃することになり、全面戦争にはいることだ。

こうして岸田内閣の下で、日本は急速に軍事力を強め、日米同盟を中心に欧米諸国やインド、豪州、ニュージーランドなどとの軍事協力を推進し、中国、朝鮮包囲網の形成にまい進している。このことがアジア・太平洋の軍事的緊張をいたずらに増大させ、不安定化することは間違いない。

このたびのロシアによるウクライナ侵略から学ぶべきことは、戦争につながる軍事力の強化で国の安全を保障しようとするのではなく、平時から友好と協力、共存の国際関係を形成し、たとえば「非核兵器地帯条約」締結など、全域の共同の安全保障体制を作り上げることの大切さだ。岸田政権はこの道を逆走している。岸田政権の暴走を止めなくてはならない。
(高田 健)

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いま、憲法審査会は? 4・7院内集会

国会では「定例日には毎回必ず憲法審査会を開け」という改憲派の合唱で、異様なテンポで衆議院憲法審査会が開催され、追って参議院も開かれるようになった。こうしたテンポで開かれる憲法審査会の実情は市民にどれだけ伝わっているだろうか。しかも、その審議の中身を見ると、緊急事態時の国会議員の「出席」をオンラインも可とするかどうかの議論では、多数決で憲法56条の「出席」の解釈が決められ、議長に報告されるなどが行われた。憲法審査会が採決を強行したことも大きな問題だし、そもそも憲法審査会が憲法の「解釈」を決定すること自体の是非が問われなくてはならない。

現在は緊急時の議員任期の延長問題が議論されており、同様の問題が付きまとう。
こうした危うい運営が進んでいる憲法審査会の実情があまりにも市民に知られていない。
4月7日、総がかり行動実行委員会と改憲問題対策法律家6団体は衆議院第2議員会館で院内集会を開催した。集会では土井登美江さんが司会し、憲法審査会の現状を法律家6団体から弁護士の大江京子さんと弁護士の田中隆さんが報告した。近藤昭一委員(立憲民主党)と赤嶺政賢委員(共産党)が挨拶し、会場から質疑応答があった。参加者は定員いっぱいの60名、Youtubeの同時視聴は180名。

声明 「改憲ありき」の拙速な憲法論議に異議あり

開会中の通常国会では、2月10日から衆議院の憲法審査会が毎週開催され、参議院の憲法審査会も3月25日から開催されはじめた。国会での改憲論議が、一気に加速している。
しかし、改憲を求める市民の声は決して高くない。先の総選挙でも「重視した政策」として「憲法改正」と回答した有権者はわずか3%でしかない(日本テレビ出口調査)。総選挙中の各党党首の街頭演説でも、ほとんどが改憲問題には全く触れられていない(NHK調査)。
にもかかわらず、総選挙で改憲を主張する勢力が議席の多数を占めたことを嚆矢に、「改憲ありき」、「スケジュールありき」の改憲論議となっていることに強く抗議する。主権者の負託をふまえない立法府の暴走はやめるべきである。
とりわけ衆議院の憲法審査会では、自然災害や感染症の拡大、戦争など際に、国会機能維持や、国会の機能喪失の場合に法律と同じ効力をもつ「緊急政令」制定権限、緊急事態での人権制限などを可能にする緊急事態条項の創設が、改憲事項として論議されている。
見過ごせないのは、その緊急事態条項創設論議ともかかわって先行して論議された「オンライン審議」について、憲法56条の「出席」に「オンライン出席」を含むとの解釈とりまとめを多数決で行ったことである。「憲法改正原案などを審査する機関」とされる憲法審査会に、憲法解釈の権限は付与されていない。権限逸脱であるとともに、改憲につながる論議を多数で強行したことも暴挙であり、強く抗議する。
自然災害や感染症の拡大によって国会機能の喪失がありうるのか、選挙時の災害などに対応できる参議院緊急集会でなぜ不十分なのか、戦争有事の時にこそ政府の暴走にブレーキをかけるのが国会の役割ではないのか、など緊急事態条項の必要性についての国民への説明も論議もないままの衆議院憲法審査会の論議は、「改憲ありき」、「スケジュールありき」の証左である。審議の進め方、あり方を改めるべきである。
憲法制定時の国会審議で、緊急事態条項を規定しない理由として「政府の自由判断を大幅に残しておくとどの様な精緻な憲法でも破壊される可能性」や「濫用危険性」を担当大臣が述べている。その懸念が払しょくできるほどに立憲主義が浸透し、権力分立が成熟したとは到底思えないのが今の政治の状況である。
国会審議で118回も首相が虚偽答弁を繰り返し、野党の臨時国会開催要求が再三再四拒否される状況は、逆に権力の暴走、権力の乱用への懸念を抱かせるものである。
通常国会冒頭の施政方針演説で岸田首相は「憲法改正に関する国民的議論を喚起していくには、我々国会議員が、国会の内外で、議論を積み重ね、発信していくことが必要」と述べている。このような上からの改憲論議の姿勢こそ、憲法の理念、立憲主義をふまえない権力の暴走の表れである。その暴走に歯止めをかけるのではなく、さらに加速させる状況を作り出している衆議院憲法審査会の審議状況に、抗議の意思を表明し、拙速な論議を改めるよう重ねて求める。
2022年4月7日
いま、憲法審査会は? 4・7院内集会

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第77回 19日行動開催

4月19日、第77回目の「国会議員会館前19日行動」が行われた。各党からは、伊波洋一さん(沖縄の風)、福島みずほさん(社民党)、井上哲士さん(共産党)、石垣のりこさん(立憲民主党)がそれぞれ挨拶をした。市民の発言は、改憲問題対策法律家6団体の代表と、辺野古基地を造らせないオール沖縄会議事務局長の福元勇司さん、総がかり行動・性差別撤廃プロジェクトチームのふやふやさんが発言した。

この日からは、日本政府による平和憲法改悪に反対して日本市民と連解する韓国・ソウルの行動がはじめられた。この行動に連帯して両国市民のメッセージ交換が行われたことが紹介された。

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女性達の連帯でこの悲劇を終わらせたい
ふやふや  
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私たち、総がかり行動実行委員会・性差別撤廃プロジェクトチームは、2019年に発足、毎月1回、有楽町イトシア前にてウィメンズアクションを行っています。様々な性差別の問題と、ジェンダー平等が、憲法の①国民主権②基本的人権の尊重③平和主義と結びついていることなど、女性問題に取り組む団体や個人が代わる代わるマイクを握り、女性議員さんも参加され、街中で発信しています。

プーチンの侵略戦争により、ウクライナ女性たちの多くの性被害の状況があきらかになってきました。ウクライナに支部を持つ女性人権団体によると、「レイプされた女性や少女は数百人、あるいは数千人いるかもしれない。しかし戦時下では、通信や電力供給が不安定なため、証拠集めが難しい」ということです。ウクライナ兵の妻だからと被害に遭った女性がいます。秋田犬を飼っていた女性は、自宅近くでレイプされた末に殺されました。

キーウ居住の女性運動家は「護身のために真っ先に手に取ったのはコンドームとはさみだった」「緊急避妊薬を探し回った」と話しています。

しかもロシア兵だけでなく、ウクライナ兵に学校の図書館で強姦されそうになった教師もいるとウクライナ警察当局が伝えています。

戦争は、肉体的な暴力だけでなく、性暴力を必ずもたらすということは、「日本軍の慰安婦問題」を例に挙げるまでもなく、歴史が示しています。

4月8日の日比谷野外音楽堂でのウクライナ市民に連帯する集会では、女性ブースを設けました。ここには様々な団体も含めた女性たちが参加、「総がかり」では初の女性のデモグループを作り、銀座の街を歩きました。アナウンスでは、ウクライナ女性の置かれている性被害の状況や、ロシアのフェミニストたちも反戦の声を上げていることを伝えました。

「性暴力を許さない」というコールをしながら、「力による支配を女たちは許さない。反戦に立ち上がる全世界の女性たちに連帯します。」という横断幕を持ち歩きました。これ以上の性暴力が起きないためにも、一日も早く戦争が終わって欲しいという女性たちの思いが伝わったのでしょうか。銀座の女性たちが真剣に私たちの様子を見つめ、アナウンスに耳を傾けてくれていました。女性たちの連帯で、一刻も早くこの悲劇を終わらせたいです。

いま起きている戦争を利用し、9条で国は守れない、敵基地攻撃能力を保有し、緊急事態条項の創設を。核共有も議論を、と人々の不安に付け込み、勇ましいことをいう政治家たちがいます。この流れに引っ張られたまま、参議院選挙になだれ込むわけにはいきません。
それこそ憲法改悪から、戦争に繋がる一本道になってしまいます。
今が頑張り時だと思います。
コロナ対策を取りながら、デモや集会、街頭アクション、SNS、憲法改悪を許さない全国署名行動など、やれることをとにかくやるしかない!
戦争放棄をうたう平和憲法を大切にしたい!という世論を私たちが作れるかどうかで参議院選の結果も変わってきます。共にがんばりましょう。ありがとうございました。

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平和の声を上げるために日本国会議員会館前に集まられた市民の皆さまに送るメッセージ

ョン、SNS、憲法改悪を許さない全国署名行動など、やれることをとにかくやるしかない!
戦争放棄をうたう平和憲法を大切にしたい!という世論を私たちが作れるかどうかで参議院選の結果も変わってきます。共にがんばりましょう。ありがとうございました。

本日4月19日、韓国の市民団体と宗教団体が共にする<日韓和解と平和プラットフォーム韓国運営委員会>は日本大使館前に集いました。平和憲法改定に反対し、反戦と平和の声を上げておられる日本の皆さまと共に歩んで行くためです。「19日行動」が第77回を迎える今日、韓国の市民たちも毎月、日本の市民たちに連帯し、「19日行動」を展開していくことを宣言しました。日本の平和憲法を守ることは日本の市民がただけの問題ではないからです。
わたしたちは平和憲法の破壊をもくろむ動きが急速に強化されている日本の状況を注意深く見守っています。敵基地攻撃能力保有の検討と防衛費引き上げ、「今年のテーマは改憲」と公言するなどの「戦争の可能な国づくり」は共に生きていくアジア市民たちの平和を脅かしています。韓国の状況もまた異なるところはありません。5月になれば、新しい政府が動き出しますが、尹錫悦新大統領は候補であった時期から韓米日同盟と軍事協力などを強調していました。対話と協力を強調する、これまでの韓半島平和プロセス推進の路線とは異なる大きな変化が起こるであろうと予想されます。韓半島がまた再び戦争と葛藤の空間となること、また共に生きていくアジアの市民たちの平和にとって脅威となって行くことでしょう。
東北アジアの平和の実現のために連帯することが韓日の市民社会の共通の課題であることをさらに一層実感するこの頃であります。そのような中で、日本におられる皆さまが今、このように平和の声をあげることは、韓国にいるわたしたちにとってこれ以上ない大きな励ましであり、力となります。去る2015年から、いやそれよりもはるか以前から全国各地で平和の声を上げながら、行動してこられた皆さまに熱い感謝と敬意をもってご挨拶いたします。
2015年に「19日行動」を宣言された日本の皆さまは、「我々は人々の力を信じ、希望をもって前進します。全世界の人々のいのちのために、平和のために」と叫ばれました。どのようなこころで19日行動を始められたことか、そして今日まで続けてこられたかについて思いめぐらしてみますと、わたしたちの心に大きな感動が湧いて来ます。韓国にいるわたしたちも皆さまと共に「人間の力を信じ、希望をもって前進」していくべきです。今日のこの日を契機としてさらに一層互いの連帯を強め、東北アジアの平和と共生のために共に闘って行きましょう!

2022年4月19日
<韓日和解と平和プラットフォーム韓国運営委員会>一同

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連続コラム 女というだけで

私は「わたし」「無二の私」   中尾 梢 事務局 

私は国民以前に「無二の私」。それは国民でもなく、あるいは「個人」でもない。
「わたし」を作り上げているのは、ジェンダーや、国籍、職業、人種、文化、など様々な関係性や関わってきた時間とそれらが集合した環境の中にあると思っている。

何10年も生きてきた過程で幾つもの岐路に立たされた。どっちの生き方を選ぶの?か、を自分に問いかけ現在を生きている。生きていく方向は自分で選ぶ。それは、即答の場合もあったし時間がかかることもあった。不満足なことも多々あったが自分の人生を振り返った時、「いやなことも、忘れがたい失敗もあったけれど、自分はこうやって生きてきた」、という確実なものが見いだせるかどうかだと思っている。これからの残された人生もそんなものだと思っている。

コロナ禍が収束しないうちに、ロシア軍のウクライナ侵略が始まって2か月が経つ。「日本政府は憲法9条に基づく平和外交努力の先頭に立って尽力せよ!」と大きく声あげよう

―コロナ禍の中で、日本社会のジェンダーの壁があぶりだされた。―

○企業などの雇用調整で女性たちが真っ先に職を失い自殺に追い込まれた。
○学童の一斉休校で、仕事を休まざるを得ない母親たち。
○国の一律給付金は世帯主に支給され、?Ⅴ被害で避難していた妻は受け取れなかった。
○介護職などケアワーカーの仕事量が増える一方、低賃金と処遇の低さ。
○?Ⅴと若年妊娠の増加。

―ジェンダーギャップ格差指数(GGI)では156ヵ国中120位(2021年3月)―

国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)は女性差別撤廃条約にもとづいて、4年に1度、状況を審査するシステムをとっている。2016年に行なわれた審査でも大変厳しい勧告が出されている。日本政府は「女性の活躍推進法」や「子ども・子育て支援法」の制定で、日本では男女共同参画が進んできているという報告をしている。が、委員会は前回の勧告が実施されていない事に懸念を表明している。特に、民法改正、政治への女性の進出、女性への暴力、「慰安婦」問題などをあげて「強く要請する」という言葉で日本政府へ改善を求めている。

「慰安婦」問題について触れたい。

1991年8月、韓国人女性の金学順(キム・ハクスン)さんが、「日本軍の慰安婦だった」と自ら名乗り出た。日本国内で決定的に問題化したのは1991年12月、金学順さんを始めとする元「慰安婦」の韓国女性3人が日本政府に謝罪と個人補償求める訴訟を東京地裁に提訴したときのことである。この3人の被害者女性の勇気ある告発は「従軍慰安婦」をめぐるパラダイム(特定の時代や分野において支配的な規範となる「物の見方や捉え方」)をいっきょに変える力を持っていた。

金学順さんは1997年12月16日、73歳で死去された。提訴以来6年、結審を見ることなく、日本政府の誠意ある回答も得られないまま亡くなった。が、名乗り上げた後、ジュネーブの国連人権委員会の証言に立つなど、国際的に与えた影響は大きい。亡くなる前に学順さんは「日本の少女達には私と同じ様な悲しい思いはさせたくない。」と言い残して逝かれたのだった。

国連人権委員会では1996年、1998年の2度にわたって日本政府に対して「被害者への謝罪と補償と歴史の事実を明らかにして教科書に載せること」という内容の勧告が出されている。が、日本政府は「受け入れる余地はない」と反論し、撤回した。その以前には国会答弁のなかで「慰安婦は民業者がやった事」と関与の否定の発言もあった。国会図書館にいけば公式・非公式の「戦記」「回想録」は山ほどある。

私は当時、来日した、被害者ハルモニたちと一緒に国会議員会館前で座り込みを行ったり、宿泊のサポートを行った。宿でハルモニは腕の袖を上までまくって刺青を見せてくれた。その細腕には日本軍将校の名前が彫られていた。また、他のハルモニの腹には銃剣で切られた痕が生々しく残されていた。そのとき見た傷あとを私は一生忘れない。わたしのハルモニたちへの誓いだ。同時期、地域の有志たちと一緒に、韓国の運動に連帯して池袋駅東口で水曜デモを毎週行った。

―「慰安婦」問題の背後にあったものは―

天皇制、家父長制と女性差別 国民国家と帝国主義  植民地支配と人種差別 女性間の分断支(次頁下段へ)(前頁から)配これらは今日も続く抑圧だ。私たちの闘いは過去のものではない。なぜならいま直ぐに改憲の危機がある。軍事費はGDP比2%以上を目指す自民党。
ロシア軍のウクライナ侵攻に犠牲になる女性たち。沖縄の南西諸島は要塞化した。沖縄を再び戦場にしてはならない。分断、差別、忖度政治を断ち切って、不平等な社会から誰もが命とくらしを大切に出来る社会をつくるために7月の参院選で改憲勢力には議席の3分の2を取らせない戦いを! 「戦争反対」の声を大きく上げていこう!

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第159回市民憲法講座 東アジアの軍事的緊張と平和創造―虚構としての米中新冷戦に騙されるな!―

お話:湯浅一郎さん  (NPO法人ピースデポ代表)

(編集部註)3月25日の講座で湯浅一郎さんが講演した内容を編集部の責任で要約したものです。要約の責任はすべて本誌編集部にあります。

はじめに

今日のテーマをいただいたあと、ある意味で非常に大きな出来事が2つ続いています。ひとつは言うまでもないロシアによるウクライナ侵略という、戦後始めてといってもいいような、とてつもないことが起こっています。米ソ冷戦が終わっていったプロセスの中で1980年代後半の5、6年ですけれども、「共通の安全保障」という考え方を活かして米ソ冷戦はなくなっていったわけです。その直後にソ連邦が解体して、それから30数年経った中での出来事です。米ソ冷戦の中で、欧州安全保障協力機構(OSDE)というメカニズムはできて、それによって、もう欧州では大きな戦争は起こらないとみんな思っていた中での出来事何です。冷戦終結のプロセスをもう一度振り返る必要があるし、その問題は東アジアの平和のビジョンのあり方を考える上でも極めて重要な問題だということで、どのようにお話したらいいかまだよくわからないところが正直なところです。

それから、3月24日に朝鮮民主主義人民共和国-国際的にはDPRKといっていますけれども日本では「北朝鮮」と言ってしまっていますが、今日は省略して北朝鮮と言わせてもらいます。その北朝鮮が、アメリカのどこにでも到達できる能力を持った弾道ミサイル、大陸間弾道弾と言っているICBMを発射実験した。これは2018年4月、板門店宣言をあげる1週間前に朝鮮労働党の中央委員会で、核実験とICBMの実験はしないということを決定しました。それから4年半経ついま、また再開してしまい、ちょっと心配しています。朝鮮半島の問題が膠着状態になって来る時期に入ってしまうのかなということもあって、あまり明るい話にならないかもしれないけれども、これは状況状態がそうさせていることです。でも構造は何も変わっていないので、私は日本の憲法を柱に据え、それを外交政策に反映させていくことがとても大事になっていることをお話ししたいと思います。

ピースデポは1998年につくったNPOです。その14年くらい前の1984年、アメリカが核巡航ミサイル「トマホーク」を配備することをきっかけにして「トマホーク配備を許すな全国運動」という市民運動が起こりました。私はその当時呉にいましたが、日本の各地の市民運動がネットワークをつくった運動があります。それが前身になって、一次情報に当たりながら核軍縮あるいは基地問題の情報提供をしていくシンクタンクをつくろうと発足しました。モットーは「軍事力によらない安全保障体制の構築をめざして」ということです。とりわけ北東アジアの非核兵器地帯に着目し、その切り口を通して北東アジア、東アジアの平和のビジョンをつくっていく可能性があるのではないかということで活動しています。

いまは大きく2つの事業をしています。ひとつは年鑑で「ピース・アルマナック」という本を作っています。平和の資料集のようなもので、核兵器問題や基地問題についてのデータです。それから「脱軍備・平和レポート」を2か月に1回出しています。以前は「核兵器・核実験モニター」を2週間に1回出していたんですが、2か月に1回にペースを落とし、もう少し幅広い、軍備によらないで共に生きていく道、そして平和ということについてのレポートを出していく活動をしています。

始まっている砲艦外交と安全保障のジレンマ

今日のお話ししたいことは6つあります。最初の3つは東アジアにおける軍事緊張に関わる問題で、それに対する日本政府あるいはアメリカ政府の考え方。そして日本では2016年3月に施行した安保法制のもとで、それまでやっていなかったことを日常的に進めていくことが始まっている。日米安保条約に基づいた日米共同演習はもう40年以上続いているけれど、そこにイギリスとかオランダ、カナダとか、多国間の軍艦などが一緒に入ってきています。最近はインドなんかも入ってきて、4ヶ国とか5ヶ国の軍事演習に自衛隊が日常的に参加するようなことが始まっています。2018年の防衛大綱の中に「軍事的なプレゼンスと外交を一体にして進めていく」という件が初めて出てきますが、それは「砲艦外交」が始まっているといっていいのではないかと思います。

4番目以降は、東アジアに軍事的な緊張がずっと続いている状況というのは、お互いに相手に対して不信を持っている。そして、軍事力によって自分の安全を守ろうということを相互に考えていると、結果として「軍事力による安全保障のジレンマ」という構造に入っているのではないか。その安全保障ジレンマに陥っている状況を変えていかなければ、軍拡は止められないというお話をしようと思います。冷戦終結に向かっていったときに依拠した「共通の安全保障」という考え方がありました。その「共通の安全保障」を、あらためてきちんと認識をしていく。それによって軍事力でお互いの安全の保障をしていくところから解放されて、別の道をつくっていくことができるのではないかという話をします。

 ただ残念ながらロシアによるあのウクライナ侵略は、1990年代に入る直前くらいにそこを一回やったんだけれども、30年経ってみたら結果的には揺り戻しというか、うまくいかなかったことが表面化してしまって、欧州に教科書がなくなったと私はいま思っています。でも、ひとつの実験としてやってみて上手くいかなかったという感じなのか。そういうことを人類は何回か繰り返しながら、軍事力によらない平和のビジョンを地域ごとにつくっていく方向でやっていくしかないのではないかと思っています。

とりあえずロシアのウクライナ侵略を前にしていくつか感じることがありますけれども、国連憲章に反することを、常任理事国-―国連憲章をつくった側の一員が自らそれを破ってしまうという事態になっているわけです。それについて具体的に、国連憲章のどの部分にどう矛盾しているのかということを見てみようと思います。

最後に6番目で、北東アジア全体の平和ビジョンをどのように構想していくのか。朝鮮半島の問題はなかなかうまくいかない面もあります。しかし私はいま米中対立という構図がある中で、どこをとっかかりにして東アジアの平和ビジョンを考えていくかというと、やっぱり朝鮮半島の問題を通してしか切り口がないと思います。私たちは北東アジア非核兵器地帯条約をつくることを、4半世紀言っています。例えば日本政府が言い出し、5年とか10年をかけて6ヶ国で協議をしながら、ものごとをどのようにしていくか。非核兵器地帯条約をつくるための協議ではあるけれども、その中には朝鮮戦争を終わらせるという問題も入ってきます。それから米中対立の問題とか日中の懸案問題とか、そういうのも含めたかたちの協議をする場はいろいろとつくる機会がありうるということで、そのお話しを最後にしようと思います。

東アジアの2つの対立構造

まず「東アジアの2つの対立構造」と書きました。ひとつは朝鮮半島です。1950年に朝鮮戦争が始まってまる3年間熱い戦争が続きます。1953年7月に停戦協定が結ばれて以降、70年弱経ちます。その間、言ってみれば戦争が終わっていない状態が続いているということを、日本の、例えば50代より若い人たちがどのくらい知っているんだろうかと思います。陸上では38度線、海上にもそれの延長上で境界があって、朝鮮半島は分断された状態がいまも続いています。そしてDNZという非武装地帯を境にして、ある種の臨戦態勢がずっと続いています。

もうひとつが中国の海洋進出、特に東シナ海、南シナ海です。中国が10数億人の人口で、海があるのは東シナ海、南シナ海の2つしかないわけで、ある種海に出てくるのは自然なことだと私は思うんです。それをとくにアメリカを中心にして第1列島線といわれる、日本の九州から薩南半島、南西諸島、台湾、フィリピンという第1列島線よりも外に行かせないという対立構図が続いています。

朝鮮半島に関連して24日に射程距離1万5000キロくらいはあるのではないかということで、「火星17号」と朝鮮中央通信は自分でいったようです。2017年11月に「火星15号」を発射したのが最後で、当時のトランプ政権を相手にして、核実験と弾道ミサイル実験は一応やめていたわけです。4年間止めたけれども、それに対してなんの見返りもない。本当は国連安保理決議の中身を緩和するとか、そういうことが行われればもう少し物事は前に進んだ可能性は高いけれども、結局アメリカは敵視政策そのものは変えることがなかった。そのためにしびれを切らして、また弾道ミサイル実験を始めてしまったということが、一昨日の出来事です。昨日の朝鮮中央通信では、金正恩党書記長がアメリカとの長期的対決を徹底して準備していくということを述べていまして、長期戦に入っていくという印象を持っています。そういう意味では朝鮮半島の対立構図というのはなかなか難しく、行ったり来たりという面があります。

中国の問題は、尖閣諸島周辺に中国公船の航行が日常化している。日本から見れば領海侵入ということでしょうけれども、中国の主張は、尖閣諸島周辺は自分の領土であるということです。南シナ海でも似たようなことがあって、一部恒久的施設、珊瑚礁のような環礁のところを一部埋めて滑走路のようなものをつくりました。2017年から5年の間につくった恒久施設の面積が29ヘクタールあるといわれていて、中国とフィリピンとの間である種の紛争状態になっています。こういったものに対応するために、アメリカは日本とかオーストラリア、最近はイギリスなどを巻き込みながら軍事的な中国包囲網をつくっていくことを急いでいます。

昨年の日米共同声明――「台湾」に言及し、敵基地攻撃能力の保有へ

 アメリカ政府あるいは日本政府の最近の公的な文書の中で急に台湾の問題に言及し始めて、それに対応するかたちで日本は敵基地攻撃能力の保有ということを表に出してきています。今年いっぱいの間に岸田政権がやろうとしている安全保障戦略の見直し作業の中に、敵基地攻撃能力の保有を盛り込もうとしていると言われています。それを象徴する文書が去年の4月16日のバイデンと菅の日米首脳会談での共同声明があります。「新たな時代における日米グローバルパートナーシップ」という名前のついた共同声明です。

日米同盟は、自由で開かれたインド太平洋をかたちづくるということで、そのためにもろもろの軍事力の協力体制強化の合意が羅列されています。アメリカは、まず核を含むあらゆる種類のアメリカの能力を用いた安保条約下での日本の防衛に対する支援をあらためて表明し、抑止力及び対処力を強化するためにサイバー、宇宙などを含んだすべての領域を横断する防衛協力を深めていく。そしてこういう文書では異例ですけれども、具体的な事例として辺野古における新基地建設、それから鹿児島県馬毛島での空母艦載機の離着陸訓練施設、これはずっと懸案だった問題ですけれども、それをコミットするということで、どんどん進めていくことがあらためて確認されています。

辺野古の新基地建設というのは、国際的に見ても生物多様性が非常に豊かな海をつぶして、そこに岸壁付きの新しい空港をつくる基地です。普天間基地の場合には陸の中にあって、揚陸艦はホワイトビーチに接岸します。そこにヘリコプターが行くためには、普天間から飛びたってホワイトビーチとか、走行中の強襲揚陸艦に離着陸する必要があります。この新しい基地ができれば、佐世保から揚陸艦が来て接岸して、そこに陸上の基地から、例えばオスプレイが船に乗ることができるということで、とにかく輸送能力がいままでと次元が変わってくるわけです。

このモデルは岩国基地にあります。岩国が沖合移設をやった結果として新しい岸壁ができ、港付きの軍事空港になった。これは90年代に埋め立てが行われています。それに味を占めたアメリカは、同じことを普天間基地の移設という名目でキャンプシュワブのところに埋め立てをして、新しい港付きの軍事空港をつくることにこだわっているわけです。

あわせて共同声明の中で、約50年ぶりに台湾海峡に触れています。「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」という、書き方はソフトですけれども台湾海峡問題に触れます。中国は、当然のことながら「一つの中国」という立場があるので、アメリカや日本がどうこういうべき問題ではない、と言います。中国の国内問題に対して日米が「平和的解決を促す」。それに並んだかたちで香港、新疆ウィグル自治区の人権状況についての懸念などを表明しています。とはいいながら、中国との対話は重要であるとか、共通の利益を有する分野、例えば気候危機とかそういう問題に関しては中国と一緒に共同していく必要性を認識したとか、そういうことも共同声明の中には入っています。

ほぼ同じ時期にアメリカの国会で、軍の関係者が6年後くらいには台湾に向けて中国が軍事行動をするかもしれないという証言をしています。2027年の台湾有事とかそういう話が出てきているけれども、そういう問題をこの共同声明ではまだ盛り込んでいるわけではありません。けれども、日本政府が台湾という存在を公的に認めたということでいうと、1972年の日中国交正常化から今年の10月でちょうど50年になります。その50年になる直前の年に、49年間ほとんど触れることがなかったにもかかわらず、去年4月の日米共同発表の中にいきなり「台湾」という言葉が出てきたことの意味は、やっぱり注視しておく必要があるのではないかと思います。

1972年の日中国交正常化の共同声明の中には、「台湾が中華人民共和国の領土の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は中華人民共和国の立場を十分理解し尊重する」としていました。このときの総理大臣は田中角栄です。同時に台湾と断交して、ただ経済交流だけは継続してきました。そこから今年はちょうど50年、半世紀経っています。「一つの中国」という建て前に対してのある種の意思表示、台湾に触れたということはそういう問題があるのではないかと思います。私は台湾問題についてはほとんど何も知らないので、あまりお話しできないんですけれども、一般的にいわれている範囲でいえば1949年10月、朝鮮戦争が始まる半年前ですが、そのときに中華人民共和国ができて、同時に国民党政権は台湾に逃げた。その時期に中国は何かしたいと思っていた可能性はあるけれども、朝鮮戦争が起こってしまった中でうやむやになってきて70年以上経つわけです。

アメリカの庇護のもとで台湾は1971年まで国連に加盟していました。中国は1971年になってやっと国連に加盟することになって、その加盟と同時に台湾は国連から出て行かざるを得なくなりました。翌年にニクソン大統領が中国を訪問して対中政策を転換させる。そして日本もその半年後の9月に、田中首相が中国に行って日中国交正常化を行う。そういうプロセスが戦後の約70年間にあった。その問題がいまだに続いているということです。

その後、台湾は3000万人くらいの人口がいますが、ある意味で非常に努力し、経済成長して一定の位置を確保した状態で存在しています。ですから中国の国内問題とは言いながら、中国政府にとっては一番大きな課題としてあると思います。70年前とは全然時代が変わっていますから、力づくで解決するということは無理だと思うし、やるべきではないと思います。香港とか新疆ウィグル自治地区とかチベットとかいろいろな問題がある中でも、中国政府にとっては最大の課題だろうと思います。

中国を包囲する軍事体制の構築

 去年1月にアメリカのバイデン政権が登場しましたが、4月28日の施政方針演説の中に中国に対する姿勢があらわれています。中国を、国際システムに挑戦する能力がある唯一の競争相手と位置づける。これは政治、経済、軍事あらゆる領域でこれから10年、20年、50年、どのくらい先まで見ているのか知りませんけれども、当分の間とにかく競争相手です。分野によってはアメリカ自身が追い抜かれていくという、そういう時代に入っていることを前提にして、軍事的には中国包囲網をつくっていく。その中心に安保条約に基づいた日米同盟があるし、それから日米豪印、QUAD(クワッド)、英語で4つという意味ですけれども、4つの国で、これは軍事同盟というよりは経済とか、わりと総合的な概念のようです。去年9月にはアメリカ、イギリス、オーストラリアのAUKUSという、これは軍事同盟だと思います。

ヨーロッパのNATOとは違いますが2国間とか3国間のものをいくつかつくりながら、対中国体制をつくろうとしているのがアメリカのやり方です。日本は安保条約に基づいてそれに応じていく流れになっているわけです。そういう流れの中で昨年4月16日の日米首脳共同声明もつくられているといっていいだろうと思います。中国を敵視して、同盟国を巻き込むために、ある種の新しい冷戦構図をつくる。そこに台湾有事というものが利用されようとしているという感じがします。

日米の役割分担を見直す敵基地攻撃能力保有

岸田政権が外務・防衛の関係で最初に出した公的な文書が、今年の1月7日の日米安全保障協議委員会、いわゆる2+2と言われる日米の外務・防衛大臣が2人づつ出席する4人の会合の共同発表がありました。それは昨年の日米首脳共同発表とほとんど同じものですけれども、若干違っているのは敵基地攻撃能力に関連するものが盛り込まれている。直接その言葉は使われていないけれども、「ミサイルの脅威に対抗するための能力を含め、国家の防衛に必要なあらゆる選択肢を検討する」という言葉で盛り込まれています。それを今年中につくろうとしている国家安全保障戦略の改訂作業に入れていく。その前段のアメリカに対する約束のようになっていると思います。それによっていままでの日米の役割分担を見直す。いままでアメリカが攻撃の「矛」に当たるとすれば、自衛隊は防御の「盾」になるということが一応の役割分担だったと思われているけれども、それを一部変えるということが入ってくる気配があります。

こうしたアメリカを中心とした側に対して、中国はどういう主張をしているか。中国は2年に1回国防白書を出しています。それによると中国の軍事力は一貫して防御的のものである。しかし海洋権益は重視していて、南シナ海とか尖閣諸島は中国固有の領土だと位置づけています。台湾問題は中国にとって核心的な利益、「中国は一つ」ということについての核心的利益であるということは、いまも続いていると主張しています。そういうことでいうと対立構造はなかなか解消しにくい構図の中におかれています。

「専守防衛」を超えようとする既成事実の数々

 3番目に、日本がこうした考え方の中でどういうことをやっているか。2016年の安保法制施行のもとでの日本の対応について少しおさらいをしてみたいと思います。そこにはアメリカからの要望に応えるという意味と、日本自身の自主的な軍事力の強化の側面を両方併せ持ったかたちで事態が進んでいる感じがしています。まず重要なのは専守防衛を超えようとする装備能力について既成事実がどんどん広くなっています。ただ時間的にさかのぼってみますと、専守防衛を超える能力を持ち始めたのは40年くらい前からあって、1980年代初めです。1978年に第1次日米防衛協力指針、ガイドラインが結ばれますが、その2年後くらいに海上自衛隊がリムパックという演習に参加するようになります。

ハワイ沖で演習をやるんですが、リムパックに参加するためには洋上で燃料を給油できる補給艦がないと参加できません。もともと自衛隊の艦船は日本の沿岸を守るという名目でつくられていますから、そんなに大型ではなくて、せいぜい当時でいうと3000トンクラスでした。そういうものがハワイの沖に行くためには、海の上で燃料をもらうことができるような洋上給油艦を持たなければならない。それを最初に持ったのが1980年の「さがみ」という補給艦で、これは呉に配備されていました。そのあとやや遅れて2000年くらいに空中給油機、今度は戦闘機が世界中どこでも行けるためには、空の上で燃料をもらわなければいけないということで空中給油機を持つ。そういうものが最初で、これはもう専守防衛を超える能力だったわけですよね。

自衛隊が世界中どこにでも行けるということ自体が本当はおかしい。おかしいんですが洋上給油艦と空中給油機を持つことが始まった。国会で一部議論されたことはありましたが、結局止められなかった。例えばイラク戦争が起こったときに、すぐに自衛隊は燃料補給艦をインド洋に派遣することができたわけです。なぜそれができたかというと、それよりも10年ちょっと前から、要するに専守防衛ではない能力を持っていたからです。

現在の極めつけが、護衛艦「いずも」を空母化することだと思います。垂直離着陸機ステルスF35Bを搭載できるように改造する。「いずも」はもう去年1次の工事を終わって、2次工事もあと1~2年で進んでいくといわれています。あとはスタンド・オフ・ミサイルという遠隔攻撃力を持ったミサイルの配備です。敵の射程の外からの長距離攻撃ができる巡航ミサイルのことをスタンド・オフ・ミサイルといっています。このふたつとも2018年の防衛大綱の中に盛り込まれていました。

専守防衛を担保するためには、たぶん3つの領域の問題があると思います。ひとつは装備の能力ですね。艦船とか航空機の装備の能力として、そもそも専守防衛から外れたことをするということが第1段階。

ふたつ目が、仮に「いずも」が空母と同じ機能を持ったとしても戦闘機はいつも搭載しているわけではありませんとか、そういう言い訳をしながら態勢というかポスチャーといわれる訓練の中身、そういうもので専守防衛を守りますという。能力はあるけれども運用は専守防衛に限定してやるという言い逃れをするという問題があります。仮にそうだとしても、ちゃんとした運用体制などについての情報公開、透明性があればまだしも、日本の場合は本当に透明性がないんですよね。例えば軍艦の航海日誌を情報公開法によって請求しても「何月何日どこにいたか」ということすら表に出さない。全部真っ黒塗りのものが出てくるわけです。ほとんど何もわからない。情報公開で請求しても何も出てこないという実態の中で、ちゃんと専守防衛のポスチャーが守られるのかどうかということがよくわからないという問題があります。

3つ目が防衛政策とか協議、ドクトリンとして専守防衛をちゃんとやっているかどうか。現在の日本の状況は、3番目のドクトリン――政策のレベルでは専守防衛を守りますと、いまも一応言い続けているわけです。それはそれ自体で意味がある大事なことだと思うんですが、装備の能力についてはそれをオーバーしているものが本当にたくさんある状態だということは認識する必要はあるし、さらに2番目の問題もグレーゾーンというかはっきりしない状況だと思います。

安保法制施行下の日米軍事一体化と多国間軍事協力

安保法制のもとで2016年の施行の2年後から、空母化が予定されている「いずも」を中心に、インド太平洋派遣訓練というものが毎年始まりました。年によって若干期間が違うけれども、少なくとも2ヶ月半にわたって「いずも」に2隻くらいの護衛艦が随伴して、まずインド洋から始まります。インド洋それから南シナ海、フィリピン海そして東シナ海、最後に日本の周辺というかたちで、2ヶ月半という長い期間にわたって日米共同演習をやったり、沿岸の関係国に寄港を繰り返して、寄港した国の海軍との共同演習を繰り返すということを始めました。

例えば2019年のインド太平洋派遣訓練では、「いずも」と横須賀と佐世保の護衛艦がくっついていきました。重要だと思うのは、南シナ海で「いずも」とアメリカの「ロナルド・レーガン」――これは横須賀に配備されている原子力空母ですけれども、その共同演習が2回行われています。いずれこの「いずも」は日本型の空母になるわけですから、日米の空母が南シナ海で訓練しているという話ですよ。2018年の秋にアーミテージ・ナイ報告が出て、その中で日米の合同機動部隊、つまり両方の空母の機動部隊をつくるべきだという提案をしている。事実上それに対応したものを2018年からすでに始まっているといっていいのではないかと思います。これは中国から見れば、自衛隊が米軍の一部として南シナ海の制海権とか制空権の確保に関係していると見られてもおかしくはないわけですね。

去年のインド太平洋派遣訓練部隊が、日米豪印で行われた多国間の共同訓練「マラバール」という名前のついた演習では、「いずも」型の2番艦で呉に配備されている「かが」と、アメリカの原子力空母「カール・ヴィンソン」がメインになった4ヶ国の訓練が行われています。これは3つのフェーズがあって、最初はグアム沖でやって、フィリピン海それからベンガル湾-インド洋ですね。ベンガル湾というのは日本から遥か離れたところです。そこで海上自衛隊の空母になることが予定されている「かが」と、米軍の空母「カール・ヴィンソンン」とがメインになった共同演習がおこなわれているという現実が日常化しています。
2018年の防衛大綱の中に、「海外プレゼンスと外交を一体として推進する」と書かれています。それを具現化したものがインド太平洋派遣訓練だと私たちは思っています。その大綱の中には、「積極的な共同訓練、演習や海外における寄港等を通じて平素からプレゼンスを高め我が国の意思と能力を示すとともにこうした自衛隊の部隊による活動を含む戦略的なコミュニケーションを外交と一体となって推進する」と書かれています。まさにインド太平洋派遣訓練はこれを実行していると言えます。

昔から武力を背景に展開する外交として「砲艦外交」というものがあるといわれています。例えば、古くはアメリカのペリー提督が黒船を東京湾に浮かべて日本の開国を迫ったとか、あるいはアメリカの空母は世界中を、それぞれの国と親善を深めるという名目で常時パトロールしてうろうろしている。こういうのは「砲艦外交」の典型です。自衛隊のインド太平洋派遣訓練も、平時に遠隔地に軍艦を派遣して軍事力のプレゼンスを示し、影響力を行使しようとしているという意味では「砲艦外交」が始まっているんじゃないか。これは安保法制ができる前にはなかったことだと思います。

去年から表に出だしたのはイギリスとの協力のような話です。去年2月に日英軍事協力、外務・防衛相会談が行われて、空母打撃団をアジア太平洋に派遣することに合意して、半年後の7月から11月にかけて「クイーン・エリザベス」がやってきました。アメリカとオランダの軍艦が1隻ずつくっついてきました。9月4日には横須賀に日本で初めて寄港するということが行われて、日米だけではなくて日英、オランダ、カナダといったところが含まれていて、そういったことが日常化している。

中国包囲網-琉球弧での自衛隊ミサイル基地配備

それとほぼ同時にあわせたかたちで、中国包囲網を担う九州から南西諸島までの自衛隊のミサイル基地とか馬毛島の離着陸訓練基地などが、一連の非常に包括的なかたちでの自衛隊基地の配備計画が進行しています。九州の佐世保に水陸機動団が配備されて呉の揚陸艦と連携、そして奄美大島から宮古島、石垣島、与那国島にかけて地対艦―地上から艦船に向けてミサイルを発射するとか、地上から発射して航空機、戦闘機にミサイルを発射するとか、そういう部隊がそれぞれの島に配備されていっています。言うまでもなく沖縄島には在日米軍基地の主に海兵隊が1万5千人規模で配置され、嘉手納の空軍の飛行場もあります。仮に、本当に台湾有事とかあるいは別個の問題でアメリカが関わる戦争が起これば、そういった基地群はまず最低攻撃目標にされることは間違いないと思います。

在日米軍基地というのは沖縄の海兵隊を中心にたくさんあり、それにプラス本土にも横須賀、佐世保、岩国、三沢、横田、キャンプ座間など大きな軍事基地が存在しています。実は在日米軍の規模は世界一になっています。冷戦終結時点の30年前はドイツに約20万人いたけれども、現在は世界中で16万2228人です。だいぶ減ったわけですね。おもな5つの国がありまして、日本が56000人、ドイツが34000人、韓国25000人、イタリア12000人、イギリス9400人、この5つをあわせると16万人の内のほぼ85%になります。日本の56000は世界中に配備されている米軍の35%、つまり3分の1強が日本にいます。この5つのうちの日本とドイツとイタリアは第2次世界大戦の敗戦国、枢軸国に当たります。つまりアメリカの在外基地の中心は、敗戦国に大きな軍事基地を置き続けている態がいまも続いているわけです。

気がついてみたら日本は一番多くなっていた。たぶん2012年くらいはドイツにまだ7、8万はいたと思うんですけれども、どんどん減っていていま34000です。韓国も27000くらいいましたが1万人以上本国に戻って、いまは25000で、日本だけは全然減っていません。それを可能にしているのは、名前が変わりましたけれども「思いやり予算」です。世界一お金を出して米軍基地を支えているということが、一番物理的な基盤になっていると思います。この事実は日本の人がちゃんと知っておく必要があると、私は思っています。

アメリカにとって日本に米軍基地を置いておくことの意味は、とにかく日本がお金を出してくれて本国にいるのと同じ状態、治安もそれほど悪くないし、いろいろなサービス、インフラストラクチャーもそろっている。アメリカ本国に置いておくよりも十分意味があるということがなければ、基地を減らしていく。本当は減らしていくはずなんです。ドイツや韓国は減ってきているのに日本は減っていないという現実があります。

陥ってはならない「軍事力による安全保障ジレンマ」

世界の軍事費を見ると、これは少し古いですけれども1兆9000億アメリカドルくらい、日本円で210兆円くらいですね。日本の2022年度の国家予算が107兆円で過去最高といっていますけれども、その2年分くらいです。国連の関係の経費が年間2兆円くらいで、コロナ対策を行うWHOもそうですし難民高等弁務官とか、そういうものを全部入れても2兆円くらいしかなくて、その100倍が軍事費に使われている。その軍事費の4割がアメリカ、15%くらいが中国、その2つで50%を超えています。ピースデポがつくった、冷戦終結後の世界と主要国の軍事費の推移を図にしたものです。ちょっと複雑ですけれども左側の軸がアメリカと世界で、他の国はけたが小さいので右側の軸にしています。これでわかるのはアメリカの変化が世界の変化を決めている。そして中国が2000年前後から急激に増加して、2001年に日本を追い越している。もう追い越してから20年くらい経つけれども、ここから毎年10何%の経済成長を何10年か繰り返すとこうなるんです。アメリカと中国の軍事費は、2つ合わせて世界の5割を超えている状況で、米中が新しい冷戦線なんていうものを始めれば、軍事費は更に増えてくことになりかねないと思います。

 いま見てきたことからいうと、東アジアは「軍事力による安全保障ジレンマ」の悪循環にはまり込んでいるといっていいと思います。冒頭で少しお話ししましたけれども、自分の安全保障を軍事力によろうということをそれぞれの国がやって、仮にある程度敵対的な関係である「A」「B」という両者がいたとします。Aが軍事力による安全保障を強化しようとすると、それは他者の安全を侵害することになって、Bは自分の安全が侵害されそうになったときに、それより強い軍事力を持つことを始める。それをまたAが見ていてそれよりも強力なものをつくるとか開発する。そのためにはお金が必要だ、ということを10年、20年繰り返しているうちにお互いの不信が核軍拡競争をどんどん積み上げていくことになっていた。そういう悪循環のスパイラルを生み出してしまう。

これはいくらやっても止まらないわけですよね。その先にある未来は何かというと、軍拡の止まらない、そして終わりの見えない対立の構図。それを「軍事力による安全保障ジレンマ」といっているわけです。これは軍縮論の常識なわけです。東アジアはまさにその軍事力による安全保障ジレンマにはまり込んでいるといっていいと思います。

日本政府の今の方針は、アメリカに言われるという面もあるのかもしれませんけれども、その悪循環にはまり込んでいく道を自分で選んでいる。本当にそれでいいのかということが問われていると私は思います。そうではない、もうひとつの道を描くべきだ。日本は憲法9条を基軸にした平和主義ということで、曲がりなりにも70年にわたってずっと生きてきています。その政策のもとで2世代、3世代の命をつなぎながら生きているわけです。そういう道、平和憲法に依拠しながら「軍事力による安全保障ジレンマ」にはまらない道を選ぶことがぜひとも必要だと思います。

「共通の安全保障」に基づいた外交政策

 その意味では米ソ冷戦が終結していったときに採用した「共通の安全保障」という概念をちゃんと取り入れることが大事なのではないかと思います。80年代後半の冷戦終結のプロセスに学ぶということは、いまはロシアのウクライナ侵略という問題が起きてはいるけれども、やっぱり大事なんだと思います。「共通の安全保障」(Common Security コモンセキュリティ)は、40年前にパルメ委員会という、スウェーデンの元首相が委員長になって1982年に国連の中に「軍縮と安全保障問題に関する独立委員会」というものがつくられて、その委員会が提唱した考え方です。いくつかの原則があって、ひとつ目が大事だと思いますが、「すべての国は安全への正当な権利を有する」ということを前提にして、それぞれの国が自分なりに生きていく共通の安全保障、自分達なりに生きていく権利があって、それを実現しようということです。「軍事力は国家間の紛争を解決する正当な道具ではない」、これは憲法9条の精神とほとんど同じような考え方ですし、共通の安全保障のためには軍備の削減とか質的制限が必要だとか、いくつかの原則を持って提唱されました。

ソ連のゴルバチョフ書記長がソ連の運営が非常に難しくなってくる中で、例えば核軍拡に相当なお金を毎年毎年増やしながら注ぎ込んでいくということをいつまでやるのかということに疑問に持ったでしょう。1986年にレイキャビックでの米ソ首脳会談に始まって、87年の中距離核戦略全廃の条約をつくったりして4、5年をかけて冷戦を終わらせていったときです。そのときに「共通の安全保障」という考え方に依拠したわけですね。そこから1995年に欧州安全保障協力機構という地域的な安全保障メカニズムがつくられて、それを通してヨーロッパではもはや大規模な戦争は考えられないはずだったわけです。

しかしそれを運用し始めてみたけれども、30年経った中でいい思いをした国はあるのかもしれませんけれども、ロシアにとってみると自分達が持っていたものがどんどん削られていくという焦燥感みたいなものがたまっていった可能性はあると思います。それはそれとして、冷戦を終わらせてきた結果、あるいは「軍事力による安全保障ジレンマ」という構図の中で生き続けるのではない道を選んだ結果がどうなったか。これは地球上の核弾頭数の変遷を図にしたものですが、1945年にアメリカが6発の核兵器をつくります。そこから30年間米ソが核軍拡を進めた結果、1986年には約7万発の核兵器が存在した。軍事力による安全保障ジレンマの結果、累積したかたちで核軍拡を積み重ねた結果です。これには両方とも相当なお金を注ぎ込んでいます。冷戦が4年、5年で終結して、1989年に終結したとすれば33年くらい経つけれども、曲がりなりにも減ってきているわけです。

アメリカとソ連あるいはロシアは核兵器を継続的に削減し続けていて、現在だいたい13000発くらいになっています。つまり一番多かったときと比べると5分の1に減っています。冷戦を終結することを通して核戦力にお金を掛ける度合いが減り、その結果として核弾頭数も減ってきている。このひとつの図の中に、軍事力による安全保障というものを両者でやっていったときの結果と、冷戦を終わらせて何10年か経ったときの核戦力の状況というのは象徴的に示されていると私は思います。いま残念ながらウクライナへのロシアの侵略によって事情は激変しているといわざるを得ない面はあります。しかし「共通の安全保障」という考え方の普遍性はまだ変わっていないし、東アジアで問題を考えていくときにこの考え方に拠る必要があると私は思います。

ロシアのウクライナ侵略を前に

2月24日にロシアがウクライナ侵略を始めるという事態の前で、いくつかのことを触れたいと思います。プーチン大統領が2月24日にウクライナ東部、ドンバス住民をジェノサイドから守る、ウクライナ政府がジェノサイドをしているといって、守るための特別軍事作戦を宣言してNATOの東方拡大とかウクライナが核の独自開発をしているとか、ほとんどでっち上げに近いと思うんですが、ロシアの防衛のために侵攻を正当化しました。いうまでもないですが、国連安保理の常任理事国、アメリカとイギリスとソ連がつくったといっていい国連憲章を無視して、他国の主権を無視して武力で領土や政権の変更を強制するというのはありえないことだと思います。

国連憲章第2条は「行動の原則」をあげています。国連憲章第2条の1は、「この機構は、そのすべての加盟国の主権平等の原則に基礎をおいている。」。それから3は、「すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決しなければならない。」。そして4は、「すべての加盟国は、その国際関係において、武力により威嚇または武力の行使をいかなる国の領土保全、または政治的独立に対するものも・・慎まなければならない。」。このどれにも今回のロシアの行動は完全に違反しているわけです。これをつくった一員がロシアであるということが非常に象徴的だと思います。

国連はなかなか有効な手立てが打てないけれども、3月2日に国連緊急特別会合が開かれてロシア軍の即時撤退を求める総会決議が141の国と地域の賛成で採択された。ロシアを含む5ヶ国が反対、中国やインドなど35ヶ国は棄権という現状です。プーチン大統領は欧米からの経済制裁を念頭に置いて、脅しの側面は強いと思うけれども、核抑止力部隊を特別戦闘態勢に入るように指示をしました。ちょうど1月にNPT再検討会議が延長されるということで、核兵器5ヶ国という、核不拡散条約の中で5つの国だけ核兵器を持っていてもとがめられない――その核兵器5ヶ国が共同声明を出しています。その中で「核戦争に勝者はなく、決して戦ってはならない」と誓約したばかりです。ロシアもその一員として共同声明をあげているけれども、それにまったく矛盾しています。

2年前ですけれども、珍しいことですがロシアの国家計画の基本原則という文書が公表されていて、その中に核兵器使用に移るための条件がいくつか書かれています。「通常兵器による侵略により国家存亡の危機に瀕した場合において、核兵器を使用する権利を留保する」と書かれています。「ロシアの存亡の危機」を、何をもって見なすのかによって核兵器の使用もあり得るということがロシアの基本文書の中にある。そこから考えると、現状では使う確率は低いと私は個人的には思っています。

それから原発を占拠したり、あるいは稼働中のザポリージャ原発を攻撃して制圧したりという行為は、どう見てもジュネーブ条約の第1追加議定書56条――原発とかダムを攻撃してはいけないということが、第2次世界大戦などの経験の中からジュネーブでの協議を通して条約になっています。そういうことをあえて無視して行動しているということで、本当にこの100年の間につくりあげてきた国際法的なものを無視している状況になっていると思います。

「共通の安全保障」を見つめ直し、ウクライナ危機を軍事同盟強化や軍拡に向かう契機にさせない

冷戦終結から30年という時間はそういう時間なのかなという気がしないでもないんですけれども、最初は上手く始まったんだと思うんですけれども、「共通の安全保障」によって相互に了解をしながら冷戦を終わらせていったわけですけれども、そこから30年の間にある種の相互の不信とか対立というものがまた芽吹いてきて、特に上手くいっていない側から見ると結局冷戦終結というのは何だったのかということがたまっていく。1995年成立の欧州安全保障協力機構の努力がある意味では失敗したことになってしまいかねない状況にあるんだと思うんです。そういう意味ではロシアをただ一方的に非難するだけでは済まないような深刻な事態で、冷戦終結から30年を振り返りながら「共通の安全保障」がどのように機能したのかあるいは機能しえなかったということをきちんと検証するということが全世界的に行われないといけないんじゃないか。東アジアでも同じ問題がどこかの時点で出てくると危惧しています。

 ウクライナ危機をきっかけにして軍事同盟が大事なんだとか、あるいは軍事費を増やさなければいけない、さらには日本でいえば憲法を変えなければいけないというような論調が声高に出てくる可能性は否定できない側面があるので、警戒していく必要があると思います。ドイツは、たぶん苦渋の選択だと思いますが、国防費をGDP2%以上増やしていく方針を社会民主党の政権が言い出してしまう。日本でも安倍元首相が、日本維新の会も入っていますけれどもアメリカとの核共有の議論のようなものを始めるべきだと言い出しています。

これはまさに火事場泥棒としかいいようがないけれども、私は実質的に無理だと思います。NPT第2条に「締約国である各非核兵器国は、核兵器その他の核爆発装置又はその管理をいかなる者からも直接又は間接に受領しないこと」と規定されています。仮に日本がアメリカと核共有のようなことをやるという話になれば日本はNPTから出ざるを得ないわけで、現状ではほとんど無理な話だとは思います。でもそういうことをきっかけに、もともと持っていた考えを主張するというのは安倍元首相がよくやることなので、いろいろな議論が出てきかねない。これをきっかけに軍事同盟の強化とか軍拡に向かわせないような取り組みを本気でやらないといけないと思います。

東アジア全体の平和ビジョンをどう構想するのか

北東アジア全体の平和のビジョンをどう構想するのかというお話しを最後にしたいと思います。朝鮮半島の平和と非核化ということが北東アジア平和ビジョンをつくっていくきっかけになる、非常に大きな課題ではないかということが、私のいまの感じです。この問題を「共通の安全保障」、冷戦を終わらせてきた概念に依拠しながら解いていくことがいま求められていると思います。ただヨーロッパには模範になるものが、ある意味ではないと考えざるを得ない。それから、韓国が政権交代して5月に尹錫悦政権が登場することで、南北の約束事とか米朝の間を取り持つような取り組みなど文在寅政権がつくってきたものがなくなっていく時代に入ってしまうということです。すぐには見通しが立たないなということが正直なところです。けれども、2018年の2つの首脳合意というものはきちんと私たちは頭に入れて、それに依拠していくべきだという声は絶やしてはならないと思います。

簡単に2つの首脳宣言の歴史的意義を振り返ってみます。4月27日の板門店宣言、6月12日のシンガポール米朝共同声明、その両方とも朝鮮半島の完全な非核化を目指して朝鮮戦争を終わらせることに向かうことを宣言しています。その先には朝鮮半島の完全な非核化ということであれば、日本も加われば北東アジアの非核兵器地帯をつくっていく現実的な課題になりうるのではないか。私たちはこの4年間、首脳合意が履行されるかどうかということを監視するプロジェクトを続けてきたけれども、結果的にはなかなか上手くいっていないと思います。

あらためて板門店宣言のエッセンスだけ振り返りますと、「朝鮮半島にはもはや戦争はなく、新たな平和の時代が開かれたことを宣言した」と書いてあって、南北の両国が、自らが生きている場所―朝鮮半島を戦場にしないということを合意したことが、ひとつ非常に大きな中身だと思います。その上で朝鮮戦争の停戦協定を平和協定に変えて、要するに戦争を終わらせて恒久的で堅固な平和体制をつくる。そして完全なる非核化を通じて核のない朝鮮半島を実現するという共同の目標を南北が確認したことになっています。

それから2か月後のシンガポール米朝協同声明は、新しい米朝関係をつくる。朝鮮半島における恒久的かつ強固な平和体制をつくって、トランプ大統領は北朝鮮に対する安全の保障を約束、金委員長は朝鮮半島の完全な非核化への確固した決意を再確認する。ということで安全の保障がある種法的にちゃんと確立できれば自分達が開発してきた核戦力は全部放棄しますということを、とりあえず共同声明というかたちで合意しているわけです。この2つの宣言がつくった到達点というのは、一言で言うと朝鮮半島の完全な非核化と朝鮮戦争の終結に尽きると思います。

朝鮮半島の完全な非核化というものが進んでいけば、朝鮮半島非核地帯条約ができるというところに行き着くと思います。そのためにアメリカ、中国、ロシアが消極的安全保証、難しいかもしれませんが、そういうものを保証して、南北2つの国と5つの国で非核兵器地帯をつくる。相当時間がかかるとしても、到達点はそういう方向になり得るという合意なわけです。

これも去年登場したバイデン政権が継承するのかどうかということが、去年の今頃の段階ではすごく重要な懸念材料だった。結果的には5月21日の米韓首脳協同宣言の中で、「2018年の板門店宣言やシンガポール共同声明など従前の南北、及び米朝首脳会談に基づく外交と対話は、朝鮮半島の完全な非核化と恒久的平和の確立を達成するために不可欠であるという共通の信念を再確認する。」ということで、バイデン政権はトランプがやったことを引き継ぐということをいっています。「調整された現実的なアプローチ」を進めるとした。その時点ではある種の希望があったけれども、残念ながらアメリカの敵視政策が変わらないために北朝鮮がしびれを切らして、今年に入ってから11回の弾道ミサイル実験をやった。最初の9回は短距離だったのでほとんど問題になっていないけれども、8回目、9回目が2月27日と3月5日、偵察衛星を打ち上げる準備実験という名目でICBM級のミサイルを発射しています。24日のものはそれとは位置づけは違うようですが、これから先4月15日の金日成生誕110年に向けて、まだ何かが出る可能性がある。私たちが予想していたのは人工衛星の打ち上げを目指しているのではないかと思います。これは2月27日と3月5日の偵察衛星打ち上げの準備実験だといっていることから想像すれば、たぶん人工衛星打ち上げを目指している。実現できるかどうかは別ですけれども、可能性は高いかなと思います。いずれにしてもアメリカとの長期的な対決のために防衛力の強化を進める。

農業中心の経済に重点を置いた5カ年計画が2年目に入っているけれども、そんなに上手くいっていない。コロナの問題もあります。いままで朝鮮半島には台風がほとんどいっていなかったんですが、気候危機の関係で一昨年あたりは年に5回もいってしまう。日本には1回も来ないのに朝鮮半島に何回もいってしまうということもあって、農業中心の経済がなかなか難しい状況になる可能性があります。問題は韓国の政権交代で、20218年の首脳合意が継承されるのかどうかよくわかりません。それから、北朝鮮のICBM級のミサイル発射などで南北の対立が深まっていく可能性もあって、ある種の膠着状態になっていくのかなということが正直な見通しです。

北東アジア非核兵器地帯条約構想の提案

しかし南北に分断されて朝鮮戦争が終わっていないという現実は何も変わっていないわけです。1953年の停戦協定以来もうすぐ70年になる。このままいったら1世紀のあいだ戦争が終わらないことになりかねない。保守党の政権が韓国に登場としたとしても朝鮮半島に住んでいる人たちにとっては切実な問題であることは間違いないので、そのときに2018年首脳合意は生きてくる可能性があると私たちは思っています。

私たちは90年代の半ばから、北東アジア非核兵器地帯条約がこの地域の平和ビジョンをつくっていくきっかけになるはずだということで「3+3構想」を、梅林宏道というピースデポの創設者といっていい人が提唱したものです。日本と南北朝鮮の3ヶ国で非核地帯をつくってアメリカ、ロシア、中国の3つの核兵器国が法的拘束力をもって核兵器の威嚇とか使用はしないという約束をする。6つの国で条約をつくるという案ですが、それがいまの時点でも状況を変えていくきっかけになるのではないかと思います。いま世界には5つの非核兵器地帯条約があります。南半球は1967年の南アメリカの非核兵器地帯条約に始まって、100%といってもいいくらい非核兵器地帯になっています。インド洋の沖にアメリカの基地があるために100%と言えない側面はあるけれども、ほとんど100%非核兵器地帯です。北半球にあるのは、中央アジア非核兵器地帯だけです。地球表面の半分以上は核のない状態で暮らすことを選んでいるということからいっても、北東アジアに非核兵器地帯ができない理由は何もないと思います。

 2018年の首脳合意を基礎にして、朝鮮半島ひいては北東アジアの平和と非核化という大きな事業を実現させていく環境を今後どう持っていくのかということはいまの時点ではよくわかりません。しかし北東アジアにはまだ冷戦構造が残っていて、そして「軍事力による安全保障ジレンマに」にはまり込んでしまっています。この状況から抜け出すためには北東アジアの非核化というものを切り口にした政策を打ち出していくことが、大きなきっかけになるのではないかと私たちは思います。ひとつの非核兵器地帯条約ができるまでには、国レベルでの協議が始まってから10年とか、アフリカでは40年かかっていて、非常に長い単位の時間が必要です。その間にさまざまなレベルでの多国間での協議が繰り広げられる。そのプロセスの中でお互いに不信の塊であったものが、少しずつ溶けていって信頼がつくり出されるとか、そういうことも含めて核兵器問題以外についても全体の平和ビジョンを議論できる機会ができていくプロセスがあるようですね。

南アメリカの非核兵器地帯条約などは、最初はブラジルとアルゼンチンは両方とも核兵器を持ちたいと思っていた国だったらしいんです。結果的に非核兵器地帯条約ができ、そのあとSELAというヨーロッパのEUみたいな経済共同体のようなものがつくられるきっかけになった。非核兵器地帯条約をつくるプロセスで、南アメリカ全体の平和あるいは経済交流を生み出してきたという経過もあるようです。北東アジアでも、そういうプロセスの中で米中対立の問題とか、日中の懸案事項などの外交交渉をやりやすくしていくことが可能なのではないかと感じます。

憲法9条は軍事力によらない安全保障体制の最先端

 最後に、共通の安全保障をキーワードにして軍事力による安全保障ジレンマから抜け出して、軍事力によらない安全保障体制をつくりだしていくことが一貫して求められていると思います。日本は憲法9条、平和憲法を持って70年生きてきたわけで、そこに依拠しながらそれをやることが大事なんじゃないか。重要なのは9条の精神を、外交政策として具体的なかたちで示していく。しかもそれを日本政府の外交政策として採用させ、取り入れていく。そういうことを実現させていくような作業が不可欠なんだと思います。朝鮮半島の完全な非核化という問題は2018年から4年間続いた。いまでいえば実験になってしまうけれども、南北と米朝の協議をしながら、完全な非核化を目指して、その中で朝鮮戦争を終わらせることも含めたかたちで進むべきだった。残念ながら前進はしていませんけれども、試みが3、4年かけて続いたことは間違いない。その状況に日本も参加して、朝鮮半島だけではなく北東アジア地域の非核兵器地帯条約をつくることを基礎にして東アジアの平和ビジョンに向かう取り組みをする。まわりの環境は非常に厳しいことは確かなので、じっくりと準備していくことは大事だと思います。

 ウクライナ侵略という事態に対して思うのはなにか。少なくとも第1次世界大戦が終結した1918年から100年ちょっと経つわけで、その間に第2次世界大戦があり、冷戦終結があり、そしていまのウクライナ侵略がありということです。その100年間の経験のなかから、一方では国際人道法とか国際人権法とかジュネーブ議定書、国連憲章などといった国際合意をつくってきている。私自身もそうですけれども、この流れがあまりちゃんと頭に入っていない。同時に科学技術が発展して兵器の質的量的な変化が、戦争がもたらす惨禍のひどさを飛躍的に深刻なものにしたことは間違いないと思います。その100年間の経験から出てきた一定の合意を、本当にいま勉強しなければいけないだろうと思っています。第1次世界大戦でたぶん初めて戦争で航空機が使われるわけですね。航空機による無差別爆撃があり、第2次世界大戦では原爆投下に象徴されることがあり、戦後はいくつかの大きな戦争があった中で、80年代の後半に冷戦が終わりロシアのウクライナ侵略が2022年に起こった、この100年強の歴史的経験から絞り出した国際合意の意義を、私たちは世界規模で常識として共有できていないのではないかといま思っています。ロシアがやったことをひとつのきっかけとして、変なかたちではあるんですけれども、包括的にきちんと学んでいくということはとても大事なのではないかと感じています。

私はどちらかというと自然と人間の関係の問題が自分の生きている間の一番のテーマであると思っていますが、地上の有り様を地球の外から見る視点というものが必要なのではないか。この地球という星には、私たち人間という何か思考能力を持っていて、自分達が生きている場所の意味を理解することができる生命体がいるわけです。それも含めて生物多様性というものはすさまじい。記載されているだけでも200万種くらいの動植物がいる。記載されていないものを入れれば3000万種くらいいるといわれているような生物の多様性はすごく発達している。この銀河系に1000億の太陽があるといわれていますが、その中で生物体の多様性を保持した知的生命体が現在存在している太陽系は、やたらあるわけではない。ゼロではないと思うけれども、1000億ある太陽系で構成されている中で地球だけが1個しかないとは考えにくいんですけれども、それはそれとして、オアシスの中のオアシスなんですよね。太陽系の中のオアシスだし、その太陽系は銀河系の中のオアシスです。生きていること自体が奇跡だと私は思っているけれども、そういう思いを、地球上にいま生きている人間同士が共有するような自然観を持つと、もう少し状況は変わるのではないかなと思っています。

いま、生物多様性の低下とか気候危機に対してどう対処するのかというのは、人類全体の喫緊の課題として突きつけられているわけです。それは国連を中心とした取り組みの中で約30年以上続いてきている。いま、人間同士で殺し合いをするようなときではなくて、生物多様性の低下や気候危機を全体でどう止めていったらいいのかということに一緒に取り組んでいくべきです。そして軍事力によらないで一緒に生きていく有り様というものを一刻も早く実現することを目指してみんなで努力するしかしようがないのかなと思います。
みなさんは憲法改悪を許すなということで日常的に活動されているわけですけれども、私もみなさんと一緒に共に歩んでいきたいと思います。

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