私と憲法251号(2022年3月25日号)


改憲の危機にあらがって & 新事務局長決意表明

菱山南帆子(事務局長)

先日行われた第24回市民運動全国交流集会は今までの中で一番、憲法改悪の危機に直面した中で開かれたものとなった。今年の7月に行われる参議院選挙で自民党は改憲派3分の2を抑え、選挙後に始まる自民党にとっての「黄金の3年間」に国民投票で勝利し、悲願の改憲を実現しようとしている。今現在、毎週のように行われている憲法審査会では、憲法56条に基づき、もしもコロナや南海トラフなどの災害により国会議員が国会に出席できなくなってしまったら、などといった様々な憶測をもって改憲の必要性を訴え、なりふり構わず、利用できそうなものは何でも利用して改憲を企てている。また、先日の衆議院憲法審査会では維新の会の馬場氏が「コロナ禍で国民に多大なるご迷惑をおかけしている時に憲法審査会を開かず、休むなんて言語道断だ」などと言って自公と歩調を合わせて憲法審査会の定例開催と改憲を煽っている。

2月24日、演習と称してウクライナとの国境沿いに布陣していたロシア軍は一斉に侵略を開始した。ロシアのプーチン大統領は「親ロシア派を擁護するため」「ウクライナを非武装化、中立化するため」と正当化の理由を述べているが、「武力の行使による国境の変更」などを禁じる国連憲章を踏みにじる、侵略行為であることはだれの目にも明らかだ。ウクライナ軍と市民の、怒りに燃えた必死の抗戦と抵抗により日を追うごとに犠牲者は増え続けている。安全を求めてポーランドなど隣国へと避難する人々は100万人以上にも上った。

一方でこの許しがたい侵略に抗議する反戦運動が全世界で広がっている。中でもロシアでは「恥ずかしい。ウクライナ国民に謝罪する」と、侵略直後から多くのロシア市民が立ち上がった。先日、ロシアの国営放送の番組で編集者の女性が「戦争反対」のプラカードを掲げて拘束された。このような、侵略者の足元を揺るがす闘いの広がりに恐れたロシア当局は、1万3000人に及ぶ子どもをも含めた市民の弾圧と拘束を繰り広げている。プーチン大統領は、ウクライナの属国化という戦争目的を、ロシアの存亡をかけて絶対に達成すると言っている。そのためには核戦争も辞さないとまで言い放っている。

国連総会緊急特別会合は、圧倒的多数でロシアの侵略非難を決議したが、それは法的拘束力を持たないための解決の決定力になりえていない。国連そのものが、第2次世界大戦における5か国の戦勝国による、5か国のための国際システムであるという限界を今、露呈している。そして、この5か国が核保有国であり、その一員であるロシアが、核兵器の使用を口走っているということは、国連という世界大戦を防止するシステムそのものが機能不全に陥っていることを示している。今回の、欧州最大規模の原発、ザポリージャ原発をロシア軍が攻撃したように、戦争になったら原発がいかに危険なものか、身にしみて感じたのではないだろうか。核と人類は共存できない。反戦反核の運動は一体だ。

今、世界は核戦争、世界大戦の危機に直面しているといっても過言ではない。多大な犠牲と加害の中から手にした憲法9条を持ち、また唯一の戦争被爆国である日本こそ、今、戦争の危機を平和へと転換する役割を積極的に担うべきであるにもかかわらず、元首相の安倍晋三氏は核戦争の危機に便乗し、「核兵器の共有」と言い出した。このように好戦的排外的な言動は、危機に火薬を投げ込むようなものであり決して許してはならない。自公政権+維新の会は「台湾有事」に備えるとして、南西諸島のミサイル基地化と要塞化を進め、一方で改憲勢力3分の2越えの多数の力での改憲を企て、さらに防衛費の対GNP2%への倍増と共に軍拡と軍事大国化への暴走を加速している。
自公政権の思惑を私たちは打ち砕いていかなければならない。

「全体主義と民主主義」と標榜される新たな冷戦や、「軍事には軍事」という暴力の連鎖は破滅への道であり、核抑止論は非現実的なお花畑理論だと言わざるを得ない。世界的な反戦運動と対話を武器とした平和外交こそが、危機を打開する根本的な力に他ならない。かつて日本がロシアのように「戦争」という言葉を使わずしてアジア諸国で侵略戦争を繰り広げた。19年前のイラク戦争の時には真っ先にアメリカの戦争を支持し、自衛隊を派兵して加担した。このような戦争加害国として、そして唯一の戦争被爆国として、このようなウクライナ危機に立たされた時、真っ先に反戦を訴え、憲法9条を世界に生かしていくことが日本の戦争責任の果たし方ではないだろうか。「命と暮らしと尊厳を守る新しい政治」と憲法9条を持つ平和憲法の実践こそが危機を平和へと転換することができる力だ。

許すな!憲法改悪市民連絡会が結成された1999年から今年で23年。

この23年間の間に、全国の無党派の市民運動が手をつないで改憲反対の運動を行い、一貫として「共同行動、統一行動」を主張してきた。東京の憲法集会も今や1つにまとまって行うことが当たり前のようになっているが、2000年、当時画期的だった共産党と社民党と市民が一同に会して行っていた日比谷公会堂での憲法集会や、2004年の9条の会や2015年の安保法制に反対する闘い、そこから発生した、市民と野党の共闘である市民連合を生み出す一役をこの運動が担ったことを否定する人はいない。「運動の総がかり」「市民運動の連合」の接着剤として運動を行ってきた結果、今まで団体に属さなかったが、社会への思いを持った市民をも取り込める多様性ある運動へと広がりができた。

 とりわけ2014年7月1日に閣議決定された集団的自衛権の行使容認をめぐって、市民団体、労働組合は、現場共闘の積み重ねを経て結成された総がかり行動実行委員会の2015年の安保法制に反対する大きな運動のウネリは戦後の日本の歴史に深く刻まれただけではなく、分断ではなく連帯をという闘い方は、これからの運動にとって大事な財産となった。

市民と野党の共闘が始まってから7年。かつては小選挙区のもと、選挙期間は苦い思いをしながら過ごしてきたが、今では、市民がしっかりと関わる選挙区ではかつてない勝利を収め、選挙と市民運動が一体のものになりつつある。今や「野党統一候補」「一本化」といった議論自体が、なんの珍しいことではなく、選挙になったら誰かを一本化できるよう市民と野党は協議するものなのだと思っている若い人が増えてきている。私たちの運動は、市民運動も選挙でも「共同で闘う」という一時代を築いたということに確信と自信を持とうではないか。

最近のDV被害や生活困窮者に向けた女性相談会も、職種や支持政党の違いを軽々と越えて行うことができたのも、共同の闘いが運動内に浸透し、一つの風土になったからであり、これも長年、共同行動を訴えてきた運動の土壌あってのことだ。

最初に述べたように、今までにないほどの憲法の危機が訪れている。

今回の参議院選挙に勝ち抜くためには、国会外の2015年のような市民運動の高揚が求められている。しかし、この間のコロナ禍根での2年間は私たち市民運動にとってとても厳しいもので、あった。この2年間のやむを得ない、自粛で萎縮、縮小化された運動は、市民の行動でしか取り戻すことはできない。次世代に憲法を手渡せるか、手渡せないかの岐路に立たされている今、もう私たちは運動を委縮している場合ではない。様々な工夫を凝らしコロナ対策をし、オンラインも併用しつつも、街に出ていこう。そして、市民運動は「対話運動」でもある。「憲法改悪反対全国署名」の各地での草の根的実施で対話を広げ、草の根運動をさらに強化しよう。合わせてこれからを担う若い人たちに市民運動を継承する動きも広めていこう。そのためにはまず、大前提として絶対に憲法を変えさせてはならない。平和憲法のない社会で市民運動を行わせてしまうような事態だけは避けなくてはならない。

改憲後の社会で生きる若者ほど不幸なことはない。私たちは、このコロナ禍の中で、世界大戦の危機の中で、「憲法変えている場合ではない!」といった声を広げ、改憲できないような世論を作っていこう。

決意表明
今回、高田健さんの後を継いで、3月5日の全国交流集会の人事発表をもって新事務局長に就任しました。20歳の大学生の時からのアルバイトから12年、働き続けていた障がい者施設を3月末をもって退職し、来る改憲の危機に向けて市民運動に集中し、闘い抜くことを決意しました。市民運動をしながら職場で働くことはとても大変でした。職場の仲間と政治の話をしていく中で、理解を得て、デモや街宣の時、徹夜国会など政治情勢に合わせて、シフトを動かし、代わりに出勤してもらうなど柔軟な対応をもって私の市民運動を支えてくれました。

とりわけコロナ禍になってからは、私という「困った存在」がいつしか「政治のせいで困ったときに相談できる存在」に変わっていくことも実感し、「勇気をもって政治の話を暮らしに持ち込む」ことの重要性を学びました。これからは皆さんのご支援で運動を行うことになります。

高田さんのような豊かな経験は乏しく、不安だらけですが、これから運動の中でもまれながら、運動家として鍛え上げられるように、頑張ります。そして、若手の運動家を増やしていくためにも、さらなる市民運動の活性化と広がりを作っていきましょう。今までの市民運動を継承し、楽しくて持続可能、立ち上がりのハードルを低く、横のつながりがどんどんできていくような市民運動を作っていきたいと思っています。

全国各地の仲間の皆さん、今後とも、よろしくお願いします。一緒に闘ってください。

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衆議院憲法審査会で起きている異常な事態

高田 健(共同代表)

昨年の総選挙で改憲派が事実上、国会の4分の3ほどを占めた衆議院では、衆議院憲法審査会で改憲派が国民民主党の玉木委員も含めて、改憲論議の促進のために「審査会を定例日に毎週開け」と強硬に主張している。その結果、憲法審査会は2月10日から立て続けに4回開かれ、議長への「報告」が採決され、その後、1週おいてまた再開され、毎週開かれるような勢いだ。憲法審査会のこの改憲派の悪乗りは憲法調査会発足以来、20数年みられたことのない異様な様相だ。衆議院の憲法審査会に続いて、参議院憲法審査会も3月23日に開かれることになった。

3月3日、衆議院憲法審査会は「憲法第56条第1項の『出席』の概念について」という文書を「議論の大勢」としてまとめて細田博之衆議院議長に「報告」することを起立による多数決で決定した。反対は共産党の赤嶺政賢委員のみ。

「報告」は要旨、以下のようなもの。

新型コロナ感染症が蔓延し、国会議員が議場に集まれなくなり、開会も議決もできなくなるという緊急事態が派生した場合、3分の1以上の出席を定めた憲法56条1項の「出席」は原則として「物理的出席」と解すべきだが、緊急事態発生の場合は例外的に「オンラインによる出席」も含まれると解釈できる。

この「報告」は開会中の第208国会でわずか4回(1回は90分程度)の審査会での議論を経て起立採決された。うち1回は参考人質疑で、招請された2人の学者のうち1人は権力乱用の可能性を指摘して明確に「解釈」に反対し、他の一人は慎重な検討を主張したが2人の意見は生かされなかった。これでは参考人質疑は何のためにあるのか、わからない。

「報告」を「採決」したことも問題だ。憲法調査会発足以来、中山太郎初代会長の名を冠して「中山ルール」とよばれる不文律がある。審議に際しては「憲法を政局に絡めないことや、少数政党の声を尊重すること」などを柱とする与野党間の紳士協定だ。今回の採決は与党などが「多数議席」を背景にして「憲法審査会を毎週やれ」と審議を急がせる中で、熟議がされないまま採決したもので、あきらかに「中山ルール」に反している。

さらに問題なことは憲法56条の「解釈」を憲法審査会で決めたことだ。憲法審査会の任務には「憲法の解釈権」はないはずだ。

以上の点からみて、今回の採決は乱暴すぎる。

しかし、今回の採決は自民党が企てた「オンライン審議」と自民党の改憲4項目の緊急事態条項導入改憲と結びつけ、改憲論議の呼び水とする狙いから見ると、「解釈」を正当化することで、明文改憲の企てから切り離すことに成功したという側面があり、少数派である立憲民主党の国会戦術が奏功したと言える要素もある。しかし、これは少数会派の綱渡りの国会戦術で、あまり使ってはならないものだ。

今後は議論の場は議院運営委員会に移ることになる。議運とは議院の運営全般を扱う常任委員会で、所管事項は議院の運営,国会法や議院の法規などなど広範囲に及んでおり、実際の議運は議長の補佐機関として、法案の審議日程や議事進行などの国会運営をめぐり与野党が折衝を行う場となっている。「オンライン審議」の制度の設計などは議運で議論することになる。

だが、憲法審査会の「オンライン審議についての報告」を議長とともに受け取った山口俊一議運委員長(自民)は、報告を受けた直後、「本当に憲法解釈上(機能的出席が)許されるのか、いろんな話があるので大変難しい」と発言した。今後は議運の中でまた「1から勉強を行うことになったと聞き及んでいる。憲法審査会での議論は全く意味のないことだったということではないか」(共産党赤嶺政賢委員)との評価もある。

自民党などは今回の56条第1項の出席概念の意見を議長に報告したことを「画期的」(新藤義孝与党筆頭幹事)と評価し、さらに憲法審査会を「緊急事態における議員任期の延長」と「緊急政令」問題に移ろうとしている。新藤幹事は「東日本大震災などの大規模な災害が発生した際には、地方議員の任期の延長については特例法を急いて逸することができた。しかし、憲法に任期が明記されている国会議員については、憲法改正を行わない限り、任期延長はできない」として、改憲を主張している(3月17日、憲法審査会)。さらに新藤幹事は「国会が機能しなくなった際、内閣が立法措置を行う緊急政令」も憲法に規定することを要求した。今後の衆議院憲法審査会では自民党はこうした方向から緊急事態条項導入改憲を主張してくるに違いない。

 しかし、憲法審査会では、前の第207国会で改憲手続法が立憲民主を含む与野党の多数で成立したときに、国民投票の公正・公平を担保するため同法の施行の前提条件として付けられた「附則4条」問題は解決していない。

 附則4条は「この法律の施行後3年を目途に、検討を加え、必要な法制上の措置その他の措置を講ずる」として、いくつかの課題を指摘し、とくに「国民投票の公平及び公正を確保するため」「憲法改正案に対する賛成若しくは反対の意見の表明」をする場合の「広告放送及びインターネット等を利用する方法による有料広告の制限」「国民投票運動等の資金に係る規制」「国民投票に関するインターネット等の適正な利用の確保を図るための方策」について措置するとしている。これは「これらの法制上の措置が講じられないうちは憲法改正の発議はできないと解される」(奥野総一郎野党筆頭幹事)ものであり、「3年以内」という期限付きの、憲法審査会の審議において、優先課題であったはずだ。

これが果たされないまま憲法審査会は「オンライン審議」の議論を先行させてしまった。この6月までの208国会はかならず付則4条についての議論に入らなくてはならない。

このような危うい議論を先の総選挙で総議員の4分の3をとった改憲派が力任せに進めている。
(本稿は週刊金曜日3月25日号に掲載した文章に加筆したもの)

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総がかり行動実行委員会青年PT活動報告

事務局 菱山南帆子         

去年の秋に総がかり行動実行委員会に青年PTが誕生しました!
選挙直前に青年PTの初の街頭宣伝を行い、好調なスタートを切りました。月1回の会議を重ねている中で、次回の街頭宣伝は新しくできた「憲法改悪反対全国署名」に特化したものにしようといった話が出ました。参加している仲間に署名を街中に出て取ったことがあるかどうか聞いたところ、ほとんどの仲間が実際に街で知らない人から署名を取ったことがないとのことでした。それならば、練習から始めなくては!ということで、会議の前の時間に“署名練習講座”を、市民運動の大先輩の女性の仲間を迎えて教えてもらうことになりました。まずは、署名板の持ち方、ペンの持ち方、声のかけ方など初歩的な出で立ち、動作のレッスン。その後は、実際にペアになって実践。1人はチラシを配り、そのチラシを受け取ってくれた人にすかさず署名板を持って行き、署名をしてもらうという一連の流れを、通行人役を加えて実技練習をしました。

そのような運動の大先輩による教えの甲斐あって、迎えた2月18日の本番の署名街頭宣伝は流れが速い夜の時間帯の新宿駅にて1時間で、40筆の署名を取ることができました。当日は若者だけではなく、市民運動の大先輩たちも駆けつけ、署名してくれる人をわざわざ、若い人が持つ署名板のところまで連れて行って書いてもらうなどの感動的な配慮もあり、私たち青年PTはとても元気が出た行動となりました。

署名街宣の翌週の2月24日にウクライナへのロシアの侵略が始まりました。

25日、青年PTのグループLINE内では、早朝から「私たち、この戦争に黙ってていいのかな」「戦争になったら真っ先に殺し殺される現場に立たされるのは若者から」「若者として全世界の人たちと共に声をあげないとならないのでは」というような議論が交わされました。目をそむけたくなるようなウクライナでの惨状を伝えるニュースをLINEグループで共有し合い、意思確認をし、総がかり行動実行委員会青年PTとして連続行動を決定しました。ロシアへの抗議と街中での訴えの両方やった方がよいのではないかという話になり、3月4日にロシア大使館前、3月6日に新宿での街頭行動を打ち立てました。

急な呼びかけにも拘わらず、ロシア大使館前の行動には平日の夜、400名が集まりました。新宿での街頭宣伝には休日の昼間に450名の市民が集まり、共に声をあげました。

ロシア大使館前の行動では、長らくコロナの影響で自粛していたシュプレヒコールを行いました。私たち青年PTの仲間はというと、まったく予想していない市民の結集に驚き、慌てふためき、パニックになりながら無我夢中で行動を進行し、慣れないシュプレヒコールをマイクを回して交代しながらなんとかやり切りました。

労組の青年部の方たちが集まっていることが多く、大使館前行動が終わった後の、立ち話での反省会と次回の打ち合わせでは「市民運動ってすごいね」と目を輝かせて言っていました。私も嬉しくなって「そうだよ、市民運動の行動の素早さってすごいんだよ。でも労働組合運動も大事なんだよ。市民運動と労働組合の両輪あってこその運動なんだ」と話をしました。言葉だけではなく、こうやって実際にみんなで行動を起こしながら、実際に目で見て体験して考えるって大事なことだと思いました。

3月6日の新宿駅東南口の街頭宣伝には、駅前の階段から横の橋にまで人が詰めかけました。署名をお願いしたところ、青年たちが手にする署名板に列ができ、130筆の署名が集まりました。その後の反省会では「勇気をもって声をあげてよかった」「大人たちが交通整理や道案内をしてくれたから助かった。自分たちも今度からは交通整理や人数数えなどの運動の基本的な役割ができるように頑張りたい」などといった感想が出ました。

今回の行動に向けて青年PT内では様々な議論もしました。例えば「戦争は常に権力者が始めるものであり、犠牲になるのは市民たち」「国を支持するのではなく、民衆を支持している」「国同士(次頁下段へ)の外交ではなく市民外交こそが平和への近道」などといったことを話し合いました。そして戦争とはどういうものなのか、被害実態だけではなく、「自国を守る」ために若い人たちが武器をもって立ち上がる雰囲気など、戦争とナショナリズムについても議論しました。

こうやって行動したり、議論できるのも今まで運動を続けてきた仲間たちの土壌があってこそのことです。今後も青年PTは活動を提案していきますので、ぜひご協力をお願いします。青年PTのツイッター、フェイスブックを開設しています。一人でも多くの方のフォローをお待ちしています。

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憲法最大の危機に立ち向かう!第24回許すな!憲法改悪・市民運動全国交流集会報告

池上 仁(会員)

 コロナ禍が一向に終息しない中、昨年に続いて3月5日オンラインでの開催を余儀なくされた。これまで大阪、広島、大分、沖縄、札幌、名古屋等各地で開催され、地元で活動されているメンバーとの交流を積み重ねてきた交流集会だが、体調が悪く遠出が叶わないメンバー(私もその一人)にとってはオンラインでの開催は有難い。

司会の松岡幹雄さん(大阪)が開会を宣し、ロシアのウクライナ侵略という事態のさなかの交流集会、ドサクサに紛れて安倍が核武装を言い出し橋下がこれに同調、維新の松井は改憲論議を巻き起こすべきだと言い立てている。とんでもないことだ。こうした動きに反撃するための議論を深めよう、と訴えた。

菱山南帆子さん(事務局)から基調報告。自民党は参院選で改憲派3分の2を確保し、「黄金の3年間」に国民投票→改憲を実現すべく全国で宣伝を展開している。国会では毎週憲法審査会が開催されているが、オンライン国会を可能にするための改憲等、利用できるものは何でも利用する。ウクライナ事態は国連憲章に違反する侵略行為であることは明らか。100万人以上の難民が生じようとしている。全世界で直ちに反戦の行動が巻き起こり、特にロシア国内では子供を含む1万人が拘束されている。プーチンは核の使用さえ示唆している。国連での圧倒的多数の決議も拘束力がない。第2次大戦戦勝国5ヵ国を中心とした組織の限界だ。安倍は核シェアリング論を言い、維新がタブーなき議論をと応じる。台湾有事に備えるとして南西諸島の武装化が進んでいる。軍事に対し軍事では何も解決しない。平和憲法の実践こそが求められている。

今日は20都道府県、100人以上が集会に参加している。市民連絡会は発足当初から共同行動、統一行動を訴えてきた。2000年、社民党と共産党が参加して日比谷公会堂で開催した初の統一憲法集会、2004年九条の会発足、2015年安保法制に反対する総がかり行動―市民と野党の共同行動開始から7年、女性相談会等も党派を超えて実現している。選挙にも勝てる市民運動をつくっていかねばならない。コロナ禍で運動の縮小を余儀なくされているが、昨日は総がかり青年部PTがウクライナ反戦行動を行った。

特別報告として加藤裕弁護士が「沖縄・辺野古新基地建設反対のたたかい」を講演した。午後からは仁木洋子さんが「大阪での『維新の会』とのたたかい」をテーマに特別報告した。(詳細は別報)続いて各地からの報告に移る。

高良鉄美さん(参議院議員・沖縄の風)は辺野古現地から参加。月1の県民集会はコロナのために中止したが各地でブルーアクションを行っている。国会では高良が法務委員会で、同じ会派の伊波洋一議員が外交防衛・沖縄委員会で辺野古の問題を取り上げている。参院のロシア非難決議採決にあたっては議場を退出し棄権した。多くの方から批判されたが、沖縄の基地強化につながりかねない表現があり9条の内容を反映していないと考えたからだ。日本は非難だけでなく進んで調停の労を取るべきではないか。

山口たかさん(北海道)
総選挙で立憲野党が10→8と議席を減らしてしまい、核廃棄物処分場調査受け入れをめぐる寿都町・神恵内村2地区の首長選挙でも負けて落胆している。ウクライナを巡っては北海道全土で反戦の行動が広がっている。スタンディングで9条を朗読したところもある。「市民の風」の中にウクライナ問題のPTを立ち上げた。九条の会の役員も引き受け署名運動をスタートさせた。来週は平和運動フォーラムに一層の協調を訴える。辺野古の問題も核ゴミ問題も札束で頬をたたくようなことは許せない。この間3人の孫がコロナに感染し大変だった。大雪で除雪もままならない状況なのに市長は五輪誘致を叫び続けていて、市民からブーイングを浴びている。若い人たちとのつながりを強めて進んでいきたい。

山根岩男さん(広島)
河合疑惑をただす会の活動をしている。市民の告発で河合克行・案里2人を議員辞職、有罪判決確定に追い込んだ。また被買収側の県議・市議100人を告発したが検察は全員不起訴処分とした。これに対し市民が検察審査会に申し立てを行い、第6検察審査会は35人を「不起訴不相当」、46人を「不起訴不当」、19人を「不起訴相当」とした。「ばらまき」という冊子も出版されている。2年4カ月にわたる運動で、毎月街頭宣伝をやってきた。市民の運動とマスコミの相乗効果がもたらした成果だ。2021年、議員辞職を受けた参院再選挙で、大方の予想を覆して野党統一候補が勝利した。選挙に絡む金の問題は広島だけではない。京都でも新潟県知事選でも同様の問題が指摘されている。市民の力で政治資金規正法の改正を実現しなければならない。

石岡イツさん(三重・伊勢)
伊勢九条の会は毎月3日、19日の駅前行動を続けている。発行している通信は、高齢化の進行等で今は減ってしまった。参院選は吉野正英候補を中村進一県議が推している。中村県議は九条の会の会員、1000人委員会の会員でもあり、三重選出の尾崎咢堂下や三重出身の詩人竹内浩三の紙芝居を作るなど平和教育に熱心な方だが、市民連合との関わりは今のところない。立憲民主党は泉体制になってから共産党との間に距離を置いている。市民連合の立ち位置がどうなっているのか気になっている。政策協定には生活に密着した課題も入れてほしい。再生エネルギーの問題、労働問題では特に非正規労働者のことだ。人間としての尊厳を取り戻さなくてはならないが、これらの人々に市民連合の協定が伝わっているだろうか?工夫が必要だ。戦争は絶対にしてはいけない。戦中戦後の食糧難を忘れられない食糧安保は国の要だ。

昼食休憩をはさんで午後の部の最初は、二木洋子さん(市民連合高槻・島本呼びかけ人)が特別報告し、 再び各地からの報告が続いた。

久保博夫さん(神奈川)
甘利明幹事長を市民の力で落選させた衆院選を振り返りつつ、参院選神奈川の現状を詳しく報告。補欠選挙を含め定数5に自民2人、公明、維新、共産党、幸福実現党、立憲民主が候補者を擁立。さらに社民、れいわ、国民民主、旧N国などが立候補する可能性もある。立憲民主は2人目の候補者も検討中。全国的に候補者の一本化を急がねばならない。

山本みはぎさん(愛知)
一昨年発足した愛知総がかり行動はウクライナ反戦の運動をしている。反戦運動に力を入れ、自衛隊の南西諸島への配備にみられるなし崩し的改憲が当面の課題で、6回シリーズの学習会を行う。昨年全国知事会が日米地位協定についての意見書を出したのを受け、県議会に意見書の提出を求める署名運動を行い、市民への宣伝行動も行った。昨年10月、辺野古への機動隊派遣の問題で名古屋高裁で逆転勝訴判決がだされたが、県は最高裁に上訴している。愛知トリエンナーレをめぐる大村知事リコール署名や河村名古屋市長のメダルかじり事件等ひどい事態が相次いでいる。

新田秀樹さん(広島)
市民連合はオンラインでの会合を重ねている。九条の会廿日市は11万人の人口に1万枚のビラ配布を準備中だ。岩国市は基地依存体質が強固に作られてきた。10年間200億円の交付金の威力はあなどれない。自衛隊の変貌が著しい。岩国基地は港湾、弾薬庫、飛行場を備えた実戦的基地だ。最近洋上基地船(8万トン)が寄港、強襲上陸艦も来て、米軍・自衛隊の一体化、共同訓練を重ねている。「いずも」の空母への改修は終わり、「かが」の改修が予定されている。昨年末の2プラス2では40の島に拠点を置くと語られている。戦争体制の進行に危機感を抱く。

池田年宏さん(大分)
ピースサイクルでは大分市でウクライナ戦争反対の行動を行った。ゆっくり走ると結構目立つ。九電前では毎日スタンディングと申し入れを行い、相手は結構参っているようだ。安保法制違憲訴訟や赤とんぼの会の活動もある。川崎哲氏を招いての講演会を予定している。日出生台演習場で実弾射撃訓練が始まれば監視小屋で監視活動を行う。広島同様、自衛隊の変貌ぶりに危機感を持つ。明らかになった島嶼防衛訓練計画では自衛隊がまず攻撃、米軍がこれに続く。米軍の露払いが自衛隊という構図だ。粘り強く運動していこう。

竹内俊一さん(福岡)
ウクライナ反戦行動はSNSで広めて小倉駅前に100人が集まった。初めて見る若者が多く、自作のプラカードやタペストリーを持参する。アピールの内容・ベースはそれぞれだが、侵略戦争反対では一致する。対話の必要性を痛感した。若い人向けの行動を準備し交流をしたい。10日に総がかり行動全国一斉行動、ウクライナ含めほぼ毎週行動が予定されている。自分にとっても今回のウクライナ侵略はショックだった。戦争の現実味を感じた。2月13日に市民連合福岡は改組し、小選挙区11中8つに市民連合組織ができ、今後は連絡を取り合いながら選挙に備えていく。参院選は3議席に自民、公明、立憲民主さらに維新他も出る。政策を研ぎ澄ます必要がある。5.3集会を前に北九州市で「九条まつり」を開催し九条の会の活性化を図る。

予定された報告を終え、3人の参加者から発言を受けた。

土井登美江さん(東京)
憲法審査会は1月から毎週開催されている。オンライン国会の実現を審査会初めての多数決で押し通した。こうした自公維新のなりふり構わないやり方を許さないためにも新しい署名の推進が非常に大事だ。ウクライナ反戦について総がかり行動は連続的に取り組み、今日はさようなら原発が行動している。今年の5.3集会は有明防災公園で是非やりたい。

大村さん(長野)
安保法制違憲訴訟は一審敗訴、控訴している。参院選は現職を統一候補にする方向で動いている。自民党はタレント候補を擁立し、維新も擁立に動きがある。県内の九条の会の動きは鈍っている。上田市では月4回の行動日を設定、月2回の行動を行っているところもある。ウクライナ反戦では地元で2月28日、3月3日に抗議行動を行い高校生が賛同する場面もあった。ただ、ウクライナ国旗を掲げての「連帯」にはナショナリズム発揚の懸念がある。「住民投票条例」を求める請願、原発再稼働反対の陳情行動をやったが軒並み不採択だった。

藤井純子さん(広島) 河合買収問題の進展には広島3区市民連合の動きも影響している。3月21日は「第九条の会ヒロシマ」の30周年の総会。教科書、沖縄、反ヘイト、ミャンマー、従軍慰安婦、核兵器廃絶、総がかり行動・・・様々な市民運動と共同して憲法問題に取り組んでいきたい。市民連絡会の存在の大きさを改めて感じる。憲法審査会の傍聴レポートをネットのない時代から届けてくれたことは実に貴重だった。

報告と討論を終了し、高田健事務局長から市民連絡会人事についての報告があった。事務局長に菱山南帆子さんが、高田さんは暉峻淑子さん、高良鉄美さん、内田雅敏さんと並び共同代表に就任する。続いて「ウクライナ侵略反対」の特別決議が提案・採択された。

菱山南帆子新事務局長が決意表明。3月までに12年間働いた障碍者施設を辞め運動に専念する。2000年の、初めて社共共闘が実現した憲法集会に小学生だった私は親に連れられて参加し、その熱気にびっくりした。高田さんと一緒に行動するきっかけはイラク戦争反対の運動だった。日本はいまだにイラク戦争加担の反省をしていない。不断の努力で憲法の危機に対処していきたい。
力強い若き女性事務局長の誕生に参加者から盛んなエールが送られた。

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第24回 許すな!憲法改悪・市民運動全国交流集会 特別決議
ロシアはウクライナ侵略をただちにやめろ~武力で平和は作れない

ロシア軍の侵攻はウクライナの首都キエフに迫っている。あろうことか原発まで攻撃した。ロシアは核兵器の使用を示唆している。
ロシアの軍事侵略の結果、ウクライナの市民に多数の死者、負傷者が出ている。国内外に膨大な避難民が発生している。
私たちは戦火のもとで苦しんでいる4000万のウクライナ民衆に連帯する。プーチン政権による逮捕・投獄などの弾圧をおそれずロシア全土で声をあげている勇敢な市民たちに連帯する。そして全世界で「戦争反対、ウクライナ侵略やめろ、ロシアは兵を引け」の声をあげているすべての人びとに敬意と連帯を表明する。
ここにこそ、ロシアの侵略をやめさせ、平和をとりもどす力の源泉がある。
今回のロシアの軍事進攻は2度にわたる世界大戦の反省から導きだされた「国連憲章」の精神を踏みにじるものだ。たしかにNATO(北大西洋条約機構)は軍事同盟であり、その拡大はゆるされる問題ではないが、武力を行使したロシアによるウクライナのNATO加盟阻止の行動は、1991年に独立した国家であるウクライナに軍事侵攻する理由にはならない。
ウクライナの進路を決定するのはウクライナ民衆自身だ。
このロシアによって作り出された危機を利用して、日本の一部勢力がこの危機がアジアにも波及する危険性を振りまき、無責任にアジアでの軍事的緊張を挑発し、「台湾海峡」の危機などを煽っていることは見逃せない。
とりわけ、安倍晋三元首相をはじめ日本国憲法の改悪をねらう勢力が、ロシアのウクライナ侵略を利用して、軍事力の強化や「核のシェアリング」などを主張し、平和憲法の改悪を企てていることは断じて許すことができない。
「武力で平和は作れない」ことは歴史が証明している。
だが米国は自らの深刻な反省なしにロシアを一方的に批判できる立場にはないはずだ。例えば2003年3月20日,米英を中心とする連合国軍がイラクの大量破壊兵器に関する国連決議違反の疑いを主な理由として,主権国家であるイラクを一方的に侵略し、全土に1ヵ月余に及ぶ軍事攻撃を行い、10万以上のひとびとを殺した歴史がある。これはわずか19年前のことだ。のちにイラクの「大量破壊兵器」保有は、米国のいいがかり、でっち上げに過ぎなかったことが判明した。米国政府はあの攻撃の口実に根拠がなかったことを認めたが、日本政府はこれに加担したことをいまだに反省していない。
しかしながら、目下の急務は、世界の平和を願うすべての国々と人びと、そしてロシアの国内で「反戦」の声をあげている市民、苦難に直面しているウクライナの市民が、「戦争反対」の声を一つにして、ロシアに侵略の即時中止を要求することだ。
日本の私たちも、コロナ禍という困難な条件の下ではあるが、あきらめずに声をあげ続けよう。ロシアはウクライナ侵略をただちにやめろ~武力で平和は作れない。

2022年3月5日

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特別報告 沖縄・辺野古新基地建設反対のたたかい

加藤 裕(弁護士)     

辺野古移設を4半世紀止めてきた
みなさんこんにちは。全国でいろいろな取り組みをされていることに本当に敬意を表したいと思います。私はいま、翁長知事が埋め立て承認取消処分をした以降の、県のいろいろな法的な係争についての代理人4人のひとりとして取り組みを進めているところです。この間の辺野古の経緯については、みなさんにあらためて詳細を申すまでもないとは思っています。ただ振り返ってみるともう四半世紀かかっています。沖縄が米軍に占領されていた時代は27年間、復帰して今年で50年です。この普天間基地の返還合意が、少女暴行事件をきっかけにした米軍基地の整理縮小の検討の中で1996年に初めて出てきました。私自身もそのときに普天間基地が返ってくるなんて、絶対ありえないだろうと思っていたのが、ビッグサプライズでした。これでだいぶ米軍基地の負担は軽減されるだろうと、みんな期待したと思うんです。蓋を開けてみると、県内移設付きということで紆余曲折する。海上基地案がスタートする、海上基地案を断念してV字型滑走路、現在の案になっていくという過程もあり、すでに25年かかっています。仲井眞知事が今回の埋め立て計画についての承認処分をしたのも2013年12月ですから、すでにそこから8年経っています。

当時の防衛局が出していた埋め立ての承認願書。これは埋め立て計画が5年、埋め立てが全部済んだあとに地上施設の整備を3~4年の間かけて、それで移設が完了する計画でした。これが予定通りにいけば、すでに普天間基地の移設は現時点ではほぼ完了しているはずですが、それをこれまで止めてきたということは言えると思います。那覇空港の第2滑走路という、もともとあった那覇空港の滑走路の沖合にもう1本並行して第2滑走路ができています。この滑走路も、実は辺野古の埋め立てとほぼ同時期、その1ヶ月後に国土交通省の申請に対して埋め立て承認処分がなされ、これは計画通り完了して2年前に運用を開始している。これはまったく通常の公共工事としてうまくいっている。あの埋め立て自身は私もあまり賛成できないけれど、特に反対もなく順調にできた。それと比較してみると辺野古がいかに進んでいないのかということがよくわかると思います。

よく完成の進捗状況を、埋め立てに必要な土砂量との比較で報道されることが多いと思います。辺野古側は、いま埋め立てが完了した、陸地が完了したと防衛局は言っていて、確かに辺野古の側の海面はもう見えなくなってきています。海面から3メートル位の高さまで上がっています。ただそれも10メートルまで上げる計画ですからまだまだ足りませんし、去年の11月末時点で全体に必要な埋め立て土砂量の8.6%です。ですから1割も進んでいないということです。大浦湾側がもともと重要な工事なわけで、大浦湾側の工事はまったく何も進んでいない。一部護岸の工事がありますけれども、ほぼゼロと言ってもいい状態です。ですから、いまからまた大浦湾の工事の変更をして進行するとしても、2030年代の半ばは遥かに過ぎるだろうと思われます。この時点で東アジアを巡る国際情勢がどうなっているのか、米軍の世界戦略がどうなっているのか、軍事戦略がどうなっているのかなんてことは大幅に変わる可能性があるにもかかわらず、こんなことを延々とやっているというのが現在の状況だと言えます。

大浦湾の軟弱地盤の状態と、それを巡る情勢

現在の軟弱地盤の状態と、それを巡る情勢がどうなっているのかについてお話しをします。沖縄県のホームページに基地問題に関するQ&Aという30ページくらいの、詳しく沖縄の基地問題を解説した冊子が掲載されています。米軍基地問題を知ってもらうには非常にわかりやすいものです。それに辺野古の基地の概要も、変更前のものですけれども、載っています。辺野古崎の一番角の部分から護岸に沿った部分、それから大浦湾側の大部分が軟弱地盤と言われているところです。その軟弱地盤が一番深いところまであるのが角の部分に近いところです。B27というボーリング調査をした地点の名称があり、この地点が水面下90メートルまで軟弱地盤があるということです。60メートルくらいの軟弱地盤がここにあります。軟弱地盤の工事というのはいろいろなところでやっていて実績はあります。しかし関空で水面下から70メートルの実績ですけれども、それ以上の深さの軟弱地盤の地盤改良工事は世界的にもやられた実績はありませんし、その工事ができる船舶、工事船もありません。

この軟弱地盤は、N値という土木工学上の測定によって測るものです。N値は砂とか泥によって違うけれども7.8~10いくつくらいだと安定しているということですが、N値がゼロという地盤が非常に深くある。ゼロというのはどういうことかというと、60㎏余りのハンマーを70㎝くらいの上からぽとんと自然落下させて、地盤が30㎝沈むまで何回かかるかというのがN値というのですが、10回落とせば30㎝下がるということだと固いということになるわけです。N値がゼロというのは、このハンマーを地盤に置くとずぶずぶずぶと沈んでいくというような数値なわけですね。

こういう軟弱地盤が何をもたらすかということですが、この上に非常に重量の重いケーソン護岸、コンクリートの塊の護岸を設置したり、大量の何十メートルかの厚さの土砂を投入するとその重みが発生するわけです。それによって泥地の場合には、圧密沈下という圧力によってどんどんどんどん沈下する。関西空港なんかもどんどんそれで沈下していますけれども、そういう沈下が起きる。それから液状化。これは砂では大地震のときに砂地が液状化して水が噴き出して地盤が緩くなるといったようなことが起こる。それからすべり破壊、これは例えば重いものが上に乗っているとその重さを支えきれずに、上に乗っている構造物が滑って倒れて破壊されるということが生じる恐れがある。ですからそこの安全性が確保されない限りは工事ができない、こういう問題が発生しているわけです。

防衛局自身はそれでも70メートルまで地盤改良工事をやって、それ以下は改良工事をしなくても工事ができるということを主張して、一昨年4月にその軟弱地盤の改良工事を含めた工事をする変更承認申請を沖縄県知事にしました。これはサンドコンパクションパイル〔SCP〕工法・サンドドレーン〔SD〕工法・ペーパードレーン〔PD〕工法という3種類の工法を使って約71000本のパイプを打ち込む。これによって地盤改良をするという計画です。こういう工法自体は一般的にはよく使われている工法ではあるらしいです。サンドコンパクションパイル工法というのは直径2メートルくらいの砂の塊の筒を打ち込んでいく。そうするとまわりの土砂が押されていって締め固められるという工法です。ドレーンというのは水分を吸い上げる水路をつくる工法で、こういうことをやろうとしている状況です。

この変更承認申請でやろうとしていることが、工期は埋め立てが9年3か月、陸上施設が3年余りということで、当初の願書では5年とあった工期が延びるわけです。しかもこの9年3か月というのは変更承認処分がなされてからですから、これが順調にいったとしても2030年代半ば以降にしか完成しない。そこまで普天間基地を引っ張るんですか、というような話になるわけです。予算も、当初は陸上分の施設整備を含めて3500億円くらいだと政府は概算を示していたけれども、この地盤改良を伴うことによって予算が9300億円になるといっています。でもこれも公共工事の常でして、それで収まるわけがない。県の試算では2兆5000億円くらいかかるという試算をしています。ほとんどの工事も進んでいないのにすでに2000億円以上も支出がされているわけですから1兆円で収まるわけがない。これだけ財政が厳しい中で1兆円をこんな基地のために投資するのが本当に経済問題としてもいいのか。費用便益効果というのを単純に公共施設で考えたとしても、これはいかがなものかという議論はなされるべきだろうと思われます。

玉木知事の埋立変更申請不承認処分

玉城知事が去年11月に変更不承認処分をしました。これで係争の対象になっています。この変更承認申請は公有水面埋立法の要件に適合していないから承認しませんということを、知事の権限を用いて処分をしました。その主な理由をまとめています。

公有水面埋め立てのためには「国土利用上適正かつ合理的でなければならない」という要件が法律に書かれています。この点では、当初の2013年に承認された防衛局の願書には、埋め立ての必要な理由としてこう書かれています。「普天間飛行場の危険性を一刻も早期に除去する必要があり、極力短期間で移設する」、「埋立工事を早期に着手して普天間飛行場の代替施設を一日でも早く完成する」という目的でなされました。要するに今回の辺野古の選択、それから工法の選択は、普天間の危険性を除去するために極力短期間で、早くできる。だからこういう埋め立てを求めたのであって、これは適正で合理的だというものだったわけです。

しかしいま、この軟弱地盤の工事を仮にするとしてもあと10数年、早くて14~15年かかるわけですから、これは「一刻も早い危険性の除去」などという目的からすれば不適合だ。当初は確かに早く埋め立てられるということだったかもしれないけれども、この計画では無理でしょう。ほかの手段を考えた方がいいんじゃないですかということで、不適合だという判断をしました。

2番目に災害防止、これは埋め立てに際して災害防止に適切に配慮しなければいけない、十分配慮しなければいけないという要件があるわけです。先ほど申し上げたB27地点、ここでボーリング調査をやって力学的試験を行っていません。ほかの調査地点からの推測でこの地盤も安定であろうということをいっているだけであって、県が「なぜやらないのか、やるべきでしょう」ということをいっても全然やっていない。それでは設計が本当に適正かどうかということが判断できないので災害防止上問題があるということをいっています。

ボーリング調査について県の土木の人に「いくらくらいだったらできるの?」と聞いてみたんですけれども、「100万円とか、そんなものですよ」という話ですね。船を持っていってボーリングをしてその分を検査すればいいだけですから、そんなに大した費用がかかるわけではない。1兆円かかるという工事をやっているのに、なぜやらないのかというところが大きな疑問がある。みなさんも推測されるだろうと思いますけれどもやはり疑問があるだろうと思います。

3番目が環境保全に関する要件です。環境保全には十分な配慮が必要だという要件がありますので、ここについてもさまざまな問題があります。今回不承認に関して取り上げられたのは工事中にサンドコンパクションパイルなどの工事、打ち込みの工事をやったりしますので膨大な水中音が発生するわけです。これによるジュゴンへの影響が適切に考慮されていないということをいっています。

このことについて特に取り上げているのは、もともとアセスの段階ではジュゴンが何頭か遊泳しているのが確認されているのですが、最近ジュゴンが観察できなくなってきている。要するにこの工事の影響で、ジュゴンの生息場所がなくなってきているのではないかという変化が発生している。

さらに一昨年の前半には防衛局が設置している水中録音装置で、大浦湾でジュゴンが鳴いている音ではないかと思われる音が200回近く確認されている。これがジュゴンの音だとは、防衛局は認めていません。別の人工音がジュゴンの音のように聞こえて録音されたのかもしれない、確定できないといっています。このジュゴンの鳴音は国会でも「出せ、出せ」という議論がありましたが、防衛省の側は「あの録音自体は業者が持っているので、うちは持っていないから開示できない」なんていうとんでもないことをいっています。これも本当に隠蔽だろうと思われますが、この水中音についてのジュゴンの感受性というのは、実はまだ世界的な海洋哺乳類の研究の中で十分明らかになっていません。ですから本当は安全側での判断、アセスをすべきですけれども、その辺が十分なされていないということを県の側は指摘しています。

知事が講じてきた法的手段の現状

では、いままで知事がどういう法的な対抗手段をとり、国との間でどういう係争が起こってきたのか。裁判、係争等が8件、9件と起こってきて、だんだんみなさん混乱して、何をやっているのかわからなくなってくると思います。県民の側も、知事はいま何を争っているかわからないような、そんな状況にもなってきていると思います。

整理してみると、公有水面埋立という行政上の権限に関する係争は、いままで大きく分けて3つあります。最初に翁長知事が生前、知事になったあとに、もともとの仲井眞さんの承認処分が間違っていますよという取り消し処分、これがひとつ目です。これは最終的に、取消処分の適法性が最高裁まで争われて、最高裁は仲井眞知事の承認処分の裁量は広いんだ、その広い裁量で承認処分したものを翁長知事が取り消すというのは違法だという判断を示しました。それでこの取消処分についての係争は一旦終わっている。

次に撤回処分ですね。最初から仲井眞さんの処分が間違っていたというわけではなかったとしても、承認処分を受けた後の防衛局の対応、工事等に瑕疵がある、間違いがある、だからもともとあった要件が失われたということで、撤回処分をしました。これは例えば軟弱地盤が判明したということも含めて撤回処分をしたわけですが、これがこのあとで申し上げる裁決取消訴訟という県が国を相手に訴えている訴訟で係争中です。

ただ工事自体は進んでいますから、3つ目に先ほどの変更承認申請を玉城知事が不承認にしたということに対して、防衛局の側が行政不服審査請求を行っていて、これが係争の対象になっている。いま私が書面を書いているのがここの部分です。

国が執ってきた対抗手段

このような知事の対抗手段とそれに対して国がどう反撃したのか、さらに国の反撃に対して知事がどう対応してきたのかという枠組みを示しておきます。普通、事業をやっている民間業者等を想定して国や県から不利益な処分を受けた場合には、その事業者は行政不服審査請求という、行政に不服申し立てをすることできます。それでだめだったら裁判をすることができるわけです。けれども沖縄防衛局が事業者として行政不服審査請求をするということで、県知事の処分をひっくり返すという対応を取ってきました。県の処分に対する行政不服審査請求ということになると、この審査をする裁判所に相当するものが、その法律を所管する大臣なんですね。ですから今回の公有水面埋立法であれば国土交通大臣ですし、別にサンゴの件で争っているのであればサンゴは漁業法等ですから農林水産大臣ということです。防衛局が行政不服審査請求をすると、国の大臣が裁判官として裁判をするという対応になってしまいます。それは国にとってはやりやすいわけですよね。国が不服申し立てをして国が決めてくれるわけですから、結論が見えているようなことをやるわけです。

それから、普通の民間の事業者ではできないような対抗手段が国は取れます。これが「根拠法令を所管する主務大臣による是正の指示等の直接関与」です。通常は民間の人が不利益な処分を受けると、その人が不服申し立てをするしかないわけです。一方、国と地方公共団体の間には、地方自治法によって国がどういう場合に地方自治体に関与ができるのか、地方自治体はどういう場合に国の関与に対して法的に争うことができるのかということを定めている条項があります。そこで、その県にゆだねたさまざまな行政処分の運用が間違っていた場合には、国の側から「是正の指示」といった関与ができますよ、ということが地方自治法にあります。

ですからこの「根拠法令を所管する主務大臣による是正の指示等の直接関与」というのは、防衛局という事業者が文句をいわなくても、国土交通大臣とか農林水産大臣が上の方から見て「都道府県がやっている行政処分は間違っていませんか」ということで「直しなさい」という「是正の指示」ができるわけです。民間の人が不利益処分を受けた場合にはこんなことは絶対やらないわけですが、国は事業者が何もいわないのに、上から県の処分が間違っている、という仕組みがある。これを利用しているということです。地方分権とかいいながら、国がこうやって介入できる制度が残っているというのは非常に大きな問題だと思います。

国の対抗手段に対抗するため知事がとった法的措置

では、こういった国の対抗手段に対して県の側はどういう対応をしてきたか。国が県に対して何らかの裁決をした場合には行政訴訟、国民が国の処分、自治体の処分に対して不服がある場合には行政訴訟ができるわけですが、行政訴訟を県として提起をする。もしくは地方自治法に基づいて、国の関与が違法であれば違法を是正するための裁判を起こすことができるという地方自治法の特別な規定がありますので、その訴訟を起こす。こういう対抗をしてきました。

まずいま係争として残っているもの、埋立承認処分撤回処分は翁長知事が亡くなった2018年8月、直後にその代行をしていた謝花副知事が撤回処分をしました。翁長知事の遺言のようなこの撤回処分については、「埋立承認処分撤回を取り消す国交大臣裁決の取消を求める訴訟」として行政訴訟を県の側が起こしています。しかし那覇地裁、福岡高裁と県の訴訟申し立てが却下され、控訴も棄却されて、現在上告理由書を提出して最高裁でこれから審理をしてもらうことになっています。

ここで非常に日本の司法制度の大きな問題点が明らかになって来るわけです。行政訴訟で国を相手に訴訟をしても門前払い、却下ということをよく聞かれると思います。行政訴訟というのは非常に窓口が狭い訴訟で、裁判所は個人の重要な利益を背景に申し立てたものではなければなかなか認めてくれない。その背景がめちゃくちゃ狭いわけです。この行政訴訟で問題になっているのは、国土交通大臣が撤回処分は違法だといって裁決を取り消した中味、判断の中味が争われる以前に、入り口論で、県は国に対して裁判を起こすことなんかできませんよという判決が地裁、高裁でされたわけです。

その理屈は何かというと、これは法律上の争訟性という司法権の範囲の問題ということでもいわれることもありますし、高裁の方は原告適格という問題もあります。「訴える資格があなたにあるんですか」ということをいっているところがあります。結局司法というものは、個人の権利や利益を救済するために利用される手続きです。沖縄県が国を相手に訴訟するといっても、沖縄県は公益の主体ではあるかもしれないけれども個人の権利や利益を保護する主体ではない。だから司法にはなじまない。だから司法審査の対象外だということを判断しているわけです。

国と争う手段の保障がない地方分権とはなにか

しかしこういう判断は、ヨーロッパやアメリカの司法ではまったく逆です。ドイツやフランスなども、地方公共団体と国はまったく別の法人格、別の法主体です。それぞれにとって利益があるわけで、地方自治体には地方の利益、地方住民の総体の利益があるわけであって、当然裁判をすることが適法で、ちゃんと中味もまな板にのって司法の判断の対象になるわけです。しかし日本の司法は、いまだに国と地方は両方とも公益を代表する立場で、お互いで裁判をすることなんかできませんよということをいっている。それはおかしいだろう。県が裁決をされて県民共有の財産である海を守ろうということで処分をしたのに対して国土交通大臣が不当な裁決をしたときに、その中味を争えないということはおかしいと、裁判をずっとやってきているわけです。

地方自治体と国の間でこういう係争が生じたときに、なぜ行政訴訟が起こせないのかということが非常に大きな課題です。地方分権と言いながら今回の辺野古のいろいろな係争は、地方と国が利害が対立した場合には、国の見解に対して争える手段が適切に保障されていないという事実が明らかになってきたことが言えるのです。これはまさに辺野古の問題だけではなくて、国と地方との関係についての非常に大きな課題ではないかと考えられます。これはいま最高裁に行っていますのでこれから審理があって、あと何ヶ月かかるかわかりませんけれども撤回処分についてはこうやって争っています。

これについては住民の方も争っています。住民は住民で行政訴訟を起こしているんですね。いま住民が裁決の取消を求めて争っている訴訟は那覇地方裁判所で審理されていて、この4月下旬に判決が予定されています。少しでも前進する判決が出ればいいと思います。ここも原告適格が認められるかどうかという問題があって大変ということがあります。住民が訴訟を起こすとしても、例えば具体的に直接被害を受けることが明らかであれば原告適格はあり得ますが、国の側はちゃんとアセスもやって被害も生じないとしているので、なかなか簡単にはいかない状態ではあります。

地方自治と国が行政不服審査請求で対抗する狙い

 昨年11月の知事の変更不承認の処分については、国の側が処分について対抗手段としてふたつやることは可能だったわけです。ひとつは沖縄防衛局による行政不服審査請求、もうひとつは国土交通大臣が直接是正の指示、不承認処分をするのはけしからんから承認処分をしろという是正の指示をすることも可能だったわけです。国と防衛局の側は行政不服審査請求を使いました。なぜこういうことをやったかというと、不承認処分の内容を裁判所で争える機会を持たせないためには行政不服審査請求をした方がいいということなんですね。行政不服審査請求で国土交通大臣に裁決させると裁判所の関与はありません。では国土交通大臣が裁決して、不承認処分を取り消せといった場合に県は裁判を起こせるのかとなると、さきほどの撤回処分に対する県の裁判で、高等裁判所まで沖縄県は裁判を起こす資格はありませんという判決がなされています。

もうひとつの手段として、沖縄県がこの裁決は違法な関与だということで、通常の行政訴訟ではなくて地方自治法に基づく訴訟を起こすことはできるかということです。これについても県が以前の撤回処分のときに裁判をやりまして、最高裁判決で国土交通大臣が裁決をしたあとに、その裁決を不服として地方自治法によって争うことはできないという判決もされています。ですからこのままだと、もし行政不服審査請求で県が負けると、県が裁判所でこの中味を争うことができない。「軟弱地盤は大丈夫なの?」ということを裁判所に判断を求めることができないわけです。

他方、この行政不服審査請求ではなくて、国の側が最初から国土交通大臣による是正の指示を行ってきたとしましょう。地方自治法を最初から使ったという場合には、県が不服であれば必ず裁判になる仕組みになっているんですね。裁判で軟弱地盤の埋め立ての安全性を裁判官が判断するということは、結論としてもう間違いないわけです。

そうすると地方自治法に基づく是正の指示を行うと裁判所に行かなきゃいけない。行政不服審査請求でやれば、裁判所の目に触れないまま国は勝つことができる。こういうせこい手段をとるんですね。だから、国側が自分達が自己完結的に勝てる手段は何なのかということを自由に選択することができるというのが現在の状況です。もちろん行政不服審査請求は国土交通大臣が、かたちの上では中立的に審査するといっている仕組みですから、私たちは勝つための主張、反論をしているところではありますけれども、そういう問題があります。

国はこういった県の処分に対して争う手段は、複数自由自在に選択することができます。ところが自治体の側は通常の行政訴訟をするにしろ、地方自治法に基づく特別な訴訟をするにしろ、結果的には非常に制約されている。こういった仕組みがあるもとで公正な判断が得られないまま、この辺野古の埋め立てを強行しようとしている。ですから、辺野古の問題は平和の問題、それから沖縄の基地負担の問題であると同時に、日本の国と地方自治体の関係というものを、中央集権の、地方自治をないがしろにする仕組みとして利用されているという問題も、問題として取り上げなければいけないだろうと思っています。

サンゴの採捕を行政処分で争う

もうひとつ、県の方はサンゴの採補について行政処分で争うということもやっています。この辺野古の埋め立てというのは、一番メインの行政訴訟は公有水面埋め立ての許可・承認という行政処分ですけれども、ひとつの事業をやるとしてもいろいろな行政処分、行政の許可が必要です。今回の場合でいえば埋め立て予定地にサンゴがたくさん生息していますので、国はこのサンゴを環境保全のために移植をするというような環境保全措置を表明していますので、サンゴを採って移さなければいけない。

サンゴを採るということ自体が、漁業法それから水産資源保護法に基づく沖縄県の規則で原則禁止、研究・教育等のために必要な場合に初めて許可できるという仕組みになっていますので、これに基づいて防衛局は許可申請をしています。去年7月に最高裁判決があったのはこのサンゴの採補についてです。大浦湾側の地盤改良工事をする土地には直接かからない部分のサンゴの採補を県に申請したのに対して、県が許可を保留していたところを農林水産大臣が許可せよという指示をしてきた。これに対して県の側は地方自治法上の不服申し立ての訴訟をやった裁判ですが、昨年7月に最高裁判決が出ました。

最高裁判決は、初めて全員一致ではなくて3対2という結論でした。多数意見は、この埋め立ての承認がなされていて工事の予定区域だから、サンゴの移植は当然認めるべきだという判断でした。しかし反対意見は非常に重要な意見が出されました。軟弱地盤の外でのサンゴの工事ではあっても、この時点で軟弱地盤についての変更承認許可を得ているわけではない。変更承認がなされなかった場合には、この辺野古の工事が最終的にできないかもしれない。できるかどうかわからない段階でサンゴを移植してしまって最終的に工事ができなかったということになれば、サンゴに重大な損害を与えることになってしまう。だから軟弱地盤のところも工事ができるという承認処分がされるまでは県が判断しないのは当然だといったわけです。けれども、そういう常識が多数意見にはならなかった。ただ県の意見をきちんと受け止めた裁判官が2人いたということはとても重要です。

この前の衆議院選挙のときに国民審査がありましたけれども、2人のうちのひとりは国民審査の対象になりました。私はその裁判官には×をしませんでしたから、そういう意思表明は必要だろうと思います。それから最近DEHN地区というのがあるんですけれども、軟弱地盤の内側でのサンゴの移植をこの時点で国の側は申請してきました。軟弱地盤の変更承認の許可が出ていない段階で申請する意味はないと思うけれども、これについては先月県の側は不許可処分をしました。現時点で国の側から何らかの不服申し立てはされていませんから、このサンゴの移植は今できない状態です。

県民投票から3年-世論を広げて辺野古ストップ

 ここに参加している方は辺野古のことを非常に気に掛けて沖縄の状態を心配されているだろうと思いますが、どうやってそれを広げていくかというところも含めて少しお話ししたいと思います。県民投票では、もう3年になりますけれども、圧倒的な多数で辺野古反対の票が入れられています。それにもかかわらず工事が進んでいる。これは実は非常に異常な事態です。住民投票は住民投票そのものに法的拘束力を持たせることは、普通は住民投票条例にもありません。けれども住民投票であらわれた意向は、最終的には尊重されて実際実現するというのがいままでの住民投票の実績です。原発だとか核廃棄物の最終処理場の建設だとか、いろいろなことで住民投票がされてきましたけれども、住民投票はやっぱり大きな効果を発生します。しかし沖縄では名護の市民投票もそうですし県民投票も2回やりました。しかし「辺野古NO」と言っていることが実現しない。これは何なのか、という問題を考えていかなければいけないと思います。

これは基地の建設について、住民意志が反映される仕組みがないということが非常に大きな問題だと思っています。名護の市長選挙のことをお話しします。名護の市長選挙は非常に残念な結果でした。岸本洋平さんという、非常にいい候補者だったにもかかわらず予想以上の大差で負けてしまった。負けたけれども、では辺野古容認なのかというと、今回再選した渡具知武豊市長に投票した市民の少なくない、わりと多くの部分も辺野古は嫌だという意志は持っています。出口調査とかいろいろな世論調査でも、もうこれははっきりしています。

しかしほぼはっきりしてきたのは、渡具知市長は最初の4年間で米軍再編交付金を受け取りました。前の市長の稲嶺さんはこれを拒否して、別のところから財源を生み出していました。この渡具知さんは毎年15億円の、「あぶく銭」と言ってもいいと思うんですけれども、この中から学校給食費、保育料、子ども医療費の無料化を実現しました。これ自体はいいことですよね、この結論自体はね。再編交付金をもらえるから、だからこそだと言ってこれを大々的に打ち出しました。これに対して岸本さんは、私たちは再編交付金は受け取らないけれども、この政策は受け継ぎますという、こういう受け身なことを言わざるを得なかったわけですね。

こういう選挙戦になってしまうとどうなるか。いま県民投票をやっても辺野古の埋め立ては進んでいる。大浦湾はまだ全然進んでいないということではあるけれども、止まっているという実績はない。そうすると市民・県民も、多くはもともとの辺野古の住民と同じような、本当は嫌なんだけれども、もう国に刃向かってもしようがない。だったらせめて次善の策を選択するしかないのじゃないか。だったらもらえるものはもらって少しでも生活を良くするという方を選択せざるを得ない。そういう選択をする市民に対して「いや、それはダメだ。あくまでも最後までたたかえ」とどこまで言えるかということだろうと思います。

名護の討論会などでも、「辺野古反対というけれども、辺野古反対の市長が当選したら基地は止まるんですか」という質問をされたそうです。市長が反対すれば止まると、法的とか制度的に言えるのかといったら言えないわけです。「反対をして、やはり政治的に訴えをして変えていくしかないんですよ。そういう意思表明をし続けることによって止まるんですよ。これまでも止まってきましたよ」と言ったとしても、やはりこれだけ国がやりたい放題やっているという状況で、なかなか簡単にはいかない状況だろうと思います。

そういう沖縄県内の全体の状況を考えなければいけないけれども、ここに大きな矛盾があります。米軍再編交付金の問題である通り、米軍再編の協力進捗度を防衛省が非常に大きな裁量を持って判断する。大臣の判断で「あなたは協力的だから払いましょう、あなたは協力的ではないから削りましょう」ということができる仕組みです。そのために稲嶺さんのときは止まっていたわけです。これと似たようなもので電源開発などではそういう仕組みがありますね。例えば原発の発電量に応じて交付金が出るとかがあります。そういう、応じればお金を渡すよ、応じなければ渡さないよという仕組みそれ自体が非常におかしな話です。

けれども原発のような交付金と違うのは、原発は最終的には地元自治体の同意がないと建設稼働ができないような仕組みに、事実上はなってきている。もちろん周辺自治体の同意がいらないということが大きな問題で、函館はがんばって大間原発の裁判をやっているわけですけれども、函館の同意がなくても青森県の原発はつくれるわけです。それがおかしいということで裁判をやっていますが、ただ地元自治体の同意というプロセスを経るわけです。ですから原発の場合の電源開発の問題と、米軍再編とは質がまったく違う。米軍再編交付金について言えば、諾否の自由がないのに協力すれば金をやるよ、協力しなければやらないよ。協力しなくても基地はつくるよ、どっちにしてもつくるよということなわけです。こういうことをして選択を迫る国のシステム自体に大きな問題があると思います。これはまた地位協定の問題にも関わると思います。

辺野古NOの声の広がりをどうつくっていくか

県内の情勢で言うと、最近のほかの市長選挙も負けて厳しい状況ではありますが、今後沖縄市、コザの市長選挙があって参議院選挙があって、9月に知事選挙があります。翁長知事が亡くなったのが4年前の8月ですから、その亡くなった直後に知事選挙があって玉城デニーさんが当選しました。デニーさんが普通にいけば再選目指して立候補ということになるんでしょうけれども、いま自民党側は対立候補を選定をしているところですが、ここが大きな決戦になると思います。知事を自民党の側が取ってしまったら、いま県が力及ばずとはいえがんばっているいろいろな法的措置での抵抗手段、こうやって工事を遅らせ、抵抗してきていることが一切終了になってしまいます。ですからこの知事選挙は非常に大事な選挙になります。知事ががんばっていることによって辺野古についての工事を、止めはしないにしても、遅らせているという意味では非常に大きな成果があるということは訴えていかなければいけないと思っています。

「辺野古NO」の声の広がりをどうつくっていくかということについて、少しだけお話しをしておきたいと思います。やはり知っている人の間で話をしてもなかなか広がらないわけですね。関心がなかったところ、「仕方がないんじゃないの」と思っているところに広げていくことがとても必要だと思います。ただなかなか広がっていない、けれども広がる努力をしなければいけない。沖縄県はトークキャラバンというのをいままでやってきています。最近もZOOMで神戸とか札幌などでやりました。

それから司法書士さんたちががんばっている「新しい提案」実行委員会が全国の地方自治体に陳情を要請しています。採択された地方自治体がまだ48ということで、この前県民投票3周年で「48しかない、もっとがんばれ」という話がありましたけれども、こういう状況ですが地方自治体での取り組みも重要です。もっともこの「新しい提案」実行委員会をやっている方が、何というか県外引き取り論的な雰囲気があって、そこは賛否があるだろうとは思いますが、地方自治体への取り組みは重要だと思っています。私は弁護士ですので弁護士会での取り組みもいろいろやっています。弁護士会から頼まれて講演をやったりしています。沖縄弁護士会が2018年に、やはり国民全体の問題だという総会決議を上げたあとに、この3、4年の間にやっと沖縄以外で15の弁護士会が辺野古の問題について県民の意志を尊重しろという声明や意見書を出し、今年も2つ出ました。こうして少しずつ広がりを持っています。弁護士会が出すというのは、あまり沖縄のことなんか知らない人たちも含めて弁護士全体が考えるようなことなので、そういうことも取り組みを広める上でひとつの材料にはなっていると思います。

 広げるという意味でどういうことを訴えるのか。「抑止力論」で米軍基地が沖縄に必要だという議論がありますけれども、ウクライナのような問題でもあるとおりです。抑止力論でウクライナの戦争は防げたのか。本来やるべき外交なり事前のいろいろなことがあったんじゃないですか。もうぎりぎりのときになって軍事力があれば侵略を防げるなんていう話ではないでしょうという、その辺の議論をもっとしていくことは必要だと思います。

いま「台湾危機」だとか、そういうことによって南西諸島が米中戦争の戦場になる危険性が非常に高まってきている。米軍と自衛隊での敵前上陸作戦だとか、海兵隊と共同での作戦なども沖縄でするようになってきました。これはまさに南西諸島の陸地を転戦する移動ミサイル基地にし、海峡を地対空ミサイル、地対艦ミサイルで封鎖するための仕組みを自衛隊がつくろうとしている。石垣、宮古、奄美それから沖縄本島でもいまミサイル基地を建設することが予定されています。こういったものが中国の進出を防ぐという問題ではなく、南西諸島を戦場にしていくことが問題だ。だからそこに基地をつくるなということを逆に言うことが大切なんでしょう。

年末のNHKで、元幕僚などが台湾危機のシミュレーションをやっていた番組がありました。そこでも国民保護なんてまったく考えていないんですよ。石垣、宮古に5万人ずつ住民がいるのに、それを避難させる措置はまったく検討されないまま「どうしよう」と困っている。それでシミュレーションで戦争しているわけですよ。そういうことを知って、基地を置くことが防衛になるのではなくて、置かないことが防衛になるんだということをリアルに議論していくことが大事だと思います。ウクライナの都市が被害を受けていることをリアルに感じなければだめだと思っています。

辺野古の海兵隊ですが、仮に「抑止力」だとか南西諸島に基地が必要だとしても辺野古に海兵隊を置くのは意味がないという軍事的なこともきちんと議論する必要があると思います。海兵隊の新しい戦略は固定基地を置くとそこがミサイルで一撃の下にやられるので、軽い装備を常に移動させて基地を転戦していくというEABDという軍事作戦を展開しようとしていますが、そこでは固定基地というのはほぼ意味がない。常に移動しながらミサイル攻撃をしていく。ですから敵の近くに基地があるということはまったく無意味ですし、しかも辺野古の海兵隊は、オスプレイという非常に移動についてもスピードは遅いですし飛んでいくとすぐに撃墜される、制空権がないとまったく飛べない航空機、こんなものが前線にある意味はないわけです。こういったものが必要なんですか。嘉手納の空軍基地とは全然質が違いますよ。嘉手納空軍基地が必要だとは言いませんけれども、やはりそれは軍事的な観点ではまったく違うものですよ。別に移設しなくたって、なくしたっていいんじゃないですかという議論ですね。

それから沖縄の権利回復、やはり人権という観点をもっと考える必要があると思います。「沖縄の人には申し訳ないけれども必要なんだよね」という話ではありません。「沖縄の人権をどうするんですか」沖縄戦によって奪われた権利の回復なんですよ。なぜそれを戦後補償として回復してくれないんですかということをきちんと議論する必要があると思います。日弁連の意見書「普天間飛行場の速やかな撤去及び返還への努力を求める意見書」が去年8月に出ました。これはなぜ普天間基地の返還が必要なのか、なぜ辺野古が問題なのかということを人権という観点から述べていますので参考にご覧になっていただければと思います。日弁連のサイトに載っています。

不平等な日米地位協定改定を求める

最後に地位協定ですね。有無を言わせず軍事基地ができる制度というのは、日米地位協定での基地の設置のあり方によるわけです。日米地位協定ではどこにでも基地をつくれる、そしてつくる場合には合同委員会で合意して閣議決定さえすればつくれます。地方自治体の関与も国会の関与もまったくないわけです。民主的な統制がまったくなされないままに基地の設置ができるという仕組みで、米軍に自由につくらせるというような仕組みを変えていく。こういう地位協定の屈辱的な規定については、こんな屈辱的な規定はないんじゃないですかと、むしろ国粋主義的な人ががんばって欲しいくらいですよね。この問題については、特に地位協定は最近関心が高くなっている、この点からも取り上げやすいと思います。

最近のコロナで言えば検疫の問題から取り上げられる。地位協定上検疫については何も規定がないから、事実上合同委員会合意で検疫は米軍に全部任せてしまっている。だから沖縄、広島、山口でばっと広がった。他の国々、オーストラリアやドイツ、韓国などは、米軍が入ってくるときの検疫はその受け入れ国の側がきちんと管理をしているわけで、日本はなぜこんななんですかということですね。それから横田の空域がオリンピックの関係で問題になったりしました。結局、横田の空域があって、羽田の新しいルートで危険な飛行をする。これも横田空域で歪な空域があるからこそそういった飛行を余儀なくされている。これもヨーロッパでは到底想定できない。首都の近くに外国軍隊が管理して、主権国家が管理できない空域が広大に存在するなんてありえないわけです。そういったことも含めて、いままで基地ということに直接つながらない、関心がなかった方にも地位協定の問題を取り上げることによって訴えていくことも必要ではないか。さまざまな角度で沖縄の基地問題を訴えることが大切だと思います。

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特別報告 大阪での「大阪維新の会」 とのたたかい

ご紹介いただいた高槻市の「市民連合高槻・島本」呼びかけ人の二木洋子と申します。今日は、高槻市の市議会議員をしておりましたので、維新が出てくる前と、出てきてからをつぶさに見てきた、その報告も兼ねて話をさせていただきます。

自己紹介ですけれども、1949年の大阪市生まれで、ちゃきちゃきの大阪女です。ずっと公害・環境問題、消費者運動、ジェンダー平等、平和運動とか市民運動に携わってまいりましたが、1991年4月に高槻市議会議員に初挑戦しました。当時、土井たか子さんが「山が動いた」といわれて、統一地方選でたくさんの女性議員が出ました。私は、家の近くにできるJT医薬研究所建設反対というシングルな課題に取り組んでいましたが、選挙に通ることができました。

どういう議員活動をするかというときに、市川房枝さんを見習おうと思いました。草の根市民派ということで、どこの会派にも入りませんでした。私は議員の仕事は、議会で質問すること、 そして自分はどんな質問をしたのか、どのような活動をしたのかを議会リポートでみなさんに説明をすること、いただいた報酬をどのように使っているのか使途の公開をすることと思い活動しました。市川さんは「国会休まない」と言われたのですけれども、私は、遅刻をしないということにして、6期24年間、議員活動をして参りました。

2015年4月、どうしようかと思いましたけれど、も、7期目にチャレンジしました。でも58票差で次点でした。このちょっと前に定数が削減されてしまいまして、1から3位までが大阪維新の会の人が独占しました。その現実を見たときに、私は、なにか大きな地殻変動が起きていると感じました。同時に、自分の落選だけでなくて、高槻市議会で政党に属さない市民派の議員が、多いときは6名いたけれども、3人に減りました。今は、もう2名になっています。それぐらい市民運動が弱っているということで、残る人生を私は市民運動にかけようと思って今日に至っています。

大阪維新の会の勢力が、今どうなっているのか

昨年の衆議院選挙で維新が大阪の中で圧勝したことです。15選挙区で圧勝、残る4選挙区は自民と公明と維新が協力して公明党が通っています。比例区得票率43%で、約171万5千票とっています。

でも、これは突然起きたのではありません。2019年の大阪府議選のとき、定数88のうち、すでに維新は51と過半数をとっています。自民15、公明15、共産2、立民1、無所属4でした。会派の移動がありましたので、現在は、維新47、自民16、公明15、共産2、立民2、無所属2となっています。けれども維新は、51人のうち4人を衆議院選挙に立てました。大阪8区、辻元さんがいた大阪10区も、府議を辞めて出てきて、4人全員が当選です。それでも、府議会では維新は過半数をとっています。定数88のうち、立憲野党は、わずか4しかいないというのが、大阪府の状況です。

大阪府内の地方議員数は、2022年2月の段階で、維新が240(府議47、大阪市議40、堺市議18、市町村議135)、自民153、公明209、共産142、立憲28、国民民主4。そして、維新の自治体首長が18です。この人たちが、選挙のときにフル動員して動くというのが今の大阪の現状です。さらに、先日2月24日、大阪府議会で定数削減が決まり、88から79になりました。減らしたところは、複数出ている選挙区を減らすという形で、いま立憲野党4人が出ているところは、定数が4とか3のところで、このうち3人が削減区に当たっています。私のところの選挙区でも、立憲を1人だしているけれども、4から3に減りますので、来年の府議会議員選挙では、ひょっとしたら、府議会の中で立憲野党の議員がゼロになるかもしれないという、危機的な状況になっています。

大阪維新の会の歴史を振りか返る

維新がなぜそんなに強いのか。少し大阪維新の会の歴史を振り返ってみます。
2008年1月にタレント弁護士の橋下徹が、「2万パーセント出馬はない」と言いながら、ぎりぎりになって大阪府知事選挙に出てきました。このときは、自民推薦、公明支持で出ています。翌年の2009年4月、府議会に「自民党・維新の会」の会派ができました。2010年4月、府議会に会派「大阪維新の会議員団」が22名で発足し、翌月5月には、政治団体として「大阪維新の会」が登録されました。松井市長も馬場幹事長も、もともと自民の人が、このとき維新に行ったということです。だから、維新の会は、自民党のバリバリの右翼と言ってもよいと思います。

2011年11月に橋下は、大阪市長に通りましたけれども、2015年5月には「大阪都構想」の住民投票の敗北で、橋下は引退。11月に松井大阪府知事、吉村大阪市長が誕生。4年後の2019年4月には、もう1回住民投票をするために、クロス選挙で今の吉村府知事、松井大阪市長になっています。2012年9月には、「日本維新の会」が結成されています。

大阪維新の会のめざすもの

それで、ここが大事なんですが、大阪維新の会は、何を目指しているかということです。ローカル政党なので、大きく掲げているのは、「世界に誇れる大阪」にするということです。確かにマニフェストの中には、教育問題とか、いろいろ書いてあるのですけれども、「世界に誇れる大阪」にするにはどうするか、大きな2つの柱があります。ひとつが、大阪府と大阪市を一体化する。政令指定都市をやめて、東京都の特別区のような形にして、大阪市のこれまでの財産を全部大阪府に吸い取ってしまう「都構想」です。もうひとつが、それらのお金を使って、大阪万博とかIRカジノを進めるということです。

大阪維新の会というと、みなさん、橋下や松井、吉村と言われるのですが、一番問題と思うのは、後ろに誰がいるかということです。もともと、これを作ったのは、堺屋太一です。しかし堺屋太一さんはお亡くなりになって、今、上山信一さんという慶應大学教授の方が一番のブレーンです。この方は、運輸省を辞めて、マッキンゼー・アンド・カンパニーという会社に行って、行政評価や行政経営の考え方を打ち出して、すごく売れた人です。そのあとアメリカに行って戻ってきて、慶應大学大学院、大阪市立大学大学院の教授になって、2008年、橋下府知事誕生と共に大阪府特別顧問になって、全部調査しています。

2008年に上山さんは「行政の経営分析」という本を出しています。ちょうどことの時、私は、公共政策を勉強しようと思って、大阪市立大学大学院に通いました。単位が取れないので上山さんの授業も受けました。そのときのテキストが、「行政の経営分析」でした。これを見て、本当にビックリしました。今までの自治体の「行政運営」でなくて、「経営」になっていて、いかにして自治体の事業でお金を儲けていくか、ということでした。その経営分析の専門家の上山さんが、今、大阪市、大阪府に来ていらっしゃるということです。

大阪維新の会の制度改悪

維新の会は、五つの具体的指針の下で、事業の削減をしてきました。

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2008年6月「大阪維新」財政再建プログラム
具体的指針
①民間との役割分担 民間にできることは民間に
②市町村との役割分担 身近なサービスは地元で
③団体との関係の見直し 出資法人や補助団体 自律性
④持続可能な施策構築 負担能力 受益者負担
⑤施策効果の検証と説明責任
事務事業、人件費、歳入の確保、出資法人、公の施設、主要プジェクト
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大阪人権博物館(リバティおおさか)も、大阪市が補助金を出してやっていましたが、「これを運営していても効果が全く見えない」と。そうですよね、人権政策は、お金を生みだす訳がないのですから。でも効果がないということで、廃止されています。コロナによる死亡者数は、大阪は、100万人当たり全国1になっています。これも、保健所を減らし保健所の職員を削減してきた。医療もそうです。そのとどのつまりが、今のコロナに出てきているということです。

大阪府特別顧問・特別参与23人が助言

大阪は、他の自治体とちがって、特別顧問、特別参与という人が23人もいて、政策の助言をしています。

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1.副首都関係
特別顧問:上山信一
安藤忠雄、橋爪紳也、原英史(政策工房)
岸博幸、猪瀬直樹、佐々木信夫、赤井伸郎
金井利之、土居丈朗、田中大輔
特別参与:池末浩規、高瀬孝司、土屋隆一郎、森屋直樹
2.その他
特別顧問 万博:森下竜一、
まちづくり:和泉洋人(日本建築センター顧問)
特別参与スマートシテイ4人、新公会計制度アドバイザー2人
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普通は、専門家も入った審議会で意見を聞いて、答申をもらって施策を書いていきます。大阪維新の会のやりかたは、それではスピード化できん、ということで、特別顧問、特別参与に前に意見を聞いて、ドンドンやっていくということですね。審議会方式だと議事録も残りますから、私たちもチェックできますが、特別顧問、特別参与に意見を聞いたというのは、ホームページ上で日時や項目は出ているけれど、その場で特別顧問、特別参与が何を言ったのかは一切不透明です。スピード化と同時に、非常に不透明な施策運営がおこなわれています。

このメンバーを見たら、やっぱり、トップが上山信一です。原英史さんは、この間、国会の公聴会で問題のことを言った人です。土屋隆一郎さんは、IR西日本で福知山線脱線事故が起こったときに労務管理をしていた人です。

大阪維新の会との闘い

みんなが、維新の会と、どう闘ってきたか報告したいと思います。
(1) 労働組合
体制改革の中で、公務員制度改革に最初に力を入れました。よくやるのは、機構改革といって部や課の数を減らして、人数を削減するのも公務員制度改革ですが、大阪は、特に基本条例をいれました。条例の最初に「 政策立案に関する優れた能力を有し、………能力と実績に応じた人事を徹底する」として、4点を挙げています。

「①幹部職員(準特別職)の公募制・任期制」
部長・教育長・校長などを公募にして、それも何年に限っての任期です。これで、現場はガタガタになりました。信頼関係のない人が、ある日、突然、来るわけですから。

「②成果主義人事評価の徹底」
人事評価は、自分の評価だけでなく、部長などからの評価も入れますし、成果主義ですから、職場をバラバラにしてしまいました。

「③条例による懲戒・分限処分の基準と公開」
本来ならば任命権者が公正・公平にやらなければならないのに、条例で基準を決めて一律的にやってしまうので、これも非常に問題です。

「④給与水準の切り下げ」
もちろん、給与水準も切り下げられました。たとえば、私の知人の娘さんが保育士に応募した場合、他の方が給料がよいから、府で通っても行かない。教員もそうです。公務員は人気が悪いところになっています。

(2) 大阪都構想との闘い
図書館や保育所減らし、民営化など、いろんな市民の闘いがありました。文楽や大阪フルハーモニーの補助金の打ち切りなど、文化団体も闘いましたが、2つだけ紹介します。

まず、大阪都構想との闘いです。都構想は、大阪市で住民投票を2度(2015年5月17日・2020年11月1日)やっていますが、これは大阪市を廃止して4つの特別区に編成し直すということです。今まで、大阪市の政令都市に入っていたお金を一旦全部吸い上げて、特別区に渡すという財政上の措置をするので、大阪府にとっては、おいしい制度です。2度の住民投票で、府民が勝利しました。

これは、「大都市地域における特別区の設置に関する法律」で、「特別区設置の場合は住民投票をしなければならない」ということで実施しなければならなくなったのですが、この時は「維新と公明」対「自民・共産・市民」の構図で闘いました(立憲は大阪市議会にいなかった)。①は、市民たちが作ったポスターで、絵本作家の方が描いて下さったものです。②は、いろんなところに行って撒いた様々なビラです。③は、住民投票の時は、投票当日も運動ができるので、分担してポスターなどを持って「反対です」と投票所前で訴えた写真です。2度目の住民投票の時は、大阪市の市民のみなさんと周辺地域の市民が手を繋いで本当にがんばりました。

(3)IRカジノとの闘い
もう一つの闘いが、IRカジノです。IRは、カジノも含んで大型の会議場やホテルなどを含めた統合型リゾート施設のことを言います。計画案が発表されてから9団体のみなさんが連携して長く取り組んで下さいました。

写真の丸いところがIR用地で、長細い円の所が万博用地です。大阪湾に浮かんでいる島みたいなところで、大阪市のゴミで埋め立てたところです。夢洲(ゆめしま)といいますが、ここが空いているので活用したいということで、「IRと万博をここでやろう」ということなのです。

業者を募集したところ1社しかなく、MGMとオリックスの共同でやります。

昨年末に整備計画案が発表されました。お正月が過ぎてから説明会や公聴会、意見募集がバタバタとやられのですが、コロナで説明会が全部終わらないうちに打ち切られてしましました。この過程で、松井市長は、「万博にはお金をかけるけど、万博のあとにIRをするから、1円たりとも税金を使いません」と言っていた。でも、埋め立て地なので地盤が弱いのはわかりますよね。辺野古はマヨネーズ状と言われていますが、ここは豆腐状と言われています。何のことはない、業者の要望で、地盤沈下を防ぐために800億円ぐらいのお金がいるとか、他にも、次々に大阪市、大阪府が負担しなければならないお金が出てきています。

「これだけ人が来るから儲かる」という数字への疑問など、たくさん出されていますが、見向きもせずに3月の府議会、市議会で、「整備計画案を国に申請していいですか」という議会の同意を求める審議が今されています。でも、悲しいかな、府議会は維新が過半数以上、大阪市議会も維新と自民をあわせれば過半数なので、たぶん通されてしまう可能性が高いです。4月28日までに国に申請すれば、国は3か所以内を認可する制度になっています。カジノは博打です。刑法で禁止されているけれども、3カ所だけは認めると国は門戸を開いたので、大阪は、その認可を求めるために必死になっています。

私たちは、「カジノの是非は府民が決める 住民投票を求める会」を2月20日に発足しています。そして、3月25日から2ヶ月、本当に厳しいですけれども、大阪府民15万人が必要なのですが、20万人集めて、府議会に「住民投票にかけて判断してほしい」と要望することになっています。
これを通すのは、非常に難しいと思いますが、参議院選挙の前ですので、この期間を通じて大阪維新の会の批判ができたら、と思っています。

大阪維新の会の選挙

なんで、大阪維新の会が選挙に強いのか、その根拠についてです。
みなさんは、劇場型政治とか言われて、ふわっととした感じで維新が通っていると思われていたら、違います。確実に名簿をちゃんと作っています。組織も作っています。それは、自民党、公明党が地域を組織してきたのと同じやり方で、若い人たちもSNSを使って組織しています。地方議員は、どぶ板を丁寧にしています。議会での質問より、どぶ板です。 ターゲットをちゃんと絞っています。私たち年寄りが歩いていても、チラシをすぐにくれません。現役で働いている人たちをみて、渡しています。

選挙戦の風景は、維新が出てきた前後では、一変しました。駅前の人の多いところは、それまでは、次の候補者が来たら交代で場所を譲るのが、与野党を超えのルールだったのが、維新は、いい場所を一日中でも独占します。そして、黄緑色のヤッケを着て、若い人たちがパワーあふれるイメージをふりまきます。それは、ほとんど地方議員がやっていますから、立つ位置、言うこと、振る舞い、全部プロです。候補者は1日600本電話、300回握手、10回辻立ちするようにと、産経新聞の記事ですが、ノルマが課せられている。

橋下氏、吉村知事は、テレビに出演していますし、大阪のメディアは、維新べったりです。吉本新喜劇のタレントたちは、自分の出ている番組で維新の会の人たちを褒める、という、すさまじい宣伝がおこなわれています。読売新聞大阪本社と大阪府が、昨年末にパートナーの協定を結びました。各新聞・メディアからも批判されていますが、協定を結ぶということは、読売新聞は、もう大阪府を批判できません。それは、大阪維新の会の批判もできないことにつながって、そんなメディアで良いのかという疑問がわいています。

維新議員の不祥事・事件簿

維新の会議員の不祥事の一部です。市川房枝さんがご覧になったら、嘆かれると思います。モラルも政治倫理もない人たちばかりです。

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?2021年4月 大阪府池田市長庁舎私物化(家庭用サウナ持込み)
?2021年4月 大村愛知県知事リコールで不正
?2021年4月 梅村みずほ参院議員秘書殺人未遂容疑で逮捕示談成立で不起訴
?2021年3月 森衆院議員 公職選挙法違反告発
?2021年2月 岡沢龍一大阪府議、弟に傷害容疑
?2020年12月 江戸川区議 ひき逃げ
?2020年5月 大阪府守口市議4人、市幹部長時間拘束
?2020年1月 下地衆院議員 IR中国企業顧問から現金受領
?2015年10月 小林由佳堺市議 政務活動費不正請求(1000万)
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憲法と大阪維新の会

私は、日本国憲法の第8章に地方自治の定めがあって、「92条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める」とあって、住民自治地方自治法が非常に大事な法律だと思ってきました。それは、憲法に謳われている主権在民、基本的人権の尊重、平和主義を具体にやっていくところが、地方自治体だと思ってきたからです。

でも、大阪維新の人たちは、そういうことは一切関係がありません。極言すれば、会社経営と同じような形で、人権保障には見向いてもくれません。お金を儲けるために、たとえば、大阪城の公園も「公園ビジネス」として喫茶店などのために安く企業に貸しています。学校も廃校すれば、ホテルになっています。

大阪維新の会の歴史観

大阪維新の会は、歴史観でも、日本軍 「慰安婦」 問題など、いろいろ問題がありました。今回のウクライナ侵略でも、非核三原則見直し、核シェアリングとか、ありえないことをボンボン言うのが大阪維新の会です。この写真は、2013年5月、橋下大阪市長の 「慰安婦制度は必要だった」との発言に抗議に行った時、NHKが撮ったのものです。

参院選に向けて

いよいよ、参議院選が迫っています。私たちは、大阪で維新の会と闘わないといけないのですが、参議院選の前に首長選挙があります。3月は、兵庫県西宮市長選。4月は、大阪府豊中市長選。西宮は、現職に対して維新が立ててくる。維新に対して他が全部一緒になって闘えば勝てるかもしれません。豊中も、維新に対して自民も含めて闘えば、維新を追い出すことができるが、微妙なところです。5月の京都府知事選も参議院選挙の前哨戦になっています。

憲法を変えさせないために、憲法の理念を生かすためにも、私たちはどうすれば良いのか。維新の会に支配されている大阪で、なんとかするためには、これまで通り、市民と立憲野党の共闘で、これからも頑張っていきたいと思います。

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