私と憲法25号(2003年4月発行)


米軍などによるイラク総攻撃に反対し、小泉内閣の戦争加担に抗議する緊急声明

許すな!憲法改悪・市民連絡会事務局

3月17日(日本時間18日)、米国のブッシュ大統領は世界の大多数の国々と圧倒的多数の人びとの平和への願いをふみにじり、国際連合憲章などの国際法をも完全に無視して、イラクにたいして武力による先制総攻撃のための最終通告をだした。これにたいして日本政府は、日本国憲法の精神に反し、また自ら国会で説明してきた公式見解をもなげすて、国連で新決議が採択されなくても米国による攻撃を支持するなどという言語道断の立場をとることをあきらかにした。

いまこれらの無謀・無法のリーダーたちによる戦争が始まろうとしている。私たちはこの大量殺戮行為を絶対に許すことはできない。

しかし、私たちはあきらめない。私たちは「ただちに戦争をやめろ」の声をあげつづける。私たちは全力で21日に予定されているWORLD PEACE NOWの主催による反戦パレードを成功させ、世論のいっそうの高揚のために奮闘する。

平和を求めるすべての人びとに訴える。たとえ戦争が始まってもあきらめずに、国境を超え、世代の違いを超え、思想信条の相違を超えて、いまこそ平和のためにともに行動しよう。無謀な戦争を引き起こそうとする米国政府と、それに加担する日本政府を許さない闘いをさらに強化しよう。21世紀はこの運動の成否にかかっている。

2003年3月18日
許すな!憲法改悪・市民連絡会事務局

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非道無法のイラク攻撃と小泉政権の加担、私たちの希望

高田健(事務局)

(1)米軍が使用する大量破壊兵器

3月20日、米英軍などはイラクにたいして「イラクの自由作戦」と称する総攻撃を開始した。この戦争はブッシュ米大統領の言い分では「米国には国益を守るために武力行使する主権がある」というのである。イラク周辺に30万人、陸上だけでも12万5千人にのぼる米英両国の軍隊を配備したうえで(現在ではさらに10数万人の陸上兵力を増派するという)、ブッシュ大統領は「米国とその連合軍はイラクを武装解除し、イラク国民を解放し、世界の危機をとり除く軍事作戦の初期段階にある」「イラクが統一され、安定した自由な国となるまで継続した関与が必要である」などと宣言した。

たしかにサダム・フセインの政権が軍事独裁政権であり、本質的にイラクの民衆を抑圧する政権であることはいうまでもないであろう。しかし、それが気に入らないとして米国が軍事力を行使してサダム・フセインを殺すこと、あるいはその政権を転覆させることなど、内政干渉の極致とでもいうべきもので、どのようにしても正当化できるはずもない。これはいかなる角度から見ても侵略戦争そのものである。

「JDAM(ジェイダム)」と呼ばれる精密誘導爆弾による攻撃はGPSという全地球測位システムとINS(慣性航法装置)などを利用して行なわれ、戦闘機から投下されたら自律誘導で標的をとらえる全天候型である。また開戦直前に開発実験されたMOABは重量10トンの空中爆破兵器で、準核兵器といわれてアフガン戦争で使用されたデイジーカッター弾の1.4倍の破壊力を持っており、空中で爆薬燃料を散布し、気化爆発させることで、半径1キロ範囲のすべての物を破壊し尽くすというものである。イラク戦争はこれら大量破壊兵器、先端技術兵器の実験場と化している。

(2)国連に背を向けた米国とそれを支持した小泉内閣の二重基準

今回のイラク攻撃は国連の安全保障理事会でのイラク査察の継続か否かにかかわる議論を中途で放棄して、強引に戦端がきられた。アメリカ政府の発表によると、安保理での「武力容認決議」の共同提案国だった米国と英国、スペインなど30ヵ国が攻撃を支援し、15ヵ国(のちにさらに数ヵ国を公表)が匿名で協力を表明した。これらの国々は領空通過の承認や後方支援などによる協力であり、日本は「戦後の平和維持や復興に参加する国」として挙げられた。逆に言えば今回の米英軍の行動は、ODAなどをはじめありとあらゆるアメとムチによる外交手法で各国の支持をとりつける努力をしたにもかかわらず、国連加盟191ヵ国のうち24%程度の支持しかないもとでの攻撃強行であった。

もともとアメリカは伝統的に国連を自らに都合のよいときには利用し、都合が悪いときには無視するという、手前勝手な行動を続けてきたのであるが、今回のブッシュのように乱暴な対処は国連史上類例を見ないほどに度はずれなユニラテラリズムであり、唯我独尊主義というべきものである。

この米国の非道無法な戦争に対して、日本の小泉首相はすでに18日の段階で世界各国に先駆けて早々と支持を表明した。ブッシュ演説のわずか3時間後のことである。「日米同盟の信頼性をそこなうことは国益に反する」「戦後50年間、日本を平和と繁栄に導いたのは日米同盟だった」という理由だった。

昨年来、小泉内閣はイラク軍事攻撃には国連決議1441以外に「新たな武力行使容認決議」が必要だという立場を繰り返し表明してきた。こうした立場から昨年11月には福田官房長官は「米国の代表も決議1441には武力行使に関する隠された引き金も自動性も含まれていないと述べているので、そのように理解している」などと述べていた。そして今年2月に米英などが国連安保理に提出した決議案と、その後の修正案の採択を求めてきたのである。この時点までは少なくとも国連の新決議があれば米軍のイラク攻撃を支持するという立場であった。

しかし、米国が新決議のないまま攻撃を宣言した18日には「やむをえない決断だ」として、これを逆転させたのである。従来、外務省が看板にしてきた「国連中心主義にもとづく国際協調」という看板が崩された。

現在、日本政府がこの日米同盟優先論の根拠にしているのが、北朝鮮の脅威論である。小泉首相は18日、「(今回の米国支持と北朝鮮の関連は)当然考慮に入っています。大量破壊兵器への脅威にどう対応するか」と述べ、北朝鮮の脅威に対応するためには日米同盟が不可欠だという意図を強調した。

自民党の山崎幹事長はマスコミのインタビューで「対テロ特別措置法」のような「イラク特措法」を作り、自衛隊を派遣すると述べた。また「戦時下の自衛隊出動はできないが、難民支援や難民流出先の周辺国支援はすべきだ。当面、予備費やODAの予算からだすが、予算措置も必要かも知れない」「武力行使の期間や被害程度に影響されるから見積もりはできないが、アフガン復興支援を前例にすべきで、それは2割負担だ。国連分担金も2割だし、これが目安になる」と発言した。当面、この総額は数百億円規模になるとみられるが、ブッシュ大統領が連邦議会に提出した10兆円以上の軍費の補正予算などから日本政府に戦費負担を要求してくる可能性がある。「そうすれば臨時増税以外になくなる可能性もある」とものべた。

いま政府が検討している復興支援法による「イラク復興支援」の内容は次のようなものである。(1)自衛隊によるイラク駐留多国籍軍への物資輸送、食糧・燃料補給、医療などの後方支援、(2)自衛隊による化学兵器など大量破壊兵器処理、(3)自衛隊による道路、施設などインフラ復旧・整備、などである。

(3)イラク戦争支持は憲法違反

このたびの小泉内閣のイラク攻撃支持表明は2つの意味で重大な憲法違反である。

第1は憲法9条第1項の「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国憲の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とする理念への真っ向からの挑戦である。日本国憲法は武力によって国際紛争を解決する立場に立たない以上、そうした米国の行為を支持することもまた違憲違法となるのは当然だろう。

また憲法98条2項は「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」と述べており、今回の米国による国連憲章違反の先制攻撃と単独行動を支持することは、日本国政府が認めている国連憲章を「誠実に遵守」しないことになり、違憲である。

あたかもブッシュ大統領が国連を無視し、国連安保理の機能を停止させて、不法不当にイラク攻撃を開始したように、小泉内閣も憲法を無視して米国の攻撃を支持するという違憲不法の行動にでている。

これについては自民党の河野洋平元総裁までが「(首相によるイラク攻撃支持)決定はどれだけ考え抜いたものなのか。国際紛争を武力で解決しないとする憲法の精神との矛盾、乖離をどう説明するのか」と批判した。当然の指摘である。

(4)真の平和への道を切り開くために

相次ぐ戦争による大量殺戮の時代でもあった20世紀が終わり、そしてまた米ソ冷戦体制も終わって、新しい世紀を迎えて3年目を迎えるというのに、世界では米国の新保守主義(ネオコンサバティブ)、帝国主義的原理主義にもとづく単独行動主義による戦火が拡大している。まさに世界は「終わりのない戦争」の時代に突入したのであろうか。

しかし、希望はある。昨年来、アメリカやヨーロッパの反戦運動組織が提唱して、繰り返されてきた国際反戦統一行動は、先の2月15日の1500万人を超える市民の反戦運動として、ベトナム反戦運動の規模を超え、史上初めての規模となった。戦争が始まったいまも、この運動は継続されている。日本でもこうした世界の人びとの波に触発され、市民の反戦運動は巨大化してきた。昨年の10月26日にいくつかの市民団体が共同して開いた600人の集会を機に、1月18日には36の市民団体・NGOなどが共同して7000人の集会とデモを行なった。3月8には47団体に増えて4万人の市民が参加した。そして3月21日には5万人と規模が拡大した。そしてこれらの集会の圧倒的部分が個人や草の根の市民グループによって占められており、こうした反戦デモへの初めての参加者がきわめて多いことが特徴である。

昨年に関して言えば、有事法制廃案をめざす運動が労働組合の組織動員を軸に4万、6万などの結集を果たし、世論を高揚させた結果、1年以上も継続審議に追い込んできた。さらに今回のイラク反戦運動は全世界的な新しい反戦運動が高揚するなかで、組織動員型ではない市民個人の行動を中心とした運動が大きく展開されるようになった。この力が、昨年末には開戦かと言われた米軍のイラク攻撃を3ヵ月にわたって延期させてきた。たしかに開戦は阻止できなかったが、この力は大きい。日本でも世論調査によれば8割近くの人びとがイラク反戦であり、小泉内閣の支持率を低下させ、政府を震撼させている。これらの人びとの力こそが、戦争を止める力の根源である。

これらの運動の今後の展開のなかで、有事法制廃案の課題や、朝鮮半島に平和を実現する課題、そして憲法改悪を阻止する課題などとが結合されていけば、戦争勢力に打撃を与え、真の平和の道を切り開くことができるのではないだろうか。

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