7月10日といわれる参院選の投票日を控えたこの208回通常国会の最大の政治課題は改憲問題だ。
岸田首相は節を曲げて安倍・菅9年の改憲路線を受け継ぐことで手に入れた首相の座の担保として自民党改憲推進本部を自民党改憲実現本部(本部長・古屋圭司)に衣替えし、党の重鎮を役員に並べ、組織的体制を整えた。岸田改憲体制はいよいよ出発しようとしている。
岸田文雄首相は1月17日の施政方針演説で、今国会の重要課題である憲法改正については「先の臨時国会において、憲法審査会が開かれ、国会の場で、憲法改正に向けた議論が行われたことを、歓迎します。憲法の在り方は、国民の皆さんがお決めになるものですが、憲法改正に関する国民的議論を喚起していくには、我々国会議員が、国会の内外で、議論を積み重ね、発信していくことが必要です」などと述べ、「憲法改正に関する国民的議論を喚起する決意」を表明した。
昨年末の臨時国会では参院予算審議の最中に憲法審査会を開催するという異例のゴリ押し的な国会運営まで行った与党と維新の会、国民民主党などは、この通常国会においても「憲法審査会を毎週開くべきだ」などと要求するにちがいない。
こうした改憲派の議論に対して、立憲民主党の泉健太代表は12月17日、「『毎週開くことが当然』かのような議論づくりはやめていただきたい。では、決算行政監視委員会は毎週開いてくれるか? 拉致問題特別委員会は毎週開いてくれるか? なぜ急に、憲法審査会だけに焦点を当てて、『毎週開け』と大合唱するのか。国会のルールを無視するやり方はいけない。
『憲法審査会だけを動かせ』というのは、国民をだます行為だ。政府(提出)の法案審査が終った後、日程が空くことがある。(野党から)議員立法が提出されているにもかかわらず、審査をしないこともこれまで何度も繰り返されて来た。あらゆる委員会には定例日がある。どこかだけを切り取り、毎週ひらくというのはおかしな話だ」と反論をした。
この問題は泉代表の反論で十分だ。
与党と維新の会などが憲法審査会の毎週開催などで足並みをそろえている一方で、これらの諸党が主張する改憲案の中身は必ずしも一致していない。
自民党は(1)九条に自衛隊の根拠規定を明記する、(2)緊急事態条項創設、(3)参議院の選挙区の合区解消、(4)教育充実などの4項目改憲案をかかげる。しかし、公明党は自民党が主張する①には消極的で、(2)には積極的だ。
公明党は「9条については、……平和安全法制が、9条の下で許容される専守防衛のための『自衛の措置』の限界を明確にした。この法制の整備により、現下の厳しい安全保障環境であっても隙間のない安全確保が可能になったと考える」(2018年5月3日「公明新聞」)との立場で、「安保法制」が成立した以上、9条改憲は必要ないとの立場をとっている。
維新の会は前身の「おおさか維新の会」が2016年にまとめた教育無償化と統治機構改革、憲法裁判所の設置の3項目改憲案をかかげているが、新型コロナウィルス感染拡大などの事態をうけ、有事対応への国の役割、緊急事態条項を明確化した内容に更新すべきとの判断が大勢で、合わせて憲法9条については自衛隊に関する規定をどう盛り込むべきかを検討している。同党は夏の参院選までの早期取りまとめを目指し、参院選の公約に盛り込みたいとしている。
国民民主党は新型コロナ感染症との関係で、緊急事態条項改憲論の導入には積極的だが、2020年12月4日に発表した改憲の論点整理では「憲法9条をめぐっては、自衛権行使の範囲や自衛隊の保持・統制のルールを規定する必要性に触れつつ、(1)9条2項を改定し、制約された自衛権行使の範囲内での実力行使、自衛隊の保持を明記する(2)9条1、2項を維持した上で、制約された戦力、交戦権の行使を認める例外規定の設置―の2つの条文イメージを列記した」だけで、結論が出ていない。
このままではこれら改憲派4党の9条改憲論は容易にまとまりがつかない。
そこで自民党の茂木敏充幹事長らは昨年11月12日、「緊急事態条項の創設を優先的にめざす」方向を示した。茂木氏は「新型コロナウィルス禍を考えると、緊急事態条項に関する切迫感は高まっている。さまざまな政党と国会の場で議論を重ね、具体的な選択肢やスケジュール感につなげていきたい」と述べた。
自民党がもともとねらっている「戦争のできる国づくり」との関係で「9条改憲」こそが改憲の本丸であることは間違いないが、9条改憲で改憲派各政党の意見がすぐにまとまらなければ、からめ手の緊急事態条項創設から改憲を始めようというのだ。この点で自民、公明、維新、国民各党の合意は比較的容易だと茂木幹事長は計算したのだ。
しかし、本誌でもくり返し指摘してきたように、先の通常国会で強行採決した際につけた「改憲手続法の附則4条」の議論が残っている。改憲手続法の公平・公正が問われている。この議論を欠いたままでは改憲手続法の発効は不可能だ。
この問題では2021年6月2日 第204回国会参議院憲法審査会にて、名古屋学院大学教授の飯嶋滋明さんは以下のように指摘した。
たとえば附則4条では、外国資金の規制の問題も検討が必要とされます。ブレグジットやアメリカ大統領選挙の際、ケンブリッジ・アナリティカ社が投票に影響を与えた可能性が指摘されています。憲法改正国民投票に外国政府や外国資金が影響を与える状況への対応がなされていないのであれば、国のあり方を決めるのは国民という「国民主権」からは大問題です。今、自衛隊基地や在日米軍基地周辺の外国資本の土地取得が問題だとして「重要土地等調査及び利用規制法案」が国会で審議されていますが、外国資本による基地周辺の土地取得への対応のために法的規制を及ぼす必要があるというのであれば、外国政府や外国資本が憲法改正に影響を及ぼすことを阻止する法整備が必要です。外国資金による国民投票への影響の問題は「国民主権」原理を侵害しかねない問題であり、この問題への法的対応なしに憲法改正発議は憲法上、当然許されません。附則4条は外国資本規制なども要求していることから、この問題への対応なしには憲法の国民主権原理を根拠として、憲法96条の国民投票は許されません。
また、憲法96条の憲法改正国民投票がフランス憲法学でいう「プレビシット」 とならず、真に国民意志の表明となるためには、憲法改正に関する多様な意見、憲法改正賛成派と反対派の見解が公平かつ適切に主権者に提供されることが必要です。この点、財力を持つ存在がテレビCMなどを買い上げ、一方的に自己の見解を大々的に流布するような状況で国民投票が行われたら、「金で買われた憲法改正」となりかねません。CM規制に関しては2007年の附帯決議、2014年の附帯決議でもその必要性への言及がなされましたが、CM規制についてもまだ十分な議論と法的対応はされていません。附帯決議の項目が14年間も対応されずに放置されているのです。公平な見解の流れを確保するためのCM規制の問題も、憲法の基本原理である「国民主権」の要請です。附則4条の対応をしないでの国民投票の発議は「国民主権」の関係で許されません。
208通常国会は冒頭から予算審議がはじまる。
与党など改憲派はこの予算審議と憲法審査会の平行審議を要求するのは間違いないから、この異例の議事運営は与野党の激突は不可避だ。憲法調査会以来20年超の歴史の中で、初めての事態だ。改憲派のこうした暴挙を許してはならない。「憲法は静ひつな環境の下で議論されるべきもの」とは初代中山太郎会長以来の不文律だ。1回や2回の選挙で多数を得たからといって破っていいようなものではない。
立憲野党は国会内外で、全力でこの暴挙と闘わねばならないし、市民はこの野党と連携して国会の外で改憲反対の世論を喚起するためにたたかわなければならない。いよいよその時が来た。
(事務局・高田健)
工藤和美(北海道釧路市)
北海道の昨年10月衆議院選の結果は小選挙区12議席中、与党の自民6(公示前比+1) 公明1(同±0)の計7議席、立憲6(同-1)議席。比例8議席中、自民4(同+1) 公明1(同±0) 立憲3(同 立憲3+国民(希望)1=4→-1)となり自公は12議席(同+2)を占めた。市民連合と4野党の政策協定は昨年9月8日に調印されたが、北海道における市民と4野党の合意成立は10月13日となり、9小選挙区で統一候補(立憲)、3選挙区は競合区 (私の居住する北海道第7区も含まれた) となり共倒れとなった。結果的には公示前に比べ立憲は2議席減となった要因としては、(1)全国的な立憲・共産など野党の伸び悩みの影響とともに合意が公示直前になったことにより市民と野党の共闘の取り組みが大きく出遅れたこと。(2)立憲が12選挙区すべてでの候補擁立を譲らなかったこと。(3)そのため共産党は3選挙区では擁立を取り下げたが、比例票を増やすため3選挙区で候補を擁立することになり競合区が生まれた。ことなどがあると考えられる。第7区(釧路・根室)は、2019年1月の市民連合@くしろ・ねむろの結成以降、市民と4野党の代表者(立憲・共産・社民・新社会)による意見交換会の開催、昨年は8回にわたる共同街頭演説会の開催、9月にはオンラインの「市民と野党の共闘でチェンジ国政!市民集会」を開催してきた。地元紙には「道内でも先進的に野党共闘に向けて取り組んでいたにもかかわらず、実現しなかったのは両陣営(立憲・共産)に衝撃だった」との記事が掲載された。一般的に共闘成立条件として(1)現職優先 (2)共闘しても勝てる小選挙区は一本化(3)共闘しても勝てる見込みのない小選挙区は除外する。といわれているが第7区は(3)に該当したと思われる。市民と野党の共闘実現を目指してきた私たちにとっては、非合理な現状の選挙制度の下では競合区が生まれるのは避けられないとしても失望感は大きかったが、選挙期間中は出来ることをすべく各野党の比例候補の応援と投票率向上を呼びかける街宣車活動を行った。しかし冷静に一本化が不成立になった理由を考えると第7区の足下では、反戦平和運動や労働運動や市民運動・女性運動・住民運動などの相対的な影響力の低下が進行していたことがある。国政選挙時の共闘だけでなく、地域に根差した運動そして改憲反対の運動を軸に地道に取り組み協働した運動や地方選挙での共同を実現する努力を続けていきたい。
A 総選挙で自公維が3分の2議席を獲得した理由は、多く議論されているが、その経済的背景を考える必要がある。それはコロナ禍の下での国債発行額が安倍政権時の平均35兆円(税収は65兆円前後で歳入の3分の1以上が新たな借金)を大幅に上回ったことである。21年度の国債発行額は当初予算から5割増の65兆円超(1.9倍)に膨らみ20年度の108.6兆円(3.1倍)に次ぐ規模となった。経済活動が麻痺する中で、特別定額給付金、雇用調整助成金、休業支援金などコロナ対策費用の増大は必要なものであったとはいえ、総選挙前の2年間で2~3倍の国債が発行されたことは与党側に有利に働いたことは疑いがないといえる。結果的には安倍・菅政権の後手後手のコロナ対応に対する不満は自民党の議席減と維新の議席増となって表れたが、野党の議席増には繋がらなかった。アベノミクスとこの2年国債発行額の増大により、日本の債務残高(対GDP比)は2020年末で266%となり先進7カ国(G7)の中で最悪の水準となった。
B 年初から原油、マヨネーズ・パン・コーヒー・パスタ・ラーメン・砂糖など食料品の怒涛の値上がり続く。アメリカではコロナ禍で異常な金融緩和と財政出動が行われ、麻痺した供給網の寸断もあり、21年12月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比7.0%上昇となり39年6カ月ぶりの高い伸びを記録した。膨れ上がった金融資産は、株価の高騰や値上がりが見込める実物投機に向かっており、急激な物価上昇となっており、アメリカは3月にも金利を引上げるとされる。日本にもその影響は波及しており、昨年11月の企業物価指数は前年同月比9.0%上昇した。伸び率は41年ぶりの大きさである。問題は昨年初めの1ドル103円台から年初の115円前後となった円安(約10%の下落)である。これは円安→輸入物価上昇→国内物価上昇という通貨安インフレであり、1000兆円にも膨れ上がった国債(=円の増発)の下で、根本的に止める手立てはないに等しい。
C しかし日銀は、インフレはコロナ禍の下での供給網の寸断によるもので一時的として金融緩和を止めることを否定している。(1/18黒田日銀総裁)しかし実際のところは、日銀は金融緩和を止めたり、金利を上げることが出来ないのである。日銀の保有する国債(資産)は、約521兆円(21年末)利回りは0.214%しかない。一方負債である日銀当座預金は543兆円あり金利である「付利」はほぼ0.1%である。仮に金利を1%引き上げると支払利息の増加は年間約5兆円、2%では約10兆円増となる。日銀の自己資本は約9.7兆円しかなく債務超過(民間企業の倒産状態)となる。金利上昇で日銀が赤字になれば、政府が補填するしかないがその資金は増税と新たな国債発行以外ない。その結果は一層のインフレ進行と不況を引き起こすことになる。
D インフレはあらゆる物の値上がりとなって表れるが、どこに怒りを向けたら良いのか分かりづらい。しかしインフレは、実質的には「賃金の引き下げ」であり「年金支給額の引き下げ」「生活保護費などあらゆる公的支給額の引き下げ」を意味する。インフレが進めば物価上昇に続いて増税と公共料金の大幅引き上げが必至となる。私たちは労働者・市民にインフレは決して仕方がないものではなく、アベノミクスなどこの間の自公政権による政治の結果であることとその責任を追及し、賃上げや公的支給額の増額を要求することを呼びかける必要がある。生活に根差した要求と改憲発議に反対し7月参議院選挙での市民と野党の共闘を結びつける運動を作ろう!
山本みはぎ(不戦へのネットワーク)
いったん収まったかに見えたコロナ過が、新しいオミクロン株の出現によって猛威を振るいだしています。沖縄や岩国など米軍基地のあるところで、在日米軍兵士や軍属は検疫もなく入国して自由に市内に外出したことによって感染を拡大させたことは明らかです。日米地位協定の抜本的な改定を求める声を無視し続け何ら対応をしなかった結果です。
昨年の衆議院選挙で、残念ながら改憲勢力が3分の2を上回り、自民党や維新の会は、コロナ禍を奇貨として緊急事態条項の創設という改憲の動きに前のめりになっています。軍事費の増大や自衛隊の南西諸島へのミサイル基地建設など、軍拡の課題も中国脅威論や台湾危機などを背景に拡大しています。今年もコロナ禍の中で運動を続けざるを得ないでしょうが、手を休めるわけにはいきません。
愛知での、昨年の衆議院選挙の取り組みは、「市民と野党をつなぐ会@あいち」で県下15選挙区のうち14選挙区で野党共闘を目指す組織ができ、候補者の一本化に向け様々な活動を行ってきた。つなぐ会@あいちと市民連合あいちが協力し、あいち独自の16項目の政策の作成、定期的な各区の交流会、立憲野党との懇談などを行ってきました。しかし、結果は比例では全選挙区のうち3選挙区しか当選出来ませんでした。全体の運動から見ると他の要因もあるとは思いますが、愛知では一部選挙区で候補者調整がうまくいかず立憲野党候補者が競合したこと(統一すれば勝てた)、また、支援組織である連合愛知は自動車・電機など旧同盟系の組合が強く、共産党も含めた候補者の一本化には難色を示し、直前に、愛知11区の全トヨタ労組出身の候補が立候補を取りやめたり、連合愛知による、共産党や市民組織との共闘・連携に対し候補者への圧力をかけたことによって、運動の制限を余儀なくされたことなども一因だと思われます。
しかし、4年前の選挙の時と比較して15選挙区のうち1選挙区を除く14選挙区で濃淡はありますが、野党共闘を求める組織ができたこと、市民連合との協力で独自の政策を提案できたこと、月一で全県的なオンライン交流も重ね、情報交換ができたことなど積極的に評価ができることだと思います。維新の党の躍進や国民民主党の動きなど警戒する要素もあり、私たちの力量もまだまだ不十分な中で、衆議院選挙の総括を踏まえて来る参議院選挙に向けて準備を始めています。市会・県会では国民と立憲が統一会派を組むなど愛知特有の事情もあり、なかなか困難なこともありますが、参議院選挙では立憲野党が多数派になることが必須のことなので、頑張っていきたいと思います。
昨年も課題としてきた、軍拡を止める闘いも重要です。2012年の第2次安倍政発足以来、防衛費は年々増加し、来年度の防衛予算の概算要求は5兆4797億円と過去最大になっています。実態は、2021年度の防衛予算で補正予算7738億円を含めると6兆1160億円と1%枠を優に超えています。防衛費2%を公約にあげた自民党は、姑息なからくりによって軍拡を進めています。
岸田自公政権は、安倍・菅政権の軍拡路線を引き継ぎ、中国脅威論や台湾海峡危機を口実に、公然と「敵基地攻撃能力の保有」を公言しています。すでに装備面では、短距離離陸・垂直離着陸ができ空母に艦載するF35B戦闘機も含む最新鋭ステルス戦闘機F35、105機の購入。敵基地攻撃にも使用できるスタンド・オフ・ミサイルの保有や研究開発が進んでいます。射程が約2000キロ、ステルス性や高機動性を持ち、中国や朝鮮が射程に入るミサイル開発や、陸上自衛隊が運用する12式地対艦誘導弾の射程を1500キロに改良するとしています。これらの開発は、小牧市にある三菱重工小牧北工場で開発が進んでいます。
また、航空自衛隊のF2戦闘機が2035年頃から順次退役することから後継となる戦闘機を日本主導で開発することを決めました。昨年3月には三菱小牧南工場を中核として、川崎重工業などと協力し、およそ500人の技術者を集めた開発チームを立ち上げました。2027年度までに詳細な設計を作成し、試作機の製造や飛行試験などを経て、2031年度の量産開始を目指すとしています。開発には、アメリカのロッキード・マーチン社から支援を受け、開発経費は約5兆円がかかるとされる国家プロジェクトです。
これらの兵器が配備され、最前線に立たされるのが、自衛隊のミサイル基地化される宮古島・石垣島・種子島や与那国島、沖縄本島等を含む南西諸島の島々です。沖縄の辺野古の新基地建設でも、陸自の共同使用が暴露されました。不戦ネットでは昨年から「軍事要塞化される沖縄・奄美の島々」という連続講座を開催して現状と課題を聞く会を開催しています。本土のマスコミにはほとんど報道されない、島々の現実を一人でも多くの人に知ってもらい、行動を起こしてほしいと思います。もはや自衛隊は米軍と一体となっており、台湾有事を想定した「日米共同作戦計画」の原案も策定されています。辺野古新基地建設反対はもちろん、南西諸島への自衛隊配備問題も引き続き取り組んでいきます。
明文改憲阻止の課題も重要です。岸田首相は、選挙後の11月1日「党是である憲法改正に向け精力的に取り組んでいく」と表明し、「憲法改正推進本部」を「憲法改正実現本部」に変更し、維新の会も自民党以上の改憲に前のめりになっています。一昨年発足した「憲法をくらしと政治にいかす改憲NO!あいち総がかり行動」は、市民アクションから提起された「改憲反対」の署名の取り組みを中心に運動を進めていくために、1月19日「署名スタート集会」を開き、地域や団体での署名運動の推進や学習会の開催などを提起しました。毎週土曜日の街宣、19日行動を継続し、憲法改悪反対の動きを改めて作っていきたいと思います。
池田年宏(ピースサイクルおおいた)
昨年末、何かにとりつかれたように手持ちの自転車数台の整備を徹底的に行いました。チェーンやネジ、フレームの錆び取り、部品交換、細部の磨き上げ………。ピカピカです。こいでみると感動!「おおっ! こんなに走る自転車たちだったのか!」
2022年は「2の日」の座り込みへの自転車走行で幕を開けたのでした。以下、私見をつづりました。よろしければお付き合いください。
【大分の衆議院選挙結果について】有権者数954,460(1区~3区 投票率は57.28%)*数字は朝日新聞より。
1区は無所属前職の吉良州司氏が、引退表明した自民前職(穴見陽一)の後任候補に選ばれた新顔の高橋舞子氏に2万1千票あまりの差をつけ当選(6選)しました。吉良氏は自民支持層や公明支持層に食い込み、無党派層へも浸透したようです。共産の山下かい氏は7.98%の得票でした。
2区は、654票差で自民前職の衛藤征士郎氏が立憲(元社民)前職の吉川元氏に競り勝ちました。(吉川氏は比例で当選。) 衛藤氏には自民支持層の85%が投票。が、公明支持層は6割にとどまり、その3割強は吉川氏に流れました。吉川氏には立憲支持層の96%が投票。「野党共闘」した共産支持層の8割の受け皿にもなったようです。ただ、無党派層は59%が吉川氏を支持したものの、衛藤氏にも38%が投票。無党派層の選択が、僅差(で勝った)に現れた結果。
3区では、自民前職の岩屋毅氏が立憲前職の横光克彦氏を下し、横光氏は比例復活もなりませんでした。岩屋氏は、自民支持層の88%、公明支持層の84%の支持を集めました。公示前は、河野太郎前行政改革相の来援を受けるなど「改革姿勢をアピール」。横光氏には立憲支持層の91%が投票し、共産支持層の7割に浸透しましたが、無党派層は55%が横光氏を、43%が岩屋氏を支持しての結果です。
大分では「平和をめざすオール大分」が野党共闘による選挙運動を行おうとしました。2区の吉川氏と3区の横光氏とは協定を結ぶ手ごたえはありましたが、1区の吉良氏同様、野党共闘の形をとることができませんでした。吉良氏の当選は、自民新顔の高橋氏への批判票の受け皿になったことと、連合の後押しがあったためでしょう。2区は惜敗、3区は大きく差をつけられた結果となりました。大分県での野党共闘の困難さがあらわれています。連合の「反共」姿勢と、それを過剰なまでに報道するマスコミのあり方にも疑問を覚えます。今回の衆議院議員選挙の結果、自公+維新で225議席となり、改憲勢力は3分の2を超えました。国民民主もこれらに合流すると考えると、当面、反動化がさらに強まるはずです。
【とりまく現状はピースサイクルのエネルギー!】
これまでとは違うカラーを出そうとした岸田首相ですが、「新しい資本主義」は新自由主義や「アベノミクス」の言い換えにすぎません。私たちの生存権は相変わらず脅かされることになります。生活困窮者や低所得者層への支援を訴えていかなければなりません。
岸田首相は1月1日の「年頭所感」で「自民党結党以来の党是である、憲法改正も本年の大きなテーマです。」と述べました。しかし、昨年10月に行われた衆院選での世論調査では、最も重視する政策課題の1番は経済財政政策で34%、2番は新型コロナ対策で22%、憲法改正は6番目でたったの3%にすぎませんでした。岸田首相は多くの人々が望んでもいない憲法改正を今年の大きなテーマだとしたのです。彼は「聞く耳を持っている」などと言っていますが、公文書改ざんの真相を問う裁判でも「認諾」するなど、実際には世論をほとんど無視しています。
自民党の憲法「改正」の最大の目的は、現在の「平和憲法」を変え、「戦争放棄」や「戦力不保持」、「専守防衛」さえも否定、日本を「敵基地攻撃能力」を持つ「戦争する国」にすることです。そのために彼らはこれまで「教育基本法の改悪(愛国心導入)」(2006年)、「戦争法」(2015年)、「共謀罪(現代版治安維持法)」(2017年)、「重要土地等調査法」(2021年)などを強行に成立させました。岸田首相は、つまりこの路線を継続するのです。ならば仕方ない。私たちは私たちの路線を継続するしかありません。
航空自衛隊築城基地へペダルを踏み進めながら、考えました。
・沖縄での戦没者遺骨を含む土砂の新基地建設への使用と「大分の塔」・・・沖縄本島南部に「魂魄の塔」がある。その一帯には各県が「碑」を設置していて、「大分の塔(碑)」には県出身の戦没者名が刻まれ、そのほとんどの遺骨もその地に残されているはず。なぜ大分県議会や市町村議会はなぜ土砂使用を止める決議ができないのだろう。
・辺野古や高江をはじめとする南西諸島の軍事要塞化・・・美しい海を埋め立て、貴重な森を破壊し、住民の暮らしを奪って軍事基地建設が行われている。我が事に置き換えると、例えば別府の温泉源を塞いで軍事施設を作ったり、周防灘を埋め立てて軍港にしたりすることが許されないのと同じ。
・「中国脅威論」と沖縄南西部での共同軍事訓練、中国から見た日本の憲法・・・アフガニスタンの軍事行動が失敗に終わった米国(アメリカ合衆国)が、今度は中国(中華人民共和国)を取り沙汰し、イギリス・オーストラリアと軍事同盟を結んだ挙句、オランダ・インドに日本を加えた多国籍「軍」で共同(次頁下段へ)(前頁から)訓練(中国への挑発)を行った。武力による威嚇に加担するもので、憲法違反に他なりません。砲艦外交をやめてほしい。平和共存の外交をしてほしい。また、中国によるそれらの「訓練」に対する抗議の動きを「中国脅威論」として振りかざすのも的外れ。中国脅威論を憲法「改正」の理由として利用させないよう、中国が台湾(中華民国)やアメリカ合衆国との関係の中で日本の憲法「改正」の動きをどう見ているか、知りたいものだ。
ピースサイクルの走行は、向かい風あれば追い風あり、です。体力とも相談しながら、反戦・平和、反核・脱原発、反差別・人権確立を旗印に、今年もまたペダルをこいでいきたいと思います。さて、今年の走行距離は何キロになることでしょうか。
(1月15日記)
事務局 ふやふや
特定秘密保護法の時に国会前のデモに参加するようになりました。
それから安保法(戦争法)、共謀罪法、辺野古新基地建設、原発再稼働、立憲主義の破壊に政治の私物化などのとにかく書ききれないほどの政治の問題に自分なりに取り組みながら日々を過ごしていました。
自民党の麻生太郎氏やオリンピックにまつわる森喜朗氏の女性蔑視発言なども繰り返される中、女性として見過ごせない事件も次々と起きました。
2019年3月、当時19歳の娘に対して、父親が殴る蹴るの暴行を加えた上、ホテルに連れ込み性交したとされる事件で、本当に抵抗不能だったのか疑わしいとして無罪判決となった判決。この判決に対して抗議をしようと、2019年4月にフラワーデモがはじまり、私も第1回のデモに参加をしました。そこでは性暴力にあった苦しみを吐露する女性たちと、その痛みを包み込むような雰囲気がありました。これ以上男性によって作られた(by角田由紀子弁護士)不備のある法律によって性暴力の被害者を苦しめてはいけない。
2020年12月21日東京高裁で逆転有罪が下り、父親に懲役7年の判決が言い渡されました。
フラワーデモは、現在全国47都道府県にまで広がりをみせています。当初は一部の弁護士さんから性犯罪の無罪判決の何がおかしいんだ、判決文読んだのか?等罵詈雑言が投げつけられました。
専門家まかせではいけない。法律の専門家ではなくたって、おかしいと思った事には声を上げなければ社会は変わらないんだという事を実感する今日この頃です。
別撤廃プロジェクトチームが立ち上がり、私も参加。
5月3日の憲法集会にサブステージで、弁護士の角田由紀子さん、白神優理子さんを講師に、「それってどうなの?これっておかしくない?#MeToo #WithYou」というイベントを行い、11月には、総がかり行動実行委員会主催のウィメンズアクションもはじまりました。毎月1回、女性たちが有楽町で街頭アクションを行っています。性差別撤廃PTは他にも、総がかり行動の19日行動などの集会でのジェンダーバランスを取るよう、必ず女性の発言者を登壇させるように働きかけを行うようになり、市民連合や地域の組織にもジェンダーバランスの意識が波及してきています。
2020年6月には、すべての馬鹿げた革命に抗して@agstsexism_jp という社会運動内の性差別・性暴力に関するアンケート結果を報告するツイッターアカウントの発信がありました。SEALDsの女性たちが被害にあってからその事を告発するまでにかかった時間の長さ、すなわち声を上げるまでそれだけ社会に沈黙させられてきた事を思わずにはいられません。
入試における女性差別
2020年10月には、聖マリアンヌ医科歯科大学の女性入試差別で元受験生の女性4人が大学に訴訟を起こしました。2021年3月、「都立高校入試の“男女別定員制” 同じ点数なのに女子だけ不合格?」というNHK首都圏ネットワークの報道があり、私が「男女関係なく平等にチャンスは与えられるべき」との趣旨のツイートを、番組で使わせてほしいという連絡を頂きました。ウィメンズアクションでもこのことに触れたところ、仲間からもこの事実に驚きの声があがりました。(この時の動画はこのNHK首都圏ネットワークの若い女性記者さんにも観て頂きました。)この問題はあっという間に、国会や朝日新聞、毎日新聞でも取り上げられ、2021年9月には、「都立高、男女別定員制を廃止へ…入試で女子に不利 今年度は800人近くが不合格に」と、段階的に廃止の方向へ舵を切ることになりました。
最近では、大阪府での男女別合格基準格差の報道がありました。東京都立高校だけの問題ではないかもしれません。
事件だけでなく、そごう、西武、ロフト、グリコ、アツギ、サンリオなどの企業でも女性にまつわる大企業の広告がインターネット上で批判を受けて「炎上」する事例が相次ぎ、問題になりました。「女性は表面的に仲が良くても裏ではいがみあっている」「女性は感情的で本音が言えない」「女の敵は女」と偏見を題材にしたり、女性の困難を自己責任論にしていたり。
意思決定の場に女性がいないからこそ、こんな広告にGOサインが出されてしまうのだなぁと。しかしそのことをSNSなどで指摘する女性たちが大勢いることが希望です。
小田急線内刺傷事件、動機は「フェミサイド」
2021年8月、小田急線車内で女子大学生が面識のない男性から突然牛刀で刺されて重傷を負うなど、10人が負傷するという凄惨な事件が発生しました。「幸せそうな女性を見ると殺したいと思うようになった。誰でもよかった」「ターゲットにしている勝ち組の女性に見えたので狙った」と供述。女性憎悪による、不特定の女性を狙ったフェミサイド(女性であるという理由で行われる男性による殺人動機)がとうとう起きてしまいました。現場に居合わせた看護師さんの働きにより女子大生は一命はとりとめたものの、その動機・殺意に女性は恐怖し、電車に乗ることも怖くてためらわれる事態がおきてしまいました。
ミソジニスト(女性嫌悪者、女性蔑視者)は、被害者の中に男性もいるのだから事件はフェミサイドではないと主張しましたが、犯人の供述からしても、明らかに動機は女性憎悪です。ターゲットにならない属性の人は呑気で他人事なんだなと感じます。フェミサイドを放置したらこうして男性も被害者になる、どうしてそのことがわからないのだろうか、と。
2021年8月14日、#小田急フェミサイドに抗議しますと、#KuTooの発信者、石川優実さんと菱山南帆子さんが声を上げ、新宿にてデモが行われました。大学生がフェミサイドの実態解明と対策を求めるオンライン署名を立ち上げ、9月に約1万7,300名の署名簿を当時の法務大臣、内閣府特命担当大臣(男女共同参画)に提出しました。DVやセクハラという言葉がそれまで起きていた被害の実態を可視化させ、社会として取り組む課題になった経過を見ても、「フェミサイド」という女性をターゲットにした犯罪が起きている現状を言語化することは大切な事だと思うのですが、それを認めたくないミソジニストの男性たちの抵抗はオンラインハラスメントの形を取りながら現在も続いており、すさまじいものがあります。
ジェンダー平等やフェミニスト、という言葉が知られてきたことはとても良いことだと思います。でもまだまだその意味は知られていないような気がします。
1月8日には、フェミスト労働組合の新宿東口のアルタ前で、スピークアウトアクションが行われました。Twitterでの中傷だけでなく、わざわざやってきて、異議を申し立て自分にも発言させろと主張する男性、親指を下げブーイングしながら通り過ぎる男性、「フェミニスト労働組合」の横断幕を観てギョッとする男性たち。そもそも女性が女性に対して「1年のうち1日くらいは性的役割分担から降りて休もう!」とアクションを働きかけているのに、呼びかけられてもいない男性がアクションを評価すること自体がとてもおかしなことです。
1年にたった1日でも女性が休むことが気に入らないのでしょうか?
「ジェンダー平等」とは、ひとりひとりの人間が、性別にかかわらず、平等に責任や権利や機会を分かちあい、あらゆる物事を一緒に決めることができることを意味しています。社会的・文化的に作られた性別(ジェンダー)を問い直し、ひとりひとりの人権を尊重しつつ責任を分かち合い、性別に関わりなく、その個性と能力を十分に発揮することができる社会を創るための取組みの一つがフェミニスト労働組合の取り組みなのです。
数年前から、試験に遅刻したくない受験生の心理につけ込み、テスト当日であれば遅刻を恐れて警察に突き出されないと踏んで、センター試験で痴漢を予告し実行する犯罪者の存在が知られ、#Withyellowのタグや黄色いリボンや安全ピンをつけるアクションなどが行われ、男性も含め鉄道内のパトロールや渋谷でのアピール行動なども行われ(次頁下段へ)ていまし(前頁から)たが、コロナ禍で痴漢防止活動も難しくなっています。
またもや今年も#共通テスト痴漢祭りなどというキーワードが溢れる中、日本共産党の兵庫県議会議員のきだ結さんが鉄道会社に対策を申し入れたり、せやがろいおじさんが痴漢を無くすためのアクションを動画でよびかけたり、痴漢抑止バッジなどの取り組みやツイッターで#痴漢逮捕祭り にしよう! #共通テスト痴漢撲滅 など多くの人たちが問題意識を持ったことで、報道も増え、鉄道会社も警察もようやく重い腰をあげて対策に乗り出しました。
共通一次テストは終わりましたが、これからも更に痴漢を撲滅すべく社会全体で対策を前に進めていきたい。2022年は大きな一歩の年となりました。
今年は参議院選挙があります。昨年の衆議院選挙でも、ジェンダー平等や選択的夫婦別姓などが市民連合と立憲野党の共通政策になりました。このような問題を訴える候補者を一人でも多く当選させたい。パリテ(男女議員同数)にも近づけていきたい。そう願い行動していきます。
今井高樹さん(日本国際ボランティアセンター(JVC)代表理事)
(編集部註)12月18日の講座で今井高樹さんが講演した内容を編集部の責任で要約したものです。要約の責任はすべて本誌編集部にあります。
お話:今井高樹さん(日本国際ボランティアセンター(JVC)代表理事)
日本国際ボランティアセンター、JVC代表理事の今井高樹です。今日のタイトルは、「つくられる脅威、忍び寄る戦争」という題名でアフガニスタン、パレスティナ、北朝鮮の経験から考えるということです。ひとことで言うと「悪者」と言われているような、例えば「タリバンは悪である」というようなイメージが流れています。パレスティナのハマースは、テロというようにアメリカなどは呼ぶ組織があり、北朝鮮はみなさん「悪者」のようなイメージがついてしまっています。そういうことがどうなのかといったことを少し考えて、お話させていただきます。
最初にJVC、私どもの団体の紹介はお手元にパンフレットをお配りしていますので、こちらを見ていただければと思います。私どもはいま5ヶ国で活動しています。アフガニスタンについては、2020年度で活動を終了させていただきました。ただ現地でJVCのスタッフだったアフガニスタン人の方々が団体をつくって、現地の団体ということで活動は引き継いでいます。私自身は2007年にJVCにはいりました。その前は長く普通の会社員をやっておりました。2007年に、最初に南スーダンのジュバに赴任しましてそのあと10年くらいスーダン、南スーダンで活動しておりました。2016年にはジュバで市街戦があって、ちょうど自衛隊が派遣されていたとき、日本の国会でも「戦闘」なのか「衝突」なのかといった論戦になったことがありました。稲田さんが防衛大臣のときです。その直後から南スーダンで緊急支援を行って参りました。
2017年に、10年ぶりに日本に戻り、それからJVCの東京の事務所で勤務しております。同じ年に、南スーダンの自衛隊派遣問題に関連して衆議院の公聴会でお話しをしました。そのときには、南スーダンの状況はPKO5原則を完全に外れていますので、自衛隊の派遣は憲法違反ですというという内容の話をしました。そのあと2018年からは代表理事を務めております。
安保法制の関連では2019年、2020年に、違憲訴訟の原告側の証人として法廷で証言をさせていただいています。横浜地裁と宮崎の2ヶ所でやって、そのほかでは広島高裁とか東京高裁の違憲訴訟でも証人で申請はされていますけれども、裁判所からは却下をされています。ここしばらくは裁判所も証人は却下するようになってきているような気がします。安保法制の訴訟のときには証人がだいたい3人くらいという感じで、1名の方が憲法論、法律の観点から安保法制はおかしいという話をして、それからもうひと方は元東京新聞、軍事ジャーナリストの半田さんが日本の実際の軍事政策の面からお話しをされて、私が南スーダンの話を中心に紛争地の現実から考えて安保法制はおかしいといったような、そういう組み合わせでやった感じでした。
本日の内容は、「タリバンは悪なのかどうか」というところから始め、それからいわゆる「悪」と言われているようなパレスティナのハマースと北朝鮮を例にしてお話をさせていただきます。私自身は、アフガニスタンについてはJVCの代表という立場で活動を見ていましたけれども、自分が行ったことはないんですね。パレスティナと朝鮮民主主義人民共和国は自分で訪問をしていますので、そういったことも交えてお話しができればと思います。
ではアフガニスタンについてですけれども、この写真に写っているのは2018年にJVCのスタッフたちが現地で企画した、タリバンとアフガニスタンの当時の政府軍が一緒に集まる平和集会のときにやってきたタリバン兵の写真です。JVCがアフガニスタンでどんな動きをしてきたのか。ちょうど2001年のアフガン戦争開戦のとき、大量の避難民が発生しましたので緊急支援というかたちで始めたのが最初です。それから20年間、医療関係の支援、診療所を開設してやってきました。右上の写真は識字教室で、男性もやっていますけれども多くは女性の識字教室です。平和に関する活動では、写真に写っているのはおもちゃの銃の販売を止めましょうというキャンペーンをやったときのものです。子どもたちがおもちゃの銃を持って撃ち合ったりして、自分もムジャヒディンの戦士になりたいとかになります。そういう文化を止めましょうということで地域の中で話し合って、おもちゃの商店がおもちゃの銃を置かないようにといった、実際にそのようになったのですけれども、そんな活動をしたときの写真です。
右下の写真は2007年前後だと思います。私たちが診療所を運営しているところにアメリカ軍がいきなりやってきて、そこで支援物資の配布を始めて診療所の機能を停止してしまった。それと同時に誤爆です。アメリカ軍の誤爆によって診療所のすぐ近くに爆弾が落ちたことがありました、その誤爆についてアメリカ軍は認めなかったけれども、証拠というか落とされた爆弾の破片などを持っていって米軍と交渉をしているところの写真です。米軍も最終的に米軍が落としたことを認めて、その地域では軍事行動は「しません」とは言わなかったようですけれども、「起きないようにします」といった。そういう話し合いをしたときの写真です。このアフガニスタンの活動は、現地のNGOのYour Voice Organization(YVO)が引き継いでやっております。
アフガニスタンは今年の8月にタリバンが権力を掌握して、この写真の光景はみなさんもテレビで何度も何度も同じようなものをご覧になったと思います。私たちの元JVCスタッフ、いまのYVOのスタッフに話を聞くと、ああいった映像が流れたおかげで人々が本当に恐怖心を感じたと言っていました。空港に人々が殺到して逃げて行く映像を見て、自分も逃げなくてはいけないのではないかとか、逃げ遅れたらどうしようかということをみんな感じるわけです。そのことによって恐怖心がついてしまったのではないかということを言っていました。元JVCのスタッフたちは全員退避などはせずにNGOの活動を行っていて、いまもみなさん無事です。特に身体的な危害が加えられるようなこともなくやっているわけですが、そのときは本当に恐怖心を覚えたということです。
日本のNGOにも、非常に過剰と思われるような反応もありました。それはアフガニスタンでこれまで活動していた記録とか、例えばスタッフの写真ですとか、まあスタッフの写真はわかりますけれども、活動をしていたこと自体をWEBサイトから見えないようにするとかです。他の国もそうですが、活動内容は日本のNGOのほとんどが人道支援の対応が多かったので、政治的にどうこういわれるようなものではない活動がほとんどです。医療とか教育とか保健などの活動ですけれども、それでも非常にタリバンを恐れているということですね。もちろん退避する人を救援しなければいけないという話が大きく出たわけですね。
私たちJVCのところにも、数は多くはないですけれども元JVCのスタッフですとか、あるいはJVCの活動に関係した何人かの方から、退避について何とか支援とか協力をしてくれないかという問い合わせがありました。私たちの中でも議論をしたわけですが、ひとつは本当にそういった方々が危険な状況にあるかどうかということは、話を聞いただけでは危険な状況にあるというような判断はできない。かといって完全に安全かどうかということも、もちろんわからないわけです。ただそういう中で退避をしたときに、最初は日本政府が何かアレンジをして退避の飛行機に乗せるという話もありました。それも隣の国に、パキスタンなどに出るだけでその後どうなるのかという保障がまったくない。もし受け入れ団体ががんばって何とかアレンジをして日本に連れてきても、そのあと日本でどうするのか。日本政府は何をするという話ではないんです。それは受け入れ団体の、受け入れる人たちの責任なので、そのあと日本でも身元保証人とか仕事をどうするのかとか、すごく大きな問題があったわけです。
JVCも40年近く前には、当時カンボジアからの難民を日本で受け入れて支援したこともあります。それは相当大変なことで、団体として長期にわたって活動計画を組んでやらなければいけない。そこまで私たちが急にできるわけではありませんし、とりあえず日本に来てお終いでは、本当にご本人たちのためにもなるのかどうかといった大きな疑問があります。基本はやはり自分達が生まれた土地で生活をする。もちろんそこの国では政治とか社会の問題については自分達で何とか声を挙げて、人々が解決しなければいけないこととして対処していくことがいいと考えるんです。
そういった議論がある中での退避支援ということは、実際には力量的にも難しかった。JVCとしては特に対応しませんでした。結果的には、私たちが把握しているところでは、元JVCスタッフはそのまま活動を続けているという状況です。ちなみにこの前ペシャワール会さんの、村上会長のお話を聞きました。ペシャワール会のスタッフも2ヶ月後くらいには全員が現地スタッフの方が活動にまた戻ってきて参加しているということをおっしゃっていました。
退避ということについて、本当に危険な状況にあって退避を必要とした人はやはりいたと私は思います。ですから退避自体はもちろん必要なことではあったと思います。ただああいったかたちの、恐怖を煽るようなことで、そういうキャンペーン的な退避というのが本当に良かったのかどうかについては疑問が残ったということですね。キャンペーンをすることで逆にみんなが退避の気持ちになってしまった面も多かったわけです。
日本の退避オペレーションは、みなさんもニュースなどでご覧になってかなり対応が遅れたといったような批判が政府に対してされていました。結果的に自衛隊機を出したけれども、実際に救援したのは一人だけになってしまった。共同通信の方で、そういうことになったわけですね。当初外務省の中では、タリバンは日本に対して比較的好意的に見ているから緊急退避しなくても大丈夫じゃないかという見方があって、それで外務省の対応が少し遅れた。そのあとに官邸かどこかわかりませんけれども、いきなり退避をやらなければいけないということになって遅れてしまったというような記事をどこかのネットで見ました。けれども、結果的に私はこの外務省の見方は結構当たっていたということですか。テレビなどでも、タリバンの報道官が日本については残って国づくりの支援をして欲しいと言っていたのはみなさんご覧になった方もいらっしゃったと思います。
要するに日本は軍を出していないわけですね。アメリカは軍を出しているけれども、日本は本当に外交関係者と民間の援助関係者がほとんどだったと思います。そういった人が本当にタリバンの標的になって避難しなければいけなかったのかということになると、私もその判断はかなり疑問符です。恐らくアメリカはああいう対応をしたとしても、ヨーロッパ、EU諸国などが退避という選択をしないで残っているところがあれば、また全体的な流れは違ったのかなと思います。いずれにしろ本当にタリバンが悪い、タリバンが外国人も含めて危害を加えるといったような意識、印象、先入観が非常に強かった気がします。そのあと退避の名目で自衛隊の海外活動を強化しようとしている動きもあると思います。
11月末にエチオピアの情勢が悪化したということで、ジブチに防衛省と外務省の調査チームを派遣しました。報道で見た方も多いと思います。流れ的には、アフガニスタンのことがあって対応が遅れたという批判を受けたので、今度はそういうことがないようにジブチに共同調査チームを送って、いつでも自衛隊機で駆けつけられるようにする。こういったことのひとつひとつが、すべて自衛隊の海外活動を強化していこうということに使われてしまうということは、私は非常に危機感があります。
こういった流れの中でタリバンについていろいろと報道されてきたわけです。具体的には人権侵害で人々を拘束しているとか、女性を叩くとか、そういったことが報道されていました。それについて「本性を現した」というか、「やっぱりタリバンはそうか」といった的な、特にこれはテレビの情報番組のようなところでそういう傾向が強くて、そういった印象で非常に報道されていました。私もそういうことが事実としてタリバンが行ったことはあったと思います。ただそれがタリバンの方針として出している、「女性の権利はイスラム法の範囲で守ります」といったことが徹底されていないから起きているのかもしれない。あるいはタリバンの名を騙って行動、行為を働くといったことも確かに現地からは聞いています。
一方で、報道されないこともたくさんあり、人々が想像していたけれども起きなかったこともたくさんあります。それは「大虐殺がある」とか「タリバンが破壊行為をする」とかを人々が想像して、だからこそみんなが空港に殺到するとか、恐怖心を感じていたことが起きなかった。その起きなかったことは、報道の中で取り上げるとか、誰かが焦点を当てることはほとんどないわけです。ですからメディアなどを見るときに、報道されていることと同時に報道されない部分も含めて考えなければいかないと思います。
タリバンというのは、現地の人たち、特に地方の農村部の人にとっては、わりと身近という存在です。写真をお見せしているのは元JVCスタッフの、さきほどお話しをしたYVOという団体をつくっていま活動している代表のサビルラさんです。右側の写真は彼の若いときの写真で、タリバンのメンバーではないけれども、そういったものに憧れたり傾倒していた。写真では銃を持っていて、知っている人の中にタリバンの人がいたわけです。それで自分も、力こそがすべてで、銃を持って、ということを考えていた方です。
その方が2000年代にJVCのスタッフに入って、最初はドライバーでした。活動する中で、米軍の誤爆についてアメリカ軍と交渉することなどを通じて、武器を持って戦うだけではなく話し合いで物事を解決することができることを知ります。NGO活動で、対話しながらいろいろな問題を解決していくことを考えることになって、そのあと平和づくりの活動をしている。そういう方です。彼は近くにタリバンの人もいたということで、いまも話を聞くと親戚の中にはタリバンの人もいる、兵士の人もいるということです。地域などによっても違いますけれども、この元JVCスタッフがいる場所は、アフガニスタン東部でパシュトゥーンという民族グループが住んでいる地域です。タリバンも基盤をパシュトゥーンというエスニックグループに置いているので、そういったことが関係していると思います。
もともとタリバンというのは農村を基盤とした組織です。このことは多くの専門家の方もいっていることで、そもそも国際的なテロを目的としているわけではないわけですね。彼らの一番のたたかう目的は、外国勢力をアフガニスタンから追い出すことでした。ですからこの20年間はアメリカを追い出して、アフガニスタン人が自分達で国を治めていくことだったので、国際的なテロをやろうというのはそもそもタリバンという組織の目的ではない。過去にオサマ・ビンラディンをかくまっていたことはありましたけれども、そのあとずっと見ていて、国際テロのネットワークづくりをやっているわけではありません。タリバンが国際的なテロをやるのではないかということは、タリバンという組織を知っている人であればおかしな見方ではないかということはあると思います。
タリバンの権力掌握について、いま写真で見せたサビルラさんですとか元JVCスタッフに話を聞くと、民主的な制度とか言論の自由などがどうなるのか不安ですという話をされます。同時に過去の政変――ソ連が来たときですとかアメリカのアフガン攻撃が始まったときなどでは、多くが破壊され国土が本当に荒廃してしまった。でも今回は違う。戦闘は限定的で、多くのところでは戦闘はなかったわけですね。ですから国は破壊され荒廃していない。これは国づくりのチャンスだと考えるしかないという言い方をされています。
あるいは、とにかくタリバンの権力掌握のあとは治安がすごく良くなった。村から町まで心配なく行ける、ということも言っています。この治安が改善したというのは、元JVCスタッフに限らず国連関係者などいろいろな人に聞いてもそのようです。今までだったら首都のカブールから地方に行くとか、あるいは地方でいろいろなところに行くというときに、本当に厳重な警戒をしなければ行動できなかった。今はそんなことはなくても行動できるということで、これについては結構間違いなくそうなんだろうなと思います。ですから今アフガニスタンは、これからの復興支援という上ではやりやすくなってきている。以前はセキュリティがまず確保できないので、移動するときなど、私たちも人道支援をやる上では非常に制約が多かった。今はそれがかなり安定してきているようです。
NGOの活動の継続についてですが、タリバンが権力を掌握したあと州レベルの人道支援の担当官(タリバンが任命した人です)がNGOと面会して、そこに旧政権の人道支援を担当していた人も同席して、引き継ぎみたいな感じでNGOと面会して話をしたと聞いています。これはペシャワール会さんの話を聞いたときも同じようなことを言っていらしたので、こういうことが行われているのだろうなと思います。ペシャワール会とか元JVC、いまのYVOなどが参加してタリバンが話を聞いて活動を続けて欲しいということを言っています。
ペシャワール会さんの話でも、10月くらいに、実際にタリバンの人が活動を見に来て、活動を再開したという話をうかがいました。YVOも女性の識字教室ですとかの再開についてOKが出ています。YVOは、今は緊急食糧支援を行っていて、そういった活動は始まっています。ですからタリバンはそういったかたちで円滑な政治の移行はやろうとしている。もちろんいろいろな混乱があるでしょう。タリバンの中にそういう人材がいないことも報告されていて、それも確かだと思います。けれどもやろうとはしているし、一部行われています。
しかし「課題も多い」です。女性の識字教育も始まりましたけれども、女性のNGOスタッフの活動が制限を受けています。医療関係のスタッフは活動ができるけれども、すべてのNGOの女性職員が活動を認められているわけではなかったということを、私が11月くらいに聞いています。ただそれも変わってきているので、今どうなっているのかはわかりません。すべてがスムーズというわけではないけれども、少なくとも人道支援活動も動き始めているということですね。
女性の権利がどうなるのかということが非常に注目を集めています。これは女性の権利が侵害されているのは、タリバンが悪いという単純な問題なのだろうかという疑問があります。そもそもアフガニスタン社会にある問題、つまり男性優位社会というものが非常に強いということがあります。タリバンの姿勢は、そういったアフガニスタンにもともとある文化・習慣的なものを反映したものであると見ることもできます。ペシャワール会さんの話を聞いたときに印象深かったのは、ブルカで全身を覆ったかたちの女性たちの写真を見せてくださったんです。その写真はタリバンが来てそうなったのではなくて、タリバンが来る8月よりもっと前の状態でした。これはアフガニスタンの中でも地域ごとに違っていて、特にパシュトゥーン地域はそういう男性優位性が非常に強いところです。ペシャワール会さんはそこで活動をしていて、そこではタリバンだとかタリバンではないということに関係なく、民主化をやろうとしていたカルザイやガニ政権の頃から、やはり女性の権利は非常に侵害されていました。ですからそれ自体問題だということはありますけれども、「タリバンが悪い」という単純なことではありません。
それから「政治化される『女性の人権』」と書いたのは、室蘭工業大学の清末さんが新聞などに書いていて、その受け売りで書いています。アメリカがアフガニスタンに開戦したのが2001年ですね。その開戦の理由が、ビンラディンをかくまっているからということでした。そのあとでアメリカが言い出したのが、「悪いタリバンから女性を解放するための戦いなんだ」ということで開戦の正当化を始めたことがありました。とにかくタリバンにそういうレッテル貼りをして、戦闘を正当化してきた。ですから女性の人権が政治化されてしまっている。それが今年の8月のあと、再度タリバンを批判するために政治化されて使われてしまっていることを清末さんは言っていらっしゃいます。ですからタリバンだけを言うのは非常に一面的な見方です。
一方でアフガニスタン女性自身の女性解放というか、そういった権利獲得のための戦いは1990年代から、ずっと続いてきています。それはアメリカがアフガン侵攻した後もそういったたたかいが続いてきたし、今もやっています。アフガニスタン女性たち自身がそういうことに取り組んできたという事実を全然見ないで、タリバンになったらまたこうなる、というような政治化した捉え方しかされていないというのはおかしいのではないかということを言っていらっしゃいました。
アフガニスタンを国家として承認するのかしないのかということも、いろいろと国際社会の中で言われています。そもそも国家の定義は何かということを調べると、だいたいの共通認識としては、一定の国家としての領域があって、そこに国民がいて、そこで実効的な統治をしていることが国家としての定義付けとして一般的に認められています。そういう意味で言えばタリバンが統治しているというのは、国家としての定義付けを満たしていると思うんです。「民主的でない」とか「人権軽視をしている」から国家を承認しないということが「あり」なのかどうか。これは私も答えを持っているわけではなくて、例えば大量虐殺をしているところと外交関係を持ってつきあうのかというと、そうはならないと思います。
ではタリバンの統治はどうなのか。例えば教育をイスラム法に基づいて人々の権利を認める、教育は男女別にやる、こういったことはイスラム圏では他の国でも存在しているわけです。しかしそのことについて例えばサウジアラビアとか、私はスーダンにずっと駐在していましたがスーダンも男女別ですけれども、そのことを欧米とか日本が批判なんか全然していないわけです。スーダンなどは日本が非常に良好的な外交関係を持っているということで、いつもスーダンについては自慢もしていますが、イスラム的なやり方については全然問題視していない。なぜかアフガニスタンのタリバンの話になるとそういうことを取り上げるわけですね。
現地の文化とか習慣というのは尊重しなければいけないもので、それを尊重しなかった米軍は結果的にアフガニスタンの人たちから非常に大きな反発を受けた。それだけでなく、やはりもっと大きいのは軍事的に、誤爆とかいろいろなかたちで人々の命を奪った。結果的に反発を受けてアフガンから撤退するということになったという見方もできます。文化や習慣というのは時の流れの中で、どこの国でもどこの地域でも変わっていくものです。ただそれは外国勢力や武力によって変わるものではなくて、そこに住んでいる人たちの中で変わっていくものです。アフガニスタンの女性の運動の話もしましたけれども、やはりそういったことではないのかなと思います。文化や習慣の違いを政治化して敵視政策のようなことをするのは大きな間違い、大きな問題ではないかと思います。
いまのアフガニスタンはアメリカの経済制裁が大きな課題になっていて、アメリカの資金凍結によって国中で現金が不足し、銀行から引き出せない状態にあります。同時に、今年は大干ばつの年になっていまして、食糧難です。そして人々はお金が手に入らないから食べものを買えない。物価も高くなっていることで非常に大きな人道危機になっています。このアメリカの経済制裁をとにかく外して、人々の生活が少しでも良くなるようにというのは、私たちが知っているアフガパレスティナ自治区、ガザ地区(ハマスが実効支配)ニスタン人とか元JVCスタッフ、国連も含めて、ほとんどすべての人が言っているところです。タリバンが「悪」というイメージが果たしてどうなのかといったところですね。それを前面にした敵視政策や制裁が本当にいいのかどうか。それがまた人々を苦しめていることをお話をさせていただきました。
ふたつ目の話題で「悪玉たちの素顔」といいますか、パレスティナのハマースと北朝鮮を取り上げて話をさせていただきます。タリバンのことを話すと、私の頭の中にパレスティナのことですとかあるいは北朝鮮のことがどうしてもよぎります。「善」「悪」ということで国際政治、国際社会の中で非常に偏った見方がされてしまいます。それがまた、紛争ですとか緊張関係とか国家の敵対などにつながってしまうと思うんです。果たして「悪玉」と言われる人たち、パレスティナのハマースなどがどうなのかということで、パレスティナのことから話をします。
パレスティナ自治区、これはイスラエルの地図ですけれども、ヨルダン川西岸地区とガザと2つに分かれて分断されてしまっています。ガザというのは非常に小さいところで、10㎞×40㎞くらいの細長い短冊状の場所に200万人が住んでいる非常に人口密度の高い地域です。もともとは1948年の中東戦争のときに、住む場所を奪われた人がたくさんここに入ってきて過密な状態になっています。そこがいま、イスラエルからまわり全部を封鎖された状態で高い壁-分離壁が立てられて、「天井のない監獄」と言われるような状態が2007年から続いています。2006年のパレスティナ自治区の選挙でハマースが勝ったあと、実際にはハマースが勝ったんだけれどもファタハが権力を握り続けて、ガザの方がハマース、ヨルダン川西岸地区の方がファタハになった。それぞれパレスティナの中の政治勢力で、ガザの方はハマースが統治しています。
このハマースはイスラム主義を基本にしていて、イスラエルは認めていない政治勢力です。ハマースの母体になっているのはムスリム同胞団という、イスラムの互助組織というか慈善活動をやるような運動から政治グループになっています。2006年の選挙で実質的には勝ったんですが、そのときにイスラエルとかアメリカなどはハマースを「武装テロ組織」と分類して非常に敵視してきています。2007年からはハマースが実効支配しているガザを、完全に封鎖しています。ガザに入るには検問所(いまは1ヶ所)で厳重なボディチェックを受けます。私も入りましたけれども、本当に荷物を全部出して服などの中も見られて、女性に対しても人権侵害的なボディチェックをされます。その上で、この写真にあるような細長い通路をずっと通ってガザ地区に入っていきます。外国人は、援助関係者として私なども許可証を取って入りますが、住民の方、ガザに住んでいるパレスティナ人の方は、外に出るのが非常に難しいです。そこでハマースに対する敵視政策がやられています。
この地区でのJVCの活動は、現地の女性が地域で担った子どもさんたちの栄養改善事業です。経済封鎖では物流なども制約を受けていますので、物価も高くモノを買うのが大変です。そして仕事がない。失業率も非常に高く、お金がない。そして医療アクセスも難しくて子どもの栄養失調がめだちます。その予防と改善のために地域の女性たちに研修を受けていただいく。その女性たちが自分たちで家庭訪問などをして、子どもさんたちの健康のチェックですとか栄養面のアドバイスをする活動をしています。
私はガザに2017年に入って、車で走り廻って私たちの活動を見てきました。私たちが車に乗って廻るときに、中から写真や動画をずいぶん撮りました。そうしたら、あるところでバイクの人とか何人かの私服警官みたいな人や、ハマースの治安当局のような人に囲まれました。「お前ら、何の写真を撮っているんだ」ということで尋問を受けたわけです。初めてガザに入って、カメラの中のデータを取られてチェックをされたので、どうなるんだろうと思っていました。そうしたらハマースの人がやってきて「チェックするのにちょっと時間がかかるから君たちこれを飲んでいなよ」といってマンゴージュースを持ってきてくれました。
「やさしいのかな」と思ったんですけれども、「でもハマースの人が持ってきたマンゴージュースだよね」とか言って、われわれも先入観から逃れられていないというのかな。4人くらいいた日本人で、周りの人間がみんな私の方を見て「じゃあ今井さん、先に飲んでみたら」と言われたんです。別に毒が入っているとか真剣には思わないけれども微妙な雰囲気がありました。もちろん何でもない普通のマンゴージュースですよ。それでみんなで飲んで、ハマースの人は「こうやってジュースの差し入れしてくれて」なんて言ってました。そのときに、地元のドライバーさんがハマースの当局の方に、「この人たちはガザに来て人道支援をやっていて、ここで写真を撮っているのはこの封鎖を受けているガザの現状を世界に向けて発信するために撮っている」ということを一生懸命説明してくれました。それで最終的にはハマースの人も来て、「君たちが来ている理由はよくわかった」と、没収したカメラや映したデータなども全部そのまま返してくれました。そういうことがあって、それが私とハマースの思い出になっています。ですから、ガザの人々のハマースに対する意識というのは、いまは普通に統治している政府のようなものなんですね。
ハマースにも腐敗などがあって、そういう意味ではあまり好かれていないという面はあるけれども、ガザの人々にとっては普通にその地域の政府的な人たちというような意識です。国際的に言われているようなテロ組織というようなイメージを、現地の人は持っているわけではないんです。空爆とかを受けているので、当然イスラエルに対する良くない感情があるわけです。けれども、そういう感じになっています。
ではイスラエルから見たときに、このパレスティナ人とかハマースをどう見ているのか。これはイスラエルの人といってもいろいろとあって、ちゃんとパレスティナの人と和平をして占領とか封鎖を止めるべきだと考える人も、もちろんいます。一方で、多くのイスラエルの人が何となくパレスティナ人とかハマースは怖いというのは、そういったようなことをイスラエル政府が言っているわけです。そういった感情がやはりあるというのは、私もイスラエル側、ユダヤ人の知っている人と話をしました。エルサレムというのは東と西でパレスティナ側とイスラエル側に別れていて、東エルサレムがパレスティナ側です。ユダヤ人の中では東エルサレムに行くと、家族から「あそこに行っちゃダメ」とか「なんであなたはあんなところに行くの」と言われるという話を聞きましたね。「危ないから」ということですね。エルサレム市内でタクシーに乗って東エルサレム側に行ってくれと言うと、タクシーは行ってくれないとか。
エルサレムの東と西は、真ん中に壁があったりするわけではないんです。東エルサレムも含めてイスラエルが実効支配をしているので、そこに壁はありません。壁があるのはガザとヨルダン川西岸との間にあるわけです。行けるけれども、タクシーは運転手が怖いから行きたくないとかいうことがある。あるいは、普段イスラエルの人はパレスティナの人と話すことがないとか。実際にパレスティナ人と触れ合って話したり友達になったりという関係がない中で、怖いというような印象が非常に強くなっています。イスラエル警察がパレスティナ人を逮捕する。何の理由もなく逮捕して拘束したりすることはもう日常茶飯時です。もちろん抗議のデモをしたりすることも、当然捕まるけれども、そうじゃなくても捕まえたりする。そうなるとパレスティナの人の中に反感が出ますから、それでイスラエル人に対して何か暴行する事件が起きたりすると、そのことによってやっぱりパレスティナ人は怖いとか危ないということになっていく。
そんなような敵対関係、敵視を、これはパレスティナ側からも、イスラエルの人たちも直接的に経験していない人が持っているようですね。ガザのドライバーさんと話をしているときに、彼が若い頃は、隣人としてイスラエルの人たちがパレスティナ側の市場に来て買い物をすることもあって、決して仲が悪いわけではなかった。この10年20年の中でお互いにそういう交流がなくなってしまったということを話していました。
今年イスラエルによる空爆が5月にありました。そのときの写真です。左の写真は、空爆の最中に子どもが音でおびえているので、耳をふさいで家の中でじっとしている写真を撮って、送っていただいたものです。このときに、JVCは空爆のあと緊急支援として病院への支援を行いました。この空爆のときはハマースがミサイルを発射して、イスラエルが防衛をして、その報復としてイスラエルがガザを空爆したといったような流れで報道されることが多かったんです。やっぱりハマースの方が悪いといったようなイメージでいろいろな報道で語られます。このときの流れをよく見ると、ハマースがミサイルを発射する前にエルサレムでイスラエルの入植活動がひどくて、パレスティナの人が抗議することがありました。イスラエル側は、パレスティナ側にどんどん入っていって入植活動、土地を取ったりしています。それがひどくてパレスティナの人が抗議をすると、捕まったりします。パレスティナ人を怒らせるようなことをエルサレムでやっていて、それに対してハマースが反応してミサイルを撃ったことがあります。
問題の背景になっていること、イスラエルとパレスティナ側の圧倒的な力の差というものが捨象されてしまって、どちらが先にやったかというとやはりハマースだろうといったような、国際的なメディアなどの中ではそういうことが言われてしまうということがありました。
次の話は朝鮮民主主義人民共和国、北朝鮮ですね。私たちが話をするときにはなるべく正式名称の「朝鮮民主主義人民共和国」と呼ぶようにしています。「北朝鮮」という呼び方もまたレッテルのひとつかなと。「北朝鮮」というのにどうして韓国のことは「南朝鮮」と呼ばないのかといったような疑問もあって、やはり「北」という言い方ではなくて私たちは正式名称で呼ぶようにしています。
この国は「孤立している」と言われています。新聞とか報道でも必ず「孤立がより深まった」とか孤立している前提で書いてあるわけです。果たしてこの朝鮮というのは、国交を持っている国が世界で何ヵ国くらいあるかということをみなさんご存じでしょうか。多くの日本人のイメージは30くらいじゃないかという気もします。ちなみにイスラエルがどのくらいの国と国交を持っているかというと、2001年の情報しかなかったんですが、このときに157ヶ国でした。その後去年、今年でアラブ首長国連邦ですとかスーダン、モロッコなどいくつかの国が国交を持ったので増えていると思いますので、160から170くらいなかなという感じです。イスラエルがこのくらいです。朝鮮民主主義人民共和国は2019年の情報で165となっていて、160を超えています。
イスラエルと朝鮮民主主義人民共和国と、それぞれ外交関係を持っている国の数はそんなには違わないかと思います。でも日本人の意識だとイスラエルの方が、「ちゃんとした国」という言い方は変ですけれどもいろいろな国と関係があって、「北」の方が多少孤立しているというイメージがありますね。この辺がある意味印象操作されているところかなと思います。
実際に平壌に行ってみると、大勢の観光客がヨーロッパから来ています。この写真は平壌のスタジアムにマスゲームを見に行った時のものですけれどもここに観光客がたくさん来ていて、これが重要な観光収入源になっています。1回見に行くと100ドルくらいです。このマスゲーム自体はすごいなと思うようなもので、中国からの観光客が数は一番多いです。同時にヨーロッパからも、私が見たのはドイツの方が来ていましたね。もちろん国交のある国から観光に来ていますが、日本人が思っている以上に普通の外交関係があるわけです。
私たちはこの朝鮮で90年代に人道支援、食糧支援を始めて、2000年代に入ってからは市民交流の活動をしています。子どもの絵画の交流をしていて、これは続いています。2012年からは大学生交流というかたちで、日本の大学生が毎年数人程度ですけれども訪問しまして、平壌外国語大学で日本語を学んでいる学生さんたちと交流プログラムをやっています。残念ながら去年今年は新型コロナの影響で中止になっています。
大学生のみなさんが初めて平壌に行ってみんな驚くのは、普通の街というか、そのことに驚くんですよね。みなさんに感想を聞くと、やっぱり平壌に行くと人々が鬱屈した表情で、抑圧されている感じでじゃないかと思って行ってみたら、アイスクリームを買い食いしている学生とかごく普通の人たちがそこにいることに驚きますね。実際に大学生同士の交流をして一緒に市内を回って、この写真は地下鉄に乗っているところです。それからスポーツ交流ですとか、小学校を訪問して子どもたちと触れ合ったりします。
「会ってみるまでは怖かった」と大学生のみなさんは言うけれども、会ってみると相手の大学生も自分達と同じような大学生活をしていることが分かります。例えばスマホを持ってSNSをみんなで一生懸命やっていたりとか、ちなみに平壌のスマホは国際的なインターネット回線にはつながっていません。国内のイントラネットで、その中にニュースサイトとかLINEとかフェイスブックのようなSNSがあります。そういうことをやっていたり、ファッションの話とか恋愛の話とか、一応平壌の大学では恋愛は禁止されているそうですけれども、でも「禁止されているけれどもみんなわかっているよ」、「何とかさんと何とかさんはつきあっている」とか、そういう話をして、「なんだ、みんなどこでも同じなんだ」ということで、怖かったけれどもそういう認識になった。
平壌から帰ってくるとよくある質問を受けます。「平壌のビルは張りぼてなんでしょう」とか、「平壌は発展しているように見えるけれども地方はひどいよね」と言われます。平壌のビルについて私は中に入ってチェックしたわけではないけれども、高層マンションの下にイタリアンレストランなどがあって、そこで食事もしました。マンションの住人が家族連れで来てピザとか食べたりしています。高層マンションに住んでいる人から私も会って話を聞いたりしましたけれども、張りぼてとは思えないですよね。実際にそこに人は住んでいます。日本人が訪問したときにすべてがつくられているという「でしょ?」っていう人もいますけれども、私たちが市内をぐるぐる回って、ふらふら歩いて、地下鉄に乗ったりするのに、あれを作り込んだということができるわけもなく、普通の生活が当然あるわけです。
「首都はいいけど地方はひどいよね」という話も結構されます。確かに格差はあると思います。私は地方には行ったことはありません。板門店に行った時に車の中から農村の様子を見るくらいでそれ以上はよくわからない。ただ格差というのは、特に発展途上の国は大きな格差があると思います。でも私が知っている、スーダンに長く駐在したり、東アフリカのケニアとかウガンダとかもあちこち行きましたけれども、そういうところでは首都と地方の格差は本当に大きい。首都は公共の電力とか水道があるけれども、地方に行ったら電気もなければ水道は当然、浄水器はないということは普通にあります。そういう意味では、日本などは地方も含めてもちろん差はあるにせよ、わりと短期間にそういった基本的な社会インフラに関してはできたと思います。地方と首都で大きな差があるというのは決してこの朝鮮民主主義人民共和国だけではなくて、他の発展途上の国では普通に多くあることだということが私の認識です。ですから、首都と地方の格差ということで北朝鮮批判のような言葉を聞くと、どうしてそういうふうになってしまうのかという感じもします。
学生交流の話に戻ると、日朝の大学生の意見交換、市内観光などのあとに意見交換会をします。この写真のように車座になって話をして、お互いの信頼関係をどうつくるかというテーマでやることが多いんです。そのときに「賠償問題」――これは平壌の学生が日本の学生に対して植民地のときの強制連行などについての賠償問題が残ってるということを話してきたり、あるいは日本の学生は「拉致問題を知っていますか」ということを話したりします。拉致問題については平壌の学生は「あるということは聞いたことがあるけれども詳しくは知らない」という感じですね。こういったやりとりも学生交流を始めた頃はなかなかできなかったんですね。何年か続けて、その中でこういったセンシティブというか、お互いの両国間にある問題点について触れることができているという感じです。
こんなやりとりもありました。2019年に、私が交流の車座になったところで司会進行のようなことをやっていたときです。日本の大学生が「どうして朝鮮民主主義人民共和国はミサイルを発射するんですか」と質問したら、平壌の学生は「自分達の国の防衛のため、訓練のようなものでやっているんだ。ずっとアメリカの核の脅威にさらされているからやらなければいけないんです」と。日本の学生が「でも日本ではみんな怖がっているんです」と言うと、平壌の学生が「そうなんですか。全然それは考えてもみませんでした。だったら日本はミサイルを持っていないんですか」と聞きました。日本の学生が「えっ」ってなって、「たぶん持っていないと思うけど」と日本の学生の方が答えに窮してしまった。
日本は、ミサイルは米軍の中に配備されて自衛隊もミサイルは持っているけれども、「日本はミサイルは持っていないの」と逆に切り返されて、平壌の学生が「とにかく日本にアメリカの基地がなければ日本にミサイルが向くことなどはないですよ」と言った。日本の学生が「えー、そうなんですか」となって、それで平壌の学生が「どうして日本にアメリカの基地があるんですか」と聞いたら、日本の学生は困ってしまって「それは日本を守ってくれているんだと思うけれども」という感になった。平壌の学生はあのときかなり突っ込んで聞いてきて、「日本の米軍基地の地元の人は迷惑だと思っていないんですか」ということも聞いてきました。
もちろん私はそこで朝鮮の軍備やミサイル、核開発などを擁護するつもりはありません。ただ、あまりにも朝鮮の方が脅威だということを日本人は認識しているけれども、自分の国にあるアメリカの基地とか自衛隊も含めて、それがどれだけ相手にとっての脅威になっているかということは、普通は考えることができないと思うんです。特に普通のマスコミ報道を見ている限りでは、なかなかそういう想像ができない。参加した学生などはそれを聞いてはっとしたということで、やっぱり日本の米軍基地のことなども学ばないといけないと、みなさん感想でいっていました。
意見交換の最後に平壌外大生の発言で「将来は東アジアでもヨーロッパのようにパスポートなしで行き来がしたい、そなふうになれたらいいですね」とか、「お互いの意見が違うのだったら」――この「意見」というのは賠償問題とか拉致問題のことですけれども――「意見が違うのだったら議論を重ねて歴史教科書を一緒につくったらいいんじゃないでしょうか」というとても前向きな発言が出てきていました。日本の学生は日本に戻ったあと、日本植民地支配の歴史ですとか、在日コリアンのさまざまな権利についての勉強会を続けています。
平壌の人々は自分の国の体制、指導者のことについてどう考えているかということは、これはちょっと私たちも直接的には質問のしにくいところです。私たちは事務局ということで何人か一緒に行っていますが、どうしても分別がついちゃうというか、受け入れ側の対外文化連絡協会というところの人に直接的にこういったことを聞くことはなかなかできません。けれども指導者の像がたくさんありますから、大学生なんかはそういうことも「みなさんどういう気持ちで行くんですか」みたいなことは少し話をしているのかもしれません。日本の大学生の印象を聞くと、平壌の大学生などは自分の国の体制については基本的には受け入れているんじゃないか。強制されて抑圧されて認めているというような感じではなくて、それなりに受け止めているんじゃないですかという印象のようでした。帰国してからいろいろな報告会などがありますけれども、参加者から質問を受けたときに、大学生のみなさんはそういう答えを概ねされていたように思います。
アフガンから始まってパレスティナ、朝鮮民主主義人民共和国の話をしてきましたけれども、私が今回話をしたいと思っていたのは、「善」「悪」ですね。危険な「善」「悪」の2項対立、国際社会の中でどうしても「善」それから「悪」というラベリングというかイメージ付けがされていて、気がつけば戦争、つまり「悪」をやっつける戦争を何となく支持してしまっている。なんとなくではなく、本当に敵対心を煽られて積極的に動員されるケースも戦争が始まるときにはあります。そういったことの危険性をすごく私たちのこれまでの活動の中からも感じます。しかも一旦固定化したイメージはなかなか変わらない。おそらく北朝鮮やタリバンについてのイメージなども変わらない。やはり20年前についたイメージがいまも繰り返される中で、タリバン自体が女性の権利についても、イスラム法の範囲とは言っていますが保障すると言っていてもみんな信じられず、なかなか変わらない。
さらに知らないこと、直接相手と会ったこともない。タリバンの人や、イスラエルとパレスティナの話もあり、近くにいても直接的な交流がなかったりすると敵意というものがつくられてしまうということがあります。これは朝鮮に行った大学生が言っていましたけれども、平壌に自分の知っている人が友達になっているというとやっぱりずいぶん意識が変わる、敵とは思わなくなるということを言っています。敵視政策――あの国は、あの政治制度は悪いから経済制裁をするといったような、こういうことをどう考えるかということですけれども、私はやはり制裁をして、敵視をして相手を変えることは、なかなかできないと思います。できるのはこちら側が変わるということ、こちら側が変わるというのは、やはり相手を理解することだと思います。これは人間関係でも相手と関係が悪くなったり、「嫌な奴」ということになったときに相手を変えるということはできないですね。自分が変わらなければいけない。自分がもう少し相手を理解するとか努力をして、相手がどうしてそういう行動をするのかということを理解する。
朝鮮についていえば、軍備とか核について批判することはできるし、それは良くないことだけれども、どうしてそういう状況になったのかを理解しようとする、理解するということですよね。タリバンも、タリバンがどういった考えを持っているのか、あるいはどういった社会的な背景の中でそういったことをいっているのか。決してタリバンが悪い奴らだからということではなくて、それはアフガニスタン社会、文化の反映でもある。タリバンも、国際社会を意識していろいろと変わってきているので、その辺をきちんと理解をしようとすることではないのかなと思います。
もうひとつ、やっぱりその国のことはその国の人たちが決めるということが基本ですよね。ですからアフガニスタンの女性の戦いということを話ましたけれども、敵視外交によって変えることはできません。そういうことではなくてその国で変えようとしている人、権利の拡大とかそういう人に連帯していくことが大切なのかなと思います。いわゆる人権外交というのは、果たしてその国の人のことを考えてやっているのか。日本も含めて特にアメリカは、アフガニスタンのタリバンもそうですし、中国とかロシアもありますが、人権外交をするときに本当にその国に住んでいる人の人権を慮っているのかといったら、これは外交的なひとつのツールとしてやっていると思います。
「あまりにも酷いダブルスタンダード」と書いたのは、最近民主主義サミットをアメリカがやりました。あそこに招待された国の中には例えばフィリピンが入っています。フィリピンというのはドゥテルテ政権の大きな人権抑圧、政府に対して批判する人を弾圧したり、国連のレポートにも問題点が報告されているところを民主主義サミットに呼んでいる。これは中国包囲網という、そういう陣営をつくることです。そういった意味では「善」「悪」と見せかけながら同盟国をつくったりある陣営を敵対させていくとか、それが緊張関係を高めて戦争をしやすくなる、戦争に人々を巻き込みやすくすることではないかと思います。
メディアの報道などについては、ちょっとしたことに疑問を持つことが大事だと思います。「北朝鮮は孤立を深めています」というときに、そもそも孤立しているのかなという、ちょっとしたことに疑問を持って、国交を持っている国を調べるだけでも実はメディアが言っていることもおかしいんじゃないかなと思ってみたりとか、違う視点から考えてみるということですね。タリバンについても、先ほどの女性の話も決してタリバンだけが悪いわけではないとか、いろいろなことを別の観点から考えていくことも大事だと思っています。JVCの行動規範の中に、いろいろな経験をする中でこんな風に書いています。「現象だけでなく原因や背景を考える。問題の現象面を見るだけでなく『なぜ起こるのか』の原因を考え、再発の予防策や政策提言につなげます。多様な視点からとらえ、多数派の立場やメディア報道による先入観に左右されず状況を注視し、援助の不均衡の是正や独自の情報発信につとめます。」ということです。なるべく先入観ではなく多様な視点からものごとを捉えて、「援助の不均衡」というのは国際社会の中で「善」「悪」のようになると、どうしても「善」側の方に援助が集中するわけです。
JVCの活動の中で一番それを感じたのが1980年代と大昔の話になりますけれども、当時カンボジアを支援していたときに、カンボジアから大量の難民がタイ国境を超えてタイ側に来たときです。当時のカンボジアはベトナムの傀儡政権といわれていて、東西冷戦の頃ですけれども、ベトナム-ソ連の傀儡政権を西側諸国は敵視をしていたのでそちらには全然援助が入らずに、国境を越えて流れてきた難民の方には援助の9割以上と言われていて集中していた。そういった不均衡を是正したいということでJVCはカンボジアの国内に入ったんです。そういった経験からいまも行動規範になっています。
最後に、いまの中国の脅威をどう考えるのかという疑問が出てくるのかと思います。私は中国については活動の上での接点はなくて、みなさんにお話しをするような知識は持っていないけれども、今日お話ししたような視点で中国についての行動を考えてみたらどうなのか、ということはあると思います。完全に個人的な意見、見方ですけれども、中国の行動というのも覇権主義と言われています。だったらいままでアメリカを中心にやってきたことは何だったのかということは非常に感じます。それから中国の海洋進出といわれていることも中国があれだけ貿易量が多くて、あの海域を通って中東をはじめ世界と貿易をしているときに、そこの海域にアメリカと軍事同盟を結んでいる国、軍事的に結びつきが強いところがいくつもあるわけです。中国はそういった軍事同盟を持っていないので、だったら中国的に考えればどうするのだろうか。もちろん何度も言っていますけれどもこれを是とするわけではないです。是とするわけではないけれども、どうしてそういう行動を取るのかということを考えて理解をするということは、大事なのではないのかなと思います。