私と憲法247号(2021年11月25日号)


総選挙の結果を受けて、私たちは「岸田改憲」にどうたちむかうのか

「野党共闘つぶし」と「改憲」の強風が吹いている。
選挙が終わったら、各メディアなどから一斉に「野党の敗北の原因は野党共闘にある」という類の議論が起こってきた。これを反映して野党第1党の立憲民主党内でも動揺が起きている。

選挙の結果、枝野幸男代表が辞任したことを受けて、代表選に立候補した人々は、基本的には「野党共闘の果たした意義」の評価については肯定的だ。しかし党内の空気を反映して、枝野代表らがすすめてきた「市民と野党共闘」の評価には候補間で若干のずれもある。

1月13日の朝日新聞の「天声人語」が野党共闘に冷水を浴びせている。同紙の世論調査で「来年の参院選で野党による候補者の一本化を進めるべきだと思うか」の問いに、進めるべきだが27%、そうは思わないが51%%だったことから野党共闘は不評だとみて、「衆院選でおきゅうをすえられたのは与党ではなく野党だったかもしれない」などと書いた。しかし、同じ世論調査で自民・公明・維新を支持すると答えたのは49%だ。この数字からすれば、「野党の一本化を進めるべきだと思わない」との答えが51%くらいの数字になるのは、必然だ。これはためにする調査であり、それ以外にほとんど意味をなさない。これを根拠に野党共闘否定を論ずるのは間違いだ。野党共闘否定ありきだったのではないか。朝日新聞の質が問われる。多かれ少なかれメディアの野党共闘批判派はこの程度だ。

野党がばらばらに闘ったのでは、民意を大幅に歪める現行の小選挙区比例代表並立制のもとでは、自公連立をしている与党の議席は増えることになる。野党共闘をすれば勝てるという事ではないが、勝つための最低限の条件であることは明らかだ。この逆風を撃ち返さなくてはならない。

目下、「野党共闘」への逆風の中で立憲民主党の代表選挙が行われている。各候補のみなさんがぶれずに前進してもらいたい。

総選挙の結果の検討

投票率は55・93%で、前回の53・68%より2・25%増加したものの、戦後第3位の低率だ。自民党の得票率は48%で、議席数は65%を占めた。自民党は全有権者の内の27%の支持を得た。

新しい議席数は、立憲民主党96人、日本共産党10人、れいわ新選組3人、社民党1人、国民民主党11人、維新41人、自民261人、公明32人となった。

自民党は解散前議席数から15議席を減らしたが、261議席で絶対安定多数を獲得した。公明党も3議席増、維新は約4倍の41議席となり、改憲派3党合わせて334議席となり、改憲勢力が改憲発議の条件である3分の2(310議席)以上を獲得した。

立憲野党の側は立憲14人の減、共産も2人減、れいわ新選組2人増、社民党は横ばいという結果だった。

国民民主は3議席増となったが、直ちに維新の会との国会での共同のための協議をはじめるなど、与党の補完勢力の役割を果たす可能性が強くなっている。

メディアなどの開票前の予測と大きく異なる結果になったが、全体として岸田与党の「勝利」と政権交代をめざした野党共闘側の「敗北」は明らかだ。選挙の結果、与党自民党の甘利幹事長は辞任に追い込まれ、立憲民主党の枝野執行部の交代(代表選実施)などにつながり、与野党それぞれ体制立て直しを迫られた。

前回総選挙は小池百合子都知事による「希望の党」の騒動があり、選挙後、野党第1党になった立憲民主党の再編拡大などもあり、一概に今回の議席数や得票数からだけでは「勝利」「敗北」は論じにくいのは事実だ。

6本20項目の政策合意(市民連合と立憲4野党)にそって小選挙区289のうちの214選挙区で野党候補の1本化(前回は57選挙区)ができ、初めて自公与党と立憲野党の本格的な選挙戦の構図ができた。市民連合はこの1本化した候補を支持して野党各党と共同し、比例区においては、立憲野党4党への支持を表明した。しかしながら1本化と共同の内容は各選挙区でさまざまであり、検討が必要だ。

1本化した候補は、前回(2017年)勝てなかった24小選挙区を含め62選挙区で勝利し、加えて32の小選挙区で与党候補との差が1万票以内に迫る接戦を演じ、もしこれらの接戦を制したら野党は小選挙区で100近くの議席を得たことになるだろう。逆に勝利した選挙区でも接戦区は少なくなく、野党共闘なしにはさらに後退した可能性が大きい。

自公与党改憲派の選挙戦略の成功

いうまでもなく、日程など選挙戦の設定は権力を持っている自公派に圧倒的に有利だ。
菅義偉政権は東京オリパラを強行するなど世論の支持拡大を狙ったが、コロナ対策の破綻や権力私物化がたたり、支持率が急落した。総選挙をにらんだ自民党内の抗争で菅首相は辞任に追い込まれた。実に安倍・菅2代の政権の異例の政権放棄だった。これは与党にとっては2009年の政権交代の悪夢の到来の可能性があった。

自民党は不人気の菅を退陣させ、起死回生の総裁選を演出し、内閣の表紙を変え、与野党の争点隠しのためにまともな国会審議を回避したうえで、早期解散、短期総選挙という奇策に持ち込んだ。これによって自民党は世論の支持を失った安倍・菅9年の悪政(権力私物化・腐敗とコロナ対策の失敗、新自由主義、自助共助公助)などを広範な有権者の目から覆い隠した。

総裁選によって、メディアジャックした総選挙前の一大イベントが繰り広げられ、安倍・菅政権の9年を打ち消すように各候補によって新生自民党が語られた。テレビのワイドショーは総裁選と比べ総選挙報道が40%減少するというありさまだった。そのうえで、新政権誕生の「ご祝儀相場」を狙い、野党の選挙準備が間に合わないうちに「奇襲攻撃」的になりふり構わず総選挙を実施した。

総裁選では岸田政権与党と立憲野党の対立点・選択肢を有権者の前に鮮明にさせないまま、「立憲共産党」などという時代錯誤の反共攻撃キャンペーンが展開された。

これに加え、与党にとって「天祐」ともいうべき事態がコロナ感染症の第5波の急速な収束が起きた。東京五輪の強行開催中に起きた異常な感染爆発状態が、その後、原因不明のコロナ感染の急減現象が起き、結果として安倍・菅政権のコロナ感染症対策の失政が覆い隠された。岸田新政権に対する政府のコロナ対策の失政への批判が後退、野党の「命と暮らしと営業を守る」という政策は与党にかすめ取られた。

「市民と立憲野党の共同」側の「敗北」と教訓

市民連合と立憲野党4党(立憲民主、共産、社民、れいわ)は、9月8日、6本20項目の「政策合意」を結んだ。政権交代で実現する野党共闘側の新しい政策の骨子が確立した。各政党の綱領上から見た違いはあれ、当面実現するための可能な目標が明らかにされた。

この合意には与党が攻撃する「日米安保条約」問題も「天皇制」問題もなかった。しかし当面必要な変革のための政策的合意はこれで基本的には十分であり、これによって安倍・菅9年の政治は大きく変わり、広範な人々にとって未来を展望し得る政策協定だった。この合意の方向性は正しかった。だからこそ、それを恐れた与党側は異常なデマ宣伝に終始した。やむを得ないことだが、各党による「合意」の重視度は違いがある。

しかし、野党と市民の関係の現状から限界があったとはいえ、野党側が共闘態勢づくり、候補者の一本化などの作業と、政策合意の形成などに時間がかかり過ぎたことのマイナスはおおきかった。奇襲に成功した岸田政権と、批判精神を減退させ、翼賛化しつつあるメディアの現状と合わせて、市民の側は「政策」と「候補者」の中身を有権者に十分に伝えきれなかった。有権者にとって、鮮明な選択肢が示されなかった。安倍・菅9年の悪政への怒りと不満は、中間勢力をよそおった維新や国民民主への支持にとどまった。

仕掛けられたら受けて立つ以外にない野党と市民にとって、それにしてもこの厳しい情勢に関してゆるみはなかったとは言えない。

今年、菅政権の下で行われた各種選挙の好調から「何とかなる」という空気が存在した。菅政権の下での各種の重要選挙では野党の側が相次いで勝利したか善戦した。山形県知事選(1月)、千葉県知事選(3月)、広島、長野、北海道の国政補選・再選挙(4・25)、静岡県知事選(6月)、東京都議選(7月)、横浜市長選(8月)、静岡国政補選(10月)など、いずれも野党側が勝利したか、善戦した。

くわえて、総選挙中盤のメディアの予想(例えばFNN)が大きく外れた。「自民は小選挙区で40程度減。立民は一本化選挙区や比例が順調で30ほど増。共産は比例増。維新は3倍。国民は小選挙区苦戦」などなどの報道だ。大いなる陰謀と読むか、それとも調査の失敗なのか、いずれにしても、これも有権者や野党に影響を与えた。

選挙後にいっせいに「野党共闘」敗因論が噴き出した。これが立憲民主党に影響を与え、枝野批判の重要な論点となった。自民党やメディアがここに絞った攻撃をかけたのは、その効果を知っていたゆえに野党共闘を復活させないためだった。

立民は小選挙区で48から57になり、比例区では62から39になった。小選挙区での善戦は野党共闘によるものであることは明らかだ。もし比例で現状を維持し、小選挙区の激戦区に競り勝ったら、計150にはなった。自民は少なくとも単独過半数をわったはずだ。

今回の総選挙の特徴のひとつ、メディアの予測も上回る「維新の会」の躍進はどうか。すでに述べたが、維新が与党への批判を中間で堰き止める役割を演じたのは明らかだ。前回総選挙の「希望の党」の役割と共通する。

維新の会は今回805万票(2017年は339万票)をえた。しかし、リーダーは違うが同様な役割を果たした維新の党は2014年には838万票、2012年には1226万票を獲得しており、この党が今回、急激に拡大しているということではない。しかし維新は大阪に盤石の拠点を築き、関東進出など全国政党化の野望をさらに大きくしている。

しかしいずれにしてもこの「改革」と「保守」を看板にした与党の「補完勢力」、ある意味で「右傾化と改憲の先導勢力」との闘いが不可欠になっている。これは軽視できない。与党と野党の2極対立構造が3極にされ、選択肢があいまい化される可能性が大きい。維新は全国政党化の野望をさらに大きくしている。

共闘の「質」を問い直すことは重要だ。野党は1人区の4分の3の選挙区での候補者1本化を実現したとはいえ、各選挙区ごとの様々な共闘の質の違いがある。これを丁寧に見て、「成功例」に近づけていく必要がある。「共闘」の本気度の差異が大きい。各党同士の協力や各党と市民連合相互の共同とリスペクトの度合いの問題がある。それが各党の支持者の投票行動に反映する。

「連合」の妨害に毅然として対応できず、立憲民主がたえず動揺した。枝野代表はこれを名人芸的に切り抜けようとした。その苦労は多とするが、これは政党と労組の立場を明確にし、振り回されない覚悟が必要だ。吉野連合会長が「共産党との共闘によって、連合の票の行き場が失われた」のが敗北の原因だなどと言うのは、組織内支持政党の第1党が自民党などと言われる連合の実情から、あまりにもかけ離れている、ためにする議論だ。しかし、連合内にも、野党共闘の推進に働いた人々も少なくなく、一部の仲間たちが言うような連合との関係を切れば済む問題ではないことは明らかだ。

安倍・菅・岸田とつづく明文改憲と実質改憲の急速な進行

今回の総選挙で有権者は自公政権の現状維持を選択した。しかしそれによって政治情勢は「現状維持」どころか「現状打破」の危険な道に大きく踏み込もうとしていることを警鐘乱打しなくてはならなくなった。

岸田文雄政権とは何か。岸田が会長を務める自民党「宏池会」は、池田勇人元首相以来のいわゆる保守本流、穏健ハト派の潮流だが、この間の自民党総裁選の一連の政治展開の中で大きく変質した。それはまさにハト派からタカへ派への変質だ。岸田は総裁・首相の座を手に入れるために安倍派に身売りした。それが今日、安倍との二人羽織状況での異様なほどの改憲推進現象だ。

岸田首相は11月19日、自民党内の名うての改憲最右派の古屋圭司改憲推進本部長代行と会談し、彼を新しい本部長に据えたあと、「推進本部」の名称を変え、「実現本部」にした。そして、党内改憲派にやる気を示した後、「名称だけではなく、体制も変えよう」として、古屋と安倍派お気に入りの新藤義孝衆院憲法審与党筆頭理事を事務局長に置いた。いよいよ改憲に踏み出そうというのだ。

岸田は右翼雑誌「月刊Hanada」12月号で編集長にこう聞かれた。

「総理は著書『核兵器のない世界』(日経BP)(著者注2020年10月発行)のなかで、『平和憲法の在り方についても安倍首相は【改憲】を是とし、私は【護憲】の立場をとっていますが』とかかれています」と追及されて、苦し紛れに「国民主権、平和主義をはじめとする憲法の基本的な部分はしっかり守るという意味の護憲であり、……(自民党の改憲)4項目の部分はしっかりと改正」するという立場だと弁明した。

これはどう読んでも岸田の変節に他ならない。右翼雑誌の編集長に問われて苦しい言い訳だ。岸田は昨年の秋の段階で、菅政権がもう少し続くと読んで、党内で独自性を出そうと「護憲」という立場を表明した。しかし、昨年の総裁選に惨敗した後、この本を出したころから再度の政治的浮上を狙って路線転換をはじめ、昨年秋の宏池会総会に顧問の「護憲派」古賀誠元会長の出席を断るという芸当までやってのけた。菅政権が危うくなると、突然、好機到来とばかりに総裁選に立候補を表明し、積極的に党内右派の支持をえようと、従来の路線を転換し、安倍晋三らにすり寄った。古賀誠元会長はこの岸田の変節を「悪魔と握手してそれを達成するというのも責任倫理だとマックス・ヴェーバーは言っている。しかし、その悪魔の言うとおりになったら本末転倒で、それは許せません」と手厳しく批判した。

守旧派的な安倍改憲にかわって、汚れたハトの仮面をかぶって、岸田的なニュー改憲を打ち出してくる可能性がある。目先を変えても実は岸田改憲は安倍改憲そのものであることを暴露していく必要がある。

自民党総裁選では「安倍改憲案」を全候補が継承することを表明したが、岸田だけは共同会見で改憲4項目を「重要な課題」と位置付け、「総裁任期中に(改憲)実現を目指したい。少なくともめどは付けたい」と述べて、改憲へのなみなみならない意欲を示した。

岸田は新首相(総裁)に当選すると、10月1日の記者会見で憲法改正について「党是である改憲に向け、精力的に取り組む」と述べた。首相は「国民の理解を得るための活動もしっかり行う」と強調。その上で「国民に(改憲についての)理解を広げていく余地はたくさんある。国民の理解を得ることが国会議員の行動にも影響する」と強調した。その後も岸田はこの道を走り続けている。安倍の退陣でデットロックに乗り上げていた改憲は、再度急浮上しつつある。

岸田首相が改憲への意欲を示す中で、日本維新の会の松井一郎代表(大阪市長)は11月2日、記者会見で、国会で来夏の参院選までに憲法改正原案をまとめて改正を発議し、国民投票を参院選の投票と同じ日に実施するべきだとの考えを示した。「(これによって)投票率も上がるし、大きな選挙のテーマにもなる」などと強調した。

維新は、従来から教育無償化や統治機構改革、憲法裁判所の設置に向け、憲法を改正するべきだと主張している。松井は憲法改正などを議論する国会の憲法審査会について、「立憲民主党や共産党のボイコットで前に進まない。ボイコットする側をいくら待っても仕方ない」と発言。「憲法審査会を正常化させ、スケジュールを決め、まともな議論をして、最終的には(国民投票で)国民に(憲法を改正するかどうか)決定していただくべきだ」とした。

ボイコットなどと言うのは松井の言いがかりで、従来、憲法審査会がしばしば審議がストップし、開店休業になった責任は与党の側にある。行政府の長である安倍元首相がしばしばあるまじき改憲促進の発言をして、立法府の憲法審査会の審議に介入したことや、自民党が党利党略の運営をしようとしたことなどがその原因だ。

松井は来年夏の参院選で改憲国民投票と参院選の同日投票の実施を主張するが、これは改憲機運を促進するためのデマだ。確かに憲法96条は「特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において」と書いて、同時投票の可能性を認めている。しかし、公職選挙法と国民投票法は、投票の運動の在り方の違いが極めて大きい。端的に言えば制限の多い「べからず法」的な公選法と、「運動の自由の保障」を建前にした現行国民投票法はまったくちがう。この2つの投票を同時に実施するのはほとんど不可能に近い。この実施の困難さを考えれば、同日に投票をする意味はほとんどない。

国民投票は改憲手続法で「発議」のあと60日から180日の間に行うとされている。同日投票のためには遅くとも5月連休直後には「発議」が必要だ。来年の通常国会の4月末までには改憲原案を作り、国会で発議しなくてはならないことになる。憲法の改憲案を4カ月で作るなどという乱暴なことははたして可能だろうか。

松井はこうして虚言で人々を脅しながら、改憲の機運を高めようとしている。

前述したように今回の衆院選挙で自民、公明両党と補完政党的な維新、これと手を結んだ国民民主では全議席の3分の2を大きく超えた。衆参で改憲発議に必要な議席数の条件が整った。国民民主は憲法審査会で維新と連携して、毎週開催を主張している。短期間のうちに改憲原案がつくられ、憲法改正国民投票などと言う事態になりかねない危険な情勢だ。

しかし、これらの改憲派間では、改憲の中身については矛盾がある。臨時国会から憲法審査会は各党改憲案の自由討議から始まるだろう。各党の改憲の主張にはずれがある。憲法第9条改憲についても各党それぞれで、公明党、国民民主党などは自民党の改憲案に同調するのは容易ではない。

これらの要件を考えると、自民党改憲案の4項目のうち、コロナ禍を経て比較的改憲派各党の合意が得やすい「緊急事態条項」の改憲原案化などから始めることがありうる。自民党の茂木幹事長は「新型コロナウィルス禍話考えると、緊急事態に対する切迫感は高まっている」(11月12日、読売インタビュー)として、この改憲の方向を示唆した。すでに岸田首相は前述の古屋圭司との会談で「自民党の改憲4項目は同時改正にこだわらず、他党との議論のうえで、一部先行もありうると述べた。

しかし、再開されたとしても、憲法審査会の議論は改憲原案の審議から始めることは許されない。今年の通常国会で同法修正案が採決されたときに付いた「改憲手続法附則4条」の問題がある。この解決なくして国民投票は実施できない。先の第204通常国会で成立した改正「改憲手続法(国民投票法)」は、立憲民主党の賛成を獲るために同党の主張をいれ「附則第4条」という修正を加えた。それによって、同法は「施行後3年を目途に」、同法の重大な欠陥である有料広告制限、資金規制、インターネット規制などの「検討」と、「必要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとする」こととされた。投票の公正・公平を保障するうえでは、この内容の検討と改正措置が講じられない限り、国民投票の実施は許されない。今後の憲法審査会の議論はまず、この同法の欠陥の是正から始めなくてはならない。

自民党やその他の改憲派政党が企てる憲法審査会での改憲原案の拙速な議論は許されない。

参議院選挙にむけて

小選挙区比例代表並立制というこの悪法の下で、野党と市民が日本の悪政を変える闘いに挑む方法は、有権者に政治を変える選択肢を鮮明にしながら、とりわけ全国32の1人区で立憲野党の候補者の一本化を進めること以外にあり得ない。ここでの選挙の帰趨が参院選全体の帰趨に大きく影響する。

野党と市民連合が共同して闘った2016年、2019年の参院選の経験を土台に、まず立憲野党は岸田政権の悪政に反対して、ここで共同候補を擁立しなければならない。その勝利を通じて、改憲派の3分の2の議席獲得を阻止し、改憲発議を阻止しなくてはならない。過半数と言わないまでも与野党接近の状況をつくり出し、政治を緊張させ、政治を変える展望を開くことが必要だ。今回の衆院選が3段跳びのホップとすれば来年の参院選はステップであり、次の衆院選こそがジャンプだ。

コロナ禍での市民運動の萎縮状況を脱出し、署名運動(改憲発議阻止署名を「憲法改悪を許さない全国署名」としてリニューアルする)、学習集会、集会、デモ、街宣(スタンディングetc.)などを活発化する必要がある。これこそが運動の前進を切り拓く原動力だ。

市民連合は共闘の輪をさらに広げ、進化する必要がある。
こうした力をもって、世論を変える、合わせて野党と市民の共同を強化することが必要だ。
(事務局・高田 健)

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先の総選挙。さまざまな政治状況をかかえる全国の選挙区では、ねばり強く、果敢に、しかも柔軟性を持って市民と野党の共闘が追及されて選挙が取り組まれた。野党共闘をたたかった現場から貴重な報告をいただき、来年の夏に控える参議院選挙に役立てていきたい。

第49回総選挙を闘って

山口たかさん(戦争をさせない!市民の風・北海道 共同代表)

総選挙が終わった。465議席中自民党293、自民が単独過半数を確保した。この結果をどうとらえるか。213の小選挙区で統一候補を立てて闘った初めての本格的野党共闘だった。比例での議席が減少し、立憲民主党は枝野代表の辞任にまでいたった。この間、2015年安保法制反対運動のなかから、沸き起こった「野党は共闘」の声。総選挙を終えて共に闘ってきた仲間の多くも無力感に襲われているなか、以下は山口個人の感想である。

北海道での運動

北海道の定数は小選挙区12、比例区8である。16年、自民党の重鎮・町村信孝氏の死去に伴う、衆議院北海道5区補欠選挙をひかえ、まさに、野党共闘を実現させることなしに、小選挙区を制することはできないと多くの市民が考えた。野党候補一本化を訴えることを目的とした「戦争させない!市民の風・北海道」を結成したのも、その切迫感に突き動かされてのことだった。それ以後、紆余曲折を経て、「野党は共闘」の運動は、市民連合の結成と軌を一に全道各地にひろがった。

本年2月、吉川隆盛農水大臣が贈賄疑惑で辞任したことにより行われた、衆議院2区補欠選挙。苦渋の選択として、共産党は候補擁立を断念し、立憲の松木けんこう氏を野党統一候補として闘った。自民党は不戦敗、松木氏が圧勝した。結果、自公10議席、立憲野党10議席の互角で迎えた今回の総選挙。統一候補擁立について、「市民の風」と立憲・共産・社民の幹事長書記長は議論を重ねてきた。なかなか結論は出ないなか、9月8日に市民連合が、立憲野党と6つの政策で合意・調印という朗報が飛び込んできた。北海道においても、合意調印への期待が高まったが、簡単ではなかった。市民連合との合意に加えて北海道独自課題、放射性廃棄物の道内持ち込み問題、JR廃線による地域の足の問題、アイヌ民族など多民族共生の北海道、この3点を加えた合意を提案したが、決まらなかった。主に立憲民主党本部や連合の意向が立ちはだかり、議論しても、「党に持ち帰り」が繰り返された。

10月になっても野党合意はできず、統一候補も暗礁に乗り上げた。立憲は12の選挙区すべてに擁立。共産党は6人立候補予定。私たちは、小選挙区ごとに、地元の政党支部に統一候補の要望を提出したり、立憲、共産の候補予定者との懇談会を開催したり、両党並んでの合同街宣を企画したが、進展はなく「風」としても焦りがつのった。事態が動いたのは10月13日。公示予定の6日前という土壇場だ。れいわ新選組も賛同し立憲野党4党と市民の共闘調印だった。しかし立憲民主党は北海道独自課題をいれることは認めない、市民連合との協定を一字一句変えない、「共闘」ということばは削除、を主張。ないないづくしだったが、時間も切迫していることから各党も妥協して調印した。そして、共産党が、5区、7区、12区の3か所に擁立、を発表。立憲と共産党の競合となった。共産党としては、都市部の小選挙区での運動がなくては、比例だけで票の掘り起こしが不可能だと判断したのであろう。立憲が候補を取り下げることはなく共産党だけが取り下げる一方的な「共闘」への疑問もあり、地域の市民運動内部では落胆する人たちも多かった。

一方、3区は現職荒井聡議員が引退し、世襲批判もあるなか、長男のゆたか氏を擁立した。4区は、本多平直議員(4区比例)が刑法改正の性交年齢の引き下げについて、問題発言をしたことで議員辞職という思いがけない事態もあり、代わって立候補したのが、元フジTV政治部記者・おおつき紅葉さん。共産党は擁立を取り下げ、共に野党統一候補になった。結果は、3区は自民・高木宏寿候補に4300票差まで迫り、4区では公示直前の立候補にも関わらず、現職の自民・中村裕之候補に690票差まで迫り、共に比例で復活した。知名度もなくわずかな日にちでここまで2人が追い上げたのは、野党統一候補だったからだ。一方、16年の野党統一候補のシンボルだった池田まきさんは、共産党と競合し落選という無念な結果だった。

各地域では、スタンディング、街頭宣伝、「選挙に行こう」の街頭ライヴ、チラシ配布などできることはすべてやったが結果は、小選挙区5、比例復活3、計8議席。17年の10議席を守れなかった。比例では、17年にはなかったれいわ新選組が多くの票を得た。維新も議席こそ得なかったが立憲の票、あるいは自民批判票の一定程度の受け皿になったと思う。

立憲の戦略に油断はなかったか

8月の調査機関による事前調査では自民が議席を減らし野党が増加との分析もあったことから、コロナ対策の不備を追及し菅政権退陣を訴えることが立憲民主党の戦略だった(立憲関係者からの話)。しかし自民党の顔が菅首相から岸田首相にかわり、新しさが自民の支持率を上げていく。それ自体は良いことだが、コロナウィルス感染者が激減していく。公示直前に戦略は大きな変更を余儀なくされたが、時すでに遅かったのではないか。

選挙中には、自民、公明が、野党共闘を野合と批判し、「立憲共産党」と揶揄していた。選挙後もメディアでは、共産党との共闘の是非や、立憲民主党が惨敗したような報道もある。連合会長の芳野友子会長などは、立憲が共産党と手をむすんだから連合の票の行き場がなくなったとまで発言している。自公とともに野党分断に組みしているようにすらみえる。しかし、全国的にみると小選挙区では健闘し、自民の大物と接戦に持ちこんだのは共闘があったからだ。一方立憲民主党は、比例で、議席を減らした。それはつまり、小選挙区では、候補の魅力や日常活動、野党一本化などによって勝利は可能だということだ。しかし、北海道では立憲の候補は野党共闘についてほとんど演説で触れなかった。党としての立憲の野党共闘へのスタンスが明確でなかったことも信頼に足ると見えなかったのではないか。共闘したから、票が逃げたのでない。自公に代わって政権を担う党としてふさわしいか、「?」をつけた有権者が多数いたということだと思う。敵失頼みでない、ゆるぎない大きな理念と具体的な政策、地域での市民との信頼関係の構築などが相まって、はじめて政党への信頼が広がるのではないだろうか。

立憲野党の「共闘」は

選挙結果に落胆している人は多い。しかし、これまで同様のウソ、改ざん、捏造、あったことをなかったことにする、荒涼たる政治の原野を次世代へ残していいはずはない。自民党政権と民主党政権、両方で国会対策委員長を担った、故・渡部恒三さんはこう言っていた「与党の国対の仕事は、野党を分断させること、野党の国対は共産党も含め野党を連帯させることだ」と。野党同士が手をつなぐことが、政権にとって最も危ないと知っているのが、自公だ。野党はこのことをしっかり認識すべきえあり、共闘の深化は不可欠だと考える。

これからー改憲の危機がせまるなか

参院選を来夏に控え、私たちはどうすべきなのだろうか。共闘の姿、共闘の可視化、それをつなげ後押しする市民運動、すべてを深く詳細に分析し、参院選に臨むことが重要だ。
北海道の活動は、安保法制をきっかけとしてスタートした。あるLGBTの方たちの集会に参加した時、自己紹介で「戦争をさせない!市民の風」代表、と述べたところ、複数の若い人から、「戦争」と言われるだけで、古い、引いてしまうと言われた。彼らにとって、「戦争」は過去のこと、リアリティがなく、気候変動や地球環境に大きな関心を寄せている。一方、街頭で「選挙に行こう!」と歌ってアピールすると、若者が飛び入り参加し、いっしょに踊って歌ってくれたこともあった。

自公が安定多数を確保し、岸田首相は「敵基地攻撃能力」保有や緊急事態条項を位置づけた改憲実現にシフトしている。私たちは、戦争はさせない、憲法9条を変えさせない、その大きなうねりをどう作っていくのか。若い世代に、反戦・平和こそ、持続可能な地球の礎であることを理解してもらい、繋がっていけるような活動の方法を考える時だ。「野党共闘を求める市民の風」という課題だけでは不十分だ。正解はまだ見つからないけれど、政治の荒野を、緑豊かな大地に再生させる、それが未来への責任だと思う。

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市民の粘りで実現させた市民と野党共闘の勝利・東京8区

東本久子さん(政治を変える8区の会)インタビュー

衆議院選挙の東京8区は杉並区を中心とする地域で、自民党の石原伸晃が議席を10期も重ねていたが、今回は野党統一候補を擁立することが実現し当選を勝ち取った。事前には立憲民主党、共産党、れいわ新撰組の予定候補が準備をしていたが、最終版にはれいわ新撰組の予定候補が山本太郎党首に代わる動きもあった。しかし杉並市民の強い要請と行動があって一本化が実現した。選挙は立憲民主党、自民党、維新の党の3者で争われ、立憲民主党の吉田晴美さんが当選を勝ち抜いた。市民の側の中心的なお一人である東本久子さんにお話を伺った。

東京8区で立憲民主党の吉田晴美さんが137,341票(得票率48.45%)を獲得し、当選をさせることが出来ました。東京8区は杉並区を中心にした区域で、投票率は61.03%。東京選挙区の投票率が57.2%で、トップの投票率でした。選挙の取り組みでは、市民と野党の共闘ということを額面どおり受け止め、市民の力を積極的に発揮できるようにとりくみました。自公政権によって暮らしが破壊され、世の中の公正さが失われていて、このままでは大変なことになると感じていたからです。「政治を変える8区の会」を立ち上げて候補者を準備していた立憲民主党、共産党、れいわ新撰組と何度も話し合って体制を作っていきました。一部の党が決めるようなことではなく、どういう社会を作っていくのか候補者と市民で何回も話し合い、チラシを作り街頭宣伝も繰り返しました。民主主義は決定過程が重要です。立憲、共産、れいわ、社民と新社会党、みどりの党と8区内の支持者、そして市民どうしの交流を深めて、納得のできる民主主義を作るために交流を重ねました。政策面では市民連合の政策に地域の課題をくわえ、学術会議問題でも行動しました。こうした努力を重ねて一本化にこぎつけました。誰が考えても一本化しなければ自民党の石原のぶてるには勝てないからです。

選挙戦では市民と野党の統一選対をつくりました。各党の代表や地方議員、さまざまな市民運動が等距離でつながり50人体制となりました。これには地域の連合の組織も加わっています。「市民と野党で政治を変えよう」というのぼり旗を杉並中に立てようと100本作りました。選挙の訴えでは、候補者だけでなく辞退した候補者も共に街宣に立ってよしだ候補への投票を訴えました。市民運動のメンバーは地域に密着した形で、私鉄沿線のいくつかのエリアやスーパーマーケットなどの宣伝の場所を分担したり、関心のある人との対話とか、それぞれの発案で網の目のように持続的に行動していきました。消費者運動や教育問題、女性の課題など様々な市民運動の人々が動きました。選挙戦ではチラシや街頭の訴えも大事ですが、口コミほど大事なものはありません。何10年もやっているそれぞれのネットワークを使って広げました。ある日、「選挙事務所には行かれないけれど、今、自宅で知り合いに電話をかけています。」という高齢の女性から電話連絡が入ることもありました。選挙はがきには吉田候補支持の訴えに加えて、「比例区は共産党へ」という言葉も入りました。

選挙戦公示日の出陣式に枝野党首が駆けつけてくれて、「市民に迷惑をかけたが、一騎打ちの形をつくってくれた」と、最初にお礼を言ってくれたのには感激した。しかし立憲民主党は女性議員を増やすといっているが、もっと努力すべきだと思う。吉田さんは無名の新人で、金も無いし組織もない。こうした人をもっとサポートすべきだと思う。候補者の一本化を公示直前まで持ち越すことが各地でありました。急に選挙区を変更されて困難にあっている女性候補も一人でなくいます。もっと候補の一人ひとりを、とくに女性候補を大切にしてほしい。選挙区の大勢の人と繋がっていくには時間がかかります。やはり決定機関に女性を入れなければ変わらないのではないだろうか。

吉田さんは前の選挙からずっと8区で努力してきました。「政治を変える8区の会」では学習を重ねてきました。講師を呼んだ学習会やシンポジウムなどを候補者とともに取り組んできました。気候変動の課題や教育問題や学校給食の無償化などについて話し合いました。地域で暮らしの課題とリンクさせて候補者と議論を重ねてきました。こうした意見交換のなかから、八百屋の娘として育った吉田さん自身の家庭環境が、自身をさらけ出して渾身の演説をするようになって聞いている人たちをひきつけています。かつての民主党政権当事の公教育や、給食費の無償化の政策は今こそ進化させなければならないと思っていて、期待しています。

8区で石原を倒して勝利した要因は、総力体制が作れたことだと思います。選挙に携わったそれぞれが自身の出来ることをしながら自己実現できた、自身の行動が勝利に繋がったことを実感できています。市民運動のバリアを低くして普通の人が何でも話せるようでした。若い人も活躍してくれました。街頭宣伝で若い人がスピーチをしてくれました。仕事を持ちながらも電話かけもしてくれました。候補者の一本化だけでは勝てなくて、積み重ねの中で市民と野党の共闘ができるのではないでしょうか。

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神奈川13区は甘利幹事長を選挙区落選、辞任に!改憲阻止へ!?

久保博夫(神奈川県13区市民連合)

四市共同市民の会(13区市民連合)は「戦争法廃止」「野党は共闘せよ」の目的を掲げて2016年に結成し、現在の選挙制度のもとで、自公政権を倒すためには、小選挙区での野党の候補者一本化が絶対条件だと考え運動した。「甘利落とせ」も「会」の重要な目的でした。辞退して頂いた共産党の佐野候補には感謝しかありません!

私たちは県の市民連合の会議の情報などから、13区が統一の可能性は高いことで、「小選挙区は太氏!比例区は辞退してくれた共産党を初め社民、れいわ、立民を!」の運動に踏み切り、18000枚のカラーチラシを発注し、10/14~18日の四市を街宣車で廻る7回目の活動をしました!横浜市長選を見れば選挙に行って政治を変えられますとスピーカーの車で、太氏や政党名も連呼しました!その半年前から6回、4市を回るときは名前を出せず、「選挙に行きましょう」のキャンペーンでした(候補2人も呼んでの政策合意もしました)。その効果か?投票率の上昇は県平均4.3%が13区は5.1%(綾瀬は2%台で自民党支持者が甘利にお仕置きで投票しなかった?)。

告示後は太氏の第2事務所で、1万枚のビラのシール貼り、駅頭の13時間マラソン演説にも参加しました(他の市やグループもいろいろ動いたようです!)。また、郷原弁護士が提案活動してくれた、甘利幹事長落選運動にも緊急集会、街頭行動にも個人で参加しました!そして会も応援演説した最終日の大和駅前では19日のスタート集会の倍の参加者になりました!今日、太議員と選対の市議と協議を持ち、当選の分析や政治情勢などを話し、次回の定期協議を予定しました!

野党共闘は正しく、小選挙区の成果!と比例区は政権交代を不安視された?
立民党はトータルで109議席から96議席に13議席減らしましたが、その内訳は比例区が61議席から39議席に22議席減ったせいであり、野党共闘で闘った小選挙区で9議席ふやしています。比例区の61議席は4年前の立民党37議席に希望の党(無所属を含む)だった24議席が合流した数ですので、立民党の名前だけでは減るのがむしろ普通でした。小選挙区で62議席を当選させ、33議席で惜敗率90%以上の接戦に持ち込んだ野党共闘は健闘だったと言うべきでした。与党&財界にとって大きな脅威であるゆえに、今必死につぶしにかかっているように思われます。しかし、共産党の比例票が全国でマイナスが多いのは立憲共産党などの攻撃の他、今野党が政権を担えるか?与党の方が安心とイメージされたと考えられます。こうなりますと言えないと政権交代は逆効果になったか?菅政権でなくなり維新が野党色をうまく演出し、全国テレビ放映など比例区で勝ったと言えます!?国民の伸びは戸塚等で元民社党の田中慶秋氏が動き、坂井氏の公選ハガキに比例は国民民主党に!を書かせるなどの動きもあります(民主党票の比例配分以外に電気&電力労組等の裏工作も?)。

連合の中央に対しての反撃は、もう少し調査をしたいと思います(地域や県は敵ではない!?)。太氏との話で、連合本部が県本に調査を指示したことが分かりました、会長発言含め画策をしている人や組織があるかも?

しかし、旧希望の党の支持者らの期待を受けた、維新と国民民主党が今後憲法改正などでどう動くかは大変危険です!野党のふりをした維新&国民が臨時国会から憲法調査会を動かす!我々は国民投票法の付則4条「おおむね3年を検討期間とする・・」などで!CM規制が必要なのは衆院選で自民や維新のテレビCMが効果を上げたことで証明された。維新の代表が狙う、通常国会で発議して、参院選で同時投票を阻止しましょう!

参院選勝利に!1人区の共闘は立民の方針に!?複数区は県ごとの研究が必要?

複数区は単純な野党共闘では確実な議席になりません?棲み分けと勝てる支援体制を作らないと!自公は長年やっている。維新や国民もやるでしょう!金をもらってやる仕事より、資金を出して体も動かす運動を!!

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へこたれへんで~! 大阪のたたかいはこれからや

松岡幹雄@とめよう改憲!おおさかネットワーク

近畿の総選挙結果は深刻

近畿の議席数は、全体で75議席(小選挙区47、比例区28)ある。今回維新は26議席(小選挙区16、比例復活10)、自民党も26議席(小選挙区18、比例復活8)、公明党が9議席(小選挙区6議席、比例復活3)、国民民主党が3議席(小選挙区2,比例復活1)、無所属が1議席(小選挙区)、立憲民主党は7議席(小選挙区4、比例復活3)、日本共産党が2議席(比例復活)、れいわ新選組1議席(比例復活)、社会民主党議席なしという結果に終わった。75議席のうち立憲野党はわずか10議席という惨敗に終わった。しかも、現職の10区辻元清美氏や2区尾辻かな子氏も敗れた。維新は、辻元清美氏をターゲットにして吉村・松井らがのりこみ辻元氏を攻撃した。それは、辻元清美氏こそ維新が次の目標とする改憲の最大の障害だったからにほかならない。極めて残念な結果であった。

だが、いつまでも今回の衆院選の結果に落胆しておられる場合ではない。おおさか総がかり行動実行委員会は、11月19日、選挙後初の19行動を集会とデモでスタートさせた。参加は、約100名。けっして多い参加人数ではなかったが、改憲と大軍拡を進めつつある岸田政権に対してNO!ののろしを上げる取り組みになった。集会には、立憲民主党の森山浩行議員、日本共産党の辰巳孝太郎前参議院議員、れいわ新選組の大石あき子議員、社会民主党の大椿裕子副党首から連帯のメッセージが寄せられた。各党からの連帯メッセージは集会参加者を元気づけたと思う。来夏の参議院選を含め大阪のこれからの課題を考えてみたい。

維新の風に吹き飛ばされた

維新は、議席数を11議席から41議席へ大躍進を遂げた。それにはいくつかの理由が考えられる。もちろん、選挙政策において「分配より改革」を鮮明にしアベ・スガ政権時とは違う対応、岸田・自民党批判を強めたことにより政権批判の一定の受け皿になったことはあるだろう。だが、それよりも何よりも維新の大躍進は大阪府・吉村知事の絶大な人気によるところが大きい。「大阪モデル」「イソジンでうがい」「大阪発ワクチン開発」「インデックス野戦病院」など、いかにでたらめなコロナ対策を連発してもまず先頭切ってやってる感をだせば、それに関西のマスコミが飛びつき知事を応援する。ツイッターでは「#吉村寝ろ」がトレンド1位になり、吉村知事はアイドル的な存在になっていた。昨年5月の世論調査でも最もコロナ対策で頑張っている知事の第1位が大阪府・吉村知事であったことは象徴的だ。大阪は全国でもとくにコロナで甚大な被害を受けた。感染第4波で実質的な医療崩壊状態に陥り、入院できずに自宅療養中の死亡者が相次いだうえ、コロナ給付金や店舗への協力金の給付も遅れた。だが、そのことで知事や市長の責任は全く問われることなく、どちらかいとうとコロナ対策の失敗はスガ政権の責任と受け止められていた。維新による公立病院つぶしや保健所職員削減、様々なコロナ対策の失敗も圧倒的な維新の会の府議会、市議会議員の数によって何一つ問われること無くもみ消された。さして失敗が問われる心配もないことから吉村-松井コンビは、でたらめなコロナ・パフォーマンスがくりかえし行われ、それがまた支持を受けるという負の連鎖がまかり通っているのが今の大阪の実態だ。こうした維新のパフォーマンスが大きく維新の支持を広げた要因と考えられる。

野党共闘が失敗でなく、野党共闘を深められなかったことが失敗

岸田・自民党に対する批判勢力として登場し、吉村知事の絶大な人気を博す維新。これに対して大阪の立憲野党はどう闘いを挑んだのか。今回、一本化された選挙区は、19選挙区のうち9選挙区で5割にとどまった。全国的には7割と言われているのでまず一本化自体少ない。一本化せず競合した選挙区は、10選挙区あった。ただ、一本化された選挙区において実際はどのような選挙協力が行われたのかいくつか事例を紹介する。共産党が立憲民主党の候補を応援するときは、候補者氏名は伏せ「野党候補へ投票を」と呼び掛けてほしい旨の依頼が立憲側からなされていた。立憲民主党の候補者は、自らが「野党統一候補」であることを伏せつづけた。これが「野党統一候補」の実際の姿であった。全国的にも「連合」に忖度して野党共闘にあいまいな態度をとる候補がいたと思われるが、特に大阪は「連合」への忖度が大きかったのではないかと感じる。それは、大阪の立憲民主党が地方組織や地元議員をつくりだせず、実際の選挙戦は「連合」の動員頼みが大きいという事情から生じている。私たち市民連合は、そういった事情の中でも野党間の協力を前に進める様々な努力を重ねたが、それも市民の力量には限界があったと思う。これは、市民連合の課題でもある。

 立憲民主党の陣営から、「保守票を獲得せねばならず、野党共闘は伏せる」という話を何度か聞いた。候補者は、政権批判をあまりせず、自民党との政策の共通性や政府提出法案賛成率が80%もあることを実績としてさかんに宣伝していた。きっと有権者は、アベ・スガ政権について立憲民主党は確かに一定批判は聞くけれども岸田・自民党批判は維新の方がまだ明確にしていたと映ったかもしれない。

改憲とIR・カジノ反対、参議院選に向けてのたたかい

 大阪では、維新とのたたかいが待ったなしで日々求められている。維新という政党はこれまで「都構想」を一丁目一番地としてきたが2度の住民投票に敗れ、いまや「改憲」を一丁目一番地にする改憲の先鋒にたつ政党になっている。松井知事は、来夏の参議院選を国民投票と同日実施したいと言いだし、馬場幹事長は「3年に1回の参議院選を毎回国民投票と同時実施にする」とまで言い出している。改憲をめぐって維新と市民・国民の矛盾は広がることは必至だ。そして、いよいよ来春にはIR・カジノ反対のたたかいが大きな山場を迎える。今年の12月にはMGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスの共同グループと基本協定を締結し、大阪府と大阪市は事業者からの提案書を元に区域整備計画を作成し、2月市議会、3月府議会での議決を経て国に提出する予定だ。ここでも維新に対する市民のたたかいは広がることは必至だ。IRIR・カジノに対してのたたかいに全力をあげていきたい。

そして、来夏の参議院選のたたかいである。「野党共闘が失敗に終わった」とことさらメディアが強調し、一部には共闘解消論を喧伝する人びともいる。しかし、たった一度の挑戦でうまくいくと考える方がおかしい。敗北を教訓にすることで前進が生まれると考えるべきだ。野党共闘解消論に対しては、大阪選挙区16区では、立憲各党間の一定の協力、市民と各党との協力が築かれる中、立憲民主党・森山浩行候補が小選挙区で接戦を演じ比例復活で当選を果たした。この事実一つとってみても野党共闘路線の解消は暴論であることは明らかだと思う。「連合」も含め、立憲各党間の選挙協力、市民と各党間の協力が幾重にも重なりあってこそはじめて勝利を得ることができたことが教訓にされなければならない。前回、参議院大阪選挙区では、定数4のところ維新・維新・公明・自民が議席を分け合った。しかし、今度こそそうはさせてはならない。共産党と立憲民主党の候補者の獲得得票を合計すると一位当選できる票数となっていたことから、候補者一本化にむけて市民運動の立場からできるだけ早く行動を起こしていきたい。大阪もへこたれんと頑張ります!

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平和といのちと人権を!11・3大行動―公布75年 ともに新しい時代を切り拓こう

日本国憲法の公布から75年目の11月3日は全国各地で多様な記念集会や行動が行われた。東京の国会正門前では「平和といのちと人権を!11・3大行動――公布75年 ともに新しい時代を切り拓こう」というテーマを掲げて大行動が行われた。主催は総がかり行動実行委員会と9条改憲NO!全国市民アクション。恵まれた天候の下で午後2時から、「野党共闘で来年の参議院選を勝利しよう!」という神田香織さん(講談師)の力強い司会で開始された。その後のスピーチは衆議院選挙の直後であり、結果についての評価や来年の参議院選挙に言及する発言が続いた。

主催者挨拶:高田健さん(総がかり行動実行委員会共同代表)

衆議院総選挙は安倍・菅9年の悪政を隠蔽するため、岸田新政権が異例の短期間で奇襲攻撃的に党利党略で仕掛けられた選挙だった。この総選挙で立憲野党と市民連合は6本20項目の政策合意を結び、全国の小選挙区の4分の3で候補者を1本化し、62の選挙区で自公勢力に競り勝った。惜敗した選挙区も少なくない。しかし、自民党は単独過半数を維持し、与党とその補完勢力である「維新の会」を合わせて、改憲に必要な条件である3分の2のラインを超えた。

マスコミなどではしきりに「野党共闘の再検討」なるキャンペーンが繰り広げられ、あたかも野党が共闘したこと自体が間違っていたかのような攻撃がかけられている。野党共闘の総括と反省は必要だ。しかし、小選挙区比例代表並立制という悪法の下で、野党と市民が日本の悪政を変える闘いを挑む方法は、立憲野党の候補者一本化以外にあり得ない。この努力の一層の強化が求められている。総選挙で野党と市民が掲げた憲法、安保法制、コロナ、辺野古、ジェンダー、環境などの問題は引き続き緊急の課題だ。これらの課題でいっそう日常の運動を強め、全国各地で市民運動の基盤を広げていく必要がある。

来年7月に迫った参議院議員選挙で勝ち抜き、政治を変え、改憲とアジアの緊張激化を進める与党の路線を転換しなくてはならない。

立憲野党からの挨拶

近藤昭一さん(立憲民主党・衆議院議員)

総選挙は残念な結果となったが、多くの皆さんには力があり候補者を一本化して、成果は大きい。来年の参議院選挙は多くが1人区だ。暴走し憲法をないがしろにする政府と対抗するにはこちら側は力を合わせるしかない。直前に政権が変わったことで闘いにくさがあった。本来は、この間の自民党政権をどう総括するかが問われるべきだった。憲法違反の安保法制を強行し、新型コロナの対応でも憲法にある生存権が守られていない。命を守ることも自己責任にしたことになる。

田村智子さん(日本共産党副委員長・参議院議員)

野党共闘は総選挙の直前にエネルギッシュに進み、共闘が前に進んだ選挙区では自民党の重鎮を打ち負かすなど大きな勝利を得た。更に話し合って前に進めていこう。維新の党は参議院選挙の時に改憲の国民投票を、と言いだしている。しかし教育問題や公明党のいう環境問題などいずれも法律で対応できる。改憲の本丸は憲法9条だ。アジアで戦争を起こさないためにも市民と野党共闘の原点に立った運動が求められている。日本国憲法が花開く新しい時代を開くために更なる共闘を進め、参院選挙で結果を出そう。

福島みずほさん(社民党党首・参議院議員)

総選挙の結果は残念だったが、野党共闘がなければもっと勝利はなかった。今回の選挙で女性の国会議員が47人から45人に減った。ジェンダー平等が実現されていない。憲法の価値をもっと生かしていこうと言いたい。改憲の動きが出ているがこれとたたかおう。自民党の改憲4項目のうち9条に自衛隊を明記することについて、何が違憲行為なのかを書かなければ自衛隊は何をやっても違憲にならなくなる。緊急事態条項については内閣独裁の危険がある。75年前に憲法が公布されたときに、2度と戦争をさせないということは多くの日本国民の気持ちだった。いま南西諸島に自衛隊の配備が進んでいる。日中・米中の対立を武力で解決させてはいけない。来年の参議院選挙で立憲野党を躍進させ、憲法を生かす政治をともにつくっていこう。

ゲストスピーカーの発言

志田陽子さん(武蔵野美術大学教授・憲法学)

今日は文化の日だ。憲法が公布されたとき、軍事国家を卒業して文化と民主主義で生きていくことを目指したが未達成だ。憲法には「(国際社会において)名誉ある地位を占めたい」とある。力で近隣諸国を圧倒することは名誉ではない。そうしたことを思い出させるために5月3日と11月3日がある。さまざまな声を集めて国会で論議する。それが目の前の建物で行われるべきことだ。ここ数年、憲法53条に基づく臨時国会が開かれていない。議論が行われず多数の力で決められている。公文書問題も国会で説明されていない。国会で議論がなければ、民主主義の担い手として存在するとは言えない。憲法改正は96条で国民の意思を問うと明言されている。ここ数年の動きをみると、国民の意思がスルーされるという深刻な問題になっている。問題は山積みであり、市民も議員にもねばり強い行動が課せられている。

松元千枝さん(ジャ-ナリスト)

最近、働く女性の自殺率が増加しているという内容の白書を見て、この間に取り組んだ「働く女性の相談会」に来た女性たちの顔が浮かんだ。相談に来た多くの女性たちは仕事がない、干されている、シフトをはずされたなどで不安定な生活を強いられている。コロナ禍という危機的な状況の下で、真っ先に仕事を切られ、そのうえ家庭の負担が女性たちに強いられる。また、孤立させられてもいることが分かった。安倍政権下で“女性が輝く”という政策が出たが、真逆なことが起こっている。憲法でいう、法の下の平等は女性には全く実行されていない。憲法25条は生存権という権利だが、生活保護について「国民の権利である」とようやく厚労省が言うようになった。昨年、渋谷の路上で女性が殺された。いま電車に乗っているだけで命を狙われるとか、インターネット上でも酷い脅しなどが起きている。女性たちの居場所をつくり、政治の場にも訴えていきたい。

本田由起さん(東京大学教授・教育社会学)

政府のコロナ対策は間違ったぶれた政策ばかりだった。感染症対策は検査、隔離、治療が鉄則なのに日本では行われなかった。加えて社会・経済対策も間違った。オリ・パラで感染が拡大したことは頑なに否定している。衆議院選挙を当て込んで開催したが、今回の選挙では一つもオリ・パラにふれなかった。一斉休校で女性に負担が大きくふりかかった。子どもたちにも打撃が及んでいる。アベノマスクも要らなかったし、保証無しの飲食店の休業もつらいものがあった。今回の選挙は期待が大きかったが残念な結果だった。野党共闘と共通政策は大賛成だが、もう少しキラキラした政策を足して欲しい。新しさや未来を示すものや逞しさ、そして経済政策などを加えてほしい。あらゆる力を持ち寄り、幅広く支持を拡げて参議院選挙に立ち向かおう。

広渡清吾さん(市民連合運営委員・東大名誉教授)

衆議院選挙で改憲勢力が3分の2をとってしまった。市民連合は安保法制の廃止を目指し、国会に新しい多数派をつくることを目的に活動してきた。今回は少なくない地域で活動の前進があった。289の小選挙区中200を上回る選挙区で1本化が実現し、政権交代の土俵をつくることができた。6項目の共通政策は市民の要求に応えるものものであったが、これまで投票の行かなかった人たちにまで届けることができなかった。こうした問題を踏まえつつ来年の参議院選挙には敵基地攻撃の問題や、中国包囲網、軍事費増額などの論点も明らかにしていきたい。市民連合はひきつづき闘います。

最後に岸本啓介さん(憲法共同センター)が閉会をかねて行動提起した。岸本さんは、参加者が2000人(正門前1200人、オンライン800人)と報告した。また、多くの方々からの発言で市民と野党の共闘に大きな力があったことが確認された。しかし共闘ができれば自然に勝つものではない。この道にこそ憲法を守る方向が見えている。
このように結んだあと行動提起を行って大行動は終了した。

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第155回市民憲法講座:「現場から考える女性差別~私たちと政治に求められること~」

お話:吉祥 眞佐緒さん(女性による女性のための相談会実行委員会・一般社団法人エープラス)

(編集部註)10月23日の講座で吉祥眞佐緒さんが講演した内容を編集部の責任で要約したものです。要約の責任はすべて本誌編集部にあります。

はじめに

写真のお花ですけれども、これは3月に行われた「女性による女性の相談会」のときに寄付された花です。寒空の中で風がビュービュー吹いた大嵐のときに、本当に苦しい思いをしたり困った人たちが続々と相談会に駆けつけてくれました。そして「こんなこと相談してもいいのかな」といいながらも、ぽつぽつといろいろな相談をしてくれたことが本当に昨日のように思い出されます。帰りに、このお花を好きな色を好きなだけ持って帰っていいですよと伝えると、すごく顔が明るくなって、お花なんて何年も自分で買ったことがないと喜んで持ち帰られる方が多かったんです。私もすごく元気づけられました。色とりどりのお花に囲まれた相談会だったので、あの相談会のことを忘れないでおこうと思って使わせてもらっています。

DV被害者支援の活動をする団体・エープラス

私の話は、日頃活動しているDV被害者支援の現場からみなさんにお伝えできることがあればと思いお話をいたします。私自身、日頃憲法について考えることって具体的にはあまりないけれども、DV被害者支援をしていると、被害女性たちが日頃家庭の中で人権を侵害されている行為、被害を受けることが多いと感じます。相談に来られる女性たちにも「それはあなたがされていいことではないんだ」ということを伝えられるようにお話をうかがって、私たちも情報を伝えています。今選挙戦ですね。予定よりも早く始まって、慌ただしい思いをされている方も多いと思いますが、DV被害者はなかなか政治には遠い存在なんですね。そのことも今日はお伝えできればと思っています。

私たちの活動には主に3つの活動の柱があります。DVの被害者の支援活動がひとつですけれども、そのパートナー、相手であるDV加害者の矯正教育をやっています。そしてDV家庭で育った子どもたちが、心が傷ついたまま子どもらしい生活が送れていない子もいますし、苦労が多かったり親に虐待をされて、DVの家庭で夫婦の揉め事を毎日毎日見聞きしながら自分自身も被害を受ける、そういう子どもたちのケアをしています。

被害者の話を聞いたり加害者の話を聞いたりしていると、両方とももっと早くにDVのことを知りたかった。そうしたらこんなに我慢しなくても早くに相談できたかもしれないとか、この人と一緒になっても傷つくだけだと気がついたかもしれない、とか言います。加害者の人たちももっと早くに、暴力をふるう前にこれはまずいことだということがわかったかもしれない、という話をよく聞きます。ですからまだ結婚する前の、交際もするような年頃ではない中学生とか高校生などに防止教育の話をしています。そうやってDV被害者の人たちの話をひとつひとつ実現していったら、やることがいっぱいになってしまって毎日忙しく活動をしています。

私たちはDV被害者支援の活動をする団体の中では非常に珍しいといわれています。私たちが主に対応するのは被害女性ですけれども、その相手の加害男性にも会うということが非常に珍しいといわれています。それからDV家庭に育った子どもたちのケアもするので、この三つどもえの支援ができるのは、わりと効果があるなと感じられます。仲間には弁護士や司法書士や医療関係者や、いろいろな資格を持った人たちがいますが、私自身は何か資格を持っているわけではありません。加害者なんて死んだって変わらないのにどうしてそういう無駄なことをするのかとか、加害者に対応すると被害者が期待してしまって逃げるのをやめてしまうじゃないか。そうしたらその人の人生がその分無駄になるのじゃないかと批判されることもあります。

でも、私たちのところに相談に来る被害女性のほとんどが、夫が暴力さえふるわなければ離婚は避けたい、別れたくないということを口々におっしゃいます。それだったら夫と話をして、暴力をふるわない人に変わってもらいましょうということを考えたいんですね。一縷の希望をつぶさないで、彼らにも変わってもらいたいという意志を伝え、加害者-暴力をふるう人と一緒に生活するために被害女性には何が必要なのかという情報やスキルを伝える。そういう役割を担っていると思いながら日々活動しています。

今日お伝えすることはDV被害者支援の活動の中で見えてきたことや、3月に行われ7月に開催された「女性による女性のための相談会」で私が確信したことをお伝えしたいと思っています。そして被害者支援のこと、DVってどういうものなのか。「DVってこういうものだ」とみなさんの中でお持ちの知識や情報があると思います。実はそれがすべてなのかということを確認していただければと思います。そしてDV被害者と政治はなぜ遠いのかということをお伝えできれば、被害者の女性たちの代弁ができるのかと思います。

女性による女性のための相談会で確信したこと

去年、一昨年の暮れくらいからコロナ禍で家計の収入が減ったとか、仕事がなくなったとか、貧困問題の報道が多くなりました。そして今年の後半くらいから、このコロナが「女性不況」だとマスコミの中では多く語られるようになりました。私はこの相談会に参加することで前から思っていたけれども確信したことがあります。それは女性の貧困問題はコロナ前から、ずっと昔から起こっていたということです。それに今まで誰も気がつかなかったのか、気がつかないふりをしていたのか、なかったことにしたかったのか、そのあたりはよくわかりません。でもずっと女性は貧困の中で何とか生き延びてきたということを、相談会に来るひとりひとりの女性とお話しをしながら感じました。私が対応した女性たち、このコロナで大きく生活に影響は受けた、でも実はその前からずっと貧困だった、生活が不安定だったという話を聞いたんですね。

どうして女性はずっと昔から貧困だったのか、コロナで決定的にはなったけれど、どうしてその貧困問題が解消しなかったのかというと、社会に広く深く女性差別がしみこんでいるせいだ。そのために女性はその差別の枠の中からずっと出てこられなかったということを確信しました。女性が抱える問題がこの相談会の中で浮き彫りなってきたけれども、その問題の本質は何なのかということを考えるいいきっかけになりました。ただ女性が抱える問題の本質は「これです」ということは、私がはっきりと正解をいうことができません。それは女性が抱える問題が複雑すぎるからです。そして長いこと、ずっとこの問題をこじらせてしまったばかりに、すごく複雑に複合的になって、短い期間では簡単に解決しないのだろうということが、女性と話せば話すほど感じられることになりました。

女性の相談会を始めようというきっかけになったのが、年越しコロナ被害相談村の女性相談ブースでした。2020年12月29~30日、そして2021年1月2日の年末年始3日間の相談で利用者が337名いらっしゃいました。その中で女性の相談が62名でした。女性の相談はテントを設けて受けることになりました。それが非常に安心して相談ができたということで評判がよかったんです。年末年始ですごく寒くテントの前にストーブを置きました。寒さに震えて手がかじかんじゃって、すごく悩みがあって相談したいことがたくさんあるので顔が青ざめて口数も少ない女性たち。そして何日もご飯を食べていないとか、手持ちのお金が少ないので、このお金を使ってご飯を食べたり何かを買って食べることが不安だという方もいらっしゃったんですね。ふらふらという感じで来て青ざめて無口な方が多かったんです。

ストーブの前に座っていただいて、温かいお茶をまず出して飲んでいただいたんですね。相談を受けるスタッフがちょっと雑談のように、「今日は寒いですね」とか「緑茶と紅茶とありますけれどもどちらが良いですか」という他愛のない話からリラックスしてもらって、まずインテーク(初回面接)をします。この人は、今日は離婚の問題で相談来たといっているけれども、いろいろ聞き取りをしてみると実は手持ちのお金が少ない、もうすでに別居をしていて仕事も見つからずアパートを追い出されそうなんだとか、そういうことが少しずつわかってくるわけです。ですから、ストーブの前でみなさんと歓談することがとっても大事な時間でした。

そこが女性たちにとって安心で安全な場なんだということを感じ取ってもらえると相談したあとに「今日相談に乗ってもらって、こういうふうに助言してもらいました」といって、またストーブの前に集まってきて報告をしてくれます。今日受けた助言を明日こういうふうに実行してみようと思いますとか、年が明けたら役所に行ってみように思います、というような前向きな答えを発してくれる人たちも出てきたんですね。もちろんそうではない人もいます。そしてもう住むところがない、何日もご飯を食べていないという人は、この場から生活保護の申請に行ったり、東京都が手配していたホテルに入れてもらったりする手続きにスタッフと一緒に動いたりすることができたんです。ホテルが確保できたら、またこのストーブの前に戻ってきて報告してくれた人、今日生活保護の申請が無事にできましたといって喜んでまた戻ってくれる人、そういう人たちが何人もいました。

広く深く染み込んでいる女性差別

私たち女性のスタッフはもっと続けた方がいいんじゃないか、そして女性だけで実行したらどんなに安心で安全な空間ができるだろうということになりました。その場で、急遽スタッフたちが話して3月13、14日に相談会を実施することになりました。年末年始のときは62名の女性相談者の中で、家がない、住まいがないという人が29%もいたことがすごく衝撃的でした。そして携帯電話を持っていない、または料金が払えなくてつながらないという人が半分近くいたんですね。それも非常にショッキングな出来事だったと、すごく記憶に残っています。ほとんどの人が賃貸で、すでにネットカフェ生活をしているとかカプセルホテルで暮らしているとか、そういう人たちもいました。もうこの時点で、コロナの影響を受けている女性たちがだいぶいたことがわかっています。

3月の「女性による女性のための相談会」で、「いまどんなことに困っていますか」というアンケートの結果をみると、一番困っていることはやはり仕事です。みなさん仕事をしたいんです。ただ身体の具合が悪いから今は仕事ができないとか、雇い止めにあったとか、コロナで仕事がなくなって働きたいけれども来なくていいと言われてしまったという人たちが多かったです。ですから求職の相談も多かったという記憶があります。心と身体についての相談がその次に続きます。これは男性の相談会ではまず考えられないと思います。ということは、女性と男性では悩んでいることが少し違うのではないか。対応方法を変えなければならないのではないかということもここで見えてきました。その次が家庭や家族の問題です。これは夫婦間の問題だけではなくて、親から虐待を受けているとか、子どもから暴力を受けているとか、DV家庭に育って家が居心地が悪いとか、いろいろな問題がありました。そして住まいの問題、食事や職場のハラスメントやいじめの問題というふうに続きました。ひとりがいくつもの問題を抱えていていくつもの悩みを持っている、そういうケースも少なくありませんでした。

7月には第二東京弁護士会との共催で、屋内で相談会を開催しようということになりました。3月の相談会が大嵐で、相談を受ける側も相談する方も体力が大変だったので、今度は屋内で開催しました。いろいろなところから寄せられた支援物資を、みなさんに袋を渡してひとつひとつ手に取って見てお買い物をする感覚で、支援物資を受け取る方式をとりました。これは大変好評でした。支援物資だけ欲しいという人もいたんですけれども、相談受けた後に少しホッとしたところでたくさん支援物資を受け取って帰っていただくという流れをつくりました。これについてはしっかりとした報告書がありますので興味がある方はURLとかをご紹介できます。こういった感じで3月と7月に女性だけの相談会、すべてのことを全部女性だけでできたことが私たちの自信にもなり、まだコロナが続くこの年末にも開催するかどうか検討に入っているところです。

女性が抱える問題の本質

内閣府のホームページに、コロナ禍で女性の就業への影響について、労働力調査というデータが載っていました。上のグレーっぽい線が男性、そしてオレンジの線が女性です。2020年3月、ちょうどコロナが起こった、緊急事態宣言が出されたあたりから就業者数、雇用者数がぐっと減っています。男性も減っているけれども女性の下がり方がものすごく大きいです。コロナの前から男性の方が雇用者数、就業者数が多くて、女性の方が低いです。これは何を意味しているのか。そもそも女性に与えられる仕事、できる仕事、もらえる賃金が男性と比べると少なかったということが言えます。特に印象深かったデータをいくつか紹介します。

さきほどの雇用者数をもうちょっと細かく分析したグラフでは、もともと女性は非正規の労働が多い、それがコロナによってものすごく大きく減ってしまった。男性ももちろん減っているけれども、この減り具合を見るとコロナによって決定的にダメージを受けてしまった。もう立ち上がれないくらいのひどいダメージを受けてしまったということがわかります。就業者数の推移も、3月から女性が増えていますが4月に減り具合が思い切り増えています。男性ももちろん増えていますが、男性の減り具合は翌月にはちょっと持ち直しています。でも女性の減り具合が男女で比べるとやはり高めだということがわかります。

夫婦間の所得の比較では、もともと夫婦間で所得の差というのは大きいわけです。これは昔から基本的な家庭のモデルは、夫が働き妻が専業主婦ということが定着していたわけです。夫婦共稼ぎが当たり前だとなったのは、ここ最近だと思います。夫婦共稼ぎで同じ時間働いていたとしても男女の賃金格差がありますし、子どもが産まれたりすると女性は男性と同じように長時間働くことはできないわけですよ。そうするとどうしても相対的な収入は、夫婦の間では所得の差が開いてしまうことがわかります。家庭の中に所得の差がある、格差がある、階級の差があるということですね。家の中で何が起こりがちなのかということですね。

 データと照らし合わせてみて、相談会で見えてきた女性の抱える問題の特徴を私なりに考えてみると、まずDVや虐待や性暴力被害者の被害の経験者が多く、例えば生活保護の申請に行ったとしても、行政の面接相談員が男性とか社会福祉協議会の貸付窓口の担当者が男性というだけで萎縮してしまって、自分が思っているような話ができないことが多いということがわかりました。もしその面接の相談員が女性であったとしても、その女性の担当者が大きな声を出したり腕組みをして対応したり、それからちょっと説教口調になったりする言動、言動の中に怒りや見下し感とかそういうものを感じると、もう結構ですといって逃げ出すように帰ってきてしまうことが多いということもわかりました。このコロナ禍でいろいろな救済の政策や制度がつくられました。住居確保給付金、社会福祉協議会の貸し付け、休業補償、一人親にも手当が増額されたりですね。でもそのほとんどが自動的に手にできるわけではありません。必ず申請しなければならない。

そして女性はコロナの前からずっと貧困だった人たちが多いわけです。さまざまな救済措置はコロナをきっかけにして家計が激減したとか生活が立ちゆかなくなったという人たちに対しては救済措置が取られていますが、コロナの前から貧困だった人には制度が適用されないことがある。そこを上手く交渉したり、どれだけ自分が今困っているかを訴える力が、DV被害者や虐待被害者の場合にはないということがこの相談会で明らかになりました。そのような被害を、傷つきを持っていなくても、女性が窓口に行ったときに怖い感じの男性とか女性に事務的に冷たいような態度で対応されると萎縮してしまって、もう自分は受けられないとあきらめて帰ってきてしまうことがわかりました。アンケートの中で自分がその制度のことを知っていて該当すると思うれどもその手続きをしなかったという人がなんと7割くらいいたんですね。それはどうしてかということをさらに聞き取っていくとこういうことがわかってきた。

社会資源を使うスキルの訓練されていない

窓口に自分の状況を粘り強く交渉したり食い下がったりして手続きをしようという気にならないのはどうしてかというと、女性はもちろん男性もそうかもしれませんが、小さい頃から人に迷惑をかけてはいけないとか、そう教わってきている人たちが多いんですね。そうすると税金を使って救済をしてもらうことが、自分の存在自体がいろいろな人たちに迷惑をかけてしまう。自分が生きていること自体が迷惑だと思い込んでしまいます。また制度を頼らないで、今まで通り自分の手持ちのお金が少なければその中でやりくりするしかないと考えがちだということもわかりました。窓口の人たちは1日に100人とかの人たちの対応をしなければならないので、なるべく機械的に事務的に手続きを済ませたいと思うのは、人間の心情として仕方がないのかもしれません。でも、あなたはどうしたいんですか、「手続きしたいんですか、したくないんですか」と二択を迫られたときに、「結構です」と言ってしまいます。こうしたいんですということをはっきり言えない。これはDV被害者や虐待被害者の特徴なんですね。それがこの相談会ではっきりと確信を持って実感することができました。ですから役所の人たちへの要望として「どうしたいか」というような強い調子の質問をしないでほしいなと思いました。

生活保護を申請するには、その人がどこで生まれたのか、その人が本当に本人なのかということを確認するために、そしてどうして今こうした困窮状態にあるのかというをきちんと書類にまとめるために、生まれたところから困窮状態に陥ったところまでを全部面接相談員が聞き取らなければならないんですね。相談員も仕事としてすごく大変だと思います。でも、生活保護の申請をしたらいきなり何の前触れもなく「はい、どこで生まれたの、お父さんは誰でお母さんは誰、どういう家だったの、きょうだいは何人なの、そのきょうだいは今どうしているの、どうしてその家を出てしまったの、今まで仕事は何していたの」ということを根掘り葉掘り聞かれることが、被害を受けた人、親との関係で苦労した人、傷ついた人にはすごく苦痛なんです。これを聞くことに、もう少しサポートとかフォローが必要ではないかと思います。このことが相談会に来た女性たちの中ですごく顕著な問題でした。その人が抱えている問題の本質プラス行政との交渉で、二次的な被害を受けてしまったり自分が萎縮してしまうような事柄があることが見えてきました。

二次的な被害を受けやすいとか、萎縮しまうのはどうしてなのか。「そんなの困っているんだったらもうちょっと自分で踏ん張って交渉して、その権利を勝ち取ればいいじゃないか」と思われる方もいらっしゃると思います。でもDV被害や虐待被害というのは、思いの外その人の行動や考え方をむしばんでいるんです。女性たちが抱えている問題の根底にあるものは何かということをしっかりと解き明かして、それを解消するような手立てを支援者の人たちや社会全体がつくっていかなければこの問題はいつまでたってもこの状態です。ですからコロナが収まっても女性の貧困は何も変わらないということが言えます。女性が今どうして困っているのか、何に困っているのかということが明らかになってきたのでそれを解消していかなければならないということです。

女性が困っている、その問題の根底にあるのは何なのか。ここにジェンダーの問題が出てくるのではないかと考えられます。例えば困ったときには制度を使っていいんだ、社会資源を使っていいというスキルを訓練されていない。人と交渉するとか図太く生きるとか、何かあったときには困ったといっていいとか、そういう手立てを訓練されてきていない人たちがあまりにも多い印象を受けました。これは私たちが日々行っているDV被害者支援の活動の中でも感じています。被害者は「お前なんか迷惑だ」「お前のせいだ」とずっといわれ続けているので、誰かに何かを頼むことがすごく怖いんです。この人に何か頼んだときにまた怒られてしまうかもしれない。もしかしたら暴力をふるうかもしれない、そう考えてしまうんですよね。用意されている情報を、私は活用する権利があるということを教わってきていないんですね。行政窓口の交渉を困難に感じる女性が多いんです。

DVや虐待そして性暴力被害者の方々も相談会には多くいらっしゃったけれども、支援者を信頼する力を奪われていることが多いです。DV被害や虐待被害の一番大きな影響は人を信じる力を奪われていることです。ですからこの人は無条件に私のことをサポートしてくれる人だということが、相談会に来ているにもかかわらず、支援者のことを信頼しきれないんですね。そういう力を奪うということは、加害者は本当に罪深いと思います。これは「あなたには権利がある」といっても明日からそれを活用できるものではないので、しっかり子どもの教育の中に、幼稚園からやってもいいと思いますが、繰り返し繰り返し人権の教育をすることで何10年もかけて備わっていくものではないかなと思います。

DVとは家庭の中で起きる究極の女性差別

 私は日々DV被害者支援の活動を行っている中で、DVの問題とか虐待の問題が解消されたら、被害者だけでなくさまざまな人たちが生きやすい社会になると思っています。DVとは家庭の中で起こる究極の女性差別だと思います。DVの問題は被害者個人の問題でも女性だけの問題でもありません。DV被害者支援をしていますと、女性差別が解消されたら社会が住みやすくなりますというお話しをすると、男性の方々は不快に思われる方もいらっしゃいます。男性が居心地が悪いのはちょっと嫌だなと思ったり、女性ばかりが優遇されて、男性が全員悪者のように考えられるのは嫌だというご意見をいただくこともあるんです。けれども、私は決して2項対立で女性が善良で男性が悪いということをいっているのではありません。夫婦の、たった2人しかいない、本当は愛し合って結婚したはずの夫婦がいがみ合ったり、力を押しつけあったり、困らせたりいじめたりとか、そういうことがどこで起こっているのかということをしっかりと解明する。できればその2人が仲良く楽しく末永く力を合わせて生きていってほしいと思うんですね。

それがどこに問題があってどう改善すればよいのかを考えていく上で、どうしても男性女性という問題は外せないと考えます。DVの問題は女性の問題ではなくて、人権の問題なんです。ですから女性が生きやすくなれば男性も生きやすくなります。女性が優遇されて男性がつらい立場になるとか、我慢しなきゃいけないとか、奴隷になるとかではなくて、どちらもが生きやすい社会をつくらなくてはならないんです。

DVとは何か

そこでDVとは何か、というと、多くの方々はどう答えるでしょうかね。まずは身体への暴力をイメージされる方が多いと思います。DV防止法という法律が2001年にできました。もう20年以上たちます。でもいまだにDV被害者女性からの相談では、「私は殴られたことはないんです。それってDVっていえますか」という問い合わせが多いです。殴られなければDV被害ではないと被害者自身が考えていて相談することを躊躇してしまう。そういう傾向がまだまだ強いと思います。

管轄の省庁が内閣府なのでホームページを見ると、「明確な定義はありません」と書いてあります。何か不思議ですよね。ただ日本では配偶者や恋人など親密な関係にある、またはあった者からふるわれる暴力という意味で使用していますと注意書きが書かれています。結婚している人または交際している人、親密な関係にある人ですね、セックスをするような関係の人、その人たちの間で起こる暴力のことを「日本ではDVと呼びます」と書いてあります。どうして日本では相手を配偶者とか恋人とか親密な相手に限定するのかというと、この法律の関係です。DV防止法、正式名称が「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」といいます。ですからこの法律の名前に「配偶者」などに限定したような名前が付けられています。ですから結婚している人、または事実婚状態の人から暴力を受けないとこの法律が適用されないと限定されています。

不思議です。アメリカとか海外では、配偶者とか恋人関係などに限定されていません。ドメスティックバイオレンスというのは直訳すると家庭内暴力という意味があり、夫婦などに限定しなくても力関係に差がある人たちの間で、強い人が弱い人に対して継続的にあらゆる力を使ってその人を苦しめたりいじめたり、けがさせたりすることをDVと、広く全般的に呼びます。日本では法律の縛りがあってすごく狭い限定をされています。

そして「恋人など」という言葉も出ているんですが、正確にはDV防止法では恋人から暴力をふるわれても、この法律が適用されることがある場合とない場合、ケースバイケースで、準用されるという言い方をしているそうです。例えば恋人でも、同棲しているカップル、生活費をお財布をひとつにして、そのお財布で食費に使ったり家賃を払っている人たちはDV防止法が適用されます。でもルームシェアをしているような、でも肉体関係はあるというような人たちには適用されない可能性もある。まして親元に暮らしているとかお互いに一人暮らしをしている恋人同士の場合には、暴力があってもこの法律が適用されない可能性があります。ですから、されていることや関係は同じですが、結婚しているかしていないかで法律が大きく限定されるということが不思議なことです。

私たちは子どもたちへの防止教育をしていて、中学校や高校、大学などに行くと、すでに中学生や高校生でも交際相手から暴力をふるわれているという相談があります。その子たちは、当然未成年ですから親元で暮らしている子がほとんどです。その子たちにはこの法律が適用されないことになります。小さい子どもほど守られなければいけないのに、小さい子どもだからこそ守られないという不思議な現象が起きています。なんとか変えたいと思うけれども、法律をつくる人にとっては、つきあっている人の間で暴力をふるわれたら「別れればいいじゃないか」という短絡的な発想ですね。でも学校で毎日顔も合わせなければならないとか、別れたいといっても携帯電話でつながっているから、メールとかLINEとか電話でじゃんじゃんかかってきたり嫌がらせされたり、ツイッターとかSNSでいろいろウソの情報を流されたりします。ラブラブのときにプライベートな、ちょっとセクシーな、友達とか親には見せられないようなふたりだけの秘密の写真などをアップされて、みんなにバラされちゃうかもしれない。この法律をつくっている人たちには、なかなか認識しにくいようです。若い人たちこそ守られる法律であってほしいと思うんですけれども、今のところまだ実現していません。

海外では、DVとは力を持っている人が弱い立場の人を継続して、あらゆる力を使って支配する行為だということが定義されています。ですから殴ったり蹴ったりする暴力はただの手段でしかありません。例えば「ちっ」と舌打ちをするだけでその場の空気が凍りついて、言うとおりにするということもあるでしょう。例えば会議の場などで自分の意見が通らないときに、ボールペンをカチカチカチカチやる人っていませんかね。それから貧乏揺すりする人とか。そうすると場の空気が一気に悪くなって、その人の意見を尊重したらこの嫌な空気が解消されるのではないかと思えることもあるかと思います。これが支配行為なんです。この場を支配する行為、2人の関係を支配する言動、そういうことをやってもいいという価値観がDVには大きな問題で、DVの根本的な問題だと言えます。多くの被害者が女性ですけれども、もちろん女性から男性がされている場合もあります。ただ圧倒的に女性の被害者が多い。

交際相手や夫婦の間で起こっている力による支配とはどういうものなのかを、自転車に例えてみました。車輪がくっついている。これは一緒に住んでいてお財布がひとつだと考えていただいてもいいです。お互いは違う方向に行きたいけれども、車輪がくっついているから行けないですね。この場合、この二人は力の強い方に引っ張られていくと思います。その力というのが、腕力だったり経済力だったり社会力だったり交渉力だったり、いろいろな力なわけです。ですから必ずしも腕力が強い人がDV加害だというわけではないと言えます。「力による支配」というのは日本では言葉が関係性によっていろいろ変わります。夫婦だとDV、恋愛関係だとデートDV。夫婦か夫婦でないかによってDV防止法が適用されるか適用されないかということが分かれています。親子だと児童虐待とか、子どもが親に暴力をふるうと家庭内暴力といって呼び方を変えて、その関係性によって根拠法が変わっている、そういう仕組みです。学校では大勢で一人をいじめるようないじめとか、SNSを利用して仲間はずれにしたり、先ほどのようにバラされたくないような情報をみんなに晒らされてしまうとかそういうことです。職場ではセクハラ、パワハラなどいろいろなハラスメントがあります。すべて同じ行動ですけれども、法律の根拠が違うだけでいろいろと呼ばれ方が違うということもぜひお伝えしたい事柄です。

実にいろいろある暴力の形態

暴力の形態にはいろいろ種類があります。大きく分けると4つあると研究者の人たちは伝えています。まずは身体的暴力、これは誰もが気付きます。第3者も気づきやすいです。でも精神的暴力というのは、例えば大きな声で怒鳴るとか、大きな声を出さなくても日々その相手をバカにするとか、見下したようなことを言う態度をとるとかがあります。それから交友関係を制限する。「あの人と会ってはダメだ」とか「あそこに行っちゃダメだ」とか「土曜日のこんな寒い夜に、いま選挙で忙しいときに憲法の勉強会なんか行っちゃダメだ」とか。それからどんなに話しかけても、一緒に暮らしているのに「おはよう」といっても無視される。「今日何食べたい」と言っても無視される。作った食事を食べても、おいしいかどうかも答えない。そういうことも、される人にとってはものすごく大きな傷つきです。何か自分が怒られてしまったのではないかなとか、何か自分が変なことをしてしまったのではないかなとか不安で不安でたまらなくなっちゃうんですね。その気まずい空気を何とかするために、相手が喜ぶことをしようとか相手の不機嫌を解消しようと、相手の言うとおりにしてしまったりする。

今日誰とどこで何をしていたのかをいちいち報告させたり、SNSで監視したり、「オレが昼間一生懸命働いているときにお前は2000円もするランチを食べにいったのか、贅沢だ」というような嫌みをいったり、そういって罪悪感を持たせるようなことも精神的な暴力です。そして性的な暴力、性行為を強要する。「結婚しているのだからいつでも求めに応じるのが夫婦だろう、妻の役目だろう」といって強要したり、断られたら応じるまでずっと長い時間説教したり、避妊に協力しない。見たくないポルノビデオを見せる。「これと同じような行為をしろ」と迫ったり、嫌がっているのに裸の写真を撮影したり、中絶を強要したり、避妊をしたくないんだけれども妊娠したら中絶すればいいじゃないかとか、勝手に産めばいいじゃないかとか、自分は育てる気がないという。すごく無責任なセックスをする行為も性的な暴力とくくることができます。

そして経済的暴力。例えば恋人同士だったらデート費用を払わないとか、ちょっとお金を貸しておいてといって借りたお金を返さない。外で働かせない。「オレが渡している生活費だけでやりくりすればいいじゃないか、やりくりできないなんて女として失格だ」と貶めるようなことを言う。がんばっている仕事を辞めさせたり、「家のことがちゃんとできないなら仕事を辞めろ」といってやめさせる。それから十分な生活を渡さなかったり、貯金を勝手に使うとか、経済的な問題で合意を取らないままに、どちらかが経済を管理してしまったり締め付けたりするような行為は経済的暴力と言えます。

若い人たちの間ではデジタル暴力といって、SNSなどで相手を苦しめたりいじめたり、秘密をばらすということも深刻な問題となっています。リベンジポルノとかストーカーとか、それらはデジタル暴力を利用していることが多いと思います。特に性的な暴力は、結婚したら夫の求めには応じなければいけないというふうに教育をされて結婚をする女性もいます。私もそうでしたね。私も結婚する前の夜に母親に夫に求められたら断ってはいけないと、前の日になぜかそれだけをいわれたんですよね。それがこういう勉強をするようになってから、同意のない性行為って暴力だということを初めて知ることができました。それから避妊しない。

リベンジポルノというのは裸の写真とか動画を撮って、2人が同意して撮っている場合、別れ話がもつれたときなどに、それを利用して相手も苦しめてやろうという復讐の気持ちでネット上にさらすようなことをリベンジポルノといって、法律ができるほど非常に深刻な問題となっています。一度ネット上にそういう写真がアップされてしまうと完全に消しきることは難しいので、いつどこで誰が自分の写真を見たことがあるかということをずっと誰かに何かいわれるかもしれない。「あなたの裸の写真をみたよ」と誰かにいわれるかもしれないということをずっと考えて、びくびくしながら一生生活しなければならないという非常に残酷な行為です。例え関係がよくても絶対2人の間でこういう写真や動画を撮ったりするのはダメだと、私は声を大にして子どもたちに伝えているところです。

そして性的な暴力の結果何が起こるかというと、望まない妊娠や出産や中絶によって心や身体が傷ついてしまう可能性や、性感染症をうつされたりすることがあます。若いときに性感染症をうつされてしまうと不妊につながったり、本当に子どもが欲しいときに子どもができないことにも発展しかねません。3月の相談会でも、実際に望まない妊娠をした女性の相談がありました。妊娠すると、出産までの妊婦検診の費用は行政が持ってくれて、出産一時金は42万円補助が出ます。けれども中絶の費用は何の補助もないことを、私もあらためて確認しました。生活保護を受けている女性は、母体保護の観点から中絶費用が生活保護のお金として出る可能性があるけれども、自力で生きてきた、貧困の状態だけれども生活保護を受けずにぎりぎりやってきた人には中絶の費用が出ない。

中絶って期限があって、それを超えてしまうともう子どもを産むしかありません。「この子は本当は産みたくなかったのに」と子どもをかわいいと思えないこともあります。去年就活中の大学生が飛行機で上京し、羽田のあたりで子どもを産んで公園に埋めてしまった事件がありました。こういう事件が後を絶たないのは中絶の補助が何もないからだということがわかりました。このように暴力というのは世の中にたくさんあることも知っていただけたかと思います。あまり「これも暴力だ、あれも暴力だ」と意識して生活すると、敏感になりすぎて生活しづらいかもしれません。でも、最初はこのくらい神経質になって気をつけた方がいいと私は思います。そうすると、どうしたら相手を傷つけずに生活できるのかとか、相手がどうしたら笑ってくれるのかということを考えることができるような気がします。

コロナでDVは増えている?

女性に対する暴力はこのコロナ禍で増えているという報道も多く見られますが、実際に相談件数はぐっと増えています。ひとつ言えるのは、加害者の下からシェルターなどに緊急保護されるとか一時避難する人たちは減っています。それはどうしてか。政府が外出を制限してくださいという政策をとっていて、在宅勤務でいいですよ、リモートワークしてください、となると家庭の中にずっと加害者がいる場合もあるわけです。そうすると、買い物に行ったり出かけるときに、どこへ行くんだ、何時に帰ってくるんだ、誰と会うんだ、何しにいくんだと、いちいち聞かれたり報告しなければならない。ちょっとでも怪しいことがあると、行っちゃダメだと言われてしまって、相談にも行けなくなったんですね。電話だと家の中で聞かれている可能性があります。出かけるとどこに行っていたんだと根掘り葉掘り聞かれて、嘘がつけない人は正直に答えてしまうかもしれません。そうするとより危険な目に遭う可能性があります。

そんな中で、国はチャットの相談をコロナ禍で始めました。それが非常に好評で、相談件数が増えた大きな要因のひとつだったといわれています。私たちもこのコロナ禍では、昨年前半くらいは一気に相談が減りました。毎年2月、3月はDV被害に遭っている女性たちは、子どもの進学とか進級、春休みになるところを狙って家を出る決意をしたり準備をする人たちが多い。その相談が去年はぱったりなくなりました。やっぱり物件を見に行くとか、準備をすることができなくなっていると感じました。4月後半に相談がぐっと増えましたが、それは定額給付金の問題でした。定額給付金は世帯ごとに支払われる給付金なので、世帯主に申請の権利があります。そうすると経済的暴力を受けている家庭は、当然に世帯主が全部独占してしまうとか、住民票を移さずに身体だけ加害者のもとから避難している人は、当然自分には請求の権利がない。どうしたら申請できるかという問い合わせが4月後半に増えたことを覚えています。

DV被害を受けているという自覚があったときに、どこに相談するかということも内閣府のホームページには出ています。3年ごとに被害者に対して調査が行われていますが、相談先を知らない人たちが被害者の中でも半分近くいることがわかっています。女性の4割、男性の6割は自分が被害に遭っているとわかっていても、どこにも相談していないことがこの調査からわかっています。どうしてなのでしょうか。どこに行けばいいかわからなかったということもそうですが、自分の被害を過小評価していて、このくらいで相談したら悪いかなと思って相談しなかった。こういうことで、誰かに相談することが迷惑だと小さい頃から教わっているために誰かに相談しちゃいけない、迷惑なんだということが染みついていることがここでもわかったような気がします。

DV被害は、結婚している人のどのくらいの人が被害に遭っているかご存じですか。結婚している3人から4人に1人がDV被害に遭っているということが国の調査です。その中で実際に加害者と別れた女性は16.3%しかいません。残りの8割以上の人たちはその家に止まって加害者と暮らしています。男性もそうです。14.2%しか別れていません。残りの8割以上の人たちはいまだにその人と暮らしている。どうしてなんでしょうか。不思議ですよね。「何で別れないんだ」と言いがちです。相談を受ける人は絶対に言ってはいけないことですが、でも被害者の話を聞いていると「別れちゃえばいいのに」と考える方が多いと思います。

配偶者と別れなかった理由、加害者と別れなかった理由の一番は圧倒的に子どものことです。その最大の理由は子どもを一人親にしたくない。何でだと思いますか。一人親の貧困とか母子家庭はすごく生活が苦しいとか、母子家庭に対する偏見とかスティグマがいまだにすごく強いです。なので「ああ、母子家庭になっちゃったんだ」というようなものすごく冷たい視線や見下されるような視線を受けたり、実際にそのような言葉を投げかけられたりすることが多い。それが大変つらいということを女性たちから聞くことが多いです。その逆で父子家庭というと結構暖かく「お父さん、がんばっているね」と応援したくなるという世間の声をも多いようですね。母子家庭だと何かわがままだったんじゃないかとか上手く夫を操縦できなかったんじゃないかという冷たい視線がある一方で、男性に対して暖かい目線があるというのはこれもまさにジェンダー差別なのではないか。そういう考え方、価値観が社会に根強くまだまだ残っているせいなのではないかなと思います。

その次に来るのは、女性は経済的不安や養育していく自信がないという割合です。女性は賃金が低いですし非正規の雇用の率が高いです。そうすると、この給料で子どもを今と同じような、例えば子どもに個室を与えているとか習い事をさせているとか塾に行かせているとか、そのような生活が私ひとりでもさせられるのかと考えると到底できないだろう。いまは養育費をしっかりと確保するような制度はまだまだ弱いので、夫からの養育費ももらえそうもない。そうしたら、私ひとりが夫の暴力に耐えて我慢すれば、子どもにはひもじい思いをさせないし世間からの冷たい目にさらされなくても済む。そう考えて家を出るのをあきらめてしまう。これは納得のいく考え方なのではないかと思います。加えてコロナで外出ができにくくなった。先の見通しがまったく立たないのでいまは別れないでおこう。逃げないでおこうという「逃げ控え」がいま起きているんではないかと考えています。

DV問題は女性の問題ではない

DV防止法の考え方の定義があります。2001年の施行、DV法ができたときには法律婚、事実婚の相手方に限定されていましたが、これまで4回改正されています。1回目の改正では元夫からの暴力、別れた後もストーカーのようにつきまとったり嫌がらせをしてくる元配偶者が多いんですね。そういう人からの暴力もこのDV法で守ることになった。そして3回目の改正では交際相手、同棲しているパートナーにもこの法律を適用することになりました。4回目の改正は目黒の児童虐待死事件や、野田の虐待死事件はまだ記憶に新しいと思います。児童虐待とDVがセットで家の中で起こっていることがようやく世間に知れ渡って、法律を変えるきっかけになった事件です。DVと虐待が家庭の中ではセットで起こっているんだという法律ができるために、変わるために子ども2人が犠牲になったと言えるんですね。もっともっと前に前に、予防、予防という感じで進んでいけば、犠牲になる子どもや大人は少なくて済むと思います。日本の政治はどうしても何かが起こってから考えて、結果的に被害をたくさん生んでお金がかかってしまったり、そういうことになっていると思います。

 DV防止法は2つの役割があります。1つは保護命令を出すという大きな役割があります。ひどい加害者から逃がしてシェルターなどにかくまってあげる。そういう法律です。裁判所からも保護命令を出してもらって6ヶ月間近寄ってはいけないとか、加害者が一時家から退去して、被害者が荷物を出すあいだ、次の住まいを探すあいだに元の家に住ませてあげなさいという、退去命令と接近禁止命令が出せる機能があります。この保護命令の対象となる暴力は限られています。先ほどの4つの暴力全部に適用はされません。保護命令が適用される暴力は、身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫を受けたものに限ります。ですから身体的暴力を受けて、もう死ぬかもしれないようなひどい被害に遭っているとか、「殺すぞ」といわれて本当に探され追いかけ回されて殺されるかもしれないという被害でないと保護命令が出ないんです。

このDV防止法ができて20年以上たちます。この法律ができていろいろな人たちが「これは身体への暴力をふるったら保護命令が出て接近禁止命令が出る」とか「退去させられる」とか、そういう情報が行き渡ったおかげで、身体的暴力がこの数年減ってきています。保護命令の定義に当てはまるような暴力が減って、保護命令の発令率がものすごく減っています。これはどういうことだと思いますか。殴られなくても相手を苦しめる分かりにくい暴力が、いま世の中では浸透しているということです。誰の目から見てもわかりにくい精神的暴力や性的暴力や経済的暴力が家の中で起こっている。このコロナ禍でずっと一つの屋根の下で生活をしなければいけない。家の中で何が行われているのかということを想像しただけで、本当に背中がぞっとするくらいの恐ろしさを感じます。その人たちはいまSOSを出せない。加害者の目をかいくぐって相談したところで、対応は逃げるしかない。逃げるか、別れるしかないんです。となると、逃げる決心ができる人でないと相談できないということです。

これはホームページに出ている配偶者暴力防止法の被害者のフローチャートです。被害者が「逃げる」とか「別れる」という選択しかこのチャートにはありません。「別れない」という選択は許されていない。これは国による大きな人権侵害ではないかとわたしは思っています。別れない権利、その場に止まる権利、この家に住む権利を被害者はどうして認められないのかなということを日々考えています。日本の夫婦はこういうものだという標準モデルは、自転車で例えると、夫が主導権を握って操縦して、夫が主に力一杯漕いで妻はそれに補助的にくっついていく。多くの原動力は夫の方にある。これがイメージかと思うんですけれども、DV加害者はこれをものすごく負担に感じていています。自分ばっかりがなぜこんなに一生懸命に負担を背負わなければいけないんだろう、家を背負わなければいけないんだろう。オレは一生懸命働いてこの家を養っている。お前を養っている。この家の住宅ローンを払っている。だから家に帰ったときくらいオレの言うことを聞け。こういうのが加害者のイメージです。もちろんこの反対もあると思うんですけれども、私が聞いている話はこういう話ばっかりなのでこういうイメージです。加害者ってこういう考えなんだなということがおわかりいただけたかなと思います。

これも内閣府の調査です。男女の地位の平等感、男女がどちらかと言えば男女平等だと思う人、そうじゃないと思う人の割合を内閣府が調査していますが、男女は平等だと考えている人は2割くらいしかいないということがわかっています。そのほかの人たちは「どちらかと言えば不平等」、「不平等」だと考えていることがわかっています。この不平等感というのは多くは経済的なパワーによるもの、それから社会的な地位によるものと考えられます。これを家庭の中で考えたらどのくらいの平等感になるのかということをぜひ調査したいと思うところです。家庭の中で、オレの方が給料が高いからオレの方が偉いって威張られたら、でもあなたがそうやってちゃんと仕事に専念できるのは影ながら家でご飯をつくったり洗濯をしている私の力もあるんじゃないのかと言いたいですね。けれどもそんなことを言ったら大変なことになってしまうから、絶対に言えないということがこのDVの家庭の中で起こっていることです。

DV・虐待被害者と政治は余りにも遠い

 DV被害者と虐待被害者は政治とすごく遠いところにあるということを、先ほどお伝えしました。いま期日前投票が行われ、あと1週間で選挙ですが、投票する権利さえ行使できない被害者、虐待被害者がいます。いま逃げている最中、いま別居中の人、住民票をまだ移していない人――住民票を移すとそれをたどって追跡され、押しかけてこられてしまう。そういう怖さがあって住民票を移さずに逃げて暮らしている人たちは世の中にたくさんいます。その人たちに投票券は行き渡るでしょうか。

みなさんのお手元に投票券権はもう届いていますか。個人宛に、個別に送られてくる自治体もあるけれども、多くは世帯ごとに送られてきます。別居中の人は投票権を捨てられてしまう可能性があります。同居していてもどうせお前は政治のことなんかわからないだろうと見下されて、行かないよな、といってぽいっと捨てられちゃう可能性もあります。それから、お前はここに入れろと指示されて、その通りにさせられている人もいます。投票するという当たり前の権利を行使できない人たちが世の中にいることを知っておいてほしいと思います。

 その人たちは当然投票しない、できないから、どうせ自分たちは政治のことをいろいろ勉強したって何も関係がないんだと、自分からも足を遠ざけるか興味を持たなくなってしまうのではないかと思います。政治家の人たちはそういう人たちには興味ないですよね。うるさく言わないし、自分に一票を入れてくれない。そうするとお互いがどんどん疎遠になって、結局「私はどこどこに住んでいる誰々です」ということをはっきりと表明して意見が言えない。いつも身を隠しながら生きているDV被害者や虐待被害者の声は、いつまでたっても届かないことになってしまいます。悪循環です。

どうしたらもっといい方向転換ができるのかということを、ぜひ今日この場でみなさんにもお知恵を借りたい、私たちにできることは何なのかということを、いろいろなアイデアをいただけるのかなと楽しみにやって参りました。女性が抱える問題は、男性の問題でもあります。女性だけが優遇される世の中をつくりたいわけではありません。女性も男性も性別を感じずに誰もが楽しく仲良くお互いを尊重しあって思いやりあって生きるにはどうすればいいのかということを考えられたら、この世の中はすごく平和になるしハッピーになるのではないかなと思います。ちょうど世の中ではSDGsということで企業も自治体も盛り上がっていたりしますね。選挙の公約に「誰ひとり取り残さない社会」ということを取り上げているところもあります。でも実際は取り残されている人たちが私のまわりにはたくさんいるということを、ぜひ知っていただきたいと思います。

私たちと政治に求められていること

今日は市民憲法講座ということで、私は法律のことは詳しくないので聞きかじりですけれどもある学者さんが教えてくださったことを最後にご紹介したいと思います。「DV被害を生み出す政策は憲法違反だ」ということを教えてくれた研究者がいます。憲法13条、幸福追求権、DV被害者は幸福を追求する権利も奪われている。憲法14条、相対的平等の保障、家庭の中で相対的平等が保障されていないのがDVだ。憲法18条、奴隷的拘束を受けて生活している人たちが多いという現状を知ってください。そして憲法24条はもうみなさんに言うまでもないと思います。家庭生活における個人の尊厳が保たれているのか、両性の本質的平等が家庭の中でしっかりと保たれているのか、

ぜひこれをもう一度確認してほしいなと思うんです。そして憲法25条、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利、どれもがDV被害者には得られていない権利かなと思います。

みなさん誰もが当たり前に持っている権利を人権というとしたら、DV被害者にはこの基本的な人権が与えられていない。とくに基本的人権の中の自己決定権、自分で決める権利を与えられていないと思っています。ですから役所の窓口でどうしたいんですか、申請したいんですか、したくないんですかと聞かれたときに自分がずっと自己決定権を奪われているので、急に自己決定権を行使することができないです。そういうスキルを培われてきていないんです。そういうことをぜひみなさんには知っていただいて、たぶん短期・中期・長期という三本立てで政策を考えていかなければならないと思うんですが、ぜひみなさんのお考えの中にもDV被害者や虐待被害者の人権についても考えていただくスペースを空けていただきたいなと思います。今日は私の話を聞いていただきましてありがとうございました。

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