7月7日、自民党の野田聖子幹事長代行は福岡市内の講演で自民が過去2番目に低い33議席にとどまった都議選に言及し、「菅政権になってから、東京都議選も負けっていうことを認めれば全部負けている。知事選で(自民が)推薦出した方も負けている。参院補選も負けている」と語った。そのうえで4月の衆参3補選・再選挙や、千葉や静岡の県知事選など、菅政権下で大型選挙の敗北が続いているとして「ずっと勝てなくなっている自民党がいる」と指摘した。自民党幹事長代行の発言としては異例の危機感に満ちている。
未曽有のコロナ禍の中でたたかわれた7月4日投開票の東京都議選(42選挙区 127議席)は自民党にとって深刻な結果だった。
前回、小池百合子都知事と対立し議席を激減させ(23議席)野党となった自民は、今回はリベンジで都議会第1党にはなったが33議席(目標50)にとどまり、共闘した公明(23)も併せて56で、過半数の64に届かなかった。小池与党の都民ファーストの会も47から31に減らした(うち1名、当選後除籍)ことから、都議会に安定的な多数派は存在せず、今後、小池都政は都民ファ+自公の是々非々体制で乗り切らざるを得なくなった。
都民ファは「五輪」について主催者の小池知事の与党でありながら、極めて不誠実な公約の「最低でも無観客」を主張した。
東京五輪については共産党は「中止」を訴え、現有議席から1議席増の19、「中止か延期」を主張した立憲民主党は7増の15で、ネットの1や立憲野党系の無所属を合わせると立憲野党は36となり、自民や都民ファを上回ることになった。こうして都民ファも含めて五輪開催消極派は67議席で過半数となり、民意は五輪開催に反対か消極的であることが明らかになった。生活者ネットワークは1議席を確保したが、国民民主党、れいわ新選組は議席を獲得できず、社民党は候補者をたてられず、野党の支援に回った。
立民・共産などの立憲野党の共闘には重要な前進があった。
立民と共産などは1人区、2人区と3人区の一部で候補者を調整し、1本化した。これらの野党が共産党の候補者に1本化した11選挙区のうち5選挙区で当選し、立民に1本化した8選挙区のうち6選挙区で当選した。このほか、生活者ネットと無所属が野党共闘で当選した。
これらの選挙区では野党が「すみわけ」をして候補者を1本化しただけでなく、相互に国会議員が応援に入ったり、支持者に1本化した候補者への投票を呼びかけるなど、実質的な選挙共闘に踏み込んだ選挙区がみられた。
立憲民主の安住淳国会対策委員長「(共産党との候補者調整について)如実に成果が出た」と述べ、「(今秋までに開かれる衆院総選挙についても)野党が一つになって固まれば、政権交代も現実味を増す」と感想を述べた。
残された大きな課題は投票率が42.39%で過去2番目の低率だったことだ。公明党の全勝も低投票率だったからこそであり、それゆえに立憲野党の飛躍は実現できなかった。自公勢力と闘う立憲野党候補の1本化と共闘で政治が変わるという空気を広範に作り出し、有権者が投票所に足を運ぶような闘い方が、各野党や市民連合などに求められていることは忘れてはならない。
菅政権は新型コロナウイルスの感染の再拡大が続く東京都と沖縄県に対し、東京五輪の開催時期を含む7月12日から8月22日まで、4回目となる緊急事態宣言を出した。
菅政権のコロナ対策は緊急事態宣言の乱発に見られるように、科学的合理性を持ち、有効で、具体的な対策がとれず、政府の無策による失敗の責任を棚上げにし、「パチンコ店」や「夜の街」の規制に始まって、現在は「居酒屋」「飲食業」に緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の矛先を向けるなどしてつねに、社会の一部分にその責任を転嫁してきた。しかし、その脅しも効き目が薄れてきている。
今回は焦った政府側から西村康稔経済再生担当相のトンデモ発言が飛びだし、内閣の不統一が露呈した。7月8日の記者会見で新型コロナウイルス感染症対策をめぐり、西村経済再生相は「酒類の提供停止や休業の要請に応じない飲食店情報を金融機関に提供するので、(政府の)要請を順守するよう金融機関からも働き掛けを行ってほしい」と発言した。これに対して金融機関をはじめ、与野党の内外から「憲法違反」「脅し」との指摘をはじめ一斉に批判がでるや、菅首相は「私は承知していない」と責任を回避し、加藤勝信官房長官は「金融機関への関係省庁からの協力要請は取りやめる」と西村発言を撤回した。しかし、責任追及が西村辞職要求にまで強まると、13日、西村氏は「菅首相や関係閣僚が出席した打ち合わせで内閣官房が金融機関への要請について説明していた」ことを暴露し、辞任を拒否するなど、政府内の混乱が露呈した。
この1年半余、東京2020オリパラの強行をめざした安倍・菅首相らの政権維持のための党利党略、政治の私物化は、政府のコロナ対策を後手後手に回らせ、医療現場を疲弊させ、感染拡大を急増させ、ひとびとの命と暮らしを危機に陥らせてきた。
当初は「復興五輪」「(原発事故の)アンダーコントロール」などをスローガンにして出発したオリパラは、政治の思惑からいつしか「人類がコロナに打ち勝った証」としての、「安全安心な東京五輪」にすり替えられた。このなかで菅政権が唯一頼りにしてきたワクチン接種は自衛隊まで借り出して大々的に宣伝されたが、計画がずさんで、自治体や医療機関にしわ寄せされ、現場は混乱をきたしている。接種率も国際的比較でもいまだに低率にある。日本政府のコロナ対策の失敗による犠牲者は死屍累々状況だ。死者1万5千人、罹患者80数万人は極めて由々しい事態だ。政府の場当たりの対策の下で、失業・倒産は増大し、貧困と社会的格差は悲劇的に拡大した。
すでに感染拡大は第5波の到来となった。多くの医療関係者や識者が指摘するように、このままパンデミックのもとで東京オリパラ開催を強行するなら、日本は国際的な新たな感染源になりかねず、日本社会と内外の五輪関係者は極めて悲劇的な事態に見舞われることは間違いない。
一方、コロナ禍の危機の陰で、菅自公政権による権力の私物化・犯罪、政官業の癒着・腐敗などがとどまるところを知らないばかりか、先の通常国会では沖縄・辺野古基地建設の強行、福島原発汚染水の海洋投棄や原発再稼働への動きと合わせ、改憲手続法改定案、デジタル監視法案、重要土地等調査法案、医療保険改定案等の強行など一連の悪法を成立させたことは見逃せない。
なかでも、菅政権がバイデン米国政権のお先棒を担いで、「自由で開かれたインド太平洋」などというスローガンのもと、中国・朝鮮包囲網づくりに加担し、この地域の軍事的緊張を高めていることは重大だ。
7月13日、2021年版「防衛白書」(防衛省・岸信夫防衛相)が発表された。なんとその表紙には皇居外苑にある楠木正成の銅像の墨画が掲げられている。「国を守る躍動的かつ重厚感のある騎馬武者"が描かれています」(岸防衛相)という。戦前の皇国史観で忠君愛国の臣とたたえられてきた楠木の騎馬武者像を劇画風にしたてて政府の「防衛白書」の表紙を飾るような暴挙に驚愕する。その画風は現在、若者たちの間で驚異的な人気を誇っている漫画「鬼滅の刃」風で、「白書」はこの層の受けを狙っているとしか思えない。
しかし、より重要な問題はその中身だ。
岸信夫防衛相は白書の巻頭言で、「中国は東シナ海や南シナ海において、一方的な現状変更の試みを続けている」と批判し、「わが国自身の防衛力を強化」するとともに、「揺るぎない日米同盟の絆をさらに確固たるものとするべく、同盟の抑止力・対処力の一層の強化に努める」と表明した。
今回の白書は従来とは異なり「米中関係」に関する項目を新設し、「(米国と中国の政治、経済、軍事面における競争が顕在化しており、とりわけ、台湾周辺で中国が軍事活動を活発化させていることにより)、中台間の軍事的緊張が高まる可能性も否定できない」と指摘した。バイデン政権は台湾を軍事的に支援する姿勢を鮮明にしており、「台湾をめぐる米中間の対立は一層顕在化していく可能性がある」と強調した。そして21年3月の米国議会公聴会でのデービットソン米インド太平洋軍司令官の「中国の台湾に対する野心が今後6年以内に明らかになる」という証言を引用し、危機感を煽り立てた。
そのうえで白書は「台湾情勢の安定は、わが国の安全保障にとってはもとより、国際社会の安定にとっても重要であり、いっそう緊張感をもって注視する必要がある」と明記した。
これは1972年9月の「日中共同声明」、1978年8月の「日中平和友好条約」の締結以来、初めての台湾情勢に対する記述で、異例のものだ。いうまでもなく、台湾問題は中国の「核心的利益」にかかわる問題で、国際政治の琴線に触れる問題だ。
日中共同声明では、日本政府は戦争の責任を「深く反省」し、中国側が提起した「復交3原則」(「台湾が中国の不可分の一部」の原則を含む)を確認した(1979年1月の米中復交においても、米国は「台湾は中国の一部である」ことを確認した)。
日中平和友好条約では、「共同声明」の原則を確認し、「アジア・太平洋地域においても又は他のいずれの地域においても覇権を求めるべきではなく、また、このような覇権を確立しようとする他のいかなる国又は国の集団におる試みにも反対する、と述べた。
この台湾情勢や、後述するが尖閣諸島の帰属問題をめぐって、自民党の安保防衛部会などの中に、日中共同声明や日中平和友好条約の精神に背いて日米軍事同盟や自衛隊の軍事力の強化を主張する勢力があり、先般の菅訪米と日米共同声明を契機に、軍事力強化に前のめりな意見が相次いでいる。
4月6日に行われた日米首脳会談による「共同声明」は、52年ぶりに「台湾海峡」問題に言及し、また日本が米国のインド太平洋における中国封じ込め戦略に積極的に加担していく国際戦略をとることを確認した。日本政府は敵基地攻撃能力の保有など日本の南西諸島における軍事力の急速な強化や、オーストラリアや米欧各国までが共同し自衛官14万人を動員して11月に行われようとしている西太平洋での大規模軍事演習などと合わせて、アジア太平洋地域の軍事的緊張を拡大する方向に突き進んでいる。
7月6日、麻生太郎副総理は、「(台湾で)大きな問題が起きると、存立危機事態に関係してきても全くおかしくない。そうなると、日米で一緒に台湾を防衛しなければならない」と述べ、台湾海峡有事を安保法制が定める「存立危機事態」に認定し、日本が集団的自衛権を行使することもあり得るとの考えを示した。自民党外交部会の「台湾政策検討プロジェクトチーム」も第1次提言(6月1日発表)で、「台湾の危機はわが国自身の危機」とし、「抑止力の強化が急務である」とするとともに、有事の際の対処計画の「早急な検討」を求めた。
しかし、米国自身、中国・台湾問題を自民党のタカ派のように単純に捉えてはいない。米軍のミリー統合参謀本部議長は6月17日、「デービッドソン氏が指摘したのは中国の能力についてであり、台湾を武力統一する意図や理由はない」と議会証言し、米国家安全保障会議(NSC)でアジア政策を統括するキャンベル・インド太平洋調整官は7月6日、台湾と「非公式の強固な関係を支持する」と述べつつ、「台湾の独立は支持しない」と語り、ニクソン政権以来の歴代米政権が踏襲する「一つの中国政策」を堅持する立場を確認した。
日本の政府与党に潜んでいる台湾問題に軍事的な関与を進めることで中国との軍事的緊張関係を煽り立て、軍事力強化の道に進もうとする勢力は、対中国・朝鮮の同盟を提唱・加担し、オリ・パラまで利用してナショナリズムを煽り立てながら、敵基地攻撃能力の保有をはじめ、改憲と軍事同盟強化の「戦争する国」の道をすすんでいる。
明治維新後の1世紀半を超える日本の後進帝国主義としての近代国家建設の過程で引き起こした周辺諸国との植民地・領土問題の清算と解決は、東アジアの平和にとって不可欠の課題だ。日本と中国には「尖閣諸島」(釣魚島)問題があり、韓国・朝鮮との間には「竹島」(独島)問題、ロシアとの間には北方領土・千島列島(クリル諸島)問題がある。日本政府の主張はこれらの諸国にたいして、「日本固有の領土」という論理で対応し、いまだに解決をみない。
本稿で領土問題を論じる余裕はない。後日を期したい。
しかし、竹島問題は戦前の日本政府による朝鮮併合とポツダム宣言受託との関係を置いて論じられないし、北方領土問題は歴史的な日ロの諸条約とポツダム宣言の問題があり、さらにこの地域の先住民族であるアイヌ民族の権利の保障を抜きに論じてはならない。
菅首相は4月の訪米と日米首脳会談、日米共同声明で台湾問題に言及した。今回の防衛白書の記述はその延長にあるものだ。
しかし、日中平和友好条約では、「共同声明」の原則を確認し、「アジア・太平洋地域においても又は他のいずれの地域においても覇権を求めるべきではなく、また、このような覇権を確立しようとする他のいかなる国又は国の集団におる試みにも反対する」と確認した。この両国の立場こそが日中関係の基礎となるものだ。
尖閣諸島の問題は72年の日中首脳会談と78年の条約交渉の過程で「棚上げ論」が出され、中国側の鄧小平は「こういうことは、今回のような会談の席上に持ち出さなくてもよい問題である。園田外務大臣にも北京で述べたが、我々の世代では知恵が足りなくて解決できないかもしれないが、次の世代は我々よりももっと知恵があり、この問題を解決できるだろう。この問題は大局から見ることが必要だ」(1978年。鄧小平・園田直会談)と発言し、日本側の園田外相も同意した。
この間の歴史的経過の過程で、上記の原則的立場が石原慎太郎など日本の極右ナショナリストによって壊され、日本政府は実効支配している尖閣諸島の国有化を宣言した。中国もこの日本のナショナリストの挑発に乗ぜられ、実力行使で対抗した結果、問題は深刻化し、以降、日中関係は不幸な状態にある。
日本外務省の「固有の領土」論は、歴史的に見ても、これらを隣国との間で問題を解決できる立場ではない。憲法9条を持つ日本は東アジアの歴史に対する認識を明確にして、これら関係諸国と平和的な交渉・話し合いによって問題を解決する以外にない。この解決においてナショナリズムによる領土問題の扇動は有害無益だ。
菅自公政権の下で、日本の内外政治は行き詰まり、重大な危機にある。政治の転換が実現されなくてはならない。
いまこそ、無能で行き詰まった菅政権の交代が求められている。平和な東アジアと、新しい「いのちと人間の尊厳を守る政治」の選択こそが求められている。それはすべての人々が人間らしい生活を保障される社会であり、東アジアの軍事的緊張を招く安保法制に反対し、立憲主義の回復を求め、憲法の理念に反するすべての悪法を廃止し、憲法を生かした平和な社会を実現する新しい政権を打ち立てることだ。腐敗した、新自由主義による差別と格差拡大の政治をすすめる自公政権に代わって、新しい社会構想(政策)を携えた野党による政権の交代だ。
たしかに、この実現は容易ではない。いま全国各地の運動の中では「市民と野党の共闘」が叫ばれるようになっているが、「野党の共闘」はつい最近まで「あたりまえ」ではなかったことを思い起こさなくてはならない。野党の共闘は所与のものではなく「たたかいとる」ものであり、「つくりだす」ものだ。
2014~15年の安保闘争の前は、在野の運動は様々に対立し、分立していたことを思い出す必要がある。とりわけ国政選挙での共闘は野党間の対立により、沖縄の参議院選挙以外には存在しなかった。大衆運動は分裂し、国会内外の市民と野党の共闘はほとんど存在しなかった。
2014~15年の「安保闘争」をへて、野党と市民の共闘が切実に求められた。憲法違反の安保法制が国会の与党多数派によって強行採決されると、市民と野党の共闘を国会内外で保障するためのプラットフォームとして、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(総がかり、学者の会、立憲デモクラシー、ママの会、SEALDsによる)が生まれた。
市民連合は2016年の参院選で、立憲野党各党に19項目の政策要望書を提起し、32の1人区で候補者の1本化を実現し、11勝21敗の成果を勝ち取った。これは自公勢力の多数を打ち破ることはできなかったとはいえ、「希望のある敗北」だった。
2017年衆院選は7項目の政策合意を野党各党と進めていたが、小池百合子氏らの「希望の党」騒動で、民進党が分裂し、立憲民主党が誕生して、かろうじて野党共闘を継続することができた。しかし、この選挙の結果、改憲派は衆議院で改憲発議に必要な3分の2を確保した。2019年の参院選では市民連合は立憲野党各党と13項目の政策合意を結び、32の1人区で10勝21敗となり、この奮闘で改憲派は3分の2議席を割った。
この5年に3回実現した国政選挙の野党共闘は、選挙戦における政党間の合意形成は困難だった。そのため、市民連合が接着剤になる形で、市民連合と野党各党の共同のテーブルを作り、政策に調印し、各地の候補者の1本化をすすめてきた。
2021年4月の衆参3国政補選・再選挙では、野党各党は候補者の1本化を実現し、3選挙区で全勝した。 2021年の総選挙に向けて「市民連合」は「15項目の政策要望」(新しい政権のめざすもの)を
起草し、各野党(5党2会派)に共同を申し入れた。しかし、現在、5党2会派との共同のテーブルはセットできていない。国民民主党、れいわ新選組との調整が不調の故だ。最近でも市民連合は5党2会派に4・25補選・再選挙の前(「立憲野党への市民連合からの申し入れ」)と、通常国会最終盤に個別に「衆議院総選挙における立憲野党共通政策の提言」を個別に届け、共同を呼びかけた。4月の3国政選挙は事実上の候補者の1本化は実現したが、共闘関係の構築は不十分だった。国民民主が共産との共同のテーブルに着くことを敬遠するのと、れいわ新選組が政策での消費税5%明記にこだわっているためだ。
しかし、市民連合はひきつづき国民民主、れいわに野党共闘に加わってもらうべくはたらきかける。自公勢力が最も望んでいるのは野党の分断であり、最大限、野党の共同を作る必要があるからだ。
間もなく、総選挙になる。今度こそ人びとの「希望のある政治」を実現しなくてはならない。私たちは多少の困難はあっても、力を尽くし、前向きに進んで行かなくてはならない。与党に改憲発議可能な3分の2を獲らせないことは当然として、市民と野党の共同の前進で、与野党伯仲・逆転状況をつくり出すことで、政治を変える1歩を踏み出そう。
(事務局 高田 健)
通常国会が終了し、総選挙が迫る情勢の下、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」は6月14日、立憲野党各5党2会派(立憲民主党、共産党、国民民主党、れいわ新選組、碧水会、沖縄の風)に対して、以下の提言を手交し、市民と野党の共闘の促進を要望しました。(編集部)
2021年 6月 14 日
安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合
菅義偉政権の新型コロナウイルス対策は迷走を続け、統治能力の危機は明らかとなっている。これは、安倍晋三政権以来の9 年近くにわたって、自民党が議会政治において言葉と論理を破壊し、知を軽んじてきたことの帰結である。秋までに行われる衆議院総選挙で野党協力を広げ、政権交代を実現することは、日本の世の中に道理と正義を回復するとともに、国民の命を守るために不可欠である。市民連合は野党各党に次の諸政策を共有して戦うことを求める。
1 憲法に基づく政治の回復
2 科学的知識に基づく新型コロナウイルス対策の強化
3 格差と貧困を是正する
4 エネルギー転換と地域分散型経済システムへの移行
5 自由で公平な社会の実現
6 権力の私物化を許さず、公平な行政を実現する
以上
菱山南帆子(事務局)
2021年7月10日・11日とパズル浅草橋という貸しスペースにて、東京都後援の第二東京弁護士会と「女性による女性のための相談会実行委員会」の共催で「女性のためのなんでも相談会」を行いました。
3月に行われた女性による女性のための相談会の終了後も、私たちは定期的にアフターフォローの報告と共有を兼ねた打ち合わせを行っていました。
そんな時に、7月に第二東京弁護士会の皆さんが女性の相談会を企画しているので、ぜひ私たち「女性による女性のための相談会実行委員会」と共催で行わないかという話が持ち込まれました。定期的な会議の中でも、長引くコロナ禍の中で女性の相談会を3月の1回で終わりというわけにはいかない、いろんな形や参加方法で女性相談会は継続していくべきだ、という基本的な実行委員会の考えのもと、7月の相談会に向けて共催に踏み切りました。
はじめての第二東京弁護士会の皆さんと、女性相談会実行委員とのオンラインでの打ち合わせ。驚いたのは弁護士会側の会議参加者が、女性相談会ための打ち合わせなのに女性は1人だけ。あとは全員男性。
さあ、そこからが大変。まずは当日参加される女性相談員の弁護士を会議に参加してもらう要請から始まりました。弁護士さんたちの活動文化と私たちの活動文化とが初めは食い違い、会議のたびにぶつかることもありました。
しかし、この長引くコロナ禍の中で生活や仕事に困っている人、コロナ以前から、DVや身体や心の事で不安を抱えている女性たちが集まれる場所を作ることだという一致した目的で進めてきました。ここで学んだことは、ぶつかり合いながらも社会を変えていくには、私たちの側も変わっていかなくてはならないという事でした。大変な作業ですが、これがジェンダーギャップ指数120位という下位から脱却する一番の近道ではなかろうかと思いました。
さて、私たちは当日の相談会や夜回りに、直接参加できない男性弁護士さんたちも参加できるような企画も考えました(相談会や夜回りは直接女性と接するのでDV被害を受けていたり、様々な理由で男性がいると話しかけづらかったり、チラシを受け取ってもらいにくくなってしまうため)。「ポスティング」ならば男性も行える!という事で、都内のシェアハウスをピックアップして、男性弁護士さんと一緒にポスティングに出かけました。
ポスティング初日、またもや雨。そんな天候の中、男性弁護士さんたちはなんと紙袋にチラシを入れて集合場所に到着。案の定、途中、雨で紙袋はズタズタに・・・。持っていたエコバックを寄せ集めて、チラシを分散させてポスティングの再開です。
ポスティング用に半分に折ったチラシ、置きチラシ用の折っていないチラシ(私はこの間それを「ピン札」ならぬ「ピンチラ」と呼んでいた)に分けて準備することなんて私たちの中では当たり前でも、ポスティング初体験の弁護士さんたちには知らなかったということで、ポストに折っていない「ピンチラ」をぐいぐいと押し込もうと苦戦している姿に驚きました。そして同時にわくわく感も持ちました。足場が違うが思いは同じ人たちが集まって何かを始めるときに感じる違いの発見は新鮮な気持ちになるし、同時に特有のわくわく感と共に確実に前に進んでいると感じました。
ポスティング中は、コンビニへの置きチラシも行いました。シェアハウスに向かう途中にあるコンビニに入ってチラシを置かせてもらえないかお願いして回りました。市民運動をしていると、アポなしローラー戸別訪問、コンビニへの置きチラシなど図々しいくらいに厚かましく行いまくっていて、とまどいなど感じなくなっていたのですが、初めて体験する弁護士さんたちは驚いたようです。その辺の行き当たりばったりのコンビニに弁護士さんと入り、置きチラシを快諾してもらい、コンビニを出てからの「本当に置かせてくれるんだ!」という言葉と驚きの表情は忘れられません。これぞアウトリーチ、これぞ憲法の実践です。
この雨の中のポスティングや置きチラシ行動には第二東京弁護士会の神田安積会長が自ら率先して参加し、会長が傘もささずにずぶぬれでコンビニを回り、シェアハウスにポスティングする姿を、他の弁護士さんたちや私たち女性の相談会実行委員が目の当たりにすることにより、相談会に向けてみんなの気持ちが一気にまとまりはじめました。実際にシェアハウスの実態を見てもらうことでよりこれから行うことへのリアルな感覚を持ってもらうことができました。
やはり、コロナ禍ではありますが、顔と顔を合わせること、そして実際の現場を見て知ることは工夫しながらやっていかなければならないと思いました。
私自身も様々なシェアハウスに実際に訪れてみるのは、今回初めてでした。心のどこかでドラマで描かれるようなオシャレな共同生活というイメージを勝手に持っていたのですが、全く違うという事も知りました。すりガラスの入り口にシェアハウスの間取りが貼ってあり、簡単に外からも見ることができる状態であったり、2階以上の階にはエアコンの室外機がなく、エアコンがない部屋が多数あるシェアハウスや、狭いビルに35人ほど住んでいるなど。
そしてさらにそういったシェアハウスに多かったのはポストがないことです。
シェアハウスは基本、保証人が要らないので、様々な理由で保証人なしで住まいを探している人には、とても貴重なシステムです。しかし、ポストもないとなると、去年配られた10万円の給付金はどうしたのか、コロナワクチンの接種券だって、選挙の投票券だって受け取れなかったのではないかと思いました。保証人がいなくたって、在日外国人であっても住まいを持って、プライバシーが守られて、食事を3度はとることができて、権利を行使できる。本来ならば当たり前のことでなくてはならないことでさえも、国の制度や一部の大資本家のための政治を長らく続けていくことで、おかしな状態が当たり前になってしまっています。そしてそういった状況に置かれている方たちは、生きることに精一杯で声を上げることもできずに我慢をして、背負い込んで暮らしているのではないかと思うのです。
チラシを入れるポストがない目の前のシェアハウスを見つめ、目の前にいるのに手が届かないもどかしい気持ちでいっぱいでした。GoToキャンペーンなんかよりも、オリンピックよりも、もっとやるべきことはここにあるのに何もせず、見ようともせず、自助・共助を押し付ける日本政府に毎日毎日、貧困の実態を見るたびに怒りを持ちました。こうやって私たちが行っている活動も本来なら国が行うべきことなのに!
シェアハウスなどへのポスティングや繁華街の夜回り・チラシ置きは相談会の前の週の金曜から当日初日の夜まで、9日間行いました。そこにはもちろん毎日、弁護士の皆さんも参加です。腕章をつけた弁護士さんたちが腕を付きだし、置きチラシのお願いをする姿は心強かったです。行先は主に風俗街とインターネットカフェ、24時間保育園、その周囲にあるコンビニやドラックストア(シャンプーやメイク落とし、軽食を買いに訪れるかもしれないので)公衆電話(電話が止められている・小休憩できる)です。
相談会1日目の夜の五反田での夜回りには作家の北原みのりさんが駆けつけてくれました。都内の様々な風俗街に行ったのですが、場所によって女性が客引きに立っていることもあれば、男性の客引きだけが外に出て、働いている女性たちは店内に待機させられているところもありました。唯一共通しているのは、どの風俗街でも男性の客引きは、マスクをしていない(または顎マスク)人が圧倒的に多かったという事です。風俗街エリアは自宅のリビングだとでも思っているような状態で、夜回りでチラシを配りながら歩く私たちを、ギロリと高圧的な目で睨んだり、脅すように「チラシくれよ」と手を差し出すなど、普段感じない実に異様な空気が漂っていました。
横に従業員の男性がいない状態で立っているお店の女性は、チラシを受け取ってくれることもあるのですが、横に男性従業員が見張りのように立っていられると、チラシに手を出せるような状況ではありません。私たちが感じた「異様な空気感」は、男性が女性の性を商品のように扱い、女性の人権を踏みにじっていることが一つの光景になっている空間に対してでした。性風俗で働かざるを得ない女性たちは、性病や妊娠の危険に晒されるだけでなく、更にコロナ感染という危険も加わる中で働いているのです。
また、どこの風俗街にも、ど真ん中や付近に24時間保育園がありました。夜の22時近くに、子どもたちの元気な声が雑居ビルの一室から聞こえてきたり、お迎えと勘違いしたお子さんが走って玄関まで来たり、歌舞伎町では無料風俗案内所の上にある保育室からは新生児の泣き声も聞こえました。勤務に当たる保育士さんはみな快くチラシを受け取り、お子さんの保護者さんにお渡ししますと言ってくれました。
インターネットカフェでは受付が女性で、比較的綺麗なシャワールームがついているところが女性に人気なようでした。歌舞伎町の、シャワールームが設置された、とあるネットカフェに、私たちがチラシを置いた後に入ってきたとても若い女性は、お人形さんのような可愛い髪型でした。しかし何日もお風呂に入っていないようでべとべとな状態で、とても疲れ切った様子で階段を上がってきました。シャワールームを使用しに来たのかもしれません。
その後、花園神社とゴールデン街の間の少し人気が少ない場所の駐車場に座り込んで、缶チューハイを飲んでいる女の子たちに話しかけました。その子たちはイベント関係の派遣型アルバイトをしていて、そこのバイト仲間と行く当てもなく路上飲みをしてお話をしていたとのことでした。話を聞くと、イベント関係のバイトはコロナで仕事が激減し、困っているといっていました。その日ちょうど4回目の緊急事態宣言が出されることが決定したばかりだったので、そのことを伝えると「やっぱり本当だったんだ。もういい加減にしてほしい」と言っていました。
私たちの相談会は10日と11日。その翌日の12日からは4度目の緊急事態宣言。これからさらに大変な事態になることは火を見るより明らかです。相談会開催の重要性がより一層強まりました。一人でも多くの方に相談会の存在を知ってほしい。その思いで歩き回った事前宣伝でした。
迎えた当日、今までの雨が嘘のように晴れ、猛暑の2日間となりました。しかし、そう簡単に天気に恵まれないのが女性の相談会でもあり・・・。前回3月の相談会の時にも1日目は雷に豪雨、2日目は大強風の中、飛ばされそうなテントにしがみついて行うなど大悪天候でした。今回も女性パワーが大結集し、その力は、またもや連日雨を降らせ、相談会当日の2日間に関しては、晴れたものの夕方には雷を伴うゲリラ豪雨に見舞われました。1日目は夜回りをしている最中で私たちは軒下に避難、2日目はキッズスペースに来ていた子どもが泣き出すほどでした。ゲリラ豪雨に襲撃されている最中、仲間の女性がぽつり。「まるで女の人生のようだわね」、周りにいた私たちたちは大爆笑でした。
今回の相談会は7月の暑い時期でもあるので、屋内開催でした。下見を重ね、とてもおしゃれな浅草橋駅近くの貸しスペースにて、雨風もしのげ、空調もばっちりの快適な空間でした。まるでカフェに来たかのような内装にあわせて、お花を飾り、協力してくれた農家さんや企業さんからいただいた新鮮な野菜やお米、生理用品に化粧品、お洋服に子ども用の靴、犬猫のおやつまでもがきれいに陳列されました。
相談者は入り口で体温を測り、受付を済ませ、カフェでいったんお茶をしながらインテーク。その後、個室に移動して相談、相談後にマルシェコーナーで野菜や洋服など持って帰ってもらいます。その際に持ち帰りの袋は相談会に行ったという事がはた目からわからないように(目印となって待ち伏せしている記者や悪質ユーチューバーなどに声をかけられないよう)、様々なお洋服屋さんの紙袋や、雑誌の付録でついてくるエコバックなどを実行委員の仲間から集め、それらに食品や衣類を詰めてお渡しするなどの工夫をしました。
今回もカフェスペースを重要点として置いたのは、相談に来てすぐに「こんなことで困ってます」と言える方ばかりではなく、のんびりお茶でもしている中でポツリポツリ悩みを打ち明けていく方もいらっしゃるという事を前回の相談会でみんなが感じたことだったからでした。
今回の女性の相談会にも、キッズスペースを完備しました。私ともう一人、保育士2名体制でカフェスペースの一角を使って、寄付していただいた絵本やおもちゃたちを並べて待機していました。2日間、ほぼひっきりなしにお子さんを連れた相談者が来られ、キッズスペースは子どもの泣き声やら笑い声やらで、てんやわんや。子連れの相談者さんも「子ども、預けてもいいですか?」と言って、束の間の一人タイム。ゆっくり3階でおにぎりを召し上がってもらい、じっくり話をしてきてもらうことができました。
男性の相談者が子どもを連れてくることは珍しいのですが、女性の相談会となると途端にキッズスペースが必要になります。それはまだまだ日本が育児=女の役割という固定概念から抜け出せていない証拠です。体の構造的にも女性の社会的負担は大きいと、相談会を行うたびにつくづく感じます。お子さんを連れて相談に来る方の相談に入ったのですが、「夜のオムツがなかなか取れない」などといった悩みの相談にアドバイスをしていると、実はそこから見えてくるのは「オムツがすぐに外れないのは母親の教育の問題だ」という、謎めいた非科学的な女性への圧力だったりするのです。
また、コロナ禍のせいで打撃を受けた飲食店やカラオケ、ゲームセンターなどでアルバイトしていたが雇い止めにあい、ほかの働き口も見つからず、このままでは子どもが保育園に通えなくなってしまう、など保育のシステムへの矛盾や改善点なども見えてきました。私は保育士資格を取得するため、学校で何度も「親は親の世界があって、子どもにも子どもの世界がある」と教わってきました。保育の専門家は子ども同士の世界をサポートする役割なのだといわれてきたことが実践を通して実感しました。よく、日本会議の親学などが「3歳まで親元で子どもを育てないと障害児になる」「母乳で育てないといけない」「保育園児は野蛮児」などといった保育園差別発言をしていますが、そういった風潮が虐待を生んでいるのです。
女性の相談会のような、「せっかくだからお子さんは預けてお茶はどうですか」という社会であったら、全く違う未来が親にも子どもにも待っているのではないだろうかとキッズコーナーから私は考えました。
こういった運動をもっと広げてゆけば必ず、社会全体が競争ではなく、分かち合いの新しい暮らし方や考え方にチェンジしていくことができるのではないでしょうか。そのためにも引き続き、市民運動に新たな取り組みとして「共に生きる」を実践していきます。
お話:金子 勝さん(慶應義塾大学名誉教授・経済学)
(編集部註)6月26日の講座で金子勝さんが講演した内容を編集部の責任で要約したものです。要約の責任はすべて本誌編集部にあります。
ちょっとすごい国になってきました。ここに来られる方は、危機感をある程度共有できる方が多いと思いますけれども、普通の人はテレビを見ても何が起きているかわからない。何となくおかしいなという感覚を持っている人は結構多いと思うけれども、何がどうおかしいのかはわからないということがいまの状態でしょう。先ほど私の本の紹介がありましたが、何ともタイミングが悪く、本屋も含めて人が出歩いてはいけないということで、リモートでこの本を読んでくれといっても全然迫力がなくて、商売あがったりだなと思いながらやっています。せめてタイトルくらいと思って今回付けています。
最初のデータを見ていただくとわかりますが、日本だけが突出して成長率が落ちてきて
います。アメリカと中国は前の落ち込みがすごく、また多少ワクチンが打たれていて正常化の需要も起きて、若干成長率は戻ってきている状態で、日本だけが非常に悪い。際立っている。たぶん4-6月もプラス成長になるのは難しいと思います。このまま行くと日本は取り残されていく可能性が非常に高いということがまず問題としてあります。
逆に何が起きているかというと、いまアメリカはいくつかの要因、4月5月の消費者物価上昇率がすごくなっている。データを見ると穀物価格がこの1年で4割、それから原油価格も1バレル65ドル。先物ですけれども、トウモロコシ、大豆、小麦、原油がぐっと上がってきている。これは前の波を見ると2007年、リーマンショックの直前に同じ現象が起きている。直接の原因はブラジルのトウモロコシの不作とか、ある意味で気候変動の影響などを考えると、こういう事態は常に起こり得る。それから2007年の時と同じなのは中央銀行の金融緩和がすごくて、投機マネーが異様な額で出回っている。アメリカはリーマンショックのときにすごく国債を買い、住宅ローン担保証券を買い、というかたちで金融緩和をしました。中央銀行がどんどん国債や住宅関係の債券を買って、リーマンショック以降の景気を支えてきた。いまそれがようやく正常化しようとしたらコロナになって、それがもう一段高くなって、7兆ドルを超えます。7兆ドルというのは、「いっちょう、にちょう」といっても豆腐じゃありません、700兆円を超える状態になっていて、ほぼ日本銀行と同じくらいの規模の資産を抱え込んでいる。でもGDPは、アメリカは日本の3倍くらいありますから、日本はもっとすごくでたらめな状態になっているということはわかると思います。
みんな何か消費税減税大丈夫だ、いくら金融緩和しても生き延びられるんだとかいう言説をたくさん聞いて、お金をばらまけばいいんだという。野党の中にもそういう人が多くて、異常な事態です。金融市場がマヒしてしまっています。アメリカもそういう状態ですが、アメリカはまだ正常で金利機能とかいろいろなものが効くので、一応7兆ドルで投機マネーがあふれ出て、それで気候変動のような問題があって穀物価格が上がってきた。それにプラス、ワクチンで正常化需要が出てきた。
ところが供給が追いつかないので、ぐーんと物価上昇が起き始めている。総合指数で見ると4月が4.2%です。0%に近かった物価が上がった。5月が5%です。これが一時期、金利が上がるんじゃないかと。物価が4%、5%上がりながら、金利はどんどん低くなっていく。これは異常です。お金を借りたら借り得ということです。100円のものが5%の物価上昇だったら、1年後に105円になる。金利5%がつかないと借金した方が有利になりますよね。そういう状態がずっと続くと銀行は儲からないので、どこかで金利が上がるんじゃないか、金利が上がれば株価や不動産が落ちるのではないか、ということで先々週くらいが危なかった。株価が1000ドル以上落ちて、それに釣られて日経平均も1000円以上落ちるということが起きた。
それが段々落ち着いてきている。バイデンが共和党と妥協して、インフラ投資計画の規模をかなり縮小したんです。220兆円規模でやっていたのを170兆円くらいにした。景気を過熱しすぎるとインフレになって物価が上がるだけではなくて、金利も上がってくるとバブルが崩壊するのではないか。だから景気を過大に上がらないようにしながら、FRBの議長などが口先で金融正常化を少し早める可能性があると言う。株価が落ち出すとまた継続しますとかいいながら、ごまかしながらやってきているのがいまの状態です。
何が起きるかわからない不安定な様相の中で、戦時中に大量に金融緩和をしたときにハイパーインフレになるようなシナリオというのはどういうシナリオなのか。アメリカは60万人が死んで、たぶん4倍くらいの後遺症を抱えている人を考えると300万人以上の人たちが―戦争でもこんなひどい被害はないので―みんな自粛をして我慢していた。ここに、バーンとマネーだけ大量に出して、それが戦争の正常化需要で膨らんでいくと、ちょっとひどいインフレになってしまう可能性があるかなという、そういう面が出てきている。でも片方で、これは一過性で段々落ち着くという意見と両方がせめぎ合っている。どちらとも今のところわかりにくいという状態で、本当に景気がそんなに急激に回復するかというと、回復しない面もある。一過性とまではいわないけれども、そんなに激しいインフレにならないで、だらだらやっていくうちに落ち着く可能性もある。まだわからない。細木数子ではないので占いのように説明することができないというのがいまの状況でしょうか。
コロナに対する対策で世界中が管理社会化しているけれども、近代国家の原則としてはいのちと財産を守る、生活を守るということがまず基本なわけです。日本が問題なのはコロナに対する対策がおかしくなっているために、命を守れなくなった。新自由主義的な中で、ひたすら厚労省は福祉の抑制だけを考えていて、国民皆保険体制が崩されている。それで非科学的な、検査をしない。普通は無症状者が感染させるんだったら、検査をして隔離をして治療をするという当たり前の行為をするわけです。それを事実上「自己責任」にしちゃった。無料で検査を受けられないということになってしまった。しかも病床削減政策の結果もある。大阪維新の会が先頭に立っていたので医療が崩壊するという事態になった。病院にも入れない。気がついてみるとワクチンを配っているのは軍隊である自衛隊という、こういうことが起きる。よく考えるとこれってすごいよな、ということですよね。
僕はずっとセーフティーネットとか再分配を強調しています。原発事故以降は、きちんと産業を立て直したり技術革新をきちんとやらなければいけないと強調しているんです。なぜかというと、20年以上にわたって賃金がこんなに下がっている状態だと再分配しようもないわけです。いま中間層がべちゃっと潰れちゃっている。そのくせ教育費、大学の授業料負担、医療費の負担は変わらない状態で、私費で負担するわけです。ところが所得はどんどん落ちているから、格差がひどい状態で起きちゃっている。その究極の裏側にあるのは、日本の産業の衰退が恐ろしい勢いで起きているということです。
東芝の問題がなぜこうなったかというと、原発輸出政策をやった安倍と今井尚哉、政府秘書官がどんどん原発輸出にぶっ込んだ。その結果、何が起きたかといったら、ウェスティングハウスの原発建設がどんどん中断になっていく中で赤字になった。その赤字をごまかしていて事実上経営破綻に近いような状態で、生産部門、医療機器部門、虎の子の半導体部門も6割売り上げダウンということになった。それをいま村上ファンドの残党のような連中が正義の顔をしてやっているけれども、たぶん外資系のハゲタカですよね。だから、原発の失敗で介入しているバカな経産省とハゲタカファンドのたたかいみたいな絶望的な状態になっている。
三菱重工も「半身不随」ですから。トルコの原発がダメでしょ。それから国産飛行機のスペースジェットも全然ダメで、豪華客船もダメで長崎造船所の主要ドックを売り払い、石炭火力の失敗事業―これは日立との合弁だったので日立にかなり負担させたけれども赤字企業を引き継いでいるので、ほぼ軍事産業以外は何もない状態です。しかも日本は技術力が全然なくなっちゃっているので、F35は組み立てたんだけれども落っこちてしまう。スペースジェットはITというかソフトがきちんとできないんだと思います、日本の場合は。ワクチンもできなくてダメでしょ。
それから加計学園にお金をばらまいた。だって安倍と麻生と甘利ですよ、「あまりといえば甘利」です。「3A」。バカで素人で産業がわからない人が、原発でぶっ込んで産業をぶちこわして、また半導体議連なんて言っている。どうしようもない。潰れろと言わんばかりのでたらめな人間ですよ。自民党は昔は利口な人がたくさん代議士になっていたし、官僚制もそれなりにそこそこしっかりしていた。「そこそこ」ね。それが内閣人事局で忖度だらけになり、結果的に若くても優秀な人は辞めちゃうわけですよ。公務員の試験でも本当にひどい状態になっている。絶望的な、誰がこの国を担っていくのかという、ひどい状態になっているということが本当なんです。
その結果、批判を封じるにはメディアをおさえる、官僚をおさえる、最近は学会をおさえる。イチジクの葉っぱしかないくらいの学術会議だったのに、それをも許さないかたちです。それから言うことがころころ変わる忖度学者、でもない、尾身分科会みたいな言うことを聞く奴だけを自分のやりたいことで使う。しかも能力が低い奴がみんな自民党の真ん中にいるわけです。悪いけど二世・三世のくずばっかりですから。安倍に麻生に甘利とか。上がってくるのは二階とか菅とか金に汚いのばっかりじゃないですか。頭が働いているわけじゃないですよ。汚いことばっかりで頭が働くわけです。これは絶望的でしょ。きちんとした判断ができない。選んじゃった奴が悪いわけですけれども、日本国民のせいなんだけれども。経済が悪くなると政治が悪くなる。
若い人はどんどん非正規化して、自分の生活を守ることで精一杯で逃げ惑うような状態になっている。若い人が新陳代謝するような力が湧いてこなくなってしまっているわけですよね。田舎に行けばお年寄りばっかりで60年間自民党を信仰してきたんですというような人がいる。何も判断しないで投票していたわけですよね。しかも東京生まれの東京育ちの奴を故郷の代表だと思って誇りだと思っている、ほとんどバカに近いような状態になっておるわけです。これがいま起きていることの正直な実態なんです。
野党もそれにきちんとした対抗できるだけの力が実はあまりないので大変ですけれども、個別に会うと自民党よりも遥かにまともなやつはたくさんいる。けれども「零細商店」みたいな、みんな商店主みたいな感じなんです。一人一人勝手に動いている。それでうまくいかないのに、加えていざ大事局面になると、「大企業人事部代行」の連合の民間単組の代表みたいな奴が真ん中にいるわけです。それで足を引っ張って、原発ゼロはいかんとか共産党と一緒に組むのはとにかくダメだとか。確かに共産党という名前を変えた方がいいと個人的には思っています。もう昔でいうコミュニズムじゃないんじゃないかなと思っていて、どちらかというと社会民主主義左派くらいの感じですよね。政策とかを、ちょっと挑発したりすると怒られちゃったりするんです。「革命なんてする気ないんでしょ」とか言ったりするんです。JCPじゃないですか、ジャパン・コミュニスト・パーティー。これをこっそりジャパン・コモンズ・パーティーに変えちゃって、JCPで一貫しているといって、だまして変えちゃえばいいのにと思っているんですけれども。
この状況なので、めちゃくちゃなファシズムのような状態なので、それに対抗するために野党ができるだけかたまりを作らなければ行けないというのはその通りだと思います。連合東京のような、企業人事部のような方々は、いま地方議員に対して共産党と一緒にやる奴は推薦しないなんていうことが起きている。市民連合の山口二郎さんとか知り合いなので話を聞いたりすると「困っちゃっているんですよ」と言っている。市民連合推薦みたいなかたちで、もう野党が表に出ないで市民連合が前面に出てやっていたりすることが起きているようですね。滋賀とか長野とか新潟とか、もともと長い時間をかけて共闘を作っていたので、そういうやり方しかできないという状態。いまの都議選でいうと候補者調整もしているみたいだから、そこそこは何とかなりそうです。僕が思うに、連合はたぶん次の参議院選挙で野党統一名簿とか言わない限り、国民民主の支持率から見ると民間単組から当選できるのはせいぜい2つくらいしかないんじゃないか。ゼンセン、電気、電力、いくつかありますけれども。そうすると集票力がないことがはっきりしてしまう。それはひとつのチャンスのような気がします。本当に発言権なんか実はないんですが、ただ金を持っているんです。それだけだと僕は思うので。
今度の都議選をちょっとがんばった方がいいなと思うのは、やっぱり東京オリンピックとワクチンの問題も含めてでたらめなので、それにきちんと×をつけなければいけない。いまの状態だと政権交代はなかなか難しいなという感じはあるけれども、次の選挙で伯仲くらいまではなんとか持っていくことによって状況を変えていく。そのときには市民主導で変えていくしかないなと強く思っています。そうじゃないと世の中が変わっていかないような気がする。つまり昔の労働組合の構図などでそのまま動いていくと、もう時代遅れなんです。民間単組の人たちは自分で自分の首を絞めていることがわからないんですよ。もう詰んでいるんです。麻雀ふうに言うと2度ハコテンしている状態なのに、まだゲームできてオレは強いんだと言っているようなものです。麻雀なんかやっている人はもうほとんどいなくなっちゃったと思うけれども。そういう状態です。
産業がもうボロボロです。原発がだめでしょ。90年代は日本の再生可能エネルギーは太陽光もすごかったけれども、いまは地熱くらいしか残っていないんじゃないか。風力も結構あったんですけれども、いまは全部中国につぶされてダメですよね。半導体は「日の丸半導体」だったのがいまや日米半導体協定で負けちゃった。どんどん譲って、中曽根のせいですけれども、その結果もうほとんど死に体です。台湾とか韓国は圧倒的に86年、91年の日米半導体協定以降台頭してきた。とくに台湾のTSMCというところが一番ナノメーターというAIとか自動運転とか、非常に高精度の半導体を作るメーカーになっている。日本は自動車用の半導体しか作れないようになっていて、そのライバルは韓国の方がずっと優れているというのがいまの現状なんですね。
いま起きている日米の戦争とある種の台湾問題が、非常にTSMCの奪い合いになっています。ファーウェイとかゼットティーイーとかの中国のメーカーは半導体が弱点です。おまけにアリババのCEOのジャック・マー以下、いわゆる習近平がプーチン化してきていてITを使って支配の道具にしようとしている。中国のIT企業で伸びていた企業のトップのクビを切ったり逮捕したりして全部ダメにしているんですね。もう一方で、ハーウェイなどは半導体を作る力がもうひとつ弱いので、台湾のTSMSが欲しいんですよ。それに対して明確にバイデンはノーを言っている。激しい米中の貿易戦争になっている。日本はその中で生き残ることができないくらいもうどうしようもないんです。それでいま唯一残っている自動車関連でいうと東芝の半導体のキオクシア、これがいま風前の灯火のような状態になっている。絶望的な状況ですよ。
みんなぶっ壊したのは安倍と麻生と甘利ですよ。ペジーコンピューティングとかいって100億円の詐欺で、全然能力が低いようなものを詐欺企業にお金を出して、それをに関わっていた山口敬之とかいうのが伊藤詩織さんで問題になった。モラルも何もないというひどい状態がいま起きている。なおかつ重電機メーカーがダメ、半導体メーカーがダメ、それからデジタル通信機器は全部だめになっている。台湾に完全に遅れてしまった。2000年代冒頭では中国、アメリカに次いで日本は3位だったんです。いまは台湾にも抜かれて7位です。気がついてみたらスマホなんて日本製のものなんてほんのわずかしかないんです。シャープだってはっきり言えば台湾メーカーに近いので。そういう状態です。まだパナソニックには若干競争力が残っていますけれども、テスラ、ファーウェイ含めて自力でリチウム電池など、自動車用じゃないけれどもやられかけていて結構厳しいです。
たぶん中国メーカーで蓄電池の不振が起きたりすると電気自動車はがたがたになっちゃうかもしれない。日本で勝てるとしたらソニーががんばって電気自動車をつくって、マツダと組むとかそういうウルトラCでもない限りなかなかこの状況では勝てない。そうするとトヨタその他は本当に厳しい状況になってしまう可能性がある。燃料電池車とかいっても世界的にはもうダメですよね。インフラが高すぎる。作るのに液化水素は金属を劣化させるので、ガスステーションに4億円くらいかかって年間の維持費が4000万円くらいする。インフラがないから電気自動車に負けちゃうんですよ。ただ日本側の事情から言うと、部品メーカーを大量に維持するには燃料電池車の方がいいわけです。電気自動車は四輪モーターで簡単にギアもなにもなくなるので、ある意味で電気製品化しちゃう。ソニーが作りましょうとか、イギリスの掃除機メーカーのダイソンとかもモーターができますので製品ができますので、そちらに行きましょうという感じでも出てきている。あっという間に地図が変わっていく可能性がある。これがあと10年以内にたぶん起きることだと思うんです。そういう厳しい状態になるわけです。その中で自分達が貧すれば鈍するで、どんどん国民皆保険の崩壊とか軍隊が出てきたり言論を抑えていくということが次々に起こっていく。
日本の戦後の体質みたいなもの。これは経済学者の分析から言うとちょっとおかしいのかもしれないけれども、何でこんな状態になってしまったのか。こういうことを考えると、戦争責任を取れなかったことが非常に大きいんですよ。トップのリーダー、ミッドウェー海戦の敗戦もそうだし、NHKでも昔やっていたけれども、戦艦武蔵が沈んだときに「不沈艦」だということをいっていた。戦艦武蔵の艦長は一緒に沈んだけれども、将校は真っ先に逃げちゃって、生き残った兵隊はルソン島にぶち込まれた。不沈艦という、いわば「神話」を箝口令で情報を事実上隠して国民を知らせないようにしてきた。そういう体質みたいなもの。一回失敗するとその失敗を、トップが責任を取らないのでずっと続けちゃう。戦力を逐次投入していって、根本的な反省をして方向転換することができないという体質が続いています。
それからデータを正確に取らない。本当の意味での専門家と、冷徹なデータに基づく戦略を立てることができなくなっている。実は戦後高度成長まではなんとなく集団主義でうまくいっていたのが、不良債権、金融バブルの崩壊以降、日本は大きなリスク、バブル崩壊それから原発事故、今度のコロナ危機のような巨大なリスクに対して処理する社会的能力が根本的に欠けてしまっている。
いま見ればわかるじゃないですか。安倍はまだ生きているわけですから。赤木ファイルの問題がいろいろ出てきていますけれども、みんな隠しちゃっている。桜を見る会も同じじゃないですか。加計学園も同じですよね。みんなでたらめでしょ。しかもいまの総務省の会食問題でも菅の長男です。安倍の奥さんです。なんというか、発展途上国の開発独裁の腐敗した政権と同じで、先進国じゃないですから。このままこういうかたちでずるずる支配を続けていってどんどんダメになって腐っていく。戦後、とくにドイツで言うとヴァイツゼッカーが戦争責任を明確にしたことと、東西ドイツの統一でメルケルみたいな東で苦労してきた保守政治家がやっぱり肝っ玉は据わっていますよね。きちんとした判断力を持っているし、原発をやめるときはぱっとやめる。ああいう能力の高い政治家を生める国のメルケルと安倍ですから、天と地ですよ。天と地ほどではないけれども象とありんこくらいです。これがすごく悲惨ないまの状態なんじゃないか。
本の中にも書いたけれども、コロナって不良債権問題とそっくりになっているんですよ。検査しないじゃないですか。コロナでアメリカでさえ60万人死んでいます。感染が500万人だから10%くらいなわけです。良くても10人に1人ですよね。日本だったらたぶん1%~2%くらいの感染ですから。データを取っていないからわからないけれども、無症状者が治っている可能性もあるので。例えば2人感染して98人が感染していないのに、なぜだかわれわれはいつもマスクをしたり手洗いをしたりソーシャルディスタンスを取らなければいけない。検査をしていないからお互いが疑心暗鬼になっているわけです。お互いがお互いを信用できない社会を作っている。国民皆保険をぶっ壊しただけではなくて、お互いがお互いを信用できない社会にしている。
実は不良債権問題のときもそっくりで、銀行の経営責任を問わないために不良債権をごまかしているわけです。しっかりした査定をしないで1000億円ある土地の貸付が、土地の価格が落ちて700億円くらいしか価値がなくて300億円の潜在的な損失が出ているのに、それを隠しているわけです。銀行がいざ潰れたときに、その損失が表面化して潰れていくわけです。そのときに、きちんと検査をしないのでお互いが疑心暗鬼になった。お互いが不良債権の企業じゃないか、お互いに不良銀行じゃないか。そうするとお互いが信用していないので、預金引き出しに走ったり貸し渋りや貸しはがしをしたり、お互いがお互いを信用しない状態です。カウンターパーティリスクといいます。お互いに相手が、突然倒れてしまう、倒産してしまうリスクにおびえるようになってしまう。あのときとまったく同じ状況にわれわれは置かれているんです。根本的な不良債権処理ができないというリスク管理の能力、危機管理能力の欠如というのは、戦後の戦争責任を問うことができない、徹底的な検査やデータに基づいて戦略を立てることができない、「空気」で決まるみたいな、そういう日本の社会体質の問題が一気に表に出てきた。それがずっと経済成長を妨げて、ついに衰退国家になってしまったというのがいまの状況なんじゃないかなということがここで言いたいことです。
衰退しちゃうとどういうことが起きるかというと、メディア介入が始まって言論の統制が始まるわけです。戦争中と同じじゃないですか。テレビ朝日の報道ステーションの古舘伊知郎とか、その前のNHKのクローズアップ現代の国谷裕子さんとか、TBSのニュース23の岸井成格とか、ああいう人たちが次々と辞めさせられたというのもそうです。いまも青木理が辞めたり、吉永みち子まで辞めさせられている。ちょっと批判的なコメントすると全員いなくなっているんです。それでなんだかグローバルキャリアとか何とか言っているいかがわしい奴ばっかり出てくる。目の前で10分議論すれば、もう木っ端みじんに論破できる連中ばっかりなんですよ。もっとも僕のような「言論の自爆テロ」みたいなのはどこに行っても歓迎されなくなっているけれども。別に自分を守るという気はないけれども、本気でやる気があるのか、いつでも死んでやるぞという感じでやっちゃうから、みんなが嫌がっちゃう。
橋下徹なんてお前はPCRを自分でやっているじゃないか、無症状の検査は全然しないだろうと、ずっと訴えているんです。みんな叩かない、怖がっていて。何を言っているんだ、あんなくずみたいな奴。きちんとした言論をみんな展開してお互いに意見をたたかわせるということができなくなっている。それでみんな忖度している。見え見えの忖度の人をばーっと集めて、権力者の意向とか権威を恐れてしまうような雰囲気をますます作るわけです。それはほとんど戦時中と同じでしょ。結局、公安警察の杉田和博が全部尾行を付けていると思うけれども、600人くらいの部長、局長クラスを全部掌握している。ということは2000人に近い課長クラスを見ているということでしょう。そういうことが次々と忖度を生んで、どうしようもなくなるわけです。
国家公務員試験で希望者が減るのは当たり前です。政府は働き方がおかしいとか言っているけれども違うんです。安倍のために公文書を改ざんしたり統計を改ざんすることが仕事で、情報を隠蔽したりごまかしをすることが仕事になっている。そんなことは、まともな奴は正しいと思わないから辞めちゃうんです。それだけの話ですよ。ミッションがあれば少し働き方がおかしいと思っても一生懸命働くんです。ついには最後に学術会議にいっているということが起きている。
もうアベノミクスは相当限界に達しつつあるという話をもう一回しっかりデータで見た上で、それでも何が起きているかというと、「コロナ禍のバブル」という異常な事態に立ち至っている。これ異常です。どういうことかというと究極の格差社会を作ろうとしている。ワクチン格差まで含めるともっとすごい社会になっている。消費者物価上昇率ですが、これは最近ちょっと上がっているのは世界的な物価の上昇です。原油とか輸入食品とか輸入がどんどん上がってきているんですね。それはちょうどリーマンショックと同じようなかたちで物価上昇が急激に起きているんです。その影響が出てきているけれども基本はデフレベースです。それから賃金指数、4月は上がってきているけれども、たぶん4-6月で段々コロナの影響が出てくるので、この部分が変則的に上がっています。それから消費がいま上がっているのは、もう飽き飽きしている状態で最後に来ているのが4月の部分。これが5月以降になるとまた落ち込んでいくでしょう。
そういう中で、金融緩和の数字を見たときに去年1年で何が起きているか。国債を45兆円買った。これは2020年度ですけれども、2019年度は19兆円だった。金融緩和が限界に来ていたのが、コロナで財政拡大が起きているので、日銀の国債を買う量が増えてきている。株は36兆円まで買っている。ETFという指数連動型株式上場投資です。これは日経225とかTOPIX(東証株価指数)ですね、日経の500だとか400だとかの指数で証券を作って、証券会社が発行したものを日銀が買う。日銀が買うと今度証券に対応した株を買って、特定の株を日銀が買いすぎるといけないのでそういうかたちになっているんです。株式市場における日銀が最大の株主になってしまうというというのでETFの85%くらいを日銀が買ってしまっているという異常な状態です。株式市場が機能していない。
それから財政赤字を出したときの国債市場もほぼ機能していない。マイナス金利になっているので、どういうことが起きているかというと10年債のところでだいたいゼロ金利、金利が0パーセント。10年より短い5年債、3年債、2年債になるに従って、日銀はマイナス金利で国債を買っています。マイナス金利で買うというのはどういうことかというと、満期のときの国債の額面価格よりも高い価格で日銀が買っているということです。民間は買えないんです。民間の国債市場はほぼ死滅した状態です。なので民間の金融市場がマヒ状態。超長期債、10年債以上の20年債、30年債は薄い金利が付いている。これは金融機関も金融緩和でお金が余ってしまって運用先がないので、これを結構地銀も含めて銀行とか信託とかそういうところが買っているんです。でもマイナス金利の部分というのは考えてみると満期になるたびに日銀が損をする。
額面より高い額で買っているからその差が、買っている価格と額面の差が13兆円以上になっている。どういうことかというと、日銀が財政赤字を支えるために国債を意図的に高い価格で買っているので、政府は国債を発行しても金利負担を負わなくて済んじゃう。それどころか、高い価格で買ってくれているから、割高で買ってくれているから、1000兆円を遥かに超えるような国債を発行していても日本の政府の国債費は10兆円前後で済んでしまう。金利で言うと0.1%行くか行かないかという感じになっている。それで財政赤字を持たせている。
日銀がしわ寄せをかぶせることによって財政赤字をカバーしているので、MMTのような議論は財政赤字をいくらでも日銀が引き受ける。統一の会計にすれば、統合勘定でみれば、日銀にとって国債は資産で政府にとっては赤字だから、プラスマイナスゼロというウソみたいなでたらめな話をしている。ですが実際にはそうはならない。政府の国債費の負担は、確かに日銀が買ったことによって、マイナス金利で買ったことによって13兆円も政府が出している赤字以上に日銀が負担をしているわけです。年間1兆円、2兆円の超過負担を日銀がして赤字を出している。そういう不思議なでたらめな状況に置かれているわけです。
これでどういうことが起きるかというと、金融にしわ寄せが来る。財政赤字がいきなり破綻するんじゃないですよ。たぶん金融がバブル崩壊したり、いろいろなかたちで銀行に対して異常にしわ寄せをすることによって金融から壊れていく。だから政府は財政、日銀が金融なんです。この関係をみんな知らないので、なんとなく財政赤字はいくらでも日銀が引き受ければ持つんだというけれども、金融が破綻していくんです。たぶんバブルが崩壊するとあっという間に銀行はダメになっちゃう。当たり前のことですけれども、こんなに金利負担が高くなると、政府の財政赤字が雪だるま式に増えていくわけです。これをマイナス金利で金利を抑えれば抑えるほど銀行は儲からなくなってしまう。
戦時中と同じで、銀行はどんどん合併しなければならなくなる。なぜなら貸出金利と預金金利の差が利ざやになるわけで、銀行の利益になる。それがゼロ金利で低くなってしまうと利ざやが取れないから銀行は儲からない。地銀は17行くらいは全然ダメです。いま決算はこんなにゼロ金利をやっているので減収減益の状態がずっと続いている。上場している70行の半分以上は減益、赤字になっていると思います。バブルが崩壊したらとんでもないことになります。
もっとすごいことになっているのは貸付金というのがある。この貸付金が49兆円から116兆円、67兆円増えている。これがいまは129兆円くらいになっている。13兆円さらに上乗せしている状態です。どういうことかというと、コロナがひどくなっているので銀行は貸し出しをしたら、住宅ローンだったら民間の債務、企業だったら企業の債務を、日銀が銀行の持っている債務を担保にしたのと同じにして、ゼロ金利で銀行の貸し出しのための資金を貸し付けちゃっている。これを貸付金と言います。お札をバンバン刷りまくっているのと同じです。これが129兆円に膨らんできている。金をどんどんばらまいている。これは異常な事態です。今の6月段階で13兆円増えているということです。これは1年単位で見ているのでデータ的に言うと2020年3月の年度末から今年の2月末までの、その1年でどのくらい増えたかというのを見ている。その後また増えているということです。
財政赤字は、去年だけで歳出の合計が180兆円。100兆円を超えただけで大問題だといわれていたのが、ほぼ倍に近いくらいの予算規模が去年2020年度は実行された。今年はさらに105兆円の予算を組んでいて、これはまた補正予算を組むんでしょうけれども、この状態で長期国債が借款債を含めて232兆円発行しなければいけない。一時期短期債、1年未満の債券を発行してつなぎの資金を200兆円くらい発行して資金を回していた。長期国債は新たに232兆円発行せざるを得ないという自転車操業の状態になっている。これはかなり無理な状態です。
しかし金をばらまいたからといって、いま起きていることは究極の格差社会です。金をばらまいていると国民の中でも、日銀の資金循環統計を見ると個人貯蓄を含めてどんどん膨らんでいるんです。ここにいる方は膨らんでいるかどうかわかりません。資産や金を持っている人はどんどん膨らんでいる。
働いている人、とくにいま問題なのは女性です。コロナの結果、飲食、宿泊、医療、アパレル、対面講義、介護、保健サービスに働いているのは女性の非正規が多くて、この人たちが非常に厳しい。母子家庭の貧困は本当にすごいことが起きているけれども、声が挙げられない。働いている人はどんどん貧困に落ちて、どんどん飲食も倒産が増えている。その一方で日銀がお金をジャブジャブにしているから、どんどん資産の価格が上がったりマンションの売れ行きがすごい。株価もずっと上がる状態です。マンションはすごいですよ。急に販売率が伸びている。コロナで不況なのに金融緩和をしても、貸付先がないのでどんどんバブルになっている。働かない奴は働かなくてもどんどん収入が上がっていく。株を持ち、マンションを持ち、というかたちで資産はどんどん増えていく。
それに対して働いている人、特にひどいのは母子家庭です。女性の人たちは働けば働くほど苦しくなっていく。働く場所もないということが起きるわけです。コロナ禍の究極の格差社会がいま起きているということなんですね。コロナ倒産は1600件くらい。これは帝国データの資料です。「あきらめ休廃業」は昨年度2020年3月末で5万件くらいある。コロナ解雇はハローワークだけの数字です。野村総研の推計だと女性の実質失業者が103万人いる、シフトがもらえないとか休業手当がないまま身分は雇われているかたちだけれども、という人も結構いる。男性も43万人いる。実質の失業率は倍以上なのではないかといわれています。
この財政の破綻も大きいのですが金融の破綻が起きないかどうかということが、何とか綱渡りのようにして逃げ延びているのがいまの日銀の政策です。海外で金利が上がってバブルが崩壊するということになると、一気に日本に跳ね返ってくる。日本の中でバブルをやっているだけじゃなくて、大手銀行を含めて海外の資産投資をしている。そうすると円を売ってドルを買っているので円安になっているんですが、それで輸出を伸ばそうという話です。そこで海外の株だけじゃなくてローン担保証券の仕組みのようなものがあるんですね。いろいろな社債やCPを組み合わせたリーマンショックのときのサブプライムの企業版のような証券を、日本の銀行は13兆円買っているんですね。それがどこまで持つかどうか。
いまそういう意味ではバブルなので、かなり資産は膨らんでいるように見えながら、非常に厳しくなっている。第二地銀、信金は青息吐息だったのが、このゼロ金利の貸付金を出してなんとかバブルで持ち直しているんです。バブルが崩壊したら、第二地銀や信金がバタバタいってしまう可能性が非常に高い。金融の歪みが一番の大きいかたちで起きてきているということがはっきりしてきています。「銀行の貸出+当座預金の増加」というのを見ると一番下から急激に上がってきているのが第二地銀、その次に下にあったのは信金です。ですから弱っている銀行・金融機関ほど日銀の貸出金の効果があって、バブルになって何とか持ちこたえているという状況です。あるときがたがたになってしまう可能性を持っている。
では財政は持つんですかというと、内閣府の中期試算を見ると、がくっと落ちたのがぐっと上がっている。マイナス4.2からプラス4.4くらいまで急激に上がっているのは、これが名目GDPの動きです。この中期試算というのはプライマリーバランスといって財政支出の中で国債費を除いた一般歳出が均衡する、つまり歳入と一般歳出が釣り合うようになると「プライマリーバランスが取れる」という話になるんですね。基礎的財政収支といわれるものです。これは国債費が伸びてしまうとなんの意味もなくなってしまうので、この概念そのものがどこまでいいかどうかは別ですけれども、プライマリーバランスを均衡させるためのシミュレーションです。
ところが2021年、この状態で4.4%に上がりますか。何で成長率がこんなに高いかというと、成長率が高いと税収も上がるからです。この下のところはずっとゼロで張り付いて段々上がっていく、2024年くらいからプラスになるだろうということです。ゼロに張り付いていたのが、長期金利です。金利がゼロで成長率がいきなり4%に跳ね上がる、V字回復してずっと高止まりするという、そういうシナリオです。これが成長実現のケースです。その間もずっとゼロ金利です。そうすると税収が上がって国債費が伸びないので財政赤字が段々解消するというシナリオです。
でもこんなのは学者がやらないくらい幼稚です。よく考えればわかるんです。こんな4.4%まで急激に回復するかよ、ということがまずあります。それから名目成長率が高止まりするかよ、ということもあります。これだけ成長率が高いのに金利がずっとゼロだったら金融機関が潰れちゃうじゃないか。これは当たり前の、非現実的な、現実離れのシミュレーションが政府の財政均衡のシナリオなんです。
もうひとつ見ると、これは経済同友会が成長実現しない、普通のケースでシミュレーションをそのまま延長すると、2050年になっても基礎的財政収支は均衡しないということを辛口に計算してくれたんです。ということはもうほぼ財政均衡はあきらめているということがいまの状態です。でも財政均衡を目指しているというのをいわざるを得ないのは、国債価格が落ちてしまうから。日本の国債はもう財政均衡を目指しませんからアウトになってしまいますよということを正直にいってしまうと、国債の価格が落ちてしまう。そうすると何が起きるかというと金利が上がってしまって財政破綻してしまう。だから財政均衡を目指しているんですと口先で言いつつ騙して、それで証券・金利などを維持していくというそれしかない。もうどうしようもない。
このプライマリーバランスを見みると、プライマリーバランスは下の方に基礎的財政収支の棒グラフが下の方から急激に回復しているのは、国のプライマリーバランス。でも上の方にあるプラスは地方です。よく考えてみると2025年に基礎的財政収支の均衡を骨太方針2021で出しているけれども、前のシミュレーションで2030年でようやく均衡と書いているのに、なぜ2025年でそういうことを言うのか。骨太方針はすでに「骨折」している。2030年に均衡するという数字でもうひとつ無理があるのは、このときに国の基礎的財政支出の赤字が8兆円あって、プラス9兆円を超える財政黒字を出しているのは地方なんです。でも9兆円というのは小泉改革のときに猛烈なやり方をやった、2004年ショックというのがあるんですが、このときに2兆円の地方交付税の削減をやったために、夕張破綻を含めてばーっと破綻したんです。9兆円の黒字を出すということは、地方であらゆるサービスを削らないとできない。財政赤字を解消するということはほぼ無理だということなんです。
いま何が起きているのか。最近は脱成長論というのもはやっているらしいんですが、ほぼバカな議論です。いまはやっている何とかの資本論というのも読んだんですが、確かにリーマンショックとコロナのときしか、マイナス成長のときしか、CO2は減っていない。だから脱成長で、コロナとリーマンショックくらい苦しいことをしないと実質的にCO2は削れません。なのでみんなでコミュニズムで貧乏になりましょうというシナリオですけれども、ちょっとびっくりしてしまう。では日本でCO2は減っていないかというと、減っているんです。成長していても。なぜかというといいわゆる省エネ投資。データ的にまったく知らないというか、きちんとデータを見ていないので議論の前提がまったく間違いということです。問題はこれだけ賃金が落ちて産業が衰退して、1国だけ衰退した状態で生きていけますかということです。
おそらく日本の社会はファシズムみたいになると思う。みんなが貧乏で生きて、できる奴は学者か公務員くらいしかいない。普通は民間で、とくにいまは母子家庭で死にそうな人たちを「コモンズ」とか言って、一生懸命助けましょうという話があっても、ちょっと無理だと思う。非現実的、なんのリアリティもない。もうちょっと深刻に捉えないといけないのは、この20数年にわたって賃金がずっと下がっている国だということです。もうすでに脱成長どころか衰退している国です。20数年賃金が下がっているというのは、OECDの先進国の中で日本だけです。他はずっとなんやかんやで上がっている。この異常さです。このために真ん中の中間層がべちゃっと引っ込んで、そのくせ学費は高い、医療費は高い、住宅費は高い、なんでも高いわけです。
だから北欧諸国みたいにベーシックサービスのようなものがあって、最低限生きていくためのサービスは、ただあるいはすごく安いんです。ということがあれば賃金が落ちても何とか生きていけるけれども、いまの状態で言えばほぼ格差ですよ。大学なんか行けないという人が大量に生まれる。問題は継続した賃金の低下をどう止めていくかということです。産業が猛烈に衰退していて金融緩和で支えていても、東京電力であろうが、東芝であろうがみんな日銀が社債を買って買い支えていたりするわけですから潰れるわけがない。だから新しい産業が生まれないんですよ。
もしかして何かがあるかというと、もう競争力がないので、いまや中国・韓国・台湾よりも技術力で劣っているような状態になっているのはみんなうっすらわかっちゃっているわけです、そうすると、ひたすら輸出を伸ばすためにはいわゆる賃下げをしてコストを落とす。それからどんどん金融緩和して国債を買って、金利をうんと低くして円安を誘導していくというやり方しかないんです。そうすると大手企業は何とかかつかつの利益を上げられるけれども、パナソニックが半導体を売るとか、どんどん蛸が足を食べるようになっていくわけです。
もう先進国では情報通信は自分達で半導体を作るようになっている。昔のようにスパコンをムーアの法則と言って、どんどんインテル製の汎用のプロセッサーをつなげていくようなやり方じゃないんです。AIだと書き換えするような半導体とか、半導体そのもの、プロセッサーそのものがどんどん高度化しているわけです。だからグーグルもアマゾンも自分達で半導体を設計するようになった。自分達のソフトとハードを一体化して開発しているわけです。グーグルやアマゾンなどとTSMCみたいなところが一緒にやっている。日本はそんなものはできない。ただひたすらトヨタにくっついていくだけみたいな感じです。だからもう持たないです。はっきり言うと、僕は本当のことは書けない、言えないんですけれども、米中の貿易戦争でたぶん日本は置いてけぼりになる。韓国や台湾と謙虚な気持ちで共同開発して、何とか一緒にいま残っている企業の競争力でくっついていきながら米中の貿易戦争の真ん中で蝶つがいになって新しいかたちで世界的な統合、統一を維持していく。そういう戦略を考えなくてはいけないというのが本当のところじゃないかなと思うんです。
ただ、輸出を伸ばしていくために賃下げと円安誘導をしていくと、産業がどんどん衰退しちゃう。その中で結局賃金が下がると需要が持たないので、財政と金融をただ開きっぱなしにして、いくらでもお金を出せばいいという話をやり続けている。未来のことを何も考えていないんですよ、この連中は。でもそうやってやっていく限り、円安を誘導するために財政赤字を出すわけです。結果として何が起きるかというと、金融緩和してばらまいていくだけでは、コロナ禍のバブルのように格差がどんどん拡がっていく。どうやったらこの悪循環を克服していくのかというのは、ひとつひとつ新しい情報通信技術をきっかけにして、地域分散ネットワーク型のような産業構造を作りましょうねとずっと言っています。
どういうことかというと、いわゆるエネルギー転換を猛烈にやります。そうすると再生エネルギーを軸にしてスマートグリッドみたいなことをやって、分散型のエネルギー―蓄電池を200世帯くらいでやりながら、それをコンピュータでコントロールする。分散型の仕組みにしていくと既存の電力会社をぶっ壊さないといけないんですよ。だから連合の単組の人たちにはかわいそうだけど、逆に変えていかなければいけない。そういうかたちの中に、例えば僕が最近行ったのは飯田の「飯田下伊那診療情報連携システム(ism-Link)」というのがあります。真ん中に中核病院があって診療所があって、薬局や介護施設などが全部ネットワーク化しているわけです。個人の情報の保護は問題ですけれども一人ひとりのノート機能も持っていて、訪問看護・訪問介護などを軸にして一人ひとりを在宅で見ている。それを病院などにつないでいくような仕組みを作っているんです。それからクラウドでお薬手帳を管理していたりしている。そういう地域分散型で手厚い医療介護の連携のような効率化をやっていくというのは必要なかたちなんですよね。
それからOMOという、オンラインとオフラインの融合のようなことがスマホなどできるようになると、例えばブロードバンドで診察しなくても血圧や血中酸素などいろいろなものをデータで送れる。同じようにイチゴのハウスでも温度や湿度などを自動的に管理できるわけです。あるいは牛の分娩も24時間見ることができる。そういうかたちで、いわゆるオンラインもオフラインも全部融合している状態だと24時間統合できるので、いろいろなかたちで自動運転の耕耘機みたいなものも可能なわけです。そういうかたちでやりながら販売もどんどん直売所のようなかたちでやっていく。新しい情報通信技術をベースにして分散ネットワーク型の社会を作っていく。そこにあるのは大手の企業や大きな中央政府が、地方が支配するんじゃなくて、お互いがフラットに結びつくような、そういう関係をどうやって作っていくのか。
つまり底堅いボトム型の民主主義社会というものが、情報通信技術にちょうどシンクロしている。そういう社会システムと産業システムを変えていくことによって、それをきっかけにしてインフラ、耐久消費剤、建物、エネルギー、こういうものを全部イノベーションで革新して、そこに投資を誘導していく。財政赤字で一生懸命支えても何も新しい産業は生まれないので、投資主導で、経済学でいうとまったく邪道というか、まったくないような新しい提案でやっていく以外にはいまの状況を脱出することはできないだろうということをずっといっています。
経済学でいうとまず掟破りすぎるので、「なにそれ」という反応しか経済学者はしない。だけど僕はたぶんそういうこと以外にはいまの状態を変えることはできないだろうなということをとりあえず言い続けるしかないと言っているところです。オルタナティブについては新書の最後の方に書いていますし、最近は飯田哲也さんという再生エネルギーをやっている人と、筑摩選書で「メガ・リスク時代の『日本再生』戦略―『分散革命ニューディール』という希望」という本を出しているのでそういうものを読んでいただけるとよくわかると思います。