2018年6月、安倍晋三政権下で国会に提出された自民・公明などによる「改憲手続法」の改正案(公選法並びの7項目改正案)は、その後、野党や日本弁護士会、学者研究者や市民運動など国会内外の批判が高まる中、3年間、8回の国会をかけて継続審議になってきた。
昨年秋の臨時国会(第203国会)で「次期国会で何らかの結論を得る」とした自民・立憲幹事長合意は、直面していた臨時国会での強行採決を食い止める国会対策にはなったが、本年年頭からの204国会での立憲民主の動向を大きく規制した。私たちは「何らかの結論は採決合意にあらず」との働きかけを強めたが、強力な世論形成としては力及ばずだった。
204国会で立憲民主国対は自民党に「改正案の修正案」を提示し、これを呑まなければ決裂だと迫った。立憲民主党が提案したテレビ・コマーシャル規制や外国人寄付規制などの事項について「法律施行後3年をめどに検討を加え、必要な措置を講ずる」ことを「附則」に明記するという修正案は、与党が丸呑みした。与党にとっては、この程度の修正案は丸呑みしても、法案を採択する方が得策だとの判断だった。
その結果、連休明けの5月6日、衆院憲法審査会で修正可決された。
もともとの改正案には共産党を除くすべての政党が賛成した。修正案には、提案者の立憲民主のほか、与党と国民民主が賛成し、共産党と維新の会が反対した。11日には衆院本会議で可決され、参院に送付された。現在、この国会の会期末を6月16日に控えて、参院憲法審査会で攻防が展開されている。後述するが、この修正案をもってしても、国民投票の際の公平公正を保障するうえでの同法の重大な欠陥は解決されていないのは明らかだ。引き続き抜本的な再検討を加えることは国会の責務だ。
改正案の提案者の自公維各党は、もしもこの第204回国会(21年1月18日~6月16日)で可決成立されなければ、衆院の解散か任期末が目前に迫っており、法案は廃案になるところまで追い込まれていた。
それゆえ、6日に開かれた自民党、立憲民主党両党幹事長の会談では、修正案の丸呑みと抱き合わせで、6月16日までの今国会会期中に修正された法案を成立させることが合意されている。
しかし、衆議院が重要な問題点の討議未了で可決した法案を、参議院が徹底審議することこそ、「良識の府」と位置づけられる同院の責務だと考えなくてはならない。自公幹事長間の合意の縛りがあるというのなら、立憲民主党執行部は参議院憲法審査会の審議において、この国の進路にかかわる法案への賛否を各議員の「良識」にゆだねるために党議拘束を解除して、議論の深化に貢献すべきであろう。市民はいまだあきらめていない。参院立憲民主党の憲法審査会の委員に対して、ロビーイングやFAX、電話などを使って働きかけを続けている。永田町の闘いは一寸先は闇だ、入管法改悪反対の運動が勝利したように、あきらめなければ勝利する可能性がある。
自公維らの提案した改憲手続き法案の憲法審査会での議論は計8国会にわたって継続審議になってきた。その理由は大別して2つある。
第1は、自らの在任中に念願の憲法改定を実現したいという野望から、安倍晋三首相(当時)が繰り返し憲法第99条の憲法遵守義務や憲法の3権分立原則に違反して改憲強行発言を繰り返し、国会審議に介入したことだ。これは安倍首相による憲法の私物化であり、2000年の憲法調査会発足以来、憲法審の議論で積み重ねてきた運営原則(中山太郎原則と呼ばれてきた)の「憲法は国家の基本であって、国民のものである」という基本理念に基づき、「政局にとらわれることなく、憲法論議は国民代表である国会議員が主体性を持って行うべきとの共通認識に基づき、熟議による合意形成」をめざすという立場に反するものだ。
この「憲法論議は政局にとらわれず、静かな環境のもとで行う」と合意してきた「環境」を安倍氏の憲法違反の発言と行動がしばしば打ち壊し、それが問題となって憲法審査会が開催されない状態が生じた。与党は「憲法審査会を毎週定例日に開催せよ」などと、野党に迫るが、まずこの責任は第一義的に安倍首相(当時)と与党にある。
第2に、2007年5月、参議院本会議において可決された改憲手続法が18項目にわたる附帯決議がついたものであることが示すように、この法律に多くの問題点が含まれていることの表れであるとともに、審議が十分尽くされないまま法律が成立したことの表れでもあり、欠陥立法であったこと。
日本弁護士連合会は、2009年11月18日付け「憲法改正手続法の見直しを求める意見書」において、「①投票方式及び発議方式、②公務員・教育者に対する運動規制、③組織的多数人買収・利害誘導罪の設置、④国民に対する情報提供(広報協議会・公費によるテレビ、ラジオ、新聞の利用・有料意見広告放送のあり方)、⑤発議後国民投票までの期間、⑥最低投票率と「過半数」、⑦国民投票無効訴訟、⑧国会法の改正部分という8項目の見直しを求めている。
とりわけ、(A)ラジオ・テレビと並びインターネットの有料広告の問題は、国民投票の公正を担保するうえで議論を避けては通れない本質的な問題である。また、(B)運動の主体についても、企業(外国企業を含む)や外国政府などが、費用の規制もなく完全に自由に国民投票運動ができるとする法制に問題がないか、金で改憲を買う問題がないかについての議論が必須である」などと指摘した。
7項目改正案は、以上、日弁連が指摘したような「国民投票の公正を担保し、投票結果に正しく有権者の意思が反映する措置」がとられないまま、2016年に累次にわたり改正された公職選挙法(名簿の閲覧、在外名簿の登録、共通投票所、期日前投票、洋上投票、繰延投票、投票所への同伴)の7項目にそろえて改憲手続法を改正するという法案であり、欠陥法の抜本的修正には程遠い微修正案にすぎない。
この与党などの動きの伏線には憲法記念日の5月3日に開かれた櫻井よしこ氏ら極右・日本会議系の改憲派の「憲法フォーラム」があった。
菅義偉首相はこの集会に「自民党総裁」として(前任の安倍晋三氏はしばしば「首相」の立場で改憲発言し、憲法99条違反が指摘された)ビデオメッセージを送った。菅氏は新型コロナウイルスの感染拡大に触れ、大災害などのときに内閣が国民の権利を制限する「緊急事態条項」を憲法に書き込むことは「極めて重く大切な課題」と語り、合わせて憲法9条に自衛隊の根拠規定を書き込むことを含む自民党「改憲4項目」(たたき台)の実現をめざす必要性を強調した。そして与党などが憲法審査会で採決をめざしていた改憲手続法改正案を、「憲法改正議論を進める最初の一歩として、成立を目指さなければならない」と述べた。
昨年の突然の首相就任以来、ともすれば改憲の姿勢が不鮮明と党内改憲派から批判を受けてきた菅氏が、近づく総選挙を前にして、あらためてその支持基盤向けに安倍=菅改憲路線の推進を表明した一幕だ。
この集会に出席した下村博文・自民党政調会長は党の4項目改憲案の一つの緊急事態条項創設の実現を目指して、感染症拡大を緊急事態の対象に加えるべきだと強調し、「今回のコロナのピンチをチャンスとして捉えるべきだ」と語った。すでに1万人以上がこの感染症の犠牲になり、60万人以上のひとびとが罹患したこの危機(ピンチ)を、自民党がめざす憲法改悪のチャンスとうそぶくその政治的愚劣ぶりには開いた口がふさがらない。
これが菅内閣では異端の発言でないことは高橋洋一・内閣官房参与が5月9日のツイッターでコロナ禍を指して「日本はこの程度の『さざ波』。これで五輪中止とかいうと(笑笑)」と投稿したことでも明らかだ。
3日の櫻井氏らの集会に国民民主の山尾志桜里・党憲法調査会長も参加し、「憲法9条にしっかり自衛権を位置付け、それを戦力であることをきちんと認めた上で枠づけをしていく。(自衛隊を)憲法で無視し続けることは『法の支配』にとっては有害だ」などと述べた。
改憲派が参議院で3分の2を失っている中で、改憲勢力に山尾氏が加担する意味は与党の改憲の企ての成否に影響するものであり、山尾氏が「論憲」の必要性一般などで正当化することは詭弁に過ぎない。
では、なにゆえに立憲民主党の執行部が「附則」という法案修正を条件に自民党との妥協に踏み切ったのか。
憲法審査会の議論の中で与党側委員と維新の会は繰り返し、審議を停滞させた野党の責任を追及した。しかし、すでにみたように責任は安倍政権(それを継承した菅義偉政権)と与党にある。
にもかかわらず、国民民主党が自公維改正案への賛意を表明し、憲法審査会では野党では共産党と立憲民主のみが反対している構図がつくられ、立憲民主は包囲された。
あわせてこのところ、一部メディアからは「憲法改正支持、56%」(直近の読売調査)などという世論調査がながされた。
立憲民主党の内部からは「議論から逃げていれば、支持者に批判されかねない」という不安にかられた議論が出ていた。
これは大いなる誤解だった。直近の世論調査で見れば、自民党が最も重視する「憲法9条」については「読売新聞」では「改正賛成」は37%に過ぎず、「現状維持」か「反対」は56%、「朝日新聞」では「憲法改正賛成」45%、反対44%と僅差で、「9条改正賛成」は30%、「反対」は61%だ。世論は圧倒的に「9条改憲」反対だ。
まして、「菅内閣が優先して取り組む課題」の各種世論調査では、憲法問題は1~2%で、少なくとも9割以上の有権者は改憲を政治の優先課題と考えていない。
残念ながら立憲民主の執行部は「国会と世論」から孤立しているのではないかという「お化け」におびえて、妥協に応じたといってよいのではないか。
自公など改憲派がしゃにむに改憲手続法改正案の成立をねらう理由は、菅首相が3日に言及したように、一旦両院の憲法審査会でこの議論を終えて、それを「憲法改正議論を進める最初の一歩」としようとするところにある。
先の日米首脳会談の共同声明でも日米同盟をさらに強化し、米軍とともに中国包囲網に加わっていこうとしている改憲派は、今後の衆参の憲法審査会で「自民党の4項目の憲法改正案」の議論を本格的に開始し、「戦争のできる国」の憲法に変えようとしている。
自民党などは各党にそれぞれが改憲案の対案を出すことを要求し、その議論を通じて改憲の空気を醸成し、改憲に不利な世論をつくり変えようとしている。そのうえで、改憲原案を憲法審査会でまとめ、野党を分断し、両院の本会議で3分の2以上の賛成をえて、改憲案を国民投票で是非を問うというコースだ。
もしものことに言及しておくが、参議院でこの改憲手続法の修正案が可決されたとしても、憲法審査会がただちに自民党の4項目改憲案の議論に入ることは許されない。
今回の「附則」では同法の基本的欠陥のひとつであるCM規制や運動資金等の検討を3年を目途に行うこととされており、さらに「国民投票の公平及び公正を確保するために(これらの事項)その他必要な事項の検討を加え、必要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとする」と述べられている。これには当然、最低投票率規定がないことや、公務員の国民投票運動に不当な規制がかけられていることなどの欠陥を含めてその他の欠陥を検討しなければならない。これらの是正がないままの「国民投票」はありえないということだ。
与党のなかからは、この附則の指摘する諸問題の先行審議はおろか、並行審議すらも無視して改憲案の論議を先行させようとする声がある。私たちは、このような改憲派の企てに反対するたたかいを立憲民主党などとともに展開しなければならない。
同時に、「ピンチはチャンス」などとうそぶく自民党の改憲4項目に反対する闘いを本格的に展開する必要がある。自民党にとっては今回の改憲手続法改正案は改憲論議の「呼び水」に過ぎない。本丸は現行憲法の3原則を骨抜きにする4項目改憲案の議論と改憲原案の作成だ。
憲法の破壊を許すかどうか、改憲問題はいよいよ新しい段階に入った。
今回の立憲民主の政治的妥協に「失望」したという人が市民運動の中に少なからず存在する。そこにはかつて小池百合子の希望の党騒ぎのなかで「枝野、起て!」と声をかけ、立憲民主党の支援に立ち上がった献身的で、貴重な市民たちが少なからず含まれる。この間、改憲手続法反対を共に闘ってきた仲間の気持ちは十二分に理解できる。
立憲民主党は今後、社会のどの層の人びとに信頼を置き、ともに闘っていくのか。立憲民主党はこれを知るべきだ。
5月6日、ウィークデーの正午からという困難な条件の下で500名超の市民が国会に結集した。その議員会館前の集会で筆者は、憲法審査会の傍聴報告を兼ねて以下のように発言した。
「今回の立憲民主党の修正案をもってしても与党の法案の根本的な問題が解決するとは思えない。採決には反対だ」「今日は残念ながら立憲野党の間で法案への対応が分かれたが、しかし、ここで生じた市民と野党の間の亀裂を次の総選挙での亀裂に引きずってはならない。諸悪の根源は自公連立政権だ。私たちには失望しているヒマはない。立憲野党と市民は結束して、次の総選挙で自公政権を倒すために力を合わせて闘っていかなければならない」と。
幸いなことに、2014年以来の共産党と立憲民主党(当時は民進党)の相互のリスペクトと共同は、今回の法案への両党の態度の相違でも崩れることはなかった。
次期総選挙で立憲野党と市民が共同して自公政権を倒せば、改憲手続法の欠陥を是正することは可能だし、自民党の4項目改憲案を葬り去ることも可能だ。まずはここからが第一歩だ。
市民と野党の共闘は、市民にとって立憲野党の国会議員への「支持の丸投げ」ではない。主権者である私たち市民にとって、政党は選択し、投票するだけの対象ではない。自覚した市民と政党の間には緊張関係が必要だ。政党は主権者が選択するだけでなく、育てていく対象なのだ。(事務局 高田 健)
池上 仁 (会員)
久し振りに国会議事堂前に足を運んだ。コロナ禍の影響だけでなく、治療を続けている脚の痛み、不整脈による体調不安定でついつい外出を避けがちになっていた。それでも日々のニュースで菅政権や維新の会の、己の無能ぶりを棚にあげた悪逆無道な振舞いに歯ぎしりしていたことがあって、思いを同じくする多くの集会参加者の輪の中にいたいと考えた。
地下鉄出口で東京の組合の仲間がチラシ配布をやっていて、少し立ち話。メインステージ近くまで足を運んだが、ずらり並んだ参加者、熱気はこれまでの集会とそんなに変わらないように思う。幸い公園内のベンチが空いていたので、ここで耳を傾けることにした。「コロナ感染拡大を避けるために間隔をあけてください、気持ちは一緒ですがフィジカルディスタンスで!」何度も注意喚起のアナウンスが流れる。
定刻、ピースボートの松村真澄さんの司会で集会が始まった。
小森陽一さんが実行委員会を代表して開会挨拶…私たちは今かつてなく緊迫した状況の中、74回目の憲法施行日を迎えている。菅政権は5月6日衆議院憲法審査会で国民投票法改悪案の採決を狙っている。菅政権の無策によって新型コロナウィルスの感染が拡大するばかり、大都市では医療体制が崩壊しつつある。多くの人々が働く場を失い貧困が加速している。とりわけ多くの女性たちにしわ寄せがいっている。「国はすべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と規定した憲法25条に、菅政権の政治が全く違反しているのは明らか。私たちは改めて25条、そして男女平等を規定した24条を、政治の現場でちゃんと実現しろと主張する。度重なる補償のない緊急事態宣言の中で、多くの事業者が経営困難に陥り、大切な財産を失わされている。明らかに29条で規定されている「財産権はこれを侵してはならない」を、菅政権が踏みにじっている。今、多くの日本国民は個人としての尊厳すら奪われている。これは憲法13条に真っ向から違反する政治のあり方だ。「生命、自由、及び幸福追求に対する国民の権利」が私たち一人一人にあるんだ、と主張して行こう。無為無策の菅政権はアメリカ政府だけにはとことん従順だ。4月16日、菅はいそいそと訪米し、日米同盟をインド太平洋地域そして世界全体の平和と安全の礎だとして、台湾有事での協力をはじめ辺野古、馬毛島の基地建設を約束した。沖縄戦死者の遺骨の入った土を基地建設に使うなど、断じて許せない。こうした途に大きく舵を切った、2015年の戦争法としての安保法制強行反対の闘いが、今の党派を超えた統一した運動を生んだ。市民連合が結成され、2017年「安倍改憲NO!全国市民アクション」には九条の会も参加した。市民と野党の統一が4月25日の選挙で大きな勝利を収めた。私たち憲法を守り生かそうとする側が政治を変える段階に来ている。共に頑張ろう!
雨宮処凛さん…周辺で右翼が騒いでいるが、20年前には私はあちら側にいた。憲法を批判するための勉強会で憲法前文を読み、うっかり感動して右翼を辞めた。今叫んでいる人たちも数年後、こちらに来ているかもしれない。これから大人食堂の相談会があるので最初に発言させてもらった。この1年、困窮者支援の現場は野戦病院のようだ。昨年4月に「新型コロナ災害緊急アクション」のメールフォームを立ち上げた。これまで700件以上のSOSメールが寄せられた。当初は家賃が払えない、といったものだったが、今年に入ってからは、アパートを追い出された、5日間何も食べてない、路上生活がきつい、自殺を考えた、と一層深刻なものになっている。
昨年は数か月頑張ればと思っていたが、政府の対策は一向に進まず状況は悪くなるばかりだ。昨年は一時、生活保護が増えたが、4月以降は微増。生活保護を忌避する傾向が根強い。自民党の生活保護バッシングの影響だ。携帯が止まって所持金が17円しかないという人でも、生活保護を嫌がる。生活保護が増えない一方、自殺者が増えている、とくに女性の。年越し派遣村の時は505人が訪れて、うち女性は5人だった。昨年末から年始にかけての年越しコロナ相談村を訪れた344人中、女性は62人。13年前は1%未満だったが18%に増えた。憲法25条が守られていない。このパンフは使える制度を何十頁にわたって収めている。これを小道具として憲法を使い倒していく。
感染症で1万人以上の方が命を失った。今は救えた命も救えない事態だ。困窮に陥っている方が異常な数増えている。憲法25条が問われなければならない。「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」、2項には「公衆衛生の向上および増進に努める」とあるのに、政治がその義務を果たしていない。必要な感染拡大防止対策ができないのは、憲法に緊急事態条項がないからだという暴論があるが、既存の法律でも私権の制限は行われている。
すべては政治判断・政策の問題なのに、憲法に責任を押し付けている。休業要請にしても、29条「私有財産は正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる」に基づく正当な補償を行わない。補償と自粛はセットでなければならない。憲法12条「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によってこれを保持しなければならない」。これは国民に強制するものではない。憲法は国民が権力に対して命令するもの。その主体である皆さんの不断の努力が求められている。私たち政党も全力で頑張る。
コロナ禍の現在の事態は菅政権による人災である。人口当たり検査数は世界144位、ワクチン接種数は118位。菅政権は憲法を遵守せよと言いたい。29条による正当な補償を怠っている。特別給付金の支給対象を世帯主にする、意思決定機関への女性参加の決定的な遅れなどジェンダー平等を規定した憲法24条の視点が欠落している。国民投票法改正案の採決が強行されようとしている。菅首相は3月の自民党大会で憲法改正に向けた第一歩だと言った。今日の産経新聞インタビューで、自衛隊明記・緊急事態条項創設等自民党の改憲4項目をたたき台にして議論を進める、と言っている。こんな火事場泥棒を許してはいけない。変えるべきは憲法でなく菅自公政権だ。日米首脳会談で日米同盟強化がされた。憲法違反の安保法制を廃止して立憲主義を回復することが急務だ。安保法制廃止は市民と野党共闘の一丁目1番地、この土台の上で豊かな共通政策を発展させ、政権交代を実現しよう!
現憲法によって女性が選挙権・被選挙権をようやく持つことができた、憲法24条ができ、妻を無能力者とする民法が大きく変えられた。生きたいけれど生きられない多くの人々と会ってきた。25条は全く守られていない。憲法13条も労働基本権も守られていない、報道の自由・表現の自由を定めた憲法21条を守らない菅政権には退場してもらおう。学術会議任命拒否は憲法23条「学問の自由」を政府が踏みにじるもの、24条に基づく選択的別姓すら実現できない自民党。憲法を生かしていこう!婚外子の法定相続分差別の撤廃、同性婚を認めないことは憲法14条に反するとした札幌地裁判決。憲法前文の「平和的生存権」を生かそうとする沖縄はじめ多くの平和を実現しようとする人々と共に闘おう。ドサクサ紛れに緊急事態条項など盗人猛々しい、これが実現してしまえば国会は無用、内閣が発する政令で人権制限がやれてしまう、そんな戒厳令は絶対に認められない。
会派は5年前糸数慶子さんと結成した。同会派の高良議員は福岡の憲法集会に参加している。私が立っているのは激戦地だった宜野湾市高津高地、4月9日1日の激戦で日本兵戦死者420人、アメリカ兵戦死者・負傷者326人を出した。4月9日は「沖縄語をもって談話をしある者は間諜と見なして処分する」と32軍回報に掲げられた特別の日。日本軍は住民をスパイ視し、大きな悲劇を生んだ。戦後この地に多くの戦死者の遺骨が埋められた。それでも多くの遺骨がみつかる。返還後50年、基地被害・米軍犯罪は変わらない。変わったのは沖縄を苦しめる主体が日本政府になったこと。オバマの核先制不使用方針を止めさせる、尖閣防衛にアメリカの核の抑止力を引き出そうとした。南西諸島を戦場にしてはならない。戦争をしてはならない、沖縄県民と共に闘おう!
憲法を守らない政治が憲法を変える?詐欺師が詐欺罪を緩め泥棒が窃盗罪を緩めるのと同じこと。顔を洗ってでなく足を洗って堅気に戻れ!基本ができない者が応用に手を出すなど100万年早い。コロナ終息まで毎月10万円の給付金・消費税の廃止、大規模財政出動で憲法25条を今こそ守らせよう。
元学術会議会員でした。政治学の観点から3つのことを話したい。第一に、命が大事ということ。世界のコロナ感染者数は1億5000万人、死者320万人。日本は感染者60万人、死者1万人を超える。ワクチン接種は世界で11億5000万人、対象者の20%、日本はわずか2%。日本のコロナ対策は先進国と言えない水準。コロナ感染で男性の4人に1人が無精子状態になるという研究もある。若者も安全ではない。
第二に、平和の大切さ。超老朽原発の稼働再開を福井県知事が承認した。チェルノブイリ事故から35年、いまだに1200キロ離れたスウェーデン、ノルウエーの食肉用トナカイに影響を与えている。日本だけでなくアジアの平和が大切。アメリカと組んで緊張を高める日米豪印4か国(クアッド)による中国封じ込め政策に加担しようとしている。許してはならない。
第三に、弱者の自由と人権の大切さ。自由とは弱者が強者に対抗するため同じ権利を持つこと。これが近代の人権概念だ。強者の自由は弱肉強食を生み出す。学術会議は学問の戦争加担を反省して1949年発足した。3回の軍事研究反対の声明を出した。3回目の時は私も会員だった。防衛省の研究予算が大幅に膨れ上がった時、これを受けないと声明した。学問の自由とは、人々を守るための自由、若者が戦争の最前線で苦しまない、戦争に反対することで圧力を受けないための自由。政府に反対すると職場を追い出されるのではないかと怯えている人がいる。平和の時代にこういうことがあってはならない。
学生のとき法律が大嫌いだった。法は私たちを支配するための手段と考えていた。哲学や政治学を志したが、受験でスベリ止めの法学部に入らざるを得なくなり、2年生で憲法に出会い、3年生で憲法のゼミに入った。国家権力制限規範としての憲法、しびれるじゃないですか。封建時代に国家がさんざん悪さをしたから市民革命でこれを倒し、国家は残しても悪さをしないように憲法を作った。憲法の最高法規性を定めた98条は、憲法違反の法律等は許されないと謳う。しかし安倍政権は戦争法や秘密保護法、共謀罪など違憲立法を行ってきた。菅政権はこれを継承している。
国民投票法の改正は許されない。投票2週間前まで広告規制なしという欠陥をまず正すべき。安倍政権の「森友・加計疑惑」、「桜を見る会」、菅の長男接待…政治の私物化は封建時代の人治に逆戻りするもの。立憲主義をとり戻そう。労組、市民、野党の共闘で改憲を拒んできたことに自信を持ち、立憲野党の総選挙での勝利を!憲法理念を実現する政権をつくろう。
3月31日まで総長を務めていた。在任中軍事研究はしない、学術会議直ちに任命せよと声明を出した。今日は一つだけ言いたい、憲法記念日には憲法をちゃんと読んでください、と。併せて自民党改憲草案を読み、双方の全体を比較してください。現行憲法前文は3つの段落になっていて、主権は国民にあること、日本国民は恒久的な平和を念願している、政治的道徳の法則は普遍的なものであることが謳われている。
改憲草案では、天皇をいただく国家、国民は国と郷土を自ら守らなければならない、憲法制定の目的は国家を子孫に継承するためであること、となっている。天皇は「象徴」から「象徴であるとともに元首」であるとする。これは「改正」などでなく全く異なる憲法だ。日本は全く別の国になる。13条の「個人」が「人」に置き換えられ、「公共の福祉」が「公益及び公の秩序」に変えられる。この発想はコロナ禍でも鮮明になった経済優先、五輪優先、企業側に立った非正規問題の放置に表れている。安倍前首相は自衛隊の明記が必要と言ったが、改憲草案では「国防軍」となっている。基本的人権や主権在民、平和主義という言葉は残されても、全体の中では無意味化される。緊急事態条項が改憲草案の中で1章付け加えられている中に緊急事態宣言という言葉があることに注意すべき。
井上ひさしさんは言った、選択肢は2つ、棄憲か憲法を守るか。自民党改憲草案では改憲のハードルが非常に低くなる。本当に「改正」なのか、それとも私たちが憲法を捨てることになるのか、私たちは一人一人が明確な考えを持たなくてはならない。
故石川真澄さんと一緒に「戦後政治史」を書いてきた。石川さんは敗戦直後の中学校時代に英語の授業で英訳版憲法を読み、当時の政権の案とは比べ物にならない、どちらが良いかは明らかだったとおっしゃっていた。嘘つきの政治家が憲法に触るなど(次頁下段へ)(前頁下段から)とんでもない。憲法に基づく国づくりはいまだ途上にある。安倍・菅政権で憲法との乖離が著しくなった。2015年の安保法制反対運動から野党と市民の共闘が形作られてきた。国会の構成を変えなければ憲法を守れないということを学んだ。一つの議席を争う選挙区では野党の候補を一本化することがデフォルトになっている。3つの補選での勝利に私も万歳を叫んだ。衆院選でこれを実現しよう。攻撃は最大の防御だ。一人でも立憲野党の議席を増やし、政権交代を実現するために共に奮闘していただきたい。
昨年に続き緊急事態宣言下の集会になった。この1年パチンコ屋さん、夜の街、飲食店、路上呑み…。菅政権は失策を隠すために次々に新たな「敵」を作って怒りのかすめ取りをしてきた。怒りは政府に向けられなければならない。私たちには自粛を求めコロナへの恐怖を利用して緊急事態条項を取り入れようとする。政治の担い手によって命と暮らしが左右されることを痛感してきた。アベノミクスは若者と女性の困窮を作り出した。日米会談では台湾条項が合意され、日米安保は対中国敵視に一層染め上げられた。戦争する民主主義は民主主義ではない。政権交代と共に市民の外交を通じて平和的な環境を作り出そう。そのために私たちの命を懸けた闘いが求められている。衆院選の前哨戦と言われた3補選に勝利した。違いにこだわらず共通性にこだわり抜こう、ここにこそ日本の未来が、政治と市民運動の未来がかかっている、私たちは一層一つのかたまりになり、大転換の1年にして行こう。
2021年5月10日
重要土地調査規制法案に反対する市民団体
はじめに
日本の社会における表現の自由の侵害、政府に関する情報の秘匿化などに疑問を持つ多くの NGO が、国連自由権規約委員会へのオルタナティブレポートを提出し、委員会の勧告を求め、その勧告の実現を日本政府に求めていくことを共同の目的として表現の自由と開かれた情報のための NGO 連合(NCFOJ)を結成しました。すでに2020年9月30日に共同レポートの第一弾を自由権規約委員会に提出しています。
国連自由権規約委員会の日本審査は、世界的な新型コロナ感染拡大のために大幅に遅延しています。そうした中でも、日本社会における表現の自由の侵害、政府に関する情報の秘匿化などの状況は悪化しているといわざるをえません。NCFOJ 内部で、追加レポートの作成を検討しています。その検討過程で、今般国会に提出された「重要土地調査規制法案」には、人権保障上、特に表現の自由、市民活動の自由、プライバシー権、知る権利との関係において、看過することのできない問題点が含まれていることに気づきました。
何としてもこの法案は成立させてはならない、その思いから、NCFOJ としての追加レポート作成とは別個に、同様の問題意識をもつ NCFOJ 内外の市民団体の連名で、急遽、声明を発することとしました。
法案の撤回と廃案を求める理由を以下に述べます。
第1 立法の経緯と法案の概要
本年3月26日、日本政府は「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案」(重要土地調査規制法案)を閣議決定し、国会に提出しました。
この法案は、昨年12月10日に自民党政務調査会がまとめた「安全保障と土地法制に関する特命委員会」の提言をもとに、閣法として提出されたものです。法案提出にあたって、当初は連立与党の公明党は「まるで戦時下を思わせる民有地の規制」(漆原良夫公明党前議員の「うるさん奮闘記」より)などとして強い難色を示していましたが、法案の微修正によって個人情報への配慮条項を付加すること、指定については、「経済的社会的観点」から留意することを法文上に盛り込む方向などが確認されたために、法提案に応じた経緯がありました。
法案では、基地など安全保障上の「重要施設」周辺概ね千メートルの区域や「国境離島等」を「注視区域」または「特別注視区域」に指定して土地・建物の利用状況を調査し、重要施設や国境離島等の「機能を阻害する行為」に対し行為の中止または「その他必要な措置」を勧告・命令することを定めたものです。命令に従わない場合は懲役刑や罰金刑を課すことができます。「特別注視区域」に指定されると、土地売買等の取引の際は事前に取引の目的等の報告が求められ、虚偽の報告をしたり、報告を怠った者は同じく処罰されます。
第2 立法事実は存在しない。不必要である
前述のように、法案の提出作成に至ったきっかけは、外国人・外国政府の基地周辺や国境離島での土地取得に規制を求める自治体議員や自民党議員の要望でした。しかし実際には外国人の土地取得によって基地機能が阻害される事実(立法事実)が存在しないことが明らかになっています(2020年2月25日、衆院予算委員会第8分科会)。
にもかかわらず、法案は広く国が定める「重要施設」周辺の土地・建物の所有者や利用者を監視し、土地・建物の取引や利用を規制するものになりました。この法案に対して、市民の財産権を侵害し土地取引や賃貸を伴う経済活動を停滞させるとの懸念の声があります。
しかし、本声明では、それにも増して広く市民が監視され、市民の調査活動・監視活動等が萎縮・制限されることにより、表現の自由、市民活動の自由、プライバシーの権利、知る権利が大きく損なわれることに警鐘を鳴らしたいと思います。
第3 法案の核となる概念や定義がいずれも極めてあいまいである
この法案は、法案中の概念や定義が曖昧で政府の裁量でどのようにも解釈できるものになっています。まず、注視区域指定の要件である「重要施設」のうちの「生活関連施設」とは何をさすのかは政令で定め、「重要施設」の「機能を阻害する行為」とはどのような行為なのかも政府が定める基本方針に委ねています。
重要施設には自衛隊と米軍、海上保安庁の施設だけでなく、「その機能を阻害する行為が行われた場合に国民の生命、身体又は財産に重大な被害が生ずる恐れのあるもので政令で指定するものを含む」とされており、原発などの発電所、情報通信施設、金融、航空、鉄道、ガス、医療、水道など、主要な重要インフラは何でも入りうる建付けの法案となっています。
調査の対象者のどのような情報を調べるのかについても政令次第になっています。さらに調査において情報提供を求める対象者としての「その他関係者」とは誰か、勧告・命令の内容である「その他必要な措置をとるべき旨」とはどのような行為を指すのかについては、政令で定めるという規定すらなく総理大臣の判断に委ねられています。市民の自由と基本的人権を阻害する可能性のある、市民に知られては都合の悪い規定は、法文中ではなく政府がつくる基本方針や政令、総理大臣の権限で決められるようにしているのです。刑罰を構成する要件規定が法律に明示されないということは、刑事法の基本原則すら満たしていないものであり、刑罰の構成要件の明確性を求めている憲法31条、自由権規約9条にも違反するものであると言わなければなりません。
また、刑罰の対象となる行為が明確となっていないため、表現の自由・市民活動の自由に対して萎縮効果を及ぼすこととなり、調査・監視活動が阻害され、憲法21条・自由権規約19条にも違反するおそれがあります。
第4 法案の具体的な問題点
この法案が成立するとどのようなことが起こりうるか、問題点を以下にあげます。
1.法案7条により、重要施設周辺の土地・建物利用者の個人情報はことごとく収集され監視されることになる「施設機能」を阻害する行為やそれをするおそれがあるかどうかを判断するためには、その者の住所氏名などだけでなく、職業や日頃の活動、職歴や活動歴、あるいは検挙歴や犯罪歴、交友関係、さらに思想・信条などの情報が必要となります。すなわち、重要施設の周辺にいる者はことごとくこれらの個人情報を内閣総理大臣に収集され、監視されることになるのです。法案3条は、「個人情報の保護への十分な配慮」「必要最小限度」などと規定していますが、これらの気休めともいえる規定が実効性のある歯止めとなる保証はどこにもありません。このような法案は思想・良心の自由を保障した憲法19条、プライバシーの権利を保障した憲法13条、自由権規約17条に反すると言えます。
2.具体的な違法行為がなくても特定の行為を規制できる
「重要施設」の周囲や国境離島に住んでいるか仕事や活動で往来している者に対して、政府の意向で調査でき、「機能を阻害する恐れ」があるとの理由で行動を規制できるようになります。しかもその規制は命令に従わなければ懲役刑を含む罰則も含むという苛烈なものです。このような法案は、居住・移転の自由を定めた憲法22条、表現の自由を保障した憲法21条、自由権規約19条に反するものと言えます。また、刑罰の明確性の原則(憲法31条、自由権規約9条)にも違反することとなります。
3.「関係者」に密告を義務付け、地域や活動の分断をもたらす
法案8条は「重要施設」周辺や国境離島の土地・建物の所有者や利用者の利用状況を調査するために、利用者その他の「関係者」に情報提供を義務付けています。「関係者」は従わなければ処罰されますので、基地や原発の監視活動や抗議活動をする隣人・知人や活動協力者の個人情報を提供せざるを得なくなります。これは地域や市民活動を分断するものであり、市民活動の著しい萎縮、自己規制にも繋がります。このような法案は、憲法19条と自由権規約18条が絶対的なものとして保障している思想・良心の自由を侵害するものです。また、市民の団結を阻害するという意味において、集会結社の自由(憲法21条、自由権規約21条・22条)に対する侵害のおそれもあります。
4.事実上の強制的な土地収用である
法案11条によれば、勧告や命令に従うとその土地の利用に著しい支障が生じる場合、当該所有者から総理大臣に対して買い入れを申出ることができ、総理大臣は特別の事情がない限り、これを買い入れるものとされています。命令に従わなければ処罰されることになり、やむなく買い入れを申出なければならないのであれば、これは、法案10条3項による土地収用法の適用ともあいまって、重要施設周辺の土地の事実上の強制収用であると言えます。土地収用法は戦前の軍事体制の反省に立ち、平和主義の見地から、土地収用事業の対象に軍事目的を含めていませんでした。軍事的な必要性から私権を制限する法案は憲法前文と9条によって保障された平和主義に反し、さらには憲法29条によって保障された財産権をも侵害するものです。
5.不服申立ての手段がない
権利制限を受ける市民は、本来それらの指定や勧告・命令に対して不服申立てができるようにすべきですが、法案にはそのような不服申し立ての手段や方法は定められておらず、憲法31条に定められた適正手続きの保障すら著しく侵害するものです。
第5 法案成立が及ぼす影響―私たちは、この法案の撤回と廃案を求めます
1.膨大な量の個人情報の入手・蓄積・分析のために情報機関が強化される
この法案が成立した場合には、実際の調査では、聞き込み、張り込みはもちろん、警備公安警察が現地で調査し収集して所有する個人情報も入手されることになるでしょう。その収集や分析には相当な人手が必要であり、内閣情報調査室などの市民監視のための情報機関の大幅な拡充や機能強化につながっていく恐れがあります。
2.基地や原発の調査・監視行動も規制の対象とされる
米軍機による騒音や超低空飛行、米兵による犯罪に日常的に苦しめられている沖縄や神奈川などの基地集中地域では、市民が自分たちの命と生活を守るために基地の監視活動や抗議活動に長年取り組んできました。また、ジャーナリストや NGO もこれらの施設について調査活動を行い、その問題点を社会に明らかにしてきました。自衛隊のミサイル基地や米軍の訓練場が新たに作られたり、作られようとしている先島諸島や奄美、種子島でも同じ状況に置かれています。このような、自分たちの命と生活を守る当たり前の基地調査行動・監視行動ですらこの法案は規制の対象にしているといえます。
また、その規制は南西諸島や基地周辺に限らないことは前述したとおりです。重要施設は、原発をはじめ放送局、金融機関、鉄道、官公庁、総合病院などの重要インフラの周辺にまで拡大される可能性があります。大都市圏に住むほぼすべての人が監視と規制の対象となる可能性を含んでいるのです。
このような法案は、市民の多様な表現の自由及び市民の知る権利を保障した憲法21条、自由権規約19条に反するものと言えます。
3. 法案は戦前の「要塞地帯法」の拡大版の再来であり、憲法と国際人権法を著しく侵害するもの。廃案・撤回するしかない
すなわちこの法案は、憲法改悪の「緊急事態条項」を先取りする形で市民の監視と権利制限を日常化、常態化させる法律なのです。そのような意味で、この法律は、戦前の社会を物言えない社会に変(次頁下段へ)(前頁から)えた軍機保護法・国防保安法とセットで基地周辺における写真撮影や写生まで厳罰の対象とした要塞地帯法(明治32年7月15日法律第105号)の拡大版の再来だといえるでしょう。この法律が成立すれば、市民と市民団体の活動に対する萎縮は限りない連鎖を生み、戦前のように、日本社会を沈黙の支配する社会へと国が変えてしまうことが再現されることすら予想されます。安保関連施設を厚いベールで隠し、一切の批判を封じることから、戦争に向かう政策を補強する戦争関連法の一環であると言わざるをえません。このような法案は決して成立させてはなりません。私たちは政府に対して、日本国憲法と国際人権規約に真っ向から反する、問題の多いこの人権侵害法案を撤回するよう求めます。
◎許すな!憲法改悪・市民連絡会と9条壊すな!実行委員会は、呼びかけに加わっています。
お話:瀬戸 大作さん(新型コロナ災害緊急アクション/反貧困ネットワーク事務局長)
(編集部註)4月17日の講座で瀬戸大作さんが講演した内容を編集部の責任で要約したものです、要約の責任はすべて本誌編集部にあります。
反貧困ネットワーク事務局長の瀬戸といいます。今もそうですが、もともと原発避難者の関連の支援が中心で「避難の協同センター」とかそういうところで活動していましたが、1年前から反貧困ネットワークの事務局をやっていて、貧困問題に奔走しているという状態です。一昨日、新宿西口で総がかり行動の街宣が夕方にあって、ちょうどその街宣の裏というか、小田急デパートの前に喫煙スペースがあるんですが、実はその喫煙スペースが僕の重要な待ち合わせ場所なんです。あとで出てきますけれども所持金が100円しかないとかそういう状態のときに、あの西口の喫煙スペースが一番わかりやすいので、そこで待ち合わせをして緊急対応をするというかたちでずっと活動しています。
昨年の緊急事態宣言から1年以上が経過しています。今の状態はかなり深刻化しています。僕自身は夕方以降にいろいろな場所から届くSOS、先ほど話したように所持金がもう100円しかない、ずっと野宿生活を続けている、そういう人たちから多数のSOSが来ていて、その駆けつけ支援をしています。さきほどずっとパソコンをいじっていたのは、今ももう3件くらい来ているんですよ。その割り振りも含めてやっていて、夜はあまり講演会とかそういうことやるのが非常に困難な状況です。
最近の特徴を言うと、去年の春から秋くらいまでは「死にたくないけれども、このままでいってしまうと死んでしまう」という書き込みが多かった。けれども変わっています。「死のうと思ったけれども死ねなかった」という中味が増えてきています。昨日の夕方に上野にいて、23歳の青年と会いました。彼自身は身分証明書も何もなかったんですね。その理由を聞いたら、電車で飛び込み自殺を図ろうと思って身分証明書を捨てたと。そういう青年に会っています。来週、一緒に生活保護の申請に同行しますけれども、20代の人も含めてそういう現象がかなり顕著になってきているということです。福祉行政の窓口についても非常に厳しい状況があって、しっかりひとりひとりが今後の自立というか、生活再建に向けた努力を福祉事務所がやらなければいけないけれども、いろいろな福祉事務所で追い返しの事例が多発しているという状況です。
そういうことがあちこちにあるということについても触れていきたいと思います。ケン・ローチが「私はダニエル・ブレイク」という映画を作りましたけれども、まったくこの通りの状況です。なぜこのスライドを入れたかというと、福祉事務所の現場の非正規問題、会計年度任用職員の問題とか含めて、要するに生活困窮にある人が福祉事務所に相談に行く、でもその福祉事務所で相談を受ける人も非正規の人が増えてきていて、そういう関係の中でお互いが非常にストレスをためてつぶし合いの構造に入ってしまっているということがあるということです。
昨年の3月24日に、反貧困ネットワークが呼びかけて42団体でチームをつくっています。外国人の支援、この間入管の問題が起きていますけれども移住連とかエープラスというDV被害者支援の団体とか、そういう団体が入ってこの間勉強して活動しています。ただここで非常にポイントとして弱いなと思っているのは、労働組合との関係です。首都圏青年ユニオンとかPOSSEとかそういうユニオン系の労働組合は入っているけれども、12年前の「派遣村」と違うのは、連合や全労連、全労協などの組合の本体との連携がなかなか進んでいなくて、ここが今後の課題かなと思っています。
特にこの間20代の若者のSOSが急増しています。いま4月のSOSの集計をしてみると、60%が20代に変わってきています。もうひとつは、例えば新宿駅というと、西口とか東口ではわからないと思うんですよ。とくに西口は、もともと段ボールハウスがたくさんあった。でも新宿の新南口、髙島屋があるあたりに8時以降に行くとわかります。明らかに、最近野宿生活になっただろう人たちがベンチに座っているんです。こういう構造が明らかです。バスタの方にはあまりいないです。バスタは排除されるから。ぜひそういうところを気にして、声かけをして欲しいなと思います。明らかに8時を過ぎてそういう現象が出ている。この間、公園で外国人の人たちがぽつんと座っていたりします。そういうことについても、行く場所がありませんから僕らのシェルターでお預かりして泊まってもらっています。
ここに基金の問題が出てきています。これは反貧困ネットワークが42団体と一緒に運用している基金です。いま約1億3千万円この基金を集めて、6千万円くらい出しているんですね。というのは、僕は福祉政策の不備だと思っているけれども、例えば今日所持金が100円しかありませんといったときに、緊急貸付の制度がない。社協の貸し付けはありますよ。けれどもコロナについては審査があって時間がかかるわけです。今日食べるものがないといったときに対応できない。だからそういう意味で僕らのところで呼びかけをしてお金を集めています。実はもう相談が来ているんだけれども、今日は土曜日だ、役所が開くのは月曜日だ。そうしたときに土曜日と日曜日の宿泊費を支給して、生活費をお渡しして、可能であれば福祉事務所に一緒に行く。こういう活動をずっとこの1年間続けています。
ただ問題なのは、半数以上が実は外国人になっています。これは入管法の中で難民の問題が出てきていますが、仮放免などの働いてはいけないという状態の外国人たちがたくさん今困窮している。そういう人たちは生活保護の制度も利用できない。そういう制度の中で、本当に収入のあてがないから助けて欲しい。そういう状況になっています。明日は大和に行きますけれども、大和は昔からインドシナ難民がたくさんいらっしゃっていて、そういう人たちが困窮している。そういう状況がずっとこの間起きています。
僕らの相談は相談会もやりますけれども、主要は相談フォームです。なぜこういう形式を使っているかというと、多くの困窮にある人たちは携帯電話が止まっています。携帯電話は止まっているけれども機械だけ残っていて、Wi-Fiスポットに行くとWi-Fiだけつながるんです。そういう状況があるからメールフォームだけ使ってそこでやりとりする。だから会うのが非常に大変なんですよ。連絡はメールだけ。僕は足が悪いので車で動いているけれども、車の場合は「この場所に止まるから、車のナンバーは」といって、「そこに来てくれ」と伝えます。だから僕が新宿西口の喫煙スペースにいる理由は、そのナンバーの白い車で待っているから何時に来てねといってやっています。だからあそこにいるんです。今日もメンバーが大田区に行っていますけれども、電車で行く場合は、相談者の特徴を言ってもらってそこでお会いする。
僕自身がこの1年間でだいたい650人から700人くらいと直接対応しています。めちゃくちゃ大変なんです。なぜなら、会うだけでは済まないからです。この映像に出ているように、所持金が100円しかない。携帯が止まっている。そして住まいを喪失しているということが、派遣村から12年で特に進んでいるなと思います。僕らは電話相談をしているだけではないということです。基本的には駆けつけ支援です。僕はNHKとかTBSに出るときは、必ずそのことについて触れています。その数日後に生活保護の申請に同行して、アパートに入居できるようにする。昨日もフェイスブックにあげているんですけれども、先週、今週はかなりやばくて、来週の予定は昼間がすべて申請同行で埋まっています。
今日の行ったスタッフは大田区で1時から5時で、合計3名の予定がある。昨日は午前中同時並行で、2人の女性をエープラスの方と連携して一緒にやるという事態にまでいってしまっている。なぜそうなのか。1人で生活保護の申請に行ったら、追い返しとか悪質な対応にあうということがあるからです。そういうことも含めて、僕らは駆けつけ支援だけではなくて、ひとりひとりが、もう1回アパートで暮らせるようにすることなどまですべてやるので、ひとりに対して最低でも4、5日かかるわけです。この1年間はほぼ休みがないという状況になっていて、国会前行動にはまったく行けないという状況です。
なぜこんな状況なのかなと思っています。そうしたときにこのデータを使うんですけれども、何回も何回も使わざるを得ない。そもそもコロナ禍の貧困で明らかになったということです。今日3時に対応している人ですけれども、ネットカフェに4年いたんです。そういうパターンと、今回のコロナで住まいを失って、ネットカフェに泊まらざるを得ないという2つのパターンがあります。2017年の東京都の調査で、ネットカフェに住んでいた人の収入は11万4千円です。そうしたときにアパートに入居できる初期費用がないんです。今回の貧困問題の大きなポイントは、僕は小泉・竹中路線以降の大きな問題としてあると思っていますけれども、非正規・派遣の拡大の中で、その世代が本当にこういうような、日々をつなぐ生活しかできなかった。そうしたときに初期費用を貯蓄できない、これが62.8%なんです。この部分について何も手も打ってこなかったということです。
今日僕は社会的連帯についての本を読んでいて、特に台湾はすごいですけれども、ちゃんとそういう若者たちに対しての社会的住宅が整備されているわけです。韓国も、いまソウルは市長選挙で変わりましたけれども、それまでは若者支援をしている。しかし日本ではそういう制度がまったくなくて、若者たちがネットカフェで漂流しているということです。こういうことが顕著になっている。先ほど言ったように携帯電話がないという人が、全体の70%ですからかなりしんどいです。なぜかというと、僕らが支援してもアパートの入居はなかなか大変なんです。やっぱり就職活動ができない。このあいだ「女性のための相談会」のメンバーが立憲民主党とかいろいろ政党に申し入れをしたときに携帯問題の問題が入っています。こういうことも含めて、ちゃんと社会的なサービスとして、困窮者に対して一定程度の対応をすることも必要です。驚きますけれども「ネットカフェ難民」の年代を見ると50代が高いわけです。20代の山と50代の山です。こういう現象が出ています。
扶養照会については、「親が援助できるんだったら親が援助しなさい」ということです。そうすると本当に親に連絡が行くわけです。もうひとつ今回の特徴で言うと、僕自身が毎日やっているからわかるけれども、みんな親との関係が厳しいんですよ。親との関係が壊れていたりとかです。たぶん十数年前と違うのは、親も貧困なんです。非常にそう思います。親もシングルマザーとか、そういう比率が非常に高いと思います。非常に心配しています。この間、女性のSOSが急増しています。
シェアハウス問題ですが、とにかく今の日本の社会は「居住貧困」です。地方から東京に出てくる若い女性が非常に多いですが、そういうときに結構あるのはシェアハウスです。シェアハウスに入るけれども、そこで家賃未納を1ヶ月するとすぐに追い出しちゃいます。この映像の例では「体脂肪率を10%下げたら家賃が1万円になる」という入居契約です。わかりますか。こういうような「サービス」をやっている。僕なんかは逆に家賃が10万円になるわけです。これは調布の例ですけれども、今首都圏でやたら多いです。マンションの1室を6つくらいに区切っている。彼女は3.7畳です。沖縄の石垣から出てきていて、部屋は6つに分割されているところに住む。とにかくゼロゼロ物件だから初期費用はかからない。でも要するに正式な賃貸住宅ではまったくありません。
社員寮として登録して、シェアハウスに入ったらそのマンションの管理人、住人と絶対に接触してはならないという決まりになっています。僕はそれを見ています。こういうことがやたらとあります。東京都内、秋葉原、茅場町のあたりに行くとレンタルオフィス――名目は「オフィス」なんです。個人オフィスだけれども、実はその中の2畳くらいの部屋に4万円くらいの家賃を払って住んでいるという事実がたくさんあります。そういう状況がずっと進んでいるんだと思っています。
この間のSOSの中で、もうひとつ大きな特徴があります。それは何かというと「寮付き派遣」です。寮付きの非正規です。この比率は結構あって、僕は3日前に25歳の女性の強制退去の案件があって、その対応をしています。電話がかかってきたのが4時くらいです。僕が迎えに行ったのが夜8時くらいです。これは足立区で、悪質な警備会社なんです。検索してみたら、以前にもその警備会社の関係で対応しています。その警備会社で採用をするけれども、すぐに雇い止めをするわけです。「向かない」と。彼女が雇い止めになって、非常に怖くなってその日にまた住み込みのアルバイトの面接に行って帰ってきた。そうしたら当日の8時に退去しろと。そういう案件があって、とにかく荷物をまとめて僕の車に積んで、その日の夜にビジネスホテルに一旦入ってもらって、その2日後に生活保護の申請同行をして、というパターンです。今、住まいを失って路上から100円しかありませんとか、そういう中での居住を聞くと、寮ですね。そういうことが非常に増えています。
寮付きの住宅というのは当然賃貸契約はないから、その仕事が終わったら即刻出て行く。今回のコロナの貧困の中で、仕事がなくなったら同時に住まいも失う。いま出しているスライドは、僕が今対応しているんですけれども、典型的な例なんです。40代のMさんという女性は3回くらいお会いしているんですが、聞くと性風俗のお店で働いている。それ以前は彼氏と一緒に暮らしていたけれども、彼氏はたくさんの借金をつくって逃げていく。彼女がその借金の返済のためにそういうお店で働く。けれども、このコロナ禍の中でお店にお客さんがつかなくなった。それで今、女性で警備の仕事というのは、夜の交通整理とか工事現場とかすごいんです。そこに女性が結構入っています。彼女は警備の仕事をせざるを得なかったんです。彼女は身体も華奢で平気かなと思っていて、僕は心配して「生活保護を利用した方がいいんじゃないの」といったけれども、がんばってしまった。年が明けて、やっぱりつらいということで僕は行ったわけです。そうしたらもう歩けない。足を引きずっている。これはやばいということで、すぐに泊まっていた漫画喫茶から引き上げて、東京の中で一番まともな福祉事務所に行った。この案件は通常の福祉事務所では対応できないだろうということでそこに行って、生活保護の申請と同じ日に全部検査をしたんです。そうしたら乳がんだということがわかって、今入院しています。こういうことが起きていて、その彼女が退院したら僕らのシェルターを長期間使ってもらうということにしています。こういう女性がいます。
気になっているのは、この間出てきていますけれども本当に自殺率です。女性の自殺率は前年比の1.8倍という、この問題は深刻です。そして失業者が、男性の43万人に比べて女性が103万人ということなんですね。この社会的な問題をどうしていくのかということについてです。本当に女性を直撃しているということです。問題なのは、休業手当の問題とか休業支援金の問題です。いまたくさん雇い止めになっているけれども、解雇予告手当の問題などについてほとんど知らないです。雇い止めされて、かなり長い月日がたってしまっている。もっと早くいってくれればよかったのにと思うんです。あとはやっぱり労働組合ですよね。労働組合がこの問題に対してどう対応するのかということです。ほとんどの職場で労働組合がないので、全部スルーされてしまうということです。「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」のデータがありますけれども、シングルマザーの所にも直撃しているということで、いろいろなところで女性の比率が非常が高いというデータをいくつか掲載しています。
もうひとつはなかなかうまくいっていないんだけれども、あえて公営住宅の問題を出しています。何かというと、先ほどの台湾とか香港もそうですが、今アジアの韓国、香港、台湾に行くと公営住宅を増やしているんですね。けれども日本の場合は、特に東京都はこの20数年間、都営住宅を1個も増やしていない。実際に起きている現象は「8050世代問題」があります。「8050世代問題」がかなり深刻化していて、この方はお母さんが84歳で10月に亡くなっています。そうすると50代の娘さんが相続問題で退去になるんですよね。この彼女は4月末で退去なので、僕はこれをどうしようかなと思っているんですが、こういう事例が実はいっぱい起きています。50代の単身の女性になるわけです。「8050」というのは、80代のお母さんを介護している単身男性と単身女性が結構多いんです。亡くなってしまうと、都営住宅は即刻出て行けということになる。考えてみると50代の息子さん、娘さんは、実は仕事を辞めて介護に専念しているパターンなんです。そうすると仕事ができないじゃないですか。だけれども出て行けと。僕は東京都と交渉したけれども、まったく埒があかない。通常は出て行ってもらうと。この問題は大きいですよ。
この問題ではもう2つあって、ひとつは都営の場合は60歳未満の単身者は都営住宅の入居基準について原則認められていない。原発避難者の問題で原発避難者の家賃2倍請求問題があって、避難者が相当数残ってしまっています。国家公務員住宅の東雲住宅というところでは、そこで30名くらい残っていて、その残っている避難者の大半は母子避難ではないんです。単身の避難です。その中で30代の女性とか、そういう年代の人たちが実は多数います。自分は結婚していないけれども、原発の放射線の問題で不安があって東京に避難してきた。しかし区域外避難だと。帰れ、帰れと福島県にいわれて、帰らないんだったら自力でやれといわれた。けれども東京の中で非正規の仕事しかなかった。その人自身がその国家公務員住宅から出されたら、高い民間の賃貸住宅の家賃を借りるお金もない。それとまったく同じですよ。先ほど韓国や台湾、香港の話をしましたけれども、若者支援として公営住宅への入居を認めるわけです。それが全くないんです。この問題は非常に大きいです。
もうひとつは結果的にどうなるのか。いま狛江市の都営住宅の8割が65歳以上なんです。ということは、僕が住んでいる練馬区の光が丘団地の自治会長から聞いた話だと、「瀬戸君ね、都営住宅は入っても地獄だよ」というんです。高齢者しかいない街でコミュニティが成立していないんです。そういう意味で考えたときに、公営住宅に若者たちも入れるようにする。いろいろな世代が入れるようなかたちにするということ自身が、コミュニティの再構築になるでしょうということです。こういう居住政策について、東京都議会議員選挙もあるし、もっと政治のところでしっかりやらなければいけないと思います。今回のコロナの貧困の中で、これだけ住まいを失うということについては、生きるということでいうと住まいの問題は非常に重要だと思うんです。けれどもこれまで話したような問題が出てきている。例えば、神奈川県でいうと昨年11月に条例改正をして、60歳未満の単身の人たちも入れるようにしている。この辺りの政策の点検、これをやって、さいたま市はどうなっているのか、大阪市はどうなっているのかということについて点検することが必要だと思っています。
生活保護の問題です。僕らが対応しているSOSの中で、生活保護を利用した経験のある人たちが相当数います。とにかく大変なんです。生活保護の申請に行くと、「無料定額宿泊所に入ることを条件とします」といわれます。わかりますか。要するに板橋区、豊島区、練馬区、大田区、江戸川区、目黒区など今6つくらいの区が、僕らが行けば、居所がない人たちに対して最低1ヶ月はビジネスホテルに泊まって、その1ヶ月の間にアパート探しをすることができます。
でも山谷がある台東区とか荒川区とか、最低最悪は渋谷区、八王子もそうですが、こういう地域でいうと無料定額宿泊所に入りなさいといわれる。その無料定額宿泊所は、昨日会った青年は10人部屋に入れられます。集団生活です。例えば生活保護費は、住宅扶助も含めて東京の場合は単身で13万6千円か13万8千円なんですね。横浜市南区の施設の場合は、その費用から10万円を引かれるわけです。ということは、生活保護を申請してその施設に入ったら、出てこられないんです。だって自立するためのお金がないわけですから。こういうことが現実に起きてしまっています。このことは今、ほとんど報道から漏れています。僕が本当に驚いたのは、八王子などでいうと生活保護の申請に行っているのに、困窮者支援の就労支援員が出て来ちゃうんですよ。生活保護を受けさせないように出てきて、「あなたは働けるんだから」ということをいうわけです。その就労支援の相談員が一生懸命、先ほどいいました寮付きの仕事を勧めるわけです。
そのとき聞いたのは「日給8300円です、寮費が1日3500円ですよ」、そんなことを福祉現場の職員が勧めるのか。これが要するに「水際」です。生活保護を受けさせないで「水際」でそういう仕事の方に持っていってしまうわけです。施設に入れるか、就労の方に持って行くかということが起きている。この彼は上尾で生活保護申請をしたけれども、実際に連れて行かれたのは東松山の無料定額宿泊所で、ここで大きなポイントがあります。生活保護を利用して施設に入りました。でも3ヶ月間1回もケースワーカーが来ない、ということです。現行の福祉が民間の貧困ビジネスに、実際の居住とか支援を任せているということなんです。ここに武蔵村山市の例があります。無料定額宿泊所に入って平均の在室期間は5~6年です。
上野公園に行かれる方は、京成上野駅の出口から公園に入るところをよく見てください。結構いろいろな人たちがいます。公園で明らかに野宿生活になっているという人たちに対して、声かけをしている人がいます。そういう人たちは、声かけをして一緒に福祉事務所に行って生活保護の申請をします。声かけをした人たちのワゴン車が、福祉事務所に横付けされています。そしてそのまま彼らが経営している貧困ビジネスの無料定額宿泊所に連れて行かれて、施設生活に入るんです。その彼らはもともと路上の人たちです。本来無料定額宿泊所というのは、そこから具体的に卒業して自立をしましたということがまともな支援じゃないですか。逆なんです。いかに自立させないでその施設の中に留め置くかということです。僕はNPOのいろいろな事業報告書とかみて、だいたいわかっています。定員56人で、いつも入所者56人となっているところがある。これは千葉市にあるんですが、「NPO」とついているとみんなだまされるんです。そういう意味で言うと難民もそうですよね。入管でみんな施設に収容する。本当に日本社会は施設が大好きだなと思います。
最近の事案です。4日前にこの件があって、共産党の議員と共同で福島の方でこういう問題があるということを共有して欲しいということでした。福島では原発作業員がたくさんいて、福島市に多くいます。その人たちが日本全国から集められてくるんだけれども、例えば精神疾患があることがわかったりとか、何らかの体調がおかしいと、すぐその場で雇い止めをしているようです。寮からすぐ出される。これは郡山の例ですけれども、生活保護申請をした。そうすると福島県は民間のシェルターとか居住の申請とかまったくなくて、生活保護の申請をすると、本来生活保護の場合は「居宅保護」の原則があるんです。僕らが申請同行したときにその日から泊まる場所を確保しなければいけないという責任があるんです。だから僕らがビジネスホテルに泊めるという活動をしていて、僕らが行かないと無料定額宿泊所に入れるということになるけれども、そこには野宿というのはありません。でも福島の場合は、民間のシェルターやビジネスホテルも提供されないし、無料定額宿泊所のようなものもないから、彼が郡山市からなんていわれたかというと、本決定が出るまで支援できないから「野宿するしかないですね」といわれたんです。これは、僕は1件目じゃないんです。2年前にも郡山でやって、愛知の笹島というドヤから福島市に働きに来ていてほっぽり出されて、もうその彼の行方もわからない、そういう問題が起きています。そういうことも共有しておきたいと思います。
僕はずっと原発の問題をやってきたので、これは民医連新聞を見て驚いたんですけれども、浪江は支援が解除されているんだけれども、地元に聞くと、福島の解除されている地域の生活保護世帯の比率が急増しているというんです。浪江では2016年に14世帯だったのが、2020年には74世帯になっています。これは賠償の打ち切りの問題と、災害公営住宅が年を超えていくとどんどん値上がりしているわけです。そういう問題も含めて、福島については居住貧困の問題や困窮の問題があって、これは手を入れないとこれから大変なことになるなということです。汚染水の問題もあるけれども、他にもこういう問題もある。
とにかく住まいの貧困の問題でしっかり取り組まなければいけないと思っています。一つは住居を失った困窮にある人たちに対して、ちゃんと利用住宅を無償で提供するべきだということが一点です。住まいは基本でしょうということです。二点目は原発事故のときにも結果的に被害者に対しての無償住宅提供については打ち切ったけれども、実はその前の2年間は災害救助法で無償で住宅提供したんです。熊本もそうですね。なぜこの制度を今回の居住貧困の問題で使えないのでしょうかということについてこだわっていきたい。これは立憲民主党の枝野さんも国会で質問しているんですね。でもまったく対応しない。三点目は、先ほどいったように60歳未満の単身者も入居できるようにしなければいけないでしょうということです。
それから住居確保給付金――家賃補助制度です。収入に応じた家賃補助をしっかりとかけるということです。これは何をいっているかというと、家主に対して家賃を下げろということではなくて、これについては公的責任としてしっかりと家賃補助として2万円かけますとかそういうことをやっていかないといけない。非正規問題については急にみんなが正規になるわけではないから、構造的な問題は変わらないですよ。これは本当にとくに若者世代に対して必要な制度だと思います。そういう意味で青年への家賃補助、住居の入居費用の援助制度の新設が必要でしょう。
それから緊急シェルターです。韓国のソウル駅に行くと駅の構内にシェルターがあるんですよ。公的に役所の職員が巡回をしています。日本場合は、巡回は巡回しているだけです。巡回して「ここにいるな」と言っているだけですけれども、違うんです。そこでシェルターに具体的に来て下さいということをソウル駅でやっています。その中で自立支援のプログラムがあって、そこでやっていくという制度があります。この問題も僕ら自身がまだ不勉強だし、もっともっと手を入れていけば変えることはできるかなと持っています。
あとは脱法ハウスの規制をやるということです。さきほどのマンションの一室の件ですが、マンションを勝手に借りてその部屋を6つに区切っている。その部屋を見て驚いたけれども、窓が1個もないんです。火事が起きたらどうするのか。とにかく脱法ハウスの規制はすぐにやらないと大変なことになると思っています。
生活保護については、ホットラインなどをやると苦情が絶えないということがあります。特に携帯電話問題は大きいですね。生活保護の基準金額の引き下げ問題で今裁判が起きていて、大阪で勝って札幌で負けました。支援現場で見ると、明らかに生活保護基準の引き下げは本当にやばいです。昔と比べて若い子たちの費用がかかっています。完全にこれはスマホです。もっと生活の実態を把握して見直すべきだなと思っています。
入管法の問題があるので、外国人の問題について触れておきます。先ほどの4000万を超える基金を外国人に寄付をしています。国別の特徴を書きましたが非常に多岐にわたっています。この問題に僕らが取り組み始めた原因があります。去年の定額給付金のときに仮放免などで就労の資格がない人たちを排除したんですよね。何回かに渡って政府交渉をしました。外務省や総務省に交渉したんですけれども拒否を続ける。そのときに思ったのはコロナというのはどういう状況にあっても、この世界の中で平等に被害や感染は及ぶ、日本の中にいてその段階で就労資格がなくてもそこで生きているわけだから、給付金についてはちゃんと渡すべきだと思ったけれども渡さない。彼らは教会のミサの献金とか、コミュニティの中での援助があったんです。でもコロナで教会のミサもなくなる、友人たちも援助できないという状態の中で一斉に困窮をしたんです。
こういう問題が顕在化して、僕ら自身がこの問題に気付かされて、6月くらいから外国人に対する緊急対応をやろうということで始めています。スライドに出ているようにこういう面談をします。これも大変です。連絡を受けたらお金を送るわけではなくて面談をするんです。それで状況を聞いて支援をする。例えばお金だけではなくてお米、産直の、有機に取り組んでいる農家が多数協力してくれています。TPPに反対している農民の人たちが協力してくれたり、三里塚の昔の仲間が協力してくれていたり、そういうことも含めて対応をずっと続けています。衣服も送ったりしています。かなり深刻です。よくNHKのテレビにも出てきたけれども、僕も埼玉県の本庄で実際に見ましたけれども、ベトナムの技能実習生たちが川などで魚を捕って食べているんです。この実情って何なんだろうと思います。「息子のための一袋のパンを買うこともできない」、こういうことが頻発しています。
明日僕は、午前中に神奈川の大和で対応して午後から川口に行くんですけれども、外国人の医療相談会をやります。定期的に行っているけれども、ある家族がいて、実際に見たときに涙が出てきたんだけれども、赤ちゃんのおむつがぱんぱんに膨らんでいて汚れきっていて、破れているんです。こういうお母さんと子どもがいて、僕らはもう必死でやるしかないですよね。問題は彼らが一切の支援の対象になっていないから、僕らが入っていかないともっと深刻化するんだということです。今度4月22日の入管法反対の集会で話しますけれども、この問題はしっかりと触れておきたい。そんなことをやっている場合か、その前に、いまの生存権をちゃんと守れ、ということを本当に言いたいです。11月に川口駅前で外国人相談会をやって120組、300人。この中で完全に医療的に健康問題が、非常にまずいという世帯が40世帯以上ありました。だけれども医療費が払えないんですね。こういう事態です
こんな事態になったので、これまで反貧困ネットワークは任意団体でしたが、これではダメだということで法人化をしました。反貧困ネットワークは、派遣村以降にネットワーク団体として作りました。湯浅誠さんがいて2013年くらいから活動をしていたんですが、緩やかだったんです。しかし今回のコロナ問題で、反貧困ネットワークが緊急対応の中心になってしまった。僕が始めちゃったんですけれども。これは完全に困窮者支援の最前線でやらざるを得ない。それでいまシェルターを経営しています。自前で住まいがない外国人たちの住まいを作ろうということを始めています。そういうことも含めて対応せざるを得ないということです。
埼玉県にあるベトナム寺院のティック・タム・チーさんの大恩寺もよくテレビに出てきますけれども、ぜひみなさんも行っていただけると歓迎してくれます。手ぶらじゃなくてね、何か持って行って。僕が行ったときは20人くらい、みんな若い子です。技能実習生で連れてこられて、給料がだいたい8万円から10万円でした。それでさきほどの寮ですよ。寮費で6万円抜かれているんです。彼ら彼女たちはベトナムから日本に来るときに、この間報道されているように100万円くらい払ってきているわけですよ。それでベトナムの家族に仕送りしたいとか、技能を身につけて帰りたいとか、そういう人たちになぜそういうことをやるのかという話です。それで失踪して、ベトナムの若者たちはみんなフェイスブックをやります。フェイスブックのメッセンジャーでつながってこの大恩寺までたどり着くんです。フェイスブックって危険で、僕がベトナムの人たちと関わると友達申請が一杯来るんです。何かというと、もうフェイスブックが命綱で「助けてください」と来る。それでティック・タム・チーさんがぜひ来なさいということで、ここで共同生活をして、ベトナムエアラインで帰れるようにみんなでお金を集めて帰す。こういうことが起きています。こういう拠点は東京にもあります。
僕らのところでも何人も対応していて、これは阿佐ヶ谷の小さな公園です。彼は朝鮮系の中国人です。吉林省の出身です。彼は以前は仮放免ではなかったんです。在留資格を失って家賃が払えなくなって家から追い出されたんです。阿佐ヶ谷の公園で寝泊まりしていたんですね。それで公園で背後から鈍器で頭を殴られて、救急車で病院に運ばれたんです。しかし病院は、仮放免で医療費が払えないとわかると動けない彼を車椅子に乗せて、その公園に放置した。戻したんです。実は僕はパルシステムの職員ですけれども、この件で声をかけてくれたのは、同じパルシステムの職員でした。それで僕の方にすぐ対応できないかという話があって、即日シェルターに入ってもらうことになりました。彼らは公的な医療支援が受けられません。医療費は僕らの団体で実費を払っています。実費を払って、彼は働けないからうちのシェルターにいるわけです。生活費は払う、それで医療費も払う。入管の同行も行うということです。
なぜ彼らを入管に入れ込んだりとか仮放免で放置をし続けるんでしょうか。「自助・共助・公助」の「公助」から公的支援のない外国人は完全に外されたままという状況です。今度の入管法の改悪案が現実になったら何が起こるのか。彼らは難民申請をしています。僕らのシェルターにいるメンバーは難民申請をしています。その難民申請が却下される。3回難民申請してダメだとなると、それについては刑罰の対象になります。彼らの多くは政治的な背景があって帰れない人たちがたくさんいます。
憲法の問題としてこれだけいっておきます。僕はトルコの23歳の青年の対応をしています。彼はいま江戸川区にいます。彼は良心的兵役拒否で日本に来ました。なぜかというとトルコは徴兵制があって、トルコ軍はクルド人を殺すことについても辞さないという方針を取っています。彼はそれだけは絶対嫌だということで、何をしたかというと、9条がある国-日本に来たんです。彼はそれを信じてきたんです。それで日本に来たけれども、就労可能なビザは長期間おりなかった。ようやく先月就労資格が取れました。それで江戸川区に住んでいるということが言えるんです。彼の家賃を僕らの団体で6ヶ月間くらい払い続けました。僕は憲法9条をしっかり守っていこうというスピリットはあるので、彼だけは絶対収容されてはいけないと思ったんです。そういう子もいるんです。憲法9条を信じて日本に来ちゃったんですよ。そういう彼らがコロナの支援対象にならないということです。
そういうこともあって僕が一番恐れているのは、僕らはいま、所謂不法滞在といわれている人たちをシェルターでかくまっているわけです、お金を払って。彼らが強制送還の対象になったとしても帰すわけにはいかないですよね。帰ったら向こうで弾圧されるわけだから。そうして僕らが守り続けたら、僕ら自身も刑罰の対象になるんです。「幇助」だから。そんな怖い法律が来週の法務委員会から具体的な審議に入る。僕らは本当に彼ら自身、彼女たち自身を今の段階では共助で守らざるを得ないなと思っています。
日本国籍のある人たちの支援として、生活保護の問題について触れてきました。僕はこの間ずっと支援活動をしてきて気付いたことがあります。これは生活保護の申請の活動だけではないなと思っています。何かというと、この日本社会を覆う極度の「ひとりぼっち」です。これは本当につらいですね。支援していても、たくさんの人がビジネスホテルやアパートから結果的にいなくなっています。これは居住の問題だけではないんだということです。地方から仕事をしに東京に出てきていて、これは本当に僕の車に同乗するとわかりますが、何人もの若者たちが言います。「ずっとひとりぼっちだった」と言うんです。唯一の友達はスマホとネットゲームです。貧困問題というのは「経済性の貧困」と「関係性の貧困」と「知識の貧困」です。
いまの僕の支援活動の中でいくつかのパターンがあるんですね。生活保護の同行をしてアパートに住むためのいろいろなことをやるということと、もうひとつは本当につらい気持ちになってしまった若い子たちと一緒にメンタルクリニックに行ったりしています。オープンダイアローグなどをやりながら何とか心の回復に務める作業、もうひとつはこのシェルターです。もう言ってもいいから言いますけれども、うちのシェルターに20代の青年がいます。彼は歌舞伎町のホストクラブのトップホストでした。年収1億5千万円です。でもあの業界はシャンパンタワーとか、行かないからよくわからないけれども、すごいらしいんです。結局その1億5千万円って残っていないんですよ。月収50万円くらいのホスト君とも一緒にやっているけれども、いまホストの人を5人くらいやっているんですね。聞いてみると、この間のコロナの中でお客がつかない。そうすると無理矢理自分の常連の客を連れてくるわけです。その常連もお金がないからツケになる。そのお金を払えないと全部自己負担です。風俗のお店でよくきく話ですよね。だから働いているのに逆に借金だらけです。
そういう若い子たちが多くて、新宿や池袋の路上でやっているとその業界の子たちはたくさんいます。その一人の彼はアルコール依存症で、僕はどうやって出会っているかというと「自殺者の会」というのがあるんです。インスタグラムでつながって、それに反応してライングループができるんです。それで「今日、二子玉の駅に集合」ってなる。5~6人のグループで、川に飛び込み自殺するグループと首つり自殺とかいくつかのグループに分かれるんです。彼は多摩川で飛び込み自殺を図るために駅まで行って、自分の順番の前で女の子が飛び込んだのを見て、怖くて帰ってきた。もうすごい状態ですよ。彼と出会ったのは1月だからもう3ヶ月たっているけれども、その間1回も笑わないんです。飯も食わないんです。ずっとガムと、僕が教えたゼリーです。それで通常通りの支援で生活保護の申請に行って、絶対彼を施設に入れるわけにはいかなかったので、ビジネスホテルに入れました。
でもビジネスホテルは駄目だった。なぜかというと、ビジネスホテルやアパートでは仕事がないからずっと天井を見ているんです。それでうちのシェルターに3週間前に連れてきました。そうしたら何が起きたか。この写真の女性は山谷涙橋ホールのオーナーの多田さんです。実はうちのシェルターがこの近くにあるので、僕らが入居者と対話するときはここでやります。ここで、同じ困窮状態にあった若者たちが彼と会話を始めるんですよね。そのときに初めてカレーライスを食べ、彼女が作った餃子を食べたんです。多田さんは毎回毎回シェルターに餃子の弁当を届けに来るんです。その中で彼は復活しちゃうんですよ。そういうことがあって、僕自身は、これは机上でしゃべっていないから、自分がやりながら話していることなので「こういうことなんだな」ということをいま実感しています。一人にしないということについて、どういうふうに僕ら自身がその機能を考えていくかということです。だからこういうことをしっかりやっていきたいなと思っています。
外国人たちが医療にかかれないということがあります。明日、川口で相談会をやるのは北関東医療相談会-アミーゴスという団体があって、そこと反貧困ネットワークとクルドを知る会の3つの団体が集まって医療支援の体制をつくろうとしています。それぞれの団体が持ち寄って、医療相談会やシェルターをたくさんつくろうと、みんなで支えていこうということで動いています。そういうようにやり続けるしかないんだけれども、やっぱり公的支援はどこへ行ったのかなと、本当に思います。僕は彼らを殺すことはできないから。例えば、今日100円しかないという人からメールがあったときに、基本的には夜10時半までは現場に行くんです。野宿を容認してはいけないということです。それ以降だと僕も死んでしまうので限界はあるけれども、野宿しないでくれと。
何で行かなければいけないのか、先ほど「死のうと思った」ということに変わったと言いました。今日行かなかったら死んでしまうかもしれないんですよね。だから行かざるを得ない。本当にこの問題はひとつの政治の焦点として取り組まなければいけない。憲法における生存権、この問題について考えるために、政治家も含めて、現場に来て、僕の車の隣に乗って、毎週木曜日に新宿西口に来て、総がかり行動の宣伝を見ながら、ぜひこの実態を見て欲しいなということです。