私と憲法228号(2020年4月25日号)


新型コロナウィルスの暗雲のなかで権力にあらがう~5・3憲法記念日に寄せて

憲法が保障する基本的人権は手放さない

「改正新型インフルエンザ等対策特別措置法」に基づき、4月7日、安倍晋三政権によって東京都など7都府県に、そして16日、全都道府県に「緊急事態宣言」が発令された。
目下、テレビや新聞などをつうじて、繰り返しくりかえし労働者のテレワークや市民に対する不要不急の外出の自粛が呼びかけられている。毎日毎日、その日の都道府県の感染者数や死亡者数がグラフを使って報道され、人びとはいつしかこれに一喜一憂させられていく。

この新型コロナウィルスの感染拡大を抑えるために、労働者市民の外出自粛以外に有効な手立てが見つからない現状では、国や地方政府が感染拡大防止のために人々ができるだけ自宅にとどまることを奨励することに反対はできない。しかし、対策を呼びかけるのは国や地方自治体の長であり、それを実行する責任は市民にあるという構図に、あまりにも慣れさせられすぎてはいないか。

マスメディアの洪水のようなコロナ報道の渦巻きからは、政府の失政への批判がほとんど聞こえてこない。それどころか、評論家の佐藤優のごときは「(こうした時期には)安倍首相の下で団結せよ」(2020.4.12・産経新聞)などとまでいう。佐藤ほどに極端ではないにしても、従来リベラルな言論を展開してきた人々のなかからも、「政府批判はすべきでない、ここは一致団結して」などというような論調が出てきている。テレビの著名なコメンティターからも、いまは家にじっとこもって耐えるべきで、政争の具にすべきでないなどという論評が出てくる。繁華街では抜き身の警棒をかまえた警察機動隊が通行人にあたりかまわず声をかける。これは由々しいことだと思う。日頃はファシズムの動きに敏感に異議申し立てしていた人々からも、「ファ」の字も聞こえてこない。どうしたことなのか。ファシズムとコロナウィルスの危険を一緒にするな、コロナは人類救出の戦争だ、と言わんばかりの雰囲気だ。

ナチスドイツのファシズムを思い出すまでもない。中東戦争の時の米国の言論を思い出す。2001年、ブッシュ大統領の報復戦争を支持する決議は上院では98対0、下院では420対1で可決された。反対したのはバーバラ・リー下院議員1人だった。米国内では愛国主義の嵐が吹き荒れた。あれから20年、今では正義はバーバラ議員の方にあったことは大多数の米国人が認めるはずだ。

特措法と人権

改正インフルエンザ特措法のもとでは、緊急事態宣言は都道府県知事が住民に外出自粛、学校の休校、イベント自粛などを要請できる。また食料品などの売り渡し、運送業への物品輸送、医療目的での土地・施設利用を強制することも可能となる。当初からこの緊急事態宣言は、「必要最小限のものでなければならない」と定められてはいるものの、日本国憲法21条に規定される「集会・結社・表現の自由」などの基本的人権を侵害する恐れがあることが指摘されてきた。要するに「両刃の剣」なのだ。

とくに「表現の自由」などに関連して、これが権力によって目的外利用、拡大解釈されて、事実上の憲法違反が発生するのではないかという懸念がある。しかし、この特措法はもともと日本国憲法の枠内で成立している法律だ。日本国憲法の基本的人権は最大限尊重されなくてはならない。

例えば「緊急事態宣言」は市民に対してイベント自粛などの「要請」はできるにしても、「強制」はできない。しかし、この「緊急事態宣言」の下ではあり得ないはずの人権侵害が一斉に起きている事実がある。それはあからさまな弾圧という形をとらずにすすめられる。市民の集会やデモ、勉強会などが会場の貸し出し中止などによって相次いで開催不能になっている。たった1本の電話による通告で、市民が催しのために予約した公共の施設は一方的に貸し出し中止になっている。それだけではなく、この空気を配慮した市民側からの「自粛」の形をとった開催中止も相次いでいる。「こういうコロナの蔓延の中では開催できない」というものだ。この結果、全国的に3月、4月段階ではこうした市民の催しはほぼ壊滅した。

目のまえにある構造的対立について

いま緊急事態宣言の下で、私たちの前にある社会の基本的な構造的対立は以下の2つだ。ひとつはコロナウィルス対日本社会の矛盾、もう一つは安倍政権対市民社会の矛盾だ。これが運動が解決しなくてはならない矛盾だ。

前出の佐藤のように、コロナウィルス対日本社会の矛盾のみを強調し、国家権力である安倍政権も、これと闘う市民も一体のものととらえるなら、問題は正しく解決されない。市民社会は安倍国家権力との闘いも堅持しなくてはならない。

安倍首相自身が緊急事態宣言を発令しようとする「議会運営委員会」の場で、改憲をめざす決意を語ったことが、この2つの基本的矛盾の存在を明確に示している。

市民があえて諸行動の開催に踏み切ったところでは、SNSなどネットによる市民社会からの同調圧力がかかってきた。「こうした時期に集会を開くとは言語道断」「感染者がでたらどう責任をとるのか」「運動圏の参加者が徹底して調べられてしまう」「無責任な利敵行為だ」などなどの口実だ。

これは正しいことではない。嘆かわしいことだ。安倍政権との闘いの課題をあいまいにしてはならない。

2020・5・3の意義

「今は自粛して、あとで再起をはかるべきだ」という意見もある。この自粛の嵐に易々と飲み込まれたあとに「再起をはかる」といっても、それは困難なことではないか。再起を可能にする道は、困難な中でも懸命に工夫し、努力して声を上げる、抵抗するたたかいの上に初めて開けるのではないか。

私たちはこういう時こそ、憲法12条が「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない」と述べていることを思い起こさなくてはならない。

主権者・人民の「不断の努力」なくして、人権は保障されない。権利はたたかいの歴史の中で勝ち取ってきたものだ。市民は今こそ、それぞれの置かれた条件の下で、それぞれにできる方法で、可能な限り、人権を破壊しようとする国家にあらがい、そのお互いの努力をリスペクトし、連帯する必要がある。

私たちは今年の「2020年5・3集会」を国会正門前からのネット中継という形式で開催することにした。都立公園だから、例年の東京防災公園が借りられないというだけでなく、このコロナウィルスの災禍の情勢の下で、多人数の人びとが1か所に結集して集会を開く危険を回避しようとするものだ。私たちは今年の「5・3憲法集会」を5万人、6万人を結集した市民の大集会という形での開催を断念した。各界のスピーカーによるネット中継の形で、5・3集会に寄せる市民の思いと立場を明らかにしようとしている。この集会を国会正門前で開催することにより、改憲発議を狙う安倍政権との対決という立場を鮮明にした集会としたい。今年の5・3はどんなに困難でも、それに屈せず、20年にわたる市民の憲法集会の歴史を継承し、近い将来、それを大きく発展させる橋頭堡を構築する取り組みにしなくてはならない。

私たちはこの困難な中で、創意工夫して5・3憲法記念日の行動を準備している全国の仲間たちに固く連帯し、共に闘う。

そしてこのコロナ禍の暗雲が晴れたときには、私たちは全国のいたるところで街中に飛び出し、改憲反対、安倍政権打倒の声を上げようではないか。
(事務局・高田健)

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介護保険制度のスタートから20年を振り返って

中尾こずえ(事務局)        

1997年12月 介護保険法が制定

2000年4月 介護保険制度が施行
介護保険制度創設に先立って各地の自治体は地域の公民館などで説明会を開催した。理念は「家族が担ってきた介護を家族の負担を減らし、広く社会共通の課題とする。社会全体で介護を必要とする高齢者の暮らしや健康や安全を保障するものとし、在宅ケアを中心に地域で支え、家族の負担を減らすものとする。税と保険料を財源として社会全体が担っていく介護の社会化だ。」と説明された。財源は個人が支払う保険料、国と地方自治体の公費の三つ巴で賄い、市区町村ごとに計算様式は異なる。(自治体事情で予算の組み方にはバラツキが生じ、サービスの内容に格差があるのは問題だ。)介護サービスには居宅、施設、地域密着型介護の3様式に分かれる。

かつての日本社会では、そのほとんどが一家の「主婦」が家事と育児そして老親の介護を担ってきた。「嫁」がやるのが当たり前といった風習が根強かった。「嫁」は福祉の含み予算とされて来た。私は、家族制度に縛られた風潮に異議有りなので良いことだと思った一面と、介護が市場経済の競争の中に放り出されていく危惧も併せて感じていたので、準備期間に出されたゴールドプランには納得できない面もあった。

保険制度がスタートした直後、しばらく混乱状態の時期が続いた。それまでは介護とか福祉には程遠い業者、たとえば不動産会社や娯楽施設、家政婦紹介所などがなだれ込むように参入してきた。が、営業基準に満たなかったり、様々な問題が発生したりで、そのうち1~2年もすると、ふるいにかけられたように淘汰され消えていった。利用者にとっては大変迷惑なことだ。その一方では、看護師をやっていた知人はケアマネジャーになり、数人の仲間と一緒に事業所を立ち上げ、地域に密着し、利用者さんに寄り添った丁寧な仕事で信頼されていた。が、忙し過ぎて書類作りなどは自宅に持ち帰り深夜にまで及ぶ事が度々だと聞かされた。のちに疲弊のあまりに続けられなくなって再び看護師に戻っていった。似たような事例は当時幾つも起こった。原因は介護ニーズがあっても労働の補償が無いも同然だからではないのか。貴重な社会的資源として生かされなかったのが残念だ。

親の介護を経験していた私は高齢社会に入っていこうとする社会にとって有用な仕事だと考え、資格を取って自宅近くの事業所にパートヘルパーとして勤務した。混乱した過渡期は全体的にいくらか落ち着いたものの私が働く職場は酷かった。事業所には本社の役員が抜き打ちで点検にやって来る。現場を全く知らない者が徹底して利益優先の「指導」をやるのだ。事業所内は次第に「ニーズより売上高が大事」だという雰囲気に支配され、「ルー単」、「ルー単」の声がやたらと飛びかった。1件入ってなんぼのルート単価の意味だ。当時の介護報酬は身体と家事支援に分かれ、身体の方がいくらか上だった。当然、身体ケアの仕事を入れたがる。不平等は仲間うちに不信感を呼び起こす。(現在は一律)ヘルパーは訪問先の滞在時間をできるだけ早く切り上げようとする者も出てきた。明らかに介護の質は落ちる。

例えばこんな事があった。利用者Aさんは80歳半ばの男性、全身に麻痺があり、寝たきり状態。会社勤務の息子さんとの二人暮らし。ヘルパーは朝と昼の2回、食事介助とおむつ交換を行う。夜は息子さんが介護する。ある昼の訪問時、Aさんのベッドは尿まみれになっていた。Aさんは寝返りすることができない。通常は陰洗とオムツ交換となるがこうなると全身の清拭と着替え、シーツ交換が必要となる。Aさんの場合、体位変換はかなりハードだ。(今の私だったらおそらく体力は及ばないだろう。)それから食事介助。嚥下に注意しながらゆっくりスプーンを運ばなければならない。忘れずに服薬介助と水分補給のコップストロー付きの蓋をして飲みやすい位置にセットする。エアコンが無いので室温や空調などの確認も必要。最後に実施記録を書き、家族への申し送りを書いて終了だ。退室時刻は大幅にオーバーしていた。

何故こうなったのか。朝のヘルパーが的確におむつを当てていなかったからだ。私は、再度彼女の動行の必要を要求し、私が担当した。彼女だけに問題があるのではない。経営に問題がある。出来るだけ早く現場に出そうとするからだ。ここでは、高齢者の尊厳は甚だしく無視されていた。経営者は「介護は福祉からサービスに進化した」と豪語していた。また、「老人を見たら金と思え」こんな言葉も耳にした。全国展開させたが採算をあげる事が最も重視された。あがらない事業所は切り捨てていった。それは東北地方に集中した。同時に介護現場の厳しさだった。多い日は1日7件位になった。夏の入浴介助が2件入るともうお手上げだ。自転車で移動中トラックにはねられ植物状態になった若い女性ヘルパー、精神を病んでしまったヘルパーなど犠牲者にされた尊いいのちの無念。(書いていると当時を思い出し怒りがこみ上げてくる)
ケアマネジャーは書類作成が間に合わず深夜までの残業は常態化していた。簡易ベッドを持ち込んで泊まり込む男性職員も何人かいた。

K君のこと

そんな状況下であってもK君は誠実な優しい介護を実践し、新人を同行する時は分かり易く丁寧に教えるのだった。彼は沖縄那覇市出身で当時25歳。若い彼の存在は頼もしくて励みにもなった。「結婚を約束している彼女がいるんだけど給料が安くてまだできない。」とぼやいていた。「人間らしく働ける職場を作ろうと、別の本当の組合を作る事を誓い合い仲間集めにはいった。一部の人たちを除いて賛同してくれた。勉強会を始めようとした時、不運にも私に癌がみつかり手術のため入院、職場復帰まで半年が費やされた。K君はセンター長になっていた。職場の空気は彼の人望や采配で大分、和やかになっていた。私にはリハビリのような軽い仕事を回してくれとても助かった。コムスン事件はこんな頃に発覚した。

コムスン事件とは

当時、最大手で全国に介護事業を展開する株式会社コムスンが介護事業所を開設する際、実態のないヘルパーの名前を届け出るなど虚偽申請をした事件。行政から指定を取り消されるまえに廃止届けを出して責任のがれをしようとした。加えて介護報酬の不正請求も発覚する(2007年9月)。事件は連日、新聞やテレビのトップで報道された。

介護現場では

利用者さんは不安と恐怖のなかにおかれ、介護スッタフはピンクのユニフォームを上着でかくして移動した。コムスン名入の介護タクシーは投石されたり「老人食い物にするな」などの落書きがされたりの日々。それでも介護職員は利用者の不安を受け止め、引き受け、介護をやり続けた。皆、希望に満ちて入った介護職、こんな筈ではなかったと心の芯から痛みで震えていた。

ある日、六本木ヒルズの本社で部外秘の説明会を行うという事で私がセンター(事業所)代表で出席する事になった。会場に入ってまずビックリしたのは経営陣と首を並べて組合の幹部が座っているのだ。冒頭、経営側の説明があったがニュースで報道された以外の新たな事実は何も出てこなかった。私は「働く仲間たちが、いまどんな気持ちでいるのか、どんなに悲しんでいるのかが理解できるか? 彼ら、彼女らの献身的介護を現場で見たことあるのか? 利用者さんの不安や恐怖感が理解できるか? 介護職は生存権を守る最前線の仕事だ。その認識がなく利潤追求に猛進した結果、引き起こした事件だ。組合幹部の皆さん(日本介護クラフトユニオン(連合))、座る場所間違えていませんか?ふかふかの赤い絨毯の上があなたがたの居場所なのか?」。後ろの方からすすり泣く音が聞こえてきた。後日、知人から「あの翌日の毎日新聞にこずえさんの発言が紹介されていたよ」と言われた。かれは労働組合の活動家だ。コムスンは介護事業から撤退した。事業の譲渡は三分散して組合も一緒に移って行った。

事件を通してみえてきた問題

市場経済の原理に基づく営利性と、介護に求められる公共性は相入れないものがある。介護を公的責任で行っていた措置時代にもどしてほしいとの声も出た。厚労省の制度設計の不十分さの見直しが求められた。低すぎる介護報酬改定では03年がマイナス2.3%、05年・06年が2.4%の引き下げ。先に紹介したように地域密着型の小規模経営は閉鎖に追い込まれる(介護職の賃金引き上げは今現在も未解決のままだ)。地域を支えてきたのはこの人びとの存在にあったのだが。

都営住宅が当たり、豊島区から新宿区に転居した。1年半程電車通勤したが近くの事業所に移してもらった。ここで3・11東日本大震災に遭遇。15時の訪問にどうにか間に合った。部屋の中は仏壇がひっくり返り散乱していた。1人暮らしの女性だ。身動きがとれずどんなに心細かっただろう。東京も余震が起こり彼女は何日も震えていた。こんな時は血圧も上がり持病は悪化する。非常時の時ほどちょっとした変化も見逃さないよう次のケアに繋げていく。

「都会の孤独 襲った炎」新宿火災生活保護受給者が大半(2014年11月8日東京新聞)

焼け落ちた木造アパートには、生活保護を受ける高齢の人たちが数多く暮らしていた。頼る先がない一人きりの厳しい生活と、行き場のない大都会の生活事情。

私が介護担当していたTさんは1階に住んでいた。古い木造のアパートは日当たり悪くじめじめとしていた。部屋は廊下の両側にハモニカ状に並んでいた。

トイレは共同、家賃は4万6千円。床はコンクリートがむき出しになったまま。段ボールを敷き、布団をその上に敷いて寝ていた。冷え込みが厳しくなるので何とかしなければと思っていた矢先の出来事だった。焼けたアパートからやっとの思いで数枚の紙幣を持って出たと言う。この以前に住んでいたアパートは陽当たり良く小さいながら台所があった。家主は改修を名目に退去を迫ったのだった。新宿区の一時避難所に一組の着替と洗面道具が支給され入居した。3か月内に部屋を探さなければならない。やっとみつかったアパートを掃除してカーテンをつった。荷物は百円均一の商店で用意した食器や日用品と小さなテーブルとリサイクルテレビ。Tさんは北海道の江刺出身。中卒で上京して建設現場で働いてきたと言う。複数の既往症があり看護師の巡回訪問がある。私の仕事はバイタルチェック、服薬確認、買い物、調理、掃除等を1時間で行う。

食べることが楽しみだったTさんの好物を限られた予算でよく作った。高度成長の時代を底辺で支えたTさんは今どう思っているのだろうか。時おり故郷の話をする。同じ地域の中で1年間に4回も住まいが変わった。すぐ隣の街は歓楽街の歌舞伎町だ。彼の個人ファイルの連絡先は第一、第二とも空白だった。体調が悪化して入院されたが今は分からない。

「貧しくて孤独、生活は困難」この現状を変えるためには

介護保険制度は3年に一度の見直しとなっているが15年4月の「改正」は抜本的な改悪になった。要支援1・2は市区町村に丸投げされた。これでは地域格差は拡大し憲法で保障されている公共の福祉から遠ざかるばかりだ。(現在、使用しているサービス実施記録の項目から要支援は消えて自治体委託に替えられた。)基本的には国の責任で、国の財源(税金)でおこなわれるべきだ。

また、介護休業についても大企業は制度を整えることができるが日本の9割を占める中小企業は難しいのが現実。介護離職は年間10万人にものぼっている。制度を決める審議会は男性の比重が高く、現場の声や女性の声をもっと多く入れることが必要だ。自治体によって介護認定のやり方や介護サービスの程度(用具の貸し出し等含む。)に違いが出ている。要介護の負担も、とくに農家にとっては大変で老人虐待につながっているという話も聞く。特養老人ホームの待機者は30万人を超えた。そのため入居要件が厳しくなり、原則要介護3以上になった。

介護は孤立していてはできない。確かな情報と人的なつながりがとても大切だ。それを個人の問題としないで、会社や地域、行政がしっかりとサポートすべき課題だと思う。現行の介護保険の問題点は多い。だが、「利用出来て良かった!」という声もある。この声を大切に、今ある制度を利用し易いものにして質を高めていく必要があると思う。

介護労働者と高齢者はつながって一緒に声を上げられる共通の利害関係にある。地域で議会に入れていくことも有効だ。弱者の視点を大切にしてつながっていくことを考えよう。いま、非常時の名の下で権利が奪われないように声を上げていこう。

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緊急事態宣言に異議あり、改憲利用とんでもない!
4・9官邸前緊急行動に160名の市民が結集

4月7日に安倍首相によって緊急事態宣言が発令された直後の9日夕刻、「緊急事態宣言に異議あり!改憲利用とんでもない、4・9官邸前緊急行動」が約160名の市民の参加で開かれた。

この集会はわずか1日半のSNSによる緊急の呼びかけで行われたもの。集会を呼びかけたのは憲法を愛する女性ネット、市民憲法調査会、中野協同プロジェクト、日本山妙法寺、平和と民主主義をめざす全国交歓会、平和を実現するキリスト者ネット、平和をつくりだす宗教者ネット、許すな!憲法改悪・市民連絡会の7つの市民団体。

開会にあたって、司会の菱山南帆子さんから、「緊急の呼びかけにもかかわらず、大勢の仲間が集まってくれた。集会を呼びかけた後、『こうした行動をするのはテロリストに等しい』などという攻撃もあった。しかし、このまま黙ってはいられない。安倍首相は改憲も言い始めている。安倍首相はコロナの感染を改憲に利用するな!の声を上げなくてはならない」と挨拶した。

主催団体を代表して高田健さん(許すな!憲法改悪・市民連絡会)が挨拶した。

「たしかにコロナの感染に対処することは極めて重要になっているが、しかし、いま問題はそれにとどまらない。安倍首相はこの宣言を報告した衆議院議会運営委員会のなかで、どさくさに紛れて改憲について発言した。ここに安倍首相の危険性が表れている。もともと今回の宣言には基本的人権の制限に触れる問題が含まれている。もし私たちがいま黙っていて、このまま政府の悪政に声を上げることができない国になったら、どうするのか。残念ながらリベラルな言論をしてきた人々の一部にも、こうした行動はやめるべきだとの声があった。しかし私たちはやめるわけにはいかない。無茶をやろうというのではない。できるだけ参加者の健康と安全に配慮して、この行動をやり抜きたい」

続いて日本山妙法寺、平和をつくり出す宗教者ネットの武田隆雄さんからの発言があり、「危機は権力に利用されやすい。自身の後には戦争が来る。気をつけろ。忌野清志郎さんが言いました。安倍政権は新型ウィルスの危機を利用して緊急事態宣言を出しました。次に用意されているのはナチスが使った緊急事態条項です。私たちは警戒を強めなければなりません」と語った。

九条の会事務局長の小森陽一さんから発言があった。

「今日、一人一人の市民が集まって意思表示していることが、きっと、この国の政治の間違いを市民の側から正す行動になる。なぜこんなにPCR検査が少ないのか、東京オリンピックを考慮しての結果だったことは明らかです。このような政治の在り方は許されません。そしてこの緊急事態宣言をテコにして、憲法改悪まで言い出している。安倍首相は憲法を改悪して、米国とともに世界のいたるところで戦争をする国にしようとしている。しかし世界最大の軍事費を使っている米国が国民の命を守れていない。安倍首相の目指すものも同じです」

看護師で、東京新聞に「本音のコラム」を書き続けている宮子あずささんの発言。

「私は看護師をしています。私がここに駆け付けなければならなかったのは、いま、この緊急事態宣言を積極的に擁護しているリベラルの仲間もいるという現状からです。私はきちんと緊急事態宣言には反対だったという事を伝えたいと思ったからです。私たちは命を大事にしない安倍政権が、命が大事という欺瞞、これに気付かなくてはなりません。命が大事ならなぜ救急病棟を減らすのでしょう。感染の問題で大変状態の悪い人も、今はどんどん在宅に帰している。にも関わらず在宅のケアを担う私たちにはサージカルマスクではなく、布マスクしか配給されません。訪問看護をしている仲間が非常に危険な状態にさらされています。本当に命を大事にするなら、この状態を改善すべきです。ところが都知事も首相もこれをそのままにしています。そして改憲の話まで持ち出します。私たちは改憲にはNO。命が大事。ウィルスも怖い。しかし安倍政権はなお怖いとおもいます。それぞれの持ち場でがんばりましょう」。

全国一般労働組合東京南部の渡辺学さんは「春闘の最中、仲間たちはいま闘っている。職場では熱があっても休めない仲間たちもいる。働くものが苦しめられる時代だ。できる限り声を上げていきたい。生き延びて、安倍政権を倒しましょう」と訴えた。日本キリスト教協議会の金総幹事は「いま、この新型コロナウィルスの中で世界のそれぞれが抱えている政治の不条理があぶりだされている。政府はこの緊急事態宣言を改憲の緊急事態条項に結び付ける動きがあることを忘れてはならない」と語った。日野市議会議員の有賀さんはこの日、生活保護の受付をしている部署や社会福祉協議会を訪ねたことを報告した。憲法会議の高橋さんは「大変な時こそ一緒に声を上げていこう。この時期、最大の問題は安倍政権にあることを指摘したい。大型クルーズ船の対策、一斉休校の問題、マスク2枚配布、ほんとうにばかげている。自粛を求めるなら、それに補償すべきだ」と発言した。憲法を生かす会の星野さんは「大変な苦労をして、この場に結集している方々が少なくないと思う。心から敬意を表したい。安倍政権はオリンピックのせいか、PCR検査を避けてきた。お隣の韓国と大きな違いだ。この危機を利用して私たちの権利を抑圧する、改憲を進める、そうした政治を許さない。こういう危機だからこそ、市民の連帯を強めなければならない」など、それぞれ発言した。

その後、集会宣言が読み上げられ、参加者の賛同で採択された。宣言は以下の通り。

集会宣言 緊急事態宣言に異議あり、改憲利用とんでもない!

4・9官邸前緊急行動での市民の要求

安倍政権は4月7日、新型インフルエンザ特措法による緊急事態宣言を発令しました。
しかし、この宣言の発令は日本国憲法が定める基本的人権の重大な侵害にあたる恐れがあるだけでなく、新型コロナウィルス対策に関しても極めて重要な問題を含むものであり、私たち市民は主権者としての立場から厳重に異議を申し立てます。

安倍政権が緊急事態を理由に、日本国憲法第3章がすべての市民に保障する「権利」の不当な侵害を許しません。いかなる場合においても政府はこれを最大限保障しなくてはならなりません。それは政府の義務にほかなりません。

この間の日本政府の新型コロナ対策の立ち遅れは政治的理由によるところが大きいことは否めません。日中首脳会談準備、および東京五輪準備、あるいは客船ダイヤモンド・プリンセスのゲットー化などによって、感染症対策が大幅に遅れたという指摘は果たして当たっていないでしょうか。全国の小中高の一斉休校や、布製マスク2枚の配布など、この間の安倍政権の対応はあまりにもずさんで、場当たりすぎないでしょうか。

他国と比べて日本が大幅に少ないPCR「検査母数」を、「医療崩壊の危険」の脅迫・強調でごまかしてはなりません。検査を故意に絞り込んだうえに市民に情報を隠蔽したまま、いたずらに「危機の脅迫」を行い、緊急事態宣言への「(市民の)協力」を強要するのは本末転倒です。

私たち市民は要求します。

この緊急事態宣言や無謀・無策ともいえる政府の施策によって、政治の犠牲のしわ寄せを受けているすべての「社会的弱者」、市民への例外のない経済的救済・保障を行うべきです。医療・介護・障碍者・高齢者・子どもなどに対する社会保障に全力をあげるべきです。非正規雇用労働者をはじめ、この社会を支えてきた働くものに犠牲をしわ寄せしてはなりません。私たちは叫びます。すべての市民を「生きさせろ!」と。

 米国からの莫大な武器の購入を即刻中止し、その財源を市民生活の救済や、治療法の開発などを含む医療と福祉の充実に回すべきです。大企業がため込んだ莫大な内部留保を吐き出させなくてはなりません。消費税をはじめ税制を直ちに抜本的に見直すべきです。

信頼できない政権の下で、私たち市民が危機対応を求められるのは最大の不幸です。ドイツのメルケル首相を少しは見習ってはどうでしょう。モリカケはじめ偽造・ねつ造・隠蔽、違憲・違法・脱法、権力私物化、強権・暴走の安倍政権の責任は重大です。

さらに、この期に及んでなお、緊急事態対策に名を借りて自己の政治的野心のための改憲策動を進める安倍首相の改憲推進発言は許されません。

私たちはコロナ対策に市民がものを言えない空気を作る政治に反対し、安倍政権の責任を糾弾し、安倍政権の即時退陣を求めます。

市民は安倍政権の分断策動に乗せられるな! 市民は連帯して抵抗しよう、前進しよう!

2020年4月9日   首相官邸前緊急行動参加者一同

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市民憲法講座:アベノミクスの失敗とこれからの日本経済

お話:山家 悠紀夫さん(「暮らしと経済研究室」主宰)

(編集部註)3月21日の講座で山家悠紀夫さんが講演した内容を編集部の責任で要約したものです、要約の責任はすべて本誌編集部にあります。

景気後退局面入り寸前の日本経済

日本経済の今の状況は、景気の後退局面に入る寸前の状況、あるいはすでに後退局面に入っているのかなという状況にあります。安倍内閣はそれをなかなか認めません。毎月政府は月例経済報告という会議を開いて、そこで担当部局が今の経済をどう見たらいいかということを資料を示しながら説明して、それを閣議で了承する格好で発表しています。それを見ますとここ2年ほど、ずっと「景気は緩やかに回復している」と言い続けてきた。いくら「緩やか」でも2年以上も緩やかに回復したら、今は相当良くなっているはずですけれども、現実はご承知の通りひどいことになっています。ともかく政府の見解は今のところ「緩やかに回復している」ということです。

3月の会議が26日に開かれると思います。さすがにそこでは「緩やかに回復」とはいわないと思います。コロナ騒ぎは安倍内閣にとっては非常に「幸せなこと」で、これで「緩やかに回復」と言わずに済む、悪くなっているといっても自分のせいではないと言い逃れができますので、ようやく「緩やかに回復」という判断はやめにするのではないかと思います。

かなり急激に悪くなっています。これについてはグラフを見てください。(図表1)景気動向指数が大幅に悪化となっています。2つのグラフがありますが景気動向指数というものを政府がつくっています。これはいろいろな経済指標を集めてひとつの指標にしたものです。主として見ていただきたいのは一致指数というグラフです。これは景気が良くなると同時に良くなる、あるいはそれが良くなることによって景気が良くなった、あるいは悪くなったと判断できるようないろいろな指数を集めています。例えばモノの生産の指数とか商売の売上高とかといった景気と同時に動くような指標を集めて、それぞれ多少は違う動きをしますから、全部集めて合成するとどんな数字になるかということをつくっています。このグラフでは、波形の線が上へ行くと景気はいい方向に向かっている、下に向かうと悪い方向に向かっています。はっきり悪い方向に向かっているときは黒い影で表し、この部分が景気が後退していた局面で、白いところはそれが終わって良くなった局面です。黒・白・黒・白と、資本主義経済ですからみんなは全体のことは考えずに自分の所の判断だけで動いています。いいときはみんなが良くなっているんだと思って活動を活発にしてますます良くなる、そしてどこかで行き過ぎて悪くなる、という繰り返しをしています。

最近の状況は2012年、2013年に黒い細い影があります。これは民主党政権のときです。ギリシャの財政危機がありましてヨーロッパ経済がおかしくなった。日本経済もその影響を受けて悪くなった時期が2012年いっぱいありました。安倍内閣はちょうどその終わり頃にスタートしました。右端の白い部分はほとんど安倍内閣です。正確に言いますと、景気の悪い時期は2012年11月に終わって12月から景気が良くなる方向に持ち直します。ですからこれは安倍内閣の功績でも何でもない。「民主党政権時代は暗かった」とか安倍さんは言っていますが、もう少し民主党ががんばって政権を握っていたら景気は良くなった。自分達の時代にギリシャのせいで悪くなった景気が、日本もいろいろがんばって良くなってきたと言えたはずですが、ちょっと早まってしまった。安倍さんはそれに乗っかって安倍政権時代は今のところ景気が悪くならない状態できています。

ただ2018年どんどんどんどん線が落ちています。とくに2019年の終わり頃から急激に落ちている。どこから悪くなったと見るかによりますが、過去の落ちたときに比べて下がり幅はかなり大きい。もうすでに景気は悪くなっている、後退局面に入っていると判断してもおかしくないような落ち込み方をしています。しかし安倍内閣は、景気は緩やかに回復していると言っている。GDP、国内総生産の動きは四半期ごとに数字がまとまって発表されます。去年の10月から12月の第4四半期、この年のGDPは前期比マイナス6.3%、年率にしてこのまま行くと6%くらいマイナス成長になるという落ち込み方でした。さらに新しい数字が出てきて修正して7.1%になっています。経済活動が前期に比べて、正確な数字は2~3%、年率に直すと7%という非常に大きな落ち込みです。それだけ経済活動が落ち込んでいるのに、なぜ緩やかに回復と判断できるのか。よくわかりません。

政府の資料には「あれも悪い、これも悪くなっている」。何を根拠にして緩やかに回復しているのかわからないんです。それからGDPもマイナス成長になっている。どう見ても景気は悪い方向に動いている。あるいはもう景気は悪化して、後退局面に入っているとすでに判断してもおかしくない状況になっている。安倍内閣はほっとしているのではないかと思うんですね。どんどん悪くなっていますから。コロナウィルスのせいで経済活動を自粛したり海外からの観光客がどっと減ってしまった。責任逃れで判断を変えることができるという「ありがたいこと」が起こった。

ともあれこの1-3月期も今の感じですと相当消費が落ち込みますね。いろいろな活動を自粛していて、航空会社も観光業者も不安定な状況になっています。今日の夕刊を見ますとイギリスあたりではレストランとかカフェとか、そういう飲食施設はみんな休んでくださいという要請を政府が出したという記事が載っています。ヨーロッパも中国もかなり厳しい状況にあります。韓国もそうです。アメリカもそうですね。そういう状況ですからこの1-3月期の経済活動も相当鈍るだろうと思います。そうするとここに黒い線が入る。たぶん去年の終わり頃から悪くなっているということになります。

先行指数の図がついています。一致指数は景気と一緒に動く経済統計を集めている。先行指数は景気にやや先駆けて動く統計を集めています。例えば機械の注文であるとか、これから景気が良くなるという前兆として動く数字を集めています。これは今の景気の数ヶ月先がどうなるかを予測しています。どんどんどんどん落ちるばかりですから、このままコロナ騒ぎがなくても景気はますます悪くなっていくというのはほぼ確実です。いったい何のためにこういう統計をつくっているのか。景気を判断するためですが、それを無視して景気が良くなっているとなぜ言えるのか。誰かが「安倍さんは息を吐くように嘘をつく」と言っていましたが、よくわかっていないのかもしれませんし、わかっていて言っているのかもしれません。とにかく景気判断に関してはアベノミクスが成功したと言いたいばかりにそういう嘘をつき続けているという状況だと思います。

安倍内閣で景気が良くなったと言っていますが、景気動向指数で見る限り、最初の1年くらいは結構経済活動が活発でした。このグラフを見ると、景気が悪い状態からいい状態に一旦転換すると、後はかなりの勢いで良くなるわけです。景気が少し良くなるとモノが売れ出す。売れ出すとモノをつくらなければいけないので、製造活動が活発になる、そのために人を雇わなければいけない。給料もたくさん払わなければいけない。それによってまた消費が増える。というようにいい循環が最初は働くわけです。ですから景気が回復し始めるとこの数字は上向くのは当然です。

安倍さんは政策をまだ何もやらないうちにどんどん景気は良くなった。そのピーク、最初の山が来ているのは2014年3月で、2014年4月から消費税が上がりました。ですから5%から8%に上がる前の駆け込み需要があって、一時的に3月の経済活動が活発化しました。それで山ができた。当然4月からはがくっと落ち込みました。以降今日まで2014年3月の山を一度も越えていません。消費税8%への引き上げとともに景気は落ち込んで、以降さして良くならなかった。決して景気が良かった6年間、7年間ではなかったと言えると思います。

景気の悪化をもたらしているもの

 どうして今の景気は悪くなったのか。ひとつは消費税を5%から8%に上げたのが2014年4月でした。それから景気が落ち込み、消費が特に大きく落ち込みました。そこから消費はほとんど回復していません。初めは駆け込み需要があり、その後消費が落ちたんだ、いずれ戻ると安倍さんなどは言っていましたが、ずっと戻らずに今日に至っています。ですから前回の消費税引き上げ以降の消費の不振というものが根っこでずっと続いています。

それでも日本経済はある程度成長していたけれども、それを支えていたのは輸出が伸びていたことです。中国経済が好調で、アメリカも比較的景気が良かったので輸出が伸びていた。それが景気を支えていたけれども、そこで問題が起こった。トランプさんがアメリカの貿易赤字は中国からの輸入が非常に多いからだ、それを何とかしろと中国に対して喧嘩をふっかけた。アメリカは、トランプさんに限らずアメリカのモノが他の国に比べて悪いはずがないと思っています。それにもかかわらず中国からの製品がどんどん来るのは中国が不正をしているからだ。不当に安くモノを売っているとか政府がそのためにいろいろ援助している。そういうことがあるからアメリカへの輸出が増えていると難癖をつけたと言っていいと思います。貿易が赤字になったら、普通は赤字になった国の方が責任を感じてなんとか自分の国の産業を強くしなければいけないとがんばるんです。

アメリカは逆でして、相手が悪いんだ、相手に何とかしろといって、貿易赤字の国が黒字の国に文句を付ける。アメリカはだいたいそうですね。特にトランプさんはそうです。そういう格好で中国からの輸入品に大幅な関税を掛ける。要するにアメリカに入ってくる段階で税金を20%から30%くらい掛ける。そうすると中国のモノがそれだけ値段が高くなるわけです。そうすると向こうの製品が2割から3割高くなるわけですからアメリカの製品もある程度対抗できる。そういう措置を打ち出して中国と摩擦が起きました。中国も「わかりました、それで結構です」と言うはずはないので、中国がアメリカから買っているのは農産物が主ですけれどもそれに対して関税を掛けるという、報復合戦のようになっている。

それに影響を受け中国のアメリカへの輸出が当然ながら減ってきた。中国経済がそれで打撃を受けたんです。そのとばっちりが日本にも来た。中国からアメリカ向けのモノは電気製品などが多いです。例えば携帯、それを中国からアメリカに大量に輸出しています。日本はその携帯の中の主要部品を中国に輸出している。中国は日本の部品を頼りにモノをつくっている。中国の輸出がなくなると日本からの部品輸出もなくなる。もうひとつ、いろいろな機械を生産する設備も日本から輸出している。そういう日本の輸出が影響を受けて、中国向けの輸出が減り始めて、だんだん伸び率が縮んでついに前年割れになったのが去年になってからです。その結果、日本の経済活動がマイナスになりました。

それで去年の日本経済自体がだんだん厳しい方向になった。さきほどのグラフが下に向かって落ちていったのはそういう背景がありました。国内の消費が非常に悪いままである、そこに頼りにしていた輸出、特に中国は日本の輸出相手国第1位ですから、その輸出相手国第1位の国への輸出が落ちてしまったということが加わりました。

加えて安倍さんが今度は韓国と喧嘩を始めました。徴用工問題の裁判所の判決が出たので、それを何とかしろと安倍さんが難癖をつけました。三権分立がわかっている方だったら裁判所がどういっても、政府がどうこうできるものではないということはわかるのですが、韓国政府がそれに対処しないのがけしからんと韓国に喧嘩をふっかけました。それで日韓関係が非常に悪くなって、韓国が日本製品を買わなくなりました。また韓国のお客さんが日本に来なくもなった。日韓関係も怪しくなり、外交面のトラブルで日本経済は悪くなりました。それが去年の秋くらいの話です。

そういう状況では消費税を上げてはいけないと、私などもいいましたし、ある程度経済をわかっている人は今消費税を上げるタイミングではないと主張しましたけれども、安倍さんは聞かない。消費税を10%へ上げることは、過去2回見送っていて、そのときに比べても去年10月の状況はもっと悪かった。だから過去2回見送ったことが正当であれば、今回も見送るべきだという方が話の筋は通っているわけです。

過去の2回はいずれも選挙があったんですね。選挙前だから消費税増税を見送ることによって票が取れる。今度の場合は選挙がという制約はないが、消費税の影響はあるとは思ったのでしょうね。あれこれの還元策、電子決済をするとその分を還元するとかいろいろな手段を弄した政策をいくつか出して、これで大丈夫だということでやった。けれども予想通り、去年10月以降、消費が大幅に落ち込みました。もともと14年の引き上げのときから消費がずっと落ち込んでいましたが、それがさらに落ち込んで未だに止まっておりません。

こういう3つの要因、もともとの消費の不振と輸出の落ち込みと、さらに消費の落ち込みが重なって、去年の暮れから今年にかけては本当に厳しい状況に日本経済はなっていきました。そこに4番目に加わったのは今度のコロナ騒ぎです。これはまだ国民所得統計などには出てきませんけれども、まもなく3月からの落ち込みの数字などが出てくると思います。実態経済面ではあちこち悲鳴が上がっています。そういう大変な状況になった流れがあります。

「日本経済の再生」ならず=失敗したアベノミクス

このように落ち込み寸前になったアベノミクスですが、なぜ「失敗」と見るか、という話です。安倍さんはいろいろな経済指標を、自分で見ることはないので誰かから教えてもらうのでしょうね。何とかいい資料を探して「倒産が減った」とか「求人倍率が上がった」とか「雇用が増えている」とか、自分にとってプラスのものを見つけてきては「アベノミクスは成功している」と言い続けてきました。けれども、勝手に各種ある統計の中から都合のいいものだけを取り出して「だから良くなっている」というのは邪道です。

判断基準はしっかり持つべきで、ここでは2つの理由を上げました。ひとつは安倍内閣がそもそも発足のときに「こういう経済にします」という目標を掲げています。その目標が実現していないから、これは失敗と言わざるを得ない。それがひとつの理由です。もうひとつ、国民の暮らしが非常に厳しいことになっている。あらゆる経済政策の最終目標は暮らしを良くすることですから、暮らしが悪くなって何が成功だと、そう判断すべきだと思います。その2つの自ら掲げていた目標が実現できていないからアベノミクスは失敗しているといわざるを得ません。

ひとつ目の、目標が実現しないという例です。「骨太の方針」というのは小泉政権の頃からやっています。年度の初め、5月、6月頃にそのときの政府がどういう目標を持ってどういうことをやっていくかという方針を出すことが慣習になっています。安倍内閣が発足した翌年、2013年6月に骨太の方針を出しています。そこでは安倍内閣は「三本の矢の政策をやります」ということが書いてあって、それによってこのような経済を実現しますと書いてあります。そのひとつが名目成長利率を年平均3%、安倍内閣が発足して10年間の、2013年から2022年までの平均で3%の成長を実現すると書いてあります。名目成長率というのは、1年間でつくりだした富の合計額、モノとかサービスの付加価値の合計額=GDPと言いますが、平均3%を実現すると言いました。

ふたつ目は実質成長率です。名目成長率には物価が上がって増えた分も入りますから、物価の上昇分を除いて実質的に経済がどのくらい膨らんだか、それを10年間の平均で2%にしますという目標を掲げました。しかも余分なことをいいまして2%、3%は10年間でできるんですが、後半にはさらにそれを上回る成長に持っていくと書いている。それがどうなったか。(図表2)のグラフの通りです。まず10年間の平均成長率が名目で3%、一番上に目標という数字を掲げました。折れ線は2013年から2018年までの実績です。これは4月から3月までの1年でどういう成長率になったかという実績で、ご覧の通り一度も3%になったことはありません。過去の2013年から2018年の6年間の平均を取ってみますと1.7%です。10年間の平均を3%に持っていくためには、これから先は4%から5%成長しなければならない。あと3年しかありませんがこれを毎年やらなければなりません。到底不可能です。今の見通しでは、日本経済はどの年も0%台という予想を国際機関などは出しています。安倍内閣自体も3%の目標は達成できるといいますが、今度の予算でも2020年度の経済成長率の目標は1.3%くらいです。どんなに逆立ちしても平均3%にならないという状況になっています。それから実質成長率の目標は2%です。それも最初の年だけ、景気回復の初期で、この年は公共事業をずいぶん増やして経済をかさ上げしましたから、2%をちょっと超えました。以降は一度も2%にならずに、今のところ過去6年間の平均が0.7%です。2019年度はほとんどゼロですから、これを10年間平均で自ら掲げた目標が実現不可能になっている2%に持っていくためには、この先2020年、2021年、2022年の3年間で想像を絶するような経済成長を遂げないとできない。明らかにもうできません。この成長を実現することによって日本経済を再生させるといっていますが、再生はできなかった。これを失敗と言わずして何と言えばいいのでしょうか。

それからもうひとつ消費者物価上昇率2%。これは正確に言うと安倍内閣の目標ではなくて、日本銀行が立てた目標です。ご承知の通り安倍内閣が発足したときに日本銀行がなかなか言うことを聞かない。そのときの日本銀行総裁は白川方明さんです、日本銀行総裁の任期は5年間です。日本銀行は自由に行動できるのが建て前ですから、気に入らないからといって政府は取り替えることはできないという制度になっています。幸いなことに安倍内閣が発足した翌年、2013年5月に白川さんの任期切れになりました。白川さんは任期切れの少し前、3月に自ら退任しました。白川さんは嫌気がさしたんでしょうね。いろいろな変な注文が来て、それに何となく従わなければいけない。白川さんが本を書いていますが、そういうことを選挙で言って当選した、総理になった人が言ってくることをそう無碍にはできないから苦労したなんて書いています。とにかく抵抗があった。白川さんの任期切れの少し前、5月まで任期があったんですが3月に自ら退任しました。そして今の黒田東彦さんに替えました。

「白」から「黒」へ。自分の言うことを聞きそうな、同じ考えの人を総裁にして、日銀の政策が文字通りオセロゲームのようにひっくり返りました。それから後は政府の思うなりの政策を取っていきます。その人が2013年4月、最初にやった政策が「異次元の金融緩和」です。どんどんどんどんお金を民間に供給する。正確に言いますと、銀行などが持っている国債を日本銀行が買い上げて、現金を民間銀行に代金として払う。そうしてお金ができるから民間銀行は貸し出しを増やすだろう。増やせば銀行から借りた方はそのお金で経済活動を活発にするだろう。モノを買うだろう、企業は設備投資をするだろう、金融緩和をすれば需要が増えて物価が上がり出すということで2%の物価上昇という目標を掲げてそれを実現すると黒田さんが言いました。少なくとも2年くらいを目途に2%の物価上昇を実現しますと言いました。

グラフをご覧いただく通りこれはまったくできない状況です。2014年に上がっていますが、これは消費税を3%上げましたから2%くらい物価が上がった。その部分を差し引くと、需要が増えて物価が上がったわけではありませんから例外です。2013年に政策を打ち出しましたから、2015年くらいには2%になっていなければいけないし、今も物価が2%上がる状況になっていなければいけない。けれどもなっていません。初めは2年後にできる、やると言っていたのができないので、見通しを替えて翌年にはできると言った。それもできないのでまた翌年には2%できますといった。最近はくたびれたのか、さすがに言わなくなりました。

金融緩和は引き続き続けているわけです。お金をどんどん民間銀行に供給している。けれども銀行から民間にお金が出ていかない。当たり前ですよね。銀行は、そう簡単に押し売りができるわけではない。相手の人は金利を払ってお金を借りるわけですから、お金を貸すよと言ってもただではないわけで、そういう無駄な出費はしません。もうお金はいりません、あり余っていますということで借りてくれません。ですから日本銀行が国債を買って払ったお金はひたすら銀行の手元に残っているわけです。お金を国債に替えてもらったけれども、銀行としても使いようがない、貸しようがないという状況です。

それに業を煮やしたか、マイナス金利という政策を日本銀行はとりました。日本銀行が国債を買って、出したお金を当座預金-銀行の手元に置いておくと、それに対して金利を取るぞというマイナス金利政策に転換します。普通はお金を貸したら金利を取るけれども、お金を借りたら金利を取られるという政策です。それでもやっぱり出て行きません。だから銀行は困っていて、銀行経営は非常に厳しくなっています。

まだ大銀行は持っているお金を海外で貸すことはできます。ドルとかユーロに替えて相手国にお金を貸すことはできる。ところが中小銀行-世界各国でお金を貸したりすることができない地方銀行とか、もう少し下位の信用金庫とか信用組合などの金融機関は国内で仕事をしているわけですから、お金の借り手がなくてどんどん経営が悪くなっています。これから地方銀行同士の合併とか統合がますます起こってくると思いますが、そういう状況に追い込まれています。ここでの話は、目標は全然実現できていないし、これからも実現できる見通しはまるでない。政府の目標もそうですし、政府と一体である日本銀行もそうです。これはもう明らかな失敗ということだと思います。

アベノミクスで人びとの生活は一段と厳しいものに

 (図表3)ですが、暮らしはどうなっているか。総理府「家計調査報告」という、全国の1万世帯くらいを抽出して、その世帯から出してもらった家計簿を集計した統計です。家計がどういう生活になっているかを見ることができます。安倍内閣発足前の2012年の暮らしの状況と2018年までの6年間で、どういう変化が起こったのかを見たのがこの表です。勤労者世帯の7割から8割がサラリーマン世帯で、あとは自営業とか無職の人の世帯です。その大半を占める勤労者世帯、家族と一緒に暮らしている2人以上の世帯の生活の状況がまとまっています。独身のサラリーマンはここには入っていません。

まず支出の方ですが、年間の支出を12で割って月平均いくら使っているか。サラリーマン世帯の平均は2012年は31万4千円、2018年は31万5千円ですから6年間で生活は全然変わらず、同じくらいのお金を使っていることがわかります。この6年間は途中で消費税の引き上げがありしました。それから円安があって輸入物価が上がりました。通してみると物価は5%くらい上がっている。先ほど言ったように1年で2%の物価上昇させるという目標は達成しませんでした。毎年1%上がれば5年で5%上がり、消費税が引き上げられるともっと上がるということで、物価は5%くらい上がっています。ということで支出金額が大きいということは、サラリーマン世帯の暮らしは5%くらい実質的に落ちてしまった。これだけのお金を使っても、買えるものはそれだけ減っているという結果になってしまった。アベノミクスのせいで暮らしは貧しくなったということです。

図表3で消費支出の中の、主な支出項目の代表的なものを上げておきました。変化の大きなものです。食料品は6万9千円から7万6千円 になりました。月に7万円くらいで食料をまかなうというのは日本の平均的なサラリーマン世帯の数字で、最低で2人、あるいは3人4人の 家族の平均的な暮らしのようです。右端の数字は110ですから食料品の支出は10%くらいこの間に増えました。平均的な物価は5%ですけれども生鮮食品などはもっと上がっていまして、生活費としての食費を考えますと10%くらい物価が上がっています。食事の内容はそんなに落とすことはできなくて同じようなものを食べてきたとすると、支出は10%くらい膨らんだことになります。これは比較的自然な数字が出ています。

ところが全体は100のままですから他にしわが寄っています。どこかというと、一番代表的なのは交際費、要するにお付き合いの費用、冠婚葬祭とかいろいろな会合あるいは職場で帰りにちょっと飲みに行くとか、これが一番切り詰めやすいのですかね。90になっていて、月に2万円使っていたのが1万8千円になった。保健医療も、数字は100ですけれども医療費も若干上がっていますから医者にかかる度合いは減っているということがあります。それから学費。教育費はやっぱり子どものことですから無理しても負担するということで10%くらい支出が増えています。という格好で家計は努力している。一番下のエンゲル係数をご覧いただきたいんですが、エンゲル係数というのは全体の支出の中から食費に使った割合です。私が小中学生の頃は、エンゲル係数はかなり重要な経済指標として学校で教えられました。これが高くなると生活が厳しくなり、豊かになると食費にそこそこ使っても他のものにも使えるということで、エンゲル係数が高くなっているということは貧しくなっていることの証拠だと習いました。ある程度みなさんの生活が豊かになったのでほとんど使われなくなったんですけれども、ここに来て安倍内閣になってから急に注目され始めました。6年間で2%ですけれども、毎年毎年上がっている。何十年間ほぼ横ばいだったのが上がり始めた。暮らしが厳しくなってきたということで注目を集めています。

それからもうひとつ、消費性向という数字があります。収入の中の何%を消費に回したか。可処分所得の中の消費にまわす比率のことを消費性向といいます。その消費性向が下がっているということが注目すべき点だと思います。普通は所得の伸びが少ないと消費の方はなかなか切り詰められませんから、消費性向は上がります。自然に生活をしていると収入が減っても貯蓄に回すものを減らすということで消費性向は上がります。けれども安倍内閣の6年間は収入がほとんど伸びなかったにもかかわらず、消費性向はさらに落ちた。要するに収入の低い伸び以下に消費を抑えた。可処分所得は107とあります。それに対して消費支出は100ですからその分貯蓄に回した。

ひとびとの暮らしに何が起きているか

小泉内閣の頃から自民党・公明党政府はひたすら自己負担を増やし、サービスの内容を削るという社会保障制度の改革をやってきました。年金を減らすとか生活保護も減らしています。それから医療費のように自己負担をどんどん増やしました。ですから人々にとっては不安が増して将来に備えていかなければいけない。去年、退職してから2000万円くらいは金融資産を持っておかないとだめだという政府の報告書を準備してしまってひんしゅくを買いました。2000万円は到底無理としても少しでも将来に備えておこうと、各家庭は防衛的な生活態度を取り始めている。その結果消費が抑えられて、より一層景気が悪くなるということも起こっています。

しかしこれはサラリーマン世帯の平均、可処分所得が月42万円から45万円の世帯の動きですから、まだ問題は比較的少ないと思います。問題は低所得収入の世帯という、全体の20%の家計の動きです。家計調査というのは調査対象世帯を5つに分けています。所得の低い順に、各20%のグループがどれだけの収入と支出かということをまとめています。ここでは一番所得が少ない世帯の状況をまとめておきました。先ほどと同じように、消費支出で見ますと24万8千円が24万5千円で、これも6年間ほとんど額は変わっていません。もともと貧しかった生活が、買い物の量が減りましたから、より一層貧しくなったということが起こっています。お金の使い方では、食事だけは6万2千円から6万7千円の食生活です。物価の上昇を考えると、切り詰められないようなぎりぎりの生活をしている世帯が多いので、物価が上がった分は仕方なくそれは負担して、食費は上がっている。

抑えているのは何かというとひとつは保健医療、これは90%くらいになっています。金額はわずかで、月平均1万1千円使っていたのが1万円になった。それから教育が抑えられている。月平均にして8千円くらい使っていたのが7千円。10%抑えられている。交際費を抑えているのは平均の数字と同じです。また、貧しい世帯では医者にかからなくなっている。お医者さんに言わせると、歯医者さんなどは普通の歯が痛いくらいでは今は来なくなった。来た人はみんなひどい状態になっている。もっと早く来る段階でお金がもったいないから、我慢できなくなってからやってくるということが多くなっていると聞きます。それから教育費、これも子どもの学費が払えなくなった。大学に行ったけれども学費が払えないでアルバイトをしても、アルバイトばかりでろくに勉強ができない生活になってしまった。あるいはもう大学をやめてしまっているという格好でしわが寄っています。ついに身体を、命を削って生きざるを得ない状況になっている。あるいは子どもに教育を十分に受けさせることができなくて、今の時代の格差が次の世代にまで持ち越されるような時代になっている。大変なことが起こっているということがここからうかがえるわけです。

エンゲル係数も大きく上がっています。食べるだけで精一杯。消費性向は100を超えていますが、何が起こっているか。安倍政権の前からですけれども全世帯の2割くらいの世帯は、収入だけでは生活できない。可処分所得が20万9千円とあります。消費支出が24万~25万円くらいですから、4~5万円足らない、ぎりぎりの生活でも収入だけではまかなえない。どうしているかというと誰かに頼っている。若い世帯だと親に頼って援助してもらっている。あるいは知り合いから貸してもらっている。もうどうしようもなくなったら生活保護などで収入を補填している。そういう生活になっている人が下の方20%の中の大概を占めているという状況になっていると思います。もともと厳しかった生活がさらにさらに安倍内閣の6年間で厳しくなったということが起こっている。これもやっぱり政策の失敗といわざるを得ないと思います。

アベノミクスはなぜ失敗したか

そもそもアベノミクスとは何だったのか。安倍内閣が登場したときに、これからの経済を安倍内閣はこうやっていきますというペーパーを出した。2013年1月です。それが科学性とか論理性に欠けるということです。書いてあることを順番にいうと、日本経済は長らく停滞状態にある、そしてこれまでの内閣はいろいろやってきたけれどもうまくいかなかった。安倍内閣は、アベノミクスの三本の矢で日本経済を再生させますと書いてあります。なぜアベノミクスで再生できるのかはまったく書いていない。普通ですと、バブルがはじけてから20年くらい今の日本の経済は厳しい状況にあり、これまでの内閣はそれに対して上手い政策をとれませんでした。アベノミクスはそれを「三本の矢」でと、いきなり天下り的にアベノミクスをやれば景気は良くなるという神がかり的な宣言の文書になっています。本当にできるのか、その証拠はどこにあるのか、安倍内閣が出したペーパーを見てもどこにも書いていない。これまでにやったことのない政策がひとつの売りで、どの時代の日本政府もやったことのないようなむちゃくちゃな金融緩和をするからできます、といっているような感じです。

2番目に、日本を世界で一番企業が活躍しやすい国にします、企業にとって日本が一番いい国にしますと書いてあった。これも読んで驚きました。今までの総理大臣でこんなことを言った人はいません。総理大臣は経団連の会長ではありませんから、企業を良くすることを政策の目標にするなんていうことはありえないですね。そこに住んでいる人々が世界で一番いい国だと思えるようにしたいというなら総理大臣としてわかります。企業にとって一番いい国にしたいという目標を掲げています。そのためにすべての政策を動員するといっています。

金融緩和もそうですね。企業というのはお金を借りている主体ですから、こんなに安い金利でお金を借りる時代は今までなかった。世界中でも一番安い国です。それから税制も、安倍内閣になって毎年のように法人税率をどんどん下げています。儲かっても税金は少なくてもすむという社会をつくっています。

目に見えやすいところでは、安倍さんはこれまでの総理大臣になかったほど外遊、海外に行っています。そのたびに40~50人の企業経営者を同伴している。ほとんどの外遊がそうです。同伴した経営者に向こうの企業と商談して、売り込みの相談の機会を与えています。政府が斡旋して向こうの企業の代表などとのチャンスを与えている。原子力発電所の売り込みはみんな失敗していますが、そのほかの中小の商談はいっぱいまとまっているかもしれません。その際にお金が必要だったら、政府の金融機関を使って相手企業にお金を貸してあげます。ですから相手はお金がなくても借りられる状態にします。ありとあらゆるサービスを企業のためにやってきたのがこの6~7年間の安倍政権です。これだけは文字通り公約通りいろいろなことをやっています。実らなかったのはタイミングが悪かったか考え方がそもそも無理だったかですけれども、とにかくやっていることは事実です。

その結果安倍内閣のもとでの企業の利益は、毎年毎年史上最高という利益を出しています。発足当時は日本の全企業の利益が30兆円くらいでしたけれどもいまは80兆円、それくらいに膨らんでいます。それだけ企業のために尽くしてきた。ただそれで日本経済が良くなったかというと、企業の内部留保、儲かったお金を貯め込む金額だけはどんどん膨らんできたということが起きているわけです。

3つ目の特徴は暮らしのことがひとつも書いていない。安倍内閣が発足したときは、2009年の派遣村などの大変な状況からまだ3~4年しかたっていない。普通の内閣であったら、厳しい状態である国民の暮らしを何とかいい方向に向けるということを目標に掲げてもいいと思いますが、そういうことはまったく書いていない。安倍内閣は「4つの危機」ということを最初にいいました。復興がなかなか進まない、経済が厳しい状態になる、教育の危機とか外交危機とかですが、その中に暮らしの危機という文言はひとつもありません。まったく人々の暮らしが目に入っていない。企業が良くなれば自ずから良くなると思っているのかもしれませんが、そういう欠陥を持ったアベノミクスでした。

「三本の矢」が「的外れの矢」だった

そのアベノミクスがうまくいかなかった理由として、2つ書きました。三本の矢のひとつ目は金融緩和、今までやったことのないようなお金を民間の金融機関に渡す。それで経済を良くするといった。しかし日本経済は、そもそもお金がないから停滞していたわけではない。ですからいくらお金をやっても金融機関から出ていかないということは、もうそのときからわかっていたはずです。安倍内閣がスタートしたときの日本の金融の状況を見ますと、日本はその当時先進国の中で一番金利の低い国でした。それから、出回っている通貨の量も経済規模の比較でいうと世界で一番量が多い、そういう国でした。要するに世界で一番金融緩和をしている国です。そういう国にもかかわらず、さらにそこで金融緩和をしたら、何かいいことが起こるか。結果として何も起こらなかった。

今でもやり続けているわけですが、ひたすら金融機関にお金が貯まって、日本銀行は替わりに国債をどんどん買い込んで国債ばかり膨らむという状況になっている。2年を目途に物価を上げるといって上がらなかったとわかたら、そこで方針転換しなければいけないけれども、さらにさらにやりますと言っている。

今度のコロナの問題でも心配しました。これだけ効かない金融政策をやっていて、さらに日本銀行は考えるといっていたので、何か変なことをやられたら困るなと思っていました。日本銀行が何をやったかというと、株式の入った投資信託を今まで以上に買うという政策です。要するに株を元に信託証券を発行してそれを日本銀行が買っているわけです。これも黒田さんになってから始めた政策で、株を上げるための政策です。今回のコロナ騒ぎで、今6兆円くらいの枠で買っているものを、12兆円くらいの枠に膨らませるという政策です。株を買い支えるという政策をいま日本銀行はコロナ騒ぎの中でやろうとしています。株は下がるより上がった方がいいけれども、そんなことは日本銀行が一生懸命やることか、という感じがします。金融政策はもう何もできない状況になっていますが、何かやろうとしている。愚かなことになっています。

それから2番目の矢は公共事業を増やすという政策です。ときどき公共事業を大幅に増やしています。今度も消費税を上げて景気が悪くなるといけないから公共事業を増やすという、今国会にかかっている予算はそういうものです。しかし何せ長続きしません。財政が大変な赤字だということはみんなわかっていますから、公共事業を受注する側も今増えているのはたまたま臨時で増えているだけだと分かっています。そのために公共事業がこれからどんどん増えるから、設備とか人を増やそうとはまったくしない。いまある人と機械でやれることはやりましょうというくらいに止まっていますから波及効果はまったくない。ですから公共事業をやったとしても、成長率は多少上がるけれども息切れしてすぐに止めてしまうともとに戻ります。何かモノは残るわけですからいいものが残ればそれはそれでいいすけれども、中には無駄な公共事業、リニア新幹線とかああいうものも入ってくる。そういうこともたくさんやっています。

もうひとつうまくいかなかった理由として、安倍さん初め閣僚・スタッフも含めて人々の暮らしを考える視点がまったく欠けていた。この間、消費税を2回上げました。5%だったのを8%にして今10%にしました政策です。ただでさえ所得が伸びなくて人々が苦しんでいるのに、さらに消費税をたくさん取り暮らしを傷つけるような政策です。それから社会保障制度で、財政の健全性を維持するためにということで毎年改悪して自己負担を増やし、サービスを削っています。例えば要介護3以上の人でないと特養に入れないとかということで制約をつくる。あるいは要支援の人に対するサービスも、介護保険から外して自治体で勝手にやってくださいと改悪しています。そういう暮らしを傷つける、サービスが受けられなくて人々の不安が増える、消費税を上げるという政策をしましたから、日本経済の再生、暮らしを良くすることになどに役立たなかったのは当然の結果と言えるわけです。

長期停滞の真因は人びとの所得が増えないこと

 そもそも日本経済が長期に停滞している理由は何なのかということです。それは1997~1998年頃を境に賃金が上がらなくなった、働く人の給料が増えなくなったということが最大の原因ではないかと私は思っています。給料が増えないからモノが買えない、したがって消費が伸びない。日本経済を引っ張るのはいろいろな需要がありますが、一番大きなウェイトを占めているのは民間の消費、みなさん方が消費支出をすることによって需要全体が膨らんで、それで経済が活性化することです。人々の所得が増えないから経済が良くならないということが1997~1998年頃から起こり始めた。それがいまだに続いている。それが最大の要因です。

これについては2つの要因があります。ひとつはGDP、経済の成長率で、もうひとつは賃金です。1997年を境に日本は賃金が上がらなくなった。ドイツ、フランス、アメリカ、欧米諸国はそれなりに過去の延長線で賃金が上がっている。それを反映してGDPを見ると、日本経済は1997年以降、成長しない経済になっている。ドイツ、フランス、イギリス、アメリカはそれなりに拡大していて、賃金が上がった国はそれぞれの経済が拡大しています。上がらなかった日本は拡大しない。国内の需要の最大のものである個人の、われわれの買い物、それが伸びない。大元にある賃金が伸びないから消費が伸びない。したがって経済全体も拡大しない。

ですから日本経済を再生させるにはこれを何とかしなければいけないということです。賃金が伸びるような政策を考えなければいけなかったんですが、安倍内閣は暮らしにまったく関心がないようですから、それをまったくしなかった。逆に消費税をとって、政府が取るものをさらにさらに増やしたわけです。

97、98年頃を堺に変わった日本経済の構造

なぜこんなことが起こったのかということが次の問題です。(図表4)を見てください。これは労働経済白書という厚生労働省がつくった白書に書いてあるグラフです。このグラフは横軸に企業の利益の動き、経常利益を取り、縦軸に賃金の水準を取っています。100のところは、景気が良くなり始めたその前の利益なり賃金を100にして、景気が良くなるにつれて収益と賃金がどうなったかという2つの水準が出ます。その縦軸と横軸をずっと結んでみたグラフです。一番上が「1986Ⅳ~」とあります。これは1986年の第4四半期から始まった景気の良くなる時期、その下の「1994Ⅰ~」は1994年第1四半期から始まった景気の良くなる時期、5回くらいの景気の良くなった時期をとらえてその時期に収益と賃金がどう変わってきたのかを見えるようにしたグラフです。

図をご覧いただきますと2つのグループがあることが判然とします。ひとつは右上に線が延びている。「1986年~」と「1994年~」、この2つの景気回復期では線が右上に向かって伸びていった。すなわち景気が良くなるとともに企業が儲かるようになる、線は右に行くわけで、それとともに賃金も上がり、線は上に行いきます。全体として右上に行く。ごく当たり前の、景気が良くなって企業が儲かるようになり、それとともに賃金が上がるようになったということが1986年と1994年の景気回復期です。

もうひとつのグループは線がほとんど真横あるいはやや右下に動いているグループです。何が起こったかというと景気が良くなるに連れて企業が儲かるようになり、線は横に向かいます。ところが賃金はさっぱり上がらない、最初の時よりもむしろ下がり気味で推移している。どんどん右に向かっていく。2009年からの景気回復期などは横軸の上の方は200を超えています。企業が2.5倍くらいに儲かっている。ところが賃金は初めのときとまったく変わらない。この境目はどこかというと、1997年くらい、90年代後半です。97年は橋本内閣です。そのときに「六つの改革」と言われる構造改革を始めました。2000年代は小泉内閣、今は安倍内閣、そういう内閣が構造改革を一生懸命進めました。そういう構造改革のもとで私は日本経済の構造が変わってしまったと考えています。

一生懸命やった構造改革で構造が変わり、どういうことになったか。それまでは景気が良くなると企業が儲かって賃金が上がる構造だったのが、景気が良くなって企業が儲かるようになっても賃金がまったく上がらないという経済構造に変わってしまった。それに最大の問題があるのではないか。この図は白書から取りました。政府の文書ですから「この背景には構造改革がある」とは書いてありません。ただこういう構造に日本経済はなってしまっています。

なぜこういうことになったのか、構造改革とどう関係があるのか。構造改革の一番大きな政策は規制緩和です。企業の手足を縛っているいろいろな規制を外す。好きにしていいよということです。その結果いろいろな変化が企業経営の面あるいは労働の面において起こりました。企業経営についていうと、とにかく競争が激しくなった。異業種からの参入もどんどん認めるようになった。流通の世界でいえば大店法などが規制緩和されて大型店がどんどん進出するということもありました。非常に企業間の競争が厳しくなった。企業としてはいくら儲けても儲けすぎることはない。儲けはできるだけ中に貯め込んで、何といわれようと自己資本、内部留保を厚くしないと不安であるという時代になりました。今まで以上に儲けよう、そして儲けを貯め込もうという動きが強くなりました。

派遣労働の規制緩和

このことの裏で何が起こったか。そういう状態になると普通、企業はモノが売れ出すから設備を増やして、人も増やします。あるいは働いている人に残業してもらう。そういうことで人件費が高くなって、当然給料も上がったわけです。それを上がらないようにするような規制緩和が行われた。何かというと派遣労働の規制緩和です。派遣制度というのは中曽根政権のときにできました。最初はごくごく特殊な能力持った人だけを他の会社に派遣してもよろしい。例えば英語の能力が非常に優れている人を、たまたま企業がそれまでなかった外国の企業との商売がでてきたので、それでそういう能力を持った人を派遣会社から派遣してもらう。その仕事が終わったら派遣が終了する。コンピュータもそうですね。コンピュータ技術に長けた人に導入時に来てもらって助けてもらう。そういう人は能力がありますから労働条件も決して悪くならない。特別な能力があればそれなりの仕事がある。それならいいということで派遣会社は認められました。

それが1980年代半ばの中曽根政権のときです。当初は派遣を使うことによって今働いている人の地位が脅かされてはいけないという注文を審議会は付けていた。そういう制約のもとで始まった派遣制度ですけれども、どんどん規制緩和が行われました。そして小泉内閣のときについに製造業も派遣労働者を認めてよいということになりました。不思議なことですけれども派遣労働者は賃金が安いんですよね。企業にとってはありがたい存在です。派遣はいつでも首を切れる、あるいは1年間で契約して1年たったら契約満了として辞めてもらうことができる。その間に景気が悪くなっても簡単に首切りができる。争議が起こっても何ともない。企業は景気が良くなって仕事が増えたときに、派遣社員あるいはそれに類似したアルバイトという格好で仕事をしてもらう方向にどんどん移していく。正社員が定年で辞めれば派遣社員を使う。あるいは辞めなくても代替することによって、労働のコストは賃金の安い人でまかなうことができる。だから企業は一段と儲かるようになったし、賃金は平均の水準が下がるということになった。

こういう変化が構造改革の政策のもとで起こりました。しかも構造改革によって企業は株主に奉仕することが目的であるという考え方が非常に広まりました。こういう行動を引き起こしても社会的に非難されることはなくなった。それから儲かっている企業でも、不採算部門は整理した方がより儲かるということで、好況のときにも首を切ったり派遣労働者に置き換えることも可能になりました。経営者にとっては競争が激しくなって、企業にとっても合併なども増え、とにかく資源を最大限有効に使わない限り自分の首が切られる、他の会社に乗っ取られるという恐れが強くなった。かつては儲からなくても別の分野で儲けて補おうという経営ができたんですが、競争が激しい時代になると不採算部門を整理してもっと儲かるようにする。企業経営者としても儲かっているからといって安心できないわけです。他の人が経営したらもっと儲かる余地がある、そういうことをみんな気にするような経営に変わってきた。それも構造改革のひとつの結果だと思います。そういう変化が橋本内閣が構造改革を始めた頃、それから小泉内閣の政策がだんだん積み重なってこういう結果を生んでしまった、ということが今までの日本経済だと思います。

日本経済を停滞から脱出させるためにすべきこと

(図表5)のグラフは、世界の先進国が集まった組織であるOECDが発表したグラフです。この20年くらいで各国の賃金の水準、残業代を含めた民間部門労働者ひとり当たりの総収入の変化を示しています。ドイツ、アメリカ、イギリス、フランス、いずれも賃金が1.6倍から1.8倍に上がっています。ところが日本だけは92ですから1997年から20年で賃金はむしろ下がっている。こういう変化が起きていて、構造改革はそういう日本経済をつくりました。これは賃金ですけれども、経済成長率も同じように日本が一番成長しない国になりました。

アメリカ、イギリス、フランスなどもこの間新自由主義的な経済政策で、日本と同じようなことを行っています。なぜ日本だけ、こういう結果が出ているのかという疑問が起きるかと思います。それは組合に問題があるのではないか。組合がこれを止める力を持っているはずですけれど、日本ではその力が働かない。ヨーロッパとかアメリカでは大半が産業別の組合ですね。ですから自動車労働者の賃金をどうするかは自動車関係の組合が経営者側と話して結果を出す。日本は基本的には企業別の組合です。トヨタの組合はトヨタの会社と交渉して賃金を決めます。ヨーロッパの場合には全体の組合と全体の経営者の代表が賃金を決めますから、企業にとってはそれが与件になります。約束した賃金を払う前提のもとで企業経営をそれに合わせなければいけない。

日本は企業別の組合ですから、「非常に競争が厳しい、このまま賃上げをしたらこの会社は潰れるかもしれない」といわれると、労働組合の方がそれに同情してしまう、あるいは潰れては大変だということで協調的になってしまうということがあると思います。ですからこういう流れに歯止めを掛けることができない。企業が儲かっているときは日本の組合もそれなりに力を発揮して、儲けの幾分かは賃金として取ることができ、右上がりの線になった。でも状況が厳しくなって、今儲かっても将来何が起こるかわからない。実際今のコロナ騒ぎも、その前のリーマンショックも、円高とかギリシャで起こった問題とか、突然外から大変化が起こった。そういう時代ですから、経営側から言われるとついつい折れてしまうことがある。それからひとりひとりの働く人の、あるいは社会全体の人権意識の貧しさ。このような給与体系では非常に問題だ、子どもを育てられないような賃金で雇うのはだめだ、というように考える労働者が多くなればそれなりの抵抗力がつくと思いますが、日本では企業がうまくいかないとまずいと考える人が多いのではないか。そういうものがこういう結果になっていると思います。

労働条件と社会保障の改善が停滞脱出の道

では、長期の停滞から脱するためにどうすればいいのか。答えはひとつです。とにかく働く人の処遇を良くしなければいけない。賃金を上げなければいけない。労働時間も無制限に働かせるようなことをしないで、1日8時間、週40時間働けばちゃんと生きていけるだけの給料を払わなければいけないという制度をつくる。すなわち最低賃金を大幅に引き上げる。日本の最低賃金は先進国の中で一番低いです。東京でようやく時給1000円を超えたところで全国平均はもっと低い。アメリカでも州や市によっては1500円くらいの水準になって、それを目標に動こうということになっています。ヨーロッパ諸国では、日本円で1500円から2000円の最低賃金が多い。日本はもっともっと最低賃金を上げて全体の賃金を底上げすべきです。

もうひとつは、そもそもの原因である非正規の雇用に歯止めをかける。正規雇用を代替するような採用をしてはいけない。1年間ずっとあるような仕事については必ず正規として雇い、ちゃんと処遇しなければいけないような規制を強める。これは派遣が問題になったリーマンショックのあと、そういう動きが一時ありました。民主党政権も派遣労働を規制強化するといっていたけれども、だんだん民主党の力がなくなって、消費税の引き上げ提案などで国民の支持を失い、思うようにできなくなった。安倍政権になって、より一層規制緩和が進んでしまったという残念な歴史があります。企業と組合に任せて、いい労働条件が決まればいいけれども、残念ながら組合の方が劣勢です。企業の方はできたら儲けなければいけないという危機意識が強いので、それに対してやれるのはやっぱり政府しかありません。政府の力で労働条件をきちんとつくらなければいけないということで、法律なり規制をつくって縛っていく。それで底上げをすることが必要で、労働条件の改善を図ることが大事です。

2番目は社会保障制度を悪くすることが、たでさえ伸びない賃金のもとでより一層消費を抑えている。もとに戻すためにはきちんと社会保障制度を良くする方向に変えていかなければいけません。中長期的な目標として、それに向かっていくことです。といっても内閣を替えなければいけないと思います。今の反政府の勢力がうまくまとまれば、たぶん選挙で5分5分でいけるのではないか。安倍内閣に期待しても無理ですね。とりあえず社会保障制度を悪くすることに歯止めを掛けることは可能だと思います。それが中長期的にやるべきことです。

 日本経済は非常に幸せな状況にあって、そうすれば確実に暮らしが良くなるわけです。暮らしが良くなることがイコール日本経済の立て直しにもつながるという非常にハッピーな関係です。ギリシャは逆で、暮らしを良くしようとすれば、お金を貸しているまわりの国からもっと公務員を削れとか給料を下げろとかそういう圧力がかかって、全体を良くすることができないというジレンマに陥ります。日本は国内に資金は豊富ですから、誰のいうことも聞かなくていい。そういう幸せな立場にいるので、福祉のお金はいくらでも出てくる状況だと言えます。

今のコロナ騒ぎを含んでこれからどうするかという視点でいいますと、一番早い方法は消費税をもとに戻す。5%を8%に上げたときから日本経済は完全に消費が伸びなくなっている。人々の生活が限界に近いところになっているわけです。これを元の5%に戻すことによって、給料が5%上がったのと同じような効果がすべての人にあるわけです。そういう政策は可能だと思います。ただこれも安倍さんは決してやらないでしょうね。お金をばらまくことはやるかもしれません。消費税5%下がったくらいの現金をばらまくという政策は出てくるかもしれません。でもこれは非常に手間暇がかかります。やらされるのは自治体ですから大変です。ひとりひとりに間違いなく計算して、それなりの現金を渡す。そのためにはいろいろな手続きも必要です。消費税は、決断して5%に戻すと国会で決議して、法律を変えればいいわけです。そういう政策がとりあえずの政策としてあると思います。

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