米国とイランをめぐる中東情勢が緊迫化している。
これに対応しようと、安倍政権は10月18日、国家安全保障会議(NSC)の「4大臣会合」(首相、官房長官、防衛相、外相)を開催し、年内にも海上自衛隊を中東に派遣するための具体的な準備に着手することを決め、関係閣僚に指示した。
目的は「(日本の原油輸入量の8割以上を依存する)中東地域の平和と安定、日本の船舶の安全確保のため、独自の取り組みを行う」(菅官房長官記者会見・18日)とされた。イラン周辺のホルムズ海峡の安全確保のためにトランプ米大統領が呼びかけている「有志連合」構想には参加しないで、アラビア海北部、アラビア半島南部オマーン湾、イエメン沖、ジプチとイエメンの間のバベルマンデブ海峡などに限定した独自活動だとした。これに現在、アフリカ東部のジプチの事実上恒久化した自衛隊基地を拠点として海賊対処活動で派遣されている海上自衛隊の護衛艦やP3C哨戒機に加えて、別途あらたに護衛艦なども派遣する予定だという。
安倍政権は国会の議論と承認もなしに、NSCだけの決定をもってこの危険な自衛隊派兵を強行しようとしている。このための根拠法としては、防衛省設置法の「所掌事務の遂行に必要な調査・研究」をあげて、「情報収集体制の強化」だとした。しかし、これの規定は自衛隊の「所掌事務に関する規定」であり、日本周辺で行っている警戒監視活動に適用されるとしても、はるか中東海域への派兵の口実とするのは全く当たらない。これは違法を承知の上の、苦し紛れであり、法の拡大解釈だ。
政府は情報収集が主目的だから、「直ちに我が国に関係する船舶の防護を実施する状況にはない」としてタンカーの護衛は行わないと説明しているが、これでは派兵の目的が何なのかがさっぱり分からない。単に情報収集が目的なら護衛艦を派兵するまでもないのは明らかだ。
しかし、実際には「緊急の場合」などとして「海上警備行動」(これも適用に該当しないが)を発動して護衛行動・軍事活動に道をひらく可能性が想定されているのは間違いない。従来、岩屋武防衛相は「自衛隊派遣は考えていない」と述べていたが、8月23日の記者会見で「先日、申し上げたのは『現時点では』ということ」と「現時点」を強調し、状況次第では派遣に踏み切る可能性を示唆していた。
今回のNSC決定は「独自派遣」とはいっても、トランプ米大統領の「自国の船は自国で守るべきだ」という「有志連合」参加への強硬な要求に沿って行われるものであり、米国の意向を忖度して実行されるものだ。先の会見でも菅官房長官が「米国とは緊密に連携していく」と語ったように、自衛隊の行動は米軍との情報収集・共有によって、有志連合との事実上の共同作戦行動になり、イランからみれば米軍との軍事共同作戦に踏み切ったと判断されるのは不可避だ。当面、除外したホルムズ海峡派兵に関しても、河野太郎外相は「そうしたことを含め、今後検討する」としており、否定はされていない。もし、なんらかの形でイランと米国が軍事衝突した場合に、日本はその戦闘の部外者であることは不可能だ。
もともとホルムズ海峡の情勢が今日のように悪化した原因は、トランプ米大統領が昨年5月8日、オバマ前政権が締結したイランとの「核合意」から離脱すると発表し、合意の見返りとして解除していた経済制裁を再び実行すると一方的に明らかにしたことからだ。これに対してイランは、ウラン濃縮再開に向けて準備を始めていると明らかにし、緊張が急速に高まったものだ。
この合意は「包括的共同作業計画(JCPOA)」と呼ばれ、イランが核開発計画を制限することと引き換えに、国連と米国、欧州連合(EU)がイランに課していた経済制裁の解除を定めたものだ。トランプはかねてからこの合意がイランを利するものとして不満を募らせてきた。この地域の親米勢力であるイスラエルのネタニヤフ首相も合意離脱を支持し、サウジアラビアも「歓迎する」と表明した。
このイランをめぐる中東の軍事的危機は、米国のトランプ大統領が一方的に離脱した「核合意」に米国が復帰することで解決されるべきであり、有志国連合による制裁の強化や自衛隊派遣のような軍事力の強化は中東の平和に対する完全な逆行だ。当初、安倍首相は従来からの日本とイランとの友好関係を使ってイランを訪問するなど、米国とイランの紛争を解決する「橋渡し役」を模索したが、その外交に失敗した挙句の今回の自衛隊の派兵は「独自派兵」などといってみても、イランから見てトランプの「有志連合」加担であり、「対話による緊張緩和」の道の否定と映るにちがいない。
今回の自衛艦の中東派兵は2015年に強行した憲法違反の戦争法(安保法制)の拡大強化であり、日本の安保・防衛政策の重大な転機となる恐れがある。
ことし5月28日、来日したトランプ大統領とともに日本初の航空母艦に改造中の護衛艦「いずも」に乗って、500名の日米将兵を前にした安倍首相の訓示はこうだった。
「日米両国の首脳がそろって自衛隊、米軍を激励するのは史上初めてのことだ。日米同盟は私とトランプ大統領のもとでこれまでになく強固なものとなった。この『かが』の艦上にわれわれが並んで立っていることがその証しだ」。
日米軍事同盟体制がここまで進んできたことを見逃してはならない。安倍首相はそれをこのように誇っている。
「インド太平洋を自由で開かれたものにし、地域の平和と繁栄の礎としなければならない。その揺るぎない意志をここに立つ私たち全員が完全に共有します」。
これは「自由で開かれたもの」という価値観を旗印にして、日米両国によるインド太平洋の軍事的支配体制の樹立、版図化の露骨な宣言だ。
つづいて安倍首相は「この護衛艦『かが』は昨年、西太平洋からインド洋に及ぶ広大な海で米海軍と密接に連携しながら地域の海軍との協力を深めた。今後、本艦を改修し、STOVL(短距離離陸・垂直着陸)戦闘機を搭載することでわが国と地域の平和と安定に一層寄与していく。地域の公共財としての日米同盟のさらなる強化に向けて、日本はしっかりとその役割を果たしていく。これからも不断の努力を重ねていく考えだ」と述べた。
日本政府はSTOVL戦闘機を搭載した「護衛艦」という名の航空母艦「かが」を西太平洋からインド洋に至る広大な海域で、その軍事戦略的版図の中心に位置づけた。こうした日米軍事同盟の体制は、すでに中国が自らの版図と主張する南シナ海で日米合同演習を行うことでこの地域の軍事的緊張関係を生み出している。これは従来の日本の防衛政策である「専守防衛」を投げ捨てて、敵基地攻撃戦略の採用も含めた日米軍事同盟の道だ。護衛艦「いずも」と合わせて「かが」の航空母艦化はその象徴だ。
今回のNSCによる自衛艦の中東派兵の決定は、まさに安倍首相のこうした「西太平洋からインド洋に及ぶ」地域支配戦略に沿って行われるものに他ならない。
この日米軍事同盟体制の強化を支えるのが昨年末の新防衛大綱であり、中期防計画だ。安倍首相は遠くインド洋まで射程に入れて軍事力を強化しようとしている。トランプの米国から彼の言いなりになって武器を大量に購入し、軍事力を強化し、沖縄の辺野古新基地建設の強行や南西諸島への自衛隊配備の強化を進めている。これは中国や朝鮮を仮想敵とした日米による包囲体制の強化・構築だ。
憲法9条の明文改憲の動きと並行して、こうした事実上の「9条改憲体制」作りがすすんでいる。「9条改憲」に反対する運動は、こうした実質的な「戦争する国づくり」に反対する闘いと結合されなければならない。当面する自衛隊の中東派兵反対のたたかいはこうした重要な意味を持っている。
10月30日に総がかり実行委員会が呼びかけた「自衛隊の中東派兵反対の首相官邸前抗議行動」を必ず成功させ、自衛隊の中東派兵反対の闘いを全国で巻き起こそう。
(事務局 高田 健)
2019.10.18
戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会
今夏の参議院選挙は自民党が改憲を公約の重点項目に挙げ、安倍首相は「(憲法を)議論をする政党を選ぶのか、審議を全くしない候補者を選ぶのかそれを決めて頂く選挙だ」と改憲問題を争点化しましたが、改憲派は3分の2の議席を維持できず、自民党は単独過半数を手放すという結果に終わりました。これは「安倍9条改憲NO!」の署名運動や各地の市民連合など、全国の市民運動と野党の共同の成果です。
しかし、安倍首相は「必ずや憲法改正を成し遂げる」「新しい時代にふさわしい憲法改正原案の策定に向け、衆参両院で第一党の自民党が憲法審査会で強いリーダーシップを発揮すべきだ」と述べ、臨時国会の所信表明演説では、「令和の時代に、日本がどのような国を目指すのか。その理想を議論すべき場こそ、憲法審査会ではないでしょうか」と訴えて、自らの任期中に改憲を成し遂げることに強い執念を燃やしています。
私たちは、自衛隊明記の9条改憲をはじめとする自民党の4項目の改憲案の発議と、そのための衆参両院の憲法審査会の始動に断固として反対するものです。
1 自民党9条改憲案は9条2項を空文化して海外での戦争を可能にするものです。安倍自民党による改憲発議を許してはなりません。
自民党9条改憲案は、「必要な自衛の措置」として集団的自衛権の全面行使をも可能とするものです。緊急事態条項に関する改憲案は、軍事的な緊急事態に内閣の権限を拡大し、人権の大幅な制約を可能にする危険性があります。大地震などの自然災害の対応についてはすでに充分な法律が整備されており、憲法に緊急事態条項を置く必要性はありません。さらに、合区に関する問題の解決は公職選挙法等の改正で可能であり、自民党の合区改憲案は投票価値の平等を侵害するなどの危険性があります。教育の充実に関する改憲案は、教育が「国の未来を切り拓く上で極めて重要な役割を担う」として教育への国家介入を正当化する危険があります。教育の充実は国会と内閣がその気になれば、法律や予算措置で可能であり、改憲は必要ありません。
自民党の4項目改憲案は、いずれも改憲の必要性・合理性を欠くうえに、日本国憲法の基本原理である平和主義、主権在民、基本的人権の尊重を破壊するものです。
2 世論は、今、改憲を望んではいません。安倍改憲のための憲法審査会の始動を許してはなりません
憲法改正の議論は世論の中から改正を求める意見が大きく発せられ、世論が成熟した場合に初めて国会で議論されるべき問題です。1980年11月17日の政府統一見解も、「憲法の改正については、慎重のうえにも慎重な配慮を要するものであり、国民のなかから憲法を改正すべしという世論が大きく高まってきて、国民的なコンセンサスがそういう方向で形成されることが必要である」としています。世論の支持がないままに「憲法尊重擁護義務」(憲法99条)を負う首相や国会議員が改憲議論を主導することは明らかな憲法違反です。
世論が憲法改正を必要な政策と考えていないことは、この間の各種の世論調査の結果を見れば明らかです。人びとが望むのは、台風被害対応をはじめ山積する諸課題についての予算委員会など国会の各委員会での真剣な議論です。それは先の参院選で立憲野党と市民連合が合意した13項目の政策の実現のための議論であり、改憲のための憲法審査会の議論ではありません。憲法の議論を逃げているのは安倍首相の方です。
3 与党提出「公選法並び」の改憲手続法改正案は、重大な欠陥法案であり、これを成立させてはなりません
継続審議となっている与党提出の改憲手続法改正案は、2016年に成立した公職選挙法改正の内容にそろえて国民「投票環境を向上させる」ためなどと与党は説明しています。
しかし、与党提出の改正案は、テレビ・ラジオの有料広告規制が、投票前2週間の投票運動に限定されていて「国民投票を金で買う」危険性がある問題、公務員・教育者に対する不当な規制の問題、大企業や外国企業、外国政府なども運動費用の制限なく国民投票運動ができる問題、最低投票率の定めがない問題等々、現行手続法が持つ数多くの本質的な問題点について、全く検討していない欠陥改正法案です。
このように重大な欠陥のある法案を急ぎ成立させる必要性はありません。それは、安倍首相が目指す改憲4項目発議の環境を整えるものです。
また、憲法審査会を開催して与党提出の改正案の議論に応じても、自民党が抜本的な手続法改正の議論に真摯に応じる保障はなく、任期中の改憲を目指す安倍自民党は欠陥改正法案を多少の手直しで強行採決し、次は具体的な自民党改憲案の議論に突き進もうとすることは明らかです。与党提出の「公選法並び」の改正案の議論は、自民党改憲4項目提示の「呼び水」でしかありません。
4 国会内外呼応して、安倍改憲に反対しよう
私たち総がかり行動実行委員会は、安倍首相らがめざす4項目の改憲案に反対し、自民党改憲案の「提示」や「審議強行」「発議」への道を掃き清めるための憲法審査会の再始動の強行に反対します。
事態は急を要しています。
いまこそ、憲法改悪に反対する市民と立憲主義の立場に立つ野党は結束して、「戦争する国」への道をひらく安倍改憲に反対しましょう。全国各地の草の根から、署名運動や集会、抗議デモ、街頭宣伝、スタンディング、SNSの発信・拡散など、可能なあらゆる行動をただちに巻き起こしましょう。
以上
10/10 (韓国)東アジア平和会議・対話文化アカデミー・主権者全国会議は、記者会見
を開き、次の声明を発表しました。
東アジアにおける平和の進展のために日本安倍政権の朝鮮半島政策の転換が必要である換の入り口に立って解放と分断に続いて朝鮮戦争を経験した後、韓国は1965年に韓日国交を樹立した。紆余曲折がなくはなかったが、韓国の民主化運動の成功や脱冷戦時代の到来に支えられ、日本の政界や市民社会は韓国社会の変化を認める認識の転換を示した。韓国の市民社会と政界から浮上した、過去の日帝植民地統治に対する指摘や謝罪要求に対し、日本の市民社会と政界からも次第に応答がなされて来た。中国の「大国屈起」から北朝鮮の核武装までが続く趨勢の中、安倍政権が平和憲法を廃棄し「戦争のできる国、日本」政策を強行しようとしていることに対し、平和体制を守らんとした明仁上皇の努力は高く評価されるべきであろう。
来たる10月22日、徳仁新天皇の令和時代が開かれる。韓国の人々は、平成時代同様に令和の時代にも、東アジアの平和を守るための努力が持続されるよう期待している。2020年には、世界の祭典である東京夏季オリンピックとパラリンピックが開催される。日本が隣国との間で、葛藤や敵対ではなく、和解と平和をひらいていくことを切に希望する。
1965年の国交正常化以来、最悪の状態に転落してしまった韓日関係と東アジアの平和を前進させるために、私たちは日本の安倍政権に対し、次のように求める。
いま、東アジアは転換の入り口に立たされている。2018年に韓国で起こった二つの事件が、転換の時代を象徴している。一つは、朝鮮半島の平和-非核化宣言であり、いま一つは、韓国大法院による強制動員賠償判決である。前者は、戦争の時代を終息させる過程の始まり、後者は、植民の時代を終える過程の始まりともいえよう。
3・1運動100年を迎えた2019年、私たちは、朝鮮半島の中に流れてきた時が植民と戦争にまみれていたことに対する悔恨を晴らし、来たる時を平和と協力で満たして行きたいと願う。それは、朝鮮半島の平和を未完の課題として残した停戦と、植民地の克服を未処理の課題として隠蔽した冷戦を、 同時に克服することでもある。絶体絶命であった2017年の戦争の危機は、朝鮮半島の停戦と東アジアでの冷戦が折り重なり合って生じた結果といえた。それを克服する過程で「1965年体制」が浮き彫りになったことは、東アジアの歴史の自然な帰結であった。
安倍政権は朝鮮半島敵視政策を転換するべきである
「1965年体制」に対する日本安倍政権の一方的な解釈が、歴史の流れに背を向け、むしろ東アジアの平和を脅かすことになってはいないかを省察するよう求める。取り分け、安倍政権が7月初めに韓国への輸出規制措置を発動し、8月初めにホワイト国家リストから韓国を排除したことが、2018年に始まった朝鮮半島の平和-非核化を深刻に脅かしているという事実を指摘したい。また、安倍政権は、戦略物資が北朝鮮に流出された可能性を一連の措置の理由として言及したかと思えば、2015年の「慰安婦」合意や、強制動員関連の韓国大法院判決に対する不満をもあらわにした。どれが本当の理由なのか。
安倍首相にとっては、内閣総理大臣として、植民地支配の直接的な被害者たちに謝罪を表明することこそが、合意の履行のための最小限の前提ではないか。ところが、安倍首相は、韓国国民に対する誠意ある謝罪を拒否し、日本の誠意を促す韓国の要求に対しては、それらをすべて「合意の違反」だと決めつけている。
強制動員に関する韓国大法院の判決は、大韓民国憲法の精神と、1965年の韓日基本条約および請求権協定に対する大韓民国政府の公式解釈に従ったものである。すなわち、韓国の憲法の前文は、大韓民国が「3・1運動によって建立された大韓民国臨時政府の法統」に立脚していると明言している。したがって、韓国大法院が、1910年の「韓国併合条約」に依拠した日本の植民地支配を不法と判決したのは、当然のことである。韓国政府は、「韓国併合条約」が1910年に「すでに」無効であったという事実を、1965年当時の韓日基本条約で「すでに」公式の解釈として位置づけている。
韓国併合条約が当初から無効であったという解釈は、韓日会談当時起こった、協定の屈辱性に対する巨大な全国民的抵抗の成果であった [1]。
このような歴史学界の成果に基づき、2010年5月、「韓日両国知識人共同声明書」は、「併合の歴史について今日明らかにされた事実と歪みなき認識に立って振り返れば、もはや日本側の解釈を維持することはできない」と確認しており、「併合条約は元来不義不当なものであったという意味において、当初から『null and void』であるとする韓国側の解釈が共通に受け入れられるべきである」と宣言した。このような認識を受け入れ、2010年8月10日、閣議決定を経て発表された菅直人首相の「韓日併合100年首相談話」は、植民地支配が「政治的・軍事的背景の下、韓国の人々の意に反して行われた」と、植民地支配の強制性を認めるに至った。
一方、請求権協定は、韓日間の財産および請求権について政治的妥結をなしたものに過ぎず、不法な植民地支配に対する賠償は含まれていないというのが、私たちの一貫した立場であった。以降も、このような原則的な立場が変わったことはなかった。したがって、昨年の大法院判決は、韓国憲法の基本精神はもちろんのこと、韓日間の条約および協定に対する公式解釈に基づいたものであり、いかなる点でも国際法違反とは言えない。 更に、韓国人被爆者問題、サハリン同胞の帰国問題、そして日本軍「慰安婦」問題など、請求権協定に含まれていなかった問題について、日本が政府予算措置をもって被害者に対する支援を実施したという事実自体が、請求権協定ですべての問題が解決されたのではないという事実を日本自ら認めたことを示している。
2001年の「ダーバン宣言」で、国際社会は、植民地主義が残した人種差別など過去の被害はもちろん、現在までも継続される被害は、時間を遡及して非難される事柄として、再発の防止がなされなければならないことであると確認した。しかし、私たちが日本の植民地から解放された1945年の時点では、植民地支配に対する国際社会の認識はまだ浅はかな状態であった。第2次世界大戦の敗戦国イタリアの場合、連合国との平和条約において植民地への賠償問題は見過ごされ、そのあり方が日本と連合国の間に締結されたサンフランシスコ平和条約にも貫かれ、日本に対しても植民地の賠償については言及のないまま処理されてしまった。このことが1965年の韓日基本条約の背景となっていたのである。しかし、当のイタリアは、2008年にリビアとの間で、友好、パートナーシップおよび協力に関する条約を締結する中で、植民地支配に対する謝罪と反省を表明し、そのような過去を終結させるため、50億ドルにのぼる投資を約束することで賠償を実施するに至った[2]。その他の多くの要求に直面することになり、欧州議会は2019年3月26日、決議を通じて、欧州の植民地主義によってアフリカで引き起こされた、過去から今でも継続されている不正義と人道に対する犯罪の歴史を、欧州連合の機構や会員国が公式に認め記念するよう促した経緯がある。このように、国際社会における植民地支配責任に対する認識は、大きな進展を遂げている。昨年の韓国大法院の判決は、このような国際社会の植民地支配責任に対する認識の発展とも、軌を一にするものである。
にもかかわらず、安倍政権は韓国の大法院の判決に対し、一方的に「国際法違反」と非難し、韓国政府に「是正」を求めている。日本政府が提起している問題はただ一つ、大法院の判決が請求権協定2条に違反しているということである。
日本は昨年10月30日、大法院の判決が出るやいなや、直ちに外務大臣談話を発表し、韓国が大法院判決によって国際法違反の状態にあると決めつけた。談話は、請求権協定により、日本が韓国に対し、無償で3億ドル、有償2億ドルなど、計5億ドルの資金協力を約束した(1条)と同時に、請求権に関する問題が完全かつ最終的に解決され、いかなる主張もできない(2条)ことになっているにもかかわらず韓国大法院が損害賠償の支払いを命じたのは請求権協定2条に違反するものであり、したがって、韓国政府が国際法違反の状態を「是正」するべく、適切な措置を講じるよう要求した。
しかし、日本のこのような主張は論理的矛盾を抱えている。まず、韓国の大法院の判決は、強制動員に対する損害賠償の支払いを命じているため、賠償請求権は請求権協定の対象にはなり得ない。請求権協定は、財産上・民事上の権利義務関係を政治的に解決したものに過ぎず、したがって不法な植民地支配の下で被った基本的人権の侵害に対する賠償問題は、協定と無関係だと見るべきである。しかも、談話で日本自らも指摘しているように、日本が韓国に約束したことは資金協力であるうえ、その法的性格はまったく言及されていない。また、資金協力を約束したという事実と請求権問題が解決されたという事実の関係も曖昧である。このことは、韓国の大法院がその問題点をすでに指摘しているところでもある[3]。
問題は韓日間の「1965年体制」である。「1965年体制」とは、韓日基本条約と請求権協定に対する両国の解釈のくい違いのため、法的基礎が不安定な状態で展開されてきた韓日関係の現実を指す。2018年の大法院判決は、「1965年体制」の不安定性を浮き彫りにしたものであり、今やこの不安定性を根本的に取り除かなければならない状態にあるということを確認させた。しかしながら、「1965年体制」の持つ不安定性を取り除くということが、韓日基本条約や請求権協定を否定し、新たな条約や協定に取り替えるべきだということを意味するものではない。
1965年体制が限界をはらんでいたことは明らかであるが、これを基に発展してきた歴史があるのも事実であり、1965年体制の限界を克服するために努力してきた歴史があるということも事実である。その量的成長は眼を見張るようなものであった[4]。
質的成長も注目に値する段階に達している。2002年の日韓共同ワールドカップが成功裏に開催されたことで、そのことを確認することができた。さらに、2011年には、3・11東日本大震災直後に韓国国民が日本国民に声援を送っており、解放70周年の2015年には、韓国の各界長老たちが日本の平和憲法9条を2015年度ノーベル平和賞に推薦する署名運動に取り組むなど、韓国市民社会が日本の市民社会に送る信頼と尊重が確認されるに至った。
2010年の菅直人首相談話が到達点であり、新たな出発点である
これらのことは、2010年の菅直人首相談話で確認されたような日本の歴史認識の進展に負うところが大きかった。日本における歴史認識の進展は、民主化の過程で成長した韓国の市民社会が日本軍「慰安婦」問題を提起し始めたことに刺激された面もあり得よう。韓国市民社会の力量が韓国政府を突き動かし、韓国政府の問題提起に日本の市民社会や政府が応じながら、漸進的に歴史認識が進歩したのである。1993年の河野談話、1995年の村山談話、1998年、金大中-小渕恵三共同宣言が、そのような成果であった。その基礎の上に、2010年の菅直人談話が発表されている。今では、菅直人談話の歴史認識を韓日が共有することが残されている[5]。
私たちは、韓国・中国・日本が、東アジアの平和体制へと進むために、新しい令和の時代が開かれ、日本安倍政権の朝鮮半島政策が転換されることを期待する。日本において、安倍政権の政策に異議を唱え、韓国との対話に乗り出すよう求める声明が発せられたことは、日本社会の良識と健康性を示したものと言えよう。
2019年10月10日
東アジア平和会議
対話文化アカデミー
主権者全国会議
署名賛同者105人(韓国の知識人、文化人、宗教者など105名)
▲元公職者: 李洪九(元国務総理)、高建(元国務総理)、鄭雲燦(元国務総理)、金元基(元国会議長)、林采正(元国会議長)、韓完相(元副総理)、李鍾贊(元国家情報院長、友堂李会栄先生奨学財団理事長)、韓承憲(元監査院長)、李御寧(元文化部長官)、金鎭〓(元科学技術部長官)、金成勳(元農林部長官)、金泳鎬(元産業資源部長官)、尹汝雋(元環境部長官)、申楽均(元文化観光部長官)、金聖在(元文化観光部長官)、劉震龍(元文化体育観光部長官)、鄭鉉栢(元女性家族部長官)、 兪弘濬(元文化財庁長)、金道鉉(元文化体育部次官)
▲元大使: 崔相龍(元駐日本国大使)、成稔(元駐教皇庁大使)
▲元国会議員: 権永吉(元民主労働党代表)、李佑宰(梅軒・尹奉吉月進会代表)、李昌馥(6・15共同宣言実践南側委員会常任代表)、柳在乾(如海と共に理事長)、 朴錫武(茶山研究所理事長)、李富榮(夢陽呂運亨先生記念事業会理事長)
▲文化芸術家: 申庚林(詩人)、金禹昌(文学評論家)、白楽晴(文学評論家、創作と批評元編集人)、孫淑(演劇人、芸術の殿堂理事長)、金炳翼(文学評論家、文学と知性元代表)、廉武雄(文学評論家)、?〓暎(作家)、李春羲(国楽人、無形文化財57号)、李愛珠(舞踊家、京畿道文化殿堂理事長)、金正憲(画家、韓国文化芸術委員会元委員長)、シム・ジョンス(???,彫刻家)
▲宗教者: 姜宇一(主教、カトリック済州教区長)、咸世雄(神父、主権者全国会議常任顧問)、朴昌一(神父、イエス聖心傳〓修道会)、金永柱(牧師、キリスト教社会問題研究院院長)、李海東(牧師、主権者全国会議常任顧問)、安載雄(牧師、元韓国YMCA全国連盟理事長)、朴宗和(牧師、国民文化財団理事長)、蔡洙一(牧師、京東教会担任)、李鴻政(牧師、韓国キリスト教教会協議会総務)、道法(僧侶、仏教曹渓宗実相寺会主)、 鄭仁誠(教務、圓仏教平壌教区長)、朴南守(元天道教教領)
▲学界: 池明観(翰林大学碩座教授)、張會翼(ソウル大学名誉教授)、徐洸善(梨花女子大学名誉教授)、姜萬吉(高麗大学名誉教授)、姜貞?(全南大学元総長)、朴賛石(慶北大学元総長)、辛仁羚(梨花女子大学元総長)、尹慶老(漢城大学元総長)、朴孟洙(圓光大学総長)、李萬烈(淑明女子大学名誉教授、元国史編纂委員長)、李泰鎭(ソウル大学名誉教授、元国史編纂委員長)、趙昌鉉(漢陽大学碩座教授)、キム・ギョンジェ(???、韓神大学名誉教授)、金容福(韓神大学碩座教授)、徐鎭英(高麗大学名誉教授)、具?列(梨花女子大名誉教授)、金淑子(祥明大学名誉教授)、 金〓煥(高麗大学名誉教授)、コ・チョルファン(???、ソウル大学名誉教授)、尹泳五(国民大学名誉教授)、李鍾?(明知大学名誉教授、元大統領諮問政策企画委員長)、 李時載(カトリック大学名誉教授)、黄漢植(釜山大学名誉教授)、林玄鎭 (ソウル大学名誉教授)、金照年(韓南大学名誉教授)、曹恩(東国大学名誉教授)、イ・グァンテク(???、国民大学元教授)、朴贊郁(ソウル大学教授)、朴明林(延世大学教授、金大中図書館館長)、南基正(ソウル大学教授、日本研究所研究部長)
▲言論人: 任在慶(ハンギョレ新聞元副社長)、愼洪範(朝鮮闘争委元委員長)、劉承三(元ソウル新聞社長)、権寧彬(元中央日報社長)、金鍾哲(緑色評論発行人)
▲市民社会: 池龍澤(仁川セオル文化財団理事長)、朴庚緒(大韓赤十字社会長)、李三〓(対話文化アカデミー理事長)、李正子(女性政治フォーラム代表)、鄭聖憲(DMZ平和生命の園理事長)、キム・ウォンホ(???、シアル財団理事長)、李賢淑(女性平和外交フォーラム名誉会長)、李秀浩(主権者全国会議常任代表、全泰壹財団理事長)、崔英姫(社団法人タクティンネイル理事長)、張任源(民主化のための全国教授協議会元議長)、趙誠宇(キョレハナ理事長)、イ・ヘギョン(???、女性文化芸術企画理事長)、姜大仁(ペゴッ-風と水理事長)、柳鍾烈(興士団理事長)、鄭康子(参与連帯共同代表)、梁吉承(6月民主フォーラム代表)、李承煥(市民平和フォーラム共同代表)、申弼均(韓国社会投資支援財団理事長)、尹貞淑(緑色連合共同代表)、ムン・グクチュ(???、主権者全国会議執行委員長)
以上
【注釈】
[1] 1904年2月の日露戦争開始以後、領土使用権、外交保護権、内政干渉権などを次々と要求した協定または条約が、国家元首(皇帝)の批准書を備えていた場合は一件もなかったばかりでなく、1905年の「保護条約」の韓国語本は日本公使館が任意で作成したため、効力を持ち得ないものであった。1910年8月に強いられた「韓国併合条約」は、韓日両国語本が材質から書体に至るまで同一であったことが確認されており、韓国語の文章もまた、統監府の官吏によって作成されたことが確認されている。1919年4月に樹立された大韓民国臨時政府は、米国をはじめ西欧列強を相手に請願外交を展開して、韓国併合が無効であると力説した。このような努力は国際連盟から注目される事案となり、1935年に完成した「条約法に関する報告」では、1905年の「保護条約」が、効力を発し得ない不法条約であると判定された。この報告書は、1963年、国際連合の国際法委員会でも再度確認されていることからも、1965年に締結された日韓基本条約での韓国側の主張は、「すでに」その時点で、国際的な支持の根拠を持っていたのである。
[2] その他、英国のケニアに対する植民地支配、オランダによるインドネシア植民地支配、ドイツによるナミビア植民地支配、フランスによるアルジェリア植民支配の下で犯された、様々な反人道的犯罪に対する謝罪と賠償のための努力が傾けられており、スペインの征服に対するメキシコからの謝罪要求、カリブ海諸国の旧宗主国に対する謝罪と賠償要求などが続いている。
[3] 日本が、韓国大法院が命じた賠償請求が請求権協定2条違反だと主張するのであれば、賠償問題が2条で解決されたと規定した問題に含まれるのかを明らかにしなければならない。もし請求権協定を通じて賠償問題を解決したのであるならば、賠償の前提となる植民地支配の不法性を認めたのかどうかを確認しなければならないだろう。
[4] 1965年の国交正常化以来、半世紀を経る間に韓国の対日輸出は4,500万ドルから397億ドルへと880倍、対日輸入は1億7,000万ドルから683億ドルへと400倍、日本の対韓直接投資は50万ドルから45億4,000万ドルへと9,080倍に増えた。人的交流も目を見張る成長を遂げ、昨年、訪日韓国人は754万人、訪韓日本人は295万人となり、1,000万人時代を迎えた。これは年間一万人であった1965年の国交正常化当時の民間交流水準の1,000倍規模である。
[5] しかしながら、その過程は容易ではないものと予想される。14年にわたる韓日協定の交渉にもかかわらず、1965年の条約や協定でも植民地支配の不法性を最終的に確認することはできなかったのであり、以降50年余りの歴史が蓄積される過程でも、その確認までには到達できなかった。韓国大法院の判決後も、懸案を妥結するべく韓日間の様々なチャンネルを通じた意見交換があった。ただ、大法院判決について、これを「是正」せよという日本政府の要請は、三権分立の原則を厳重に受け止める韓国政府としては受け入れられないものである。先の6月19日、韓国企業と日本企業が財源を用意し、強制動員被害者を救済する方策を提示して問題解決の糸口をつかむための努力を続けたにも、安倍政権は輸出規制の強化という一方的な措置を取ることで、1998年の韓日共同宣言に立脚して発展させてきた未来志向の韓日関係を最悪の状態へと悪化させた。
10月4日、ようやく臨時国会が始まった。7月の参議院選挙で沖縄から選出された高良鉄美議員(無所属・沖縄の風)を議員会館におたずねし、これまで憲法の研究者として大学人から国会議員に転じたその抱負や国会の印象などをお聞きした。
山本 みはぎさん(表現の不自由展の再開を求める あいち県民の会)
(編集部註)9月28日の講座で山本みはぎさんが講演した内容を編集部の責任で要約したものです、要約の責任はすべて本誌編集部にあります。
「表現の不自由展の再開を求める あいち県民の会」の山本と申します。普段はみなさんと例えば国会前とか、実際の活動の場でお会いすることが多いのですけれども、今日は「表現の不自由展・その後の再開を求める あいち県民の会」ということで話をさせていただきます。標題が「『表現の不自由展・その後』の展示中止と闘って考えたこと」となっていますけれども、今まだ現在進行形です。2ヶ月たったのですけれども、今月末にいろいろな動きがあって、来週あたりが再開するかどうかの山場ということもありますし、文科省の萩生田大臣の補助金を支給しないという発言のような新しい動きも出てきましたので、そういうことも含めて報告させていただきます。
まず、あいちトリエンナーレというものを見られたことはありますか。私自身もあまりこういう分野には関心がなくて、実際に芸創センターという美術館がメイン会場でやっていますけれども、名古屋市だけではなくて周辺の豊田市だとか、商店街とかそういうところでもやっているような芸術祭です。今年で4回目になって、国内外から90組以上のアーティストが参加するという大規模な、予算も12億くらいを使ってやるような大きな企画です。期間は8月1日から10月14日までということで、あと実質2週間くらいしかないのですけれども、長期でやっています。私自身は8月3日に「表現の不自由展・その後」を見に行きました。あとで展示の内容なども説明させていただきますけれども、会場は全体的に狭いですがたくさんの人が訪れていました。夕方には1時間待ちくらいという感じで、私が行ったときには特にトラブルがあるわけでもなく粛々と進んでいました。
「表現の不自由展・その後」というのは、全体の展示のうちのひとつの企画です。これは2015年に東京で「表現の不自由展」として民間のギャラリーで展示が行われましたが、そのあとの作品も含めてこれまで公立の美術館などで展示が中止になったものを中心に展示しています。5人の人たちが作家としてこの展示を、トリエンナーレ実行委員会と契約を結んで展示するということになっています。この「表現の不自由展・その後」は16組の作品が展示されていますが、その5人の人たちが、16組の個々の作家の人たちとまた契約をしてその展示がされているということになっています。ですから直接に作品をつくった人とトリエンナーレ実行委員会との契約ではないということなんですね。これはあとで大事な問題になってきます。展示の内容は「慰安婦」問題、天皇の戦争責任、植民地支配、憲法9条の問題、公共施設でタブーとされたような作品が展示されています。
展示の中身を見てみていきたいと思います。これはみなさんご存じの「平和の少女像」ですね。奥にミニチュアもあるんです。もう説明するまでもないと思うんですが、でもこれが日本の中で公立の美術館というところで展示されたのは初めてではないかと思います。2015年くらいに東京美術館でミニチュアが展示されたことがあったけれども、それも制作者に何の連絡もなくて撤去されたということがありました。この少女像は、韓国の日本大使館前での水曜行動の1000回を記念してつくられたものです。私も5月に韓国に行って大使館前の平和の少女像を見てきましたが、学生たちがテントを張って24時間寝泊まりをして防衛をしていました。左のものは重重プロジェクトといって、韓国人の安世鴻(アンセホン)さんという方の作品です。安世鴻さんは韓国にいたときから中国に住んでいる「慰安婦」の人たちの写真を撮っている方です。みなさんご存じだと思うんですけれども、これは2012年にニコンで写真展をやるといったときに一方的に中止をされて、仮処分で再開になりました。その後も3年かけて裁判をやって勝訴したという作品です。今回の攻撃の対象になっているのは直接に安世鴻さんの作品ということではないんですけれども、やっぱりニコン裁判で展示ができないということに対してきちんとたたかったという作品です。
そのとなりが中垣克久さんという方の「時代の肖像」という、会場の真ん中くらいにあったドーム型をしている作品です。下に星条旗、上に日の丸、廻りに安倍政権を批判するような新聞記事とか、そういうものをぺたぺたと貼ってあって、この中に入れるというものなんですね。今の時代の政権批判ということを象徴するような作品です。これも2014年に東京美術館で出展が拒否されたという作品だそうです。それから、これは「落米のおそれあり」という2018年に沖縄のうるま市の美術館で展示をしたところ、「これはそぐわない」ということでこれも展示を拒否されました。最後の一日だけ、他の作家さんの抗議もあって展示されたということですけれども、見てわかるように沖縄のいまの現状をあらわしている、実物大のシャッターに展示をしています。
右の方は展示をぱっと見ただけではわかりにくかったのですけれども、群馬県高崎市の県民の森というところに朝鮮人の慰霊碑があって、それをいま撤去する、しないで裁判をやっているということで、それをモチーフにした作品です。これは会場の大きな場所を占めていました。縦に長いものは碑の実物大だということです。これはすごく問題になっている「遠近を抱えて」のパート2です。天皇の肖像を焼くシーンがあるということで攻撃の対象にされました。これは1986年に富山県立美術館で展示が拒否されて裁判をやって、結局負けて作品は売却され、図録も焼却されたということです。作者の方は、大浦信行さんという方で、これについて天皇制を批判したものではないということをコメントで出されています。あとで公開フォーラムというものがあってそのときに、これは20分の作品なんですけれども全部見ました。感想はいろいろありますが、これも天皇の戦争責任ということをあらわした作品です。それからこれは「焼かれるべき絵」という作品で、さきほどの富山の事件の後でつくられたものだそうです。それからこれは「償わなければならないこと」ということで千葉の朝鮮高校の生徒が書いた、例の日韓合意を批判した絵です。赤い絵が「慰安婦」の人たちを象徴していますし、後ろの方にヘルメットをかぶった絵がありますけれども、これが日本軍の象徴というか、そういうことをあらわしているということで、これも千葉で展示を拒否された作品です。
中止に至る経緯についてお話しします。実際に「表現の不自由展・その後」が開催されると発表されたのは7月31日の新聞でした。それまで、一部の人たちは展示をするということを知っていたんですけれども、やっぱり妨害があるのではないかということで、大々的に公表されたのは7月31日の新聞でした。新聞報道があってすぐ、その日から妨害、誹謗中傷、抗議が殺到して3日間で1万件以上、これは電話、ファックス、メール、県のトリエンナーレ推進室というところだけではなくて、県庁の他の部署とか、関連の地方の事務所とか、それから企業も協賛していまですけれどもその協賛企業にも抗議があって職員が非常に疲弊したということがありました。もうひとつ、8月2日にこの展示を知った河村市長が、その前に大阪の松井市長が河村さんに連絡して「こういうのをやるのはどうなんだ」ということで、それで河村市長が8月2日に現場を訪れて、そのあとの記者会見で日本軍「慰安婦」の像を見て「日本人の心を傷つけるものだ」と言いました。そのあと「止めれば済むものではない」とまで言って、大村知事に中止の要請をするという動きになりました。このトリエンナーレというのは愛知県とか名古屋市それから協賛企業とか、そういう実行委員会でやっているんですけれども、大村知事が実行委員会の会長です。河村市長は実行委員会の会長代行ですね。そういう位置にあって、どうも大村さんは河村さんにはきちんとこういうことを伝えていなかったということで、河村さんはすごく怒っているんです。河村さんはご存じのように以前にも「南京大虐殺はなかった」というような発言をしていて、こういうことに関しては本当に歴史修正主義者というか、確信犯ですね。このあともずっといろいろなことを言い続けるんです。
また、河村さんの発言で抗議が増えました。いわゆる「電凸(でんとつ)」という電話の抗議ですね。このグラフは県の検証委員会が出した資料ですけれども、抗議の数が載っています。一番左が31日で、1日、2日と抗議の数が増えているのがわかります。特に政治家、行政の責任ある者がそういう発言をするということが、どういう影響を与えるかということがすごくよくわかると思います。それから河村市長だけではなく、すぐに菅官房長官が補助金の検討発言をするということもありました。それがいま現実になっているわけですけれども。そのあと松井大阪市長も、税金を投入してやるべきではないとか、表現の自由とはいえ単なる誹謗中傷的な作品はふさわしくないとか、「慰安婦はデマだ」というようなことまで発言しています。これに対しては関西で日本軍「慰安婦」問題に取り組む人たちがすぐに抗議をするということもやっています。ちょっと後になりますが、黒岩神奈川県知事も「明確な政治的メッセージで、表現の自由を逸脱している」、「神奈川県では絶対やらない企画なんだ」と言っています。これに対しても神奈川の人たちがちゃんと抗議をやったということで、そういう人たちとつながりながら私たちもいまやっています。けれども、やっぱり行政の長が発言するという重みですね。すごく影響力があると思いますし、そもそもそういうことに介入するべきではないと思いますのでこういうことは本当に問題だと思います。
実際には8月3日の夕方、大村知事と津田大介芸術監督の二人が、別々に記者会見で中止を発表した。実行委員会の会長は大村さんで、展示の責任者が津田大介さんという方です。中止の理由は脅迫や抗議、すごい数の電話、ファックス、メールがあったので実際に職員の人が大変だったようなんですね。それで中止をした。「表現の不自由展・その後」の実行委員会の人、先ほど5名の人と言いましたけれども、その人たちには中止をするという決定は一切知らされないで、突然の中止発表だったということです。ただ、先ほどいろいろな展示がありましたが、その展示会場そのままだということでした。私たちは中止というと、もう作品が撤去されるんじゃないかと思っていたのですけれども、実際は展示はそのままの状態で保管されているということでした。
中止の決定を受けて、実行委員会とか大村知事がどういう対応したかというと、大村県知事はいま自民党からオール与党で推されている知事なんですね。わりとリベラルなことをいうんですけれども、共産党以外は全部支持しているというところで知事になっている人です。自分で中止を決定したんですけれども,河村さんの発言に対してはすぐに憲法21条の「表現の自由」に違反する、憲法違反ではないかという反応をして、8月9日には芸術祭を検証する検討委員会をつくると発表しました。私たちはこの意図がよくわからなかったのですけれども、まだ終わってもいないのに何を検討するのかとかいろいろなことをいっていたんです。検証委員会はトリエンナーレについて県とか実行委員会などの関係団体の企画・準備・実行の体制、公金をつかった芸術作品の展示、芸術活動の支援、開催時の期間の体制等々を検証するということです。検証委員会というところで何をやったかというと、関係者のヒアリング、これは出展作家だとか「表現の不自由展・その後」の関係の作家、それから県の職員だとか、いろいろな人からヒアリングしたんですけれども、実は河村さんのヒアリングはまだ終わっていなくて、9月30日にやるそうです。中間報告はもう出したけれども、いろいろな関係者にヒアリングをして検証するということでやりました。
それから21日に公開フォーラムというものやったんですね。広く市民の意見を聞くということで、定員100人で募集して、私も参加しました。どういう内容なのかなと思ったのですけれども、この6人の検証委員会には憲法などの専門家がいるので,いままでヒアリングをしてきた中で中間報告を出した。実はこれに不自由展の作家の人たちは招待されなかったんですね、さきほどの5人の話です。5人の作家は招待されなくて直接作品をつくった作家の人たちは招待された。不自由展の作家とトリエンナーレ全体の作家が参加していました。公開フォーラムということなのでいろいろな意見が言えるかなと思ったのですけれども、延々と中間報告の報告が続いて、あとは作家のいろいろな報告が続いて、こちらから意見が言えるのは最後の15分くらいでした。検証委員会というのはあくまでも「検証」の話で、いろいろな人たちの話を聞いて提言を出すということです。この段階でいつくらいに提言を出すのかと質問したら、1週間以内という答えだったり、提言の方向はどうなるのかというと、だいたいこの中でのいろいろな発言で「再開に向けて」とはっきり言っていましたので、どういう内容になるかということがこのあと注目していた次第です。
実際に25日に中間報告が出たのですけれども、この中間報告の中味としては、例えば会場の展示の仕方とか警備の仕方とかのいろいろな問題、展示の方法というのはキュレーターという人がやるらしいんですけれども、今回のことはキュレーターがいなかったという報告をしたりしていました。ただ展示は再開されなければいけない、展示のやり方を変えて展示するという方向でやらなければ、というのが報告の内容でした。11月に最終報告を出すと言っているんですけれども、この検証委員会は中間報告を出した段階で再開に向けての検討委員会に名前を変えると言っています。
そもそも検証委員会というのは何なのか。再開もされていないし、そもそも中止になってしまったし、何をどう検証するんだと、私は初めは思いました。途中で、市民と出展作家へのアンケートをおこなったんですね。この市民のアンケートというのも、よくよく見ると、見てもいないのに展示はどうなのかとかいうひどい内容ですし、そもそもこの作家に対してこういうアンケートを取るということが検閲とか思想信条の調査ということになるんじゃないかということで、不自由展の実行委員会の人たちは撤回を要求しました。私たちは撤回までは行かなくて、ホームページにも出ていましたので批判的にアンケートに答えようということで対応しました。先ほどいったフォーラムですけれども、やっぱり表現の不自由展の実行委員は招待されない、作家の人たちは来ていたんですけれども、当事者である実行委員会の作家の人たちがその場で発言できないというあり方が問題ではないか。また広く市民に意見を聞くといいながら、実際は会場からの発言は最後の10分、15分くらいで発言できたのは5人くらいなんですね。本当にフォーラムの中で広く市民の意見を聞くということであるなら、もう少し開催のやり方などを考えた方がいいなと私は思いました。
それから「表現の不自由・その後」の実行委員についてです。中止に当たっては実行委員の人たちにはなんの相談もなく、なんの事前の説明もなく、いきなり記者会見で中止しますということがあったので、すぐに公開質問状を出して中止の理由などを聞きました。その中で、大村さんの回答としては、実行委員会規約の第16条で規定された「会長は、運営会議の議決事項について、緊急を要するときは、これを専決処分することができる」ということで、専決処分でやった。その理由が先ほどいったように過大な脅迫などがあったということで、安全安心なかたちで展示ができない、そういう理由を挙げていました。ただ展示会場は特に妨害もなく、展示を見る人たちは本当に粛々にというか、大きな問題もなく見ていましたので、展示自体が大変だというようには私は思いませんでした。
実行委員会としては、とにかく大村さんときちんと話し合いをしたいという申し入れを何度かしたようですけれども、なかなか実現しないということでした。早い段階から話はあったんですけれども、話し合いでということでずっと動いていまして、ただこのままいっても再開に向けてのめどが立たないということで、9月13日に大村知事に対して仮処分申請をしました。これは再開に向けて公式協議をしてください、それから具体的な手立てをしてくださいということを求めています。これはまだ続いていて9月20日、27日に審尋があって、本当はこれで終わるはずだったけれども、30日にもう一回やって結論が出るということになっています。今日の新聞では27日の審尋のときに1日に開催ということで和解案というようなものを出したと載っていましたね。弁護団の人は、この間イラク訴訟だとか高江の裁判などをやっている方が中心になって動いていますので、ちょっと感触を聞くと、裁判所の方は「好意的」というかいろいろな資料を出してほしいとか言っているようです。いずれにしても、30日が終わったあとにこの仮処分の決定が出るということになりますので来週はいろいろな動きがあるのかなと思っています。
あいちトリエンナーレ全体の作家の人たちの動きですが、さきほど90組以上といいましたが、海外の作家の人たちの反応はすごく早く、韓国の二人の作家はすぐに出展を取り下げました。イム・ミヌクとパク・チャンキョンという人です。そのあと9組の作家が展示の辞退を表明したということでした。やっぱり海外の作家の展示の取りやめというのは、国際展示という意味では実行委員会、企画全体にはすごくダメージです。さきほどの検証委員会の中間報告の中でも、こういう状態が続けば今後のトリエンナーレの開催とか国内外のいろいろなところでの開催に対して海外からの批判があることを懸念するような報告になっていました。その一方で日本人作家の対応としては、田中功起さんという方が展示の内容を変えてやったということ、それからもうひとり展示を辞退するという動きがありました。展示の拒否などは、なかなか作家の人たちにとってもすごく大変なことで、今後の展示会に出られないのではないかとか、作家個人だけではなくて周りの人たちへの影響もあるということで、展示拒否するということは私たちが外から抗議のために展示を拒否してくださいと、あまり簡単に言えないような事情があるようです。
その中で、9月10日に参加作家38組の人たち、これは表現の不自由展に作品を出品している人も入っています、その38組の人たちが「ReFreedom_Aichi」というものを結成しました。これは外国特派員協会で記者会見などもしていましたのでご覧になった方もいると思うんですけれども、この中止になったことに対して抗議の意味で「ReFreedom_Aichi」を結成しました。その結成の主旨が一番始めに河村名古屋市長や黒岩神奈川県知事、菅官房長官による、なにより政治家による介入を許さないということを挙げていますし、ふたつ目はやっぱり脅迫によって文化事業を閉鎖へと追い込む犯罪的手法に強く抗議するといっています。また再開への協議の場を一日でも早く設定することを大村知事に求めるということで活動を始めています。具体的にはサナトリウムといって名古屋に円頓寺(えんどうじ)という商店街があって、ちょっと古い町で、そこの一角を借りて作家と市民が直接対話をする場をつくりました。それからこれはまだ実現されていないんですけれども、表現の自由をアピールする「あいちプロトコル」の、アーティスト主導による草案の制作を提出するという、これは10月5日にさきほどの実行委員会が国際フォーラムを開くといっていますので、それへの対抗ということでやるといっています。ただ、いまいろいろな動きがあってこういうことを実際にするかどうかは私はよくわかっていません。
私たち市民の動きなんですけれど、8月3日に中止が発表されて全国でさっそくいろいろな動きが始まりました。Change.orgという署名サイトがありますが、ここが一番早く反応して、これは3万くらい署名が集まったということです。8月に私たちが集会をやったのですけれども、その署名を立ち上げた方にも参加していただいて発言していただきました。それから多摩美術大学の学生達が中心になった署名はまだ続いていて、9月30日に署名提出行動をして名古屋で集会をやるといっています。これも6000筆以上集まっています。それから学者の人たちが始めた署名も1万筆くらい集まって、これも提出されています。そういうかたちで署名活動もいろいろ集まり、ほかに抗議声明なども36団体、これは私たちのホームページにも載っていますが、いろいろなところから声明が出ています。
さて、県民の会の話です。実は、私はもともと日韓の活動をやっていて、5月に韓国へ35人くらいでスタディーツアーに行って、その報告集ができたという報告と交流で8月3日に集まっていたんですね。その集会の後で中止の報を受けて、これは黙っているわけにはいかないということで、すぐに4日にスタンディングを呼びかけました。
スタンディングの写真ですが、芸術文化センターの入り口のところでやりました。だいたい50人くらい集まったでしょうかね。フラッシュモブをやっている人たちなども集まってやりました。8月4日にそういう緊急行動を呼びかけて、そのあとすぐに、この行動が終わったあと有志で集まって「県民の会」を作ろうということになりました。すぐに話がまとまって翌日スタンディングをしようということで、翌日からスタンディングを継続して、それから毎日やっています。だいたい10人から15人くらい集まって、チラシを配ったりいろいろなことをしています。私は仕事をしているので土日しか行けないけれども、本当にみなさん熱心にやっています。この写真はトリエンナーレの入り口ですね、とくに土曜日とか日曜日には県外からいろいろな人たちが来るので、そうすると本当にチラシの受け取りもいいです。いろいろな方法で紹介しているので、スタンディングに遠くから参加してくれる方もいるんですね。ですからどれだけ効果があるかわかりませんけれども、こういう活動をずっと続けています。
大村知事への再開に向けての要請書、それから河村市長への抗議文の提出、それから8月14日は金学順さんが「慰安婦」ということを表明された日ということで全国的なメモリアルデイなので、スタンディングの会場で呼びかけて大きな集会をやりました。8月24日には集会、デモそれから再開を求める共同要請書という、再開をして下さいということで本当に短い文章なんです。抗議声明を出した団体などいろいろなところに呼びかけたり、この間いろいろ運動でつながりがあったところに呼びかけて第1次が174、最終的に182団体で要請書を出しました。こういうことを毎日やっています。
これが河村さんと大村さんに提出したときの写真です。右側が8月22日の集会の様子です。右側に写っているのは重重プロジェクトの安世鴻さんです。10月からまた展示会をやるので、いますごく忙しくしているんですけれども、集会などにもものすごく積極的に参加してくれています。それからこれはフラッシュモブの人たちです。神奈川の路上でフラッシュモブをやって、それが禁止になったということで裁判を起こして勝った人たちですけれども、8月に来てくださいました。これは「平和の少女像」の作者のお2人です。これも8月の集会に来ていただいて発言していただきました。それからこれは、「表現の不自由展・その後」の作家の人たちとは連絡を取りあっていろいろとやっていますが、9月13日の提訴のあとに「表現の不自由展」の作家さんたちが主催の集会です。この間の経過、仮処分を出したことなども含めて、公に作家さんたちが訴えるということは初めてだったんです。それまで実行委員会とのやりとりはしていたけれども、市民に向けてアピールするということはこれが初めてのことだったので、すごくいい効果があったと思います。
これはさきほどの182団体の要請書を出したときの写真です。マスコミも結構来ていました。これは先日のデモですけれども、不自由展の実行委員会の人たちに発言していただいて、「遠近を抱えて」の作者の大浦さんにも発言していただきました。デモではフラッシュモブをやったりしています。それから9月25日に中間報告が出たときに、中間報告に対してもいろいろ評価があります。再開に向けての第一歩だということもあるんですけれども、やっぱり表現の不自由展実行委員会の人たちは、条件を付けるな、現状のままでの再開なんだという主張をしています。私たちもそう思います。検証委員会はあくまでも「検証」なので、大村さんも条件が整えばとかいろいろ言っているけれども、まずは現状で再開をしろということで25日の夕方にスタンディングをやりました。
いまの状況を説明すると、大村さんは9月25日の検証委員会の中間報告のあとに、再開するんだと明言しています。河村さんはいろいろ言っていますけれども。ただ再開の仕方が、いまは表現の不自由展の実行委員会の人たちとどう折り合いをつけるのかというところに話がいっています。もうひとつは仮処分の問題です。先ほど言ったように27日のあとにもう一回30日に審尋があるので、これがどうなるかということが大きな問題だということで、来週は本当にいろいろな動きがあります。決断ができるのは実行委員会会長の大村さんなんですね。規約の16条で中止したわけですから。そして大村さんがGOを出すということになっているので、それが本当にいろいろ調整しながら、いつなのかということになっています。
それから25日の再開の発表を受けて、ご存じのように萩生田文科大臣が補助金の支給をしないといった。これは決まっていることを覆すという、とんでもないことです。それに対して大村さんは、始めは係争委員会でやると言っていましたけれども、やっぱり裁判でやるんだと言って全面対決でたたかう姿勢をちゃんとしているので、それも再開に向けてのひとつの追い風になったのではないかと思っています。本当に来週月曜日からどのようにことが展開するのかは注目なんですけれども、明日も行動があって私も参加します。
この間、毎日毎日いろいろなことがあったけれども、ひとつはこの中止の問題というのは、県の方は警備の問題とかいろいろなことを言っています。けれども、やっぱり平和の少女像や「遠近を抱えて」などの日本の歴史認識の問題、そこに根っこがあるんじゃないかと思います。県民の会は、もちろん再開を、ということですけれども、もうひとつは歴史修正主義をきちんと正せということを言っています。天皇制まではまだ言い切れていないのですけれども、その2つをあげています。作家さんの中で歴史の問題は、「ちょっとそこは」という意見もあるので微妙なところなんです。「これは表現の自由の問題なんだ」というところもあるんですけれども、私たちはこれが本当にバックにある一番の問題ではないかと思っています。「平和の少女像」がこの展示だけではなくて、フィリピンだとかドイツだとか、そういうところで設置されても日本政府が妨害をして撤去させるという、そういうことも起こっています。とくに安倍政権になってから歴史の歪曲というか歴史修正主義がものすごく露骨に現れているし、萩生田文科相の補助金カットにしても、そういうことが一番の問題ではないかと思っています。
それからこの間、河村さんだとか松井大阪市長だとか神奈川の黒岩知事など政治家、行政の介入がありました。これは憲法14条の思想信条の自由を規制するんじゃないかと私は思っています。そして何よりもこの展示の中止は、憲法21条が保障する集会結社及び言論の自由に違反するんじゃないかと思っています。
もうひとつは、わたしも「電凸」という言葉があるということを今回初めて知ったんです。確信的な右翼というのではなくて、時代の雰囲気のようなもので何となく、誰かがこう言っているから自分もやってみようというようなものがあって、それがすごく怖い状況があるのではないかと思います。1万件というものを、どこかが組織だって「うわっ」てやるということにはならないと思うんですよね。さきほどの河村市長の発言などが後押しになって、実際に展示を見もしないで、作品の主旨も理解もしないで、なんとなく雰囲気でやってしまう。これは表現の不自由展だけではなくて、いま徴用工問題を巡ってものすごく韓国バッシングが起こっていますけれども、アジアに対する蔑視というか歴史をきちんと学ばない、教科書の中でも教えない、そういういろいろな教育の欠陥だとか、そういうことがもろもろ重なって今の時代状況になっているのではないかと私は思います。もちろん、政府のやっている「嫌韓」とか「断韓」、もう韓国なんかいらないというようなマスコミの表現などもある、そういうことがものすごく後押しになっているということもあると思うんですけれども、単に表現の不自由展の再開をすればいいということではなくて、根本にある、根っこにあるものをきちんと見て、訴えていかなければいけないと思います。
それから、実際に日本軍「慰安婦」被害者として韓国に生存者がいらっしゃいますよね。当時ものすごく過酷なことをやられて、やっと声を上げた。でもこの間、日本政府はずっとそうなんですけれども、その声をもう一回つぶすようなことをやっている、あったことをなかったという。この表現の不自由展・その後の展示中止もその一環だと思うんですね。生身の人間の感情を何も考慮しない、そういう国家の暴力、そういうことがここに出ていると私は思います。非常に大変な相手とたたかっているのではないかと思うんですけれども、実際に負けられない。これが中止のままだったら、抗議をすれば中止になるんだという既成事実ができあがってしまう。それは絶対に避けないといけない。そういう覚悟でやっています。幸い大村さんは再開するといっていますので、もし本当に現状のままで再開されれば小さい勝利かなと思います。
私はいま愛知県に住んでいるので当事者としてやっているんですけれども、実際この問題が起こるまで、もうこれだけ「表現の不自由」ということが全国各地であったということを、もう一度気付かされた気がします。展示の中で実行委員会が年表をつくっているんですけれども、本当にたくさんあります。例えばニコン裁判とか富山やフラッシュモブなどはたたかってきたけれども、でもやっぱり多くの人たちが、それは仕方がないと口をつぐんできた。そういうことの積み重ねによっていまのこの状況が起こっているんじゃないかと、このことを通して私は考えました。当事者にとってはすごく大きなことで大変なことだと思うんですけれども、ひとつひとつのたたかいをきっちりやっていくことがすごく大事だと思いました。そういうことをやっていけば、例えば日本の作家さんなどでも、これは権利なんだ、表現することは権利なんだということがちゃんと、言葉が上から目線かもしれませんが、自覚できるというか、ひとつひとつのたたかいをきっちりやっていけば自分達の権利なんだということがわかるんじゃないかと思います。
明日からまたスタンディングをやりますし、10月5日には国際フォーラムを開くということで、私たちも対抗して何かやろうかなと思っていたんですが、この補助金停止問題で撤回を求めるような集会をやろうということを考えています。この間の動きで来週山場になると思いますので、ぜひ注目していただきたいと思います。
この補助金問題というのは、一愛知の、トリエンナーレだけの問題ではなくて文化行政、日本全体の問題になってしまったと思います。朝鮮学校の無償化の問題などもつながることですし、今後こういう文化事業だけではなくて、補助金を使っているような事業で、向こうは手続き上の問題だといっていますけれども、タイミングといい発言といい、実際にこの表現の不自由展の展示が問題だということは明らかだと思いますね。自分たちの政権の意向に沿わないものは、これからカットするぞという宣言じゃないかと思っています。だからこれはあいちトリエンナーレ、表現の不自由展だけの問題ではなくて、いろいろなところに波及する問題だと思っています。名古屋でもやりますけれども東京でもいろいろな運動をしていただければと思います。
これは私たちがつくったハガキです。大村さんと津田さんに再開を求めるもの、これは再開するといっているのでちょっと遅いんですけれど。もうひとつは河村名古屋市長に対する抗議文です。これはまだまだ活用できますので、どんどん出していただきたいと思います。今日たくさん持ってきましたのでみなさんのまわりで広めていただけるようでしたら、うれしいです。
菱山南帆子(市民連絡会事務局次長)
著者:清水雅彦 発行:高文研
定価:1200円+税 115頁
10月10日発行の、それこそ生まれたての清水さんの著書をさっそく読ませてもらいました。
手に取り真っ先に思ったのは「大変だっただろうな」という事です。なぜなら清水さんとはよく「原稿が書けない」「原稿が遅れてしまう」という話をよくするからです(私もよく原稿が書けなくて苦しんでいるので)。
ですので「あとがきの書き出しが<「やっと」本書を出すことができました>の「やっと」に込められた気持ちには心底共感します。
憲法学者、大学の教員の一方で、戦争をさせない1000人委員会事務局長代行や、九条の会世話人を引き受けられながら、積極的に市民運動に参加されています。私などは時々、清水さんの運動論の話を聞いたり、活動に参加されている姿を見ると「清水さんは活動家が学者をしている」と思ってしまうほど精力的に闘ってこられました。
この著書にはそんな「現場派」の清水さんならではの視点や意見に満ちています。
改憲反対の闘いに「即」「超」役に立つこと間違いなしのQ&A方式の書き方は、清水さん自身の発案ですが、その書き方が通常と異なる大変さがあり、苦労されたとのことです。
「はじめに」の最後が「理解を助けるために、キーワードや大事な概念は色つきのゴシック体にし、必要に応じてイラスト・写真・注・コラムも付けています。さぁ一緒に考えていきましょう」と、さりげない呼びかけなっています。私はここに、清水さんの研究者として、また、一市民としての情熱と優しさがつまっていると思います。
先ほど「活動家が学者をしている」と書きましたが、本当は「フィールドワークする憲法学者」ともいうべきかなとも思いました。
「あとがき」にも触れられていますが、Q&A方式という書き方の制約の中でも積極的に持論が展開されています。批判すべきものは遠慮せずに批判することを清水さんは「私の性格からくるものですが」と言われていますが、私はそんな清水さんの性格を断固支持します。
清水さんは安倍政権の新たな改憲策動(9条への自衛隊書き込み等)を「手強い」と警戒感を持たれています。だからこそ「理解を助けたい」「言うべきことは言わなければならない」との思いが本書に結晶しています。
第2章「戦争法の問題点とは何か」を読んでいると、2014年7月1日の閣議決定による集団的自衛権行使容認から、翌2015年の戦争法案をめぐる闘いの日々(2015年安保闘争)を鮮明に走馬灯のように思い起こしました。(Q19が「戦争法はどのような法律なのですか?」なのは9月19日に強行「成立」されたから?と奥が深くとらえました)
淡々と書かれていることの中には、官邸前や国会前で感じた怒りや悔しさが込められているからこその想起させる表現の力なのだと思いました。(清水さんには戦争法案廃案をめぐる連日の座り込み闘争の時「青空憲法講座」を開いてもらいました)
清水さんは今の憲法を「天皇制という封建制社会の遺物を残した資本主義憲法」だと評価します。そして「民主主義・法の下の平等・国民主権の観点から天皇制は廃止して、共和制に移行すべき」だと考えます。そんなスタンスを自ら「改憲派」とあえて表明しながらも「私は戦争違法化の最先端を行く日本国憲法の平和主義を変える必要はないという立場です」ときっぱりと立ち位置を宣言されている。
Q&Aの最後のQ48“「今後、市民はどうすればいいのでしょうか?」に「労組と市民と野党の共闘」に参加していくことです”と答えきるところなど「闘う憲法学者」清水さんの真骨頂だと思います。
私たちは闘いの中から生まれ書かれたこの「9条改憲(48の論点)」を手に、いよいよ激しさを増す安倍政権の改憲策動に真っ向から立ち向かっていきましょう!折しも安倍政権は改憲世論喚起を狙って10月18日に二階幹事長の地元で和歌山~憲法集会をスタートさせました。闘いはいよいよこれからです。
弁護士 児玉勇二
1、まず私の「戦争裁判と平和憲法」明石書店 を紹介します。読んだ皆さんから、まさしく今の政治情勢にピッタリの「戦争をしない、させないため」の題名、中身もそれに闘う行動指針となる本だとお褒めの言葉を多くの人から頂いています。
(1)まずこの本は、一貫して、悲惨な戦争体験、戦争被害の事実から出発しています。
今の日韓問題の徴用工問題そうですが、ILO条約29条違反の強制労働、26年奴隷条約違反の危険労働や劣悪な環境下の死者も大勢出たような戦前、戦争中の労働力不足を植民地支配下の韓国朝鮮の人たちを欺罔して強制的に引っ張ってきた加害と被害の事実を忘れてはなりません。従軍慰安婦も裁判所でこの事実が認定されているのです。この戦争責任が戦後不十分で、戦後過去それなりの努力も踏みにじって、今その歴史認識がない安倍政権とこれを支えている右翼日本会議の人々が、再び戦前にも似た大国意識で輸出規制など発動して、排外主義的なナショナリズムを煽って、尊敬と冷静さで隣国との、私達の中国強制連行裁判などの数々の経験を学びようともせず、話し合いの真の和解を遠ざけているのです。マスコミも政治家も、多くの国民もそれに引きずられ安倍改憲にも利用されているのは安閑として放置していてはならない状況です。
だからこそ、この本は対内的な戦後補償のみならず加害責任の対外的戦後補償の裁判も紹介して、その被害者の方々の戦争での、戦後も苦しみ続けてきた、歴史的真実をまず学ばければならず、そこからから今こそ戦後の戦争責任をどう考え解決するか、ヒントが見いだせるものと確信しています。
(2)しかしながら今安倍政権は,専守防衛を超えて、アメリカなどのために軍事力を行使できる集団的自衛権行使、後方支援をできる自衛隊として、先制攻撃敵基地攻撃能力をもった自衛隊軍隊として大きく変貌して、アメリアから武器を爆買し軍事大国にいつの間にかに変貌を遂げてきています。その完成として、未だ半分以上の人たちが反対し立法事実もない憲法9条に自衛隊明記するなど4項目の平和憲法改正に前のめりにふらつきながら猛突進しているのです。
(3)私たちの戦争、改憲阻止の活動が緊急かつ重要な局面にきています。しかし、一方で多くの国民は、無関心で、若者も、ハンナ・アーレントの言うSNSなどに没頭して新聞も本も読まずに思考停止となり,選挙にも行かず、無関心層が懸念するほど広がっています。これに自信をえて強権的にナチスと同じように戦争への暴走を安倍官邸のいうように「ワイルド」にスピードアップし最後に、「小さなお家」の中島さんの新聞記事を紹介したように危険な戦争局面前夜に来ていると考えています。しかしでもこの本でも描いたように世界では昨年のはじめから北朝鮮情勢も南北米朝会談で北朝鮮半島の非核化、東北アジアの非核化、国連での核兵器禁止条約の世界平和の世界史の視点での動きの中で、戦争違法性の人間の尊厳をめざす本流の流れも強まってきています。国内では、市民と野党の共闘の流れも前進してきています。
(4)このような状況を直視しながら,戦争させないために、後半、まず新安保法制違憲訴訟裁判を紹介し勝訴を目指していることを紹介しています。また、自衛隊の海外派遣派兵の差止めを求めた湾岸戦争、イラク戦争裁判を、名古屋高裁で確定した判決を紹介し、これに基づいて今回の安保違憲訴訟でもこれらの裁判の判示で認められた平和的生存権を、また憲法13条の判例で認められている人格権を活用していることを述べています。
しかしそれでも多くの人から北朝鮮、中国から責められたらどうするのかと素朴な疑問質問がきます。そのとき私達は、安倍政権の言う核軍事抑止力の積極的平和(本当は軍事)主義への対案として、本当の積極的平和主義を示さなければなりません。(1)戦争違法性の20世紀から現在までの流れを(2)世界各地に広がってきている平和地域共同体を(3)昨年国連で採択された核兵器禁止条約を(4)米朝会談南北会談など朝鮮半島の非核化を含めて北東アジアの平和を⑤信頼されることが戦争抑止となるコスタリカの積極的平和主義を。
(5)そして最後に、ドイツの最も進んでいたワイマール憲法がナチスヒットラー到来によって崩壊していった歴史、これを真似ようとした安倍首相、麻生副総理、日本会議が言う政治論、教育論、司法論、マスコミ論、フアシズム論、青年論から、野党と市民の共闘がこれに対峙できる、闘い行動の課題が見えてくるはずです。
最後に、安倍9条改憲阻止の問題を解説し「米国とともに世界中で武力を行使できる軍事大国を阻止しなければならないことで終わります。
次に安保違憲訴訟の関係者が最近発刊した「自衛隊の変貌と平和憲法」脱専守防衛化の実態 現代人文社 を紹介します
安保法制制定以降、その殺し殺される内容の戦争法と言われる違憲の法律の実施による重大な権利侵害として、自衛隊の先制攻撃敵基地攻撃型の軍隊へとその実態が変遷し、米韓防護などの新任務での自衛隊の明らかな専守防衛を超えた数々の国民には秘密裏に公然と進めている違憲の軍事行動を、米軍下で進めてきています。裁判でこの点の意見書を書いて頂いた前田哲男、半田滋、飯島滋明、清末愛砂さんらの専門家も加わって、自衛隊の変貌、海外派兵型の自衛隊の現実、自衛隊員自衛官の現実、基礎知識に分けて、違憲訴訟の共同代表の寺井一弘、伊藤真弁護士、イラク裁判、南スーダン裁判の佐藤博史、中谷雄二弁護士らの一人一人の迫力ある改憲阻止、平和運動を進めていく上での必須の本です。
飯島さんの「自衛隊が憲法違反との言説が持つ意味」、「憲法9条と憲法改正の限界」、「文民統制」、前田さんの「ガイドラインの移り変わりから見る日米安保と自衛隊」、「新防衛計画大綱中期防などから見る自衛隊の実態」、伊藤さんの「憲法改正をめぐる政治動向」、半田さんの「安保法制と自衛隊海外派遣」、満州引き上げのときの、涙流さざるをえない体験をしているこの全国の裁判のネットワーク代表の寺井さんの「安保法制違憲訴訟の意義と歴史的使命」、「裁判で平和憲法を死守」、佐藤さんの「防大の教育の実態」、中谷さんの「自衛隊の市民監視を巡る裁判」、など、今私達が、改憲、戦争に抗して行くためにも学ぶべき価値のある、私の本のように長すぎず、読みやすい迫力のある必須の本です。
最後に私の知り合いの弁護士の素晴らしい本を紹介します。
今日韓問題になっている戦後補償と平和憲法の歴史について、内田雅敏さんの「戦後が若かった頃に思いを馳せよう」三一書房。核兵器廃絶の廃絶については 大久保賢一さんの「核の時代と憲法9条」日本評論社。研修所同期の中山武敏さんの、痛みがわかるから差別は許されないの「人間に光りあれ」花伝社。同梓澤和幸さんの緊急事態条項、9条明記の今回改正についての「改憲」同時代社、同豊川義明さんの労働運動の再生のための「労働における事実と法」日本評論社を各推薦します。
安倍改憲阻止、軍事大国化を食い止め世界中に日本中に平和を作って、暮らしを守っていくには学習が必要です。