私と憲法221号(2019年9月25日号)


安倍政権、改憲へ布陣強化、負けるものか!

内閣改造と自民党役員人事

参院選で改憲発議要件の3分の2を失った安倍首相は、「改憲の議論をすべきという国民の審判は下った」と強弁しながら、秋の臨時国会に向けて新たな改憲のための挙党体制というべき布陣を敷き、改憲への再始動を開始した。

すでに到達した戦後最長の在職日程は間もなく11月には20世紀初頭の桂太郎内閣を超える歴代最長内閣となるという。しかし、政権の長さだけを誇って戦後最長とか、歴代最長とかいうものの、安倍首相が自らの最大の使命とする改憲問題をはじめ難問山積で、気が重いはずだ。10月から強行される消費税引き上げによって、社会の格差は拡大するばかりで、深刻な国家財政の危機は一向に解決しない。外交面でも日米貿易摩擦は深刻で、日韓関係の悪化、日朝国交正常化、日露平和条約締結、イラン有志連合参加問題などなどの難問は先行きが全く見えない。

念願の改憲は2017年5月に新しい安倍改憲案を提示し、その後自民党の「4項目改憲案(たたき台)」にまとめ上げたが、この2年数カ月を経ても、国会での議論は端緒にすらついていない。そうした野党の抵抗を支えているのが世論の安倍改憲反対の空気であることは間違いない。

今回、あと2年となった自らの「(総裁)任期中の改憲」を目指す安倍首相は容易ならぬ決意で人事にあたった。

9月11日、第4次安倍再改造内閣と自民党の新4役の構成が発表され、安倍首相はじめこれらの主要メンバーは一様に「一丸で改憲をすすめる」と強調した。

にもかかわらず、改憲をすすめる上でもっとも肝心の自民党憲法改正推進本部の本部長人事はまる1日以上、もたついた。13日のメディアは細田博之・元官房長官・党内最大派閥の細田派会長の再起用と、根本匠・改憲本部事務総長、山下貴司・改憲本部事務局長と2人の閣僚経験者による事務局体制、新藤義孝憲法審査会与党筆頭幹事は留任、加えて佐藤勉・元国会対策委員長の衆院憲法審査会会長への登用を報じた。新たに党幹事長代行に就いた稲田朋美氏は早速改憲を訴えて全国行脚に乗り出すという。参議院の自民党憲法審査会会長は柳本卓治会長が政界を引退し、後任が難航したが林芳正氏で行く方向がきまった。

新内閣は極右「日本会議」メンバーと安倍側近によって固めた極右内閣だ。安倍首相を含めて20人の閣僚のうち、公明党所属の赤羽一嘉国交相をのぞく19人中「日本会議国会議員懇談会」に属する閣僚は16人、うち安倍・麻生両氏が特別顧問、高市総務相、菅官房長官、橋本五輪相が副会長などだ。残りの3人は河合法相、田中復興相が神道政治連盟国会議員懇談会所属、小泉環境相は両組織には属していないものの敗戦の日には毎年靖国神社に参拝する。この布陣は「先進資本主義国」を標榜する世界に類例を見ないほどの右派政権権だ。
一方、自民党の新役員人事の特徴は先に決定した二階幹事長と岸田政調会長の続投と合わせて野党対策重視の布陣にある。これらの面々のいずれもが「野党とのパイプがある」ということが売りだ。これらの面々は、従来、必ずしも改憲論議の推進には熱心ではなかったが、今回は安倍首相にねじをまかれて改憲推進をうたっている。
岸田などはポスト安倍を狙って「党を挙げて改憲を」などと叫んでいる。

指摘しておかなくてはならないことは、この組閣騒ぎが台風15号の激甚災害ともいうべき災害の中で行われ、救援の初動が決定的に遅れたことだ。2018年の西日本豪雨のなかで開かれた「赤坂自民亭」と同様の問題だ。加えて、この内閣の看板とされた小泉進次郎環境相は、就任翌日、千葉の被災地には目もくれず予定通り福島県の視察に出かけた。まさに長期政権の奢りと腐敗の露呈というべきだ。

憲法審査会の継続審議案件

この安倍政権は当面、事実上休会している衆参両議院の憲法審査会の再開と、ここへの自民党の改憲案の「提示」に全力をあげようとしている。
そのためには第1に、この間、憲法審査会を再開するのかどうかという問題に決着がつけられるのかどうかであり、第2に、自民党らが強行再開をしたとしても、継続審議になっている「改憲手続法の修正」問題をクリアしなければならない。

198通常国会では改憲手続法の修正の議論で、従来、与党が主張していた「公選法ならびの修正」という微修正の立場から、野党が主張するTV・CM問題の再検討の許容に一歩踏み込み、民放連幹部を参考人招致した。しかし、民放連側は同法成立時に言明していた「自主規制」の意思を翻したために、野党は同条項の再検討を主張し、デッドロックに乗り上げた。衆院憲法審査会の再開のためには、同法の微修正にとどまらないTV・CM問題の再検討に与党が応じるかどうかになる。しかし、憲法審査会の再始動を焦る与党はどうやら野党の同法の再検討を容認する方向になっている。

その狙いはこうだ。公明党北側幹事長は8月中旬、「(憲法審査会で改憲を議論する自由討議を)並行してなぜいけないか。CM規制の議論は時間がかかる。その決着がつくまで中身の議論に入らないのは違う」などと述べ、野党のいうCM規制の議論を受け入れつつ、憲法審査会を動かして、自民党改憲案の「提示」と「討論」を容認する「自由討議」の場を設定する方向性を示唆した。この北側幹事長の議論は暴論だ。継続審議案件を優先して議論し、決着つけないままに同時並行して自民党改憲案の提示と、その討議に入るなどということは許されるものではない。

私たちはこの間、繰り返し主張してきたが、現行改憲手続法の問題点はTV・CMのみではない。これは同法強行の際の3項目の附則と18項目の付帯決議(すでに過去のものとなった条項はあるが)に問題点は列挙されている。そしてこの間、日弁連などが同法の問題点をくりかえし指摘してきた。

「憲法改正国民投票」を運営する法律には1点の曇りもあってはならない。慎重すぎるほどに同法の問題点は議論されなければならない。野党の側も、かつて自分たち(主として当時の民主党)が賛同した条項も含めて抜本的再検討に踏み切るべきだ。

改憲派の大再編を許さない

2020の東京五輪の後にも実施するかもしれない次回の衆議院選挙では、安倍改憲に反対する野党の小選挙区での候補者一本化の動きが確実で、改憲派は先の参議院選挙に続いて、ここでも3分の2以上の議席を確保するのはほぼ困難だ。つまり、改憲派は両院で発議の条件である3分の2を失うことになる。

それでも2021年の任期中の改憲に安倍首相らがこだわるとすれば、現在の「安倍改憲派」対「改憲反対派」の構図を変えて、野党陣営を切り崩し、大幅に3分の2を超える新たな「改憲賛成派」を作るしかない。

しかし、この奥の手の「野党分断」策は、いま立憲民主党と国民民主党、社会保障を立て直す国民会議などが結成した院内統一会派の成立によって容易ではなくなる。

衆院憲法審査会の議員団が9月19日、10日間の予定でドイツ、ウクライナなど4カ国の欧州視察に出発した。自民党の新藤義孝筆頭幹事、立憲の山花郁夫野党筆頭幹事、北側一雄公明党幹事、国民民主の奥野総一郎幹事らだ。この狙いには「戦後60回以上の改憲を重ねている」ドイツなどから、改憲の正当化を引き出すことはもとよりだが、幹事同士の交流を通じて、与野党委員のパイプを太くすることにある。まさに憲法審査会始動の布石だ。何回、欧州視察に行けばよいというのか。この間の調査団の議事録は積みあがっている。野党懐柔のための宴会政治的陰謀的な欧州調査団の派遣などの習慣は止めるべきだ。

安倍改憲派前途多難

今回、自民党憲法改正推進本部の本部長になった細田博之らが2018年にとりまとめた自民党の4項目の「改憲たたき台」案に対しては改憲派のなかでも強固な一致はない。
自民党内でも次期総裁の有力候補の一人、石破茂元幹事長は、安倍首相の「自衛隊を書き込んでも何ら変わらない」という説明を逆手にとって、「何も変わらないなら変える必要がないではないか」と批判している。連立与党の公明党では支持母体の創価学会の一部を中心に「9条改憲」への根強い疑念がある。公明党は慎重派の山口代表と、自民党改憲案に同調する北側幹事長の掛け合い的な演出で、下部の不満を解消しようとする苦肉の策をとっている。日本維新の会の改憲論は自民党改憲4項目のうち「教育の充実」が優先課題で、9条は自民党の案に反対しないという受け身の姿勢だ。「緊急事態条項」「合区解消」などの項目も改憲派内部で必ずしも一致がない。もともと自民党の改憲4項目は9条問題を除いて法律で解決すべき問題であり、改憲マターではない。

それでも、自公与党に維新の会を合わせても3分の2にならない。いずれかの野党を加えるとしたら、大幅な妥協が必要で、改憲項目での合意はさらにあいまいになる。

この一致をつくり出すためには野党を憲法論議に巻き込んで、憲法審査会などでの議論をへたうえで、圧倒的多数の支持を得ることができる改憲原案を作る必要がある。しかし、この議論の過程で、自民党は各党派の意見を取り入れることでは譲っても、自衛隊の根拠規定を書き加えるという改憲項目は譲れないだろう。この矛盾の解決は容易ではない。

野党の多くは「憲法違反を繰り返してきた安倍晋三首相が率いる自民党に改憲案を提起する資格はない」と考えている。立憲野党は安倍改憲案の採決に同調しないから、改憲派が憲法審査会で改憲原案を成立させるためには強行採決以外にない。強行採決で無理やり作った改憲原案が衆参両院で3分の2以上の支持を得ることができるかどうか、極めて厳しい。

加えて、国会が発議した改憲案は、「国民投票」による承認を経なくてはならない。改憲派に極めて有利に作られている改憲手続法(国民投票法)ではあるが、否決になるリスクは大きい。

改憲を阻止し、民主主義の不断革命へ

共同通信社が内閣改造を受けて9月11、12両日に実施した世論調査では「安倍晋三首相の下での憲法改正」に反対は47.1%で、賛成38.8%だった。この傾向はこの間ずっと続いている。あきらかに民意は「改憲」を望んでいない。

冒頭に述べたように、安倍首相は先の参院選で「憲法を議論する政党か、議論しない政党か」を有権者に問い、「憲法を議論すべきだ」との支持をえたとうそぶく。しかし、今日の憲法問題の分岐点は安倍首相が恣意的に作り出した「議論するか、しないか」などにあるのではない。戦争する国づくりを進める安倍9条改憲を認めるかどうかだ。世論はこの点で明確に安倍首相らの改憲にNO!を突き付けている。

憲法を議論したいというのなら、なぜ予算委員会の開催を半年もさぼっているのか。憲法問題を含め、問題山積の中で、6月に終わった通常国会の後、3カ月も国会が休むのか。臨時国会の開催がなぜ10月にまで引き延ばされるのか。確かに憲法審査会で憲法の議論はできる。しかし、憲法審査会の議論はあらかじめ改憲を前提とした、出口が定まっている議論にならざるをえない。改憲の下心なしに議論できる予算委員会こそ、憲法の論議にふさわしいではないか。

総がかり行動実行委員会は、先の参院選の成果の上にその成果をつくり出したこの間の「安倍9条改憲NO!憲法を生かす全国統一署名」をはじめとする運動を中間的に総括し、安倍首相らが改憲への総攻撃をかけてくるという新たな情勢の下で、これに反撃し、打ち破る闘いの布陣を敷くつもりだ。

私たちは安倍自民党による「改憲発議」を絶対に許さない。自民党安倍総裁の任期は残り2年。ここで安倍改憲に勝利すれば、改憲派は再び「改憲」を言い出すことができないような事態になる。

そのうえに私たちは安倍政権を打ち倒し、政治を変え、憲法を社会に生かし、真の意味で憲法3原則が生きる社会を市民の力で作りださなくてはならない。これこそが民主主義の不断革命の展望だ。
(事務局 高田 健)

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第137回市民憲法講座 参院選後の新しい情勢と改憲阻止の運動

お話:渡辺 治さん (一橋大学名誉教授、九条の会事務局)

(編集部註)8月24日の講座で渡辺治さんが講演した内容を編集部の責任で要約したものです、要約の責任はすべて本誌編集部にあります。

はじめに

参議院選挙が終わりまして、安倍改憲を巡る攻防は新たな局面に入ったと思います。

2019年の参議院選挙をどう見るかととうことについて、メディアは2つのポイントでほぼ全ての新聞が報道しています。ひとつは自公が改選過半数を達成できたのか、もうひとつは改憲3分の2が達成できたかがポイントです。毎日新聞は「自公勝利、改選過半数。改憲3分の2届かず」、逆に東京新聞は「改憲勢力3分の2割る。自公改選過半数は確保」となっています。私は今度の参議院選挙を3つのポイントで考えたいと思っています。

ひとつは何といっても安倍改憲の成否を決める改憲勢力3分の2を覆した。改憲策動の加速化は防ぐことはできた。しかし安倍に改憲を断念させるような大幅な3分の2の割り込みをつくることはできなかった。従って4議席-現在は5議席ですけれども、足りないという状況の下で、安倍改憲を巡る、あえていえば「決戦」は先に延ばされて、対峙は新しい局面に入ったということが第1のポイントだと思います。

第2のポイントは、安倍自民党と与党勢力の多数を覆して安倍政治を覆す。参議院選挙で覆すことはできません。ちょうど2007年の参議院選挙で、小沢率いる民主党が自民党に大勝して2009年の民主党政権を生んだ。そういう安倍自民党、与党勢力の多数を覆して安倍政治を覆す一歩を踏み出すまでには至らなかった。しかし3番目に、32の一人区で野党共闘が成立し善戦することで、どうすれば安倍政治を変えることができるのか、この方向は見いだすことができたのではないか。この3つのテーマを中心に安倍改憲に焦点を絞りながら参議院選挙の結果を確認して、参議院選挙後の改憲情勢と私たちの運動の課題を考えたいということが今日の講演の主旨です。

焦点1、安倍改憲を勢いづかせるか息の根を止めるか

今度の参議院選挙は3つの焦点がありました。第1の焦点は、参議院選挙で3分の2を維持させることで安倍改憲を勢いづかせるのか、それとも安倍改憲の息の根を止めるような結果をつくるのかということです。恐らくこれだけの意気込みで改憲を争点にしたというのは自民党史上始まって以来のことだと思いますが、安倍首相は今回、改憲を参議院選挙の争点に据えてきました。政策パンフレットの5つの重点項目、公約の5番目に憲法改正を実現するということを入れました。それだけではなく参議院選挙で「改憲問題の論議をする政党を選ぶのか、審議をまったくしない候補者を選ぶのか、それを決めていただく選挙だ。今回の選挙はそういう選挙なのだ」ということを精力的に訴えました。

そもそも自民党が1955年に結成されたときに政治綱領の中で自主憲法の制定を謳ったわけですから、れっきとした改憲政党としていままで存在してきたわけですが、実は50年代の末から60年代、70年代、80年代、90年代にかけて自民党が選挙戦において重点的な争点として改憲を打ち出したことはほとんどありません。とくに1960年に安保条約の改定を強行し、その勢いをかって改憲を実行しようと考えた岸内閣が国民の安保闘争によって挫折を余儀なくされ、辞職を余儀なくされた結果、自民党は憲法改正はしないということで政権の維持を図らざるを得なかった。

90年代に入って、アメリカの圧力のもとで自衛隊の海外派兵を実行すると、そのための矛盾として改憲をやらなければいけない事態になっても、60年安保の悪夢を踏まえて自民党は解釈改憲というかたちで臨まざるを得なかった。そして解釈改憲を実行して小泉は自衛隊を海外に出動させたわけですが、実際には憲法9条のもとで海外での武力行使はできなかった。そこで任期中の改憲を初めて公約に謳って登場したのが第1次安倍政権だった。これに対しては九条の会の反対運動を初めとして1年で安倍政権がひっくり返され、そのあと福田、麻生政権と続いて改憲どころの騒ぎではなく、民主党政権が誕生し、改憲は頓挫した。第2次安倍政権になっても、安倍首相は第1次安倍政権の痛みを「反省」して解釈改憲で臨みましたから、現在に至るまで、6回目の選挙ですけれども、いずれも憲法改悪を争点にしたことはなかった。

初めて安倍自民党が改憲を争点に掲げたのは2017年、2年前の衆議院議員選挙です。6項目の重点項目の6番目に書いた。これが初めてですけれども、17年10月の総選挙の場合は安倍首相は最後のところで争点として改憲を打ち出すことはできなかった。今回は重点公約の第5番目に入れただけではなく改憲問題を争点として参議院選挙を戦うというのは、恐らく自民党史上初めてのことになる。こういうことをきちんと見ておく必要があると思います。

財界もそれを支持しました。改憲問題についてはもう少し国民的な議論が起こっていなければいけないというかたちでサポートしました。なぜ首相は今回あえて改憲問題を争点にしたのか。ここに安倍が今回の参議院選挙に向けた大きな狙いがあると思います。逆に、なぜ自民党はいままで改憲政党といいながら選挙戦の中で改憲問題を争点にしなかったのかといえば、これはもう明白です。「票にならないから」。むしろマイナスになるからです。決戦になって一票を争うような事態になったら改憲問題なんてとても言っていられない。実は言いたいのは山々だけれども、とくに安倍首相の場合には言いたいのは山々だけれども、この間の5回の選挙では言わなかった。

改憲問題を前面に立てた2つの要因

今回あえて改憲問題を争点にしたのには2つの要因があります。ひとつは衆参両院で改憲勢力が3分の2を達成し、それを背景に2017年5月3日、安倍首相はいままでの理想案を捨てて現実的に改憲を実行しようと、「5.3改憲提言」を出しました。

それから2年、安倍自民党の努力にもかかわらず市民の運動の力によって、この「5.3改憲提言」の強行は失敗した。3分の2を衆参両院で取れたことはそんない古いことではありません。衆議院では2012年の安倍自民党が政権に復帰したときの衆議院選挙で、自公合わせて3分の2を取りました。それから14年の衆議院選挙、17年の衆議院選挙でも衆議院は3分の2を確保しましたが、参議院は第2次安倍政権が誕生した2012年には3分の2どころか、自公合わせて過半数なかった。過半数を持っていたのは民主党です。それを2013年の参議院選挙で民主党が大敗し、自民党が大勝して65議席を自民党が取り、まず自公で過半数を確保する。そして2016年の参議院選挙で再び自民党は56議席、公明党が14議席、そして維新の会と無所属の改憲派も合わせてぎりぎり3分の2が達成された。つまり2016年の参議院選挙で、初めて衆参両院の改憲勢力3分の2ができたんです。

ところがこの2016年の参議院選挙というは、改憲勢力が3分の2になっただけではなくて、実は安倍改憲にとってもっとも強大な敵である市民と野党の共闘ができて、それが戦後初めて選挙で野党共闘を成立させ、11の1人区で当選するという事態が起こった選挙でもありました。安倍首相にとってみると、ようやく衆参両院の3分の2を取った2016年の参議院選挙は、もっとも容易ならぬ敵が現れた選挙でもありました。そこから安倍は、この改憲を実行するには、自民党が、改憲派が今まで考えてきた理想的な案――9条2項を削除して自衛のための軍隊、国防軍を持つというような案では、市民と野党の共闘を前にして3分の2で強行して突破することはできない。強行突破するには公明党と維新の会とがっちりスクラムを組んで3分の2があるうちに突破しなければならない。もし次の選挙で市民と野党の共闘が衆議院289の小選挙区で共闘したら、3分の2は無理だし過半数も危ないかもしれない。そういう状況の下で改憲を実行するには、いまの衆参両院3分の2のもとで突破するしかない。

そのためには理想論なんか言っていられない。9条1項2項を残しながら自衛隊を憲法に明記することによって戦争する国をつくるというという案。これは公明党がそもそも加憲と言ってきた案ですから、これを掲げて自民党は公明党と維新の会とがっちり組みながら、強行突破しようと企んで、17年5.3改憲提言を出してきた。この案にもかかわらず、市民の運動、とりわけ17年の秋に九条の会も参加してつくられた「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」が3000万署名を提起した。それに勇気を得た野党によって、2年間にわたって臨時国会も通常国会も、それから次の臨時国会も次の通常国会も、改憲の発議を強行するどころか改憲案を憲法審査会に出すこともできないままで参議院の改選期を迎えた。ここで3分の2を落とすようなことがあれば、そもそも衆参両院の3分の2そのものが失われてしまうわけですから、当然安倍首相としては、3分の2の維持のために今回の参議院選挙で改憲を争点にせざるを得なかった。

3分の2をとりながら改憲を動かせなかった「反省」

もうひとつ重大な要因がありました。3分の2があったにもかかわらず憲法審査会で改憲案の提示すらできなかったのはなぜか。18年の総裁選挙のときに安倍が考えた「反省」は、自民党の憲法改正推進本部に固まっている自民党内の改憲派が、与野党協調によって改憲を発議しようとした。つまり野党第1党、昔は民主党、のちに民進党になって、いまは立憲民主党になっているわけですが、野党第1党と協調しながら改憲を実行しようという考え方のもとで憲法審査会を運営した。このような甘い考え方が、改憲問題については必ずしも論議をすることに消極的ではなかったあの民主党ではなくて、いまや市民と野党の共闘を背景にしてカチンカチンに改憲反対に固まった立憲民主党を相手にして、与野党協調路線なんて言っているから、結局2年間、憲法審査会がいつまでたっても開かれないで時間がたってしまった。これが問題だということで、総裁選挙のあとに自民党憲法改正推進本部のメンバーを一新しました。

ご存じのように下村さんが登場し、それから憲法審査会では新藤さんが登場する。簡単にいえば安倍側近を配して改憲を強行突破しよう。与野党協調なっていってやっているからだめなので、憲法審査会も普通の特別委員会と同じように与党のリーダーシップで実行する。こうしなければ結局時間切れになってしまうということで、安倍首相は去年、下村-新藤体制で臨みましたが、これがまったく裏目に出た。

安倍は再び「反省」を余儀なくされた。そこで安倍の思ったのは、こういう上からの3分の2で憲法審査会だけに目を向けて強行突破するようなやり方ではだめだ。野党ががんばっている背景にあるのは、国民世論が依然として安倍政権下の憲法改正に反対、国民世論は変わっていないし、草の根の市民アクションの3000万署名の運動で、憲法世論が変わらない。その下で野党がなかなか分断できない。こういう状態で上から強行突破しようとしても、 強行採決して国民投票に持ち込んだら負けますからね。この上からだけのやり方、憲法審査会だけに焦点を当てた戦い方では突破できない。ここは統一地方選挙や参議院選挙の中で国民世論を変えるような運動を提起する。それで野党を追い込んで憲法審査会の論議に持ち込む。こういうかたちをとらなければ、例え3分の2を取っても、また2年間、3年間同じことが起きる。これでは任期中の改憲なんてとてもできない。

参院選であえて改憲論議を争点にする

この「反省」が安倍をして、不利を承知で参議院選挙であえて改憲論議を争点にする。しかし改憲問題を争点にしたのでは危ないですから、争点をひとつずらして、改憲是か非か、9条改憲是か非か、4項目改憲是か非かではなくて、「改憲論議そのものをやろうじゃないか」として、改憲論議そのものに背を向けるような野党はおかしい。改憲論議をするか、しないかに争点を絞って今回の参議院選挙を戦った。ここが安倍の、今回の「反省」のポイントだと思います。これは、あの戦争法を強行突破した高村が授けて、安倍がそれで行こうと、この改憲の論点ずらしをやってきたと思います。

とにかく改憲を争点にしないことには、選挙で一言も語らないで「3分の2を取りましたから改憲をやりましょう」と言ったって無理だ。国民世論を変えていく、その第一歩にこの参議院選挙を位置づけることが非常に重要な狙いであったと思います。そして参議院選挙で改憲を論議することについて国民の合意を取ったという体裁を取って、改憲論議にプレッシャーをかけるかたちをとった。

この焦点に対して立憲野党はどう対処したかということです。これは今年の5月29日、4野党1会派が、市民連合が提示した共通政策、提言に対して合意した13項目の共通政策の第1項目です。まさに安倍政権が進めようとしている憲法改正、とりわけ9条改正に反対し、いままでで初めて改憲「発議」そのものをさせない、そのために全力を尽くすという項目が入りました。これによって立憲野党は改憲反対という態度を鮮明にしました。しかし今回の参議院選挙で、安倍の改憲論議をするのかしないのかということに対して、野党が正面から改憲反対、安倍改憲阻止で戦ったかというと、そういう争点にはなりませんでした。社民党と共産党はこれを争点にする構えを見せましたが、多くの立憲野党、とくに立憲民主党、国民民主党それから与党、公明党、維新の会、これらは改憲を争点としない方向が多数でした。この改憲論議、改憲を巡る焦点はどうだったのかということが、今回の参議院選挙の第1の評価のポイントだと思います。

焦点2、安倍の新自由主義改革を加速するか、転換の一歩を踏み出すか

第2の焦点は、安倍政権がアベノミクスというかたちで推進してきた新自由主義の改革を、この選挙で勝つことで加速させるのか、それとも転換する第一歩を踏み出すのかということが大きな焦点として浮かび上がっていたと思います。

そもそも安倍政権はどういう政権なのか。支配層が1990年の冷戦終焉以降、一貫して30年にわたって追求してきた2つの改革課題――ひとつは自衛隊は持つけれどもには海外に派兵しないという軍事的な小国主義を打破して、アメリカの戦争に従って自衛隊が海外で武力行使をする態勢をつくるという軍事大国化です。その障害としての憲法改悪、これが第一の課題です。第2の課題は、いままでの自民党の経済成長優位の政治、利益誘導型政治を打破して、大企業・グローバル企業が競争力を持つような新自由主義改革を実行することがもうひとつの課題でした。

このふたつの課題を30年間続けて、軍事大国化については小泉政権が自衛隊のイラク派兵まで持ち込んだ。しかし憲法9条をそのままにしてイラク派兵を行ったために、市民の大きな反対運動の下で、9条が維持された下で海外派兵を行ったために、海外での武力行使ができなかった。それを明文改憲で突破しようとした安倍政権の試みがもろくも挫折することによって、依然として自衛隊の海外での武力行使ができていない。あるいは後方支援という名のもとで全ての戦場に自衛隊を派兵するような態勢はできていない。これを何とかすることが安倍政権の第1の課題だった。
第2の課題は、新自由主義改革を再稼働し完成させる。この新自由主義改革も軍事大国化と同じで、小泉の構造改革政権によって一気に進みました。小泉政権の下で行われた新自由主義改革の最大のポイントは、企業の労働者の賃金を切り下げる。そのために正規従業員主体の日本の企業を根本的に変えて、大量のリストラと非正規化を達成する。

小泉政権が最初にやったことは不良債権処理というかたちで、金融を引き締めて全国の大企業に一斉にリストラを強要する。小泉政権ができたのは2001年ですが、2001年から2002年の1年間で、実に大企業で500万人の正規労働者がリストラを受けました。それに替わって新規採用を絞ることによって、大量の非正規労働者が生まれました。それと同時に大企業に対する法人税負担を軽減するために、法人税の強化の最大要因である財政の肥大化を抑えた。財政の中でもっとも大きな比重を占めている社会保障の構造改革を実行し、一方で、地方に対する公共事業投資を削減して地方の財政改革を行った。リストラにあって失業したり非正規に陥った人々が、最後に頼む綱としての生活保護や医療費の削減が行われ、大企業の利潤を増大させるという新自由主義改革の目的は達成された。

そのかわり日本には貧困がないといわれていた状態が一気に変わり、2006年以降日本の貧困化、社会の分裂、家庭の崩壊、児童の虐待、こういう問題が噴出して、反構造改革の運動が大きく盛り上がった。それを受けていままで新自由主義の急進的な政策を実行しようと訴えてきた民主党が、反新自由主義の政党に大きく変わっていく。その民主党が躍進し2009年に民主党政権をつくる。慌てた財界の圧力によって民主党は再び新自由主義改革に戻るんですが、国民が反新自由主義を期待していた民主党の裏切りに対して、自民党以上に怒りをもって2012年の政権交代が起こった。

安倍政権が再び新自由主義を実行するときは、小泉のような麻酔も打たないで外科手術をするような乱暴な新自由主義改革はできない。それをやったら民主党政権の二の舞、いや以前の自民党政権の二の舞になる。では一体どうするのか。さしあたりカンフル注射を打って、新自由主義改革によって疲弊した地方や非正規労働者に対して一定の配慮を示して生き返らせた上で外科手術を行う。これがアベノミクスであり、第一の矢、第三の矢は外科手術、第二の矢はカンフル注射というかたちで、安倍の新自由主義政策が始まりました。

2012年以降の5回の選挙で5連勝の要因

それを踏まえた上で、私たちがみておかなければいけないのは、2012年以降5回の選挙で安倍は5連勝しているということです。だいたい5回の選挙をやった政権というのはほとんどないですが、5回の選挙で連勝するという政権は恐らく近代日本史上初めてだと思います。安倍政権の悪政の下でどうして選挙5連勝なんていう、安倍自民党の力が出たのか。

1番目の要因は、安倍政権の新自由主義政策の特殊なやり方、つまりカンフル注射を打って一度元気にさせた上で外科手術をやるというやり方が、安倍自民党が選挙において強かった第1の要因だと思います。新自由主義の政策の痛みを知っている国民に対して、もう一度新自由主義を選ばせる。それをやるには乱暴な、「素朴な」新自由主義ではだめなんですね。いまのトランプも、まさしくそういうかたちで自由貿易に対してさまざまな形で歯止めをかけ、あの「ラスト・ベルト」といわれているところにも、さまざまな措置をとりながら、大企業の法人税や大規模な新自由主義改革をやる。これも後期新自由主義のひとつだし、安倍のやり方も後期新自由主義改革のやり方です。この新自由主義改革で傷んだ、地方の財政や市町村合併によって傷んだ地方の自民党支持を回復させたという条件が、勝利の条件の第1としてあったと思います。

資料1を見ていただきたいのですが、これは自民党が地方に対する利益誘導型政治、つまり経済成長で取り残された地方に対してダムや道路や新幹線というかたちで大量の公共投資を投入する。その公共投資の財源は大企業の成長による法人税収、これをタネにして利益誘導型政治を行った結果、地方を自民党の牙城として維持してきました。どんなに強かったかということがこの表を見ると明らかです。

小泉が構造改革を始めて登場した2001年には、自民党が参議院選挙で40%以上の得票を持っている都道府県が47都道府県のうち30です。つまり人口が減少している地方はほとんど自民党が40%以上取り、公明党が10%以上取りますから、比例で過半数を自民党が握るという状態で、地方の牙城があった。ところが小泉が構造改革政権で地方の財政を削減する。公共事業を削減し、地方の病院、公務員をリストラし、市町村合併でどんどん役所をつぶしていく。こういう状態の中で-2005年の郵政民営化選挙はちょっと異常な選挙ですから、これをカッコに入れると、30、14、6、1、0、0というかたちで、加速度的に地方の自民党離れが起こりました。

2009年の鳩山政権が誕生する総選挙のときは、自民党は40%以上取っている地方がひとつもなくなり、まさに地方が自民党に対する不信を突きつけた。ところが2012年に自民党が復活し安倍政権が復活すると、国土強靱化基本法というものを二階幹事長の主導の下でつくって、湯水のような公共事業投資を行う。とくに震災で傷んだ福島や宮城、岩手、ここではなかなか効かなかったけれども、こういうところにも湯水のような公共投資を行う。熊本にも湯水のような公共投資を行う。北陸新幹線延伸問題ということで、北陸3県にも湯水のような公共投資を行う。この間の塚田の「忖度発言」で明らかになったように、九州自動車道でも山口や福岡に湯水のような公共投資を行う。こういう中で、2013年の参議院選挙では、47都道府県のうち19で40%以上の自民党票が確保された。これが今回どうなるのかということがひとつのポイントになります。

新自由主義で変貌する大都市圏での支持率増

大都市部はどうなったのかというと、地方ほどではないけれども安倍政権が復活して大きく票を伸ばしている。大都市圏の場合は全てで票を伸ばすのではなくて、首都圏それから愛知県では伸びています。地方で自民党が票を回復したのとはまったく逆の理由で、大都市圏、とくに首都圏で自民党は票を伸ばしました。なぜ大都市圏、首都圏で票を伸ばしたかというと、むしろ外科手術を行ってもらうことによってグローバル企業は再び復活して、世界の中で国際競争力を拡大します。資料2をご覧いただきますと、石川県も東京都も2005年の総選挙をカッコに入れると、石川県は連続的に得票率を落としてきたけれども2013年の参議院選挙で一気に49.4%まで復活する。東京は2010年の参議院選挙では、自民党は20%まで落ち込んでいます。それが2013年の参議院選挙では31.9%です。東京は大票田ですから10ポイント上がっただけで大量の得票が得られますね。

余談になりますが大阪はそうならなかった。大阪は2010年には、19%まで自民党支持が落ちた。2013年以降のアベノミクスによっても大阪は復活しないんですね。どうしてかというと、新自由主義改革で浮上するような産業分野は東京や首都圏に集中していて、大阪の場合にはむしろ新自由主義改革によって困難になるような製造業を抱えている。東京の場合は新自由主義改革で浮上する富裕層、大企業の正規従業員層、これらの人々が住んでいるのが港・中央・千代田です。ここでは、2013年の参議院選挙で40%以上の票を獲得しています。

新宿や中野、足立、北、といった新自由主義改革で貧困や社会保障改革、介護のリストラという中で困難を抱え、自民党支持が上がらないような地域と二極分化するのが東京です。しかし大阪は一極というか、ただひたすら下がる。大阪の市民にとって構造改革で大阪は再生しない。大阪を再生してくれる政党として維新の会が登場し、伸びた。こういう関係で、必ずしも大都市圏のすべてが浮上したわけではありませんけれども、首都圏では構造改革期待、新自由主義改革期待の下で票が増大するということがありました。後期新自由主義が一時的にせよ、安倍政権の選挙での勝利を生み出した第一の要因でした。

統一した選択肢を示せなかった野党、軍事大国化を隠し通した安倍政権

2番目の要因は、アベノミクスに対してどういう政治、福祉の政治、経済政策で対抗するのかという選択肢を野党が出すことができなかった。アベノミクスが悪いという宣伝はずいぶんしました。ですからアベノミクスは悪いということは相当入っています。16年の参議院選挙以降は野党統一候補を立てたわけですが、「ではどうするのか」というときに、野党が統一して、アベノミクスに替わる選択肢を示すことができたのか。地方の「仕方のない支持」を打ち破るような農業政策が出せたのか。出せなかったんですね。これはやっぱり「仕方のない支持」が依然として存続する大きな要因だった。

それから3番目の要因です。一番国民が警戒するような秘密保護法、戦争法、共謀罪、改憲、こういう問題について安倍は5回の選挙の中で一切語らなかった。2013年の参議院選挙が7月に行われて、10月の臨時国会で特定秘密保護法が出されてきます。14年の衆議院選挙で消費税を上げませんといって戦った、そのあとの15年の通常国会で戦争法が出てくる。16年の参議院選挙では、安倍がかつかつ56議席をとって勝った。そのあとの通常国会で共謀罪が出てくる。一言も選挙ではそんなことを言っていないんですね。これが安倍の勝因の3番目です。つまり軍事大国化関係の政策については一切隠し通す。これで安倍は勝ったけれども、安倍の政策に対して対抗勢力がきちんとしたかたちで対案を出して安倍政権をひっくり返すことができるのかどうか、転換の一歩を踏み出すか、これが2番目の大きな焦点になりました

野党共闘は選挙戦で強化されたか

3番目の焦点は、総がかり行動実行委員会の結成、2014年12月以来4年半にわたる野党共闘が選挙戦を通じて強化されるかどうか、これが大きなポイントだったと思います。戦争法反対で、戦後55年ぶりの野党共闘ができた。2015年12月に市民連合が結成されて、16年2月に5野党が4項目合意で戦うことを決め、16年の参議院選挙で戦後初めて32の1人区で共闘した。これが第2段階。

そして第3段階では大きな揺り戻しが起こって、17年には希望の党の結党、民進党の全員合流で共闘が危機に直面した。しかし希望の党に合流できなかった枝野さんをはじめとした議員が集まって立憲民主党をつくり、その立憲民主党が7項目合意を承認するというかたちで共闘が再建される。289の小選挙区のほとんどで一旦は野党共闘が壊れましたが、250近くで野党統一候補が立てられて、立憲民主党が躍進することによって共闘が再建された第3期。そしてジグザクがありながら国民民主党、立憲民主党、社民党、共産党、この野党4党と社会保障を再建する国民会議の1会派が、今度共通政策をつくって32の1人区で野党統一候補を立てました。

今度の参議院選挙で3分の2を維持できるかどうかが大きな争点だったわけですが、19年の参議院選挙の改選議員を選出した13年の選挙のときは、市民と野党の共闘はなかった。そして民主党には未曾有の不信が満ちあふれていました。その結果2013年の参議院選挙で31の1人区、いまは32ですけれども、そこで自民党はなんと29勝2敗でした。その2敗も沖縄と岩手ですよ。つまり民主党に対しては全勝している。ところが2016年の参議院選挙で野党統一候補が32の1人区で立てられると、自民党の大票田、29勝していたところが21勝11敗になりました。もし2016年参議院選挙の繰り返しが今回の2019年参議院選挙で行われれば、3分の2は壊れます。29勝2敗で65議席とって、かつかつ3分の2だったわけです。前回の参議院選挙もメディアは勝利だと言っていますけれども、56議席になってしまったら3分の2は無理なんですね。ですから私たちから見ると、野党共闘でがんばって2016年参議院選挙並みにやれば勝てるということでしたが、私は選挙の前に一貫して強調してきました。「二匹目のどじょうはいない」と。

16参院選の再来、前進はなるか

「二匹目のどじょう」はなぜいないのか。あの2016年参議委員選挙のときには戦争法反対の大きな国民的な運動があった。2000万署名の高揚があった。その中で、何が何でも戦争法を廃止するためにということで、いまほど共通政策は十分ではなかったけれども、とにかく32の1人区でがんばろう、そして32の1人区では市民が火の玉のようにがんばった。ところが今回そういう戦争法に反対しようというような大きな風は吹いていないですね。それどころか3年間の野党共闘のジグザクの経験の中で、あの2016年参議委員選挙で本当に火の玉のようにがんばった野党統一候補はその後どうなったの。いろいろなところに移った。希望の党に行ってしまったり無所属になったりしている。あの野党共闘で本当に政治は変わるのか。多くの県民、市民がそう思ったし活動家もそう思った。「二匹目のどじょう」を本当に掴むには、二つのことが必要だ。

まずひとつは今度の野党統一候補によって、野党共闘によって安倍政治は変わるという選択肢をきちんと国民の前に示すことができるのかどうか。「共闘」というと活動家はみんな元気になる。しかし国民は別に「共闘」といったって元気になるわけではない。ここにいらっしゃるみなさんは「共闘」というとビビッと電気が走るかもしれないけれども、普通の人はそうじゃない。普通の人が元気になるのは、この力によって安倍政治が変わるかもしれない。このときに国民は期待し政治に大きな一票を投ずることになります。

安倍政治に替わる選択肢を今回は示すことができるのか。あのときは戦争法に反対するためには、この野党統一候補を立てればいいというかなり明確な選択肢が示されていた。今回はそれ以上に明確な選択肢を示すことができるのかどうか。それからもうひとつ、この3年間のジグザクの経験の中で、再び2016年参議院選挙以上の力を市民がだすことができるのかどうか。これがなければ「二匹目のどじょう」はいないと言ってきました。どうなったのか、ということが3番目の焦点としてあります。この3つの視点から参議院選挙を振り返ってみると次のことが言えると思います。

3つの視点から見た参院選の結果

第1番目に、改憲勢力3分の2は何とか阻止した。しかし、決着はついていないと言えます。安倍自民党、改憲勢力は、3分の2維持には失敗したけれども、2016年の56議席よりは議席は前進しています。自民党は57議席、公明党は14議席で現状維持、維新の会は10議席に増やして合計81議席。2016年は自公維で77議席でした。従って3分の2は失ったものの、依然として安倍首相は改憲の意欲を表明しているということがあります。しかし安倍が狙った改憲の加速化に成功したかというと、私は失敗したと思います。3分の2の維持に失敗しただけではありません。改憲を争点にして、論議をするか、しないかということを争点にして、この参議院選挙をてこに改憲ムードを盛り上げようという合意はつくれなかったと思います。自民党の領袖の中で、正確に見たわけではありませんけれども、さまざまな報道によると安倍首相以外は改憲問題についてほとんど語っていません。野党では途中から共産党、社民党が強めましたけれども全体として憲法問題は語られませんでした。

NHKが行った党首の憲法問題の訴えは、非常にはっきりと状況を示しています。前半期の7月4日・5日・6日と後半期の13日・14日・15日の党首の演説配分というのがあります。そうするといかに安倍が力を入れていたのか、2017年の総選挙とまったく違います。安倍は前半期に実に演説の14.5%を改憲問題に費やしていますが、後半になると1人区が危ないということで1人区に入っているということで、8.3%に減っています。あの安倍でさえ減ってしまっている。

それに対して野党は、共産党の志位委員長は、前半期はほとんど安倍と同じ14.8%ですが、後半期に入ると21%に比重を増やしています。7月17日は、志位と小池の連名の声明が出され、改憲勢力に多数を握らせた場合には安倍改憲の危機があるということで、残り5日間は共産党の候補は恐らく3割以上の比重で改憲問題を訴えたと思います。同じことが社民党にも言えます。これは福島さんの演説だと思いますが、前半期は18.4%でしたが、後半期になると30%を改憲問題に費やした。問題なのは公明、立憲、国民、維新、これらは2つの大きな休日の山場でNHKの調査によるとゼロ、一切語らなかった。ですから改憲のムード作りにはやっぱり安倍は失敗した。しかし改憲反対ということで世論を盛り上げて、安倍の改憲を阻止するという大きな国民の合意を取ることもできなかった。これが今回決着がつかなかった第1の要因です。いずれにしても改憲の加速化はできなかった。

その結果、改憲反対の世論を変えることができなかった。共同通信の出口調査ですが(朝日新聞の出口調査でも同じようなものでした)、安倍首相の下での憲法改正は賛成40.8%に対して反対47.5%、とくに無党派層の場合は反対が63.6%ですし、女性は反対50.6%です。この結果が示す、安倍政権下の改憲反対、無党派層の改憲反対、そして女性で改憲反対が多いという状況は、この2年間ほとんど変わっていません。そういう意味でいうと、安倍は憲法改正を容認する国民世論をつくることはできなかった。しかし私たちの側から見ると、安倍政権の下での改憲反対をもっと大きくすることもできなかった。ほとんど同じという状況で今回の結果が生まれたということです。3分の2は覆したけれども安倍政権を覆して安倍に断念させるまでにはいっていない、つまり生き延びさせたということが第1の点です。

安倍新自由主義政治転換の第一歩とはならず

第2番目の点は、新自由主義政治転換の第一歩とはならなかったという問題です。確かに得票率は2016年参議院選挙には届きませんでした。資料3をご覧いただきたいんですが、自民党の得票率のグラフを見ますと、確かに16年の参議院選挙の35.91%よりは減って35.37%ですが、これは安倍自民党政権の6回の選挙のうち2番目に高位の記録です。6回の選挙のうち、2012年の衆議院選挙は安倍に対する信頼はないわけで、民主党が嫌いだということで下がっただけです。これを例外にすると、13年の参議院選挙以来5回の選挙では、いずれも安倍は30%台を維持している。問題なのはあの安倍の悪政にもかかわらずちっとも減っていない。これだけ悪いことやっていて減っていないということが非常に重要なポイントです。

自民党は17年の総選挙時と比べて、得票率を落としたところがありますが、なんと4つしかありません。自民党が圧勝した17年の総選挙のときと比べて自民党が得票率を落としたのは、大阪、京都、兵庫、奈良です。これはもうはっきりしています。立憲野党に負けたのではなく、維新に負けたということです。

議席でも57議席、1人区では10の議席を落としましたけれども22勝で、大勝とはならなかった。13年の65議席には届かず、1人区29勝2敗とはならなかった。これはひとえに野党共闘の結果です。

その結果、自民党は地方の「仕方のない支持」、も維持・復活しました。今回はどうなるかと思って本当は着目していました。「5」から減るのではないかと期待していたけれども、なんと今回は「21」。つまり自民党政権下で40%以上の票を獲得した県は安倍自民党の6回の選挙で最高です。小泉自民党の2001年の「30」には届かないけれども、小泉時代の2003年の総選挙を上回る県で、比例の得票で40ポイントを超えました。つまりこれだけの悪政にもかかわらず自民党に対する「仕方のない支持」は変わらないということがあります。

17年の総選挙より得票率を4ポイント以上伸ばした県が実に24県もあります。1人区でも自民党の得票率が17年の総選挙より下がった県は奈良県だけで、31の1人区で自民党は票を伸ばしている。野党統一候補に競り負けた山形県や秋田県や新潟県、ここでも実は比例で自民党のベスト10に入っている。つまり安倍や菅が何度も通った意味はそれなりにあった。2019年の参議院選挙で自民党が得票率ベスト10を取ったところは、いままでなかった山形県、秋田県、新潟県が入っています。これはいずれも野党共闘候補と競り合って自公が敗北した県です。そこでも、例えば山形県で45.25%を取る事態になっている。つまり安倍政治を構造的に変える力をまだ私たちは持っていないということがあります。首都圏での自民党票も高止まりをしている。自民党は複数区でも広島以外は全員当選を実現した。

地方の「仕方のない支持」は維持・復活

では「仕方のない支持」はそんなに強いのかというと、ほころびは明らかにあります。ひとつは野党統一候補ができた32の1人区の10選挙区で統一候補が勝利しました。もうひとつ、今回の選挙で大きな話題になった投票率の低下、この問題があります。これは単に安倍政治に対する不信が投票率の低下を招いたというような単純なものではありません。安部政治に変わる勢力が本当に政治を変えることができるのか、そういう期待を国民に示すことができるかということがポイントで、民主党政権が自民党に大勝した2009年はかつてない高投票率を実現しています。逆の意味で、2012年の民主党政権を倒して自民党政権になるときも高投票率を獲得しています。今回なぜ投票率が低下したか。全般的に安倍政治に変わる選択肢が示されていない。示されたところでは投票率は下がってはいるが、そんなに下がっていません。

2019年の参議院選挙で、自民党の得票率1位は石川県です。石川県は野党統一候補がチャレンジしましたが、残念ながら野党統一候補が勝てると県民には映っていなかった。ですから石川県は51.48%を自民党は取っていますが、投票率は実は全国47都道府県のうち30位です。ところが自民党得票率4位の山形県では45.25%を取っています。ここは野党統一候補が戦って、最終的に勝利したところです。なんと投票率は、山形県が全国1位です。

それから秋田県は、自民党得票率が8位ですが、イージス・アショアの問題で野党統一候補の寺田さんが勝ちました。ここでも投票率は3位です。それから新潟県は投票率4位です。つまり同じ安倍政治でも、対抗勢力が本当にこれで変えてくれるという期待を県民に示した場合は、投票率はそんなに下がっていないんです。つまり、それに替わる選択肢がないときに投票率が大きく下がっている。これは安倍政治は嫌だけれども替わるものがないよね、という一定の部分が行かなかったことを示しています。立憲野党の柱である立憲民主党は支持拡大ができなかった、これも安倍政治を延長する大きな要因です。

野党共闘はがんばって10の一人区勝利に貢献

3番目の結果、野党共闘はどうだったのか。ご存じのように10の1人区で野党共闘勢力が勝利しました。ここでまず確認をしなければいけないのは、10の1人区でも「構造的力関係」は与党優位がほとんどだったということです。構造的力関係とは、自民党・公明党の比例投票における得票率の合算と野党4党の比例投票の合計得票率、これを比べることを構造的力関係と私は呼んでいます。これを比べると、32の1人区のうち野党共闘候補が構造的力関係で与党よりも勝っている県は3つしかありません。岩手と長野と沖縄です。これ以外29の1人区は、自公の比例合計得票率の方が、野党の合計得票率よりも高かった。しかも16年参議院選挙から3年たって安倍政治の悪政を宣伝した結果、野党の合計得票率は与党に迫ったかというと、残念ながらほとんどのところで与党と野党の差は開いています。また、岩手のように、与党の弱い県では差が縮まっています。

では、16年の参議院選挙に比べて与党の合計得票率が上がったからかというと、長野、滋賀、愛媛、大分、沖縄では得票率では自民党は下がっている。なぜ広がっているかというと、それ以上に野党の合計得票率が下がっている。ですから構造的力関係―自公の政治を変えなければいけないというかたちで今回の選挙が戦われたわけでは必ずしもないということです。にもかかわらず10の選挙区で野党統一候補が、構造的力関係を逆転して勝ったわけで、これひとえに野党統一候補、野党共闘の力でしかないということになります。

東北6県の事例

これを東北6県の事例で見てみます。東北6県は16年の参議院選挙のとき、秋田県を除く5県で野党統一候補が逆転勝利をしています。今回は、6県のうち4県で野党統一候補が勝っています。また秋田県ではイージス・アショアの問題が起こった。東北ではありませんが、北信越の新潟県では塚田の「忖度」問題が起こった。これが自公の政治にどんなインパクトを与えるかということにも着目できます。秋田県の場合は16年の参議院選挙で本当にわずかの差で負けています。6県のうちで負けたのは秋田県だけです。

ところが秋田県は17年の総選挙では3つの小選挙区すべてで自民党が圧勝しています。山形県も16年の参議院選挙では大逆転をして野党統一候補が圧勝しています。山形県の野党統一候補の票がそのまま小選挙区で出れば、17年の総選挙では山形の3つの小選挙区は全部野党が勝つと推測できるくらいの票が野党統一候補に出ていました。しかし17年の総選挙では野党共闘が壊れた結果、3つの選挙区すべて自民党が独占した。では今回どうだったのかということで、東北6県のうち秋田と山形に注目してみました。

ポイントは青森県を除く5県で与党の比例得票率が増加し、野党の得票率は減少しています。これは秋田県でもそうです。イージス・アショアの配備であれだけ反対運動が起こり、そして秋田魁という地方紙の選挙時における世論調査では、70%がイージス・アショアの秋田配備に反対している。そういうところで自民党は44.47%に伸ばしているんです。ですから防衛省は悪い、イージス・アショアは悪い、でも自民党だよね、替わるものがないよね、ということが起こっていて、17年の衆議院選挙では小選挙区を独占した。その17年の自民党の得票率を、今回はなんと6.3ポイントも秋田で上回っています。ところがこういうかたちで与党と野党の構造的力関係は実に21ポイント以上の差があったにもかかわらず野党統一候補は4.39ポイントの差を付けて逆転勝利しています。それは何を意味しているかというと24.04ポイント、ほとんど4分の1をひっくり返して秋田は勝っているということです。山形も同じことが起こります。ほとんど4分の1をひっくり返して勝っています。

ちなみに「共闘効果率」とわたしは呼んでいますが、これは野党4党の比例投票における得票数と野党統一候補が選挙戦で取った得票数の差、この比率は共闘効果ですね。共闘によって、野党4党がばらばらで得票した合計を遙かに上回る票を野党統一候補が取った。その1位は、今回は愛媛県です。212%ですから2倍取っている。その次に多く取ったのが滋賀県です。3位が秋田県で、155.19%。4位が山形県の153.8%です。こういうかたちで大逆転をした。

共闘候補が安倍政治に代わる選択肢になった

いったいこんなことがどうして起こったのか。これが10の1人区すべてで起こったことですが、私は3つの大きなポイントがあったと思います。ひとつは、秋田県とか山形県などの地域に限られていますけれども、共闘候補が安倍政治に替わる選択肢になって地方の「仕方のない支持層」が野党統一候補に動いたということです。共闘した野党のほとんど90%近くが寺田候補に入れただけではなくて、無党派の71%が寺田候補に入れた。なんと公明党の36%、自民の23%が寺田に入れている。つまり自民党を「仕方のない支持」をしていた、公明党に業者さんとの関係、自民党との関係で入れていた人々が、野党統一候補に入れたということです。

同じことは山形県でも起こっています。山形県でも自民党の19%が芳賀に入れ、公明党の実に3割が芳賀に入れています。無党派の68%が芳賀に入れている。ですから山形でも大きく力関係を逆転することが起こりました。それは共闘候補によって安倍政治に替わる選択肢が示されたからだと思います。

第2に、しかし選択肢は自動的に生まれるわけではないんですね。黙って座ってできるわけではなくて、実際に自公に入れていたような選挙民、無党派の人たちに対して野党統一候補に入れてほしいと訴える運動の力がなければ、いくら安倍政治に替わる選択肢で野党統一候補ができましたよと言っても票が動くはずがない。票を動かした原動力は16年の参議院選挙以降に芽生えた地域の共闘や市民の運動、共闘組織のフル回転、これが2番目の、もっとも大きな野党統一候補の勝利の原動力としてあったと私は思います。

16年の参議院選挙のときにあれだけの風が吹いて11の選挙区で勝った。今回は、一切風は吹いていないですね。それどころか野党は32の一人区で統一するまではばらばらになって、国民民主と立憲民主はどうのこうのとやっているわけです。そういう中でなぜ動いたのかというと、この16年の参議院選挙のときにはなかった共闘の組織が生まれています。ひとつは17年の安倍改憲に反対して市民アクションが3000万人署名を提起した。この運動が2年間にわたって行われたこと。これが例えば東北6県のうちの宮城や秋田や青森、岩手の中で大きな活動の原動力になった。東北6県はご存じのように市町村長九条の会がつくられています。そこに結集したり、九条の会の人々が今度の参議院選挙でも安倍改憲を阻むために立ち上がった。この3000万人署名の運動がなければ、恐らく風も吹かないのにこれだけの力は出なかったと思います。

それから、16年の参議院選挙における野党の勝利の中で、初めて地域で市民連合をつくろう、地域で市民の会をつくろうということで289の選挙区の多くで市民の会、それから都道府県レベルで市民連合がつくられた。これがジグザクはありながら、野党統一候補の応援に全体として動員するだけではなくて、全国の13の共通政策を具体化する地域の共通政策をつくる柱に市民の会や市民連合がなっていった。

例えば「しが市民の会」それから「市民連合@新潟」というところはそれぞれ9項目の共通政策とか41項目の共通政策をつくった。滋賀の場合には、それまで多くの共闘の活動家にとっては不信のまなざしで見られていた嘉田さんを呼んできて、実際に嘉田さんが市民の会の前でいままでの態度はおかしかったと言って、9項目の共通政策を掲げて戦った。嘉田さんが勝った選挙は知事選もありますが、今度の勝利は明らかに共闘の、市民の会の力、はじめにあった嘉田さんへの不信感を市民の力で押し上げた運動の力、これが滋賀の勝利に結びついた。市民の共闘、市民連合、市民の会などのフル回転が2番目の要因です。

市民連合の努力による共通政策の前進

第3に、市民連合の努力によって、ジグザクがありながら5月29日、ようやく13項目の共通政策がつくられた。これを掲げて戦った候補もいます。掲げなかった候補もいます。市民の運動が強いところでは結構この共通政策を掲げて戦ったところも多かった。この共通政策の前進が市民に対してはっきりとした姿を示しました。共通政策の前進点は2つあります。ひとつは17年の衆議院選挙で、これは民進党が離脱するかもしれないという危険の中で9月26日に7項目の合意が達成される。その晩に民進党の前原さんと小池さんと連合の会長が密談をして民進党全員合流が決まって、民進党は7項目合意から離脱する。ところが10月6日でしたか、立憲民主党が7項目合意を承認することによって共闘が再建される、あの7項目合意です。それと今回の13項目の合意を比べると2つの点で大きな前進があると思っています。

ひとつはなんと言っても17年の衆議院選挙のときには、消費税問題は入らなかった。民進党の野田政権のときに消費税の増税を3党合意で決めていますから、入らなかった。それから辺野古が入らなかった。辺野古も民主党の鳩山政権が認めてしまっていたからです。それが今回は、4野党の共闘の経験の中で、共通政策に組み込まれました。原発の問題についても再稼働の条件がものすごく厳しくなった。地域住民の合意がなければいけないというところまで、7項目合意には入っていなかったが、これも入れた。こういうかたちで安倍政権との対決点のほぼすべての点できちんとした野党の対決姿勢を示すことができたことがひとつです。

もっと重要だと思うのは、安倍政治が推進している軍事大国化と新自由主義の政治、大企業本位の政治、この両方に対抗する政策を曲がりなりにも出すことができたことです。軍事大国化に対する政策も第1項目の安倍改憲阻止だけではなくて、第3項目で具体的な実質的な改憲、防衛計画の大綱の改定による防衛費、防衛装備の増額、-これがイージス・アショアの問題に結びつくわけですけれども-それに替わって財政を福祉の方に振り向けるという項目が入った。

それから第5項目で東アジアにおける平和-これは残念ながら日韓問題は触れていないですが-はっきりと日朝平壌宣言に基づいて国交正常化を図るということでも合意ができた。そういう意味では安倍政治の軍事大国化、安保外交政策に替わる選択肢を鮮明に打ち出すことができました。また、いままでとかく弱かった安倍の新自由主義改革の問題についても第8項目、第9項目、第10項目で明らかにできました。例えば10項目では、最低賃金1500円、8時間働ければ暮らせる働くルールというかたちで、いわばアベノミクスに替わる選択肢を示すことができました。
問題はこれを掲げて戦うことができたかどうか、ということです。滋賀では9項目の合意が嘉田さんとの間で取られましたし、新潟の場合にはここに入っていないような安保外交政策も含めて41項目の共通政策を立てて、候補もそれを掲げて戦ったということがあります。宮城も共通政策をもう少し具体化して戦うことができた。この3つのことが今回の奇跡に等しいような大逆転を生み出す大きな力だったと思います。

 以上のような結果として、安倍改憲を巡る戦いは今後に継続しました。今回の参議院選挙で決着はつかないで新たな局面に入ることになりました。

参院選後の局面・任期中の改憲をあきらめない安倍

 まず注目しなければならないのは、安倍は任期中の改憲をあきらめていない。改憲を巡る新たな局面が生まれたと思います。安倍が3分の2を失ったことは極めて大きな打撃です。従って安倍としては3分の2を再形成することが必要ですし、それからこれまでの2年間どうしてもできなかった憲法審査会での審議入り、これをまずは10月の臨時国会に向けてやってくるだろうと思います。陣営も変えてくるでしょう。下村-新藤体制をかえて、再び野党の分断を図るような布陣をしてくるかもしれない。いずれにしても審議入りと、野党の分断による改憲勢力3分の2の再形成がどうしても不可欠になります。ところがこれは、同じことをやることなんですね。安倍改憲の新局面は必ず野党の分断。さまざまな形で野党の内部に楔を打ち込むことになると思います。

すでに憲法論議の合意は取れた。野党のみなさん、そんなにかたくなにしているのはおかしいですよというキャンペーンの下で、やってきました。2日前、公明党の憲法調査会長の北側さんがはっきりと、自民党の改憲案を意識して論議しようと舵を切りました。維新の会も同じように、9条の改憲で、この条文には反対だけれども改憲論議をしようと言いました。公明党の北側さんは、国民民主党が追及してきたCM規制はやらなければいけない。ただ時間がかかることだからCM規制を理由にして憲法審査、改憲案の審議をしないのはおかしい。並行してやろうじゃないか。これがまさに安倍がいままで強調してきて、なかなか公明党から言ってもらえなかったことだったと思います。憲法審査会での審議入りと3分の2の再形成も、野党分断に焦点を絞ってやってくると思います。

安倍の、自民党案には固執しないというメッセージは非常に重要なものです。これは審議入りの順番として教育から入るということを意味しています。場合によっては9条改憲案について修正を求めていく。例えば「自衛のための最小限度の実力」としての自衛隊を保持するというような言葉を入れて、公明党をもう一度がっちり取り込む。同時に9条改憲案には「ちょっとね」と言っている維新とか、さまざまな立憲野党の中にも分断の楔を打ち込むために、自民党の改憲案を変えてくるし、審議入りの順番も変えてくるだろうと思います。そうしない限り3分の2の再形成はできませんから。

この秋の臨時国会、来年の通常国会、そして来年の臨時国会。恐らく2つの国会は挟まないと、公明党は納得しませんから、2つの国会を挟んで改憲発議から国民投票に持ち込むには、確実に秋の臨時国会が勝負になります。ここで出せるかどうかということが、彼らにとって、また阻む場合には私たちにとっても、この秋の臨時国会が大きな焦点になるだろうと思います。

それだけではありません。この間、安倍が進めてきたような9条の改憲なくしても実質的な改憲、とにかくやれることをやっていく、トランプの要請に応えていくということです。有志連合参加問題、辺野古の基地建設、イージス・アショアの配備、それから防衛計画の大綱に基づく「いずも」の航空母艦化、こういうものを進めていく。ただしこれらの中で要になるのは、自衛隊の海外派兵ですが、自衛隊の海外派兵は安倍が強調している9条改憲と矛盾します。「ちっとも変わらない」、「自衛隊員に誇りを持ってがんばってもらいたい」ということに対して、海外での武力行使を可能にするような9条改憲だという意見にぴったり当てはまるようにいまの有志連合問題が起こっています。安倍は、安倍改憲を絶対に実現するためにもこの問題については悩んでいると思います。戦いがなければこれは変わりませんけれども、われわれの有志連合参加を絶対許さない、自衛隊の海外派兵阻止という声を大きくすることによって、安倍の矛盾を大きくすることが絶対必要です。いずれにしても実質的な改憲を進めてくる、これが安倍の改憲戦略だと思います。

安倍改憲阻止の課題-野党分断と実質改憲を阻む

では私たちはどうするのか。安倍改憲阻止のために野党分断のさまざまな策動が行われ、さまざまなかたちで論点の提起が行われるでしょう。そうするとメディアや評論家の人たちがいろいろなかたちで議論することになります。私たちがあらためて確認しなければいけないのは、この2年間、3分の2があったにも関わらず改憲が動かなかった最大の要因は何か。これは市民アクションが3000万署名で、地域で多くの国民の憲法改正についての反対の世論を組織して、この運動が大きく野党を励まして野党の固い態度を取らせてきたわけです。いま私たちは安倍が出してくるさまざまなアドバルーンに対して観客として見るのではなくて、あらためて市民の運動の力を再活性化することです。

なぜ「再活性化」というのか。やっぱりいま運動の中では年齢の問題もありますし、ずっと2年間、3年間に渡って、九条の会に至ってはもう10年間やっているわけです。3000万人署名もそうですが、やっぱりみんな疲れている。ここでもう一回向こうが陣列を立て直して野党分断を図ってくる。この局面でわたしたちの市民運動をどうやってもう一回本当に安倍改憲の阻止に照準を合わせて再活性化することができるかどうかということが一番大きなカギを握っていると思います。観客になってはなりません。

それから、憲法審査会もそうですが、これからの2年間の安倍を倒すまでの時間は、実体的な改憲案の議論に入らざるを得ません。改憲案の議論に入ったときに9条改憲の危険性をもっとはっきりに市民の中に訴える。これが私たち市民の、草の根の活動の主要な任務、課題になると思います。安倍政権下での改憲は、ほぼ一貫して反対が多い。安倍さんの手で改憲をやったら危険だよねということは、国民の中に定着しているかもしれません。しかし9条1項2項を残して自衛隊を明記するということについては、いまだに世論調査の如何によってはものすごく数字が変わります。ということは、まだまだこの9条改憲の危険性については入っていない。私たちがあらためて9条改憲の実体的な危険性をはっきりと焦点に据えて、改憲審議に入らせないためにも、そして改憲審議に入ったときに発議をさせないためにも、この批判を強めることが必要だと思います。

また、実質改憲に反対し阻止する戦い、とくに有志連合それから辺野古やイージス・アショアの問題を、地域の問題にしない。辺野古の問題を地域の問題にしない、沖縄の問題にしない。これをいかに安倍政治の根幹に関わる全国的な政治の課題として取り組めるかどうか、これはまだ成功していません。市民アクションや総がかり行動実行委員会が、いろいろなかたちで全国的な取り組みにしようとしていますが、これを大きく全国的な課題にしていくことが重要です。

安倍政治にかわる選択肢としての野党共闘強化

 最後に、この間できなかった安倍政治を変えて軍事大国化と新自由主義の政治を転換する。安倍政治を倒す。最終的にはこれによって安倍改憲を封じることができるわけです。そのために何が必要か。私はひとえに強調したことですが、安倍政治に替わる選択肢を国民の前に示す。この選択肢には2つの意味があります。ひとつは安倍政治に替わる福祉の政治、平和の政治、それがどんなものなのかという構想を示す必要がある。それからどんな政権によってそれを実現するのか、担い手の問題があります。このふたつの問題を示さない限り、国民は納得しない。

例えば2009年に鳩山民主党が圧勝しました。このときは、いまの13項目を遙かに上回るような緻密なマニフェストがつくられました。いま読んでも実にさまざまな社会保障の構造改革、新自由主義改革に対して詳しい対案が示されていました。それが民主的につくられたかどうかについてはこれから検討していかなければいけないにしても、とにかく民主党政権がつくったときの構想は、明らかに自公の新自由主義政治の対案として国民の胸を打ったと思います。月々2万6千円の子ども手当とか農家個別補償とか、いまから考えても非常に鋭い問題提起がそこにあった。国民はその構想に引きつけられました。

それから、あのときは民主党という大きな政党が政権交代するという、2大政党制ということで問題を提起しました。いまの野党共闘は違います。構想の問題としては、ようやく13項目の到達点です。あのときは民主党というひとつの政党の中でやっていましたから、そんなに議論をする必要はなかった。今回は4つの野党と1会派が共同して議論するわけですから、共通政策の前進はまだまだですけれども、とにかくそれをつくる。

もうひとつは、今回打ち出せなかった、どうやって安倍政治に替わる政権をつくるのかという問題でも方針を出すことが必要だと思います。今回、共通政策はできましたけれども、本当に野党が政権を取るための共同ということで十分な戦い方を参議院選挙でしたかといえば、私はそうではなかったと思います。5月29日に共通政策ができました。6月1日に年金2000万円問題が起こりました。野党が本当に政権を取る気だったら、年金2000万円問題が出てきたときに年金の課題で、暮らしていけるだけの年金というかたちで野党4党が共通で緊急に協議をして記者会見をして、統一見解を出すべきだったのではないか。

あるいは参議院選挙が始まったときに、日韓問題がこれだけ急速に悪化しました。日韓関係の悪化に対してどういう立場を取るのかということでも、野党4党が本当に政権を取る気だったら、選挙戦の中でも協議して一致して出すべきだったのではないか。有志連合参加問題も、すでに選挙戦の中で出てきました。ところが選挙戦の中では一部の野党しか触れていないんですね。この問題もやっぱり出すべきだった。今度の選挙戦とその後を通じて、私たちが本当に安倍政治にかわる選択肢として野党の共闘を強化していくことが必要なのではないかと思います。

 今回の参議院選挙で、構造的には相当押し込まれていたにもかかわらず、最後のところで10の選挙区のうち3つを除いてほとんどが滑り込みで逆転して、1人区で野党統一候補が勝ってくわけです。あの力は決して偶然ではなかった。あの力をつくったのは市民の2年間の、なんだかよく見えないけれども3000万人署名でがんばってきた市民の活動、市民連絡会もそのひとつだし九条の会もそのひとつです。そういう活動があの土壇場における力を生んだと思います。その力を確信した上で安倍改憲を阻むために、もう一回市民の活動、市民の運動をどうやって活性化するのか、そういうことを私たちが本気で考える、いまこそ市民運動の出番だということを訴えて私の講演を終わります。10:05 2019/10/08

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与党提出の改憲手続法改正案採決と衆参憲法審査会の開催に、断固反対する法律家団体の緊急声明

2019年5月27日
改憲問題対策法律家6団体連絡会
社会文化法律センター 共同代表理事 宮里 邦雄
自由法曹団 団長 船尾 徹
青年法律家協会弁護士学者合同部会 議長 北村 栄
日本国際法律家協会 会長 大熊 政一
日本反核法律家協会 会長 佐々木猛也
日本民主法律家協会 理事長 右崎 正博

はじめに

自由民主党や日本維新の会などは、継続審議となっている「日本国憲法の改正手続きに関 する法律」(以下「改憲手続法」という。)改正案の今国会成立を狙い、衆議院憲法審査会で の審議・採決を強行する構えを崩していない。自民党は夏の参議院選の公約に自衛隊明記の 9条改憲案など4項目の改憲案を列記し「早期の憲法改正を目指す」こと、継続審議となっている改憲手続法の早期成立を目指すことを明記する調整を進めていると報道されている。
改憲問題対策法律家6団体連絡会は、自民党 4 項目改憲案に強く反対し、改憲手続法改正案の採決と現時点の衆参両院の憲法審査会の開催に断固として反対するものである。

1 安倍自民党による改憲発議を許してはならない ―自民党9条改憲案は9条2項を空文化させて海外での戦争を可能にする自民党 9 条改憲案は、「前条の規定は、わが国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。 …」とするもので、明らかに憲法 9 条 2 項の空文化を狙うものである。「必要な自衛の措置」の名目でフルスペックの集団的自衛権の行使が憲法上可能となり、憲法の平和主義の原理を葬り、アメリカ軍の指揮の下で何時でもどこでも海外で戦争ができる国へ転換を図るものである。これらの本質を隠し、「自衛隊の任務・権限は変わらない」などと国民を欺き、安倍首相の主導のもと数の力で9 条の改憲発議を行う暴挙を許してはならない。 また、自民党の緊急事態条項に関する改憲案は、軍事的な緊急事態における内閣の権限拡大と人権の大幅な制限に利用される危険性がある。大地震などの自然災害に対応するためであれば、すでに災害対策基本法や大規模地震対策特別措置法などによって規定されており、緊急事態条項に関する改憲の必要性はない。合区解消の改憲案は、憲法の基本原理である国民主権や普遍的価値を有する平等原則を著しく損なうものである。合区にかかわる問題の解消は、議員の総定数の見直しや選挙制度の抜本的な改革など法律改正で実現できるのであり、改憲は必要ない。自民党の教育に関する改憲案は、教育が国の未来を切り拓く上で極めて重要な役割を担う」として教育への国家介入を正当化する危険がある。教育の充実は、国会と内閣がその気になれば、法律や予算措置で可能であり、改憲は必要ない。

以上のとおり、自民党の 4 項目改憲案は、いずれも改憲の必要性・合理性を欠くうえに、日本国憲法の基本原理である平和主義、国民主権、基本的人権の尊重を破壊するものであり、安倍自民党による改憲発議を断じて許してはならない。

2 国民不在のまま、安倍自民党改憲のための憲法審査会を開催してはならない 安倍首相は、内閣総理大臣の資格に基づいて憲法改正を推進する主張を繰り返している。「憲法尊重擁護義務」(憲法99条)を負う首相や国会議員が改憲を主導することは憲法に違反する。憲法改正は、国民の中から憲法改正を求める意見が大きく発せられ、世論が成熟した場合に限り行われるべきものである。今、国民の中で改憲を望むのは少数であり世論は全く熟していない。憲法によって公権力を制約し、国民の権利・自由を保障するのが立憲主義である。憲法に 拘束される権力の側が、国民を差し置いて憲法改正を声高に叫び、発議に向けた憲法審査会の開催を「ワイルド」に野党に迫るようなときは、憲法審査会が安倍自民党4項目改憲のために悪用されることを十分に警戒しなければならない。立憲主義を守るために憲法審査会を開催してはならない。また、安倍首相は2020年に新しい憲法を施行すると明言して改憲ありきの立場であり、これまでの政府与党の政治手法に鑑みれば、現時点で憲法審査会を開催した場合、事実に基づく慎重な議論が行われることは期待できず、強引な議論で多数派の要望のみが実現される危険性が極めて高い。憲法審査会の伝統たる「熟議による合意形成」を尊重するのであれば、事実に基づく議論が期待できない現在の政治状況において、憲法審査会を開催すべきではない。

3 改憲手続法改正案は重大な欠陥があり、このまま成立させてはならない
継続審議となっている与党提出の改憲手続法改正案は、名簿の閲覧、在外名簿の登録、共通投票所、期日前投票、洋上投票、繰り延べ投票、投票所への同伴の7項目で、2016年に成立した公職選挙法改正の内容にそろえて国民「投票環境を向上させる」ためなどと与党は説明する。しかし、投票環境の後退を招くもの(期日前投票時間の短縮、繰り延べ投票期日の告示期限の短縮)も含まれていたり、郵便投票の対象の拡大については見送りとされている。何より、テレビ・ラジオの有料広告規制が、投票前2週間の投票運動のみに限定されていて、「国民投票を金で買う」危険性が考慮されていない本質的な欠陥があるほか、公務員・教育者に対する規制の問題、最低投票率の問題が全く解決されていない重大な欠陥のある法案である。2007年5月の成立時において参議院で18項目の附帯決議、2014年6月の一部改正の際にも衆議院憲法審査会で7項目、参議院憲法審査会で20項目もの改善を約束した附帯決議がなされているほか、日本弁護士連合会をはじめとする法律家・法律家団体からも早急な見直しが求められている。このように重大な欠陥のある法案を急ぎ成立させる理由は全くない。それは、安倍首相が目指す臨時国会での改憲 4 項目発議の環境を整えるものでしかない。

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資料

「嫌韓」あおり報道はやめよう

他国への憎悪や差別をあおる報道をやめよう。

国籍や民族などの属性を一括りにして、「病気」や「犯罪者」といった
レッテルを貼る差別主義者に手を貸すのはもうやめよう。

先月末、テレビの情報番組で、コメンテーターの大学教授が「路上で日本人の女性観光客を襲うなんていうのは、世界で韓国しかありませんよ」と発言した。他の出演者が注意したにもかかわらず、韓国に「反日」のレッテルを貼りながら、「日本男子も韓国女性が入ってきたら暴行しないといかん」などと訴える姿が放映され続けた。憎悪や犯罪を助長した番組の映像はいまもなお、ネット上で拡散されている。

今月に入っても、大手週刊誌が「怒りを抑えられない韓国人という病理」という特集を組んだ。批判を浴び、編集部が「お詫びするとともに、他のご意見と合わせ、真摯に受け止めて参ります」と弁明したが、正面から非を認めることを避けている。新聞も他人事ではない。日韓対立の時流に乗ろうと、「厄介な隣人にサヨウナラ 韓国なんて要らない」という扇情的な見出しがつけられたこの週刊誌の広告が掲載されるなど、記事や広告、読者投稿のあり方が問われている。

日韓対立の背景には、過去の過ちや複雑な歴史的経緯がある。それにもかかわらず、政府は、自らの正当性を主張するための情報発信に躍起だ。政府の主張の問題点や弱点に触れようとすると、「国益を害するのか」「反日か」と牽制する政治家や役人もいる。

でも、押し込まれないようにしよう。

「国益」や「ナショナリズム」が幅をきかせ、真実を伝える報道が封じられた末に、悲惨な結果を招いた戦前の過ちを繰り返してはならない。そして、時流に抗うどころか、商業主義でナショナリズムをあおり立てていった報道の罪を忘れてはならない。

私たちの社会はいま、観光や労働の目的で多くの外国籍の人が訪れたり、移り住んだりする状況が加速している。また、来年にはオリンピック・パラリンピックが開催され、日本社会の成熟度や価値観に国際社会の注目が集まる。排外的な言説や偏狭なナショナリズムは、私たちの社会の可能性を確実に奪うものであり、それを食い止めることが報道機関の責任だ。

今こそ、「嫌韓」あおり報道と決別しよう。

報道機関の中には、時流に抗い、倫理観や責任感を持って報道しようと努力している人がいる。新聞労連はそうした仲間を全力で応援する。

2019年9月6日
日本新聞労働組合連合(新聞労連)
中央執行委員長 南 彰

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ネット緊急署名 東電刑事裁判元経営陣「無罪」判決に控訴を!

9月19日、東電刑事裁判の東京地裁判決は、残念ながら、「全員無罪」という許しがたい不当判決でした。
不当判決に対して、このままではいられません。検事役を務めてくださった指定弁護士の皆さんに、控訴のお願いをしてください。

控訴期限は2週間だそうです。10月2日まで、短期決戦です。どうぞ、SNSでの拡散、MLでの拡散をお願いします。下記、緊急署名ページです。

【緊急署名】東電刑事裁判元経営陣「無罪」判決に控訴してください!
発信者:福島原発刑事訴訟支援団 宛先:東電刑事裁判検察官役指定弁護士のみなさま

2019年9月19日、東京地方裁判所は、東京電力の元経営陣3名の福島原発事故における業務上過失致死傷の罪について「被告人らは、いずれも無罪とする」という判決を下しました。
この判決は、原発が過酷事故を起こさないための徹底的な安全確保は必要ないという、国の原子力政策と電力会社に忖度した誤ったメッセージであり、司法の堕落であるばかりか、次の過酷事故を招きかねない危険な判断です。
2016年2月29日の強制起訴から、検察官役として指定された5人の弁護士のみなさまは、この重大事故の責任を問うために大変なご苦労をされてきたということを、公判の傍聴を通じて感じており、心から感謝しております。裁判所が配布した判決要旨を読むにつけ、裁判所がこの原発事故の被害のあり方、被告人らの行いに対し、正当な評価をしたとは到底思えません。

私たちは、この判決では到底納得できず、あきらめることはできません。
どうか、指定弁護士のみなさまに、控訴をして頂いて、引き続き裁判を担当して頂きたくお願い申し上げます。
多大な仕事量とそのお働きに見合わない報酬しか、国からは支払われないと聞き及んでいるところを心苦しくはありますが、正当公平な裁判で未曾有の被害を引き起こした者たちの責任がきちんと問われるよう、再び検察官席にお立ち頂けますようお願い申し上げます。

私たちは控訴期限の2週間(10月2日)ぎりぎりまで署名を集めます。

福島原発刑事訴訟支援団(支援団の連絡先はこちら)
メール:info@shien-dan.org
 電話 080-5739-7279
(福島原発告訴団)〒963-4316 福島県田村市船引町芦沢字小倉140-1

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