私と憲法217号(2019年5月25日号)


安倍改憲発議阻止のたたかいから、参院選の勝利へ

はじめに

198通常国会も会期末まで残り1か月、安倍改憲をめぐる情勢が緊迫している。トランプ米大統領が来る。G20が開かれる。イランなど中東情勢が緊張している。沖縄など、全国の市民が闘っている。

現時点で私たちが憲法課題で検討しておくべき問題点には以下の諸問題がある。

  1. 198通常国会で「改憲発議」を夢見たり、その危機をあおる勢力はほぼいなくなった。それはもはやどう考えても無理だ。
  2. 肝心の衆院憲法審査会が定例日の毎週木曜に開催されるかどうかをめぐって与野党が激突している。
  3. この国会中に自民党が作成した改憲案「条文イメージ(たたき台素案)」を憲法審査会で「提示」し、国会で改憲案をめぐる議論がはじまったということを既成事実にできるのか。
  4. 次期参院選で、改憲発議に必要な3分の2議席を改憲派が占めることができるかどうか。安倍首相は改憲派に有利にするために国会会期の延長も含めて、衆参ダブル選挙にふみきるかどうか。

通常国会での改憲発議は食い止めた

2017年以来、2年越しで安倍首相らによって執拗にもくろまれてきた改憲の「発議」は、国会内外の野党と市民のたたかいの中で、昨2018年に失敗しただけでなく、2019年年頭からの198国会においてももはや絶望的になった。

安倍首相はその支持基盤である極右勢力を意識して、いまなお「2020年改憲施行をあきらめていない」(5月3日の日本会議系集会へのビデオ・メッセージ)などと強がりをいいつつも、もはや改憲「発議」を秋の199臨時国会以降に先送りせざるをえなくなった。

本誌は昨年秋以来、安倍改憲発議を阻止する課題が焦眉の課題であることを強調しつつ、私たちが闘えばこれを阻止できる可能性があることを繰り返し主張してきた。ただいたずらに安倍改憲を恐れ、危機感を不必要に煽ることに反対してきた。「安倍9条改憲NO!全国統一署名」(3000万署名)を積極的にすすめることや、多種多様な市民の行動を全国で巻き起こし、国会内の野党と連携して安倍改憲に反対する運動を強めることが、安倍改憲発議を止める道であることを強調してきた。

私たちのこの議論に批判的立ち場を取る人々の切り札は「あの安倍だからなにをするかわからない」などと言うものだった。ことここに至れば、そうした議論が謬論であったことが明らかだが、この「狼少年」的な議論は運動圏では一定の支持があり、若干手強かったことも事実だ。「本当に闘えば勝てる」、ぜひ、この確信を持ってほしいものだ。

結果として、2017年以来の森友・加計疑惑追及、霞が関の腐敗と官邸の癒着などなどを追及するたたかいの高揚が、立憲野党を結束させ、与党内にまで動揺を引き起こした。自民党はようやくまとめた改憲案「条文イメージ(たたき台素案)」を198通常国会(憲法審査会)に「提示」することすらできなくなりそうだ。国会の両院で改憲派が3分の2以上を占めるという異常な事態の下で、圧倒的少数派の野党が市民運動や世論と結びつき、安倍改憲発議を2年以上にわたって阻止してきたのだ。このたたかいは憲法運動史上特筆していいことだ。

衆院憲法審査会での攻防

安倍首相は2018年夏の第4次安倍内閣の改造にともなって、改憲強行推進を目指して、自民党の改憲推進本部の体制も大幅に改造した。従来の憲法族中心のシフトから、安倍直系の改憲強行突破を目指す体制への切り替えだ。船田元や中谷元、保岡興治ら憲法族を外して、総務会長に加藤勝信、改憲推進本部長に下村博文、憲法審査会筆頭幹事に新藤義孝ら、安倍側近を据えた。この安倍側近を登用した体制が安倍の意向を忖度して、「野党の職場放棄」などの発言に見られるように前のめりになって躓いたのは、それからほどなくだった。そのため衆院憲法審査会を急いで再始動したいのに、一層困難になった。自民党改憲案の「提示」など、問題にもならなくなった。

あれこれの経緯があって、5月9日、1年半ぶりに再開した衆議院憲法審査会は、間もなく、再度、議題と運営をめぐって合意できないまま16日は開催されず、23日の開催をめぐっても与野党が対立している。自民党などが改憲手続法(国民投票法)改定の議論を打ち切って「公選法ならびの改正案」(改正公選法にあわせて改憲手続法を微修正する)を採決することを要求しているのに対して、立憲民主党など主要野党が同法のCM規制の議論の継続の保障を求めている。

こうした憲法審査会での立憲野党のたたかいに呼応して、国会周辺では総がかり行動実行委員会など市民が9日の夜と23日の昼、野党各党の憲法審査会の委員らを招いて、緊急に対抗アクションを展開した。

自民党は改憲手続法の議論をいったん打ち切って、憲法審査会に「自由討議」の場を設け、そこに自民党の改憲案を「提示」したい意向だ。そうすれば、秋の199臨時国会で自民党案などの改憲論議を継続することができ、改憲に向けて最低限2つの国会(198、199国会)で憲法論議をしたという実績をつくることがでる。

参議院選挙で改憲派の3分の2を阻止する

そのためにも、来る参院選では改憲派が総議員数の3分に2議席以上を確保し、改憲発議可能な条件を得る必要がある。安倍自身が区切った改憲目標時期の2020年までには参議院選挙はこの1回しかない。しかし、ここにきて1人区での野党の候補者1本化が急速に進んでおり、改憲派にとってこれは容易ではない課題だ。

参院選での3分の2が容易でないなら、衆参ダブル選挙を仕掛け、野党の共同を分断し、衆参両院で3分の2の議席を確保するという奇策を打つかどうかが、安倍に残された課題だ。

私たちにとっては、ダブル選挙も念頭に置きながら、当面、次の参院選で立憲野党が野党統一の無所属候補も含めて41議席以上を確保し、非改選と合わせて82議席以上になるかどうかが最小限目標となる。とりわけ全国32か所ある1人区で野党の候補の1本化を早急に実現しなくてはならない。このため5月下旬から「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合(略称・市民連合)」は急速に立憲野党各党との協議を進め、「政策合意」を作り上げようとしている。これは野党と市民の共同の大きな橋頭保となるだろう。

5月20日の共同通信の報道によれば、立憲民主、国民民主、共産、社会民主の4党と「社会保障を立て直す国民会議」(野田佳彦代表)とのあいだで、参院選の1人区の候補者について、すでに従来sから候補者1本化に合意していた5選挙区に加え、新たに22の選挙区での1本化が大筋合意されたという。

「(既に調整のめどが立っていたのは新潟、愛媛、熊本、大分、沖縄の5選挙区)。1本化で新たに固まった22選挙区のうち、立民は青森、宮城、栃木、群馬、山梨、岐阜、岡山で擁立。国民民主党が石川、長野、山口、長崎で、共産は「鳥取・島根」「徳島・高知」の2合区で立てる。最終的に公認とするか無所属とするかは各党で調整する。岩手、秋田、山形、福島、三重、滋賀、奈良、和歌山、香川は無所属候補への1本化が固まった」と報道されている。

「残るのは富山、福井、佐賀、宮崎、鹿児島の5選挙区。福井では共産に1本化される可能性がある。最終合意すれば、共産は21選挙区で候補を降ろす方針。富山は国民を軸に調整、佐賀は共産候補がいるが国民も擁立を検討中だ。鹿児島では社民党が擁立を強く主張。月内にまとめる」という。

4月末からの立民の枝野幸男代表による野党党首との相次ぐ会談などで1人区の1本化と衆参ダブル選挙に備えて衆院の候補者調整を進めることが確認された。共産党は5月12日の第6回中央委員会総会で志位和夫委員長が、1本化実現のために、従来、野党競合区で共産候補を降ろす条件としていた「相互支援・相互推薦」にこだわらない姿勢に転換する方針を発表した。

志位氏は6中総で「市民と野党の共闘にこそ政治を変える希望があります。安倍政権の国会での暴走を支えている国会での絶対多雨巣を打ち破るには、野党が力を合わせる以外に道はありません」。「この共闘は、もともと安保法制=戦争法に反対する国民・市民のたたかいのなかから生まれたものでした。それを前進させ、成功させる原動力は、国民・市民のたたかいにこそあります」と述べた。

共産党のこの決断が参院選の32の1人区での野党候補の1本化を急速に前進させる契機となったことは高く評価されるべきだ。確認しておかなければならないことは、野党候補の1本化は勝利のための前提条件だが、十分条件ではないということだ。1本化した候補の勝利のために、野党各党派と市民が結束して全力でたたかうことなくして、自公候補を打ち破ることはできない。

自民党は参院選の1人区で、16選挙区を「激戦区」に指定して、取り組みを強めている。これを2017年の衆院選の比例区での得票数を比較すると、野党側(立民、旧希望、共産、社民)が自公を上回っているのは、10選挙区ある。のこり6選挙区も僅差だ。ここも逆転の可能性は少なくない。

ダブル選挙になっても市民と野党の共同でたたかう

もし、こうした事態がすすむなら、安倍首相らにとって来る国政選挙を有利にたたかう道は衆参ダブル選挙以外に見出しにくい。衆議院議員の総議員定数465名、うち289名が小選挙区選出議員、176名が比例代表選出議員だ。野党は1人区である選挙区をたたかうには候補者の一本化以外にない。

すでに野党各党は参議院の1人区での候補者1本化と同時に、衆議院でも極力1本化することは合意している。1人区での1本化なしに勝利は不可能だが、1本化すれば勝てるわけではない。リスペクトを伴った、それぞれの真剣な闘いと、市民との共同を進める中でしか、勝利の展望はない。

問題は衆議院解散の大義名分だ。自民党が勝てそうなときに解散を打つのが本音ではあるが、首相といえども、建前では勝手に党利党略で解散をするというわけにはいかない。
なにを解散の大義名分にするか。いまのところ、それは消費税据え置きか、改憲のいずれかか、2つともだ。

衆院解散には、「野党の職場放棄」などの発言に見られるように先ごろ萩生田光一・自民党幹事長代理が口走った「景気の急速な減退のために消費税引き上げを延期する」という口実か、改憲についての民意を問うという口実以外に考えにくい。自民党の甘利選対本部長は、党内で、参議院選挙に合わせた「衆参同日選挙」を行う場合には憲法改正を争点にすべきだという意見もあることについて、「そういう考えの人が党内にいることはよく承知しているが、安倍総理大臣が現時点で同調しているとは思えない」と述べた。改憲を主題にした同日選挙は否定されていない。

このところ、菅義偉官房長官が野党による内閣不信任案提出をきっかけに解散が行われる可能性があるなどと語り、永田町に解散風を吹かし始めたのもこうしたゆえんだ。

しかし、この作戦が功を奏するかどうかは安倍首相らにも不確定要素があまりにも大きい。失敗すれば改憲の企ては破綻し、安倍政権の政治責任が問われる。与党の公明党の中には消極意見が強いし、自民党内でも疑問視するむきもある。

市民連合は今月末にも野党各党との政策合意をつくり、それに基づいた選挙での協力体制を全国で早急に作り上げ、闘おうとしている。
この流れを促進し、必ず安倍首相らの改憲の企てを打ち破ろう。
(事務局 高田健)

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許すな!安倍改憲発議―平和といのちと人権を!5・3憲法集会2019

池上 仁(会員)

袖をまくった腕がヒリヒリするくらいの好天気だ。市民連絡会の幟旗を立ててメイン会場の最前列に。「子供団」と「獄友(ごくとも)イノセンスバンド」コンサートのリハーサルから本番までを楽しんだ。「獄友」は冤罪と闘っている狭山事件の石川さんらを描いた映画に関わった演奏家で編成したグループだそうだ。

メイン集会開会。司会は講談師神田香織さん、「異様な改元騒ぎの陰で何が進行しているのかじっくり想像し手を打たなければならない。芸人も頑張っています、『戦争を許さない芸人たち』の映画が撮影進行中、それぞれの手段で改憲反対を訴えていく」とアピール。最初に主催者を代表して高田健さんが開会挨拶
2017年5月3日、安倍は自民党憲法改正草案を棚上げして新しい9条改憲案を発表し、2020年に施行する、と期限を切った。これは反発の強い9条改憲を迂回して、自衛隊を9条に書き込むことにより、この国を名実ともに戦争する国にするもの。その後4項目の改憲案にまとめ、災害出動で奮闘する自衛隊員が可哀想などの感情的で卑劣なキャンペーンを行ってきた。しかし、2年間の私たちの立憲野党と協力しての闘いにより。憲法審査会で与党改憲派は自民党改憲案の提示すらできなかった。2020年改憲の目論見を果たすにはこの198通常国会で改憲発議をやるか参院選で3分の2の議席を獲得するか2つの途しかない。私たちはこれを全力で阻止する。今日全国で大きな統一行動が展開されている。連休明けには野党と市民連合の政策協定も結ばれるだろう。沖縄辺野古新基地建設反対等多くの課題と結びつけて改憲発議を阻止しよう。その上で来る参院選では改憲勢力3分の2を阻止しよう。全国の1人区で市民と野党の共闘で候補者の一本化を実現するだけでなく、力を合わせて全力で勝利させよう。

〈メインスピーカーの発言〉

湯川れい子さん(音楽評論家)
音楽大好きで59年間楽しく生きてこられたことを感謝する。今83歳、戦争を体験した私は憲法を守り抜くために終生残り時間をかけたい。1966年、ビートルズの武道館公演をめぐって今日と同じように右翼の宣伝カーが走り回った、薄汚い西洋乞食は出ていけ!神聖な武道館を使わせるな!と。ロックなんて百害あって一利なし、と言う政治家や評論家がいた。若かった私はそんな馬鹿な話はないと思った。音楽は肌の色は違っても言葉は違っても、さあみんな楽しく生きようよ、と言っている。戦争をしているところに音楽はない。右翼は行進曲を流しヒットラーはワーグナーを使った。そういう意図的な利用でなく、こうして楽しく集い合って歌い踊るところに殺し合いなどない。対立があるところに平和はない。人間が人間を殺すことを恥じなくてはならない。自分の餌のために、自分の権利のために、自分の名誉のために他の同種を殺すか?人間だけがそんなことをしている。9条は日本の宝、世界の宝だ。自衛隊を書き込むなどというインチキを絶対に許さない。誇りをもって自らが作る平和な世界を信じよう。

元山仁士郎さん(『辺野古』県民投票の会代表)
辺野古新基地建設の是非を問う2月24日の県民投票は投票率52.48%、反対が72%、43万4千人余りだった。しかしこの圧倒的な民意を無視して政府は埋め立て工事を進めている、どうして沖縄の民意は反映されないのか、どうしてこんなことがあり得るのか。皆さんの住んでいるところ、故郷で同じことが行われたらどう思いますか?普通に怒ってほしい。共同通信の世論調査では県民投票結果を尊重すべきが7割近く、しかし知事対象のアンケートでは岩手県と静岡県のみ、この落差は何故なのか。岩屋防衛大臣は「沖縄には沖縄、国には国の民主主義がある」と豪語した。また、県民投票の結果が出る前から工事続行を決めていたとも明言した。この国の民主主義とは何なのか、それを定めている憲法とは何なのか?戦争体験者が少なくなる中で、私たち若者がこれからどうしていくのか、と考えてアクションを起こした。憲法が岐路に立たされている時に、自分が何をしたのかを自分の言葉で孫子に語れる大人になろう、と。日本に憲法があるからこそ沖縄は日本になった、と信じている。沖縄の民意を実現したい、お集まりの皆さんとならそれができる。

高山佳奈子さん(京都大学教授)
2017年衆院選では自民党が2,672万票、得票率48%くらい。棄権が4,914万人、この人々が現政権を支えることになっている。若い人の中には、投票に興味がない、政治には失望しているから、と言う人がいる、カッコつけもあろう。しかし、棄権は民主主義を自らの行動で否定し独裁制を支持すること、自分は奴隷として生きるという意思の表明であるということに気付いてほしい。自民党の改憲4項目は百害あって一利なしのもの。教育の充実、参院合区解消、緊急事態対応、どれも法律で実現できる。自衛隊を書き入れたなら、第1章天皇、第2章自衛隊と、3権から独立して並ぶという荒唐無稽なものになる。今変えるべきは憲法でなく政権だ。

永田浩三さん(武蔵大学教授)
32年間NHKで働いた。私は1954年生まれで安倍君と同学年、志位和夫君や前川喜平君、ドイツのメルケル首相も一緒。この世代は戦後民主主義の申し子だ。東京オリンピックでは国威発揚でなくアスリートの健闘をたたえた。日本を取り戻すと言う安倍君の料簡は狭すぎないか。2001年、NHKで従軍慰安婦問題を考える番組の編集長をやっていた。当時内閣官房副長官だった安倍君らがNHK幹部にちょっかいを出し、番組は劇的に変わってしまった。政治干渉に抵抗したが敗れ、孤立と沈黙を余儀なくされた。悔しいし恥ずかしいことだ。東京新聞の望月衣塑子記者が圧力にめげずに奮闘し、SNS等で発信して市民とジャーナリストの連帯の輪が広がっていることにわずかに希望の光を見出す。安倍君、君は実力以上に大事にされた、これ以上何を望む?日本社会を壊すな、沖縄をいじめるな、憲法をいじるな、おとなしく身を引け!30年前ベルリンの壁が崩壊した時東欧各地を取材した。人々が大事にしていたのは言論の自由と連帯、多様性だった。放送法第1条には「健全な民主主義の発達に資する」とある。32年前のこの日、朝日新聞の小尻知博記者が銃弾に倒れた。リセットすべきは元号でなく政権。嘘にまみれた安倍政権を終わらせよう。

〈政党挨拶〉

立憲民主党・枝野幸男代表
この1年間も日本の立憲主義は後退させられた。大手メディアは政治や社会の真実を伝えない。政府は隠蔽改竄を重ね、指摘されても開き直るというとんでもない状況だ。立憲主義は大きな危機にある。最低限の生活を保障されていない人々が増えている。こうした状況を変えていく大事な集会に参加した他の野党と連携して、安倍政権打倒に先頭に立って全力をあげる。権力が憲法で縛られるまっとうな社会にするために。今日これだけの結集に勇気づけられ、また重い責任を感じている。

国民民主党・玉木雄一郎代表
安倍政権の最大の問題は嘘つきだということだ。国会で何を訊いても答えない、訊かれてもいないことを一杯しゃべる、これではまともな民主主義は成り立たない。自衛隊を憲法に明記しても何も変わらないと言うが、実は自衛権の範囲を無制限に拡大しようとするものだ。国民投票法も問題が多い。金のある政党や団体は好きなだけコマーシャルが打てる、多くの人が誘導されるだろう。「通販生活」のCM「公平な国民の判断ができないような仕組みのまま国民投票は行うことは、かえって民主主義を危機にさらす」は当を得ている。我が国の独立や自主性を担保したいと言う、それなら日米地位協定の見直しにこそを真っ先に取り組むべきだ。私たちはこれに具体的に取り組んでいく。

共産党・志位和夫委員長
自民党改憲条文案には大きな問題がある。(1)9条2項を立ち枯れ死文化させてしまう。9条を9条たらしめている命は第2項にこそある。自衛隊員の子どもが悲しむから書き込むと言うが、子どもさんが悲しむのは父親が戦争で命を落とすことだ。9条は自衛隊員の命も守ってきたものなのだ。(2)自衛隊の行動は法律で定める、として時の多数党と政府が法律さえ通せば無制限に自衛隊の行動を拡大できる、憲法の縛りを解除してしまう。海外派兵も徴兵制も核武装さえ可能になる。こうした歯止めない軍国主義化の道を阻止しよう。安倍の致命的な弱点は、憲法で縛られるべき内閣総理大臣自ら改憲の旗振りを行う、このこと自体が憲法違反だということ。安倍に憲法を語る資格はない。安倍政権による9条改憲は許さない!この一点で市民と野党が共闘を広げ、選挙で決着を付けよう。

社民党・又市征治党首
最近安倍の改憲の声がトーンダウンしているのでは、という見方がある。カイザン、ギソウ、ネツゾウ、アベシンゾウと称されるような事態で。しかし、安倍は必死でやってくる、参院選で3分の2を取り改憲発議するべく虎視眈々と狙っている。自民党改憲案の本質は、現行憲法前文のあの戦争の深刻な反省の下にした不戦の誓いをなくしてしまうということ。憲法全103条に具体的な省庁名はない、「・・・省設置法」の形で規定されている。自衛隊だけを別格として内閣と並置することの意図は何か。戦争法を合憲化し、平和憲法のもとにある全法律体系を覆す軍事優先の志向だ。参院選、野党で3分の1の壁を突破したい。小異を残して大同につき、皆さんに後押しされて安倍を退陣に追い込む。

参院会派沖縄の風・伊波洋一さん
「沖縄平和市民連絡会」は昨日総会をもち、この集会へのメッセージを託された、“沖縄は頑張っているので全国の皆さんにも頑張ってほしい”、と。安倍改憲の本当の狙いを知りたければ自民党改憲草案を読めば一目瞭然だ。現行憲法と真逆のものだ。4年前戦争法を強行した安倍政権は、隣国の脅威をあおり、日米同盟の強化を進め、抑止力を口実に莫大な金額の兵器を購入している。アメリカは米中有事の際には周辺同盟国に闘わせるというオフショアコントロール戦略に立って、南西諸島に自衛隊基地を作らせ、辺野古に海兵隊の最先端基地を作らせている。自民党の改憲草案はこのような戦争を想定し対応するもの、絶対に認められない。

衆院会派・社会保障を立て直す国民会議からのメッセージが代読で紹介された
安倍政権は選挙で勝てば何をやっても許されるというおごりから、国会軽視が目立ち、また最も公平さが求められる行政プロセスも大きく歪められる状況が続出している。権力は自らを抑制しなくてはならない。立憲主義、国民主権、平和主義、基本的人権尊重を守り抜くために全力で取り組む。

ここで菱山南帆子さんのコールでメッセージ・プラカードを掲げるパフォーマンス。壇上の野党代表の皆さんが手を取り合い高々と掲げ、盛大な拍手が送られた。

玉城デニー沖縄県知事のメッセージ
憲法の理念であるひとりひとりの命に寄り添う社会の実現のため、日々尽力されている皆さんに敬意を表します。沖縄が日本に復帰して47年目、日本国憲法が施行されて72年目になる。憲法は国民の生活向上や平和と安全に大きな役割を果たしてきた。世界では命と人権が脅かされている状況がある。民族や宗教の違いを乗り越え、多様性を認め合い、平和な世の中をつくるために協力していく必要がある。沖縄はかつて“万国津梁”の精神でアジアの国々との懸け橋として友好関係を築いた。沖縄戦や軍政下の苦難の歴史を経た沖縄はこうした県民の経験を踏まえ、誰一人として取り残すことのない沖縄らしい優しい社会を目指し邁進する。

〈市民連合の訴え〉

広渡清吾さん(東京大学名誉教授)
市民連合は違憲の戦争法の廃止と立憲主義の回復を求めて結成された。そのためには国会に新しい多数派をつくる、市民と立憲野党の共同を実現してこそそれができる。キーワードは、市民と市民をつなぐ、市民と立憲野党をつなぐ、立憲野党の間をつなぐ、三つの“つなぐ”ための活動は、新しい政治のために私たちの統一した力を作り出すことを目指している。自民党は4項目改憲案で草の根の運動を始めている。改憲派にとって衆参両院で3分の2を握っている今がチャンス。改憲を許せば非戦非武装の平和国家としての面目をなくしてしまう。世界とアジアの平和を求める人々を裏切ることになる。2016年参院選、2017年衆院選とこの旗印で闘ったが、自公勢力を大きく後退させることはできなかった。参院選で勝利するためにもっと大きな輪を作るための工夫と努力が必要、立憲野党の支持者の足し算ではだめだ。安倍政権の外交も内政も手詰まりなのは明らか、そこから目を逸らさせることで成り立っている、改元フィーバーはその一例だ。憲法は守るだけでなく実現すべき豊かな内容を持っている。

〈リレートーク〉

東京朝鮮中高級学校生徒の皆さん
同胞は戦後すぐに自らの生活再建よりもまず学校を作った。民族の歴史、文化を学ぶことのどこが悪いのか。米朝会談、南北和解の動きが進んでいる。高校無償化から朝鮮高校を外されてから9年経った。ずっと抗議行動を重ねてきたが、2018年東京高裁の不当判決に悔し涙を流した
合唱で祖国統一を願う「ハナ(一つ)」、それから“アリラン”と“赤とんぼ”を輪唱風にアレンジしたもの。美しく澄んだ歌声にいっとき会場が静まりかえった。
私が入っている労働組合は毎年秋に中央行動で文科省にデモをかける。金曜日の行動なのでいつも彼らの抗議行動に重なり、エールを送って来た。彼女らの姿もそこにあったのだろう。

本田由紀さん(東京大学教授)
社会学の立場から言えば、憲法いじっても何も変わらない、憲法変えなくても色々なことが変えられる。戦後昭和期の循環は、経済成長に牽引されて勤続年数に従って増える賃金を父親が持ち帰り、母親が子育てと子供の教育に力を注ぐ、というパターンで廻った。高校進学率は急激に上がり大学進学率も上がった。新卒一括採用で子どもたちはスムーズに仕事を得た。その負の側面が性別役割分業、社畜、会社人間、過労死、受験競争による教育の荒廃だ。この循環はバブルの崩壊で平成期に崩れた。安定した職業を得られない若年層は一気に膨らんだ。よりよい就職機会を求めて大学進学率は急増したが、教育ローンに縛られる。劣悪な労働条件から家庭をもてない若者が増え、人口減に歯止めをかけるチャンスは永遠に失われた。竹中平蔵が「日本には存在しない」と言った貧困の増大はデータから明るみに出た。政府は税収伸び悩みや財政赤字を理由にセーフティネットや教育への公的支出を切り詰め続けた。平成期終盤には安倍はこうした社会循環の崩壊に継ぎを当てるような施策を次々に打ち出した。女性の活躍、外国人労働者受け入れ、消費税増税、金融緩和、軍備増強
それらの底にある「つべこべ言わずに国のためになれ!」という安倍政権の人間観が益々露わになってきた。政権の延命のためには近隣のアジア諸国や苦しい状況にある人々への憎悪を掻き立て利用する。これとなれ合い官製株式相場による収益を労働者に回さない財界によって労働者の困窮と生活難が強まる。もう昭和期の循環には戻れない。新しい社会の循環を作り出さなくてはならない。もうこのままでは駄目だ、という覚悟がせりあがってきている。沖縄の闘いや#MeToo、ヘイトデモへのカウンター、困った人に食事や住居を提供する運動、新しい社会の循環を自分たちの手で生み出していかなくてはならない。憎悪と侮蔑に満ちた社会から信頼と共生の社会にする以外にこの国が存続する術はない。ゾンビのような安倍政権に憲法をいじらせてはいけない。

武藤類子さん(福島原発告訴団・団長)
無理やり作られた10連休だが、こうして皆さんと話し合うことができてうれしい。福島第一原子力発電所事故について東電の刑事責任を問う裁判を行っている。2017年6月に提訴し、37回の公判をもってこの3月に結審した、判決は9月19日。沢山の証拠と21人の証人によって多くのことが明らかになった。事故前に東電が津波の危険と対策の必要を知っていたこと。2008年には15.7mの巨大津波の可能性が指摘され、社員に対策を講じるよう指示があったが、武藤副社長から先送りにすると言い渡され、頭が真っ白になったという社員の証言がある。何の対策もないまま3.11を迎えたのだ。双葉病院で過酷な避難を余儀なくされ亡くなった患者さんについて、病院職員、遺族の証言があった。東電の被告3人は被告人尋問の際お詫びの言葉を発し深々と頭を下げたが、それは傍聴席の被害者に向かってではなく裁判官に対してだった。被告人は知らぬ存ぜぬ。権限がない、責任は現場にあると言い逃れている。きちんと責任を取らせなくてはならない。論告で指定弁護士はこうした姿勢を厳しく批判し、業務上過失致死傷罪の上限である禁固5年を求刑した。電力会社、規制当局は反省なく再稼働を進めている、また同じことを繰り返すのか。この3月に福島県の区域外避難者への支援がすべて打ち切られた。立退きや高額の家賃を請求されて途方に暮れている人々がいる。追い詰められた避難者のことが心配でならない。福島ではオリンピックどころではない、憲法よりもオリンピックが大事、こんなあべこべの社会を元に戻したい。

鳥井一平さん(移住者と連帯する全国ネットワーク代表理事)
私たちは“外国籍労働者”とは言っても“外国人労働者”とは言わない。外国人という言葉であたかもこの社会の中にはいないかのように思い込まされる。“移住労働者”“移民労働者”と言う、海外では英語で“migrant”。安倍政権の最大の弱点は移民の問題である、と私たちは言ってきた。これは野党も変わらない、この社会の弱点でもある。この4月から特定技能という在留資格が始まった。昨年秋から国会で審議される中で、30年間訴えてきた問題が次々とメディアで紹介された。技能実習生が原発の除染作業に従事させられる、妊娠したら強制帰国させられる、時給300円、逃げれば失踪者として容疑者・被疑者扱い。外国籍労働の問題は移民でなく私たちの社会の問題だ。“国民”という言葉では排除されてしまう人々の声に耳を傾ける政治をつくっていこう。労使対等原則が担保された。多民族多文化共生社会を実現していこう。

続いてボストンで12年間に亙って音楽活動をしている植田あゆみさんのコンサート。「翼をください」を100ヵ国の人で歌う企画を試みたが、44ヵ国の人が参加してくれた。迫害が懸念される、女性だから顔を出せない、という国もある。日本の当り前が世界のスタンダードでないことを痛感した。何に「ノー」というのも大事だが、何に「イエス」というのかも大事。ノーばかりの人生にさようなら、イエスと思い切って言おう、と訴えながら「ビリーブ」他を披露した。

最後の「翼をください」の大合唱を背に、福山真劫さんから行動提起
(1)憲法改悪発議絶対阻止、3000万人署名は拡大している、集約を!(2)辺野古新基地建設阻止、5月25日国会包囲行動に結集を!(3)東アジアの非核化と平和確立のために奮闘しよう!(4)夏の参院選に市民と立憲野党の共闘で勝利しよう!と呼びかけた。本日の集会参加者が昨年を上回る6万5千人と発表され大きな歓声と拍手が沸き起こった。参加者は集会の熱気に昂揚した表情でクロージングコンサートに送られて、続々とデモの出発点に向かった。

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第134回市民憲法講座 安倍改憲の現状とあらためて考える改憲手続法(国民投票法)

田中 隆さん(弁護士 法律家6団体連絡会・自由法曹団)
(編集部註)4月20日の講座で田中隆一さんが講演した内容を編集部の責任で要約したものです、要約の責任はすべて本誌編集部にあります。
なお、この講座はhttps://www.youtube.com/watch?v=5ft2JIKllWoで検索できます。

安倍改憲と展開――「90年代改憲」の「現代版」

自由法曹団という法律家団体で活動しており、日本民主法律家協会や社会文化法律センターなど法律家6団体で改憲問題に対応しています。

前にこの講座にお呼びいただいたのは1年半前、総選挙の直後でした。タイトルは「改憲手続法と安倍改憲」で、法律の成り立ちからお話しをしました。今回のタイトルは「安倍改憲の現状とあらためて考える改憲手続法」ということで、その後の改憲をめぐる展開を踏まえて問題提起的にお話をさせていだきます。

最初に「安倍改憲」の性格を確認しておきます。「安倍改憲」と言いますが、これは安倍首相が個人的に発案したものではない。このことは念のために確認をしておいていただきたいと思います。

今回のような自衛隊が外に出て行くことに対応する改憲が動き出したのは、いまからほぼ30年前、「90年代改憲」というものが動き出したところからはじまっています。1990年から2019年まで、ちょうど終わろうとしている「平成」がこの30年です。その1990年は、ソ連が崩壊してアメリカがただひとつの超大国になって世界展開しようとした。その矢先にイラクのクウェート侵攻があって、この国が自衛隊を海外に派兵しようとしていた。これが大きな歴史の流れでした。その中で「国際貢献」を掲げた、自衛隊の国際展開のための改憲が考え出された。これがベースです。

「安倍改憲」は、その「90年代改憲」の現代版と考えていいはずです。あのときはブッシュさんで、いまはトランプさんです。多少立て方は違いますが、日本の自衛隊を米軍の傘下に置いて世界展開させるという基本の位置づけは変わっていません。

自衛隊の世界展開のために憲法の枠組みを逸脱して法律をつくろうとしたのが、いまから4年前に登場した安保法制、戦争法でした。ずいぶん反対して国会を包囲しましたが強行されていきました。ただ、この戦争法でもまだ十分に展開できない。国民の強い反対の声があり、多くの学者やわれわれ法律家は違憲だと言っています。このままでは十分に使うことができない。だから、あの戦争法でも果たせない自衛隊の全面的な海外展開を実現するには、憲法を変えるしかない。改憲派はこう考えるに至ります。折も折、その戦争法が通った翌年の参議院選挙で、ぎりぎりですが改憲派が3分の2を確保できた。ならばこの機会に9条を変えよう。これが安倍改憲の大きな背景です。

安倍の執念とイニシアティブによる推進

ここまではだれがやっても同じでしょうが、「安倍改憲」にはもうひとつの特徴があります。とにかく安倍首相が言い出して提唱し、そして主導をする。萩生田発言もありましたが、憲法のことをやれと言うのは安倍首相本人か側近といわれている人々だけ。首相が自ら突出する。そして自分のお友達を動員してやらせようとする。これが「安倍改憲」の大変大きな特徴です。

戦後いろいろな改憲派の主張がありましたが、首相自らが先頭に立って「オレが改憲をやるんだ」なんて言ったのは彼くらいです。そして自分がやると言った以上は自分の任期中にやりきることが目標です。だから現実的な路線を取りました。そのため、自民党が一貫して言ってきて自民党改憲草案で入れていた「9条2項を削除する」というのを外して、「9条2項を残して自衛隊を書き込む」という新しいかたちに転換した。それが9条1項2項を維持し自衛隊明記という改憲です。

彼の立場に立ってみれば、この自衛隊明記の改憲には4つの「こうなるはずだ」というもくろみがあったし、いまもあるのだろうと思います。
まず(1)の世論。自衛隊を解散しろというのはそう多くないわけです。自衛隊はそれなりに支持されていると見ます。しかし9条はだめだとということも、必ずしも人々は思っていない。つまり、9条も自衛隊もともに支持するという、国民の多くの人たちの気分に合うはずだと考えた。

つぎに(2)の違憲論と合憲論。いままで9条2項を削除すると言っていたから専守防衛派も強く反対した。2項を残すのなら、自衛隊は違憲だという人は反対するだろうけれども、自衛隊は合憲という人なら合憲の自衛隊を書き込むだけだから問題ないだろう。簡単に言えば自衛隊を違憲と考える人たちと、専守防衛論だけど自衛隊は合憲と考える人たちとの間に楔を打ち込めるのではないか、市民と野党を分断できるのではないかと考えた。

さらに、(3)の公明党。2項を残して自衛隊を書き込むというのは、かつて公明党が提唱したことがある案ですから、これだったら加憲論の公明党の賛成も得られるはずだと考えた。 もうひとつ、(4)の改憲派の運動。古典的な改憲論は2項削除論ですから、それに比べれば多少引いたような印象を与える。それを何とかするために改憲団体・日本会議は伊藤哲夫さんに論文を書かせて「2項削除なんて言っていたらいつまで経っても改憲はできない。これが実現可能な唯一の改憲なんだ。だから2項削除論者も全力を挙げてこの改憲の実現のために力を集めるべきだ」と言わせた。つまり(4)「実現可能な唯一の案として改憲派を結集できるはず」だと考えた。その結集の方法として日本会議は1千万の改憲推進署名を進めようとするわけです。

この4つくらいのもくろみのある9条改憲にを加えて、緊急事態対処であるとか教育充実であるとか合区解消とか、維新や公明を抱き込むための3項目を抱き合わせにして打ち出してきた。これが「安倍改憲」ということになります。

「安倍改憲」登場と憲法審査会

その2年間、「安倍改憲」がどのように進展していったのか。明文改憲をやろうすればちゃんと条文をつくって、改憲原案を国会に出さなければならない。衆議院だったら100人、参議院で50人の賛同が必要です。これを連名で国会に提出して、そして憲法に書いてありますね、衆議院・参議院それぞれで、総議員の3分の2以上で可決をして、国民投票にかける。国民投票運動の期間は最低2ヶ月、最長6ヶ月。その2ヶ月ないし6ヶ月の「国民投票運動期間」を経て投票して、改正に賛成だという人が過半数を占める必要がある。この手順を経れば改憲が実現できる。こうなっています。それに向けて進み始めたわけです。

2017年5月3日、安倍さんが自らビデオメッセージを寄せて、新しい改憲、自衛隊を書き込む改憲を提唱しました。まだ自民党の中で成案としてまとまったものではないけれども、憲法審査会というのはいろいろな問題を持ち出して議論をしてよいことになっていますから、憲法審査会に持ち出すことも理屈の上ではできた。しかしそう簡単にはいきませんでした。

そのあとすぐあった都議会議員選挙で自民党が惨敗をします。このとき圧勝したのが、小池さんが率いる都民ファーストだった。この自民党惨敗の背景に森友・加計の政治の私物化に対する国民的な批判があったことはおぼえておられるかと思います。こういうことを背景にして、安倍さんが改憲を言い出した5月を期して憲法審査会の審査が止まってしまいました。

その頃、憲法審査会は何を企画していたかというと、ヨーロッパに調査団を送ろうということでした。7月に調査団を派遣してその報告が11月にされる。変な話ですよ。「こういう改憲をしよう」と首相が言い出した。そのことを議論してくれるかと思ったら、議論してくれないで海外に調査に出たわけです。調査に出て、「安倍さんの改憲はいいね」という答えを持って帰るならいいんですが、全然違う答えを持って帰った。そういうちぐはぐが起こりました。

並行して9月に総選挙という話になって、ここで小池さんの希望の党が結成され、驚いたことに民主党がここに合流を決定してしまう。小池さんのもとに新しい政党ができたら、これは改憲政党になることはほぼ必至です。彼女は生粋の改憲派ですから。もし希望の党、民主党が合流し、そこで自民党に次ぐふたつ目の改憲政党ができたら、いわば2大政党制になるけれども、これは同質的2大政党、改憲2大政党です。

かつて政治改革で小選挙区制を導入した目的のひとつは2大政党化することでした。この2大政党は、改憲か憲法を守るかの2大政党ではなく、同質的な2大政党。いずれも、この国は国際化する、そして自衛隊を海外に出す、よって憲法を変える、という同じ方向を持った2つの政党をつくって、あとは程度の違いだというかたちに持っていく目もくろ論みでした。このときの希望の党結成は、政治改革以来の改憲2大政党ができるはずだと大変な危機感を持ちました。

その後の展開はご承知かと思います。「排除される」となった枝野さんたちが立憲民主党を立ち上げて総選挙に関わる。結果は、改憲派が3分の2は維持したけれども立憲民主党が躍進し、希望の党は惨敗します。そして維新も公明党も後退する事態を引き起こした。これは完全に読み違いでした。本来はこの選挙で改憲に勢いがつくはずだった。そうすると総選挙のあとは特別国会が開かれて、特別国会で憲法審査会が開かれて、ここで改憲という話になるはずだった。けれどもその勢いがつきませんでした。

2017年秋の特別国会で行われた憲法審査会は、ヨーロッパ調査の報告だけで、これで年を越してしまいます。1年目は前に進まないで止まってしまった。

2018年、2019年・憲法審査会開催の攻防

そうなると2018年が大変大事な年でした。ここでどこまで進むかということが改憲の成否を決めかねない。自民党も議論にかかります。3月に自民党の改憲推進本部が4項目の改憲素案を出します。どんなものだったか。これは正式決定されてはいないけれども、自民党の改憲素案です。それをやっとまとめた。けれども党大会の決定はできなかった。そのとき通常国会では、裁量労働のデータのねつ造だとか、加計問題での文書の改ざんだとか、南スーダンでの文書隠匿だとか、とにかく改ざんや隠匿ばかりしているでたらめの政治に対する批判が渦巻いていた。それでもここで、とにかく自民党は素案をまとめたわけです。

その素案を「憲法審査会に出させてくれ」と要求します。この「出させろ」ということが非常にくせものです。原案を提出するというのではないんです。「提示をする」と新聞では報道されています。「私たちはこういう案を考えていますからみなさん一緒に議論してくれませんか」ということを「提示」と言っています。まだ正式な原案提案ではないから、自民党の案が確定していなくてもいいんです。「みなさんの意見を聞いてまとめるんですから」という論理だから完全にまとまっていない案の方がやりやすい面がある。そんなことを考えたはずです。しかし立憲野党は断じて認めない。そんな議論をするために憲法審査会を開く必要はないと。それはそうですよ。自分のところで議論すればいいものをなぜ憲法審査会に乗せてこちらまで引きずり込むのかと。これはこれで筋が通った話で、結果的に乗りませんでした。

そこで、憲法審査会を開くための呼び水をいわば搦め手から考えた。それが改憲手続法-国民投票法の改正案の提出でした。改正案を出せば憲法審査会に負託されるから、審査会を開けるではないかと自民党は考えました。そして2018年6月27日に自民、公明、維新、希望の改憲派4党の議員が連名で、改憲手続法-国民投票法の一部を改正する法律案を提出しました。これを呼び水にしてそのあとの憲法審議になだれ込もうとしました。

実はここはちょっときわどいところでした。国民投票の細かな規定を公職選挙法にあわせるだけの改正案で、これだけだったら与党も野党も一致できるのではないかと自民党は考えました。だから、野党に持ちかけると一時は「一緒に出そうか」という話になりかけました。びっくりしたのは、法律家6団体です。

あの時期を思い出してください。3千万人署名を集めて、そして国会に持ち込もうと思っているその矢先でした。国会では安倍政権を許さないということで、データねつ造や文書改ざんなどで退陣要求もしている。その状態で与野党が、いくら小さい改正案でも一緒に出すなんていうのはこのたたかいの流れを変えてしまうのではないか。「はっきりいいますが自民党の策に乗ることになりますよ」ということを、ちょっと僭越でしたが緊急声明を出して説得にいきました。反対の運動も起こり、野党のなかでも「こんなことをやったのでは議会闘争にならない」ということで、「待った」がかかりました。

手続法は一見するといかにも中立的な法律であるかのように見えてしまいます。確かに中立ないし公平ですよ。刑事訴訟法でいうなら犯罪を犯せば金持ちも貧乏人も同じように被告人になる。それはそうです。でも手続法の改正案が出てきたり新しい手続法をつくろうというときには、必ず政治的背景があり、もくろみがある。そのことを抜きにして、手続法だから中立で与野党仲良くやってよろしいと考えられると、法律家は怖くてしようがないんです。

幸いそうはならず、改憲手続法の改正案は自民、公明、維新、希望の4党が提出しました。そして、これが誘い水だということはわかっていますから、立憲野党は簡単に乗りませんでした。結局この2018年6月、7月の国会でも、改憲手続法改正案は、趣旨説明だけで終わって審議に入らずに秋に向かいました。

審査会や推進本部に「改憲急進派」を登用するも…

10月になって内閣改造があり、自民党の役員も改選され、審査会や推進本部に「改憲急進派」、簡単にいえば安倍首相のお友達、安倍側近が据わりました。いままでのやり方では突破できない。強行突破をするための布陣でした。「これは来るな」と考えたのは去年の10月11月。やっぱり仕掛けては来ました。11月29日、改憲派は衆議院の憲法審査会の開会を単独で強行します。この日は開会はされたのですが、自民、公明、維新、希望の議員しか出席しませんでした。50人中32人だけ出席してこちら側はいない。憲法審査会は絶対にこれをやらないということが原則だった。運営は与野党の一致でやる、与野党の協力、共同で進めるというのがルールだった。それを踏みにじったんです。踏みにじるために「改憲シフト」にメンバーを変えました。

そのまま突っ切るかと思ったんですが、結果的に自民党側は突っ切れませんでした。もちろんみなさんもわれわれも徹底して抗議しました。完全な私物化になると徹底的に叩きました。

その結果、それから1週間後の12月5日、次の憲法審査会で自民党の幹事は単独開会したことを陳謝します。ちゃんと議事録に載っていますが、森英介さんという会長が憲法審査会は慎重な手続きでやるのを旨としてやってきた。しかし、前回とはいわなかったけれども、それにもとることがあったことについては大変に遺憾だ、「もうやりません」というに等しい話をして、正常化を図ったというのが11月でした。このとき自民党や改憲派は、改憲手続法改正案を審査し、あわよくばそれに続いて自民党改憲案を乗せようとしたけれども、結果的には乗りませんでした。確か臨時国会での憲法審査会は2回合わせて8分くらいしか開いていないはずです。要するに「安倍改憲」をやり始めてから憲法審査会の議論は止まってしまった。止めてしまったんです。

そしてこの通常国会です。予算が通ったらやってくるだろうと考えていましたら、3月下旬から4月上旬まで、自民党は審査会の幹事の懇談会をやろうと言い出しました。3月28日、4月3日、4月10日です。3週連続で水曜日に幹事に集まってください、と。何をやるかというと、明日、憲法審査会を開きたいという打ち合わせをするためです。木曜日が憲法審査会の定例です。野党は行きませんでしたので、結果的に幹事懇談会は3回連続で開けない。今週の4月17日もやるかと思ったんですが、やりませんでした。結局この国会では憲法審査会は一度も開かれず、より正確には幹事懇談会も一度も開かれずに今日を迎えている。来週は開こうとするかもしれませんが、そのあとは、天皇代替わりの10日間の休みがあります。今度の国会は6月26日までしか会期がなくて、参議院選挙がありますから延長ができません。仮に憲法審査会をやろうとしても6回くらいしか定例日がない。そこでどう攻めてくるのか、ということがこの国会最後の攻防になります。これが国会の憲法審査会から見た安倍改憲の2年間でした。

攻防の到達点

改憲派にしてみたら「こんなはずではなかった」はずです。改憲派は、衆議院でも参議院でも3分の2を占めている圧倒的多数です。彼らは改憲派が3分の2を超えているうちに改憲を実現する、これを目標にしてタイムテーブルを組みました。衆議院は、3分の2は超えます。残念ながら自民、公明で3分の2を取っていますから、維新と希望を加えれば必ず超えると彼らは考えている。参議院はすれすれです。2013年7月の参議院選挙は、自民党に政権が戻った直後でしたから自民党が圧勝しています。ですから市民と野党に共闘を組まれると、今度の7月の参議院選挙は危ないと自民党は考えている。だから今年の参議院選挙までに改憲をやる、というのが彼らのもともとのタイムテーブルです。ところが2019年には地方選挙もあるし天皇の代替わりがあるのはわかっていますから、ここではあまり無茶ができない。だから、2018年のうちに憲法審査会に提示し、正式に原案を提出し3分の2で発議をするところまで持っていくことが、彼らにとってベストのタイムテーブルだった。われわれはそう来るだろうと考えて、運動をやりました。

結果、どこまで行ったのか。もう発議ができていないことはわかりきっていますね。それ以前に、そもそも原案提出ができていない。さらに原案提出の前段階で、彼らが必ずやっていた「提示」すらできなかった。案はどうかというと、去年3月に自民党の憲法改正推進本部がまとめた素案がそのまま現在も残っている。自民党が今回つくったQ&Aは、1年前の、正式に決まっていないももののQ&Aしかつくれなかった。完全に止まってしまったんです。最初に考えた参議院選挙までの改憲が不可能であることは明らかです。

では参議院選挙直前に発議して、参議院選挙を挟んでそのあとに投票ができるか。まだこの危険性がありますから気を抜いていいとはいいませんが、先ほどいった6週間しか連休明けにないという日程を考えると、容易ではないところまで追い込んだということは言えると思います。

でも安倍政権というのは、ほかの法案ではむちゃくちゃやっています。2017年には共謀罪、それこそ無理押しの強行採決をやりました。去年の国会では「働き方改革法」、ずいぶん反対しましたがこれも強行採決していきました。強行採決、独走を続けた国会でしたし、委員会を単独で開会するなんていうことはざらにありました。比較的冷静に審議しているといっていた選挙制度を審議する「政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会」というのがあって、私も参考人で行ったことがありましたけれども、これも強行採決で特定枠を導入しました。にもかかわらず、この改憲手続だけが2年間足踏みを続けた。これがなぜなのか、どういう力が働いたのかということを確認しておくことは、これからの安倍改憲との攻防を考えるうえでも意味があると考えています。

安倍改憲の「足踏み」を強いたもの

どうして改憲手続きだけが足踏みを続けざるを得なかったのか。私が要因と考えるものをaからeまで5つ列挙しました。ただこれは大きさが全然違います。足踏みを強いたのは大状況としての国民運動・国民世論と、そのもとでのいわば小状況、その大きな力のもとで展開した改憲手続の運用だったと私は考えています。

大きな状況、a.安倍改憲阻止の国民運動が展開されて市民と野党の共闘が進んだこと。3千万人署名は、空前の憲法署名で1350万まで提出されてなお増え続けています。その力が国会や地方から議員に対してアプローチをした。いろいろな難しい問題があったことは私もずいぶん国会に行きましたのでわかっています。議員や会派の離合集散がいっぱいあったけれども、しかし安倍改憲は許さないという一致点での国会内の共闘がぎりぎりのところで維持され続けたということ。ずいぶん心配しましたが、しかしこれを守り切りました。これは立派なものだと思います。これが崩れていたら、われわれはどこかでこけていたんです。aの運動に中心になられた市民連絡会はぜひこのことに確信を持っていただきたいしそれを広げていただきたいと思います。

bですが、この2年間、安倍政治の構造的な腐敗が本当に噴出を続けました。森友があって加計があって文書改ざんがあって文書隠匿があって、最近では統計操作があって、「忖度」なんてものがあって、ずっと続くわけです。しかもここまで行くと、どう見てもたまたまではない。たまたま変な大臣がいた、たまたま変な官僚がいたというものではないということがもうみんなわかっている。安倍政治というものの、いわば政治の私物化がこういう矛盾を引き起こした。だからそれに対して国民が憤懣を持ち「おかしいじゃないか」と考える。去年の3月頃、憲法をしゃべるよりも森友・加計のことをしゃべって、「安倍がけしからん」と言った方が署名が集まりましたよね。マリオン前で憲法のことをしゃべっても全然署名が集まらないけれども、「安倍が」というと署名が増える。「安倍がいかんから署名する。何の署名ですか」「憲法です」。「これでいいんだろうか」という議論もありましたが、私はそれでいいと思っています。あの腐った政治、政治の私物化の延長線上に憲法改正、憲法の私物化が起ころうとしていることに、人々が気がつき、怒りを持つった。それが国民主権であり民主主義の始まりなんです。そして安倍首相がイニシアティブを発揮して「オレの改憲だ」といってやってきたこのやり方が、安倍政治の腐敗に対する怒りを、改憲がおかしいじゃないかという批判に結びつける。そういう背景を持っているわけです。これこそが安倍改憲に対する正しいたたかい方だったという気がします。「安倍改憲」であることが、今回の改憲策動の弱点でもあるわけです。

c.ですが、私は改憲派がもっと積極的に動くだろうと思っていました。日本会議は1千万の署名をやって、その力をもって自民党議員に押しかけて「改憲を進めなければ次回は支持しないよ、落とすよ」とせまる。政治改革とか対決法案のときはそういうことをやっていますからね。国会に反対要請に行ったら、推進派が成立要請に来ているなんてしょっちゅうのはずです。今回は、国会に行ってもそういう緊張があまり感じられませんでした。つまり改憲推進派が、大衆運動で議員に改憲を強いるところまで攻め上げたかというと、どうもそこまでいかなかったのではないか。それもあって公明党は必ずしも積極姿勢にまだ出ていません。

自由法曹団は、これは来るだろうと思って去年の4月から5月に、急遽意見書をつくって国会に持ち込みましたし、国会要請もしました。全国の支部に全議員分を各地に送って、地元の事務所に全部行ってくれということをやりました。100%議員事務所に行けたとは思いませんが、それでも7割から8割は行ってくれました。われわれ自由法曹団で国会に行っても共産党や立憲民主党は会ってくれますけれども、自民党や公明党はほとんど会ってくれません。意見書を渡しても秘書が「ああ自由法曹団ですか」と言ってどこかにぽんと置くだけです。でも不思議なことに地元から行きますと、地元の弁護士は弁護士会等でよく知っていますから、それなりに話ができるんです。各地からの報告では、率直に言って地元の事務所はほとんど冷えている。「何か上の方では安倍さんが色々言っているけどね」とか、京都の某事務所では「いろいろやれというからやるけれども、この話をすると支持者に評判が悪いんだよね」、と反対派の弁護士に言うような状態がずっとあったくらいに、実は推進派の陣営の隊列が整いきっていなかった。

いろいろな要因があると思います。改憲派だって、みんなが議論をして一致点で結束して、「いい国をつくろう」と考えるからやるはずですが、そういう議論が全然されていない。つまりわれわれが平和を守るために意見の違いを超えてともに戦おうという議論を、自民党はついにできなかったのだろうと思います。そのことが安倍の突出、安倍と安倍の取り巻きだけが「やろうぜ」と言ってしまった今回の改憲の弱点としていまだに響いている。これが大きな政治状況です。

審査会への「提示」のこだわりと審査会の運営

小さい方の政治状況ですが、これが実は改憲手続法です。d.ですが、自民党がやりたいと言ったのは原案の提出ではなくて、憲法審査会への「提示」でした。ところが国会法のどこを調べてみても「提示」なんて手続はないんです。やらなければいけないことは改正原案を提出して、審査会で審査して議決をして、国民投票に持ち込む、これが手続きです。しかし自民党はなぜか「提示」に最後までこだわり続けました。なぜだろう。私はある時期、審査会は開かないといっているから提示なんかやめてしまって、改憲派議員は100人いるから、その改憲派議員で出してしまったら前に進むだろう。そう来るのではないかと言ったことがあります。もっといえば私ならそうします。

なぜ提示なんてことをやるのか。衆議院本会議で負託されて開かなければ、憲法審査会は負託されたことをやらないのかと叩けばいい。そうすると、さすがに国民は「おかしいじゃないか、憲法審査会はサボタージュしているのではないか」という世論になりかねない。それをついにやりませんでした。できませんでした。なぜなのか。

もうひとつ、eですが、先ほどこの国会で憲法審査会を開くための懇談会を3回開こうとして、3回断られたという話をしました。いろいろな委員会がありますけれども、自民党が委員長を取っている委員会で委員会を開きたいから理事懇をやりたいと言って、野党が理事懇に来なかった。それを3回も繰り返して黙っている委員会はありません。普通は単独開会してしまいます。それで法案を強行してきた。もし野党が出てこなかったら委員会が開会できないなんてルールを国会につくったら、絶対に法案は通りません。野党はサボタージュすればいいんですから。ほかの委員会だったら絶対に強行する、単独開会、単独審議という常套手段を、審査会では使えませんでした。

なぜか。d.なぜ審査会への「提示」にこだわったのか、e.なぜ単独開会、単独審議ができなかったのか。このふたつの震源が、今日のメインテーマの改憲手続法にあるということを知っておいてください。これは改憲手続き法の性格を考える上でかなり大事だと思います。前回は話しませんでしたが、1年半やってみて「なるほど」と思った部分なので、私の自説に近いのですがお話しします。それを考えるには改憲手続法がどのように登場して、どういう「血脈」のもとでここに来ているかを考えねばなりません。

改憲手続法の「血脈」-与野党共同、審査会の審議で

改憲手続法は90年代改憲、つまり9条を海外に出していくために変える流れの中で登場します。2001年に改憲議連が手続き法案をまとめ、そして2006年に国会に法案が提出されました。ここまでは当時の与党、自民党、公明党と当時野党であった民主党が、ともに準備し検討するという立場を取っていました。従って法案は与党案と民主党案のふたつが出ました。与党案と野党案はもちろん違いはありましたけれども、8割方同じ法案でした。ふたつの法案を議論する中で、3党で共同修正をして成立させようという話が進んでいきます。2006年12月に修正案が発表されますが、ここまで来るともう90%まで一致します。もうちょっと詰めれば3党共同で成立する寸前までいきました。

そのときに与党と民主党の双方で、どんな憲法改正の姿が構想されていたか。3点ほど挙げておきます。与党と野党が共同で準備し討議して発議をする。そして国民的なコンセンサスを得て憲法改正に至るという考え方です。与野党激突して強行採決でやるのではない、これが基本的な考え方でした。実は当時自民・公明の与党だけでは両院の3分の2には達していなかった。ですから、どうしても最大野党の民主党の協力が必要だと考え、これが前提でした。そうすると与党・野党が共同して議論して発議するためには、運営についても与野党が共同し一致して進めなければならない。こうならざるを得ません。これがすり込まれたルールでした。与野党共同の、与野党一致の運営ルール――これが単独で開会したら止まってしまうという背景にあります。

 では発議する改憲の原案は一体どこからつくっていくのか、審査会の外で政党が「密談」したっていいわけです。でもあの当時改憲手続法の議論の中で言われていたのは、あくまで発議する改憲原案は審査会の審議の中で作り上げていく。そして審査会というのは衆参両院にありますから、まったく違うものをつくってしまうと収拾がつかなくなる。だから準備の段階でも衆参両院がお互いに協議し合って同じような案をつくるために合同審査会というものをつくれる。これは規定にちゃんとあります。つまり衆参両院のメンバーが集まって、合同審査会で案をまとめて発議に至るというのが、当時考えられていたいわば改憲へのコースでした。「合同審査会のもとの小委員会のところで原案を起草するという形でないと、恐らく現実的な憲法改正への発議には政治的に至らないだろうと考える」と発言されたのが現在の立憲民主党党首の枝野さんで、「そのとおり」と答えたのが自民党の船田さんです。だいたい彼らが考えたコースはこれでした。

ところがこんなことはいままでやったことはありません。だから経験を積んでおく必要がある。そこで自民・公明・民主の3党で、改憲手続法の共同の修正をやることを改憲発議の予行演習にする。これは当時も言われましたし、新聞でも書かれました。どうも国会の中ではそういうことだったということが定説になっています。

昨年12月に法律家6団体で衆議院の憲法審査会事務局と、改憲手続法の運用について懇談をしました。最初の30分くらい、事務局長の阿部さんという方がレクチャーしてくれました。私がいま言ったこととほとんど同じ説明をしました。いろいろな法制を扱いましたが、自由法曹団が言っているセリフと、推進側にいる憲法審査会が言うセリフがほとんど同じだったというのは初めての経験でした。そのくらいこのことは定着していた。

ただ、改憲発議の予行演習とする以上、まだ改憲の中味は議論していないから特定の改憲は念頭に置かない。あくまでこれは抽象的な改憲を考えて手続きを考えるというのが、この当時の改憲手続法を議論しているメンバーの考え方でした。当時から、改憲手続法にはできるだけ政治化させないで抽象的に、手続きは手続きとして研究しましょうという傾向が大変強いんです。私からすれば、そんなことができるわけはない。手続きというのは必ず背景に政治があり闘争があると考えており、それが間違っているとは思いません。ただあの当時の船田さんや枝野さんは、本気で真摯にそう考えていたという気が私はしています。

「安倍の絶叫」が生み出したもの

ですから、もう少しすれば本当に「できのいい改憲手続法」ができてしまった可能性があります。怖かったです。相手がレベルが高いだけに。しかしこの3党の競争修正は頓挫します。ぶっ壊したのは安倍さんです。この場合の安倍さんは第1次安倍政権。2006年9月に、小泉さんの後を継いで政権の座につきました。2007年1月の年頭の挨拶で、憲法を頂点とする戦後レジームから脱却する、私の任期中に改憲をやるといってしまった。今と同じですね。「オレの改憲」ということを押し出してしまった。彼が言う「オレの改憲」というのは誰が見ても9条を意味していますから、9条を変えると言ったのと同じことになります。

これで3党共同修正は頓挫して、与党修正案が2007年5月に、これも強行採決で通りました。極めて雑なつくられ方をしたのですぐには運用できない欠陥法として成立して、3年間凍結する。参議院では18項目の附帯決議がつきました。それから3つの「宿題」と言っていますが、新しく法律整備をしないと発動できない附則というものを付けて通りました。

安倍さんが「オレの改憲」と言い出した影響は極めて大きかったとあらためて思っています。彼がしゃしゃり出てくることによって9条改憲が具体的な政治課題になった。改憲手続法の出発点は90年代改憲から来ていますから、われわれは「9条改憲のためのレール」だと批判していました。しかしつくっている人はそれとは一応切り離して、いい手続法をつくろう、どんな改憲をするかということは一切いわないでつくろうと思って、本気でやってきた。これをぶっ壊したわけです。特定の改憲案を念頭に置かずに議論をするということを破ってしまい、こうなると政争化しますから3党の協力なんかは壊れる。そのときの民主党の代表は小沢一郎さんです。全面的な対決姿勢に変化した。一気に政局になります。

これを嘆いたのは当時の憲法調査特別委員会のお歴々、委員長は中山太郎さんです。彼は一気に政局にされてしまったと誠に無念そうに語っています。「実録憲法改正国民投票への道」という中山さんが議員を辞めるときに書いた、とても面白い本があります。彼が怒っているのは安倍さんにであって、われわれ反対派に対してではない。共産党の笠井さんに聞きましたけれども、中山さんは笠井さんに、「俺は君たちに怒っているんじゃないんだ。わかるだろう」と言ったそうです。そういう中で通っていった。

政治化された9条改憲への危機感の広がりが、折しも広がっていた構造改革に対する格差貧困批判と相まって改憲手続法強行から2ヶ月後の参議院選挙です。2007年7月に自民党は惨敗して第1次安倍政権は崩壊する。改憲手続法は凍結状態になり、明文改憲も凍結された。ここで終わっていたいらこんな苦労せずに済んだんです。

再起動と「血脈」の復活

それから7年経ってまた登場します。その間に一度民主党政権への交代があって、あれこれあってまた自民党に戻って、一度潰れてしまったはずの安倍さんが復活して第2次安倍政権をつくり、またまた「オレが改憲をやるんだ」と言いだした。

次に改憲手続法が動き出したのは2014年、強行されてから7年後でした。このときに凍結を解除して、発議と国民投票が可能にされました。メディア広告の問題とか最低投票率の問題とか、さまざまな問題はまったく解決されないまま施行されました。2014年の改正法に、今度も附則と附帯決議が20項目まで付けられました。この改正法が成立して改憲手続法-国民投票法が再起動したのは2014年6月12日でした。

そのときわれわれは何をにらんでいたか。安倍さんの集団的自衛権解禁、憲法解釈の変更の策動でした。安保法制懇が答申を出して、憲法解釈を変えて集団的自衛権の行使が部分的にはできるという閣議決定をしたのが7月1日です。改憲手続法の解凍の2週間後でした。「安倍による、安倍のための、安倍の改憲のため」の解凍でした。ただこの改正案が提出されたのは自民党、公明党だけではなかった。民主党もみんなの党も維新も乗っていました。ちょうど民主党政権が崩壊して一番きつい時期でした。そして18歳選挙権があるから、反対できなかったんですね。そこはよくわかります。しかし14年改正は、大変な不十分さと大変な「毒」を持った改正ではありました。このとき、もともとの改憲手続法にあった与野党共同が復活した。そして確かに審査は慎重かつ民主的にやった。そんな展開でした。

その後、憲法審査会はある種の独自性をもって進んでいきます。与野党合意で運営をするとか、週1回木曜日の定例会を守るとか、他の委員会にはない円卓テーブルで議論するとか。わたしは参考人で呼ばれましたけれども、円卓テーブルに参考人というのは変なものですね。しかも50人のうち49人が賛成で、私は反対ですから。でもその割には民主的に議論します。確か衆参両院で16人参考人を呼んで、そのうちの半分は反対の参考人です。そういうことをやるところではありました。それが例えば、安保法制=戦争法に際して参考人を呼んだときは、自民党推薦も含めて「安保法制は憲法違反」と言わせる。そんな会議をやったのは衆議院の憲法審査会でした。

安倍改憲が始まるときのヨーロッパ訪問調査の報告も、大変ふるっています。イギリスに行って学んできたことは、国民投票が時の政権に対する信任投票になってはならないとか、イタリアに行って学んだことは、議会における幅広い会派の合意が必要であって、多数派が自分の権力強化の手段にしてはいけないとか報告しています。誰かに聞かせてやりたいことばかりです。それくらい安倍政権と憲法審査会の中心にはなお距離があったし、いまだにあります。その意味では与野党共同でやってきたはずだという一種の「血脈」をずっと引き続いている。極端な言い方をすれば、審査会側から言えば安倍政権の介入に対するどこか憤懣みたいなものがあるんだと思います。それがいまだに破れていない。一度破ろうと彼らはしました。「改憲シフト」で人を差し替えて強行したけれども、結局止まらざるを得なかった。

憲法審査会と改憲手続法との「血脈」が、改憲派3分の2のもとでも依然として憲法審査会への「提示」にこだわらせる。つまり改憲原案は憲法審査会を通じてつくっていくものだ。そういうふうに憲法審査会、改憲手続法の「血脈」をつくってしまった。自分たちが生み出してしまった改憲手続法が自分たちを縛っている。国会では先例を重視しますから、こういうことも通用するようです。あるいは開会は合意でやらなければいけないというルールも守られています。憲法審査会は「与野党共同と国民的なコンセンサスによる改憲」を考えており、「安倍改憲」はまさに「オレの改憲」です。理念もなければコンセンサスも考えないで、安倍さんとそのまわりのお友達が突っ込んでやってしまう。同じ改憲でもこのふたつの改憲にはかなり位相の違いがあります。この位相の違いが3分の2の多数を取っている国会の中で、安倍改憲に対するある種の抑止力として働いていると言えるでしょう。

改憲発議から国民投票まで

ではそれが国民投票の段階になったらどうなるのかという問題です。安倍改憲に対するある種のブレーキになっているから国民投票になってもブレーキになってくれるのかというと、残念ながらそうはなりません。発議から国民投票までは、「各議院の総議員の3分の2以上の賛成」で発議され、-実際には参議院が議決権を持つ-、そしてその日から「60日以降180日以内の日」ですから、2ヶ月から6ヶ月の間国民投票運動期間があって、投票になります。国民投票日を国政選挙の投票日にぶつけても法的にはいけないことではないですが、さすがに最近はそれはやらないだろうという意見が与党の中でも強くなっています。特にイタリアやイギリスの調査で、それをやったらそれこそ政権選択と国民投票が直結してしまいますから、これをやるのは相当難しいと見ておいてよろしいと思います。

発議されると国民投票広報協議会で、選挙公報に当たる憲法改正に関する広報がつくられます。その広報に政党は広告を出すことができます。これはさすがに、賛成と反対は同じ大きさとされています。さらに政党は新聞広告、テレビ放送、これも公的に放送することができ、広告が出せます。これも賛否同じにすることができるというところまではいっています。そうでないと、3分の2の賛成で発議しますから、議員の数に応じてやられてしまった公費で改憲案を宣伝するということになるから、これは大いに議論してここまでは折半ということにはなってはいます。それが公的な広告についてです。それを受けて投票して賛成が有効投票数の過半数を超えたら承認される。白票はまったく考慮されません。全体として極めて改正しやすい方向に手続きがつくられています。

改正しやすいようにつくられている典型が、最低投票率が設けられていないことです。これはわれわれも指摘したように、そして日弁連もこれを設けるべきだという決議や意見書を出し続けています。それは、結局国民に周知理解されないで投票率が低くても憲法改正が成立してしまいます。宣伝するのは国民投票広報協議会ですから、そこがたいしてやらないと、発議した方がちゃんと説明していないのに憲法改正が成立するということになりかねません。附帯決議で最低投票率の意義や是非を検討すると決めましたが、まともに検討されていません。

国民投票運動の自由の問題

今回あえていっておきたいのは、国民投票運動の自由の問題です。国民投票運動は「憲法改正案に対して賛成又は反対の投票をし、又はしないように勧誘する行為」です。賛成投票しよう、反対投票しようということが運動です。単に「賛成」とか「反対」という意見だけ言う行為や、あるいはこういう問題だということを啓蒙する行為は、国民投票運動とはされていません。投票を呼びかけるという国民投票運動をできる限り自由にするというのが、この改憲手続き法-国民投票法の基本的な考え方です。これは憲法審査会がつくっている資料にも正式に書いています。ホームページにも載っています。例外は公務員と、最後の14日間の国民投票運動のための広告放送だけです。

その結果、国民投票はいまの公職選挙法の選挙とまったく逆方向になります。イメージを持ってもらうためにあえて公職選挙法と国民投票を並べて書いておきました。私は公選法の話しで呼ばれると、「べからず公選法」はけしからんという話をしている方ですから、公職選挙法のガチガチがいいとは言っていません。もっと自由化すべきです。ただ、それとまったく対極のところまで国民投票を自由にしてしまっていることが、本当に何の問題もないのかということを比較で考えてみていただきたい。

まず考え方がまったく逆です。選挙というのは選挙運動は原則禁止して、例外的に、法律が認めたものだけやっていい。だから、今回の区議選だったらポスターと証紙が貼られているチラシと選挙はがき以外、名前が入ったものを候補者は配れません。それから、市民が「あの人がいいね」というチラシをつくった瞬間に選挙違反です。まったく自由がない。こんなひどい選挙法もこの国にしかありません。それに対して国民投票は原則自由で、例外規制といっても表現方法で規制されるのは、最後の14日間のメディア放送しかありません。運動期間は、選挙の場合は事前運動は罰則で禁止されます。区議選は1週間しかできない。町村議選に至っては5日しかできない。それに対して国民投票は、事前運動の制限はありません。いまやってもなんの問題もない。これはこれでいいと思いますが。

運動手段は、国民投票は完全に自由です。それに対して選挙は、ビラ、ポスター、宣伝カー等々広範な規制があって一般市民ができることはほとんどありません。唯一ネット上の選挙だけ。運動費用は、選挙運動は法定選挙費用が決まっていて各陣営ごとにこと細かに、しかも選挙から15日以内に選挙費用の収支報告書を出さなくてはならない。それに対して国民投票は、運動費用はいくらかかっても構わないし一切報告の必要はない。外国人の選挙運動は法律で禁止されています。それに対して国民投票については外国人も制限はありません。企業や団体の活動はどうか。選挙は、政党は別ですが、基本的には団体であろうと企業であろうと選挙に関する投票を訴える文書は書けません。唯一の例外はネット選挙だけ。それに対して国民投票については、企業、団体もまったく制限はありません。政治活動はどうか。選挙では候補者名や政党名を書いた政治運動のビラは、これ自身が「みなし文書」とされて告示後は撒けません。国民投票は、政治宣伝はまったく規制がない。そしてメディアは、国民投票は最後の14日間だけ広告が禁止です。それに対して選挙では、「私に一票入れてください」というテレビコマーシャルは、さすがにいままで見たことはないはずです。これは完全に違反です。公示の前にやったら事前運動、公示後にやったら違反文書になります。まったく考え方が対極になります。

選挙も国民投票も同じく主権者国民の主権行使です。しかし考え方は原則禁止と原則自由と180度、水と油ほど違います。その結果、もし選挙と同時投票となったら大混乱を起こし、わけがわからなくなります。ですから一緒にしない方がいいという議論になる。これをガチガチに規制したらいいとまでは言いません。しかしながら主権者ではない大企業や大組織、しかもこの大組織には外国企業や外国政府も含まれます。要するに禁止されていませんから、どれだけ外から資金や物資を投入しても構わないという運動を展開することは全部可能になって、いささかこの国の憲法を決める道筋としては自由が過剰ではないかと私は考えています。ここはもっと本格的な議論が今後必要だろうという気がします。

メディア広告、公務員・教育者の国民投票運動

その問題が象徴的に現れているのがメディアの広告です。最後の14日間だけが広告放送が禁止です。しかしその14日間以外は投票勧誘の広告を流し放題です。勧誘しない広告とか意見表明、「自衛隊員は頑張っているよね」なんていう映像は、最終日まで流すことはできます。広告収入は数百億円規模とも1千億円規模とも言われています。広告業界にしてみれば、とんでもないもうけ口になると言われているところです。これも最近広がっていますが、ヨーロッパ諸国の多くはこういうスポット広告は基本的に禁止になっています。あるいは片方の陣営が広告する場合には、同量の広告を反対側に保障しなければならない。要は費用が倍になるわけで、それでもやるならいいと思います。つまり広告の自由ではなくて情報を公平に与える、公正な手続の方を重視するという考え方を取っています。少なくともメディアについてはこの方が正しいと私は考えています。

自由法曹団は改憲手続法そのものを認めない立場ですが、それをひとまずおけばメディア広告は全面禁止です。自由法曹団や市民団体が全面禁止を要求し、民主党が全面禁止の修正案を出しましたが、民間放送連盟、民放連は、法的な禁止ではなく自主規制でちゃんとやりますと言い続けていました。ところが昨年民放連が発表した基本姿勢では、もう自主規制はやりませんと言っています。そんなことは自分たちがやるのではなくて、自粛するんだったら広告主が自粛しろという表現をしていまして、このまま行くとそれこそ「カネで改憲を買う」という事態になってしまいます。これがメディア広告です。

反対に、公務員と教育者の国民投票運動については、かなりの規制がかぶる可能性があります。政治活動規制があるけれども、国民投票運動の自由というものも確かに手続法改正で入れることは入れました。100条の2という条文が一応それにあたります。「公務員は、公務員の政治的目的をもって行われる政治的行為又は積極的な政治運動若しくは政治活動その他の行為を禁止する他の法令の規定にかかわらず、国会が憲法改正を発議した日から国民投票の期日までの間、国民投票運動(憲法改正案に対し賛成又は反対の投票をし又はしないよう勧誘する行為をいう。以下同じ。)及び憲法改正に関する意見の表明をすることができる。ただし、政治的行為禁止規定により禁止されている他の政治的行為を伴う場合は、この限りでない。」。

読みやすい条文ではないですが、簡単に言うと、公務員の政治活動の禁止は国民投票運動などには適用はしない、とは言っています。とは言っているけれども、他の政治活動禁止行為を伴う場合はこの限りではない。これは実はどうにでも解釈できる条文です。「9条改憲に反対しようね」というのはいい、でも「なぜ」と聞かれて「いまの安倍は危険なことをやっているから」と理由を説明したら、これは他の政治的行為に触れると言われかねない。つまり特定の権力を批判するような議論をする場合がありますから、それをやってしまうと結果的にはなんの自由もなくなりかねない。あるいは「国会が憲法改正を発議した日から」と書いてある。読みようによっては発議するまでは公務員は何もやってはいけないと解釈できかねない。この解釈の問題については私も指摘しましたが、いまだにはっきりしていません。公務員に対する規制が強化される可能性があります。

もうひとつ、14年改正にはとんでもない附則がついています。附則4項「公務員が主導する組織の運動について規制を検討する」となっています。これは例えば公務員労働組合が憲法改正に反対する運動をすること、これを規制しようとしているということになります。ただ「公務員が主導」とありますから、公務員労働組合だけとは限定できないんです。いろいろな市民団体で公務員が中心になってやっている団体、例えば「九条の会」で中心に公務員がいるとすると、公務員が指導力を発揮しているからこの団体も規制するという議論を呼び起こしかねないような条項が附則で入ってしまっています。今のところこれを規制しようとする法改正案が登場する動きはありませんけれど、民主党まで賛成して附則をつくっているわけですから、これを悪用して改悪しようと思えばいつでも出せる格好になっています。

そのほか附帯決議には、公務員、教育者の地位利用の国民投票運動への罰則、あるいは地方公務員を国家公務員と同じように政治活動禁止を罰則にする、などということの検討も入っています。このときの改正は、改憲手続法をてこにして公務員規制を強化しようというもくろみが背景にありました。私が衆議院の参考人で反対派として行ったとき、自民党側の参考人が百地章さんという学者でした。私は改憲手続法そのものがだめだといいましたが、彼はいまの手続法は手ぬるいというんです。彼は、終始公務員に対して規制を強化しろ、公務員の罰則規定をつくれということだけを言うために参考人として来ていました。そういう声が牢固としてあって出てきたということです。

国民投票段階では「改憲加速装置」として機能

なぜこういう過剰な自由を生み出しながら、他方で公務員を抑えようとしているのかということです。改憲手続法というのは与野党共同で発議して、国民的なコンセンサスで改憲を実現するための法制だという立て付けです。その国民的なコンセンサスで改憲をするためには、できるだけ自由にするということを、改憲手続法をつくる段階で選択をした。これは公職選挙法とはまったく発想が違います。公選法は簡単に言えば、市民をできるだけ参加させないことによって、ルーツをたどればいまの体制を守るためにつくられたものです。それに対して国民投票法は国民的なコンセンサスで憲法を変えるために、できるだけ自由にしようと考えたもの、こう断定していいと思います。

憲法の根幹にかかわる問題について、国民的なコンセンサスで憲法改正ができるわけがないんです。根本的な対立があるわけです。軍隊を外に出すのか、出さないで最後はなくすのか。人権を最大限保障するのか、人権より国家というものに価値をおくのか。もともと根本的に対立する概念を孕んでいます。憲法というのは、その中で国民の権利や平和を保障するためにたたかい取ったものです。それを国民的なコンセンサスで変える道筋をつけるということは、国民を誘導して憲法改正に持っていかせるための道筋です。われわれ自由法曹団は、これは改憲のためのツールだからそもそも反対だということを言い続けました。もともとその改憲手続法の持っている本質がここであらわれています。

与野党共同で発議して、国民的なコンセンサスで改憲するという考え方が、安倍の暴走との関係では国会の中ではある種の抑止力になっていると申し上げました。しかし一度発議されてしまったら、今度は発議された改憲案を可決の方向に持っていく。国民投票段階ではこの「国民的なコンセンサスでの改憲」というのは、「改憲加速装置」として機能することは間違いありません。初めからそういう立て付けだったと私は理解します。その意味でも安倍改憲の発議を許さないで、未然のうちに葬らなければならない。そうでないと禍根を残します。このことは、ヨーロッパに調査に行った人たちが、英国を見て痛切に学んで帰って来たはずです。改憲手続法はもう一回、「安倍改憲」を葬った上でゼロから考え直すべき、そういう性格を持っているのではないかと思います。

通常国会後半から参議院選挙へ

あと2ヶ月くらい通常国会が続いて選挙になだれ込みます。このあとの通常国会後半でまた憲法審査会を開こうとしてくるでしょう。4月24日から6回から7回開会する枠が一応あります。また例の懇談会を開いてということを言い出すでしょう。これを開かせるかどうかの争いになります。では最初に何をするかということです。さすがに最初から改憲案の提示には来ません。最初は、提出されている改憲手続法の改正案です。条文がややこしいので要項だけ抜き取っておきました。

「投票環境向上のための公職選挙法改正並びの改正」という、変な名前です。公職選挙法が変わったから、それに並べて国民投票法も変えるという立て付けです。何を変えるか。第1項、投票人名簿の作り方を変える。2項も同じことです。3項は投票所の作り方で、共通投票所を設ける。これは便利になるかもしれません。それから期日前投票を少し拡大をするというのが4項。第5項は洋上投票-船の上にいるときに船で投票できるようにする。それから第6項は期間とも関係しますが、もし投票日に地震などがあったときに、その繰り延べをどのようにしてやるか。さらに第7項は、投票所に入ることができる子どもの範囲を拡大する。いままでは幼児までしかだめでしたが、小学生も入ってよいことにする等々で、この7項目を変えようと言っています。

ここだけ見たら、これが間違いだからけしからんという性格になりません。さすがに自由法曹団でも内容についての反対意見書を書く気にはなりません。あえて言うなら、なぜこんなことをいまやる必要があるのかという問題です。さらに、本当に公職選挙法と並べるだけでいいのか。国民投票法は国民投票のあり方として考えるべきなのではないかという議論はありうるとは思っています。しかしそれ以前に、そもそもこんなものを論議する段階ではないということが正しいと思います。なお、7項目にもうひとつ8項目目が当初はありました。郵便投票を拡大する。要介護5の人も郵便投票ができる。これがなぜ改正案から落ちたかというと、公職選挙法の改正がまだだからです。たぶん公職選挙法の改正が今度の参議院選挙のあとで出てきます。出てきたら、また変えないといけないわけです。なぜそんなことをいまやらなければならないのか。

もともとこれは、自民党改憲素案を憲法審査会に出したい。提示するための呼び水として提出されたものであって、本来こんなものは現在議論する必要はないといって、立憲野党がいま頑張っています。その方向で大いに運動も続けるべきだと思います。改正に反対する法律家六団体の声明も資料に入れましたのでご参照下さい。

次に、立憲野党の中で国民民主党が昨年10月に改正案をまとめておられます。まだ提出はされていませんが、国民民主党の一部にはそれを早く提出して対案として議論すべきだという意見もあるようです。新聞報道でも大いに議論したいという議員の発言が出ていました。しかしそれをやってしまうといまの野党の態勢が崩れますから、そう簡単にはいかないと思っていますが、そういう声もあるということも頭に置かないといけません。

国民民主党の改正案は、改善方向ではあります。スポットCMについても一定の規制を加えます。政党のメディア広告は禁止することになっています。青天井の運動費用についても上限を設けることになっています。ただ率直にいって、私は根本的な解決にはならないと思っています。例えば政党のメディア広告は禁止するといいますが、その理由が政党は公費による広告ができるから、さらに政党に広告の自由を認める必要がないということです。ところが改憲派が、自民党だけが広告してくれるのならばそれで規制できますが、広告をするのは政党に限りません。日本会議や9条改憲推進なんとか同盟というところが、大いに宣伝しようと金を集めてメディアに広告を発注したら、政党に対する広告規制だけではまったく規制の対象になりません。

それから運動費用の上限を1団体5億円だといっています。5億円を超えてしまったら別の団体をつくってやればいいことになるわけです。要するに推進団体をいくつつくっても構わないという体制のもとで1団体の上限を5億円とするだけでは結果的には無制限に使えることになります。根本的な問題は、無制限の自由という考え方がそのままでいいのかどうかという抜本的な検討が必要です。うかつに規制を加えてしまうと、結社の自由の侵害になりかねない。しかし青天井にしてしまうと金持ちが改憲を買ってしまう。これは国民的議論が必要なところです。

これを「安倍改憲」が目前に来ているところで、対案として出すことがいいかどうか。ただちに否決され、「問題は解決済み」としてその次に堂々と改憲案の論議に進んでいくことになりかねない。この通常国会で対案を提出するということは避けるべきだろうと思います。

何とかこの通常国会を乗り切って、そのあと参議院選挙が待っています。資料で最新の参議院の現勢を入れておきました。本当にすれすれです。現在の参議院の総数は242で3分の2は162です。改憲派とはっきりわかっている議員は164、ぎりぎり2議席上です。そのうち改選されないのが77。改選されるのは87です。これで参議院選挙になります。選挙後は少し定数が変わります。特定枠という変なものを入れましたので3議席増えました。その結果総数が245、そうすると3分の2は164、うち非改選が77いるわけですから、改憲派が87当選すると3分の2になります。逆にいいますと現在改選議席が87、参議院選挙での改憲派の当選が86以下だったら、参議院で改憲派が3部の2を満たさないことになります。一つや二つだと寝返られてしまうと終わりですけれども、大きく割らせれば「安倍改憲」は確実に頓挫する。いま急速に各選挙区での野党の共闘あるいは市民と野党の共闘を進めようとしています。ここに「安倍改憲」を葬れるかどうかの帰趨がかかることになると思います。「安倍改憲」にとどめを刺せるかどうかは、この参議院選挙にかかっています。

安倍首相が改憲手続法を強行した2007年7月に、9条を守る声と格差貧困に反対する声を集めて自民党を惨敗に追い込んで、安倍晋三第1次政権を退陣に追い込んだのはいまから12年前の私たちです。あのときは市民と野党の共闘はまだなかったんですから、民主党が風を含めて勝ちました。いまは各地で共闘ができて相当の議論を積み上げてきて、その力は当時に比べたらはるかに大きいと、私が見ていても思います。この天王山の参議院選挙で本当に勝って「安倍改憲」を2度と立ち上がれないように追い込みたい、そのことをみなさんと一緒にがんばるということを申し上げて私の話を終わりたいと思います。

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