私と憲法207号(2018年7月25日号)


改憲阻止を軸にした安倍政権との対決

(1)第196通常国会が終わって~憲政史上最悪の安倍政権と市民のたたかい

政権に必死でしがみつく安倍晋三

この1月22日から始まった第196通常国会は終盤に強行された1か月余りの会期延長も含めて、7月22日、182日間の会期を終えた。

この国会は国会の最終盤で野党共同の内閣不信任案を提出した際の立憲民主党枝野幸男代表が述べた通り「憲政史上、最悪の国会」だった。その責任はひとえに安倍晋三首相にある。国会が始まって間もなく、安倍首相とその妻・昭恵氏の関連が疑われた森友学園疑惑が再度、大きな問題となり、さらに安倍首相の親友・加計孝太郎氏が園長をしている加計学園疑惑に飛び火し、そのなかで公文書が隠蔽され、改ざん、廃棄され、国会の議論で「ない」とされた文書が出てくるにいたった前代未聞の事件が相次いだ。「忖度」という言葉が流行語になった。官僚や政府閣僚の答弁のうそ、偽証が次々と明らかになった。防衛省の海外派兵にまつわる日報隠しも大きな問題として再燃した。財務官僚のセクハラ事件が暴露され、霞が関ではびこる人権侵害問題が噴出した。国会の議論では「ごはん論法」と指摘されたように、野党の質問に対する安倍首相らの論点外しの答弁が相次いだ。こうした安倍首相とその閣僚、官僚らの嘘と疑惑隠しなどによって、国会審議の前提としての議会制民主主義は根底から覆された。

野党の追及でボロボロ・ガタガタになりながらも政府は開き直り、与党は議席の数の力で、強引な国会運営を強行し、危機の突破を図った。終盤には過労死を招きかねないと指摘された労働法制改悪や、ギャンブル依存症が増えかねないカジノ新設を認める統合型リゾート施設(IR)整備法、この国の農業を破壊し、人々の生活を破壊するTPP11関連法も、世論や野党の反対を押し切って成立させた。これらの法案の一つ一つが圧倒的多数の世論が反対したものであるにもかかわらず、与党は「強行しても時間がたてば世論は忘れるだろう」と高をくくって強引に成立に持ち込んだ。国会の最終局面には西日本集中豪雨による大災害の発生の最中に、首相や小野寺防衛相、上川法務相らが「赤坂自民亭」と称する宴会を開いたことが世間の非難を浴びた。わけても上川法相は自ら許可したオウム関連の7人の死刑囚の処刑を翌日に控えた日の宴会だ。この人権感覚の欠如には開いた口がふさがらない。
この196通常国会は、安倍政権による国会軽視が際立つ国会だった。

大奮闘した全国の市民運動

私たち「許すな!憲法改悪・市民連絡会」は、市民運動の共同と野党各党の共同、共闘を大切にする原則、統一と団結の原則を堅持し、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」に結集し、このもとで全国の市民運動の仲間とともに立憲野党各党と協力しながら、安倍政権の悪政を批判して行動してきた。とりわけ「安倍9条改憲NO!憲法を生かす全国統一署名運動」(3000万署名運動)を軸にして、集会やデモ、街頭宣伝などを積極的に組織し、力を尽くしてきた。

いま全国各地には無数の市民運動の新しい、かつ力強い胎動がある。国会周辺だけを見ても、2015年9月19日の安保法制(戦争法)の強行採決に抗議し、翌月から始まった「19日行動」はこの7月で約3年、34回を数えた。この行動は毎回数千人から万単位の市民の結集で継続されてきた。この通常国会期間では9条改憲反対、安倍政権の退陣を求める行動が4月14日に3万人、5月3日に6万人、6月10日に2万7千人、6月19日に8千5百人と、国会周辺などで大規模に展開された。森友、加計の疑惑に抗議し、安倍政権の退陣を求め、毎週木曜の夕刻に行われた国会行動は3月以降、毎回数百人から数千人の市民の参加で計16回実施された。そのほかの日の行動も含めると、この通常国会の期間にとりくまれた総がかり実行委員会の行動は47回、実におよそ4日に1回というハイペースで行われた。

昨年秋から始まって全国津々浦々で繰り広げられている「安倍9条改憲NO!憲法を生かす全国統一署名」の運動もある。署名は4月末現在で1350万筆が集計され、3000万筆の目標達成に向けて大小さまざまな運動が多様な形で展開されている(共同センターによる未確認の集計ではすでに署名は1800万筆を超えたという報告もある)。1人でも街頭に立ったり、住宅地を1軒1軒戸別に訪ねたり、多くの友人に手紙を送ったりして集められる9条擁護の署名運動は、あまり目立たない活動だが、憲法に関する全国市民総対話運動であり、力づよい市民の運動になって展開されている。

このところ、2015年安保の運動を前後する時期からの市民運動の特徴の一つに「1人でも街頭などで市民に発信し続ける」というスタイルがあり、個性あふれるプラカードを掲げたり、Tシャツに染めこんだり、カバンなどにタグをつけたりしながら、アピールする。こうした無数の市民の、自立した草の根の行動で、市民社会には大きな地殻変動が起きている。いわば市民運動の文化の革命的な変化だ。

韓国などの市民との国際連帯

もうひとつ、この期間の運動で特筆しておくべきことは、私たちのこのたたかいが韓国をはじめとする国際的な連携を大きく発展させながらたたかわれたことだ。昨年の11月3日、憲法公布記念日に国会正門前で開催された4万人の大集会に参加し、連帯挨拶をした韓国の金大中政権で産業資源相を務めた金泳鎬氏は「アジア平和市民」の連帯と「憲法9条はアジアの宝」と訴えた。

ことしの3月にはソウルで韓国側の実行委員会と日本の総がかり実行委員会が共催した「朝鮮半島の平和と日本の平和憲法擁護のための日韓市民シンポジウム」が開かれ、総がかり実行委員会から10数名の代表団が参加し、連帯を深めた。

5月には日本を含む世界各地から市民運動が参加して「キャンドル抗争国際シンポジウム」が開かれ、総がかり実行委員会から代表が参加した。その過程で韓国の2017年の闘いで使用されたLEDのキャンドル8000本が総がかり実行委員会に贈呈され、日本のオスプレイ反対集会や7・19集会などで使用された。こうしてこの期間、日本と韓国の市民運動の連携が飛躍的に強まった。

この日韓市民の国際連帯の行動が、朝鮮半島の対話で平和を目指す南北朝鮮、米朝など各国の動きと重なっていたのは決して偶然ではない。

(2)にもかかわらず安倍政権は延命を果たした

失敗した安倍政権の内外政策

もはや安倍政権の2枚看板である「アベノミクス」と「外交の安倍」の破綻は明白だ。
「アベノミクス」という言葉がメディアの報道から消えた。あれほど自画自賛していた安倍首相本人をはじめ、最近では誰も「アベノミクス」をまったく話題にしない。話題にできないのだ。「異次元の金融緩和」によって円安・株高という相場変動を人工的に引き起こし、企業の収益増をはかり、株価を吊り上げ、トリクルダウンで家計の所得増、個人消費の拡大を促すと喧伝されたアベノミクスは、期待された継続的な消費拡大や企業による国内生産・投資の増加などにつながらず、ほとんど成果が見られない。経済同友会の夏季セミナーで焦点となったのが、膨れあがった国の債務残高の問題で、「毎年、提言しているが、何も変わらない」などと危機感がにじむ意見が相次いだという。

「外交の安倍」の破綻は、南北首脳会談、米朝首脳会談という歴史的な展開の中で、「蚊帳の外」におかれ、これに全く対応できない安倍政権の北東アジア外交の失敗が明らかになった。筆者にはあたかも1971年の米中和解のような既視感がある。米国のキッシンジャー国務長官による日本の頭越し外交とニクソン訪中などのなかで、当時の佐藤政権が衝撃を受け、日中国交回復に対応できなかった過去にそっくりの事態だ。日ロ外交を含め、安倍首相の地球儀を俯瞰する外交は、資金投入と労力に比してほとんど成果がない。
要するに安倍政権のそれぞれの政策は困難に直面し、失敗してきた。

なぜ安倍政権の延命を許したか

にもかかわらず、安倍内閣はこの通常国会期間で延命に成功した。その理由をいくつか指摘しておきたい。

1 世論調査によれば国会の前半は内閣支持率は軒並み不支持率を下回り、30%台(1部では20%台も)に落ち込んだ。しかしながら、後半になると、不支持率は高いものの、一部報道機関の調査では逆転する現象すら現れた。内閣支持の理由は「ほかに適当な人がいない」というものがトップを占めることが多い(共同通信6月17、18日世論調査では安倍内閣支持者の45.1%)。野党に力強さがなく、自民党内の他の有力者にもあまり魅力を感じないということだ。旧民進党勢力が立憲民主と国民民主にわかれて、ともすれば国民民主がしばしば自民党に妥協的な動きをするなどが人々の目に映って、野党への失望につながった。こうしたことからくる安倍政権の支持率30%の岩盤がある。通常国会ではこれを崩すことができなかった。

2 安倍1強といわれるように、自民党の中で安倍晋三総裁に対抗する勢力による分岐が起きなかった。自民党の竹下亘総務会長は7月14日、党新潟県連大会の講演で、安倍晋三首相が9月の党総裁選で連続3選を果たした場合でも、来年夏の参院選で敗北すれば退陣に追い込まれるとの認識を示した。竹下会長は「たまたま国政選挙に5回続けて勝っている安倍首相の選挙の強さが、安倍政権を維持しているわけで、国政選挙に負けたらその時点で終わり。政治の世界は厳しい」と述べた。この発言は自分の選挙にとって有利・不利を判断の基準にする党内の空気をよく表している。
新潟の県知事選挙も含めて、安倍はこのところ、国政選挙で大敗していない。このままでは9月の自民党総裁選も安倍晋三が逃げ切りを果たすのは濃厚だ。

3 この安倍政権を支える有力な岩盤に「日本会議」など極右改憲派がある。内閣の閣僚のほとんどがこの日本会議国会議員懇談会のメンバーであるように、この内閣は極めて特異な内閣だ。55年体制成立以降の歴代自民党政権の構図とは異なり、この内閣は極右勢力によって占められている。安倍内閣はまさに改憲派の最終的な切り札なのだ。もし安倍政権が失敗すれば、改憲策動に決定的な打撃となる。昨年の5月3日の安倍改憲発言は、従来の改憲右翼の発言からすれば大きな後退・妥協の案であるにもかかわらず、右派がこの改憲路線をすかさず支持したのはこのことによる。櫻井よしこら右派はこの安倍政権を支持して改憲を目指す以外に道はない。彼女らはこの国会終盤になりふりかまわず、2度にわたる意見広告を新聞に掲載して、安倍を激励し、尻押しをした。

4 そして重要な問題はメディアの動向だ。大手のメディアが安倍官邸の周到なメディア工作によって、ジャーナリズム精神を骨抜きにされている。報道各社の幹部が安倍首相と懇談会という名の宴会に参加するなどをはじめ、官邸による陰に陽に、のさまざまなメディア対策がある。ほとんどのメディアは安倍政権を批判せず、批判の動きを報道しない。ここでも「忖度」がはばを利かす。この国のメディア社会は茫々たる荒野になった。

(3) この夏から秋、私たちは安倍政権とどうたたかうか

安倍首相は通常国会での改憲発議に失敗した

とは言うものの、この国会はすべて安倍首相の思い通りの結果になったわけではない。
とりわけ、安倍首相が最も肝心の課題とした憲法改悪の問題では、安倍政権は大きく躓き、改憲策動は停滞した。安倍首相は昨年末中の改憲案つくりに失敗し、3月の自民党大会でも改憲案を1本化できず、通常国会で自民党改憲案を審議し、あわよくば発議にこぎつけるという企てを実現できなかった。

改憲の発議権を有する国会は参院が2月に憲法審査会を開いたきりで、衆議院も実質審議は開かれていない。衆議院では与党は改憲手続法の一部修正を呼び水に憲法審査会の再起動を企てたが、結局、この修正すらも通常国会では進まなかった。次期、臨時国会では憲法審査会はこの改憲手続法の修正案の検討から始めざるを得なくなった。しかし、これに着手すれば、公選法関連の微修正にとどまらず、同法の抜本的再検討の課題が浮上する。TVCMのことや、最低投票率、国民運動期間の拡大、公務員・教育者などの不当な活動の制限の解除、などなどだ。自民党の改憲案など出している場合ではない。

この安倍改憲のテンポの停滞は、国会の内外で与野党と市民運動が共同してモリカケ問題をはじめ安倍内閣の悪政を追及してたたかった結果、改憲を国会に提起する条件が吹き飛んでしまった結果だ。この間の国会内外でのたたかいは、安倍首相が最も重視する改憲問題で大きな躓きを生じさせることができた。
わたしたちはこのことに確信を持ち、今後のたたかいに備えなければならない。

改憲発議に関していえば、もはや秋の臨時国会期間の年内発議は絶望的となった。しかし、安倍晋三首相は9月の自民党総裁選で圧勝し、臨時国会での自民党改憲案の審議を促進して、遅くとも来年通常国会早めに発議に持ち込みたいという野望を捨てていない。

憲法審査会の審議の停滞に業を煮やした一部強硬派は、はじめに憲法審査会を通さず、もう一つの道、国会議員(衆議院100人以上、参議院50人以上)の賛成により憲法改正案の原案を国会に提出し、そのうえで衆参各議院においてそれぞれ憲法審査会で審査されたのちに、本会議に付して3分の2以上で発議するという道も模索している。しかし、これには公明党など与党の一部から強硬な抗議が出ている。いずれにしても、改憲論議の入口は秋の臨時国会の憲法審査会ということになるのではないか。

改憲発議を許さない闘いこそ

こうして、すでに右派メディアは改憲の本格論議は参院選後、発議は2019年秋の「大嘗祭」を経て、2020年夏の東京五輪以降にずれ込む公算が大きいと報道し始めた。油断してはいけないが、安倍改憲が追い詰められているのも事実だ。

2018年秋の臨時国会で改憲を発議するか、発議の前提条件(十分な審議済み)を作り、次期通常国会冒頭で発議するか。改憲を狙う安倍首相にとっては極めてタイトな日程となる。改憲手続法によれば、国民投票は発議後2~6カ月だが、法の主旨からしてこの9条改憲に「2か月」はあり得ない。強行突破するにしても、最低3~4、6カ月は必要だろう。安倍首相ら改憲派にとっては、国民投票は目標ではなく、国民投票に勝利して改憲を実現することが目標だ。そのためには国民投票に勝利するための万全の体制をつくる必要がある。逆に言えば、国民投票で勝てるとの判断なしに改憲は発議できない。この条件を作らせないたたかいがもとめられている。

改憲に失敗すれば安倍政権が生き延びる道はない。

改憲発議を阻止して安倍政権を倒すか、安倍政権を倒して改憲を阻止するか。国会内外のたたかいで安倍政権を退陣させるか、追い込んで大幅にて改憲発議を延期させるか。改憲に反対する世論の高まりで改憲発議ができない状況に追い込んで安倍政権を倒すか。あるいは、発議阻止のたたかいを参議院選挙以降まで持ち込んで、与党改憲派に3分の2議席の獲得を阻止するか。

この運動の決定的要素は3000万署名を軸にした運動により、安倍改憲に反対し、戦争に反対する世論を大きくつくることだ。署名運動とは「対話」運動であり、この力で与党を揺さぶり、野党を結束させ、国会審議の動向に決定的な影響を与える必要がある。

当面、全国の市民運動の展開で、改憲派が国会で改憲発議しても国民投票では勝てそうもないと思うような状況をつくる、その意味でまさに「改憲発議ができない状況」を作りだすことが肝心だ。
(事務局 高田 健)

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「公園のデモ使用は禁止」は憲法違反

「茶色の朝」にさせないために、行動することが社会を変える原動力

中尾こずえ(事務局)

いま、私の暮らす東京都新宿区でとんでもない事が起こっている。
先月の6月12日、新宿区議会本会議で、吉住健一区長は、区立公園の「デモの出発地としての使用」は「本来の使用目的ではない」として、「区立公園の使用基準の見直しを検討する」と表明した。

これまで新宿ではデモの出発地を柏木公園、花園西公園、西戸山公園、新宿中央公園の4公園を集合場所として使ってきた。市民、学生、労働者たちが「安倍政権の国政私物化反対」「憲法9条を守れ」「戦争法反対」「辺野古基地建設反対」「共謀罪反対」「LGBT差別反対」「最低賃金引き上げを」「築地市場を守れ」等々、様々な運動テーマでデモが行われる出発点の役割を担ってきた。6月20日、デモ使用できる公園は「見直し」がされて、新宿中央公園を除く3公園のデモ規制が強化され、8月1日から実施されようとしている。新宿中央公園に限っていえば、(1)イベントなどが多く場所が取りにくい、(2)デモコースが制約される、(3)新宿駅から遠い。などの難点からほとんど使用されてこなかった。デモがやりにくくなることは明らかだ。

「見直し」は区民・公園利用者の意見を聞くこともなく、区議会に諮ることもしなかった。開かれた議論がないまま区長と担当部署の職員で一方的に「決裁」した事に反発が広がっている。2014年、集団的自衛権に関する憲法解釈の変更を安倍首相が閣議決定で強行した手法に学んだのか?吉住区長はヘイトスピーチデモを理由にするが、甚だしい問題のすり替えだ。確かに3.11直後から大久保通りでやられたヘイトデモに何度も遭遇し、私はとても嫌な気分にさせられた。彼らのデモはコリアンタウンに向かって言葉汚く罵り、差別を煽り、周辺の住民に恐怖心を与えるものであった。しかし、ヘイトデモと声をきいてもらうために行う社会的デモを一律に扱うのは不当であり、あってはならないことだ。新宿区行政が本来やるべき事は、2016年に制定した「ヘイトスピーチ解消法」をふまえて、ヘイトスピーチ解消に向けた実効ある取り組みではないのか。「表現の自由」公の場(公園、公道、公共施設等々)を市民の言論・集会・表現などの活動のために使うのは憲法21条で保障されている。政治活動の自由を奪うものだ。安倍政権の狙う9条改憲を地方自治体の首長が率先して連動し、補完していくような動きに見える。(吉住区長は日本会議と繋がる人物でもある)

2015年9月19日の戦争法強行採決から3年目を迎えようとしている。昨日(7月19日)は猛暑のなか、国会前に9000人近くの人びとが安倍政権の即刻退陣を要求して声を上げた。戦争法強行採決に続き、この間、森友・加計問題、公文書改ざん、隠蔽問題。原発再稼働や辺野古基地建設強行問題。セクハラ発言とあきれるばかりの大問題が続々と噴出した。参議院定数6増の公選法、働き方改革、TPP11関連法などが数の力で可決通過させ、20日には、カジノ法案を賛成多数で可決通過させた。182日間に及ぶ国会は数々の問題を残して22日の会期末を前にして事実上の閉会をした。閉会後、安倍首相は記者会見で「次の総裁選で憲法問題が大きな争点になるだろう」と発言したようだ。「正念場」の連続であったが秋の臨時国会に向けて市民と野党は如何に闘うか「正念場」は続く。

先日、新宿区大久保にあるNPO法人高麗博物館で企画展示【関東大震災95年「描かれた朝鮮人虐殺と社会的弱者」―記憶・記録・報道―】が開催された。近くなので仕事の合間をみはからって観に行った。虐殺を実際に見た画家や当時の小学生らが描いたパネルが約30点と関連書籍が並ぶ。流血して横たわり恐怖におののく朝鮮人、周りに警察、軍隊、自警団、群衆が描かれ、殺気と悲しみが伝わる。日本人と見分けるため朝鮮人が発音しにくい語句をいわせ答えられなかった人、日本人の聴覚障害者ら社会的弱者が殺されたことも紹介している。
昨今、このような史実に基づいた展示を公民館が許可しない動きや、教科書から記述が削られるなど厳しい現実にある中で貴重な取り組みに出会えた。

ここ数年忘れていた「茶色の朝」(著者フランク・パブロフ)を昨日思い出した。この物語は「ごく普通の」国家が、日々の生活に知らぬ間に忍び込み、ひとびとの考え方をだんだんと支配するようになるさまを描いたショート・ストーリー。フランスで100万部突破したベストセラーだ。

戦前、治安警察法、治安維持法、国家総動員法などの下で個人の自由や人権が奪われ、体制批判は弾圧された。1945年~46年に廃止されたが再び安倍政権の下に今また、という感は否めない。が、私たちには「安倍政権を必ず倒そう!みんなの力で政治を変えよう!」を合言葉に3000万署名をはじめ全国に様々な安倍政治に抵抗する人びとの闘いがある。

「茶色の朝」の主人公は最後に自分が捕らわれる番になって、ようやく「抵抗すべきだった」と後悔する。私は戦後の生まれだが市民運動の先輩たちから様々なことを教えてもらった。書物などから戦前、戦中の歴史を学ぶ事もできる。戦前とは歴史背景が異なる。1923年の関東大震災直後の朝鮮人虐殺にデマの拡散や殺害に警察や軍が加担した事も明らかにされている。民族差別や弱者差別は戦争に通じる。逆にも言える。戦争は民族差別や弱者差別を生み出す。沢山の亡くなった犠牲者たちの声を聴く事は大切だ。これから、この声を多くの人たちに伝えていかなければならない。だから私たちは街に出てデモをやるのだ。後悔しないためにも。

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経常費の「前倒し」支給ではなく被災地に寄り添った補正予算を

小川良則(事務局)

7月5日から8日にかけて西日本各地は記録的な豪雨に襲われた。あちこちで河川の氾濫や土砂災害が発生し,ライフラインは寸断され,死者・行方不明者は200人を超え,今なお多くの人が避難所暮らしを余儀なくされている。私事で恐縮だが,筆者の実家のある広島市の芸備線沿線地域でも線路が橋脚ごと流され,復旧には数か月から1年程度かかる見込みと報じられている。

気象庁が警戒を呼び掛けている最中に自民党の議員が総理を囲んで酒宴に興じていた「赤坂自民亭」が批判を浴びている件については本稿の任ではないので割愛するが,延長国会最終盤における安倍内閣の対応には許しがたいものがある。そもそも今回の会期延長に大義があったとはとても言えないが,せっかく議会が開かれているのであれば,最優先で取り上げるべき復旧や被災者支援についてであろう。それなのに,カジノ法案の審議を強行し,そのために治山・治水・道路の最高責任者である国土交通相を張り付けるというのは「被災者よりも賭博か」との批判は免れまい。

こうした中で7月13日,政府は災害救助法の適用を受けた被災地には9月交付予定の普通交付税350億円を前倒しで交付すると発表した。これに対し,7月19日の総がかり行動の定例国会前行動に集った野党の各議員は,本来すぐにでも補正予算を組むべきであり「給料日」を早めたからといって問題の根本的な解決にはならないと指摘した。筆者も全く同感であるが,永く地方財政の現場に携わってきた者の一人として,この問題について若干の補足をしておきたい。

国と地方の業務量と財源の不均衡や財政力の異なる自治体間の不均衡の調整手段として交付税制度があることは周知のとおりである。交付税が所得税や法人税等の一定割合を原資としていることから,財政出動が求められる場面では経済活動も縮小しており原資も不足する構造になっていることや,そのために償還時の交付税措置を条件に地方に公債発行による立て替えを求めておきながら,後日それを「踏み倒し」てきたという問題もあるのだが,ここでは割愛し,今回の豪雨の問題を中心に述べていきたい。

地方交付税法第7条では,毎年度の地方財政の総額に関する書類の作成が義務付けられており,交付税・譲与税特別会計を含む予算とともに国会に提出されている。この書類は「地方財政計画」と呼ばれ,マクロ的に見た地方財政トータルの収支見込(もちろん単純なトレンドではなく,政府予算本体を前提とした政策誘導部分も含まれるが)のほか,地方財源不足の見通しとその補填措置についても書かれている。毎年末に翌年度予算の政府原案が確定すると財務省主計局のホームページに担当主計官ごとに予算の概要が公表されるが,総務省担当主計官の資料には「地方財政対策の概要」と題して「地方財政計画」の原案が公表されている。

2018年度の「地方財政計画」では交付税として16兆85億円が計上されているが,この中には地方財源不足額6兆1,783億円に対する補填措置としての加算措置分1兆4,017億円が含まれている(交付税以外は主として償還時の交付税措置を前提とする建設地方債の増発により補填)。そして,法第6条の2により,このうち96%を経常的な行政運営費を対象とする普通交付税,4%を災害等の特殊事情に基づく特別交付税として交付することとし,同第16条により,普通交付税は4月・6月・9月・11月の4回に分けて交付することとされている。また,各自治体も,いわゆる「企業城下町」から「限界自治体」まで財政力や交付税への依存度は千差万別ながら「地方財政計画」を念頭に,交付税や建設地方債を含む各年度の予算を編成している。

では,その普通交付税がどう算定されるかと言えば,法第10条から第14条にかけて詳細な規定が置かれている。これを一言で言えば,人口,高齢者人口,学校数,生徒数,道路延長等の「測定単位」に同法別表で定める「単位費用」を乗じたものを規模や立地条件等で補正することで標準的な行政運営費を理論計算するというものである。この計算式があらゆる事象を網羅できているかはともかく,あくまでも通常時の平均的な営みが対象であって,災害等の突発事態を想定したものではない。今回,政府が前倒しで交付すると発表したのは,この普通交付税の部分についてである。もちろん,資金ショートのリスクが減るという点では全く無意味とも言えないが,内容的には年度当初から組み込まれているものであって,新たな財政需要に対応するものでは全くない。

したがって,いま何よりも急がれるのは,あらゆる人的・物的・財政的リソースを復旧と被災者支援に中させることであり,そのための災害救助費の積み増しや交付税の特例加算を含む補正予算の編成である。たまたま支給時期が近付いていた経常費の前倒し執行で「やってます」感を演出するのは自らの無策をごまかす欺瞞であり,被災者に対する冒涜と言わざるを得ない。

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第125回市民憲法講座 安倍改憲と自衛隊の現状

お話:山田 朗さん(明治大学教授、日本近現代史研究)

(編集部註)6月16日の講座で山田朗さんが講演した内容を編集部の責任で要約したものです、要約の責任はすべて本誌編集部にあります。

はじめに

今日の目的は現在日本の軍事力、自衛隊の実態を知って軍縮平和の可能性について考えるということと、現在日本の軍事政策がこのまま進行し、さらに9条改憲なんていうことが行われてしまった場合に何が起こるかということについて少し考えてみたいと思います。

最初に補足ですが、戦争を遂行するための3要素というものがあります。ソフト、システム、ハードですけれども、価値観、理念という点では戦争肯定の価値観がなければ戦争は遂行できません。いま教科書問題とか歴史認識問題が必ず問題になるのは、戦争肯定の価値観を、教科書を通じて少しずつ広げたいという人たちがいます。いろいろと問題になっている教科書は、だいたいそういう傾向です。とくに歴史分野を通じて過去の戦争を基本的に肯定して、過去だけではなくてこれからも国家の選択肢として戦争があり得るということを述べたい。そういう教科書があります。

それからシステム、法律とか制度ですね。日本の場合は安保法制と、ガイドラインですね。これが非常に大きいです。実はこれまで安保法制とかいろいろな変化は、必ずガイドラインの改定によって起きてきています。当然これは改憲の動きにもつながっています。改憲の動きというのは、歴史認識の問題でもあります。つまり過去の歴史をどう見るかということで、憲法をどうするか、ここにも当然つながってくるわけです。もうひとつハード、兵器、装備ということで、ソフトの問題とシステムの問題は常に語られます。法律が問題になれば、必ずシステムの問題が出てきますね。ところが意外に語られないのがこのハード、兵器、装備の部分で、実は既成事実が一番進んでしまっているのがここですね。まさに軍備拡張が、私たちが知らない間に起こってきてしまっていて、もし9条改憲なんていうことになると、ここがもっと進むことになります。

この3つの要素を考えながらお話ししたいと思います。

軍事力からみた自衛隊の世界的ランキング

まず現代日本の軍事力ですが、世界的に見て日本の自衛隊ってどれくらいのレベルなのかということです。意外に護憲派も改憲派も日本の自衛隊はすごく小さなものだと思っている人が多いんですね。ところが軍事費レベルでいうとだいたい世界第6位くらいの支出をしているわけで、決して小さな存在ではありません。常に年間200億ドル以上を支出するのが一応軍事大国、SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)の年鑑なんかだとこういう言い方をしていますが、その11ヵ国のうちには常に日本は入っています。冷戦後、1990年以降ランクが上昇しまして、イラク戦争後はやや下がっている。下がっているというのは日本が軍縮したからではなくて、アジアと中東地域の緊張と軍拡のために他が上がっている。また為替の問題もあります。今はわりと円安傾向で、そうするとランクは下がるけれども、円高になるとすぐにどーんと上がってしまう。世界の軍事費ランキング(資料1)で、日本の順位が変化したところを中心にピックアップしたものを見ますと、1983年のまだ冷戦のときで、日本は8位でした。それが徐々に上がっていきます。7位になり、1987年段階で6位になり、ずっと続いて90年代になって3位になり、1995年には2位になり、さすがに1位になることはない。これは別に喜ぶべきことではないんです。そのあともイラク戦争が始まる2003年まで、日本はずっと不動の2位でした。

2004年から下がっていって、入れ替わりに中国が上がって、ついに今2位になっています。考えてみますと中国は日本よりもずっと経済大国になっているわけですから、これくらいの軍事費を出していてもおかしくはないですね。日本はいま5位から6位くらいのところです。ロシアがぐっと伸びてきた。ところがロシアという国は結構軍事費を使っているけれども、GDPとか人口とかという点ではそんなに大国ではありません。ですからこれは結構無理をしているということです。それからサウジアラビア、フランス、日本、イギリス、インド。やっかいなのはアジアで、中国、日本、インドという3国が軍事費ランキングの相当上の方にいることですね。ここが軸になって日本対中国、中国対インドというかたちで軍拡が進んでいることがわかります。もっともアメリカはとてつもない軍事大国で、1位と2位の差は3倍くらい離れている。アメリカ1国で世界の軍事費の半分を出しています。ですから見方を変えれば2位以下が全部束になってかかっても、軍事費という点ではアメリカにかなわないという超軍事大国です。ですからこれは例外で、この国を基準にして考えたらどんな国でも超軍事小国になってしまいます。

日本も円ベースで考えますとずっと5兆円を切るところだったけれども、安倍内閣になってから6年連続で軍事費は上昇して、もう5兆2千億円くらいまできています。これは結構大きなものです。世界ランキングにするとちょっと円安なのでランク的にはあまり上昇しないけれども、現実には軍事費は増えています。軍事費が減りにくい、下方硬直性という、減りにくい構造があります。前年度踏襲型の予算編成で、国際環境が反映しにくいことがひとつあります。それから高額兵器の後年度負担というものがあります。つけ払いで、累積していきます。毎年2兆円前後の後年度負担があります。例えば2018年度は5兆2千億円くらいの防衛予算が組まれていて、それとは別に2019年度以降に使うことを予定している額が、今年設定された新規分だけで2兆円あります。これは毎年払ってはいるけれども、常に累積で4兆円以上はある。ですから日本の防衛予算が5兆円でどんどん増えているのは事実ですけれども、実態は、このつけ払いも含めるともっと大きな規模になっています。ここはあまり出てこないところです。

つけ払いをするような高い買い物の典型的なのは、例えばイージス艦で1隻1500億円くらいします。積んでいるミサイルなども高いので非常に高い買い物になります。こういうのは1年間で調達できません。最高で5分割までできるということですけれども、実はそれ以上長いものも出てきている。一応5年までが原則だそうですけれども、すぐに原則が破られてしまうのが防衛政策の特徴で、こういうものがどんどん増えてきています。

陸軍力で英・仏より、空軍力では英より上位の自衛隊

では実践力でどうなのかというと、陸軍力――陸上自衛隊はこの「主要国戦力ランキング」(資料2)の表で見ると、たいしたことないなという感じになってしまいます。16位までに入っていなくて、それよりも下です。陸上自衛隊の実数は14万です。ではたいしたことないのかというと、日本よりも下にイスラエル、フランス、イギリス、ドイツ、ドイツ陸軍は6万3千ですよ。冷戦のひどいときは西ドイツ陸軍で50万いました。徴兵制を敷いて50万の戦力を誇っていたけれども、今は冷戦後、しかもEUができて6万3千と劇的に減っています。政策が反映して陸軍力の削減が行われた。日本は冷戦時、陸上自衛隊には18万の定員があったけれども、実数は15万だった。定員が埋まらなかったんです。いま14万なのでほとんど変わっていない。日本は冷戦関係なし、です。

アジアは陸軍力だけから見ますと、中国が1位で160万、2位インド115万。北朝鮮は102万、すごい数ですよね。北朝鮮は1千何百万の人口で102万の陸軍がいるというのは、これはどう考えても計算に合わないんです。普通そんな陸軍を支えられない。中国だったら人口も多いし経済力もあるから100万以上いるのもわかります。実は中国はもっと減らそうと思っています。北朝鮮の102万というのは一応軍人の数ではあるけれども、軍人でありながら畑を耕しているとか、そういう人がいない限り絶対維持ができない数です。

陸上戦力では、中国、インド、北朝鮮、パキスタン、アメリカがあって韓国、ベトナム、トルコ、ミャンマー、イラン、アジアと中東諸国ばかりです。14位のコロンビアを除くとアメリカもアジアに関係していますので、それ以外は全部アジアか中東の国です。ということは、アジアは世界的に見ると陸軍力がひしめき合っている。それだけ緊張とか治安の維持に軍隊が割かれているということになります。日本は14万で、その下にあのイスラエルですら13万です。陸上自衛隊の14万というのは、アジアの軍拡基調の中であまり減らされていないという感じですね。

海上戦力、日本でいうと海上自衛隊です。1位はアメリカ600万トンという圧倒的な数です。ロシアが第2位で200万トン弱、中国が3位で147万トン、イギリスが66万トン、インドがこのところぐんと伸びてきまして47万トン、インドはすでに50万トンにいっているはずです。日本もいま48万トンくらいです。資料ではヘリ空母2となっていますが、現在の数字はヘリ空母4になっています。上位の海軍国はみんな空母を持っています。しかも原子力潜水艦です。アメリカは、大型空母10隻と潜水艦はみんな原潜です。ロシアも空母1、潜水艦59、原潜45。原子力潜水艦を持っているということが、大海軍国のひとつの証のようなものです。イギリスはこのデータでは空母はありませんが、新しくつくり、いま空母1隻です。インドは、空母が新しいものが1隻できて、もうすぐまたできるというので3隻くらいになります。どうしてインドがこんなに急速に海軍力を増強しているかというと、中国に対抗するということです。ですからアジアには軍拡の軸がいくつもあって、日本対中国、中国対インドというふたつの対抗軸があって、両方が作用しあいながら軍拡しているということです。日本も世界第6位の50万トンに近い海軍力というのは、決して小さなものではありません。

航空戦力を見ますとアメリカ3,640機、中国が2,600機、ロシアが1,400機と続き、日本の航空自衛隊は12位くらいです。しかしそれよりも下にフランスとかイギリスがいますから、決してコンパクトな戦力とは言えません。航空戦力というのは、数で比べてもあまり意味がないんです。というのは、新旧雑多な飛行機が混ざっているのか、新鋭機でそろえているのかということです。例えば北朝鮮は563機で結構飛行機を持っているけれども、ほとんど旧式機で、新鋭機は20機くらいです。一昨年、北朝鮮で航空ショーが初めて行われました。北朝鮮空軍の飛行機がそこに出て、これは世界の軍事マニア注目の航空ショーでした。なぜならば、今だったら絶対見られないような古い飛行機がいっぱい見られるからです。1950年代に開発された飛行機がまだ現役で飛んでいるという、こんな国はありません。マニア垂涎の航空ショーだったといわれています。北朝鮮は非常に核開発に特化した軍事編成をしていますので、空軍力などはほとんど空洞化しています。

北朝鮮空軍のパイロットの年間飛行時間がわかっていて、年間20時間だといいます。航空自衛隊で年間150、160時間くらいです。年間20時間というのは、ひと月に2時間乗っていないということです。飛行機の操縦は、操縦しないと技量が下がっていってしまいます。ですから十分技量があるからもう訓練しなくてもいいということではなく、燃料がないんです。みなさんもよく北朝鮮の軍事パレードの映像を見ますよね。地上部隊が勇ましく行進していたり、ミサイルがトレーラーに乗っていたりしますけれども、飛行機が飛んでいる映像はまず出てこない。これは飛んでいないからです。少しでも飛んでいればそれを映しますよね。映らないということは飛んでいない。飛んでいないということは燃料がないということです。似たような映像を私はかつて見たことがあって、昭和20年の日本陸軍の軍事パレードです。戦車はない、飛行機も飛んでいない、出てくるのは馬ばかりという、これは陸軍始観兵式という当時のニュース映像が残っています。ということで飛行機の数は、数だけでは当てにならないという側面があります。

米ソ冷戦を背景に増大した日本の軍事力

戦後日本の軍事力は、米ソ冷戦を背景にどんどん増大していきました。あとで防衛計画の大綱を見ますけれども、最初は一次防、二次防、三次防、四次防といって量的拡大を目指しました。そのあと質的拡大ということで、防衛計画の大綱が何回か改定されています。しかし米ソ冷戦終結後もそれほど削減がないということが日本の特徴です。1990年、そのあたりからヨーロッパの陸軍力は削減されていくけれども、日本はちょうどそのときに湾岸戦争があって、逆に掃海艇を派遣したり、何もしないとどんどん減らされていく流れができていましたので、必死になっていろいろ外へ出て行って予算を獲得しました。参考資料1はアジア諸国の軍事基礎データです。軍事費の割合を国連のデータを中心にして見ると日本を「1」とした場合、中国はGDPで2.77と日本の3倍近くある。ロシアはあんな大きな国ですけれども、GDPで見ると日本の3分の1です。ですからこれはかなり無理をした軍拡をしているということです。韓国はちょうど日本の3分の1ですが、北朝鮮は日本と比べると250分の1のGDPの国です。それでいて、軍事費も一応統計上は極めて少ないですね。

参考資料2を見ますと、総軍人数で軍事費を割ったもの、つまり軍人ひとり当たりどれだけ予算が使われているかということで、これで軍隊の質の高さがだいたい見えるといわれています。アメリカはひとり当たり43万ドル、中国が6万2千ドル、日本は自衛隊が16万6千ドルですからそれなりに高度化しているということです。北朝鮮は693ドル、これはどういうことかということですよね。年間兵員ひとり当たり7万円くらいしか出ていないということは普通だったら考えられないことです。しかし数字的にはこういうことです。これはミサイルと核だけに異常に特化して軍事費、予算を割り当てているということですね。

安倍政権の防衛政策の基本的性格とヘリ空母建造路線

安倍政権の防衛政策は、基本的には辺野古の問題に見るように、米軍抑止力を柱にした防衛政策になっています。いま弾道ミサイル防衛が、トランプさんと約束してイージス・アショアというものを導入することにした。これはイージス艦とパトリオットからなっていて、今の弾道ミサイル防衛の柱にもうひとつ地上発射型のイージスシステム――全部導入すると800億円くらいのものを買わされました。けれどももし朝鮮半島が非核化したら、ほとんど無駄なものを買ったということになります。これはもちろんキャンセルしていないので、これから入れていきます。それから宇宙の軍事利用路線というものが進んでいます。さらに海外展開能力が明らかに増強しています。F-35Aという飛行機はアメリカの最新鋭の戦闘機、ステルス戦闘機です。この導入が始まりました。一部日本は開発にも関わっています。この図は海上における弾道ミサイル防衛の要をなすイージス艦・「こんごう」型イージス艦といって、この部分からミサイルを発射します。垂直にミサイルが出てきて、地上で迎撃する型です。パトリオットミサイルです。

もうひとつ重点になっているのは、ヘリ空母建造路線が非常に強力に推し進められています。建造理由は「海上交通の安全確保」だというんですが、実は冷戦期からこういう言い方はされていて「対潜水艦戦能力の向上」ということです。「海上交通の安全確保」がなぜ「対潜水艦戦能力の向上」になるのか、これは読み換えで、普通の人がわからないようになっています。「ひゅうが」型ヘリ搭載護衛艦、13,950トンは、ヘリ10機搭載です。この2番艦「いせ」もできました。もともと「はるな」型という5,000トン弱の船の代替艦として「ひゅうが」型ができますが、「はるな」型ではヘリコプターの格納庫があって3機積んでいます。「はるな」型が古くなったということで新しい船をつくりました。護衛艦とヘリと対潜哨戒機で潜水艦を探知して、探知するだけではなくて当然次は攻撃するというかたちになるわけです。ですからヘリは非常に重要です。潜水艦を攻撃するためのヘリで、これも結構高くて1機65億円です。P-3C、対潜哨戒機はまだ現役で動いています。「はるな」型と「ひゅうが」型はかたちが全然違います。「ひゅうが」型は空母みたいな格好になって、大きさも3倍とはいいませんけれども14,000トン近くになりました。もともと5,000トン弱の船を新しくしたということです。これでも1隻ですね。「1隻古くなったから1隻新しいものをつくりました、数は全然変わっていません」ということです。今これはもう海を走っていて、オスプレイも降りることができます。

さらに続きがあって、「いずも」型ヘリコプター搭載護衛艦はもっと大きく、19,500トンです。1番艦が2015年に就役して、さらに2番艦「かが」も就役しました。さきほどの「海上交通の安全確保」ということと「洋上拠点となる輸送機能」の建造理由が加えられました。要するに輸送能力を高めて、ヘリコプターのプラットフォームとして中継基地になるということです。もともと「しらね」型のヘリコプター搭載護衛艦、5,200トンの代替艦としてつくられました。「おおすみ」型輸送艦というのがありまして、この機能を「いずも」型がだんだん代替していくといわれています。「おおすみ」型というのは輸送艦とはいうものの、これも空母的な格好をしていて、中から上陸用の舟艇・ホバークラフトが出てきます。戦車などを積んで上陸作戦をするのに使います。こういうものを2隻積んでいます。これは輸送艦という名前ですけれども、上陸作戦をやるための強襲揚陸艦としての性格をもつ船です。これはあくまでも輸送艦で、直接戦闘の矢面に立つ船ではないということですけれども、ヘリコプターを運用する、ヘリコプターが降りられ、輸送用の舟艇を持っています。

「いずも」型の進水式のときのNHKの報道がなかなか渋かったんです。この船を見てこう解説しました。「空母のようなかたちが特徴」といった。空母じゃない、あくまでもヘリ搭載護衛艦だ。これも言い換えですね。ヘリも積んでいる護衛艦、護衛艦というのは世界的にいうと駆逐艦のことを指します。自衛隊では駆逐艦という言葉は使いません。「駆逐する」というのはちょっと乱暴な感じですし、英語でいってしまうと「デストロイヤー」ですね。もっと乱暴な感じがするので護衛艦、守っていますというということで「護衛艦でしかもヘリも搭載していますよ」というイメージです。しかし世界的に見ると、こういうのをヘリ空母というんです。でもそういってしまうとクレームが付くから、「空母のようなかたちが特徴」「最大14機のヘリコプターが搭載可能」といっています。この進水式を挙げた日、2013年8月6日。これはなかなか挑戦的な日ですよね。8月6日、広島原爆の日にわざわざ進水式を挙げた。「いずも」はもう海を走っています。前から見た写真だと寸詰まりであまり大きな感じがしませんけれども上から見るとこんな感じです。この写真は2番艦、「かが」と命名とありますが、毎日新聞は一歩進んで「空母型護衛艦」となっています。「空母のようなかたち」ではなくて「空母型護衛艦」です。これも海の上をもう走っています。ですからヘリ空母はいま4隻体制になっています。

安倍政権の防衛計画の大綱は単なる軍拡路線

防衛計画の大綱というのは、ガイドラインが改定されると新しい防衛計画の大綱ができるのではなくて、逆です。必ずガイドラインが変わる前に防衛計画の大綱は発表されます。本来はおかしいですね。どうしてこうなるかというと、明らかにどう改定されるかということを見越してこの防衛計画の大綱はできますが、1977年以降は基盤的防衛力を整備するということで、防衛計画の大綱は、量的な路線ではなくて質的に高めるといっていました。

ところが2014年から適用されている最新の防衛計画の大綱を見ますと、数が増えています。2014年大綱、これは基盤的防衛力ではなくて総合起動防衛力と名前が変わり、例えば護衛艦は、それまでの防衛計画の大綱だと48隻だったのが54隻に増えています。作戦用航空機も、海上自衛隊だけで170機と増えています。航空自衛隊の作戦用航空機も360機で増えています。つまり量的拡大路線はやめて質的に変わったはずなのに、量的にも増えている。さすがに基盤的防衛力という言い方は前の防衛計画の大綱からやめました。やめて量的にも質的にも高めていく。これは単なる軍拡ということですよね。なんの言い訳もない軍拡路線になったということです。

それ以降、毎年の防衛予算の重点項目が掲げられるようになりました。この中でこの頃強調されているのが島嶼部、南西諸島を中心とした島嶼部における事態への対応ということで、つい最近水陸起動団というものができました。海の上でも陸でも機動的に運用できるという、具体的には、上陸作戦をやる部隊です。海兵隊みたいな部隊を自衛隊の中につくったということです。それを水陸起動団と呼んでいます。それからサイバー攻撃への対処能力、これに人数を増やしています。新しい兵器の導入というのはずっと続けられています。

9条改憲により日本の軍事力はどうなるのか

9条改憲なんていうことになりますと日本の軍事力はどうなるのかということですけれども、これから起こることの予告編みたいなことになります。解釈改憲をずっと蓄積してきて、いよいよ明文改憲ということになるとどうなるのか。2012年に自民党が出した改憲案があります。あまりにもストレートなので、いまは変更して9条は、1項2項は変えないで新たに自衛隊を明文化しようなんていっています。しかし2012年の案を見た方が自民党の本音はよくわかります。はっきり国防軍の設置といっていますからすごくわかりやすいですね。

それから緊急事態条項です。緊急事態条項というのは、大規模災害などを根拠に挙げていますけれども、大日本帝国憲法、戦前の憲法にはこの緊急事態条項にあたるものがありました。ただ言い方は戒厳令といっていた。戒厳令というのは基本的には戦争に対応するものです。日清・日露戦争のときには戒厳令が軍港地帯に布告されました。一番戦地に近いですね。それから治安維持を軍隊がやるということで、日比谷焼き打ち事件とか2.26事件とか関東大震災のときに軍隊が出動した。これも基本的には戒厳令に基づいて、その一部分を緊急勅令で実行したんですね。さすがに戒厳令という言い方はあまりにも恐ろしいので緊急事態という言い方にしていますけれども、それは事実上憲法停止状態を容認するということです。同じ考え方でそれが盛り込まれているということです。これは一番本音がよく出ているものです。

2012年の段階でも、9条1項があって、2項のところに自衛権の発動を妨げるものではないと書いてあって、さらにそのあとに国防軍を保持する。この部分が今度の案はまだ自衛隊になっているわけです。そうすると2項を残すということは、「陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない。国の交戦権はこれを認めない」と言って自衛隊はまさに安全保障のための実力組織として保持するということになると、自衛隊って一体何者なんだ。陸海空軍その他の戦力ではない。でも安全保障のための実力組織として自衛隊があるというと、軍隊なのか軍隊ではないのか、読みようによってなんとでも取れるけれども、明らかに第2項が死文化してしまいます。

国防軍に審判所を置く、要するに軍法会議ですよね。こういうものが2012年の自民党の憲法改正案には出ています。それから国防の義務を国民に課そうということですね。いま9条3項に自衛権の行使のための実力組織としての自衛隊を加えるということがいわれていますけれども、これをやると完全に第2項との整合性がなくなってしまいます。あくまでも軍隊ではないといいながら、「ほぼ軍隊」というものを持つということになります。しかも憲法上も集団的自衛権を容認しているという解釈になっているわけです。これはガイドラインの改定に合わせて、集団的自衛権の容認も行われていました。ガイドラインが改定されたあとに安保法も制定されるという流れです。一番中核になるのはガイドラインの改定です。

兵器体系への歯止めがなくなり さらなる軍拡へ

もし改憲されるなんていうことになりますと、第2項は「陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない」といいながらも、実力組織としての自衛隊は明文化されるということで、2項が事実上消滅してしまうような感じになってしまいます。そうすると兵器体系の歯止め、拘束がなくなる。というのは、いままでは第2項があったために本格的な爆撃機、弾道ミサイル、巡航ミサイル、空母、原子力潜水艦、これは保有できないというのが政府見解だった。いわゆる攻撃的な性格を持っていて保持できない。ところがこれらはいずれも現在の日本の技術水準においては保有可能なものばかりです。いまヘリ空母というかたちで隙間を狙っています。本格的な空母ではない。「空母のようなもの」ですよね。こういう隙間からじわじわと入ってきて、しかし大きさはたっぷりしたものをもうつくっていますから、今度もし作るとすると、ヘリコプターだけではなくて飛行機も飛ばせるように改造していくという流れです。そうなると当然さらなる軍拡で、地球規模での軍拡の連鎖を加速化させます。

北朝鮮が怖いとか中国が脅威だぞといって日本が軍拡に走りますと、さらなる軍拡を中国が行いますね。中国の方が経済のパイも大きいわけで軍事費も大きいですから、中国の方がさらに軍拡をします。そうするとインドが軍拡をします。これは敏感に反応します。インドが軍拡するとパキスタンが軍拡します。パキスタンが軍拡すると中東諸国が軍拡してイスラエルが軍拡するという、こういう連鎖反応的にどんどん軍拡となってしまう。ここが実は非常に恐ろしいところで、日本は日本の安全を守るために軍備を拡張すると、世界的な緊張を高めてしまう最初のスイッチを押すことになります。

2018年度予算で初めて認められたスタンド・オフ・ミサイルの導入。調査費含めてまだ22億円ですけれども、これが初めて出ました。しかもスタンド・オフ・ミサイルなんていうわけのわからない名前が付いています。スタンド・オフというのは、相手の射程圏外から撃って命中させる。だから相手のミサイルが届かないような遠距離からこちらが先に撃って、相手を攻撃する。

なぜこんなものが必要かというと、予算の説明書によると自衛隊員の安全を確保するためです。相手のミサイルが届かないところから撃てば自衛隊員は安全ですよね。スタンド・オフ・ミサイルは100キロから200キロの射程距離を持つ巡航ミサイルです。巡航ミサイルというのは、弾道ミサイルみたいにロケットエンジンではなくてジェットエンジンで動いています。ですからコンピューターを積んだ無人機だと考えていただいてもほぼ間違いないです。それが体当たりしていくということです。F35、つまり最新鋭の戦闘機に搭載するミサイルを取得する。航空自衛隊のF15などの戦闘機にもそれを積むための適合性の調査も行ったということで、こういうものを持とうとしています。つまり長距離爆撃機はダメだといっていたのに、これは飛行機が長距離を飛ぶのではなくてミサイルが長距離を飛ぶから、いままでいってきたものとは違うという論理です。でも結果は同じですよね。飛行機が遠くに飛ぼうと、ミサイルが遠くに飛ぼうと、実際には攻撃自体は遠くに行く。つまり遠くの場所を先制攻撃するという点においてはまったく変わらないわけです。

こういうものを導入しようと動きが始まりました。実は技術的にはいつでもつくれます。ということで飛行機に積む巡航ミサイル、飛行機に積むものをつくれば地上発射型のものをつくっても全然おかしくないし、自衛艦、護衛艦から発射するものもできるわけです。どこから飛ばすかはそれほど大きな違いはありませんから。巡航ミサイルを持てるということになると、これが突破口になってアメリカが持っている巡航ミサイルのようなものをさらに導入する。これはもっと射程距離が長くなります。そういうものを持つきっかけのようなものができていく可能性があるわけです。そういう点でいうとこれは恐ろしい部分があります。

行動範囲拡大を準備する自衛艦の大型化

新型のヘリ搭載護衛艦「いずも」、19,500トン、長さは248メートル、幅38メートルで、決して小さくないです。例えば旧帝国海軍が保有していた真珠湾攻撃に参加した最新鋭の航空母艦、「翔鶴」、」「瑞鶴」というのは同じ長さ248メートル、幅は28メートルで「いずも」より小さいです。飛行甲板の長さは旧海軍の持っていた最大級の航空母艦をさらに上回る大きさのものをすでに持っているということです。これは非常に注目すべき写真です。「いずも」よりも小さい「おおすみ」型輸送艦の中の1隻、「しもきた」という船の写真です。輸送艦には半島の名前を付けるという慣例があります。「おおすみ」型護衛艦の中の「しもきた」という船に、オスプレイが降りようとしている。つまり「いずも」や「ひゅうが」よりもずっと小さな「しもきた」、1万トンないんです。それにオスプレイが乗れるのであれば、当然のことながらもっと大きな「ひゅうが」や「いずも」型にはオスプレイを搭載することはできます。格納することはできません。「いずも」でも格納することはできませんが、プラットフォームとしてここに降りて、甲板に乗っていて物資を搭載して飛びたつということは可能です。

この路線というのは、もう少し先まで行くとどうなるか。この写真は、アメリカの海兵隊が持っている強襲揚陸艦というタイプの船で、4万トン近いです。いまの「いずも」型のさらに倍の大きさがあります。これは一見すると空母のように見えますが、艦尾に穴があいていて、上陸用舟艇がここに入っています。先ほど「おおすみ」型輸送艦で中からホバークラフトが出ていました。同じようなものです。ですからこれは上陸作戦をやる。飛行機も積んでいますしヘリも積めます。オスプレイも積めます。強襲揚陸艦という名前からしてもそうですが、まさに上陸作戦の最前線に立つ船です。実はいま海上自衛隊が目指しているものはどうもこちらの方向です。「いずも」型と「おおすみ」型の混合したようなものがもし次にできるとすると、これに近いものができてくるということです。もちろん今これを持っているわけではありません。しかしベクトルとしては、こういうものを目指している可能性がある。

なぜこんなお話しをするかというと、どんなものをつくるのかという段階では全然チェックができないんです。この船が古くなったから、新しいものをつくります。5,000トンの船が古くなったので、14,000トンの船をつくりました。できてみて、全然違うものができている。「しらね」型、5,200トンの船が古くなったので新しく「いずも」型をつくりました、19,500トン、2万トン近い、4倍近い排水量ですよね。まったく機能も飛躍的に違うわけです。でもそれは1隻廃棄して1隻増やしたということだから、プラスマイナスゼロですよ。質的に高めただけだ、ということです。

いま新しい防衛計画の大綱で護衛艦の数を増やしていますので、これが古くなったから新しいものをつくりました、ということではないやり方が採れるということです。いままではないけれども、新しいものもできますという余地を、この防衛計画の大綱はもう含んでしまっています。いきなりこうなるとは思いませんけれども、昨年2017年末に「いずも」型の機能強化ができないのかと、垂直離着陸機が積めないのかという議論がされていました。すぐに垂直離着陸機を降ろすということは技術的に難しい。もっと甲板を強化しないとダメですけれども、技術的に不可能なことではどうもなさそうなんですね。「いずも」は非常に大きな船ですので、この中にヘリコプターを搭載することは当然できますし、オスプレイのプラットフォームにもなるし、輸送能力も非常にあります。この中に輸送トラックなどを積んで桟橋に横付けして、そこからどんどんトラックを出していくということもできます。それから広いスペースを利用して病院船にも使える。つまり負傷者をこの中に収容するということが一応述べられています。これはまさに海外展開能力ですね。

船が大きくなるというのは、航続距離を延ばしているということです。つまり船が大きくなるということは当然燃料搭載量が多くなる。いままで5,000トンクラスの船だったら行けない場所まで行って長く行動できるということです。ただ図体がでかくなっているだけではなくて、自衛隊の行動範囲が大きく変わってきている。日本近海を前提にしたものではなくて、明らかに中東とかそういうところに行って行動するということが、すでに前提になって航続距離の長い船をつくっている。そうすると行動距離が長くなりますから、小さな船だと乗り組んでいる人が参ってしまうんですね。やはりこれも1隻あたり1200億円くらいの費用がかかりますので、これも分割して調達することになっています。こういう傾向がいま非常にはっきりと見えてきたということですね。

後方支援・補給活動からの戦闘への参加と、先行させる既成事実

「国際的に協調して行われている活動に参加」というのは、ただ参加ということではなく、今までは輸送とか補給というところを担うということでした。けれども恐らく次あたりからは、場合によってはもう参戦です。安全保障のための実力組織だという言い方をすると、いままでは建て前上は軍隊ではないということだったので、輸送とか補給でした。しかし日報問題でも明らかになったように、相当危険なことに踏み込んでしまっています。これからは、もっと境界線を越えたような活動も行われる可能性があるということです。戦闘への参加ということです。事実上イラク派遣で陸上自衛隊もほとんど戦闘寸前のところまでいっていますし、航空自衛隊は武装したアメリカ兵をバクダッドへ輸送しています。でも武器弾薬の輸送はしていないといっている。ということは、バクダッドに輸送されたアメリカ兵は武器弾薬を置いていったのか。そんなことはありえないですよね。武器弾薬だけ積み込んだということはないけれども、たまたま米兵が身につけていたという解釈です。本当に戦闘部隊を、非常に危険なバクダッドまで送っていった。これはアメリカ軍がやっていたって何もおかしくないことです。それを航空自衛隊はやったんですから、戦闘とほぼ同じところまでいっている。

航空自衛隊の輸送機は、対空ミサイルを撃たれたときのフレアという防御もしていました。ミサイルは赤外線が出ているところにめがけて向かってくるんですが、もっと強い赤外線を出すものを落とすと、ミサイルはそちらに逸れていきます。普段は備えていないけれども、航空自衛隊はイラク派遣でそういう機能を持ったものをわざわざアメリカから買って装備していきました。そういうことをすでにやっているということです。

どんどんこのように既成事実が進んで、どうなってしまうのかということですが、意外なことがあります。2008年、このイラク派遣の差し止め訴訟が全国で行われました。2003年から行われて、札幌を手始めに全国13ヵ所の裁判所で派遣差し止め訴訟が行われました。ほとんどは訴えの利益がないということで門前払いだった。ところが名古屋高裁だけ、訴えの利益ありと認定した。しかも憲法前文にある平和的生存権を謳って、なんと他国が行った戦争に対して協力することも9条1項違反だという判決を下したんです。これは画期的判決です。

ところが判決という点でいうと、原告側つまり訴えた住民側は敗訴です。なぜ敗訴なのかというと、差し止めは認めなかった。差し止めは認めないけれども、日本政府が行った自衛隊のイラク派遣、航空自衛隊のバクダッド派遣は憲法違反だ、しかも9条1項違反であるという判決を下している。これにはおまけが付いていまして、平和的生存権を認めたということと同時に、自衛隊がイラクに派遣された根拠法であるイラク特措法では、自衛隊は戦地に派遣しないということになっているにもかかわらず事実上の戦地に派遣したから、このイラク派遣はイラク特措法違反でもあるという判断をした。憲法違反で法律違反だということです。当然これには国は不服ですよね。上告しようとしたところ、差し止めは認めなかったので、つまり国側は勝ったので上告できないんです。ですからこの判決は確定判決になりました。いまでもこれは覆されないで生きています。

差し止めは認めなかったものの、アメリカの戦争に協力することは憲法9条1項違反、戦争放棄違反だということが判例として残ってしまった。これはこのあとも起こりえることです。アメリカの行う戦争に自衛隊が動員されるということは当然あり得ますよね。そういう点ではこれをいかにわたしたちが活用するかということと、やっぱり9条2項の陸海空軍その他の戦力を保持しないという、この条文の死文化をいかに抑えるかということです。もちろん改憲そのものを阻止できれば一番いいことですけれども、具体的にはハードの面が突出してしまっています。だから下手なやり方をしますと、もうこんなことまでできますよという既成事実を突きつけられて、どんどん憲法がずたずたになってしまうという可能性があるので、わたしたちはハードのことについてもう少し注目しなければいけないと思います。

「国防軍」に「審判所」=軍法会議を設置

軍法会議設置ということです。軍法会議という名前はまだ出ていませんが、自民党の9条改正案の2012年バージョンでは、国防軍に審判所を設置するといっていますので、これは当然軍法会議です。民間人を含めての機密漏洩を取り締まる。もうすでに特定秘密保護法はありますから。そして憲兵を設置するということです。これができると取り締まる方にしてみると鬼に金棒です。なぜならば、いまの体制ですと確かに特定秘密保護法は悪法ですけれども、一応犯人逮捕は警察がやらなければいけないわけです。自衛隊は「こういう秘密が盗まれたからこの人を逮捕してくれ」と秘密の内容を警察に伝えて、警察が警察権を行使して逮捕することになります。

ところが憲兵というのは警察でもあります。軍隊の中の警察、ミリタリーポリスです。憲兵というのは、実は軍人に対する逮捕権だけではなくて、民間人に対しても逮捕することができるという特権を持っているのが世界の憲兵の特徴です。戦前の日本の憲兵ももちろんそうでした。ということは、軍の中だけでできてしまうということです。警察に頼まなくてもあの人は秘密を漏洩しているぞ、あるいは自衛隊の秘密を探っているぞということで、自衛隊の中だけで動いて逮捕、拘束することが可能になってしまうということです。これはひとつの焦点ですね。まさか「憲兵」という名前にはしないですよね。なんせ歩兵だって使っていないですから。歩兵は普通科といって、砲兵は特科といっています。それくらい言い換えをしている。工兵部隊なんて施設科です。まさか憲兵という名前は使わないと思いますけれども、中味が一緒だったらこれは大変なことです。

もうひとつ私が非常に危惧しているのは、基本的に憲兵は秘密の保護にあたるということになっています。ところが実際に戦前の憲兵がやっていたことは、秘密保護よりも秘密収集です。スパイそのものです。スパイ取り締まりだといってつくられた機関というのは、だいたいスパイもやっているというのが定石です。このように秘密が漏洩することを防止するために、憲兵を置いたり審判所を置きますよという説明がされるときには、実は秘密収集が焦点になっているということです。「秘密を収集するためにこういうものを置きます」ということでは説明できない。あくまでも「秘密を保護します」というわけです。例えばいまでも自衛隊の中に情報保全隊がある。情報を保全する、あたかも情報を守っているということですけれども、情報保全隊がやっている活動は、反自衛隊活動をやっている人の情報を収集することです。これは憲兵の卵です。もう卵はすでにあるわけです。そういう流れが、これから改憲の動きと合わせて具体化してくる可能性があります。

もうひとつ、国防の義務という言い方がされていまして、これは民間人の軍活動への協力義務ということです。昔流にいうと「徴用」です。つまり「徴兵」ではなくて民間人が軍の仕事を、一応協力要請するというかたちで、やらざるを得ないかたちになる。軍務に替わる活動が定められるという可能性です。いまでも例えば兵器の修理などは、自衛隊の中だけではできないことが結構あります。というのは、アメリカの演習場で戦車の故障などがあるんですね。兵器はコンピューターの塊ですから、そういうときに自衛隊の中だけでできない場合は、そのコンピューターメーカーから来てもらって直すということになります。それは演習場にコンピューターメーカーから民間人が出張するというかたちですけれども、これは戦場でも同じことが起きます。戦場には民間人は行けないから戦車は使えないままでいいのかというと、それはまずいので民間人をまさに徴用するというかたちで行ってもらうしかないという、そういうことも起きます。それから輸送力は自衛隊だけでは足りなくて民間の輸送力、通信能力も民間の通信力に依拠している部分があります。そういうものもまさに徴用というかたちになる可能性があります。これはまだ法的には定まっていませんけれども、そちらに流れていく可能性は常にある。ですから、徴兵ということよりも民間人の徴用という、「自分は自衛隊員じゃないから関係ないよ」といっていられないことになるということです。

市民としてできること――改憲の突破口にさせない

これから市民としてできることは何なのか。とくに北朝鮮情勢のような緊張が高まると、改憲への突破口にされる可能性があります。日本人は朝鮮半島情勢がざわついてくると何となく落ち着かなくなるという特徴があります。これは昔からで、明治時代には朝鮮半島にロシアが出てくるのではないかと日本は浮き足だって、朝鮮半島に先に出て行ってしまう。朝鮮半島情勢に先手を打ちたくなる、どうもそういう性癖があります。朝鮮戦争が起きたときも、憲法9条があるにもかかわらず警察予備隊をつくって、それが保安隊になり自衛隊になった。原則を変えてしまったわけです。

朝鮮半島情勢が動くとはいっても、朝鮮半島から海を越えて軍隊がやってきたということは、少なくとも近代においてはないわけです。技術的には可能だといわれます。例えばパラシュート部隊のようなものとか、ホバークラフトに乗って海を渡ってやってくると言う人はいますが、いくらそんなものを送ったって、なんの補給もなしにその部隊が戦い続けるということは絶対できないわけです。技術的に渡れるという話と、本当に戦争という手段に訴えて上陸してくることは、はっきり別問題です。自分の軍隊の限界性を事細かに説明する軍隊はないわけです。宣伝するときには「あれもできる、これもできる」、そしてちょっと恐ろしげに見せますよね。そういう点で言うと、朝鮮半島情勢に対しては冷静に対処しないと、やらなくてもいいことまでやってしまう恐れがあるんですね。イージス・アショアなんて典型的な例です。ましてや売りたい方のアメリカと危機感を煽っている人たちは利害が一致してしまうわけですから、そういうものを導入してしまうことになります。領土問題もそうですし、緊張を9条改憲の突破口にさせないことと、軍事力で対抗することは愚策だということを考えなければいけません。

日本の軍事費というのは世界的に見ても小さなものではありません。これ以上増やして対応しようとすると、例えば日本はGDPの1%以内ということを一応目安にしています。でもNATOなどに対してトランプ政権は、GDPの2%出せと言っています。これを日本に適用すると10兆円の軍事費ということになって、これはそもそも不可能だし財政破綻を進めてしまうことになります。ですから軍事力で対抗すると日本の財政も破綻するし、日本が軍拡したら明らかに中国はもっと軍拡してしまいます。そうなるといくらやっても切りがないということですね。はっきり言って軍拡に軍拡で対抗するのは愚策です。今ですら5兆円というのは限界を突破してしまっていますから、これ以上予算を増やすのは不可能です。

予算を減らしたら、国境警備のようなものはできなくなるという人がいます。しかし国境警備は海上保安庁がやっているんです。海上保安庁の予算は年間2000億円です。それだけで日本の長い海岸線の海上交通路、国境線を警備しています。そういう点で言うと何かおかしいんです。自衛隊が使っているお金は一体何のために使われているのか、よくわからないことが結構多いです。これは兵器が高いということが当然あります。国産化路線に傾斜すると高くなってしまいます。例えば戦車などは90式戦車という重量が50トンもある戦車は、対ソ連戦――ソ連が北海道に上陸してきたら、というシナリオでつくりましたが、戦車が大きすぎて重すぎて高すぎて使えないということで新しい10式戦車を開発しました。これはコンパクトで軽くて使いやすいはずでした。90式戦車が1両8億円とか9億円もして、高すぎて調達できなくなったということで新しくつくった10式戦車は12億円もしました。そういうもので、安くならないんです。アメリカから同性能のものを輸入すると3億円くらいで済んでしまう。でも国産化路線を歩みたいんですね。日本に技術を温存したいんです。とくに三菱重工です。陸軍と呼ばれるものは変なプライドがあって、戦車が国産化できる軍隊が一流の陸軍だという思いがある。ですから1961年以降、ずっと日本は陸上自衛隊の主力戦車を国産化してきました。明らかに高く付いたとしても、技術を温存することを目指してやってきた。

脅威論に冷静に対処し軍拡の連鎖を断ち切る

アジアにおける軍拡の連鎖、これが一番恐ろしいですね。これは、日本が出発点となって軍拡だということはできるけれども、一度始まった軍拡の連鎖を日本の力で止めることはできません。どんどん広がっていく一方ですから、これが一番怖いところです。思いもかけないところで発火してしまう。例えばこの軍拡が日本と中国ではなくて、中国とインドで火がつくということだって当然あるわけですし、中国とパキスタンで火がついてしまうこともあるかもしれない。日本人がまったくあずかり知らぬところで、本当の戦争になってしまうということもあります。軍拡と戦闘というのは必ずしもパラレルではなくて思わぬかたちで進行していってしまう。まさにこの脅威論に冷静に対処していかないと、相手が軍事で出たからこちらも軍事だという発想をすると世界を巻き込んだかたちになってしまうということです。そして中国と韓国、近隣諸国と賢くつきあう方法を考えないとダメだということです。したたかですから。今回の北朝鮮の動きを見ても、したたかですよね。そういうところを相手にしているわけですから、日本みたいにアメリカ頼みというのではおよそ対抗できません。賢くつきあうというのは、力で抑えつけるなんていう単純なことではダメだということです。いくつかの選択肢を持って対応する。

明治時代の政治家たちはだんだん軍拡路線に傾斜していきましたけれども、同じ明治の政治家でもちょっと違った考えを持っている人もいました。例えば勝海舟という人。勝海舟って明治時代になったらもう出番なしかというとそうではありません。政府のご意見番として結構重視されていました。勝海舟は日清戦争に厳しく反対します。やってはいけない戦争だ。なぜかというと中国は、いまは調子が悪いかもしれないけれども、長い目で見るとやっぱりアジアの重鎮の大国だ。それに対して日本のような新参者が出ていって戦争するなんていうのは、長い目で見ると愚策である。そしてこう言います。中国が大国だからといって決して日本は卑下する必要はない。しかし「卑下せず、争わず」というスタンスでなくてはダメだというんです。相手が大国だからといって何でも卑下していうことを聞くということではなくて、しかし無用に争ってはダメだ。それは長い目で見ると必ず損になると勝海舟は言います。

勝海舟は日清戦争の頃までは生きていましたが、そのあとすぐに亡くなってしまうので、その考え方を引き継ぐ政治家がいませんでした。そのあと日本は軍拡と膨張にどんどん進んで行ってしまいますけれども、彼のバランス感覚はもうちょっと評価されてもいいのではないかと思いますね。つまり幕末のああいう状態をくぐり抜けてきた人の感覚というのは結構大事なんですね。負け方を知っていると言いますか、勝つだけではなくて、もし負けるとするといかにソフトランディングするかということを考えていた人であった。そのあと日本の政治家も軍人も負け方を知らなかったために、一億玉砕の直前までいってしまうわけです。それは政治家のやることではありません。ですから、まさに近隣諸国と賢くつきあうということ、ここがすごく大事です。

この近代150年、明治150年ですけれども、この150年間は近隣諸国とのつきあい方を間違ってきた歴史ですね。相手を格下に見る。これは日清戦争以来、中国や中国人そしてその中国の影響下にある朝鮮半島の人々と国を、日本よりも下なんだ、日本は文明国だけれどもそっちは違うという目で見てきたので、最初から対等外交なんてできないですよね。相手は格下だと思っているわけですから。ところが時代が150年たってみますと、中国は経済大国となり韓国も先進国となり、これでいままでの感覚でいたら絶対つきあえない。脱亜入欧で始まった近代の歪みを日本はもっと自覚的に修正していかないと、相手の方が明らかにしたたかですから、これはどうにもならない。さりとて頭に来て軍拡に突出したら、これだって勝ち目がないということです。

ですから、ここをしっかりと考えないといけない。これはまさに民意にもかかってきます。ここはじっくりやらなければダメだということを民意が示さないといけない。力で脅威を抑えるということではなくて、いかにうまく脅威をつくらない戦略をしていくかということです。これはできないことではありません。先ほどの90式戦車はソ連に備え、そのあとはロシアに備えていたけれども、いま安倍さんとプーチンさんが妙に気があって仲良くしていると、ロシアって脅威って見なされないですよね。北方領土問題はありますけれども、かつてのソ連とかロシアの脅威という点は、いまは違います。ですから、脅威というのはこちら側がつくっているものなんですよね。そこが大事なところです。軍事を拡張すると、一時的には儲かる企業も当然出てきますし仕事も増える、かもしれません。けれども戦後経済というのは、日本は軍需技術ではないところで経済を引っ張ってきました。それはある意味で誇るべきことだと思います。軍需に依存すると必ず体力を失ってしまいます。ベトナム戦争の頃のアメリカの自動車メーカーは、結局民間の自動車をつくるよりも戦車をつくった方が儲かるので、みんながそっちへ流れているうちに日本車に市場を奪われてしまいます。同じことがたぶん起きるでしょう。そういう意味では目の前の利益だけに幻惑されてはいけないということではないかと思います。

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