私と憲法205号(2018年5月25日発行)

私と憲法205号(2018年5月25日号)


憲法審査会の始動を企てる改憲手続法の欺瞞的な再検討の動き

圧倒的多数の市民は当面「憲法改定」を必要としていない

安倍晋三首相が昨年5月3日、憲法9条に自衛隊の根拠規定を加える「9条加憲」案を打ち出して以来、9条改憲の日程が切迫してきたとして、「改憲国民投票」についての議論が各所に見られるようになってきた。改憲反対派のなかからも、「迫りくる国民投票に備えよう」という意見が散見される。しかし、いま第一義的に必要なことは安倍9条改憲の発議を阻止することであり、国民投票に備える運動を呼びかけることではない。改憲発議を阻止して安倍政権を倒すことができれば、当面9条改悪は阻止することができる。私たちのこうした立場に対する右派の主張に「改憲反対派は(国民投票という主権行使の機会を奪うことで)国民主権をないがしろにしている」などというトンデモ・キャンペーンがある。

例えば百地章(日大名誉教授)は5月15日の「産経新聞」の「正論」で以下のようにいう。
「憲法96条は『憲法改正の手続き』を定め、主権者国民に『国民投票』という主権行使のための唯一の機会を保障している。そして、国会では憲法制定以来初めて、衆参両院において憲法改正に前向きの勢力が3分の2以上を占めた。だから国会が憲法改正の発議さえしてくれれば、国民は戦後70年にして初めて、主権を行使できる。最終的に改憲の是非を決めるのは国会議員ではなく、国民だ。にもかかわらず、反対派は『憲法には一切手を触れるな』と主張し、国民が主権を行使する機会そのものを奪い続けてきた」と。

まず、百地がいうような憲法を変えるための国民投票という「主権行使」の機会を「国民」が求めているかどうかの問題が議論の前提にならなければならない。結論からいえば、「国民」はいま「衆参両院」の多数派の意見とは異なり、改憲を優先課題として求めてはいない。

以下、最近の3つの世論調査で検証してみる。
朝日新聞が行った世論調査(郵送方式:3月14日~4月25日、複数回答)では、安倍首相に優先的に取り組んでほしいもの」9項目(景気、高齢者の社会保障、教育・子育て、財政再建など)のうち、憲法改正は最下位の11%に過ぎなかった。

読売新聞世論調査(電話:3月9~11日、複数回答)では「安倍内閣に優先して取り組んでほしい課題」では9項目中、憲法改正はこれも最下位の28%だった(複数回答なので、単数回答に換算すると5%程度)。

NHKの世論調査(電話:4月13日~15日)では、「安倍総理大臣は、憲法改正に意欲を示しています。あなたは、いま、憲法改正の議論を進めるべきだと思いますか。?それとも憲法以外の問題に優先して取り組むべきだと思いますか」の問いに、「憲法改正の議論を進めるべき」(19.2%)、「憲法以外の問題に優先して取り組むべき」(68.3%)だった。このように世論はいま「憲法改正」に取り組むことを望んでいないのに、百地ら改憲派は「国民主権」に絡めて改憲発議と国民投票を急ぐべきだと主張している。

与党による憲法審査会再起動の陰謀

改憲派の憲法審査会再起動の願いに反して、通常国会の冒頭から問題が続出し、審議再開の空気は生まれなかった。スパコン開発疑惑、「働き方」関連法案をめぐる不適切データ事件、森友問題での財務省文書改ざん、文科省による名古屋での前川前次官の授業介入事件、イラク自衛隊派遣時の日報隠蔽事件、加計学園問題での柳瀬秘書官(当時)の「首相案件」発言問題、福田財務次官のセクハラ疑惑、幹部自衛官の野党議員への「国民の敵」罵声事件、など、安倍政権の問題は枚挙にいとまがない。この偽造、ねつ造、隠蔽、腐敗、人権侵害などの容易ならない事件に対して、安倍政権与党は国会の多数をかさに着て居直り、逃げ切りを図っている。加えて、安倍政権の外交の大失敗によって、朝鮮半島における南北首脳会談の実現から、米朝首脳会談への動きなど歴史的な平和の進展の中で、この流れから全く孤立し、かやのそとにある。

内外ともに窮地に陥っている安倍政権にとっての巻き返しの望みは、改憲発議への流れづくりしかない。

自民党は憲法審査会での自党の改憲案の審議を急ごうとしている。
衆議院憲法審査会の与党側は、5月11日の幹事懇談会と17日の憲法審査会で、「憲法改正の手続きを定めた国民投票法改正案」を提示した。たしかに現行の憲法改正手続法は国民投票の公正・公平を保障するうえで重大な問題があり、同法成立以来、野党や日本弁護士会、市民運動の中から、抜本的再検討の声が上がっていた。しかし、今回の与党案は同法の本質的な欠陥についての対応を全く回避して、枝葉末節の部分のみを取り上げ、この改憲手続法の小手先細工の改定提案を、審議が停滞している憲法審査会の再起動への糸口としようとしている。

与党、自公両党が合意した憲法改正手続き法(国民投票法)の改正案の大部分は、2016年の公職選挙法の改正内容に沿って、国民投票法も改めるものというものだ。与党はこれを今通常国会中に成立させる構えで、5月17日の衆院憲法審査会幹事会で野党側に条文案を示した。

与党の改正案は投票環境の改善に関するものだけにとどまっている。デパートなど商業施設への「共通投票所」の設置や投票の開始・終了時間の弾力化など、改正公選法で新たに盛り込んだ7項目を同法に反映させる。また、公選法で介護保険法上の「要介護5」の人に認められる郵便投票の対象を「要介護3、4」にも拡大する方向で、公選法と国民投票法を改正することも加えている。

与党は、これを憲法審査会の審議再開の呼び水としたい考えだ。いまのところ、野党がこの与党案の審議に応じるかどうかは不透明だが、野党はこうした与党の安倍9条改憲審議促進につながる狙いを拒否すべきだ。

この与党改正案では同法の重大な欠陥が全く正されない。この間、同法の抜本的再検討が求められてきた問題点は、「国民投票運動に際してテレビやラジオなどを使った有料広告放送が基本的に無制限になっている問題」や、「最低投票率、絶対得票率の規定がないこと」、「国民投票運動期間が60日から180日と短く、最速で2か月で投票に持ち込まれる恐れがあること」、「公務員や教育者の国民投票運動への参加を過度に制限していること」などだ。問題の本質は資金力の豊富な勢力によって改憲の世論が「カネで買われる」事態が発生するなど、国民投票運動の公正・公平が保障されていないことが同法の根本的欠陥だ。

とくに、この間、テレビCMなど「有料広告」が規制なしにされている問題が、野党を含め、各方面の人々から指摘され、同法の抜本的再検討の声があがってきた。同法は結局、財界や広告業界と結びついた与党・改憲勢力に圧倒的に有利であり、カネの力で、国民投票が改憲に誘導されることになるという問題が指摘され、警戒心が広まってきていた。上記の諸問題と合わせて、この改定は絶対に必要だ。

現行「改憲手続き法」は抜本的再検討を

もともとこの改憲手続法は安倍政権の下で2007年5月に与党によって強行採決されたものであり、参議院での採決に際しては、極めて異例な「3つの附則」と「18項目の付帯決議」がつけられたという「欠陥立法」だった。

附則は、(1)選挙年齢・成年年齢の見直しなど、(2)公務員の運動自由化のための措置、(3)重要問題についての一般的国民投票の検討であり、18の付帯決議は、最低投票率の導入の検討(第6項)、教育者・公務員の地位利用の規定(第11項)、テレビ・ラジオの有料意見広告問題(第13項)など、いずれも同法の死活問題というべき重要な事項の再検討を要求したものだった。同法はのちに第2次安倍政権下の2014年に一部「改正」されたが、附則や付帯決議との関連で各界から指摘されていた重要問題は放置されたままだった。

各界からの疑問の声を反映して、与野党から改憲手続法の見直しの議論が起き始めている。今年の5月3日に読売新聞が掲載した「憲法記念日 4党(註:自民・公明・希望・立憲民主)座談会」では与党側の利便性に関する項目の法改正意見に対して、希望の渡辺周氏は「有効投票率をどうするか、たとえば投票率が45%だった時に、国民の2人に1人も参加していない国民投票を認めてよいだろうか。フェイクニュースをどうするかという問題も最近出てきた話だ」といい、立憲民主の山花郁夫氏も「国民投票法では投票日前14日間のCMを禁止する一方、それ以前の規制はないが、これで本当にいいのか。大阪都構想の住民投票でも、テレビCMをやりすぎでないかと指摘された。英国の欧州連合(EU)離脱の国民投票では、資金面の上限が定められた。今の状態でよいものかと思っているので、今後検討していきたい」とのべている。これらの再検討は当然だが、すでに指摘したように同法の問題点は、これらにとどまらないことを忘れてもらっては困る。

17日の憲法審査会幹事会では、与党の提案に共産党が反対し、他の野党は持ち帰り、24日に見解を示すとした。

立民など野党側の大幅改正の意見に対しては、自民党などからは「協議の長期化を狙っている」との拒否感が強い。

しかし、これらの問題点の検討に着手しない限り、投票の公平・公正を保障する抜本的再検討にはならない。憲法審査会は小手先の法改正でごまかすことなく、同法の抜本的再検討を行わなくてはならないし、世論が求めていない改憲案の審議を与党の党利党略で強行してはならない。現在、憲法審査会では与野党のぎりぎりの鍔迫(つばぜ)り合いがつづいている。

改憲審議の停滞状況に焦る安倍首相ら改憲派

いま、与党は改憲手続法の抜本的再検討の要求に対して、「審議の引き延ばしだ」などと決めつけているが、そうではない。国民投票に関する法律の公平・公正を要求する声は、当然のことだ。同法の抜本的見直しなしには国民投票がゆがめられてしまう。

 与党が改憲手続法の抜本的再検討の声に反対するわけは、安倍首相らが企てる改憲のスケジュールが大幅に狂いつつあることにある。

 5月2日の「産経新聞」は1面トップの記事で、「動かぬ国会、政治日程目白押し」「遠のく改憲発議」「東京五輪後にずれ込む公算」という見出しを付け、危機感をあらわにした。同記事では「国会は参院が2月に憲法審査会を開いたきりで動こうとしない。もはや年内発議は絶望的となり、本格論議は参院選後、発議は32年(註・2020年)夏の東京五輪以降にずれ込む公算が大きい」と指摘している。

昨年5月3日に安倍首相が発言した9条改憲の企ては、その後、多くの人々の批判をあび、とりわけ安倍9条改憲NO!の全国統一署名がすでに1350万筆に到達したことに表れているように、運動と世論の厳しい反撃を浴びている。これと権力の私物化、腐敗への批判と合わせ、改憲のテンポが当初の目論見通りに進んでいないことへの「産経新聞」の焦りの表明だ。

記事は「今国会は憲法審査会での改憲4項目の審議入りは困難となった。秋の臨時国会の2か月程度の会期では、発議にこぎつけるのは絶望的だといえる」と述べて、2019年は4月の統一地方選、5月1日の天皇代替わり関連の諸行事、6月のG20首脳会議、夏の参院選などで「改憲発議どころか、国会の憲法論議さえ難しい」と指摘する。2020年も五輪で通常国会の大幅延長はできない。しかも「国民投票法の規定では、発議後『60日以後180日以内』に国民投票を実施しなければならない。この日程を考慮すると、改憲発議は早くとも32年(註・2020年)夏以降となる」と嘆いている。そして安倍改憲に反対する野党の存在、公明党の消極性、自民党内にくすぶる異論などの消極的要素を指摘して、いら立ちを見せている。

安倍首相と改憲派はこうした悲観的なスケジュールのなかでも、改憲手続法の微調整を提起することで、野党を引っ張り出して1日も早く憲法審査会を始動させ、そこからさらに自民党の「改憲4項目」の審議に持ち込み、改憲発議をできるだけ早く実現したいと狙っている。改憲の道が困難になるなら自民党や右派勢力の中での安倍首相の求心力は失われる。この事態は安倍首相の3選にも陰を投げかけているし、安倍政権の退陣を要求する声の噴出につながる可能性がある。
(高田 健)

このページのトップに戻る


憲法集会2018

池上 仁(会員)

雨は予想より早く上がり、「国際展示場駅」に着くと駅前広場は幟旗を目印に待ち合わせするグループで一杯。昨年に引けを取らない混雑ぶりで、悪天候をおして駆け付ける熱心な参加者が多いんだな、と実感する。駅頭でスピーチする宣伝カーに右翼の一団が口汚い悪罵を浴びせる。乱闘服姿の機動隊が間に入って規制する。あちこちに立つ機動隊の姿はそれだけで参加者への威圧にもなる。右翼の狙いもそこにあるのだろう。

会場に到着すると出店ブースは賑わい、「自由に話そうトークイベント」で語り合う人々の姿が目に入る。私はこの原稿を頼まれていたので、メインステージのすぐ前に陣取り、腰痛対策の折り畳み椅子をセットし、ノートを出してメモの準備。

「9」の字の紋付姿で司会を務める古今亭菊千代さんの「国会前で天候が悪いと“安倍にも負けず風にも負けず”と言いあってきた。今日も同じこと言わなくてはならないかと思っていたら怒風が吹いて雨が去っていった」という軽妙なお話で集会が始まる。

最初に主催者を代表して高田健さんが開会挨拶…今日は71回目憲法施行記念日だ。永田町は今風雲急を告げている。安倍政権のもと国家・行政権力の前代未聞の崩壊が始まっている。政府-国会-市民の関係は異常な状態だ。安倍政権は憲政史上最悪最低の内閣だと思う。昨年5月3日安倍が打ち出した自衛隊明記の改正案に賛成する人はごく少ない。昨日のある世論調査では安倍政権の下での憲法改正に反対が58%、賛成は30%だ。改憲派・右派勢力はエース安倍を守らねばと必死になって悪あがきしている。安倍政権がボロボロになっているのに政権にしがみつく理由はそこにある。苛烈な闘いになっている。私たちの力で倒すしかない。朝鮮情勢が急速に動いている。多くの人が熱核戦争を懸念した危機は去ろうとしている。これは韓国のキャンドルデモ以来の、東アジア民衆の闘いの成果だ。連休明けから立憲野党と共に闘いを再開する。

〈トーク第1部〉

トップバッターは落合恵子さん(作家)…そこまで来ている、あと一押しです。嘘つき内閣が嘘に嘘を重ねている。総理のご意向内閣は福島を忘れ沖縄を苦しめている。戦争大好き内閣と呼ぶしかない。それでも支持率はまだ30%もある。小選挙区制を変えよう、マスメディアも私たちの声で変えよう。独裁者は自らの欲望のために最後は破滅する、破滅してもらおう。確かベーコンだったか“おとなしく従順な羊の国は狼の政治を生む”と言った。あれほど醜悪な狼に食べられてなるものか。話題の腸内フローラ、善玉菌が20%で悪玉菌は10%、残りは日和見菌とか。日和見菌をノックし働きかけ続けよう。抗うことが私たちが生きている証であり誇りなのです。

竹信三恵子さん(和光大教授)…9条について私たちは幅広く言葉を獲得しなくてはならない。日清戦争69.4%、日露戦争81.9%、日中戦争70%台、1944年85.3%…これは国家財政に占める軍事費の割合です。これを逆方向に大転換させたのが9条。福祉・介護・貧困対策・育児・教育…これらをまともにするためにも戦争をしてはならない。9条のキャップを外させてはならない。集会に高齢者が多いのは当たり前、戦争だけでなくかつての社会の惨状を体験しているからだ。若い人々にはそこが欠けている。彼らに丁寧に語りかけなくては。国威発揚で悦に入るのはごく一部の人、国民のために金を使うまともな国にするのかどうか、私たちは岐路に立っている。

清末愛砂さん(室蘭工大准教授)…現場に即した改憲問題をお話しする。非暴力主義こそが平和を実現する現実的手段だ。4月27日の南北首脳会談そして板門店宣言は朝鮮半島ひいては東アジア史の画期となるもの。同じ日にこれと対極的なのが辺野古の状況だった。座り込んだ民衆は機動隊にごぼう抜きにされ柵内に閉じ込められる。法定手続きも踏まない全くの憲法違反だ。私も参加していた。平和を研究する者として、沖縄の人々の尊厳を取り戻す闘いに少しでも関わるべきだと思ったから。ごぼう抜きされているときに思い浮かべたのは、イスラエル支配下のパレスチナで非暴力抵抗運動を続ける人々の姿だ。それが沖縄の民衆に重なる。自衛隊法は治安出動を規定している。沖縄の民衆に銃を向ける可能性があるということ。自衛隊明記は単なる現状追認でなく、こうした自衛隊を認めてしまうこと。弾圧に崩折れそうになっている自分を己の尊厳で支えていた。尊厳が奪われそうになった時人々は抵抗に立ち上がるのだ。軍隊は私たちの命を奪いこそすれ守るものではない。

山内敏弘さん(一橋大名誉教授)…第1に憲法施行71周年を喜ぶ。この間海外に出兵せず戦争をしないで済んだのは9条が変えられなかったからだ。共同通信の世論調査では69%がその通りと答えている。第2に、安倍は9条改憲についても嘘をついている。改憲しても自衛隊は今と同じ、何も変わらないのだと言っているが、自民党改憲案は集団的自衛権を全面的に認めるものになっている。第3に自衛隊が明記されれば日本社会の軍事化が進み、自衛官だけでなく国民にも犠牲が求められる。徴兵制や徴用制が罰則付きで強制される可能性が高い。第4に情報統制が強まり文民統制が崩れる。日報隠しはイラク特措法違反を隠すためだ。現役自衛隊幹部が国会議員に暴言を吐いた。こうしたことをやっている自衛隊が憲法に明記されようとしている。第5に朝鮮半島での対話の動きを積極的に支持する。安倍は蚊帳の外だ。日本はアメリカの核の傘から離脱し、核兵器禁止条約に加盟する、そうして東アジアの完全非核化への動きに貢献すべきだ。現行憲法を100年も、孫子の代まで生かしていこう。

〈政党挨拶〉

立憲民主党枝野代表…安倍晋三という人はなぜ総理大臣なのか?選挙に勝ったから?違う。国民主権を一時的に預けただけだ、その根拠は憲法である。憲法をないがしろにする権力は自らの基盤を理解しない。単純な多数決が民主主義なのか?正義なのか?憲法は選挙に勝った勢力が何をしてもいい、どんな法律を作ってもいいと認めているわけではない。歪んだ権力を真っ当なものに変えていくために、市民と思いを同じくする他の野党と共に先頭に立って頑張る。

民進党大塚代表…何が正義か、何が正しいかは人それぞれだ。だから事実を共有し合って熟議を尽くして決める、権力は抑制的でなくてはならない、これはソクラテスからアマルティア・センまで変わらぬ原則だ。安倍政権では民主主義は守れない。民進党は近々国民民主党に名称を変えるが、民主主義が危機にある中、大きな野党のかたまりをつくるために頑張る。

共産党志位委員長…安倍首相は内政・外交ともにボロボロで末期の状態だが、9条改憲だけにはしがみついている。往生際が悪い。ならば国民が引導を渡してやろう。自民党の改憲案では9条2項の制約は取り払われ、無制限に海外での武力行使ができることになる。明記されるのは集団的自衛権を行使する、長距離巡航ミサイル、空母を持ち専守防衛をかなぐり捨てた自衛隊だ。災害救援に汗する自衛隊ではない。安倍に憲法を語る資格はない。なすべきは内閣総辞職だ。朝鮮半島情勢の明るい兆しを歓迎する。米朝会談の成功を皆で求めて行こう。

社民党又市党首…今の安倍政権は“権力は腐敗する”を体現している。これでは国会で議論もできない。議論できる状況をつくれと野党6党は要求している。自衛隊明記というが、他の省庁について憲法に記載されているか?防衛省も書かれていない。自衛隊の特出しで目指すのは軍事大国化だ。安倍内閣を総辞職に追い込もう。

自由党小沢党首からのメッセージ(代読)…この国の未来のため、国民の生活を守るため全力で戦後最悪の安倍政権と対決する、そのための結集を目指していく。

ここで赤黄青のプラカードを掲げてアピール。菱山南帆子さんのコールで「憲法九条改悪反対!」「安倍政権は今すぐ退陣!」「立憲野党と市民は共闘!」が会場を揺るがす。政党代表の方々も参加し、終わると互いにがっちり握手。

続いておしどり・マコ・ケンさんのスピーチ…原発事故があって、無知だったからめちゃめちゃ取材始めて、原発事故があったからひどい世の中になったのではなく、その前からひどい世の中になっていたのだと思い知った。2014年にドイツで開催される国際会議に呼ばれた。宛名に「Dr…」とあったから「コメディアンです」と言ったら「知ってます」と。以降毎年行っている。ドイツの学校で報告したこともある。ドイツの人に言われた、愚かな市民であっては駄目、原発と民主主義は同じだ、ヒトラーも選挙で生まれたのだ、と。20ミリシーベルトで避難解除なんてドイツの国民は受け入れないだろう、とも。受け入れたのは自分たちなのだと気づいて凹んだ。97条の会というのをつくっている、自由獲得をさぼっていた私たちが憲法をないがしろにされたのだ。安倍政権を倒すために団結が必要と言われるが、この名目で色々な人がいろいろなものが踏みにじられた光景を見てしまった。これじゃ安倍政権と一緒じゃないか…。私が闘う相手は安倍政権のようなちっぽけなものではない。すべての生命が、権利が踏みにじられないような闘いをしていこう、と思う。憲法に書かれていることを生活の中で実現していくこと、歯磨きをするように闘っていこう。大切なのは敵を認定することではなく味方を増やすこと、半径5メートルからゲリラ活動を繰り広げよう。(最後はマコさんの“ケセラセラ”の歌にのせてケンさんの針金細工のパフォーマンス)

〈トーク第2部〉

山城博治さん(沖縄平和センター議長)…安倍に憲法を奪われてたまるか!沖縄も苦しい中闘い続けている。23~28日辺野古に総結集の闘いがあった。機動隊が力づくで排除し負傷者が続出している。5名の逮捕者も出してしまった。何より安倍政権を引きずり下ろすことだ、沖縄の闘いに勝利するためにも。裁判で2年の刑を受けた。現場に立つと権力のカメラが向けられる。隙あらば捕えたいのだろう。でも勇気をもって闘い続ける、ネバーギヴアップだ!(最後は“今こそ立ち上がろう!…ここに座り込め!”の歌で締めくくった。)

武藤類子さん(福島原発告訴団団長)…原発事故は終わっていない。憲法改正の軋みが沖縄から福島まで現れている。国・県はオリンピックに向け復興をアピールするために前のめりになっている。東電の罪を問う裁判が継続中だ。検察が不起訴としたものを検察審査会が覆して始まったもの。民衆の意志による裁判だ。その裁判の際の傍聴者に対する検査は異常なものだ。二重三重の検査、ボディチェック、財布の中まで見られる。なんでこうまでされなくてはいけないのか、悲しくなる。原発にまつわるすべてのものが人権侵害を生む。私たち一人一人が責任をもってこの時代を変えることにより、次の時代により良いバトンを渡せるよう頑張ろう。

高校生平和大使…平和大使は核兵器廃絶と世界平和の実現を目標に長崎の市民団体のシンボルとして始まった。5年前から外務省ユース非核特使を委嘱されている。高校生1万人署名活動を行っている、2017年までに150万人を超える署名をいただいた。活動の中で家族の愛に触れる機会が多かった。戦争は家族を殺され愛を受け取れない人々を生み出す。そんなのおかしいじゃないですか!微力だけれど無力じゃない、をスローガンとして活動していく。

上山由里香さん…道徳の教科化が問題になっている。色々勉強する中で道徳教育が大きく変化することを知った。教科書と記述式だが評価が導入される。教科の免許がないので担任が教えることになる。偏った一面的な価値観に落とし込まれないか心配だ。これも改憲の動きと無関係ではない。

東京朝鮮高校生…朝鮮人として生きるすべてを奪われた植民地時代が終わった後も在日朝鮮人差別・弾圧が続いている。朝鮮学校だけが高校無償化から外されている。毎週金曜日に文科省前で抗議を続けている。2013年に訴訟を起こしたが不当判決が下った。私たちは自分のアイデンティティを守るために民族のアイデンティティを育むという当たり前のことをしているだけ。判決は同胞と支持してくれる日本人を踏みにじった。1948年朝鮮学校閉鎖令が出され、学校を守ろうとした同胞に銃が乱射され犠牲者が出た。私たちは先輩たちの意志を引き継ぎ、勝利を勝ち取るまで闘い続ける。(最後に中・高級学校合唱部による朝鮮童謡「故郷の春」と「花」の合唱が披露され、いっとき澄んだ歌声に満場が静まりかえった)

杉原浩司さん(武器輸出反対ネットワーク代表)…武器輸出3原則撤廃から4年、小野寺防衛相は戦車を沢山輸出すればコストが下がると言った。とんでもないこと。しかし幸い完成品の武器輸出はゼロ。三菱電機の防空レーダーがタイに輸出されようとしている。サウジアラビア・UAE等3か国連合はイエメンを攻撃し大変な人道危機をもたらしているが、そのUAEに川崎重工の輸送機を輸出しようとしている。紛争地域には輸出しないという原則も踏みにじられている。武器輸出を行う会社には不買運動で対抗しよう。一方日本はアメリカ兵器の爆買いをしている。9条を世界の軍産複合体を解体していく武器にしよう。メイドインジャパンを平和産業の代名詞に!これからも死の商人と闘う。

六郷伸司さん(ホームレス支援NGO代表)…ホームレスになる理由は一人一人違う。制度の谷間があり、一度落ちると自力で這い上がるのは困難だ。困難が見えやすい人から救済の手が差し伸べられる。見えにくい問題を抱えている人は後回しにされる。憲法はすべての人の生存権を保障している。これに沿った制度設計がなされなくてはならない。生活保護費引き下げに見られるように現政府にその姿勢はない。「子ども食堂」もやっている。これは子どもの人権を守るためのもの。連休中も毎日通ってくる子どもがいる。子どもの貧困は大人以上にあらゆる権利が剥奪される。

岡田俊宏さん(日本労働弁護団事務局長)…4月6日、働き方改革一括法案が上程され野党欠席のまま審議入りするという暴挙が行われた。一部の労働者の労働時間規制をなくす「過労死法」というべき高度プロフェッショナル制度創設が含まれている。安倍は労働法制を岩盤規制と攻撃し労働者派遣法等次々に労働法制を改悪してきた。2015年から突如「一億総活躍」「働き方改革」と言い出し長時間労働を是正するのだという。時間外労働の上限規制と高プロを抱き合わせることなどできないはずだ。「働き方改革」という言葉に騙されるわけにはいかない。

ここで全国市民アクションから3000万人署名中間報告が行われた。…昨年の5月3日、安倍が2020年改正憲法施行を言い出し、対抗するために署名運動を準備し9月に開始した。北朝鮮の脅威を煽りたてる「国難」解散によって一時期難しい局面もあったが、もう安倍には我慢できないという声が沢山寄せられている。雨の日も風の日も雪の日にも街頭に立つ人々がいる。全戸訪問の取り組みも各地で広がっている。4月末時点で1350万人分を突破した(会場から大きな拍手と歓声が上がる)。まだまだ足りない。便々と総理の座にしがみつく安倍をやめさせるために3000万人集めなくては。平和のプロジェクトはまだ完成していない!

続いてプラカードコンクールの発表があった。意匠を凝らした36の応募作品から4点が選ばれた。子どもさんの手作りのもの、おにぎりそのものがプラカード、地元の名産椿をあしらった大島の皆さん、大作「最後の晩餐(あべさん)」の八王子の皆さん、それぞれに心籠った選評と大きな拍手が送られた。

次に諏訪原健さん(安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合)から連帯の挨拶…25歳、裕福な家ではなかった。夢を語るより食うことを考えろと言われて育ってきた。気がついたら自分が育った時代は失われた20年と言われていた。飯を食うためなら自分を曲げてもいいと思った。正義や公正、幸福や未来という言葉に白々しさを感じ素直に受け取れない自分だったが、自民党改憲草案のひどさに慄然とした。亡くなった予科練だった祖父が毎年12月8日に電話してきた、「戦争だけはしてはいけない」と。恐ろしいものの始まりを予感している。始まらせないために路上に立つようになった。日本国憲法は私たちのための言葉。未来に向けて語りかけられた言葉が憲法だ。未来は私たちの手の中にある。

最後に福山真劫さんから行動提起…(1)3000万人署名を実現しよう!(2)もりかけ問題等国家の私物化を許さない闘いを!(3)辺野古新基地建設絶対反対の闘いを!(4)東アジアに核のない平和を!と呼びかけた。本日の集会参加者が昨年を上回る6万人と発表され、大きな歓声と拍手が沸き起こった。クロージングコンサートに送られて、長い長い隊列でデモに出発した。

このページのトップに戻る


第123回 市民憲法講座 自民党憲法改正案の危険性と改憲発議阻止のたたかい

お話:渡辺 治さん(一橋大学名誉教授、九条の会事務局)

(編集部註)4月28日の講座で渡辺治さんが講演した内容を編集部の責任で要約したものです、要約の責任はすべて本誌編集部にあります。

安倍改憲阻むか、許すか、正念場の2018年

今日は安倍首相が去年の5月3日に出した改憲提言、特に9条の改憲提言、それを土台にして今年の3月25日につくられた自民党の大会で一応容認された大会案、自民党憲法改正案の危険性に焦点を当ててお話しをします。と言うのは、安倍政権の不祥事で政権に対する支持率はどんどん下がっています。それに伴って安倍首相が改憲をやる資格があるのかという声の中で、安倍改憲に対する反対の声は非常に高まっています。しかし、肝心の「9条1項と2項を残して自衛隊を明記する改憲案についてどうですか」という質問に対しては、あまり変動はないんですね。例えば日経新聞の3月末の世論調査を見ますと、1ヶ月前の調査の結果に比べて安倍政権の支持率は激減しているけれども、肝心の9条の1項2項を残しながら自衛隊を明記するという改憲については、賛成が47%で変わりがありません。1ヶ月前から1ポイントも変わっていない。そして反対が37%で、賛成の方が多い。私たちが3000万人署名に取り組んでいくときに、基本的に安倍政権の改憲の危険性を訴えると同時に、9条の1項2項を残す――平和主義の規定を残しながら自衛隊を明記するから何も変わらないという、こういう安倍政権の言説に対して、この危険性を訴えていく。これが3000万人署名に取り組み、安倍改憲を葬り去っていく上でいま必要なことのひとつではないかと思います。

安倍首相は年頭の記者会見で、「今年こそ」と改憲実現に意欲を示しました。安倍の思惑としては、働き方改革などで支持率を上げながら、国民に分裂をもたらすような改憲問題について、満を持して3月25日の党大会を踏まえて4月くらいに改正案を出す。そして憲法審査会で揉んで、この通常国会、あるいはもうひとつ延ばして秋の臨時国会くらいで憲法審査会を通して改憲発議を決め、年内に国民投票というようなスケジュールを描いていたと思います。

ところが、まず裁量労働制の資料で躓いたどころか森友問題、加計問題、日報問題が起こり、数え切れないくらい不祥事が登場して、安倍政権はとてもこのスケジュール通りに実行することはできない状況になりました。早速メディアはもう安倍改憲は無理だと一斉に言い出し、自民党大会の翌日、3月26日の朝日新聞は、一面トップで「年内発議 困難」と謳いました。このように安倍改憲はもう無理じゃないかという声がありますが、安倍首相は絶対にあきらめていません。安倍改憲を止めるには、何としても安倍政権を倒さなければ、これが止まることはない。安倍政権が生き延びる限り、必ず安倍改憲はほとぼりを冷まして出てくると思います。安倍改憲を止めるためには、森友NO、加計学園NO、安倍NO、こういう声に加えて3000万署名の力で、安倍改憲NOの声で、力で安倍政権を倒す。ここが非常に重要なポイントです。

昨日の南北朝鮮会談の中で朝鮮半島の非核化、それから朝鮮戦争の休戦協定から平和協定への締結に向けて大きく前進しようとしています。このときに安倍改憲の狙いは、東北アジアの平和という問題にはまったく逆行するような方向へ進めようとしています。この改憲の方向を止めて、いまの東北アジアの平和の方向を、憲法に沿ったかたちで実現することが必要だと思います。そこで自民党の3月25日の改憲案、特にその原型になっている去年の5月3日の改憲提言がなぜ出てきたのか、その点に焦点を当て、その狙いとその9条改憲案がどんな危険性があるのかを明らかにして、最後に安倍改憲を阻むために3000万署名をやるに当たってどういう点を注意したらいいかという点に話を持っていきたいと思います。

安倍改憲の出発点としての5・3改憲提言の新しさ

 早速1番目、去年5月3日の安倍改憲提言ですが、資料に去年5月3日に日本会議の集会にビデオメッセージで出した改憲提言の前文を載せております。もうひとつ読売新聞が5月3日に安倍首相に対する単独インタビューを行っています。こちらではより詳しくなっています。自民党の3月25日の改憲提案は4項目から成り立っています。1項目めはもちろん重要な9条改憲、それから2項目めは教育の無償化、3項目めは緊急事態条項、そして合区解消、この4項目から成り立っています。ビデオメッセージは、9条改憲と教育の無償化のふたつに焦点を当てて安倍首相は語っています。ところが読売新聞では9条改憲と教育無償化に加えて、合区の解消も緊急事態条項も必要だと訴えるかたちの提言で、安倍首相は新しい改憲提言、自らが実行しようとする改憲提言を提出したことになります。特に焦点となる9条改憲についての5月3日の改憲提言は結構「新しい」というか、今までの9条改憲案の常識を覆した提案であると言えます。

いままでは、憲法9条が日本の軍事化、戦争する国づくりにとってもっとも大きな歯止めとなっている9条2項を削除して、自衛のための軍隊を持てるという規定に変える。こうしなければいつまでたっても日本が戦争する国にならない。だから改憲派の9条改憲案の常識は、2項を削除して自衛のための軍隊を持つということが基本的です。いままでのほとんど全ての改憲案はこれできました。90年代以降の改憲案を表にしておきました。これらのどれひとつ採っても9条2項を削除して、それに変えて自衛のための軍隊を持てるという規定に入れています。次の①とつけたのはそれです。

例えば最初の小林節さんのものでは、<①第9条「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、自衛軍として保持する。」②第9条「…総理大臣は、我が国の独立または世界平和を維持するために、…国会の承認を経てまたは国連の要請を受けて、自衛軍の出動を命じることができる。」> つまり日本は自衛軍を持てるんだよと変えることによって、自衛のためなら戦争もできる、軍隊も持てる、海外にも行ける、こういうかたちをつくりたい。それから日本を守る国民会議、のちの日本会議になる団体ですが、<「①我が国の独立と平和を守り、合わせて国際平和に寄与するため、適切な規模の国軍を保持する。」②「我が国は、1…世界平和の実現のため、…積極的な国際協力を行う」。> 9条2項を削除して、戦力を持たないぞという規定を削除してしまって、適切な規模の国軍を保持できるという規定に変える。これがいままでの改憲案です。いくつもの改正案のどれも皆そうなっています。

ところが今回の安倍5.3改憲提言は、9条の1項2項を存続した上で、自衛隊明記を追加する、こういう案になっている。戦争する国をつくらせない最大の壁になっている9条2項を残して、新たな条文で9条の2あるいは9条3項というかたちで自衛隊を保持する規定を入れる。さきほどのビデオメッセージでは「9条の平和主義の理念については、未来に向けて、しっかりと堅持していかなければなりません」。そこで「9条1項2項を残しつつ自衛隊を明文で書き込むという考え方、これは国民的議論に値する」と、こう言っている。これが5.3改憲提言の新しい特徴です。そこでこれがなぜ新しくて、これで本当に安倍が考えている戦争する国づくりができるのか、本人は言っていません。ちっとも変わらないと言っている。どうなのかということを考える上で、まず、なぜ既存の9条改憲案は9条2項を削除するところに執念を持ったのか、ここを理解しないと安倍改憲提言の意味がわからないわけです。

なぜ既存の9条改憲案は、2項削除だったのか

いままでの9条改憲案は、どうして9条2項を削除するのかという点を見ておきます。9条は1項と2項があります。1項は戦争を放棄し、2項はそのために陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない。第2次世界大戦後に日本国憲法ができたときに、戦争をしないということを謳った憲法はいくつかあったけれど、第2項の、そのために軍隊も持たないという規定は日本国憲法の大きな独自性であり力となっていきます。

これがあるのでもともと改憲派、自民党の保守派の人たちは9条の2項があったのではまずい。1項は戦争を放棄すると言っても「国際紛争を解決する手段としては」と書いてあるのでこれは侵略戦争のことだ。侵略戦争は放棄するけれども自衛のための戦争はいいのだということで、ごまかして自衛のための戦争はできるということはできる。

けれども2項になると「陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない」と書いてあるわけで、この規定があったのでは再軍備はできないということで、改憲派は戦後たびたび、50年代から改憲で9条2項の削除を求めてきました。そもそも9条2項があったのでは再軍備ができませんから、再軍備を始めるためにも50年代の初めから第1の大きな改憲の波があって、とにかく9条2項をぶっつぶして堂々と日本が再軍備を進めることができる、こういう国にするための改憲が試みられました。この第1の波は大きな波で、17個の改憲案が出ましたけれども、国民の反対の声の中で挫折を余儀なくされました。

大きな転機は60年安保闘争です。安保条約を改定して、それを前提に憲法改悪に突き進もうとした岸内閣に対して、社会党と共産党が初めて共同を結び、市民と野党の共闘の大きな試みが60年安保闘争のときに起こった。数10万の人たちが国会を取り囲み「岸を倒せ」というコールを行いました。安保条約の改定は残念ながら強行されましたが、その結果、岸内閣は倒れて自民党政治は大きく転換を余儀なくされました。その転換は、改憲はできない、憲法を改正して、日本が今度はアメリカの手下になって戦争をするような国になるということについては国民が黙っていない。岸内閣が倒れただけではなくて、こんな憲法改正案を出したら自民党それ自身が危ないということで、自民党はそれから30年の間憲法改正という言葉を封印せざるを得なかった。

「自衛のための必要最小限の実力」、9条2項が禁止する「戦力」ではない――自衛隊の政府解釈

困ったのは政府ですよね。憲法を改正して9条2項をなくしてしまえば堂々と軍隊を持てるけれども、なくせないわけです。そうすると、9条2項のもとで安保条約や自衛隊の合憲ということを言わざるを得なくなった。政府の解釈でこういうことを言わざるを得なくなった。すでに1954年に自衛隊が発足します。警察予備隊が1950年にできて、それが保安隊になり自衛隊になっていくわけです。アメリカの圧力でどんどん成長していく。そのとき当面の自衛隊は、憲法9条2項のもとで合憲ですよという解釈をやらないと一日も過ごしていけないわけです。違憲な軍隊があったら一日も過ごせませんから、それは合憲ですよという政府解釈をする。1954年に自衛隊ができた年に、政府はそういう解釈をしました。

ただしこの解釈は当面数年間持てばいい。どうせ憲法を改正して、堂々と憲法9条2項をなくして自衛のための軍隊を持つのだけれども、それまでの間自衛隊は合憲だと言わなければいけないから、そういう解釈をしたんですね。その解釈が実はその後63年ずっと政府は続けざるを得なかった。それは国民が改憲の試みを何度も挫折させ、結局憲法9条を活かしたために、この解釈をそのまま踏襲せざるを得なかった。そしてこの解釈が持っている自衛隊の活動に対する制約がいまだに自衛隊をがんじがらめにしている、こういう問題があるんですね。

ではどういう解釈をしたのか。それは自衛隊は憲法9条2項が持つことを禁止している「戦力」ではないという解釈をせざるを得なかった。戦力ではない。戦力というのは私たちの普通の日常用語で言うと軍隊です。軍隊を持ってはいけないと書いてあるわけですから、自衛隊は軍隊ではないと言わなければダメですね。そこで政府はそういいました。憲法は軍隊を持ってはいけない、戦争しないと言っているけれども、どこか外国から攻められて国民がどんどん殺されたら、黙って殺されるということではなくてそれに抵抗する権利がある。自然権としてあるといいます。それは国民が侵略をされたことに対する抵抗する権利、これを自衛権と言います。抵抗する権利があるといっても、素手であるいは竹槍で抵抗するわけにはいかない。それにはそれなりの相当の軍備が必要で、それを「実力」が必要だといった。9条2項が禁止している戦力にならないような実力、それを「自衛のための必要最小限度の実力」、これなら持ってもいいと説明した。そして自衛のための戦争、侵略されたら抵抗する戦争を政府は「抗争」といいました。自衛のための抗争ならできると言って、そして自衛のための必要最小限度の実力、これが自衛隊です。だから自衛隊は憲法9条が禁止している軍隊ではない。そんな大きなものではなく、もっと小さな自衛のための最小限度の実力が自衛隊なので、だからOKだと言った。

9条1項2項で戦争を放棄しているもとでは、他国から攻撃を受けたときに自衛権は初めて発動できるが、そのときも、ほかに外交的な手段で解決ができるのなら武力を発動してはいけない。外交的手段もない、もう攻撃されている、その場合に初めて発動できる。自衛のためと称して他国に侵略・進出することは自衛権の行使の必要最小限度を超えているんだからできませんよ。こういう規定を設けて、とにかく「自衛隊は自衛のための必要最小限度の実力だし自衛権は最小限度の行使だから、国民のみなさん、これは合憲ですよ」という説明をして逃れようとしたんですね。

運動と国民の声に押され自衛隊活動に制約

60年安保で憲法改悪ができなくなったわけで、ますますこれが重要でした。けれども、当時の安保闘争に立ち上がった平和運動や野党、社会党、共産党、それからできたての公明党はこんな屁理屈を認めませんでした。というのは当時ベトナム侵略戦争が始まっていました。そして日本の自衛隊はそれに呼応してさまざまな形で加担しようとしました。攻めてこられたら撃退する、警察に毛の生えた小さな実力だなんていうことは誰も信じなかった。アメリカの侵略戦争に加担する違憲の軍隊ではないかという声が強くなった。そこで政府はますます自衛隊が憲法9条の禁止している軍隊ではないということを言うために、自衛のための必要最小限度の実力ということをもっとふくらませて国民にいろいろな約束をしなければいけなくなった。特にここで重要なのは自衛隊の活動に3つの制約を設けたことです。この3つの制約がいまだに自衛隊を海外で武力行使できない、人殺しができない軍隊にしている制約です。これは60年代の運動が違憲の攻撃をする中で、自衛隊は違憲じゃないかという追及を国会であるいは憲法裁判で、政府が仕方なく決めた制約です。

制約のひとつは、自衛隊は攻めてこられたら撃退する最小限度の実力だから、攻めていくことはしない、海外派兵はしませんというものです。ほかの国の軍隊ではこんな制約はありません。海外派兵はしない、中国にも行かない、朝鮮半島にも行かない。2番目は、自分が攻めてこられたら撃退する個別的自衛権は行使するけれども、アメリカの戦争に加担して自衛権を発動する集団的自衛権は認めません。これは大きいです。アメリカの戦争にも加担しない。3番目は、2番目のダッシュになります。2番目の集団的自衛権を行使できないだけではなく、国連が決議を出して多国籍軍を出すことにも日本は参加できません。国連決議に基づいて例えばイラクを制裁することを決め、イラクを制裁のために日本が多国籍軍の一員としてイラクを攻撃するということになった。これはイラクと日本との国際紛争に武力で介入することになるから、9条1項に違反するのでこれもできません。

それから90年代以降アメリカが集団的自衛権を認めろと、「ともに血を流せ」と言ってきます。アメリカの戦争に加担しろ、イラクに来い、シリアに来い、アフガンに来いと言うけれども、いけない。そういうときにアメリカは自衛隊が憲法上集団的自衛権を行使できないということで、仕方がないから後方支援で来い、「汗を流せ」と言ってくるわけです。アメリカは湾岸戦争のときに実はこちらの方を重点的に要求してきました。自衛隊は一度も海外で戦争をしたことがないわけですから戦ってあまり力になるかどうかわからない。それよりはアメリカ軍の後方支援――輸送とか調達とか医療、通信、といったところで働いてもらいたいという要求ですが、それもできません。それは自衛隊の海外派兵反対、イラク派兵反対という声の中で、内閣法制局は自衛のための必要最小限度の実力という場合にはそれもできない。

なぜならば、一緒になって米兵を運んで、米軍と一緒にたたかっているということになったら、日本の自衛隊は人を殺していませんからといっても、それは平和活動とは言えないわけですね。それは他国の武力行使と一体化した活動で、これをやってはいけないということを3番目の制約として決めた。これが90年代以降のアメリカの圧力に対して、日本が後方支援もできないという状態をつくったわけです。

それだけではなくて、自衛隊の装備についても自衛のための必要最小限度の実力だから、もっぱら相手国を壊滅させるような攻撃用兵器、いま盛んに問題になっている弾道ミサイル、ICBM、核ミサイル、核弾頭付きの原子力潜水艦、こういうものは持ってはいけないということも決めました。こういうかたちで何とか生き延びようとしたことが、日本の憲法9条が大きな戦争をしない国の体系をつくった。いろいろ不十分なところはあります。例えば安保条約は合憲ということで、米軍基地がいたるところにできるという問題はありました。けれども、少なくとも自衛隊については海外で武力行使はしない、後方支援といっても戦場に行ってアメリカ軍と一緒にはやらない、攻撃用兵器も持たない、海外派兵はしないというような制約を設けることによって、何とか運動の攻撃を回避して自衛隊は合憲だとしようとした。

政府解釈が90年代以降、米国の要請の足かせに

当時の自民党で一番海外派兵の先頭に立っていた小沢一郎さんがどんなに無理難題を言おうと、やはり内閣法制局としては、それはできないというかたちで抵抗した。その抵抗線は何だったかというと、自衛隊は海外で絶対に武力行使をしてはいけない。もうひとつの抵抗線は武力行使をしなくてもアメリカ軍と一体化した行動をしてはいけない。このふたつが市民の声を受けながら内閣法制局がかろうじて自分たちの矜持を守った。憲法に基づいてこの点だけは変えない。これがあったので当時の自民党政府といえども内閣法制局を完全に蹂躙して自分たちの解釈で自衛隊を出すわけには行きませんから集団的自衛権はあきらめたんですね。内閣法制局はこれを壊してしまったら、日本の自衛のための必要最小限度の実力という、自衛隊が憲法違反ではないという条件がなくなってしまうので、抵抗が強いので集団的自衛権はあきらめた。

それで自民党政権が求めたのは、武力行使をしない後方支援で何とかイラクに行きたい、何とかアフガニスタンに行きたい、何とかインド洋海域に行きたい。これを努力してやりました。つまり2の「集団的自衛権禁止」の解釈変更をあきらめて、3の「他国の武力行使と一体化してはいけない」という制約をすり抜ける。こういう追求をして、周辺事態法を作りテロ対策特措法を作りイラク特措法を作って、ついには戦闘地域に行かなければいいとしました。

戦闘地域に行って日本が水をつくったり輸送をしても、それはアメリカの戦争と一体化することだから、それはできません。戦闘地域以外のところ、非戦闘地域、自衛隊が派兵されている間中、そこでは戦闘が起こらない場所、非戦闘地域ならば行ってもいいと内閣法制局が言った。これに基づいてイラク特措法では非戦闘地域に自衛隊は行ける。しかも海外派兵は武力行使を目的にしていくのが派兵だけれども、武力行使以外の目的、人道復興支援とかそういう目的で自衛隊が出動しても憲法が禁止している海外派兵ではない。「では何だ」、「派遣だ」と言った。そういうかたちでとにかく何とか憲法の制約を乗り越えて小泉政権は自衛隊をイラクに派兵しました。

私たち市民運動ではイラク派兵と言いましたけれども、政府はイラク派兵と言ったら違憲ですから、イラク派遣と言う。イラクが戦闘地域だということは世界の誰もが思っていますが、イラクが戦場だったらイラクに行けないので、小泉さんはイラクが戦場ではないと言い張るわけです。イラクは戦場と戦場ではないところがまだら模様にあるといい、サマワは非戦闘地域だと言った。なぜかと言えば「自衛隊が行ったからです」と言って行った。その欺瞞が今回の日報で明らかになりました。やはり戦闘地域だった。

自民、アメリカの強い要求で再度明文改憲へ

そこまで努力したけれども、やはりアメリカは不満だったんですね。わけのわからないかたちで、とにかく武力行使をしないわけですから。米英軍と一緒にいても、多国籍軍と一緒にいても、イラクの住民に対して自衛隊は銃を向けられないわけです。人道復興支援というかたちで輸送とかそういうことばかりやっている。しかもサマワという場所は、今度の日報問題を見れば明らかに戦闘地域だったけれども、戦闘地域ではないということで危ない場所へは行けない。結局アフガンはいけなかった。だから、正々堂々と憲法を改悪して、集団的自衛権を認めて、そして来い。それがアメリカの要求となり、自民党は皮肉にも小泉政権が自衛隊をイラク派兵した直後の2004年から、やっぱり明文改憲をして9条をつぶさなければできないよ、というかたちで改憲の動きに突入した。

小泉の後を継いだ第1次安倍政権が、自分の任期中に改憲をやろうとしました。ところが安倍首相は極めて甘かった。国民の反対運動が極めて強い。だから自民党は30年間も改憲と言えなかったのに、彼は平気で任期中の改憲と言った。2004年以降全国津々浦々で、7400の九条の会ができて改憲世論は大きく変わっていった。改憲賛成と改憲反対の世論が逆転して、安倍首相は改憲を実行できなくなりました。それどころか安倍首相の後を継いだ福田、麻生のあとに、民主党が政権を取る。民主党は、沖縄の普天間基地の国外、県外移転を主張する。日米同盟の軍事的強化、自衛隊の海外への侵略どころか、そもそも日米同盟が問われるという状況で、改憲はストップします。そして長い停滞の隙間をぬって、再び登場したのが第2次安倍政権です。安倍政権は60数年間、9条改憲ができないいらだちと、何とか9条に基づく制約を打破して堂々と自衛隊を海外へ出動させたい、アメリカの戦闘に一緒になって軍事大国になりたいという思いを持って登場した内閣だと思います。

しかしその安倍政権は、最初に明文改憲をやることはありませんでした。最初に閣議決定で、9条に基づく自衛隊の活動を制約している解釈を変えようとしました。自衛隊の海外派兵はしない、集団的自衛権は行使しない、武力行使をしなくても他国の武力行使と一体化した活動をしない。こういう解釈があったらいつまでたっても自衛隊はアメリカの戦争に加担できないから、この解釈を変えてしまえ。9条はそのままにしておこう。こういう方針をとりました。これは安倍首相は第1回目の失敗に懲りたんですね。国民は怖い、九条の会を怒らせたらこれはできない。そこで9条はそのままにして解釈を変える。これが戦争法だった。ところが皮肉にも、その戦争法反対運動の中で55年間できなかった市民と野党の共闘が成立する。これが安倍を追い詰めるというかたちの中で安倍首相は新たな改憲の壁を持つことになります。

なぜ5.3提言か?なぜ2項存置論か

では、安倍政権はなぜ5月3日の改憲提言で、9条2項存置論に転換したのかということです。安倍首相は怖いから、解釈改憲で行こうとした。そして戦争法を通してみたけれども、戦争法は9条があると全面発動ができないんですね。小手調べで国連南スーダンPKOに行ってみたら、それ自身がやはり憲法違反の殺し殺される軍隊ではないかという話になる。そして日報隠しが問題になると、やはり南スーダンは戦場でははないかという話になる。

そうこうするうちに去年森友問題が起きる。安倍政権は、自衛官が南スーダンで1人でも死んだらお終いになるということで、せっかく新任務で派兵した自衛官を5月には撤収せざるを得ない。しかも撤収するまで絶対死ぬなということで、何の活動もできない状態で、何のために強行採決して戦争法を通したのか。やっぱり9条を亡きものにしなければ、いくら戦争法を通しても、戦争法の十分な発動、集団的自衛権の部分的行使なんてとてもできない。安倍政権は、やっぱり9条改憲だということで改憲提言を出してきたと思います。去年5月3日、まさに南スーダンのPKO部隊を撤収せざるを得ないその日です。

では、何で9条2項を存置するという案を出してきたのかということです。これは安倍首相が改憲を阻む大きな力を自覚せざるを得なかったからだと思います。その力、壁が何かというと、市民と野党の共闘が安倍改憲の前に立ちはだかっていることです。55年ぶりの市民と野党の共闘がようやっと展開し、戦争法の反対から戦争法の廃止へ、そして市民連合へ、4野党の選挙協力への発展です。安倍改憲の前に、この市民と野党の共闘はふたつの障害物をつくりました。ひとつは憲法改正の発議をするときに絶対必要な、そして衆参両院で憲法改正をやっていくときに絶対必要なパートナーである野党第1党の民進党が、戦争法反対から廃止への市民と野党の共闘の3年間の経験の中で大きく変貌し、民進党始まって以来初めて安倍政権下の憲法改正に反対という態度を取りました。野党第1党が改憲反対という態度を取ったら、国会運営はやりにくくてしょうがない。議会制民主主義では、野党第1党に与党は必ず働きかけ、それとの合意の中で議会運営をやります。憲法審査会の運営も、発議のやり方をどうするのか。このパートナーは、野党第1党です。民進党が20年間言わなかった憲法改正反対を、戦争法反対の中で学習していき、戦争法を合憲化するための憲法改正が安倍改憲なのではないかと思い至って、改憲反対になった。これが安倍政権にとって大きなダメージのひとつです。

公明党提唱の改憲案を入れ、維新も教育で引き込む

もっと大きなダメージは、選挙ができなくなった。4野党の選挙協力が、もし衆議院289の小選挙区でできるようなことがあれば、選挙をやったら3分の2はおろか、貯金はなくなるし過半数も危ない事態になる。そこで去年の5月3日の段階で安倍首相が考えた狙いは、当時の衆・参の3分の2の多数を恃んで、これで強行突破する。去年の段階で衆議院の任期は2018年12月まででした。それまでにやろう。2018年の通常国会で改憲発議を行い、3ヶ月くらいの間を置いて国民投票をして、秋には国民投票を成立させる。これしかないと、彼は5月3日の改憲提言を出した。そうすると問題は公明党と維新の会、特に公明党をがっちりと味方に引き寄せなければ改憲はできないわけです。公明党がいなければ衆議院の3分の2は取れない。参議院は公明党だけでも足りないので、維新の会も入れなければ取れないということです。

しかし公明党という政党は、この9条改憲に限っていうと改憲派にとって極めてやっかいな代物だった。それは公明党の選挙運動における圧倒的な支持基盤である創価学会。特に創価学会の中で選挙運動では青年部を上回って強い力を発揮している婦人部、これは9条改憲に反対だ。池田大作が言った「9条は世界の宝だ」ということで、9条改憲には2度と再び戦争したくないという思いで運動していることが多い。ですから公明党は9条改憲について極めて消極的な態度を取ってしまう。そうすると公明党をがっちりと最初からつかまえる手立てを取らない限り、改憲はできっこない。そこで考えたのが5月3日の9条改憲提言です。この9条1項2項を存置しながら自衛隊を明記するという案は、実は2002年以来公明党が提案した案だということが裏にあります。

公明党の憲法改正案は、非常に長いジグザグの歴史があり、積極的だった小泉政権時代の案は、9条1項2項を残して9条に新たに自衛隊を入れるという案でした。その後、国民のさまざまな反対運動の中で公明党自身が憲法改正に非常に消極的になっているので、最近では「慎重に検討する」と書いて、加憲案のひとつと言っています。「憲法第9条については、戦争放棄を定めた第1項、戦力の不保持等を定めた第2項を堅持した上で、自衛のための必要最小限度の実力組織としての自衛隊の存在の明記や、国際貢献の在り方について、『加憲』の論議の対象として慎重に検討していきます。」という、公明党の案をそのままパクることによって、安倍首相としてはとにかく公明党に反対されたくない、はじめから一緒になって動いてもらいたいという狙いがあります。

自民党は、この9条改憲と一緒の「アメ」に、いままでの新しい人権の案という環境権とか知る権利を入れていた。ところが今回の安倍改憲提言は、そういう甘いアメの中に環境権でもなければ知る権利でもなくて、教育の無償化を入れました。これは、維新の会が教育の無償化を主要な憲法改正の公約に入れていたからです。つまり全体として維新の会と公明党をがっちりと握って、しかも国民投票で支持を獲得するには2項削除論ではなくて、1項2項を存置した上で自衛隊を明記する、公明党がいっている加憲論、これになるべきだというのが安倍首相の思惑だったと思います。同時に安倍首相としては、2項を残して戦争する国への転換は、2項をなくしてきれいさっぱり正々堂々自衛のための戦争をやるということとは違うけれども可能だ。この点が安倍首相が1項2項存置に踏み切った大きな理由だった。公明党の案であると同時に、これをやっても「戦争する国」に行けると踏んだので、その方向に踏み切った。

解散・総選挙をしかけるも共闘の分断ならず

ところが、自民党大会になるまでの1年近くの間に大きな変化がありました。ひとつはモリ・カケ問題が起こって、強行突破の案は不可能になりました。東京都議選で自民党が大敗し、公明党は政権課題ではないというかたちで引いていく。維新の会も消極的になっていく。何よりも安倍政権の支持率が下がっている段階で、改憲なんて出せるのかという状況がありました。しかし安倍首相に取ってみれば命の綱があった。それは、肝心要の市民と野党の共同に亀裂が入る状況が生まれた。東京都議選で自民党よりも大敗した民進党の蓮舫代表が辞めて、市民と野党の共闘は保守票を逃がすから見直さなければいけないと公言してきた前原さんが代表に当選した。市民と野党の共闘は、むしろ解散総選挙という石を投げることによって亀裂が入って壊れるかもしれない。そうであれば衆議院選挙は戦える。3分の2をもう一回取れるという判断の上に、安倍首相は乾坤一擲の大勝負に賭けた。そして解散総選挙をだした。案の定、半分は成功した。

解散総選挙の石を投げると同時に、希望の党が誕生した。希望の党に民進党が全員合流というとんでもない方針が出て、289の選挙区のほとんどで統一の候補者づくりが大きく崩壊するということになりました。そして改憲勢力は、自民党と公明とは併せて313、そして希望の党50をあわせれば、衆議院の8割を占めるというかたちの大勝をもたらしました。市民と野党の共闘を壊せれば、安倍首相の考えている強行スケジュールが変わってくるかもしれない。そういう思いのもとに解散総選挙をやって、半分は成功したけれども結局半分は失敗した。

なぜならば市民と野党の共闘は確かにいったんは壊れたけれども、無駄ではなかった。立憲民主党を立ち上げ、それを市民と野党の共闘が全力を挙げて応援することによって、なんと立憲民主党だけで55議席、さらに無所属の議員候補が選挙の共闘の中で当選している。何よりも大きかったのが安倍政権を阻む大きな壁は残ってしまった。市民と野党の共闘が残ってしまったために、立憲民主党が民進党にかわって衆議院の野党第1党になってしまった。それから市民と野党の共闘が再開されてしまったために、2019年の参議院選挙は市民と野党の共闘が生きていたら3分の2はおぼつかないという状況が生まれた。

自民党内右派の「自衛のため」明記論

そういう中で、とにかく3月25日に自民党大会で決定して、2018年中に改憲は次の段階に持っていくというもくろみのもとに今年がスタートした。3月25日に自民党は憲法改正案を提出しようと努力をしました。自民党憲法改正推進本部がそういう努力をしたことが、今回の3月25日案の形成だと思います。しかし憲法改正推進本部の中で多くの異論が出てきました。自民党という政党は、自民党の政治にとっての危機が訪れたときに「右」が活性化します。国民の同意を得ようとして「左」のグループが活性化するのではなくて「右」が強くなる。その結果、自民党憲法改正推進本部の中の自民党改憲案は、安倍首相が提案した9条1項2項を存置して3項あるいは9条の2に自衛隊を明記するという執行部の案に対して、異論を差し挟む、右よりの意見がふたつ出ました。

ひとつは石破さんたちが中心になって出した案で、簡単に言うと「いままで通りにしようよ、9条2項をなくそうぜ、そして正々堂々と自衛隊のための軍備を持とうぜ」という案です。資料の2案が石破案ですが、これを見ると、9条の1項を「9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、侵略の手段としての武力による威嚇及び武力の行使を永久に放棄することを、厳粛に宣言する。」と変えてしまった。これは9条1項の改悪です。「侵略の手段としての武力による威嚇」なんて世界の全ての国でやったことがありません。こんなことを公言して「しませんよ」と言ったって、戦前の大日本帝国の戦争だってこれでは全然止まりません。これは大きな改悪です。そして2項はどう変えるかというと、「(2)我が国の独立と平和及び国民の安全と自由並びに国際社会の平和と安定を確保するため、陸海空自衛隊を保持する」。もう正々堂々と「国の独立と平和を守るために陸海空自衛隊を保持する」というわけです。石破案では、自衛のために陸海空自衛隊はあるわけですから自衛のためなら核兵器を持ってもいい、海外派兵をしてもいい、集団的自衛権を行使してもいい、攻撃用の兵器を持ってもいい、何をしても自衛のためならいいんです。これを言いたいためにこれを書いた。

これをやれば、あの9条の2項に伴う海外派兵はしないとか、集団的自衛権は行使しないとか、後方支援でも海外の戦場には行かないとか、さまざまな日本を戦争をしない国にしているがんじがらめの制約、日本を戦後70年一度も戦争をさせなかった制約を取っ払えるというのが、石破案です。この石破案が重要なのは「我が国の独立と平和及び国民の安全と自由」だけではなくて、「国際社会の平和と安定を確保するため」と入っていることです。これは、例えばアメリカがシリアに多国籍軍を送る、そうしたらそのために自衛隊はいけるんです。国連決議で多国籍軍を派遣するといったら、集団的自衛権ではないけれども、これでいけます。つまり石破案は、あらゆるかたちで海外での武力行使ができる。これがまず出てきました。

ほかの3案、4案、5案というのは、安倍改憲に沿ったかたちで9条1項2項を残して自衛隊を保持する規定を入れましょうというものの、若干の変則バージョンです。3案が、執行部が一番推し、安倍首相が一番望んでいる改憲案です。石破ほどではないけれどもやっぱり右翼だという人たちの6案と7案も登場しました。これは、9条の1項2項を残すけれども、9条の2で、自衛権は持っているとか、自衛権の発動を妨げないとか、自衛権の行使を妨げずその実力組織を保持することができるとか、とにかく「自衛権」という言葉を入れろという案です。

自衛権という言葉を入れれば、集団的自衛権と個別的自衛権が両方とも憲法上OKになるから、集団的自衛権は全面的に行使できる。戦争法でもできなかった集団的自衛権の全面行使がこれによってできるようになります。つまり安倍案以外だと、石破案は自衛隊は何でもでき、核も持てるし海外派兵もできるし集団的自衛権も行使できる。3案はそうは言わないけれども、自衛権を持てると明記することによって個別的自衛権だけではなくて集団的自衛権も行使できる。これによって少なくとも戦争法の限界を突破できる。全面的に集団的自衛権を行使できる。こういう案を出してきました。

自民党憲法改正推進本部案のねらい

森友問題が起こる前、執行部は石破案とか自衛権案を出したら、公明党はただでさえ嫌だといっているのに全然話にもならない。最初から話にもならないような案をつくってはいけないということで、なんとか自民党憲法改正推進本部は執行部案をつくりました。それが9条の2「我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つための必要最小限度の実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。」でした。「必要最小限度の実力組織として」という言葉をわざわざ執行部案に入れたのは何か。それは、9条2項の戦力を持たないというときに、自衛隊は政府の解釈では自衛のための必要最小限度の実力だから持てる、9条2項でもこれは持てるんですよ。それを9条の2で、新しく条文で自衛隊を保持するというときに、わざわざ「必要最小限度の実力組織として」と入れることによって2項は死んでいない、2項と接続していますよ。2項でいままでいっていた自衛隊についての活動認めます、ということをこれで示そうとしたんです。

これはどこかでありましたね。公明党の案ですね。公明党の案は自衛のための必要最小限度の実力組織として自衛隊を保持するという案です。公明党も2項を残して、2項の延長線上に自衛隊を認めようということですから、これは明らかに公明党も意識した案です。つまり2項との連続性を意識していままでの政府解釈を、卓袱台返しのように全部ぶっ壊すということはしないと表明した案です。ところがこの案は、森友問題が起こるやいなや大騒ぎになって、右派が騒いでこの案は通らなかった。

結局、3月25日の大会で通った案は、「9条の2前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。」です。

このポイントは、「前項の規定は~自衛のための措置をとることを妨げず」これが本音です。法律というのは正確を期すためにいろいろなものがくっついているので、読むと何が何だかわからなくなる。いまいったところを読むと、「前条の規定は自衛権の発動を妨げるものではない。」これが大会で承認された案です。「前条の規定」とは、9条の1項と2項です。「9条の1項と2項は自衛の措置をとることを妨げず」ということです。9条の1項で戦争を放棄するといっていますけれども、自衛のための戦争はできます。「自衛のための措置をとることを妨げない」ですから。9条2項で戦力を持たないといっていますけれども、自衛のための戦力は持てますよ。そのための実力組織として自衛隊を持ちますよ、これがこの条文の意味です。

前条で戦争を放棄するといっているけれど、自衛のための戦争はできるし、戦力を持たないといっているけれど、自衛のための戦力は持てる。そのために自衛のための戦力として実力組織として、自衛隊を持つ。これがこの9条の2です。右からの攻撃の中で最終的に調整された自民党大会案ということで、大きく右にシフトしました。何が右にシフトしたかというと「必要最小限度の」が消えてしまった。それからあんなに嫌がっていた「自衛のため」という言葉が入った。「自衛のため」と入れば集団的自衛権も行使できますよ。だって自衛のための戦力なんだから。集団的自衛権だって個別的自衛権だって行使できますねと、こういうことが入る。これは右派の意見を大幅に取り入れた案になりました。

安倍9条改憲の危険性――自衛隊はどう変わる?

ポイントはこの9条改憲の自民党大会案、それから執行部案を含めて大きな危険性があります。安倍首相は、ビデオメッセージでも通常国会でも繰り返しこう説明しています。9条1項2項の平和主義の規定を残して、国民の9割が支持している自衛隊の規定を入れたということは、決して戦争する国づくりのためではない。自衛隊に誇りを持って活動してもらうために入れた規定だ。だから自衛隊を少しも変えるものではない。こういう説明をしています。

これからお話ししたい4点は、自民党の大会案、それから自民党が一番リベラルな案として出した執行部案と安倍首相の案――このふたつの案が共通して持っている危険性。それからもっと右よりの「前条の規定は自衛のためなら何でもできるのだから、軍隊も持てる」という自民党大会案も含めて大きな問題があります。9条の1項2項を残しても、9条の2に自衛隊を保持すると書いたことによって、3つの大きな危険性が出てくる。また、自衛隊の規定と緊急事態条項をくっつけることによって4つ目の危険性が出てくる点を指摘しておきたいと思います。

9条規範の根本的転換――軍事で平和実現へ

最初に、安倍首相はとにかく憲法9条1項2項を残す、平和主義を残すから、国民の9割が支持している自衛隊はこれを保持しますよ、実力組織として自衛隊はこれを保持しますよと書いたからといって何も変わることはない。だって、いま自衛隊法によって自衛隊は必要最小限度の実力として合憲だといわれているし、国民の9割は自衛隊が合憲だと思っているのだから、それをそのまま書くだけだという説明です。けれども、そのことを書くことによって根本的に事態は変わります。まず第1は自衛隊を軍事組織――つまり実力組織として、憲法に自衛隊を明記することですが、憲法に明記することで9条規範は根本的に変わると思います。

9条1項2項が、なぜ日本国民だけではなく世界の市民に対して極めて強いアピール力を持っていたのか。これは、一言でいえば武力によらないで平和を実現することを、日本政府に求めていたからです。そういう意味でいえば、例えば今回の朝鮮半島の問題でもっともイニシアティブをとらなければいけないのは、日本政府のはずです。武力によらないで朝鮮半島の平和を実現する、そういうアピールが9条1項2項にあるがゆえに、ベルギーやアメリカなどの市民運動でも、アメリカ憲法の中に9条を入れようねという運動もあるし、繰り返し9条にノーベル賞を、という声があります。そういう9条の武力によらない平和という規範、それを政府に押しつけるという考え方、これが日本の平和、東北アジアの平和を考えるときに非常に重要だから、それが大きな力を持っています。

その9条の2に、どんなかたちであれ、自衛隊はこれを保持しますと入れることによって、これが入った途端に軍事力によって平和を実現する、武力によって平和を実現するというまったく違った考え方がここに表明されます。結局武力による平和を実現しますということを9条は謳った。そういうふうに9条は転向した、ということになるわけです。これが根本的な9条の改変になるのは明らかです。

自衛隊を明記することによって憲法全体が大きく変貌します。なぜならば日本国憲法には9条1項2項でも、どこでも軍隊を持たないと書いてあります。軍隊を持たないから、緊急事態もありません。軍隊を持たないから、軍人特有の軍法とか軍法会議も憲法違反です。憲法14条は全ての国民の法の下の平等を規定しています。ところが世界の軍隊は、必ず軍法や軍法会議を持っています。なぜかといえば海外で侵略戦争を戦う軍隊は、極めて厳しい軍法と軍法会議を持たなければ戦場に兵士を縛り付けることはできないわけです。どこの国も帝国軍隊、侵略の軍隊は必ず厳しい軍法と軍法会議を持ちます。例えば戦場において敵兵と遭遇して、撃てといったときに撃てない。とてもじゃないけれども住民を前にして鉄砲を撃てない。それはアメリカの海兵隊でも起こったし、戦前の日本軍でも多くの兵士たちに起こった現象です。それから敵前逃亡――敵と遭遇したときに銃を撃てなくて銃を放り出して逃げてしまうということがあります。多くのイラクにおけるアメリカ海兵隊でもそういう事例がありました。そういうものに重罰を科す。例えば帝国日本の陸軍刑法、海軍刑法では敵前逃亡は例外なく死刑でした。それから抗命、命令に違反した場合は、最高は死刑という重罰に科しました。しかも、軍法会議で即決です。しかし軍隊を持たない日本国憲法の下では、軍法や軍法会議は明らかな法の下の平等違反で、できません。

軍というものが憲法9条に明記されることによって、法の下の平等や人権の大きな例外体系になります。戦前の日本はこの例外がものすごく大きかった。戦後の日本国憲法の中でも例外はあります。例えば天皇家では女性は天皇にはなれません。皇族男子は皇室会議の決定を受けなければ結婚できません。婚姻の自由もありません。なぜかといえば、天皇という制度が憲法1条の下で憲法上の制度としてあるから、法の下の平等の例外になります。同じことがもっと深刻な軍隊で例外措置として行われます。まさに憲法の9条の規範が根本的に転換するだけではなくて、憲法全体が戦争する国の憲法に、人権の例外を求める憲法に変わっていく。これが第1です。

9割の国民に自衛隊は愛されている、支持

2番目は、9割の国民に支持されていると安倍首相は繰り返しいっています。9割の国民に支持されている自衛隊という顔は、一体どうしてできたのかということを見る必要があります。60年間総務省が必ずやっている、自衛隊を支持するか支持しないかというアンケート調査があります。支持する人がこの間ずっと増えています。しかし支持する理由は、一貫して60年間変わっていません。支持する最大の理由は、災害復旧支援に努力することです。それから、国民が自衛隊をある程度信頼している大きな理由は、海外で人殺しをしていないことです。だから威張らない。

この自衛隊はどうしてそういうものになったのか。これは憲法9条2項が、軍隊は持たない、戦力は持たないと規定しているから、政府は仕方なく自衛隊は軍隊ではないといい、軍隊ではないことを証明するために、海外で武力行使はしない。軍隊ではないから、普通の国の軍隊がやらない災害復旧支援について自衛隊は任務を定めてこれを率先して行う。

こういう自衛隊の定義。戦力を持たないという規定は「自衛隊、これを保持しますよ」と書くことによって、自衛隊は何の苦労なく憲法違反を免れ、合憲になります。自衛隊は憲法違反の戦力ではありませんというための一切の努力、これは無駄の努力として必要がなくなります。つまり安倍首相が口を極めていっている、国民が信頼する自衛隊は、9条に自衛隊が軍事組織として明記されることによって、なくなります。変質します。これをぜひとも訴えて欲しい。自衛隊は決して国民に信頼される顔ばかりではありません。アメリカの戦闘に一生懸命協力している。それが本質的な顔です。国民の9割がなぜ支持しているかといえば、戦力になってはならないというかたちで縛られているからです。これが2番目。自衛隊は変質します。

集団的自衛権の全面行使と緊急時の国民の自由侵害

3番目に、わざわざ反対を押し切って「自衛の措置を妨げず」と書くことによって、この大会案に限っていうと戦争法でできた部分的集団的自衛権とか、戦場で他国の軍隊と一体化するという行動に加えて、全面的集団的自衛権も行使できるようになります。これは9条2項の死文化ではなくて、9条2項を殺すことになります。

また、緊急事態条項の73条の2で、「大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができる。」という規定を入れました。

もともと緊急事態条項を入れると安倍首相が考えた理由は、公明党を仲間に引き入れるためです。公明党は改憲案について非常に消極的ですが、この緊急事態条項、特に64条の2で――緊急事態が起こって選挙ができないときに国会は任期を延長しなければいけないのではないか、これについては検討に値するといっています。ある時期までは枝野さんも、これは検討に値するといっていました。安倍首相は、これを取り上げて緊急事態条項を入れようとしました。

自民党憲法改正推進本部の議論で、緊急事態条項を入れるのだったら国会議員の任期延長だけではないでしょう。国会が開かれないときに、国会にかわって内閣が法律にかわる政令をだす。これを緊急政令といいます。緊急政令を出す権限、市民の自由を奪う法律に変わる政令を、内閣の好きなように出せる。この状態をつくることこそが、世界の緊急事態条項の常識ですが、これが今回入ってしまった。裏話をすると推進本部長がこれを入れると言ったというけれども、結局のところ安倍の思惑を外れて、とにかく自民党右派ががんがん話し出して、緊急事態条項だったらこれを入れると言って入った。これが9条の改憲と一緒になった場合には、戦時において内閣は、国会をスキップして市民の自由を弾圧する法律に替わる政令を出すことができます。

なぜこの緊急事態条項がこういうかたちになっているかというと、このモデルは明治憲法にあります。明治憲法の8条に、緊急勅令という規定があります。この緊急勅令は、まさに公共の安全と秩序を害する緊急の事態にあるときで、国会が開かれていないときには天皇は法律にかわる勅令を出すことができます。この勅令を乱発して国会で通りそうもなくなると、国会を閉めた途端に緊急勅令を出して通す。これを縦横無尽に使って、日本の政治のファシズム化を進めていきました。それをやったのは実は天皇派、君主派の政党だけではなくて、男子普通選挙の中でれっきとした政党である政友会とか民政党も自分たちの法案を通すためには使いました。例えばいまの働き方改革法案が通らないとなったら、国会を閉めてしまって緊急勅令を出す。こういうやり方で、とにかく緊急勅令を「愛用」しました。こういう経験があるので、緊急政令なんて絶対やってはいけないというのと同時に、改憲派の人たちはあの緊急政令をいま使えれば何でも通る。

一番悪名高い緊急勅令は、1928年に治安維持法の改悪が行われました。治安維持法が最初に本格的に日本共産党に発動されたのが1928年3月15日、3.15事件です。発動された途端に全国10万人くらい検挙したといわれています。実際に捕まったのは1万人くらいですが、蓋を開けてみたらほとんど共産党員はいなかったんですね。共産党の秘密名簿が暴露されたら何百人しかいない。共産党員というのは実は少なかった。そういうときに治安維持法の改正案を出して、天皇制を打倒する国体変革結社の指導者はそれだけで死刑という死刑法への改正をしました。

しかし実はもっと大きい改正がありました。それは党員でなくても党の目的のために働く、簡単にいえばシンパとか運動に賛成して協力している労働組合運動とか民衆運動をやるのも、「党の目的遂行のための罪」ということで懲役2年以上の刑に処するという改悪案を出しました。さすがの帝国議会も反対しました。こんなことをやったら民衆運動がみんな潰れてしまうと反対しました。法案は廃案になりました。そうしたら議会が止まった途端に、当時の田中内閣は緊急勅令でこれを通しました。そして4.16で発動します。

そして党員でもない広範な労働組合の活動家や運動家が、みんなこの目的遂行罪で捕まっていきました。「お前も党の目的のために働いたじゃないか」、知らないで共産党員を泊めたり、党員にご飯を食べさせた市民も目的遂行罪だ。それからプロレタリア文学の小説を書いたら、党の目的遂行罪だ。画家が絵を描いてそのお金を知らずに党員にカンパしたら、党の目的遂行罪だということでみんな捕まっていった。これが治安維持法の大きなきっかけになるわけです。これも緊急勅令なんですよ。ですから9条改憲と緊急事態条項がもしドッキングするようなことがあれば、そういう危険性があることを見ておく必要があります。

 このような9条改憲で日本とアジアの平和を確保できるのか。とんでもない話で、アメリカの戦争に十二分に日本が武力で加担するという方向です。逆に9条の理念に基づいて朝鮮半島の平和を確保する。今回の南北共同宣言では、北朝鮮の核の完全かつ不可逆的な放棄ではなくて、朝鮮半島の完全な非核化ということを謳う。アメリカ軍が持っている核、アメリカ軍の進駐と、朝鮮の持っている核、これを全部なくしていく。もうひとつは休戦条約を平和協定にしていく。これをやるにはアメリカが「うん」といわなければいけないし、中国も「うん」といわなければいけない。それを南北朝鮮が一緒にイニシアティブをとって、そういう朝鮮半島をつくっていくという方向にまったく逆行する、改憲案だと思います。

3000万人署名で安倍改憲を阻もう

最後になりますが、3000万署名で安倍改憲を阻んでいくということがどうしても必要です。みなさん十分にいまご活躍だと思いますけれども、この安倍改憲案に限ってひとつの点だけ注目して私の話を終えます。それは冒頭にお話ししたことです。

いま安倍政権のさまざまな不祥事、悪逆非道なことが起こっているために安倍政権に対する支持は非常に下がっています。そんな安倍政権は改憲の資格がないのではないか、安倍政権がやる改憲はおかしいのではないかという声が非常に高まっています。一番新しい共同通信の一昨日の世論調査では、安倍首相の下での改憲については極めてはっきりとNOという意見があります。安倍首相の下での改憲は賛成38%、反対61%にのぼっています。ところが憲法改正自体はどうかといったら、必要だという人が58%で多いんですね。でもいま改憲をやるということは安倍改憲以外には絶対改憲はありません。ですから多くの国民は憲法改正という抽象的なことはいいと思っている。けれどもその憲法改正、いまの自民党政権のもとで出てくる憲法改正というのは、基本的には戦争する国づくり以外のなにものでもない。この点はまだ入っていません。

それから自民党の改憲4項目についてどうですかと聞いているのに対して、9条の改正は賛成が44%、反対が46%で拮抗しています。面白いのは教育の無償化です。安倍さんが9条の改憲という毒薬だけだと国民は飲まないだろうからということで用意したアメの、教育無償化については反対の方が多い。賛成が28%しかいない。緊急事態条項も9条改正よりは賛成が少ない。参院合区解消は、一番害悪がないかと思われるけれども、賛成は少ないですね。つまり国民は、恐らく9条改憲が焦点だと思っているんですよね。他のものは余分だと。だから賛成が一層少なくなる。でも9条改憲については賛成44%、反対46%です。

ところが9条1項2項を維持して自衛隊を明記する案と、2項を削除して自衛隊の性格を明記する案と、そもそも自衛隊を明記する必要はないという私たちの意見と、どれがいいですかということも聞いています。この回答は、9条1項2項を残して自衛隊を明記するという案が40%賛成です。石破案、一番悪い案、9条2項なんかなくして自衛隊は何でもできる、海外派兵も、核兵器も持てる、それが28%、そして自衛隊を明記すること自体に反対だといっているのは29%しかいない。これは何を意味するか。安倍改憲は危険だと思っているけれど、安倍が実際に出している案についてはまだまだ危険性が入っていない。

いま、明らかに3000万人署名の雰囲気が変わっています。いままでは聞いてくれなかったけれども、安倍改憲といえばみんな聞いてくれます。「安倍政権を倒すための署名ですか」、「そうじゃありません」なんて固いことをいうと、何だといわれるくらいです。でも安倍政権を倒す、そして安倍改憲を阻むための署名ですといって署名してもらう。同時に重要なことは、安倍首相がいっている改憲――自衛隊を明記するだけですよといっているけれど、これはみなさんが考えているような自衛隊を、本当に変えますよ。戦争する国になるし、戦争するための憲法になりますよ。そういう点をやっぱりはっきりと訴えていって3000万署名を実現する。これがいますごく重要な課題なんじゃないかと思います。

 今日何をいいたかったかというと、9条は死んでいない。9条は私たちの運動の力によって、明らかに自衛隊の活動、戦争する国づくりに対する最強の歯止めです。いろいろな意見がいま出ています。立憲的改憲論、9条は死んでほとんど役に立たないから、もっと自衛隊を縛るような改憲が必要だといっているような人がいます。真っ赤な間違いです。

 9条こそが最強の縛りであり、その縛りがきついから安倍首相はなんとしてでも9条の改悪を行いたい。しかも9条2項を削除したいけれども、そんなことをやったら国民が許さないから、9条2項を残して事実上2項を死滅させるような改憲をやろうとしている。そのときに私達がやらなければいけないことは、この憲法の力、私たちが市民と野党の共闘によって守ってきたこの憲法の力をまずは守ること。安倍改憲を阻むことです。その上で憲法の生きる日本、憲法の生きる東北アジアをつくるための第一歩を踏み出すことだということを強調したいと思います。

このページのトップに戻る


福岡防衛大学校いじめ裁判から見えるもの

平 和子(南スーダン派遣差し止め訴訟原告)

まるで戦争前夜を彷彿とさせるような現職自衛官による暴言問題が世間を騒然とさせました。
最近私は、一連の防衛省不祥事根底の背後に、防衛大学の存在がある事を街宣で訴えています。私が原告の南スーダン派遣差し止め訴訟でも御世話になっている佐藤博文弁護士が福岡の防大いじめ裁判も手掛けておられる御縁で、こちらの原告のお母様とも連絡を取り合っています。

昨年、盛岡の母親大会でお招きを受けた際、彼女にも発言していただきました。直接いじめ(いじめと言うより教官ぐるみの虐待そのもの!)を受けた息子さんが、自らの手で記録した証拠写真と共にご説明を受け、不覚にもその場で我慢出来ず落涙してしまうほど、それは壮絶な内容でした。

彼女が発言すると、会場全体が息を飲み…やがて涙に包まれました。一言で言えば防大は、下級生(部下)を虫けら同然にして卒業する「冷血人間育成機関」です。旧日本軍が上官の命令を「絶対」とし、市井の市民の命を情け容赦なく扱う…いわゆる「土壌作りの場」とも言えます。福岡防大いじめ裁判の原告となられた息子さんは、ギリギリ自分が虐待する側にされそうな所で命を落とさず、人を人とも思わない冷血人間になることを決然と拒否した勇気ある若者です。お母様と二人三脚で、これ以上被害者(虐待する方も強要されている地獄の空間です)が増えることのないよう、検察側の辛い尋問にも歯を食いしばって頑張っておられます。

現在のお仕事で接する子供たちの「先生、死なないで!頑張って生きてて!」の声に励まされる日々だといいます。そのような地獄をくぐり抜けた人間たちが全国自衛官のトップとして収まり、現場の隊員たちを動かすのです。自分たちは安全な所から指示命令を出し、現地の移動も自分たちは一番安全な最後尾です。当然「任務遂行」に邪魔になる「不都合な真実(日報)」は無かったことにします。自分たちの威信にキズが付き勲章が貰えなくなるからです。修羅場に投げ込まれる現場の隊員たちにすれば、たまったものではありません。彼らは純粋に「日本の国土と国民を守るため」と宣誓し、自衛官になったのです。

私は若い親御さんたちにも呼びかけます。この春から必修化された道徳で軍国教育は始まっていますよ、自分の考えを押し込め、先生(指揮官)の言うことに盲従する子供たちが作られる授業です、御注意下さい!と。

私はビラの受け取りを拒否する若者たちにも笑顔で「戦争に行かないでね」と声を掛けます。するとそれまで死んだように冷徹だった若者たちの瞳が一瞬驚いた表情と同時に目を輝かせて「ハイ;」と頷いてくれます。結局、最後の最後は、お金儲けより愛情が勝利しますよ、私はそう信じて頑張ります。

このページのトップに戻る
「私と憲法」のトップページに戻る