安倍晋三首相は2017年5月3日の改憲派集会(日本会議系の第19回公開憲法フォーラム)へのビデオメッセージと、同日の読売新聞で、従来の安倍氏の改憲戦略を大きく転換した「9条3項附加」による9条改憲論を打ち出した。6月24日には産経新聞系の神戸「正論」懇話会で、次期臨時国会で自民党の改憲案を提出すると述べた。その後、安倍首相は東京都議会選挙で自民党が歴史的惨敗を喫したにもかかわらず、意固地になっているかのように、「改憲前のめり」の発言を続けている。そして7月に入ると各メディアの内閣支持率調査が軒並み急降下し、調査機関によってはすでに危険水域の2割台に落ち込んでいる。頼みの8月はじめの「内閣改造」にしても、支持率回復のためのウルトラXはなくなっており、大きな効果は期待できそうにもない。
もはや安倍首相の切り札としての衆院解散をしても改憲発議に必要な3分の2議席をとれる保障はなくなった。安倍首相としては改憲発議をするなら、ますます衆院解散前に(両院で3分の2を持っているいまのうちに)やるしかなくなった。安倍首相の改憲のための日程選択の幅が狭まってきている。安倍首相の改憲策動は追いつめられつつある。
本誌前号に「安倍改憲~極右勢力の改憲論の起死回生の奇手・9条改憲論を打ち破ろう」を掲載した。多くの読者に関心を持って頂いたが、筆者は、この課題での市民運動の戦略的方向を提起したつもりだ。
私たちの基本的スタンスは、いま改憲は必要ない、それどころか、憲法3原則の理念をはじめとして憲法を生かし実現すべき課題は沢山あり、政治はそれに真摯に向き合うべきだというものだ。私たちの「対案」は日本国憲法だ。
当然、私たちの側から改憲国民投票に期待し、その運動を推進するという立場はとらない。それだけではない。現行改憲手続き法(いわゆる憲法改正国民投票法)は重大な欠陥立法であり、それは権力者に有利なように仕組まれている法律で、民意を正当に反映できるものではない、という重大な問題がある。このまま国民投票にもっていかれたら、極めて危険だ。
この点では市民運動の内部にも異論があるのを知っている。
そこで百歩譲って、万が一、改憲が発議された場合、国民投票を実施するための改憲手続き法がいかに危険なものであるかについて、改めて論じておきたい。
本誌は2006年5月に改憲手続き法が与党から出されて以来、10年以上にわたって、同法の問題点を指摘し、運動を積み重ねてきた。たとえば筆者は本誌2016年8月25日号の「安倍改憲と憲法審査会、改憲国民投票について」でこう書いた。
なぜ私はただちに改憲国民投票に賛成しないのか。それは現在ある改憲手続き法(国民投票法)が民意をただしく反映できない重大な欠陥立法だからだ。国民投票の有料宣伝は資金・組織力の多寡によって大きな差が生じるし、公務員の憲法に関する国民投票運動に不当な差別・制限があること、国民投票運動期間が極めて短かく、有権者の熟議が保障されていないこと、国民投票の成立の条件としての最低投票率が定められていないことなどなど、多くの点で国民投票を提起する議会多数派(一般的には政府与党)に有利な制度設計なのだ。
これはプレビシット(為政者のための人民投票)の危険がある。ナポレオンやナチスはこうやって国民投票を利用した。最近では英国のEU離脱の国民投票や、タイの軍事政権がつくった憲法草案の承認の国民投票の経験がある。これを見ないで、単純に国民投票が民意を正しく反映するなどと思ったら、大間違いだ。
戦争法などに反対し、憲法審査会を監視し、民意を正しく反映しない「国民投票」やプレビシットに反対する運動を通じて、民主主義をいっそう根付かせ、憲法を守り、活かす民意を強化することこそ、焦眉の課題だ。
一般に、とりわけ安倍政権の下で、政治が民意を反映しないがゆえに、市民の中に間接民主主義への疑念が生じ、国民投票のような直接民主主義に期待する空気が生まれるのは当然だ。それだけではない、憲法第9条をはじめ、憲法の3原則(基本的人権の尊重、主権在民、非武装平和主義)と現実社会の極度の乖離から、それを国民投票で再確認し、為政者に強制したいという願望が生じるのもまた当然である。問題は、いま安倍政権が企てている改憲と、改憲国民投票がこうした期待に添うことができるものかどうかである。筆者は、それどころか、現在すすめられようとしている改憲国民投票はこれに全く逆行するもので、民意を正しく反映せず、安倍政権(あるいは改憲派)のための国民投票であり、プレビシットそのものだと考えている。
改憲手続き法が自民・公明両党によって国会に提出されたのは2006年5月で、安倍政権下の2007年5月に3つの附則と8項目の付帯決議を付けて強行採決された。この法律は18歳投票権問題など投票主体や、一般的国民投票など投票対象、国民投票運動の内容などもあいまいなまま強行された欠陥立法だった。第2次安倍政権の下で、2014年6月、同法は18歳選挙権との関係や、公務員の「政治的行為」に関する部分を改定した。しかし、同法が民意を正しく反映しない悪法であるという本質は代わらなかった。
2016年12月25日の本誌「ホントに民主的? 国民投票の落とし穴」では、市民運動の側は、もともと改憲が民意でないのだから改憲手続き法はいらないという原則的立場を前提に以下のような多くの問題を指摘した。
この法律が(1)最低投票率が定められておらず、低投票率でも改憲が成立するおそれがあること(国民投票が成立するためには、100歩ゆずっても、過半数、ねがわくば3分の2が必要です)、(2)国会で改憲が発議されてから、国民投票までの期間が60日から180日と極めて短期間であり、有権者が熟議する期間が短すぎること(私たちは1年でも2年でも当然と主張)、(3)有権者を20歳に定めるのは憲法という未来に責任をもつ最高法規の成否に若者を加えないのは間違いであること(私たち市民運動は18歳どころか、義務教育終了年限が過ぎた人びとに付与して当然だと主張しました。後に18歳投票権で自民党や民主党が合意しました)、(4)在日韓国・朝鮮人など、定住外国人に投票権を付与しないのは誤りで、外国にはそうした例があること、(5)TVのCMなど、マスコミなどを使った国民投票の有料コマーシャルを原則、投票日の2週間前まで容認するのも間違いだ(当初案はこの制限すらなかった。年がら年中、有名タレントが私たちの明日のためにも改憲に賛成しましょうとか、あるいはこの2週間の制限期間でも、私は改憲に賛成ですと語りかける事は可能です。)、これでは資金力によって宣伝力が決まってしまい、圧倒的な宣伝力の前に、ゆがんだ国民投票が実施されかねない、テレビ・ラジオ・新聞などの有料コマーシャルは一切禁止すべきだ、(6)公務員や教育者の国民投票運動について、不当な制限が多すぎること、議員を選ぶ公選法と異なり、憲法の将来にわたる選択に際しては、地位利用などの禁止はやむをえないとして、もっと大幅に自由にするべきだ、⑦憲法が定める「この過半数」とは何か、分母は有権者総数なのか、あるいは投票総数なのか、自公案は有権者の意見を最も反映しない「有効投票の過半数」にされ、棄権、白紙、他事記載などは意見の表明と認めないことは正しくないこと、などなど、さまざまに主張しました。
これら指摘した点が変えられないままに、もし「国民投票」がおこなわれたら、その結果は民意を正しく反映するものとならずに、国民投票の発議者、議会の多数派、政府に極めて有利な結果を招くおそれがあります。
雑誌「通販生活」2017年盛夏号(7月発売)は、「国民投票が近づいてきた」「憲法改正国民投票とテレビCM」という巻頭特集を組み、「いまの『憲法改正国民投票法』はおカネのある改憲派に有利。まことに不公平だ」と指摘した。同誌は憲法改正国民投票法第105条の主旨は「国民投票の期日前15日以前は広告放送は100億円でも200億円でも、賛成、反対のテレビ広告、ネット広告を、出したいだけ出すことができる」と指摘する。さらに、10年前の同法が決められた当時は問題にならなかった「ネット広告」についての決まりがなく、ネット広告は投票日まで無制限だ、と指摘する。同誌で映画監督の森達也氏は「映像は『感情を動かすメディア』で、……一番簡単なのは『九条を変えないと、こんな怖いことになりますよ』という形で不安や恐怖感を煽ること」と述べる。また同誌で元広告代理店の営業マンだった作家の本間龍氏は「大量のテレビCMによる影響力は想像以上に大きいので、公平を期すためには全面禁止にすべき」「おそらく憲法改正に『賛成』『反対』が短いワンフレーズで連呼されることになるでしょう。それが大量に流れると、テレビをつけている人たちの耳にくり返し届く(ながら視聴)ことになり、その効果は想像以上に大きいのです」という。ジャーナリストの津田大介氏は「『災害救助などでこんなに頑張っている自衛隊を“違憲だ”と否定されていいのですか。憲法を変えて、大手を振って彼らを応援できるようにしましょう』というのは、国民感情に訴えかけるという点で効果的です」「よく考えられていると思ったのは、この主張が『自衛隊を合憲に』というわかりやすいワンフレーズで訴えやすいからです。このフレーズ自体に反対できる人はなかなかいません」と指摘する。
この特集記事は「通販広告」を専門にしている(株)カタログハウスが社の威信を賭けて以前からくり返し特集しているもので、非常に優れた内容である。ぜひ読んで頂きたい。
そのうえで「通販生活」の記事には、ひとつ、気になることがある。
同誌が「『国民投票のルール設定を考える円卓会議』の公開討論会も、マスコミや、民放連から無視されている、自民党主導でこのままいきなり九条国民投票の本番に突入してしまうのだとしたら、おそろしい。国民投票を楽しみにしている本誌としてはとても悲しい」として、憲法審査会の委員に同法105条の改定を呼びかけている点だ。筆者は「円卓会議」のみなさんをはじめ、この法律改定への努力にたいして支持を惜しまない。しかし、安倍政権与党が多数を占める憲法審査会にその実現の可能性がどれほどあるだろうか。筆者は、安倍改憲阻止の運動を盛り上げ、改憲国民投票を阻止するために奮闘することこそ、この「悪法下での国民投票」を阻止する、可能で有効な道ではないかとおもうのだが。
(事務局 高田健)
【お詫びと訂正】
前号、「私と憲法」194号の巻頭の文章「安倍改憲~ 極右勢力の起死回生の奇手・9条加憲論……」の中で、脱落と重複がありました。お詫びして訂正致します。
●4頁冒頭に以下の文章を挿入します。
の二階俊博幹事長は6月16日TV番組で、同時実施案について「(私は)適当ではないという慎重論だ」
●5頁下段下から6行目から3行目までの以下の文章を削除します。
文字通り総がかり行動実行委員会の幅と量を大きく超える共同行動を実現して、前述の「日本会議」の伊藤が述べたような「(護憲派に)昨年(2015年)
山口たか「市民自治を創る会」代表
特定秘密保護法制定、「安保関連法」(戦争法)制定、今年の共謀罪の強行採決などなど、安倍政権の独裁政治は一層ひどくなる一方です。うやむやに終わらせようとしている森友問題、加計問題。教育勅語が復活しそうな教育行政。安倍首相本人を含め、暴言続出の大臣や政務官……、「腹心の友」や身内、お友だちさえ良ければいい、そのレベルの低さは言うまでもありませんが、かつてこれほどの政治の私物化があったでしょうか。少なくとも私が大人になり政治に関心を持つようになってからは、なかったと思うのです。また、5月3日改憲派の憲法集会での、首相の「9条 加憲 改正案」のメッセージ。自民党改憲草案 絶対反対を掲げてきた市民運動に肩透かしを食わせるような唐突な内容には、自民党内部からも驚きと戸惑いがあがっています。
全国各地で、安倍政権STOPの動きが活発に展開されたことは、けだしまっとうなことでした。民主主義や憲法が根底から脅かされて、黙っているわけにはいかないと考える市民の運動が全国津々浦々で巻き起こりました。しかしながら、この間の政権支持率は高止まりで推移して、私たちはあきらめや徒労感に襲われることも一度や二度ではなかったと思います。しかし、ここへきて、政権を揺るがし、首相が動揺し、与党内にも安倍批判がやっとでてきました。7月2日投開票の東京都議会議員選挙の結果です。自民党の壊滅的な議席喪失、小池知事率いる都民ファーストの会の予想を上回る圧勝。共産党の健闘の一方で民進党の凋落……。
自民議席の減少によかった、とか自業自得、という声が聞こえてきます。政権の衝撃は大変なものがある様子が報道各紙から読み取れます。自民党を、古い政治、利権政治と断じ、あたかも、都民ファーストの会が改革勢力であり、東京を変えてくれそうな期待を抱かせていますが、都民ファースト自体が危険な極右思想の持主が代表であり、小池知事自身が日本会議のメンバーであり第2自民党と言っても過言でなく、決して油断も安心もできません。都議選は一自治体の選挙ではない、全国へ波及すること、国政に大きな影響を与えることから、結果を注視していました。今、一番重要なことは自民の壊滅、都民ファースト大躍進という状況を逆手にとって、追い込まれた政権を一層追い詰め、さらに全国に波及させるために全力投球することだと思います。あらためて、北海道の政治状況をふりかえりながら、現状を報告させていただきます。
北海道では、町村信孝衆院議長の逝去に伴い行われる北海道5区補欠選挙を2016年4月に控え、安保法制の廃止と立憲主義の回復を共通合意として、野党統一候補を擁立することをめざして「戦争させない北海道をつくる市民の会」をたちあげました。野党と野党をつなぐ接着剤の役割を市民が担えないかと考え、私も言い出しっぺの一人として、野党への働きかけや集会、街宣など取り組み、立ちあげから1か月で1000名の賛同者が集まりました。野党統一候補の擁立については、政党の議論がなかなか見えず、年が明けて、やっと2月に統一候補としてケースワーカーの池田まきさんを擁立することができました。その結果、共産党と民主党(当時)がいっしょに街頭宣伝したり、練り歩きや、集会も共同に取り組まれました。政党と市民が対等に選挙活動に取り組んだことも大きな収穫でした。
かつてない共同行動は、5区各地で新しい風が吹いたかにみえました。しかし池田まきさんは、123,517票、故・町村氏の娘婿・自民党の和田義明候補は135,842票で、私たちは涙をのみました。時間不足、知名度不足、地盤看板かばんは町村氏に比べるべくもありませんが、投票にいかない層への働きかけや、自公との政策の違いをもっと鮮明にすることなどで野党統一候補の勝利は可能でしたし確かに新しい風は吹いていたと思います。後悔 先に立たず、ですが、その一連の動きは、7月の参議院選挙に影響を与えました。定数3議席のうち、自民党は1議席、民進党が2議席を確保したのです。希望はあります、野党が力をあわせれば自民公明を減らすことは可能だと確信に変わりました。この野党統一候補を北海道全12の選挙区で実現させることをめざし、市民団体「戦争をさせない北海道をつくる市民の会」は「戦争させない市民の風・北海道」としてリ・スタート。全道各地での運動へと広げることが始まりました。札幌では「さよなら安倍さん キャンドルウォーク」や、民進党、共産党、社民党との対話集会をそれぞれ行ったほか、野党国会議員共同街頭宣伝も実現しました。また、あべ友のジャーナリスト山口敬之氏のレイプもみ消し疑惑や森、加計問題など、「あったことをなかったことにできない」をキーワードに街頭宣伝や集会も行っています。
各選挙区に目を転じると、北海道1区は、道都札幌の中心であり、横路孝弘氏の引退声明をうけ、新人の道議会議員が跡継ぎとして立候補を予定しています。すでに16年11月から「1区市民の会」をつくり活動しています。これまで市民集会などへ参加したことのなかった民進党の候補予定者が街頭へ出て来て、共産党の候補予定者とともに、共謀罪反対の街頭宣伝をいっしょに行うようになりました。2区は札幌市北区東区が選挙区です。ここでも、「市民と野党の共闘を求める2区市民の会」がスタートし、民進現職衆議や共産党候補予定者、道議や市議も参加して、もり・かけ問題や共謀罪反対のトークカフェを行いました。3区は、豊平区清田区白石区が対象です。「嘘とごまかしもう沢山 さようなら安倍さん!市民集会」を開催。日本ハムの試合にあわせ、4万人の観客を対象に、ドーム前で、民進党現職と共産党候補予定者が、ともに街頭宣伝。7月にも、お2人が参加予定のトークを行います。4区は、札幌市手稲区をはじめ小樽や、泊原発を抱える選挙区です。野党の現職はいませんが民進、共産の両候補予定者が、脱原発を掲げ共謀罪反対の共同行動に積極的に参加しています。5区はもちろん、昨年の補欠選挙の激戦を経験した池田まき候補の地域です。野党共闘を求める5区の会も立ち上がりました。しかし池田まきさんが、無所属から、民進党へ参加したこと、他の11の選挙区の候補調整が進まないなかで、まだ、野党統一候補とは位置づけられていません。そのため共産党との関係も今ひとつスムースにいかない現実があります。しかし、「市民の風」は、池田まきさんと政策協定を結んでおり、なんとしても当選を実現させるという立場です。
その他、6区旭川方面では、「市民と野党の共同を進める六区の会」が7月末に結成予定です。9区は室蘭日高地方、10区は岩見沢などを中心に、共謀罪反対アクションに、民進、共産、社民党がメッセージ参加、12区は稚内などを含む道北地方で広いエリアですが、「戦争をさせない遠軽町民の会」が中心を担って活動しています。
このように、参議院選以降、全道で、地域ごとのグループや組織が相次いで結成され、野党と市民の共同行動が少しずつ広がっています。選挙共闘とまでは言えない、共同行動ですが、全道の連絡会も開かれ、各地の多様なアクション報告の他、活発な意見交換が行われています。一方、地域の枠を超えて活躍しているグループもできました。「市民の風」路上ライヴ隊です。受験生ブルースの「共謀罪ブルース」や、「小さい秋見つけた」の替え歌「怪しいアッキー みつけた」など、デパート前で、公園で、集会前に、お声がかかれば、ギター抱え神出鬼没どこでも現れ歌います。歌にあわせたダンスチームもできました。歌と一緒ですと、街頭演説にも足を止めてもらえたり、チラシの受け取りもよかったり、今、大活躍です。共謀罪反対が接着剤となり、各地の運動がつながってきました。この広がりを大切にし、行動を積み重ね、北海道十二区すべてで、議員と市民、政党と市民の共同による「安倍政権STOP」のうねりを作っていきたいと考えています。
都議選の結果をうけ、安倍首相は戦略を練り直し、3分の2議席を失わないうちに、改憲へ突き進むでしょう。殊勝な顔をして反省を口にし、ソフトな改憲戦略に転換することでしょう。でも私たちは騙されない、国民をなめきった政権を許さない。政治は、市民の生活を豊かにするためにあるべきです。安倍首相の自己満足や自尊心や見栄やお友だちのためにあるのではない。
しかし一方で都議選の総括をめぐり民進党の迷走には正直、がっかりしています。有権者市民の気持ちがくみ取れない執行部にみえる。そんな報に接し、野党は共闘と叫んでも……、むなしくならないと言えばウソになります。野党共闘への想いはしぼんでしまいそうです。民進党は、市民の求めることは何かをしっかりつかみ、「国民ファースト」(都民ファーストの国政政党版)の影におびえることなく共に闘いの戦列に加わってほしいと思います。戦争への道か、平和か、格差拡大か、公正公平な社会か、民進党自身が問われていると思います。共謀罪が施行された今、民主主義や、思想・信条の自由や、集会・結社の自由や、公正や平等や人間の尊厳がいかに大切な価値か改めて思います。当たりまえだと思っていたことが、国民の不断の努力によって保持しなくてならないのだということを日々震えるような思いでかみしめています。
重い病気を抱えながら、安倍政権の崩壊と原発の廃炉を見るまで死ねないと心から願っている友人が私のそばにいます。1日1日をいとおしむように暮らしている、その人のためにも、安倍政権の最後をみたい、そのために、時間もお金も体も総動員しようと思っています。
山本みはぎ(不戦へのネットワーク)
安倍政権の支持率が落ち続けている。時事通信が7月14日に発表した世論調査の結果の支持率は29.9%、不支持も48.6%となり、あの読売新聞の調査でさえ、30%代になっている。政権発足から4年6か月でようやくの感がある。森友・加計問題に見られる、安倍のお友達への便宜供与、それに対する説明責任の放棄、これまたお友達の稲田防衛大臣をはじめとする閣僚の問題発言の連発と、それを「問題ない」と擁護する一連のことで、安倍は信用できない、という市民の率直な感情が現れたものだと思う。しかし、それだけではなく、
第2次安倍政権が発足して以来、特定秘密保護法や安保法制(戦争法)の強行採決、そして極めつけは参議院の委員会採決を飛ばし、「中間報告」という奇策で通してしまった「共謀罪」など、安倍政治の危うさにようやく気付き始めたということなのだと思う。
愛知でも共謀罪成立阻止に向けて、5月2日に、安倍内閣の暴走を止めよう共同行動実行委員会と秘密法と共謀罪に反対する愛知の会、国民救援会愛知県本部の3者の呼びかけで『「共謀罪」阻止・緊急行動あいち』を立ち上げ、行動を行ってきた。5月19日、6月10日にはそれぞれ1000人を超える結集で集会・デモ、毎週土曜日の街宣や、6月には1週間の連続街宣など様々な活動を繰り広げてきた。緊急行動だけではなく、戦争法廃止をあげて地域で活動する様々な団体が把握しきれないほどのスタンディングや街宣なども行い、この間積み上げてきた運動の成果が幅広い行動につながったと言える。緊急行動はいったん解散をするが、今後も改憲阻止や安倍退陣で引き続き活動をしていくことを確認している。
6月に短期間だが沖縄の辺野古・高江に行ってきた。工事を急いだ杜撰な作業で、高江のヘリパットは至る所で欠陥が明らかになり、7月からまた工事が再開された。辺野古のK9護岸工事に対しても、連日ゲート前や海上での阻止行動が炎天下続いている。愛知では、沖縄の闘いに連帯すべく、高江に派遣された機動隊に対し、5月15日、932名の請求人と32名の代理人で住民監査請求を行ったが、6月27日却下通知が来た。今後については裁判を起こすかどうか協議を進めている。8月19日は、山城博治さんを招いて、「止めよう!辺野古・高江新基地 やめさせよう!安倍政権」の集会・デモを行う。4月に、「本体工事着工」と華々しくマスコミを動員して工事をはじめたにもかかわらず、K9護岸の工事は、設計通りに工事が進んでおらず工事は中止をするという。沖縄県は7月19日にも、辺野古撤回と工事の差し止めの裁判を再び起こすということです。既成事実の「印象操作」で諦めさせるという安倍政権の姑息なやり方に騙されないよう、翁長県政の裁判闘争を全力で支援し、現地での阻止行動への参加とともに、愛知でも世論を盛り上げる活動を継続していきたい。
地元、小牧基地では2年前から小牧基地のオープンベースで、ブルーインパルスの展示飛行が周辺住民・自治体の反対を押し切って強行され、昨年の伊勢・志摩サミットでは警備を名目にオスプレイが飛来するなどの動きがある。また、隣接する三菱重工南工場では、85%が国内部品で関連企業も1000社以上と言われる、戦後初の純国産戦闘機・次世代実証機X2心神の試験飛行、そして同じ三菱で組み立てられたF35ステルス戦闘機の試験飛行も行われた。更に、2018年初頭までに北太平洋地域のF35ステルス戦闘機の機体のリージョナルデポ(整備拠点)になるという報道がある。これらのことは、県営名古屋空港の滑走路を使ってすべて行われることから、愛知県に対しての申し入れ・要請も行っている。三菱重工南工場が、リージョナルデポになれば国内に配備されたF35ばかりか、在日米軍、韓国、台湾などから、整備のために飛来し県営空港の滑走路を使うことになる。安倍政権になり、武騎輸出が解禁され、軍学共同が進められようとする中で、今後三菱に対する取り組みも 強化していきたい。
5月、安倍首相は、憲法9条に3項を追加し自衛隊を明記するという改憲案を言い出した。改憲は安倍の宿願で、この間96条改憲や緊急事態条項など様々な動きを見せている。衆・参両院で改憲勢力が2/3を占める今こそ改憲と、都議選の惨敗にも関わらず2018年の通常国会での国会発議、2020年の施行というスケジュールを崩していない。そもそも、3項に自衛隊を明記することは、戦力の不保持と交戦権を認めないとした2項を骨抜きにするものだ。安倍政権の支持率が落ちたと言ってもまだ30%代だ。加えて自民党に代わる受け皿が情けない。愛知でも野党共闘を進める動きを継続はしているが民進党はもっと主張を明確にし、共闘を進める大同団結をしなければ勝てない。改憲を阻止するには、改憲案そのもの問題点をもっと周知するとともに、安倍政権の支持率を落とすこと、しっかりした対抗政策を打ち出すことに尽きると思う。今が正念場。
藤井純子(第九条の会ヒロシマ)
主権者って誰だろう。もちろんわたし。わたしのまわりの人たち。そしてこの地に住む人々… 憲法には「主権は国民に存する」とあるけれど、広島にも在日の人たちが住んでいる。この軍都廣島では、韓国や中国から強制連行してきた人たちを働かせ、共に被爆させられた。その人たちも主権者ではないか。
しかし7月19日、広島で朝鮮学校の無償化裁判で不当判決が出た。2010年に始まった高校の授業料無償化で外国人学校は文科相の指定を受ける必要があるが、ほとんどが受け入れられている。弁護団長も朝鮮学校に対して明確な差別があると怒る。国は裁判では「外交的な理由ではない」と主張したしたにもかかわらず、裁判長は「北朝鮮や朝鮮総連の強力な指導の下にあり、就学支援金を支給したとしても授業料に充てられない懸念がある」などと言いつのり矛盾だらけだ。子どもたちの学習する権利を考えてほしい。これがなぜ平等権を定めた憲法14条に違反しないというのか。
司法に圧力をかけ、こんな判決を引き出すアベ政権に憲法を語る資格はない。アベ首相が5月3日に打ち出した改憲には教育無償化があるが憲法には、すべての人が教育を受ける権利が保障されているし、民主党政権による高校の授業無償化のように法律で十分対応できることは明らかだ。これまで一貫して反対してきたのが自民党であることを忘れたのか。改憲を言う前に朝鮮学校の授業料無償化を優先するべきだ。
つまりみんなが気づいているように9条を変えたいがための方策でしかない。その9条においても、自衛隊を合憲化するために9条の2を加えるだけだという姑息な改憲案だ。集団的自衛権行使ができる自衛隊にし、戦争状態の南スーダンに派兵させておきながら、災害でお世話になっているのに違憲状態では申し訳ないでしょと言う。それなら災害救助には武器は要らないでしょ。だから自衛隊から武器を捨てさせてねと言いたい。市民をだまそうとしても、もうそうはいかない。
広島でも県の9条の会ネットワークは6月例会で、アベ改憲について学習会をし対抗することなど確認した。さっそく広島弁護士会は、7月末に憲法講演会が行う。8月末には、広島県内から県東部に九条の会が集まって討論会を行うことも予定している。自民党が改憲案を出そうとしている秋の臨時国会を意識し、今秋9~10月には県内各地でそれぞれが学習会や講演会の取り組みが計画されつつある。これまで秘密法、戦争法、共謀罪法に取り組んできた広島版総がかり「ストップ!戦争法広島実行委員会」は今後、改憲問題に共に取り組み、輪をより大きく広げて統一署名行動に参加することも確認した。また、11月憲法公布の日には、5月3日と同様、憲法合同集会開催を決定した。
しかし一方で、岩国の米軍基地に厚木からの空母艦載機部隊の移駐が岩国市長によって容認され、今年末までに移転する。呉の海上自衛隊には、戦争法を発動し米軍防護を行ったヘリ空母と同型の護衛艦「かが」が配備され、拡張強化が進む。基地問題では、基地交付金や、基地・自衛隊との共存共栄を進める自治体を前に、なかなか大きな動きにならないもどかしさがある。爆音や米軍住宅建設、基地被害に異を唱える声は少なからずあるが、出撃基地になるのはイヤだという声は小さい。平和主義は確かに根づいていて戦争する国になるという実感はないのかもしれないが、呉や岩国、沖縄の現実に目を向ければ、戦争をしない国・日本の憲法の理念に立ち戻らねばならないと気づくはずだ。
そのためにも第九条の会ヒロシマは、今年も8.6新聞意見広告に取り組んでいる。この連絡会の皆さんにもご協力も頂き、8月6日の朝日新聞(大阪本社版・東京セット版、西部版)に意見広告を掲載する。賛同してくださった皆さんに心より感謝し、一人でも多くの朝日新聞購読者に、8月6日のストップ改憲!意見広告に共感して頂きたいと願っている。
7月7日、核兵器禁止条約が採択された。ヒロシマ市民は今年、「核兵器禁止条約のためのヒロシマ共同行動」実行委員会を立ち上げ、第九条の会ヒロシマも行動に参加してきた。6月15日の国連会合開会に合わせ、原爆ドーム前でキャンドルメッセージの集い(写真添付)を行った。核兵器禁止条約採択直後の7月8日には、条約採択を歓迎する記念集会を行って核廃絶へのヒロシマの強い思いを発信した。核廃絶においては若い人たちの独自の動きも出て、パレードやワークショップも次々に開催されているようだ。
おろかにも戦争する国にすることには積極的で、戦争する人づくりにも精力的なアベ政権は、核兵器保有国の側に立ち、国連会合にも参加せず、ヒロシマ・ナガサキを経験した国の役割を放棄している。外務大臣の岸田は被爆地広島1区選出の議員でありながら…
核兵器禁止を願う市民と、改憲反対、脱原発や非軍事、貧困や格差、歴史の真実を子どもたちに伝えようとする人々と思いを共有し、アベ政権を退陣させるために共に取り組むことは可能だ。主権者は、政治を変えられる。台湾も、韓国でも政権を変えた。広島でも共同の行動が出来つつある。沖縄の「不屈」の精神に負けず、全国の皆さんと共にアベ政権NOの声を行動につなげていきたい。(2017年7月21日)
望月衣塑子さん(東京新聞記者)
(編集部註)6月17日の講座で望月衣塑子さんが講演した内容を編集部の責任で要約したものです、要約の責任はすべて本誌編集部にあります。
2014年4月に第2次安倍政権は、武器輸出を原則禁止する武器輸出3原則を廃止して、武器輸出を原則解禁とする防衛装備移転3原則を21人の閣僚によって閣議決定しました。私は以降、足かけ約3年にわたり武器輸出を巡る日本の現状とそれに伴う軍学共同について取材しまして、その経過を「武器輸出と日本企業~武器輸出大国ニッポンでいいのか」にまとめております。今日はまず世界の軍事費のお話しをした後に本で取り上げた事柄とあわせて、イスラエル、アメリカをはじめ世界で進む無人戦闘機の開発についても触れさせていただきたいと思っています。
冷戦の終結後に一時期激減した武器取引ですが2005年から再び急増をしています。1991年に6790億ドルだった世界の軍事費が2016年には1兆6860億ドルに達し、約2.5倍にふくれあがっています。イスラム過激派組織、「イスラム国」による紛争をはじめ中東では終わりの見えない戦争が常態化しており、中東地域の武器輸入量は2005年から2009年と2010年から2015年でおよそ61%も増加しています。
こちらが世界の軍事費トップ15です。15ヵ国の軍事費が世界の81%を占め、1兆3600億ドルに上ります。2006年から2016年にかけて中国は軍事費を最大で118%増やし、続いてロシアが87%、インドが54%増加させています。アメリカは6110億ドルを費やして世界の軍事費の3分の1を占め、2位中国のおよそ3倍に当たります。ロシアは2016年後半に軍事費を増加させ、石油価格の下落でサウジアラビアと入れ替わり3位の軍事大国になっています。2009年以来最大の軍事費を記録したインドは7位から5位に浮上。アジア・オセアニア地域は4500億ドルに達して一昨年より4.6%増加しています。2007年から2016年にかけて日本をはじめ東アジア地域では、軍事費は74%増加、2150億ドルを費やしている中国はアジア・オセアニア地域の48%を占め2位のインドの4倍を支出しています。中国は、1989年の時点でアジアで日本の半分でしたが2005年には東アジアでトップに、2014年には日本の4.7倍にまで達しています。
このグラフは、南シナ海周辺での2007年から2011年と、2012年から2016年の間での武器輸入量の変化を示しています。ベトナムや台湾など南シナ海周辺国は何倍にも武器輸入量を増加させていて周辺国の緊張が高まっています。南シナ海や東シナ海での中国の行動は周辺国の緊張を高めており、インドネシアで15%、フィリピンで25%、ベトナムで7.6%、軍事支出を増加させています。日本も2015年には減少傾向の軍事費を増加させています。アメリカと北朝鮮、中国との緊張関係が各国の軍備拡大を正当化させていて、アジア・オセアニア地域の軍事費は今後さらに拡大する見通しを見せています。2014年に3940億ドルだった世界の武器市場ですが、これが2017年には4200億ドルに達すると言われており、アジア太平洋諸国では2010年代の終わりまでに、武器市場が実質年4%伸びていくと言われています。
先週、「マストエイジア2017」が行われて取材しましたが、他の取材が忙しくてまとめられておりません。2年前のマストエイジアのお話しをします。これは武器輸出解禁後の2015年5月13日から3日間、日本で初めて国際的な武器の展示会「マストエイジア2015」がパシフィコ横浜で行われました。テニスコート13面に及ぶ会場には、欧米の海軍司令官はじめASEAN、中東など世界39ヶ国の海軍の幹部、国内外の防衛企業125社、計3795人が詰めかけました。先週のマストエイジア2017には4023人、ほぼ同じ規模が行われておりました。会場の入り口付近で100㎡に渡って大きく陣取っていたのが日本企業のパビリオンですが、写真のように桜をちりばめた華やかなデザインでした。こちらの展示会には、初参加の海上自衛隊に加えて日本の企業13社が参加しました。どんな企業が参加したのか。こちらの表は日本の防衛企業の売り上げトップテンですが、この中で丸がついているのが参加した企業です。
10位以下も含めて三菱重工、日立製作所、川崎重工、新明和工業、IHI、三井造船、ジャパンマリンユナイテッド、富士通、沖電気、日本無線、日本エヤークラフトサプライ、NEC、極東貿易が参加しています。
どんなものが展示されていたか。こちら三菱重工が製造し世界に誇る静粛性に優れた「そうりゅう型潜水艦」の1メートル模型です。そしてこちらBAEシステムズが展示していた海上警備などに使う40ミリ機関砲です。こちらは川崎重工が製造するP1哨戒機です。潜行中の潜水艦を発見し、ロケット弾や魚雷などを使って攻撃、不審船を追尾したりします。そして日本ブースとは別に、NECと極東貿易は単独で会社名の入ったブースを出していました。NECは民間で使われる港湾監視や海上の広域監視システムのジオラマや実物大模型(モップアップ)を置いております。NECの幹部が意気込みをこう語っています。「防衛技術の流行を掴むには武器展示会への参加は必須です。日本は武器輸出3原則が足かせとなって長らく武器展示会に参加ができませんでした。ヨーロッパなどは日本が防衛装備をアメリカから全部買っていて、日本は防衛技術を持っていないと思っている国も多い。新3原則ができ、ようやく日本の防衛技術を世界にアピールできる場ができた。この機会を積極的に捉えていきたいですね」。
初参加の海上自衛隊ですが、横浜港に護衛艦「いずも」、こちらは「いずも」のミニチュア版の模型、展示物です。実際に護衛艦の「いずも」を接岸させて、希望する軍人さん等に向けて見学ツアーも組んでいました。乗り組んだ欧米などの軍人等は、日本の「いずも」はやはり素晴らしいと好評を得ていたということです。
また展示会の同じ会場の一隅を使って行われた重要なものがもうひとつあります。それは軍人や防衛の研究者を中心に行われた、海洋の安全保障に関する防衛技術の論文発表です。機雷や魚雷などのミサイル技術や、レーダーに探知されにくいステルス性技術、
潜水艦の建造技術など3日間で110本もの論文発表が行われておりました。武器の展示会は武器を展示するだけではなく、多くの軍人や防衛研究者、技術者らが相互に交流を進める場でもあります。こちらの写真はロバート・トーマス、当時の第7艦隊司令長官です。初日に展示会での基調講演を行っています。写真のようにみなさん非常に熱心にお話に聞き入っている様子がわかると思います。展示会の最終日には呼びかけ人の森本敏元防衛相が記者会見を行いました。ロイター、BBCなど海外の主要メディアの記者も多く集まった会場で、森本元防衛相が日本の武器輸出解禁への取り組みをこうアピールしております。「『日本は武器商人になっていくのか、リスクを負いたくない』という慎重な会社が多かった。わずかとは言えサクセスストーリーが報道されはじめ、この分野にビジネスチャンスが開かれていることに多くの企業が気付きはじめています」。
この時点で展示会は予想の倍近い来場者が訪れています。そして今年の17日から幕張メッセで「マストエイジア2017」も開催されました。
武器輸出解禁の動きですが、これは実に日本にとって47年ぶりの政策の大転換でした。武器輸出を原則禁じてきた武器輸出3原則は1967年に佐藤栄作総理が国会答弁で表明したものです。具体的には次の3項目が挙げられます。「(1)共産諸国への武器輸出は認められない (2)国連決議により武器等の輸出が禁止されている国への武器輸出は認められない (3)国際紛争の当事国、またはその恐れのある国への輸出は認められない」。さらに 1976年に三木武夫首相が武器輸出についての政府の統一見解を出します。「(4)3原則対象地域については、武器の輸出を認めない (5)3原則対象地域以外の地域については、武器の輸出を慎む (6)武器製造の関連設備の輸出については、武器に準じて取り扱う」。この(1)から(6)を指しまして「武器輸出3原則等」としてきました。以降そのときどきで例外規定が設けられてきましたが、基本的に日本政府は武器輸出に慎重な態度を取ってきました。
一方で、自民党の防衛族や経団連に属する多くの防衛企業は武器輸出の解禁を強く要望し、ことあるごとに武器輸出3原則の見直しは議論の俎上に乗ってきています。そして2014年4月、武器の輸出を原則認める「防衛装備移転3原則」が第2次安倍内閣によって閣議決定されます。この3原則では「(1)国連安全保障理事会の決議などに違反する国や紛争当事国には輸出しない (2)輸出を認める場合を限定し、厳格審査する (3)輸出は目的外使用や第3国移転について適正管理が確保される場合に限る」とします。
新たな3原則により一定の審査を通れば輸出が可能になりました。これまであった「国際紛争の助長回避」という基本理念は明記されず、「紛争当事国になるおそれのある国」という表記も外れました。新3原則で禁輸対象になる国連決議などに違反しているとされる国は北朝鮮、イラク、ソマリアなど11ヶ国のみです。いまの政府の認定では紛争当事国はゼロとなっています。イスラエルや中東諸国への輸出にも事実上制限がかからず、紛争に日本が加担する可能性は高まったと言えると思います。また輸出の審査基準についても「平和貢献・国際協力の積極的な推進に資する、わが国の安全保障に資する場合」とあいまいで、政権の都合で拡大解釈される余地が残されたままです。
なぜ政府は武器輸出に踏み切ったのか。大きく3つの理由が挙げられます。ひとつは 「ガラバゴス化する日本の防衛技術」。戦後日本は自衛隊が使う武器は基本的に国内の防衛企業が開発・製造し、それを自衛隊が使うというかたちを取ってきました。一方世界を見ますと冷戦後、防衛企業の再編・合併が進み、世界の最先端の武器の流れとは違う日本特有の孤立した装備品、装備体系、防衛技術になっているという危機感が芽生えました。ふたつ目は、(1)と重なりますが、最新鋭のステルス性戦闘機F35のように国際的に進む武器の共同開発に旧3原則があることで参戦できない。また三つ目にアベノミクスならぬ武器輸出による経済的な波及効果への期待、があげられます。
武器輸出の解禁を要望してきたのは、防衛族、自民党だけではありません。2010年に民主党政権の鳩山由紀夫内閣で、北沢俊美防衛相が武器輸出3原則の改定を検討したいと発言。そのあと首相に就任した菅直人首相も武器輸出3原則の見直しで調整しますが、これに反対する社民党との連携を重視して、防衛計画大綱見直しの明記の見送りを決めています。その後、民主党・野田佳彦政権の藤村修官房長官が2011年12月談話を発表。武器輸出についての包括的な例外協定を打ち出し、アメリカ以外の国と初めて武器の共同開発を認めています。これによって武器輸出解禁への地ならしが進み、最終的に2014年4月、第2次安倍政権で武器輸出3原則が撤廃。武器輸出を原則解禁とする防衛装備移転3原則が閣議決定されます。
政府は武器輸出を具体的に進めるために数々の支援策の検討を始めています。主なものを5つ挙げます。(1)武器輸出を行う企業への資金援助。これは国が出資して特殊法人や官民ファンドを設立し、この特殊法人が調達した資金などを財源に武器輸出を行う企業に長期に低利融資できるものです。(2)武器の整備や修繕、訓練なども売る「パッケージ販売」。これは武器輸出するには販売だけに止まらず、定期的な整備や補修、訓練支援なども含めたパッケージが必要とされます。(3)武器輸出版ODA。これは武器の購入試験を低金利で貸し出すほか、政府自ら武器を買い取り相手国に贈与する案も検討されています。政府開発援助のODAとは別の枠組みとする方針ですが、事実上の武器輸出版ODAといえます。(4)特例法の制定。国の財政法の9条では法律に基づく場合を除いて、国の財産の無償ないし安価での譲渡を禁じています。そのため新興国に対して、中古の日本製の武器を無償ないし低価で提供するために特例法を制定する必要があります。こちらの特例法に関しては1月から始まった通常国会で、財政法9条に例外規定となる特則を付けるとして審議が行われました。こちらの新たな法案によって、世界各国に日本の中古の武器が出回ることが法制度上もまったく問題にならなくなります。(5)貿易保険の適用。武器輸出を行う際には契約を結んでも、相手方の国が戦争や紛争などで武器の代金の支払いができない状況が生じた場合、貿易保険を適用して一時的に損失を税金で穴埋めする政策が検討されました。
こちらの貿易保険の第1号として検討されていたのが、オーストラリアとの潜水艦の建造事業といわれています。武器輸出の試金石といわれたのが、オーストラリアの潜水艦事業です。先ほど模型でも出ましたが、昨年日本がオーストラリアに提示していた静粛性で世界に誇る日本の最新型潜水艦、そうりゅう型です。豪州の潜水艦事業には、一昨年7月にいち早く手を上げたフランスとドイツに続き、日本も参戦を表明します。最大12隻の潜水艦を想定し、総事業費は4兆2千億円といわれています。もともとオーストラリアのアボット前首相が日本のそうりゅう型に惚れ込んでいて、オーストラリア側は武器輸出の解禁前から日本のそうりゅう型が欲しいと、水面下で再三にわたって伝えていました。しかし当初防衛装備庁の幹部は、機密の塊である潜水艦を輸出するのはハードルが高すぎると否定的でした。この防衛相が変わり始めたのが、政府首脳の「準同盟国のオーストラリアへの潜水艦輸出を進め、日豪の安全保障体制を強化せよ」という指示でした。
一方、昨年9月に高い失業率を背景に日本の潜水艦を欲していたアボット前首相が、退陣に追い込まれます。首相に就いたターンブル新首相は、親中派として知られていて中国重視の体制にシフト。国内の雇用増を最優先に掲げ、これによって日本への風向きは一気に変わり、潜水艦の日本の受注は事実上の白紙状態となりました。官邸にもねじを巻かれまして、防衛省と三菱重工、川崎重工による官民合同チームが2015年7月に結成にされ、以降必死のアピールが始まります。昨年2月には三菱重工の宮永伸一社長が初めて訪豪して、一隻目からオーストラリアで建造できる用意があると訴え、地元の有力紙に全面広告も掲載しています。そこには「SHARING THECHNOLOGY FOR A MORE SECURE AUSTRALIA」(オーストラリアのさらなる安全のために技術をシェアしましょう)」と書かれていました。こちらの官民合同チームはブリスベンやアデレードなど造船業が盛んな各都市を巡り、現地企業の説明会を開催。オーストラリアの技術者300人の訓練施設をつくり4万人の雇用を創出すると訴えます。
また同2016年2月には若宮健嗣防衛副大臣が「ステルス技術を含む機密をオーストラリアと共有しましょう」と地元紙に発言。機密性の極めて高いステルス技術の輸出にも含みを持たせ、国内の防衛企業関係者を驚かせておりました。そして昨年4月には海上自衛隊がそうりゅう型2隻をオーストラリアに派遣して、オーストラリアの海軍、空軍との共同訓練を実施し最後のアピールに躍起となりました。しかし4月26日、ふたを開けてみますとオーストラリアはフランス企業を選定。日本は参加国中最下位で脱落したといわれています。
武器製造の現場、防衛企業幹部・下請けの声は 武器輸出に踏み込んだことのない日本の企業はこの間実際どんな思いでいるのかと思い、さまざまな防衛企業幹部を取材しました。彼らの声を少し紹介したいと思います。ある大手防衛企業がこう言います。「日本の武器輸出解禁の動きはあまりにも速く、アメリカのような枠組みや支援態勢をつくる時間がない。そんな中で防衛省や経産省が防衛企業にとにかく『売れ、売れ、売れ』とやっている。政府にいわれたことには絶対に反対できないから一生懸命『こういう資料をつくれ、ああいう資料をつくれ』といわれたことに応えて資料を出すが、実際にそれをやっても海外とは商習慣が違うから非常にリスクがある」とこぼします。また海上自衛隊のOBはこういいます。「潜水艦の武器輸出を政府間内でクローズで話を進めようとしていた。安倍首相は、たぶん安全保障上の情報が漏れるリスクとか、オーストラリアの技術力がどの程度か知らない。期限内につくれなければ、違約金をオーストラリアに何千億円と払わされる。会社が倒れるくらいのリスクを背負うことについて政府に情報が行っていないのではないか。国民の税金がそこで使われたら、さらに批判が出るだろうに」といいます。
川崎重工の幹部は、「新3原則ができ、いきなり潜水艦の輸出となったら、潜水艦はハンドルも弁も全部機密の世界だ。艦内のパイプのつなぎ目の、鋳物の技術は普通の鋳物ではできません。どんなに固い潜水艦を造っても、この鋳物の技術がすべての潜航深度、爆雷への衝撃体力を決める潜水艦用のリチウム電池も機密の塊です。あれを出していいのかどうか。潜水艦の音が出ないポンプ類は民間では使っていない。ポンプはあけて設計書を基に特許を取った瞬間に仕組みがわかるので特許も取れない。それも出してもいいものかどうか」と話します。このように大手防衛企業からは技術流出などのリスクを懸念し慎重な意見が続出しておりました。
では、大手貿易企業の下請けで働く意識はどうなのか。この映像は昨年1月に愛知県豊山町の三菱重工小牧南工場でお披露目のあった、日本の次世代戦闘機の技術を詰め込んだ先進型技術実証機X2です。こちらは220社が参画し30万点の部品をすりあわせ7年をかけて開発が行われました。部品の9割を国内の防衛関連企業が製造しています。こちらのX2も将来、詰め込んだ部品や技術が共同開発の名のもとで海外との戦闘機づくりで輸出される可能性が高まっています。下請けの企業の方たちはどのような思いなのか取材しました。
レーザー部品を製造する下請けの企業の男性は、「武器輸出に関しては慎重に慎重を重ねなければ踏み出したくないというのが正直な気持ち」といいます。またX2の下請けの男性がこう言います。「北や中国の脅威で防衛システムは絶対に必要だが、正直軍事産業に携わるのは怖い。僕自身もテロの標的になるから、武器をつくっているのがオープンにされるのは困る。武器をつくるのに誇りを感じるというよりも有事が心配です。金が儲かればいいという世界に走ると、逆に自分がつくったものでやられることになりかねない」。また武器の特殊ねじをつくる企業の男性がいいます。「俺は本当はやりたくない。軍事でやっていくという覚悟があるわけではない。軍備品の審査は本当に厳しくて神経を使うし、他にやりたい人がいないからやっている。できれば軍事とつながりがない仕事で稼ぎたいと思っても、現実問題として生活費を稼ぐには、軍事・民事と選別できる状況ではない」。
割り切れない彼らの思いを聞く限りでは、儲かればいいという発想で製造に関わっている人は皆無でした。自衛のためにある程度の武器技術は必要と言い聞かせ、生活のため、国のためと商品に関わってきたという人が大半でした。武器輸出が解禁となり自衛のためという意識に変化が生じています。武器輸出を行う覚悟や信念が醸成されるのは時間が短すぎると思われます。彼らから、世界の紛争に自分の製品を利用されたくないという漠然とした不安や懸念が感じられました。
武器輸出に消極的な大企業、中小企業の本音を代弁したように見えていたのが2年に一度開催されている世界最大の武器見本市、フランスのパリで開かれている「ユーロサトリ」の参加企業数の変化です。この写真は武器輸出解禁直後の2014年6月のユーロサトリを訪れていた武田良太防衛副大臣が、日本のブース内で陸自が使う訓練用のゴム銃を手にしているものです。実はこのときは経産省・防衛相の声かけがあり、日本からは史上最多の13社が参加しました。しかしこの参加企業数が、昨年6月の同じユーロサトリでは激減をしています。前回の大手6社のうち5社が撤退。NECのみが2度目の参加を決め、新たに三菱電機が1社加わりました。
激減の理由にはさまざまな事情がありますが、こちらの表でわかるように日本の防衛企業の防需依存度は、大手でも最多の川崎重工が23.9%、最大手の三菱重工が13.55%、上位9社では平均で7.7%、防衛企業全体では5%程度です。一方でアメリカの最大手ロッキード・マーチン社を見ますと87.2%、BAEシステムズは93.9%と、ほぼ専業で武器を製造販売する企業形態です。日本では防衛企業といいましても民事での利益が主な企業がほとんどで、防衛の売り上げに対する意識は他の武器輸出先進国とはおのずと違っています。
参加をなぜ見送ったのか。川崎重工の村山滋社長が昨年4月の会見で、「防衛装備品を海外に売って商売することは考えていない。ビジネスに繋がるかは考えないといけない」といっています。また三菱重工幹部は、「自分達で行うのは国防のための武器づくりです。武器を世界中に売って稼ぐという発想はまだないです」といいます。日立製作所の幹部は、「出展がすぐに販売に結びつかない」と経済的なデメリットを指摘していました。しかし、いままでの武器輸出解禁の流れの中で、潜水艦の建造競争に日本が世界に手を挙げ名乗り出たことは、世界にとって日本は本気で武器輸出をやる気だと思わせています。日本の武器や技術が欲しいフィリピンなどの東南アジア、イスラエルなどの中東、ブラジルを含む南米など、以降世界各国から要望が寄せられるようになっています。潜水艦の輸出の際は、技術流出を含めて消極的な発言をしていた防衛企業幹部ですが、ビジネスとしては採算が取れる、国策ならどのみちもうやっていくしかないという声も徐々に耳にするようになってきています。
川崎重工ですが、昨年の2月に新型輸送機C2の輸出を目指す「大型機輸出プロジェクトチーム」を設立します。このチームには営業や設計に精通するエンジニア等20人が集められ、装備庁とともにさまざまな国への輸出戦略が練られています。昨年9月からは、ニュージーランドに対して艦船や潜水艦への監視や攻撃を行うP1哨戒機や、長距離飛行が可能な輸送機であるC2の輸出協議を始めています。競争相手はアメリカ大手のボーイング社のP8や、欧州エアバスの新型輸送機A400Mなど強豪がひしめいています。潜水艦のときは慎重な声の多かった川崎重工の幹部ですが、取材には、「P1の国産哨戒機は川重にとって40年来の悲願でした。コストの削減策でC2輸送機と一体の設計や開発が進み、大量生産も可能になった。競合のボーイング社とも遜色なく競える」といいます。また別の川重幹部は、「受注できたら数千億円規模のビジネスになる。P1はNECの音響探知機器『ソナーブイ』を備え、微弱電波を察知して自動解析を行う。IHIの高性能エンジンなど、オールジャパンで製造した自信作だ。輸出となれば現地の合弁企業や整備・補修など、派生するビジネスも多く経済効果も期待できる」といいます。
アメリカ国防総省からの、日本の民間企業の武器への取り込みという動きも、同時に加速しています。アメリカ国防総省は、武器輸出解禁後の2014年に続き、昨年11月末にも安全保障での連携強化を名目に、経産省を窓口にして日本企業約60社を招いて説明会を行っています。アメリカ軍の技術や商品を武器転用する際に必要な手続きの解説なども行っています。一回目の説明会後の12月上旬には、4日間にわたってアメリカ側と企業の個別会談が行われており、60社の中からアメリカ軍が選んだ自動制御などに関連する18社が米軍への技術のプレゼンテーションをしたということです。そもそもアメリカは、長期にわたって日本の高い民生技術に目を付けてきています。どんなものを狙ってきているのか。森本敏元防衛相は、「日本が武器輸出で勝負できるというのは完成型の武器ではなく、素材やレーザー、ミサイル、部品などの技術です」といいます。
いくつかの例を紹介します。新3原則後に初めて行われたイギリスとの交渉では、イギリス企業「MBDA」が開発する空対空ミサイル「ミーティア」の開発に、三菱電機が開発した次世代パワー半導体、窒化 ガリウム(GaN)を利用したいとしています。また過去に アメリカのF22戦闘機には、宇部興産が開発した1800度以上の耐熱性を持つ「チラノ繊維」が使われています。ベトナム戦争末期には、アメリカは開発したスマート爆弾の兵器誘導部にソニーのビデオカメラを装着。このビデオカメラはレーザー誘導兵器に利用されています。また四国連絡橋が船のレーダーを攪乱しないように開発されたTDKの磁性材料「フェライト」も、湾岸戦争で米軍が初めて投入したステルス攻撃機の技術に転用されたといわれています。このように歴史的に見てもさまざまな日本の民生技術が米軍に利用されてきています。
そしていま日米両政府が支援しているのが、三菱重工と米軍事企業レイセオンとの武器の共同開発です。一例をご紹介したいと思います。三菱の防衛宇宙開発部門は、毎年全体の10%、4000億円の売り上げを目指しています。10%というものの、国内の売り上げでは4分の1を軍事部門で占めています。こちらの表は三菱重工の経営戦略の概要ですが、近年三菱が軍事でもっとも重点を置いて取り組んでいるのが最新鋭の海上配備型迎撃ミサイル「SM-3ブロック2A」といわれるものです。こちらは2006年からレイセオン社と共同で開発が進んでいます。高々度150キロ以上の大気圏外でミサイルを迎撃する。いま日本に配備されている地対空誘導弾PAC3は高度20キロ圏内での迎撃システムですが、この新たなSM-3ブロック2Aはより広範囲をカバーします。このSM-3ブロック2Aは、弾が1発24億円します。日本は1兆5700億円の予算を充て、政府主導で海上の発射実験も実施しています。ちなみにこの弾はだいたい1回で8発装填するらしいんですが、1発は試射として使われるということで、24億円を試し撃ちするらしいです。
こちらの写真は、レイセオン社の昨年10月の国際航空宇宙展での展示です。同社の幹部は取材にこういっていました。「武器輸出解禁でSM-3ブロック2Aに代表される日本の高度な技術との共同開発は今後も進んでいくでしょう。期待も込めて最大規模の出展にした。装備庁や日本の企業からの手応えはとてもいい」といいます。2016年6月22日に北朝鮮による2発目の中距離弾道ミサイル「ムスダン」の発射を受け、安倍首相など国家安全保障会議(日本版NSC)はこのSM-3の取り組みの加速を指示しています。こちらは今年度に開発を終えるといわれていまして生産に数年かかるといわれていますが、このミサイル配備は日米双方の意向に基づいて進められる予定です。これについてロシアは、アメリカが計画するポーランドやルーマニアでのミサイル配備がロシアの核抑止に大きなダメージを与えるといって強く反発しています。イギリス在住の平和学研究者の中村久司先生はSM-3ブロック2Aのミサイル配備は「第2の冷戦を招きかねない」と警告しています。
武器輸出解禁に踏み切った日本で進む軍学共同の動きについて触れておきます。防衛省は2015年6月に初の助成金制度、「安全保障技術研究推進制度」をスタートさせています。これは武器への将来の応用を想定して、防衛省の目的にかなう基礎的な研究をする大学や民間などの研究者に、最大3900万円を3年間に支給するという初の助成金制度です。採択された研究を紹介しますと、例えば理化学研究所の行う「ダークマテリアルを使った光吸収体技術の研究開発」、こちらは無人戦闘機や偵察や監視などを目的とする武器への適用を目指しています。また宇宙航空研究開発機構JAXA(ジャクサ)が行うマッハ5の極超音速エンジン技術の開発、これは戦闘機のエンジンへの適用を目指しています。また東京電機大学の島田正信教授が行う2機の無人機が放つレーダーで、低速に動く物体を正確に捕捉する技術の研究などがあります。
一昨年度はこれに対して109機関が応募して12倍を超える非常に高い競争でしたが、この制度は昨年ふたを開けますと応募者は44件と半減しています。なぜ減ったのか、それは一昨年採択が発表されて以降、研究者を中心とした軍学共同に反対する署名活動やシンポジウムなど数々の社会運動が奏功したためともわれます。しかしこの応募が減った状況にもかかわらず昨年8月、防衛省は今年度の助成金の予算要求を5年で110億円として、昨年度6億円の18倍もの予算を要求しています。
この制度を拡充し1件当たり最大で3年1億2千万円だった資金を、5年で1件30~40億円規模となる制度の拡充を狙っています。半導体や光学センサーなど、高額な基礎研究を行う防衛の研究技術の取り込みを狙っています。これには多くの研究者が、軍学共同が再び加速すると言って反対の声を上げています。しかし予算を査定した財務省幹部は、「競争的資金全体の金額に比べたら100億円程度は大した金額ではない。国の防衛技術を高めるためには大学や民間の技術の取り込みは必要で、中国などの軍拡に対抗できない。軍事研究を選択する自由が科学者にもあるはずだ」といいます。自民党国防部会や防衛装備庁と一体化したような発言を行っていて、結局昨年末満額となる110億円の予算増を認めています。
新制度には、日本の研究者を代表する機関である日本学術会議でも議論が行われました。学術会議は第2次世界大戦で多くの研究者が核爆弾をはじめ兵器開発に関与していたことへの深い反省から、1950年、1967年の2度にわたって戦争・軍事を目的とする研究は行わないという声明を掲げ、これを守ってきました。しかし昨年4月、日本学術会議の大西隆会長が「自衛目的の研究は許されるべきだ」と私見を公開します。トップの軍学共同容認の発言に、研究者からは軍部と科学が一体化した太平洋戦争の反省に立ち戻るべきだとの批判が多かった一方で、中国や北朝鮮の脅威が増す中で、国の重要な一機関の防衛省の要求に応えるのは研究者の使命だという声も聞こえてきました。
2月4日には安全保障と学術に関するシンポジウムも、学術会議の主催で開催されました。この中で奈良からきた小学校の教員の女性は、「『安全保障』とは結局、戦争ができる力なのではないか。それが外国よりも優位に立つということ、そのため学問が絡め取られてくる。市民としてアカデミックな場として、大学を信頼していきたい。子どもや教え子を大学に行かせ、人に役立つ学びをしてほしいと思っている。これが変わっていくと、どの大学のどの先生につかせたらいいのか悩みます」と言っています。一方で大西隆会長が学長を務める豊橋技術科学大学では2015年度に防毒マスク研究が採択されておりまして、大西会長が契約当事者として名を連ねています。契約当事者の大西会長が検討委員であることに、シンポジウムの参加者からは「会長は利益相反にあたり、会長の存在自体がこの委員会の議論をゆがめている。いますぐ委員を退くべきだ」と糾弾する声を出ておりました。
そして3月7日、学術会議の声明を検討する検討委員会が、過去の軍事目的の研究はしないという声明を継承するとする声明案を全会一致でまとめます。3月24日の幹事会でこの声明が決定します。防衛省の助成金が急増している中で、応募への歯止めを狙い、政府の介入が著しく学術の健全な発展という見地から問題が多いと指摘。大学などの研究機関が、研究が適切かどうかを技術的・倫理的に審査する制度を設けるべきだとして民生分野の資金充実を求めています。しかしこの声明には強制力はありません。防衛省の制度への応募禁止までには踏み込んでおりません。
この新声明を受けて応募を見直す動きが全国で広がってきております。
また、日本の大学に米軍資金が流れ込んでいるということも発覚いたします。今年の2月に毎日新聞、朝日新聞、共同通信が、相次いで2008年以降の10年で総額8億8千万円を超えるアメリカ軍の資金が日本の大学などの研究機関に流れ込んでいたことをトップ記事で報じています。朝日新聞の2月9日の記事によりますと2008年からの9年で、大学が104件約6億8400万円、大学と関係が深いNPO法人が13件1億1200万円、他国の研究機関が7600万円、学会が1000万円など米軍資金を受けていたことが明らかになり、過去の学術会議の声明が形骸化していた実態も浮かび上がりました。
アメリカの国防総省の米軍資金案件ですが、アメリカ国防省は世界での米国の軍事的優位を保つため、常に世界の最先端技術の研究開発リストを更新しています。将来アメリカ軍の軍事力を飛躍的に高めたり、相対的に低下させるような研究技術の特定をしたいとしています。アメリカの軍が海外の研究者に資金提供をするのは、ステルス技術をはじめゲームチェンジと言われる国際的な軍事力学を一変させる研究技術にアンテナを張り巡らせるためです。米軍のグローバルオフィスというのは世界中にありますが、それによって世界の研究者や研究機関とのネットワークづくりや、最新の科学技術情報の収拾や評価が行われています。日本には米軍施設の赤坂プレスセンターに拠点があり、海軍では海軍研究局グローバル東京「ONRG」、陸軍では国際技術センターパシフィック「ITC―PAC」、空軍ではアジア宇宙航空研究開発事務所「AOARD」から資金が出されております。
日本への研究者助成は20年前から始まったと言われています。研究者に直接資金を出すほか、シンポジウムや研究会の開催・国際会議への招聘、国防総省や米軍の研究者との関係構築支援も行っています。米軍の資金は日本の助成金に比べてテーマの設定や使い道の自由度が高く、成果は原則公開です。国立大で海洋研究を専門にする男性教授は、「米軍資金を得るため自ら理事長になってNPO法人を立ち上げている。米軍資金に頼る理由は、申請時に何十枚ものレポートを書く日本の制度よりもレポートの枚数も少なく、申請手続きが簡単だからだ」と言っていました。しかしこちらの研究成果は将来米軍の武器に転用されていく可能性を十分秘めているものです。
ONRG幹部が取材にこう言っています。「大学や組織ではなく、米軍が欲する研究を誰がしているかを特定し、探るのが重要な私たちの任務の一つです」。人工知能学会長を務めた西田豊明京都大学教授は、ロボットと人間が意思疎通を図る技術研究がAOARDに採択されています。2014年から約2年で1千万円を受領しています。西田教授は朝日新聞の取材に「軍事研究には当たらないと思い応募した。」と言っています。その理由としては資金不足を挙げ、「約20人が所属する研究室の維持に年約2000万円かかり、ポスドク、博士研究員を雇う費用を含め、学外の調達が欠かせなくなっている」と言っています。
また阪大レーザーエネルギー研究センターが、米軍から2013年から3年間で研究資金として約3000万円を受け入れ、男性講師と教授の2人が助成金を受領していたことも報じられています。このレーザー研究ですが、人工的に光をつくる技術で、光でできる熱を金属加工などに使うものです。米軍は艦船などに接近する無人機攻撃技術として応用して、実戦配備を計画しています。砲弾やミサイルを使わないレーザー兵器での攻撃というのは、発射1回当たり約1ドル、100円と言われています。アメリカ政府は国防費を削減しており、運用コストの安いレーザー兵器を「次世代の戦力」と判断していると言われます。阪大は取材に「学内規定に基づき必要な手続きを経た。軍備に応用される可能性は否定できない」と回答しています。また米軍は共同通信の取材にこう言っています。「特定の応用は考えていない。武器などの設計や開発を目的としない研究に限られる」としつつも成果の利用については明らかにしていません。米軍は2014年にレーザー兵器を使った攻撃の映像を公開しており、「イスラム国」などとの戦闘で車や艦船に近づく敵をピンポイントで撃退することも想定しています。
医師や研究者が開発した医療技術に、軍事化への期待も寄せられるようになっています。こちらは有名ですが、すでに市販されている筑波大学の山海嘉之教授が開発したロボットスーツHAL(Hybrid Assistive Limb)は、高齢者の脚力を助けて医療や介護の分野での利用が拡大しています。難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)はじめ神経変性疾患の患者さんの運動機能回復に、著しい効果を見せていると言われています。一方でこちらのHALですが、これを健常時に適用するとまさに超人的な運動能力を発揮して、装着すると鉄道レールさえ持ち上げることが可能と言われています。この技術を支えるサイバニックス理論というのがサイボーグ開発技術の根幹と言われているもので、アメリカを中心に世界では軍事転用が非常な勢いで促されています。山海教授はHALの軍事転用を防ぐために2004年にサイバーダイン株式会社を設立し、上場株の10倍の議決権を持つ種類株というのを設定して上場後も議決権の約88%を保有。社内に平和倫理委員会というものをつくり軍事転用防止の方策も討議しています。
東京大学医科学研究所の河岡義裕教授は、1918年に大流行し感染者5億人、死者1億人と言われたスペイン風邪の風邪ウィルス(H5N1)の毒性に関与するタンパク質を特定し、季節性インフルエンザと鳥インフルエンザが混ざると病原性が増強されることを解明し多くの成果を上げています。一方で人工的にウィルスをつくる技術ということで、アメリカのディリーメールオンラインではこのウィルスが4億人を死に至らしめることができるといい、こちらに効果のあるワクチンはまだ発見されていません。このウィルスはテロリストに渡ると危険だということで、2011年には河岡教授のチームが雑誌ネイチャーに投稿した論文に、アメリカのバイオセキュリティに関する国家科学諮問委員会が掲載の見送りを勧告しています。この見合わせの勧告に対抗して日米の科学者が1年間ウィルス研究を停止するとの声明を出しました。河岡教授らは、研究をもとに有効な治療薬やワクチンがつくられるのであり、掲載の見合わせは安全面や科学の発展からも不適当だと主張します。結局WHOは2012年に専門家会議を開き、この論文発表は将来的に公衆衛生に資するとのことで全文公会を勧告し、最終的に公開されました。
この騒動はディアルユースが内包する問題を大きく提起しました。つまり科学技術の成果は公共の福祉にプラスになるものと、テロや軍事への悪用や転用というマイナス面が常にあり、科学研究はそれをどう使うのか、何のために使うのかが常に問われ続けています。医師をはじめ研究者はその研究開発にポジティブな面とネガティブなリスクがあることを自覚始動したら、そのリスクを最小限に抑え、人類の公共の福祉と平和の発展につなげられるかを常に考え続ける必要が問われています。日本で進み始めていた軍学共同等の動きについて、海外の主要メディアはこう懸念の声を上げています。アメリカのウォールストリートジャーナルは「日本の大学での軍事研究というタブーを解禁」と報道。雑誌「ネイチャー」は「平和主義の科学界と軍事の関係に変化」と報道しています。
話を少し変えまして、世界で進んでいる無人戦闘機の開発について話します。この写真の少女はパキスタンの12歳の少女、ナビラ・レフマンさんです。昨年11月に日本をお父様と一緒に訪問した際に、広島の平和記念資料館を見学したときの写真です。こちらの写真はナビラさんが来日した際、自分が住んでいた村の上空に毎日飛び交っていた無人攻撃機の様子を描いた絵を手にして記者会見を行ったときのものです。ナビラさんは2012年10月、パキスタン北西部の北ワジリスタン管区の家の近くで牧草の刈り入れをしていた際に、突如アメリカ軍の無人攻撃機に襲われています。野菜摘みをしていたお祖母様は即死し、ナビラさんのいとこや兄妹ら計9人もが爆発した弾の破片を受けて負傷しています。この攻撃はアメリカが進めているスンニ派過激組織(TTP)掃討作戦中のものです。
この掃討作戦は「ヘイメーカー」と名付けられましたが、2012年5月から9月の4ヶ月間に200人以上を殺害しましたが、標的は33人だけで約9割が別人だったことが、米国の情報サイト「インターセプト」に掲載された告発文書によって明らかにされています。欧州の軍事企業テールズグループの試算では、無人戦闘機を含む無人機システムの市場は今後10年で年40億ドルから140億ドルにまで膨れあがるとされています。また2002年にアメリカで200機だった無人戦闘機は2013年には1万1000機に達しています。アメリカの空軍は、2023年までに空軍の攻撃機の3分の1を無人戦闘機にしたいとしています。
ナビラさんは取材にこう言っています。「アメリカを中心とした多国籍軍は、この地域に何十年にもわたって滞在することでアフガニスタンを分断してしまうでしょう。アメリカはパキスタンの部族地域で400機を超える無人攻撃機を投入したが、何も変わりませんでした。彼らは関心のあるテロリストの何人かを殺せたのかもしれませんが、パキスタンでのテロ行為はむしろ増えています。無人攻撃機に費やすのと同じお金を教育に費やせば、この地域を楽園にも変えられるはずです。無人攻撃機による攻撃を通じてではなく、教育による支援で私たちをいまの悲劇から救い出して欲しいのです」。
これは世界で悪名高い「殺人機」とも言われる「MQー1プレデター」です。
こちらのプレデターは米国の防研究高等計画局(DARPA)から資金を得て、イスラエルのリーディング・システムズ社が輸出規制に抵触しない操縦練習用の機体として「ナット750」を開発したのが、そのスタートです。その後経営難に陥ったリーディング・システムズ社をアメリカのジェネラル・アトミック社が買収して機体にパラボナアンテナをつけ、衛星通信機能を備えて改良された「プレデター」が誕生しました。2001年9月11日の同時多発テロ直後のアフガニスタンで、「RQ-1」プレデターを武装化した「MQ-1プレデター」にミサイルを搭載して偵察。2004年からパキスタンでは無人機攻撃を開始。2011年からイエメンやソマリアなどでも無人機攻撃を本格化していきます。
2013年の国連理事会報告によりますと、2004年からアメリカ、イギリス、イスラエルなどの無人機攻撃で、パキスタン、アフニスタン、イエメンの3カ国で、民間人479人が死亡。パキスタンでは330回以上の無人機攻撃で2200人が死亡、400人以上が民間人と報告されています。また米連邦議員のブラハム上院議員は、2013年のサウスカロライナ州での講演で「アメリカがパキスタンやイエメン、ソマリアなどでの無人攻撃機によって、アルカイダ系組織幹部ら計4700人を殺害した」と明らかにしています。
無人戦闘機の操縦に関わる兵士はいったいどういう思いでいるのか。オバマ政権下では、自国の兵士を身体的に傷つけない無人戦闘機を多用した攻撃が強化されてきましたが、操縦に携わった兵士たちにはさまざまな問題が生まれていることがアメリカでの各種報道によって明らかにされています。
アメリカの空軍ジェームズ・クラーク大佐はニューヨークタイムズにこう話しています。「ドローンの操縦は精神的には毎日戦場に派遣されているようなものだ。操縦士たちは基地のゲートをくぐりながら、『よし、自分は戦地に向かうぞ、たたかうぞ』と考える。しかし勤務後は基地のゲートを出てスーパーで牛乳を買い、サッカーの試合にいってから家に帰る。任務について家庭で話すことはほとんどできない。これらの要因が重なり操縦士本人と家族の精神的ストレスが強まっていく」。このプレデターの操縦士が見える画像は非常に高解像度で、地上の人物の性別や武器の種類なども判別できるそうです。またこの操縦士には攻撃の成果を最後まで観察することも求められています。
元操縦士のブランドン・ブライアン氏は、ニューズウィークと雑誌GQにこう語っています。「アフガニスタンのどこかの道を、自動小銃を抱えた男が3人で歩いていた。前の2人は何かで揉めている様子で、もう一人は少し後ろを歩いていた。彼らが誰なのか知るよしもなかった。上官が下した命令は、何でもいいから前の2人を攻撃しろというものだった。土煙が収まると、目の前の画面には大きくえぐれた地面が表示されていた。2人の肉体の断片が散らばり、後にいた男も右足の一部を失って地面に倒れていた。男は血を流し死にかけていた。赤外線カメラの映像に白っぽく、血のりは地面に広がり冷えていった。男はやがて動かなくなり地面と同じ色になった。約6年間この任務を続けるうちに次第に無感覚になり、ゾンビモードで任務にあたるようになっていた」。このブライアン氏が特別奉仕の誘いを断り、退役を決めました。2011年でブライアン氏が関わった作戦の実績をまとめた文書には、計約6000時間の無人機操作で殺害した人数として1626人という数字が記載されておりました。退役後のブライアン氏は酒浸りの日々を送っておりまして鬱状態が続き、医師からPTSDとの診断を受けているということです。
そしてこのプレデターが日本にもやってきました。昨年3月、千葉市の幕張メッセで国際展示会ジャパンドローン2016が開かれました。その中でもひときわその迫力で目を引いたのが、ジェネラル社が展示した偵察用無人機「プレデターXP」の実物大模型です。私はこのとき初めてプレデターの実物大を見ました。パイロット座席が完全に覆われる無人偵察機は昆虫の頭を想起させ、どこに焦点があるのかわからない不気味さと独特の空気感を漂わせていました。ジェネラル社の幹部は、日本の無人戦闘機の導入には壁があると認めた上で自信を見せています。「10年20年30年という長いスパンで考えると偵察、監視、攻撃など防衛戦略のあらゆる面で無人戦闘機は有用となり、日本でもいずれ徐々に検討されていくようになるでしょう」。このジェネラル社のプレデターですが、今年の9月にフライトデモンストレーションが日本の米軍基地で行われる予定です。日本の米軍基地では、現在このプレデターの導入の検討が始まっています。
次は、世界で進む無人戦闘機の開発を見ていきます。これはイギリスのBAEシステムズ社が開発した「タラニス」です。ケルト神話の雷神を意味するそうです。精密誘導弾だけでなくミサイル運用試験能力も持っているとされ、初号機までに240億円をかけて開発されました。これはフランスのダッソー社が開発中といわれる「nEURON」です。ヨーロッパ初の無人戦闘機で、ダッソー社のほかスウェーデン、イタリア、スペイン、ギリシャ、スイスのヨーロッパ5ヶ国から5社が参加しています。タラニス同様に全翼機でミサイルを備え、最大1トンまでの精密誘導弾、ミサイルの搭載能力があると言われます。こちらはロシアのミグが開発した「MiGスキャット」です。アメリカが開発した最新鋭の無人戦闘機「ペガサス」に対抗して2007年に急遽ロシアのミグ設計局が公開しましたが、実戦配備に結びつけるのは現段階では難しいとされています。
そしてこれは中国が開発した「翼竜」です。価格は100万ドルと言われていまして、アメリカの無人戦闘機「リーパー(死神)」の最高価格3千万ドルの30分の1の値段と言われ、とにかく安いです。UAEやしてサウジアラビアなどへも広く輸出されています。中国は1990年代より無人戦闘機の調査や研究を開始し、2013年にステルス性無人機「利剣」をネット上で初めて公開しました。この時点で中国がアメリカ、フランスに続いて試験飛行を実施した3番目の国になっていて、現在開発を進め輸出も本格化しています。
最新鋭の無人戦闘機で最先端を行くと言われているひとつが、アメリカのノースラップグラマン社が開発したX47Bです。「空飛ぶロボット兵器」とも言われています。レーザー光線や高出力マイクロ波で、敵のミサイルや通信施設、発射基地などを一挙に破壊。空対空ミサイルも装備し自律的に敵機を判断し、相手を攻撃。大規模な正規軍への対応も可能になったと言われています。しかし今年3月、米軍はX47B開発中止を決定しています。理由にはさまざまなことが言われていますが、ひとつとして有人機の攻撃力の方を高めるために、攻撃機ではなく給油機としての性能を重視したこと、またパイロットが消滅してしまうのではないかという危機感があったことなどが開発中止の一因と言われています。
この進んでいる世界の無人戦闘機の開発・輸出に制限をかける動きも出ています。昨年10月にはテロ組織などへの拡散を防ぐためアメリカが主導して国際的な軍備管理の基準を策定しようと、イギリス、フランス、日本など44カ国が共同宣言をニューヨークで発表しました。アメリカは国際的な無人戦闘機の取引に歯止めをかけ、悪用やテロ組織への拡散を防ぐ基準作りが必要と、協力を呼びかけています。中国やイスラエルなどへの武器輸出の歯止めを狙っていますが、イスラエル、ロシア、中国は宣言に参加していません。実効性には疑問の声が上っています。
こちらは日本に導入された、ノースロップグラマン社製造の無人偵察機グローバルホークです。2014年末、防衛省が選定。地上の設備など含め3機で1200億円、高感度レーダー、通信傍受機能を備えていますが、高々度過ぎて地上を撮りきれず、島嶼防衛機能はないと言われています。また運用は週1回程度で、動かすのになんと1時間300万円、経費だけで月に3億円を超えるとも言われ、防衛装備庁の幹部は「政治的な意味合いでアメリカに高いものを買わされた」として、アメリカの日本への武器政策への反発の声も一部で出ています。
こちらは2014年以降、武器輸出解禁に踏み切った前後でのアメリカ政府からの武器購入を示す金額の推移です。解禁以降の2015年度、昨年度は、これまでで最大の8倍もの武器をアメリカから買っています。主な理由は、42機購入予定の最新鋭戦闘機F35・グローバルホークなどの高い武器の購入費用が上あげられます。武器輸出解禁に踏み切ったもののアメリカの言うままに高い武器を買い、武器を海外に売らなくては日本の防衛企業が立ち行かなくなり、最終的に日本はこれまで以上にアメリカや世界の大手軍事企業の下請け産業に陥っていく可能性があるという危機感が防衛企業内にも徐々に広がっています。
同じく危機感を募らせている防衛省が急接近を図っているのが、武器大国であるイスラエルです。こちらの写真は2014年5月に首脳会談を行った、安倍首相とイスラエルのネタニヤフ首相です。このとき新たな包括的パートナーシップ構築の共同声明が発表されまして、「閣僚級含む両国の防衛当局間の交流拡大」が約束されました。この時以降、防衛省は水面下でイスラエルの政府や企業との交流を続けてきています。首脳会談から1ヶ月後の2014年6月の世界最大の武器見本市「ユーロサトリ」では、堀地徹装備政策課長(現・南関東防衛局長)が、イスエラルのIAI幹部に無人戦闘機「ヘロン」への関心を伝え、密談に及んでいます。また2年後の2016年6月の「ユーロサトリ」でも、この堀地氏はイスラエルの国防省の対外防衛協力輸出庁長官と会談しています。防衛装備庁の幹部は取材に、「イスラエルはアメリカの10分の1の価格です。技術情報の開示を示唆しておりまして、実戦で技術力の高さは証明済みです。大変魅力的な相手だ」と言っていました。
こちらがイスラエルが開発し世界50ヶ国に輸出しているといわれている、無人戦闘機「ヘロンTP」です。2人1組で操縦し、上官が操縦、部下が情報収集し、レーダーで敵機を識別。カメラ画像は非常に鮮明でマウス3回のクリックで機体の離陸ができるそうです。これがIAIが開発した、自立して目的物に激突して破壊するといわれる新型戦闘機の「Harop(ハロップ)」です。またこれはIAIと並びイスラエルの2大軍事企業のひとつであるエルビット・システムズが開発し日本に売り込みを書けている無人戦闘機「ヘルメス900」です。ブラジル、チリなど世界各国で運用が行われています。航空宇宙展に参加していたエルビット・システムズの写真です。テロ訓練をしているような動画が展示会中ずっと流れていました。こちらのエルビットは無人戦闘機だけではなく陸海空次システムや監視偵察機、電磁システムなど軍事・安全保障関連のあらゆる商品を紹介し、日本企業の方たちが熱心に商談に及んでいる様子も見られました。
こちらのイスラエルですが、陸海空の軍事化を急速な勢いで進めています。2016年7月、イスラエルはアメリカに先駆けて人工知能(AI)を搭載した自動運転軍用車を世界で初配備しています。今後は陸海空の全ての領域での無人化を進め、最終的に兵士との混成部隊を創設する道を模索しています。イスラエルの2015年の武器輸出総額は57億ドルですが、うち23億ドル(約40%)が アジア・太平洋諸国との取引で、アジアはイスラエルの武器輸出にとって欠かせない存在となっています。日本との開発をイスラエルは熱望しています。エルビット・システムズ幹部は、「武器輸出の解禁で日本は重要な存在になった。互いの技術を持ち合い強力な武器を開発し、世界の安全保障に貢献できる」と取材に言っています。また対外防衛協力輸出庁(SIBAT)のフリードバーグ副長官がテレビ朝日の取材に、「国防予算が増えている日本の兵器市場に強い可能性を感じる」、「今は無人機とロボット工学なしに安全保障は語れない。日本に無人機技術を提供する」とアピールしています。
AI搭載型の自立型無人機の開発が急速に進んでいる世界の現状に、宇宙物理学者であるホーキング博士がこう警告を発しています。「完全な人工知能の開発は、人類の終焉を意味するかもしれない。人工知能が自分の意志をもって自立し、能力を上げて自分自身を設計しなおすこともあり得る。ゆっくりとしか進化できない人間に勝ち目はない。いずれ人工知能に取って代わられるだろう」(BBC取材)「人工知能の発明は人類史上最大の出来事だった。だが同時に『最後』の出来事になってしまう可能性もある」(英紙インディペンデント)。
そして最後に、そもそも私たちはどういう国にしていきたいのか。アメリカの大手軍事企業幹部が取材にこう言っています。「いま一番武器輸出で売れるものは何かわかりますか。ミサイルと弾薬です。中東がほとんど戦争になっているからです。精密誘導弾は大増産ですよ。日本でも弾をつくっているダイキンなどが売りますと言えば、サウジ、UAEなどはどんどん買うでしょう。でもそれは今の日本の世論は許しませんね。だから売らない。でも武器輸出でいいとこ取りはいずれできなくなる。日本が共同開発を進めたがっている潜水艦も魚雷を撃つし、戦車も弾を撃つでしょう。やるなら全部批判を覚悟でやらないといけない。武器輸出の前に、その先にある日本という国家をどうするのか、したいのか、もっと国民が議論すべきではないか」。
取材を通じて多くの防衛企業、下請け労働者、研究者の声を聞き続けて感じていることは、日本が戦後憲法9条によって戦争放棄を掲げ、武器輸出3原則の下で武器を他国に売らない国造りを目指してきた結果、私たち日本人の無意識に埋め込まれてきた「二度と戦争に関わりたくない」強い思いだということを感じます。しかしいまの安倍政権は武器輸出を解禁し、欧米列強に肩を並べようとする政治を推し進めています。日本が憲法9条を盾に戦後70年死守してきた専守防衛の概念さえ、安倍首相が声高に発する「北の脅威」のもとあっさりと葬り去られようとしています。一部報道ではトマホークの導入を防衛省が検討しているというようなニュースまで出ていました。武器輸出から3年で、儲け主義と「安全保障」の大義によって中古の武器販売、海外との武器開発のための軍産複合体の形成に拍車がかかりつつあります。
本来人類の平和と福祉を願うべき学問は軍事のための学問になり、慎重だった防衛企業の幹部からは自分達がつくった武器の先で世界で何が起きるのかではなく、どのくらい儲かるのかという戦争ビジネスマインドが形成されつつあるように感じます。それは軍学共同にあらがう研究者よりも、政治家、防衛官僚、防衛企業に携わる人々に驚くべき早さで表れつつあるように感じます。しかし冷静に翻ったときそれが本当に私たち、そして世界の人々にとって日本がとるべき望ましい姿なのか、私たち日本人はもう一度立ち止まって日本のあるべき姿、世界とのあるべき関係性を深く考え抜く必要があると思っています。暗い話が続いてしまいましたが、希望を持つためにも非暴力不服従を貫きイギリスから独立を達成したガンジーさんの言葉を紹介して締めくくりたいと思います。
「あなたがすることのほとんどは無意味であるが、それでもしなくてはならない。そうしたことをするのは、世界を変えるためではなく、世界によって、自分が変えられないようにするためである」