オバマ前大統領との違いを際だたせるかのように、米国のトランプ大統領が中東で、東アジアで極めて危険な軍事冒険主義に走っている。
4月6日、米国はシリアのアサド政権が化学兵器を使用したことに対する「人道的介入」だとして、突然、大量の巡航ミサイルによる空爆をおこなった。これは国連での議論や決議、アサド政権による化学兵器使用の証明もないままにおこなわれた無謀な空爆だ。このような無謀・無法な軍事攻撃は2003年のジョージ・ブッシュによるイラク攻撃と同じで、このような軍事攻撃が許されていいはずはない。しかし、イラク戦争における小泉純一郎首相(当時)と同様に、7日、安倍首相は世界に先駆けて「米政府の決意を日本政府は支持する」と表明した。
つづいて4月13日に米国はイスラム国(ISIS)を掃討する作戦の一環として、アフガニスタンに最強の非核爆弾と言われているMOAB(モアブ)を投下した。これには親米政権のカルザイ大統領ですら、「これはテロとの戦争ではない。新しい危険な兵器の実験の場として、わが国を悪用した非人間的で最も残酷な行為だ」と強く抗議した。
一方、緊迫する朝鮮半島情勢との関連で、6日の日米両首脳電話会談で、安倍首相は「トランプ大統領からは、全ての選択肢がテーブルの上にあるとの力強い発言があった」とのべた。朝鮮半島における「全ての選択肢」とは米国による核攻撃も含まれる。安倍首相は朝鮮半島情勢においても米国の全ての動きを支持すると表明したのだ。
米軍は、9日、原子力空母カールビンソンを、朝鮮半島側に向かわせると発表した。理由は「北朝鮮は無謀で無責任で、安定を害するミサイル実験と核兵器開発のためにこの地域の最高の脅威」となっており、これに対応することにあるとされた。防衛省は、この「カールビンソン」と海上自衛隊の艦艇による共同訓練を東シナ海周辺で実施することにした。これは一昨年に強行した戦争法の事実上の発動準備であり、日米が軍事的にも協力して朝鮮情勢に対応することの表明であり、北朝鮮に対する自衛隊の公然たる敵対表明となる。朝鮮半島情勢の緊張緩和を望むなら、何よりも当事者の米朝を含む関係国の対話が必要であり、武力の行使と、それを助長するような言動は慎まなくてはならない。
韓国のハンギョレ新聞の報道によれば、6カ国協議の議長国である中国の王毅外相は14日、以下のように述べた。「最近、米韓と北朝鮮が互いを狙って刃物を握り弓を引いて、嵐の前夜の形勢になった」「中国はいかなる形であれ緊張を高める言動と行動に一貫して反対する」「武力では問題を解決できず、対話のみが唯一の出口ということを歴史は何度も証明してきた」「朝鮮半島の問題は、誰の言葉がより凶悪で、誰の拳がより大きいかで(解決)できるものではなく、ひとたび本当に戦争が起きれば、誰も勝者にはなれないだろう」と。
そして「中国は各国に訴える。言動も行動も互いをこれ以上刺激せず、事態を挽回不能、収拾不能の状況まで追い立てるな」「(朝鮮)半島に戦争と混乱を招こうが迷惑をかけようが、歴史の責任を負わねばならないことであり、当然な代価を支払わなければならないだろう」
王毅外相は中国が主張する「“双中断”(北朝鮮の核・ミサイル試験中断、韓米の大規模軍事訓練中断)と“双軌並行”(非核化・平和体制転換)など対話と交渉を通じた解決策を提案し、「中国はこれを一層細部化し、適切な時期に運営方案を提示するだろう」「同時に中国は開放的態度で各国が努力する建議を受け入れる。対話をするということならば、公式であれ、非公式であれ、2者でも、3者でも、4者でも、中国はすべてに支持を送るだろう」と述べた。
このところの中国の東アジアにおける覇権主義的な、力任せの外交はそのまま容認できないが、朝鮮半島の危機に対する王毅発言は支持できるし、この対話路線の実行だけが現在の危機を平和的に解決できる道だと考えられる。連日のメディアの報道は忘れているかのように全く触れないが、朝鮮戦争は未だ終わっておらず、停戦協定があるのみなのだ。ここで米韓が大規模軍事演習をくり返したり、北朝鮮がミサイルや核爆弾の実験をくり返すことは、たえず戦争の危機を招かざるをえない危険なチキンレースだ。王毅のいう“双中断”“双軌並行”は重要な解決の道だ。これによって不安定な停戦協定を平和協定に転嫁する以外に朝鮮情勢の解決はない。
しかし、北東アジアの軍事的緊張の急激な増大の中で、安倍政権には、緊張を緩和し、平和を実現するための努力と能力が全くなく、ただただ「日米同盟ファースト」でトランプ大統領に追従するのみだ。日米首脳会談で両首脳が「中国に期待する」と言っても、安倍首相がそれを言える立場だろうか。安倍政権はこの間、「地球儀を俯瞰する外交」「価値観外交」などと称して、事実上、中国を敵視し、包囲するための外交を進めてきた結果、現在、日中関係は戦後最悪の状態にある。日本政府はいま、中国に働きかける能力をまったく持たない。肝心の韓国との間でも、先の軍隊慰安婦の「少女像」をめぐって駐韓大使を引き上げるという強硬措置をとり、その後、臨時大統領との会談を求めて帰任させたものの、韓国側はいまだに日本大使との会談に応じていないなど、ギクシャクしている。
4月18日に来日したペンス米国副大統領との会談で、安倍首相は「北朝鮮が真剣に対話に応じるよう、圧力をかけていくことも必要だ。トランプ政権が戦略的忍耐という考え方ではなく、すべての選択肢がテーブルの上にあるとの考え方で、対処しようとしていることを日本は評価する」と述べた。この時期に日本政府が「圧力」を強調し、「全ての選択肢による対処を評価する」ことを表明するがどのような意味を持つのか。安倍首相はこの危険性を全く理解していないが如くである。
北朝鮮は米国の攻撃があれば、「在日米軍基地攻撃」をも含む米国への全面的な報復を公言している。冗談ではない。
1994年の朝鮮半島の核危機の時のシュミレーションによれば、当時の韓国の金泳三大統領は「何百万人が死ぬかも知れない」といい、米政府関係者は「最初の90日間で米軍の死傷者が5万2000人、韓国軍の死傷者は49万人」だと言われた。そして、日本には米国の攻撃をサポートする「有事法制」も「戦争法」もなかった。これらが当時の米国クリントン政権に北朝鮮攻撃を思いとどまらせた理由であった。それから20数年を経て、今日、核戦争の危機が進んでいるなかでの戦争の犠牲者はこれと比べものにならないだろう。
これに関連して、17日、アメリカのマクマスター大統領補佐官は、16日の北朝鮮によるミサイル発射について、「挑発行動の一環だ」「全ての選択肢がテーブルの上にある」としたうえで、アメリカとしては北朝鮮との軍事的な衝突に至らないよう外交による解決に努める姿勢を示した。そして「日本と韓国だけでなく、中国との間でも緊急の問題だという共通認識がある。われわれにとっては、今こそ武力行使には至らない、あらゆる行動を取り、平和的な解決に努める時だ」と述べ、軍事的衝突以外の解決への努力に努める姿勢を示した。トランプ政権にも躊躇がある。
一方、先頃、北朝鮮で最高人民会議が開かれ19年ぶりに民間外交を担当する「外交委員会」が設置された。これは北朝鮮政府の「交渉」の可能性へのシグナルと見てよいだろう。
武力で平和は実現できない。平和は対話の延長上にしかない。いま、関係各国の政府と、市民は全力で戦争反対、対話の実現による平和を叫び、進めるべきである。「圧力と対話」等といって、事実上「圧力」一点張りのやりかたをあらため、緊張の緩和、対話による解決をいまこそ、真剣に求めるときである。
米朝関係は、15日の金日成生誕105周年に続いて、25日の朝鮮人民軍創建85周年記念日に向けて、軍事的緊張がいっそう高まる様相を帯びている。 日本の民衆は「戦争反対」の世論を喚起することと合わせて、この緊張を北
東アジアの平和実現に導く外交的努力をすすめる能力のない安倍政権を一刻もはやく退陣させなくてはならない。
(事務局・高田 健)
4月5日、野党4党と市民連合の意見交換会が開かれた。ここでは、かねて市民連合が提案していた「『市民連合が実現をめざす政策』に対する野党4党の考え方」が確認された。市民連合の構成団体の一つ、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動」の共同代表である福山真劫さん(平和フォーラム代表)に、この確認のもつ意義や今後の展望についてお話を伺った。
市民団体と複数の政党が政策について合意することは、これまで経験したことのないことで、いまの自民党からの攻撃に対する最大の選挙戦術であり、画期的なことです。この合意は民進党も共産党もそれぞれのホームページで大きく紹介しています。
総がかり行動は、戦争法に反対し安倍内閣の退陣を求めて2014年から市民運動を展開してきました。運動は大きく広げることができましたが、法案は国会を通り安倍退陣にも追い込めませんでした。そこで市民運動が政治を変えるために選挙にかかわろうとして、野党共闘で昨年の参議院選挙にとりくもうとしました。そのために野党間での政策合意の作成を求めました。各政党にはそれぞれの政策があり事情もあり、政策合意をつくることは簡単ではありません。参院選を前にした2016年6月7日に市民連合の要望書を野党4党に示し、各党が検討して、4党首が政策合意文書に署名することができました。こうして市民と野党がともに参院選でたたかいました。
結果は敗北でしたが、32の1人区のうち11の選挙区で統一候補が勝利しました。前回は2選挙区しかとれなかったのですから、選挙結果は、野党が次の衆院選で勝利する展望をもつことができました。じつは前回の2014年12月に行われた衆院選では、295ある小選挙区で自民・公明の与党は240議席をとっています。これに対し民主党38、生活の党2、社民党1、共産党1で合計42議席でした。これが、ばらばらにたたかった選挙結果です。しかしこの時の得票数でも野党が1本化していたら、単純計算で59の選挙区をひっくり返すことが見込めるので、与野党の議席は181対114になり、3分の2を阻止することはすぐにも可能な数字です。野党共闘の効果によって投票率を上げることができれば、さらに有利な状況も予想されます。
野党共闘をつくり選挙戦をたたかい、その本気度を有権者に伝えることができるかどうかです。そのためには野党間の政策をすりあわせて示すことが必要です。しかし野党間で政策を作り上げることはなかなか困難な側面もあります。そこで市民連合が実現して欲しい政策を、昨年12月に4野党へ提案しました。当時は総選挙が間近というような情勢もありました。4野党に協議していただき、この4月5日に共通する考え方を示してもらうことができました。これは4野党と市民連合が実現していく政策です。しかしその後に共謀罪や森友問題などの新しい課題もでています。
次の総選挙が近づいたら新しい課題も含めて、さらに具体的な政策をつくる予定です。全国各地や選挙区でつくられる市民連合的な組織での政策合意にも役立てることができます。
野党共闘をいちばん恐れているのは自民党などの政権側ですから、野党内の内部対立や分裂をことさら大きく見せようとマスコミはじめあらゆる手段を使って攻撃をしています。たしかに野党共闘に積極な団体とそうでない団体があるのは事実です。しかし「週刊金曜日」の中野晃一さんと神津里季生連合会長の対談でも、神津さんが「野合で何が悪いか」といっています。民進党代表代行の安住淳さんは、野党共闘をいちばん恐れているのは自民党などの政権側ですから、野党内の内部対立や分裂をことさら大きく見せようとマスコミはじめあらゆる手段を使って攻撃をしています。たしかに野党共闘に積極な団体とそうでない団体があるのは事実です。しかし「週刊金曜日」の中野晃一さんと神津里季生連合会長の対談でも、神津さんが「野合で何が悪いか」といっています。民進党代表代行の安住淳さんは、1月の共産党大会の挨拶で「大局観に立って一致できる点を見いだすこと、その度量と決意で共通の敵に立ち向かうとき初めて、今の政治を動かすことができるのではないでしょうか」と述べています。昨年の参院選を前に、香川県レベルで民進党と共産党が結んだ「基本的事項の確認書」も参考になります。こうしたことも大いに活用しながら、知恵と力を働かせて各段階での市民と野党の共闘を作っていきましょう。
もし次の選挙で自民与党に3分の2を与えてしまうようなことがあれば、改憲にまっしぐらとなります。総がかり行動は野党との共闘を進めると同時に、様々な課題で市民運動を強めます。それぞれの個人も団体も自己改革をして、勝てる運動を作る必要があります。これまでの総がかり行動を越える、さらに大きな総がかり行動です。韓国で朴大統領の打倒を実現したように、従来の枠を越えた努力で市民運動をつくり、本気の市民と野党の共闘を作ることができれば、苦労は実る展望があります。
(文責・土井とみえ)
4月5日に野党4党と市民連合の意見交換会が開催されました。
市民連合が前回の意見交換会で提案した『市民連合が実現を目指す政策』を受けて、野党4党がまとめた『市民連合が実現を目指す政策』に関する4党の考え方』を確認しました。
今国会での連携を強めると同時に、来る総選挙に向けても準備を加速していくことで一致しました。
以下が『市民連合が実現を目指す政策』、『市民連合が実現を目指す政策』に関する4党の考え方』、『市民連合からの野党4党への要請』です。
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2016.12.09
今や、多くの先進民主主義国において、個人の尊厳をないがしろにし、差別を容認する政治家や政党が力を増し、民主政治は世界的な危機にあります。日本では安倍政権が長期政権となりつつありますが、具体的な政策が支持を得ているわけではなく、野党に魅力がないことがその理由とされています。このまま野党が国民に対して別の選択肢を提示できないなら、安倍政権の政策が失敗に終わった時、行き場のない不満は民主政治を破壊する方向に誘導される危険もあると考えます。
私たち市民連合は、安保法制に反対する運動から出発し、日本における立憲政治と民主主義の回復を求めて、2016年夏の参議院選挙でも野党や各地の市民団体と力を合わせて戦いました。次に訪れる衆議院選挙においても、立憲政治のみならず、国民の生命や生活に密接に関連した課題について、立憲野党4党が共通の政策を掲げ、国民に対して別の選択肢を提示し、安倍政権の暴走を止め、政治を転換する戦いを共に進めるよう、強く求めます。
違憲の安保法制に基づいて自衛隊が「新任務」を付与されたうえで南スーダンに派遣され、いまや憲法9条を守れるかどうかの瀬戸際に来ています。立憲主義を守り、憲法の平和主義を貫徹するために、立憲野党4党が総選挙で大きく議席を伸ばすことは従来に増して重要な課題となりました。
多くの国で格差や貧困に打ちひしがれた人々が多元的で寛容な社会そのものを破壊しようとする政治家・政党を支持している現状に鑑みれば、日本においてもすべての人間に尊厳ある生活を確保するために社会経済政策を転換することが、憲法を擁護することと密接不可分であることが明らかです。格差拡大のアベノミクスから決別し、人間本位の経済政策を打ち立てることが、経済の健全な成長をもたらし、人口減少に歯止めをかけることにつながると、私たちは信じています。
私たちは、立憲野党4党に、次の衆議院総選挙に向けて以下の基本理念を共有することを求めます。
(1)立憲主義の回復と安保法制の廃止
日本が戦争に参加する前に2015年安保法制を廃止し、憲法に基づく政治を取り戻すことが急務です。
(2)安倍政権下での憲法改正の阻止
安倍政権・自民党が進める憲法改正は、基本的人権の尊重や国民主権という政治の基本価値を脅かすものであり、断固として阻止しなければなりません。また、情報公開の推進とメディアの自由を回復することは、日本の民主主義にとって死活的重要性を持つ課題です。
(3)個人の尊厳と基本的人権の保障
人間は国家による支配の対象でもなければ、利益を作り出すための道具でもありません。人間の生命、尊厳ある生活を確保することは政治のもっとも根本的な課題です。社会のあらゆる場所で差別を許さないこと、すべての個人の尊厳を無条件で擁護することを政治の起点とすべきです。
私たちは以下の政策を提案します。立憲野党の合意を得て、野党、市民の力で推進していくことを望みます。
(1)安保法制の廃止と対話による平和の創出
トランプ次期政権が米国の一国主義的権益追及を進めることが予想される中、日本は自らの行動によってアジアにおける平和の創出を進めなければなりません。あわせて軍拡競争の罠に陥ることを回避し、軍需産業に依存する経済構造を作らないために、いまポイントオブノーリターンに来ています。野党は平和の党としてのアイデンティティを持つべきです。
(2)若者や女性に焦点を当てた社会経済政策の創造
これまでの日本の社会保障政策から零れ落ちてきた女性や若者に焦点を当てて支援策を拡充することは、すべての人にとって生きやすい社会を作るだけでなく、経済の活力を生み、人口減少の歯止めにとって最も有効な対策となります。
A 女性・ジェンダー政策
・女性の自己決定権の保障 選択的夫婦別姓の実現
・雇用における男女差別の禁止と賃金格差の解消
・包括的な性暴力禁止法と性暴力被害者支援法の制定
・ライフスタイルの選択を制約しない税制、社会保障制度の実現
・待機児童をなくすため、保育施設の拡充、保育士の賃金引き上げ、保育の質を改善する
・国会、地方議会において候補者割当クオータを導入し、議員の男女同数を目指す
・LGBT差別解消法の制定
B 子ども・若者政策
・子どもの貧困を廃絶するための児童手当の拡充
・学ぶ権利の保障のための中・高等教育を含む教育費の無償化
・給付型奨学金の創設と既存奨学金債務の減免
・仕事と子育てに取り組む若い家族のために、社会的セーフティネットとして低家賃の公営住宅を増設する
(3)公正で持続可能な社会と経済をつくるための政策転換
輸出企業とその経営者、株主だけを優遇し、東京に偏った大規模開発をすすめたアベノミクスの破綻は明らかです。ふつうの勤労者が長時間労働で心身を壊し、十全な家庭生活を営めないという現状は、社会の崩壊への道です。1日8時間働けば普通の生活ができる経済社会を取り戻すことが、日本の未来にとって不可欠です。公平な分配・再分配や労働条件を実現し、格差・貧困を解消することが、需要の拡大と経済の健全な成長のカギとなります。
A 雇用政策の転換
・政府提出の労働基準法改正案への反対及び同法の遵守と長時間労働を規制する法案に罰則を設ける等長時間労働の規制
・最低賃金の時給1500円以上への大幅引き上げなど働きつづけられる賃金・労働条件の引きあげ
・合理的理由のない格差を認めない同一労働同一賃金の実現など非正規労働者に対する差別の禁止・年金、健康保険に関する雇用形態による不利益の解消
B 社会保障政策の転換・2025年(高齢化のピーク)以降も持続する年金制度の再構築と最低保障年金の創設
・介護労働者の賃金改善
・国民皆保険制度の維持
・累進所得税、法人課税、資産課税のバランスの回復、タックスヘイブン対策による公正な税制の実現
(4)脱原発への決意
放射性廃棄物を十万年後の人類に残すという原発推進政策は、地球と人類に対する犯罪だと考えます。3.11をなかったことにしようとする安倍政権の政策に対して、3.11を起点として新しい日本のエネルギーと経済を構想することが野党の任務です。
・東京電力福島第一原発事故の徹底的な究明と、安全対策や避難計画等が不備のままでの再稼働を認めない
・再生可能エネルギーの拡大計画の策定による温暖化対策の推進
(5)多様な地域社会の持続
安倍政権の地方創生も何ら成果を上げることなく、地方の疲弊と人口減少は進むばかりです。日本各地の多様で個性ある地域社会を持続することが急務です。一次産業に利益追求原理を持ち込み、競争を強化することは、結局、農林漁業の衰退と環境破壊をもたらすだけだと考えます。
・公共交通機関、教育・医療等の公共サービスの維持により生活基盤をどこでも平等に確保する
・農家に対する公正な所得補償制度
・地元に残りたい若者のための雇用創出と賃金の引上げ
2017年4月5日
四年間続いた安倍政権の下、我が国の立憲主義、民主主義は大きく脅かされている。アベノミクスは日本経済の持続的成長をもたらすことなく、格差を助長してきた。
民進党、日本共産党、自由党、社会民主党の野党四党は、昨年の参議院選挙にあたり、(1)安保法制を廃止し、集団的自衛権行使容認の閣議決定を撤回、立憲主義を回復する、(2)アベノミクスによる国民生活破壊、格差と貧困を是正する、(3)TPPや沖縄問題など、国民の声に耳を傾けない強権政治を許さない、(4)安倍政権の下での憲法改悪に反対する、との内容を共有・確認し、また、昨年6月7日に市民連合から提出された『野党4党の政策に対する市民連合の要望書』を受け止め、さらには昨年の通常国会で、介護、保育、雇用、被災者支援、男女平等、LGBT(性的マイノリティー)差別解消をはじめとした15本の議員立法を共通の政策として共同提案し、全力で戦った。
野党四党は、これらの到達点、さらに早期の衆院解散・総選挙は十分にあり得るという前提のうえに立って、できる限りの協力を進めることで合意している。今般、『市民連合が実現を目指す政策』についても、その現状認識及び基本理念を十分共有できると確認した。
今こそ、安保法制を廃止し、立憲主義を回復するとともに、個人の尊厳と基本的人権の保障を進めることが求められている。自由民主党の憲法改正草案のように立憲主義と平和主義を脅かす憲法改正は認められない。アベノミクスからの転換を進め、すべての人間に尊厳ある生活を確保するための社会経済政策を実現すべきである。
今後も、安倍政権の打倒を目指して政策面や国会活動における四党間の協力を進めていく。
四年間続いた安倍政権の下、我が国の立憲主義、民主主義は危機に直面している。アベノミクスは日本経済の持続的成長をもたらすことなく、格差拡大を助長し、人口減少を放置してきた。
民進、共産、自由、社民の四党は、早期の衆院解散総選挙は十分にあり得るという前提に立って、できる限りの協力を進めることで合意している。そのうえで、市民連合が実現を目指す政策について四党政策実務者による協議を進めた結果、以下のような考え方を共有することを私たちは確認した。
1. 国民生活の安定と「分厚い中間層」の復活に向け、社会経済政策を転換する
(1) 子育て・教育・若者
〇就学前教育から大学まで、すべての教育について原則無償化をめざす。
〇保育施設の拡充、保育士の賃金引き上げ等を通じて待機児童をなくす。
〇安倍政権が放置してきた子育て・教育への投資を劇的に拡大することにより、教育の機会平等と質の向上、持続的成長の実現、雇用の創出、女性の社会進出、人口減少対策等を後押しする。
(2) 雇用・働き方
〇残業代ゼロ法案の成立を阻止するとともに、インターバル規制を含む長時間労働規制法を早期に成立させる。
〇同一価値労働同一賃金の実現など非正規労働者に対する待遇の差別を禁止する。
〇最低賃金の大幅引き上げなど、賃金・労働条件を改善する。
(3) 社会保障等
〇国民皆保険制度を維持し、年金の最低保障機能を強化する。
〇介護労働者の賃金など待遇を改善するなど、介護の充実を進める。
〇働き方や性別等に中立的かつ公正な社会保障制度、税制を確立する。
(4) 女性・ジェンダー
〇選択的夫婦別姓を実現する。
〇政治分野で候補者割り当てクオータを導入する。
〇包括的な性暴力の禁止に向け、性暴力被害者支援法を制定する。
〇LGBTに対する差別解消施策を盛り込んだ法律を制定する。
(5) 地域活性化
〇霞ヶ関目線で効果の上がらない地方創生を掲げ、カジノによる地域振興に迷走する安倍政権と対峙し、地方の自主性を尊重した公正な地域活性化を進める。
〇農家に対する所得補償制度を法制化する。
(1) 原発ゼロを目指す
3.11を原点として新しい日本のエネルギー政策を構想する。
(2) 省エネルギーの徹底
断熱の徹底、廃熱の有効利用等をすすめ、世界一の省エネ社会を実現する。
(3) 再生可能エネルギーの飛躍的増強
太陽光発電や風力発電への支援、ソーラーシェアリングの大幅拡大等を進める。
(4) 地球温暖化対策の推進
国際社会に通用する中長期数値目標を設定し、地球環境・生態系の保全を進めるとともに新産業と雇用の創出につなげる。
(1) 立憲主義と平和主義を脅かす憲法改悪の阻止
自民党の憲法改正草案は、立憲主義に反し、基本的人権の尊重や国民主権、そして平和主義という基本的価値を脅かすものであり、これを基礎とした改定、特に平和主義を破壊する憲法9条の改悪を阻止する。
(2) 2015年安保法制の白紙化
安倍政権下で強行された安全保障法制は立憲主義と平和主義を揺るがすものであり、その白紙撤回を求める。
(3) 戦略的なアジア太平洋外交の推進
同盟国である米国を含め、近隣諸国、関係国との対話を促進し、地域における信頼醸成に努める。
(4) 沖縄の基地負担の軽減
沖縄の民意を踏みにじって基地建設を強引に進める政府の姿勢は、容認できない。沖縄県民の思いを尊重しながら基地負担の軽減を進める。
(5) 情報公開の推進と報道の自由の回復
安倍政権下で後退した情報公開と報道の自由は、民主政治の基盤であり、危機感を持ってその推進、回復に取り組む。
以上
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4野党が通常国会において安倍政権による国家の私物化に対して果敢に戦っていることに、市民連合は深い敬意を表します。
昨年12月の4野党と市民連合の意見交換会において、市民連合は共通政策の骨子を提案し、その場で幹事長、書記局長から基本的に共有できるという反応をいただいたところです。その後、全国各地で野党と市民の協力を求める運動が広がり、市民連合のメンバーもそのような運動の集会に赴き、野党結集、野党と市民の共同の機運を高めるために尽力してきました。
このたび、4野党から政策の基盤となる共通認識の骨子について見解を示していただきました。通常国会の多忙な日程の中、認識の共有のために努力してくださった4野党の方々に、市民連合はお礼申し上げたいと思います。また、市民連合の目指す政策について、その基本的な方向性を共有していただいたことに、感謝申し上げます。政策実現までの道筋やスピードについては各党間、および政党と市民連合との間で差異はありますが、現段階で作る共通認識は、野党と市民の共闘を進める際の道しるべとなるべきものであり、総選挙の際に政権交代を迫るための政策の手前の、基本的な方向性を示すもので十分だと考えます。
野党結集を図るうえで、具体的な候補者の選定にはまだ長い話し合いが必要だと思われます。解散総選挙の時期が不透明になる中、市民連合はこれからしばらくの間、全国の運動において共有すべき政策を具体化する作業を進めたいと考えています。今回ご提示いただいた共通認識の骨子は、全国の野党と市民の協力を目指す市民に大きな勇気を与え、各地での運動を加速すると確信しています。
市民連合は、目前の重大事である森友学園疑惑の究明、共謀罪に対する反対運動の展開についても野党と市民の共闘を広げ、人間本位の民主政治、立憲政治を取り戻すために、4野党とともに努力したいと決意を新たにしています。今後とも引き続き野党と市民の協力を強化していきたいと願っています。
2017年4月5日
安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合
小川 良則(市民連絡会事務局)
例年、5月が近づくと、新聞や雑誌は憲法特集を組む。しかし、憲法施行70年にあたる今年の憲法を取り巻く状況は、とても「古希を祝う」どころではない。総裁任期中の改憲を公言する安倍総理・総裁の下で、戦争法制の強行をはじめ戦後民主主義の破壊が繰り返され、自民党大会に出された運動方針も年を追ってエスカレートしている。
2013年 自主憲法制定に向けた取り組みを加速していく
2014年 憲法改正実現に向けて党全体として積極的に取り組む
2015年 憲法改正原案の検討・作成を目指し、改正賛同者の拡大運動を推進する
2016年 国民的な議論と理解を深めるとともに、国会で正々堂々と議論し、憲法改
正原案の検討・作成を目指す
2017年 新しい憲法の姿を形作り、憲法改正に向けた道筋を国民に鮮明に示す
そして、イージス艦や事実上の空母の建造、海兵隊のような水陸機動団の創設、敵基地攻撃論への言及など、これを先取りするかのような形で事態は進んでおり、今国会でも近代刑事法制の根源的原則を破壊する共謀罪法案が最大の焦点となっている。
こうした中で、私たちの側も従来の枠組みを超えた大きな運動づくりに取り組み、その積み上げの上に「総がかり行動実行委員会」が発足した。戦争法案審議の山場では国会を包囲した市民の中から「野党はまとまれ」の声が沸き起こり、昨夏の参院選では32の1人区全てで市民と野党の共闘が実現し、うち11選挙区で勝利し、基地問題を抱える沖縄と原発被災地・福島では現職閣僚を落選に追い込んだ。また、28の選挙区で野党統一候補の得票が4野党の比例票合計を上回ったことも特筆に値する。そして今、別稿のとおり「市民連合」と立憲4野党との間で次期衆院選に向けた共通政策づくりの協議が精力的に進められている。反撃の芽は着実に育ちつつあるのだ。
一方、政権側にとっての「次の一手」が共闘の分断なのは明らかだ。最大野党の民進党には松下政経塾出身者や中央官僚OB、元自民党の議員や秘書等も多いし、日本会議の会員も少なからずいる。共産党との共闘や脱原発に消極的なグループを取り込み、共闘に楔を打ち込み、市民の失望を誘おうという動きが出てきても不思議ではない。
「施行70年・憲法の将来」と題した「中央公論」5月号の特集も、こうした文脈の中で捉えていかなければならない。
同号では「徹底討論・70年間改憲できなかった本当の理由」と題して、保岡興治・自民党憲法改正推進本部長、斉藤鉄夫・公明党幹事長代行、枝野幸男・民進党憲法調査会長、小沢鋭仁・維新の会憲法改正推進委員会長といった憲法審査会の常連メンバーによる座談会が掲載されている。司会が田原総一朗ということからも明らかなように、深夜のテレビ討論番組の雑誌版のような展開である。
安全保障等に関する細かなやりとりは紙面の都合で割愛するが、2007年に第一次安倍内閣が改憲手続法を強行した際に「安倍晋三が総理である限り改憲論議には応じられない」と啖呵を切った枝野が「最初の発議は圧倒的多数で可決されないと憲法の議論自体がタブーだった30年前に逆戻りする」と述べ、保岡や小沢から「とても力が出てきた」とか「今日は生産的だった」と言われたことを指摘しておく。
それ以上に問題なのは出席者の人選である。前述のように、いずれも安保・自衛隊を認める人たちばかりが選ばれており、違憲論の立場からは共産党の笠井亮議員が紙面を2頁割り当てられたのみである。憲法審査会に議席を持つ社民党も、日米安保の問題が集中的に現出している沖縄選出議員も外されていること自体、恣意的と言うほかない。
そして、この座談会に続けて掲載されているのが、細野豪志・民進党代表代行(執筆当時)による「現実的な憲法改正案を提示する」である。論考自体は、同氏が日ごろ憲法審査会等で発言しているような内容の繰り返しではあるが、このタイミングで上記の座談会と一連の特集記事の一環として具体的な改憲論を展開すること自体、市民連合と立憲4野党で確認した「立憲主義と平和主義を脅かす憲法改悪の阻止」という到達点を無視するものであり、代表代行を辞めて済む問題ではない。なお、同氏は代表代行辞任にあたって、執行部を離れて改憲論議に積極的に参加したい(4月14日・15日、共同通信ほか)とも述べているが、安倍内閣の暴走を止めるための共闘を願って努力している市民を裏切るものと言わざるをえない。
細野論文の具体的な提言内容は少子化対策、緊急事態、地方自治の3項目であり、これらに対する批判は後述するが、前提となる部分に既に黙過できない記述がある。すなわち「政府が憲法解釈を一方的に変更したことで立憲主義に揺らぎが生じた」という認識に立ちながら、改憲案を提示することが「提案型政党となる最後のチャンス」と述べている点である。立憲主義に揺らぎが生じるような違憲の立法の廃案・廃止を求めるのは極めて当然のことであり、対案を出さなかったからといって何ら咎められる筋合いはない。部分的な修正で済む問題ならいざ知らず、根本的に誤っているものに対しては、そもそも対案の出しようがないではないか。
後段の部分は、安倍内閣が政府4演説等で再三にわたり強調している「改憲案づくりの議論を進めることが全ての議員の責任」という発想と酷似している。しかし、具体的な政策を提言することと憲法を弄り回すことは決してイコールではないし、提案と批判は決して二律背反ではない。格差をなくし暮らしを豊かにするために何らかの政策を提案するとすれば、それは憲法価値の実現であって改憲とは無縁のものであるし、提案とは必ずしも相手の土俵に乗ることを意味するものではなく、政権側の政策の背景にある発想そのものへの批判を通じて民衆の視点に立った政策を対置していくことも立派な提案ではないか。批判を封印し政権側と同じ土俵に立って枝葉末節の部分で若干の味付けの違いを競うのであれば、それはもはや「提案」ではなく「屈服」でしかない。
さて、個別の提案の1番目は、少子化への対応としての子育て・教育の重点課題化である。確かに、高齢者は人口比率も投票率も高いことから「シルバー民主主義」と揶揄されることもあるし、投票年齢の引き下げの一つの論拠としても持ち出されてきたが、だからと言って、時々の政策の優先順位をわざわざ憲法に書き込むというのは理解に苦しむ。これでは、出生率や人口構成が変化する度に憲法を改正しなければならないということになる。しかし、憲法というものは、中長期的に環境や情勢が変化する中にあっても一貫して追求されるべき基本的な理念を示すものであって、時々の状況に対応した具体的な施策の展開は、個々の法案や予算の議論を通じてなされるべきであろう。
どうも、子育て・教育の充実という看板を掲げたら誰も反対しないだろうという一種の「お試し改憲」の材料に使われている感は否めないし、教育無償化のための改憲を唱える維新の会への秋波という意味もあろう。しかし、いわゆる「シルバー民主主義」を批判する中で政策転換を主張するという論理構造は、社会保障の削減に直結しかねず、この点からも疑問を禁じ得ない。高齢者と子どもを対立的にとらえるのは、1%の富裕層と99%の大衆という格差の構造から目を逸らすことにしかならない。
しかも、教育無償化は必然的に私学助成の拡大を意味するが、ここでも89条の公金支出条項の「改正」がセットで提示されている。もともと私学助成の問題は実務的にも学説上も決着済の問題であるにもかかわらず、2000年に憲法調査会が置かれた当初から折に触れて蒸し返されてきた経過がある。しかし、自民党の改憲草案の構造に見られるとおり、89条の公金支出条項に手を付ける真の狙いは、政教分離の空洞化(靖国神社への玉串料支出の解禁)にあることを指摘しておかなければならない。
3月16日の衆院憲法審査会は、事実上の戒厳令にもつながりかねない官邸独裁との批判を浴びた自民党改憲草案をトーンダウンさせ、議員の任期の延長に絞ってきたのが特徴と言える。詳細は本誌3月号で高田さんの記事と重複するので割愛するが、その時の細野議員の180日を上限とした任期延長論が中央公論誌上でも展開されている。これも野党を何とか改憲論議の土俵に乗せようという口実でしかないのであるが、制憲議会での議論が全く活かされていないと言うほかない。
何よりも、4月9日の東京新聞の社説も指摘しているとおり、議会から立法権を奪うことを意図しながら、議会の空白を避けることを理由に持ち出すのは矛盾しているし、対米開戦直前の1941年の選挙は非常時を理由に1年延期しておきながら、既に本土空襲という事態も生じていた1942年には再延長なしに選挙は実施されている。また、現憲法下でも、被災地に限って投票を繰り延べた例はある。いずれにしても、震災を「奇禍」として改憲の口実にしようとするのは、被災者を冒涜するものでしかない。
既に紙数も尽きてきたので要点のみに留めるが、現憲法の地方自治の条項が簡略過ぎるというのは憲法調査会の頃から主張されてきた。しかし、憲法付属法典として地方自治法が制定されており、憲法92条でいう「地方自治の本旨」に沿った立法や運用がきちんと行なわれていれば何ら支障はない筈である。もし、地方自治が十分に機能していないという現状があるとすれば、その原因は大規模開発等の国の施策に自治体行政まで動員した結果としての地方財政の疲弊であるし、道州制をはじめもっぱら「分権」という切り口での議論は、福祉や教育等のナショナルミニマムに対する国の責任を放棄するものでしかない。そこにあるのは、維新の会やかつてのみんなの党等が主張する統治機構の簡素効率化の視点のみであって、住民自治とはベクトルが正反対である。
このほか、自衛隊の位置づけの明記や一院制も展望した両院の役割の見直し、新しい人権等についても触れられているが、いずれも折に触れて反論・批判してきたものばかりである。なお、昨夏の参院選で四国や参院で隣接県と選挙区が統合された問題についても取り上げられているが、選挙法の改正で行なったことの再改正は選挙法で対応すれば済む話であるし、地域代表であれ社会各層の代表であれ、議員定数を減らす前提での発想では主権者の意思を正しく反映させることはできない。現実の議員の資質を見た時に歳費が勿体ないと感じるのは判らなくもないが、大規模開発や軍事予算の方がよほど無駄な投資であろう。少なくとも、憲法上の主権者としての権利である参政権の保障を、効率性を口実に犠牲にしてはならない。
2017年通常国会に提出され、現在本格審議が始まった「共謀罪」法案(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の改正案)は、「既遂犯処罰の原則」にもとづく日本の刑法体系を大きく変え、さらに捜査範囲を一般市民に広げ、人権侵害をもたらすものです。
安保法制の廃止と立憲主義の回復とともに「個人の尊厳を擁護する政治」の実現を訴えてきた私たち市民連合は、「共謀罪」法案に反対し、その廃案を求めます。
2017年「共謀罪」法案は、安倍政権の整理に従ったとしても、277もの罪について「共謀罪」規定を設けるものです。「共謀罪」が法制化されると、警察・捜査機関は、広く一般市民に対しても、組織的犯罪集団に関わっているかいないか、犯罪を遂行することを合意したか、犯罪に関わっていなくても、犯罪が起きていなくても、監視や捜査をするようになります。
政府は、一般人が「処罰の対象」となることはないと主張する一方で、一般人でも「捜査の対象」となることは否定せず、ごまかしの答弁を繰り返しています。これはまさに、一般の市民が捜査の対象となるからにほかなりません。
例えば、捜査機関が特定のSNSグループやそのなかのメンバーに疑いをかけたら、メンバー全員のリストを作成し、関係性を把握し、必要に応じて取調べなどを行うようになります。このような捜査活動は、一般の市民を日常生活の場で監視し、委縮させるものであり、プライバシー・自由に生きる権利を侵害するものです。
国連越境組織犯罪防止条約(パレルモ条約)はテロ対策のための条約ではなく、またその批准は「共謀罪」法の制定を必要としない安倍政権は、国連越境組織犯罪防止条約(いわゆるパレルモ条約)に対応するために「共謀罪」法案を成立させる必要があると述べています。しかしパレルモ条約は、国際的な組織犯罪としてのマネーロンダリング(資金洗浄)対策を主な目的とする、いわば「マフィア対策」の国際条約であり、「テロ対策」ではありません。
またパレルモ条約の批准が「共謀罪」法の制定を前提とするという主張も事実ではありません。
そのため「共謀罪」の捜査対象となる罪の多くが、テロ対策と関係がない安倍政権は、組織的犯罪集団が実行を計画することが想定されるかという基準で、「共謀罪」の捜査対象となる罪を選んだと説明しますが、実際には、著作権侵害など組織犯罪ましてやテロ対策とは無縁のものが大半を占めていて、立法の必要性を裏付けることはおよそ不可能です。
国会における説明責任を放棄し、「共謀罪」法制定を強行することは許されない日本における刑法体系を根本から揺るがし、広く一般市民の日常生活を捜査機関の監視下に置く危険をうむ「共謀罪」を、安倍政権はあたかもテロ対策のために必要であるかのように国民をあざむこうとしていますが、現実には、テロ対策のためにあるわけではなく、マフィア対策としてさえ説明がつかず、またパレルモ条約批准のために必要というわけでもありません。
このため安倍政権は、国会での審議をないがしろにし、「共謀罪」法の必要性を説明することができない金田法務大臣が、大臣としての説明責任を完全に放棄する事態を早くも引き起こしてしまいました。自ら法案を理解し説明することができない法務大臣の任命責任を負う安倍首相もまた、説明責任を果たそうとはしていません。独裁的な安倍政権のふるまいによる議会民主主義の劣化、空洞化は、目を覆うばかりです。
市民連合は、2017年「共謀罪」法案の廃案をめざし、市民と立憲野党の共同をさらに広げるために全力で取り組みます。
2017年4月22日
安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合
お話:吉倫亨(キル・ユニョン)さん(ハンギョレ新聞東京支局長)
編集部註)3月18日の講座で吉倫亨さんが講演した内容を編集部の責任で要約したものです、要約の責任はすべて本誌編集部にあります。
私は韓国のハンギョレ新聞の東京特派員をやっております吉倫亨(キル・ユニョン)と申します。私が赴任したのは2015年9月でした。3年半になりますが、この4月1日に帰国します。私の後任のものも後ろにいますので、終わったら紹介させていただきたいと思います。
今日話をさせていただくのはいま韓国で崔順実(チェ・スンシル)事態ということで朴槿惠(パク・クネ)大統領が弾劾され罷免になりました。そういうことの経緯をみなさまに説明させていただいて、それから韓国の民衆の勢いで朴槿惠さんを罷免に追い込んだ、そういうものが日韓関係にどういう影響を与えうるのかということも一緒に考えていただければと思います。前半は、私もひとりの記者ではなくひとりの市民として本当に韓国の民主主義の力に誇りを感じましたが、後半になっていくと韓国の民衆によって朴槿惠政権を倒していった韓国の変化が日本の安倍さんを中心にした保守の方々には若干やばく見える、その変化を警戒している方々も結構いらっしゃるのでそういうことも含めて話させていただきます。
まずハンギョレ新聞をご存じない方もいらっしゃると思いますので、ハンギョレ新聞のことに関して最初に説明させていただきます。韓国が民主化されたのが1987年ですね。いわゆる6月抗争があって、6月抗争によって韓国の民衆が当時の全斗煥軍事政権とたたかって民主化を勝ち取ったということです。何を勝ち取ったかというと、やっぱり市民が大統領を自分の力で、自分で直接投票して選べる権利を得たということです。大統領直選制を勝ち取ったということです。市民が自分の選挙で大統領を選べるようになったのだから、当時の軍事政権の全斗煥政権を倒して新しい民主的な大統領が選ばれるはずだとみんな思ったんですね。でも結果的に大統領になったのは、盧泰愚さんという全斗煥の陸軍士官学校の同期で後継者になる人です。
なぜこうなってしまったのかということで、韓国人はショックを受けました。その理由を申し上げると、金泳三さんと金大中さんが分裂してしまって、盧泰愚さんが大統領になるんです。このことに韓国人がものすごく衝撃を受けて、何のための6月抗争だったのか、何のための民主化だったのかということで、ものすごくショックを受けました。そして、やっぱり韓国にも正しい情報を発信できるマスコミが必要だということで韓国人がカンパをしました。募金をして、韓国の当時の金額で50億ウォン、日本でいえば5億円くらい、そういうお金でつくったのがハンギョレ新聞です。
世界的にもあまり例がない新聞だったので、90年代に入って日本でも同じことをやってみようということでできたのが、週刊金曜日という雑誌ですね。だから市民の期待が高すぎて、30年たっているんですが、人それぞれによって考え方が違うんですね。ハンギョレ新聞はこれだけしかできないのかということで、ものすごく批判もされながらもやってきました。1988年創刊で、30年になります。わたしはそのハンギョレ新聞の東京支局長をやっています。支局長と書いていますが、支局員はひとりですね。だから支局長兼平社員兼経理とか。恥ずかしい話ですが、最初に名刺を作って東京特派員と書いたんです。日本人の記者が「キルさん、これは東京支局長と書いた方がいいですよ」というんですね。なぜかと聞いたら、支局長と書いた方が偉い人じゃないか思われるということで、なるほどと思って、自称支局長です。ひとり支局ですから支局長です。
みなさんも韓国の崔順実事態ということはテレビとか新聞などで経緯に関してはある程度ご存じだろうと思います。私は日本で仕事をしていたので光化門広場のローソク集会には参加したことはないんですが、妻と一緒に土曜日にユーチューブのネット中継を見ながら、本当は行った方がいいのではないかということも考えました。
朴槿惠さんの、いまの崔順実事態が起こる前までのことについてお話しします。崔順実事態になる前に朴槿惠政権がどういう政権だったのかということですが、単に崔順実事態があったから朴槿惠さんが弾劾され罷免されたわけではないんですね。いろいろな問題を抱えていた。この事態がある前までは、最初は朴正煕(パク・チョンヒ)さんの娘さんだということで韓国の保守からものすごく支持を得ました。1年目の支持率は54%です。2年目、3年目は47%くらいで、ある程度支持率があったんですが、4年目には32%に下がってしまって、崔順実事態以後は4%に急落したんですね。そして昨年11月に韓国の国会で弾劾され、つい先日3月10日に憲法裁判所から罷免となりました。
そうなったいきさつがあります。なぜ朴槿惠政権の支持率が落ちたのかということですが、ひとつには、ここで私が仕事をしながらも本当に恥ずかしい政策がたくさんありました。ひとつ目は教科書ですね、教科書の国定化です。労働組合の人たちが集会をして、警察が放水砲を撃ちました。そしてひとりの方、白南基(ペク ナムギ)さんという方が亡くなられました。人が亡くなったんですね。それに対して韓国政府、警察が謝らない。そういう権威主義的なやり方に、韓国人たちもこれはちょっと、いくら保守でも教科書を国定化してどうするんだ、という雰囲気が韓国社会に広がった。
それから、セオル号の空白の7時間の問題ですね。あれだけ大きな船が沈んで300人近くの高校生たち、若者たちが死んだのに、あの7時間にあなたは何をしていたのかということで、私もものすごくショックを受けました。あの事件のことを考えると、今でも涙が出ます。映像があって、大きい船が沈んで、子どもたちが内側から窓ガラスを叩いたんですね。そして死んでしまう。その7時間に大統領が積極的に何かをやったとしても、結果は変わらなかったかもしれない。でもあなたは7時間の間に何をやったのか、いまになってもはっきり言っていないんですね。そういう問題がありました。
それから経済が低迷した。日本は小泉政権のときに一気に新自由主義の方向に経済が行って、非正規雇用が35%になるんですね。韓国はその前に、1990年代末にIMF危機があって、そのときからずっと新自由主義の方にいってしまって、あのときはある意味で成功した。サムスンとかヒョンデ自動車とかそういう大企業は、世界的企業になって成功したんです。でも庶民の生活は、韓国は非正規雇用率が50%ですね。グラフを見ると2001年、55%です。韓国ではIMF危機以後50%以上が非正規職ですね。韓国政府もこれは問題じゃないかということでがんばって、43%くらいになったけれども、そういう経済的な低迷があります。若者が就職できない。「ヘル朝鮮(チョソン)」という、「韓国は地獄だ」という言葉ができるくらい若者たちの失望が広がった。朴槿惠さんは移民も住まわせないし、そういうことに対応しない。無能だということです。
それから外交政策の失敗です。朴槿惠さんが大統領になって最初にやったことは中国に接近したことです。北朝鮮の核問題が重要だ、この地域の一番の脅威だということで中国に一生懸命接近して、2015年10月に天安門広場までいって、対中国政策をやったんです。それがいま、サードミサイル(THAAD・終末高高度防衛ミサイル)システムを入れるようになって、中国ともぎくしゃくして経済的な制裁を受けています。それから日本の保守から見ると、一昨年の日韓合意はいいことだったということになっていますが、韓国ではちょっと考え方が違っています。韓国では市民の民意を無視してやったということです。いろいろな外交政策の失敗ということがあります。
こういったこれまでのいろいろな政策の失敗によって支持率が落ちているさなかに、崔順実事態というのが起きました。
崔順実事態、崔順実スキャンダルというのは何かといいますと、崔順実の父親が崔太敏(チェ・テミン)という人で、どういう人かよくわかりませんが、カルト宗教の教主です。諸説があって詳しいことは不明ですが、崔太敏さんが朴槿惠大統領の母親の陸英修さんが暗殺されたあとに、自分は陸英修さんに憑依できる。ちょっと意味がよくわかりませんけれども、そういって接近して、朴槿惠大統領の信頼を得たことがひとつのストーリーとして今もいわれています。ただ崔順実が何者かということはまだよくわからないです。
この事件の概要を申し上げますと、韓国の重要な国家機密資料を朴槿惠大統領が崔順実に漏洩している。そして崔順実がその資料を読んで、内容を修正したりして国政に関与するんですね。2013年1月から2016年4月まで各種の人事資料、国務会議(日本の閣議)資料、大統領の海外歴訪の日程と米国務長官接見資料など公務上の秘密を盛り込んだ文書を崔順実に漏洩して、崔順実その文書を読んで意見を与えたり、内容を修正したり、朴大統領の日程を調整するなど職務活動に関与したんです。
それから崔順実のためにサムスンなどの財閥からお金を集め、ミール(486億ウォン)、 Kスポーツ(288億ウォン)など、2つの財団をつくった。なぜ財団をつくったかということですが、ふたつ理由あってひとつは私益、自分の利益のため、ふたつ目は朴槿惠大統領の退任後に財団を使って何かするためにつくったわけです。それから崔順実が文化体育観光部、関税庁の庁長、ミャンマー大使の人事など、あらゆる分野の人事へ介入して、その人たちを重要なポストに据えて自分の私益のためにそういう人たちを利用する。そういうことがありました。
国の政策を判断するためにふたつの考えがあります。ひとつはこの政策が妥当かどうか。例えば安倍さんが集団的自衛権を行使できるように安保法制を改定した。それが日本の国益になるかどうかという問題ももちろんあります。私はどうかなと思いますが、一応それは安倍さんとしては、日本の正しい手続きによって、それに則って法律を変えたんですが、一昨年9月に色々ありましたね、強引なやり方ですが、法律をつくったということになります。あれには賛成できないけれども、正当性はありますね。朴槿惠さんがやったのは、その正当性そのもの、韓国の憲法と法律に則っていろいろな政策が行われたかどうかということ自体が疑わしくなって、全ての政策が、これは崔順実がどこまで手を延ばしてやったのがわからないんですね。
ふたつ目は、政治と金の問題です。それからサムスンという財閥の問題です。韓国では経済民主化ということをいっていますが、サムスンが崔順実にお金を貸したことは、国の政策に崔順実にお金を出して韓国の政策を変更して、自分の利益にするためにそういうことをしたんでしょう。韓国の財閥の問題の矛盾。韓国の検察の捜査結果によると 李在鎔(イ・ジェヨン)三星副会長が朴大統領に渡した賄賂供与額は、計433億ウォンに相当したといわれています。朴大統領はその代わりに国民年金が三星物産と第一毛織合併へ賛成するように影響力行使して、専門家によれば韓国の国民年金が被った損害額3500億~8000億ウォンに相当するといわれています。
そして、なぜ国がここまでになるまでマスコミ、検察を含めて何をしてきたのかという、監視機能の問題もあります。30年前の1987年の6月抗争以来、韓国社会が抱えていた問題がもう限界だというところまで追い込まれたときに、この崔順実事態が発覚しました。韓国の放送局JTBCが、2016年10月25日に崔が使用していたタブレットPCを入手しました。報道によると、崔が朴大統領の演説文や閣僚会議資料などを事前に入手して、一部修正して国政に関与した状況が物的証拠によって確認されました。私も韓国人ですけれど、本当に本当にショックを受けました。
日本のみなさんは、日本が戦争が終わって平和な憲法に基づいて経済が発展して、平和主義をもって国際的にいろいろな貢献をしていた。海外で、戦争でひとりも殺したことがないし、自衛隊員が殺されたこともないということに、みなさん本当に誇りを持っていらっしゃいますね。安倍さんになって危うくなっていますけれども、みなさんは日本の戦後の平和主義にものすごく誇りを持っていらっしゃる。韓国の場合は軍事政権もあって、いろいろな苦難があって、6月抗争によって我々の力で民主化を勝ち取った。それで経済発展もした。その両方に誇りを持っています。それが朴槿惠さんと崔順実さんによって、韓国人の誇りに本当に大きい大きい傷を与えた。
それで私も傷ついて、どうすればいいかわからなかったんですが、ローソク集会が始まるんですね。JTBCの放送があったのが10月25日、その4日後の10月29日に第1回ローソク集会が始まります。日本では2015年に総がかり行動ということで、リベラル勢力みんなが団結して安倍さんの安保法制に対抗したんですね。それと同じ仕組みができるんです。11月9日に「朴槿恵政権退陣の非常国民行動」というのが発足して、それのもとにいろいろな集会が始まります。
映像を見ながら話したいと思います。この歌はセオル号のときにできた歌ですが、その後、話題になってみんなが「闇は光に勝てない うそは真実に勝てない」と歌うんですね。韓国ではみんな歌を歌います。みなさん、「朝露」という歌をご存じですか。韓国の民衆の歌ですね。光州事件で亡くなった人のために歌われた「彼のための行進曲」もありますね。こういう歌を歌って、赤いパネルが「パククネを拘束しろ」、黄色のパネルが「セオル号の真相究明しろ」と書いてあります。そういうことで集会が盛り上がったんですね。崔順実事態があって韓国人の抑圧された、封印されてきた怒りが一気に爆発して、3回目の集会に100万人集まって5回目は230万人が集まりました。そして弾劾が3月10日でしたが、次の日の3月11日にもやって、それが20回目でした。
日本に赴任して一番感じたのは、2013年12月に秘密保護法の集会があって、日比谷野外音楽堂で4000人くらい集まったんですね。そして5分くらい時間が余ったんです。韓国だったら必ず歌を歌いますね。歌を歌うとやっぱり同志意識ができて「この歴史的な現場に私がいる」という気持ちで、高揚して盛り上がる。私はちょっと期待していたけれども、そのときは偉い弁護士さんが出てきて、「この秘密保護法の問題について若干みなさんに説明させていただきます」とおっしゃった。私ひとりがっかりして、「絶対歌を歌わないとだめだ」と思ったんですが、そういう集会の文化の違いですね。でも同じ広場で200万人が同じ歌を歌ったら、これはちょっとすごいです。みなさんも何か歌って下さいよ。そういうことが起こりました。
ものすごくショックを受けて、韓国人の怒りが一気に爆発した。それで憲法裁判所というものが韓国にはあります。弾劾について憲法裁判所でもう1回判断してもらって、9人の中で6人以上がやっぱりこれは問題だということにならないと、却下されます。ものすごく心配したんです、韓国人が。どうなるんだということで。それで憲法裁判所が信じられないということで、毎週土曜日に集会をするんですね。
3月10日に弾劾の結論が出たのですが、あの発表をしたのが女性の裁判官ですね。日本でも生中継されたのでご覧になった方もいると思いますが、あの発表の仕方がうまかったんです。争点が5点くらいありました。ひとつ目は人事権で何をしたか。悪い奴だということで、崔順実の娘さんに不利な報告をした、日本でいう文化庁の局長のクビを飛ばせということを、朴槿惠さんが言ったんですね。これについて訴えたのですが、それは罷免には至らないということで却下された。これは悪いことだと言いながらも、「しかし」罷免には至らない。ふたつ目の論点、マスコミの自由を侵害した。崔順実の夫だった人のいろいろな問題を取り上げた世界日報という新聞の社長が飛ばされます。でもこれも因果関係が明確ではないということで、「しかし」罷免には至らない。
3番目は国民の生命権を保護する義務、その職務をきちんと執行したのかということ、セオル号の問題ですね。これも朴槿惠さんの対応が悪かったけれども、「しかし」これをもって罷免するまでには至らないということをいったんです。「しかし」、「しかし」、「しかし」、ということで、韓国の株式市場の株価が「しかし」というと落ちるんですね。これで弾劾にならないと、投資家たちは不確実性というのが嫌ですからね。4番目は崔順実が、国政にこれだけ関与したので罷免になったということです。裁判官は最初に罷免するということ言って、これをいろいろな論理で説明したらよかったんですが、「しかし」、「しかし」、「しかし」「罷免には至らない」といってみんなが驚いたけれども、結局罷免ということになりました。
この判決の重要な内容をあらためて読み上げます。「(1)被請求人(朴大統領)の行為は 崔の利益のために大統領の地位と権限を乱用したものとして公正な職務遂行とは言えず、憲法、国家公務員法、公職者倫理法などに違反した。(2)憲法と法律違反行為は、在任期間全般にわたって持続的に行われ、国会と言論の指摘にもかかわらず、むしろ事実を隠蔽して関係者を取り締まった。(3)被請求人の違憲・違法行為は、国民の信任を裏切ったことと憲法守護の観点から容認できない重大な法違反行為と見なければいけない。 被請求人の法違反行為が憲法秩序に及ぼす否定的影響や波及効果が重大なので、被請求人を罷免することで得られる憲法守護の利益が圧倒的に大きい」ということで罷免しました。
それから生命権の問題ですね。セオル号の問題に関しては、これは具体的には罷免の理由としては至らないと言ったんですが、2人の裁判官が補助的意見をつけました。それは、「これからも国民大衆の支持で当選した大統領たちがこの職務を執行するだろう、ほかの最高指導者が国家の危機の状況で職務を不誠実に執行しても大丈夫だという誤った認識が我々の遺産として残ってはいけない。大統領の不誠実の罪で数多くの国民の生命が失われ、安全が脅かされ、この国の行方と国民の運命が壊されてしまうという不幸なことが繰り返されてはいけない。だから我々は被請求人の誠実な職務執行の義務違反を指摘するのである」といった。
これは、やっぱりセオル号事件で朴槿惠さんを罷免するまではいかないけれども、あれはあってはならないことだから、あえて我々は決定文にこの記録を残すということです。裁判官の強い意思を表したんですね。私はこの文章を読んで涙をこぼしました。さきほどの映像で子どもたちが歌っていた「真実は沈没しない」という言葉を思い出して、その歌を聴きながら涙をこぼしました。
本当に良かったと思います。これが崔順実事態といわれたことのいままでのいきさつです。
これからは、これが韓国と日本の未来の日韓関係にどういう影響を及ぼすのかということをお話ししたいと思います。みなさんご存じだと思いますが、私はまだ若い方なので70年代とか80年代の日韓関係史は直接経験していないのでよくわからないのですが、70年代までの韓国のイメージというのは、みなさんどうなのでしょうか。ひとつめは独裁の国、ふたつ目はキーセン観光ですね。やっぱりイメージとしては暗いイメージで、何か「やばいんじゃないか」というような印象だったと思います。それから80年代まで。冷戦時代でしたから、日本がいろいろなところに経済支援した。一方で全斗煥大統領が金大中さんの死刑判決を出したときには、日本からも圧力をかけたりした。どうしたらいいのかということで経済支援もしながら、冷戦の構造の中では日本の防衛にもかかわる問題なので支援したり警戒したりという、そういう歴史だったわけですね。
冷戦が終わって、1998年の金大中―小渕パートナーシップ宣言、あれは本当にいい文章だと思いますが、その内容を資料に載せました。
「小渕総理大臣は、今世紀の日韓両国関係を回顧し、我が国が過去の一時期韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受けとめ、これに対し、痛切な反省と心からのお詫びを述べた。
金大中大統領は、かかる小渕総理大臣の歴史認識の表明を真摯に受けとめ、これを評価すると同時に、両国が過去の不幸な歴史を乗り越えて和解と善隣友好協力に基づいた未来志向的な関係を発展させるためにお互いに努力することが時代の要請である旨表明した。また、両首脳は、両国国民、特に若い世代が歴史への認識を深めることが重要であることについて見解を共有し、そのために多くの関心と努力が払われる必要がある旨強調した。
小渕総理大臣は、韓国がその国民のたゆまざる努力により、飛躍的な発展と民主化を達成し、繁栄し成熟した民主主義国家に成長したことに敬意を表した。金大中大統領は、戦後の日本の平和憲法の下での専守防衛及び非核三原則を始めとする安全保障政策並びに世界経済及び開発途上国に対する経済支援等、国際社会の平和と繁栄に対し日本が果たしてきた役割を高く評価した。両首脳は、日韓両国が、自由・民主主義、市場経済という普遍的理念に立脚した協力関係を、両国国民間の広範な交流と相互理解に基づいて今後更に発展させていくとの決意を表明した。」 小渕さんが韓国に言ったのは村山談話の反省的な歴史認識ですね。
また、韓日関係の飛躍的発展を示すものとして、2014年の「外交青書」では、「日本と韓国は最も重要な隣国関係同士であり、自由、民主主義、基本的人権など基本的価値と地域の平和と安定の確保などの利益を共有している」と書かれています。
小渕さんは、過去の一時期植民地支配によって大きな被害と苦痛を与えたことを反省したということと、金大中さんが日本の戦後の民主主義、平和主義によって、いろいろな国際貢献をしてきたことを認めた。そして小渕さんが、韓国は昔はいろいろあったけれどもいまは民主化を市民の力で勝ち取って、経済成長もして、いままでと違って韓国を一対一の対等な相手として認めて、それで仲良くしようということですね。
両国のいままでの関係をあらためて、新しい関係を何をもってつくったかというと、村山談話の歴史認識と平和憲法ですね。それをもって仲良くしようということで、1998年に韓国に日本の映画とドラマが輸入されることになりました。2000年代に入って日本でも韓流ドラマ、ヨン様ブームが起こって、それで10年間本当に仲良くつきあったんですね。
私も恥ずかしながら2005年9月に日本に取材のために最初に行ったんです。当時日本ではハンセン病の問題が大きな社会的な人権問題でした。東京では東村山に全生園というところがあった。日本のハンセン病政策というのは隔離・絶滅ですね。一ヶ所に集めて死ぬまで待つということです。子どもを産めないように手術をして。1996年に裁判が起こって、小泉さんが2001年にあれは人権侵害だということで特別法をつくって補償した。それをやったのが熊本の弁護士の徳田靖之さんでしたが、そのあとに彼に手紙が届くんですね。「あなたは偉いことをやったのだろうが、日本の植民地だった韓国と台湾にも同じ施設がありました。あなたはどうしますか」という手紙です。日本の弁護士さんが、台湾の楽生院というところに行くんです。そこで証言を聞いて裁判を起こしました。
その一審判決を取材するために日本に来ました。日本の地域の市民たちが韓国のハンセン病の人たちの人権についてものすごく真剣に支援をしていろいろな集会をしているのを見て、これはいいんじゃないか、私が知らなかった日本という国の姿を見ました。そして伊東美咲さんという女優さん、「電車男」という映画の「エルメスさん」、彼女に惚れて、それから松たか子さん、「四月物語」という映画、韓国で結構有名な映画で日本人は全然知らないんですが、文化開放によってそういう映画を見て日本文化にあこがれを感じました。そして日本の新しい市民社会の温かい支援を見て、これはいいんじゃないかと思ってもっと日本を知りたいと思って、取材に行ったんです。あのときは日本語が全然わからなくて、みんな忙しいから通訳してくれないんですね。「これではだめだ」と思って、羽田から金浦空港におりて空港から一番近い本屋で本を買ったんですね。「日本語初級」という文法の本を買って、それでドラマをたくさん見ました。伊東美咲さんと松たか子さんのセリフを生で聞きたいという一念で自分で盛り上がってやりました。やっぱり重要ですね、文化の交流というのは。2000年代も、盧武鉉さんと小泉さんが竹島問題と靖国参拝、6回、7回ですか、それによって少しはぎくしゃくはしましたけれども、全体的にはいい時期でした。
2000年代に入って、この地域に変化があらわれるんですね。中国の浮上です。2010年9月に、いわゆる尖閣諸島付近で中国の漁船が日本の海上保安庁の船に突っ込んだんですね。それを当時は民主党の菅さんの政権でしたが、外交の問題は自制した方がいいということで、ちょっと弱気になってものすごく批判されましたよね。海上保安庁の人が、その当時の映像を勝手にネットに載せたことを記憶されていると思います。それから石原慎太郎さんが、築地の問題は記憶がないようですが、あのときこれは東京都が買うべきだということで発言しましたね。当時の野田首相が、弱気だということで批判を受けたので、そうしましょうということで国有化しました。そのことで、中国で反日的なデモが行われたりもして、同時に2010年にGDPが日本より中国の方が大きくなったんですね。中国に対する日本の影響力が弱まっていく。日本が尖閣などで中国の脅威を警戒し始めます。
韓国とは2011年8月に、慰安婦問題がもう一回浮上しますね。韓国の憲法裁判所が、慰安婦問題の解決のために日本と外交的な交渉をしないのは違憲だという決定をした。それで李明博さんが野田さんと京都であってがんがん言ったけれども、それもあまりうまくいかなかった。日本と中国との戦略的な活動が始まるし、韓国とは慰安婦問題など歴史認識を巡って関係が悪くなるんですね。
そして安倍さんが2012年12月にもう一回総理大臣になって、彼が9月の自民党総裁選挙で、河野談話は見直さなければいけないということをはっきり言いました。産経新聞などが、河野談話のときのハルモニたちへの聞き取り調査について、日本政府が裏付け調査をしなかったということで河野談話に対する抗議が始まった。韓国でもこれはいけないということで朴槿惠さんになって日本に強気で、慰安婦問題に関して日本政府からなんらかの誠意ある措置がない限り首脳会談をしないということでものすごく揉めるんですね。結果的に韓国と日本が揉めるようになって、2007年の安倍さんの1回目の政権のときから安倍さんの考え方はそういう方なので、私としては期待することもありませんが、あのときは安倍さんの歴史修正主義的な対応をアメリカが下院の慰安婦決議によって封じ込んだんですね。「あなた、ダメですよ」ということで。あれによって第1次安倍政権が崩壊したわけではありませんが、ある程度は影響がないわけではなかったということで、安倍さんは歴史修正主義的な考え方を抑えた。
でも2015年になって、アメリカも相対的に国力が低下する中で日本の戦略的な地位が少し高まったんですね。それで日米同盟を強化して、日本をもってなんらか中国を封じ込めようとするのが、いわゆる日米同盟強化であり集団的自衛権行使ですね。それに韓国も入れて3国の同盟で、台頭する中国を何とかしましょうということがアメリカの東アジア政策です。アメリカは、安倍さんが最初に河野談話を見直すということをいった段階までは、韓国の味方をするように牽制をしました。けれども、安倍さんが河野談話を継承しますというと、私としてはかたちだけだと思いますが、2015年に入ってからはものすごく韓国に対して、あなたたちが自立すべきだということになったんですね。それがいわゆる慰安婦に関する日韓合意ですね。アメリカからの圧力がやっぱりあって、それで韓国が受け入れたということです。
それから安倍談話ですね。安倍さんは2つのことを言いました。ひとつは歴史のことです。河野談話と村山談話を事実上骨抜きにしたということです。この安倍談話はアメリカからは評価されたんですが、韓国の植民地支配のことは言っていないんですね。私は日本の右翼の歴史観にはふたつあると思います。ひとつは司馬史観ですね。「坂の上の雲」のように、明治時代には日本が海外で世界的に力が大きくなっていい時代でしたけれども、昭和になって昭和の戦争はダメだったということ、これはみなさんご存じの司馬史観です。
もうひとつは靖国史観です。靖国史観は昭和の戦争まで防衛戦争だった。東アジアを、西洋と対抗するために、あなたたちのために大東亜共栄圏をつくるためにやったんですよということで、昭和の戦争まで正当化するような、それが靖国史観ですね。安倍さんはやっぱり靖国史観ですね。でもそうなるとアメリカと中国は、ちょっと安倍さんはやばいということになる。だからぎりぎりで、そういう気持ちをちょっと抑えて発表したのが安倍談話だと思います。だから安倍談話には植民地支配については何も言っていない。むしろ日露戦争に対しては、それがアジアの人々に希望を与えたということを言ったんですね。それは韓国人の目から見ると、韓国に対する侮辱ではないかと受け止めるんですね。日露戦争によって韓国は日本の植民地になったんですから。
ふたつ目は安保です。安保というのは先ほど申し上げたように日米同盟を強化して集団的自衛権を行使できるようにして、そしていまは憲法改正ですね。日本と韓国が仲良くしよう、我々は友達ですよということをお互いに認め合ったのが小渕―金大中パートナーシップ宣言です。その基盤になったのが村山談話のような反省的な歴史認識、そして平和憲法ですね。それが安倍さんになって危うくなったと私は思います。ここにいるみなさんは私の考え方に近い方々じゃないかと勝手に思っていますが、韓国としては歴史を、植民地支配を反省しない日本、そして平和憲法を危うくして内容を改正しようとする日本と韓国が、どうやってうまく信頼関係を築いてやっていくかということについて、私はもどかしさを感じるんですね。仕事をしながら「はーっ」とため息が増えてきていますね。私が日本に赴任して外交、安保関係の人にインタビューしたりお酒を飲んだりするときに、一番聞かれる質問が「あなたはどちらの味方ですか」ということで、もう200回くらい聞かれていると思います。韓国の事情として、金大中―小渕パートナーシップの前提が事実上なくなったということは韓国の見方ですね。
日本側から見るとちょっと違いますね。韓国とは1965年に国交が正常化して、我々がいろいろな経済的支援をしてあなたたちもよくなったじゃないですか。今になって、中国が浮上しているので我々同じ仲間として手を組んで対抗しないとあなたたちダメですよ、ということを日本人の6割、7割くらいの方々はそう思っていますね、事実として。そうなると韓国は日本を裏切るのではないか、という方もいらっしゃいますね。
日本人の方々は、韓国に対して持っている潜在的不信感がありますね。韓国は、日本はあまり歴史のことを反省しない、しかもいわゆる戦争ができる国になりつつある日本。日本側から見ると韓国に対して、いつ我々を裏切るかわからない韓国。そういう構図ですね。だから朴槿惠さんが結んだ一昨年末の日韓合意というのは、歴史の問題についてもう一回韓国を封じ込んで、それから韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)という軍事情報を互いに共有するという協定を締結したんですね。韓国の外交を抑えて、歴史の問題をもう一回封印して、軍事協力の方向に導いたのがアメリカの圧力で、それが安倍さんの2015年、16年のことですね。ぎりぎり3年半です。本当にものすごくたたかってほぼ相打ちですね。日本の保守としては外交的な大きな勝利ですね。韓国で崔順実スキャンダルが起きて、この3年、4年間一生懸命成し遂げた外交的成果がもう一回危うくなったんですね。
韓国の民衆の力によって朴槿惠さんが罷免されて、新しい大統領が有力候補の文在寅(ムン・ジェイン)さんになってどうなるかということを、本当に日本の6、7割くらいの方が心配している。それが日本のマスコミを見るとわかります。3月10日に罷免決定があって、そのあと12日の日本の新聞の社説をみたいと思います。これは読売新聞です。これは本当にすごいですね。「韓国の憲法裁判所が大統領の罷免を求める国民の声に配慮して権力を行使したとすれば行き過ぎだろう」ということですね。韓国の憲法裁判所の決定、判決に対して「あれはいかがなものか」ということをいった。韓国の8人の憲法裁判官全員が8対0で、これはダメだといったんです。菅官房長官がおっしゃっているとおり、韓国国内の内政の問題ですね。日本の読売新聞がこの決定そのものに対して疑問を投げていますね。それから日経新聞です。ここで言っているのはアメリカのTHAADです。この韓国配備と日韓が結んだ軍事協定は、北朝鮮の脅威に日本と韓国が連帯して対応する上で欠かせない。だからあれを維持しておき、そして野党勢力には日韓合意の再交渉をしようという意見がまだあるので、この最終的かつ不可逆的を謳った合意の見直しをいっているのは言語道断だということをいっています。これは賛成・反対の観点ではなくて、今の日本の普通の6割、7割くらいの方々の気持ちを反映している社説だと私は思います。
韓国はやっぱり日本と国力を比較すると小さい国です。あれだけ韓国の民衆が20回集会をして100万人、200万人の方々が広場に集まって歌を歌ったりして、慰安婦合意、政府間の合意の問題だけで集会したわけではないんですが、でもあれが韓国の国内の民衆の意識からみたらものすごくいいことです。私も誇らしく感じて韓国人で良かったと思いましたが、あれが国内問題ではなくて日本との外交の問題になったら、韓国は日本と慰安婦問題、安保協力なども含めてもう一回、産経新聞の言い方でいえば「外交戦」をやるのが、どうかなということを感じます。まさに沖縄の県民が辺野古のことについて翁長さんを中心にしてたたかってきたんですが、なかなかかなわない、実質として。韓国も難しいんですね。だから私はため息が出ちゃうんです。
わたしとしては、どうするかということですが、日本と韓国は中国を見る立場が違いますね。中国もちょっとわからないですね。中国人は何をもって東アジアの秩序と平和と繁栄をつくろうとしているのか、何を考えてやっているのかということを見ると、日本人はものすごく警戒している。その気持ちは韓国人もわかります。でも韓国は経済的に中国にものすごく依存しています。だからいまTHAADを入れることによって、THAADは軍事的意味よりは、飛んでくるミサイルを撃ち落とすということで、私は専門家ではないんですけれども、そんなに当たらないですね。それよりは、韓国が日本とアメリカとの三角同盟の方向に舵を切ったということの象徴的意味合いが大きいですね。日本は2010年くらいに中国から反日デモがあったりして経済的にも圧力があったんですが、規模的に大きいので耐えたんですね。むしろ中国側の被害が大きかったかもしれないですね。でも韓国はそれに耐えられるかということですが、私はちょっと自信がないですね。
何をもって韓国と日本の関係を改善していくのかということですが、安倍さんが公の場でいつも言っているのは、「韓国は戦略的利益を共有する最も重要な隣国」ということです。でも2014年までは、外交青書を読んでみるとふたつ言っています。それは戦略的利益を共有する国であると同時に、我々は民主主義、法の支配などの基本的価値を共有する国だということを金大中―小渕パートナー宣言以来、ずっとそういう表現を使っています。基本的価値を共有するという言葉は「我々は友達だ」ということですね。同じ民主主義国同士でいろいろな論争をたたかわせたりしますが、戦争はしない。同じ考え方で友達なんですね。
でも戦略的利益を共有する国ということは、それは北朝鮮の核の問題、それから中国の封じ込めのために協力するパートナーだということです。安倍さんは3年連続くらい基本的価値ということをいっていません。安倍さんの考え方としてみると、韓国は友達ではないんですね。友達ではなく、北朝鮮の核の問題があるから嫌でも協力しなければならないパートナーなんです。だから日韓合意を締結したときに安倍さんがいったのは、「日韓関係の発展のための障害物を排除するためにこれをやる。それが子どもたちにもう一回謝るということを背負わせてはいけない」ということで実行した。歴史問題を棚上げして安保協力しようということが安倍さんの考え方で、私はもどかしさを感じていますが、日本の6割、7割くらいの方がそういう方向に流れているんじゃないかということが、わたしの考えです。
韓国はどうすればいいのかということですが、あの合意をもう一回再交渉しましょうということは安倍さんのうちはかなわないですね。考えられないことです。難しい、答えが出ない。韓国の気持ちとしては、民衆的な国内の支持としては、朴槿惠さんがやったあの合意に対して反対の意見が7割、8割ですね。ハンギョレ新聞が昨年12月に有力な大統領候補の8人にアンケート調査をしましたが、全部再交渉とか破棄をいっている。再交渉は安倍さんでは無理だから、破棄ですね。そうなると難しいですね。
私が結果的に思うのは「基本的価値」ということです。基本的価値を共有する国同士は隣国だから相手のことも詳しいんですね。いろいろな問題が生じる、でも友達だからお互いの立場を理解し合って、「これはどうかな」ということも対話を通じて解決していく。「我々は友達なんだ」という基本的価値をもとにして、戦略的利益というのは、安倍さんがもうちょっと村山談話をきちんと引き継いでその精神に基づいて韓国と対話をすれば、韓国人もある程度理解するんですね。日本の立場もわかるというし、中国はちょっとやばいんじゃないかという認識は韓国にもあります。だから基本的価値と村山談話の歴史認識が大事だということで、安倍さんには無理ですが、ここにいるみなさんがもうちょっとがんばっていただいて安倍さんを何とかしていただければ本当に幸いです。
最後にこの合意に関しては、韓国でも真っ向からそれに反対してもう一回日本と交渉しましょうという方向よりは、難しい問題ですが、もう少し現実的になって、新しいアプローチがないかということです。私の個人的な意見としては、安倍さんのやり方を学んで、安倍さんは「河野談話を継承します」といいながらそんなに継承していませんね。だから韓国も、「日韓合意の精神は尊重します」といいながらいろいろやっていく。これは日本人を責めるためのものではないし、この慰安婦問題が国が政策としてやった国の犯罪だったということへの認識が日本社会に広がったら、それが解決ですね。お金をいくらもらったということではなくて。そういう認識と、日本と韓国が未来のために協力できるような歴史認識と、「我々は友達なんだ」ということです。
私も帰国して、日本をもうちょっと大事に韓国人が考えるようにがんばりますので、みなさんも安倍さんを何とかしていただいて、森友学園の問題で100万円寄付したとかいわれていますが、崔順実問題と似ているんじゃないですか。だからもう少しがんばっていただいて、友好的な日韓関係を築くためにお互いにがんばれたらいいんじゃないかということを申し上げたいと思います。ありがとうございました。