私と憲法191号(2017年3月25日号)


戦争する国づくりにつきすすむ安倍改憲を阻止しよう!

戦争する国づくりと安倍首相らの明文改憲の企て

3月18日、南スーダン国連平和維持活動(PKO)派遣の陸上自衛隊部隊の隊員5名が、物資調達業務中に南スーダン政府軍に拘束され、約1時間後に解放されるという事件が起きた。3月10日、安倍首相が「5月末を目途に活動を終了させる」と表明して1週間ほどで起った事件だった。この事件は2012年1月、自衛隊が南スーダンに派遣されてから初めての重大事件だった。この自衛隊たちは2011年に分離独立した南スーダンの「国連南スーダン派遣団(UNMISS)」の一部で活動する現在の日本での唯一のPKO部隊で、2015年の戦争法に基づき、2016年12月から同法の新任務を付与されて派遣されていた。戦争法を発動するために、世論の反対を押し切って強行された派兵だった。その後、南スーダンでの内戦が激化し、PKO5原則にすら反することが指摘され、現地自衛隊の「日報」開示請求にたいする「日報隠し」事件など、防衛省と稲田防衛相の責任が追及され、持ちこたえられなくなった安倍政権の「撤退表明」だった。私たちは、撤退は当然だが、即時撤退させないと、戦場で自衛隊が巻き込まれる危険があることを指摘して行動してきた。その矢先の事件だ。

幸い、今回は自衛隊と南スーダン政府軍との戦闘にならなかったが、そのような事態が引き起こされれば、安倍首相の責任は重大である。一刻も早く南スーダンPKOからの自衛隊撤退を実現させるべきだ。

もともとこうした事態が生じる根源には安倍政権が憲法解釈を変えて、集団的自衛権の行使を限定容認した閣議決定と、それによる憲法違反の戦争法がある。

2014年7月1日、安倍政権の下での戦争法によって、集団的自衛権行使が閣議決定で合憲解釈された。にもかかわらず安倍首相はひきつづき改憲に意欲を燃やしている。昨年夏の参院選の後、安倍首相「我が党が独自に衆参で3分の2を持っているわけではない。我が党の案がそのまま通るとは考えておりません。その中において、我が党の案をベースにしながら3分の2を構築していくか、これが政治の技術と言ってもいいだろう」と豪語し、自民党憲法改正草案実現の立場を強調していた。そして、今年、3月5日の自民党大会で安倍首相は「憲法施行70年の節目に当たり、私たちの子や孫、未来を生きる世代のため、次なる70年に向かって、日本をどのような国にしていくのか。その案を国民に提示するため、憲法審査会で具体的な議論を深めようではありませんか。未来を拓く。これは、国民の負託を受け、この議場にいる、全ての国会議員の責任であります。世界の真ん中で輝く日本を、1億総活躍の日本を、そして子どもたちの誰もが夢に向かって頑張ることができる、そういう日本の未来を、共に、ここから、切り拓いていこうではありませんか」と述べた。「世界の真ん中」といい、「1億総活躍」といい、何のてらいもなく語るのが安倍のウルトラナショナリズムの真骨頂である。しかし、その後、世論と野党などの厳しい批判のなかで自民党の憲法改正推進本部はこの改憲草案を「党の公式文書」の1つとしての位置に格下げし、自民党の改憲項目の論点整理では、野党を改憲論議に引き込むために従来の自民党の改憲項目を絞り込み、野党が主張する論点も盛り込んで改憲議論の具体化を進める方向に、戦術を転換させている。

なぜ、安倍首相らは自らが掲げてきた「改憲草案」を事実上棚上げし、自説を曲げてまで野党の一部を改憲に取り込もうとして改憲にこだわるのか。それは「戦争法」といえども、いまなお日本国憲法の縛りのもとにあるからだ。戦争法が実現した集団的自衛権の限定行使は、集団的自衛権を自由に行使することができるわけではない。PKO法は改悪され、「駆け付け警護」や「宿営地共同防衛」ができるようになったといっても、国連や米軍の指揮下で自衛隊が自由に戦争ができるようにはなっていない。安倍首相はなんとしても憲法9条に代表される日本国憲法を変えたい(戦後レジームからの脱却)のである。ともかく、改憲の突破口を開きたい、そこから9条を変えて、「フルスペックの集団的自衛権行使」が可能な国にする、世界的規模で米国と共に「戦争する国」にしたいということだ。そうした現れが、トランプ大統領の10%もの軍事費増強に呼応する「防衛費のGDP1%枠にこだわらない」という発言であり、敵基地攻撃論として語られる海外への武力攻撃の権利などの危険な議論である。そして対外的な戦争準備は「共謀罪」の制定の動きに見られるような国内的な治安維持体制の構築だ。まさにこの両者は一体のものだ。

飲み込みやすくして緊急事態条項の導入をはかる

3月16日、衆議院憲法審査会が共産党などの再開反対を押し切って開かれた。この日の会議は「参政権の保障」という一般的なテーマ設定であったが、自民党側は「大災害など緊急事態時の国会議員の任期延長」を認める改憲に焦点を絞って改憲を訴えた。この議論は、さまざまな改憲を要求する項目の中で焦点を緊急事態条項の導入に絞ったが、その中身は、従来、自民党が主張してきた緊急事態条項導入論とは大きく違っているのが特徴だ。

従来、自民党が主張してきた「緊急事態条項」の設置の改憲論は、自民党改憲草案の第98条、99条に見られる。

■自民党改憲案第98条
内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。(以下略)

■自民党改憲案第99条
緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。(以下略)

この「草案」によれば、武力攻撃、内乱、大規模自然災害などにおいて、内閣が緊急事態を宣言すれば、自由に「政令」をつくったり、自由に予算を使ったり、自治体への指示を出すことができるというものだ。これは市民や法曹界、野党などから戒厳令か、「ナチスの授権法(全権委任法)と同じだ」との厳しい批判を浴びていた。

しかし、今回の自民党の委員たちの主張は「衆院解散などで議員が失職中に大規模災害が起きれば、議員不在になる。こうした時期に議員任期を延長できる特例を憲法に書き込むべきだ」などというものだ。これなら「与野党の憲法観を超えて一致できる」(中谷元・自民党幹事)だろうという。悪名高い緊急事態条項から、ナチスの授権法に連なると言われそうな論点をとりあえずはぎ取って、憲法が定める衆議院議員の任期にしぼってしまったのである。

実際、この日の憲法審査会では民進党の枝野議員は「検討すべき問題は他に沢山ある」としながらも、「議員任期延長問題は検討に値する」と述べ、同じ民進党の細野豪志議員は自説を示して、「180日を上限とした任期延長」論を語った。枝野議員は安倍政権の改憲論には乗らないと言明しているが、細野議員の議論を聴いて自民党はほくそ笑んだに違いない。

この自民党の議論は、他の政党の賛同を得られそうな議員任期を口実に明文改憲をなんとしても実現し、これを突破口に最終的には自民党改憲草案に見られるような憲法の破壊を実現しようとするものであり、まさに議員任期改憲論はいわゆる「お試し改憲」の部類である。しかし、この議論はペテンである。

ペテンの第1。日本国憲法はこのような緊急時への対応を定めており、改憲は必要がない。憲法第46条は「参議院議員の任期は、6年とし、3年ごとに議員の半数を改選する」とあり、憲法54条2項は「衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる」とある。国会解散時の災害発生など異例のことであるが、それでもなお改憲論者が語るような国会の空白は生じないのである。

ペテンの第2。議員任期の延長に限って緊急事態条項を導入するとはいえ、一旦、緊急事態条項が組み入れられたなら、それが「解釈」によって議員任期以外の問題に拡張されるおそれがないとはいえないのである。この危険性は、ナチスによるワイマール憲法の破壊の歴史を思い起こすまでもないだろう。
緊急事態における議員任期の延長等と称する「改憲」は絶対に許すことができないものである。

安倍政権を退陣に追い込み、戦争する国の道を阻止する

これまで本誌がくり返し指摘してきたように、安倍政権の本質は極右「日本会議内閣」であるというところにある。日本会議はナショナリズムと親米・従米が結合した特異なスタンスを持った右翼潮流である。自民党は3月の「平成29年度方針」で臆面もなく「わが党は日本の歴史、伝統、文化を次の世代へと引き継ぎ『日本らしい日本』を守る。今後も靖国神社参拝を受け継ぎ、国の礎となられた御英霊の御魂に心からの感謝と哀悼の誠をささげ、不戦の誓いと恒久平和への決意を新たにしていく」などと述べている。まさに自民党は日本会議に支配されているかの観がある。

この安倍政権における日本会議メンバーの切り札的存在だった稲田朋実防衛相が南スーダン自衛隊問題で、憲法違反の主張や資料隠蔽など、閣僚辞任に値するような失策を続けているだけでなく、いま安倍内閣を揺るがしている森友学園疑惑においても、これとの癒着が暴露されている。森友学園問題とはいうまでもなく、日本会議的な右翼イデオロギー集団による異常な教育と、それを礼賛し支援する安倍夫妻をはじめとする自民党の右派集団の存在、および安倍政権とその意志を忖度する官僚との癒着を背景にした国有地払い下げにまつわる疑獄事件である。
さまざまな安倍政権の悪政に反対する課題と合わせて、この森友疑惑の暴露の闘いが進むに連れて、異常な高率を示していた安倍内閣支持率も下降し始めた。危機の中で4月解散説も一部永田町にはあるものの、安倍政権の解散権行使の幅は狭くなってきている。安倍政権は急速に窮地に陥りつつある。

この社会の進路を危機に陥れ、戦争への道につき進む安倍政権を退陣に追い込む可能性は見えてきた。私たちの課題は安倍政権の退陣を実現することで、目前のさまざまな切実な課題の解決をめざすことだ。そのためのキーワードは「総がかり」と「市民連合」である。幅広く大規模な共同行動を組織する「総がかり行動実行委員会」のような運動の組織化と、それを基盤にした「市民連合」による立憲野党との共闘の組織化、ここにこそ活路はある。
(事務局・高田 健)

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森友疑惑 安倍首相と維新府政は、全容を明らかにせよ

松岡幹雄@とめよう改憲おおさかネットワーク     

「私と憲法」1月号で瑞穂の国記念小学院問題を紹介した。その時点では、地元豊中市での日本会議の動きと教育勅語の暗唱など「軍国主義教育」に焦点を当て批判した。あれから3ヶ月、この問題は今国政を揺るがす大事件へと急展開している。事件の経過と疑惑の焦点、そして、これに対する市民運動の現状について報告する。

森友事件のはじまり

私たちが、今回の問題に着目したのは昨年の5月ごろであった。木村真豊中市議が一枚のハガキサイズのフライアーを手に入れた。そこには、塚本幼稚園という右翼系の幼稚園がこんどは豊中市に瑞穂の国記念小学院なる小学校を建設し、翌年の4月に開校予定と記されていた。木村議員が、土地登記を調べると所有者は国交省、窓口の近畿財務局は「定借権(定期借地権)」付きで貸しているというのだ。もともと、この土地は豊中市が貸与を希望していたものであったものの、国は強硬に豊中市に買い取りを求めてきた。それを、なぜ森友には貸しているのか、疑問が走った。しばらくして、今度は、森友がその土地を買ったという情報が入り、木村議員が売買契約書を請求すると一切金額は黒で塗りつぶされていたのだ。国有地の売買契約は公開が原則であるにもかかわらず、森友だけが非公開、疑問はさらに膨らんでいった。

一方、大阪府私学審議会の審議過程にも疑問は及んだ。2014年12月に認可申請は審議継続となったものの、2015年1月に臨時会が招集され「認可適当」となったのだ。審議会が臨時で開かれたのは2009年からの8年間で森友1回だけだ。私学審で認可される見込みだから、国有財産近畿地方審議会で森友との売買契約が了承されるという離れ業が演じられた。

昨年10月頃からは、疑惑解明ビラ3万枚配布、「瑞穂の国小学院問題を考える会」結成へと地道な運動が続いた。しかし、メディアはいっこうにこの問題は取り上げなかった。

本年に入り、木村議員が2月8日売買契約不開示決定取り消し行政訴訟を大阪地裁に起こし、マスコミ記者会見すると、翌日の朝日新聞が「売却額は同じ規模の近隣国有地の10分の1」であったという驚くべき事実を報じた。

さらにひろがる森友疑惑 本命は安倍、松井

・籠池氏〈森友学園理事長〉は、2013年8月以降賃借契約の要請や一括購入の際の値引きなど数10回に渡り鴻池事務所に働きかけていた。実際には、籠池氏が求めていたとおり国有地は8億円も値引きされ売却されている。政治家による関与が当然問われている。また、2014年4月の面談の際には、鴻池側は金銭を差し出されたと主張、一方籠池側は商品券だといっており両者の言い分は食い違っている。

・2016年3月、くい打ち工事で地下埋蔵物が発見されたとして、籠池氏は3月15日に財務省の迫田理財局長に〈当時〉に面談した結果、突然売却契約に変わりごみ撤去費用として8億1900万円が値引きされ、1億3400万円で売却された。いったい何が話合われたのか明らかにされるべきだ。

・安倍夫婦と籠池氏らとの関係も問題である。安倍昭恵夫人は3回塚本幼稚園で講演しており2015年9月には小学校の名誉校長に就任。同校のパンフレットには「籠池先生の教育に対する熱き想いに感銘」を受けて就任したと書いている。首相は、「強引な要請を断れなかった」と国会で答弁しているが大きく食い違っている。国有地払い下げに名誉校長就任が関係しなかったのかどうか、理財局や空港局担当者にその影響をただすべきである。

・私学審議会での異例の「認可適当」。委員から批判や慎重意見が相次いでいたにもかかわらず、事務方主導で認可した。これについて、大阪府の松井知事は、「それは首相が、安倍晋三首相ですから、安倍昭恵名誉校長となれば、事務方も気を回したんでしょう」とまるで他人ごとのように記者に語っている。しかし、事務方が忖度し単独でそのような回しができるはずはない。松井知事本人が圧力をかけていたことは十分考えられる。この点の解明が重要だ。

・安倍首相は、2015年安保法制の審議途中に国会を抜けだし9月4日大阪入りしている。前日の3日には、財務省で迫田理財局長と面談している。9月の3,4,5この3日間、いったい何が行われていたのか、徹底的に全容を明らかにさせる必要がある。

森友疑惑解明は新たな段階に

3月10日、籠池理事長が記者会見し、突然「認可申請を取り下げ、理事長は退任する」と表明した。さらに3月16日になり籠池氏は「安倍晋三首相から昭恵夫人を通じて100万円の寄付を受けた」「すべては国会で話をする」と発表した。その日、自民党は23日に「総理を侮辱する」ことは許されないとし籠池氏を証人喚問することを決めている。3月23日衆参で籠池氏の証人喚問がついに実現される。これは、全容解明のための一歩であることは間違いない。しかしながら、これですべてが明らかになるとは到底考えられない。疑惑の中心人物である迫田理財局長や国交省担当者らの参考人招致を行うべきである。野党が統一して求める参考人招致を絶対に行わせる必要がある。

森友問題は、何を教えているのか

衆参で3分の2を握った政府与党、そのメディア対策は改めて述べる必要はないだろう。すさまじいメディアへの介入が継続している。著書「自由の歴史」で知られるジョン・アクトンの格言に「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対に腐敗する」がある。腐敗する権力への批判と監視がメディアに課せられた役割だ。だが、メディアの批判力が弱まっている現状の中で森友問題は闇に消え何事もなかったかのように4月から開校されていたかもしれない。森友問題が、今日のように大事件となり得たのは木村真市議の告発とそれを支えた市民運動があったからに他ならない。自由度を喪失させているこの国のメディア状況は深刻である。しかし、市民運動の力がメディアを突き動かすことはまだできるのだ。そのことを示したのが今回の森友事件であったと思う。

特定秘密保護法から安保法制=戦争法の強行可決、そして共謀罪法の上程などアベ暴走政治がつづいている。日本を新たな戦前へと導いていくアベ政治を私たちは許すことはできない。そして、もう一つ許すことができないのが、市民・国民の共有財産を右翼勢力が私物化せんとしているということだ。森友以外にもこれに類する問題が次々明るみになってきている。たとえば、加計学園問題もそのひとつだ。安倍首相主導の国家戦略特区で「加計学園」が愛媛県今治市で獣医学部を新設するという計画が進行している。なんと、今治市は、37億円の土地を無償提供し、校舎建設費の補助金として今後8年間で64億円を支払うというのだ。私たちは、市民・国民の財産の私物化を絶対に許さない。

全容解明へ運動はつづく

私たちの町、豊中市では安保法制の最中、地域版総がかり運動を目指して戦争法廃止!豊中市民アクションが誕生した。そして、森友問題を契機に「瑞穂小学院問題を考える会」が結成され活発に活動している。3月11日菅野完氏を招いた市民集会、3月14日の大阪地裁大法廷の非開示決定棄却請求裁判、3月19日の矢野宏さんを招いた市民集会とすべて超満員であふれかえった。4月8日には、大阪レベルでの4野党がそろっての森友市民集会を開く予定だ。また、4月19日には豊中市民アクションが主催して「戦争する国NO!アベ政治NO!豊中から政治を変える市民集会」を開催する。毎年、豊中の市民が行う5月3日憲法市民パレードの準備も進んでいる。

当面は、こうした集会やパレードとともに裁判闘争と刑事告発を進めていく予定だ。国有地売買契約書不開示決定取り消し請求裁判は2月14日第1回口頭弁論が大阪地裁大法廷で行われた。早くから傍聴希望の市民が列をなし、抽選での傍聴となった。裁判所から「すでに売買契約書はマスコミ等で出回っているので国は不開示の見直しはしないのか」という質問に対して、国側は、「現時点ではしない」とあくまで争う姿勢を見せている。次回期日は、4月27日(木)午後4時から、大阪地裁202号大法廷で行われる。

また、「森友問題」に関連して、3月22日大阪地検に告発状を提出する。近畿財務局(氏名不詳者)を相手取った刑事告発である。現在、地元・豊中市民を中心に、「市民告発団」として百名程度の告発人を募っている。

現在、国会での証人喚問が注目されているが、私たちは、これで幕引きにさせてはならない。口利きをした政治家はいったい誰なのか。松井と安倍の責任は絶対ある、その責任を明らかにさせていこう。野党共闘の一つの象徴的なたたかいとして森友疑惑究明をたたかおう。地元、豊中、大阪にとどまらず、全国各地で市民・国民の怒りの声をあげていこう。

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第111回市民憲法講座 労働組合の現場から見る日本の格差・貧困

お話:石田輝正さん(全労金特別中央執行委員)

編集部註)2月18日の講座で石田輝正さんが講演した内容を編集部の責任で要約したものです、要約の責任はすべて本誌編集部にあります。

はじめに

国会では南スーダンの問題から共謀罪さらには沖縄の問題また安倍首相の個人的な問題などさまざまの問題がある中で、今日は雇用をテーマに学習会を開催するということでお招きをいただきまして本当にうれしく思っています。ただ、日ごろ市民運動という形で携わっているみなさんからすると、この労働組合という組織っていったいどういう組織なのか、頭では労働組合という簡単な大枠はわかっていただいていると思うんですけれども、動きが遅いとか動きが悪いというには、それなりの背景や理由がります。その辺も少しお話をして理解をいただきながら労働の現場で今何が起きているのか、それから労働の現場と生活が直結しているところ、さらに安倍政権が働く現場をどのようにしようとしているのかをお話をさせていただきます。最後に労働組合と市民運動がどのように協力・連携をして活動をしていけるのか、わたしの経験の中でお話をさせていただければと思っています。

簡単にわたしの自己紹介をします。わたしは静岡県富士市というところで生まれ育ちまして、2005年から東京の全労金という労働金庫の労働組合の本部の委員長を10年間やっておりました。2015年に退任し、いま特別中央執行委員という立場で労働運動に、まだかかわっています。みなさんの中で静岡県富士市というと、田子の浦港のヘドロというのが頭の中に浮かぶのではないのかと思います。まさにその場所で生まれ育ちました。そのことが今の運動にかかわっているかというと、それははっきりわかりません。子ども心にあの田子の浦港の汚染された海に漁業協同組合の方が船で来て旗を掲げて反対行動をし、陸からは市民、労働組合が反対運動をしていることをなんとなく覚えています。今回の2015年の安保闘争もそうでしたけれども、やはりそういう運動が広がっていかないと世の中は変わっていかないのかなと思っています。そういうことで、私の労働運動の中で、とにかく運動を広げるところには力を尽くしてきたつもりでいます。そんな背景があることも少しご理解いただければと思います。

あわせて労働者の父親のもとで育ちました。労働者だからというわけではないですが、決して裕福な家庭ではありませんでした。ひとつのエピソードをお話ししますと、本を読むのが結構好きでしたのでよく本を読んでいました。だいたいの本というのは四角のかたちをしていますよね。私が読んでいた本は角が削れていて、それが当たり前だと思っていました。なぜ削れていたかというと、父親が鉄道会社に勤めていまして、鉄道会社の貨物の中に本屋さんが売れ残った本などいろいろなものを持ってきて貨物の中に入れるんですね。田子の浦港というのは製紙会社が多いので、その原料にするためです。そこから持ち出されたりするものは全部角を削るんですね。父親はそれを、当然了解を得て家に持ってきて、私はそれを読んでいた。

あるとき父親が持ってきたなかに、初めて角が削れていない本があったんです。それで、なぜこれは削れていないのって聞いてわかったんです。初めて削れていない本が、なんと田中正造の伝記でした。ですから私にとっては富士市という町で生まれたことと、たぶん父親が初めてお金を出して買ったと思う本が田中正造さんの伝記だったということもあって、こういう運動に関わっているのかなと思ったりもしています。

今日の資料はレジメで「労働現場から見る日本の格差と貧困」という冊子と、資料編ということで何ページかにわたって、政府が出している統計を少しまとめたものを資料としました。またホームページでも調べられるように出所を書いてありますので調べていただければと思います。

「全労金」とは?

まず、全労金――全国労働金庫労働組合連合会って何だ、というところを最初にお話しをさせていただければと思います。「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」の加盟団体メンバーです。あのメンバーの中で唯一単独の労働組合の名前で入っているのは、実は全労金だけです。なぜ労働組合ならば労働団体の方で一緒にやらないのかということで、不思議に思われているかもしれません。それから「なぜ一緒に運動ができたのか」ということも、少しこの「はじめに」でお話ししたいと思います。

資料の写真を見て欲しいんですが、9条壊すな実行委員会、市民連絡会の隣に全労金という幟があります。これは本当に珍しいそうです。私はそんなには思わなかったのですが、すごく珍しいといわれてうれしかったけれど、こういう組織です。みなさんと一緒に国会前にも行っていました。正式名称は全国労働金庫労働組合連合会といいまして、全国47都道府県にある労働金庫という金融機関の職員が加入する労働組合の全国の連合会組織です。現在は地域統合などで、全国に13の労働金庫が北海道から沖縄まであります。この東京は中央労働金庫となっています。それぞれに労働組合があります。それから金融機関なので本部的機能を持っているところがあり、そこで働く職員もひとつの労働組合になっていますので全部で14の労働組合があります。その14の労働組合を統括して本部的な機能と、労働金庫という業態のさまざまな問題に対応する役割として、全国労働金庫労働組合連合会、全労金があります。ですから「何何労組」ではなくて「連合会」になっています。14の単組が加盟をして、それを統轄する組織です。

組織実態ですが、14単組、約9000名の組合員が加入しています。ユニオンショップ協定、職員になれば自動的に組合員になるかたちをとっている単組もありますし、オープンショップといいまして、労働組合に入るといわないと入れないというかたちを取っているところもあります。14の単組がそれぞれの組織で判断をしています。その9000名の内訳は7000名の正規職員といわれている人と、正規の職員ではない約2000名で構成しています。よく労働組合は正職員、正社員の組合だから、といわれることがありますが決してそういう状況ではなく、私たちは労働金庫という業態に働く全ての職員をひとつの組合に加入してもらうというということで取り組みをしています。

ちなみに一般的には正職員、正社員以外の人たちも非正規社員とか非正規職員といいます。非正規労働者ともいいますけれども、私たちの組織は非正規という言葉は「正規に非ず」という意味があるということで、組織の中では使わずに、それぞれの名称があります。嘱託職員であったり契約職員であったり派遣職員であったり、色々ありますけれど、それぞれの名前で嘱託職員組合員、契約職員組合員というような呼び方をしています。ただあまりにもその名前が多いので総称で嘱託等労働者、嘱託等組合員と呼ぶようにしています。同じ職場に働く仲間という意識を労働組合の中でもきちんと持とうということでやっています。ただ今日は一般的に使われる非正規という言葉の方がわかりやすいと思いますので、あえてそれを使わせていただきたいと思います。

2000名の非正規労働者が組合員として加入しています。いつ頃からこういう取り組みが進んだかといいますと、2000年初頭に非正規労働者の方々が職場に増えてきて、その方がいないと職場が機能しなくなるのではないか。労働条件は上から下に、川の水と同じように流れます。底上げをきちんとしないと正規の職員だからといって労働条件は安定しているわけではありません。そこで底上げの運動ということで、2000年にそういう方々にも組合に入ってもらおう、そして非正規の方々の処遇改善をきちんとしようということで方針化をして、2005年から本格的にスタートしました。

ですから約3年~4年は非正規という方々が職場にいて、その方々に組合に入ってもらいたい、その方々の処遇改善を労金組合はやるんだということを、当時の正規の組合員の方々に理解を求めるために時間がかかりました。私たちは連合という労働団体に加盟していますけれども、その中では2005年以降、組織拡大と処遇改善の取り組みを行っていると注目をされました。いまではその2000名の非正規職員の方々が労働組合の役員を担っている方もいます。有期雇用です。有期雇用というのはきちんと期間が決められていて、1年契約、半年契約で働く、その繰り返しという方もいます。そういう方々も労働組合の役員を担っているという実態で、ある意味手前味噌ですけれども、本当に民主的な運動をやっていると思います。民主的というのが、実は先ほどいった労働組合は動きが遅いというところにもつながるんですが、それはまた後ほどお話しします。

運動の柱は3本掲げています。まず全労金組織の運動の統一と底上げを図り、社会的労働運動の役割を発揮する。社会的労働運動というのは企業の中の課題だけではなくて企業の外で起きていることにもきちんと労働運動として関わろうではないかということです。それがこの総がかり行動実行委員会に参加していくきっかけになりますが、こういった運動の柱があります。そして2つ目が労金業態で働くすべての労働者の雇用と生活を守り、労働条件の統一をめざす、という柱。3番目に、労働金庫は協同組合という形態の金融機関ですので協同組合としての社会的な役割を発揮する、企業に対して政策提言を労働組合としてきちんと求めていく。労働組合本来の運動2本と、事業家に対して求める柱1本ということでこの3つを掲げています。以前綱領がないということで責められた政党もありましたけれども、全労金にはきちんと綱領がありまして、これは結成当初から変わっていない綱領です。古いという人もいますが、私はあえていまの時代だからこそ「労働者階級の世界平和に貢献せんことを期す」ということは重要な綱領であると思っています。

全労金はなぜ市民運動と一緒に運動ができるのか?

では、なぜ全労金は市民運動と一緒に運動ができるのかということを話します。労働組合という組織には議案書というのがあります。必ず毎年つくります。この議案書に何が書かれているかといいますと、1年間の活動方針が書かれています。さらに予算、執行体制、全てこの中に入っています。これを決めるのは労働組合の最も重要な最高決議機関といわれている定期大会になります。この定期大会で決めた内容にそって運動を進めるのが労働組合です。ですから定期大会できちんと運動方針を確立しないと、緊急的には臨時大会を開いたりしますけれども、一般的には大会できちんと議論しないことを、強いリーダーだからといって勝手にやるとか勝手に予算を使うとかということはできません。そういうことをやれば労働組合の規約の中で処罰されることになります。これは労働組合が民主的でいいところですが、逆に判断が遅いことにつながります。

それから労働組合では規約とか規定というものがきちんと定められています。このように冊子になっていて全組合員に配布されています。この規約に何が書かれているかというと、例えば定期大会では何を議案として上げなければいけないのかということが全部この中に記載されています。定期大会以外の場所で決めることができない議題も、この中に定められています。全組合員が見られる場所に置いてありますので、もしリーダーといわれる方、例えば私は10年委員長をやっていましたけれども、私が勝手に何かを大会以外の場所で決めようとしても、それはおかしいということで、決めることができないようになっています。予算の使い方も全てこの中で決められています。それが労働組合の特徴的なところです。そのように決められている中で運動を進めていかなければいけないということで、判断が遅くなることになります。しかし一度決めれば組織全体で動き出す。遅いけれども動き出したら大きな力になるというのが労働組合です。そこが市民運動に関わっている方々にはなかなか理解してもらえないところではありますけれども、ぜひ今日の話を通じてご理解をいただければありがたいなと思います。

こうした民主的かつ全体で判断して全体で行動をするという労働組合の行動をあらわす言葉で、これは国鉄労働組合が掲げていた言葉ですが「ひとりの100歩より100人の一歩」、まさにひとりのリーダーが勝手に前に進むのではなくて、全員で判断をして、遅いけれども一歩ずつ前に進むのが労働運動だということをあらわしている言葉だと思います。

ですから全労金が国会前に幟を持って参加をするというのも、実はここにある規定や規約、そして1年に一回決めた運動方針にそってきちんと組織判断をしたからこそ、あの場に行けるということになっています。参考に全労金が国会前に参加をすることができるようになった、2015年3月に開催した第7回の中央執行委員会の場の文章をポイントだけ掲載しましたのでご覧いただきたいと思います。文章は少し荒っぽいですが、これは私が当時起案をしたものです。

このときの提案は2014年の63回定期大会で、私たちは全ての国民に自由・平等が認められる社会の実現を目指そう、そして組織内の活動にとどまることなく、組織の枠を超えた社会運動を積極的に展開していこうということを共有しました。その上で2014年の運動方針では、憲法や米軍基地問題並びに労働者の尊厳に関わる労働法制や人権等の社会問題に対して、地域の仲間や他組織との連携を強化し、さまざまな社会運動に積極的に参画するということを確認しています。そして現在安倍政権は国民・生活者・働くものを犠牲にした戦争する国づくりに向けて、民主主義も立憲主義も無視して暴走を続けている。こうした中、安倍政権の暴走にストップをかけるために広範な世論形成とその運動を支える人たちの声と行動を大きくしていくことが必要だと訴えました。その上で、そのためにも労働運動と市民運動が連携して全国各地で運動の領域を拡げながらこれまでにない大きな枠組みによる運動の結集も呼びかけられているので、それに参加しようということをここで提起し、この中央執行委員会で確認をしました。

ですから、あの全労金の幟が国会前に登場したのはこの2015年3月17日以降ということになります。それまでは私や私の友人、仲間と参加することはありましたけれども組合の旗を、幟を持っていくということはできませんでした。ただこのことによってそのあと全労金は総がかり行動にも参加し、運動に参加していくことになりました。このときに確認した具体的なものが、①「第6期沖縄意見広告」団体賛同金の拠出②「2015原発のない福島を!県民大集会」団体賛同金の拠出と参加③「平和といのちと人権を!5・3憲法集会」へのカンパ金の拠出と参加④「戦争させない全国署名」の取り組み⑤「一斉3.11全国スタンディングの取り組み」という全部で5つの具体的な取り組みをこの3月17日に確認して、全労金は運動を進めていったことになります。

今日は私の組織の話をしましたけれどもほかの組織も同様で、やはりこのような組織議論を重ねて、組合員ひとりひとりが参加をするのが労働組合です。その労働組合の方向性を決めるのは組合員の総意です。きちんとこの営みを踏まないとやはり組織がなり立たないということで、少しスタートが遅れるということは、ご理解をいただきたいと思います。以上が全労金についてのお話しです。

平和運動と格差・貧困の関係を考える

非正規雇用の現状と課題の話をする前に、平和運動と格差・貧困の関係というところを少し整理をしておきます。レジュメに2015年安保闘争の総がかり行動実行委員会の中間総括を掲載させて頂きました。総がかり行動実行委員会の中間総括の中では「37%・2000万人といわれる非正規労働者への拡大、 貧困層といわれている権利を侵害された層への運動拡大が不十分」だった。「今後の取り組みに当たってはより広範な運動の構築をめざして権利を不当に奪われている人たちとの連携強化、労働団体との連携強化、保守層との連携強化、運動参加、総がかり行動実行委員会の活性化が求められている。また私たちの運動のあり方としても、地域へ、市民社会の中にさらに入っていくことが必要だ」とまとめられています。要は格差・貧困といわれる層の人たち、国会前に行きたくても行くことができない、声を上げたくても声を上げる余裕がない、そうした人たちにも共感を得られるような運動をしていくことによって、さらにこの総がかりという運動を広げていくことができる、ということがまとめられたんですね。だから今日のテーマとして格差・貧困が上がったと私は認識をしています。

それから、これはわたし自身の経験として、全労金の中で平和運動と格差・貧困はイコールだということをずっと訴えてきていました。なぜ平和運動と格差・貧困がイコールだと考えて組織で訴えてきたかといいますと、その背景には、ある人物の問題提起があります。

みなさんもご存じだと思いますけれども、2007年1月の朝日新聞が出している「論座」という雑誌に掲載された赤木智弘さんの文章です。「『丸山眞男』をひっぱたきたい―31歳。フリーター。希望は、戦争。」という標題でした。正直、標題を見た瞬間にちょっと私たちとは違う世界の人のものだということで、少し敬遠的な目で私は見ました。賛否両論があるかもしれませんけれども、そこに書かれていたことを簡単にいいますと、彼らにはまったく責任がない就職氷河期に長時間低賃金のフリーターになってしまった。社会からはやる気のない奴らだとののしられ、職場では正社員、正規社員という大きな壁、社会の壁があって、それを変えられるのは社会の流動化だ、その流動化のひとつが戦争だと、彼は文章をまとめ上げたんですね。もちろん彼も戦争を望んでいるのではなく、自分たちの存在をわかって欲しい。自分たちの存在なくして平和な日本を守ろうというけれど、自分たちがこれだけ苦しんでいるこの日本が平和な社会というのであるならば、私たちはその枠の中にはいないんだという背景からこのようなことが書かれていました。最後に自分たちのような弱者をこのままずっと弱者という位置づけに強制し続けるとするならば、戦争という名前の、国民全員が苦しむ「平等」を選択することに躊躇はしないだろうとまとめていました。

言いたいことはたくさんありますけれども、何度も何度も読みましたし、私なりにそれに対抗するものを持とうと思っていました。しかし振り返ったときに、小泉元首相が郵政職員26万人の既得権を守って何の改革ができるのかと叫んだあの郵政選挙。ここで何が起きたかというと圧倒的な若者と圧倒的な貧困層の人たちが支持をした。だとすると私たちの運動は、そういう人たちにもきちんと目を向けた運動をしなければいけないと私の中では整理をしました。以降全労金は広島、長崎、沖縄のときに必ず平和運動ということで現地で集会をやり、委員長の立場でそこに行って挨拶する時間をいただきます。そのときには必ず平和運動と格差・貧困は同じだ、全労金は安定雇用と均等待遇といういわゆる正規・非正規の枠を超えた処遇の改善の運動をしようといっています。これも平和運動のひとつだということを話してきました。総がかり行動実行委員会の総括としても、この格差・貧困という問題は平和運動とイコールとして考えていかなければいけないとまとめられていて、わたし自身でもそのような思いを持ってきていました。

ちなみこの「貧困」という言葉、私の中で整理をしているのは「貧しい」ということと、「人とのつながりがない」、この両方があるのが貧困だと思っています。貧しいだけでは貧困とはいわないと思います。戦後、私たちの親の世代は本当に貧しい生活をしていたと何度も聞かされてきました。ただし貧困生活とはいいません。なぜならばお米がなければ隣の方に「少し貸して」というつながりもありました。職場では困った組合員がいれば隣の組合員が「どうしたんだ」と声をかける。常にそういうつながりがありました。しかしここ数年の、特に非正規雇用といわれるところには、格差という貧しい人とのつながり、職場の中で助けてもらえない、壁がおかれてしまっている、そういう意味での貧困というふうに定義をしてこの問題を考えていかなければいけないと思っています。

「非正規雇用」「非正規雇用労働者」の現状と課題

具体的な数字を少し見ていきます。まずいまの非正規雇用がどのように増えてきたのかということです。簡単にいまの非正規雇用の実態をいいますと、非正規雇用労働者は2015年の総務省の統計では1980万人、雇用労働者の37.47%となっています。この非正規労働者の67%は女性です。ちなみに2015年12月に厚生労働省が発表した就業形態調査によりますと民間事業所で勤務する労働者のうち、非正規社員の割合は40.5%、4割の大台を超えたと当時報道されていました。総務省の数字は民間・公務も含めた数字になっていますので37.5%という数字になりますけれども、民間だけですと4割を超えています。これは2015年の数字で、いま1年経っていて上昇傾向は変わっていませんので、更に増えていると思って構わないと思います。いま、公務の職場もやはり同様で非正規といわれる方々、臨時・非常勤職員といわれていますが、81万人で全体の約30%に、うち地方公務員は全国で64万人です。

この非正規雇用、約2000万人、約4割がどのように高くなってきたのかということですが、1990年から2015年までの20.2%から37.5%という折れ線グラフは非正規雇用率です。そして棒グラフの黒い数字は正規社員です。そしてちょっと薄い数字が非正規社員数です。見ての通り90年代から正規社員はどんどんどんどん減ってきています。それと同様に90年以降、非正規労働者がどんどんどんどん増えてきています。この下に村山から安倍と書いてあるのはその当時の政権です。今回この講演のためにつくった資料にこれを入れてみて、やっぱりなと思ったのは非正規雇用がぐっと増えている小泉政権、安倍政権です。やはり彼らの政権は、労働者の保護より規制緩和をやってきたということです。

そうはいっても政権だけで変わるものではありません。1995年に日経連の「新時代の日本的経営」という考え方が示されました。バブルが崩壊し、新自由主義といわれてきて、いわゆる大きな政府から小さな政府と呼ばれてきたときです。そのときに日経連は、これからの日本社会における労働者の種類は3つに分けなければいけないと「新時代の日本的経営」で提言しました。どのような3つの種類かといいますと、ひとつは長期累積能力活用型グループ、いわゆる正社員です。活用できる正社員ということで、その正社員の賃金は月給制か年俸制、そして終身雇用、定年制です。ふたつ目のグループは高度専門能力活用型グループといいまして、この方々は専門職といわれるものです。これは年俸制、それから業績給となっています。業績に応じて払います。昇給はありますけれども雇用は有期雇用です。ですから半年契約とか1年契約で雇用が切られてしまうというものです。3つめは雇用柔軟型グループといいまして、これは一般的な仕事をするもので賃金は時間給、職務に応じて払う職務給で、昇給はありません。雇用は有期雇用、いつでも雇用を切ることができる。このようにこれからは3つの種類に労働者を分けていかなければいけない。3分の2は、いわゆる有期契約労働者、雇用が不安定な人たちだということを、このときの提言で出しました。

まさにこの提言と政権とが一緒になって進めてきた結果がいまの状況です。4割が非正規、有期契約労働者という、まさにここから始まったといっても過言ではないと思います。その途中には2008年、2009年、リーマンショック、年越し派遣村というようなこともありました。日本の労働の場というのはどんどん壊されていったことがこの表でわかってもらえるのではないかと思います。

そして次「正規雇用と非正規労働者の推移」の表をご覧ください。これはもう少し雇用の変化を詳しく見たものです。1984年から2015年、上段の数字が非正規、下段の数字が正規となります。これは総務省がつくっている資料ですが、実は総務省がつくった資料には文章がもうひとつ、「雇用の状況は改善されている。8年ぶりに正社員が増加した」という文章が加えられています。確かに2015年の数字は正社員が3278万人から3304万人ですから、増えています。しかし、その上の非正規の数字を見ると、非正規も増えています。なおかつ非正規率も増えています。37.4%から37.5%です。この数字をどのように見るのかによって雇用は改善されていると見るのか、相変わらず改善されていないと見るのか、その人たちの見方によって変わると思います。私は少なくともこの数字、この状況を見て雇用が改善されたとか、正社員が8年ぶりに増加したから良かったとか、そういうふうには思えません。総理大臣が雇用状況は改善したと所信表明等でいわれていますけれども、決してそうではないということがこれから見えるのではないかなと思います。

若年層・高齢者で増える非正規労働者が支える生計

次の表は、非正規雇用労働者の推移を年齢別で示したものになります。1988年から2015年で、特徴的なのは近年高齢者の非正規労働者が増えてきていることです。もちろん高齢者雇用確保措置法で、60歳定年を引き上げるという方法と、60歳から継続雇用しなさいという方法と、定年制を廃止する、その3つのどれかを企業は必ずやらなければいけないという法律になりましたので、60歳以降も働くことはできます。ただそのことと、それがあるから高齢者の非正規率が高まっているということは少し違うのではないか、それを言ってはいけないのではないかと思っています。この高齢者雇用確保措置法というのは定年引き上げですから、60歳から65歳まで働けるという制度と継続雇用ですから、いったん60歳で退職をしてそのあと継続して働くことができるわけです。特に継続して働く方についてはいったん退職をしますので、そのあといわゆる有期契約、非正規というかたちで雇われることが多いのです。しかし、60歳まで働いた方ですので、企業にとっては十分仕事がわかる方です。ほぼ同じような仕事をさせておいて、雇用は不安で処遇も不安ということが当たり前になっていいのかというところを、やはりわたしたちとしては追及していかなければいけない。労働運動の中でも、例えば春期生活闘争を毎年やりますけれども、その中で高齢者、60歳以降の方々の賃金引き上げを私たちとしても要求しています。そういうことをやっているところはありますけれども、多くのところがいろいろな問題があって昨年あたりから労働契約法20条に伴う処遇について、同じ仕事をしているけれども処遇が改善されないということでの裁判などが起きているという事例もあります。これは非常に大きな問題です。非正規の高齢者が多い、それはやむを得ないのではないととらえていただければと思います。

若年層も実は増えているんですね。大学を卒業しても、正社員としての就職ができない方が増えています。あわせてかつては奨学金などで大学に行って、ある程度就職をすればその就学金は返さなくていいという制度があったりして、奨学金を借りても仕事に就くときにそんなに困らないという時代はありました。けれども、いまの学生の方々は半分以上が奨学金を借りて大学に行っています。その奨学金は国からお金を借りるかたちになっていますので、卒業しても返さなければいけない。ですから働いている期間中に奨学金を返すためのお金を貯めなければいけないということと、奨学金を借りていますから家からの仕送りが少なく、生活しなければいけないのでアルバイトが当たり前のようになっています。そういう方々もこの中に入っていますので、実は若年層の非正規も入っています。

次の資料ですが、「不本意非正規の状況」。言葉の通りですけれども、「不本意非正規労働者」という言葉が、実はいまあります。正社員になりたくてもなれない、なれなかったという人たちを不本意非正規労働者と呼び、さまざまな調査をしています。これは国が調べた数字ですので非正規雇用労働者の16.9%といっていますが、この不本意非正規率の統計を取るのにどれだけの人に調査をしたのかはわかりません。全非正規労働者ひとりひとりにアンケートを取るなんて不可能ですので、たぶんポイント的にやっているのではないかと思います。実は連合という労働団体と労働総研という団体が調査した数字がありまして、その数字はのちほどいいますが16.9%という数字ではなく相当高い数字になっています。これは2000人を対象に調査をした結果ですので、それも社会全体の数字としてみるわけには行きませんが、傾向としてみて十分だと思います。決してこのような数字ではないということをご理解いただければと思います。

雇用形態の違いで賃金・教育・各種制度適用に格差

次のグラフが「賃金カーブ(時給ベース)」です。正規といわれる方々と非正規といわれる方々、それから短時間の方の時給がどのくらい違うのかということを表した数字です。これも厚生労働省の数字を使ったものですけれども、まず一番上のカーブは一般労働者(正社員・正職員)です。時給平均で1958円 、約2000円という数字になっています。それと比較して一般労働者(正社員、正職員以外)ということで、1258円となっています。一般労働者、フルタイムの正社員とフルタイムで正社員以外の時給が約700円も違っている。しかしみなさんは職場実態をよくご存じだと思いますけれども、ほぼ同じ仕事をしています。ほぼ同じ仕事をしているのに雇用形態の違いだけでこれだけの格差があるということが、いまの実態です。冒頭にいいましたけれども雇用と生活が直結しているというのは、まさにこのようなところから見られるのではないかと思います。また短時間労働者の正社員と短時間労働者の正社員以外を比較した場合は、300円くらいの差があるということです。一般労働者1958円、一般労働者の正社員以外の人が1258円、短時間の正社員が1300円、短時間の非正規労働者が1044円というかたちの時間給ごとの違いが表れています。

実はこれは賃金の時給だけではなくてこの折れ線グラフでわかるとおり、一般正社員といわれる方は18歳から50歳くらいまで右肩上がりで賃金は上がっています。しかし一般労働者の正社員以外の方も、短時間労働者の正社員以外の方もほぼ横ばいです。上がらないんです。そこがまた大きな問題です。時給の平均が低いだけではなくて賃金が上がらない。18歳から、一番賃金が上がる55歳になってもまったく上がらないということが大きな問題です。20代、30代、40代で、例えば結婚される、お子さんが生まれる、そういう方の非正規労働者もたくさんいます。そういう方々は賃金が上がらない中で生活をしなければいけない。ですから、また雇用と生活が直結しているというところにつながっていくわけですね。これも単なる数字を見るだけではなくて、上がっている人がいる一方で上がっていかない人がいるというところを見ていただければと思います。

次の表はそれぞれの「事業所における教育訓練の実施状況」です。正社員と正社員以外、非正規といわれる方々との違いです。計画的なOJT、日常の業務の中で行われる教育訓練、いわゆる人材育成です。人材育成が正社員では58%、約60%の方が行われいるといわれている中で、その半分しか非正規社員には行われていない。何度も言います。雇用形態の違いだけですよ。同じ仕事をしているのに賃金の格差はある、雇用の不安もある、さらに人を育てる人材育成ということまで差別をされているわけです。これも非常に大きな問題ですね。あわせてOFF-JT、これは通常の仕事を一時離れて行う特別な訓練ですね。これも正社員は72%になっていて非正規は36%、ここでも格差があるということです。雇用の格差、処遇の格差、さらに人材育成での格差――非正規ですから短期間で仕事を終えて次の企業に行くとしても、育成されていないわけですから正社員とは違う扱いをされてしまうのは当然です。このところもきちんと改善していかないと、例え有期契約、非正規労働者であっても、きちんと人材育成が行われていれば次の職場で正規という道もあるかもしれませんし、次の企業に行かなくても同じ職場で正社員という働き方になる道も開かれていくと思います。それが全部閉ざされているのが非正規労働者ということがわかっていただけるのではないかと思います。

その右側の表は「各種制度の適用状況」です。雇用保険、健康保険、厚生年金、退職金、賞与、すべて正社員と非正規社員の違い、差別が数字として表れています。特に見ていただきたいのは退職金制度と賞与です。正社員は8割の方々に退職金制度があります。多い少ないは抜きにしても、定年退職を迎え老後生活としての一定のものが支給されるわけです。しかし非正規社員といわれる方々には、一切ない。仕事から離れても退職金というかたちのものがないということは、老後の生活だけではなくて、例えば有期契約ですから、仕事が終わって次の仕事に行くまでの間に仕事が見つからなかった場合にどうするのか。ないわけですよね。これも貧困というところ、生活につながるひとつの要因だと思います。また賞与も正社員は8割の方が支給されているにもかかわらず、非正規ということだけで3割しか支給されていない。本当にくどくいいます。雇用形態の違いだけです。同じように隣で働いています。同じような内容で仕事をしています。にもかかわらず、雇用形態、呼び方が違うだけで、ここまでの差別をされるというのが非正規労働者のいまの職場で起きていいることです。

職場実態と生活実態が直結している

この職場実態が、貧困と呼ばれる生活にどのように直結しているのかということが「『非正規労働者』の生活実態と課題」の表からです。これは連合という団体と連合総研という団体が協力をして調査をした数字です。どのような人たちかといいますと、首都圏、中部圏、関西圏に居住する20代から40代の民間企業に雇用されている非正規労働者2000人を対象にしたアンケート結果です。ですからイコール今の日本社会の現状だとは言えないかもしれませんけれど、傾向としては十分見られる数字だと思います。まず非正規労働者の3人に一人が「主たる稼ぎ手」です。主たる稼ぎ手というのは家計に占める自分の割合が全てだという方、世帯収入の大部分、8割とか7割を占める方そして半分を占めますよという方々を「主稼得者」と定義をすると、全体の33.9%が非正規労働者でありながら主たる稼ぎ手、家の収入全てを担っているとなっています。注目するのは男性40代では7割です。40代で7割の方が、非正規労働者でさらに主たる稼ぎ手になってしまっている。これは大変なことだと思います。

賃金は年齢を重ねても上がりません、もともと格差がついています、賞与はありません、退職金もありません、教育訓練は受けさせてもらえません、という中の40代の方が家計の全てを担っているというのは想像したら大変な状況です。先ほど不本意労働者というお話しをしました。正社員になりたいけれどもなれない、政府の統計だと16%という数字が出ていましたけれども、この連合・連合総研が行った調査によりますと、表のなかの「非正規の理由」では、不本意49.6%、5割の方々が不本意だと答えています。この調査では約半数が不本意の非正規労働者で、かつ3人に一人が主たる稼ぎ手になっているということがわかります。

その主たる稼ぎ手の方々が収入が次の表です。全体の97.8%が過去1年間の賃金年収が400万円未満です。また男性の58%、女性の74.6%が200万円未満です。私はいま東京で単身赴任という生活をしていますけれども、とても考えられません。一人暮らしでも200万円という年収で家を借りて生活をする、ましてや家庭があったらどうなってしまうんだろうと想像します。実は非正規労働者、雇用形態が違うというだけで職場でも差別され、なおかつ収入が差別をされていることによってこのような状況になってしまっているということは、本当にとんでもない状況です。総がかり行動実行委員会に中で行きたくてもいけない人たちがいるのではないか、声を上げたくても声を上げる余裕がないのではないか、というのはまさにこのような数字から理解をいただけるのではないかと思います。

ではそのような非正規労働者の貯蓄ですが、非正規労働者で主たる稼ぎ手の世帯で貯蓄は「ない」と答えた方々は27.9%、約3割の方々が答えています。貯蓄は一切ないということです。貯蓄がないとどのようなことが起きるのかということは、このあと少し具体的な事例を出します。さらにこれに100万円未満を加えると52.7%、半数の人たちは貯蓄が100万円未満です。万が一のときにいったいどうするのだろうかと思います。そう思えば確かに憲法9条を壊されるのは嫌だ、戦争なんかとんでもないと思っても、いまの自分の生活をなんとかしなければということで参加できないことも理解しなければいけないと思ってしまったりもします。

では、貯蓄がないとどうなるかの具体例が「過去1年間に生活苦のために何をしましたか」というアンケートです。結果は、世帯年収200万円未満の25.5%が「食事の回数を減らした」という回答です。2番目に多かったのは「医者にかかれなかった」――医者にかからないようにしたという方が正しいと思います。学校の先生方、教職員組合の方々とお話しする機会で何年も前から聞く話ですが、夏休みが終わって生徒が学校に通学してくると痩せている生徒が何人かいるということです。そんなことがあるのかなと思っていましたが、このアンケート調査を見ますと、一食減らしたというのは学校に行けば給食があるので食べられますけれども、長い休み、特に夏休みには給食がないので食べないわけですね。痩せるわけだと思いました。先生が言っていたことはそういうことだったんだということを、この数字を見て認識を新たにしたところです。ここ数年、フードバンクとか子ども食堂と言われるものが、全国各地で展開されています。私たち労働組合もフードバンクに関わっていますが、その背景にはやはりこういうことがあるわけです。そういう活動にもどのように関われるかはありますが、意識をしておかなければいけないと、この数字を見ながら先生方の話を少しでも思い出していたところです。

では、ローンの状況はどうか。収入が少ないわけですから生活に困ればローンを使ってしまうことは当たり前で、とくに消費者金融のローンが多いというのは出ています。そういう意味では、非正規労働者向けの、例えば消費者金融のローンではない金融機関としてのローンを提供するというのは何年か前から研究課題だと議論をしていて、私の労働金庫でも議論してきました。100%整っているわけではありませんけれども、そういう制度も労働金庫の中にはあります。

連合の「なんでも労働相談」からみる

いま連合が「なんでも労働相談」ということで、全国47都道府県で労働相談を行っています。その集約結果をホームページ等で掲載をしていますのでその数字も参考にして表をつくってみました。連合相談ダイヤル、2016年1月から12月の1年間に寄せられた数字は15,000件あったと示されていました。その相談で最も多かったのが差別、セクハラ、パワハラ、マタハラといったハラスメントだとか職場のいじめになっています。先ほど貧困という言葉の中には、貧困ということとつながりがないというお話しをしました。労働組合に差別、いじめという相談が多く寄せられている職場実態なわけですから、つながりというものがやはりないわけです。雇用が破壊されると生活が破壊され、さらに人とのつながりも破壊されていくことが、この数字からわかってくると思います。

さらに驚くべきことに、雇用形態別の割合です。労働相談は必ずしも非正規労働者だけではありません。いまの職場での問題は正規にも及んでいるということです。職場が壊されているのは決して非正規労働者だけではなく、正規、安定していると言われている正規労働者にも起きていることがこの数字からわかります。45%ですから半数が正規労働者で、こういうことから職場の問題が浮かび上がってくることがわかります。

次の「寄せられた相談事例」をみると特徴的なものが掲載されています。長時間労働、不払い残業、有給休暇、解雇・雇い止め、ハラスメント。長時間労働では朝6時に家を出て夜11時まで家に帰ってこない。持ち帰り残業、要は職場の仕事が残ったものを家に帰ってやるという仕事、土曜・日曜も出勤があり、休日出勤した場合は振替休日があるけれども、それも取れない。この内容をそのまま受け取れば、休みがなく朝6時から夜11時まで職場、通勤時間も含めて働いていることになります。「休みが一切ない」というのは考えられないです。これは正社員の方からの相談です。

不払い残業は、タイムカードを打刻したあとに残業をさせられ、残業代は出ない。要は出勤すると何時に出勤したということを機械で操作して、終わったらまた操作をする。そこで時間外労働を管理しているんですけれど、帰った時間に正式にやってしまうとその分時間外労働ということで時間外手当を払わなければいけないので、定時の仕事が終わったらいったん帰ったことにしなさいということで打刻させられるわけです。もう帰ったということで。でも仕事は職場でそのまま残っているということです。さらに残業代が出ないということです。労働時間管理はきちんと管理職が行わなければいけないと定められているんですが、残念ながら上司も体調を崩し時間管理は一切されていないという状況です。これは女性の正社員からの相談です。

それから有給休暇。これはパートの方です。募集要項とか就業規則にあるんでしょう。でも実際に有給休暇を取ろうとしたら、うちの会社はパートには有給休暇はないと言われて休ませてもらえなかった。これは明らかな労働基準法違反です。不払い残業も労働基準法違反ですけれどもこういう相談が本当に多いんですよね。

解雇や雇い止めになりますと、非正規労働者はまず雇用が不安定だということと処遇が働きに応じた賃金が払われていないという格差、差別をされているという、2つがいゆる非正規労働者といわれています。その非正規労働者の雇用が安定していない。半年、1年で契約更新をするという方々は契約更新をするたびに、事前の期間、毎年6月だといわれれば4月、5月くらいから、今度更新してもらえるのだろうかという不安を抱えているという話をよく聞きます。まさにそういう方々が次の更新がない、この相談の方はいままで自動更新してきたのに、いきなり次の更新がないと言われてしまったということで相談があった。

最後がハラスメントです。最近特に多いということですけれども、女性のパートの方ですが、用もないのに帰り間際について来てお茶だとか食事に誘われて、それを断ったら突然大声で怒るようになり、その行為がずっと続いて怖くて仕事に行けないという相談です。こういう相談がいま本当に多いということなんです。労働組合の連合ですから、相談があって対応することは必要だと私は思いますけれど、こういう相談が多いということは、どれだけ私たちの職場がこわされてきているのかということです。相談を受けてもらえる機関があるという良さと、でもその相談がいっこうに減らず、さらにハラスメントや差別、いじめというのは孤立させられるわけです。つながりがないということです。そういう方々が増えているというのは、一体どんな職場になっているのかということで、想像を働かせていただければと思います。

「同一労働同一賃金」の実現について

このような職場実態の中で政府がどんなことを考えているのか。いま注目されている「同一労働同一賃金」という言葉とか、労働時間規制――労働時間に規制をかけるという話が国会の中からも聞こえてきます。同一労働同一賃金という言葉は、安倍首相が言った言葉でも何でもないんですね。労働運動をやってきた人間からすると何を今更いっているんだと。これまで私たち労働組合は、職場の中でいわゆる同一労働同一賃金だとか均等待遇という言葉を使って、少なくとも私は運動をしてきています。今頃政府が何をいっているんだという思いはあります。しかし派遣法が2年前に、一生派遣労働者でいなければいけないような法律に変えられてしまいました。そのときに私たちは均等待遇原則をきちんと入れるべきだということを訴えました。しかし、当時政府はその言葉ひとつも入れず、蹴ったわけです。にもかかわらず今になってこのように言ってきているのは、本気になってやろうとしているのか。もしやるのであるならば派遣法をまず変えようじゃないかと訴え、要求していきたいと思っています。

そうは言ってもやろうとするのですから、きちんとやってもらいたいわけです。では、今どのような考え方で労働組合はいるのか。まだ議論しています。たぶん4月くらいに具体的なものが出てくると思います。私たちはどのような考え方で行かなければいけないのかということをお話しします。まず非正規労働者の賃金・一時金だけではない。同一労働同一賃金と言う言葉は、賃金・一時金とどうしても言ってしまうけれど、そうではない。均等待遇原則だ。同じ企業で働いている正社員と非正規社員が同じ仕事をしているのだったら均等待遇で、同じような労働条件にしなさい。これは賃金、一時金だけではなくて休暇や福利厚生など、全て同じにしなさいということが労働組が考える同一労働同一賃金、均等待遇原則と言いますけれども、その姿勢でこの議論はされなければいけないということが労働組合の考え方です。

では具体的に法律の中では、どのように示していかなければいけないのかということで、法制化の方法と適用すべき労働条件が書いてあります。同一企業内における雇用形態間、正社員や契約社員、嘱託職員と言われる雇用形態間の合理的理由のない処遇格差を禁止しなさいということです。「合理的理由」です。明らかに与えられている仕事が違うとか、単なる雇用名称が違うだけではなくて、やっている仕事が明確に違うならば格差があっても仕方ありません。けれどもそれがきちんと合理的に説明できないものならば、それは禁止しなさいということが法律の考え方です。それと適用すべき労働条件は、賃金・一時金だけではなくて、慶弔休暇などさまざまな休暇、通勤手当が払われないなんていう話もあるわけですが、そんなことがないようにする。笑い話ではないですけれども、正社員には安全靴は支給されるけれども非正規社員には安全靴が支給されなかった、なんていうことがあります。職場の安全衛生に雇用形態の違いで区分けされているということが実際あるわけです。正社員は無料で配布されるけれども非正規労働者はお金を払って使うとか。そういうことを含めて全て一緒にしなければいけないという考え方を示しているのが、私たち全労金が加盟している連合の考え方です。

私たちもこの通りでいいと思っています。私が所属する全労金と出身組織の静岡労金労組がこの間取り組んできたことを簡単にまとめました。勤続3年以上は全員無期雇用にすると変えました。3年間は仕事が本当にできるかどうかということを見なければいけないという期間をつくりましたので、それが短い長いという議論はあるかもしれませんけれど、3年で自動的に無期雇用になるようにしました。自動的ですから評価などは一切ありません。雇用の不安はなくなるようにしました。賃金制度も正職員との差は確かにありますけれども、きちんと上がっていく人事制度、賃金制度をつくりました。一時金も確かに少し差はありますけれど、最低1ヶ月から3.8ヶ月まで、非正規労働者といわれる方々にも支給するようにしました。退職金制度も正職員と同様に勤続3年を超えれば誰にでも支給する制度に変えました。通勤手当、住宅手当、都市手当も正職員と同じ。家族手当も正職員と同じ。時間外・休日労働割り増しも正職員と同じ。休暇制度も勤続3年以上は全て同じ。福利厚生も全て同じというように、長い時間はかかりましたけれどもここまでの制度になってきています。労働組合でもこのような活動をきちんとやってきているということをぜひご理解をいただきたいと思います。

時間外労働の上限規制

時間外労働の上限規制ですが、大手広告代理店で悲しい事件が起きました。決してあの企業だけの問題ではなくて、労働相談でも労働時間の問題は本当に多くあります。そこでこの労働時間の上限規制をしなければいけないということで、いま議論されています。時間外労働というのは勝手にできません。労働基準法で1日8時間労働と決められています。週40時間です。ですから法律上は、8時間以上は仕事をしてはいけない、できないんです。もっというと仕事をさせてはいけないんですね。しかし、その企業の過半数を組織している労働組合もしくは社員の代表が経営側と1日何時間まで働いてもいいという協定を結べば、経営者が時間外労働をさせてもいいということになっている。その協定を結んでいても、その協定を超える労働をしてることもある。実はいまの労働基準法は特別条項というものがあって青空天井の法律になっていて労働組合と企業が、社員代表と企業が協定を結べば、この間あった事件のような働き方ができてしまうようになっています。非常に問題でもありますが、そこの問題を解決しなければいけないということで、上限規制をしようというのが今回の議論になっています。

上限規制をどのような視点で見たらいいのかということですが、労災認定基準があります。労災認定をする場合に、①病気などの発症前の2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月の、時間外労働の平均のいずれかが概ね80時間を超えると労災認定の基準になります。それから②発症前1ヶ月の時間外労働が概ね100時間を超えていても労災認定される、ということになっています。これは非常に重要なポイントです。いま政府の中では、一時的に事務量が増加する場合については100時間という数字を議論の中で出しています。改正の方向性という内閣府の資料がありますが、「〈原則〉36協定(時間外協定ですが)により、週40時間を超えて労働可能となる時間外労働時間の限度を、月45時間、かつ年360時間とする」。その下に特例ということで「1年720時間(月平均60時間)とする」、その次のところに「一時的に事務量が増加する場合について、最低限、上回ることのできない上限を設ける」と書いてあります。これがいわゆる「100時間」という議論です。発症する1ヶ月前に100時間を超えたら労災認定だといわれる。その労災認定されるような働き方を、今回政府の中で議論していることはとんでもないです。少なくとも、月45時間、これを上限にすべきだと思います。こういう議論をしない限り今回起きたような事件はなくなることはないと思います。

あわせてインターバル規制、実はその議論が一切されていません。労働側は求めています。1日働いて、次に働くまでの間をきちんと何時間おきなさいという規制です。ヨーロッパでは法律で規制されていますが日本にはありません。広告代理店の方の働いた時間数をこの間見ましたけれども、朝6時まで働いて翌日の夕方4時から翌日の朝6時まで働いてタイムカードが押されているんですが、タイムカードを押した日にまた朝6時に出勤して翌日の5時か6時まで、ですから2日半くらいずっと仕事をしています。インターバル規制が入っていませんので、これが許されています。協定をちゃんと結んでいればの話ですが、たぶんその協定も超えていたから問題なんです。今回上限規定という議論をしていますけれども、この中にはインターバル規制もしっかり入れなければいけないと思います。

次に解雇の金銭解決です。聞いたこともあるかもしれませんが、これもいま政府の中で議論されています。解雇の金銭解決とは何かということですが、解雇をするためには4条件という言葉があります。「社会通念上認められる理由」がなければダメなんです。やめさせたいからやめさせるということはだめです。これは有期契約労働者の方でも同じです。しかしこの解雇の金銭解決制度が成立すると、不当だといって裁判を起こしまして裁判に勝ったといっても、お金を払えば解雇してもいいという法律をつくろうとしているわけです。雇用は生活に直結するということを何度も何度も言ってきました。裁判で不当だということで勝っても、企業が一定のお金を払えば解雇できてしまう。これはすごく問題です。いま本格的な議論がスタートしたようです。その論点が解決金の水準であったり、制度の申し立ては誰ができるようにするのか、対象になる解雇は何かということが論点になっているようです。しかし、気をつけなければいけないのは、労働者が申し立てをすればいいようにしましょう、会社がお金を払って認めさせるのはダメですけれども労働者がお金をくれさえすれば私は職場に戻らなくてもいいです、というのは認めてもいいでしょう、という議論になるかもしれません。しかしこの間労働法は最初に入ったものよりどんどん悪くなってきているということです。派遣法がいい例です。たぶん、労働者だけは認めるようにしましょうということで入ったこの制度が、気がついたら使用者側も申し立てができるようになる可能性は十分あります。これは気をつけてみておいていただきたいところです。

ホワイトカラーエグゼンプションの話に少し触れます。これは第一次安倍政権が倒されたときの大きな要因になったものです。一定の収入がある方については時間外労働をいくらやっても時間外手当を払わなくてもいいという制度です。上限規定の議論をしている一方で、一定の賃金をもらっている人については時間外労働をいくらやっても手当を払わなくてもいい制度をつくりましょうというのは矛盾していますよね。この議論もあります。第一次安倍政権のときに、最初の議論は年収1200万円を超える方については時間外労働をしても手当を払わなくてもいいという制度がホワイトカラーエグゼンプションだということでした。けれども議論が進んでいく中で、最後は年収400万円という数字でした。こういうことが労働法の議論なんですね。ですから解雇の金銭解決のところでもいった通り、一度入れるとどんどん議論は悪い方向に行ってしまうのがこの間の政権の流れだということで、気をつけていただきたいと思います。

同質の協力は和、異質の協力は積に

最後にまとめておきたいと思います。このように平和運動を進めていく中で貧困という問題をきちんと考えなければいけない。貧困というのは貧しいということとつながりがない、その貧困につながるところには雇用の問題、職場の問題がありますよという話をしました。そういうことからすると、私たちは今後の運動を考えるときに労働者と生活者という視点で物事を考えていかなければいけないし、労働者、労働組合と生活者、市民運動との連携がやはり重要になってくると思っています。問題の根本は全て同じです。全ての問題を自らの問題ととらえて考えなければいけないのではないかと思います。そして自らの問題として考えたならばウィングを広げる、幅広い運動を展開していくことがいま重要になってきています。何年か前にまとめた文章を持ってきました。これはたぶん第一次安倍政権のときに私が書いたものです。いまの話ももう少しわかりやすく言っていますが、当時安倍政権はアベノミクスの成長戦略を実現するために、解雇規制、労働時間規制、派遣労働規制などの労働法制の規制緩和を推し進めている。そして労働法制の規制緩和は新自由主義、市場主義論者たちが強く求めていますが、彼らの多くは改憲論者です。新自由主義だとか市場万能主義といわれている方々は総じて改憲論者です。これは労働法を壊そうとする人たちも同じです。国家権力を規制する立憲主義も規制緩和しようとしているわけです。全て同じ根っこだといっても過言ではない。

労働組合はそのことから何を学ばなければいけないのかというと、日本維新の会、いまの大阪維新の会とか自民党の一部の人たちかもしれませんけれども、総じて労働組合と敵対しています。かつて「日教組、日教組」と首相がいいましたけれども、あれなんかもまさにその通りだと思います。そういうことからすると、私たち労働運動は幅広い運動をしていかなければいけないということで、市民運動のみなさんと連携していくことが今後求められています。そういう意味では冒頭にいった労働組合の性質、規定だとか規約だとか運動方針を決めるためには一定の時間をかけなければいけないというところも理解していただきたい。理解していただいた上で連携をしていければなと思います。お互いの組織の性質を理解し合うところから、連携や協力につながっていくと思いますので、そのことはぜひお話しをしておきたかったところです。

最後に、ある方がいわれた言葉ですが、今の時代にぴったりだなと思っています。同質の協力は和、足し算、にしかならない。同じ考え同じ思想の人間が集まってもひとりひとりの数字にしかなりませんけれども、異質の人たちが集まればかけ算、積になるということをいわれた方がいます。まさにいま安倍政権と対峙するためにはそのような視点を持って連携、協力する、そういう運動が進めることが重要だということを最後にお話させていただいて終わりにしたいと思います。

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「嵐を呼ぶ少女と呼ばれて」

著者:菱山 南帆子

発行:はるか書房 46版上製
179頁 定価:1600円+税

生い立ち・・・稀有な小学生

かつても今も、小学生が校長と対等に論争するというのは珍しいことだろう。学校事務職員として長らく学校を職場にしていた私は一度だけ目撃したことがある。帰国子女の男子が「こんな退屈で窮屈でつまらない卒業式なんて出たくない」と言って校長とやりあった。結局卒業式には出ずに、一人だけ校長室で卒業証書を受け取った。私は堂々としたその子の態度に感心し、密かに拍手を送ったものだ。

菱山さんは5年生の時に卒業式の「君が代」斉唱を拒否して校長室に呼ばれた。文字通り上から目線の説教に対抗して、なんと彼女は椅子持参で校長室に行き、その上に立って校長に正面から向き合った…、緊迫した場面のはずだが、私の頬は思わず緩んでしまう。校長の戸惑った顔が目に浮かぶ。当時彼女が「君が代」を拒否したのは、ただ「気持ちが悪い」という感覚的なものだった。その感覚を大事にして行動に移す、椅子にのって校長と対峙するという機知を働かせる。

「君が代」問題の前やはり5年生の時、担任の障がい者差別発言に怒って友達を糾合し授業ボイコットを行う。教育委員会、保護者、教師集団を巻き込んだ「100日間戦争」、本のタイトルはこの時のお父さんの「南帆子はまるで嵐を呼ぶ少女だな」というつぶやきからとられている。

中学生になって、アメリカのイラク侵略戦争勃発直前、母校で反戦のビラを撒く。13回目のビラには「子どもを政治から遠ざけないで!という訴えは同時に『子どもは政治から遠ざからないで!』と言い換えてもいいと思います。」と書く。集会デモに足繁く通い、アメリカ大使館前の座り込みに参加する(私は組合の仲間と抗議行動に行った際に、「噂の中学生」が必死に訴える姿に接した)。

高校生になって「高校生反戦行動ネットワーク」を立ち上げる。背伸びして目一杯駆け回る中で「貯金を使い果たし」疲れ切ってしまう。家にいて「衣・食・住」に徹した日々を送る中で「生活者の視点」を身に着けてゆく。

大学生になり、保育園や重度障がい者施設で実習を行い、障がい者就労支援センターに見学に行ってそのままそこで働くようになる。そして3.11をきっかけに再び市民運動に参加する。以降、反原発、憲法改悪反対、特定秘密保護法、集団的自衛権等の大きな闘いの場で司会者として、コーラーとして最先頭に立って今日に至っているのは皆さんご承知の通り。
後半は激動の2015年安保闘争を運動の内側から描いたドキュメントである。あの目まぐるしい日々を生々しく再現してくれている。私も記憶を新たにすることができた(写真も多数)。

ものの芽の力に雨の加はりぬ (稲畑汀子)

読み終わってこの句が頭をよぎった。大岡信が「折々のうた」に採ってこう解説している。「天然(雨)の力を言う前に『ものの芽の力』をいう。まずもって自力、それを助けるものとして雨という他力があると感じているのだろう」と。

幼児の頃手話を習ったお母さんに連れられてろう者の人々と交流する。13匹の捨て猫の面倒を見る。両親と共に圏央道建設反対の集会・デモに参加する。学芸会で戦争をテーマにした劇に出演、衣装の防空頭巾とモンペを縫ってくれた祖母が「南帆子や孫たちにもう二度と戦争を体験させたくない」と嗚咽する姿を胸に焼き付ける。国語のテストで正解の「悲しくて泣いた」でなく「腹が立って泣いた」と書いた答案に、迷いながらも○をつけてくれた担任。子ども心にも自分は異質なのではないかと感じた著者に「南帆子はそういう星の下で生まれたんだと思えば、辛くない」と背中を押してくれた父親。作文に懇切な書き込みをし、講師陣に配布してくれた塾講師、のびのびとしかも充実した学習の機会を与えてくれた和光中学校・高校。多くの理解ある教師や「一番年下の同志」と言って運動に復帰した彼女を迎えた高田健さんとの出会い。

彼女は多くの人々から見守られ、励まされ、教えられてきた。しかし、これらを糧として成長する菱山南帆子その人の「力」がなくては彼女の今はなかっただろうと思う。「弱い者の弱い者による弱い者のための運動こそが求められているのでは」ないか、幼少時から障がい者の問題を「立脚点とバックボーン」とし、一旦は深い挫折を経験した菱山さんからの貴重なメッセージだ。
19日行動の国会前集会で久しぶりに菱山さんのコールに唱和した。20日の反原発集会では見かけないな、と思ったら「第九条の会ヒロシマ」25周年記念集会で講演をなさっていたのだった。(池上 仁)

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