私と憲法190号(2017年2月25日号)


この時代、私たちに活路はあるか~安倍内閣を倒すしかない
安倍政権打倒の大集会?

総がかり行動実行委員会は2月14日、稲田防衛相の辞任要求行動、2月21日、稲田防衛相、金田法相の辞任要求行動を国会議員会館前で開催した。いずれも議会開催中の国会議員がいるであろう昼の12時から午後1時までの開催だった。集まりにくい時間帯の行動であるにもかかわらず、14日は400名、21日は「秘密保護法」廃止へ!実行委員会と共催で450人があつまり、市民の怒りが高まっていることを実感した。

行動の最中、1人の年配の女性が私を呼び止めて、自分の持っているプラカードを示して「これで大集会をやりましょうよ」と声をかけてきた。みると「安倍政権打倒」と書いてあった。とっさに私は「いまもやっているじゃない」と答えたが、彼女は首を振って、「いろいろ問題を言うんじゃなくて、安倍打倒1本に絞った大集会」だという。

この女性の気持ちは良くわかるが、いま、「安倍政権打倒」と銘打って、どれだけ情勢に影響力ある集会ができるだろうか。問題はどうしたら安倍政権を追いつめ、倒すことができるかだ。

韓国のパククネ政権退陣要求の大運動などを見ていると、日本でもそうした運動ができないものかとは思う。首相の妻の安倍昭恵がらみの大阪の森友学園などにまつわる疑惑は韓国のパク政権の疑惑に匹敵するほどの問題なのかも知れないとも思う。

この通常国会での稲田朋実防衛相、金田勝年法相の答弁のデタラメぶりは、両閣僚の即刻辞任に値する大問題であるし、安倍首相の任命責任にも関わることだ。南スーダンの自衛隊に関する資料隠しや、共謀罪問題で右往左往した答弁にはあきれ果てる。安倍政権の国会審議に対する対応はこのところ、全く緊張感がない。両院で与党が3分の2以上確保している奢りから来る「なんでもあり」の緩んだ政治姿勢が反映している。
これらを糾弾する大きなたたかいをつくることが必要だ。

安倍首相の際限ない対米追従と悪政

米国のトランプ政権の誕生に際して、安倍首相のとったスタンスは国際的には笑いものになっている。ヒラリー当選の読みが外れて、あわてて当選直後に駆け付け、大統領就任後にもいの一番に訪米し、ゴルフに興じた今回の日米首脳会談のさまは、どうみてもトランプの「アメリカ ファースト」に追従した「日米同盟 ファースト」だ。欧州各国はもとより、保守党が政権を握ったイギリスのテリーザ・メイ政権と比べてさえ、安倍首相の対米追従ぶりは際だっている。安倍首相は米国の司法当局すら認めなかったトランプの「イスラム7カ国からの入国制限」を「アメリカの内政問題だ」といって、事実上擁護した。従来、安倍晋三政権が売り物にしてきた「価値観外交」は米国で大統領が交代してその政治的価値観が大きく転換した現在、どうなるのか、聞いてみたい。「軍用機の価格を下げて頂いてありがとう」とトランプに礼を言ったとか。安倍首相は恥を知らない。自分は昔から「アメリカ ファースト」だったとでも言いたげだ。

しかし、トランプ政権は早々とTPPからの離脱を表明し、これをしゃにむに推進しようとした安倍政権は窮地に立たされた。対中国包囲網の形成を柱とした安倍政権の対アジア外交も容易ではない。韓国との関係でも「少女像」問題に絡んで駐韓大使を引き上げたまま間もなく2ヶ月におよぼうとしている。日露交渉はデッドロックにのりあげたように停滞している。日米共同声明で安倍首相が固執した「尖閣」の問題では台湾が抗議している。ミサイルを提供しようとしたフィリピンには断られたという話も広まっている。経済問題でもアベノミクスがうまくいっているという話を信じる人はあまりいないだろう。あるのは格差と貧困の拡大と一部富裕層への富の集中だ。日経平均株価がジグザグしながら2万円近くになっても経済に好況感は全くない。アメリカのトランプ政権の不安定な自国第1の経済外交政策がどう影響してくるのか、社会に不安は増大している。

改憲に本格的に踏み出す安倍自民党

自民党は3月5日に党大会を開き、そこで「平成29年度運動方針」を決める。メディアによると、その中で憲法改定については「憲法改正原案の発議に向けて具体的な歩みを進める」と明記され、従来にもまして改憲着手に踏み込んだ方針になっている。報道では「発議」とまで踏み込んだ文言は安倍晋三首相(党総裁)の意向で盛り込まれたといわれ、首相の改憲実現に向けた強い意志を反映したものといわれる。

方針には憲法施行70周年を踏まえ、「次の70年に向けて新しい憲法の姿を形作り、国会の憲法論議を加速させ、憲法改正に向けた道筋を国民に鮮明に示す」と明記された。方針では、その具体化にあたり「これまでの衆参憲法調査会以来の運営理念を継承し、議論を尽くし、幅広い合意形成を目指す」とし、改憲問題での野党との対話を重視する姿勢を特記した。その一方で、世論や民進党などの反発を考慮し、前年の運動方針では触れていた「自民党憲法改正草案」に言及していないことも特徴だ。こうした一部野党への「配慮」は、自民党がいよいよ改憲発議の現実的な方針をとりだしたことの現れでもあり、極めて危険な動きでもある。

この運動方針のスタンスはこの第193通常国会の安倍首相施政方針演説の最後の部分が基礎になっている。そこで安倍首相は「憲法施行70年の節目に当たり、私たちの子や孫、未来を生きる世代のため、次なる70年に向かって、日本をどのような国にしていくのか。その案を国民に提示するため、憲法審査会で具体的な議論を深めようではありませんか。未来を拓く。これは、国民の負託を受け、この議場にいる、全ての国会議員の責任であります。世界の真ん中で輝く日本を、1億総活躍の日本を、そして子どもたちの誰もが夢に向かって頑張ることができる、そういう日本の未来を、共に、ここから、切り拓いていこうではありませんか」と自己陶酔した大仰な演説をした。行政府の責任者が、国権の最高機関である国会に向かって、改憲へのとり組みを要求すること自体が大問題だが、安倍首相にとっては、「3権分立」や「立憲主義」などはどこへやらだ。

すでに明らかにされている自民党の改憲項目の論点整理では、野党を改憲論議に引き込むために従来の自民党の改憲項目を絞り込み、野党が主張する論点も盛り込んで議論を進めようとしている。自民党が主張する「大災害などに備える緊急事態条項」や「9条への自衛隊の明記」などに加え、公明党に配慮した「環境権など新しい人権」、維新の主張である「教育の無償化、統治機構改革、憲法裁判所の設置」などをならべ、さらには民進党などが首相の解散権濫用を批判していることに乗って「衆院解散権の制限」や、先の参院選で批判があった「合区の解消」などまで並べている。自民党が野党を取り込んで本格的に明文改憲に着手しようとしてきたことで、改憲問題が現実化してきたことに注意をはらう必要がある。

なぜ、安倍政権の支持率は高いのか

しかし、問題なのは、このような対米追従と改憲の安倍政権がマスメディアの世論調査では高支持率を得ていることだ。一部のメディアの調査では支持率の上昇傾向さえ見られる。朝日の最新調査でも支持率は52%で、不支持の25%を大きく上回っている。支持の理由は「他よりよさそう」が48%だ。日米会談については「評価する」が54%だ。自民党の支持率も37%で、民進党の7%を大きく離している(共産党は3%)。

このような状況の中で、今年、秋かも知れないと言われている総選挙で、私たちはこの安倍政権を退陣に追い込むことができるだろうか。
何よりも必要なことは、閉塞した社会の中で、政治を託せるのは「安倍政権しかない」「安倍がそれなりに頑張っている」と思いこまされている有権者に、それに代わる「希望ある」勢力の登場を示すことができるかどうかだ。

活路はどこにあるか

活路は2つの課題での前進だ。
1つは安倍政権の悪政に反対する市民運動の大きな盛り上がりをつくることだ。本稿の冒頭に書いたある女性の意見もこうした闘いをつくり出すことへの願いだ。必要なことは単に「安倍打倒」を叫ぶことではなく、安倍政権の悪政の1つ1つに反対する具体的な闘いを発展させ、それらを大合流させ、文字通り総がかりで安倍政権に反対することだ。

もう1つはこの市民運動の高揚を背景にして、総選挙で安倍与党の改憲発議可能な議席である3分の2を阻止し、自民党の過半数割れをつくり出し、安倍政権の政治的敗北を実現し、退陣に追い込むことだ。

昨年の参議院選挙の32の1人区の11勝の経験は、「希望」ある「敗北」だった。これらのところではいずれも野党4党(最近では維新などの与党亜流と区別して「立憲野党」と呼ぶことが多い)が候補者を1本化して、市民と一緒に闘った。これらの選挙区のいたるところで野党4党+市民の構図がつくられ、市民が支持できる政策協定がむすばれ、与党に対抗して闘った。野党4党の支持率を合計しても、与党の支持率にとうてい追いつかないのに、選挙戦においては野党4党が推した候補者が勝利し、あるいは接戦を演じ、健闘した。これは人びとから見て、自公の候補に代わるもう一つの「力ある政治勢力」が登場しつつあるように映ったからだ。実際、市民が加わって闘った選挙は、従来の選挙戦と比べて、新鮮で、魅力があった。安倍政権与党の候補が「他よりよさそう」と見えなかったのだ。ここに「希望」がある。

次期総選挙で勝利すること

この「希望」ある運動を次期総選挙で実現するかどうかだ。総選挙は475議席(うち比例代表は180、小選挙区は295議席)だ。2014年の総選挙では小選挙区で立憲野党4党は48議席で、自民党は222議席、公明党9議席だった。報道機関の調査では、もしも立憲野党4党が統一候補を立てることに成功するなら、野党4党の合計が自民党、公明党を上回るのは61選挙区になる。野党は109議席で、比例区が前回どおりと考えても、自公は265議席で3分の2に届かず、うち自民党単独では233議席で過半数を割ることになる。他の調査では1万の差程度も含めれば立憲野党は90選挙区で勝利できる可能性があるという。当然、これらの動向は比例区にも反映するので、比例区が前回どおりということはありえない。

この野党が安倍自民党に勝利するためには候補者1本化は絶対条件だ。「本気の共闘」ということが言われているが、野党各党が市民と連携して候補者の1本化、統一を実現することだ。いま、それをめざして、全国各地の小選挙区においては野党との共闘をめざす「市民連合」が誕生しつつある。この新しい市民運動の流れを促進することが重要だ。その上で、立憲野党4党+市民連合によって、従来なかったような市民自身が選挙運動の主体になった市民的な選挙戦を展開し、野党候補を勝利させることだ。

まず、与党の3分の2を阻止する。そして自民党の単独過半数割れをつくり出すことだ。これが実現すれば安倍政権の政治的敗北であり、重大打撃を与えることができる。まさに倒閣の可能性がうまれる。

市民運動の高揚と総選挙での躍進、このたたかいを車の両輪のように推進することにこそ活路がある。
(事務局 高田健)

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貧困・格差No!の声高らかに―2.19総がかり行動

開場と共に日比谷野外音楽堂がどんどん埋まっていく。菱山南帆子さん(解釈で憲法9条壊すな!実行委員会)の司会で「貧困・格差ノー!みんなが尊重される社会を!」集会がはじまる。菱山さんは前日まで辺野古・高江の闘いに参加し、ツイッターで画像入りの生々しい現地報告を流していた。今日は地元八王子での街頭宣伝から駆け付け、いつもの元気いっぱい溌剌とした声で会を進行させる。

初めに沖縄反戦地主会から山城博治さんら3名の不当な逮捕・起訴・長期勾留に抗議し早期釈放を求めるアピールが行われた。

プレイベントはオオタスセリさん(芸人9条の会)のパフォーマンス。辛辣な替え歌で会場を沸かせ、自身関わっている子供食堂の活動を紹介して、昨年11月「子供の未来応援基金」1周年の集いで発表された安倍首相のメッセージを痛烈に批判した。全く現実を見ていない上から目線の世迷言と。

藤本泰成さん(戦争をさせない1000人委員会)が開会挨拶。バブル崩壊後能力主義・成績主義が蔓延し不正規雇用が4割を超えた。格差が広がり中間層が薄くなる。生きづらい世の中になってしまった。戦後レジュームとは日米安保と経済成長至上主義、ここからの脱却が課題だ。総がかり行動は「戦争反対!命を守れ!」をスローガンにしてきたが、その向こうに貧困と格差の問題がある。それは排外主義の温床にもなっている。トランプ登場、各国での極右政党の台頭に見られるように。原発事故の避難先でいじめられた子供の手紙がある。いじめで「なんかいも死のうとおもった」が、「しんさいでいっぱい死んだからつらいけどぼくはいきるときめた」と。政府と安倍政権が原発事故からの避難者をいじめている。自主避難者は勝手に逃げた。放射能汚染が残っている地域に帰れ、お前たちが風評被害を広めているとまで言う。戦争法に反対してきた私たちは本当の意味での積極的平和主義に立ち、構造的暴力を排除していかなければならない。なんと醜い情けない国になってしまったのか!

スピーチは本田由紀さん(東京大学大学院教授)。今の日本がどうなっているかを知るには、第1に変化を見ること。賃金はダダ下がり、食料品はじめ物価は上昇、エンゲル係数すら上がっている。資産の一極集中が進む。団塊の世代の退職で求人倍率は高くなっているが非正規ばかり。生保受給者、奨学金受給者は増えた。ひどい侮蔑にさらされ、返済地獄が待っている。出生率は下がり続け、自民党政権のもと団塊ジュニア世代は潰された。労働力人口が減少して、世の中きちんと回るのかが危ぶまれる事態だ。第2に他国と比較すること。長時間労働、高等教育学費の私費負担率、相対的貧困率、自殺率が日本は高い。社会福祉・教育・労働市場政策への財政支出、最低賃金、生保の捕捉率、生活満足度、幸福感、政府や企業への信頼感、女性の社会進出度は極めて低い。難民・移民にはあきれるほど冷酷、反吐の出るヘイトスピーチが横行する。その裏で研修生や留学生の名目で外国人を奴隷のようにこき使う。なんだ!これは。なんという醜い情けない国になってしまったのか!60年代アメリカにどっぷり庇護されて経済成長を続けてきた。成長すれば何とかなる仕組みがまだしも機能していた。しかし、石油ショックやバブル崩壊以降、この仕組みが崩れたのに自民党政権は無為無策どころかより事態を悪化させる政策を続けてきた。それを糊塗するために安倍政権はひたすら国に服従する国民づくりに走っている。アホか!と地団太踏む思いだ。グロテスクなアメリカ大統領におもねり、戦争に加担することで一部大企業を潤そうとしている。共謀罪や家庭教育支援法が目論まれている。吐き気を催すようなひどい状況だが、あきらめたら終わりだ。小田原市の醜いジャンパー、原発事故避難の子供へのいじめ、いずれも皆の声で是正された。ここに小さいけれど希望がある。これからの世代のために動かなくてはならない。このガタガタな国を立て直していこう。野党の皆さんも頑張って。

立憲野党と市民の結束を!――政党挨拶

沖縄の風の糸数慶子さんは現地での闘いに参加しているため挨拶できなくなった、と司会から報告され、会場から大きな連帯の拍手が送られた。

民進党の山尾しおりさんが登壇。総理の天敵として傷だらけになりながら奮闘している。一昨日は総理、金田法相と対峙したが全く議論にならなかった。保育園待機児童の問題を尋ねたが総理は自分の掲げた目標すら覚えていない、そのうえで実現は無理と言ってのける。真実を受け止めず真実を消す政権だ。共謀罪、今日ここに集まった人々が犯罪者集団と見なされかねない。南スーダン状況、戦闘を衝突と言い換える。子供の貧困率が下がったと言い出したが、OECDとは違ったデータを持ち出してのこと。こうしたやり口と闘っていかなくてはならない。分断、格差は憎しみを生み戦争へとつながる。野党と市民がつながってこの流れを変えていこう!

共産党の小池晃さん。怒れる女性の後に怒れる男も訴えたい。アベノミクスとは何か?貧困と格差を拡大し、空前の利益を上げた大企業の内部留保は積みあがったが、私たちの生活は苦しくなった。経済にも民主主義が必要だ。税金はアベノミクスで肥え太った富裕層から取れ、財政は5兆円も軍事費につぎ込むな。残業時間の上限規制の論議をしているが、過労死を招く内容のものだ。残業しなくても生活できるような最低賃金の引き上げが必要だ。政権は社会福祉の改悪を狙っている。高齢者医療費、介護費用の本人負担が増える、年金が引き下げられる。こうした安倍政権の暴走を止めるために野党は結束していく。

社民党の福島瑞穂さん。出鱈目答弁の稲田防衛相、金田法相は退陣すべき。トランプの前からアメリカファースト、貧困格差の元凶安倍総理大臣も退陣させなくては。労働法制改悪を許さない。ホワイトカラーエグゼンプションを潰そう。働き方改革は働かせ方改悪だ、ふざけるんじゃない、過労死を生み出すだけだ。功績や貢献を導入したら同一労働同一賃金は成り立たない。最低賃金1500円以上を求める。公平な税制が必要だ、富裕層からとれ!社会保障を削減する一方でガラクタオスプレイを3600億円で買うという。戦争には誰が行くのか、貧しい若者たちだ。戦争と貧困はコインの裏表。野党共闘で闘い抜こう。

自由党の渡辺浩一郎さん。人の命より金が大事、国家のために国民がある・・・この自民党に勝たなければならない。打倒安倍内閣を次の選挙で実現する。それには、第1に低すぎる投票率を大幅に上げること、70%以上にしたい。第2に野党と市民の「本気の共闘」が必要だ。候補者を一人に絞るだけでは足りない、その候補者を皆で一所懸命応援することだ。これを本当にやりきろう!

テーマごとの発言

日本労働弁護団の嶋崎量さん。労働弁護団は全国1700人の弁護士を擁し結成60周年を迎える。安倍内閣は働き方改革と称して、長時間労働抑制、同一労働同一賃金を掲げている。痛ましい電通事件のお母さんは「娘の命を無駄にしないでほしい」と訴えている。過労死ラインを超えるような規制は意味がない。何より労働時間管理のいい加減さを正さなくてはならない。インターバル規制と最低賃金引き上げが必須だ。ILOは第1次大戦の反省から生まれ、フィラデルフィア宣言は「労働は、商品ではない」と謳った。格差と貧困は戦争につながる。

諏訪原健さん(筑波大学大学院)。私は1600万円の奨学金を抱えている。実はこの問題については語りたくない。自己責任論が返ってくるからだ。自分が借りたのだろう、自分で大学行ったのだろう、進学しないで働けばいいじゃないか・・・。学生は平均300万円の奨学金を抱えている。日本は教育にお金を使わない。貧困・格差の問題を正面から取り上げたこの集いに希望がある。少しでも社会の未来に希望を見出していきたい。

しんぐるまざーず・ふぉーらむの赤石千衣子さん。おめでとうの入学シーズンを前に困り抜いている親子がいる。中学でも制服・カバンなどの費用で10万円は必要だ、高校ではそれ以上。1人3万円の支援を行おうと寄付を集めて公募したら556人の応募があった、援助可能なのは300人、断腸の思いで審査を行っている。応募者の中で年収100万円以下が3分の1。どんな生活か想像できますか?子供の貧困率は16%だが一人親世帯は54%だ。子供の貧困は女性の貧困。大企業と組んでシングルマザーのキャリア支援を行っている。あらゆるステークホルダーと協力して改善を図らなくてはならない。

弁護士の阿部広美さん。熊本大地震で地元の熊本市も震度6強に襲われた。住居と仕事を失った人々がいる。ただでさえ見えにくい貧困の問題が災害で一層見えなくされている。復旧復興の掛け声の中で小さな声が無視される。進学をあきらめた高校生、部活をやめた中学生、職場を失ったシングルマザー、仮設住宅を出る当てのない高齢者。昨年の参院選で全国初の野党統一候補となり闘った。給料が安くても、奨学金が借金でも、事業や農業がうまくいかなくてもしょうがない。これに地震だからしょうがない、が加わった。しょうがないとあきらめず政治を変えて社会を変えようと訴えた。今日集まったのはしょうがないを乗り越えようとする皆さんだ。

閉会の挨拶と行動提起

笠井貴美代さん(憲法を守り・いかす共同センター)。本日の集会は参加者4000名、会場の外にも沢山溢れている。1年前私たちが実現できた市民と野党との共闘はその後絶えることなく広がっている。トランプに対する差別分断をやめろ、軍事費でなく貧困なくすために金を使え、の世界を覆う声に呼応する場になった。軍事が生活を押しつぶすおぞましい安倍内閣を一刻も早く倒そう。5月3日、有明防災公園での憲法大集会を成功させよう!

最後に一斉にプラカードを掲げてのコールを行い、銀座デモンストレーションに続々繰り出していった。

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図書紹介

「対話する社会へ」
暉峻淑子著 岩波新書
(253頁、定価860円+税)

じつに興味深く、楽しみながら読んだ1冊でした。文章を追いながら、炊き上がるご飯の香りを嗅いだときのようなしあわせな感じ、そして上がる湯気をほろほろところがすように思いが広がっていく楽しさを味わうことができました。

著者の暉峻さんはこの書物を書こうとした動機を「まえがき」で次のように記しています。

……私に対話への確信を与えてくれたのは、古代から脈々と流れている対話の思想でした。
紛争防止としての対話だけでなく、対話は、人類が持つ特権の一つであり、人間の本性にもっとも添ったコミュニケーションの手段だったのです。人間と人間の間をつなぎ交流させ、個人を成長・発展させる場であった対話は、民主主義の培養土でもあったのです。対話が人間の本性そのものであったからこそ、それは紛争の解決にも役立ったのでした。そしてさらに心を病む人の治療にも効果を上げています。

こうして暉峻さんはご自身の人生の記憶をたどりながら、対話についての考えを述べていきます

第1章の「思い出の中の対話」では、親や教師や身近な人との対話がご自身の生き方にどんな影響をもたらしたかを語っています。第2章では、一方的に聞かされる講演や教育の言葉ではなく、人びとが対話の中で新しい何かを発見していこうとして作った地域の研究会での楽しさを紹介しています。ご自身が住んでいる地域で今も継続している研究会でのエピソードが生々しく伝えられています。第3章「対話の思想」では対話について書かれた先人の思想の遺産を紹介していまが、ここでも「区報」に掲載する催しの言葉を巡る話し合いとか、子どもが言葉を獲得する過程などと関連して対話について検討しています。

第4章、第5章では、対話が欠如していたために起こった悲劇と、その逆に対話によって、個人的にも、社会的にも実りある結果をもたらした希望の実例が紹介されています。
対話が生み出した成功例の1つとして、神代植物公園の前に記念碑があるという調布保谷線道路拡幅工事での、都・自治体・地域住民の協議過程での“対話”の紹介があります。暉峻さんは、協議の過程を対立する意見を足して2で割ったような決着ではなく、対話する双方から出されて意見が、何度も往復するうちに、双方の間に生まれた新しいアイディア=対話による合意を生み出した、として「対話の中で生まれた新しい命」と評価しています。私は神代植物園へ行くこともあるので、住民の方のお話は聞けなくても、指摘されているような目で碑や道路を歩いてみようと読
みすすみました。しかし、さすが暉峻さんです。執筆にあたり現地を尋ねて協議に関わった人たちと対話したエッセッンスを紹介しています。

各章毎の扉を開いたページでも、大切なことばに出会えるのも楽しい。

いま、日本も世界も大きな曲がり角に直面していることを多くの人たちが感じていると思います。それは日本が敗戦して以降70年、ベルリンの壁が崩壊して約30年の世界や日本の社会・経済秩序のなかにはらんでいた矛盾が露わになったとも言えるし、また産業革命以来500年規模の変化と言えるのかも知れません。利潤第一と効率化のなかで人びとは砂のようにバラバラにされてきています。しかし情報通信革命やグローバル化は多くの人びとにとって情報や物の距離を近づけています。一方では格差と貧困も巨大化させ、その光と影の姿は深刻に現れています。こうしたなかで私たちが寄るべき軸はどこなのだろうか・・。実はここ数年こんな事をチラチラ考えながら、“つながり”と“民主主義”という言葉を思い浮かべるようになっていました。さらに“民主主義”は壊れやすい側面もあって、互いに努力しあわなければ豊にしてゆくことはできないのではないか、などということも考えていました。そこにこの「対話する社会」でした。

暉峻さんはあるドイツ女性との対話で、ドイツ女性の「民主主義とは個人が絶えず育てるものであり、作っていくものだ。自分が何もせず、社会に依存しているだけだと、民主主義は必ず崩壊する。だから自分が民主主義に対して一市民の責任としてどんな行動をしているかを、たえずふり返るようにしている」という言葉を紹介しています。さらにこの女性はドイツの経験から日本における人権教育についての欠如にふれています。これらの対話は、私たちが民主主義と人権をどのように育てていくかのヒントであり、憲法を生かしていく「不断の努力」とも深くかかわっていると思います。
私たちの会の共同代表の暉峻さんから送っていただき、この本に出会えたことに心からお礼をもうし上げます。
(土井とみえ)

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第110回市民憲法講座:99%のための社会を~日本とアメリカ、海を越えた生活底上げ運動と格差の深層

松元 千枝さん(ジャーナリスト/アクティビスト)

(編集部註)1月21日の講座で松元千枝さんが講演した内容を編集部の責任で要約したものです、要約の責任はすべて本誌編集部にあります。

はじめに

こんばんは、松元千枝です。フリーランスのジャーナリストをしていますが、その傍ら自分の問題で労働組合の運動にも参加して、レイバーネットという団体で活動しています。ジャーナリストかアクティビストのどちらかじゃないのかといわれることがありますが、メディアというのは市民の側に立って社会を見ていく、社会の問題を取り上げていくべきだということがジャーナリストの理念なので、そういうことを考えながら両方併記して、同じように活動しています。

今日は「99%の社会を」ということで、私が最低賃金の問題に関わってファストフード労働者のストライキや抗議行動などに参加しているし、また日本でも運動を始めているので、それについての経緯と、どこまできているのかということをお話ししたいと思います。

始まったのはちょっとさかのぼりますが、2011年です。みなさん覚えていらっしゃると思いますが、「99%」という言葉が世界で初めて知られるようになったオキュパイ運動というのがありました。「オキュパイ ウォール街」―ニューヨークのウォールストリート、経済界の象徴的なところを市民がいろいろなオキュパイ(占拠)をして、1%のためだけの社会ではなくて、99%の、貧困にあえいだり格差が拡がる中で十分な生活ができない自分たちのための社会にしろ、ということを求めてウォール街をオキュパイしました。まだ6年前のことですけれども、実は日本で私たちもやったんですね。経済界を象徴するところはどこだろうと考えて六本木かな、新宿かなという感じで。六本木でも新宿でもやりましたし池袋でもやりましたが、このときがちょうど2011年9月です。

今年は福島の原発事故、東日本大震災から6年目になりますけれども、東京では、脱原発のテントが初めてできたのが2011年9月です。オキュパイ ウォール街とはまるで違うオキュパイの仕方ですが、その根本の問題または求めていたものは、反原発を訴える中で市民の声が届いていなかった、実現されていない、そういう不満の中からこういうことが起こったと思います。80%のマジョリティが原発をなくそうという声を上げているにも関わらず、そのことが実現されなかったということに対して声を上げていく。同じようにウォール街でもマジョリティなのに99%の人たちがちゃんとした生活ができない中で苦しんでいるという訴えをしていたわけです。

声を上げたファストフードの労働者

2011年9月のあとファストフードの労働者が100人あまり、ニューヨーク市で賃金を上げろという声を上げたんですね。2012年11月に時給を上げろという訴えでした。アメリカでは連邦最低賃金というのがあって、このときそれが7ドル25セントでした。金曜日のレートでいうと114円だったので、それをかけてもらえれば単純計算で日本円でいくらかがわかります。アメリカでは連邦の最低賃金が決まっていて、州や市がそれぞれの条例でそれ以上にはできるけれどもそれ以下にしてはいけないという法律があります。ですから連邦最低賃金よりもちょっとは上かもしれないけれども、それでも800円、900円の時給で働いている人が多かったということで、それでは生活ができないわけですね。ファストフードはそうではないけれども、アメリカはチップをあげる文化なので、例えばレストランでウェイターやウェイトレスなどはチップを稼ぐことを前提として、連邦最低賃金以下で設定されていたりします。それもまた州や市によって違いますが、中には4ドルであったり2ドルであったりしました。そういう中で、労働者はとにかくチップをもらわないと生活ができないという実態もあったんですね。現状はそうでした。

そういう中でどんどんどんどん声が上がってきて、フルタイムで働いているにもかかわらず生活できないというワーキングプアが増えていきました。この写真は2012年11月ですが、ニューヨークのマクドナルドやウェンディーズ、バーガーキング、そういうところから労働者が職場放棄してストライキ、そして抗議行動、賃金を上げろという声を大きくしていきました。このあとすぐに全米にどんどん広がっていきます。マクドナルドだけじゃなくてウォルマート――日本では西友と事業提携して失敗したのでいまは広まっていません――、このウォルマートというのが全米で一番規模が大きい小売企業で、マクドナルドが第2位です。ウォルマートも労働者を低賃金で使うということですごく知られていて、ウォルマートの労働者から「これでは生活ができない」という声がどんどん上がっていたときでした。

この写真を見ていただくとわかるんですが、2012年、2013年にちょっと信じられないことが起きました。アメリカでは感謝祭とかクリスマスなどでお祝いするときに、いろいろな食べものをいっぱいみんなで分かち合って食事をします。フードドライブという食品の寄付があって、それはホームレスの人たちや低所得の人たち、生活保護の人たちなどのために街角やスーパーなんかで寄付を募ったりします。入り口のところに大きいバケツみたいなものが置いてあって、そこに缶詰とか乾燥したものを寄付して、それをフードバンクみたいなところが配っていくという仕組みがあります。この2013年にウォルマートでフードドライブ、フードバンクがありました。「みなさん寄付して下さい」といっていますが、それは誰のためなのかといったら、ウォルマートで働く労働者のために「みんな食べものを寄付して」という訴えだったんですね。それはおかしいことで、 ウォルマートで賃金をもらって働いている人たちが生活できないということを証明しているわけです。仲間が、同僚が生活できないから、みんな食べ物を寄付して下さいと言っています。

このときには大問題になって、ウォルマートが全米ですごく叩かれたんですね。これはトップから言われたのではなく、各地域、オハイオとかシンシナティとか、そういうところの店舗で、生活できない仲間がいるからフードドライブをしようということで始まったんです。だから2、3ヶ所しかやっていないけれど、でもそれがすごく大きな問題になって、そんなに ウォルマートの賃金は低いのかという話になりました。そして批判の対象になったんですね。

職場放棄、市民的不服従の運動として拡がる

ウォルマートは労働組合を絶対につくらせないところで、マクドナルドと同じようなものだったので、賃金を上げろということも全然交渉してこなかったわけです。2014年、こういう不満の声がわっと全米に広がって全米では120都市、それから200都市までこの運動が広がるんですね。これって、最初のうちは労働者が独自に仲間と声を掛け合って、「もうこんなこと、やってられるか」といって職場放棄をして、市民的不服従で訴えていきます。その市民的不服従というのがやっぱり非暴力で通りに座り込みをしたりして訴えます。このときいわれていたのが60年代にマーティン・ルーサー・キング牧師がやった公民権運動、黒人のための権利運動と同じだったといわれています。これは現代の公民権運動だといわれています。なぜかというとファストフードの労働者は、やっぱり移民が多い。ラテンアメリカ系、またはアフリカ系アメリカ人の人が多かったりするんです。そうすると低賃金、マイノリティ、貧困層の人たちがファストフード、マクドナルドなどで働くことが多くて、そこでもやっぱり賃金が抑えられているといわれていました。

この2014年にはマイケル・ブラウンという人やエリック・ガーナ―という、2人とも黒人ですけれども、警察による暴力によって、普通に歩いていただけなのに突然後ろから羽交い締めにされて首を締められたとか、たばこを一本盗んだだけなのに銃殺されたとか、そういう不正義がアメリカに蔓延していることがわかったんですね。スマホなどが流行ったことによって、警察がどういう動きをしているのか、どんなに不公平な差別的な態度を取っているのかということを、自分達で映像に撮ってネットに上げてみんなで報告しあうことが始まったことから、こういう黒人に対しての差別的な対応があることが一気に知れ渡っていきました。前々からあったことだと思いますが、このときに初めてこんなことが起こっている。もう2010何年なのにこんなことが起こっている。このときはまだ2人だけですけれども本当に全米に広がっていて、そのあとも何件か出てきています。不当に殺された、不当に逮捕された、そういう人たちがいて、その動きなどが黒人の権利、マイノリティの権利ということで「Black Lives Matter」(ブッラク ライブズ マター)―黒人の命だって大切なんだという運動になっていきました。

その運動は黒人の人権または生きる権利なんですけれど、ファストフード業界の労働者にマイノリティ、黒人の人やラテンアメリカ系の人が多いことから、ここが一緒になって市民運動としてどんどん盛り上がっていきます。権利を求めるのは、ファストフード労働者だと労働組合を作って、そして生活できる賃金にしようということで時給を15ドルにしろということと、労働組合を結成させろということを訴えていきました。アメリカでは労働組合を作るのは日本とは違って難しいです。日本では2人いれば労働組合がつくれるといいますが、アメリカでは職場で3分の2以上のマジョリティが賛成していなくていけなくて、その声だけじゃなくて投票もしなければいけないんですね。マジョリティが労働組合を作りたいというのと、組合投票に入るまで時間があるので、その間に組合が潰されたりするわけです。そうするとあっという間に組合はできなくなって、結局労働者が無力にされたままにされることが多いのです。

ところが今回のファストフード労働者のストというのは、ここがまた違うところなんですね。職場で正当なやり方で組合を結成するのではなくて労働者自身が行動に移すことによって、会社側に集団的な行動を認めさせるという強制的なやり方でずっと訴えてきました。

ファストフード世界同時アクション全米から世界へ

ちょうどこのときに私がつながっていた組合の人たちがこの運動をやっていたので、今度は世界的にやりたいという声がかかったんですね。なぜかというと、マクドナルドが多国籍企業だからということで、日本でも一緒になってやりました。2014年5月15日です。15ドルということで15日にこだわるんです。

ファストフード世界同時アクション。これは初めてだったと思いますが全米で150都市、世界で確か35ヶ国くらいだったと思いますが、やりました。このときは「Fair Pay Respect For Workers Rights」(フェア ペイ リスペクト フォー ワーカーズ ライツ)―公正な賃金と労働者の権利を尊重しろ、ということを訴えて私たちも渋谷で一緒にやりました。世界同時だったので東京でもやりましたし、ブラジル、イギリス、韓国、フィリピン、ニュージーランドということで、いろいろと特色があって面白いですね。各国でそれぞれのファストフード、マクドナルドで働く労働者もそうです。日本では、すき家-日本食のファストフードといわれているすき家の労働者も訴えました。フィリピンでもフィリピン現地で一番大きいファストフードの企業のところで行動をしました。2015年の4月15日、1年たったときに再度「ファストフード世界同時アクション」が呼びかけられて、このときも全世界で300都市以上のところで行動がありました。

2014年くらいからアメリカ国内ではそうだったけれども、2015年になるとマクドナルドの労働者が時給15ドルを訴えていろいろなところで行動しているぞ、というニュースが飛び回ったので、ほかの業界でも、これはマクドナルドだけの、ファストフード業界だけの問題じゃないよね、うちの業界だって、うちの職場だってこんな低賃金じゃ生活できないよ、というところがたくさん出てきました。このときにはウォルマートは小売業ですけれども、ケアワーカー、介護労働者、空港の労働者、レストラン労働者、特に厨房で働く労働者とか、日本でも早稲田大学でありました。大学の非常勤講師は、フルタイムで働いているにもかかわらず生活保護ももらわなければいけない状況だったり、ひとつの仕事だけじゃなくてダブル、トリプルワークをしなければいけない状況の人たちが本当にたくさんいました。こういった人たちも一緒になって、例えば4月15日だったら4月15日にストをするわけです。呼びかけに応じたり職場でそれぞれ訴えていったりました。その中でケア労働者などは、私も話を聞いたことがありますが、アメリカでも介護労働者はフルタイムで働いているにもかかわらず家に住めないといいます。家賃が払えなくて、シェルターに住みながら仕事をしている。大学の非常勤の講師の人も、自分はフルタイムで大学で教えている、しかも日本では学歴が高いのに貧困に陥る人が多いという話もあります。アメリカでも同じで、博士号まで取っているのになぜ私は非常勤として賃金が抑えられていて、その上に生活保護まで取って生活しなければいけないのか。働いても働いても人間らしい生活ができない、そういう労働者がたくさんファストフード労働者と連帯して、そしてアクションを始めました。こうした中で全米各都市、各国でマクドナルドの店舗の前で行動し、店舗の前だけじゃなくてマクドナルドの株主総会に行って訴えたりストをしたりしています。

行動をひろげて勝ち取った最低賃金アップ

みなさんに配付した資料にアルビナ・アーデンさんとモーゼス・ブルックさんのインタビューがあります。モーゼスさんは独り身でしたが、アルビナさんは子どもが2人いました。株主総会の抗議行動に行ったときに、自分は逮捕されるかもしれないという覚悟で行ったわけです。アメリカの場合は日本とちょっと違って、抗議行動、市民的不服従で逮捕される、連行されるというのは、警察が分散させたいから連行するという感じなんですね。ちょっと離れたところまで連れて行かれて、ここで降ろすけれども向こうに戻らないでねといわれたり、2、3時間で釈放されたりするわけです。

アルビナさんにとっては初めてのことで、まさか自分が逮捕されるなんて思わないし、こんなことをすることになるとも思わなかったといっていました。小さい子どもが2人いて、泣いて「ママ、行かないで」っていっていたらしいけれど、自分は子どもが大きくなったときにちゃんと生活できる賃金がもらえるような社会にしたい、これは親としての責任なんだと思って声を上げています。実は彼女は夫もマクドナルドで働いています。2人ともラテンアメリカ系でメキシコからの移民で、2人ともマクドナルドで働いていて最低賃金ぎりぎりの労働でした。その中で小さい子どもを2人抱えながら行動するわけです。自分達は歴史の1ページを紡いでいるんだとすごく誇りを持って話をしていました。実際に捕まって8時間拘束されて自分はすごく不安だったけれども、子どもにちゃんと説明していったからか、帰ったら子どもが「お母さん、よく頑張ったね」といって喜んでくれたといっていました。彼女はそれでまだやっています。

モーゼスさんもアルビナさんも、行動すると店長やマクドナルドから目を付けられて、彼女たちはこのあとに、労働時間をカットされるという目にあいました。組合つぶしと同じなんですけれど労働時間をカットされると時給で生活している身としては生活がどんどんできなくなっていって、労働したいのにさせてもらえないという仕打ちにもあっています。同じようなことは日本でもあります。

そうやって、それまで何度かファストフード世界同時アクションをやったことで声が全世界に広がったことから、アメリカの最低賃金はどんどん上がっていきます。連邦も、各都市、州もそれぞれ10ドルにしたり15ドルにしたり、あるいは12ドルにしたりということが実現していきます。それはすぐには上がりませんが、例えば2012年から始まっているので、2015年には10ドルにするとか、2020年には15ドルにするとか、そういうことがどんどん改善されていくようになりました。少しずつ勝ち取っていくと労働者も元気が出てきて、もっとやろう、もっとやれば勝ち取れるということになって、まだ続いています。

全世界でやった同時アクションのビデオがあるのでお見せしたいと思います。このビデオの最後でジョン・ルイスさんがいっています。彼は1968年、キング牧師が暗殺されたときにサニテーションワーカー・清掃労働者を助けていたといっていました。清掃労働者はこのときに賃上げを求めて行動していました。面白いことに今同じようなことが起こっています。今のジョン・ルイスさんの映像でもまわりには黒人の方がたくさんいて、ジョン・ルイスさんは今まだ議員をやっていてトランプ批判をしたことでトランプにも目の敵にされたみたいです。ジョン・ルイスは口ばっかりだと。でも実は彼は1968年まであった公民権運動のときに警察から暴行を受けたり連行されたりして、そして自分達の権利を勝ち取っていった素晴らしい人です。こういう人が一緒になってマイノリティのため、ファストフード労働者、低賃金労働者のために声を上げている。それは労働者の権利だけではなくて、市民としてひとりの人間として人間らしい生活ができるような賃金を勝ち取るためだといっています。

格差と搾取の象徴・マクドに変革を迫る

なぜマクドナルドを攻撃するのかということですが、マクドナルドというのはウォルマートの次に大きい「小売業」といわれています。1%対99%、これはオキュパイ ウォ―ルストリートで出てきた言葉ですけれども1%対99%を象徴した存在だということです。日本の話になりますが、日本マクドナルドホールディングスの2014年、カサノバさんになる前ですが、社長の役員報酬と退職慰労金の総額が3億3900万円。これは単純計算でいってもファストフードのアルバイト労働者の100倍だといわれていますが、そんなに金を持っていくのかということです。これは日本マクドナルドホールディングスのことなのでアメリカのマクドナルドとまったく規模が違って、アメリカのマクドナルドはこれ以上ですし、世界展開しているのでどれだけの規模になるかわからないですよね。日本の企業も、製造業でも工場を中国やバングラデシュやタイなどへ持っていくと、そこで日本でやっている以上の労働搾取をしていますけれども、マクドナルドも同じです。

マクドナルドのファストフード労働者のストライキの人たちの世界大会がブラジルであって、そこに私たちも行っています。ブラジルなんかでもすごい労働搾取をしているんですね。未成年だから18歳や19歳の高校生からアルバイトしている労働者がいます。ブラジルは未成年に対する労働の規則が厳しくて、危険な薬品、掃除するときに使う液体に化学物質がはいっているものを使ってはいけないとか、油を揚げさせてはいけないとか、そういうのがあります。そんなのは全然無視して普通に未成年でも扱っていたりしているので、各国でマクドナルドに対してどういう不当なことが行われているのかということもちゃんと目を見張らせて注視しなければいけないということでやってきました。

日本のマクドナルドはアメリカに次いで店舗数が第2位です。だからこそ日本でマクドナルドに対する賃上げを訴えていくことがすごく重要だといわれて、日本での行動は重要な位置づけでした。ただ社長がカサノバさんになってから、マックナゲットの鶏肉の不正、食品の安全性が問われたりして評判がどんどん落ちていったので、このファストフードの労働者のアクションが業績に関わったかどうかは疑問符がつきますが、今はマクドナルドの店舗数、売り上げはどんどん下がっています。日本だけではなくてアメリカも下がっていて、アメリカでは労働者が行動したからですけれども、そういう状況になっています。

なぜマクナルドなのかということのもうひとつの特徴は、最低賃金ぎりぎりの時給なんですね。アメリカでも日本でも最低賃金に張り付く感じです。東京の最低賃金は932円です。なぜファストフードが最低賃金ぎりぎりなのかということですが、最初は事業として展開したときに、学生や主婦の補助的な小遣い程度、小遣い稼ぎといわれていたんです。主たる稼ぎ手が家庭にひとりいて、その補助的な稼ぎといわれていてそれで最低賃金ぎりぎりに抑えられた。でもいまはアメリカで組合が調査した結果ですが、ほとんどが20代、30代の家族持ちで、しかも主収入源だったということがわかった。

東京のマックの時給をみるとだいたい最低賃金以上で1000円程度ですが、埼玉に行くと800円とか、当然地域によって違いますね。一番低い沖縄とか北海道、青森などはその当時まだ600円台で、今やっと713円とかになりましたけれども、まだまだ低くてこれでは生活できない。北海道の人などもいっていましたけれども、コンビニや特にファストフード、マクドナルドでもビッグマックの値段は違わないわけですよね、どの地域に行っても。それなのになぜ時給が全国一律にならないのか。生活がそれなりに大変だといっていましたけれども。

東京でも昨年の907円から932円に上がりました。この賃金で働いている人は誰なのかということを日本で見ると、ファストフード、先ほどのすき家は、ワンオペが問題になって時給1500円でどうだという求人広告が出ていました。でも面白いことに時給1500円にしても来ないということで、やっぱりワンオペがすごく大変なので時給を高くしても人は来ないと嘆いていました。1500円なんて高すぎるんじゃないのという声もあります。メトロの駅の売店で働く人たち、東京メトロコマース、いま20条裁判でたたかっていますが、それからお弁当工場、私たちが知っているのは日本人の人ですけれどもお弁当工場などは外国人の労働者が多いので、アメリカのマクドナルドと同じように賃金が低く抑えられていると考えられます。それから郵便局、ユウメイトさんとか配達員の人たちなどもそうです。今一緒になってやっています。

2015年のスローガンは「時給1500円、これが常識」「働き過ぎはもう終わりだ」へ

私たちは、スローガンが以前はFair Pay Respect For Workers Rights―働く労働者の権利を尊重して公正な賃金を払いなさいということで、一緒に世界的にやっていましたが、2015年には私たちはこういうスローガンにしました。「時給1500円、これが常識」、それから「働き過ぎはもう終わりだ。」。これは10年くらい前にマクドナルドが「もう遊びは終わりだ。」といってクオーターパウンダーバーガーを販売したときがありましたが、そのスローガンをもじってつくりました。なぜかというと、「生活できるレベルまで稼ぐには残業せざるを得ない」、これが給料が安い中で一緒になって最低賃金引き上げの運動をしている人たちからの声なんです。

これは2008年の年越し派遣村からずっといわれてきたことですが、製造業―自動車や電気などの工場で働いている人たちは30代、40代の稼ぎ手に、給料いくらなのってきくと40万円くらいもらえるよというんですよ。すごく良いですねというと、それが8時間労働じゃない。残業をやって10時間、12時間、14時間働いて、やっとちょっと楽になるくらいの月40万円くらい貰える。それがなければ生活できるレベルまで稼げない。東京メトロの人たちは賃上げが年間10円、20円レベルだといっていました。これは前々からそうではなくて、労働組合を作ってやっと声を出し始めたから10円20円上がるわけです。正社員と全然違う待遇ですし、同じことをやっているのになぜ私たちは賃金が上がらないのか。組合を作ったのはみんな女性ですが、女性が多くてこの賃金で、それこそ貧困層、ワーキングプアレベルですよね。

お弁当工場の人は一応100円くらいは上がるけれども10年で100円なので、インフレ率を換算したり、最低賃金の改定が毎年10月にあるけれどもそれに追いつかない。毎回一応上がってはいるけれども、常に最低賃金に張り付く賃金しかもらえない。もうひとり、40代の男性はちゃんと企業には勤めているけれども賃金が低すぎて、何を削るかというと、食費を削るしかない。昼飯を削るしかないので昼飯を食べないようにしていますと言っています。それを見た上司が「最近の若い人はダイエットをするんだね」といった。怒るかあきれるかしかないですけれども、彼は疲れていましたよね。そういうことしか気がつかないのかと。20代の女性は将来の希望が持てない、結婚なんか考えられない。次の女性は不公平じゃないかと。次の30代の女性は、札幌でも同じくらいお金がかかるのに、なぜ地方だけ最低賃金が低く設定されているのかということに不公平感を感じているといっていました。

いまいろいろ呼びかけ方を考えて全国どこでも一律1000円、今すぐどこでも一律1000円にして欲しいということを訴えているんですね。一律1000円にしたところで、所定労働時間、フルタイム働くと1年で1860時間です。単純計算すると186万円になりますけれども、これはワーキングプアの働いても生活できないレベルです。ワーキングプアは年収200万円以下と言われていて、いまは1200万人以上といわれていますけれども、それ以下ですよ。だから932円の最低賃金で働いていたら到底生活できません。ワーキングプアレベルにもならない。いつも私たちは渋谷のセンター街で練り歩いていて、時給1500円にしようというと、あの辺はファストフードのお店とか飲食店が多いのでみんな出てきます。出てきて見て「えー、1500円なんて高すぎるよ、店が潰れちゃう」って言うんですけれども、それを言うのは労働者なんですよね。でも計算してみて下さいよ、1500円×1860時間で279万円にしかならない。「しか」と言っていいかどうかわかりませんけれども、200万円以下がワーキングプアだけれども、1500円にしても300万円に満たない。それで本当に生活できるのか、なんとか食べていける感じですよね。

ここで日本でどうやっているかということをお見せしたいなと思います。

この写真は2016年に世界的に有名な渋谷の交差点での行動です。あそこでやると受けは良かったですよね。マクドナルドのキャラクターのドナルドの着ぐるみを着ていたからかもしれないですけれど、ニューヨークタイムズの一面に取り上げられて、日本でもやっているよねということは大きく宣伝して世界的に知られるようになりました。北海道から来た女性も、札幌でずっとやっているけれどもラーメン一杯しか食べられない時給なんだと訴えていましたね。その前の年から全労連などの労働組合が全国的に組織化しているので、本当に全国、北海道から沖縄まで今すぐ時給1000円に、そして1500円にしていこうということを一緒に訴えてくれています。

“市民的服従”脱し、権利のためのつながりを

私が最後にご紹介したい言葉です。ハワード・ジンは、ノーム・チョムスキーなどと一緒にベトナムの反戦平和を訴えてきた社会活動家で社会学者でもあります。私が尊敬する人のひとりで、市民的不服従を説明している言葉です。「問題は市民的不服従ではなく市民的服従にあるんだ。偉い人のことを聞いていて、それで従順にその言葉を聞きながら行動している。世界中で多くの市民が横暴な指導者に服従して、そのせいで何百万人が犠牲になったことがある」―彼はベトナム戦争などのことを言っています―「問題は貧困や飢餓、戦争や残虐さにあえぎながらそれでも服従していることなんだ。指導者が本当は変えていかなければいけないことにも関わらず、そうではなくて彼らの利益のためにやっていることに犠牲になっているにもかかわらず、それに対しても服従してしまっていることに問題があるんだ。問題とは、取るに足らない盗みで投獄されてしまう一方で極悪な窃盗犯が国家を運営しているということにあるんだ」。

安倍政権なんかもそうですけれども、いろいろなところで、横暴な国家主席がいるところで、その下で従順な気持ちでただ従うだけではなくて、市民的不服従でたたかったりしながら、非暴力で座り込みなんかをしながら、沖縄もそうですけれども、そういうときに連行されたり逮捕されたりするけれどもそうではなくて、それが問題なのではなくて、たまには不服従で訴えなければいけない重要な権利があるんだ、それは私たちの生活を守ることなんだ、そう彼はいっています。ハワード・ジンだけを紹介していますけれども、先ほど映像に出てきたジョン・ルイスも公民権運動で市民的不服従で非暴力をずっと貫いてたたかってきた人です。そういった人たちがこのファストフードの運動の中で彼らの言葉が大きな支えになっているということです。これは日本でも私たちが運動する中で非常に重要なことだと思うので紹介したいなと思いました。

ひとりひとりが声を上げることで長時間労働をなくし、特に最近日本で電通の過労自殺などもあるし、その前にワタミの過労自殺された女性、森美菜さんの話もあります。私はブラック企業大賞の実行委員もしているので、毎年毎年8人くらいの実行委員と企業の名前を連ねるんです。過労自殺、過労死を出した企業がたくさん出てきて、その中でどこが一番悪いかを決めますが、毎年毎年心が暗くなるんですよね。なぜやってもやっても改善されない、人の命が奪われるまでどうして利益を上げなければいけないのか、利益を先にしなければいけないのかということに怒りを感じて悲しくなります。その中で2回も、2人も命を奪っている電通、何年か前のブラック企業大賞の業界賞に選択したウェザーニュースも2人過労死を出している。そういう企業もたくさんあって、賃金が低く抑えられているのは非正規労働者に多いかもしれませんが、長時間労働を強いられているのは正社員労働者に特に多いと思います。

元気なときはひとりひとり声を上げて、長時間労働になったらわたしは仕事を辞めるから、とかこれは電通の高橋まつりさんも言っていたしワタミの森美菜さんもNHKの過労死の番組をお母さんと一緒に見ていて、「私がこういうふうになったら黙って我慢していないでさっさと辞めてくるから」と母親に言ったというんですね。お母さんは「だから大丈夫だと思っていた」というけれども、結局何があったかというと長時間労働を強いられる中で思考さえも、普通に考える力さえも奪われていった。森さんに話を聞いたことでびっくりしたけれど、森美菜さんが過労自殺される前にコンビニに寄って雑誌や新しい目覚まし時計、シャンプーや石鹸を買ったりしていたんですよね。そのレシートがお財布の中に入っていることにお母さんが気がついて、それは次の日も生きようとしていた証拠だ。それなのになぜ美菜はビルから飛び降りてしまったのか。それはやっぱり長時間労働で仮眠しか取れなかった生活が2ヶ月続いたことで、正常に考える思考能力を奪われてしまったからと言われています。そういうことがないように、自分で追い詰められていく前にこうやって仲間と一緒につながって行動していかなければいけないんだなということを本当に強く感じました。

いつもアメリカでやっているから日本でも、というのが多いような気がします。その中で今回のファストフードの動きは、マクドナルドのような多国籍企業、日本でもいっぱい企業が他国で事業展開しているので、日本も先導して運動していかなければいけないと思いますが、そういったことも今後視野に入れて、各国の労働者とつながって市民とつながって、同じような権利を得ることを訴えていかなければいけないと思います。

質疑から

―オキュパイ効果はあったのか
あれだけ騒いでいたのにいったいどうなったということですが、効果はあると思います。あの運動があったからこそこのファストフードの最低賃金にもつながっています。アメリカの大統領選挙ではバーニー・サンダースさんがあのオキュパイの運動を引き継いで、市民がバーニー・サンダースを大統領にしようという動きにつながっています。残念ながらトランプになってしまいましたが、まだバーニーの運動はすごく広くつながっていて、彼もまだまだあきらめてはいけないとがんばっています。バーニーの動きなんかをもっと日本に持ってきたいなと思っていろいろと企んでいる最中です。オキュパイ効果、1%と99%という考え方は、運動の力としては若い人が立ち上がったという面でも絶大な効果があったと言えると思います。バーニー・サンダースの選挙中に若い人たち、大学生などが一緒に立ち上がって声を上げたことはつながっているし、アメリカでも日本でもやっと若い人たちが政治に関心を持つようになったという話にもなったのですごく良かったと思います。
―チップ制の職業は最低賃金はないのか
最低賃金とは全然違います。最低賃金に該当しない業種はあります。レストランのウェイター、ウェイトレスの人たちもそうですし、低く抑えられているので生活できません。最初は10%から15%と言われていて、最近では15%から20%くらいチップをあげなければいけないと言われています。それでも賃金を下げられていると生活をチップだけに頼るのはすごくつらいものがあります。実は残念なこともあるんです。チップってテーブルの上に置いて出るけれど、置いたままにしておくと片付けに来る人は別の人です。片付けに来る人が皿を下げますが、チップの取り合いになるんですね。盗みが発生したりするので、ちゃんとした生活できる賃金を設定しなければいけないということは、そういう観点からも言えます。
―生活保護制度はオバマケアがなくなってさらに悪くなるのでは
生活保護制度は日本と同じように収入がどれくらい以下だと受けられるようになります。日本と違って、精神疾患を抱えていたり薬物依存症だったり性的虐待を家庭で受けていて家出した若い人たちもいるので、そういった人たちも多く受けています。オバマケアがなくなってさらに悪くなるしかないと思います。オバマケアのずっと前からマイケル・ムーアも訴えていましたけれども、医療費がすごく高くてそれだけで生活が破綻する。映画の中だけの話ではなくて本当にあるんですよ。私も経験したことがあります。
20年前くらいにアメリカに住んでいたときに、夫はアメリカ人ですが大学生だったので保険をかけていなかった。それは典型なんですよね。アメリカで自営業で働きながら大学に行っていたりすると、健康保険なんかかけられない。ある日階段から落ちて気を失ったので、私が慌てて救急車を呼ぼうと電話をかけたんですね。「こうなって、こうなって気絶したので救急車をよこして下さい」と日本の感覚で電話をかけました。その声で起きて上がって「電話を切ってくれ」と言うんですよ。全然知らなかったので何がいけないのかと思ったら、20年前ですけれども1台救急車を呼ぶのに500ドル-5万円くらいかかるんですね。今は700ドルかかるといわれています。それは無保険の人ですけれども。電話している救急の方も「あ、声がしているようだから大丈夫ね」とか言って、「2人で車で来なさい」と言うんです。お金が払えないから車で行くんですけれども、尾てい骨を打っているようなので骨折していないかどうか調べないといけない。MRIをやると1000ドル、10万円かかる。その次にレントゲンは7万円。それを全部「いいです、いいです、大丈夫です」って否定するんですよ。医者も「お金もかかるし、無保険だから触診で終わりにしましょう」といって終わるんです。驚きますよね。
いまはマイケル・ムーアなどがそういうことを問題にして、やっと海外、日本の人たちにも知れ渡るようになりましたけれども、保険がないことによって破綻するということがあります。私はいま大学で留学生にメディアと社会問題を教えていますけれど、アメリカ人の学生は、やっぱりアメリカの貧困問題は医療費の高さに原因があるといっていました。若い人も気がついているということは、医療制度が整っていないことでいろいろな被害を被っているということだと思います。
―アルバイトの時給が高くなっても上げるだけでは救われない人が出てくるのではないか
働き方は基本的なところで重要だと思います。私は「労働情報」という業界紙の編集人をやっていますが、今度の号で取材したプリントパックの方がいます。プリントパックで労働組合を立ち上げて、それこそ働き方を変えていこうという運動をされている人です。彼は正社員で最初は夜勤だったらしいんですよね。みなさん、たぶんプリントパックを使っていますよね。たぶん業界で一番安くて、市民運動とか労働運動なんか、お金がないところではよくチラシやパンフレット、ポスターの印刷を頼みますね。早くて安くてきれいです。
彼が言っていたのは、自分もきれいだと思う、でも夜勤をやっていて2交代で12時間労働なんですね。ふつう夜勤というと夜起きているだけでも大変なのに、日中と同じノルマを課されていて、12時間労働でそれだけやる。そのうち14時間になったり12時間になったり、それをずっとやってきて過労になったわけです。ものを食べても味がしないとか、寝ているけれども仮眠程度の疲れしか取れない。それがずっと続いて最終的には血便が出て、妻からもう少し身体を大事にして欲しいといわれて医者に行きます。自分ではそれまで気がつかないんですね。妻にいわれて気がついて医者に行って、なんとか自分で改善しなければいけないとなったときに、たまたま労働組合に出会います。それで、組合いじめとして夜勤の印刷から梱包とか発送に回されて、普通の仕事になった。自分としては働き方が改善されて良かったと思います、とかいっています。それこそ倒れる寸前まで働かされた。そういう働き方なんですね。彼は正社員です。賃金を上げるだけでもダメだけれども、では正社員の方がいいのか。正規社員という雇用形態がいいのかというと、いま正社員になるということは長時間労働を課せられることが「おまけ」に付いてくると考えられます。
私は正社員という働き方というよりも、非正社員でも賃金または保険-会社がちゃんと合法に社会保険、雇用保険を払うことで非正社員でも安定した生活が送れるようになると思います。いま非正規の人たちが大変なのは、会社が法を遵守していない、そういうケースが良くあのではないかと思っています。いまの若い人たちに学校を卒業したら何になりたいかと聞くと、「正社員になりたい」というんですよね、日本の大学生は。正社員になりたいというのは、みなさんが経験されたような終身雇用の家族手当も住宅手当も付いていたような働き方なので、それはもう夢のまた夢で、いまはそういう働き方はないかと思うけれど、そういうふうに言う人が多いんですよね。その概念はまだ残っているんだなと思います。いずれにしろ非正規の賃金が上がらなければ正社員の方もカットされるし、切り崩されていくと思うので、最低賃金という最低限のところをちゃんと踏ん張っていかないといけないと思います。
それから情報処理の働き方の話ですが、いま安倍政権下ではアライアンスというきれいな言葉で逃げられているけれど、業務委託、個人事業主として雇われて、なんの権利も付与されないという働き方が広がってきています。それがまた「いい」みたいな、自分の自由な選択、働き方が自由で良いじゃないかといわれています。最近「労働情報」の座談会で、そういった働き方をしている人たちに話を聞いたことがあります。一人は音楽家で一人は水道検針員、もう一人は土建の一人親方を扱っている組合で、もう一人がシステムエンジニア、情報処理の人でした。土建の人は一人親方として個人事業主のようなかたち、偽装請負のような感じで何段階も請負が入ったりしています。水道検針員は、同じような個人事業主としてそれぞれの家をまわって検針して、本部に帳簿を送ります。その人は組合を作って、労働者性を勝ち取っている。音楽家の人も個人事業主として事業をしています。システムエンジニアの人も個人事業主として会社に入って、新しいソフトを入れネットワークを替えたりする仕事ですが、彼女はかたちが偽装請負なんですね。一人親方と同じように何重にも請負になっていて、本社には行くけれどもそこで3日間寝ずに仕事をするとか、それで給料は変わらない。個人事業主だから何時に仕事に行ってもいいはずなのに9時に職場にいないと、本社の人から「今日はまだ来ていないようだけれどどうしたの」と電話が来るらしい。すごくおかしいことになっていて、システムエンジニア、情報処理という働き方は見直さなければいけないところにあると思います。彼女にたまたま聞いたからわかるものの普通はわからないです。そういうところで問題がどんどん悪化していって、ノーといえない労働者になってきてしまっている。労働組合をつくるなんて考えられないし、口にも出せない。口に出したら即仕事が回ってこなくなりますといっていました。その辺は気をつけなければいけないと思いますけれども、大変そうでした。
―米国の最低賃金がどんどん引き上がっているけれども州とか業種の違いがあるのか
最初に反応してきた州は、ニューヨークとかカリフォルニアとか、海岸の方ですよね。そこは大都市があるのでリベラルな考え方だし、ニューヨークの市長さんも支持しています。いろいろな市とか都市レベルで時給が15ドルであったり10ドルになったり変わってきています。業種はいまのところ連邦の最低賃金と州、都市の条例で変わってきているので、それに従わなければいけない。だから全業種的に賃金は変わってくると思います。連邦の最低賃金が決まるとそれ以下には絶対ならないので、そこで確か10ドル15セントとか、10ドル25セントだと思いますがそれ以上にはなります。
―日本で具体的に最低賃金を上げていくにはどうすればいいか。
日本では最低賃金の審議会があります。その時期にあわせて外からの行動も、それから国会議員にロビーイングをしながら国会内でも声を上げて協力してもらうよう働きかけます。昨年院内集会をやって、横断的に民進党から社民党、山本太郎さんなども含めて、共産党も、全国一律どこでもすぐに1000円にして、そして1500円に引き上げていってほしいという協力を得ています。そういうことで働きかけてもらっているけれども、それでも昨年は932円にしかならない。もっと外での行動を大きくしていかなければいけないかと思います。何年かやっていますけれど、まだまだ労働者に届いていないように思います。練り歩いて時給1500円にしましょうよ、といっても「そんなの無理ですよ」というのは労働者ですから。そこの感覚がまだまだです。最初にこの運動がアメリカで始まったときに、マクドナルドの仕事は学生や主婦のアルバイトだと思われている、でもそれは企業側に思わされているんだという考え方に変わっていった。そういうふうに考え方を変え、意識改革をしなければ難しいのではなか。私たちの力が問われているけれども、一番は労働組合があるので、そこでいろいろな人たちを動員して労働者自身、個人に声をかけていかなければいけないと思います。
―日米の運動のやり方の違い、分断された状態からどう変えるのか、変えていかなければいけないのではないか。
アメリカのファストフード労働者を組織したやり方は、日本でももう少しやった方がいいと思いますね。もともとアメリカではコミュニティオーガナイジングということがいわれていて、日本でもコミュニティユニオンが出来はじめたときがそういうやり方をしていたと思います。コミュニティには移民の人たちが固まって住んでいて、移民がどこから来たかによって、例えばフィリピンの人が多かったりラテンアメリカ系の人が多かったりします。または南部の黒人の人たちなどは宗教性が強かったりするので教会でつながっていったりするわけです。キング牧師もそうですけれどもジョン・ルイスさんなども説教するような言い方でみんなに理解を求め、連帯を強めていくというスタイルはすごく効果があります。そして、ひとりひとりに、丁寧に声をかけていくんですね。またコミュニティでもつながっているのでコミュニティセンターにも行ったりして、それがなければ一軒一軒、戸を叩いていきます。日本の選挙運動などでそういうことをやっている方もいらっしゃる。今回バーニー・サンダースの支持者もクリントンの支持者も一軒一軒戸を叩いて、私はこの人を支持しているけれどもあなたも一票入れませんかということをいっていきます。
労働者を組織する方は、例えばマクドナルドの店舗にオルグが行きます。同じような運動は日本にもありますが、その話の仕方が「労働組合に入りませんか?」って行かないんですよ。「職場で何か困ったことはありませんか?」、「この職場に不満はないですか?」とか、「楽しく仕事できていますか?」とか、今日の資料に入れたアルビナさんは、「子どもはいますか?家族をちゃんと食べさせることができていますか?」といわれて、「ん?」って首をかしげることをいわれたので、それで立ち止まって考えてみたといっていました。もうひとりのシングルマザーの人も、オルグの人に「こんな低い賃金で子どもを育てていくのは大変じゃない?」って聞かれて、「まあ、そうだけど」という話をしている間にどんどん引き込まれていったといっています。労働組合って聞くと最初はみんな一歩引くんですよね、マクドナルドではその話しかけ方、話題の持ちかけ方というのがとても特徴があるんじゃないかと思います。
資料にニック・ルディコフさんとの「若者たちの小さな行動が歴史を作り変える」というインタビュー記事があるんですが、彼は実際に労働組合のオルグで、マクドナルドの労働者を指揮していった人です。彼が言っていることで、アメリカの労働者の組織化の仕方が手に取るようにわかると思います。最初は労働組合から直接オルグが行くけれど、労働者が関心を持ち始めたらその中でリーダーを見極めていくんですね。誰が先頭に立って、独裁的ではなくて、職場をまとめていくことができるか、そしてその人たちをまた訓練する。その人たちだけを呼んで、これからどういう運動をしていったらいいのかということを説いていくんですけれども、現場の労働者を中心に話を進めていく。そうすると現場の労働者がいろいろな人たちの性格や家庭の事情なども把握しているので、それでうまくまとめることができるといっていました。また労働者は労働者で、地域の代表になったりして、私はこれまで全然そういうこと仕事をしたことはなかったけれども、こんな重要な地位になってがんばらなくちゃいけない、全米で声が上がっているからみんなで連帯して声を上げて権利を勝ち取っていかなければいけない、ということで意欲が湧くようです。すごくいいサイクルになっているなと思い、その辺ももう少し日本でもやってもいいのかなと思います。
日本の労働組合って、専従オルグみたいな人が前に出て運動も引っ張っていますけれども、そうではなくて当事者抜きでは語れない運動をしていかなくてはいけないと思います。本当はマクドナルドにわざわざ入っていって、その人たちがどういうふうに働いてどういう問題があるのかということをオルグしていきたいなと思っています。直接話を聞くと最初は煙たがっていたりするけれど、そのうちにいろいろな相談を持ちかけてきたり、問題が出てきますので、そういう話を聞く機会をつくってもいいと思います。私たちがファストフードの世界同時アクションに参加し始めたころは、マクドナルドの労働者も来て下さいといって集会をしました。そうしたら、以前マクドナルドで働いていましたとか、いまマクドナルドで働いていますという人が来てくれてちょっと話をしてくれたんですが、ひとつネックは労働時間が長いことで参加できないということがあると思います。マクドナルドは組織化されていて600人くらいいる労働組合があって、それが連合のUAゼンセンです。委員長の方とも会ったことがありますが一人ボランティアみたいな感じで、一人で組合員の相談には乗っているみたいだけれど、組織的に何を訴えていこうということではないような感じの人でした。600人いるところですから、もっといろいろ協力できればいいなと考えています。これからもできることはいっぱいあると思います。
―賃上げ以外に労働者として会社の中味を検討できることができるのではないか。
これは団体交渉で本当はすべきことだと思います。いま多くなっている非正規労働者は一般労組の組合員になることが多いので、職場の仲間と連帯して、一体になって会社側に問いかけることがなかなかできないんですね。正社員の組合だとそこですよね。会社側と、経営状態がどうなのかというところから始まって、中味を分解していって、じゃあこことこことここはカットできるかもしれないけれども、こっちとこっちはちゃんと守っていきましょうというような、労働組合って本当はそういうところですよね。非正規労働者になると基本的な権利さえ守られていないので、そこまで話がいかないんですね。最初に基本的な権利を精査して、いざ賃金の交渉などになるときにやっとそこで会社と対等に、経営なんかのことも含めて交渉できるということになると思います。私は新聞の組合、フリーランスなどが入れる個人加盟の組合の委員長をやっています。そこに老舗の業界紙の支部があるんですけれども、そこの問題は、社長がすごく横暴な人れている人でもあります。自給換算できないので最低賃金をあげろというのはあまりピンとこないと思いでパワハラ野郎なんですね。1日4時間も5時間も6時間も、ひとりの人を前にしてわーっと言い続けられる人なんです。そこを何とかクリアしないと次の賃金交渉にいけないという段階で、いま春闘で賃上げ交渉する時期ですけれども、そこまで全然いけません。パワハラをまず片付けてから、交渉するというかたちです。組合を作れば団体交渉で会社と対等に話し合いができるはずなので、それは中味がどうなのということを聞く機会になると思います。
―マスコミが問題にすればもっと問題が大きくなるのではないか。
確かにそうですね。マスコミにもっと訴えて大きく取り上げられて騒がれないと縮小して閉鎖的な空間の中で事が終わってしまうこともあるので、それはとても重要だと思います。でも私は新聞の組合にいてマスコミの中も知っているので、ほとんどみんな正社員です。大手のところは新聞記者って給料がいいんですよね。給料もいいけれども、実は長時間労働に悩まさますが、長時間労働の話は結構響くわけです。けれども自分達がそれをいいと思ってやっているので、過労死で人が亡くなればすごく大変な問題だという感覚はありますけれども、なかなか底辺でふらふらしている私たちなどの苦しい生活をどのように理解してもらえるのかというのは、訴える側が訴え方をちょっと変えていかないといけないと思います。仲間内ではわかるけれども、高収入の新聞記者の人たちにどのようにわかってもらえるのかということには工夫が必要だと思います。アメリカでも同じですけれども国際的に訴えるときでもやっぱり当事者を前に出す、当事者をすごく大切にして当事者の声、生活がどのくらい苦しいのかを具体的な例で、シングルマザーの人が訴えたりしています。これは日本でも国会で非正規の労働者が訴えたり、製造業の人たちが年越し派遣村、派遣法改悪のときなどに訴えていました。できるだけ多くの機会をつくって当事者の声を紹介できればなと思います。やっぱりそれに勝つものはないと思います。

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