2016年5月3日、東京の有明防災公園を会場にして開かれた「明日を決めるのは私たち~平和といのちと人権を!5・3憲法集会」が5万人を超える人びとの参加で大きな成功を収めた(集会の詳細は本誌4ページの池上仁さんの記事を参照)。
この集会は、1昨年末の「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」の結成を受けて、従来、東京でこの10数年にわたって開催されてきた2つの「5・3憲法集会」が統一して実行委員会を作り、さらに広範な市民諸団体に呼びかけて開かれた昨年の横浜臨海公園での5・3憲法集会につづくもので、文字どおり運動圏の「総がかり」の行動で開催される2回目の憲法集会だ。
昨年(2015年)の5・3集会は、3万人余の市民が結集して成功し、5~6月段階から連続して万余の人びとが国会周辺で展開した戦争法案反対の闘いの端緒を切り開いたものであり、それらは8月30日の12万人による国会包囲と全国1500箇所での戦争法廃案をめざす闘いにつながっていく2015年安保闘争の歴史的な高揚を切り開くことになった。昨年の運動の展開は、識者の一部からは「日本社会の政治の文化が変わった」「新しい市民革命の過程が始まった」と言われるようになった。
国会内の野党との関係では、昨年の横浜集会には、野党4党から代表が参加し、民主党の長妻昭代表代行、共産党の志位和夫委員長、社民党の吉田忠智党首、生活の党の主濱了副代表が連帯の挨拶をした。以降、総がかり実行委員会が開催する諸行動には各野党から国会議員が参加するのが通例となっていった。しかし、今年の集会は野党4党からの参加はすべて党首であり、岡田克也民進党代表、志位和夫共産党委員長、吉田忠智社民党党首、小沢一郎生活の党代表と、4党首のそろい踏みとなった。この4人が壇上で手を高く掲げてつないだ。この1年、市民と野党の結束がいっそう大きく前進したことがはっきりと示される場面になった。
今年の集会は、安倍政権と与党による昨年9月19日の戦争法採決の強行後も、全国各地で戦争法反対、立憲主義の回復を求める運動が多様な形で継続され、その中で5つの市民団体(総がかり行動、SEALDs、立憲デモクラシーの会、学者の会、ママの会)によって参院選の勝利をめざす「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」という新しいプラットフォームが誕生した。とりわけ戦争法廃止の2000万人統一署名運動が全国津々浦々で進められ、この日に発表されたように1200万筆を越える勢いで展開された中で開かれた。この5月3日を前に発表されたマスコミ各社の憲法世論調査でも、「改憲反対」が「改憲賛成」を大きく上回り、とりわけ「憲法9条改憲反対」はトリプルスコアで「賛成」を上回っている。この数値が昨年よりも軒並み改憲反対が多くなったのがことしの憲法世論調査の特徴であった。安倍首相が懸命に「改憲」をアピールする中でこうした結果が生じたということは、昨年の戦争法に反対する全国的なたたかいの反映と言って言い過ぎではないだろう。
今年の憲法集会は東京でおこなわれた集会だけでなく、大阪集会の2万人、兵庫の集会の1万1千人、広島の2000人、仙台の1000人など全国200箇所以上で10数万を超える規模で展開されたと思われる。
全国で大きく取り組まれたこの5・3憲法集会の成功を契機に、昨年の8・30に匹敵する規模で準備されている「明日を決めるのは私たち ? 政治を変えよう!6.5全国総がかり大行動」の成功と、参院選での野党の勝利につなげて行きたい。そのことは「任期中の改憲」を公言する安倍政権を窮地に陥れ、2007年の第1次安倍内閣の崩壊を引き起こしたような内閣退陣に導く可能性がある。
5・3集会で実行委員会を代表して冒頭におこなった挨拶を全文再録する。
ご参集のみなさん こんにちは。
実行委員会を代表して、開会のご挨拶に先立ちまして、この度の熊本・九州地方大震災で亡くなられたみなさまに心からの哀悼の気持ちを表明し、また被災された多くの皆さまにお見舞い申し上げたいと思います。合わせて、福島第1原発の事故をはじめとする東日本大震災の被災者のみなさん、5年数ヶ月を経た今日なお住まいを失って苦闘している20万人近いみなさんの苦しみにも思いを寄せたいと思います。本日の5・3憲法集会は、昨年、横浜で開催した憲法集会につづく2回目の総がかりで開催する統一集会です。昨年の集会はその後の2015年安保闘争と呼ばれる集団的自衛権の憲法解釈の変更と憲法違反の戦争法に反対する全国的な巨大な市民運動の幕開けとなりました。あの5・3憲法集会は、さまざまな立場の違いを超えて、安倍政権の戦争政策に反対する画期的な出発点となりました。
安倍内閣は大多数の民意のありかを顧みることなく、9月19日、この国が米国と共に海外で戦争することを可能にする戦争法を強行しました。しかし、それ以降も、その暴挙に反対する行動は全国で衰えることなく継続され、その様相は一部の識者からは「2015年夏、日本の政治の文化が変わった」とか「新しい市民革命が始まった」とまで言われる状況をつくり出しています。
この運動は戦争法反対の2000万人署名運動として全国の津々浦々で展開され、また国会では、安保法制廃止の野党共同の廃止法案提出に結実し、先日は多数の法曹関係者と市民らによる戦争法案の違憲訴訟の運動が始まり、さらに来る参議院議員選挙での野党の勝利をめざす「市民連合」として展開されています。全国各地では自立した市民による草の根のアクションが多彩・多様に展開され、総がかり行動実行委員会などの共同行動が無数に組織されています。
今日、ほとんどの報道機関の世論調査が戦争法と改憲に反対する声が多数であることを示しております。
先に、こうした運動を背景にしてたたかわれた北海道5区と京都3区の衆院補選、とりわけ北海道5区の池田真紀さんを先頭にした共同のたたかいは安倍政権の心胆を寒からしめました。あのたたかいは戦争法に反対することを柱に据え、安倍政権による個人の尊厳を破壊する悪政に反対する政策を掲げ、野党と市民がしっかり連携して闘えば、自公与党を追いつめ、勝利することができる可能性を示しました。私たちは来る参議院議員選挙でもこれらの経験に学び、とりわけ全国32箇所の1人区での候補者の1本化を実現し、憲法第9条の改憲と国家緊急権=緊急事態条項の加憲による憲法改悪を企てる安倍政権と闘い、最低限でも自公与党とその補完勢力の2/3議席確保を阻止し、安倍内閣の退陣を実現する必要があります。
そのためにも、ひきつづき2000万人統一署名を推進し、6月5日、国会包囲大闘争とそれに呼応した全国の市民行動の高揚を勝ちとりましょう。沖縄の辺野古の新基地建設を阻止しましょう。川内原発の即時停止と原発再稼働反対の広範な運動を巻き起こしましょう。貧困と格差の拡大の悪政に反対しましょう。平和をねがう東アジアの民衆と連帯し、ふたたび戦争の道を歩む企てを阻止しましょう。
ご参集のすべてのみなさん。
本日の2016年5・3憲法集会を契機にして、戦争に反対する2016年安保闘争の巨大な飛躍を勝ちとりましょう。戦争法の発動を絶対に止めましょう。この国を「戦争する国」にさせてなるものですか。海外の戦争で「殺し、殺されなかった歴史」を、平和憲法のもとで実現してきた「戦後」の歴史を71年で終わらせてなるものですか。
自民党改憲草案がめざす全体主義、国家主義の社会の到来を阻みましょう。
憲法改悪反対、安倍政権退陣、参院選で野党の勝利を実現しましょう。
最後に、昨年の夏、国会前の集会で何度か紹介した短歌をまた紹介させてください。1978年、有事法制の検討が始まった頃、自立的な女性の平和団体の「草の実会」に所属していた石井百代さんの短歌です。その志を共有したいと思います。
徴兵は命かけても阻むべし 母、祖母、おみな 牢に満つるとも
みなさん
いまこそ、がんばり時です。わたしたちはかならず勝利しましょう。
本日の5・3憲法集会の成功を共同してかちとりましょう。
ありがとうございました。
(事務局 高田健)
全国各地で、戦争法(安全保障法制)の廃止、立憲主義回復をめざして奮闘いただく市民の皆さん、諸団体に、心からの敬意と感謝の言葉を送ります。
昨年11月に開始した「戦争法廃止を求める2000万人統一署名(2000万人統一署名)」は、これまでに1200万人をこえて集約され、今日から逐次、野党4党を通じて国会に提出します。
6か月余の短期間に、これだけの数の署名を集約したことは、かつてない大きな到達点です。過去の様々ないきさつを乗り越えた市民の共同が、市民の取り組みに後押しされた野党の共闘が作り出した到達点です。
大変な努力と奮闘をいただいた方々に、厚くお礼を申し上げます。
一軒一軒を訪問した取り組みが、自治体単位で目標を確認して進められた共同が、地域・草の根から戦争法は何としても廃止の世論を、憲法を守りいかそうの声を、強く、大きくしてきています。
過日の憲法記念日を前にマスコミが行った意識調査では、いずれの調査でも、憲法改正を「必要ない」、「しないほうがよい」が多数になりました。この間の取り組みが世論を動かし始めていることを示すものです。
安倍首相は、そのような市民の運動と世論の動向におびえながらも、7月選挙後の明文改憲に執念を燃やし続けています。自公とその補完勢力とで、改憲発議が可能な議席の獲得をねらい、衆参同時選挙も視野に入れつづけています。
世論に背を向け、憲法壊しを公言する政権のこれ以上の存続をゆるしてはなりません。
日本をアメリカと一緒に戦争する国に変えようとする安倍政権のもとで、貧困と格差がより深刻化し、沖縄への基地の押し付けに象徴される強権的、中央集権的な政治が加速し、物言えぬ重苦しい社会への足音が強まっています。
一人ひとりの暮らし、権利を守り回復するためにも、政治を変えなくてはなりません。
戦争法廃止・立憲主義回復を軸に進んできた市民と野党の共闘は、参院選一人区の多くで統一候補と自公候補との一騎打ちの構図を作り出してきています。
初めてうまれた画期的な政治状況を選挙勝利に結実させなければなりません。そのためにも、市民が選挙に向けてできる取り組みとして「2000万人統一署名」を再度位置づけ、市民が政治を変える状況を本格的に作り出していきましょう。
6月30日までに、何としても目標を達成するために、取り組みを強めていただくことを呼びかけます。
2016年5月19日
戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会
池上 仁(会員)
昨年の横浜臨港パークでの5.3憲法集会は、それまで別個に運動してきた諸団体が結集する画期的な大集会となった。2014年6月、閣議決定を目前にした集団的自衛権反対集会での高田健さんの訴え、「私たちには大きな夢がある、大きな共同行動を作り上げ何万人もで国会を包囲し戦争への途を食い止めること……」その確かな一歩が踏み出された。その後の展開は私たちが共に身をもって体験した通り、“夢”は私たちの期待をはるかに超える現実と化したのだ!今年の5.3集会はそうした1年間の運動の広がりと深化を確認し、さらに推し進めるために開催される。
ゆりかもめに乗るのは初めて。車内は集会に参加する人々で一杯。有明駅につくと改札前に乱闘服姿の機動隊がいる。右翼の妨害に備えてかもしれないが、集会参加者への威圧でもあろう。会場の東京臨海広域防災公園へ。組合の仲間と落ち合い、早速組合旗を掲げるが、風が強くポールが折れそう。きたがわてつさんと古謝美佐子さんのプレコンサートが行われるが、昨年と異なり平坦な地形のためメインステージは全く見えず、ひたすらスピーカーに耳を傾ける。
徴兵は命かけても阻むべし母・祖母・おみな牢に満つるとも(石井百代 1978年)
齋藤優里彩さん(制服向上委員会)の司会で開会。高田健さん(解釈で憲法9条壊すな!実行委員会)が開会挨拶。「初めに熊本・九州地方大震災で亡くなられた方々に哀悼の意を表し、被災者の皆さん、そして今なお避難を余儀なくされている福島原発事故・東日本大震災の被災者に思いを馳せます。昨年の5.3集会は2015年安保闘争の画期的な出発点となった。あの闘いで日本の政治文化が変わった、新たな市民革命が始まったとする評価もある。2000万人署名の展開、野党による戦争法廃止法案の共同提案、戦争法違憲訴訟提起、参院選に向けた市民連合の運動……。世論調査では戦争法と改憲に反対の声が多数派だ。北海道5区補選の闘いは与党の心胆を寒からしめた。市民の運動と結びつけば野党は勝てる。参院選では最低限でも自公及びその補完勢力の2/3獲得を阻止し安倍を退陣に追い込もう。戦争に反対する2016年安保闘争の飛躍を勝ち取ろう。戦争法の発動を絶対に止めよう。この国を戦争する国にされてなるものですか。最後にここでも石井百代さんの短歌を紹介させていただく。」
白鳥亜美さん(高校生1万人署名活動委員会)「この運動は2001年長崎の高校生から始まり、全国で取り組まれている。これまで核兵器廃絶と平和な世界の実現を求める署名を130万筆高校生平和大使が国連に送り届けてきた。昨年、今年は外務大臣から委嘱されて海外で平和を求めるスピーチを行う。18歳から選挙権が与えられるようになった今、周辺の政治への無関心を変えていくために頑張る。」
山口二郎さん(立憲デモクラシーの会)「今日は熊本で講演することになっていたが、震災のためここに駆け付けた。戦争をできる国の特徴は3つ。(1)政府が国民を騙す。NHKの地震のニュースから川内原発のある鹿児島県が除かれた。(2)個人の多様性や自由が否定される一方、偉そうな爺さん婆さんが若者や女性にあれこれ口を出す。(3)学問が抑圧される。これを跳ね返すのは私たちの力。参院選勝利のために野党の結束が進んでいる。この野党の努力を支えているのは市民の力。9.19は敗北の日ではなく立憲主義と平和を取り戻す闘いの始まりだ。後世の日本人に恥じない闘いを!」
菅原文子さん(辺野古基金共同代表)「自民党の改憲草案は“個人”を“人”に置き換えている。安保条約の前文にも民主主義と個人の自由が謳われているのに。選挙で勝たせてしまえば、『私は最高責任者』と言っていた安倍は『私は最高権力者』とエスカレートするだろう。私たちは現政権にすべてを委託しているわけではない。地震で崩れた熊本城の石垣は、新しいもので石の奥行きがなく揃った大きさのものだという。安倍政権のことではないか。無事だった古い石垣は奥行きがあり大小多様な石がきっちりかみ合っているそうです。野党連合はそのようでありたい。北朝鮮のことがとやかく言われるが、米韓両国の大演習も挑発と言える。私には夢がある、ピョンヤンで豊かさと平和を享受するオリンピックが開かれること。」
むのたけじさん(ジャーナリスト)「70歳以下の人は戦争を実体験していない。戦争とは常識では考えられない狂いの世界、戦場では武器を持たない従軍記者であっても、死にたくなければ敵を殺せとなるのに3日も要しない。そして戦争は始めてしまったら止めようがない。無様な無条件降伏で得たのが憲法9条だ。日本には戦争をさせない、軍備させない、それは屈辱的なものだったが、反面人類に希望をもたらすものと私たちは受け止めた。おかげで70年間、戦争で殺し殺されることはなかった。世界無比の憲法、それは必ず実現する。今日のこの光景がそれを物語っている。」
朝倉むつ子さん(市民連合・早大教授)「昨年6月学者の会が発足し、多くの研究者が市民連合にも参加している。学者研究者が学生と同じ方向を見つめて立ち上がるのはかつてない動きだ。ルール無視、相次ぐ暴挙、今の政権は堕落している。その政治は様々な困難を抱えた人々を踏みつけにして戦争への道を歩んでいる。水俣病公式認定から60年経たが未だ解決していない。水俣から水俣学が、東日本大震災から希望学が、沖縄の闘いからも多くの知が生まれている。研究者は若い人々に学問を通して人間の尊厳と民主主義の大切さを伝えていく。」
ここで小田川義和さん(戦争する国づくりストップ!憲法を守り・生かす共同センター)からカンパの要請が行われた。スタッフにあちこちから声がかかり、次々カンパが投じられてゆく。
民進党・岡田代表、「沢山集まってくれて有難う。皆さんの応援で国会でもとことん頑張れた。憲法違反の法律はいくら時間がたっても憲法違反。安倍首相は1月に参院選で改憲勢力が2/3を取ると明言し、その後9条の改正に言及し、改憲の議論に乗らないのは無責任とすら言っている。選挙で勝ち限定なき集団的自衛権→改憲を目論んでいる。この企てを是非とも阻まなくてはならない。」
共産党・志位委員長、「戦争法は強行されたが市民の運動に背中を押されて野党共闘が進んでいる。目的は3つ。(1)戦争法を廃止し集団的自衛権を行使させない。(2)立憲主義を取り戻す。安倍さんには憲法で縛られているという自覚がない。(3)改憲を許さない。自民党改憲草案は国民を縛り付ける憲法だ。憲法をないがしろにする政治をやめさせる。」
社民党・吉田党首、「この集会を企画運営されている皆さんに感謝する。施行以来69年間現憲法が変えられなかったのは国民の意思だ。戦争法違憲訴訟が始まった、これと大衆の行動、選挙闘争の三位一体の闘いで戦争法を廃止する。相変わらず押し付け憲法論が語られるが、現状を憲法に近づけることが大事。野党の選挙協力を衆院選をも視野に入れて推進していく。」
生活の党・小沢代表、「本日の集会を嬉しくまた心強く思い、皆さんの積極的な行動に敬意を表する。これまでのスピーチで言われている通りなので、繰り返さない。すべては選挙での勝利にかかっている、あとわずか2か月だ。4党協力し市民の力と共に安倍内閣を退陣に追い込みたい。」
ここで菱山南帆子さん(解釈で憲法9条壊すな!実行委員会)のコールで、戦争法は今すぐ廃止!憲法守れ!安倍政権は直ちに退陣!を唱和しプラカードを掲げるパフォーマンスを行う。
シャンティ国際ボランティア会、「アフガンで校舎建設を行っていた際、反政府武装勢力がやってきて『どこの国か』『日本だ』のやりとりがあったが、攻撃されることはなかった。軍隊派遣以外に貢献できる多くの分野がある。」
沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック、「和解後2か月、しかし辺野古新基地建設方針は変わらない。与那国、石垣、宮古で基地建設・自衛隊配備が行われている。戦争法最前線に沖縄がある。」
原子力資料情報室、「原発事故による避難者が今なお10万人を超えるのに来年3月には帰還困難地区以外の避難指示が解除され、補償も打ち切られる。基本的人権がないがしろにされている。熊本地震でも川内原発を停止させない。脱原発社会の実現を!」
障害者患者九条の会、「戦争ほど障害者を悲惨な状況に追いやるものはない。2014年障害者権利条約が批准されたが、福祉の変節が進みこれに逆行している。戦争は大勢の障害者を生み出す、戦争と福祉は両立しえない。」
朝鮮高校生徒、「ヘイトスピーチが増え続けている、先進国では異例だ。高校無償化から朝鮮高校が外され、2012年裁判に訴え毎週文科省前で訴え続けている。文科省は3月29日自治体に補助金の見直しを求めるような通知を出した。補助金を停止する自治体も出ているがこれに屈せず補助を続ける自治体もあり、支援の輪の広がりもある。非人道的な差別に負けず強くたくましく生きていきたい。」
日本消費者連盟、「TPPを絶対に許さない。安全安心な食を求めることは憲法25条、13条にも関わる。アメリカは残留農薬基準緩和や添加物検査の迅速化を求めている。安倍はTPPで経済が強くなると言うが、安全と経済を天秤にかけるわけにはいかない。」
子どもと教科書全国ネット21、「戦争する国と経済大国のための戦士に子どもたちがされようとしている。道徳教育もそのためのもの。子供たちを絶対に戦場に送らせない。」
日本労働弁護団、「職場では人権侵害が蔓延している。セクハラ、パワハラ、マタハラ、ブラック企業にブラックバイト、障害者・外国人差別。安倍政権はこれらを助長する労働法制改悪を進めている。憲法を職場に取り戻そう。」
しんぐるまざーず・ふぉーらむ、「母子家庭の8割以上が働いているが半数は非正規、平均年収は181万円、一般家庭の3割に至らない。運動で児童扶養手当の第二子以降の改善が図られた。非婚母子世帯への寡婦控除適用を求めている。日弁連も要望書を出してくれ、東京都の区・市の2/3で見なし適用が始まった。保育料や公共住宅についても広まりつつある。」
SEALDs、「民主主義は長い道のり、平坦ではない。民主主義国家とは名ばかりの日本と言う人もいるが、私たち自身の行動が辛うじて民主主義を殺さずにいるのだ。憲法の言葉は決して古くない、紛れもなく私たち、私の言葉だ。」
最後に福山真劫さん(戦争をさせない1000人委員会)による行動提起が行われた。「本日の集会参加者は5万人、昨年の3万7千人を大きく上回った。(1)2000万人署名はすでに1200万人分が集約された、6月末まで継続する。(2)第3火曜日の街頭宣伝、19日行動を続ける、(3)6月5日の全国総がかり行動、国会を昨年の12万人を上回る結集で包囲しよう。(4)参院選挙に向け特に1人区での野党共闘を実現しよう!私たちが頑張れば安倍政権を打倒できる!」満場の拍手で確認される。
The LOW-ATUSのクロージングコンサートに送られて二手に分かれて長い長いパレードの列が出発した。
ところで地元紙「神奈川新聞」の5月3日号には目を見張った。「時代の正体」憲法特集特別紙面は4ページの別刷り。樋口陽一さん、木村草太さん、SEALDs奥田愛基さんのインタビューに一面ずつ、4面は樋口さんと木村さんの言葉、「『なめんなよ』の精神を」「委縮しない」を大きく配したコラージュ風。本体の方でも全面広告を含め6ページにわたって憲法関連の紙面。シリーズ「時代の正体」は、県議会を含む34議会中17議会で「改憲を求める意見書」が採択されるという全国でも突出した事態の背景を、日本会議の動きと共に追っている。安倍状況を多面的に検証する「時代の正体」は本になり、「権力はかくも暴走する」に続き「vol2 語ることをあきらめない」が5月2日に刊行されている。現代思潮新社刊。力のこもった取材班の頑張りにエールを送りたい。
お話:飯島 滋明さん(名古屋学院大学教授/憲法学・平和学)
(編集部註)4月16日の講座で飯島滋明さんが講演した内容を編集部の責任で要約したものです、要約の責任はすべて本誌編集部にあります。
1月、その前から安倍首相は憲法を変えるということをたびたび明言しています。憲法を変えるにあたっては衆議院と参議院の総議員数の3分の2の同意と、それに基づく国民投票が必要になります。私が授業をやっていると、主権者である私たちが国の政治に関して意思表明ができる、国民投票はいいことじゃないかという意見が多かったりします。しかし実はそんな簡単ではないことがあります。例えば憲法ですと1970年代、樋口陽一東京大学名誉教授と杉原泰雄一橋大学名誉教授が、この主権に関して大きな論争を繰り広げたことがあります。樋口先生は、国民投票はプレビシット(plebiscite)の危険性があると言っています。
プレビシットとは何か。これはフランス憲法学の用語ですけれど、国民投票が国民の意志を聞くためではなくて、権力者の政策あるいは権力者の地位を強化するために悪用されることがあります。そういった国民投票のことをプレビシットとフランスの憲法学説ではいっています。例えばフランスではナポレオン1世あるいはナポレオン3世は国民投票で皇帝になっています。そのあとヨーロッパを戦争に巻き込んでいきます。もっと極端で有名な例を挙げますとヒトラーで、彼は国民投票をやりたがった。例えば国際連盟を脱退することに関しては、国民投票で92%支持されています。その翌年、ヒトラーは総理大臣と大統領の権限を持つ総統にすべきかという国民投票を行います。これでも90%が「そうだ、ヒトラーいいぞ」ということになってしまいます。このあとオーストリア併合―併合といいますが侵略ですね、これに関してもヒトラーは国民投票にかけて99%が支持しています。政治学あるいは憲法学では独裁者ほど国民投票をやりたがる、そして自分の地位を強化、あるいは自分の政策を国民の名において正当化する危険性が指摘されています。
ですから、ドイツ連邦共和国基本法―歴史的な事情があって基本法という言い方をしていますが、実際には憲法です―では、国民投票なんて一切やっていません。あるいはフランス憲法ですと国民投票はありますが、ただ、ナポレオン1世あるいはナポレオン3世が悪用したことを忘れないようにという考え方がある意味で根付いています。ただ逆にいいますと、国民投票は権力者にとっても危険性があります。国民投票で負けたら権力者はどうなるか。いい例が2005年、フランスの欧州憲法条約の批准に関する国民投票です。当初、国民はこの欧州憲法条約に好意的でしたけれども、結局国民投票では否決されてしまいます。そうしたら、総理大臣はただちにクビです。シラク大統領は3回目の大統領をやりたかったのですが、この国民投票で負けた結果、次の大統領になる芽は消えてしまった。政治的な影響力はどんどん下がってしまったんですね。
このとき日本でもある動きが進んでいました。それは改憲手続き法―メディアでは国民投票法という言い方をされていますけれども―憲法を変えるための国民投票法を自民党はつくろうとしていたました。この欧州憲法条約の国民投票については、自民党の中山太郎議員ですとか保岡興治議員は、負けた場面を見たんですね。国民投票で負けたらこういうことになる。日本で万が一国民投票に負けたら10年間は国民投票なんて言えなくなってしまうだろう。彼らは身に染みて体験して帰ってきたわけです。先ほど安倍首相は憲法を変えたい、変えると言っていることを紹介しましたけれども、憲法を変える真の目的は9条です。そして9条を変えるのであれば、例えば76条も変えることになると思います。どういうことかというと軍法会議をつくる。あるいは憲法18条を変えて、民間人を動員もやらざるを得なくなるだろう。朝鮮戦争の時に日本に憲法を変えろといってきたコワロフスキーという人が、9条を変えるだけじゃなくて18条と76条の改正が必要になるといっています。そういった意味で軍法会議ととか国家総動員体制の構築ということにもなります。
9条を変えて何がしたいかというと、アメリカと一緒に戦えるような国づくりを目指すことです。安倍首相は9条をいきなり国民投票にかけて勝てる自信があるかというと、さすがにそれは無茶だと思っています。でも憲法を変えたい。そこで憲法を変えることは怖いものではないことを知ってもらうために考えついたのが、この緊急事態条項です。2015年10月1日の東京新聞の記事では、本当は9条を変えたいけれどもそれは無理だ、だから緊急事態条項をあげてきたことが紹介されています。
その緊急事態条項を簡単に紹介させていただきます。例えば戦争ですとか内乱・経済恐慌や、つい最近起こったような大規模な自然災害などの緊急事態の場合には、通常は認められない権限行使を国家機関、とくに総理大臣だけに認める権限のことです。憲法の目的というのは個人の権利、自由を守ることです。ですから憲法ではまず個人の権利、自由を保障する。その個人の権利や自由を定めた憲法を権力者が守らなければいけない、そういった考え方が立憲主義と言われています。国家緊急権というのは、その立憲主義は一時的になくていいということです。憲法に従って権限行使をしなさいというのが立憲主義ですけれども、それをしなくていい。緊急事態の場合には好き勝手にやっていいということを認めてしまう条項が、緊急事態条項になります。
自民党あるいは読売新聞、産経新聞が言っていることを紹介します。阪神淡路大震災あるいは東日本大震災の時もそうですが、今日の産経新聞ではやっぱりこの手のことを言っています。「東日本大震災のようなときに、政府が迅速に対応できなかったのは憲法に緊急事態条項がないからだ」と。だから憲法を変えて緊急事態条項を入れましょうと言われると、納得してしまう人が多いのではないかと思います。あるいは、外国でも憲法で緊急事態条項があるから日本でも憲法に書きましょうよと言われると、納得してしまう人が多いと思います。けれども、本当かどうかというのは、やはりいろいろ見ていただく必要があると思います。
結論から申し上げます。この緊急事態条項の導入は、いわゆる「お試し改憲」なんていうものではありません。防衛省の1970年代、80年代の文書を見ますと、有事法制と非常事態法制のどちらも整備しろとよくいっています。この緊急事態条項は、海外で戦争できる国づくりの一環として機能しています。戦争遂行のために、市民に対しては戦争に法的協力をさせる。あるいは、政府に対して戦争反対なんていったら弾圧してしまえということにもなりかねない規定もあります。関東大震災の時に、こういったことを書いていた弁護士さんがいます。「ホントの戒厳令は当然戦時を想像する、無秩序を連想する、切り捨て御免を観念する。当時一人でも、戒厳令中人命の保障があるなど信じた者があったろうか。何人といえども戒厳令中は、何事も止むを得ないと諦めたではないか」。こういったことが法的状態に置かれてしまう可能性が出てきます。
これに対して、かつての日本はそうかもしれない、でもいまの自衛隊は大丈夫だという意見もあるかもしれません。それこそ阪神淡路大震災あるいは東日本大震災、いまも熊本地震で自衛隊は災害支援で活動している。多くの国民が支持しているかもしれません。でも、やっぱり自衛隊の内部ってすごいですよ。戦争法に関して元自衛官あるいは現役の自衛官がどう思っているのかを聞き取りしました。これをまとめた本を4月の終わりから5月上旬に出す予定です。いろいろな自衛官の方に聞きましたが、そもそもジュネーブ条約なんて守るつもりがないことが、実はこっそり伝統としてあるんですね。捕虜として捕まえた外国人の部隊は、捕虜としてあつかわなければいけないわけですが、上に行くと、そんなものは処理してしまえ、という指示が出されている。処理の仕方も、ピストルで殺すのはもったいないから針金で首を絞めて殺せという指示を受けています。北海道の部隊ですと、戦車で馬を遊び半分でひき殺すようなことをやっているんですね。
余談になりますが、イラクに行かされた自衛隊の部隊で、その隊長は、部下には危険なところに行かせるのに自分は行かなかったらしいです。部下が「隊長、来て下さい」と言っても彼は会議だとかの理由をつけて来なかったらしいです。その隊長は後で参議院議員になって、国会で戦争法制をつくるのに大活躍した。こういうことを元自衛官の人たちはいいます。こういったことをまとめた本を出します。NGOの人がどう思っているかなども聞き取り調査した本です。殺すときですが、捕虜がいたら穴を掘らせる。何かあったら、逃げようとしたとこじつけて殺してしまえ。あとは戦車で地面をならしてしまえば殺したかどうかもわからない。自衛隊ではこういうことをやろうとしている。一般の隊員は知らないらしいんです。レンジャーの隊員だったら知っているかもしれない。そういう影の部分があることも知ってもらいたいと思います。
今日は主に自民党が2012年に出した改憲草案にある緊急事態条項の問題点を、私の専門であるドイツとフランスの法と比較して紹介したいと思います。自民党改憲草案での緊急事態条項のひとつ目の問題点は、目的が自然災害よりも戦争とか内乱に対応するものだということです。自民党「改憲草案」99条1項は「内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる」です。この緊急事態条項が対処するのは、まず武力攻撃、2番目に内乱、3番目に自然災害、4番目にその他法律で定める事項です。法律をやっている人間からすると順番は重要です。最初に重要なものを持ってきます。ドイツの憲法である基本法は「男と女」と書いたら、次は「女と男」と順番を変えています。それで平等だということを示しています。自民党の改憲草案を見ますとこの緊急事態条項が対処するのは、まず武力攻撃事態、次は内乱、その次が自然災害です。こういったあたりからも、目的は戦争ですとか内乱に対処するということが言えます。
あくまでこれは草案ですからこれを変える可能性はあります。万が一国民投票にかける場合、「我が国に対する外部からの武力攻撃」というこの言葉は変えられる可能性があります。去年9月に戦争法が安倍自公政権のもとで成立しています。日本が攻撃されているわけではありませんけれども、首相が日本にとって危機になると認定した存立危機事態の場合には防衛出動命令を出して、世界中で武力行使が可能になります。こういった法律にあわせるためには、単に「我が国に対する外部からの武力攻撃」というだけではなく、変える可能性もあります。東京新聞の半田さんも「週刊女性」のインタビューで言っています。もしかしたら変えないかもしれないと思うのは、「その他の法律で定める緊急事態 」に含めるかもしれないからです。わかりませんが、可能性はあると思います。
2つ目の内乱ですが、自民党の改憲草案では緊急事態の宣言を出せるのがどのような場合かというのは明らかではありません。例えば政府に反対するデモあるいは集会が大々的に組織された場合、去年の8月30日とか9月14日のように国会を包囲するような大きな集会がありましたが、これも内乱などに認定される可能性が出てくる。それに対して何らかの弾圧がなされることが、この法文上は否定できないと思います。ドイツではヴァイマール憲法のもとで緊急事態条項がさんざん濫用され、市民に対する弾圧にも用いられたことがあり、いまのドイツ憲法-ドイツ連邦共和国基本法では、明文で「ストライキに対して適用してはいけない」と書かれています。そういうかたちで緊急事態条項を濫用させない仕組みがドイツの憲法にはありますが、自民党の改憲草案ではそこが明確ではない。そもそも「その他の法律で定める緊急事態」と書いてありますが、緊急事態条項が発動されれば内閣が法律と同じ効力を持つ政令を出せてしまいます。ある意味で、何でもできてしまう可能性もでてきます。ですからどういう場合にそれができるのかを法律で決めて下さいなんていうのはありえない話なんですよ。これを法律委任事項にすること自体が、人権尊重あるいは民主主義という観点からすればそもそもありえないことです。「こういう場合だ」と少なくとも憲法に書かなくてはいけないという問題点があることも指摘させていただきます。
自民党改憲草案の3つめの問題点として、法律と同じ効力を持つ政令を制定することができます。自民党改憲草案99条1項には、「緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる」という規定があります。内閣総理大臣がある意味で法律をつくります、自分で適用します、何でもできてしまいますよね。ですからこの条文を見て法律をやっている人間が思い浮かべるものは、ナチスが独裁政治を可能にするときに濫用した、いわゆる授権法だと思います。授権法の1条1文はこうなっています。「共和国の法律は、憲法に定められた手続以外に、連邦政府によっても制定されうる」。「連邦政府」というのは要するにヒトラーです。自分で法律のようなものをつくります。自分で執行してしまいます。何でもできてしまう可能性が出てくる危険性があることを紹介します。
これに関して具体的な例を挙げます。2003年、小泉内閣のときに有事三法が制定されたことを覚えている方もいると思います。そのとき自衛隊法の103条にやっぱり論点がひとつありました。自衛隊法103条とは何かと言いますと、物資保管命令、つまり防衛出動がなされたとき石油とかガソリンとかあるいは食べものを「売るな」という命令を出すことができます。あるいは医師、看護師、薬剤師、建築業者、輸送業者、こういった人たちに対して業務従事命令を出すことができます。自民党の中では、物資保管命令、武力攻撃事態だから、この地域においてはガソリンを売るな、食べものを売るなという命令を出したのはいいけれど、勝手に売られた場合はどうしようかという話がありました。2003年の有事三法制定のときは、物資保管命令には罰則をつけるという法改正がなされました。ですから物資保管命令が出されたにもかかわらずガソリンや食べものを売ったということになれば、6ヶ月以下の懲役あるいは30万円以下の罰金となります。
けれども業務従事命令には罰則をつけることができなかったんです。例えば医師とか看護師、薬剤師あるいは建築、土木業者に、戦場に行けという業務従事命令を出したとします。「嫌だよ」といわれたとき6ヶ月以下の懲役だという法律を自民党はつくりたかったけれども、つけられなかった。これは日本医師会と日本看護協会が反対したことがあります。けれども、この緊急事態条項があれば法律と同じ効力を持つ政令が制定できてしまいます。議会を通さずにそういった政令を作って、建築業者に戦場へ行け、基地をつくれという命令を出すこともできる。医療関係者に対して治療してこい、嫌だったら6ヶ月間刑務所に入ってね、という政令を作ることもできます。このように戦争に協力させることができます。
4番目ですが、自民党の改憲草案を見ますと、緊急事態を認定する人が緊急事態の権限を行使する。つまり内閣総理大臣が緊急事態だということを認定する、そして内閣総理大臣が法律と同じ効力を持つ政令を作ってしまうことができる。要するに緊急事態を認定する人と実際にやる人が一緒だということも、問題のひとつとしてあります。
ドイツではヒトラーが緊急事態条項をさんざん悪用し、当時「もっとも民主的、進歩的だ」といわれたヴァイマール憲法を葬ってしまった歴史があるので、緊急事態条項に対しては非常に嫌悪感がありました。1968年にドイツの基本法が改正されましたが、それでも20年くらいすったもんだがあった結果です。結局、緊急事態条項は入れられましたが、悪用されないようにいろいろな仕組みが設けられています。そのひとつが「防衛事態」の認定です。ドイツの基本法ですと防衛事態、要するに外国が攻めてきたとき、それを認定するのは原則として連邦議会です。防衛事態が認定されて、誰がその権限を行使するのかというと、総理大臣です。防衛事態の認定権者と、実際に防衛事態の権限行使者がドイツの基本法では分けられています。日本のように内閣総理大臣が認定して内閣総理大臣がやってしまうということにはなっていません。それこそがヒトラーがやってきたことだと。しかし日本はそうなっていません。このことも自民党改憲草案の問題点としてあげられると思います。
5番目ですが、緊急事態が認定された場合、内閣総理大臣ができるのは、法律と同じ効力を持つ政令を出すことだけではありません。財政上必要な支出その他の処分ということも、自民党の改憲草案を見るとできることになっています。明治憲法の財政に関する規定をまず紹介します。「予算が不成立の場合には政府は議会の議決なしに前年度の予算を執行できる(71条)」「緊急の場合には議会の議決なしに財政の処分ができる(70条)」、主にこのふたつを紹介します。例えば議会で予算が成立しなかった場合、政府は議会の議決無しに前年度の予算を執行できるという規定が明治憲法下にはあります。あるいは緊急の場合には、議会の議決無しに財政の処分ができる権限も明治憲法にはありました。
なぜこんな規定があったのかといいますと、ドイツでビスマルクと議会がすったもんだの争いをした「プロイセン憲法争議」があります。こういった事態を招かないように、もし予算が成立しなかった場合には前年度の予算を執行する。緊急の場合には議会が関与しないで緊急的に政府が財政を処分してしまう権限が出されたわけです。簡単にいうとビスマルクが軍備拡張政策をとって軍事費を上げようとしたことに議会が反抗した。それに対して、ビスマルクと皇帝が強行して議会とすったもんだがあって、皇帝は謝ることになった。予算自体は無効ではなかったが、議会に足を引っ張られて思う通りに行かなかったことがありました。こうならないように明治憲法では予算が成立しなかった場合には前年度の予算が執行でき、また緊急の場合には議会が関与しないで政府が予算を執行できる規定がありました。
いまの日本国憲法では、財政国会中心主義(憲法83条)、財政は国会が決めるということです。あるいは、新しく税金を課したりする場合には、国会の議決に基づかなければいけないという租税法律主義(憲法84条)が憲法に書かれています。この予算の規定ですが、これも軍隊の役割を制約することが可能です。つい最近それがやられたのがアメリカです。アメリカの場合はアフガン戦争やイラク戦争で財政が悪化し、またアメリカ議会は軍事費を削減しています。結局アメリカ軍の人員――陸軍に関しては52万人から45万人に減らさざるを得なくなっている。装備も減らさざるを得ない。余談ですがじゃあどうするかというと日本に負担してねとなって、それに乗っかった安倍首相がつくったのが戦争法だというわけです。このように議会というのは予算とか税金という側面を使って、軍隊の活動を制約することもできるわけです。でも自民党の改憲草案は、そういった制約を取り払ってしまう規定になっています。例えば緊急事態が認定されれば、財政国会中心主義を無視して、国会の議決を経ない戦時予算を組むことも可能になります。税金に関しても軍事費のためということで、租税法律主義を棚上げするような増税も可能になる規定が組み込まれています。
6番目の問題として、「地方自治体の長に対して必要な指示」を出すことができるという規定が、自民党改憲草案の99条1項にあります。地方自治というのは憲法の平和主義の実現にとっても非常に重要なものになります。昔は港の管理は国が一元的に管理していました。そうすると港から軍艦が出ていくことは非常に容易でした。港の管理を一元的にさせると国の戦争遂行は容易になる。それをさせないために日本国憲法のもとでは港湾法というものがありまして、港の管理権を自治体にしています。ですから自治体の首長が嫌だといえばかなりのことができる規定があります。沖縄の翁長知事も、そういった機能を使って政府に対していろいろな対抗策をとっています。
よく例が挙げられるのがこの非核神戸方式です。神戸港は核兵器を積んでいないという証明書を出すことを外国の軍艦に要求します。1975年、非核神戸方式が採用されて以降、神戸港にはアメリカの軍艦は一切入っていません。嫌がらせのように大阪湾とか和歌山には入ってきたりしますが、神戸港自体には入っていません。こうやって自治体は、港湾管理権あるいは空港の管理権を使って軍の活動を制約することができます。私は2週間くらい前に愛知県の空港の部署に行って、ブルーインパルスをやらせるなということをいってきました。そういったように空港であっても知事がある程度の権限を行使すれば、入ってくるなということもいえる法的な仕組みにいまはなっています。
でも自民党の改憲草案を見ると、「地方自治体の長に対して必要な指示」を出すことができるということが99条1項に書いてあります。こういった指示を使って、例えば自治体の港湾管理権や空港管理権を奪ってしまうことも可能になります。例に挙げた神戸港とか函館などいろいろな港がありますが、そういったところで港湾管理権が取り上げられ、アメリカ軍が使うから使わせろと政府がいうことができてしまう。あるいは自衛隊の優先使用も可能になってしまう規定があります。さらに自治体が持っている病院なども、アメリカの軍人あるいは自衛官に対して優先的、独占的に使用させることも法的には可能になります。
自民党改憲草案の7番目の問題ですが、実は長期にわたる政権運営が可能になってしまうという問題点があります。自民党改憲草案99条4項ですが、「その宣言が効力を有する期間、両議院の議員の任期及びその選挙期間の特例を設けることができる」。緊急事態という宣言がなされたときは衆議院選挙あるいは参議院選挙に関して特例を設けることができるという内容になっています。これに関して元最高裁判所の裁判官であります浜田邦夫さんは、こんなことを認めたら「永久に政権運営ができてしまう」と批判しています。緊急事態だという口実を作れば、いくらでも政権運営ができてしまいます。私は3月の終わり頃フランスに行ってきました。フランスで緊急事態のことをいろいろ調べたのですが、去年11月に起きたテロに関しては、もう2回ほど3ヶ月間の緊急事態宣言の期間延長がされています。期限が切れるのが5月の後半です。けれども6月14日から7月14日までフランスでサッカー大会があるので、そこまで延ばしてしまえという議論が出ています。そうやってどんどんの緊急事態が延ばされてしまう危険性がフランスなどでは危惧されています。結局「緊急事態だ、緊急事態だ」ということが、政府の方針でいくらでも延ばされてしまいます。
選挙も延ばされてしまいます。自民党の改憲草案では、解散権の行使はできないとなっています。ですから場合によっては解散はできない。衆議院の任期が4年間プラス特例ということで、どんどん延ばされてしまうかもしれない。
誤解させてしまうかもしれませんが万が一緊急事態条項のようなものを入れるのであれば、解散させないという規定は絶対必要だと思います。これはヴァイマールの教訓でいわれることですが、いまのフランス憲法にも緊急事態が宣言されている間は、国民議会は解散されないという規定があります。どういうことかというと、一番有名な例ですが、ヴァイマール憲法のもとで1929年に世界大恐慌が起こります。1930年に当時の総理大臣が増税の緊急命令を出します。議会はそれを否決します。ヴァイマール憲法ですと、緊急命令を出したとしても議会の3分の2が反対すれば、効力がなくなるという規定がありました。それに基づいて緊急事態の効力を国会が取り消しました。それでそのときの総理大臣は、まず衆議院を解散してしまいます。衆議院が解散されると当然選挙まで時間があります。そのあともういちど同じ緊急事態命令を出すんです。結局そのあと選挙をやった。国会ができたといっても、もう既成事実で終わってしまいます。こうやって緊急事態条項を濫用させないための歯止めが取り払われてしまった歴史があります。ですから解散権などを認めると国会の統制ができなくなってしまいます。
フランスなどでも緊急事態が宣言されている間は、国民議会(日本でいう衆議院)が解散してはいけないという規定があります。ですから万が一こういったものを入れるのであれば、こういった規定は絶対必要だとは思います。逆をいうと、ドイツ、フランスの例を見ても選挙をやってはいけないなんて規定はありません。ですから結局そういったことをすることによって、ずっと緊急事態です、衆議院選挙は当分やりません、というような口実にされてしまう危険性があることも認識することが必要です。ドイツの場合は、緊急事態条項が発動されるのであれば、国会も制御することができますし憲法裁判所も関与できます。フランスはそうではないので言いづらいところはありますが、緊急事態条項のようなものが設けられるのであれば、国会あるいは裁判所が何らかの関与ができることが必要だと思います。
この自民党改憲草案を見ますと、関与できるような規定はありますが、実際は機能しないだろうというような規定にしかなっていません。自民党改憲草案98条4項では、――第2項及び前項後段の承認については、第60条第2項(予算の規定のことです)の規定を準用する。同項中(60条のこと)、「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする――となっています。要するに衆議院と参議院が予算に関して別々の議決をした場合、30日経てば衆議院の案が国会の意志とされてしまいます。
大統領制ならば、国会の多数と大統領が違う政党の場合はあります。フランスなんかはしょっちゅうです。そうであれば大統領の行為を国会が取り消す、あるいはやめろということはあるかもしれません。でも日本ってどうですかね。議院内閣制というのは、国会の多数から総理大臣が選ばれます。自民党が多数を占めているときに民進党の総理大臣を選びますかね。ですから国会の多数派と首相は同じ政治傾向を持つ党派の人です。国会が統制できると思ったら、ほとんどそういうことはありえないでしょう。ねじれ国会の場合であれば参議院が承認しないことはあるかもしれない。けれども自民党改憲草案では、衆議院の優越が規定されています。しかも五日以内に参議院が何かを決めない場合は衆議院の議決が国会の意志とされてしまう。ほとんど何もできないんですよね。結局衆議院の議決が国会の議決とされてしまう可能性が高い。国会が内閣総理大臣の緊急事態に関する措置に対して何かできるかというと、恐らく何もできない規定になっています。
裁判的統制という話ですが、ドイツ連邦共和国基本法ですと防衛事態に際しては、「連邦憲法裁判所および裁判官の憲法上の地位または憲法上の任務の遂行は、侵害されてはならない」(115条g)、いざとなれば内閣総理大臣が行った行為でも憲法違反だと連邦憲法裁判所が判断するという規定です。フランスの場合は2008年7月に憲法が変えられています。フランス第5共和制憲法16条は、危険だとずっといわれ続けてきた規定です。社会党ですとか共産党の綱領には、これを廃止すると書かれ続けてきた規定です。緊急権の発動に関して、一種の憲法裁判所である憲法院が審査する、場合によってはやめてしまえと言える権限を、憲法改正によって導入しています。こういった裁判的な統制を、ドイツやフランスでは導入しています。
雑誌「世界」で長谷部先生が、「外国の憲法を見ると、この緊急事態条項のようなものがあるのであれば裁判所の統制が国際的な基準だ」という論文を書いています。自民党の改憲草案にはそれがない。長谷部先生も、あまり日本の裁判官のことを信頼していないのでしょうね。さらに「統治行為は認めない」ということも憲法に書けと同じ論文でいっています。それを憲法に書かせるのかな、と私は思いますが、それくらいしないと日本の裁判官はダメだということをいいたいですね。私は、それでも、“合憲です”というような気がしますが、それくらい日本の最高裁は機能していないところがあると思います。繰り返しになりますがドイツやフランスでは、変な内容にされないために裁判的統制ということが書かれている。しかし自民党の改憲草案にはそういうことは一切ございません。
では自民党の改憲草案での緊急事態条項は、どのような性格でどのような評価が可能なのか。2人の方の発言を紹介します。まず樋口陽一先生はこういっています。「『法を無視することをあらかじめ許す法』の怖さ」。要するに憲法で憲法を無視していいと書き込んでいい、この怖さってどうなんだろう。そこをどう考えるかということだと思います。元最高裁判所判事の浜田邦夫さんは、なかなか気合いの入った書き方です。「正気の人が書いた条文とは思えない。新設されてしまえば世界に類を見ない悪法になる」。言い方はいろいろとあると思いますが、ただこれは法律をやっている人間からすると、まさにそうだと思います。法に従わなくていい、内閣総理大臣が好き勝手にやっていい、国会もほとんど統制できません、裁判所の統制は一切書いてありません。こんなものだったら「世界に類を見ない悪法になる」というのはその通りだと思います。
ただ悪法というだでなく戦争遂行にも十分使える、そういった役割を持たせるものだと思います。例えば国家総動員体制の確立ですが、法律と同じ効力を持つ政令を制定できる権限が緊急事態条項では認められていることを紹介しましたが、国民に対して協力しろという義務を課してしまうことが可能になります。あるいは自治体に対しても港を使わせろ、空港の管理権を貸せということも言えてしまいます。また憲法83条の財政国会中心主義、憲法84条の租税法律主義、こういったものを棚上げして戦時予算を組んだり戦時増税をすることも可能になります。また、自民党の改憲草案は内乱に対しても適用可能になります。何が内乱かという認定がありません。ドイツの基本法のように、ストライキには適用してはいけないということも書いてありません。いざとなれば反政府的な言動は弾圧されてしまう可能性があります。ナチスがさんざん緊急事態条項を使って反政府的な集会を弾圧したこともありますが、そういったことも可能になる危険が自民党の改憲草案にはあります。
そうはいうけれども、やっぱり緊急事態条項がないと、自然災害などには対応できないのではないかといわれることがあります。今日の産経新聞には、「憲法への緊急事態条項の盛り込みに反対している点でも軸を一にしている。現行憲法下で平和を唱えてさえいれば、わが国には危機管理は必要ないと信じているのかもしれない」と書いてあります。これは民進党などの批判をしているところです。緊急事態条項はいらないという人たちを批判しています。しかし本当だろうか。緊急事態条項がないと自然災害に対応できないのかといいますと、例えば東日本大震災のときの気仙沼市の市長はこう言っています。「私権を制限した方がいいと思うほど大変だったが、何とかやり遂げた。(改憲してまでの)制限は必要ないのではないか」。震災時の気仙沼市長は憲法改正は必要ないと言っています。また仙台市の市長はこう言っています。「想定を超える(震災と)憲法との結び付きで驚いている」「震災で法改正の必要性は感じたが、改憲が必要と考えたことはない。災害時は地方自治体が、喫緊の優先課題が何かを目の前で見ながら活動するのが大事だ」「国への権限一元化でなく自治体の権限強化を考えてほしい」。仙台市長も改憲は必要ないと言っています。
いらないと言っているのは、気仙沼市や仙台市の市長だけではないんですね。自民党改憲草案を出すときに、自民党はQ&Aを出しています。そこでは、「緊急政令は、現行法にも、災害対策基本法と国民保護法(「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」をいう。以下同じ。)に例があります。したがって、必ずしも憲法上の根拠が必要ではありませんが、根拠があることが望ましいと考えた」と、「根拠はいらない」って自民党自身が言っています。また自治体に関する規定ですが、「地方自治体の長に対する指示は、もともと法律の規定を整備すれば憲法上の根拠がなくても可能です。草案の規定は、憲法上の根拠があることが望ましいと考えて、念のために置いた規定です」。自民党改正草案のQ&Aでも必要ないと言っているわけです。そうすると産経新聞は自民党のことも批判していることになるのでしょうか。
私は、緊急事態条項は入れるべきではないと思います。だから危機管理が必要ないなんてひとことも言っていません。こうして理論がすり替えられてしまう。憲法上問題がないとは言いませんが、いまでも災害対策基本法あるいは警察法などにも規定があります。それにもとづいて対応すればいいわけです。憲法を変えなければいけないとは、自民党のQ&Aでも言っていません。不十分であれば法律を変えればいい。ただそれだけの話です。阪神淡路大震災でも市長が迅速な措置を採ったところは被害が少ないと言われています。例えば淡路島では消防団が迅速に動いた結果、即死者以外ほとんど死者を出さなかった。法改正すら必要ではなく、運用でできてしまうかもしれません。私もボランティアに行っていますし、阪神淡路大震災、東日本大震災でもひとりひとりに聞いたわけではないですが、憲法を変えなければいけないなんて思った人は現場では恐らく一人もいないと思います。
今日の毎日新聞の記事ですが、4月15日に安倍政権は避難者に対して家の中に入れという指示を出しました。外で寝ていると危険だという単純な考えでしょう。それに対して熊本県知事が、「避難所が足りなくてみなさんがあそこに出たわけではない。余震が怖くて部屋の中にいられないからで、現場の気持ちが分かっていない」と批判しています。今日も震度7の地震がありました。やっぱり現場のことは現場に任せることが一番ですよね。さきほどの仙台市長のように、自然災害に対して何らかの法的な手当をするとして、国ではなくて自治体の権限を強化しろと。被災地の首長としては当然そういう判断になると思います。しかし自民党や産経新聞記事を見ると、国が一元的にやってしまえということになります。
緊急事態条項を導入しなくても、十分いまの法でも自然災害に対応できるかもしれない。ダメだったら法律を改正すればいい。それにもかかわらず、憲法を改正しなけれだめだ、緊急事態条項が必要だと言っている人は、やっぱり現場を見ていないか知ろうともしない人たちだと思います。東日本大震災に対処できなかったのは憲法に規定がないからですかね。むしろ政治家たちがちゃんとした対応をしなかったからではないでしょうか。にもかかわらず自分たちは責任をとらず棚に上げて、憲法に規定がないから改憲しましょう。それを口実に、海外で武力行使ができる国造りをするということになれば、これは東日本大震災の被災者に対する最大の冒涜だと思います。
緊急事態条項は外国にもあります。自民党はドイツ、フランス、韓国の例を挙げて、入れるべきだと言っています。けれども、今日お配りした1000人委員会のリーフレットの中で外国についても紹介しています。アメリカの憲法に緊急事態条項はありません。自民党が売国的なほどに大好きなアメリカの憲法にはございません。
フランスの例を紹介します。第5共和制憲法-第5共和制という言い方をしますけれどもいまの憲法です-これには16条に緊急権の規定があります。この16条は1962年のアルジェリア危機の時に発動されています。このときに少なくとも48人が警察によって殺されています。アルジェリアのことはなかなかフランス人も語りたがらないので、資料を集めるのが大変です。フランスの公文書などを見ると、拷問にかけたというようなこともちらほら見えたりするんですが、このあたりは追うのが大変です。アルジェリア危機が4月21日に始まって、22日に緊急事態法が適用され、その翌日に国家緊急権-16条が発動されています。反乱自体は25日の夜に収まったのですが、憲法16条の緊急権は9月30日まで適用されています。緊急事態法という法律は2年間適用されています。その2年間に文書の発禁処分などがされていたりする。そういったことが行われるわけです。
フランスで2008年に憲法改正がされましたが、それにはこのときの経験があります。反乱が4日間で収まったのになぜ緊急権は半年も適用されたのか、危険じゃないかということが、フランスの政治の場面で大きく出てきました。緊急事態法は2年間も引き延ばされています。それを社会党や共産党は絶えず批判してきたわけです。あるいは、1967年あるいは78年、もし大統領と違う党派が国会の選挙で勝ったら、憲法16条を発動して、大統領がそれにもとづいて政治運営をするべきだという議論が出てきました。これって民主主義ですかね。国会は選挙で当然議員が選ばれますけれどもそれが大統領と違う勢力だった。じゃあ大統領は憲法16条を使って統治してしまえ、という議論がフランスでは出てきたんですね。やっぱりこれは危ないですよね。ですからミッテラン大統領ですら、これは削除しようと言っています。2008年の憲法改正の委員会でも、副委員長は16条を削除しろという報告書を書きましたがこのときは削除されませんでした。ただ、一種の憲法裁判所である憲法院が審査しようということで、裁判的な統制が強められています。
去年11月のパリ同時多発テロを口実に、安倍首相はやっぱり憲法改正が必要じゃないかといっていたと思います。けれども、この時は憲法16条の緊急権が発動されたわけではありません。1955年の非常事態法が発動されただけです。法律で対処しているんですよ。私はフランスの憲法の先生と話をしましたけれども、なぜ日本でそういう議論になるのかといわれました。憲法16条は戦争に関する規定だ、なぜパリのテロが日本の憲法改正の理由になるのかということで不思議がられたんです。
パリの同時多発テロ事件があった際、オランド大統領は憲法を改正しようと言い出しています。けれども、この憲法改正は3月30日に挫折しています。オランド大統領はあきらめました。挫折の経緯というのは複雑なところがあるけれど、ただ保守と革新政党で一致した点があります。それは、緊急事態条項に関しては期間の制限を設けよう、1961年のアルジェリア事件の際に4日間で反乱が収まったにもかかわらず、憲法16条の緊急権は半年間、非常事態法は2年間も適用され続けた。いまもフランスでは非常事態宣言が出されていますが、どんどん延ばされてしまうかもしれない。7月にサッカーの試合があります、次は何がありますということで、延ばされるかもしれない。それでは危険だから期間を短くしようという点では、保守と革新は一致しています。一致しなかったのは、二重国籍者から国籍を奪うことで割れて、パーになりました。こういうことも認識していただく必要があると思います。
ドイツの例を簡単に紹介します。「もっとも民主的」、あるいは151条で日本でいう社会権を保障していたこともあって、「もっとも進歩的」といわれたヴァイマール憲法がわずか14年間で幕を閉じることになったのは、法的な原因としてはヴァイマール憲法48条の非常事態条項だといわれています。実際もそうです。ヒトラーが総理大臣になり、この非常事態条項を悪用します。自分の政敵の集会やデモを禁止してしまう。社会党や共産党の出版も差し止め、目障りだと思えば全部逮捕、保護検束してしまう。私が見た文献などによりますと、1月にヒトラーが総理大臣になってからその年の10月までに10万人が身体拘束されています。その中にはたくさんの国会議員がいます。国会議員を逮捕した結果成立させたのが、いわゆる授権法です。そこでヒトラーは法律をつくることができる、という法律がつくられてしまったわけです。「もっとも民主的」というのは、大統領を直接国民が選んでいます。何かあれば国民投票で決めましょうというのがヴァイマール憲法にはあって、だから「もっとも民主的」といわれている。そういった憲法が14年間で幕を閉じたのが緊急事態条項だということで、ドイツでは苦い歴史として残っているわけです。
いまのドイツ憲法では緊急事態条項があります。それはドイツに緊急事態条項がないことで、アメリカとかフランスから信用されていなかったんですね。ですから条約の取り決めとして、ドイツ国内の親書の開封あるいは盗聴をやってもいいとなっていました。これはさすがにドイツ国民としては受け入れられない。自分たちも一人前だということをアメリカやフランスに示す必要があった。そこでドイツは緊急事態条項を外国との関係で入れました。けれども緊急事態条項というと、ヒトラーの苦い歴史の経験があって大反対が起こります。とくに労働組合は最後まで抵抗しています。ドイツ基本法では、防衛事態――外国からの武力行使を認定する人は連邦議会、実際に何らかの措置を採るのは総理大臣と、権限は分けられています。何かあれば憲法裁判所が無効にしてしまうこともできる。ヒトラーが反政府的な言動を緊急事態条項で弾圧したという歴史に対する反省として、ストライキに対して緊急事態条項を使ってはいけないということが、わざわざ憲法に書かれています。
ですから外国を参考にすべきだというのであれば、そもそもアメリカにはそんなものはない。ドイツやフランスでは緊急事態条項を用いて市民が殺されたり身体拘束があった。出版、デモなどが弾圧されたという歴史があることを認識する必要があります。そういった歴史があるからこそ、緊急事態条項にさまざまな歯止めが設けられています。自民党改憲草案のように、裁判所が一切ノータッチなんていうことは違うということも認識することが必要だと思います。
ちなみに日本の例としては、関東大震災のときに一種の戒厳令が発動されています。関東大震災の際の行政戒厳に関して「戒厳出動が戦場に赴くのと同義であることは軍隊生活の常識」(『震災・戒厳・虐殺』(三一書房、2008年・48頁)。「東京では、渋谷100人、丸子3~400人、荒川堤200人、亀戸470人等、神奈川県では鉄道橋500人など、一地区100人を越す朝鮮人の虐殺が記録されている箇所は、いずれも軍の配置の拠点」であり、「軍こそは、虐殺の主体であった」。(『関東大震災と朝鮮人虐殺 歴史の真実』(現代史出版会1975年・67頁)。軍隊が戒厳令に基づいて朝鮮人を虐殺したという歴史があります。これだけではなくて2.26事件のときも戒厳令が発動されています。そこで暗黒裁判、弁護人抜きで死刑判決を下された人たちがでています。
そういった反省があるので、日本国憲法ではこうなっています。1946年7月15日衆議院帝国憲法改正案委員会で北浦圭太郎委員が聞いています。「やはり私は第三十一條〔非常大権。飯島補足〕ですか、さう云ふ規定が必要ではないかと思ふ、なぜ此の憲法にそれを置かないか、此の點御伺ひ致します」。非常体験をいまの憲法に入れるべきだと言っているわけですが、これに対して金森徳治郎大臣はこう答弁しています。「現行憲法に於きましても、非常大權の規定が存在して居つたことは今御示しになつた通りであります。併しながら致します爲には、左樣な場合の政府一存に於て行ひまする處置は、極力之を防止しなければならぬのであります。言葉を非常と云ふことに藉りて、其の大いなる途を殘して置きますなら、どんなに精緻なる憲法を定めましても、口實を其處に入れて又破壞せられる虞絶無とは斷言し難いと思ひます、隨て此の憲法は左樣な非常なる特例を以て──謂はば行政權の自由判斷の餘地を出來るだけ少くするやうに考へた譯であります」。極力これを防止しなければならない、行政権の自由判断の余地をできるだけ少なくするように考えたということで、やはり行政権の濫用させることはまずい。あえてこうやって答えているわけです。ですから憲法制定に関わった人たちの意見を見ますと、これは意図的に排除しています。何かあれば参議院の緊急集会などでやればいいと言っているわけです。国家緊急権の濫用を警戒して憲法に明記しなかったということを認識することが必要だと思います。
国際社会の憲法と言える国連憲法の前文を見ますと、「われらの一生のうち二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救」うため、ということで国連憲章が制定されています。あるいは日本でも近隣諸国の民衆2千万人から3千万人、日本国内でも310万人もの犠牲者を出した侵略戦争をさせないために「基本的人権の尊重」「平和主義」「国民主権」を基本原理とする日本国憲法が制定されています。いわば歴史に基づく反省の文書が、憲法なんですね。
けれども、安倍首相の歴史認識は、「満州は攻め入って作ったわけではない」。「満州の権益は、第1次世界大戦で日本がドイツの権益を譲り受けた」。おじいさんから何を習ったんでしょうか。こういうことを平気でいうんです。ポツダム宣言に関しても、「ポツダム宣言というものは、米国が原子爆弾を2発も落として日本に大変な惨状を与えた後、『どうだ』とばかりたたきつけたものだ」。ポツダム宣言は7月26日です。広島、長崎はいつなんでしょう。樋口陽一先生は去年の国会前でこのことも批判していました。「そんなことも知らない人間が。亡くなった人への冒涜だ」と。ポツダム宣言については「その部分をつまびらかに読んでいないので、直ちに論評することは差し控えたい」。たった13ページしかない文書ですよ。どの部分を読んだんですかね。こういうことを平気で言ってしまう。やっぱり「歴史の惨禍」ということを残念ながらわかっていない。ですから、憲法で平和主義が設けられた理念もわからないで、海外で戦争できる国づくりを進めてしまっている。でも戦争で犠牲になるのは安倍さんみたいな人じゃないんですよね。実際に犠牲になるのは、そういう無責任な政治家や、部下に出てこいといわれたのに戦場に出てこない軍の上層部ではなくて、一般市民や兵士なんですよ。いざとなれば自分達は逃げてしまう。
実は私はいま2冊の本の刊行を準備しています。そこで鷹巣直美さんという、「9条にノーベル平和賞を」の活動されている方のおばあさんのお話も聞きました。その方のおばあさんは、満州にいたようですが、こういうことを言ったそうです。「軍人や役人はすぐに逃げ、祖母たちは取り残された」と。結局、裸足で国境付近まで20歳の女性が逃げて帰った。ソ連兵が怖くて坊主頭できた。だから戦争はいけないということをずっと鷹巣さんに言っていたらしいです。このおばあさんは2年くらい前、安倍首相が閣議決定で憲法解釈を変えたあとに亡くなったそうです。犠牲になるのは一般の市民です。沖縄でもそうです。沖縄戦については、権力者は沖縄住民に関して国のために死ねと言いながら、自分たちは長野県の松代に逃げる準備をしている。沖縄戦が始まったのが1945年の3月から4月ですが、前年の10月から長野県の松代に逃げるために基地をつくっている。天皇が隠れるところは地下60メートルまで掘っている。戦っている軍人であっても、市民から食べものを取り上げる。沖縄の人からすれば軍人が国を守るなんていうのは大間違いだということは、経験としてあるわけです。
こういった無責任な戦争を2度とさせないために、日本国憲法は徹底した平和主義を採用しています。「日本国民は、……政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」(憲法前文)といっています。こういった憲法の基本原理、戦争はいけないものだというものを変えて、海外で武力行使あるいは戦争をする。それにとって役立つ法制度の一環である緊急事態条項を認めていいかということが私たちに問われていると思います。とくに次の参議院選挙の結果次第では、本当に憲法改正が現実味を帯びる可能性が出てきます。
次は参議院選挙で考えていただきたいことです。(1)「秘密法」「戦争法」を成立させた自民党、公明党にこのままお墨付きを与えていいのか。そして次の(2)(3)が一番言いたいことですが、(2)「保育民営化」などをすすめて保育士の職場環境、子どもの保育環境を悪化させ続けてきたのは自公政権です。「保育所落ちた、日本死ね」は結構問題になりましたね。保育士の給料が下がってきた原因はなにか。小泉政権のとき保育士は給料をもらいすぎだということを自民党はさんざん言って、民営化を進めてきました。その結果、保育士の非常勤職員が増えて、どんどん保育士の待遇が悪くなった。そういったことをつくってきたのは自公政権です。私はそのとき保育学校で教えていましたのでよく覚えています。当然民営化すれば民間保育所は非常勤職員を雇うことになる。結局保育士の環境は悪くなる。そうすると保育士さんもバイトなんかをしなくちゃいけないから子どものこともしっかり見られなくなる、当然事故なども増えてしまいます。
(3)労働法分野での「規制緩和」をすすめ、非正規社員の増加、格差の拡大をさせてきた自公政権に主権者意志を示す必要があります。1985年からどんどん労働法が規制緩和されて非正規社員が増えていった。小泉政権のもとでは製造業での規制緩和がされてきた結果、そこでも増えてきた。同一労働同一賃金をこれから入れますと自公政権は言っていますけれども、だったらなぜ去年の労働者派遣法の時に彼らは変えなかったんでしょうか。いっていることとやっていることが全然違うわけです。私達の教育を受ける環境、つい最近ですと親に無理矢理大学に行かされても女子学生はキャバクラに行くといった自民党の議員がいました。私が大学院生の時、国立大学の独法化とか奨学金の廃止をやめてくれという請願に行った記憶があります。それをやったのも小泉政権、自公政権です。教育を受ける環境を悪化させ、子どもの保育を受ける環境を悪化させ、労働法での非正規社員が増え、その結果格差も拡がった。私は去年12月に戦争法の講演に行ったときです。わたしはよく子どもや孫の世代のために、ということを言っていました。ところが、私たち夫婦はどちらも非正規なので子どもを産むことができないんです。けれども戦争法のことを訴えたい、どうしたらいいでしょうか。これを言われてショックだったんですが、もう子どもを産めないような人たちが出てきているわけです。そういうことをつくってきたのは自公政権です。そこを許していいのかというあたりを考える必要があるんだと思います。
(4)憲法改正に必要な3分の2以上の議席を自民党や公明党に認めないため。国民投票についてです。国民投票っていいものではないかと思われるかもしれませんが、自公政権の人たちは負けたらどうなるかということはわかっています。ですから万が一国民投票になる場合は、メディアなんかを通じて緊急事態条項はいいものだということを国民にあおってしまう。そして多くの国民が「そうだ」と思ったときに、かける可能性が高いと思います。ですから国民投票は、権力者にとって都合のいい結果が出る、その可能性が高いということを警戒する必要があります。
この改憲手続き法は本当にいかさまができる構造になっています。これに関して一点だけ取り上げます。「公務員等及び教育者の地位利用による国民投票運動の禁止」(103条)です。この場合の公務員というのは、具体的には自治労、教育者は日教組、これの狙い撃ちです。自民党からみれば自治労や日教組は俺たちに反対するのは目に見えているから、運動させないようにしようという規定がこの改憲手続き法の中にはあるわけです。本来憲法改正であれば反対の意見と賛成の意見を議論しながら、その上で国民の意見を決めさせるということだと思います、しかし、自公政権のもとでつくられた改憲手続き法は、自分たちに都合のいいものは一方的に、都合が悪いものは流さないようにしている。そういったことで参院選の結果次第では、国民投票が行われる可能性があることを認識していただくことが必要です。
最後になりますがいつもこの言葉で終わるようにしています。「〔特攻〕隊員の多くは、戦争をしてはならない。平和な日本であるように、ということを言っていました」。これは特攻基地知覧で「特攻の母」と言われた鳥濱トメさんの発言です。去年2月にゼミ生を知覧に連れて行きました。いつもチャラけている学生もあれを見たら何も言えなくなります。しかも大学3年生です。自分たちよりも年下なわけです。「二十有余ノ今日ニ至ル迄厚キ御愛情ヲ受ケ、何一ツ孝行モ出来ズ御心配バカリカケ申シ訳御ゴザイマセン。厚ク御礼申シ上ゲマス。(北海道出身特攻隊員1945年4月3日出撃戦死23歳)。お父さんお母さん、親不孝でごめんなさいというような遺書を書かされる状況に置かれる。そういった人たちは平和な日本であるようにと言っていた。それを体現したのが日本国憲法だと思います。ところが安倍自公政権のもとでは再び海外で戦える法制度が整えられようとしている。これでいいのかどうかということは、子どもや孫の世代のために私たちが真剣に取り組むことが必要だと思います。
ドイツのメルケル首相は、福島原発事故が起こるまでは原発推進派だったんですね。でも彼女は国民世論によってやめざるをえなくなった。そのときのひとつのスローガンは「原発の利益は一世代50年だ、でもそれで被害を被るのは200世代10万年。これの責任を将来の世代に問えるのか」ということが議論になりました。子どもや孫、ひ孫までずらっと200世代まで、自分たちのために迷惑をかけてしまう。今回の緊急事態条項も、永続的な政権運営ができてしまって、内閣総理大臣が緊急事態と認定すれば法律をつくることができる、予算は執行できる、自治体に対して黙らせてしまうことができる。こういった法制度を可能にする緊急事態条項が、本当に私たちの子どもや孫の世代のためにいいのかどうかということを考えていただければと思います。
読者投稿(大阪)
「辺野古へ土砂搬出許さぬ 全国協 名護で初集会」4月19日の沖縄タイムス1面に掲載された記事だ。前日に名護市で行われた、辺野古土砂搬出反対全国連絡協議会の学習交流会の様子を大きく報じた。
4月18日、名護市屋部支所において辺野古土砂搬出反対全国連絡会の学習交流会が開催された。全国各地から沖縄に集まり、沖縄地元の島ぐるみ会議が受け入れする格好での取り組みとなった。
予定では辺野古に新基地を建設するにあたり、東京ドームで計算すると約17杯分の土砂が必要となる。その大半が、西日本を中心にヤマトから沖縄に持っていく予定となっている。辺野古土砂搬出反対全国連絡協議会は、2015年5月に結成。辺野古基地建設に使われようとしている土砂搬出に反対する運動、埋めたてに使われるケーソン建設に反対する運動など12県18団体のネットワークとなっている。
ヤマトではほとんどといっていいほど報道されない辺野古埋め立ての土砂問題だが、沖縄での受け止め方は明らかに違う。冒頭のとおり、新聞では1面で大きく報道され、集会は平日の昼間、しかも名護市の中心部より離れた場所での開催だったが会場を埋め尽くす200人以上が集い、熱気あふれるものとなった。
「海の生き物を守る会」の向井宏代表、「ピースデポ」の湯浅一郎代表、「平和市民連絡会」の北上田毅さんが講師となり学習会が行われた。
向井さんは、自然の海岸がほとんど残っていない沖縄本島の中で、大浦湾、辺野古海域は昔からの環境が守られている。ジュゴンを守るためにも重要だ。砕石は、公害の源で自然破壊であることを訴えた。湯浅さんは、瀬戸内海の海砂採取されたことによって、イカナゴが減少し、イカナゴを食べるタイなどが減少、スナメリも減少していったと食物連鎖、自然環境に大きな影響が及ぼされたことを報告した。北上田さんは、辺野古基地建設計画を検証したうえで、辺野古埋め立て阻止のためには県の土砂条例に罰則規定を設けることが必要など、具体的闘い方を提言した。
集会には、稲嶺進名護市長も参加した。市長就任時は、前市長が組んだ予算で交付金をカットされたため苦しかったが、2年目からは自分が組んだ予算でやっていけた。しかし、実態として交付金は使い方が縛られ、福祉、教育など市が使いたいところには使えない仕組みになっている。交付金なしでも十分やっていける、市民の目線で市民のための市政を行うかどうかが問題。名護市職員は市民の視点で懸命に働いている、と職員の奮闘をたたえた。私の地元、大阪では、職員を攻撃することで人気を得てきた橋下・大阪維新が幅を利かせているためか、180度違う稲嶺市長の主張が本当に胸に響いた。稲嶺市長は最後に「必ず勝つ方法がある、決してあきらめず闘い続けること」と基地建設阻止をともにたたかう連帯のアピールで発言を締めた。
集会後半は、各地の運動の報告が行われた。辺野古新基地建設計画では、土砂搬入は沖縄県外からは、小豆島、門司、天草、五島、佐多岬、奄美大島、徳之島から行われ、沖縄県内では本部、国頭から予定されている。砕石が予定されている各地で運動が組織され、採石業者への申し入れ行動など報告された。さらに九州、天草や南大隅では、採石後に核廃棄物処理問題が、見え隠れしている動きがあり、安保、基地問題、原発問題と国の政策に絡む二重、三重の利権構造が報告された。三重県津市のJFEエンジニアリング津製作所(旧日本鋼管)で、辺野古新基地埋め立ての基礎となる52m×22m×24mの強大なケーソンが6機作成され、沖縄まで運ばれる計画となっている。
どの故郷の土も、戦争に使う土砂はない、辺野古埋め立てのためケーソンを作るな、と各地での運動が紹介された。
キャンプシュワブ・ゲート前テント村で座り込みを続けている山城さんは、「私たちは辺野古で基地建設を止める。全国各地の辺野古埋め立て反対の闘いと結びついて必ず阻止しよう」とアピール。全国の土砂搬出阻止の闘いを熱望していた、と痛切に訴えた。
辺野古土砂搬出反対全国連絡協議会共同代表の阿部悦子さんは、「これまで沖縄連帯の取り組みがどうも“片思い”の関係だったように思う、これで“両思い”の連帯活動、辺野古基地建設阻止の運動になったような気がする、全国でがんばりましょう。」と力強い挨拶を行った。
徳之島の漁協委員長は、砕石積載のための桟橋建設をこばみ、辺野古埋め立ての土砂運搬反対の姿勢を明らかにしている。土砂搬出を許さない港湾労働者の取り組み、辺野古基地建設を請け負っている大成建設に対する生コン労働者の取り組みなどを紹介した。
全国各地の土砂搬出を許さない闘いが、極めて具体的な辺野古基地建設阻止の取り組み、沖縄連帯行動だということが鮮明になった学習交流会だった。
藤井純子 第九条の会ヒロシマ
5月21日~22日、第19回許すな!憲法改悪・市民運動全国交流集会を行いました。(地元北海道からは札幌、旭川、帯広、釧路など各地から参加があり、遠方にもかかわらず、全国では11都道府県から、150名を超える市民が集まりました)。
午後1時半から4時に公開講演会、交流会を夕方5時からと、次の朝9時から3時間ずつ行い、午後はフィールドワークで北海道博物館を見学しました。
以前から市民運動が活発な札幌で開催したい、という声は出ていましたが、これまで全国交流会を2月に行うことが多く、冬に北海道に行くのは大変難しいということでなかなか実現できませんでした。今年4月に行われる北海道5区の衆院補選の後の5月なら出来るかも?と本当に大変な中で全国交流会を引き受けてくださいました。日本の行方を左右する参院選を前にした重要な補選だと思っていましたので願ってもないことでした。政党やいろいろな組織をつなぐ市民の働きを担った方々のお話を聞くことが出来ました。交流会での大きなテーマはもちろんこれまではなかった市民が選挙にどう関わるかということで、聞きたい、勉強したいと思う重要なことばかりでした。
スピーチ1 平 和子さん(市民)テーマ 自衛隊員の母親としての思い、スピーチ2 清末愛沙さん(室蘭工大准教授)テーマ 緊急事態条項改憲の危険
スピーチ3 高田 健さん(東京・許すな!憲法改悪・市民連絡会)テーマ 2015年安保闘争の特徴と課題、メインスピーチ 中野晃一さん(上智大学教授)テーマ 市民連合と民主主義の展望
交流会(1)では、選挙報告を候補者の池田まきさん、「市民の風」共同代表の川原茂雄さん、許すな!憲法改悪市民連絡会の仲間である山口たかさんから聞きました。山口たかさんは、もともと元札幌市議で、札幌市長選挙や国政にも挑戦しています。池田まきさんは前回、民主党の候補でしたが、何度も話し合い、共産党も納得して候補者をおろし、社民、生活、市民ネット、民進が力を合わせて本当にすばらしい選挙を展開してくださったようです。しかし結果は小差でながら勝てませんでした。その理由は何故かも、きちんと分析していらっしゃいました。
(1)政党の共闘に時間がかかった。(2)市民と政党の選挙の違いが大きく、かみあわないことが多かった。(3)風は吹いた。が、応援団に5区以外の人が多く票に結びついてない。(4)熊本地震で選挙報道が減り、投票に行かない有権者の票を掘り起こせなかった。(5)戦争法についてだけでなく、もっと(候補者の得意分野でもある)生活に密着した政策ももっと訴えるべきだった。
闘いでは負けてない。池田まきの運動の高揚が自民を本気にさせ、楽勝して参院選につなぐという安倍シナリオはくずれた。市民が中心、市民と野党の共闘選挙、民主主義は学校で学ぶものではないということがよくわかった。「やってよかった。わくわく 面白かった 負けて本当に悔しいがまたやりたい」とポジティブな評価、総括、これが最大の成果で、参院選を前に今後、どのように生かすか? だということです。
山口さんたちはかなり疲れたと思います(全国交流集会の開催は負担だっただろうなと申し訳なく思いましたが)。候補者は既に前を向いているように見えました。(夜は北海道のみなさんが準備してくださった交流会で、お酒やごちそうもあって、楽しい交流になりました。)
交流会(2)では清水雅彦さん(日本体育大学教授)の問題提起として「自民党改憲草案にそくして憲法問題を考える」お話を聞き、各地の報告を聞き、討論しました。清水さんのお話は、運動への提言も含めて参加者には新鮮な共感を呼びました。(これについては、また報告する機会があればと思います)