私と憲法180号(2016年4月25日号)


熊本震災に便乗した安倍政権の「ショックドクトリン」

熊本震災への安倍政権の対応を見ていて、「あぁ、これだ!」と、すぐに、日本では3・11の直後に出版されたカナダ人のナオミ・クラインの「ショック・ドクトリン」を思い出した。「ショック・ドクトリン」は惨事便乗型資本主義と訳され、一般に、大惨事につけ込んで実施される度を超した市場原理主義のことだと説かれている。もともとは2007年に北米で出版された本だ。本書の解説には「アメリカ政府とグローバル企業は、戦争、津波やハリケーンなどの自然災害、政変などの危機につけ込んで、あるいはそれを意識的に招いて、人びとがショックと茫然自失から覚める前に、およそ不可能と思われた過激な経済改革を強行する……」とある。当時は3・11の直後であり、真剣に読んだ記憶がある。

4月14日午後9時過ぎに、熊本地方を震源とするマグニチュード6.7、震度7の大地震が発生した。さらに、16日未明にはマグニチュード7.3、震度7の地震が発生し、影響は大分県など九州各県にまで及んで、20日現在で、死者47人、行方不明者6人、負傷者1203人、6338棟の建物損壊が発生するなど大規模な被害を招いている。2011年の東日本大震災に次ぐ今回の大震災で、多くの人びとが被害に遭い、苦難に見舞われている中、安倍晋三政権の対応には「ショック・ドクトリン」もどきで、怒りを禁じ得ないさまざまな問題が見られる。そのいくつかをあげれば、(1)緊急事態条項挿入改憲論の展開、(2)米軍ヘリ・オスプレイの被災地導入、(3)川内原発への対応などだ。これらは、従来から安倍政権が推進しようと企ててきたものだが、特に(1)と(2)についてはこの震災に乗じて火事場泥棒さながら一気に世論を誘導する狙いがあからさまだった。

憲法に緊急事態条項などは不必要

菅義偉官房長官は15日の記者会見で「今回のような大規模災害が発生したような緊急時に、国民の安全を守るために国家や国民がどのような役割を果たすべきかを、憲法にどう位置づけるかは極めて重く大切な課題だ」と述べた。これはきわめて悪質なショック・ドクトリンだ。熊本大地震という災害に便乗して、安倍首相がねらう緊急事態条項(国家緊急権)導入改憲を正当化しようとするものだ。自民党が企てている国家緊急権の導入による改憲では、首相が緊急事態を宣言すれば、法律と同じ効果を持つ政令を出すことや、そのもとで基本的人権の制限ができるというものだ。

しかし、多くの憲法学者などが指摘してきたように、憲法に国家緊急権規定を導入し、国家による指揮・命令を強めることが、震災の救援に逆行するものであることが示された。むしろ地方にこそもっと権限を与え、尊重すべきだというのが、この間の各大震災での教訓だったではないか。今回の震災においても、そのことははっきりした。政府は地震が発生した14日夜に益城町や熊本市の中心部で屋外避難をする人が目立ったことを受け、それらの人びとを屋内に避難させるよう自治体に求める方針を決めた。15日午前、安倍首相は河野防災担当相と会談し、天候悪化に備えて屋外に避難している被災者のため、同日中に屋内の避難場所を確保するよう指示した。これに対して樺島熊本県知事は「避難所が足りなくてみなさんがあそこに出たわけではない。余震が怖くて部屋の中にいられないから出たんだ。(政府は)現場の気持ちが分かっていない」と怒りを露わにした。まさに官邸が現場を知らず、自民党改憲草案のように、官邸に権限を集中すれば対処を誤に違いないことの実例だ。安倍政権による震災の政治利用がはからずも破綻した事実を示したものだ。

オスプレイ導入は必要ない

震災の救援ということで、18日から米軍普天間飛行場所属の輸送機MV22オスプレイ2機が熊本県に救援物資・段ボール200個強程度を輸送した。これは無いよりはましであったかも知れないが、地元ではオスプレイの着地のために自衛隊が貴重な水を散水したことなどへの批判が相次いでいる(映像では着地した場所の近くに自衛隊の車両が何台も映っており、オスプレイによる輸送が果たして必要だったのかという疑問も投げかけられている)。日本政府の国会での説明では「米側から協力の申し出があった」ということだったが、米軍の発表では「16日に日本政府から要請があった」ということだ。陸上自衛隊が輸送機として使用できるヘリは222機あると言われ、17日深夜の時点で自衛隊が熊本に派遣したヘリは118機だったというから、まだ投入に余力があった。にもかかわらず、なぜ日本政府は自らの「要請」を隠してまで、オスプレイ派遣を求めたのか。経過を見れば日本政府に特定の政治的な狙いがあったことは明らかだ。

沖縄の普天間基地へのオスプレイ配備が地元で厳しい批判を受けているなかで、2019年度から陸上自衛隊はオスプレイを九州・佐賀空港に導入・配備する計画だ。これには佐賀県はじめ地元の同意が得られていない。政府はこの震災という機会を利用して、オスプレイの導入の環境作りをはかったのではないか。被災地支援で安全性や有用性を訴え、地元の理解を得ようなどと、大震災の最中に、こういう画策をしている場合ではない。

オスプレイはその安全性・安定性に重大な疑問が指摘されており、過去、幾多の重大事故を引き起こしており、また先頃のネパール地震で災害支援に派遣された際には、現地の住宅の屋根を吹き飛ばし、「役立たず」と酷評されたしろものだ。震災の被災者をダシにしてまで、オスプレイを熊本に投入する必要性はなかった。

川内原発をただちに停止すべきだ

「今の段階で安全上の問題はない」。18日、原子力規制委員会は全国で唯一稼働している九電川内原発1号機、2号機(鹿児島県)についてこう発表した。合わせて、停止中の四電伊方原発(愛媛県)や九電玄海原発(佐賀県)、中電島根原発も保管している核燃料は十分に冷却されているとして、いずれも安全上の問題はないとした。各報道機関も「問題はない」とくりかえすだけだった。

しかし、今回の地震はさらに拡大するおそれがあった。鉄道や道路の輸送路が被害を受け、原発で事故が起きた場合には住民が避難することは極めて困難だ。今回の日奈久断層が引き起こしている地震はその両端付近の別の断層に影響しており、その南方の先には川内原発、北方には四国の伊方原発がある。さらに阿蘇火山帯など周辺各地の火山の噴火への影響も心配される。報道では14日の地震でさえ益城町では最大加速度11580ガルであり、川内原発の基準地震動620ガルを大きく超えている。

福島第1原発の事故の経験を踏まえるなら、異常事態が起きてからでは間に合わないのであり、少なくとも今回の地震活動が収まるまで、震源に近い鹿児島の川内原発をただちに停止させる必要がある。同時に、震災にあっている大分県に近い愛媛県の伊方原発も、7月に予定している再稼働を認めないことが当然の措置だ。なぜ、川内原発の停止措置をとらないのか。ここにも政府の原発政策の論理と資本の論理が貫いてはいないか。
(事務局・高田健)

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2000万人署名は、さらに6月30日まで継続します

「戦争法の廃止を求める2000万人統一署名」は、4月25日に集約した分をいよいよ5月19日に国会に請願として提出することになります。全国のみなさんのご努力で、署名者はすでに1000万人を超えたと見込まれます。けれども、全国各地では「2000万人」の達成をめざして、いまなお署名活動を続けている人びとが多く、また、参院選挙が迫るなか、戦争法の危険性と廃止の重要性を訴える意義が大きいことから、署名は6月30日まで継続することにします。

5月19日の提出以降に集まった署名は、参院選後の臨時国会に提出しますので、重ねてのご奮闘をお願いします。

2016年4月25日
戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会

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2000名を超える原告 620名以上の代理人
会場にあふれる期待と熱気 安保法制違憲訴訟・提訴決起集会

4月26日の違憲訴訟提訴を前にして、安保法制違憲訴訟提訴決起集会が4月20日に参議院議員会館講堂で開かれた。会場は多くの立ち見参加者もでるほどで400人を超す人びとが参加した。

違憲訴訟の意義と現状

はじめの挨拶として共同代表の寺井一弘弁護士が、違憲訴訟の意義と現状をつぎのように話した。
すでに2000名を越す原告市民と620名以上の代理人の弁護士があつまり、4月26日に訴訟を提起する。昨年9月19日、集団的自衛権の行使を容認する安保法制が議決も確認できない異常ななかで「成立」し、3月29日に施行された。さらに安倍首相は、憲法改正をめざし7月の参議院選挙で改正に必要な議席獲得をめざすと明言する。私たちは立憲主義に反する危険な状況を司法の分野から是正するために、昨年9月に「安保法制違憲訴訟の会」を結成した。立憲主義を堅持し、わが国を二度と再び戦争をしない国にしていくという国民市民の願いと期待にこたえ、安保法制の違憲訴訟を東京地方裁判所に提起する。東京地裁以外にも札幌、仙台、埼玉、福島県いわき市、長野、名古屋、大阪、ほかでも提訴の準備が進んでいる。私たちは裁判を通じて社会にインパクトを与えながら世論を形成し、安保法制を廃棄に追い込む。

つづいて同じ共同代表の伊藤真弁護士が、なぜ今違憲訴訟かについてつぎのように話した。
現在この国では前代未聞の事態が進行している。安保法制は日本を戦争する国に変えるものであって、主権者国民の意思でしかできないにもかかわらず、有権者のわずか24%の支持にすぎない政権が行うのは一種のクーデターだ。この前代未聞の事態に対処するには、前例を見ない方法で行うしかない。いま、党派を超えた総がかり行動、2000万人署名、共産党を含む野党共闘での選挙がとりくまれている。法律家も前代未聞の戦い方で「司法を通じて、政権与党による憲法破壊の革命的クーデターを阻止し憲法価値を守り、立憲主義と民主主義を取り戻すため」にその職責を果たさなければならない。違憲訴訟を提起する理由は、(1)弁護士としての職責を果たし、司法の役割を問うため、(2)安保法制廃止に向けての国民運動の一環をになうためだ。訴訟提起に慎重な声もあるが、具体的な危機が迫っているのに、これを放置してよいはずがない。憲法尊重擁護の職責を負う法律家としての使命を果たし、憲法を守るべき司法の役割(司法の憲法保障機能)を問う。最終的には、裁判を通じて、違憲の安保法制を許さないという世論を大きいものとし、選挙を中心とする政治過程を通じて原告と共に違憲の安保法制を廃止させる。これが最大の目的だ。

提訴の内容

提訴は差止請求行政訴訟と国家賠償訴訟の2つで提訴する。

差止請求行政訴訟の訴状の概要については、福田護弁護士が次のように報告した。
被告を国とし、原告は52名で行う。原告には原爆、空襲、シベリア抑留などを経験した戦争被害者、基地周辺住民、航空、船舶、鉄道、医療など公共機関の労働者、学者、宗教者、カメラマンを含むジャーナリスト、母親、障がい者、在日外国人、自衛隊関係者、原発製造関係者など、さまざまな角度から権利侵害を訴える。訴訟形式は、行政訴訟としての差止めを訴える。請求内容は以下の3項目である。1、内閣総理大臣は、自衛隊に存立危機事態における防衛出動をさせてはならない。2、防衛大臣は、重要影響事態・国際共同対処事態における広報支援活動・協力支援活動として、自衛隊の物品又は役務の提供を実施させてはならない。3、各原告に対し、金10万円を支払え。

さらに請求の理由としては、1、新安保法制の違憲性として、憲法9条による集団的自衛権行使禁止と海外での武力行使禁止の違反と、憲法改正手続きに違反し、立憲主義の否定。2、集団的自衛権行使等による原告らの権利侵害として、(1)平和的生存権、(2)人格権、(3)憲法改正・決定権などの侵害。3、抗告訴訟としての差止めの訴え、4、精神的損害に対する国家賠償責任の4点をあげた。

国家賠償訴訟の概要は、田村洋三弁護士が次のように報告した。田村弁護士は、原告が平和を望む国民・市民など約500人で、国を被告とする。訴訟形式は、国家賠償請求とし、国は各原告に対し、(慰謝料)金10万円を支払うことを請求する。

請求の理由である侵害された権利として、(1)平和的生存権、(2)人格権、(3)憲法改正・決定権などをあげた。そして、訴状の概要は差止請求行政訴訟と重なるからと説明を省略した。そして、代理人のなかの雰囲気について話した。いま、代理人の中には元裁判官が32人いる。この方々は、裁判官であった当事に法律家として憲法を尊重し擁護してきたことが、安保法制の成立によってかき消されるようだとして、この違憲訴訟に加わっている。元検事も数人おり、同様の思いではないか。また、請求の理由に、公権力の行使に当たる公務員としての国務大臣・国会議員の故意・過失を上げた。法案採決に当たって、多くの人びとが国会の議決不存在を言っている。法案の閣議決定、そして国会提出や議決の有様などは違法行為として問われて当然だ、と強く指摘した。

原告からの発言

違憲訴訟の法的意義についての報告のあと、原告からそれぞれの思いが語られた。その印象的な部分を次に紹介する。

差止請求行政訴訟の原告は3名が発言した。

志田陽子さん(憲法学者)は切実な権利侵害を語った。志田さんは、まず2015年の安保法成立で精神的、身体的、職業上の大きな損害を被った。18歳以上の有権者が自己の判断をする上で、教員の考えは一つの素材としてある。しかし安保法により教員が考え方を縛られると、学生に多様な考え方を提供できない。多様な議論の存在を教えるのが教員の職責なのに、政治的偏向といわれそうで職業上たいへんつらい状況にある。また、学校などで憲法についての講演会のために会場が借りられないようになった。これは法的安定性を損なうことだ、などと語った。

崔善愛(チェ ソンエ)さん(在日ピアニスト)は、町内会長を2年前に引き受けたが、他の地域の会長から「あなたの地域はアカが多いから大変でしょう」といわれいやな思いをした。戦後、朝鮮戦争、ベトナム戦争、イラク戦争など数々の戦争を思い出して欲しい。そのような戦争はみなアメリカの戦争だ。それに加わるのか。自民党の党是は改憲で、押し付けられた憲法というが、ではアメリカに押し付けられている沖縄の基地にまず手をつけてはどうか。カザロフは「戦争が始まったら音楽は止む」と言った、などと語った。

石川徳信さん(宗教家)は1939年に足立区の花畑で長い歴史を持つ寺に生まれた。1941年4月、寺で地域の若者の武運長久を願って送り出す集まりがあった。その後何回も行われたが多くが帰ってこなかった。寺からはたくさん金属も供出した。戦後、住職をしてきた。安保法制については仏教会が法案反対を決議した。地域の方々と話し合い、名前を募って6000枚のビラをまいたところ、たくさんの反応があった。こうしたことを続けていきたい。

国家賠償訴訟については4名の原告が発言した。

原かほるさん(身体に障がいを持つ方)は、両親も自分も障がい者として暮らしてきた。生きることがどんなに尊いかを深く感じて1日、1日を暮らしている。自立して生きようとしているが、将来に暗雲が立ち込めている。戦時中、障がい者はどう扱われていたのか。障がい者は学童疎開の対象からはずされていて、生まれてはいけない存在だった。いまは、社会福祉予算が切り捨てられ、防衛費は拡大している。自分も両親も、生きる権利が奪われている。

菱山南帆子さん(若者国会前コーラー)は、昨年からの国会前行動で、もし逮捕されて被告になることがあるかもしれないと思っていた。原告になったことで政権の側を被告席に置くことができることがわかった。私たちは主権者だからということを実感している。5・3憲法集会や2000万人署名、そして参議院選挙をたたかい勝利していこう。

つづいて、辻仁美さん(ママの会)は、子どもを戦争に行かせるために育てたのではない、ときっぱり語った。

新倉裕史さん(基地周辺住民)は、昨年安保法制に対する抵抗ノートを作ったが、そのなかで法律を無力化することと書いた。基地のまちはどんな雰囲気なのか。9.11テロのとき米軍基地に入るときは厳重な身体検査が1人ひとり行われ、ゲート周辺の道路は大渋滞が続いた。米軍基地内からは銃口が市民に向けられた。アメリカの原子力空母が年間300日いる基地の町は、日米同盟強化で新たなテロが心配だ。

原告の声を聞いた後、野党各党からの発言があった。民進党からは近藤昭一衆議院議員、共産党からは山下芳生副委員長、社民党からは吉田忠智党首が連帯の挨拶をした。最後に、違憲訴訟を支える会の説明と“ガンバロウ”のエールを鎌田慧さん(ルポライター)が行った。安保法制違憲訴訟提訴宣言が確認された。
(土井とみえ)

○原告随時受付中○
安保法制違憲訴訟の会
〒150-0031 東京都渋谷区桜ヶ丘17-6
渋谷協栄ビル2階 http://anpoiken.jp/
電話03-3780-1260 FAX03-3780-1287

募集!! 違憲訴訟を支える会
郵便振替口座:00140-5-514288
口座名:安保法制違憲訴訟を支える会

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《総がかり行動実行委員会アピール》

戦争法廃止・安倍政権退陣・参院選勝利をめざして、ともに全力を尽くしましょう
2000万人統一署名を推し進めましょう、
5・3憲法集会、 6・5国会包囲大行動に呼応して、全国津々浦々で行動を起こしましょう

全国各地の市民のみなさん

多数の世論の反対をよそに、3月29日、安倍政権によって憲法違反の戦争法が施行されました。総がかり行動実行委員会はこの歴史的暴挙に心からの憤りを表明すると共に、戦争法を絶対に発動させない、断じて、この国を海外で戦争する国にさせない決意を改めて表明し、心ある全国のすべてのみなさんに、いまこそ総がかりで行動に立ち上がるよう呼びかけます。

昨年、戦争法案に反対する全国の市民の運動は大きく高揚し、野党各党の共同の動きと結合して、安倍政権の企てを追いつめましたが、戦争法案の採決強行を阻止するには至りませんでした。しかし、9月19日の戦争法案採決以降も全国で運動は継続され、2000万人統一署名運動をはじめ、各所で市民の行動は発展し、さらにこれが「市民連合」をはじめとする各地での参院選挙での共同候補擁立の運動と結びついて展開されています。

米国に追従し、立憲主義を乱暴に破壊して、海外で戦争をする企てを強め、沖縄辺野古での基地建設を強行し、原発再稼働をすすめ、民衆の生活と権利を破壊する安倍政権の政治には、社会の隅々から怒りの声がわき起こっています。

総がかり行動実行委員会は、今こそ、これを大きく結合し、安倍政権を追いつめ、打倒するために、お互いが大胆に連携して、可能な限りの行動を展開することを呼びかけます。

戦争法廃止の2000万人統一署名を推し進め、当面する5月3日の憲法記念日の行動を、首都圏では有明防災公園に結集し、また全国各地では共同のデモンストレーションとして、同時多発の一大行動を繰り広げることを呼びかけます。そして、この力をさらに今国会終了時の6月5日午後、永田町・霞ヶ関一帯で、「戦争法廃止!安倍政権退陣!参議院選挙勝利!6・5国会包囲大行動」として、市民の総結集を行いたいと思います。是非とも全国の皆さまが国会包囲行動に駆けつけてくださいますよう訴えると同時に、昨年の「8・30国会包囲12万人行動、全国1000箇所以上の行動」を上回る行動をもって呼応してくださるよう呼びかけます。この力をもって、戦争法廃止・安倍政権退陣・参院選勝利を実現しましょう。

4月下旬の2つの衆院補欠選挙を勝利させ、つづく参院選で安倍晋三政権が企てる改憲のための3分の2議席の確保を阻止し、安倍政権を退陣させましょう。

2016年4月7日
戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会

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第103回市民憲法講座 「経済的徴兵制」とは何か~貧困と格差と戦争法

お話:布施 祐仁さん(ジャーナリスト・「経済的徴兵制」著者)

(編集部註)3月19日の講座で布施祐仁さんが講演した内容を編集部の責任で要約したものです、要約の責任はすべて本誌編集部にあります。

なぜ「経済的徴兵制」を取材しようと思ったか

経済的徴兵制ということで昨年11月に本を出したこともあって、その中味についてお話をさせていただきます。安保関連法が施行されて一番影響を受けるのが自衛官の方たちだと思いますが、経済的徴兵制という点から見ていくと、自衛官だけでなく私達が住む社会のいろいろなところに影響が現れてくると思います。

私がなぜ経済的徴兵制について取材をしようと思ったのかというと、きっかけは2003年にアメリカが始めたイラク戦争の取材です。2003年、2004年にアフガニスタンやイラクに行って現地の状況も見てきました。2004年ですが、取材の中で実際にイラク戦争を戦った元米兵の方に話を聞く機会がありました。アメリカがイラクに侵攻した作戦に、最初に参加した海兵隊員の方です。もちろんイラクで何をやったのかという話も聞きましたが、話の中で、なぜ海兵隊に入隊したかということを聞きました。彼が言ったのは、別に戦争がしたくて入ったのではなく、大学に行きたかったということを言いました。彼は母子家庭で、経済的にも決して余裕がある家庭ではなかった。高校を卒業して将来はエンジニアになりたかったようです。そのためには大学に行く必要がある。でも家にはお金がなかった。どうしようかというときに軍のリクルーターに会って、入隊すれば軍の奨学金を得ることができる。君も大学に入ってエンジニアの夢を実現できるという話を聞いて、それで入ったという話をしていました。彼が特殊ではなくて、そういう人は多いということでした。

彼はイラク戦争に行く前に、新入隊員を勧誘する海兵隊のリクルーターをやっていた時期もあり、その経験からも、貧しい若者たちを軍に勧誘するのは簡単だといっていました。なぜか聞くと、それは選択肢がないからだ。彼自身がそうだったように、大学に行こうとしてもアメリカは非常に学費が高い。日本も高いけれどアメリカの場合、日本でいう国公立、州立大学でも年間の授業料が200万円です。まして私立になると500万円とかが平気であります。とても普通の人では払えない額です。もちろん学資ローンを借りることもできますが、その場合、いま日本でも問題になっていますが、大学卒業後に500万円とかの借金を背負うことになります。安定した仕事に就ければいいですけれど、アメリカでも非正規雇用が広がっていて、リスクが高い軍に入れば比較的リスクの低い奨学金を得ることができる。それで軍に入っている人が多いということです。

それから病院です。アメリカはいまオバマケアというのがありますけれども、日本のように公的な医療保険制度が全国民に保障されていない状況で、民間の保険会社の保険料が非常に高くて入れない。病気になっても病院すら行けず、薬代や医療費の心配をしなくちゃいけない。そういう中で軍に入ると、軍に入っている期間だけでなく退役してからも軍病院にかかることができる。自分だけではなくて家族も含めて軍の医療サービスを受けることができます。社会的に選択肢を奪われた貧しい人たちを軍に勧誘するのは簡単だということを、自分自身の体験からも話をされていました。アメリカという社会はそういう仕組みになっている。国内では格差があって、医療を受ける権利や教育を受ける権利が保障されず、選択が奪われた状態で軍に誘導する。そういう兵士がイラクやアフガニスタンに派遣されているという状況を知りました。

実際に彼もそうして軍に入りました。イラクで戦争に参加し戦闘で負傷することはなかったのですが、彼はバクダッド市内などの検問所で検問を敷いていて、「止まれ」という合図をするわけです。でも言葉も通じないし、合図の手の動きもアメリカとは意味が違うわけです。その中で、止まらなかった車に対して蜂の巣のように機関銃で撃ってしまった。中を見たら子どもがたくさん死んでいたとか、そういうことを何度も体験して、帰国してから自分がやったことに対して罪の意識にさいなまれ、夜も眠れず精神的に非常に厳しい状況になった。そういう兵士がたくさんいる。中には、軍を辞めて奨学金で大学に入って自分の夢を実現しようとした兵士も、PTSDなどで大学に通えない状況になってホームレスになって、より貧困になってしまう。そういう人がたくさんいるという話を聞いて非常に不公正な、不条理さを感じました。

年越し派遣村の衝撃――「銃弾なき戦争」

これはアメリカの話ですけれど、それを聞いたときに将来こういう状況に日本もなるのではないかとふと思ったんですね。というのは2004年、2005年の小泉政権時代に、国内では格差や貧困を広げるような政策がとられていました。一番象徴的なのは労働法制の改正で、派遣法が改正されて非正規雇用が急激に増えます。一方で小泉政権は「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」とか「ショウ・ザ・フラッグ」とか、アメリカに要求されてアフガニスタン戦争を支援するためにインド洋に海上自衛隊を送り、一方ではイラク戦争でアメリカを支援するために陸上自衛隊を初めて戦地といわれるイラクに送った。つまりアメリカの戦争に、より参加していき、自衛隊を送る方向を進めました。このふたつの流れが合わさっていきます。アメリカの背中を追いかけるようにして日本が進んでいけば、将来的に日本もアメリカのような経済的徴兵制になるのではないかと思ったのが2004~6年あたりです。それもふと思ったくらいで、特にそれについて取材するということはありませんでした。

わたし自身がこれを本当に取材しようと思ったのは、2008年の年末に日比谷公園であった年越し派遣村です。2008年にアメリカでリーマン・ショックがあって世界的な不況になりました。日本にも当然影響が出て、例えば自動車産業などで派遣工として働いていた人たちが契約期間があったにもかかわらず、途中で仕事がないからいついつまでで仕事はお終いだという派遣止め、雇い止めになる。そういう方たちは寮に入っていて、それも11月いっぱいで追い出されてしまう状況でした。年末年始は役場も閉じてしまうので駆け込むところがない。だから市民や労働組合とかいろいろなグループがそういう人たちを対象に、泊まるところ、食べるところ、冬で寒いので暖をとり、あわせていろいろな相談に乗るということをやりました。

私はその現場に行きまして正直びっくりしました。本当に炊き出しを前にずらっと並んでいるんですね。そこに並んでいる人に話を聞きました。当時私は30代初めです。年配の人が多かったですけれども、私よりも若い人もいるんですよ。聞いたら所持金は数百円しかなくて、埼玉県から歩いてきて上野公園で寝ようとしたけれども寝られなくて、交番に相談に行ったら日比谷に行けば派遣村というのをやっていてご飯もあるしいろいろ相談に乗ってもらえるよと、おまわりさんにいわれて歩いてきたとか。

僕がそのときに思ったイメージは、イラクやアフガニスタンで見た難民キャンプです。それまでの僕のイメージは、世界では戦争をやっているけれども日本は平和だということでした。でもその光景を見て、銃弾こそ飛び交っていないものの一種の戦争というか、本当に人間の命が脅かされている、生存権が脅かされている状況がこの日本社会にもここまであることを、絵としてもはっきりと認識ました。こういう中で、ちょっと前に懸念した、経済的徴兵制が日本でも起こりうるのではないかと思ったのが、取材を本格的に始める最初のきっかけでした。取材を始めてみると、将来的に起こるのではなく、すでにアメリカのような構図が日本でも起きていることが徐々に見えてきました。

「経済的徴兵制」とは何か――アメリカの状況

経済的徴兵制について本を書くと、ネトウヨじゃないけれども結構叩かれます。自衛官をバカにしているのか、自衛隊には貧しくて仕方なく入っているのか、自衛隊を侮辱しているのかとかいう話もあります。そもそもの定義、経済的徴兵制とは何かということを確認した上で議論しないと議論がかみ合わないのであらためて確認したいと思います。

第1に、貧困状態や選択肢が欠如した状態におかれている若者たちが、社会の中に存在している。そういう若者たちを対象に給料や福利厚生などの経済的な理由によって軍隊に誘導していく。まさにアメリカがそうなっていて、大学進学や医療を受けるために、または貧困から抜け出すためには軍隊に入るしか選択肢がない状況が存在しています。徴兵制のように国が赤紙を送って一方的、強制的に兵士にするのではないけれど、社会的、経済的で実質的に選択肢を奪われた状況があり、強制性が存在しているという意味で経済的徴兵制という言葉を使っています。そうはいっても自分で選んでいるんだから徴兵制というのはおかしいという話があります。しかし、自分で選んでいるから自己責任だろうと話を終わらせてしまったら、アメリカの中でひとつの社会階層、貧困層が戦争に動員されて、そういう人たちの命を消費しながら戦争が遂行されているという構図が浮かび上がってきません。そういう意味でアメリカでは経済的徴兵制という言葉を使っていると認識しています。

アメリカの状況ですが、さきほど紹介した海兵隊の人はイラク戦争が始まる前に軍に入りました。当時から第2次大戦後につくられた奨学金の仕組みで「GI BILL(ジーアイ ビル)」という制度があります。そういった制度は元々あったけれど、イラク戦争、アフガニスタン戦争でどんどん戦死者が増えていく中で、アメリカでも志願者が減って目標を達成できなくなる。そのときアメリカは、まず合格基準を下げました。昔ちょっとやんちゃで、軽犯罪の前科があるとか、そういう人も受験できるとか、年齢も幅を広げ、基準をゆるめて集めようとしました。それでもなかなか集まらなかった。そういう状況の中で、今度は待遇を充実させる。まずやったのは入隊時のボーナスを倍額くらいにしました。とくに陸軍です。陸軍が一番集まらなかった。つまり陸上で戦闘をするので戦死する可能性が一番高いからです。

それから奨学金制度を充実させて、あらたに「ポスト9.11GI BILL」というものをつくりました。9.11以降に軍務についた兵士を対象にして、それまでの奨学金制度より非常に恵まれています。ひとつは学費が40%から100%支給されます。これは本人ではなく学校に直接軍から支払われるので、学校にとっては不払いがありません。そういう制度で集めれば学校経営にプラスになると、学生をたくさん集めます。元イラクやアフガニスタンで従軍して帰還後に大学に入る学生は、精神的にPTSDにかかっている人は多いし、特別なケアがないと勉学の継続が難しいのですが、とにかくそういう兵士を集めれば金になるということで安易に集めました。

その結果、リスクを負って戦場に行って、帰ってきて、ようやく勉強しようと大学に入ったけれども、多くの学生が卒業できずに中退しています。ある調査では退役軍人の学生のうち88%が1年目に退学し、卒業するのはわずか3%という研究レポートもあります。日本ではちょっと信じがたい数字ですが、アメリカはもともと一般の学生でも学費が高いとかいろいろな理由で中退する人は多いですが、軍の場合はその率が非常に高いわけです。この奨学金制度の一見良いと感じるところはもうひとつ、例えばアパート代、家賃とか教科書とか、大学に通うのに必要なものは、本人の口座に直接振り込まれます。それまでの奨学金は基本的には学費だったので、それ以外の部分までサポートする奨学金制度をより充実させて兵士を確保しようとしたわけです。まさに経済的徴兵制という状況がありました。

日本における「経済的徴兵制度」の実態

わたしは、日本でも経済的徴兵制が、という問題意識を持って取材を始めました。自衛官や元自衛官に取材をしましたが、結構な率で経済的理由で自衛隊に入隊した人がいました。ある人は中学校を卒業して、家庭環境とかいろいろあって早く社会に出たいと仕事を始めます。仕事といっても中卒だとなかなか正規の仕事に就けない。アルバイトのような仕事しかなく、家から出ることには成功するけれども、仕事をしているうちに不安定で将来が不安だ。中卒ということで職場でバカにされ仕事も任せられないことに対して、何とかしたいと仕事をしながら5年6年かけて勉強し、大学検定試験に合格します。大学に進学しようと思ったけれども入学金などのお金がない。奨学金を借りて大学に行こうとします。でも怖かったというんですね。奨学金を借りた場合、500万、600万という借金を背負って、かつ大学卒業後に正社員になれるかどうかもわからない。彼の場合は、もう何年も非正規雇用の不安定さを身に染みて感じていたので、余計に何百万も借金を背負うリスクは怖い。自分で資金を準備して大学に行こうと思ったらしいんですね。かといって、非正規雇用を続けていって大学に行く資金が貯まるかというと、なかなかそうはいかない。そういうときに自衛隊のホームページをみたら、自衛隊で仕事をしながら夜間大学などに通えるし、公務員として生活を安定させながら勉強もできる。それを自衛隊は応援するとアピールしていた。これだと思って自衛隊に入隊した。結果的には、入る前の約束通りではないトラブルなどもありましたがちゃんと卒業して、いまは自衛隊も辞めています。

別の人は、リーマンショックのあと2009年3月に高校を卒業して自衛隊に入隊した女性です。なぜ自衛隊に入隊したのかと聞いたら、その女性も家が母子家庭でこれ以上親に負担をかけられない。いまどき大学に進学したところで幸せになれる時代でもない。親に負担までかけて大学に進学しても安定した仕事に就けるかわからない。それよりも自衛隊に行けば、親に仕送りもできるかもしれない。自衛隊は初任給が高卒で16万円くらいで衣食住が保障され、それにあまり使わないんですね。無駄遣いしなければかなり貯金もできるし、親の生活を支えられる。公務員で安定もしているので、親孝行をするために自衛隊を選んだと話していました。

それから、派遣止めで仕事がなくて家にいたところ、親戚のおじさんが自衛隊と知り合いで、いきなり家に自衛隊のリクルーターが来て勧誘された。おじさんからも家でぶらぶらしているなら、2年か3年自衛隊に行けばお金も貯まるし、資格も取れてその後の自立につながると勧められて自衛隊に入ったとか、そういう人が結構な率で出てきました。それを聞きながら、日本にもそういうことがすでに起こっていることが、だんだん見えてくる状況でした。

リーマンショックの影響は日本でも如実に

そうはいっても私が話を聞ける人はそれほどたくさんいるわけではなく、たまたまではないかと言われたらそれまでなので、それなりの裏付けを調べてみました。自衛隊も、内部でなぜ自衛隊に入ったのかという調査をしています。理由だけでなく、自衛官の家庭環境、一人親家庭の出身者がどれくらいいるのかとかも調べています。自衛隊内部の調査なので多少バイアスがかかっていることを踏まえてみても、リーマンショックの影響をもろに受けた2009年の調査では、「なぜ自衛隊に入ったのか」という動機で一番多いのが、自分の能力や適性を生かせる、2番目が他に適当な就職がない、3番目が自分の興味や好みに合っている、4番目、心身の鍛練ができる、5番目、技術の習得、資格を取ることです、6番目が給料や退職手当が良い、7番目に国の防衛です。自衛隊はもともと国の防衛のためにあるけれども、それが7番目。次が災害派遣、先輩知人の紹介、それから海外で何かやりたい、進学の機会があるといった順位です。愛国心に燃えて国を守るために働きたいという思いよりは、身体を動かすことが自分に向いているとか、他に就職がない、技術の習得ができる、国家公務員で安定しているという動機の方が実際は多いんですね。

最近はひとつの傾向があります。自衛隊の募集は大きく分けてふたつパターンがあって、民間でいうと正規雇用と非正規雇用のようなものです。任期制隊員といって陸上自衛隊の場合は2年、航空と海上は3年ですが、1任期2年とか3年限定で仕事をするという募集です。任期が終わって続けたい人はさらに続ければいい。もうひとつは生涯、職業軍人というか定年まで自衛隊で働くという募集項目です。これまでは任期制といわれる2年3年限定の制度は、ほぼ高卒の人で、大学卒業で自衛隊に入る人は幹部候補生が多かった。リーマンショックのあとの2009年、2010年くらいから、それまでは10%台だった大卒者が一気に20%に増えています。なぜ増えているか。聞いてみると奨学金の問題で、どこに就職が決まるかどうかに関わらず、奨学金を借りていれば何百万円という借金を背負います。そうなったときに非正規雇用の派遣とかで返すよりも、自衛隊に入れば一括返済ができる。2年3年働けば退職金は出ますし、その間貯金すればまとめて返せると、入る人が増えていると聞きます。

経済的メリットを売りにする自衛隊募集

こういう動機で入るのは自衛隊の勧誘の仕方も影響しています。自衛隊側も「国を守るために君の力が必要だ」みたいな勧誘はしません。ポスターはあまり軍隊っぽくないですよね。「平和を仕事にしましょう」とかさわやかな若者が映っていて、いかに軍事的な部分を漂白してソフトイメージで売り出すかということです。自衛隊の内部文書にも、いまの日本の若者に対して愛国心などを期待して集めようとしても、それは無理だ。やっぱり民間企業と同じように条件をアピールして集めるしかないということは当然わかっているわけです。これからは少し変わってくると思うけれども、そういう戦略でやっていますね。

実際にどうやっているか紹介します。これは沖縄県の地方協力本部といって自衛官募集をやっている部署のホームページにアップされているもので、勧誘に使うパワーポイントです。自衛官候補生というのは任期制隊員の募集項目です。自衛官候補生の魅力についてアピールしています。魅力の第一は処遇、給与、精神的ケア、「近年多くの企業で新入社員の3分の1が3年以内に離職。その理由の多くが給与への不満や職場でのメンタル面の不安といわれています。自衛隊ではひとりひとりにきめ細かい指導を行っています」。新規高卒就業者の離職率が低いことをいっています。

また「自衛官は給料とは別に宿舎費や食費など生活費等が無料です」。自衛官とサラリーマンの給与の比較を次のページで示しています。サラリーマンのひとり暮らしで月収15万円――沖縄はとくに正規の職も少ないですから。その分どう使うか。家賃が6万円、食費に2万円、水道光熱費で1万円かかる。税金などで2.5万円引かれて自分で使えるのは3.5万円くらいしかない。その中で生活必需品や携帯電話、プロバイダー料、お小遣いなどで使うと予備がなくなってしまう。病気になったら?薬代どうするの?下に書いてあります。「サラリーマンの初任給では、一人暮らしすると生活費だけで給料の大半が消え、貯金はおろか、病気になったときの治療代等いざという時の予備費もありません。」と言った上で、「自衛官は、給与とは別に、宿舎費や食費など生活費が無料です」。

また「部内の病院や医務室において原則無料で治療が受けられます」。ということで自衛官候補生の給与をみると、予備費が6万~10万円は自分で使える。まさにわたしが話を聞いた人のように、仕送りができて貯金もできてお小遣いもできる、かつ病気になっても心配いらないということを露骨にいうわけです。要するに民間に行くと真っ暗だと。病気になっても病院にも行けないけれども自衛隊に入れば安心とアピールしている。これは、裏を返せば民間企業での若者の労働環境があまりにも劣悪になっているがゆえに、自衛隊が相対的に魅力的に見えるということは事実としてあります。

離職状況でいうと、民間では正規に就いてもブラック企業であったりして3年以内に多くの若者が離職しています。離職してより安定的な正規に就けるかといったらそうではなくて、一度離職してしまうとまた非正規の仕事にしか就けなかったりして、転がり落ちるようになってしまう状況で、高卒だと4割が3年以内に離職しています。よくここまで調べているなと思いますが、入社2年目と3年目に比べて1年目の離職が多い。自衛隊では1年目は教育隊というのがあって、そこでしっかり上官が集団行動などできめ細かくサポートするからやめない。民間より低い離職率で、やめないメリットもアピールしています。

通信教育や各種資格取得など厚いサポート体制

それから大学等で学位も取得でき、大学の夜間に通えて、通信教育も受けられるとか。また大学を卒業すれば、そのあと任期制の隊員から幹部候補生に進む可能性もあり、また任期制だからそこでやめて民間に移ることもできて選択肢が広がります。やめるときに、これは魅力の3つめにアピールしていますが、「…しかし他にやりたいことが見つかっても企業を退職したらゼロからのやり直しになりますが自衛隊はしっかりとしたサポート体制で支援します」。

実際、サポート体制がいろいろあるんですね。任期制隊員のライフプラン教育、陸士ドリーム通信教育といっていろいろな通信教育。それから部内技能訓練といった資格です。フォークリフト、2級ボイラー、移動式クレーン、危険物取扱者、衛生管理者、溶接、こういったものは施設科などで自衛隊の勤務にも使う技術です。部外技能訓練ではパソコン基礎、建設機械、小型移動式クレーン、介護職員初任者研修などがあります。最近は女性自衛官も集めないといけないというので、医療事務とかブライダルプランナー、ネイリスト、フラワーデザイナーとか、自衛隊と全然関係ないけれど、そういうことも自衛隊として資格を取れるようにサポートしています。こんな企業ないですよ。関係ない資格まで取らせるなんて。そういうふうに自衛隊をより魅力的にしようとしています。通信教育ではもっとたくさんの資格が取れます。公的部門受験対策講座とか任期制パソコン集合講座、ビジネスマナーとも教えてくれます。民間みたいに使い捨てにしない。次の就職先のことや、社会人として自立できるようにするということですね。

今後は戦場で使い捨てになる可能性がありますが、そうではない部分でこうやってアピールしています。自衛隊としてもそういうところはわかっていて、こういうかたちでやっているので、当然志願の動機として結果があらわれていくということです。

では現在自衛官になっている人はどういう地域が多いのか。高校を卒業して任期制隊員になる人の率ですが、その上位15位まで計算してみました。青森、北海道、宮崎、熊本、鹿児島、長崎、大分、佐賀、岩手、秋田、山形、沖縄、高知、鳥取、福岡という順です。東北、九州が圧倒的に多い。1970年くらいのデータもほとんど同じ傾向です。そのころの防衛庁の内部文書では、その評価として自衛隊の入隊率と貧富は密接な関連があるとはっきり言っています。以前それを見たので、今はどうなのか気になって調べてみましたが傾向は変わっていません。昔は農業、漁業、林業といった第1次産業中心の、地方の県です。その県と貧困率との関連を調べると、多くの県が重なります。ひとり当たりの県民所得が低い県でかなり重なっています。高校新卒任期制隊員は、この15県で全国の52%を占めています。一方、高校新卒者の入隊率は全国で27%ですから、その過半数がそこから入っているという意味で関連があります。

「戦争のできる国」と自衛官募集

安保法制が施行されたら、自衛隊のリスクは間違いなく上がります。リスクが上がるというのは、いまはまだ可能性ですよね。政府・安倍さんははむしろ下がると言っているわけですから、まだわからない。でもこれが実際に海外の戦地で自衛隊に戦死者が出る事態になったら、もうごまかせません。そうなったら志願者は大きく減ると思います。でも減ったからしょうがないと言えないわけで、集めなくちゃいけない。どうやって集めるかといったら、アメリカがアフガニスタン戦争、イラク戦争の直後に志願者が減ったときと同じように、民間と比べて相対的に、より改善しなくてはいけないという意味で経済的徴兵制が強化されると考えています。

自衛官のリスクですが、集団的自衛権という点では、当初はホルムズ海峡しかないと言っていましたが、イランとの関係でホルムズ海峡もありません。安倍はいろいろ言いましたけれども、実際に使われる事態は政府もちゃんと説明できていません。一番可能性が高いのは、南スーダンのPKO、あるいはイラク戦争の時にサマーワに送ったように米軍の後方支援で送ることです。この安保法制で何が変わるかというと、これまでは一応非戦闘地域でしか活動できなかった。これからは戦闘現場でなければ活動できる。目の前で銃弾が飛び交ってなければどこでも活動できると変わってしまう。では銃弾が飛び交い始めたらどうするか。「活動をやめて逃げますよ」と言っているわけです。そんなことが現実の戦場でできるわけがありません。

現にドイツがどうだったか。ドイツは戦後日本の憲法9条のようなものは導入しませんでした。けれども軍隊はしっかり認めて、よりシビリアンコントロールをしっかりかけていく、かつ歯止めをかけていく。要は侵略軍にはしない、NATOの域外には出さないとしていたわけです。しかしその解釈を変更します。そして初めてアフガニスタン戦争で、実際に戦地と呼ばれるようなところに派遣しました。建前は後方支援ですが、実際は次から次へと戦闘に巻き込まれて、55人の死者を出している。そのうち35人が戦闘で亡くなっています。朝日新聞にアフガニスタン駐留のドイツ軍幹部のコメントが出ていました。「最初は後方での治安維持や復興支援だったはずが、毎日のように戦闘に巻き込まれた。当初の想定と実態が次第にかけ離れていった」と言っています。日本の国会でいま議論されていることは、「当初の想定」自体が現実離れていますから、かけ離れていくのは避けられないと思います。

南スーダンについては、「世界」の4月号に自衛隊の内部文書をもとにその危険性について書きました。現地の実態と日本国内で語られていることはあまりにも違いすぎます。日本政府は南スーダンでは紛争は起こっていないといまだに言い続けています。国連安保理ですら紛争状態で、文民保護のために国際社会が軍事的に介入しなければいけないと言っている。戦争がそもそも起こっていないと日本政府は言っていますので、お話にならない状況です。そういうところにすでに自衛官は送られていて、より戦闘に巻き込まれやすい任務を付与しようとしているわけですからリスクは高まっていきます。

リスク格段に高まり自衛官の志願者減

元防衛庁時代に自衛官を募集する部署の総責任者、人事教育局長だった竹岡勝美さんが、退職後に、「集団的自衛権の行使を認めれば、米兵を守るために相手国の兵士と殺し合わなければならなくなる。外地で戦う米兵を守るために殺されたとなれば、その自衛隊員の家族は黙っているだろうか。自衛隊員の離隊が続出し、志願者が激減するだろう」と言っています。

この人は自分の感想をただ言っているだけではありません。PKOの時やイラク派遣の時は募集に影響が出ています。イラク派遣でサマーワに送ったときに陸上自衛隊の志願者だけが減ったんです。そして空と海は増えた。実際に私が取材したときも、本人は自衛隊に入りたいと言っても親が危ないからやめなさいとか考え直しなさいと言って止めたというケースはありました。影響はすでに出始めています。自衛隊の一般候補生、定年まで勤めるという想定で入る人ですが、2015年のデータはすでに出ています。任期制はまだデータは出ていません。なぜかというと、この年度末ぎりぎりになってもいまだに募集しているんです。集まっているときは、9月とか秋で終わって目標を達成します。目標を達成していないとひたすら集め続けなければいけない。一般候補生は9月に年1回の試験があるので、すでにデータが確定しています。2015年は25,090人、過去最少で、一昨年に比べて2割減っています。一昨年も集団的自衛権行使の閣議決定がありましたので、2013年に比べて1割減りました。ですから閣議決定以降でも3割減っているんですよ。

朝日新聞にも「自衛官募集苦戦 企業の求人増と安保法制の影響か」という記事が出ています。防衛省は、「民間の雇用情勢が改善しているため」と説明しています。これは事実だと思いますし、防衛省の自衛官募集では常識です。民間の景気と自衛官の募集は反比例の法則があって、民間がいいとき自衛隊は厳しい。民間の仕事がなくなると自衛官の募集は簡単になるというのは常識なんですね。確かに民間の雇用状況で、求人倍率が1倍を超えるような場合は影響があると思います。ただ防衛省内部の会議で、例えばある県が作成した文書では、志願者が大きく減った要因を分析しています。1番目は企業の雇用状況の改善、求人数の増加、内定率の向上、2番目として集団的自衛権に関する「報道」ですね。集団的自衛権が影響したというより集団的自衛権をネガティブに報道した新聞が悪いというか、そこまではいっていませんけれども、自衛隊は危ないということが広がったことが影響していると防衛省の中ではちゃんと言っています。

各地でこの志願者減は取り上げられていて、朝日新聞では大分県の隊友会(自衛隊の関連団体で自衛隊を退職した人たちが入っている)では、昨年以降自衛官を志望する高校生の母親から、危険な目に遭うのではなどの相談を30件以上受けたとあります。また京都新聞では福知山(陸上自衛隊の駐屯地があるところ)ですが、自衛官募集相談員を20年以上務めた男性は、一部市民が反発してとくに子を持つ母親の反対が激しい。安保法が求人の足かせとの話も相談員の間で話題になっている、というコメントが出ています。わたし自身も聞いていて、これから自衛官になる方も、すでに自衛官になっている方も、ともに親の不安は非常に強いです。去年北海道の弁護士の方たちが自衛官の電話相談をやったらかなり電話があり、親から不安だという声があった。とくに北海道は南スーダンに4月から派遣される計画で、当初はその部隊から安保関連法を適用するという話だったので、より不安が強かったと思います。まだ可能性の段階でも、すでに影響が出ているということです。

「少子化」だけでも自衛官確保が困難に

自衛隊は、この安保関連法が出てくる10年以上前から、将来的に自衛官募集はピンチだとずっと言っています。この危機感はかなり強く、理由は少子化です。募集対象の若者がどんどん減っている。分母が減っている。表もつくっています。募集適齢人口は18歳から26歳ですが、一番のターゲットは18歳、高校を卒業して就職希望の男子が平成6年には100万人くらいでしたが、平成27年には60万人―4割減っている。それが2020年にはさらに20万人減って40万人くらいになってしまうという政府機関の試算もあるくらいです。自衛隊の東部方面総監人事部のレポートには「このまま対象となる若者の数が大幅かつ継続的に減少していくと近い将来には人材を必要数確保することができない、即ち、募集目標を達成することができなくなる時期が訪れるのではないかという危惧がある」。安保関連法なんかなくても、自衛隊はこれから人が集まらなくなると10年以上前から言っているわけです。それに加えてこの安保関連法で実際に自衛官の犠牲者が出るようなことになれば、自衛官募集は相当厳しくなる可能性はかなり高いと思います。募集困難時代が遅かれ早かれやってくるので、自衛隊としてはそれを座して待つわけにはいかないわけです。

10年前からいろいろな対策を考えています。基本的な考え方は組織的募集基盤の強化です。集まらなくなった、じゃあ集めるために広報官、リクルーターの人数を倍にして駆けずりまわって集めようなんてできないんです。自衛隊って防衛予算が今年初めて5兆円を超えて軍拡だと思うれども、中身を見ると非常にアンバランスです。つまりアメリカから高い戦闘機と兵器ばっかり買って、肝心の人にはお金をかけていない。昔の戦争と一緒で、人はいくらでも手に入るという感じなんです。自衛隊の年齢構成について、アメリカの陸軍と陸上自衛隊を比べて見るからに違うのは、アメリカは下に行くほど人数が多い。下の青いのが兵隊で、末端の階級で戦争になったら実際に戦う兵士。次の黄色が下士官で、兵士をとりまとめて戦う。上の赤いのが将校で、作戦を指揮し戦略を立てる。当然兵士がいないと戦争はできず、若くて活きのいい兵士が多い。

日本はどうなっているか。ずんどう型です。充足率があって定員があります。専守防衛でしたので、日本が外国から侵略されたときに守るために必要な兵士の数を計算して定員を決めています。幹部と下士官は9割以上の充足率ですが、末端の兵士の充足率は7割ちょっとしかありません。実際に攻められたときは緊急募集で集めるという考え方です。攻められたらみんな自分の国を守ろうと、日本の若者も愛国心に燃えて志願してくるという物語を作っているんです。集まらないから7割になっているのではなく、そもそも予算を7割しかつけていません。おかしいですよね。これだけ守るために必要だと言っておきながら、予算は7割程度しかつけていない。幹部などは専門的な知識が必要ですけれど、兵士は使い捨て要員というか、戦争すれば死にますので将棋で言えば駒のような扱いです。いざ有事になったら緊急募集で集めればいいという考え方です。自衛隊の人に言わせれば、自衛隊はたたかえない軍隊だからだということです。

訓練も、最初から兵士が7割しかいない前提です。昔で言うと中佐という階級のある幹部が言っていました。指揮官なので有事を想定して訓練をするけれども、自分が使える兵士は常に7割しかいない。戦争になったら当然兵士が死んでいきます。ある部隊の3割の兵士が死んでしまったら、その部隊は戦えないというのが軍事の常識では言われているらしいです。自衛隊は最初から3割死んでいるというわけです。そういうもとで訓練しているから、本当にリアリティーがないと言っていましたが、そうせざるを得ないわけです。本当に人を軽視しているので、自衛官が集まらなかったからといってリクルーターを増やすとか、そういうことは見込めないと思っています。

自衛官の組織的募集を推進――学校

じゃあどうするかというと、組織的募集といって自衛隊の外の組織の協力を得ましょうということです。どういう組織か。一番身近なところは隊友会とか父兄会とか協力会という自衛隊の関連団体です。それから募集相談員といって、自衛隊と地方自治体が共通で委託している、地域の顔役みたいな人に自衛官募集相談員のボランティアになってもらってその地域で紹介してもらう。学校とハローワーク、町内会、同好会ですね。狙っているのが3つあって、ひとつは地方自治体。これは主に情報提供です。すでにやっているのは適齢者名簿といって18歳の高校3年生の名前と住所を住民基本台帳から入手して、ダイレクトメールを毎年7月1日に送っています。一昨年は閣議決定が7月1日だったので、早速赤紙かよ、とかなり話題になっていました。高校生の就職活動が解禁されるときです。それから学校の中で説明会をする。これはかなり力を入れています。具体的には学校に自衛官が行って、生徒にパワーポイントを使って民間よりも自衛隊の方がいいですよという話をするわけです。

体験入隊といって、最近はキャリア教育とか職場体験学習というのが流行っていて、そういうところを自衛隊は受け入れています。これはかなり増えています。また、防衛講話といって、防災教育を理由に自衛隊を授業に呼んで東日本大震災の災害派遣の話をしてもらうとか、そういうことをして学校との関係を強めています。自衛隊の中では学校開拓と呼んでいますが、チェックリストのようなものをつくって、広報官がどれだけ学校に食い込めたかと、レベル1からレベル3までで評価するシステムになっています。例えばレベル1は学校に行ったら事務の人が挨拶してくれたとか、レベル3になると校長が自衛隊の行事に参加してくれるとか、部活の顧問が生徒に自衛隊に入らないかとすすめてくれるようになったとかをランクごとにチェックして、どれだけ学校に食い込めたかを評価しています。

余談ですが自衛隊の広報官は、自衛隊のいろいろな仕事の中でもかなり厳しい仕事です。ある意味企業の営業職のように個人評価でノルマがあります。自衛隊って基本的には個人の評価はあまりなく、すべて組織で行動するので、部隊としての評価ですね。階級がすべての社会ですが、この広報官については階級より実績重視、どれだけ結果を出したか。事細かく評価の対象になります。どれだけ学校に食い込めたか、自治体から名簿をゲットできたか、どれだけ志願者を獲得できたか、それが全部点数で評価されて、その積算で勤務評価されます。ですから非常に厳しい。メンタルヘルスといって精神的に崩してしまう人も多いです。ノルマがあって、ノルマを達成できなければ休みもなく、極端にいえば正月もなく、最後は街頭に出て集めなければいけないのでプレッシャーもすごいです。

ハイスクールリクルーターや格闘訓練の体験学習

学校との関係を構築するために2000年代に入って始めた制度が、ハイスクールリクルーターです。その学校を卒業して自衛隊に入った、まだ若い19歳とか20歳、21歳の自衛官をハイスクールリクルーターに指定して、母校を何度も訪問させます。実際に学校の先生に聞きましたけれども、昔は地方協力本部の本部長とか幹部のおじさんが来て、協力して下さいみたいな感じだったけれども、最近自分の教え子が来てお願いされるとやっぱりなかなか断れない。生徒にとっても、よくわからない自衛隊のおじさんが来るよりも「あの野球部の何々先輩が来た」ということで、その先輩からすすめられると身近に感じられるというんですね。そういうことを狙ってハイスクールリクルーター制度をつくって学校に行っています。

この写真は中学生の職場体験学習です。学校の授業の一環として自衛隊に行って毒ガスマスクを付けて体験という名のもとにやっています。私が聞いた中で、そこまでやるのかと思ったのは格闘訓練を体験でさせています。自衛隊の格闘訓練ってスポーツじゃないですからね。自衛隊の格闘技の目的は、最終的には殺すことです。白兵戦といって、最後に武器も使えなくなったらナイフと素手でいかに相手を殺傷するかということです。当然訓練ですから中学生に本物のナイフは持たせないけれど、ゴムの訓練用の短いナイフを持たせて、首に当てて「こうやるんだ」と手取り足取り教えている。こういう写真がホームページにアップされていたので、私が講演で話し始めたらすぐ消されました。実態としてそういうことをやっている。

先日聞いたことでは、基本的に職場体験学習なのであくまで教育なんですね。将来の自分に仕事のイメージを持たせてその上で勉強する方が効果的だという、教育の一環としてやっています。例えば地域の工場に行ったり自衛隊に行ったりいろいろなところで仕事の話を聞きますが、そこで勧誘してはいけないんです。勧誘したら求人の場になってしまうので。でもこの間、最後に感想を交流するなかで陸上自衛隊高等工科学校という横須賀にある将来の技術下士官を育成する意味で、自衛隊の訓練をしながら通信の高校の勉強をするところに入らないかと勧誘された、と聞きました。その体験学習が終わってその生徒が学校で先生に報告をした。そうしたら先生からも「そういう話をされただろう、申し込みの期限がいついつだから受けてみないか」と誘われたというのでびっくりしました。先生と自衛隊がタイアップして勧誘に使っている面があります。

ハローワーク、地方自治体、奨学金返済

ハローワークは自衛隊の募集はやっていません。自衛隊は公務員なのでハローワークの窓口で自衛隊をすすめたりしませんが、自衛隊としては可能性が高いと考えてハローワークにいかに協力してもらうかを考えています。ハローワークの建物の中で自衛隊のブースを作ってもらって、そこで勧誘をさせてもらうことも考えています。昔は自衛隊が勝手にやったりしてハローワークとの間で衝突もありましたが、徐々に自衛隊がハローワークの中でもやれるようになってきています。

自衛隊内部の会議資料でみると、現状では地方自治体の適齢者情報の提供は、3割は情報提供してくれ、6割は住民基本台帳を閲覧して取得している。学校説明会の開催状況は、全国で5,000校くらい高校がありますがそのうち2014年だと約40%の学校で説明会が実施できている。でも現状はまだまだ低調で、今後拡大していこうといっています。滋賀県の中学校で自衛官募集を印刷したトイレットペーパーを学校に配った。それをそのまま使った学校も問題ですが、問題になって撤去されました。

奨学金の返済について、文科省の検討会でその滞納をどう減らすかという議論がありました。委員のひとりが大学を卒業したけれども、仕事がないから返せない人が多い。であれば仕事がなくて奨学金を返せない人を2年か3年自衛隊にインターンシップとして受け入れれば、自衛隊で給料をもらえるから返せるし、そこで資格とか技術を身につければ安定した仕事について引き続き返せる。防衛省も受け入れてもいいといっているという発言がありました。東京新聞などがこれは経済的徴兵制じゃないかと大きく報道しました。実はこれは10年くらい前から防衛庁がだしています。当時は「レンタル移籍制度」といっていました。サッカーでレンタル移籍という言葉が流行ったのでそれにアイデアを得てやろうということになった。

発想としてどこから出てきているかというと、民間企業では新入社員研修で自衛隊に行くところが増えています。軍隊式に規律正しくとか、命令されたらピッと動くとか、そういうことを教え込むにはいいと自衛隊を利用している。自衛隊は民間企業から「教育機関としての高い評価を受けている」と思っているわけです。そもそも奨学金滞納者にという話ではないですが、その応用編で奨学金滞納者にと広がったんですね。元北部方面総監という幹部だった方の去年9月2日の朝日新聞に出たコメントでは、少子化に対応するためと進学希望でお金がない若者を支援するために、自衛隊に入れば大学に入れる資金を得られるような制度も考えられるという、まさにアメリカの「GI BILL」のような奨学金制度を検討したらどうかという話も出ています。自衛隊のモデルはアメリカですから、兵士の募集でもこうなるのはあり得ます。

応募拡大ねらい個人情報収集や安全保障教育を推進

学校を重視している大きな理由のひとつとして個人情報があります。適齢者情報というのは、関心あろうがなかろうが18歳の高校生全員に送ります。高いお金はかけるけれども効率はあまり良くないと自衛隊も思っています。もっと絞り込む必要がある。関心がある人、公務員を志望している人、愛国心とかそういう意識を持っている人、あるいは家庭環境とか、自衛隊に入りやすい属性を持った人たちの情報を自衛隊としては欲しい。それは学校が一番持っています。だから学校と関係を構築して進路指導の先生などから情報を得る。この前、進路指導の先生を接待、というニュースがありました。進路指導の先生を駐屯地に呼んで、普段は乗れないようなヘリに乗せたり体験飛行とか基地の中で食事をしたりします。それから、毎年武道館でやっている自衛隊音楽祭のチケットって人気があってなかなか手に入らないんです。それを九州のある県では、学校の先生をその音楽祭に招待するツアーを組んで、交通費も自衛隊がもって、夜は飲ませ食わせということもやっています。この間も関西方面の県の学校の先生を北海道の部隊に研修というか、ただで行ける北海道旅行ですよね。そういうことまでやっています。

関係を構築して個人情報を得る点で一番警戒しているのは、マイナンバーです。アメリカはまさにそうです。マイナンバーで国民の個人情報を一元化できるようになった。名前や住所だけでなく、税の情報、経済的な状況、家庭環境、親の仕事とかを含めて全部ひとつのナンバーで管理されます。政府は、いまは使い方を限定するといっています。防災関係の文脈で自衛隊が絡んできます。実際に大震災以降、自衛隊OBが地方自治体、市町村への再就職がどんどん増えています。危機管理監とか災害対策のプロフェッショナルとして自治体が雇います。危機管理部署が自衛官募集も担当しているところが多いので、当然リンクしてくる。防災という文脈でマイナンバーを自衛官募集に使われてくると、自衛隊にとってはターゲットを絞れます。

アメリカはまさにそれをやっています。9.11以降、どうやって兵士を集めたかというと堤未果さんの新書に詳しいですが、まず学校に食い込んだんですね。「落ちこぼれゼロ法案」をつくった。ある高校が荒れて中退者が多い。改善策として導入されたのが、かつての日本であった軍事教練のようなものです。退役将校を先生に呼んで、規律とか行進とか敬礼とか、軍事的な訓練をします。そうすると生徒が規律正しくなって中退者も減ってくる。それを学校に売り込んでいきます。JROTCという、教育という建前のもとに軍事教練が各学校に持ち込まれて、結果的にそこで勉強した生徒が軍隊に志願する流れがつくられました。関連して、学校は軍のリクルーターに生徒の個人情報を提供しなければいけないという条項が、その法律の中に入っています。提供しない場合は、連邦政府からの補助金が減らされたりする。そういうかたちで生徒の個人情報が軍に渡って、勧誘しやすい生徒にターゲットを絞ってやっています。

ここまでやっているのかと思って怖かったのは、軍が各学校に生徒の適職検査を調べるプログラムを無料で提供しているようです。それを通じて生徒の情報-この人は軍隊に興味を持っている-を得て勧誘しています。それから、地域ごとに経済状況の分析をして、郵便番号を使って貧困地域に集中して勧誘活動を展開しています。日本も将来的に自衛官が集まらなければ、そういう情報を使うことは十分考えられると思います。

さらにもうひとつ、学校で行われている教育そのものを変えようと自衛隊は考えています。いままでは軍隊的な要素をなるべくいわないで、ソフトイメージでやってきたわけです。実際に戦地で戦死者が出てしまったときに、ソフトイメージなんてできないですよね。そうなると根っこのところの意識を変えなくてはいけない。自衛官募集関係の会議で出てきた資料があります。「安全保障に関する国民としての基礎知識を付与し、国防及び自衛隊への理解を促進する」ということをして、「自衛官を職業として認識できる環境を付与する」。そのひとつとして安全保障教育を学校で推進しよう。中味は黒塗りですが、例えば自衛隊に対する知識の付与だけでなく、愛国心や規律心を教育に反映するとか、規範意識や危機管理体制の確立、まさにアメリカのJROTCと一緒です。実際に自衛隊は、地方自治体への再就職だけでなく教育機関への再就職も進めています。自衛隊OBを教育機関に再就職させて、危機管理とか防災のプロとして学校の運営に携わる。うまくはいってはいないけれども、いま教育委員会などを通じて売り込んでいます。アメリカと同じようなことを遅れてやっている状況です。

「経済的徴兵制」は何が問題か

経済的徴兵制という構図はこれまでもありましたが、それが社会的にはネガティブには受け止められてきませんでした。実際に北海道の高校の先生ですが、地域に仕事がないといいます。高校生で地元に残って仕事をしようと思ったら、アルバイトとかパートなどの非正規雇用しかない。ある程度正規職員で安定した仕事というと、自衛隊の存在を無視して進路指導はできない。自衛隊に問題意識を持っている先生ですらそうおっしゃるんです。広報官はいいことしかいわないから、自分ができるのは自衛隊のリスクも含めて生徒にわかってもらった上で、本人がやるというのであればそれはいい。そこをちゃんと教えるんだという話をされていました。だから経済的徴兵制的な構図が、雇用対策とか貧困対策のいわばチャンスとしてわりと前向きに受け止められてきたと感じています。ただしそれは、大前提として自衛隊は専守防衛が自衛隊の役割だった。冷戦時代も含めて、日本が外国から攻められることは政府自体でも可能性は極めて低い、万万万が一に備えている存在でした。先生も、自衛隊に入った教え子が戦争で戦死するなんていうことは想定していなかったと思います。

今後はそこの前提が崩れたわけです。まさにアメリカのように自衛隊に入隊して、若い人たちが、日本が攻められてもいないのにアメリカの戦争にくっついていって、あるいはPKOで海外の紛争地に送られて、そこで命を落とす可能性が具体的にリアルに出てくる。そのリスクを、日本国内での選択肢を奪われた層だけが負わされることは、やはり不公正ではないかと思います。ベトナム戦争まではアメリカは徴兵制でした。志願制に切り替えるときに、アメリカで反対する議員もいました。例えば、エドワード・ケネディ上院議員は志願制に反対しました。「志願制というのは金持ちの戦争を貧乏人が戦うことになる」という理由です。まさにイラク戦争、アフガニスタン戦争はそうなってしまいました。

これは昔の人がいっているだけじゃなくて、アフガニスタン駐留米軍の司令官を務めたスタンリー・マクリスタル元陸軍大将が、2010年に退役したあとに講演で、これからまたアメリカが長期の戦争をやる場合は徴兵制を復活させるべきだという提言をしています。その理由としてこう言っています。「志願制によるプロフェッショナルな軍隊は全国民を代表しておらず、アメリカが再び長期の戦争をする場合は徴兵制を復活させるべきだ。国家が戦争をするときはすべての町と都市の人々がリスクを負うべきだ。そうすれば全国民が開戦の決定に参加するだろう」。

これは、ひとつは戦争をするかどうかを決めている国会議員の子弟は、裕福な層だからほとんど行っていません。かつ、米軍の司令官だからこそ思ったことだと思います。米兵が何で苦しんでいるか。米兵は戦場で死ぬこともありますが、生きて帰ってもPTSDとかいろいろな心の傷を負いながら、国内のコミュニティと調和できません。その原因のひとつとして、周囲の無理解があります。アメリカという国は戦争しているにもかかわらず、本当に一部の人たちが兵士になるリスクを負い、圧倒的多数の国内の人は平和な生活を送っています。そのギャップ、温度差、無理解が、逆に兵士をさらに苦しめています。一部の人たちだけがリスクを負わされるという不公正さに対して、この司令官は問題提起をしています。

アメリカのため、海外での国益追求のため、貧しい若者の命が消耗される

専守防衛という前提がなくなって、自衛隊が海外進出とセットになる。その海外進出の中味が何かということです。「経済的利益のための戦争」と書きましたが、僕らの知らないところで自衛隊の目的がいつの間にか変えられてしまったんですよね。それは安保法制によってではなく、2000年代になってイラクやアフガニスタン、インド洋に行くようになって変えられてきました。最初に変えたのは小泉さんです。日米首脳会談でブッシュ大統領と会談して、世界の中での日米同盟と言った。日米安保条約には極東条項がありますし、日米が共同で軍事行動をするのは日本が攻められたときだけです。それにプラスして日本がアメリカに基地を提供する。なぜ提供するかというと「極東の平和と安全」です。極東という地域の限定がかかっているわけです。安保条約はそのままなのに小泉・ブッシュ会談で日米同盟は世界で活躍すると変えられてしまった。

イラク派遣後に中央即応集団という、いつでも海外派遣に対応できる部隊がつくられた。そこの2代目司令官の柴田幹男さんが隊内の訓辞で、中央即応集団は海外における国家目的や国益、戦略的な利益を追求するためのツールもしくは手段として使われると言っています。専守防衛でも何でもないんです。いつの間にか自衛隊の存在意義が勝手に変えられている。そういう発言が当たり前のようにされる。ちょっと前ならこういう発言はすぐ国会で問題になって、クビになってもおかしくない話です。いまはシビリアンコントロールをする側の政治家が、そういう発言をしている。石破さんが、国益のためにこれから自衛隊をどんどん使うべきだとか、外務省のエリートも軍事の後ろ盾がない外交なんて外交じゃない、なんていうことを当たり前のように言っています。

それは確かに全否定できない部分もあって、日本は食糧自給率にしてもエネルギーにしても、世界の安全なくしては日本の安全もないと言います。日本の企業が世界中に出て行って安全に活動することは大事だし、それを保障するのも国のひとつの役割だとも思います。だからといって、一部の自衛官が海外の戦地で死んでいいのか。その人たちの犠牲はやむを得ないものなのか、というのは全然違うと思います。この「経済的利益」が、日本企業の利益のために自衛隊だけが単独で出ていって戦争をするのかというと、そうではないわけです。常にアメリカにくっついていく。アメリカはなぜ戦争をするのか。建前は自衛のためと言います。でも実態は、そもそも戦争ありきなわけです。なぜ戦争ありきかというと、ブッシュ政権時代に中央銀行の総裁だったグリーンスパンさんも回顧録で書いていますが、やっぱり石油のためだった。単にイラクの石油をアメリカのメジャーが手に入れるという話だけではなくて、中東はじめ石油を巡る秩序をサダム・フセインが脅かそうとしていた。そういう不安要因を排除することを含めて経済的利益のために戦争をして、多くの人の命、一番はイラクの人ですけれども、米兵の命も含めて犠牲とされたわけです。

当たり前にしてはいけない国家・国益優先の思想

経済的徴兵制を議論すると、将来自衛官を確保できなくなるから意図的に国内で経済的格差を広げて、経済的徴兵制をつくろうとしているという話もよくされます。僕は正直そこまで考えていないと思います。最初から自衛官が7割しかいないとか、要するに人のことをあまり考えていない。安保法制が通ったときにある自衛官は、「これから戦死者が出るとよく報道されているけれども、戦死者が出る前に過労死者が続出する」と言いました。冷戦が終わって以降、自衛隊員に関する予算は減らされる一方なのに、任務ばかりがどんどん増えています。だから現場はもう一杯一杯なんですよね。普通は、任務を増やすなら人も増やす。企業でも仕事ばっかりどんどん広げて社員を減らしていったら、超ブラック企業です。まさに自衛隊はそれをやっている。これ以上任務を増やしたら本当にやっていけない。ただし根底に流れる思想は、国内ではGDPさえ上がればいい、企業の利益さえ上がればいい。そのためなら日本を、企業が地球でいちばん働きやすい国にする。若者を労働力として使い捨てにしてもいい。この考え方と、海外で国益追求のためなら自衛隊が行って死んでもかまわないというのは、根底に流れる思想は同じです。個人の命や国民の命よりも、国家とか国益を優先させていく。そのためには命が犠牲になってもいい、という点では非常につながっています。

安倍さんがやろうとしていることは、国民の上に国家を置いていく。自民党の改憲草案を見てもまさにそうですよ。国策の手段として国民を使っていく。そういう国にしてはいけないと思います。国民も自衛官も国策の道具ではありません。こう言うと、軍隊だから国策の道具なんて当たり前じゃないか、という人は最近増えていますが、それは違います。自衛隊は軍隊じゃないですから。自衛隊は、あくまでも国が攻められたときに守るためにつくられているわけで、国策の道具として海外の利権追及のために何かやるなんていうのは本来の自衛隊のあり方ではありません。生命線とか言う人がいますからね。志方さんという元北部方面総監で帝京大学教授です。いまや日本の国益は海外に展開していて、それは日本にとって生命線だ。その生命線を守るために自衛隊を海外に出さなければいけないということを、平然と言っています。まさに昔の「満蒙は日本の生命線だ」ということと同じです。これを当たり前にしてはいけないと思います。日本はそれが当たり前じゃない国だったわけです。

不公正な経済、社会のあり方を根本から変えよう

ではどうするのか。少なくとも国益追求の手段として自衛隊を海外に出すようなことはしないことです。それは安保関連法を廃止することです。もうひとつは経済的徴兵制の土台となるような格差貧困問題を解決する。たとえば大学の学費は無料で、みんな医療も受けられて、ブラック企業とかがなくて正規で安定して働ければ、よっぽど自衛隊で働きたいという人は別ですけれども、入隊者は減ります。そうすれば、なかなか戦争もできない。リスクも増やせない状況にもなるので、自衛隊を海外に出すことを抑止する方向になります。安倍政権は残念ながら格差貧困を広げる政策を進めています。非正規雇用も増やしていますし、生活保護受給世帯も増え、貯金ゼロ世帯も増えています。一方で、資産1億円以上の世帯は増えている。経済格差はますます拡大しています。

ただし、格差を広げる経済政策はある意味行き詰まり、限界に来ています。アメリカの大統領選挙で民主党のサンダース候補が健闘している。彼の演説を聴くと、アメリカは新たに創造される富が富裕層の1%に集中するような経済になっているとか、この国の最大の金持ち20人がこの国の底辺の人々の合計よりも多くの富を持っている。公正ではない。一極に富が集中している経済はおかしい。それを変えようと言っています。別に社会主義にしようといっているわけではなく、まっとうな資本主義にしましようといっているだけだと思います。アメリカだけでなく、かなりリベラルなコービンさんがイギリスの労働党党首になった。コービンさんは、CNDというアメリカの平和団体の役員もしている活動家でもあります。その人が2大政党の党首になったのも、若い世代が支持をしたんですね。

その世代は、バブル崩壊後、失われた10年、20年で、いいことを知りません。ひたすら労働法制が規制緩和されて非正規労働がどんどん広がった。国としては豊かです。イギリスは世界第5位の経済大国で、国のマクロ経済ではそれなりの経済力があっても、国内で貧困が広がった。ホームレスが増えたり食べていけない人が増えたりする状況があります。そういう社会の不公正さに対して、このままではいけないと若い人が声を上げて、その支持を得てイギリスでもコービンさんが労働党の党首になったという話を聞きました。世界的に不公正な経済のあり方、社会のあり方を根本から変えていこうという流れが少しずつトレンドになっていると思います。

そうしたことを日本でも起こしていかなければいけないし、起こしていきたいなと思っています。今年は参議院選挙、衆参両方選挙があるという話もありますけれども、去年、安保法制を巡って戦後史に残るような運動が国会前を含めて、デモが起き、法案が通ったあとも2000万署名というかたちで全国各地で取り組まれています。安保法制廃止にプラスして経済問題、暮らしの問題でも格差を是正していく、もう少しまっとうで公正な社会にしていく動きがあります。このふたつが大きく盛り上がって争点になれば、政治が変わっていくチャンスは大いにあると思います。一緒に頑張っていきましょう。

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第19回 許すな!憲法改悪・市民運動全国交流集会in札幌

参加・賛同の呼びかけと実施要項

2015年、安倍政権は憲法と立憲主義、民主主義を蹂躙して、戦争法制を強行「採決」しました。同法は法的には3月末に施行されます。同法の発動は7月の参院選のあとに迫っています。

1945年の敗戦以来、この国は海外で戦争で人を殺したり、殺されたりすることのない国として、70年を過ごしました。いま、私たちは安倍政権の暴走で、「戦後」が71年で終わるかも知れない瀬戸際に立たされました。憲法第9条をないがしろにするこうした企てを絶対に許すわけにはいきません。

今なら間に合います。戦争法の発動を阻止し、戦争法を廃止にするたたかいは焦眉の課題です。来る参院選はそのための天王山となるでしょう。すでに昨年末からとりわけ32の1人区を中心に野党共同をめざす「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」が立ち上がり、北海道では「戦争させない北海道をつくる市民の会」が4月の北海道5区の衆院補選の野党統一候補擁立で奮闘しています(その後、野党共同の合意など、これらの課題のとり組みは大きく進展しました)。

私たちは重大な決意をもって、志を同じくする全ての人々の文字通りの「総がかり」の闘いで安倍内閣の危険な企てに対決し、改憲暴走、「戦争する国」の道を阻止していかなくてはなりません。

憲法の市民運動の全国的な連携を強化するために、1995年から始まった「市民運動全国交流集会」はこの間、憲法改悪反対の市民運動の形成のために一定の重要な役割を果たしてきました。とりわけ2015年の名古屋集会は、全国各地で市民運動が協力して戦争法に反対する2015年安保闘争を準備するうえで、大変重要な役割を果たしたと思います。その成果を引き継ぎ、今回は北海道・札幌に於いて5月に第19回集会を開催します。この第19回集会は、この国の前途を左右する歴史的な課題に、各地の市民運動が力を合わせてとり組み、大きく貢献していくものとしたいと思います。

ここに実施要項を発表し、この全国交流集会の成功のために、ぜひとも多くの皆さんが参加されるようご案内し、併せて開催資金カンパへのご協力を呼びかけます。

【カンパのお願い】開催費用と遠方からの参加者への旅費補助など
賛同していただける方に、開催費用のカンパにご協力をお願い致します。運営経費の補填と、遠方からの参加者の人びとに若干でも補助が出せるようにしたいと思います。

カンパ送金先:郵便振替口座
(口座番号)00110-7-571976(加入者名)市民ネット

【公開講演会】
日時 2016年5月21日(土)午後1時30分~4時
会場 北海道クリスチャンセンター(札幌市北区北7条西6丁目/札幌駅北口そば)
開場 13:00
開会 13:30

司会 山口たかさん(北海道実行委員会)
主催者の挨拶 藤井純子さん(実行委員会・広島)
スピーチ1 清末愛沙さん(室蘭工大准教授)(予定)
スピーチ2 高田 健さん(実行委員会・東京)
スピーチ3 中野晃一さん(上智大学教授)
意見交換
閉会 16:00
資料代 500円
共催 第19回許すな!憲法改悪・市民運動全国交流集会実行委員会  
同 北海道実行委員会
連絡先:東京都千代田区三崎町2-21-6-301 市民ネット気付
電話03-3221-4668 FAX03-3221-2558 E-mail:kenpou@annie.ne.jp
【全国交流集会(1)】(セミクローズド・要事前申し込み)
日 時 5月21日(土)17時~20時00分
【全国交流集会(2)】(セミクローズド・要事前申し込み)
日 時 5月22日(日)9時~12時
★スタディーツアー (要申し込み)13:00~16:00ころ  詳細未定
【申し込み締め切り】第2次5月10日(FAXかメールでお願いします)
★ 交流集会の参加「申し込み用紙」は事務局までご請求下さい。

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