私と憲法160号(2014年8月25日号)


徴兵制はあり得ない話なのか

(1) 徴兵制はありえないと断言する安倍政権と自民党

「意外な論題」と思う人も少なくないかも知れないが、「徴兵制」がありうるか、否かの議論がじわーっと広がっている。筆者は従来からこの意見には「オオカミが来る」式の煽りがついて回るのがイヤで、徴兵制はありえないだろうと考えてきたものの一人だが、今回の安倍内閣の閣議決定を経て、必ずしもそのように言い切ることもできないと考えるようになった。そこで、今回は、少し、「徴兵制」を論じておきたいと思う。

6月30日、7月1日、集団的自衛権の閣議決定をまえに、首相官邸前に駆けつけた中学生や高校生などの若者たちの多くは、多かれ少なかれ「徴兵制」の導入を恐れて行動していた。これは果たして杞憂に過ぎないのか。ほとんどブラックジョークに類するが、7月1日には各地の高校生に自衛隊の勧誘のDMが送られてきた。

元防衛官僚で現在、新潟県の加茂市長の小池清彦氏は6月25日の朝日新聞で「集団的自衛権の行使にひとたび道を開いたら、拡大を防ぐ手立てを失うことを自覚すべきです。日本に海外派兵を求める米国の声は次第にエスカレートし、近い将来、日本人が血を流す時代が来ます。自衛隊の志願者は激減しますから、徴兵制を敷かざるを得ないでしょう」と述べたが、今日、こうした危惧を表明する人びとは少なくない。8月12日の朝日新聞が紹介したところでは、政治家では、海外での戦争の戦死者などが自衛隊の志願者の減少につながることから、民主党の枝野幸男・元官房長官(5月)、元自民党幹事長の加藤紘一(5月)、同じく野中広務(同)、自民党の村上誠一郎・元行革相(7月)などが、徴兵制の可能性について警鐘をならした。これらとは別の少子化問題の視点から「自衛隊員の担い手がいなくなろうとしている」と指摘したのは野田聖子・自民党総務会長だ。

こうした徴兵制の危険の指摘に対して、自民党が本年7月につくった「安全保障法制整備に関するQ&A」は「全くの誤解です。例えば憲法18条に『何人もその意に反する苦役に服させられない』と定められており、徴兵制が憲法上認められない根拠になっていまわが党が平成24年に発表した新憲法草案でも、この点は継承されています。また、軍隊は高度な専門性が求められており、多くの国は現在の自衛隊と同じように『志願制』に移行しつつあります。憲法上も安全保障政策上も、徴兵制が採用されるようなことは全くありません」などといっている。

8月2日の産経新聞も「あり得ない徴兵制」「兵器高度化 短期間で習熟不可能」との見出しを付けて反論した。従来からの憲法解釈では、徴兵制は奴隷的拘束や苦役からの自由を保障した18条違反だというものだ。国会で横畠内閣法制局長官も「解釈変更の余地はない」と答弁した。産経は「プロ集団じゃないと(現代戦に必要な)兵器を使えない」「兵器や通信機器が高度化され、短期間で習熟するのは不可能だ」と強調した。

安倍首相も「(集団的自衛権の行使は)徴兵制につながるというとんちんかんな批判がある。徴兵制が憲法違反だということは私が再三、国会で答弁している」(8月5日、自民党の会議)、「私は何回も国会で『憲法違反になる』と明確に答弁をしている。批判は議論をゆがめる不真面目な対応だ。攻撃のための攻撃だ。集団的自衛権の限定的な行使と徴兵制の間に関わりは何もない」(8月9日・産経新聞インタビュー)などと述べている。

(2)徴兵制にかかわる第1の問題。憲法18条の解釈の問題について。

日本国憲法第18条 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

徴兵制は、この18条の「奴隷的拘束」と「意に反する苦役」に当たり、禁じられているとするのが、通説であり、従来の政府見解だ。

しかし、自民党の改憲草案が18条の「奴隷的拘束禁止」条項をわざわざ削除したのはいかなる狙いなのか。

自民党の石破幹事長は2002年の衆議院での発言をはじめ、その後も「徴兵制が憲法違反であるということには、私は、意に反した奴隷的な苦役だとは思いませんので、そのような議論にはどうしても賛成しかねる」などという意見の持ち主だ。

これらからみて、安倍首相が強弁する18条の徴兵制禁止規定はなんとも危ういと考えざるを得ないのではないか。

ましてや政権党たる自民党は歴代内閣が憲法解釈上不可能だと断言してきた集団的自衛権の行使を、今回のように簡単にくつがえすことが明らかになった今日、内閣法制局長官の答弁を信じろというほうが無理な話だ。将来における徴兵制の導入の可能性が、単なる杞憂とは言えなくなるのではないだろうか。

(3)徴兵制に関わる第2の問題。「高度化した現代の戦争では徴兵制は不可能」という見解。

ありえない論者は兵器や通信機器が高度化され、短期間でこの高度軍事技術に習熟するのは不可能で、「軍事的合理性がない」という。しかし、今日、世界の各所で起こっている戦争の実態を考えれば、これは説得力に欠ける。

確かに米国、ドイツなどは徴兵制を廃止したが、世界をざっと見ただけでも、今日、徴兵制をとっている国々はかなり多い。たとえば徴兵制を施行している国家には、デンマーク、オーストリア

フィンランド、ノルウェー、スイス、ロシア、韓国、北朝鮮、イスラエル、トルコ、台湾、エジプト、シンガポール、カンボジア、ベトナム、タイ、コロンビア、マレーシア、中国、アルジェリア、キューバ、ギリシャ、ラオス、モンゴル、イエメン、イラン、クウェート、シリア、カーボベルデ、コートジボワール、ギニアビサウ、ギニア、等々がある(ウィキペディアによる)。これらの国々の中には、現実に戦争に直面している国々が少なくない。

現実に世界各地で起きている戦争は、戦争と言えば、コンピュータによるミサイル攻撃などの高度遠隔操作戦争しか空想できない貧困な想像力の世界ではない。戦争に不可欠の血みどろの陸上戦闘戦力、兵員数がものをいう兵站戦力など、戦争が始まれば兵士はいくらでも必要になる。軍事的合理性にかける説明をしているのは、一体どっちだといわれてもしかたがないだろう。

(4)徴兵制に関わる第3の問題。自衛隊志願者は少なくならないだろうということ。

小池氏が指摘するように、自衛隊が海外で闘い、血を流すようになったとき、はたしてそう言えるのか。

徴兵制がありえない論者は、海外で血を流すようになれば応募者や退職者が増えるなどと言うのは「自衛官に対する侮辱だ」として、「自衛官は服務の宣誓をして自衛官になった」「自衛隊法施行規則38条は、事に臨んでは危機を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえる」と宣誓していることをあげる。

果たしてそうか。今日の自衛官の宣誓は「私は、我が国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し」とあり、海外で外国を守るために戦うということはない。今回の集団的自衛権行使容認に際して、この宣誓の文言を変更することが検討され、諸事都合で沙汰やみになった事は周知のことだ。

前述の産経報道は、防衛大学校の「オープン・キャンパス」来場者が増えていることなど、自衛隊人気は低くないと強弁している。しかし、最近の報道では「予備自衛官の定員は4万7900人だが、常に7割にも満たず、年々減少傾向にある」(18日、時事)ともいう。野田聖子総務会長は安倍政権の集団的自衛権行使に疑問を表明して「日本は急速に少子化が進んでいます。安全保障政策でリスクをとろうとしても、担い手がいなくなろうとしている。……ほんとうに安全保障を考えるなら、この数年ではなく50年もつものを考えなければなりませんから、少子化対策との整合性が必要です」(「世界」2014年6月号)と指摘したことがある。産経報道はあまりにもノーテンキすぎるのではないか。

自民党や安保・防衛族はおそらくこれを知って知らぬふりをしているのである。
この間、教育改革・教育再生の名の下に「戦争する自衛隊」を支える「ひとづくり」が企てられていることこそ、まさにこの一環の感があるということあながち的はずれとはいえないだろう。

(5)経済的徴兵制のこと

自立サポートセンター「もやい」の稲葉剛さんは「赤紙なき徴兵制」(経済的徴兵制)という問題を指摘してこう言っている。「自衛隊が海外の戦地に派兵されることになれば、志願者の減少や退職者の増加が起こり、その結果、将来的に徴兵制が導入されるのではないか、という意見が出ています。実際、2003年のイラク戦争の後に自衛隊が派遣された際には志願者が減ったというデータもあります。しかし、貧困層の若者を『安定した仕事だから』と勧誘して、自衛隊に『自発的に』志願させる『経済的徴兵制』は以前から存在している。支援関係者の間では知られている話ですが、路上生活者には貧困家庭の出身で、自衛隊で働いた経験のある人が少なくありません。安倍政権は財政難を口実に生活保護などの社会保障制度を改悪し、「成長戦略」の名のもとに雇用のさらなる流動化を図ろうとしていますが、こうした一連の政策は若年層のさらなる貧困化を招きます。自らの政策によって貧困を拡大させ、貧困層を自衛隊に送り込もうとしているのではないか。『赤紙なき徴兵制』(経済的徴兵制)をさらに強化しようとしているのではないか。7月1日は、自衛隊発足から60年にあたる日でした。憲法9条と25条の問題はつながっています」と。

米国の経済的徴兵制については堤未果さんが「貧困大国アメリカ」(岩波新書)で紹介している。

稲葉さんが指摘するように、安倍政権の下で、急速に若年層の貧困化、格差社会が進行している。

いずれにしても、この議論は安倍内閣がかくも乱暴に立憲主義を踏みにじり、閣議決定によって日本国憲法の根幹である平和主義を踏みにじったことに起因する。明らかなことは、この危惧は閣議決定の撤回、安倍内閣の打倒によって解決する以外にないということだ。(高田 健)

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第88回市民憲法講座TPPは私たちに何をもたらすか

鈴木宣弘さん(東京大学大学院教授)   

(編集部註)7月19日の講座で鈴木宣弘さんが講演した内容を編集部の責任で要約したものです。要約の文責はすべて本誌編集部にあります。

「いまだけ、金だけ、自分だけ」

集団的自衛権の話も含めましてこの汚いやり口、あるいは何のために暴走しているのかというのは根っこのところは同じようなものがあるなと思っております。TPPとか規制緩和、規制改革、農協を解体するとかいろいろ出てきています。キーワードは、岩盤のような規制を打ち破ってみんなが対等な競争条件で競争すれば幸せになれると、一応名目はこう言っているわけです。でも狙いは何かというと、ごくごく一部の多国籍化しているような巨大企業の経営陣の利益を、ただただもっと儲けさせる。儲けるところが減ってきたものだから、まわりを攻撃して利益を奪う、市場を奪う、働く人からさらにむしり取るという、こういう露骨な暴走を始めています。

そういう経営陣と、政治も官僚もマスコミも研究者も結びついて、多くの人たちの命や健康や暮らしを犠牲にしてでも、環境を痛めつけてでも、「いまだけ、金だけ、自分だけ」という私がよく使う言葉が、残念ながらいまの状況を反映しています。周りの人々のことはどうでもいい、将来のこともよくわからないけれど、とにかくいまの自分の利益だけ、自分の地位を保身するだけだというひどい行動です。

安倍総理は、国際会議で「いかなる既得権益も私のドリルから無傷ではいられない」とか、この間はついに「日本経済の悪魔を私が倒す」、悪魔とは何だと思ったら「エネルギーや農業、医療分野」だと言うんですね。これを外資に引き渡すという。こんな論文をわざわざ自分で書いて投稿しているんだからもう信じられないですね。もうやめてもらわないと本当に危ないですよ。

集団的自衛権が一番危ないですけれども、わけのわからないことをこれ以上やられたら日本は潰れちゃいますからね。それぞれの地域でみんなが一生懸命助け合い支え合って安心安全な社会をつくっていこうとがんばって参りました、個人も組織も。こんなことをやっていたら、そういうものが全部がたがたに崩されてしまう。でも彼らが狙っているのはまさに人々が助け合ったり支え合ったりすることが邪魔なわけです。もっと儲けるために。だからそういう努力をしている人々や組織を潰したいわけですよ。協同組合なんかまさにそうですよ。協同組合は地域で助け合って支え合っている相互扶助組織だから、相互扶助組織のようなものは一番邪魔なわけです。

農協なんかはいろいろな事業をやっていますから、それを潰せばそういうビジネスも奪えるわけです。しかも地域でがんばっている人たちは、TPPにも反対するわけだからこれも潰せと。やり口が汚いんですよ。医師会はそろそろTPPについてちょっとトーンダウンしてきたので混合診療、これはやったけれどもそんなに全面的にはやらなかった。あれくらいにしてやったぞと。農業関係組織はまだ抵抗を続けているから許さんぞ。だからJAとか農業委員会は全部解体するぞ、それでもいいのか、解体されたくなかったらそろそろ抵抗をやめろ。どっちを取るのかと。

こういうふうな非常に卑劣で巧妙な合わせ技です。誰がやっているかというと安倍総理はそれだけのアイデアが浮かぶ人じゃないですから、良くも悪くも。菅官房長官ですね。極悪非道、冷酷な、背筋が凍るような人間だと言われていますね。たたき上げという意味ではすごい方だけど。しかも秋田で親父さんがイチゴ農家をやっていたときに農協にうまくやってもらえなかったから、その個人的な恨みもあって絶対に許さないと。こういう方が権力を持つと危なくてしょうがないですね。

国民を欺く「譲歩」が「英断」なのか

いまTPPは、何となく日本が抵抗しているんじゃないかという感じがあるじゃないですか。私は全然違うと思っています。まず、オバマさんが4月に来たときに安倍総理が、譲歩するんじゃないかとみんな心配しました。私の農水省の先輩で、この間までTPP交渉のトップをやっていた人が心配していたのは、彼が特別機で安倍さんと外国に行ったときのことです。安倍総理は複雑な話をするとほとんど理解不能であると、ただキーワードに飛びついてくる。安部総理はよくわからなくても最後は自分が最高責任者としてびしっと決めたという、この快感を味わいたいということなんだ。これがオバマさんのときに出たら大変だと心配していたんですね。

踏みとどまったかに見えたじゃないですか。でも本当は決まったんです、一応。TBSと読売新聞が合意したって報道した。牛肉の関税は9%まで下げる。豚肉の関税は一番低い価格帯で482円/kgから50円まで下げるとか。実は本当は一応ここでやろうということで決めました。ところがあの段階でそれを出すわけにはいけない。その2日後に鹿児島で衆議院の補欠選挙があった。牛肉、豚肉が一番大変なところじゃないですか。そもそも4月7日に、日本とオーストラリアの自由貿易協定を先に結びました。そのときの理屈は、オーストラリアにある程度譲れば、その水準でアメリカも何とかなる。それで牛肉の関税をすでに38.5%から19.5%まで半分に下げた。これがレッドラインだと言って、オーストラリアとの譲歩をみんなに我慢してくれと言っておいて、その数日後に、もうアメリカには9%に下げていた。なんだ嘘じゃないかということになるでしょ。だからそんなことはまだ言えない。

逆にアメリカ側からすれば、日本は豚肉も牛肉もゼロにするものだと思っているから、9%とは何だ、嘘つくなとなってくる。そうなるとしっちゃかめっちゃかになっちゃうから、ぎりぎりの段階で出そうということでおさえていたはずなのに、なんと経産省の次の次官候補の今井さんという方が、いま総理秘書官ですけれども、リークしちゃったんです。それで蜂の巣をつついたような騒ぎになった。観測気球にするには危険すぎると、私が推進派だったら思うけれども、それを彼がやったものだから、日本側よりもアメリカ側が怒り狂ったわけです。牛肉・豚肉業界、乳製品業界、ニュージーランドまで入ってきて、日本がゼロにしないなら日本なんか抜かしてやれというような強硬な声になった。いわゆるちゃぶ台返しです。全部やり直せということで崩れたわけです。よかったと思ったら大間違いです。

わかったことは、9%でも絶対ダメだから、あとはいかにゼロに近づけるかしか日本の選択肢は残っていないということです。悲惨な状況です。TPPを決めるためにはさらにすべてのものをゼロに近づけて、これで許してくれと言うしか選択肢がないということだから、最悪の状況になっている。だからそれを進めるにはもっと日本が譲歩しないといけないので、農協を解体されたくないなら文句をいうな、という合わせ技を持ってきたわけですよね。これがいまの状況です。

全国の農家のみなさん、特に牛肉、豚肉、牛乳、酪農のみなさんは大変なことになっています。3年も4年もTPPがどうなるかわからないから不安で投資もできない、息子に継いでもらうこともできないで、どんどんやめていく方が増えて、生産が減っているんですね。そこにこんなことになったら、さらに悪くなるしか道がありません。まさに真綿で首をじわじわ絞め上げられる状況になるわけですから、これ以上やる意味はないということが実際です。がんばったかのように見せているのは飛んでもない話です。

誤報批判の前に問題なのは異常な情報かくし

今回の話で、農業だけとってみてもとてつもない影響が出る話を、TBSと読売が誤報を流したと言った。じゃあ本当のことを言えと言ったら、言えませんって。こんな話がそもそもおかしいじゃないですか。これだけの内容を議論しているのに、その事は教えられない。あとで開けてびっくりだという。こんな議論でいいはずがない。秘密で勝手に決めていいような協定、条約じゃないでしょうということで、怒らなくてはいけない。日豪の経済連携協定で、これ以上絶対譲らない、レッドラインにすると言っておいて、実はTPPを進めるための突破口にして使ったわけでしょ。こんな姑息な嘘がすぐばれているというひどい状況です。

日豪については、そもそも7年以上前に始まったんですね。あのときに日豪は、もう交渉は始めないということにほとんどなっていました。なぜかというと、オーストラリアが日本に出している農産物の5割以上がいわゆる重要品目というもので、日本がこれは絶対無理だと言っていたものだったんですね。オーストラリアは、これをすべてゼロにしないと許さないと最初から言っていたわけです。しかもオーストラリアの農業の平均規模は一戸あたり日本の2千倍ですよ。だからこれはとてもゼロ関税なんていう議論ができる国じゃないということで、ほとんどやらないことに決まっていたのに、やるって言ったのは誰ですか?やっぱり安倍さんなんですね。

第1次安倍内閣で、安倍さんが神楽坂の料亭かなんかで接待を受けているうちに、やっぱりやるということになった。農水省がびっくりして、私に来てくれというので行ったら、農水省としても残念であるがこんなことになった。これ以上抵抗すると抵抗勢力ということで後でいじめられるから、農水省はここでやめる。しかしとんでもない影響が出るという計算はしたので、これを鈴木さんが自分でやったことにして最後まで抵抗を続けろということでした。なぜか農水省はいつも私に情報だけ出してくれて、戦うのはお前だというんですね。そんなことで始まって、案の定全部ゼロにしろというものだから、7年以上漂流したんですが結局TPPとのからみからこんなふうに決まった。

日本農業悪玉論のウソ

いつも出てくる農業悪玉論があります。農産物自由化の話になると食糧、農業を悪者にして嘘の情報を流してやっていこうという話が出てきます、自分が儲けるために。今回もTPPはまるで農業問題かのようになっています。自動車の話もちょっとは出てきますが、結局農業が悪い、農業が譲れば決まるじゃないかと。外国も、さんざん日本の農作物をやれと。内外からの圧力を強めて最後に言うことを聞かせようという流れになっています。しかしTPPというのはものすごく幅広い分野に影響するわけで、他の国だって反対しているから決まらないわけです。

なぜマレーシアが反対しているのか。これは薬の問題です。ジェネリック薬品-アメリカの製薬会社が儲けるために特許の期間を長くして、エイズの安い薬をつくれないようにしようというんです。こんなのを許したら、人の命が守れないから絶対ダメだといっている。これは、規制緩和ではなくて規制強化ですよね。儲けるためには自分の都合のいいルールに変えるということです。あるときは緩和じゃなくて、強化してでも人の命よりも自分たちの儲けだと。それは許さないとマレーシアは言っているわけで、これはマレーシアだけじゃなくて日本だって反対すべきことじゃないですか。

それからベトナムの国有企業、社会主義国が国有企業を優遇しているのがけしからん。アメリカは、国有企業であろうがアメリカの企業を差別するのは絶対に許さない、同じ条件にしろ、差別は全部なくせということです。これはベトナムの国有企業だけではなくて、日本の企業だって国民生活だって全部そうです。たとえば食品の安全基準が日本は厳しい。それがアメリカの農産物輸出、企業の儲けを損ねているとなれば、それは許されないということになる。許されないのにやれば、最後の切り札はISDS(投資家対国家紛争処理)条項で、アメリカの企業が日本の仕組みを国際裁判所に訴えて損害賠償をさせるというかたちでとどめを刺そうとするわけです。脅すわけです。

オーストラリアが反対している一番大きな理由は、まさにそれです。たばこのパッケージを簡素なものにしてあまり吸い過ぎないように、宣伝しないようにしようとしたら、フィリップモリスが利益が得られないから損害賠償だ、こんなことは許されないと反対しているわけです。日本の国内でもこういう声があったから、TPP交渉に参加する直前の国会で、国家主権を侵害するようなISDS条項は反対すると決議したんですよ。ところが入った途端に、実は賛成でしたと言った。アメリカと日本だけですよ、この条項を他の国に入れろ入れろと騒いでいるのは。これだって嘘でしょ。

農産物の関税引き下げは消費者の健康リスク問題

農産物の関税を下げるという問題は、牛丼が安くなるからいいじゃないかという話になりがちな面もあるので、そういう方にきちんと認識してもらいたいのは、われわれは安いけど相当危ないものを食べているということです。こういう情報がまだまだ不足している。アメリカの牛肉はよく問題になりますね。エストロゲン-女性ホルモンがたくさん注入されている。日本に比べて600倍くらい入っているので乳がんの確率が相当高まると、日本では使用禁止です。でも輸入はアメリカがOKだから日本もOKになっちゃう。EUでは国内で使用禁止で、輸入も禁止です。そうしないとおかしいですよね。

オーストラリアの牛肉は、日本の消費者のみなさんは安全だと思っていた人が多いんですが、よく調べてみたらやっぱりダメなんです。なぜオーストラリアの肉が安全かのように思われたかというと、EUはホルモンを使っていないことを証明して売っているんです。日本はOKだから、ホルモンジャブジャブの状態で売っている。結局オーストラリアのものもダメなんですね。しかも、EUが1989年にアメリカのホルモン牛肉を輸入禁止にしてから6年間で、なんと乳がんの死亡率が、少ない国でも22%くらい、多い国で46%も減っているんです。この因果関係がどれだけあるかという話はあるかもしれませんが、それだけ影響がある可能性がある。

もうひとつ、アメリカの牛乳製品に入っている遺伝子組み換えの牛成長ホルモンというのがあるんです。これはアメリカで94年に認可されました。もちろんGM(遺伝子組み換え)ですからモンサントが開発したんですけれども、アメリカでもすったもんだの反対運動もあったんですが、絶対大丈夫ということで認可された。けれども98年くらいから、乳がんと前立腺ガンの倍率が4倍、7倍ということが学会誌に出てきたものだから、いまアメリカではスターバックスもウォルマートも「こういう牛乳は使っていません」と表明して売っている。

日本は認可されていないんです。モンサントは私が農水省にいる頃に認可申請しようかどうか相談に来ましたけれども、日本の消費者のみなさんは厳しいよという話をして見送ったんです。認可されていない日本で何が起こっているかというと、アメリカの乳製品は輸入でストップされていないので表示のないまま、GMだけれどもわれわれは食べているんですよ。ハーゲンダッツのアイスクリームは大丈夫です。あれは北海道の牛乳でつくっていますから。でも他のバターとかチーズとか脱脂粉乳の輸入がアメリカから増えていますけれども、これにはそういうものが入っている可能性が十分あるわけです。もともとのアメリカでこれはいかんと言っているのに、認可されてもいない日本で、みんな知らずに食べているという変なことが起こっています。

これについて25年以上前に私はアメリカに調査に行きました。開発したモンサントと実験したコーネル大学と認可官庁と、3者にインタビューしました。すごいですね、まったく言うことが同じで、テープを聴いているようです。モンサントと認可官庁の関係は、モンサントの社長さんがその役所の長官になっている。また長官が社長になっていて、ぐるぐる回っているから「回転ドア」と言われる。日本では天下りです。すごい癒着関係ですね。コーネル大学のバウマン教授は立派な研究者だけれども、モンサントから巨額な研究資金をもらって研究しているからダメって言えるわけがない。人と金で結びついたナントカ村ですよ、完全に。25年前の当時「疑惑のトライアングル」と呼んだんです。

もうひとつはラクトパミン。これは成長促進でエサに混ぜるわけです。人間に直接に中毒症状を起こすということでEUだけじゃなくて中国、ロシア、台湾でも国内で使用禁止、輸入も禁止です。日本は国内ではもちろん禁止ですが、例によって輸入は、規準値はあるけれども検査なんてザルですからどんどん入ってきています。2013年にロシアも禁止ました。アメリカの牛肉、豚肉は、人間が食べたら中毒を起こすようなもので、それを誰が食べるんだということです。中国もロシアもこんなものは人間が食べるものじゃないと言っているくらいなのに、日本はどうか、ちょっとびっくりですよね。

オーストラリアとのFTAそれからアメリカとのTPPで、こういうものが更に増えるわけです。恐ろしいことに日本の牛肉、豚肉の自給率ってすでに4割を切っているわけでしょ。われわれはもうそんなものをいっぱい食べているわけです。さらに牛肉・豚肉産業がほとんど壊滅するわけで、選ぶこともできなくなります。まさに農産物の関税を下げるということは、われわれの命のリスクだということですね。これは情報を共有しないと大変です。

日本はよくがんばっているのか-国会決議は破綻

日本はよくがんばっているのかという話で、まず関税の問題についても最初「聖域」は834品目だったんです。それがいつの間にやら586になって、最悪5まで減らしてもいいという話になった。その5品目だって関税を下げなきゃいけないという話になって、もうむちゃくちゃになっている。これはどういうことか。表を見てもらうとわかりますが、いままで関税撤廃をしたことがない品目が農林水産品で834あって、全体の1割です。TPPというのは、その前の2006年にできたP4協定でも例外は1%しか認めていないんです、宗教的な理由で。例外はほとんどないことを前提として交渉が始まっています。そういう中で1割の品目を例外にできるなんてあり得ないわけです。あり得ないことをできると嘘をついて入っちゃったものだから、あとはどうごまかすか、ですよね。

そのごまかし方がちゃんと仕組んであったわけです。「牛肉・豚肉」、「小麦・大麦」、「コメ」、「砂糖・でん粉」、「乳製品」、この5つが重要5品目で、これを絶対守ることに言い換えた。それでも分類上は586品目になる。586でも全体の6%くらいですから、これでも絶対無理なんです。それで何を言い始めたかというと、コメは「コメ品目」ではなくて「コメ分野」である。コメ分野で58の細目があるから、冷凍ピラフとか加工品、調整品は全部ゼロ関税にしちゃって、最後に米ひとつだけでも残せばいい。そうすれば58が1まで減ったって、「コメ分野」を守ったと言えるじゃないか。それぞれの分野から5個残せば最悪586が5に減っても「5分野」を守ったと言える、という屁理屈をつくった。どこから削っていくかというリストをつくって、アメリカから言われるごとにちょっとずつ削っていっているわけです。

ところがアメリカは気付いたわけです。最後の5つの部分が、一番アメリカがやってもらわないと困るものだった。牛肉・豚肉の枝肉、コメの精米をどうするという話になってきて、お前らごまかすなということで怒られた。しょうがないから牛肉・豚肉の関税も下げるという話なった。でも国会決議では牛肉・豚肉は「除外」です。除外と書いてあるのに関税を下げていいのかと聞いたら、除外というのは「関税撤廃の除外」であって「関税削減の除外」とは書いていないと。こういう屁理屈が最初から準備されている。それで聖域は守っているというんだから本当にひどいですね。

並行協議などでアメリカの要求まるのみ

実は自民党は、まず党で守るべき国益ということで6項目決議して、国会でもまた似たようなものを決議しました。その一番目が農産物の聖域の問題でした。その次に自動車とか保険、医療、食品の安全基準とかISDSとかをあげた。それが今どうなっているか。自動車は、軽自動車の区分が悪いとアメリカからいわれて、国内での税制改革の議論だということにして4月から自主的にやっちゃったわけです。TPPと何ら関係ないと言いながら、自主的にやった振りをしてアメリカのいいなりにやったわけです。

保険もそうです。全国の郵便局でアフラックの保険を売るという、ここまでやっているわけですよね。医療の問題では自由診療の拡大、全面的な混合診療の解禁ではないにしてもやったわけです。それからBSEの輸入基準は守ると国会で去年の3月に決議しましたけれども、決議の1ヶ月前の2月に、もう緩めちゃったわけです。

防カビ剤の審査緩和ですが、これはポストハーベスト農薬で輸入レモンなどにかかっているものですが、これをもっとゆるめろというのがアメリカの要求です。これはなんとTPPを日本が始めるときの日米の共同声明で、日本は12ヶ国間の全体の交渉とは別に日米2国間で並行協議という場を設けて、そこで長年の日米の懸案事項を全部解決させることについて「わかりました」と言わされているわけです。これが一番大変だとわれわれは心配していた。日米2国間で、構造協議とかアメリカ企業が儲けるために日本にいろいろやらせてきたけれども、まだ足りない部分がある。それをTPPを梃子にして全部加速して、とどめを刺してやれということです。その項目を9項目くらい挙げて、その9番目に書いてあったのがこの防カビ剤です。これももう去年の12月にゆるめちゃったんです。

それからISDSも嘘だったということで、実は自民党が決議した「守るべき国益」6項目はひとつも残っていないんですよ。頑張っているふりをして、あくまで自主的にやったと言い張って、すべてアメリカのいいなりになっている。だからTPP全体が仮に漂流して破綻したとしても、日本は非関税分野ではもうほとんどアメリカの言うことを聞いちゃっているということです。アメリカはもう十分日米2国間で、日本から取るべきものは取っている。しかも交渉というのは取引条件がたくさんあってやるものなのに、日本はあれも出しますこれも出します、だからコメだけは許して、というやり方です。最後にコメしか残っていなかったら、じゃあそれもやってということになりますよね。そういうひどい状況です。

「TPP断固反対」「聖域は守る」のウソ

聖域の問題についてもういちど見ておきたいのは、このポスターですよ。衆議院の総選挙、「TPP断固反対、ウソつかない、ブレない」というこのポスターで、全国で256人の「TPP断固反対」の先生方が当選して、何をやったかというとすぐにTPPに入ったわけです。これは自民党を支持するしかないとか、TPPに反対か賛成かという以前の問題です。国民との約束が、選挙が終わったらすぐに覆される政治が続けられていいのかということについて、われわれはもう一回考えなければいけない。

そのときに、これも姑息なやり方ですけれども、枕詞がついていたわけですよ。「聖域なき関税撤廃を前提としないならば」TPPに入ってもいいという、この部分をうまく使ったわけです。TPPに入るときの日米共同声明には、そもそもTPPのアウトライン、すなわち関税をすべて撤廃することを確認しているんだから、これで本当は終わっているわけです。日本は完全にウソをついたわけです。

アメリカ政府はこれをもってアメリカの農業団体に、日本はすべての関税を撤廃すると理解したから喜んでくれと次の日に説明した。その同じ文章で、日本はこれで大丈夫だといった。しかも日本が根拠にしたのは、「交渉に入る前に全品目の関税撤廃の確約を一方的に求めるものではない」という意味不明な文章を、無理矢理アメリカに入れてもらったんですね。この文章を入れてもらったことで「前提ではない」という雰囲気ができた。これで国民をごまかしてTPP参加の根拠ができたと、このときすでに某経済産業省では祝杯を挙げていたんです。

そういう情報が入ったので、すぐに農水省に聞いたら農水省も憤慨していました。霞ヶ関は縦割りでこの弊害はいろいろありますけれども、たとえば農水省は、食と農を守るのが省益であり国益であるかのようにがんばるわけです。それに対して外務省は、アメリカを喜ばせるのが、自分の私益であり省益であり国益であるわけです。経済産業省は天下り先である巨大企業の経営者を喜ばせることが、自分の利益であり省益であり国益である。しかも私もいたのでわかりますが、農水省と外務省と経済産業省は犬猿の仲ですね。官邸をコントロールする人が外務省と経済産業省の人ばかりになって農水省が完全に排除されると、アメリカと大企業を喜ばせるために食と農を犠牲にするのが一番いいということになるわけです。

アメリカのダブルスタンダード

アメリカのやり口もひどいですよ。アメリカというのは自分の悪いところを徹底的に棚に上げて人を叩くわけでしょ。交渉というのはそういうものかもしれませんけれども。日本にはすべての関税をゼロにしろといっておいて、例えば乳製品の関税は自分よりもオーストラリアとかニュージーランドが強いから、あいつらには関税をゼロにしてやらない、自分より弱い国だけゼロにして儲けてやるというやり方を徹底している。しかもアメリカにとって食糧は一番安い「武器」ですから、それで世界をコントロールしようとしていますので、これを輸出するためにはコメと小麦とトウモロコシ3品目だけで輸出補助金を毎年1兆円使っている。輸出補助金とは、ダンピング輸出して農家のみなさんに差額を補填するわけです。アメリカの生産コストはコメでもベトナムの2倍もしますけれども、生産量の半分以上を輸出しているわけです。それはこのダンピング輸出をやっているからです。

自動車についてもまだ揉めています。自動車の安全基準についてはTPPに入れてもらうための「入場料」として、参加したいならば前払いでアメリカの要求を飲めといわれて一部の安全基準をゆるめたんです。それでも足りないといってアメリカは、なんと最低輸入義務台数を決めろと最初から言っているんですよ。いま5万台と言っています。すごいでしょ、あのポンコツですぐ壊れる車を。アメリカ大使館を見ても、外交官はレクサスとベンツばっかりですよ。アメリカ人が怖くて乗れない車を、日本人には台数を決めて買えというわけです。自由競争とか対等な競争条件なんて嘘八百でしょ。安全基準だって、この前経済同友会の方が怒っていましたね。アメリカの安全基準で合格していれば日本の規準で不合格でも合格にしろ、なんていうのは人の命に関わる問題だ、これは国家主権の問題だと。

日本が唯一アメリカから得られるメリットは自動車ではないかと言っているんですが、日本はアメリカで自動車が伸びるのを心配して、自動車の関税は25年から30年の猶予期間を取る。さらに25年後にチェックする。例えば日本の市場でアメリカの車のシェアが2割超えていなかったら、半永久的にアメリカでの関税は撤廃しないと言っているんです。つまりいちゃもんを付けて、自分達の都合が悪いところの自動車の関税をゼロにするつもりはないわけです。こういうことをアメリカはやっている。

しかも他の国にはアメリカの企業に対するいっさいの差別は認めない。全部アメリカのものをどんどん使えるようにしなさいといいながら、自分の国には「バイアメリカン条項」です。公共事業には、自分のところの資材を使わなかったら罰するという法律をアメリカは持っています。本当に勝手な話ですよね。TPPでこんなことが認められるのかと思いますけれども。アメリカのダブルスタンダードというか、わがまま放題はすごいものがあることをもう一回きちんと認識しなければいけない。

「保険の独自性は守る」のウソ

保険の問題もずいぶん歴史がありますけれども、そもそもTPPでとどめを刺したい一番の大きなものは郵貯マネーです。全国の郵便局を通じて貯金、保険で集まっている350兆円、これはアメリカの保険業界がのどから手が出るほど欲しいわけです。これは小泉さんの改革の時から言われていて、郵政は解体して民営化しました。それでできたかんぽ生命がでかすぎるので、アフラックが競争しても負けちゃう。アフラックから言われて、かんぽ生命はがん保険に参入しないことをTPPに入るための入場料として約束させられた。それだけで済まなくて、全国の郵便局ではアフラックの保険を売る、ここまでになったわけです。これは対等な競争条件でも何でもなく、自分に市場をよこせということです。これに日本は何でもやりますというかたちで答えて、全国の住民の公益のために働いてきた郵便局員さんは、これからはまさにアメリカの巨大保険会社の下請け機関として働くことを表明させられたようなかたちになっている。

JAマネーも同じです。JAバンクとJA共済に集まってきている何百兆円、これをなんとしても欲しいから、これを切り離してJAも潰していこうとしているわけです。日本での規制緩和議論もよく考えてみると同じような根っこで、郵政民営化の時も結局あのとき誰が一番儲けたかというと、某オリックスの某宮内さんがかんぽの宿などをタダみたいな値段で買い取ってぼろ儲けしようとして、ばれちゃって問題になりましたね。

もうわかりやすすぎますよね、最近の経済界の代表の情けなさ。もうちょっと全体のことを考えている振りだけでもすればいいのに、「おれの会社の儲けが」なんてね。そういう意味でいうと、農業改革の某サントリーの社長にもなったローソンの某新浪さんというのも非常にわかりやすいんですよね。農地中間管理機構に対する注文も、ローソンファームでは耕作放棄地しか集まらず儲からないので、今後は平場の条件の良い地域に絞って、既存の人々の努力を無視して、強権的に所有権を放棄させて優良農地を無理やり集積して、国の資金で整備して企業に使わせろというふうにルールを変えるだけなんですよ、規制緩和といっても。パソナも農業に参入していますね。パソナの方がもっとわかりやすいですね。首切り自由特区とかね。パソナの会長が慶応の某竹中平蔵教授ですね。パソナの会長で1億円以上もらって慶応から2千万くらいもらって講演1回で150万ですよ。それでもまだ儲けたりないといってナントカ会議で自分の私欲をさらに増やそうとしている。

こういう人たちのためにすべてのものが潰されるなんていうのは絶対におかしい。そういう意味ではTPPのようなアメリカの巨大企業、日本の企業、国内の規制改革、農業改革の議論も同じような話だということがよくわかります。

「BSEなどの食の安全基準は守る」のウソ

BSEについては、決議した1ヶ月前に20ヶ月齢という若い牛から30ヶ月齢まで緩めてしまった。これも食品安全委員会は科学的根拠に基づいて決めたと言い張っていましたけれども、アメリカへのお土産だったのは明らかです。当時の野田総理がハワイに行って、APECでTPPに入りたいと言った1ヶ月前から緩めるとアナウンスしていたんですから、あとは茶番劇ですよね。命よりもアメリカへのお土産です。24ヶ月齢の牛からもBSEは出ますし、アメリカのBSEの検査率は1%未満です。明らかにかかっている牛が屠殺されて肉になっている。しかも屠殺がちゃんとされていないから、危険な部位が混じった牛肉が日本にいっぱい入ってきています。国民の命よりもアメリカへのお土産だということです。

もうひとつ問題になるのがGMです。モンサントは官民一体ですから、アメリカの企業が政府みたいなもので、TPPのアメリカの農業交渉官の筆頭がモンサントの方です。モンサントが一番やりたいのが表示をやめさせることで、アメリカでは徹底的に表示義務を潰して、わからないようにして食べさせています。日本では、曲がりなりにも表示義務があるので、これをやめさせれば日本人にもっともっと食べさせられるというわけです。日本人が心配することをアメリカ人は笑うわけです。君らが食べている大豆とトウモロコシは、8割以上はGMじゃないか。アメリカから9割方輸入して、そのアメリカの大豆、トウモロコシの9割以上がGMだから、日本人はえさも含めて世界で一番食べているだろう、というわけです。

これから大豆、トウモロコシだけじゃ済まなくて、小麦もGMになってきます。アメリカとかオーストラリアが準備しています。アメリカのオレゴン州でも見つかりましたね。GM小麦はベトナム戦争で使用した枯れ葉剤を撒いても枯れないんだから。2007年にオーストラリアに行ったとき、日本の消費者のみなさんに言ってくれ、モンサントと一緒になって開発している塩がふいてきても水がなくても育つGM小麦だ。日本人はこれを食べるしかないんだからがんばって食べてくれ、というわけです。

表示ができなくなれば、特に日本人が食べる輸出向けからそうなっていくわけです。アメリカの穀物協会の幹部は、2008年にはっきりインタビューで言っています。小麦はとりあえずGMにはしない、アメリカ人が直接食べるからだ。トウモロコシ、大豆は家畜が食べるもので、人間が食べるものじゃないからいいと。メキシコ人とか日本人はトウモロコシとか大豆が主食に近いわけですから、われわれは家畜同然の扱いを受けているということです。しかもAP通信のニュースでは、モンサントの社員食堂ではオーガニック食品を出しているんです。GMは絶対出さない。だから危ないということはわかっているようですね。

遺伝子組み換え(GM)食品のさらなる拡大

フランスの大学でGMトウモロコシのラットへの給餌実験をしました。実験は3ヶ月でいいということになっているけれど、ネズミに2年間食べてもらったら、痛々しいガンの発生が確認されました。ところが学会誌にも出て反響を呼んだ論文が、いつの間にやら削除されてしまった。モンサントから編集委員がその学会誌に送り込まれてこれを潰してしまったことがあとでわかった。こういうかたちで論文が消されるというのは、絶対にあってはいけないことですよ。削除の理由はネズミの数がちょっと足りないということです。数が足りないのであれば、ネズミの数を増やして2年間食べさせてそれでも大丈夫だということを、もういちど推進するみなさんが出すべきなわけです。それはいっさいやらない。

この実験を1回やるだけで4億2千万円かかります。反対側の実験をやるとなったら命がけでしょ。研究者生命どころか、本当に命さえ危ない中で彼らはがんばってやった。しかもモンサントのトウモロコシの種を入手することはできない。そんなものを横流ししたとわかったら、農家のみなさんも損害賠償でモンサントに潰されますから、絶対に種をくれません。そういう中で必死に種を集めて4億円かけてやっとやったわけですから、これを潰されちゃうともう一回実験するなんていうことはできない。

この実験でもうひとつ問題になったのは、枯れ葉剤(ラウンドアップ)の残留です。日本だって農家のみなさんは使っているというわけですが、日本でやっているのは畦の草を枯らすために使っているのであって、自分が育てているトウモロコシや大豆にそれをかける人なんて一人もいません。けれどもGMトウモロコシとか大豆は、ラウンドアップをかけても枯れないんです。これをわれわれが食べていることも問題点ですよね。フランスの実験ではこれも危ないことが証明されたわけです。

もうひとつの問題は、アメリカでもラウンドアップをかけても枯れないスーパー雑草が出てきている。FDAはランドアップの残留量規準を緩めてあげるから、もっと振りかけろということになった。これからは、もっと残留量の高いものを食べなきゃいけないことになる。表示ができなければ選べなくなりますので、われわれは別に禁止しろというのではなくて、せめて表示をして選べるようにしてくれとけなげに言っているだけです。それをモンサントが安全だといったものを表示することは、消費者をだますことになるから許さないということでしょ。これはむちゃくちゃです。

それから、つくる側も選べないわけです。世界中ほとんどGMの種だけになってしまい、これを買わない限り農家のみなさんもつくれない。しかもそれに違反して自家採取したらどうなるか。アメリカではモンサントに警察に訴えられて、損害賠償で農家が潰れます。メキシコで起こっていることはもっと悲惨です。GMの種の花粉が飛んできて、自分のところの伝統的な種が汚染されてしまうわけです、GMに。そうしたら、なんとモンサントに訴えられます。モンサントが組み替えたDNA、遺伝子に特許を取ってあるので、それが勝手に使われたとメキシコの農家を損害賠償で訴えているんです。

こういう汚いことをやって世界中をコントロールしている。サカタのタネとか独自の会社が日本ではがんばっていますけれども、こういう国はもう少ないわけです。ほとんどの地元の種会社は、モンサントに買収されている状況が広がっています。仮にTPPの条文で表示しちゃいけないことにならなくても、モンサントは困らないわけです。ISDSで、日本の表示がモンサントの利益を損ねていると損害賠償で訴えればそれでいいわけです。そういうかたちでいろいろなものが崩されている。

食品添加物の基準緩和や表示の問題

アメリカが力を入れているのが食品添加物です。これは農薬ですね。日本では、収穫したあとに農薬をかけることは禁止されていますので本当はアウトですけれども、アメリカから運んでくるときには農薬をかけないとカビが生えちゃいます。これはしょうがないと、日本では農薬ではなく食品添加物だという二重の分類をしてあげて、アメリカからの輸入を認めてあげているんですよ。それなのにアメリカは、食品添加物と分類されると食品の裏に表示される。それがアメリカ差別だ、許さない、これをやめろという話です。もうむちゃくちゃですよね。

日本はこれを認めちゃったんですよね、2013年12月に。けれどもTPPと同じで、この二国間の並行協議も秘密となっているものだから、アメリカが勇み足で日本が認めたと文書に書いてしまった。日本は、絶対こんなことはやっていないと厚労省は言い張っているわけです。でもアメリカが書いているんだからやっちゃっているんですよ。もっともっと進んでいるはずです。防カビ剤だけでは済まない。食品の安全基準についてはアメリカとの二国間の並行協議でぎりぎりやっていますから、相当な部分で言うことを聞いているはずです。

医療の話でもうひとつアメリカの製薬会社が言っているのは、日本の薬価委員会ですね。薬の値段を低く決めてみんなが安く買えるようにしていることが、アメリカの利益を損ねているということです。もっとつり上げさせろと言ってきていて、日本も新薬の値段をもっと上げるような方向で議論していますし、外国人のお医者さんは例の国家戦略特区で風穴を開けるということですね。

日本人の仕事がなくなる解雇自由特区

国家戦略特区で一番問題になったのは解雇自由特区です。これもTPP対応ですね。TPPというのは、どこの国の人に働いてもらっても制約がなくなるということですから、賃金の高い日本の方を早く自由にやめさせることができるかが、非常に重要になってくるわけで、そういうことが進むということです。だから日本人の仕事はいずれにしてもなくなります。このことに日本人は本当に脳天気だなと。

アメリカは大変なことになっています。与党民主党の国会議員も3分の2が、TPPなんかもういかん。北米自由貿易協定、メキシコとの関係だけで500万人もアメリカ人の仕事がなくなった。今度TPPをやったら、ベトナムとの関係でどうなるのか、いいかげんにしろ。ベトナムとかマレーシアとTPPをやったら抗生物質づけのエビが入ってきてアメリカ人の命が危ない。それでオバマ政権は、TPPについて一括承認だけで進められる権限を与える「ファストトラック」を、議会で取れない状態になっています。アメリカの方がよほどまともな議論をしている。日本は完全に翼賛政治になって、安倍さんに逆らうものは人間じゃないみたいになっている。

ISDSにしたってEUはすごいですよ。アメリカとの自由貿易協定をいまやっていますが、ISDSはやっぱりおかしいということで 3ヶ月間EU市民に公開して意見を聞いて、これは企業の利益になるけれども市民の権利を考えれば認めるわけにはいかないという結論に達した。アメリカに対して、ISDSには反対だということを議論の上でちゃんと出しているわけです。

「有能な」官僚による「特別背任罪」

一部の「有能な」官僚は、国民と国家に対する特別背任罪で牢屋に入るべき人たちです。企業なら特別背任罪はありますが、国家レベルではないのでやりたい放題になっている。アメリカや大企業の経営者を喜ばせて、食と農を犠牲にすればいいわけです。その象徴的な話が、外務省、経産省の内閣官房出向組の幹部が、3.11のおかげでTPPについて情報を出さず議論もせずに、当時の野田総理がハワイに行く直前に滑り込みの参加表明ができればいいんだからこれでうまくいく、と喜んでいたわけです。あの震災の2週間後ですよ。こんな人たちがいまTPPの交渉チームの大半なんですよ。

その筆頭格が宗像さんですね、女性局長で有名になった。あの方が、アメリカとの裏交渉で国民に黙って入場料を払って、日本のTPP参加を既成事実化しようとした。そのとき最初に言ったのが自動車の最低輸入台数です。こんなことを国民的議論にしたら、みんなが怒ってうまくいかなくなるから内緒でアメリカに飛んで、10万台は無理だけど5万台までなら私が何とかするからこれで許してくれ。そうしないと日本国民も怒ってTPPもうまくいかなくなる。そうしたら困るのはアメリカでしょ、ということで交渉したわけです。

宗像さんというのは、長いことアメリカの研究所でアメリカの国益を研究していた方ですよ。いつのまにやら経産省の局長になっていた。あの方が「わが国は」というときは「日本は」と考えると意味が通らないそうで、「アメリカは」とおきかえなきゃいけない。こんな方が日米並行協議の代表もやっている。その日本を売り飛ばす功績が認められて局長になった。私の知り合いが言ったそうです。こんなことを国民にいわないで、あとで日本が大変なことになったらあなたはどう責任を取るつもりだと。そうしたら逆に怒られたそうです。われわれの仕事は国民をだまして騒がせないことだろうと。しかも経産省が、TPPの利益を計算してもう一回国民に示そうとしたんだけれども、なかなかうまく出てこない。出てこないですよ、利益ないんだから。それでもTPPにバラ色の未来があるかのように言い続けなきゃいけない。BSEの事件で当時の農水省では4人くらいの首が飛んだ。原発事故で経産省では10人くらいの首が飛ぶ。それをごまかすには国際的な視野の中にバラ色の未来があるかのように見せかけて国民の目をそらす。これがTPPだ、といったということなんですね。

P4協定を、米韓FTAを、なぜ説明しないのか

情報操作についてもう2点だけ付け加えておきたいのは、P4協定というTPPの前身の協定があります。これを見ればTPPの内容がわかってしまうとで、外務省は膨大な英文を翻訳しないできた姑息な話があります。P4協定ですでに出ているのは、例の公共事業の話です。非常に小さな金額の公共事業も、英文で入札に掛けなければいけない。これからは地元の小学校とか病院の入札で、アメリカの業者が持って行くことがどんどん起きる。しかも、地元の業者が点数が高くなるという入札の仕組みが日本にありますけれども、これは絶対アウトです。アメリカ差別ですから。これからは安かろう悪かろうが徹底される。値段だけでアメリカが落札して、とんでもないものをつくってもしょうがないといわなければいけない。

それから、最初の頃から冗談みたいな話で出てきたのは、日本語が参入障壁だと言われたらどうするかということです。英語じゃないとビジネスができないと言われたら。まさかそこまではといっていたら、日本はもう小学校から学校教育を英語にするといっている。東大もすべて授業は英語でするとかいう計画を出しています。すごい話ですよね。

もうひとつは内国民待遇の徹底というもので、資格・免許の相互承認ですね。いろいろな資格、獣医師さんとか弁護士さんとかマッサージ師さんとか、こういうものはアメリカで資格を取れば日本で働けるように広げていくというものです。すでに韓米FTAでは、エンジニアから始めると書いてあるんです。今でこそ韓米FTAはTPPのようなものだと言うことで、これだけ議論になっていますけれども、このことを最初に教えてくれたのはアメリカ政府だったんですね。日本のみなさんはTPPがわからないと言うけれども、韓米FTAを見ればいいと日本政府に言ったんです。そうしたら日本政府は震え上がった。これを国民が見てしまうとTPPの内容がばれてしまう。韓米FTAの内容をできるだけ国民の目に触れないように隠し通せ、という箝口令を敷いたんですね。

それでまた良識ある役所の方が私のところに飛んできた。韓米FTAの内容をみんなに伝えたいと、その条文を訳して問題点を書いてきて、君に渡すからこれをみんなに伝えろということです。この前に書いた「TPP48の間違い」という本の付録には、彼が必死の思いで届けてくれたものがついています。「1%の1%による1%の協定」という言葉でTPPを表現したのは、ノーベル経済学賞も受賞したアメリカのスティグリッツ教授ですね。アメリカでも1%の方々が40%の富をコントロールしている。彼らが儲けるためのTPPなんだから日米の国民の利益なるわけがないじゃないか、と日本に来たときの記者会見で彼は言っています。

非常に象徴的なのが、学校給食に地元の食材を使いましょうというのもアウトです。なぜならアメリカ差別ですからね。韓米FTAで、韓国では学校給食条例が廃止になってしまった。やめなければISDSで損害賠償だぞといわれると、もうやめちゃった方がいいやとなるわけです。訴訟費用を払ってもアメリカに勝てるわけがない。韓米FTAでは、数え方にもよりますけれども160とか180くらいの法律、条例が廃止、改悪してしまったという状況です。

学校給食がダメだということは、要するにいろいろな地域で地元の産業を振興するための政策、予算が全部アウトということです。地方自治行政も全部アウトです。アメリカでも州がこれに気がつき始めた。こんなことで逆にわれわれが訴えられたりしたら州政府が潰されてしまうではないかと、50州の州議会議員が反対の署名を出すことにもなった。アメリカでもいろいろな反対があるのに、それでもなぜアメリカはTPPを進めるのか。日本は進めるのか。まさに1%が40%の富をコントロールしていますから、選挙資金が必要な政治と、回転ドアの官僚と、スポンサー料のマスコミと、研究資金の一部の研究者が結びついて、国民の99%をだましてしまえとやっているわけです。

最大の損失で最小の利益という史上最悪の選択肢

こうやって国民生活をがたがたにして、経済的メリットはTPPでGDPの0.5%か0.6%増えても、日中FTAの、2国のメリットよりも少ないくらいしかない。アジア中心のFTAの半分しかない。いかに最悪の選択肢かということです。失うものは最大で、得られる利益が一番少ない。

われわれが得られる利益はTPPじゃなくて、アジアの国々と仲良くして、もっと柔軟でみんながお互いに幸せになれるような経済連携のルールを、日本がちゃんと考えるべきなんです。0.数パーセントの利益も水増しでして、われわれが計算すると利益がマイナスになる。内閣府のモデルを、条件を変えて計算をし直しました。こういう数字は、仮定を変えるだけでいくらでも数字がいじれる。こういう分野を専門にしている私がいうんだから間違いないです。生産額は、農林水産業だけじゃなくて食品加工業、建設業、輸送業、その他のサービス業、全部マイナスですよ。利益を得るのはやっと自動車で3.2兆円とかくらいです。しかも自動車の3.2兆円の利益は、アメリカが関税を撤廃しないといっているんだから、唯一の利益さえ出てこない。本当にバカな話です。

農業攻撃の話も民主党政権の時からですけれども、例えばGDPの1.5%しか占めない農林水産業を守るために残りの98.5%を犠牲にしていいのか、みたいなとんでもない議論が行われました。NHKの国際討論番組でアメリカの大学教授がこのことを言い始めたので、頭に来て言い返そうかと思ったんですが、アメリカの市民団体・パブリックシチズンのローリー・ワラックさんが言ってくれました。失礼なことを言っちゃいかん、農林水産業というのは狭い経済で考えFTAごとの日本のGDP増加率の比較ちゃいけない。仮にGDPの1.5%だとしても国民の命と環境を守っている産業であるから、1%の人たちが消費者の100%を支えているんだ、そういうことを考えなさいということでした。

「食料自給は必要ない」のウソ

私たちの仲間でTPP反対の大学の教授の会というのが1000人近くいるんです。そこの計算では、農林水産業は全国で3兆円の生産損失が生じれば、それは全産業では4.6倍の13.6兆円になる。つまり東京だとぴんと来ませんけれども、ちょっと郊外に出れば、地域というのはまさに農林水産業がまずあって、その関連産業が土台になって成り立っている。そして商店街ができてコミュニティができているわけだから、そういう波及効果を無視した議論はおかしいし、一番の問題は日本の方々が安さに飛びつく国民性、この部分が大変な問題です。

世論調査をすると、ほぼ9割の方は高くても国産を買いますといっているんだけれども、食糧自給率は39% だから、実際の行動ではウソをついているわけですね。他の国はすごいですよ、食糧は「武器」ですから、良くも悪くも気合いの入り方が違う。戦争が好きで困ったものだったブッシュ前大統領は、農協関係に必ずお礼を言っていた。「食料自給はナショナル・セキュリティの問題だ。皆さんのおかげでそれが常に保たれている米国は、なんとありがたいことか。それにひきかえ、(どこの国のことかわかると思うけれども)食料自給できない国を想像できるか。それは国際的圧力と危険にさらされている国だ。(そのようにしたのも我々だが、もっともっと徹底しよう。)」括弧内は私が付け加えたものです。

さらに驚くべきことに、アメリカでは大学教授もすごいですよね。ウィスコンシン大学の教授が農業経済学の授業で、「食料は軍事的武器と同じ『武器』であり、直接食べる食料だけでなく畜産物のエサが重要である。まず、日本に対して、日本で畜産が行われているように見えても、エサをすべて米国から供給すれば、完全にコントロールできる。これを世界に広げていくのが米国の食料戦略だ。そのために、皆さんも頑張れ」という趣旨の話をしているわけです。そういう戦後のアメリカの食糧戦略のもとで、日本がどんどんコントロールされてきたわけです。われわれは原発でも思い知らされました。目先のコストが安いと思っていざというときのコストを考えていなかったら、それは取り返しがつかなくなる。

食糧がそうです。日本でつくるのは高い。アメリカやオーストラリアから輸入すればいいということなったら、2008年のような食糧危機が起きて輸出規制が起きたら、お金があっても売ってくれない状況が何年も続いたらどうですか。実際にハイチやフィリピンでは、お金があっても買えなくて死者が出たわけです。ですから日本でがんばっている人たちを、コストが高いように見えても支えていくことこそが、実は長期的にはコストが安いと思わなければいけないのに、日本はなかなかそういう認識がない。しかもアメリカは食糧で世界を牛耳ろうとしていますので、穀物3品目だけで1兆円も補助金を使って売りさばいているわけです。TPPをやっても1兆円は使い放題で、日本はすべてゼロにしろと言われている。

「過保護な日本農業を輸出産業に」のウソ

日本の農業が過保護だというのも、よく考えてみると全然違うわけですよ。日本の輸出補助金はゼロですよ。日本のものはおいしいけれども高い。その輸出を伸ばそうと言っていますけれども、アメリカはさらに1兆円も使って安いものをさらに安くして売りさばいているわけで、輸出だって競争にならないわけです。それに関税が高いっていうけれども、高いのは1割で、他の9割の農産物は、野菜は3%くらいの関税しかない、農産物の花はゼロ関税ですよ。9割の関税を世界で最も安くして戦っているのが日本です。農産物の平均関税は12%くらいでEUの半分しかない。だからこそ自給率が39%になっているんでしょ。農業鎖国なんてことを言うコメンテーターがいるけれども冗談じゃないですよ。世界でもっとも解放されているわけです。

先進国で身体の原材料の61%も海外に依存している国なんてどこにもないです。すでにFTAで出てくる原産国ルールでいうと、みなさんの身体はもう国産じゃないです。半分はアメリカ産、半分は中国産に近づいている。他の国ではいまでもお米とか乳製品の生産が増えると、これ以上下がったら農家が潰れちゃうという価格をちゃんと決めてあって、政府が無制限介入するわけです。そして補助金を付けて、援助にまわしたり輸出にまわすんです。そういう仕組みがないのは実は世界で日本だけです。農業所得に占める補助金の割合って、日本はずいぶん高いように言われていますけれども、平均で15.6%ですよ。政府のお金は所得の15.6%しか入っていない。EUは、農業所得の95%が補助金です。そんなの産業かと思われるかもしれませんが、命を守り環境を守っている産業は国民がみんなで支える。これが当たり前なんです。当たり前じゃないのが日本です。

このことを考えて、いまの日本の農業の状態を誤って認識すると、過保護な農業だ、だから自給率が下がった、高齢化が進んでいる、というのは逆なわけです。過保護だったら儲かるわけでしょ。所得が減ってみんな困っているんだから過保護なわけがない。逆にアメリカは競争力があるのかというと、そうではなくて補助金をいっぱい使って売りさばいているという戦略の違いです。こういうことを間違って考えて、過保護な農業をTPPで競争にさらせば強くなって、輸出産業になるということをやったら、もう最後の砦まで失って息の根を止められちゃう。ここを間違うと大変なことになることを忘れてはいけない。

それなのに安倍総理は、TPPをこれ以上進めて農業所得は10年で倍増だと言っているんですね。農業政策もひどいですよ。みんなの声を受けて所得のセーフティーネットをつくろうとやってきた政策を、全部なくしちゃうんですよ。農協も解体すると言っている。ここまでやってなぜ農業所得が倍になるのか。それがなるんですよ。びっくりますけれども、いままでがんばってきた人は全部潰れていいと言うんです。本当に1%くらい平場で儲けられるところ、ローソンファームとかパソナファームが入ってきて企業的農業がわずかに残って儲ければ、その所得が倍になればそれも所得が倍じゃないか。あとの99%はいらないということです。

これはむちゃくちゃですよね。地域が全部潰れているわけです。地域の伝統も文化もコミュニティも潰れて、そこにローソンファームとパソナファームがひとつぽつんとあったって、それさえ生きていけないことさえわからないというアホな話です。その象徴は、竹中平蔵さんが高知県の山間部に行って、なんでこんなところに人が住むのか、早く引っ越せ。こんなところに人が住んで、税金使って農業やって、行政もやらなければいけないんだから、これだけ無駄な金がかかることが無駄だ。早く原野に戻せと言ったということです。アベノミクスの極致みたいな話です。

これはわれわれが考えている幸せな社会とはまったく逆です。「いまだけ、金だけ、自分だけ」の政策を都合よく進められたら、みんなもたないということで、この暴走をいろいろな意味で止めないと本当にいろいろなことがひどい状況になっています。是非みなさんがそれぞれのお立場から、さらにいろいろなうねりをつくっていただくようにがんばっていただければということです。

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石原慎太郎議員の憲法前文の助詞批判について

半田 隆(市民連絡会事務局)  

産経新聞の7月9日付け朝刊に、石原慎太郎議員のインタビュー記事が掲載されました。彼は、その後段の部分で憲法前文の助詞の使い方がメチャクチャだから、その部分だけでも先に憲法を改正せよ、という主張をしました。そして、朝日新聞でも(私の指摘を)間違っているとは言わないだろう、ということを付け加えたのです。しかし、石原議員が指摘した助詞の用法についての解釈は余りにも軽佻であり、このような俗解がまかり通るのを看過すべきではないと考え、産経新聞の「談話室」に一文を投稿しました。それから1月余を経ても掲載されないことから、「私と憲法」に載せていただくことにしました。括弧で括ったのが、その全文です。

「憲法前文の助詞について
貴紙の7月9日付『単刀直言』の石原慎太郎氏のインタビュー記事を拝読しました。その後段で、石原氏は憲法前文の助詞の用法がメチャクチャだと指摘されました。『平和を愛する諸国民の公正と正義に信頼して…』は、『公正と信義を』が正しく、『全世界の国民がひとしく恐怖と欠乏から免れ…』は『欠乏を免れ』が正しい日本語であると主張されました。しかし、この指摘は皮相にすぎます。
理由は、『公正と信義』は所与のものではなく、相互の努力によって辛うじて確保されるものです。『を』では『公正と信義』が所与のものと見做されますから、多義的な助詞である『に』を充当したのです。『ひとしく恐怖と欠乏から免れ』において、『から』としたのは歴史的現実に則った用法です。大戦後の世界は、戦火による破壊と殺戮、および植民地支配による『恐怖と欠乏』の中にありました。その世界の実態に鑑みて『恐怖と欠乏状態から免れ』る権利を確認するために、『から』としたのです。『を』では、『恐怖と欠乏』が単なるレトリックと受け取られましょう。」

石原慎太郎議員が批判した、憲法前文の段落を抜粋します。「日本国民は恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、我らの安全と生存を保持しようと決意した。われらは平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと務めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和の内に生存する権利を有することを確認する」。

石原議員の助詞の用法批判が的外れなのは、200近くある日本の助詞の機能の理解不足にあります。焦点の「に」・「から」・「を」は、いずれも格助詞に分類され、用法には重複するところがあります。「に」は「位格と並立」助詞で用法は28種あり、「から」は「奪格と接続」助詞で用法は10種、「を」は「対格」助詞で用法は6種です。

「公正と信義に信頼して」の「に」は「志向対象」の用法として妥当であり、「恐怖と欠乏から」の「から」は確定性に乏しい「根源」的な事象の用法としてやはり正当だと解すべきです。「を」は主として具体的な対象を示す用法であることから、不確定事象である「公正と信義」および「恐怖と欠乏」に「を」を充当するのは不適切なのです。

仮に、石原議員が好む「を」を当て嵌め、「公正と信義を信頼」や「恐怖と欠乏を」とすると、憲法前文は単なる言葉の羅列と化し、空疎なものに堕してしまうことになります。すなわち、石原議員の用法批判は、助詞の機能を無視しているばかりか、構文の文脈への配慮を欠き、句や節の中の慣用法のみに拘った俗論の類といえます。

憲法前文の起草者は、大戦後の悲惨な実態を体感した者として、「木を見て森を見ない」石原議員のような誤釈は避けたいと切望していたことでしょう。残念ながら、石原議員のような皮相な解釈をする人は後を絶ちません。憲法前文が単なる理念の羅列ではない深遠な哲学となり得ているのは、助詞の選択が適切であることも寄与しているのです。

なお、現在の国際社会は、「公正と信義」が確保されているとは言い難く、大戦後ほどではないにしても、「恐怖と欠乏から免れ」ていない人々が数多存在するという実態の中にあり、憲法前文が希求した世界は実現していません。これは、何に起因しているのでしょうか。

因みに、憲法前文は、文豪の山本有三が戦後に政治家に転じ、貴族院議員となった時期に監修したということです。

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