私と憲法151号(2013年11月25日号)


安倍政権の改憲暴走と苦境、そして私たちの課題

安倍首相らは「国家安全保障会議(日本版NSC)設置法」の衆院での採択に続いて、これと一体の「戦争準備法」である「特定秘密保護法」をなんとしても、この185臨時国会で成立させようと、各界から一斉に噴出している反対の声に逆らって、必死の画策を続けている。彼らは高まる世論の批判を緩和するために一部野党の支持を取り付けようと、みんなの党、維新の会との修正協議をとりまとめ、さらに民主党も修正協議に引き込もうとしている。そのため当初の21日衆院採決の予定は引き延ばしされ、本誌が読者のところに届く頃は、その攻防が頂点に至っているかも知れない。これに反対する運動は急速に盛り上がり、11月21日には日比谷野外音楽堂で「STOP!『秘密保護法』11・21大集会」が広範な人びとの共同で開催され、約1万名の人びとが結集し、集会のあと国会と銀座に向けてデモ行進した。主催の実行委員会には新聞労連、平和フォーラム、5・3憲法集会実行委員会、秘密法に反対する学者・研究者連絡会、秘密法反対ネットの5団体がよびかけ団体として結集した。私たち「許すな!憲法改悪・市民連絡会」は、「5・3実行委」と「反対ネット」の両方に参加し、協力している。本稿では集会の詳細は報告できないが、政党からは、集会に30人以上の国会議員が参加し、民主党、共産党、社民党、無所属の議員などの挨拶を受けた。
私たちは安倍晋三首相が企てる改憲の布石である集団的自衛権を行使可能な国にするための、これらの戦争準備諸法制の成立を絶対に許すことができない。

安倍政権の<長く厳しい1年>

11月14日の報道によれば、安倍首相はちょうど1年前の例の民主党・野田佳彦前首相との党首討論で「解散の約束」を取り付けて以来の活動を振り返り、「『あっという間のようですね』と言う友人もいるが、私にとっては長く厳しい1年だった」と心境を吐露した。

総選挙で圧勝し、ひきつづく参院選でも勝利をえて、国会の両院で安定多数を確保し、いわば6年前の第1次安倍内閣のリベンジを果たし、順風満帆に見える安倍晋三が、こういう発言をしたことに意外さを感じた人は少なくないだろう。しかし、筆者はこれは安倍のある部分の本音を吐露した言葉だと思う。

2012年4月27日、自民党は在野の時代に自民党改憲草案を作成し、その実現を「歴史的使命」とした。サンフランシスコ講和条約発行60周年にあわせて発表したこの改憲草案は、その後、自民党総裁に返り咲いた、<戦後レジームからの脱却>を企てる安倍晋三ら自民党改憲派の綱領そのものであった。彼らは日本国憲法のもとで「戦争ができない、戦争をしない」とされてきた戦後国家体制を変え、米国と共に「戦争をする国」への飛躍を果たし、アジアと世界で覇を唱える日本を夢見ている。野田民主党のひ弱さにつけ込んで政権の奪回を果たした安倍自民党は、「日本を取り戻す」と叫んで、この改憲草案の描く日本の実現めざして大いに意気込んだ。それから1年、この仕事は必ずしも安倍首相らが描いたようには進まなかった。まさにこの点で安倍晋三にとって「長く厳しい1年」だったのである。

第1次安倍内閣に於いては、憲法9条の明文改憲を打ち出したが、その企ては全国で一斉に高まった「9条改憲反対」の世論の前に破産した。第2次政権では安倍晋三らはその経験を総括し、9条からではなく、憲法96条からの明文改憲推進という方針をとった。総選挙での大勝利の勢いに乗って、96条改憲なら、世論の支持を得て、明文改憲を実現できると考えたのである。しかし、安倍らの期待に反して、戦後68年にわたって、とりわけ日本国憲法とその平和主義をはじめとする3原則の下で、闘い、積み重ねてきた民衆の運動とそれによって作られてきた民意は、96条先行改憲論が日本国憲法の根本的原則である立憲主義の破壊であることを見抜き、96条先行改憲に反対する運動が短期間のうちに急速に高揚した。参議院選挙で96条改憲をねらう明文改憲3派(自民、維新、みんな)で3分の2議席の確保という目標は失敗に終わった。安倍首相は「96条先行改憲を強行しても、国民投票の場を含めて、勝利はできない」と考えざるを得なくなった。これは安倍首相の大誤算であり、96条改憲反対運動の大きな勝利だった。

加えて、アベノミクスともてはやされた安倍首相の経済政策の矛盾は深刻になり、消費税導入を前に社会的格差が拡大していること、外交においても隣国の中韓両国との関係が最悪で、これらのことが肝心の日米関係にも影を落としている。TPP、普天間などなど気が休まらない。ちなみに「産経新聞」の報道によると、自民党の石破幹事長は「名護市長選のことを考えると、夜も眠れない」とぼやいたという。安倍政権の<長く厳しい1年>は続いている。

明文改憲策動の2度の破綻と、解釈改憲への転進

「9条改憲」を掲げた第1次安倍内閣の破綻と、第2次安倍内閣での96条先行改憲論の失敗で、安倍首相は自民・維新・みんな3党連携への移行ではなく、自公連立政権の維持と解釈改憲による集団的自衛権の行使(戦争する国)を可能にする道を模索しはじめた。そのため、内閣法制局長官の事実上の更迭や、集団的自衛権合憲論の北岡伸一国際大教授などを中心にした「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の再起動や、「安全保障と防衛協力に関する懇談会」の始動を積極的にすすめている。

安倍首相は安保法制懇や安保防衛懇で世論を地ならしし、集団的自衛権行使の合法化をめざし、「国家安全保障基本法」を制定し、このもとで、自衛権に関する憲法のしばりを解き、歴代政権の確認を覆そうとしている。しかし、この企ては当初は13年年内の予定であったが、今日、その行程表は大幅に遅れている。

集団的自衛権の行使合憲解釈に関する世論の反対の声とそれを背景とする公明党の抵抗は、安倍の予想を大きく上回るものであった。この「国家安全保障基本法」の制定のためには公明党を説得し、その支持を獲得することが不可欠である。すでに安倍首相は年内の公明党の説得を断念し、来年、第186通常国会の予算成立後、「夏頃に」という大幅に先延ばしした日程をリークし始めた。同時に、その期間に公明党に対して、集団的自衛権行使の内容を「自国の存立損なわれる事態」に限定する案などを提示して、妥協を図ろうとする方策を検討するなど、懸命になっている。

国家体制の整備と、戦争する能力の両面での「戦争する国」の準備

見逃せないことは、時間のかかる「国家安全保障基本法」の制定を待たずに、実質的に集団的自衛権行使ができる「体制」を先取りして推進する動きである。いま、安倍政権は「戦争する国」の国家体制づくりとして、その司令塔的機能を果たす「国家安全保障会議(日本版NSC)」を作り、そのもとでの総合戦略としての国家安全保障戦略(NSS)を策定しようとしている。185臨時国会に提出された「国家安全保障会議設置関連法」案と「特定秘密保護法」案は「戦争する国」のための戦争法整備の先取り的具体化である。これら様々な形で立法化されようとしている悪法にシングル・イシュー的な運動で反撃するのではなく、安倍の「改憲=戦争する国」づくりの流れとして、全体的に、総合的にとらえて、反対する運動を作ることが求められている。

一方、戦争する「能力」づくりの方面での動きも具体化している。政府は「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の答申や、「安全保障と防衛協力に関する懇談会」(座長・北岡伸一)によるNSSの原案の提言などをもとに、年内に「新防衛大綱」を閣議決定し、またすでに開始した日米安保ガイドラインの見直しに向けた2+2の協議を経て新ガイドラインを来年中に策定することなどが計画されている。

この中で自衛隊は、従来からの「専守防衛」の自衛隊から、海兵隊的機能や敵基地攻撃能力の保持など、文字通り海外で(宇宙においてまで)米軍と共に戦争をする自衛隊への変容した体制が企てられている。「防衛大綱」の策定はその一里塚にされるだろう。こうした動きの中で、オスプレイの全国的展開と、11月はじめから約半月にも及ぶ沖大東島での自衛隊3万4千人による一大軍事演習などが行われ、北東アジアの軍事的緊張を激化させていることは重大である。

すすめられつつある自衛隊の変容は日米安保体制の変容にもつながるものであり、新ガイドラインの策定ではこの具体化が求められるが、米国政府は安倍政権の要求を支持しつつも、必ずしも積極的ではない。

明文改憲はひきつづき自民党の念願

一方、自民党は明文改憲の目標を後景にさげながらも、自らが提起した「改憲草案」の実現に向けた明文改憲をあきらめてはいない。
自民党憲法改正推進本部(保利耕輔本部長)は、年内に開催する「改憲草案」の宣伝を目的にした全国対話集会に備え、党所属議員の理解を深めるため憲法改正草案の勉強会を11月末から12月はじめにかけて3回、開催するなど、この国民的浸透に懸命だ。

一方、党内では明文改憲のための前提ともいいえる「改憲手続き法」の不備の取り繕い=附則の改定を急いだが、党内と与党の公明党から不満が噴出し、「改定案」の策定が難航して、臨時国会中の提出が困難になった。問題は「18歳以上」と規定されている国民投票の投票年齢について、当初、自民党執行部は国民投票のみを「公選法」や「民法」の規定と切り離して「18歳以上」とする改定案でとりまとめをはかったが、党内の右派から一斉に反発され、当面「20歳以上」とする方針に転換した。ところが今度はそれに公明党が「約束違反だ」と強く反発したのである。こうして自民党内の改憲積極派が念願の明文改憲の条件整備のための改憲手続き法の整備の足を引っ張るという奇妙な事態になって、安倍執行部は手を焼いている。

改憲に向かって暴走する安倍首相の弱点

国会の両院で安定多数をえて、念願の改憲に向けて突っ走ろうとする安倍政権の前には幾重もの困難が立ちはだかっている。
第1に、明文改憲、集団的自衛権、秘密保護法、原発再稼働・推進、TPP、消費税導入などなどの安倍政権の重要政策のいずれもが、世論の多数の支持をえられず、永田町の議席と「ねじれ」状態にあることである。

第2に、安倍政権の成立以来、日米間に重大な「すきま風」が吹いていることである。米国のオバマ政権は安倍政権の「戦後レジームからの脱却」というコンセプトに不信を抱いている。日本の動かすことのできない隣国である中国、韓国に対する歴史問題、領土問題などでの緊張の激化政策は、オバマ政権にとって好ましい事態ではない。来年春のオバマ来日に向けて、日米間の厳しい駆け引きが行われることは間違いない。

第3に、小選挙区制下での選挙という条件のもとで、野党時代にハト派を収縮させ、よりタカ派的に純化した自民党は、連立政権の相手の公明党との矛盾を激化させている。公明党の支持なしに政権を維持できない安倍政権が連立政権内の調整をすすめれば、安倍政権に期待し、それを支えてきた極右勢力の批判と離反を招かざるを得なくなる。この問題は9条改憲、96条改憲、靖国参拝、中韓両国との領土問題などをはじめ、ほとんどの重要政策で深刻な二律背反の矛盾を招いている。

第4に、安倍政権への有権者の支持をつなぐ最も重要な課題である経済政策、アベノミクスの停滞である。呪文のような「アベノミクス」のもとに、「大胆な金融政策」と「機動的な財政政策」による景気刺激策をとってみたものの、景気は回復せず、「世界で一番企業が活動しやすい国」づくりは一部大企業が富むだけで、庶民の暮らしは停滞し、格差がいっそう拡大した。アベノミクスの結果、より深刻になった未曾有の国家財政の危機はまったなしの綱渡り状態で、経済・財政政策の面からも安倍政権は重大な苦境に立たされている。
これらの困難が改憲に向かって暴走する安倍政権の足下を脅かしている。

改憲と集団的自衛権の行使、戦争の道を歩む安倍政権は打倒する以外にない。私たちに問われているのは、そのことによってこの危険な道の暴走を食い止めることである。この点で、11・21集会が実現したような幅広いネットワークを形成できるか、どうかが問われている。各政党や労働組合には歴史的経過があり、その共同は必ずしも容易ではない。しかし、11・21では困難はあったが一部「連合」系有力労組と、「全労連」などが共同した。私たちは歴史的な大義の前には違いを留保し、それを乗り越えなくてはならない。

私たちは、意見の違いを暴力と強迫で解決しようとする運動を正当化する一部勢力(こうした運動は結果的に共同の破壊につながるからである)を除いて、すべての反安倍政権の勢力が共同するよう呼びかける。その初歩的ではあるが第1歩を「11・21STOP!『秘密保護法』大集会」が獲得したと考える。この「11・21集会実行委員会」の1日共闘は、22日、一旦解散し、「『秘密保護法』廃案!実行委員会」に再組織され、185臨時国会中の秘密法反対の課題に協同して対応することになった。そして、直ちに12・6大集会などが提起された。
私たちはこの決定を歓迎する。求められていることは、これをさらに安倍改憲暴走政権を打倒する課題に向かって、前進させることである。
(事務局 高田健)

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明文改憲も立法改憲も認めない! 2013年11.3憲法集会

11月3日、東京の全水道会館で開かれた「2013年11・3憲法集会」は、強まる改憲の危機を反映して開会前から参加者が詰めかけた(参加者220名)。集会は鈴木伶子さん(キリスト者平和ネット)の「2度と戦争の過ちを繰り返さないために、今こそ反対の意志をはっきり表明するときだ」という主催者挨拶ではじまった。SALA13の若者(在日コリアンのリム・ジョンホさんと広島の平和教育で育ったかわもとりょうさん)から、平和のメッセージが詰まった音楽演奏の後、半田滋さん(東京新聞・論説兼編集委員)が1時間にわたり講演した。質疑応答の後実行委員会からの行動提起などをうけ、散会した。以下に半田さんの講演レジュメを紹介する。

2013年11.3憲法集会レジュメ
半田 滋(東京新聞・論説兼編集委員)

集団的自衛権のトリックと安倍改憲

はじめに
安倍政権は憲法改正を先送りして、解釈改憲によって集団的自衛権の行使容認に踏み切ろうとしている。改憲のための国民投票は必要としないので、投票の結果の否決、退陣という危険を冒すことなく、実質的に改憲を実現できる。実は「いまこそ好機」とみているのではないか。

「改憲前夜」
1 安倍政権の狙い
(1)内閣法制局長官を交代(改憲より国際法の外務省シフト)
(2)「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)の報告書
・報告書に基づき、集団的自衛権行使の容認を閣議了承
(3)先行する「安全保障と防衛力に関する懇談会」(安防懇)の報告書
・報告書に基づき、国連安全保障措置(海外における武力行使に参加)を閣議了承
(4)集団的自衛権行使、海外における武力行使を確実にする「国家安全保障基本法」案
※解釈改憲の足場を固め、今後3年以内に改憲のための国民投票を準備

2 集団的自衛権行使と自衛隊活動に大幅にズレ
・国連平和維持活動(PKO)では重機提供、操縦者養成する「日本モデル」確立
・ソマリア沖の海賊対処で、米軍の肩代わり
・イラク派遣でさえ、対処不能の自衛隊(交通事故、隊員の自殺)

3 「積極的な安保法制懇」と「のんびり自民党」
・北岡伸一座長代理「4類型にとらわれない。集団的自衛権の部分容認あり得ない」
↓ ↓ ↓ ????? ↑ ↑ ↑
・小野寺防衛相「米艦艇防護」、憲法改正推進本部の柴山昌彦氏「ミサイル迎撃」
※官邸主導。自民党の党内論議は不十分
※「安全保障環境は厳しさを増している」というが、尖閣や北朝鮮は個別的自衛権

4 破綻した4類型(集団的自衛権にかかわる2類型について)
・米艦艇は防護できない
・ミサイル迎撃も無理
・米国だけ狙われて日本は無関係のはずはない(個別的自衛権の問題)
・そもそも米国に戦争を仕掛ける国があるのか
・突然、追加された5類計
※ポジティブリストをつくっても意味がない

5 「すべて解禁」の異常
・「自衛隊の活動ありき」で示された過去の憲法解釈
・安倍首相は具体的な自衛隊の活動を何一つ示していない。メスからナタへ
↓ ↓ ↓
※本音は、米国による北朝鮮攻撃支援を想定か(周辺事態法では不十分との判断)

6 解禁後に想定される事態(シリア空爆を例に米軍から求められる事態)
(これまで)
・洋上補給(テロ特措法)
・軍事費拠出(湾岸戦争、コソボ空爆)
・陸上自衛隊による人道復興支援(イラク特措法)
(将来)上記に加えて
・護衛艦による洋上警戒
・F2戦闘機による地上攻撃(AWACS、空中給油機含む)
・陸上自衛隊による巡回

「法治国家を返上」
7 なぜ日米安保条約を改定しないのか(集団的自衛権を行使できないはず…)
「日米安全保障条約」
第5条  各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。(略)
第6条  日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。(略)
※「日本国の施政下」が安保の対象範囲。集団的自衛権行使の議論では触れていない
※「見合い」の第6条が空文化することを恐れているか
「日米ガイドライン」
基本的な考え方及び前提
1  日米安全保障条約及びその関連取極に基づく権利及び義務並びに日米同盟関係の基本的な枠組みは、変更されない。
2  日本のすべての行為は、日本の憲法上の制約の範囲内において、専守防衛、非核三原則等の日本の基本的な方針に従って行われる。(略)
※日米ガイドラインを大幅に変えないと、集団的自衛権行使はできない
※ガイドライン改定だけでは、集団的自衛権の行使容認は無理のはず

8 疑われる安倍首相の改憲意図
(1)2月15日自民党憲法改正推進本部での発言
・「1977年ダッカ・ハイジャック事件で、服役囚釈放は憲法のせい」
・「こんな憲法でなければ、横田めぐみさんを守れたかも知れない」
(2)4月17日読売新聞インタビュー
・「各国の硬性憲法の中で、日本はもっとも手続きが厳しい」
・「国会議員の3分の1をちょっと超える人たちが阻止できるのはおかしい」
・「自衛隊ではPKOで行っている人たちがからかわれる」
(3)「侵略の定義は学界的にも国際的にも定まっていない」(4月23日参院予算委)
・4月26日ワシントンポスト「日本が韓国、中国を侵略したのは疑いない事実」
・1974年国連決議3314「侵略の定義に関する決議」を知らない?
第1条(侵略の定義)
侵略とは、国家による他の国家の主権、領土保全若しくは政治的独立に対する、又は国際連合の憲章と両立しないその他の方法による武力の行使であって、この定義に述べられているものをいう。
国連憲章第7章(平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動)(略)
(4)靖国神社、春の例大祭に国会議員168人(自民党132人)が参拝
・中国、韓国の批判に「どんな脅かしにも屈しない」
・8月15日には安倍首相が玉串料。閣僚3人が参拝。
※「積極的平和主義」は尖閣問題でこそ、必要

9 オバマ大統領から嫌悪感
・2月の首脳会談で共同記者会見なし
・池上彰「嫌われているのでは?」との問いに「日米同盟があるから大丈夫」
・米議会報告「右翼の国粋主義者」、安倍首相「右翼の軍国主義者で結構」(米国)
※近隣諸国との関係悪化、国際的孤立の恐れ。

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【解説「特定秘密保護法案」】「特定秘密保護法案」は危険がいっぱい
“何が秘密?それは秘密”どこまで秘密?どこまでも、いつまで秘密?いつまでも

筑紫建彦(憲法を生かす会)

はじめに

「特定秘密保護法案」の「理由」には、“国際情勢の複雑化に伴い情報の重要性が増大”とか、“高度情報通信ネットワーク社会の発展に伴い漏えいの危険性が懸念される”と書かれています。あまりに抽象的で、説明になっていません。また、法案の柱になっている「安全保障」という言葉は、狭義の軍事的な概念だけでなく、外交、治安、「その他」何でも含まれうるものとして用いられています。

安倍首相と自民党は、強力な国家体制を築いて自由と基本的人権を縛り、「国防軍」を置いて集団的自衛権の行使(=戦争)をする日本にするため、憲法を変えようとしています。「特定秘密保護法」と「国家安全保障会議」(日本版NSC)は、その重要な要素とされ、海外で武力行使をする態勢を本格化するために、軍事情報、外交情報、警察の治安情報などを厳格な秘密とするものです。

加えて、政府や官僚たちが、自分たちの不正や汚職や失敗など知られたら都合の悪い情報も「秘密にできるなら、保身や政治的延命が容易になります。国民に真実を知らせない、知ろうとする者には厳罰を下す――これこそ“独裁者の論理”です。

1、何を「特定秘密」とするか

● 防衛に関する事項
イ、自衛隊の運用またはこれに関する見積もり、計画、研究
ロ、防衛に関し収集した電波情報、画像情報その他重要な情報
ハ、その情報の収集整理、その能力
ニ、防衛力の整備に関する見積もり、計画、研究
ホ、武器、弾薬、航空機その他の防衛用の物(船舶を含む)の種類、数量
ヘ、防衛用の通信網の構成、通信方法
ト、防衛用の暗号
チ、武器、弾薬、航空機その他の防衛用の物、その研究開発段階のものの仕様、性能、使用方法
リ、武器、弾薬、航空機その他の防衛用の物、その研究開発段階のものの製作、検査、試験の方法
ヌ、防衛用の施設の設計、性能、内部の用途

● 外交に関する事項
イ、外国政府、国際機関との交渉・協力の方針・内容のうち、国民の生命・身体の保護、領域保全その他の安全保障に関する重要なもの
ロ、安全保障のために実施する貨物の輸出入の禁止その他の措置、方針
ハ、安全保障に関し収集した、条約・国際約束に基づき保護が必要な情報その他の重要な情報
ニ、その情報の収集整理、能力
ホ、外務省本省と在外公館の間の通信その他の外交用暗号

● 特定有害活動*の防止に関する事項(*漏えいが日本の安全保障に支障を与えるおそれがある情報を取得するための活動と、核兵器、生物化学兵器やその運搬ロケットなどの開発・製造・使用・貯蔵に用いられるおそれが特に大きい物の外国の利益を図る目的での輸出入活動)
イ、特定有害活動による被害の発生・拡大の防止のための措置、計画、研究
ロ、特定有害活動の防止に関し収集した外国政府、国際機関からの情報その他の重要な情報
ハ、その情報の収集整理、能力
ニ、特定有害活動の防止用の暗号

● テロリズムの防止に関する事項
イ、テロリズムによる被害の発生・拡大の防止のための措置、計画、研究
ロ、テロリズムの防止に関し収集した外国政府、国際機関からの情報その他の重要な情報
ハ、その情報の収集整理、能力
ニ、テロリズムの防止用の暗号

◇コメント
(1)「防衛に関する事項」について
  1. 防衛省が公表または宣伝するもの以外は、すべての情報を「特定秘密」に指定できることになります。自衛隊が導入を予定するオスプレイや無人機は、“自衛隊独自の仕様や性能”として「特定秘密」に指定され、その「運用」や「訓練計画」も公表されないことになるでしょう。
  2. 「イラクに派遣された自衛隊の装備や収集した現地の事情などの情報」について、防衛省防衛政策局次長は「一般論として該当する可能性がある」と答弁。名古屋高裁がイラクでの空輸活動を憲法違反と判断したような実態も、これからは刑事罰を伴って隠されることになります。
  3. 2007年に、陸自の情報保全隊が、自衛隊のイラク派兵に反対する平和団体や個人(41都道府県の289団体・個人)を監視し、調査報告書を作成していたことが明らかになりました。当時の守屋事務次官は「防衛省設置法に基づく調査・研究だ」と、久間大臣は「マスコミの取材の場合は良くて、自衛隊ならダメだという法律の根拠はない」と居直りました。このような思想・良心の自由や集会・結社の自由を侵害する自衛隊の活動の実態や文書も、「特定秘密」に指定されるでしょう。
(2)「外交に関する事項」について
  1. 「外国政府、国際機関との交渉、協力の方針、内容、その他の安全保障に関する重要なもの」、「安全保障のために実施する、その他の措置、方針」、「安全保障に関し収集したその他の重要な情報」など、“その他”がいくつもあり、何でも「特定秘密」に指定できる仕組みになっています。
  2. 1971年の沖縄返還協定の裏では、土地の原状回復費用は日本側が負担する密約を結んでいました。それを報道した毎日新聞記者・西山太吉さんは、女性事務官に秘密漏えいを“教唆”したとして逮捕、起訴され、有罪になりました。当時の佐藤首相は、沖縄返還を“核抜き、本土並み”と宣伝しましたが、実は「緊急事態の際は、核を持ち込む権利が認められる」という密約をしていました。安倍首相は官房長官時代に、「密約は一切、存在しないというのが政府の立場だ」と強弁。
  3. 岡田内閣府副大臣は、TPPなどの交渉方針や内容も“安全保障に関する重要事項”に該当する可能性に言及し、「特定秘密」に指定することもありうるとの答弁をしました。これでは、私たちの経済生活や社会、国際関係が、TPPによってどうに変わるのか、知ることはできません。
(3)「特定有害活動の防止に関する事項」について
  1. “我が国の安全保障に支障を与えるおそれがある情報を取得するための活動“という漠然とした定義では、記者や研究者、市民が、政府や官僚が秘密裏に行っている不法不当な行動や知る価値のある情報を得ようとしたり、それを記事や論文で明らかにすることも厳罰の対象になりえます。
  2. 「最近では、04年の米英首脳会談の極秘メモを国会議員周辺に漏らした英内閣府職員らが逮捕され、3カ月の禁固刑を受けた。メモには、当時のブッシュ大統領が中東の衛星放送本社を爆撃したいと発言した、と記されていた」と報じられています。どちらが「有害活動」なのでしょうか。
  3. “外国の利益を図る目的で”行われたかどうか、“我が国の安全を害するおそれ”があるかどうかも抽象的です。ある情報を公表すれば、世界中が知ることになり、それを知った外国政府が何らかの対応をすることもありえます。それを“外国の利益を図った”とか、政府や官僚の不正暴露や信用失墜を“我が国の安全が害された”と強弁して公表者に厳罰を科すことにもなりえます。
(4)「テロリズムの防止に関する事項」について
  1. 「テロ」の定義は、実は国際的に共通なものとして確立していません。“政治上その他の主義主張に基づき国家や他人に強要”という、あいまいな表現は権力者に恣意的な判断を許し、「定義」とは言えないからです。「消費税を増税するな」「原発を再稼働させるな」「集団的自衛権の行使を認めるな」・・。これらの“政治上の主張”による“強い要求”まで「テロ」とされかねません。
  2. 森担当相は、「オウム真理教のテロ事件に関する情報も『特定秘密』の対象になりうる」と答弁しました。“治安維持に関する情報”と銘打てば、すべて「特定秘密」に指定されるでしょう。ある意味で、警察が集める情報はすべて“治安情報”ですから、警察(特に公安警察)の活動やその情報は、ますます闇の中に隠されてしまいます。
  3. また、森担当相は、原発の警備状況や警備計画は「特定秘密」指定されうると述べています。“テロ対策に必要”という理由さえ付ければ、原発の構造や各システムの性能・弱点なども「特定秘密」とされかねません。福島県議会は、「特定秘密保護法案」の撤回を求める決議を自公を含む全会一致で採択しました。私たちの脱原発の要求、運動を“防止”(=弾圧)するための“措置、計画、研究”も「特定秘密」とされ、原発情報の開示要求も拒否されるでしょう。]

2、誰が、どのように「特定秘密」を決めるか

(1)行政機関の長は、「別表に関する情報で、(安全保障上)特に秘匿が必要なものを特定秘密に指定」し、「指定に関する記録」を作成し、その物件に「特定秘密の表示」をすることになっています。法案では、政府の全省庁その他56もの行政機関のすべてが「特定秘密」を持つことができるようになっており、“安全保障”と“治安対策”には政府の組織を総動員するという構えです。

(2)一応、「政府は、特定秘密の指定、解除の統一的な運用のため、有識者の意見を聴いて基準を定める」となっています。“有識者会議”なるものが政府と官僚に都合のいい人物で構成され、政府と官僚の意に沿った報告を出すことは周知の事実です。そのうえ法案では、単に「意見を聴く」としかなっていません。政府は、“聴きおく”だけで、その意見に沿う義務はないのです。
また、有識者会議は一般的な“基準”について意見を述べるだけで、個々の具体的な情報が「特定秘密」に値するか、いつまで秘匿するかなどをチェックする権限はありません。要するに、第3者による監視・検証は一切行われず、政府はいくらでも勝手に「特定秘密」を決められるのです。
さらに、“有識者会議”は密室で行われ、審議内容も「特定秘密」になるでしょう。議事録を作るとの条項もありません。定められた“統一的基準”も、公表されることになっていません。

(3)「特定秘密」の有効期間は、“5年未満”となっていますが、さらに何度でも“5年未満”の延長ができ、30年を超えるときは、内閣の承認を得れば、さらに延長できることになっています。
米国でさえ、機密解除の期間を(1)10年未満、(2)それが困難な場合は上限10年、(3)情報の機微性を考慮して最長25年となっており、機密解除期間が安易に長期化されないよう、機密指定への異議申立てや、国立公文書館の情報保全監察局長による解除請求権、必要的機密解除審査、省庁間機密指定審査委員会、行政監察などの制度が組み込まれています。

(4)安倍内閣が新設を急ぐ「国家安全保障会議」(日本版NSC)は、すべての行政機関が持つ情報を集中できることになっています。その“実働部隊”となる「国家安全保障局」(NSA)が、外交、軍事、国内治安などに関する情報を収集・分析し、内閣に新設される「内閣情報官」がそれを吸い上げます。日本版NSCとNSAは、絶大な“情報権力”を持つことになるでしょう。

(5)米国でさえ、(1)例外的な重大な損害をもたらす「機密」、(2)重大な損害の「極秘」、損害の「秘」と3段階に区分し、「機密」指定が増えるのを抑制するようになっています。さらに、「法令違反や非効率性の助長、または行政上の過誤の秘匿」、「特定の個人、組織または行政機関に問題が生じる事態の予防」、「競争の制限」「国家安全保障上の利益の保護に必要のない情報の公開を妨げ、または遅延」させる目的で秘密指定を行うことを禁じています。
しかし、「特定秘密保護法案」には、こうした乱用抑制措置もありません。岡田内閣府副大臣はTPPなどの交渉方針や内容も「特定秘密」に該当しうると示唆しました。

(6)政府答弁では、現在の「特別管理秘密」は約42万件、うち内閣官房が約32万件、防衛省が4万7000件余り、外務省が1万8000件、公安調査庁が1万2000件です。しかし、「防衛秘密」は2002年以降、秘密解除後に国立公文書館に移管された文書は1件もなく、2007~11年の5年間に約3万4300件が廃棄されました。法案には、このような“闇から闇へ”を禁じる規定はありません。

3、「秘密」は権力機構の内部だけに封じ込める

(1)法案には、「特定秘密」を“開示”する場合の規定が並んでいます。しかし、その条件を点検すると、“開示”される「特定秘密」は、<行政機関相互間><警察庁と都道府県警察の間><適合事業者との間><外国政府・国際機関><捜査員・検事>や、秘密会・非公開審理での<国会議員><裁判所><各種の情報公開・個人情報保護審査会>に限られていて、それ以外は「何人も開示を求めることができない」となっています。
要するに、「特定秘密」は各分野の権力機構や特定の業者には“流通”しても、決してそれ以外の市民やメディアには“流出”しないように厳しくロックされているのです。

(2)“外国政府または国際機関”に提供する条項があることは、米国やNATO、オーストラリア、韓国その他の国と軍事情報や軍の運用・作戦、武器の開発・生産、“テロ情報”などについて緊密な協力・共同を強めていくことを意味しています。集団的自衛権の行使に踏み切り、「戦争する国」にするためには不可欠の要素なのです。
これにも関連して、「日本版CIAの創設を」という主張が自民党議員などから出ています。日本の軍事・外交政策の対象国の情報だけでなく、同盟国、協力国の動きも把握して、“情報で優位に”立とうというのでしょうが、このような諜報機関の創設は、“秘密情報”をますます増やし、社会に不安と緊張、不信と委縮をもたらすだけでしょう。

4、「適性評価」――「秘密」に接する職員・労働者の生活・人間関係・プライバシーを徹底調査

(1)法案は、“特定秘密の取扱者”を絞り込むため、行政機関の職員や警察官、「特定秘密」を扱う企業(適合事業者)の労働者に「適性評価」という名の徹底的な人物調査を行うことになっています。ただし、行政機関の長、大臣、官房副長官、首相補佐官、副大臣、大臣政務官、その他「政令で定める者」(警察本部長など)は「適性評価」を受ける必要はないとされています。

(2)この「適性評価」の有効期間は5年未満で、5年を超えて「特定秘密」を扱いつづける見込みの者や、「評価」には合格したがその後「特定秘密」を洩らす“おそれの疑いを生じさせる事情がある”(なんと回りくどく、あいまいか!)者には再度実施されます。

(3)「適性評価」の調査事項は、

  1. 特定有害活動やテロリズムとの関係(評価対象者の配偶者や父母、子、兄弟姉妹、配偶者の父母、子、同居人の氏名、生年月日、国籍、住所を含む)、
  2. 犯罪・懲戒の経歴、
  3. 情報取扱いの非違の経歴、
  4. 薬物の乱用や影響、
  5. 精神疾患、
  6. 飲酒の節度、
  7. 信用状態その他の経済状況

などとなっています。行政職員や警察官、「適合事業者」の労働者だけでなく、その家族や友人たちも、日常生活や社会的活動、思想傾向などを監視・調査され、自由とプライバシーは大きく損なわれます。このような包括的な秘密保護制度は、“監視社会”のレベルを飛躍的に高めます。

(4)防衛省では、「身上明細書」という形で自衛官や職員の個人情報を収集しています。その記入項目は、「帰化の有無、住所歴、学歴、職歴、外国への渡航歴、負債金額と返済月額、完済予定日、刑事処分の有無、配偶者(婚約者、内縁関係も含む)、親族、同居人、交友関係、所属団体(クラブ、連盟、運動、宗教、趣味)、アルコールや薬物の治療歴の有無」となっており、「適性評価」の調査項目と驚くほど似通っています。「特定秘密保護法」が成立したら、このような調査が行政機関と関連企業の全体に広がることになるのです。

(5) 企業の労働者や、場合によっては行政職員の「適性評価」を行うのは、公安警察になる可能性があり、「特定有害活動やテロリズムとの関係」を調べるとして、家族や交友関係、日常生活、思想傾向などまで調査されることになります。日常的な会話や通信さえ、調査対象になりかねません。

(6)評価対象者には、

  1. 調査事項、
  2. 行政機関の職員に本人や知人に質問させ、本人に資料を提出させ、各種の公務所や公私の団体に報告を求め、
  3. 疑いを生じさせる事情がある旨を告知し、同意を得て実施する

となっています。しかし、そう告げられた職員が“不同意”と答えるのは困難でしょう。

(7)「適性評価」の結果は本人に通知することになっていますが、適合事業者の従業員についての結果や、従業員が同意しなかったため「適性評価」が実施されなかったことを適合事業者に通知し、適合事業者は、その従業員が派遣労働者のときは、その雇用主に通知するとなっています。労働者が不同意や不合格の場合、経営者はその労働者を仕事から外すことになるでしょう。それは、とりもなおさず「解雇」に直結しかねません。法案には労働者への不利益扱いの禁止条項はないのです。

(8)行政機関の長は、「適性評価」の権限または事務を、その職員に委任できることになっています。それは、多くの行政機関の中に“調査機関”が常設されることを意味します。この調査機関は同僚の職員を絶えず監視し、その日常生活や交友関係、言動を“評価のための情報”として収集・記録していくでしょう。そして、何が「特定秘密」か分からないのですから、一般職員の業務上の情報収集も、いつ“情報を漏らすおそれがある動き”とされるか分からないことになります。

(9)この結果、今でもがんじがらめの階級制で縛られている官僚・警察機構の中に、もう一つの“位階”が生まれます。「適性評価」を受ける必要がない者、「特定秘密」を扱う資格のある者、初めから「適性評価」の対象にもならない者、そして「適性評価」で“疑いがある”とみなされた者、という序列です。この“事実上の位階制”は、職務・職階と違って隠然としたものですが、その基準が「秘密取扱資格」だけに、官僚・警察機構の中に差別、屈従などの陰湿な人間関係をもたらすでしょう。

5、懲役10年+罰金1000万円!

「特定秘密」の“漏えい”に対しては非常な重罰が加えられることになっています。
●「特定秘密の取扱いの業務に従事する者」が漏らしたときは、10年以下の懲役か、10年以下の懲役と1000万円以下の罰金の両方で、「従事しなくなった後」に漏らしても同様の量刑(“過失”によって漏らした場合は、2年以下の禁固か50万円以下の罰金)。

●提供された「特定秘密」を、閣僚らや「外国政府、国際機関(の人間)」、国会議員、刑事・民事の裁判所(の裁判官や職員)、情報公開・個人情報保護審査会(の関係者)、捜査官や検察官、「適合事業者」とその従業員、派遣労働者などが漏らした場合は、5年以下の懲役か、5年以下の懲役と500万円以下の罰金の両方(“過失”によって漏らした場合は、1年以下の禁固か30万円以下の罰金。

●「人を欺き、暴行を加え、もしくは脅迫」、「窃取、損壊、施設への侵入、有線電気通信の傍受、不正アクセス」、「その他」の、「特定秘密」保有者の“管理を害する行為”で「特定秘密」を取得した者は、10年以下の懲役か、10年以下の懲役と1000万円以下の罰金の両方。

●「特定秘密の取扱いの業務に従事する者」が漏らす行為や、「人を欺き、暴行、脅迫、摂取、侵入・・・」などで“特定秘密保有者の管理を害する行為”を「共謀し、教唆し、または煽動した者」には、5年以下の懲役。閣僚や国会議員、裁判所、捜査官、検察官、適合事業者、その従業員、派遣労働者などに漏らすように「共謀し、教唆し、または煽動した者」には、3年以下の懲役。

◇コメント

(1)現在、「秘密」の漏えいに対する罰則を定めた法律はいくつもあります。

  1. 日米相互援助協定等に伴う秘密保護法;「特別防衛秘密」を“探知、収集、漏えい”した者は10年以下の懲役、
  2. 日米地位協定に伴う刑事特別法;米軍の秘密を不正に取得した者は10年以下の懲役、
  3. 自衛隊法;「防衛秘密」取扱者が漏らした場合、5年以下の懲役(取扱業務をしなくなった後も)、
  4. 国家公務員法、地方公務員法;業務で知り得た秘密の漏えいは、最高1年の懲役または50万円の罰金、

となっています。

これらと比べると、今回の「特定秘密保護法案」は、罰則を(1)の「日米協定に伴う秘密保護法」と(2)の刑事特別法にそろえていることが分かります。自衛隊法では「防衛秘密」の漏えいでさえ「5年以下」ですから、この法律が制定されれば、一挙に2倍に、行政機関の職員などの処罰は、懲役1年から10年へ10倍に、あるいは罰金50万円から1000万円へ20倍になります。
自民党の石破幹事長は、「特定秘密を漏らした者は死刑か懲役300年にでも」と言いましたが、かつての治安維持法も懲役10年以下から出発し、やがて死刑へと厳罰化されたのです。

(2)国会の秘密会で「特定秘密」を示された国会議員が、その内容や問題点について秘書や国会の調査室に相談すれば、“特定秘密を漏らした”として逮捕されかねません。国会議員が秘密会での説明のメモをとり、それを置き忘れたり、ブログなどで言及しても“有罪”とされるでしょう。

(3)「特定秘密」保有者の“管理を害する行為”には、“暴行や脅迫”、“窃取や侵入”だけでなく「その他」の行為も含まれています。「秘密を漏らさない」ことが“管理”の意味だとすれば、どんな形やルートにせよ、漏れた途端に“管理が害された”ことになるでしょう。つまり、“暴行や脅迫”、“窃取や侵入”は単なる例示で、実際は“あらゆる形での漏えい”が“管理を害する行為”になり、「知る権利」、「報道、出版の自由」に、きわめて深刻な問題を生じさせることになります。

(4)“共謀、教唆、煽動”の意味、解釈も大問題です。もし、行政機関の職員同士、あるいは職員と 外部の研究者やジャーナリスト、市民が、「この情報を特定秘密にするのはおかしい。この情報は平和と安全、あるいは市民の生命にとっても危険だから、ただちに公表することが必要だ」と相談したら、“共謀”となるでしょう。この法案には、秘密指定への異議申立ての規定はありませんから、誤った、あるいは危険な「特定秘密」が存在することの是正は、思いきって公表(“漏えい”)するしかないでしょう。また、「公表したほうがいいのでは」と言ったら“教唆”になり、「ぜひ、みんなに知ってもらうべきだ」と言ったら“煽動”とされかねません。この法案は、誤った、あるいは危険な情報を良識と倫理観に基づいて公表、是正する道をまったく認めていないのです。

(5)「外国政府、国際機関」も処罰の対象になっていますが、外国政府などは“自国の利益”に基づいて、日本から提供された情報を政治的あるいは外交的に、隠密に利用するでしょう。その場合、日本には漏えいの事実を知らされず、また公訴や処罰もされないことになるでしょう。この“抜け穴”は、“日米同盟の信頼関係”などの言葉では埋められず、実効性はあまりないと思われます。

6、知る権利、報道・出版の自由が奪われる――そして“被告人”の防御権も

この法案は国民の「知る権利」や「報道・出版の自由」を否定するものだとの批判を浴びて、与党の公明党が修正を求め、「この法律の解釈適用」という第21条が加えられました。
「この法律の適用にあたっては、これを拡張して解釈して、国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならず、国民の知る権利の保障に資する報道または取材の自由に十分に配慮しなければならない」、「出版または報道の業務に従事する者の取材行為については、もっぱら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とするものとする」という条文です。

◇コメント

(1)これを読むと、「知る権利」や「報道、出版の自由」は保障されるかのような錯覚に陥るかもしれません。けれども、その適用が“拡張解釈”かどうかは、実は適用する側、つまり政府官僚や警察が判断するのです。“不当”かどうかも同様です。そして政府官僚や警察は、自分たちの行為を決して“拡張解釈”とか“不当”とは言いません。

(2)また、「報道、取材の自由」は、権力からの自由なのであって、権力者から“配慮”されるような従属的なものではありません。そして法案には、どう配慮するのか、そのために行政機関などは何をし、何をしてはならないか、といった“配慮”の具体的な規定はまったくありません。

(3)“配慮”するのは報道や取材の自由とされ、「国民の知る権利」は直接の“配慮”の対象とはされていません。これは、市民個人や市民グループが行政の情報を知ろうとしても、それは“配慮”の対象にさえならないということでしょう。市民は、拒否と処罰の対象にしかならないのです。

(4)出版・報道の取材行為が「もっぱら公益を図る目的を有し」という第1条件は、“公益”以外の出版、報道がありうるという前提に立っており、それを判定するのもやはり政府官僚や警察です。“法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限り”という 第2条件はさらに問題です。
「適性評価」を受けた者など以外には絶対に漏らさないという法案ですから、出版・報道関係者が合法的に「特定秘密」を入手する道は初めから閉ざされているのです。つまり、出版・報道関係者が「特定秘密」を入手したら、それはすべて“法令違反”になるしかありません。
何が“不当”かは政府官僚や警察が認定し、“法令違反”や“不当な方法”と“認められない”場合は、“正当な業務による行為とする” (!?)――“特定秘密を報道する正当な業務”とは、矛盾の極みです。しかも法案には、「正当な業務は処罰しない」とは書かれていません。

(5)私たちの「知る権利」のもう一つの大きなルートは、国会の審議です。ところが国会に「特定秘密」が示され、質疑されるのは「秘密会」だけで、その会議録は非公開となり、誰も審議内容を知ることができません。国会議員は主権者である“国民の代表”であるはずなのに、国民に報告できず、また秘密会に出席できない大多数の国会議員はカヤの外に置かれたままになるのです。

(6)「特定秘密保護法」で起訴された場合、その裁判はどういうことになるのでしょうか。

  1. 裁判で「特定秘密」の内容を明らかにするには、裁判を非公開にするしかありませんが、憲法82条は、「対審及び判決は公開の法廷で行う」と定めています。82条は「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある場合は非公開にできる」という例外を設けていますが、「ただし、政治犯罪、出版に関する犯罪又は憲法第三章で保障する国民の権利が問題となっている事件の対審は、常に公開しなければならない」とクギを刺しています。報道・出版の関係者や市民が被告になった時、まさにこの82条ただし書きが問題になるでしょう。
  2. また、被告とされた人は、自分が知り得た情報の内容や評価を弁護人と共有しますが、それは「特定秘密の(弁護人への)漏えい」として罪に問われかねません。弁護人が「その情報の内容を私に教えなさい」と言えば、“教唆”、“煽動”ともされかねないのです。法案には、被告人のこのような“防御権”に関する規定は存在していないのですから。
  3. “未遂”の場合、被告人は自分が何を知ろうとしたか分からないままに訴追されることにもなります。その裁判では、検察側は「特定秘密」は漏えいしなかったので、「開示する必要はない」と主張するかもしれません。そうなれば、被告人も弁護人も裁判官も、いったい何の情報を入手しようとしたことが争点なのか分からないままに裁判が行われることになってしまいます。逆に、未遂事件で「特定秘密」を開示すれば、その時初めて被告人も弁護人もその「特定秘密」の内容が分かるわけで、それは“検察官による漏えい”になってしまうので、開示はされないでしょう。
  4. “有罪”の判決が出ても、判決文には単に「特定秘密保護法〇条違反」としか書かれないか、「特定秘密」の内容が示された場合は、判決文自体が非公開とされるでしょう。刑事訴訟法は、「非公開の訴訟記録は、(検察官の)許可を受けた者のみ閲覧できる」としており、ここでも憲法82条の「出版に関する犯罪又は国民の権利が問題の事件の対審は常に公開」という原則と衝突します

7、「特定秘密保護法案」は「ツワネ原則」にも反する

最近、「ツワネ原則」が注目を集めています。これは、国連や欧州安全保障協力機構などの国際機関の職員、安全保障に関する専門家など70国の500人以上の有識者が、2年間にわたって議論してまとめた「国家安全保障と情報への権利に関する世界原則」のことで、南アフリカの首都ツワネ(Tshwane/プレトリアを改名)で2013年6月に採択されたことから「ツワネ原則」と呼ばれています。

その目的は、「安全保障への脅威から人びとを守るための合法的な努力を危険にさらさずに、政府の情報への公衆のアクセスをどう保証するかという問題を扱い」、「関連する法律や政策の起草、改正、実施に関わる人びとへの指針を提供するため」、「秘密保持の適正な限度、内部告発者の役割その他の事項について、具体的なガイドラインを設定したもの」です。その主な原則の要旨は、次の通りです。

原則1;公衆は、政府の情報にアクセスする権利を有する。それには、公的機構を果たす、または公的資金を受けている私的団体からの情報も含まれる。

原則4;知る権利への制限の必要性を証明するのは政府の責務である。

原則9;政府は、防衛計画、兵器開発、および情報機関による作戦や使用された情報源のような綿密に定義された分野で、合法的に情報を制限できる。

原則10A;しかし、政府は、国際人権法および人道法の侵害に関する情報(原則10には、大量破壊兵器の保有や環境破壊の情報なども列挙)は決して制限してはならない。これには、以前の政権の不正・虐待や自己の政権の関係者その他により行われた侵害に関するいかなる情報も含まれる。

原則10E;公衆は、監視システムと、それを認可する手続きについて知る権利を有する。

原則5、10C;安全保障部門や情報機関を含め、いかなる政府機関も情報公開の要請から免れることはできない。公衆はまた、あらゆる安全保障機関の存在、それらを管理する法律や規則、およびその予算について知る権利を有する

原則40、41、43;公的部門における内部告発者は、公表された情報における公益が、秘密の維持による公益より勝る場合、報復を受けることがあってはならない。

原則43、46;情報を漏らした人に対する刑事訴追は、その情報が、公表による公益を上回る“重大な損害を生じるという実在し確認しうるリスク”をもたらす場合にのみ考慮されるべきである。

原則47;ジャーナリストや政府で働いていない人は、秘密情報を受けとり、保有し、公表したことや、秘密情報を求めたりアクセスしたことで、共謀その他の犯罪で訴追されるべきではない。

原則48;ジャーナリストその他、政府で働いていない人びとは、情報漏えいの調査において、情報源その他の公表されていない情報を明かすよう強制されるべきではない。

原則28;司法手続きへの公衆のアクセス権は不可欠である。「国家安全保障という呪文は、司法手続きへの公衆のアクセス権という基本的権利を損なうために用いることはできない。メディアと公衆は、司法手続きへのアクセス権へのいかなる制限にも対抗を許されるべきである。

原則30;政府は、人権侵害の犠牲者がその侵害の救済策を求めたり獲得することを阻害するような国家秘密その他の情報を秘匿したままにすべきではない。

原則6、31~33;安全保障部門に対しては独立した監視機関が存在すべきであり、それらの機関は効果的な監視に必要なすべての情報にアクセスできるべきである。

原則16;情報は必要な期間に限り秘密扱いされるべきであり、決して無期限であってはならない。秘密扱いの最長許容期間は法律で定められるべきである。

原則17;秘密解除を請求する明確な手続きが存在しなければならず、それには公共の利益となる情報の秘密解除の優先的手続きが定められるべきである。

この「ツワネ原則」に貫かれているのは、安全保障に関する情報の秘密維持は認めても、ジャーナリストや一般市民の知る権利、情報へのアクセス権、公共の利益の優先性、情報へのアクセスや内部告発を理由とした訴追や刑罰の排除や制限などが最大限に実現されなければならないという考え方です。「特定秘密保護法案」とは何と対照的な思想でしょうか。

そして、この諸原則は、決して一部の“偏った”人びとによって提起されているのではなく、70カ国、500人以上という非常に多くの安全保障問題の専門家が、長い時間をかけて議論してまとめたという、国際的に権威のある文書なのです。

もしかしたら、政府・官僚や与党の国会議員たちは、この「ツワネ原則」を読んでいないのかもしれません。野党鵜の皆さんも、少なくともこの原則に照らして法案審議を進めるべきでしょう。しかし、「特定秘密保護法案」の危険さ、乱暴さ、矛盾などは、この原則の一部を形だけ採り入れればすむようなものではありません。私たちは、あくまで廃案を求めます。

おわりに――許さない!「戦争する国」、「国民の自由と人権をしばる国」

(1)「特定秘密保護法案」の審議は、「国家安全保障会議設置法案」がわずか21時間の審議という超特急で強行採決された日に始まりました。この2つの法案が“一体のもの”なのです。「国家安全保障会議」は、“敏速な決定が必要だから”という理由で、首相と官房長官、外務・防衛両大臣の4人だけで構成されることになっていますが、明らかに米国の国家安全保障会議(NSC)をまねたものです。NSCは、武力行使を筆頭とする政府の重大な意思決定の機関です。安倍首相がまねるのは構成だけではなく、“武力行使=戦争の司令塔”としての機関の確立にあるのは明らかです。NSCでの会議の議事録も、「機微な情報があるので、意見交換を妨げてはならない」(菅官房長官)として、作成するかどうか“検討する”と答弁されただけです。

米国のNSCには、その実働機関として「国家安全保障局」(NSA)があります。職員数は3万人以上といわれ、全世界の通信傍受(盗聴)や暗号解読を行っており、CIAと並ぶ情報機関の中核です。最近では、同盟国・友好国の首相や大統領など各国首脳の個人携帯電話まで盗聴していたことが明らかになりました。日本も、その“重点対象国”とされています。

11月21日に開催したSTOP![秘密保護法]11.21大集会は、1万人を超える皆さんが参加し、法案の早期成立をめざす安倍政権に「NO」の声を届けることができました。再編された実行委員会は12・6に再度の集会を呼びかけています。当日は全国各地でも様々な行動がおこなわれ、日本弁護士会はじめ各界からの反対声明もつづいています。

日本版NSCにも「国家安全保障局」という“日本版NSA”が創設されることになっています。局長は外務省出身者で、局次長(2人)には外務省と防衛省内局から、審議官(3人)には外務・防衛官僚と自衛隊制服組が予定されています。その下に「総括」、「戦略」、「情報」、「同盟・友好国」、「中国・北朝鮮」、「その他地域」の6部門が置かれ、外務・防衛・警察・内調官僚ら総数60人規模で発足するとされています(うち幹部自衛官は10人以上)。

「国家安全保障会議」は、10年程度までの長期的な“国家安全保障戦略”を確立し、対外政策や情報戦略、日米同盟などの外交・安保戦略を強化することが目的とされていますが、同時に、緊急事態には自衛隊の出動など“即応態勢”をとることが想定されています。そして、そこで扱われる情報や米国から提供される情報など、“日本の安全保障に重要な”情報を「秘密」として外部に漏らさないため、「特定秘密保護法」が必要と説明されているのです。

(2)しかし、これらも安倍内閣と自民党の野望の一部にすぎません。自民党の「改憲草案」には、憲法9条を覆して「国防軍」を置き、国民の自由と権利を制限し、“国民の義務”を強化することが柱となっています。けれども、すぐに憲法を変えるのは困難と見た自民党は、「国家安全保障基本法案」をつくりました。これには、歴代内閣が憲法違反としてきた「集団的自衛権の行使」をはじめ、「教育、科学技術、建設、運輸、通信その他内政の各分野において安全保障上必要な配慮」とか、「秘密保護の法制措置」、「国民は国の安全保障政策に協力」など、“安保優先”、“いつでも戦争できる国づくり”の内容が盛られています。憲法を法律で否定し、覆そうというのです。

安倍首相らは、このような“戦争できる国づくり”、“強力に国民を統治する国家権力づくり”をめざしています。このため、改憲の手続き規定である憲法96条の改訂論や、集団的自衛権行使の合憲解釈への変更作業を進めてきました。今回の「国家安全保障会議設置法」と「特定秘密保護法」は、そうした危険な国づくりの“主要な柱”の一つなのです。「秘密保護法」が支配する社会は、“監視と委縮と沈黙の社会”になるでしょう。

私たちは、このような危険な企ての全体を見ながら、それを形作っていく具体的な個々の法律や政策に対して“NO!”の声をつきつけていく必要があります。私たちの平和と民主主義、自由と人権、そして子どもたちの未来を守るのは、私たち以外にいないからです。

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韓国スタディーツアーに参加して

池上 仁(市民連絡会会員)  

8月下旬、市民連絡会の仲間で韓国スタディーツアーの企画があるのを知り、早速応募した。根っからの出不精、組合や憲法の全国交流集会のついでにちょこっと寄ってくるのを除いたら、就職してこの方数回しか旅行に行っていない。旅行案内を調べ計画を立て、というのが苦手だ。ましてや海外旅行、言葉の問題ひとつとっても一人でとなると尻込みしてしまう。その癖行ってみたいのはやまやまなので早速便乗させてもらった次第。

10月18日、9時過ぎに羽田を離陸。ジャンボ機は満席、周辺で中国語が飛び交う。機内食は昔沖縄に行った時以来だろうか、ご飯とパンと両方出たが残さず食べる。
金浦空港からソウルの中心部に行く電車内の路線表示板は等間隔でなく駅間距離を示していて、現在位置を赤い豆ランプが示す。途中えらく長い区間があるから親切なやり方だと思った。ホテルに荷物を預けて、地下鉄で移動。

パスモのようなチャージのできる交通カードを購入する。市の中心部だからか、ホームドアシステムが完備されている。地下通路には何故か衣料品の店が多い。構内にガスマスクが保管されている。入口にシェルターの表示があるから、戦争に備えた避難場所になっているのだろう。かつて南北の緊張が高まっていた時期には一斉退避訓練が行われていたと読んだことがある。

ソウル地下鉄事情

ソウルの地下鉄も目まぐるしく変貌しているようだ。2008年にソウルを訪れた原武史が書いている、「前回(2003年)に比べると1号線も2号線も新しい車両が投入され、車内にはハイビジョン画面に広告とともに次の駅や乗り換えの案内が大きく映し出されるようになった。乗り換え駅が近づくと、2号線の車内でテープの放送に先駆けてホーホケキョのさえずりが響き渡るのは前回と同じだったが、1号線はモーツァルトのアイネクライネナハトムジークに変わっていた」(「鉄道ひとつばなし3」)。今回の滞在中は専ら2号線・3号線を利用した(多分)が、「ホーホケキョのさえずり」は耳にしなかった。かわりに幾つかの駅で電車が近付くとファンファーレのような音楽が流れ、ちょっと違和感があった。ワールドカップ通りという地名があったからその関係か?

「今回もまた、物乞いや物売りをする人々を車内で見かけた。特に2号線では、CDを売る人々の姿が目立った。彼らはある駅でいきなり乗り込んできたかと思うと、突然CDラジカセで大音量にして音楽を流し、車内を回りながらCDの宣伝をする-略-乗り合わせた韓国人の乗客はみな見向きもしない。前回に比べると、乗客の反応が冷たくなっているように思えたのは錯覚だろうか」(同)。今回は車中の物売りは見かけなかったし、そんな雰囲気もなかった。おばさんが停車中の車内に乗り込んで素早くマンションの広告チラシらしきものをペタペタと貼って、発車間際に降りる姿を見かけた。新手のアルバイトだろうか。「大きな声で携帯に向かって話す中年の男性がいる一方、特に若い女性を中心に、携帯メールに一心に向かう客の姿が目立った」(同)。これは携帯がスマートフォンに変わっただけで相変わらずのようだ。車中や街頭でスマートフォンを操作する人の割合は、日本よりも高いように感じた。
仁寺洞(インサドン)で昼食。まずキムチが運ばれ金属製の箸でつまむ、これが韓国式なのか。浅蜊の麺をいただく。ごくうす味でもの足りないくらいだが、キムチの辛さを中和してくれる。

西大門刑務所歴史館

最初の見学先は「西大門刑務所歴史館」。1908年、日本によって建造された韓国初の近代的刑務所、最大収監数は3,200名。韓国併合=植民地化に備えまず刑務所を用意したというのが象徴的だ。日本の植民地時代には独立運動家たちが、「解放後の独裁政権期には、民主化を成そうと独裁政権に立ち向かって戦った民主化運動家達が監獄暮らしの苦しみを味わい、犠牲になった現場」(パンフレット)だ。入場料大人(19歳以上64歳以下、韓国の成人年齢は19歳ということだろう。65歳以上は無料?勿論65歳になった私も入場料を払いました)3,000ウォンと並んで「軍人1,500ウォン」とある。徴兵制のある韓国ならではと思う。周囲には高層マンションが立ち並んでいる。公園として整備されているとはいえ、日々眼下にレンガ造りの刑務所跡それも植民地時代の弾圧の象徴を見おろす生活というのはどんなものだろうか。

入口付近の芝生では近所の子どもたちがにぎやかに遊んでいる。展示館から順繰りに回る。独立運動家への判決文がある。「絞ニ処ス」とあるのは絞首刑ということだろう。「治安維持法違反」の文言も。拷問部屋、拷問に使われた道具、狭く暗い懲罰房、放射状の運動場。片隅に作られた処刑場内部は多分現在の日本のものと同型ではないだろうか、絞首台の正面に階段式の立会人席がしつらえられてある。壁を隔てた背後に足下の台を開いて囚人を吊るす梃子が配置されている。建物の背後には地下におりる階段がある。ここから死体を運び出すのだろう。すぐ近くに屍躯門というトンネルがある、死体をひそかに搬出するためのものだと説明にあった。

展示品の中に笞がある。1912年に伯爵寺内朝鮮総督が朝鮮全土の警察に「笞刑(ちけい)執行心得」を通電した。「第一条 笞刑は受刑者の両手を左右に披伸し、刑盤上に筵を敷きて伏臥せしめ、両腕関節および両脚に窄帯を施し、袴を脱し臀部を露出せしめて執行するものとす」「第十二条 執行中受刑者号泣する虞あるときは、湿潤したる布片を之に噛ましむるを得」そして笞は朝鮮人だけが受けた・・・(中野重治「緊急順不同」に依る)。

1920年12月にレーニンが演説している、「つい最近われわれは、日本人がなにをやっているかを語っている朝鮮の新聞を受けとった。ここではツァーリズムのあらゆる方式、あらゆる最新の改善された技術と、純アジア的拷問制度、前代未聞の残虐性との結合がある」と。

思いがけず麻生・安倍・橋下と対面

建物の一角に大きな垂れ幕が掲げられ「MAKING PEACE WITH HISTORY」のタイトルにドイツのメルケル首相、ワルシャワゲットー記念碑前に跪くブラント元首相の写真、そして麻生、戦車に乗ってはしゃぐ安倍、橋下の写真がある。ハングルと英語でアピールが記されているが、写真だけで何を訴えているかが分る。歴史を直視せよ!ということだろう。博物館には多くの若者、先生に引率された小中学生が訪れていた。他の施設でも感じたが、植民地支配の記憶は確実に受け継がれている。宗主国であった日本で教科書検定他の手段で歴史を抹消しようとする動きが絶えないのとは対照的に。大きな歴史認識の懸隔が作りだされ続けている、と痛感する。

日本大使館前に行く。大勢の警官が警備している。大使館の窓はすべてブラインドが下ろされ人けが感じられないのっぺらぼうの表情。「平和の碑(少女像)」がジッとそれを見つめている。韓国語、日本語、英語で「1992年1月8日に水曜デモが開始され、2011年12月14日、1000回を迎えるに当たり、その崇高な精神と歴史を引き継ぐため、ここに平和の碑を建立する」と書かれている。蝶の絵柄をあしらった可愛らしい靴が添えられている。警備の警官に記念撮影のシャッターを押してもらっている韓国人グループもあった。

マッカリに満足、珍味に閉口

夜は反改憲運動を通じてつながりのある金青年の案内で夕食。様々な運動のポスターが貼られたお店だ。大きな器(南瓜の中身を取り出して乾燥させたもの)にたっぷりのマッカリ酒の上に松葉の粉末がどっさり盛られている。これを瓢箪の柄杓でよくかき混ぜていただくのだが、実に野趣豊かな味わいで杯がすすむ。チジミや魚介類の煮物などおなかいっぱい食べたところで、?(えい)の身を発酵させたものが出る。キムチを巻いたりわさび醤油で食べるのだが、アンモニアのような独特の臭いがある。金青年は熟れ鮨のようなもので、金大中元大統領の地元ではお祭りやお葬式などに供されるご馳走と説明してくれたが、私は一切れで退散。同行のメンバーの中には何切れも頬張る方もいて、感心する。

八角亭で独立宣言を聞く

2日目はまずタプコル公園、3・1運動発祥の地へ。独立宣言の碑が立ち、運動の展開を表わす大きなレリーフが並んでいる。宣言が読み上げられた中央の「八角亭(パルガクチョン)」上で同行のH君が宣言を朗読してくれる。「吾らはここに、我が朝鮮が独立国であり朝鮮人が自由民である事を宣言する。これを以て世界万邦に告げ人類平等の大義を克明にし、これを以て子孫万代に告げ民族自存の正当な権利を永久に所有せしむるとする・・・」実に格調高い文章だ。1467年に建てられ国宝第2号に指定された朝鮮時代の10層の石塔がすっぽりガラスで覆われ保護されている。旧名パゴダ公園はこの塔にちなんだ名称。もともとあった円覚寺の由来を示す巨大な石碑といい、韓国は石の国だな、と思った。公園内は沢山のボランティアらしき人々がお掃除をしていた。ゴミ一つ落ちていない。

移動の途中市庁前を通ったら車道の両側に放水車を含む警察車両がズラリ並び、おびただしい数の警官が配置されている。土曜日は毎週のようにデモがあり、金さんによれば今日はキャンドル集会が行われるとのことだ。

戦争と女性の人権博物館

「戦争と女性の人権博物館」へ。韓国挺身隊問題対策協議会が運営している。同協議会は「日本軍『慰安婦』問題解決のため被害者の人権と名誉を回復し、戦時下での女性への暴力を防止し、正しい歴史の確立と平和の実現に寄与しようと1990年11月16日に第一歩を踏み出し」た(パンフレット)。2000年の女性国際戦犯法廷開催にも尽力した。博物館は9年間の募金・建設活動の末昨2012年5月5日にオープンした。通常は13:00からの開館が水曜日は水曜デモの後15:00からとなっている。

通訳ガイド機のイアホーンを装着して展示を見る。日本軍の関与を示す文書、慰安婦が使用していた遺品、沢山の慰安所設置個所を示す地図・・・慰安所の配置を示す絵パネルがある。外で列をつくって順番待ちをしている日本兵の姿に、慰安所制度が女性は勿論のこと男の兵士たちをも侮蔑したものである事を示していると思った。最後は「慰安婦」被害者の顔写真と亡くなった日付を記したレンガを積み上げた追悼の壁。H君夫妻と旧知の梁(ヤン)さんが私たちのために特別にアニメーションの日本語字幕版を上映して下さった。

キャンドル集会に飛び入り

夜は市庁前広場のキャンドル集会をのぞく。舞台が設置され、映画を撮る時に使うようなクレーン式の装置で壇上と時々参加者の映像を背景パネルに映し出す。金さんの話では選挙の際KCIAと軍の機関がインターネットを利用して世論操作を行っていたことに抗議する集会とのことだったが、スローガンや受け取ったビラは無論皆ハングルで、残念ながら何を訴えているのか分らない。続々集まってくる参加者の中には車座になって弁当を拡げているグループあり、乳母車を押しての参加者あり。旗の数は少なく、赤旗は見受けない。集会の傍らで大音量のスピーカーで激しい演説をし音楽を流している。愛国歌風のメロディーと少人数がなりたてシュプレヒコールは日本の右翼とそっくり、集会を妨害しているのだろう。警官隊は一部盾を持っていたが乱闘服姿ではなかった。

途中で切り上げて明洞(ミョンドン)で夕食。渋谷のような繁華街で賑やかな人通りだ。食べ物や小物衣類、装身具等の屋台が沢山出ている。入った食堂ではキムチはテーブルに備えつけの容器に入っていて、自由に取り出し大きな切れを料理鋏で一口大にして食べる。ここのキムチは辛くなくて茶碗2杯分ほどいただいた。

日韓関係史を映す景福宮

最終日は汗ばむような好天に恵まれて景福宮(キョンボックン)見学。到着するとちょうど10月限定の「畳鐘(チョプチョン)」という宮殿護衛兵査閲儀式の上演が始まっていた。銅鑼・太鼓・法螺貝に合わせてカラフルな衣装の兵士たちが行進、整列、薙刀・槍・刀・盾の組み合わせで次々に5つの陣形を組む、盾で固め間から薙刀・槍を突き出す陣形はローマの重装歩兵のよう。 それにしても広壮な敷地に重厚な建物群だ。土台はすべて石、階段の段差がやたら大きいのは攻撃者が簡単に駆け上がれないための方策なのか。幾つもの建物が並ぶ一番奥まった一角に坤寧閣がある。1895年、明成(ミョンスン)皇后(一般的に使用される閔妃(ミンぴ)は蔑称との説がある)が公使三浦梧楼らによって殺害され遺体を焼かれる事件(乙未(ウルミ)事変)が起こった現場だ。内部には入れないが格子の隙間から調度や寝台が見える。景福宮は壬辰倭乱(文禄の役、1592年)によって全焼。その後約270年間廃墟として放置されていたが、1867年、高宗(コジョン)の時代に再建された歴史を持っている。しかしこの事件によって王が居所を移してからは主人を失った王宮となった。

1910年植民地化された後、日本によって正殿の前に総督府庁舎を建てられるなどして多くの建物が破壊された。見よがしに伝統文化を踏みにじり、根こそぎにし、新たな支配者の権力を威圧的に誇示するために。

柳宗悦の怒り

3・1運動に際し大方の日本人が無関心でいる中、「朝鮮人を想ふ」「朝鮮の友に贈る書」を書いた朝鮮文化をこよなく愛する柳宗悦(やなぎむねよし)は、翌1920年、朝鮮人への支援を目的とする音楽会・講演会を行うべく兼子夫人とともに朝鮮に渡った。そこでソウルの街の美しさを眼前にして書いた、「然るに何事であるか、自然を深く考慮し、その排置に周到の注意を払い、民力の限りをさへ尽して築造されたその計画が、正に滅亡の嘆きを見ようとしているのである。今日光化門と勤政殿との間に実に厖大な西洋建築が総督府の手によって建ちつつある。然も位置はやや西側に片寄って、旧時の秩序を少しでも、省みる事がない。さしも大きな正殿も今日は門を通して見る事さえ出来ぬ。否、今日では既に勤政殿の全景を正面から見る如何なる位置も亡くなつたのである。何たる無謀の計画で之があろう。やがて之が正殿を毀し、光化門を棄てる前徴でないと誰が保障し得よう」(「彼の朝鮮行」)

2年後懸念通り光化門が取り壊されることになり、柳は直ちに「失われんとする一朝鮮建築のために」を書き、朝鮮語訳や英訳がなされ世論を喚起して門は破壊をまぬかれ、別の場所に移設されたという。この一文のために柳は危険人物として警察に登録され、尾行を付けられた。1922年刊行の「朝鮮とその芸術」の序文で日本人同胞に対して、「軍国主義を早く放棄しよう。・・・自らの自由を尊重すると共に他人の自由を尊重しよう。若しもこの人倫を踏みつけるなら世界は日本の敵となるだろう。さうなるなら亡びるのは朝鮮ではなくして日本ではないか」と説いた。(鶴見俊輔「柳宗悦」に依る)柳宗悦のような人物を持ちえたことは私たちにとってせめてもの救いだ、と思う。

1996年、総督府の建物は完全に撤去され、現在も原状復元工事が進められている。

韓国留学中のH君夫妻の友人の案内で参鶏湯(サムゲタン)を食す。若鳥の腹にもち米を詰めたものと朝鮮人参のスープが大きな器ででてくる。実に美味、残さず食べた。

ホテル周辺が問屋街で、ありとあらゆる建築資材のお店が並んでいたこと、整備された心地よい清渓川プロムナードを散歩したこと、屋台の焼き銀杏と焼き栗を楽しんだことなどまだまだ書きたいことがありますが紙数が尽きました。

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