【両院で憲法審査会が再開】
改憲をめざす安倍政権のもとでの初めての憲法審査会が3月13日午後(参議院)、3月14日午前(衆議院)と連続で開催された。
市民連絡会は両日とも20名を超える仲間で、この憲法審査会を傍聴・監視した。日弁連憲法委員会の人びとや他の市民団体の傍聴もあり、手狭な傍聴席は一杯で、市民の関心が大変高いことを示すものだ。
今回の議論のテーマは、参議院は「二院制の在り方について」、衆議院は「憲法第一章(天皇)、第二章(戦争の放棄)について自由討議」だった。
先の総選挙の結果、衆院憲法審査会の様相が大きく変わった。会長は民主党の大畠章宏氏から自民党の保利耕輔氏に代わり、改憲を主張する自民党の委員が委員50人中31人(うち会長を含め幹事7名)を占め、あらたに「日本維新の会」が幹事1名と委員5名を占めた。これに「みんなの党」の委員2名を加えると、委員の8割近くが改憲を標榜する政党の委員になった。
一方、総選挙で2議席にとどまった社民党は委員の割り当てを失い、政党として護憲を主張する委員は共産党の笠井亮議員1名のみとなった。
改憲色の強い「中間派」の各党は民主党が幹事1名、委員5名、公明党が幹事1名、委員2名、他に「生活」の委員が1名だ。衆院憲法審査会はまさに改憲のための審査会、改憲案を討議できる審査会の様相になった。
自民党が圧倒的多数を占める衆議院憲法審査会は毎週開催する方向で、次回は3月21日、参議院は4月3日に再度「二院制について」審議し、その後、「新しい人権」などを取り上げて行く意向のようだ。
共産党の井上哲士委員が「憲法調査会の時代には2院制への批判は主として“参院は衆院のカーボンコピーだ”というものだったが、いまは“衆参ねじれ国会”批判が主流だ」と、指摘したことに問題点がよく表れている。改憲派は改憲をしたいがために、まず改憲ありきで「2院制」をあれこれと批判して、その場その場のご都合主義の口実で改憲の主張のためにする。「カーボンコピー」論(「衆議院と同じ内容では参議院は必要ない」という)と「ねじれ」(「決められない政治」はよくないという)批判は正反対の口実だ。
1院制を主張する党は「みんなの党」と今回から初登場の「日本維新の会」で、みんなの党の江口克彦委員は「1院制にすれば迅速で効率的な意志決定ができる」とか、「院の維持にかかる諸経費も不要になる」(!)などと驚くべきことまで主張した。維新の会の水戸将史委員は「参院のチェック機能を言う意見があるが、我が党の主張の首相公選制を導入すれば、一院制でも議会が行政府をチェックすることができる。他の国でも1院制でも機能している」とのべた。自民党の衆議院側には1院制論が少なくないが、参議院では自民党の委員も2院制維持論が多い。民主、公明、生活、みどり、社民、共産、改革など各党は2院制維持の議論を展開した。しかし「改革」の桝添要一委員は「参議院で2院制維持を強調すると、自分が生き残りたいがための議論だという批判が起こりうるので、衆参の役割分担を明らかにする改革を考えるべきだ」などと、改憲に同調しかねない意見をのべた。
14日の衆院審査会は「憲法第1章、2章についての自由討議」だったが、この日の審議についてメディアは「自民『国防軍明記を』、9条改正 維新とみんな同調 民主退潮 改憲派に勢い」(朝日)などと報道したが、概要はほぼこのようなところだ。
衆院憲法審査会は昨年段階ですでに第4章までの検討を終えたことになっているのだが、総選挙を経て新たに委員になった議員が多いことから、1章、2章で1回、3章・4章で1回のおさらい的な審議を行うようにした。
第1章の討議では自民党の船田一筆頭幹事が自党の改憲草案を解説して、「現行憲法の第3条が“(天皇の国事行為は)内閣の助言と承認を必要とし”としているのは礼を失するので“進言”に変えた」と得々として説明するのを聞いていて、「自民党は“天皇を戴く国”にするという復古的な思想に染まりきっている」ことを改めて痛感した。維新の会の馬場伸幸委員は「維新は残念ながらまだ自主憲法の具体案を持っていない。しかしわが党の立場は、日本は“首相公選制の主張と連動し、天皇を元首とする立憲君主国だ”という考えだ」と時代錯誤の主張を述べた。みんなの党も天皇を元首にして首相公選だと主張した。民主、公明、共産、生活はそれぞれ違いもあるが、天皇条項は現行憲法のままを主張した。
第2章では、自民の中谷元委員が「国防軍明記」を主張。維新の馬場委員は「いま広がっている領土への不安の根本原因は9条にある」と改憲を主張。みんなの党の畠中光成委員は「2年間の国民的議論を経て9条改憲へ」と述べた。
民主党は9条についての立場を明確にせず、公明も現状のままを主張した。生活は「議論が必要」とした。社民党が委員の割り当てを失った結果、共産党だけが9条護憲で孤軍奮闘(笠井委員談)だった。衆議院審査会の構成は圧倒的に改憲派で占められた。しかし96条改憲から始めて、「9条改憲で国防軍」とは「9条支持」の民意との乖離もはなはだしい。
なお、審議の途中で自民党の委員の出席が13名程度にまで減り、自民党所属の保利耕輔会長が特別に注意をうながしたほどで、自民党委員の不真面目さが目立った。
総選挙直後にメディアなどによって語られた「安倍首相は第一次安倍内閣の失敗の轍を踏まないように、参院選が終わるまでは改憲などの動きはできるだけ避けて、経済政策に力をいれるなど安全運転をするだろう」などという観測は、大きく外れている。安倍首相は国会の議論などで「96条を変えることから始める」「憲法9条を変え、国連軍など集団的安全保障に参加する」などなど、行政府の長として違憲に問われるべき発言を繰り返している。また安倍首相は自らが会長を務める改憲派議連の「創生『日本』」の活動を再開させ、自らは会長職を休職しただけで、辞任していない。安倍政権は昨年総選挙前に準備し始めた「経済再生実行本部」と同時に発足させた「教育再生実行本部」で教育の一層の反動化をすすめている。一方ではF35や化学防護服の外国との共同生産など、武器輸出3原則の破壊に乗り出している。これは第9条の解釈改憲だ。あわせて「安保法制懇」を再稼働させ、集団的自衛権の行使に向けて、従来からの政府見解の変更を企てている。
自民党の改憲草案に沿って、9条など、憲法の全面的改悪をめざす96条改憲もこれとあわせてすすめられている。無視できないのは、日本維新の会やみんなの党などの右翼改憲政党が、「96条研究会」を結成するなど、マスコミや憲法審査会などの場を通じて、その先兵の役割を果たしていることだ。実際、維新の会の橋下代表は16日、「首相は維新の存在があったからTPPに踏み切れた。自民党内の反対派に『いざという時は維新と組む』との考えを表に出して党内が収まった」と語り、「憲法96条改正でも、自民党と公明党が連立を組んでいるが、首相の決断を応援する」などと、改憲の先兵になる決意を語った。
憲法審査会の動きとあわせて、解釈改憲、明文改憲の両面から永田町での改憲暴走が始まった。安倍晋三首相は自らの政治生命をかけて、この改憲策動をすすめてくるだろう。私たちは気をゆるめることなく、またあきらめることなく、ねばり強く全力をあげてたたかうことで世論を形成し、これに反撃しなくてはならない。いよいよ正念場がきた。(事務局 高田健)
安倍首相が改憲策動をつよめる中で2013年2月16~17日の両日、大阪で開催された「第16回許すな!憲法改悪・市民運動全国交流集会」は各地からの力強い運動の交流があった。また、憲法を生かすためにアジアの市民との連帯をつよめていくことの大切さを確認した。集会では共同声明「『集団的自衛権の行使』は『戦争』です――安倍内閣は憲法の不当な解釈変更をやめ、9条を守れ!」を採択し、賛同を拡げていくことが確認された。前号(142号)では、集会の概要と海外からの特別ゲスト金泳鎬さんの講演を掲載した。以下に交流集会報告(2)として、高田健報告と金講演をのぞく公開講演会を詳報する。
中北龍太郎さん(止めよう改憲!おおさかネットワーク代表)
紹介いただきました中北です。全国から、また関西各地から駆けつけていただきましてありがとうございます。今年16回目の全国交流集会になります。この前大阪で開かれた第10回交流集会の時も安倍政権でした。改憲の危機が訪れるときに大阪で開催されるという、どういうわけかそういう巡り合わせになっております。しかし逃げずに、改憲の先兵である橋下維新の会発祥の地であるところから、こうした動きを許さないということであえて今回も引き受けることにました。
いま憲法にとって戦後最大の危機の時代を迎えています。安倍改憲暴走政権がそんな危機をつくり出しています。いうまでもなくこの改憲の動きは日本を戦争する国にしていく、そして生存権をはじめ人権を根こそぎ破壊する、そんな危険な本質を持っています。まさに改憲は戦後平和主義、民主主義を根底から全面的に否定するものに他ならないと断言できると思います。こうした明文改憲の動きとともに現行憲法のもとでも集団的自衛権の行使ができるというような動きもすでに始まっています。もしそうなれば憲法9条はあってもなくても変わらないような、かたちだけのものになっていきます。こうしたあらたな、非常に危険な改憲情勢のもとでわたしたちはいま新しい市民の運動を構築していく必要があると思います。
第1に、この改憲問題の本質をきちっと把握していくこと。とりわけその根っこにある米軍基地再編強化の動き、日米安保体制の深化の問題、それとともに歴史認識問題や領土問題ときっちりリンクさせて改憲問題の本質をとらえていく必要があると思います。第2にさまざまな課題の垣根を乗り越えて横のつながりをつくり出して、反改憲の一大国民運動をつっていく必要があると思います。そして第3に日本国内だけではなくて、アジアをはじめとする世界の人びとときっちり連帯を構築して反改憲運動を進めていく必要があると思います。
その上に立って万が一政府が改憲の国民投票に踏み切ろうとしたときにも改憲が否決されるとういう世論をつくる、そんな新しい実践的な運動をともにつくって行きたいと思います。
この第16回の交流集会は、そうした運動の方向性を編み出す貴重な場だと確信しています。いうまでもなく憲法は権力者に対する縛りです。権力者はその縛りを解こうとします。しかし憲法を変える変えないは主権者である市民が決める、決定権を持っているというのが憲法の基本構想であります。草の根の市民の運動によって改憲の悪巧みを根っこから断ち切っていきたいと思います。そうした場としてこの第16回交流集会が大きく成功するように、ともにがんばりたいと思います。この集会の成功をともに誓い合って開会あいさつとさせていただきます。がんばりましょう。ありがとうございました。
照屋寛徳さん(衆議院議員)
みなさんこんにちは。沖縄からやってきました衆議院議員の照屋寛徳です。本集会の連絡先がわたしの長年の友人である中北弁護士の事務所になっていましたので押しかけてやって参りました。わたしは脳梗塞を発症して以来、発症前は機関銃のようにしゃべっていましたが、いまは平和主義者になりまして水鉄砲の勢いでしかしゃべれませんが、昨年はわたしたちの島、沖縄にとって復帰40年の節目でございました。わたしたちは無憲法下のアメリカの直接軍事支配のもとで、反戦復帰そして平和憲法のもとに復帰をするんだという復帰闘争を続けて参りました。
そして1972年5月15日に復帰をし、わたしたち沖縄県民にも平和憲法が適用されるようになりましたけれども、同時に安保条約も適用されるようになりました。復帰後今日までの沖縄というのは、復帰前のアメリカの軍事支配下の無憲法下の沖縄から、反憲法下の沖縄に変わっただけであります。沖縄の日常の中で憲法の理念を超えてすべて安保条約、日米地位協定そして米軍の軍事行動が優先される。その中にあって県民の人権それから命が踏みにじられております。わたしは、憲法というのは国民の人権と命を大事にするものだと思っております。ところが沖縄の現状というのはこの命も人権も踏みにじられ、あげく人間としての尊厳が著しく損なわれておる、こういう実態であります。
先だって1月27、28日に県下41の全市町村長、市町村議会の議長そして超党派の県会議員が上京してオスプレイ配備反対、ただちに撤回せよという建白書を総理に渡しましたが、安倍さんというのはまったくあべこべの思考しかできない男でございますから、憲法を変えようとする。そして憲法改正の要件である96条も、自民党だけではなくて日本維新の会やみんなの党を含めて、今通常国会にも改正法案を提出しようという動きがございます。
全国からご参集いただきましたみなさん。本当に昨年末の総選挙を経て国会の状況は恐ろしい様変わりでございます。その中にあってわたしたちは解釈改憲であれ明文改憲であれ、あるいは立法改憲であれ、いかなる改憲策動も許さない。これは単に国会だけのたたかいでは阻止することはできないと思っております。わたしたち国民ひとりひとり、市民ひとりひとりが立ち上がってお互いに自立、連帯を寄せ合って平和憲法を守っていく、9条改憲を許さない、そのためにがんばって参りましょう。
とにかくわたし自身無憲法下、反憲法下の沖縄でこれまで67年間生きてきて、いかに平和憲法が大切なのかということを毎日毎日考えております。どうかお集まりの市民のみなさん。わたしたちは元気を出して勇気を持って前を向いて、改憲阻止のためにがんばって参りましょう。ありがとうございました。
普門大輔さん(たんぽぽ総合法律事務所・弁護士)
みなさま、こんにちは弁護士の普門と申します。よろしくお願いいたします。
「第16回許すな!憲法改悪・市民運動全国交流集会」の開催、誠におめでとうございます。
わたしが少しお時間をいただいてお話しするテーマは貧困の問題です。憲法に引きつけていいますと生存権、憲法25条に関連する問題になります。
先ほど高田先生のお話で安倍政権が考える改憲のスケジュールの話がありましたが、むしろこの生存権の分野についてはすでに実質的な憲法規範の切り崩しが始まっている領域といえるのではないかと思います。憲法25条には「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」が保障されていますが、これは社会権という性格の権利でありまして、それ自体言葉で読んだだけではよくわからないのですが、それを具体化するのが例えば生活保護法などの立法です。その生活保護基準が切り下げられようとしています。
もともと生活保護法の基準がどのように決められるかというと、生活保護法の8条によって厚生労働大臣が決定します。そうしますとさきほどの憲法の「健康で文化的な最低限度の生活」は、厚生労働大臣が決めるということになっているわけです。それでいいのかという問題もあるんですが、厚生労働大臣が保護基準を見直すために、5年ごとに保護規準の内容を検討する基準部会が設置されて、そこで検討されてきました。
生活保護基準はどのように決められるのかということを、最初に確認しておきます。全国消費実態調査というものがあり、このデータを使って国民のひとり目から所得の順番に並べていって、それを10分割するんです。一番低い、第1十分位層というのですが、全体のうち収入の低い一割の低所得者世帯の消費実態と生活保護世帯の生活扶助費、生活保護の中にもいくつか項目があるのですが生活費に相当するものです、これを比較するという手法がとられています。
ただし過去の例を見てみますと、現行の生活保護制度が制定されたのが1950年ですが、過去に2回だけ保護基準の引き下げがありました。2003年と2004年のこの2回だけなんです。しかもその削減幅は、2003年は0.9%で、1%に満たなかった。2004年は0.2%でした。非常にわずかな引き下げでした。しかし今回問題になっている生活保護基準の引き下げの幅は平均で6.5%、最大で10%という削減です。これは生活保護の史上前例のない、異例の規準の内容になっています。3年間で670億円を削減しようという予算案が1月29日に出されています。
そもそもの発端は、みなさんもおぼえておられると思いますが、昨年の5月頃に吉本興業の芸人さんの親族が生活保護を受けている、非常に売れっ子で高額の収入、所得を得ているにもかかわらず、その母親が生活保護を受けているというのは不正受給ではないのかということが週刊誌で報道されて、そこから生活保護に対する大バッシングが始まりました。これ自体はまったく不正受給ではなくて、民法の扶養義務と生活保護法の関係――これは要件ではなくて優先関係といいますが――こういうところから冷静に法律家の目で見るとまったく不正受給ではないんですけれども、これが不正受給であるということを前提にバッシングが始まりました。具体的には全国の自治体、役所に勤めている公務員の親族の中に生活保護受給者が何人いたとか、本当にこういうことが大手新聞の記事になったりする事態になりました。特に今回政権を取った自民党の中の生活保護プロジェクトチーム、そこが率先して生活保護バッシングを誘導していったという経過でした。
その総選挙以前に自民党の生活保護プロジェクトチームから出された生活保護の改正案では、基本的な考え方として1割カットをはっきりと公約しています。「手当よりも仕事を」という看板で、自助自立を基本とする社会保障制度にあらためていくんだ、具体的には給付水準を1割下げる。その理由というのは最低賃金よりも高い生活保護費というのはいかがなものか、モラルハザードを招くのではないかということです。最低賃金の方が低いという問題ではなくて、生活保護費が高すぎるから下げろという議論です。
生活保護費の支出が財源を圧迫している。その半分が医療扶助費であるということで、医療扶助費を大幅削減させる。いまは窓口で全額が国庫負担ですが、それを利用者に1割負担させようという議論が出てきています。生活保護は、年金が低すぎるという問題がありますので大部分は高齢者の方が利用されているんですが、こうしたことを踏まえて1割負担ということになればどうなるかということです。そういう政策になっている。
また現金給付から現物支給へ、ということで、例えば生活扶助費というのは食料であったり被服費などが含まれますが、それをお金ではない、お金をあげてしまうからパチンコに行くんだろう、だから食べものを直に現物で支給しましょうということです。アメリカでいうフードスタンプ、食料回数券というようなものを採用したらどうか、あるいは住宅の家賃も本人に支払わせるのではなくて福祉事務所から家主に直接支払うようにさせるという、自己決定を侵害するようなかたちの政策も提案されています。なにより稼働層への就労強化、3年程度の有期性の保護という議論がまたもや出てきています。こうした政策を打ち出して生活保護バッシングをしたあげく、総選挙で圧勝したわけです。
わたしは国会のことはよくわからないんですが、政権交代の影響ということで、今年は19年ぶりの越年予算編成の年になっているそうです。そこでやり玉に挙がっているのが生活保護費ということで、生活保護バッシングから今の議論に流れている。670億円を3年間で削減しようということですが、この内訳について少しご報告したいと思います。レジメに「降ってわいたデフレ論による580億円の削減」と書きました。先ほど申し上げた厚生労働大臣の諮問機関である生活保護の基準部会というところで長年にわたって専門家が集まって13回の議論をしてきています。そこで出ていた議論というのは、第1十分位層と生活保護世帯の消費実態水準の比較という手法がとられてきたわけですが、そこで出てきた最終的な報告は90億円の削減ということでした。それがこの1月に出ました。
しかし90億円という削減額は、自民党が公約に掲げてきた1割カットには到底及ばないわけです。そこで13回にわたって続けられてきた規準部会の議論を全部吹っ飛ばしました。突然、デフレで物価が下がっていて数年前よりも多くのものが買えるんだから、デフレの影響を考慮する必要があるということで、90億円に580億円をプラスして670億円にするという極めて乱暴な議論になった。5年に1度検討された規準部会の報告書を一切無視した。その670億円の9割がデフレ論という、突然出てきた、今まで一切議論されていなかった中で出てきた。
そもそも生活保護基準というのは、水準の均衡方式といって物価の変動はあまり考慮しないやり方でいままで決められてきました。しかも第1十分位層という、いわゆる低所得者層の部分の所得の低下はもちろんデフレの影響を受けて所得が低いわけですね。そうするとその第1十分位層と比較して、なおまた別のところからデフレ論を持ってくることは、デフレの2重カウントになっていて極めて乱暴な削減の内容になっています。これはなぜかということをみんな考えています。これは1割カットという数字がはじめに決まっていて、自民党のプロジェクトチームが言っていた生活扶助10%カットをなんとか実現したい、そこに近づけるための、結論ありきの金額であったのではないかと考えざるを得ないんです。ほかの理由が見あたらないんです
物価の動向についてみていきたいんですが、仮に物価の変動を考慮するとして、いつの物価と比較するんですかということです。今回の自民党あるいは厚生労働省の物価の規準になったのは平成20年の物価でした。この年は原油高で、ほかの年と比べて突出して物価が高かった年でした。これは経年的に見れば明らかなんですが、この年と比べて2011年は物価が下がっている。高い年を持ってきて、それと比べて今はそれより低いということを言っている。
おぼえている方もいらっしゃると思うんですが、2007年(平成19年)に同じように保護基準切り下げの議論がありました。社会保障費の自然増2200億円を毎年削減していくという議論があって、このときは全国的な反貧困運動が盛り上がってこれを阻止しました。このときに最終的に引き下げを見送った国側の理論はこうでした。平成19年には目下の原油高が物価に与える影響を見極める必要があるので、今回の削減を見送るということでした。そういうことからしますと2007年には物価高を理由に保護基準引き下げが見送られたわけです。今回は同じ理由で平成20年度の物価高を理由に保護基準を引き下げようとしている。このこと自体ですでに論理が破綻している内容です。
もちろん、物価動向の中でどの項目についての消費なのかということに着目することも非常に重要です。例えば家具家電製品あるいは教養娯楽といった、どちらかというと生活に余裕のある世帯が購入するような消費の項目と、どんなにお金がなくても、低所得でも、必ず必要な消費の項目があります。食料、水道光熱費、家具、被服履物、教養娯楽といった項目があるんですが、これを見ますと確かに家具家電製品がデフレで価格が下がっていることについては確認できます。教養娯楽についても下落していることも確認できるんですが、食料あるいは水道光熱費については逆に上がっているという結果になっています。
ですからデフレで物価が大きく下がっていることについて、低所得者世帯には当てはまらないということです。こういったことが無視されたまま進められている議論です。低所得者世帯ほど家計の中で食料・公共料金が占める割合が当然大きいということが言えます。一方で家具家電製品、教養娯楽に当てられる割合は小さいわけですから、デフレの減少による恩恵は低所得者は何も受けていない。こういった意味からもデフレ論による580億円というのは、詭弁ではないかと言えるわけです。
生活保護基準が切り下げられますと、最も打撃を受ける世帯は子どものいる世帯です。これは新聞報道もされていましたが、保護基準ですので、世帯の人数に加えて保護費の上乗せということでいうと、お母さんがひとりで子ども2人を抱えている母子家庭などは、まさに規準の切り下げの影響が直撃するわけです。月に1万円から2万円くらいの保護費の減額があるのではないかといわれています。これ自体は、もともと連鎖する貧困の問題、子どもの貧困の問題ということで、その連鎖を断ち切ろうと子育て世代への支援がこの間続けられてきたわけです。しかし、政権が替わってしまうとまったく矛盾した効果になり、子どもの連鎖する貧困の問題はこれからも続いていくのだと思われます。餓死事件であったり、心中事件、福祉事務所を経由した事件というのも中にはたくさん起こっていますけれども、こういった事件は今まで以上に増えて行かざるを得ないのかなと非常に危惧しています。
生活保護基準というのは生活保護を受けている人だけに関係する問題ではなく、生活保護を受けていない多くの市民にも関係を持っている規準です。ナショナルミニマムと言われるゆえんですが、生活保護基準というのは、最低賃金あるいは就学援助、地方税の非課税規準、国民健康保険料の減免規準などのさまざまな社会保障政策、社会保障制度と連動しています。生活保護基準が切り下げられると、ほぼ自動的にこうした規準も引き下げられる。この間、最低賃金が生活保護費よりも低いのは、最低賃金の低さが問題であるということで、その逆転現象を解消しようと最低賃金を少しずつ上げてきたわけですが、この動きは当然止まることになります。いまは生活保護を利用していないけれど、所得が低いので市民税が非課税になっている人の中に、課税される人が出てくる。
また就学援助――高校などで利用している人が非常に多い制度なんですが――、こういったもので給付の対象外になる人が出てくる。国民健康保険料は自治体によって非常に高いわけですが、保険料の減免措置を受けてきた人が受けられなくなって保険料の支払いを満額求められるようになる。当然必要な医療を受けられなくなる人も出てくる。こういったことになって行かざるを得ないと思います。申し上げたように最低賃金そのものが低下してしまう危険が出てきますし、いま中間的就労という概念が出てきていますので、最低賃金未満で働かせられるような労働者が出てくるのではないかということも合わせて非常に危惧しています。生活保護基準というのはこうしたナショナルミニマムとして日本の社会保障政策に非常に密接に関連する制度になっています。そして最後のセーフティーネットとして生活保護があるという仕組みなので、生活保護基準を下げればそれに連動して全部下がってしまうということになっています。
この問題について市民団体がたくさんの抗議の声を上げて国に、厚生労働大臣に指摘をしていったわけです。この間、厚生労働大臣はこうした指摘を受けて、生活保護基準を引き下げても他の制度に影響が及ばないように波及を抑える措置をとっていく、という話をしたと報道がされています。しかしそれは果たして可能なのか、という話をさせていただきます。
例えば最低賃金法の9条3項、ここには法律の文言として生活保護との整合性、生活保護に関わる施策との整合性に配慮するものとすると入っています。ですから最低賃金に影響を与えないということでいうと、この最低賃金法を改正しない限り無理なんです。生活保護とは切っても切れないんです、最低賃金は。非課税規準、これも地方税法あるいはその施行令、施行規則、こういった法律と行政内部でつくられる規範の中にも、生活保護法の規定による生活扶助を受けているもの、というかたちで生活保護というものが掲げられているんです。ですからこれを変えない限りは無理なんです。
更に就学援助制度。これは例えば生活保護規準の1.2倍とか1.3倍の所得とか、これは完全に自治体が独自に実施している事業で自治体によって規準が違いますが、いずれにしても生活保護基準が採用されています。当然、地方自治体の財政状況によってはじめから実施状況は違うわけですから、国としてできることはお願いをしますということだけであって、地方がそれに応じて、財政危機の自治体もある中で、「はいわかりました」というようにはなり得ないと思われます。厚生労働大臣が言っているのは、そういうふうにしてくださいというお願いをしますということであって、必ず生活保護を下げれば他の社会保障政策、社会保障制度に影響が出てくるということはぜひ知っておいていただきたいと思います。
この670億円の削減に加えて、さらなる保護費の削減ということで450億円です。これは就労支援の強化と生活保護の見直しによって生み出すということです。何を言っているのかというと、稼働年齢層、働けるのに生活保護を受けている人が多いということの偏見です。これはデータに基づく議論からすると非常にわずかな層なんですが、稼働年齢層に対する生活保護を切っていこうということです。
生活保護を切るためには、生活保護法で手続が定められています。まず口頭で指導指示が入って、それに従わなければ文書で指導指示を行い、さらにそれに従わなければ、弁明の機会を設けて生活保護を廃止するという手続を踏まなければいけません。いついつまでに就職を決めてこいという文書、むちゃくちゃな就労指導が、実際大阪ではたくさん出ていて、監督がベンチからホームランを打ってこいというサインを出すような就労指導をやっています。そういう就労指導に従わない、従えなかったということでバンバン保護が切られています。
これは自治体のマインドとして450億円という数字が出てしまうと、各自治体で予算の削減目標が立てられてしまいます。例えば北九州――闇の北九州方式――厚生労働省直轄方式ということで、餓死事件が何年も連続して起こったような、そういう自治体の運用になってしまうことが予想されます。
こういうかたちで670億円という削減をするわけですが、一方で安倍政権はアベノミクスということで日本経済を活性化すると、20兆円規模の経済対策を打つといっています。20兆円と670億円というのは今まで比較したことがないのでわからなかったんですが、割ってびっくりするのは20兆円は670億円の300倍です。だったら別にそんな社会保障費を削らんでもええんちゃうのという数字だと思うんです。こういったことからすると、やっぱり低所得者層に負担増を求めることは、国家によるいじめだといっていいくらいの話ではないかなと思います。
さらに恐ろしいのは今の予算案です。これは今でも撤回を求める運動は続いているんですが、仮にこれが実施されてしまったとして、政府はいつから実施するかを考えているかというと、参議院選挙のあとの8月からということになっています。生活保護の基準の引き下げは、仮にされるとしたら8月からなされるということになります。先ほどの高田先生の話と合わせて考えるとわたしは非常に恐ろしいと思います。より運動が求められていくときに、市民の生存権そのものが脅かされていて非正規労働が本当に増えていて自分の余暇を、時間を作ることさえできないような人たちがいるということを考えると、本当に怖いなと思っています。今まさに声を上げなければいけないと思っています。
いま申し上げたのは生活保護基準の引き下げの話です。なかなか報道ではこうした内訳は出てこないんですが、非常に乱暴な内容の保護の切り下げ、そしてかつてないような多額の大きな大幅な削減になっています。われわれは弁護士ですので後々裁判をするということを考えるわけですが、このような規準部会の報告書を無視し、そこでまったく議論されていないデフレ論を持ってきて削減額を増やすということがもし裁判所に持ち込まれたらどうなるのかなと思うんです。それくらい杜撰な理屈のない理念のない保護基準切り下げになっています。
生活保護問題全国対策会議というのがあって大阪の小久保哲郎弁護士が事務局長をしていますが、平成25年度の予算案の撤回を求める緊急声明、これを222団体に賛同していただいて出しています。連日国会で院内集会を開いて母子世帯の当事者であったり障がい者世帯の家族であったりワーキングプアで働く非正規労働者の方であったり、こういった方々と力を合わせて規準引き下げの阻止ということでいまも活動を続けています。この予算案の撤回、予算案が撤回されたことがいままであるのかわかりませんが、こういった議論での削減ですからまったく理屈はないんですね、だけれどもこれで押し切られてしまうといういまの自民党の勢いというのは理屈が通らない、正しいことが通らないというのはこんなに恐ろしいことなのかと思うくらいの状況になっています。ぜひ一緒に声を上げていただきたいと思います。
先ほどお配りしたのが2種類のチラシで、大阪弁護士会で今月の28日に「ブッラク企業の見分け方と対処法」というシンポジウムを開きます。いまの非正規労働の問題と、非正規社員でなく正社員であっても労働基準法が守られていないような労働の実態が問題になっています。こうした問題に取り組んでいるPOSSEというグループ、大学生だったり若い人たちを中心に労働問題や労働組合の運動をしたり生活保護の申請同行に取り組んでいる人たちの代表の方にお越しいただいてお話をいていただく予定になっています。また過労死問題の弁護団の方に来ていただいたり当事者家族の方に来ていただいてお話を聞こうと思っています。もうひとつが生活保護の基準の引き下げについての説明チラシです。これは日本弁護士連合会が作成したもので問題点を見やすくまとめたものです。
大阪市の生活保護の問題についても少しだけ触れたいと思います。橋下徹市長を代表とする日本維新の会が関西ではどんな自治体でも躍進している状況でして、彼らは先ほどの自民党の自立自助原則、自己責任論に基づいた考え方で社会保障、生活保護を見ています。維新八策の中に生活保護についての政策があります。ここに書いてある内容というのは、自民党の片山さつきさんとか世耕さんとかの生活保護問題のプロジェクトチームの政策とほぼ同じものになっています。あまり独自に何かしようというより基本的には同じもので同じことを考えているんだろうなと思います。
もともと生活保護について、大阪は保護率が全国一高いということで、橋下氏の前の平松さんの時から大阪の生活保護というのは全国的に注目されていていました。大阪での生活保護の運用の変更がそのまま中央に行って、それが全国的に広まるという、いい意味でも悪い意味でも非常に大阪の生活保護が注目されていて、ただちに国の生活保護の動向に結びついているという側面がありました。もともと貧困ビジネス、囲い屋の問題もあって生活保護の問題が非常に注目をされていたわけですが、さらに先ほどのバッシングが加わって維新八策のように、これは国の政策のはずなんですが、大阪の維新の会の八策ということで出されています。
ちょっと見ておきますと、高齢者・障がい者サポートと、現役世代のサポートの区分けということです。生活保護というのは、いまは年齢別ではなく全体で見ているわけです。そもそもそういう制度なんです。それを高齢者と若者で制度そのものを分断してしまおうということで、高齢者にはいまの生活保護制度を続ける。若い人に対しては就労指導の強化をして、有期性の保護を導入して若者が生活保護を受けられないようにする。いわゆる稼働能力のない若者ということなんですけれども、稼働能力のない若者についても生活保護を受けられないようにしていくことを考えているのではないかと思います。
それから現物支給中心の生活保護費、これは先ほど言った食料回数券などのことです。支給基準の見直しというのも同じです。保護基準の引き下げが、いままさに実施されているわけです。現役世代は就労支援を含む自立支援策の実践の義務化、これも現役世代のサポートを区分けして現役世代については就労支援を含む自立支援策の実践の「義務化」という表現で書かれています。有期性の保護、医療扶助の自己負担、まったく同じですね。
被保護者を担当する登録医制度、これは西成特区構想で一時導入する動きがあって大きな問題になったんですが、生活保護を受けておられる方の医療――生活保護の約半分が医療扶助だと申し上げた通り――医療扶助をどうしても抑制したいという頭があるわけです。生活保護を受けている方が医療を受ける際は、医療券というものが福祉事務所から支給されて、それを持って病院に行くわけです。自分にあったお医者さん、自分にあった医療を受けるという医療選択の自由が保障されているわけですが、西成特区の構想で考えられていたのは、西成特区の患者さんだけ自分の行くお医者さんを「登録せい」、そこ以外はよっぽどのことがない限り行くことは認めません、ということでした。セカンドオピニオンを聞く権利というものも、社会が進んできて認められてきているわけですがこういったことを一切無視した生活保護受給者、しかも西成の生活保護受給者を差別するような制度だったと思います。こういうことを実際にやろうと試みています。
わたしが大阪で生活保護の同行申請とかしている感覚からしますと、非常に悪い動きになっているように感じます。以前は水際作戦というのがありまして借金があったら生活保護受けられへんよとか、あなたの家は持ち家やから生活保護は受けられへんよとか、明らかにあやまったことを言って追い返すというのが水際作戦だったわけです。これは2008年の派遣村などをわれわれの社会が経験して、生活保護しかないということで、水際作戦は違法であるという認識が拡がって生活保護受給者が増えていった。生活保護の申請が、法律通り適正になっていったという経過があるんです。そしてわれわれもその水際作戦がなくなったのかな、なくなりつつあるのかなと思っていたんです。
しかし、やっぱり昨年から大阪市各区の区長公募制の影響なのかなと思うんですが、区によってまちまちで、いままで生活保護をきちんと受け止めていた区が、堂々と水際作戦をやる。住居がない、ホームレスだから生活保護は受けられない、あるいはあなたは居宅保護ではなくて施設へ行きなさい、自立支援センターに行きなさい、生活保護は受けさせませんというような、過去の水際作戦がまた始まっているような感覚があって、そういう相談が非常に増えているなという印象を持っています。
いまの生活保護の受給者について、毎月のように新聞報道で過去最大を更新というようなことになっていますが、これはある意味当然なんです。生活保護受給者というのは、本当はもっと増えるはず、いまの7~8倍増えるはずだと思います。というのは捕捉率という言葉があります。生活保護を受けられる要件を持っている人のうち、生活保護を現に受けている人の割合を捕捉率といいまして、日本では10から20%弱と言われています。これはいろいろな学者によって計算方法が違うんですが、そうしますと潜在的に生活保護を受けていない人というのがまだ多い。受けている人が氷山の一角であって、受けていない人がその4倍、5倍いるわけです。そうすると生活保護の受給者というのは当然止まりません。高齢者の方の無年金の問題も、高齢者が増えていけば無年金でまかなえない部分は生活保護しかありませんから、当然増えていくものだと思っています。こういうことを毎月報道するような、報道の中にも生活保護へのバッシング、規準切り下げを是とするような世論づくりを感じたりしています。
もちろん先ほど申し上げた第1十分位層、今回90億円の引き下げの比較対象になった第1十分位層の中にも、生活保護を受けていないけれども最低生活費以下で生活されている方はいるわけです。本当に、貧困層と貧困層を比べてこの国のセーフティーネットをつくっていこうとする思考は、やっぱりちょっとおかしいのではないかと思います。
それから貧困ビジネスの問題もあります。生活保護の不正受給の問題もあります。これについてもたくさん話したいことがあるんですが、貧困ビジネスの問題でひとつだけ言っておきます。以前いわゆる囲い屋ということで、大阪ではホームレス状態の方を自分が管理する物件に連れて行って、そこで生活保護を受けさせて、家賃を取ってお弁当代を取ってというかたちで、保護費のすべてを取っていくものが囲い屋といわれていたんです。われわれ弁護士とか司法書士とか法律家でグループを作ってこの問題に取り組んだんですけれども、この問題が社会に広く認識されるようになって、現在はむしろ、高齢者の問題に切り替わっています。
サービス付き高齢者住宅とか、いわゆる無届けの高齢者施設が全国にたくさんあります。「たまゆら」の火災事件もそうでした。そういったところで生活保護を受けていながら、そういう施設に入っておられる方も非常に多いわけなんですが、その方々のほとんどが、わたしからすると囲い屋被害に遭っていると思います。その金額も生活保護の単身12万円ではなくて、介護保険とか医療扶助というものが入ってきますので、1人月50万円くらいの請求を業者がやっている。自分達の事業者を抱え込んでケアマネージャーとかケアプランを作成するのも自分達、病院も自分達の提携しているところということで、こういう低所得者層をターゲットにした貧困ビジネスもあります。これもわれわれは同時にたたかっていかなければいけないと思っています。
冒頭に申し上げたように、この生存権の保障については、実質的に憲法規範が切り崩されている状態にあります。ですのでこの問題について、われわれはきちんと法律家として対応していきたいと思っています。もちろん他の憲法の問題についても、同じく憲法改悪反対という立場からみなさんと運動を続けていきたいと思っております。今後とも反貧困の問題についても御連携、御協力のほどよろしくお願いいたします。
池島芙紀子さん(ストップ・ザ・もんじゅ)
ご紹介いただいた「ストップ・ザ・もんじゅ」の池島といいます。自己紹介を兼ねて私自身のことを少しだけ話をさせていただきます。私は、幼いときに大阪の天王寺に住んでおりました。その後、丹後半島に疎開したのですが、直後の3月の大空襲で家は全焼し、その後、産後の肥立ちが悪くて疎開先で母は亡くなってしまいました。
それ以後、父の手ひとつで育てられたのですが、高校時代になって、ある時、姉と大論争したことを今でも覚えています。それは、朝鮮戦争についてでした。私は、「本当に許せない、そんなことに日本が荷担するなんて」という気持ちでいっぱいだったのですが、姉は、冷やかにこういいました。「朝鮮特需があったから日本は復興したんだ」と。そういう考え方ができるということに、私は、その時、大ショックだったのですが、その後の生き方に大きく影響を与えたことだったと思います。
その後、教師になって、今は退職をしましたが、30数年間反原発運動を続けてきました。戦争も、原発も、共通して言えることは、“人を不幸にして、その上に自分の幸せを築いてはいけないではないか”、そういう強い思いで、ずっと頑張ってきております。
この30数年間、反原発運動は非常に苦難の道でした。少数派で、やってもやっても、あまり成果がない。いろんな運動の中からも、冷やかな扱いをされてきた経験があります。
そんな中で、ありとあらゆる、考えつくかぎりの運動を取り組んできました。“なんとしても、子供たちを被曝させてはいけない”と。日教組のテーゼに“教え子を戦場に送るな!”というのがあります。私自身も、長年、それは非常に正しいと思ってがんばったつもりですが、最近では、もうひとつ“教え子を被曝者にするな!”、これが欠けてるんじゃないかなと、つくづく思っています
子どもたちを被曝させないためにと、原発震災を心配し、映画まで作ってがんばったのですが、ついに2年前、福島のあの大事故を経験する羽目になってしまいました。
おそらく皆さんも、そうだったと思うんですけれども、運動が間に合わなかったことの悔しさ、無念さ、あの時の気持ちは本当に忘れることはできません。
直ちに全関西に呼びかけて、第1回目の関西行動を行ったのは、2年前の4月でした。わずか10日ばかりの呼びかけにかかわらず、3500名ほどの方が中之島に集まり、御堂筋をデモしてくださいました。以後、去年の3・11もそうでが、たくさんの方が理解し、協力し、いっしょになって大きな集会を成功させて下さいました。
今日は、今取り組んでいること3点をご紹介し、お願いをしたいと思います。
まず1点目です。お配りしているチラシに「さよなら原発 3・10関西2万人行動」のチラシがあると思います。以前は考えられないほどの大勢の方、50名近くが毎回の実行委員会に集まって相談し、協力して取り組みを進めております。今年も、会場は中之島にさせてもらいました。デモコースも、高齢者もいれば幼い子供もいますので、一番短いので関電コース、長いので御堂筋コースというふうに分けて組んでおります。ぜひ、ご自身だけではなく家族ぐるみ友人職場、すべてに声をかけて集まっていただきたいと思います。
今の自民党政権は、あの福島の大惨事など、まるでなかったかのように国民を本当になめきった態度で、再稼働、それから新増設も、原発輸出すらも、どんどん進めようとしています。今、本当にこれに歯止めをかけなければ、次なる大惨事、福島の2度目が迫ってきています。
去年の暮れから今年にかけてわずかな間に20回以上も東北を中心に地震が起こっています。ソロモン島沖でもマグニチュード8が襲いました。後で3番目に述べたいのですが、福島の4号機がこの大きな余震に見舞われたらどうなるのか、このことを本当に心配しています。
2点目です。4月21日にエル・おおさかのホールで「ノーモア ヒバクシャ 関西のつどい」をおこないます。屋内でじっくり、映画と講演で、わからないことを深めていただきたいなと思って企画しております。映画は、新作のドキュメンタリーで「福島 六ヶ所 未来の伝言」という、長年六ヶ所に住んで、ずっと写真を撮っている島田恵さんの作品です。続いて福島から「子供たちを放射能から守る福島ネットワーク」の事務局をされている佐藤幸子さんをおよびして今の状況をお話しいただきたいと思います。
それから、今まで私たちは、原発の危険性ということについては、ずいぶんと力を入れて、いろんなパンフレットを作ったり、映画やDVDを作ってきのですが、今、財界が政界といっしょになってキャンペーンを張っているのは、“経済のためには原発がいるんだ”“電気代値上がりするんの、ええんか”と脅しをかけてきています。それに惑わされている人が多いのも事実です。とんでもない話で、原発があろうとなかろうと電気代は上がります。決して原子力はエネルギー政策でも何でもなくて、電力会社を中心とする財界のお金の話、経営の話なのです。そのカラクリを所源亮さんにお話しいただこうと思います。
ぜひこちらにもご参加くださいますようお願いいたします。
3点目は、先ほど言いました福島4号機の問題です。8月と11月に院内集会を行い、東電と政府を呼んでヒアリングをし、交渉しました。署名も集めて第一次提出しました。
その結果、東電は当初計画より13ヶ月工程を早める、今年の12月から開始だったのを1カ月早めて11月に開始し、全工程も早めるといってきました。それは、やらないよりやったほうがマシなのですが、本質的な解決にはなりません。
時間がないので詳しく言えませんが、使用済み燃料の恐ろしさについて、今まで、あまり問題視されて来ませんでしたが、本当は原発と同じぐらい危ないのです。
再稼働がなくとも、この使用済み燃料が津波や地震で爆発したじゃないですか。今、全国には非常にたくさんのこの使用済み燃料が、プールで冷されています。六ケ所に集められただけでも3000トンもあるのです。この恐ろしさ。このことに今後、国を相手に切り込んで行きたいと思います。プールではなく、水で冷やさずに乾式保存、――外国はみなそうしているのです――乾式保存で、キャスクという大きな容器に入れて保存することによって安全性は、抜群に違うわけなのです。日本は、なぜそれをしないのか。核燃料サイクル政策があり、使用済み燃料を六ケ所に集めて、それを使いたいからなのです。このことをもうひとつの大きな今後のテーマとして訴え、運動として取り組んでいきたいと思います。
ぜひ、署名まだの方、ご協力をお願いします。ありがとうございました。
新田秀樹さん(オスプレイの配備と低空飛行を許さないヒロシマ市民ネットワーク準備会)
“ピースリンク広島・呉・岩国”で基地問題を中心に取り組んでおります。広島県の一番西に位置し、広域合併で宮島から県境までたいへん広い地帯になっている廿日市からやってきました。沖縄にオスプレイが配備されました。これに対して沖縄の人々が心底反対し、照屋さんからも報告があったように、かつてない闘いが繰り広げられ、今も根強い反対運動が続いています。そういった中で、何とかこの声に応えられるような運動を始めたいということから、「オスプレイの配備と低空飛行の問題の運動化」についての報告したいと思います。
オスプレイの危険性については、七つ森書館から出ている『オスプレイ配備の危険性』という本が参考になりますので、ぜひ読んでください。“本当に落ちるんだな”ということが確信できます。その“落ちるオスプレイ”を我々が運動を作っていく中で追及していくことが大事になると思います
オスプレイは、本当に危険ですし、ましてや低空飛行という問題。非常に危険性をともなっています。アメリカの国内では、低空飛行は行わない、要するに住宅地の近くでは行わないということをアメリカ政府が決めています。しかし、日本の上空では、住宅地も何も関係なく低空飛行をする、そういう政策をアメリカ政府は行っていると、まず頭に入れておいてほしいと思います。そうした中で、戦後67、8年経ちますが、“日本中の空は、まだアメリカのものか”と痛感する事態が、全国各地で起こっています。
6月にオスプレイの『環境レビュー』が出され、全国6つのルートで低空飛行訓練を行うとされています。全国で7ないし8のルート、エリアを含めれば10位の海上以外の地上訓練コースが存在していることがわかっています。広島の周りでは、“ブラウンルート”があります。岩国基地の戦闘機を中心に深刻な低空飛行訓練が行われている実態があります。
防衛省が、全国の低空飛行に対する苦情についてのまとめをしていますが、その中で一番多いのは、群馬県だそうです。この5年間で911件の苦情が寄せられている。これは、多分氷山の一角だと思います。ちなみに広島県では、30件ぐらい。ですから、いかに群馬県が多いかがわかってくる。
く渋川を中心としたエリアで、低空飛行が、市街地・人口密集地の上で行われる関係で、非常に苦情件数が多いのだろうと想像されます。
広島周辺でも、低空飛行訓練が行われています。エリア567というエリア型の訓練コースの中に島根県の旭町があります。その旭町に「あさひ社会復帰促進センター」という建物、簡単に言うと刑務所のような建物があります。インターネットで地図検索するとわかるのですが、山の中にある変わった建物なんです。その建物を攻撃目標にして、米軍の戦闘機が爆撃訓練をやっているのは、間違いない。ほぼ毎週のように岩国から戦闘機がやってきて爆撃訓練をしている。こういった状況のなかで、保守地盤の強い島根県ですが、“低空飛行だけは絶対に許さない”という声が地元から上がってきています。
広島も島根も保守基盤が強いところで、我々に対する目は厳しいのですが、こと、この低空飛行については、運動化する余地があり、何とか自治体を巻き込みながら運動を作っていきたいと思っています。
日本には航空法という法律があります。この法律では、安全性が確認されない飛行機は飛んではならないことになっています。ところが、地位協定に基づいて航空特例法という法律が定められていて、米軍機は除くのです。米軍機は、低空飛行も、危険な航空機でも飛んでも良いということです。全国6つのルートに関わってくる自治体は、270を超えるといわれています。今、平和フォーラムでアンケートをしています。226の自治体に送って、約半分以上が返ってきていますが、東北の方からの目撃情報がない。というより、自治体が把握していない。合併の中で自治体機能が失われている中で、市民が声を上げていくことが大事になっていくと思います。
沖縄で、オスプレイ配備に対して合意が行われました。沖縄県の調査では、2カ月間で518件確認したうち、300件が合意違反。それでも、日本政府は“破られていない”。本当にこういった許せない状況のなかで、何とか全国運動をこれから作っていきたいと思っています。広島も、その発信地として重要な役割をこれから果たしていきたいと思います。
関西は、よそごとのような感覚もあると思います。しかし、“オレンジルート”には、和歌山県のみなべ町・御坊市・田辺町などがかかっています。現場ですので、是非、この関西からも声を上げていただきたいと思います。
◇スタディーツアー
2011年3月11日の東日本大震災・東京電力福島第1原発事故から2周年を前に、3月9日、東京・明治公園で「さようなら原発1千万署名市民の会」主催で、「つながろうフクシマ!さようなら原発大集会」が開かれ、全国から1万5千人が参加しました。
集会は2部形式で開かれ、第1部は日本音楽協議会のオープニングライブを皮切りに、脱原発に取り組む各団体や各地からリレートークが行われました。福島県葛尾村から避難している小島力さんは村民による集団訴訟の取り組みを、国際環境NGO・FoE Japanの満田夏花さんは「原発ゼロの後退を許すな」と訴え、原子力資料情報室の伴英幸さんも「原発再稼働をさせてなならない」と述べ、毎週金曜日に官邸前デモをするMisao Redwolfさんは「選挙結果はあっても脱原発は国民の声だ」と語気を強めました。日本消費者連盟の富山洋子さんは「安心できる社会を次代へ」と語り、元山口県祝島島民の花田恵美代さんは「海の埋め立てを許さない」との祝島島民のメッセージを代読しました。
沖縄出身の金城吉春さんとアシビナーズの歌と三線演奏をはさみ、各地からの訴えでは、茨城・東海原発(大石光伸さん)、静岡・浜岡原発(伊藤実さん)、青森・六カ所村再処理工場(山田清彦さん)、北海道・泊原発(小野有五さん)について、それぞれの現状と取り組み報告が行なわれました。福島からは、双葉町の井戸川克隆・前町長と浪江町から避難している柴口正武さんが避難者の立場から「事故は全く収束していない」などと東京電力と政府の対応を強く批判しました。
第2部は女優の木内みどりさんの司会で進められ、最初に全員で黙とうを行った後、呼びかけ人から4人が発言。鎌田慧さんは「原発事故より経済が大事だという政治の動きがあるが、私たちはそれを許さない」と指摘。大江健三郎さんも「福島原発事故をなかったことにしようとする勢力と闘い、原発の再稼働はさせない」と語り「今日のデモは最後まで歩く」と決意を表明しました。落合恵子さんは「原発を推進してきた自民党が政権を取ったが、くじけずに行こう」と呼びかけ、澤地久枝さんは「福島で被曝した人達は全て国の責任で補償させよう」と訴えました。
早くから原発問題を訴えてきた作家の広瀬隆さんは、地震発生や子どもたちの健康、生態系の異変など、原発事故による恐怖の実態を指摘した後、「原発を稼働させる方が多大な金がかかるということをマスコミはきちんと報道してほしい」と訴えました。また、集会参加のために来日した韓国の環境団体「韓国環境運動」の共同代表で「核なき世界のための共同行動」のチェ・ヨル代表が、国際的に連帯して脱原発をめざそうと呼びかけました。
最後に福島から京都に避難している斎藤夕香さんが「事態の深刻さを知らずに避難をしていない人も多い。多くの人に伝えていきたい」と述べ、「私たちのことを忘れないで、繋がってほしい」と訴えました。
集会後に、2つのコースに分かれて、「原発はいらない」「政府は責任を取れ」「エネルギー政策の転換を」「再稼働を許すな」などとシュプレヒコールを行い、横断幕やプラカードを持ち、沿道の人達に呼びかけながら行進をしました。
(さようなら原発1000万アクションのサイトより転載)
大江健三郎(作家 さようなら原発1000人署名呼びかけ人)
福島の大震災、原発事故の直後から一挙に高まった「原発ゼロ」の声は、私が生まれてから老年のいままで、かつてあじわったことのない、統一された日本人の声でした。ほんの子供の頃の超ナショナリズムの気運が、これと近かったか、と思うのみでした。
それがいま色褪せて来、勢いを失っているのじゃないか、という声は、まさにタメにするものです。今日、私らはその反証を大きく示しうるでしょう。それはフクシマが、日本人得意の慣用句、ナカッタコトニスルことは絶対にできないものであるからです。
私は作家です。文学の立場から、その証言をおつたえします。長崎の浦上の丘で原爆を経験して、今日にいたるまで優れた作品に描き続けてこられた、林京子さんの小説で、今月(4月)号の「群像」に載っています。
林京子さんの福島でなにが起こったか、起こり続けているか、の注意深い受け止めは、直接長崎の被爆につながっています。長崎の苦難をしっかり担った人が福島の新しい被爆者の脇に立っているのです。福島の状況をつたえる国の役人が、テレビで子どもたちの「内部被曝」という言葉を使うのを聞いた。そして林さんは涙を流された、かれらは知っていたのだ、と。放射性物質が身体に入り込んで、それからずっと引き起こす「内部被曝」。林さんの激しい思いの文章を引用します。
《幾人のクラスメートが、被爆者たちが「内部被曝」のために「原爆症」を発症し、死んでいったのか。原爆症の認定を得るために国に申請する。国は却下。被曝と原爆症の因果関係なし。または不明。ほとんどの友人たちが不明と却下されて、死んでいきました。被爆者たちの戦後の人生は、何だったのでしょう。》
そうして林さんは福島の新しい被爆者の将来を深く憂えられるのですが、「フクシマ」が「ヒロシマ」「ナガサキ」を生き延びて来られた人たちと、はっきり結ばれている。それを見すえて、福島の戦後の人間の生き方を、私らみながどのようにこの国の将来に思い描くか、に集中していられます。とくに子どもたちのこととして。
林さんは不屈の人ですが、それでも、あるいはそれゆえに、国が、産業界が、また地方自治体が、そしてフクシマナドナカッタと言いかねない(フクシマハ終ワッタ、とはもういっています)そうした能天気な政治家が突っ走る東京の進み方に暗く沈み込まれます。
ところが、その林さんが、昨年7月、代々木公園で脱原発の集会があるのをテレビで見つけられた。新幹線でひとり出かけられます。引用を続けます。
《駅から公園までの短い距離のなかで、これほど素直で率直な、人々の「いのち」への思慕~おもいしたう、ことです~を感じたことはありません。戦後60数年の年月のなかで、人びとがとった最後の選択なのです。戦いを生き抜いたわたしたちのバトンは、若い人たちに確かに渡っている。感動でした。(中略)大震災から引きずってきた迷いも、まどわされる揺れも終わりです。浦上の丘でもらった命一つの謙虚な私に還って、代々木から新しい出発です。》
広島、長崎での経験につないで、福島を見つめつつ、もう一度放射性物質で子供らを殺させはしない、という意志に立つ希望を、私は林さんの声のまま自分のうちにしっかり取り入れます。
私のいま現在の決意は3つです。広島、長崎、そしてフクシマをナカッタコトにしようとする連中と闘う。もう一台の原子炉も再稼働させぬ、そのために働く。そして、このデモコースを完走じゃない、完歩することです。しっかり歩きましょう!
(3.9集会での発言)
F35の共同生産や化学防護服の共同開発など武器輸出3原則の骨抜きにSTOPを!
安倍政権は3月1日、航空自衛隊の次期主力戦闘機F35の部品製造について、武器輸出3原則の例外として国内で生産した部品の輸出を認める官房長官談話を発表した。これによりF35は日本企業を含む国際分業で生産され、第3国への移転はアメリカに任される。F35は、パレスチナで中東周辺国と緊張関係にあるイスラエルが購入を予定しており、日本が同国の戦争を支えることにつながる。
この動きに抗議して緊急院内集会が3月21日午後、衆議院議員会館で開かれた。集会はWORLD PEACE NOWほかの市民団体の呼びかけによるもので、集会は時間前から参加者が詰めかけ会場は一杯になった。
はじめに、高田健さん(許すな!憲法改悪・市民連絡会)は「安倍内閣の下で9条改憲に限らず、つぎつぎ憲法や平和の問題に対する攻撃がかかっている。たとえば『4.28主権回復記念の式典』開催も重要な問題で、安倍首相は批判を受けて沖縄の人たちに寄り添うというが、どう寄り添うのか。この動きも許せない。武器輸出3原則も重要な問題で何かしなければならないと思っていたが、栗田先生に院内集会を開くようハッパをかけられた気持ちでこの集会を開いた」と挨拶した。つづいてゲスト3名の研究者が発言した。
初めに栗田禎子千葉大学教授(中東現代史研究)は中東関係の観点から考慮すべき論点として、第1にイスラエルがまさに紛争当事国であることをあげた。F35開発への関与は「武器輸出3原則に」に反しないとする安倍政権の見解は全く非常識だ。イスラエルはパレスチナ問題の当事者であり、ガザ地域への攻撃を繰り返している。さらにイランなどへの攻撃も計画しているとされていて問題は厳然として残る。第2に3原則の例外を認める条件を「国連憲章の遵守」としたが、2001年以後の「テロとのたたかい」でみるように、イスラエルも米国も国連憲章との整合性があるといえるのか。第3に、日本の「国益」や日本人の「安全」に寄与するのか。中東では平和憲法をもった日本は、欧米の国とは違うとこれまでは見られていた。安倍政権の3原則緩和は「これだけはやってはダメなこと」で、日本の「国益」に反する、などと指摘した。 また、「武器輸出3原則とイスラエルへの武器輸出に関する国際共同声明――日本は、アメリカとイスラエルへの戦争政策への加担を中止せよ――」という共同声明の呼びかけがはじまり、フランスやドイツからも署名が寄せられているなどの反響も報告した。
臼杵陽日本女子大学教授(パレスチナ/イスラエル研究)は次のように話した。イスラエルの核兵器保有は公然の秘密で、明らかにしないことを核抑止力として中東に睨みをきかせている。イスラエルは、中東の内戦状態やスンナ派とシーア派の対立を、利用できる有利さと判断している。オバマとの会談で、ネタニヤフが「イスラエルは自国を守る権利を持つ」といったのは、アメリカの許可がなくても攻撃することを認めさせたことだ。新しく発足したネタニヤフを首班とする連合政権はこれまでより右傾化傾向が強い。今回の武器輸出3原則の変更は、日本がこれまでの平和国家の立場を変えたとアラブの人から思われるだろう。日米同盟の強化は、日本とイスラエル関係の強化と思われ、親イスラエル国家のイメージが強まることは間違いない。アラブ人の対日感情は1991年の湾岸戦争後から次第に悪化してきた。今回の変更は日本人がより一層ムスリムの攻撃の対象になる。
飯島滋明名古屋学院大学准教授(憲法学・平和学)は、「武器輸出3原則と日本国憲法」について次のように話した。武器輸出の持つ意味を考えてみたい。例として3月18日付けの『朝日新聞』は、「フランス企業が中国にヘリコプター着艦装置を売却することに対して、日本政府はフランス政府に懸念を表明」と報道した。ここでは戦争もしていない中国に行ったフランス民間企業の商行為を、日本政府は問題にしている。(潜在的)紛争国に武器を提供することは、(潜在的)紛争相手国からすれば「敵対行為」の可能性がある。これでわかるように武器輸出の持つ意味は慎重に考える必要がある。また憲法9条は、日本が武力行使に類推されることも禁止している。憲法前文では国際平和のために名誉ある地位を占めたいと謳っている。武器輸出禁止はこの平和主義の実現のひとつだ。いつ紛争国になってもおかしくないイスラエルに武器を輸出することは、平和原則に反する。
集会では、鈴木均さん(アジア経済研究所主任調査研究員、イラン・アフガニスタン地域研究)と小杉泰さん(京都大学教授、イスラーム地域研究)からの賛同メッセージが紹介された。また、衆議院議員の赤嶺政賢さん(共産党)、参議院議員の大野元裕さん(民主党)、福島みずほさん、吉田忠智さん、山内徳信さん(いずれも社民党)がかけつけ連帯の挨拶をした。
赤嶺政賢さんは「武器輸出3原則の緩和は、日本が新たな武器輸出国に加わったこと。国連加盟国なら戦争行為をしていても武器輸出が可能になるというのでは、何の制限も加えていないことになる。大きな世論をつくって撤回させよう」と語った。
福島みずほさんは「クラスター爆弾禁止条約を発効させるときに、日本制の爆弾が輸出されたら日本の武器で世界の子どもを傷つけてしまうという実感をもった。菅政権のときには3原則緩和に歯止めをかけた。これからも武器輸出をしない国を堅持させるためがんばろう」と挨拶した。
最後に、ゲストと参加者で質疑や意見交換が行われた。参加者は3原則緩和に反対する行動を拡げていくことを確認した。
イラク戦争開戦から10年にあたる3月20日、東京の早稲田大学で「イラクテン 日米イラク戦争の正体」集会が500名を集めて開かれた。イラクとイギリスからのゲストを招き、日本が支援したイラク戦争の検証とその今日的課題を検討し、以下の「早稲田宣言」を採択した。
◇イラクと日本および世界の平和を実現するための早稲田宣言◇
いかなる国や地域の人々であれ、生命や尊厳、平等という譲ることのできない権利を保障されることは、世界における自由、正義および平和の基礎です。2003年3月に米英両国を中心として開始され、日本が支持・支援したイラク戦争は、世界人権宣言に謳われる精神とは正反対のものであることを、ここに確認します。
イラク戦争では、少なくとも11万人もの命が奪われ、現在もなお、300万人近くもの人々が、国内外での避難生活を余儀なくされるような状態を招きました。それが「自由と民主主義」を標榜する先進諸国によって引き起こされたことは断じて許されないことであり、この戦争を止められなかった市民社会にとっても痛恨の極みです。ファルージャなどイラク各都市での無差別虐殺や、アブグレイブ刑務所などでの組織的な拷問や虐待、クラスター爆弾や劣化ウラン弾など非人道的兵器の多用など、米軍ほか多国籍軍がイラクで行なってきたことは国際人道法に著しく反することは明白であり、また「人道に対する罪」にあたる可能性があります。
自国のイラク戦争への関与について検証を行ったオランダで、独立検証委員会が結論づけたように、イラク戦争は国連憲章に定められた武力行使の法的根拠を持たない、国際法上も違法なものでした。そうした戦争を日本が支援・支持したことは、日本国憲法前文の「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占める」という精神に反し、また名古屋高裁が憲法判断を示したように、航空自衛隊による米軍の人員・物資の輸送支援は、集団的自衛権の行使、参戦行為であり、憲法違反です。
これらの事実が持つ重大さは、決して風化させてはならず、日本のイラク戦争への関わりの検証は歴史的、国民的な課題です。したがって、私たちは、以下の行動を提起します。
2013年3月20日
イラクテン集会「イラク戦争の10年と日本」参加者一同
和田 伸
帰島後2年目の正月でした。しかしながら――あの選挙は何!?げっそりげんなり、もうどうにかしてくれって感じ~? そのため息も消えぬまま、西之表市の市長選・市議会選挙が、告示1月27日投開票2月3日で行われました。市長選は候補2名で、長野力(73才・現職2期無所属、公明・民主・共産・社民推薦)と新人の中野周(70才・市議・元航空自衛官)。争点は全国各地同様に様々であるが、今回は馬毛島へのFCLP(米軍空母艦載機の陸上離着陸訓練)の移転問題が事実上の争点だった。長野候補は断固反対の立場で交付金に依存しないまちづくりを目指す。中野候補は自衛隊誘致については賛成、FCLPには「白紙」で、交付金の有効活用を主張(以前は自営隊は賛成、米軍は反対とかで選挙用の戦術か)。
市議選には定員16に対し、候補17名(現13元1新3)。私たち「西之表市政オンブズパーソン」は、全候補19名に、(1)TPP参加(2)九電川内原発再稼働(3)馬毛島FCLP(4)憲法「変更」(5)任期中取り組みたい政策やテーマについて具体的に、以上(1)から(4)には賛成・反対・わからないの回答とその理由と、公開質問状(返信用切手80円同封)を送付したが、回答があったのは市議候補4名のみ。「公僕」としてこの程度の自覚と資質。告示のポスターでも具体的に政策を明記したのは5名。あとは元気と思いやり、誠実・情熱・行動力、大好きなふるさと等々、あのアベの「美しい日本」「新しい日本」同様、私には何のことやら全くイメージもわかない(その後市選管から選挙公報が届いたが1月30日、これじゃ遅すぎる)。
2月1日発表の地元紙の市議候補への「FCLP」アンケートでは、反対13賛成1どちらとも言えない3だった。この地方紙も1月23、24、25日掲載した「FCLPと西之表市ダブル選」の記事があまりにも賛成派寄りであり、多くの市民の抗議の結果アンケート実施したと思われる。去る12月21日に隣町中種子町議会(定数14)の本会議で、熊毛地区4市町の首長と議長で作る「米軍基地等馬毛島移設問題対策協議会」(会長・長野力西之表市長)の離脱を求める決議を、8対5の賛成多数で可決したこともあり、(町議会は2011年6月FCLP移設反対を賛成多数で決議しており川下三業町長は、町民の移設反対署名もあり離脱する考えはないとしているが)反対派は相当の危機感を持って運動を展開した。一方、中野陣営は事実上の「参謀」と思われるU氏(元自衛官幹部)作成のパンフを市内に配布したりして市長攻撃を行った。また共産党への反共攻撃を繰り広げ、結果あまりにも事実無根のデマであるとして、1月24日U氏は鹿児島検察庁に名誉毀損で告発された。私個人としては体制側である保守系の市長候補の応援活動はちょっとこそばゆい思いもした。
3日の開票の結果、市長は長野候補が6,851、中野候補が3,783(有権者10,801人・投票率82.35%)で約3000票の大差で3期目当選。長野力「今回の選挙で移転案反対との民意は示された。国に対して計画の撤回を求める」。破れた中野陣営は元自衛官幹部や元市長の応援、自民党西之表支部の推薦を受け「勝ちだ!」と自信アリの様相だったが、落選のショックとかで倒れて病院へ搬送される一幕も。市議16名中FCLP賛成は1名のみ。市人口の70%の反対署名が証明されたと言えよう。
元旦の「2013年の抱負」県知事は地元紙の取材に「地元の意向が最も大切で、地元と歩調を合わせる。2月の西之表市長選を見ながらの対応になる」が、さあどうする!? 馬毛島の大半を所有するTA社(東京)の立石勲会長は「日本を守ってくれるアメリカのためにやっている」とうそぶいている。市長選を受けて小野寺五典防衛相は5日の会見で「FCLPの移転についての馬毛島の適否も知らないで話しをするのは失礼。調査を含めて地元と話しをしていきたい。地元の意見をしっかり受け止めるのが大切」と意欲を示したという。
次に原発関係では「反原発・たねがしま」は2012年12月27日付で「電気料金値上げについての申し入れ書」を九電熊毛営業所(西之表)に提出した。同日7名の仲間とともに、居留守を使わせないために事前のアポも取らなかったが、結構友好的に日本茶のサービス付きで営業グループ副長他2名と、約1時間反対趣旨や再稼働への質問を行った、申し入れは(1)電気料金の値上げの理由を赤字解消の点だけに限定していますが、原発が再稼働しない場合の自己報酬率の算定ルールから「焼け太り」となる可能性が高く、公平な電気料金のために詳細な資料と説明を求めます。(2)全資産の公開を求めます。(3)役員等の報酬や新規採用者数の削減とありますが、更に全社的に厚遇な給与体系の見直し、また「天下り」への支出額、随意契約の見直し等詳細な合理化計画、及び原発の維持管理と安全対策工事等の費用についての説明を求めます。また早急に十分な説明と議論のための説明会を開き、それでも地域住民の理解が得られない場合は値上げ申請の撤回を要請した。
その間、川内原発関連の報道では「防災安全対策課題多く」「再稼働手続き前倒し」「巨大赤字見えぬ再稼働」等が踊る中で、昨年暮れ2013年4月1日より8.51%の値上げ申請を経済産業省へしているとの説明パンフが各戸へ配布された。知事は前出の抱負で「今までと変わらない。国が安全を保証した上で、公開の場で地元住民に説明し理解を得る必要がある。7月の段階で再稼働できる状況に持っていくのが行政的スタンダードだと思う。そのための手続きはしたい」と語り、再稼働の同意が必要なのは県と川内市だけで良いとの姿勢は崩さず、周辺自治体の住民には不満がくすぶっている。
1月21日、消費者庁は値上げ申請についての意見交換会を福岡市で開いた。「役員報酬のカット率が低い」また「燃料調達価格が他電力より高い」「理解のための情報公開を」「プルサーマル発電用の高額なMOX燃料を使うな」等々厳しい意見が相次ぐ(7名意見陳述)。同庁阿南長官は会合後「積極的に説明責任を果たすべきだ。今日の疑問について九電側に回答を求め、消費者が納得できる料金になるように努力したい」。
同様に2月1日、経済産業省開催の公聴会(福岡市)が開かれ25名が意見陳述し、反対の声が大半を占めた。「経営責任を果たさぬ役員にこれだけの報酬を支払う必要があるのか」(九電側の説明では削減後の3人で8,900万円、社員1,000人以上の企業では当然とも)。「再稼働しなければ値上げするぞの脅しか」「原発反対だから節電に協力しているのに」「値上げは命に関わる問題だ」。参加の電気料金審査専門委員会・松村敏弘委員(東大教授)「役員報酬は絶対水準が問題。元の報酬が法外に高ければカット率が高くても足りないという結論が出る可能性はある」(消費者庁の提案は事務次官並みの2,000万円というが)
2月4日の回答では、九電側グループ長他2名、当会は6名。九電側は「電気料金値上げ申請の概要について」(A4版)を使って説明(値上げの概要、経営状況、財務諸表、原価算定設定、消費者への説明等)。正直私にはあまりよく理解できなかった、他電力との比較もできず。10分の休憩後質疑に入る。14、15年度の採用45%減、13、15年度の原価に織り込みの基本給与額を、08年度改訂時の24.7%減の平均516億円に抑える。原発の安全対策として13、15年で1283億円投資。配当についてはお客様株主等利害関係者のバランスを考えて判断等々の方針を念頭において質問したが、どうにも噛み合わない。「九電の燃費の割高設定」については九電の出席者もそれを知らず、こちらの資料をコピーする始末。
とにかく料金については総括原価方式を初め問題点が多すぎる。日本原子力発電に受注もしていないのに「基本料金」として電力5社が760億円も支払い(東電などは10数兆の税金投入にかかわらず赤字と言いつつ270億円の支払い)。料金全体の70%が一般家庭からなのに、その消費量は中小企業と併せても14%である。また「原子力立地給付金」制度もいい加減で、交付事業を独占している「電源地域振興センター(経済産業省OBの天下り)」は。実務も電力会社に再委託して何もせず、理事長は1,658万円(10年度)も取っている。この上ないバカバカしさは原子力規制委員会の事務所(六本木)は家賃が月4,400万、年5億3,000万とか!
まとめとして料金値上げ反対そして原発再稼働の反対、離島の自然エネルギーへの転換(ドイツの20年は日本では5年で可能という)。各集落への値上げ説明を要請すると、検針時にもさせるというが、担当者が複雑な仕組みを説明できるのか。それ以上に労基法違反かも。最後に脅しをと私の発言、東電に対して既に始まっている不払い運動を九電へもやるぞ、次回交渉含みで閉会した。
2013年2月