総選挙の結果、3年4ヶ月前に下野した自民党と公明党が政権に復帰した。有権者はマニフェスト破り、約束破りの悪政に終始した民主党政権を拒否し、惨敗に追い込んだ。
改憲と究極の解釈改憲である集団的自衛権の行使を主張した自民党と日本維新の会は348議席を確保し、憲法第96条が規定する改憲発議要件の3分の2以上を衆議院で確保した。また原発の持続・延命の立場をとった自民党は単独で294議席と、過半数を大きく超えた。
今後、自民党はまず第96条の改憲発議要件を3分の2から過半数への緩和すること主張しながら、13年夏の参院選で改憲派(自民党、日本維新の会、みんなの党が96条改憲を主張)の議席数、3分の2議席の確保を実現しようとしている。あわせて現行第9条のもとでも日本を「戦争をする国」にする集団的自衛権の行使を立法によって合憲とするための「国家安全保障基本法」の制定に着手しようとしている。改憲派のねらう本丸の「国防軍」の創設など第9条の改定はこれに続いて想定されている。
今回の選挙で明らかになったことは、第一に、有権者の投票動向の基準が憲法や原発など各党の政策の選択であるより、民主党政権の裏切りへの懲罰と生活の不安が優先したしたことであり、第二に小選挙区制という悪法による得票率と獲得議席数の大きな差が如実に表れたことだ。
今日なお脱原発の世論は圧倒的多数であり、おおかたの世論調査でも9条改憲反対の声はほぼ半数を超えている。ここには民意と選挙結果との重大な乖離がある。予想される安倍政権の悪政への私たちの反撃の手がかりはここにある。
2月16日、17日、大阪で開催される第16回許すな!憲法改悪・市民運動全国交流集会、および全国各地で開かれる2013年5・3憲法集会などのもつ意義は従来にもまして重大になった。
自民党が議席数で大勝した総選挙の結果を、自民党の安倍晋三総裁は「自民党に信任が戻ったのではなく、民主党政治の混乱に終止符を打つべきだという国民の判断だった」と言わざるを得なかった。ここに今回の総選挙の結果の重大な特徴がある。有権者が自民党を積極的に支持したのではなく、民主党への怒り、いわば“敵失”が消去法で自民党に有利に働いたにすぎない。
今回の総選挙の投票率は小選挙区で戦後最低だった1996年の59.65%よりも低率の59.32%で、前回の69.28%を大きく下回った。
比例代表は59.31%(前回69.27%)だった。
投票者数でも前回より1000万人もの人々が棄権した。小選挙区で、白票や候補者以外の名前が書かれた「無効票」は約204万票もあった。
これらの人びとにとって積極的に支持する政党がなかったのである。
今回の総選挙で争点として闘われるべき重要課題はいくつもあったが、それは必ずしも有権者にとっての重要な選択肢にはならなかった。自民党があいまいな主張でごまかした脱原発、オスプレイをはじめとする米軍基地問題、TPP、領土問題の解決などなどに加え、自民党が積極的に掲げた集団的自衛権問題と改憲なども論戦の現場ではほとんど主張されなかった。消費税の増税は与野党3党の合意で行われたことにより、争点化されなかった。これらはいずれも重要な問題であった。つまり選挙戦の過程でこれらの政策が激しく争われ、有権者の審判が下されたという状況ではなく、後景に引き下げられた感がある。折からの生活不安のなかで、まさに安倍総裁自身がいうように、民主党政治の継続か、否かに有権者の関心が絞られた結果である。
自民党は下野を余儀なくされた2009年の総選挙に比べても、比例区で219万票減の1662万票、小選挙区で166万票減の2564万票だった。しかし獲得議席は、比例区57(前回55)、小選挙区237(前回119)、合計で294議席になった。小選挙区では自民党は43%の得票で79%の議席を獲得した。まさに小選挙区制がもたらした民意のゆがみの結果である。
一方、民主党は比例区30、小選挙区27で、計57議席(公示前230)。得票は09年に比べて、比例区で2021万票減の963万票、小選挙区で1987万票減の1359万票だった。民主党は得票率は小選挙区で22.8%だったが、獲得議席は9%にすぎなかった。
日本維新の会は、比例区40、小選挙区14で、54議席。得票数は比例区で1226万票だった。
公明党は議席数が比例区で22(前回21)、小選挙区で9(前回0)、得票数は比例区711万票(前回805万票)で94万票を減らした。
みんなの党は比例14、小選挙区4で、計18議席。得票数は524万票(前回300万票)で、224万票を増やした。
日本未来の党は比例7、小選挙区2で計9議席。得票数は342万票。
共産党は比例区8、小選挙区0。共産党は小選挙区で得票率が7.9%あったが獲得議席はゼロだった。比例区の得票数は369万票(前回494万票)で125万票を減らした。
社民党は比例1、小選挙区1で計2議席。比例区の得票数は142万票(前回301万票)で、159万票減らした。
自民党の安倍総裁は選挙後の17日の記者会見で、「(前回)私が首相になって国民投票法(改憲手続き法)を作った。憲法を変えるための橋を架けたので、いよいよ国民みんなで橋を渡り、最初に行うことは改正要件を定めた96条の改正だ。憲法改正は逐条的にしかできないからだ。3分の1をちょっと超える国会議員が反対すれば、国民が指一本触れることができないというのはあまりにもハードルが高すぎる。変えるべきだ。今の段階では(憲法改正の発議には)3分の2は必要だ。参院では(現有議席は)程遠い。次の参院選で果たして(3分の2の議席確保を)達成できるかどうかわからないが、努力を進めていく。日本維新の会やみんなの党も基本的には96条(改正)については一致できるのではないか」と述べて、改憲をまず96条から始める考えを明らかにした。
安倍は総選挙につづいて、次の参議院選挙で96条改憲賛成派議員を3分の2確保し、改憲の発議と国民投票に向かおうとしている。
安倍が変えようとしている憲法第96条1項は以下の通りである。
第96条 この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
これに対して、自民党の「憲法改正草案」ではこうなっている。
この憲法の改正は、衆議院又は参議院の議員の発議に基づき、各議院の総議員の過半数の賛成で国会が議決し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票において、その過半数の賛成を必要とする。
改憲派にとっての本丸の第9条改憲に着手する前に、まず第96条を変えようという企ては以前からあった。96条の改憲も両院の総議員の3分の2の賛成による発議と、国民投票による過半数の支持という過程が必要なのであるが、改憲派はまず一般的に抵抗感が少なく、支持が多く集められそうな96条から着手することにより、改憲に馴れさせようという狙いがある。
2011年6月7日、民主党、自民党などの超党派の国会議員が「憲法96条改正を目指す議員連盟」(96条改憲議連)の設立総会を開いた。結成総会には民主、自民のほか、みんなの党、たちあがれ日本、国民新党の各党から約100人が出席し、西岡武夫参院議長や安倍晋三元首相も出席した。役員として、顧問には森 喜朗、麻生太郎、安倍らの元首相が就任、各党のよびかけ人代表には民主党の小澤鋭仁前環境相、自民党の古屋圭司、みんなの党の水野賢一、たちあがれ日本の中山恭子、国民新党の森田 高、などがそれぞれ就任、民主党の幹事長に長島昭久、自民党の幹事長に下村博文らが就任した。総会で民主党の小澤前環境相は「憲法の個別の話に入るまえに、96条を見直し、憲法改正に向かいやすい環境をつくった方がいい」とあいさつ。自民党の古屋圭司衆院議員は「多くの人が日本政界の枠組みがこのままで良いのか疑問を持っている。憲法が政界再編の大義、契機になる」などと主張した。安倍晋三は「いよいよ厚い壁に穴があく」と高揚して述べた。総選挙を前後して政党の構成が再編されたが、議連参加者から見て、自民、維新の会、みんなの党に加えて、民主党内にも96条改憲に賛成する議員が少なからず存在すると見られる。
この96条改憲の危険な狙いについて、2012年11月2日に東京・日比谷で開かれた「秋の憲法集会」で憲法研究者の山内敏弘さんは以下のように指摘した。
従来日本国憲法96条による改正のハードルは非常に厳しいと言われてきました。厳しいことは確かにそうです。しかしそのくらい厳しくしなかったならば、自民党政権の下で日本国憲法はとっくの昔に改悪されていたかも知れないということを考えると、この厳しさがあってよかったと思います。また日本国憲法が諸外国の憲法に比して飛びぬけて、格段に厳しいというわけではありません。アメリカの憲法は、連邦議会上下両院の3分の2の多数で改正案が可決された上で、アメリカは連邦制をとっていることに基くわけですが全州の4分の3の賛成がなければ憲法改正はできません。アメリカの憲法改正手続きは日本国憲法よりはるかに厳しいものです。
日本国憲法の改正手続き規定の厳しさは、公権力の担い手がややもすればくるくると憲法を変えて、明治憲法への回帰的な改憲を提案するということを考えれば、このくらいの厳しさがあって当然だろうと思います。しかもこれは憲法の大本である人権を確保していく上で、人権は侵害してはならないという考え方からすれば、このくらいの厳しさは当然です。(以上「私と憲法」139号より)
安倍晋三は政権への復帰でいよいよチャンスが到来したと勇んでいるに違いない。一方、議連には加入していない公明党の山口那津男代表は12月8日の記者会見で、「自民党はまず憲法96条を変えようとしているようだが、これが憲法9条の改正に直接つながるのなら応じることはできない」と述べた。しかし、自民、公明両党の連立政権樹立に向けた政策合意文書案では、憲法「改正」についての踏み込んだ表現を求めた自民党の意向を反映し「憲法審査会の審議を促進し、改憲に向けた国民の議論を深める」と明記されており、公明党の姿勢は定まっていない。8日の山口発言での「これが憲法9条の改正に直接つながるのなら応じることはできない」と述べているところは「直接つながらなければよい」とも読めるので危惧されるところである。
96条改憲は9条改憲への一里塚である。私たちは次期参院選にいたる過程で安倍ら改憲派の狙いを広範に暴露して、必ずこれを阻止しなくてはならない。
こうして改憲派の安倍首相のもとでも、9条改憲への道のりは容易ではないことが明らかである。しかし、「集団的自衛権行使」についての米国からの要求は厳しい。
たとえば2012年8月15日に発表された「アーミテージレポート3」はこう述べている。
「日米両国は中国の台頭と核武装した北朝鮮の脅威に直面しており、特に日本はこの地域で2流国家に没落する危機にあること、これに対して、集団的自衛権の行使を念頭に、米軍の『統合エアシーバトル(統合空海戦闘)』と自衛隊の『動的防衛力』構想の連携で、米軍と自衛隊の相互運用能力を高めるべきだ」「東日本大震災後の“トモダチ作戦”では共同作戦が奏功したが、日本は依然として有事に集団的自衛権を行使できず、共同対処の大きな障害となっている」と。
安倍自民党の認識では、尖閣諸島問題などわが国の安保・防衛上の危機が迫っているのに、3年4ヶ月の民主党政権によって日米関係はギクシャクしている。これを正常化するための特効薬は米国の要求する集団的自衛権の行使を実現する以外にない、と考えられている。1月下旬に予定されている安倍晋三の訪米にさいしても、日米ガイドラインの再々見直しへの合意がされるに違いないし、その際に米国は強く要求してくるに違いない。
自民党はこれを国家安全保障基本法を成立させることで解決しようとしている。この基本法は1981年の鈴木善幸内閣以来、歴代政府が確認してきた集団的自衛権についての政府見解を変え、9条の下でもそれが行使できるとするものだ。総選挙の政策で、集団的自衛権の行使について、公約の原案では「一部を行使可能にする」とあったが、のちに「行使を可能」とするとされ、「必要最小限度の自衛権の行使」という言葉は付けたものの安倍前内閣当時の4類型(一部行使)に限定していた議論の枠を外したことも重大である。
第一次安倍内閣が2007年5月に発足させた「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(座長・柳井俊二駐米大使)が合憲との答申を出した集団的自衛権行使の4類型とは、(1)公海上の米艦防護、(2)米国向けの可能性のあるミサイルの迎撃、(3)PKOなどで他国軍が攻撃されたときの駆け付け警護、(4)海外での後方支援活動の拡大、の4類型に該当する場合となっていた。
もしも集団的自衛権の行使が9条の下でも許されるとの憲法解釈を行うなら、まがりなりにも専守防衛の立場をとってきた自衛隊法など従来の日本政府の基本的立場の変更であり、海外で行われる米国の戦争への積極的参戦が合憲解釈されることであり、憲法第9条の精神の究極の解釈改憲であり、破壊である。私たちは過去に「有事法制」に反対する運動で、それは「戦争のできる国」への変質だと指摘してきたが、集団的自衛権の行使はまさに「戦争をする国」、自衛隊が海外で人殺しの戦争を行い、あるいは戦死する国への変質である。
もし、この国家安全保障基本法を成立させるなら、東アジアの緊張は格段に高まり、平和への収拾がつかなくなるおそれがある。国内ではこれにともない、社会の軍事化が進み、徴用制(飯島滋明氏)など戦争遂行体制が推進され、社会の広範な分野で人びとの基本的人権が抑圧されざるをえない。
そして、このあと、安倍晋三が企てているのが「元首天皇」を「戴く国」と、「国防軍」の創設など第9条の改悪である。
私たちはアジアの人びとと連携しながら、国内の大多数の民衆運動の共通課題としての集団的自衛権の行使=戦争をする国への変質に反対する運動を展開しなくてはならない。
総選挙とあわせて、私たちが取り組んできた東京都知事選挙についても付記しておきたい。
私たちは石原慎太郎前知事が突然投げ出した都政の転換をめざして、宇都宮けんじさん(前日本弁護士会会長)を擁立して都知事選にのぞんだ。結果は石原後継候補の猪瀬前副知事が4,338,936票、宇都宮候補が968,960票で、敗北した。
しかし、この都知事選は重要な特徴があった。各界の40氏による「人にやさしい都政(のちに東京に改名)をつくる会」が「東京を変える4つの柱」((1)誰もが人らしく、自分らしく生きられるまち、東京をつくります。(2)原発のない社会へ――東京から脱原発を進めます。(3)子どもたちのための教育を再建します。(4)憲法のいきる東京をめざします)という政策を掲げ、宇都宮けんじさんを擁立し、各政党、各団体、都民に支持を求めた。「人にやさしい東京をつくる政策集・完成版」 http://utsunomiyakenji.com/policy/complete_policy.pdfは早稲田大学マニフェスト研究所の高い評価を獲得するなど、従来行われた地方自治体選挙の政策集の中でもきわめて優れた部類に属するものと評価できる。
宇都宮候補に対して、政党では「国民の生活が第一」(のちに「日本未来の党」)、共産党、社民党、生活者ネット(東京の地域政党)、新社会党、緑の党が支持を表明し、弁護士グループをはじめ多くの民主団体、労組、市民個人が推薦や支持を表明した。短期間のうちにボランティアの若者たちを中心にした事務局が奮闘し、準備を整えながら、都内約50の地域や職場・分野などに宇都宮候補を支持する勝手連がつくられた。
こうした広範で大規模な統一候補の擁立は都知事選においては30年ぶりのことであった。私たちの選挙は、敗北したものの約100万人の都民の支持を得た。共同して闘って勝ち取ったこの得票の意義は強調されるべきものである。
敗北の原因は、自民・維新がのびた衆院選と同日選になり、マスメディアの対応など、宇都宮選対は宣伝戦に於いて圧倒的な劣勢におかれたこと、副知事の知名度に対抗するための新人候補擁立の準備期間が圧倒的に足りなかったこと、総選挙と重なって私たちが掲げた脱原発や反貧困、憲法などが、必ずしも有権者の選択基準にならなかったことなどがあげられる。
ともあれ私たちはほとんど徒手空拳で東京都知事選挙という巨大な選挙に果敢に挑戦し、闘った。
反改憲、脱原発の運動の正念場はこれからだ。
(事務局 高田健)
飯島滋明さん(名古屋学院大学准教授)
(編集部註)11月24日の講座で飯島滋明さんが講演した内容を編集部の責任で要約したものです。要約の文責はすべて本誌編集部にあります。
高田さんとはもう10何年のおつきあいになっていまして、まさかそのときこういう話でここに座るとは、わたし自身も思ってはいませんでした。
私も学者として新聞記事などを見ていますと、刑事手続に関してこれはまずいだろうと思うことが多くなってきていて、仕事上憲法の問題に対するファイルをつくっているんですが、2007年とか2008年などでもえん罪に関してはあっという間にいっぱいになってしまったんですね。
憲法9条の問題などに活躍なさっている杉原泰雄先生なども、憲法学者である以上こういう問題から目を背けてはいけないということを事あるごとにおっしゃっていました。弁護士の五十嵐二葉さんも、憲法の31条から40条まで刑事手続に関する規定になっているけれども、憲法学者がこれに関して何かを言ったということは聞いたことがないといっていたことを聞いていました。これだけ事件になっている、新聞などでも大きく取り上げられていることを見れば、やっぱり何かを書かなければいけないと思っていたんです。簡単なものは書いたことはあるんですね。そのときでもひどいと思ったんですが、去年の5月3日に広島に行ったときに、痴漢だということで逮捕され留置されてしまいました。そのときの経験を通じて、これは本当にえん罪で有罪になっている人は数限りないだろうと思いました。
今日お配りした資料の中に、2010年5月4日の朝日新聞に載った「割り切れない『痴漢の汚名』」という市民の投稿をご紹介しました。この記事を見ますと、右手でメールをしていた、左手にカバンを持っていたと警察で説明しても、数人の刑事に囲まれて怒鳴られた。「ふざけるな」、「お前しか犯人はいないだろ」と言われたということです。これは認めなかったらどうなるかというと、下手をすると23日間拘留されてしまうかもしれないわけです。
2日、3日であれば休んでもなんとか理由は付けられるかもしれませんが、例えば会社に23日間行けなかったらどうなるか。起訴されれば拘留期間がもっと延びる可能性があります。1ヶ月、2ヶ月、長い人は100日くらいです。そうしたらさすがに会社には黙りきれないでしょう。であれば「やりました」といえば20万円、30万円の罰金で済んでしまう。わたしの場合は名古屋などでは新聞にも載りましたし、テレビでもそれなりに報道されたようです。わたしは留置場にいたのでわからないんですが、一般の人でしたらそうはならないでしょうから、「やりました」といってしまえばそこで終わってしまう。こういった隠れたえん罪というのはたくさんあるだろうなということを、それこそ実体験したわけです。
わたしのことを知っている人は、わたしが警察の脅しに屈するかどうか、そういう人間ではないと思う方もいるかもしれませんが、そういう理由ではなくて「これは自白した方がいいかもしれない」と思ったところも実はあります。去年の12月くらいに早稲田の先輩の水島朝穂さんとこの問題などで話をしたときに、「えっ、飯島君が自白なんて考えたの」といわれました。こういう状況も踏まえて、やっぱりえん罪が多いことは憲法学者として訴える義務があるだろうと考えました。去年の9月に樋口陽一先生の前で事件を報告したときに、これは憲法学者として黙っていてはいけないといわれたこともあって、高文研さんから声をかけられまして本を出したということがあります。
この「痴漢えん罪に巻き込まれた憲法学者」―警察・検察・メディアの「えん罪スクラム」に挑む―という本を書くときに、わたしなりにいろいろ考えたことがあるんですが、男性でいうと痴漢えん罪というのは多いと思います。11月27日の宇都宮けんじさんの集会では山本太郎さんも出演予定になっていますが、山本さんもやっぱりでっち上げられるかもしれないということで、痴漢と覚醒剤には気をつけていることを週刊金曜日書いていました。偶然かどうか知りませんがお姉さんが大麻で捕まっています。痴漢というのはある意味で男性をはめやすい。どこかの省の中でも痴漢対策、えん罪対策をやっているということを聞いたことがあります。
この本を書くときにも、痴漢の問題に特化して書こうかどうかは非常に迷いました。例えば痴漢対策の本などでは普段から両手は上に上げておくとか、万が一電車の中で疑われたときには駅の事務所にはついていかないで、名刺か何かを置いてその場を立ち去るとかが書かれていますが、恐らくわたしの体験からするとそれらは何の対策にもなっていないと感じました。たまたまなんですが、わたしはこの5月3日に捕まえられる1週間前にえん罪の問題を憲法の授業でやったんですね。同じようなことをいった覚えがあるんですが、そういったことは対策にもならない。むしろえん罪を生み出すシステム、警察のあり方、検察のあり方、そしてわたしが一番問題だと思ったのは裁判所なんですが、そういったあり方を変えない限り、名刺を置いていくなんていうことでは恐らく何の対策にもならないと思うんです。
わたしの場合はいきなり後ろから警察官にがっちり捕まれて、「お前、おぼえがあるだろう」といわれたわけです。はじめはなんだかわからないんです。何なんだとやり合ったんですが、そのまま警察に連れて行かれて「現行犯逮捕だ」といわれたわけです。これが現行犯だったら誰でも現行犯になってしまいます。そういうときに名刺を置いてくるとかなまぬるいことをやっても、何の対策にもならないだろうと思います。そういう対策という意味であれば、根本的に警察のあり方、検察のあり方を知ってもらう必要があります。
さらには、これも体験談になりますが、憲法の授業などで例えば少年の実名報道――、少年法61条ではダメだということになっています――がいいかどうかという議論についても授業で紹介しています。大学の教員としていろいろ考え方があると思いますが、わたしは授業の中では自分の意見を言うということはしないようにしています。憲法9条の問題を取り上げるときも、変える方がいいという人はこういっている、変えてはいけないという人はこういっている、あとはみなさんで考えてくださいというかたちです。学者としては押しつけることはよくないだろうと思うんですね。憲法を変えたいというならそれは主権者としての判断でしょう、と思うところもありますので。少年法61条の話でも、あとはみなさんで考えてくださいね、ということで投げていたんですね。個人的には報道してもいいんじゃないかと思うところはありました。
ただ反省でいいますと、自分が実名報道されるとその被害の大きさというのはわたしだけの問題ではなくなる。わたしがもし痴漢をして「痴漢だ」と書かれるのはやむを得ないかもしれませんが、実名報道の影響力は家族、親戚などあらゆるところに及んでしまう。大学の名前まで出されていますので学生、教職員にまで影響が及んでしまう。
それからこれも実名報道されて感じたことですが、メディアって調べもしないで平気で違うことを書いてしまうんですね。例えば、わたしがひとりで広島に来たと毎日新聞に書いてありましたが、ちょっと調べればわかる話です。婚約者と婚約者の両親と広島にいたんですが、にもかかわらずひとりで来ていたと書く。ひとりで来ていたか婚約者と来ていたかということは、やったかやらなかったかということでは全然違うと思うんですが、毎日新聞はそう書いてしまっている。
読売新聞とかNHKは、NHKは広島と名古屋で放送されたようですが、「飯島容疑者は否認しているが酒に酔っていた」と、酔っぱらって覚えていないような感じで報じている。お酒は飲んでいましたが警察でアルコール検査をしたら0.015、飲酒運転の10分の1といわれたように覚えていますが、それにも満たない基準だということで全然お酒を飲んでいるという話じゃないねと警察の間ではなっていたんです。読売新聞とかNHKでは、酔っていておぼえていないような報道がされていた。つい最近もNHKの人が痴漢で捕まったということがありましたが、あれも何か決まった書き方に乗っかっているのかなと感じます。調べもしないで「本人は否認しているが酒に酔っていた」とあたかもやったけどおぼえていないような報道のされ方をしてしまう。メディアの報道のあり方も非常に問題があるのではないかと感じるところがあったんですね。そういうことも踏まえて痴漢対策というよりも、もっとえん罪事件にあった人のことも論じた方がいいだろうということです。
学生に授業していまして月曜日は500人くらい、火曜日も130人くらいの学生がいるんですが、警察とか裁判所に対する信頼というのは強いんですよね。弁護士さんについては金儲けのために何でもやるというイメージが残念ながら付いているかなという感じを受けるんですが、でもやっぱり警察の実態を見てみるとそんなものじゃない。
わたしが特に問題にしたいのは、つい最近も反原発の運動に携わっている人などが公務執行妨害で逮捕されたと大阪でそういう話をききましたし、東京でも5月とか9月にそういう事例があったということです。一番ひどいなと思ったのは、伊方原発にいったときの、あの辺の警察の対応ですね。わざと警察がぶつかって暴行罪で起訴したことで、裁判所でもこれはやりすぎだと判決文にまで書かれてしまうようなことがあった。そういったように、反対運動に携わっている人間を警察がでっち上げてしまうことがあります。そういうことに対して世論喚起していく必要があるだろうということもあって、わたしが被った被害は痴漢えん罪ですが、それはそれで大きな問題だと思うんですが、とりあえずはそれよりもっと大きな視点で論じようということで、この本でいろいろ書かせていただきました。
ネットの評価なんか見ますと、なぜ不起訴処分になったのかという部分も書いて欲しかったとありました。それは当然あると思います。そこも実は葛藤がありまして、わたしについてくれた弁護士さんはかなり対応がよかったから運良く不起訴になった。そのほかにもいろいろ幸運な状況が重なったと思います。そういうことも紹介させていただきたいと思うんですが、それを書いてしまって他のえん罪被害者に不利になってしまっては申し訳ない。警察にも下手に対策を立てようなんてアドバイスを与えてしまうことになってもまずいと思って、あえて書かなかったところもあります。でもこういった場では警察の方はいないと思いますので、こういう努力をしたというようなことは紹介させていただければと思います。
その前に、わたしがどんな感じで事件に巻き込まれてしまったのかを紹介させていただきます。結婚を5月10日と決めていたんですが、高松にいる婚約者と彼女の両親と旅行に行こうということになった。いつもわたしは、5月5日は岩国基地に行ってアメリカ軍の情報を得ていることが多いんですが、去年の5月5日は東日本大震災の影響もあって動きがなかったんです。ただ、半年前くらい前じゃないとホテルも取れなくなっているので予約はしていました。それで、岩国に行って錦帯橋なんかに行きましょう、ということで5月3日には広島に行きました。
彼女と彼女の両親と、7時半くらいまで食事をしました。そこで1回お開きにして、その後牡蠣を食べに行く話をしていました。ただお店の当てもなく彼女も疲れていたので、私がひとりでお店を探しに行って、みつかったら電話することになっていたんです。そうしているうちに高校生の、警察の言い分だと6人、わたしはもっといたと思うんですが、6人くらいの集団が道をふさいでゆっくり歩いていました。わたしは急いでお店を探そうと思っていたので、あいているところを通り過ぎたんです。そうしたら、たまたま女子高生が自転車に乗っていて、彼女がふらついてわたしにぶつかった。ぶつかってちょっとして、わたしの方を見てキャーと言う悲鳴を上げたんですね。わたしもぶつかられて痛かったんですが、声を上げるのも大人気ないと思って、こっちこそキャーっていわれて何だと思ったんですが、そのまま通り過ぎていきました。
そこから時間的には30分くらい経って、距離にしては200メートルくらい離れたところで、警察に後ろから両腕を捕まれて「署まで来い」といわれたんです。びっくりして何だと思った。そのときは店が見つかったということで、婚約者と電話をしている最中でした。いきなり捕まったもので、振り返ったら警察は少なくとも3人はいました。何ですかあなたたち、と言って30分くらい言い争いになったんです。
その後、警察官が20人くらい、あっという間に来て「おぼえがあるだろう、おぼえがあるだろう」といわれたものですから、「おぼえなんかない」「令状があるなら出せ」という話もしました。そうしたら令状はないけど任意捜査だという言い方をするんですね。両腕を後ろからがちっと抱えて、こんな任意捜査はないだろう。そもそも刑事訴訟法の何条に基づいているんだということもいったんですけれども、ちゃんと答えられない。2~30分そこで争っていて、婚約者も私が広島の駅にいることは知っていて、心配してやって来たので抵抗をやめたら、いきなり手錠をはめられて「8時34分、現行犯逮捕だ」と。そのあとパトカーが3台来て乗せられました。
警察署に行って、初日の刑事は「お前は痴漢をやっただろう、証拠がある。写真もある。手の繊維鑑定も1週間もすれば結果も出るぞ。早く言え」といわれたので、「やってないものは、やっていない」と言ったんですが、わたしの話は聞く気もなくてそのまま留置場に留置されました。婚約者も当然取り調べを受け、「飯島はやっている」と婚約者の前で「飯島」呼ばわりして、「証拠がある」ということも言っていたようです。
翌日、別の刑事の取り調べがあって、その刑事が何を言い出したかというと「わたしは見ていない」でも「女子高生は泣いていたからあなたがやったと思っている」ということなんです。見てもいないのに何でやったとわかるのか。わたしも頭に来てやったかやらないかという言い争いになるわけです。わたしの場合は怒鳴られたりはしませんでしたが、「あなたやったでしょう」、「二人にぶつかったでしょう」といわれたんですね。一人にぶつかったのは覚えていましたから、ぶつかったけれどもわざとじゃない、もう一人は覚えていない。そもそもぶつかっていない、記憶にないという言い方もしたかもしれません。そう言ったら、一人目を覚えていないのはおかしいだろうといわれたり、やった、やらないの言い争いになりました。
調書に署名したくなかったので「署名なんかしません」と言いました。そのときに恐ろしいなと思ったのは、「なぜ署名しないんですか。署名しなかったことは検察や裁判官に報告します」と言われたんです。それを言われたときは怖かったですね。警察に何か言われるのはどうってことはないと思っていたんですが、こういう場合に裁判所が勾留請求を認めるかどうかは重いことになると思ったんですね。警察が、こいつはこんなやつですとさんざん裁判官に悪口を言って、「そんなやつだったら拘留してしまえ」と言われたら身も蓋もないなと思ったわけです。そのときは長くなることは覚悟しました。そういう言葉に負けて署名だけはしました。
それが終わったあと留置場に戻されたんですが、どうしようということは考えました。婚約者と彼女の両親と広島に来ていて、彼女の結婚に対する思いも知っていたので、拘留が長くなってしまえば5月10日の結婚はダメになってしまいます。こういうことになったら無理かなということもあったんですが、すごく楽しみしていて指輪にも日付を入れていました。拘留が長くなれば落ち込んでしまうかもしれない。
それ以上に気になったのは、車で来ていたことです。高松から広島まで200キロくらいありますが、そのあいだ車で帰るとして事故を起こしてしまったらどうなるだろう。裁判で勝つことはあるかもしれませんが、その間2、3ヶ月拘留されるかもしれない。憲法をやっているのでそういう考えも浮かぶわけです。そうするとわたしだけの話ではなくなる。事故でも起きて取り返しのつかないことになるのであれば、あとで裁判で勝ったとしても何の意味もないだろう。だとすればとりあえず「やりました」といってしまう方がいいんじゃないか。わたしも法律を専門にしていますから、その言葉がどれだけ不利なるかということはもちろんわかります。ただ婚約者の命とか健康には替えられないだろうという気持ちがよぎったんですね。
留置場にいる間は、右や左に揺れたことがあります。1回目の弁護士さんに接見したときに、それに近いことをいったんですね。でもとりあえず弁護士さんの意見を聞いてからにしようと思いました。正直言って、弁護士さんについては迷ったんです。急いで動いてもらわないと大変なことになるだろう。でも広島で頼むといっても、知り合いがいなかった。どうしようか迷ったんですが、信用できる人の方がいいだろうと、とりあえず当番弁護士は頼もう。1回会ってもらって、その当番弁護士を通じて内田雅敏弁護士に頼もうと思いました。菅沼弁護士と2人に頼もうと思ったわけです。
信用できない弁護士は恐ろしいと思いました。例えば足利事件の第1審の弁護士さんはいい加減な弁護士だったところがありますし、典型的なのは氷見事件の弁護士で富山弁護士会の副会長でありながらいい加減な弁護をしてしまった。やってもいない柳原さんに対して、本人の知らないうちにお姉さんに示談を持ちかけてしまっている。そういういい加減な弁護をされて、有罪のベルトコンベアーにのせられてしまうのは嫌だと思ったので、とりあえず当番弁護士を通じて内田さんや菅沼さんに頼もうと思ったわけです。
その当番弁護士は女性の谷脇という弁護士でしたが、わたしのことを信用してくれるかなということは思いました。痴漢なんていうと疑ってかかるんじゃないかということも思ったんですね。ところが、わたしのことをいうと刑事訴訟法違反じゃないかと言ってくれたので、この弁護士さんなら対応してくれるかもしれないと思いました。すぐに動いてもらわないと不利になるということもあったので、谷脇先生にお願いすることになりました。それから内田弁護士にもお願いをしたんです。本当にわたしがやっていないかどうかは、谷脇弁護士も信用できなかったと思うんですね。弁護士である以上、やった人間をやっていないと弁護して、無罪にしてしまうのは嫌だという弁護士さんは当然あり得ると思います。わたしのことを100%信用していいかどうかも谷脇弁護士は考えたと思います。その後わたしの事件をきいて、ある憲法学者が千葉からわざわざ駆けつけてくれました。そうしたことを見たり、わたしがかなり長い間教えていた女子大が、信じているという対応を示してくれたことで、やっぱりこの人はやっていないと思ってくれたようです。もしかしたらやったかもしれないという人を弁護することは怖かったと思うんです。
1回目の接見で、もしこのまま長引いてしまえば婚約者のことが心配だ、というメッセージを伝えて欲しいと谷脇弁護士にお願いしたんですね。彼女のことが心配なので自白ということが頭をよぎっていることは話しました。5月4日にはそういうことがあったんです。5月5日に検察に送られることになったときに、9時頃に送られるから7時半くらいにお風呂に入るよういわれました。お風呂は広島東署では月曜と木曜日で、木曜日だと思いますが、お風呂の時に弁護士さんの接見だと言われたんです。内田弁護士がもう来てくれたのかと思ったんですが、谷脇弁護士と内田弁護士の紹介で足立修一弁護士が来てくれました。
足立弁護士は刑事弁護ではかなり有名な方です。わたしもシンポジウムで顔を合わせたことが何回かありますが、これはご本人に言ったことはないんですが、お顔を見たときに「徹底的にたたかっちゃうだろうな、拘留は長くなるな」と思ったことも事実ですね。でも意外と言っては失礼ですが、弁護活動を見せていただくと慎重にされる方だなと感じました。そのときにまた同じことを話したら、足立弁護士と谷脇弁護士とが話をされたと思うんですが、自白なんかは絶対するなと言われました。足立弁護士は痴漢の事件も担当したことがあるようで、最高裁で有罪になったらしいんですね。公務員の方だったようですが役所はクビになっていない、無罪を訴えていった方が後のためにもいいだろうといわれました。
それもそうだ、ここで下手にやりましたなんていうよりも、痴漢裁判というと3年500万円と一般的にいわれますが、それも覚悟でたたかった方がいいかもしれないなと思いました。お風呂に入る前に接見に来てくれたものですから、お風呂にも当分は入れないだろうな、仕方ないかと思ったわけですね。5月4日に谷脇弁護士には、メディアでどう報道されるか調べて欲しいとお願いしたんですね。それに関しても谷脇弁護士と足立弁護士が調べていただきました。時事通信がもう実名で報道している。通信社が報道しているということは、どういうかたちであれいろいろ報道されるだろうなとは思いました。
検察に送られて、取り調べを受けるときに検察官の目というのはすごい目つきだったんですね。親の仇でも見ているかのような目で、わたしはにらみつけられたんです。警察に話したことと同じことを話したんですが、「あ、そうですか。お疲れ様でした」という感じで終わったんです。取り調べが終わったと同時に勾留請求をその検察は出しています。わたしのことを信用しなかったんだと思います。あとで警察の関係者にきいたんですが、警察が調書のようなものをつくるときに警察の意見を書く欄があるそうです。わたしの場合はたぶん反省なんかしていないから、「厳正なる処分をお願いします」というようなことを書いたんだろうと思います。それが検察はもちろん裁判所にも上がっていたと思います。
足立弁護士と谷脇弁護士が、検察に対して勾留請求しないでくれということをお願いしていたらしいんですが、検察はそのまま請求したということです。刑事訴訟法では警察に置いていられるのは3日です。その後裁判所で裁判官が勾留請求にOKを出してしまうと10日間、さらに勾留請求の延長でまた10日間ということになります。まず3日間は警察に留め置かれるんですが、その後裁判官がOKを出してしまうと少なくとも10日間は拘留されてしまう。身体拘束が10日間延びるかどうかは裁判官がOKを出すかどうかにかかっています。
谷脇弁護士と足立弁護士は、わたしに対する勾留請求を裁判官が判断する際に、その裁判官に面談を求めていたんですね。さすがだなと思ったのは、わたしが婚約者と来ている、その両親とも来ている、そんな人が痴漢なんかするかということを掛け合ってくれたらしいんですね。さらに婚約者には上申書を書いてくれ、その上申書も裁判官に見せるという話をしてくれたようで、彼女はすぐに上申書を書いてそれを裁判官に持って行って見せたんですね。それで勾留請求が却下された。これは裁判官に聴いてみないと100%わかりませんけれども、恐らくその効果は少なくなかったと思います。
警察から、2人の女子高生に対して痴漢をした、本人は全然反省していないという情報ばっかりを聴いたら、裁判官も勾留を認めることはあり得たと思います。でも勾留請求を認める前に裁判官に面談して、婚約者とその両親と来ている、結婚は1週間後だ、婚約者からもこういう書類が来ている、そんな状況で痴漢なんかするかということを、その2人の弁護士が掛け合ってくれた。裁判官は、勾留請求は却下しようと思う、でも本人を見てみないとわからないから本人を見た上で判断すると言っていたようです。それでわたしを見て、勾留請求は却下した。そうやって弁護士さんたちがいろいろと掛け合ってくれたことによって、勾留請求は却下という結果になりました。
でも法律的にいいますと勾留請求は却下しても、そのあと検察が準抗告することはあり得るんですね。とりあえず裁判官はそう判断したけれども、それに対して認められないという抗議のようなことを検察はすることができます。それをやられると今度は別の裁判官3人が、拘留請求を認めないことの是非を判断するんです。プラスしてもう1日身体拘束されます。検察は恐らく勾留請求の準抗告をしてくるだろう、だから準抗告に備えて証拠を集めようと、その弁護士さんたちは現場に行って、例えば監視カメラがあるかどうかとか、警察の主張通りできるかどうかということを調べてくれたようです。ところが検察が準抗告をしなかった。ですから弁護士さんも「えっ」という感じだったらしいんです。そこでわたしの身体拘束は解けました。
身体拘束が解けたので広島東署まで帰ってくださいといわれたんですが、わたしは広島の人間ではないので、どうやって帰っていいかわからないんです。送られてきたときは車で15分くらい走っています。ここはどこですかと地図をもらったりして、検察の方もさすがに「かなり遠いですよ、タクシーを使ったらどうですか」と言ったんですが、お金なんか持っていないわけです。財布なんかすぐに返してくれるだろうからタクシーも使おうかなと思ったんですが、何かちょっと嫌だなと思ってそれはやめました。
そもそも警察がわたしを連れて行ったんですから、警察が連れて帰れといったんですが、身体拘束が解けたのでこちらでは連れて帰れません、というわけです。かなり怒ったんですが、それでもすたすたと行ってしまった。しょうがないから歩いて帰ったんですが、靴は取り上げられてしまっていてサンダルです。言い方は悪いですが、こんな汚い格好はないだろうという格好で帰ったんです。これで痴漢だと捕まったら、本当に間違えられるだろうなという感じでした。
そのまま広島東署まで行ったら、連絡は来ていますがちょっと忙しいので待ってくださいといって、ぺちゃくちゃしゃべっているのが見えるんですね。何が忙しいんだと怒鳴りつけたりもしたんですが、さーっといなくなってしまう。それこそわたしを取り調べた、「あなたが犯人だと思っている」と言ったのもいたんですが、わたしを見たら顔がこわばって上に行っちゃったんですね。そのときにひとつだけ言わなければいけないと思ったのは、やっぱり婚約者には早く連絡したいということです。電話を貸せといったら警察が貸せませんと言うんです。外にある公衆電話でかけてくださいといってテレフォンカードを渡すんです。一体警察という組織は何なんだろうと思ったんですが、でもそこにいるのは嫌でした。今度は何をでっち上げられるかわからない。威力業務妨害なんて言われたらたまらないと思って、外の電話ボックスの中で待っていました。20分くらい経って弁護士とか婚約者とかわたしの母が来たのが見えたので戻ったんです。本当に警察というのは、あなたが犯人だという態度で接してくるんですね。
「現行犯逮捕」や「目撃者が通報」など逮捕されたことによって報道されたことについて、メディアのことも考えなければいけないと思ったので、メディアのことも紹介させていただきます。現行犯で女子高生2人に対して痴漢をした。言い方は悪いですけれども、わたしだってあれを読んだらやったって思うだろうなというような記事でした。やっぱりメディアの役割ということを考えて欲しいと思いました。
先ほど言ったように、わたしが捕まったのは現場から200メートル以上離れています。時間も30分くらい経っている。婚約者と電話で話している最中に捕まったんですが、それって本当に現行犯ですか。憲法で現行犯について令状なしで逮捕していいのは、犯罪をやったことが明らかで、えん罪の可能性がないからだという話だと思いますが、警察が見ていないのにいきなり現行犯で逮捕してしまう。これを現行犯で逮捕できるなら、誰でも現行犯で逮捕できるだろうと思うんです。
メディアというのは権力の監視だ、社会の木鐸だというのであれば、本当にそれが現行犯なのかということを突くべきだろう。それこそ新聞記事を見て、これはおかしいだろうと思った人もわたしの周囲で結構いたらしいんですが、メディアはその辺を考えないで警察発表通りに書いてしまう。
詳しいことはいいませんが、毎日新聞が一人で広島に来たと書いたといいましたが、弁護士さんたちと話になったことがあって、さすがに警察は一人で来たとはいわなかっただろう。わたしは少なくとも広島県警は信用できないと思っていました。証拠はある、写真はある、繊維鑑定の結果は1週間もすれば出てくるぞといわれたわけです。鑑定は1ヶ月後くらいに出ました。「忙しかったので」ということで。婚約者にもうそをついていたのは聞いていますので、信用なんかできない。一人と言った警察官がいたかもしれませんが、でも少なくともわたしの弁護士に取材すれば、一人で来たかどうかはすぐにわかる話です。そういうことを調べもしないで書いてしまう。
目撃者が通報したと書いてあるんですが、これもわたしの感覚がおかしいのか聞いてみたいんです。女子高生の集団、男の子もいましたがその6人がいて、そのうちの2人が通報したらしいんですが、それは目撃者というのかどうか。目撃者というのは何も知らない第3者のことをいうとわたしは思うんですが、あたかもまったく知らない目撃者が通報したと書いてしまう。同じグループの高校生が駆け込んでいたんですが、それを目撃者と書いてしまう。先ほど少し紹介しましたが「飯島容疑者は否認しているが酒に酔っていた」と書いてしまう。このようにわたしでもこれを読んだら犯人だろうなと思うような書き方をメディアはしてしまう。
これに関しては、現行犯逮捕で勾留請求を裁判所は却下した。警察にいられるのはふつう3日間で、そのあと10日以上拘留するのであれば裁判所の許可がいるといいましたが、こういうのを却下するなんていうのは1%未満なんですよ。しかも現行犯で。しかも否認しているということは反省していないことで、まず却下なんてあり得ないんです。ですから、かなりまれなケースなんです。こういうことに関しても、逮捕されたことは報道されても、拘留請求が却下されたことは報道されない。しかも逮捕されたというのは実名ですが、勾留請求が却下されたときは匿名だった。ですからしばらくのあいだわたしの名前で検索すると、出てくるのは逮捕されたことだけしか出てこない。
わたしの知り合いによると「痴漢 逮捕」で検索すると、しばらくのあいだわたしのことが出ていたらしいんです。そのくらいメディア、2ちゃんねるなんかでも拡がっていった。いつの間にか電車の中で痴漢したことになっている。逮捕されたのも愛知県とか。愛知県の電車の中で捕まったなんていうことになっている。いかに2ちゃんねるとか、あの手のものが信用できないかということがわかります。わたしが不起訴処分になったのは8月なんですが、11月になっても「こんなふざけた教師は許せない」なんて書いてあったりするんです。そこはいまの新しい問題だと思うんですが、1回実名で報道されてしまうとなかなかそれはぬぐえない。
こういういった原因をつくったのは誰なのかというと、それは実名で報道する報道のあり方が非常に問題なんだろうと感じました。その時に名古屋に家を買おうしていたんです。でも私の名前を書いてしまうと、「えっ」て顔をされるかもしれない。それからその年の9月からフランスに留学する予定になっていて、フランス語の会話教室に通っていたんですが、そこにも通えなくなってしまった。知り合いのお店にも行けなくなった。深い付き合いがある人ならいいんですが、中途半端に知っている人はかえって行きづらくなるんですね。それはいまもあります。やっぱり自分の活動範囲はかなり狭くなってしまう。しばらくは若い女性と目を合わせるのが怖かったです。
私の場合は運良くというか、学生がたくさん「先生のこと信じています」ということを言ってきてくれたので、たぶん信用されているんだろうなということで復活が早かったのかもしれませんが、あの教師ならやりかねないなんて書かれていたら今でもしょげていたかもしれません。まだ1年半くらいしか経っていませんから。
いったい何が問題なのかということを私の体験も踏まえて簡単に紹介さていただきます。まず捜査機関の問題です。私はよく憲法の授業で、第2次世界大戦が終わるまでの警察あるいは検察がどうだったか、理由もわからずいきなり身体拘束してしまう。特高なんかいきなりぶんなぐってしまう。みなさんどれくらい殴られるのに耐えられますか、ということを授業で聞くんです。殴る相手は普通の人じゃない、警察ですよ、と。そうして自白に追い込まれてしまうというのは、横浜事件でも明らかだと思います。小林多喜二さんなんかは2、3時間で殴り殺されている。前歯が1本もない状況で顔も腫れてしまって、太ももには千枚通しで刺されたようなところが10何か所もある。写真を見ましたけれども足なんかもう紫色ですよ。
そういう拷問を受けてしまって、やりましたと言ってしまう。そこで自白なんてしてしまうと有罪になってしまう。こういったことではえん罪はなくならない。だから今の人権尊重を基本原理とする日本国憲法では、こういった戦前のあり方を反省するために、わざわざ憲法の全規定の10分の1、人権規定の3分の1を刑事手続きに充てているわけです。私の専門のフランス憲法では、刑事手続きに関する規定は1条しかない。200条あってですよ。にもかかわらず日本国憲法の中にそれだけあるというのは、やっぱり戦前それだけひどい刑事手続きが行われたということです。
だから警察、検察そして裁判所に対して、こういうことはするなということをそれなりに事細かく言っている。しかし警察は戦前の刑事手続きの在り方を全然反省していない。同じようなことが行われている。とりあえず身体拘束をしてしまえ、そのあといろいろな手段を使って自白させてしまえ、ということです。そのいい例が別件逮捕だと思います。まずは身体拘束を行う。そのあといろいろな手段を使って泥を吐かせる。そういう刑事手続きというのは残念ながら克服されていない。
ついい最近の例で言うと、DNA鑑定の結果などでえん罪が明らかになった足利事件。無期懲役になったのは1990年に起こった幼女殺人事件ですが、その時も警察がいきなり来てぶん殴ってしまう。私も事件のことがあってえん罪被害者に会いますが、本当に気の弱い人が多いです。菅家さんなんかは、警察は殴るそぶりなんかをしたようですが、おそらくそこで耐えられなくて自白してしまった。
志布志事件という公職選挙法違反の事件でも、足をつかんで家族の名前を書いた紙を踏まされてしまう。志布志事件の被告になった10何人は、かなりご高齢の方なんですね。警察はかなり大きな人だったみたいで、足なんかつかまれて持ち上げられたとき、投げられるんじゃないかと思って椅子にしがみついたというんです。10月に鹿児島に行ってお話を聞いたんですが、そういう非常識なことをされてしまう。この踏み字というのは、裁判でそれをやった警察官が有罪になるという事態になっている。この志布志事件と氷見事件は、国連の拷問禁止委員会で日本ではこういうことがあるのか、人権感覚があるのか、という意見が出たほどの事件です。
氷見事件、志布志事件、オヤジ狩り事件
2002年1月と3月に、富山県で強姦事件と強姦未遂事件がありました。この氷見事件で柳原さんという人が犯人として警察に捕まってしまう。この柳原さんも、本当に近くにいても声が聞こえないくらいの人です。えん罪関係者で集まるときでも、布川事件のえん罪被害者の桜井さんなんかに「もっと気が強くなれよ」なんて言われているんですが、警察に殴られそうになって自白してしまう。現場の地図を書けって言われても当然書けないわけです、やっていないんですから。そうすると警察が手を持って書かせてしまう。本人が見取り図を描いています、としてしまう。
明らかな事例は、柳原さんの靴のサイズは25.5センチ、犯人は28センチです。現場に残された足跡の大きさが違うことが分かっているにもかかわらず、自白をさせてしまう。被害にあった女性は、犯人は走って逃げたといっていますが、3センチも大きい靴を履いて走って逃げられるのかというあたりも警察は疑いもしない。しかも事件があった時は、お姉さんと電話している通話記録も残っているんです。そういうことも無視して自白させています。検察も裏付け捜査もしないで起訴してしまう。
実は弁護士もおかしいと思うことがありながら、争わなかったんですね。ふつうは裁判になる場合は打ち合わせがあるものですが、その打ち合わせにも弁護士さんは来なかった。しかも示談を進めてしまって、柳原さんのお姉さんは200何十万を相手に払っています。示談までしているということは、本人は認めたんだろうと裁判所も受け取ってしまう。だから裁判官も有罪にしてしまう。柳原さんとしては納得できないので控訴をしようと思ったけれど、弁護士に止められてしまう。
別の事件で捕まった人が真犯人だということがわかって、柳原さんが無罪であることを警察も検察も認めざるを得なくなってしまった。柳原さんは納得できなくて国家賠償請求をやっていますが、そのときに柳原さんを担当していた弁護士が関わらせてくれといってきたらしいんです。当然柳原さんとしては納得できないですから断ったら、富山県の弁護士会の人は誰も関わらなくなってしまった。いま柳原さんがやっている国賠は石川県と東京の弁護士さんが関わっているそうです。柳原さんは、本当に気の弱そうな人で、たぶんいまでも立ち直れていないと思います。家族もずたずたですし、本人もたまに思い出しておかしくなってしまう。おかしくなるというのは、足利事件の菅谷さんもそうですが、夜中に暴れ出したりしてしまうことがあるそうです。えん罪被害はそういうことも引き起こしてしまう。その原因の第一は人権侵害をするような警察、検察による取り調べだったりするわけです。
虚偽の自白ということでは、オヤジ狩り事件、2004年2月ですが大阪地裁所長がオヤジ狩りにあった事件です。5人の被告、うち3人が未成年で2人が成人でした。捕まって、そのときの取り調べは本当に殴る蹴るの暴行で、わたしが一番印象に残っているのは「お前ら特高って知ってるか」、「警察の取り調べで死んだものもおるんだぞ」といってぶん殴って自白させてしまった。憲法36条では拷問は禁止だと定められているんですが、そういうことを2004年にもやっている。菅谷さんにしろ、柳原さんにしろそういう取り調べを受けている。拷問などによる脅迫は全然なくなっていない。
あるいはお前が認めないなら孫を逮捕するとか、実際に志布志事件の場合は、元県議の中山さんという方が逮捕され、その妻も逮捕されています。中山さんはいろいろなものに対して怒っていたんですが、なんでメディアは犯人にしようとしているんだということについては直接聞きました。その怒っていたことのひとつは、何で妻まで1年近く身体拘束をするのかということです。妻を逮捕して自白を迫ったりするわけです。
わたしが関わった痴漢えん罪ということで言うと、「認めればすぐに出られるよ、でも否認なんかしたらどのくらいで出られるかわかったものじゃない。少なくとも10日間は身体拘束だ」といわれればどうだろうか。わたしは痴漢の事件で100日間身体拘束された人を知っていましたので、100日間身体拘束されたらどうなるだろう。どんな理解のある会社でも、恐らくさよならということになるだろう。だとしたら「やりました」といって、メディアにも放送されないのであれば、そのまま言ってしまった方が楽だろう。結局前科は付いてしまうけれどもその方が楽だろうとなってしまうのはあり得ることだと思います。こういったように自白を促されやすい状況は、残念ながらいまの日本にある。
わたしがここで言いたいのは、こういった原因をつくっているのは裁判所に一番の原因があるということです。裁判所が簡単に身体拘束を認めてしまう。ある警察官の言葉ではないですが「新幹線の切符よりも簡単に取れる」ということです。
昨年、日本民主法律家協会というところで裁判員制度の議論があったときに、裁判官がたくさん参加していたので質問したんです。えん罪をなくすために取り調べの場に録音テープを置く、録画するという取り調べの可視化であるとか、検察が持っている証拠を裁判の場で全部出させるということは言われるんですが、一番えん罪の原因をつくっているのは裁判官じゃないか。勾留請求を簡単に認めてしまう、あるいは逮捕状を簡単に出してしまう。明らかにおかしいという事実についても、簡単に有罪の判決を出してしまう。痴漢事件で右手が曲がらないという医者の診断があるのに、右手で痴漢をしたと裁判所が事実認定して有罪にしてしまう。身長からして手が届かないとわかっているのに、かがめば大丈夫だとか理由をつけて有罪にしてしまう。明らかにえん罪に責任を負うのは裁判官である。だとしたら裁判官あるいは裁判所をどうすべきかという議論があるべきじゃないか、それについてどう思いますかという質問をしました。
そうしたら秋山賢三という弁護士が答えてくれました。この秋山弁護士は元裁判官で、徳島ラジオ商殺し事件の再審事件を担当された裁判官です。いまは弁護士会に痴漢対策の部署があって、そこの要職に就いています。その方が、例えば裁判官同士で酒を飲んでいるとき令状の許可を警察がもらいに来ると、見ないで判子を押してしまう。あるいは囲碁をしているときも、記録を見ないで判子を押してしまうことがあると証言してくれています。人の身体拘束をそんなに簡単にやってしまっていいんだろうか。そんな簡単に勾留請求を認めてしまう、逮捕状を出してしまう裁判官が、残念ながらいる。
日本国憲法では、えん罪は人権侵害の最たるものだという観点から、身体拘束に当たっては令状主義によって裁判官にチェックをさせる、あるいは勾留請求も裁判官にチェックさせることが憲法で予定されているにもかかわらず、そういうことをやらない裁判官もいる。判決に関しても、井上薫という元裁判官でいまは弁護士をしていていろいろな本を書かれていますが、わたしの個人的な意見では彼は裁判官をやめたほうがいいという人です。彼が裁判所の現状を紹介していまして、裁判が始まる前に有罪判決を想定して判決を書いている裁判官がいるということです。すごいですよね。結局検察が起訴する以上有罪だということです。
検察という組織はまず担当検事がいて、法律的には担当検事の判断だけで起訴できることにはなっていますが、組織的にはそうはなっていなくて担当検事の上に刑事部長がいてそこがOKを出す。その上に次席検事がいてそこがOKを出す。最終的には地検の場合ですと、検事正がOKを出して初めて検察として起訴できる。ですから少なくとも4つのフィルターを通っていから、変な起訴はしないだろうと裁判所が思い込んでいるところもある。だから起訴する以上有罪だということになる。結局これで有罪のベルトコンベアーに乗せられる。起訴イコール有罪という事態になっているわけです。
どうすべきかということです。警察はとりあえず身体拘束して、泥を吐かせてしまえというようなことをやってしまう。いまから40年前に、愛知県で警察官が殺される事件がありました。暴力団員7人が犯人ということで逮捕されて1ヶ月くらいで全員自白しちゃったんですが、そのあとに別に真犯人が出てきた。暴力団員だって1ヶ月もすれば自白してしまう。そういった取り調べをされれば自白は多いと思います。
本人がやったと言った以上、何となくそういうイメージを持ってしまいます。アメリカの心理学の検査でも、やったと言ってしまうと、たとえやっていないと思っていても何となくそういう心理になってしまうということを読んだことがあります。やっぱりやったと言ってしまうと強いものになってしまう。無理矢理の自白をとられないために録音する。録画するという取り調べの可視化は必要じゃないかと思います。その段階でも弁護士が支援できる体制、場合によっては取り調べの際に弁護士が立ち会えるようなことも必要なのではないかと思います。
検察が起訴したとき、検察官がどんな証拠を持っているかわかりません。東京電力女性社員殺人事件でも、ゴビンダさんが無実である証拠を検察は隠し持っていた。にもかかわらずその証拠がずっと隠されていたから、残念ながら有罪判決になってしまった。1年くらい前ですか、被害女性の胸のあたりにゴビンダさんのではないDNAがついていたとか、爪の間から出てきた皮膚のDNAがゴビンダさんのものではなかったとか、そういう証拠がわかっていれば本当にゴビンダさんが犯人なのかを疑うと思うんですが、実は検察が隠していた。そしてあたかもゴビンダさんがやったような証拠しかなかったので、有罪判決が出てえん罪事件に至ってしまった。そういったことをなくすためには検察官が持っている証拠は全部出させることが必要だと思います。
裁判所に関しては、弁護士もそうですが、刑事事件の裁判では本人がやったと言うことが多いので、どうしても有罪という色眼鏡で見てしまう人が多いらしいです。本人が否認しているような事件では、本当にそうなのかと立ち止まれるような教育が必要だと思うんですね。その点では、いろいろ議論があると思いますが、裁判員制度はこの点では今のところうまく働いているのではないかとわたしは思っています。たぶん裁判員制度が始まる前は、とんでもないことになると思っていた方も少なくなかったと思います。正直言ってわたしもそうでした。恐らく裁判官に言いくるめられてどんどん有罪の方に持って行かれてしまうんじゃないか。たちが悪いのは、裁判官が有罪だというよりも一般市民もからんで有罪だとするとなかなかひっくり返せないだろう、だから裁判員制度はとんでもない制度になり得る。アメリカは陪審制度で有名ですが、アメリカはえん罪大国だということもありますので、似たような羽目になってしまうかもしれないという思いを持っていた方も多いと思います。
ただ事実認定ということでいうと裁判官は無罪推定の原則があると説明しなければいけなくなる。それもあっていままでの刑事裁判であれば有罪になっていただろう事例が、無罪が増えてきているという感覚を持つ刑事事件に携わる弁護士が増えている。わたしが聞いている範囲でもそうです。ただアメリカは陪審制をとっていますがえん罪も多い。ですから気をつけてみなければいけないと思いますが、今のところは有利に働いているという気はします。
メディアに関してですが、現場に出ている弁護士さんは逮捕、起訴の段階で実名報道するのは大きな問題だと感じている方は多いと思います。でも残念ながらというか実名報道がいいといっているのは、憲法学者に多いんですね。東大総長の濱田純一先生も実名報道はいいといっていますね。この実名報道をされてしまうことで、家族や関係者に取り返しのつかない損害を与えてしまう。憲法的にいいますと犯罪者だと扱われることによって憲法13条の個人の尊厳が侵害されてしまう。
犯罪報道に関しては原則として実名報道は許されるべきではないだろう。これはヨーロッパでは当たり前の話です。ドイツとかスイスとかフランスでは基本的にやっていない。そもそも日本のようにこんなにたくさん犯罪報道をやっていないんですね。イギリスでは実名報道をやっていて、だからいいという感覚がある人もいると思うんですが、ドイツなどではやはり個人の尊厳あるいは家族の尊厳が引き合いに出されて、原則実名報道をしていない。そういう意味では、日本での人権感覚はどうかという議論が出てもいいところかもしれません。
アメリカは実名報道があるといわれるかもしれません。でもアメリカでもし間違っていた、名誉毀損だなんていうことになったら億単位の賠償になります。わたしが裁判で勝っても100何十万で終わったと思うんですよ。だからメディアは痛くもかゆくもない。アメリカだったら億単位になる。その覚悟があるのならやってもいいと思うんですが、でも日本のメディアはその辺のところでも甘やかされていると思います。
例えば松本サリン事件の河野義行さんですとか、志布志事件のえん罪被害者の中山さん、あるいはわたしがつい最近関わった事例でいうと看師師爪ケアえん罪事件というものがありました。北九州のこの事件は無罪になっているんですが、ある医療系の大学で話をしたら無罪になったことを知らないんです。爪をはいだひどい看護師だということは大々的に報道されていました。
この事件は医療の専門家からすると、別に爪をはいだわけではなくて老人の爪はケアをするとはがれてしまうことがある。これを傷害罪でやることはおかしいということで、無罪判決が確定しているんですが、あまり報道されていない。実は無罪判決だということは学生たちも知らなかったんですね。いかに有罪判決だということで流されてしまう一例だと思います。この看護師さんに直接会って聞いたときにも、やはり実名報道はやめて欲しい。わたしはもしかしたら有罪になったかもしれないけれども、わたしにも家族がいるということです。そういうことも考えて実名報道はやめて欲しいといっていました。こういったえん罪被害者は実名報道はやめて欲しいというんですが、その辺を主張しているのが同じ憲法学者であるんです。それに対抗して近いうちに奥平康弘先生たちと本を出そうと話し合っています。
最後ですが弁護士さんたちの支援も重要だということを報告させていただきたいと思います。検察官に面談していただいた、裁判官に面談していただいたということを紹介しましたが、わたしが釈放されたとき弁護士さんたちは、どこのメディアがわたしのことを放送しているかをずっと調べてくれたんです。
5月5日に谷脇弁護士と足立弁護士は、朝7時半に来てくれていますから、疲れ切っていて大変だったと思うんですね。裁判になるかもしれないということで、どこに監視カメラがあるとか、警察が言ったとおりにできるのかという再現などもしてくれています。大変だったと思うんですが、実際に釈放されたときにどのメディアがわたしの報道をしているのかを片っ端から調べて、そこに全部電話してくれている。ネットで報道されている場合には削除しろということ、削除できない場合は少なくとも勾留請求が却下されたことを伝えろということを掛け合ってくれました。何10社もです。
そういうことをしてくれたことでメディアでの被害は、もちろん少なくはなかったんですが、限定的になったと思います。処分保留で釈放というかたちになったんですが、場合によってはそのあと起訴されるかもしれなかったんですね。そのときに、わたしの事件を聞いてもうひとり元広島弁護士会会長の石口俊一弁護士が加わってくれました。わたしはその時初めてあったんですが、ちょっと話しただけで弁護士としてのすごみがすごくわかったんです。こういうふうに弁護しようということでいろいろな活動をしてくれたことによって、起訴なんかしたら大変なことになるということを検事の方が感じたんだと思うんです。
そのときいわれたのは、再現の状況をビデオに撮ってくれということで、こういうふうにぶつかったということをビデオに撮ってすぐに送りました。そのとき実は婚約者は体調が悪くて薬を買っていて、だから一人で歩いていたんですが、その薬を買ったときのレシートをすぐに送ってくれといわれました。起訴をさせないために、わたしのところに学生とか教職員が送ってくれたメールなどを全部送ってくれ、それを上申書として出すということをやってくれました。特に女子学生などが疑っていないということは大きな証拠になるだろう。そういう書類を集めて検察に持って行きました。
はじめ検察官は3人の弁護士が行っても椅子も出さなかったらしいんですが、だんだん椅子も出されてお茶も出てきて、丁寧な対応になった。6人の女子高生とか高校生の証言を聞いたらばらばらだった。ぶつかった高校生はジージャンとジーパンをはいていたんですが、わたしが警察に最初に聞かされたのはジージャンとジーパンの間に隙間が空いていてそこを触ったということらしいんです。わたしもちゃんと見ていませんがそんな隙間は空いていないのを覚えているんです。結局どこを触ったかというのもばらばらだったらしいんです。
そういうこともあって検察はこの事件については不起訴だということになって、結構長引いてしまったんです。ただこれでも起訴をするんですかということを働きかけてくれたのは、その3人の弁護士が1週間ごとくらいに検察官に面談にいってくれた。「どうなっているんだ、繊維鑑定の結果も1週間もすれば出ると警察はいったらしいけど出ているのか」ということを聞いてくれた。結局まだ出ていなかったらしいんですが、「それなのに起訴するのか」とたたみかけてくれた。こういう弁護士さんの働きかけは大きかったと思います。えん罪を防ぐためには弁護士さんの活動は無視できないことを認識していただいた方がいいと思います。
ご静聴ありがとうございました。
年末の総選挙の結果、この国は右翼改憲派の安倍晋三内閣を再登場させました。新年にあたり私たちは重大な決意をもって、これと対決し、改憲を阻止していかなくてはなりません。
憲法の市民運動の全国的な連携を強化するために、1995年から始まった「市民運動全国交流集会」は第16回集会を2月に大阪で開催します。安倍内閣による集団的自衛権の行使への動きは東アジアの緊張を従来になく増大させ、日本を天皇元首制の下で国防軍により「戦争をする国」に変えようとしています。私たちは東アジアの国々の人びとと連帯し、この安倍内閣の改憲暴走を阻止しなくてはなりません。今回は集会テーマに「アジアの民衆の平和と共生を求めて――あかんで改憲・戦争をする国」を掲げました。ここに実施要項を発表し、多くの皆さまに参加賛同(参加申し込みと賛同の開催資金カンパ)を呼びかけます。
【公開講演会】
日時:2月16日(土)午後1時半~4時半
会場:PLP会館 大阪市営地下鉄堺筋線 扇町駅4番出口より徒歩3分
JR大阪環状線 天満駅改札口より南側へ徒歩5分
社団法人PLP会館 〒530-004大阪市北区天神橋3-9-27 PLP会館
TEL 06-6351-5860(代) FAX 06-6351-4687
◎JR新大阪駅からは、乗り換えてJR大阪駅で下車、JR大阪駅から環状線で天満駅へ
集会テーマ:アジアの民衆の平和と共生を求めて
――あかんで改憲・戦争をする国――
講演:1 高田 健さん(許すな!憲法改悪・市民連絡会)
2 普門 大輔さん(たんぽぽ総合法律事務所)
海外からの特別ゲスト 金 泳鎬さん(韓国・檀国大学碩座教授)
アピール:○池島 芙紀子さん(ストップ・ザ・もんじゅ)
○新田 秀樹さん(オスプレイの配備と低空飛行を許さないヒロシマ市民ネットワーク準備会)
参加費:1,000円
主催:第16回許すな!憲法改悪・市民運動全国交流集会実行委員会
連絡先:とめよう改憲!おおさかネットワーク
中北法律事務所 大阪市北区西天満4-6-19北ビル2号館402号
TEL:06-6364-0123
許すな!憲法改悪・市民連絡会
東京都千代田区三崎町2-21-6-301
TEL03-3221-4668 FAX03-3221-2558
E-mail:kenpou@annie.ne.jp
2012年12月9日、大阪府警警備部などは、同年10月17日のJR大阪駅駅頭で「震災瓦礫」の受入に反対する宣伝活動(以下、「本件宣伝活動」とする。)を行った下地真樹氏(阪南大学准教授)らを、威力業務妨害罪(刑法234条)および不退去罪(刑法130条後段)で逮捕しました。私たちは、日本国憲法の研究者として、本件逮捕は、憲法21条1項の保障する表現の自由を不当に侵害するものであると考えます。
また本件宣伝活動が行われた場所が、かりにJR大阪駅構内であったとしても、駅の改札口付近等通行人の妨げになるような場所ではなく、せいぜい同駅の敷地内であるにすぎず、公道本件宣伝活動は、ハンドマイク等を用いて、駅頭で、大阪市の瓦礫処理に関する自らの政治的見解を通行人に伝えるものであって、憲法上強く保護されるべき表現活動です。との区別も判然としない場所です。このような場所は、伝統的に表現活動の場として用いられてきたパブリック・フォーラムに該当すると考えられ、施設管理者の管理権は、憲法21条1項の前に、強く制約されるはずです。
そうであるとすると、本件表現活動に対し、威力業務妨害罪や不退去罪を適用することができるのは、当該活動によって相当の害悪が発生している場合でなければなりませんし、たとえそのような解釈をとらないとしても、少なくとも、害悪発生のおそれが実質的に存在することが必要なはずです。
本件は、通行する市民に対して、穏健な方法で瓦礫処理に関する自らの政治的主張を訴えかけるものであり、このような表現活動から、刑罰に値するだけの相当の害悪が発生し、または、そのような害悪が発生する実質的なおそれが存在しているとは考えにくいと思われます。
また、下地氏らは、本件宣伝活動終了後、大阪市役所に行くために、JR大阪駅の東側のコンコースを通過しました。この行為も、同コンコース内で立ち止まって宣伝活動をするといった態様のものではなく、単に、他の人と同様に、移動のためにコンコースを利用したにとどまります。
そもそも同コンコースも、駅構内とはいえ、本件宣伝活動が行われた駅頭と同様に公道とほぼ同視できる場所だと考えます。この移動のためのコンコース利用によって威力業務妨害罪ないし不退去罪が成立するとは考えられません。
下地氏らが、大阪市の瓦礫処理問題で活発に活動していたことは周知の通りです。政治的問題は、民主主義によって決着がつけられるべきですが、その前提として、表現の自由が十分に保障されなければなりません。
前述のとおり、本件行為に表現の自由の保障が及び、その制約を正当化するだけの実質的な理由が存在しないとすれば、本件逮捕は、下地氏らの政治的主張を狙い撃ちにしたのではないかという懸念を感じざるを得ません。
市民の正当な言論活動に対し、刑罰権が恣意的に発動されるならば、一般市民は萎縮し、政治的な活動を差し控えるようになります。そうなると、民主的な議論の結果も歪められることにならざるをえません。表現の自由は、そのような結果を防止するためにこそ存在するのであり、したがって、刑罰権発動には最大限の慎重さが求められるはずです。
以上のように、本件逮捕は、憲法上強く保障された表現の自由を不当に侵害し、市民の表現活動を幅広く規制対象にする結果をもたらし、ひいては自由な意見交換に支えられるべき議会制民主主義の過程を深刻に害するものであって、憲法上許容されないと私たちは考えます。
私たちは、大阪府警による下地氏らの逮捕に強く抗議するとともに、かれらの即時釈放を要求します。
2012年12月17日
<呼びかけ人>
石川裕一郎(聖学院大学)、石埼学(龍谷大学)、岡田健一郎(高知大学)、中川律(宮崎大学)、成澤孝人(信州大学)
<賛同者>
愛敬浩二(名古屋大学)、青井未帆(学習院大学)、足立英郎(大阪電気通信大学)、飯島滋明(名古屋学院大学)、井口秀作(愛媛大学)、井端正幸(沖縄国際大学)、植木淳(北九州市立大学)、植松健一(立命館大学)、植村勝慶(國學院大學)、内野正幸(中央大学)、浦田一郎(明治大学)、浦田賢治(早稲田大学名誉教授)、榎澤幸広(名古屋学院大学)、遠藤比呂通(弁護士)、遠藤美奈(西南学院大学)、大久保史郎(立命館大学)、大野友也(鹿児島大学)、大藤紀子(獨協大学)、奥田喜道(跡見学園女子大学)、小沢隆一(東京慈恵会医科大学)、押久保倫夫(東海大学)、金澤孝(早稲田大学)、上脇博之(神戸学院大学)、君島東彦(立命館大学)、小竹聡(拓殖大学)、小松浩(立命館大学)、齊藤笑美子(茨城大学)、斎藤一久(東京学芸大学)、斉藤小百合(恵泉女学園大学)、阪口正二郎(一橋大学)、笹沼弘志(静岡大学)、佐藤潤一(大阪産業大学)、志田陽子(武蔵野美術大学)、菅原真(名古屋市立大学)、高作正博(関西大学)、高橋利安(広島修道大学)、多田一路(立命館大学)、只野雅人(一橋大学)、玉蟲由樹(福岡大学)、塚田哲之(神戸学院大学)、寺川史朗(龍谷大学)、中里見博(徳島大学)、永田秀樹(関西学院大学)、長峯信彦(愛知大学)、永山茂樹(東海大学)、成嶋隆(新潟大学)、丹羽徹(大阪経済法科大学)、福嶋敏明(神戸学院大学)、前原清隆(日本福祉大学)、牧本公明(松山大学)、松原幸恵(山口大学)、水島朝穂(早稲田大学)、三輪隆(埼玉大学)、村田尚紀(関西大学)、本秀紀(名古屋大学)、元山健(龍谷大学)、森英樹(名古屋大学名誉教授)、柳井健一(関西学院大学)、山内敏弘(一橋大学名誉教授)、和田進(神戸大学)、渡辺治(一橋大学名誉教授)、渡辺洋(神戸学院大学)
以上、62名。呼びかけ人と合わせて67名。
2012年12月21日
立川自衛隊監視テント村
2012年12月7日最高裁第二小法廷(千葉勝美裁判長)は二つの国公法弾圧事件に関する判決を出し、いずれも上告棄却とした。これにより堀越さんの事件では無罪が、宇治橋さんの事件では有罪(罰金10万円)が確定した。堀越さんの事件の無罪は当然であるが、一方で宇治橋さんが当時課長補佐という管理職の立場にあったことを理由に「職務の遂行の政治的中立性がそこなわれるおそれがある」として有罪を認めたことは極めて不当である。本来この判決は猿払事件の判例そのものを見直し、大法廷で審理されるべきものであり、弁護団はそのことを強く主張してきた。最高裁はその要求を無視し、公務員の政治活動に制限をかける余地を残す矛盾した二つの判決を下した。このことに対してテント村は強く抗議する。
日本では2004年~2005年にかけて自衛隊官舎、マンション、卒業式などでのビラ配布に対して弾圧が相次いだ。住居侵入罪や威力業務妨害罪、国家公務員法違反などその都度罪状は違うが、イラク派兵という国家が初めて直面する緊張した状況下で、反戦運動に冷水を浴びせ、公務員の政治活動の萎縮を狙って立て続けに起こされた弾圧であることは明らかである。堀越さんの逮捕に際しても、多数の公安を動員してビデオ撮影を行い、執拗な証拠収集を行ったが、明らかに左派/革新勢力を狙い撃ちにした弾圧だった。こうした事態に対しては、2008年には国連自由権規約人権委員会が表現の自由に関して不合理な制限を撤廃すべく日本政府に勧告を行っている。
国公法事件では二人は休日に私服で、共産党の機関紙やビラをポストに配布していただけであり、そうした政治活動は日本国憲法でも定められている権利の当然の行使に過ぎない。これを違法とすることは、大阪市での公務員の思想の不当な統制などに見られる動き同様、公務員の国家体制への従順な屈服を要求するものであり、断じて認められない。猿払事件の判決そのものが破棄され、無罪が宣言されるべきだったのだ。
この判決翌日、三鷹ではUR団地において宇都宮候補支援の法定選挙ビラをドアポストに配布中の男性が住民の通報で逮捕されるという事件が発生した。検察側の勾留延長請求は却下され、男性は11日には釈放された。だが、原発への反対をはっきり主張する宇都宮候補支援のビラだったからこそ弾圧されたのではないか、という疑いはぬぐいきれない。選挙期間中に集合ポスト・ドアポストへのビラ配布は、精力的に各政党で行われる。これを犯罪行為だとすることは、選挙活動への大幅な制限にあたり、憲法で定められた権利の行使の不当な制限につながる。逮捕自体が全く不当であり、警察と勾留を請求した検察側は謝罪すべきである。
一連のビラまき事件では堀越さんの事件のみが唯一最高裁での無罪を勝ち取った。長い裁判を闘い抜いた本人や支援者、弁護団の苦労は大いにねぎらいたいと思うが、宇治橋さんの事件の有罪、翌日の三鷹ポスティング弾圧事件の発生を思えば手放しで喜ぶわけにはいかない。立川テント村はこうした不当な政治活動の制限、表現の自由の侵害につながるポスティング弾圧に対して、全国の、世界中の人々とともに断固として今後も闘うことを改めて宣言し、声明とする。
立川自衛隊監視テント村
〒190―0013 東京都立川市富士見町2-12-10サンモール立川504
電話FAX 042-525-9036 メール/ tento72@yahoo.co.jp