活動報告

イラクで拘束された5人の救出行動に関する11日間(2004/4/8~18)の市民の運動の記録

高田 健

これは主として筆者が関わったWORLD PEACE NOW(WPN)周辺での活動の記録である。これ以外にも全国各地で、また世界各地で5人の救出のためにさまざまな有効な動きがあったことはいうまでもない。とりわけ雑誌『世界』6月号のコリン・コバヤシによる「世界市民は何をなしえたか」は貴重な記録であると思われる。

4月8日(木)21時、3名の日本人がイラクのバクダットに向かう途中にファルージャ周辺で拘束された。いうまでもなくファルージャはその少し前、米軍の包囲殲滅作戦による無差別攻撃があり、6~700名の市民が殺戮された地で、極度の緊張のただ中にあった。拘束者たちは「サラヤ・ムジャヒディン」と名乗り、「3日以内に自衛隊を撤退させなければ3人を殺す」と言った。人質に取られたのは、国際ボランティアの高遠菜穂子さん、今井紀明さん、フリージャーナリストの郡山総一郎さんだった。

全国の市民運動に衝撃が走った。特に高遠さん、今井さんと知り合いの市民グループは北海道や東京を中心に少なくなかったからだ。これらの拘束された人びとは日本の市民運動・国際ボランティア活動やイラクの戦争報道の最前線で活動する若者たちだった。(その後、14日、さらにジャーナリストの安田純平さん、市民運動家の渡辺修孝さんの2人が拘束され、日本人の人質は計5人になった)。

● しかし、福田官房長官は「自衛隊は人道支援にいっている。撤退する理由はない」と要求を頭から拒否した。

WPNは、ただちに8日以降、9日からの国会前での緊急行動を準備すると共に、あらゆる可能な手段を使って、早急にイラクの「拘束者」たちに日本の市民のメッセージを届けるようにMLで確認、各人がそれぞれに取り組みを開始した。WPNは、たとえば以下のようなメールを発信した。

【3人を救うためのサイバーアクション】

(1)このメール(署名の下)をありとあらゆるところに送ってください。最終的に「3人を拘束している占領に抵抗する人びと」に届くようにしたいと思います。

(2)ルートをお持ちの方は「英文のみ」を外国に送ってイラク国内に届くように要請してください。直接イラク国内のマスコミやお知り合いでもいいですし、例えばアメリカ、ヨーロッパ、アラブなどいろいろな国を経由してもいいので、お願いしてください。

(3)メール送付に際してのコメントは自由につけていただいて結構です。

人質となった3人の日本人を救い、自衛隊の即時撤退を求める緊急アピール。

4月8日、イラクで3人の日本人が占領に抵抗する人びとに捕われました。私たちが十分に起こりうると指摘し、最も恐れていたことが起こったのです。

人質となった男女3人は、米軍がイラクにもたらした子どもたちの苦境や劣化ウランの被害に心を痛め、自ら支援の手を差し伸べようとイラクに足を運んだ人たちです。彼らはイラク占領にも自衛隊派兵にも反対してきました。このようなイラク民衆の友人である人たちが占領に抵抗する人びとに捕われ、3日間の猶予しか与えられない状況に陥ったのは不条理です。

私たちは、3人を捕えた人びとに求めます。私たちはイラク攻撃から一貫して攻撃と占領、派兵に反対する行動を続けてきたし、これからも続けていきます。日本政府の誤りと犯罪をやめさせる努力をしている人たちの生命を奪わないでください。

私たちは小泉内閣に求めます。イラク攻撃支持と自衛隊派兵がイラクの人びとと日本人の双方を傷つけ、その生命と尊厳を奪うことになると知りながら、ブッシュ政権に追随した責任をとり、ただちに自衛隊を撤退させて下さい。

かけがえのない、すべての人の生命を救うために。

2004年4月9日
WORLD PEACE NOW実行委員会
連絡先: 許すな!憲法改悪 市民連絡会
電話 03-3221-4668
ホームページ:http://www.worldpeacenow.jp/

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9th of April 2004
URGENT APPEAL
Release three Japanese hostages!
Withdraw Self Defense Force from Iraq immediately!
by World Peace Now, Japan

On 8th of April, a resistance group against the occupation of Iraq capturedthree Japanese civilians. We deeply regret the worst ever thing that we had been afraid of has happened.

Those three Japanese civilians have been working for Iraqi people, especially for poor children and the victims of the depleted uranium. They are against the occupation of Iraq and the dispatch of Japanese Self Defense Force to Iraq. They are friends of Iraqi people. We don't understand why they have to be captured and threatened their lives. It is such a tragic affair.

We strongly demand those who captured them not to take their lives away. It is them who try to stop the Japanese government from committing more crimes. We, as Japanese peace movement, promise to continue our consistent efforts to end the occupation of Iraq and Japanese government involvement of the war on Iraq.

We strongly demand the Prime Minister, Mr. Koizumi Junichiro to withdraw the SDF from Iraq immediately. You already know that sending the SDF to Iraq only undermines lives and dignity of people both in Iraq and Japan. You have to take the responsibility of your policy being a follower of George Bush. Save a precious life of everyone!
http://www.worldpeacenow.jp/

4月9日(金)朝

●首相は責任を記者から問われて、「私自身の問題ではありません」とのべ、拘束者や家族のみなさんが願う自衛隊撤退の意志がないことを表明した。

4月9日(金)

午前中に3人の家族がほっかいどうピースネットの人びとと共に上京。川口外相に訴える。

4月9日(金)昼

WPNの構成団体であるATTACJapanは、この間、知り合いになっていたイラク民族民主潮流(CONDI)に協力を要請した。

4月9日(金)昼

議面 WPN主催の『日本人の命』か『ブッシュ』か 小泉総理は自衛隊をただちに撤退させろ!」議面集会&首相官邸前緊急行動に600人(平和フォーラム150人も衆院第二議員会館前の行動から官邸前で合流した)の市民が結集した。社民、民主、共産の国会議員と元レバノン大使の天木直人さんや志葉玲さん、弁護士の中島通子さんらが集会で挨拶した。

4月9日(金)夜

日比谷野音で自衛隊のイラク派兵と有事関連7法案に反対する集会が開かれ、4000人(20労組、市民緊急行動、キリスト者ネット、宗教者ネットが主催)が参加し、東京駅までパレード。3人の救出を訴えた。

4月9日(金)夜

20時から劣化ウラン禁止・市民ネットが官邸前で500人で集会。

4月10日(土)午前7時頃

CONDIから「拉致グループとの接触に至り、現在、解放にむけて交渉中である」との連絡を受ける。

4月10日(土)昼

WPNが呼びかけた議面前&官邸前行動に1000人の市民が結集した。社民、民主の国会議員と、札幌から家族に付き添ってきた「ほっかいどうピースネットの人びとと」の仲間たちも挨拶した。広島から駆けつけた仲間や、写真家の豊田直巳さん、薬害エイズと闘ってきた川田龍平さんらが挨拶した。会場で呼びかけられたカンパは61万円を超した。

●首相は家族との面会を拒否した。

WPNの構成団体のピースボートの有志は官邸前でハンストに入る。

4月10日(土)午後3時

北海道東京事務所にいる家族にカンパを届けに行く途中で、INDCからATTACに連絡が入り、すぐ高田の携帯に「彼らは一両日以内に解放される」との連絡があったと報告が入る。北海道事務所ではWPNは臨時の記者会見になったが、「拘束者グループに日本の市民のメッセージが届いた」とだけ発表した。

4月10日(土)午後2時から

渋谷宮下公園で戦争のための日米首脳会談反対、チェイニー来日反対の集会に400人(日韓民衆連帯、市民緊急行動など実行委員会。WPN協力)が結集し、3人の救出を合わせ訴えて渋谷の街をデモ。

4月10日(土)夜

劣化ウラン禁止・市民ネットが呼びかけた議面前&官邸前に600人の市民が参加。その後、都内主要駅頭で、ビラの配布と署名運動が行われた。

●22時、アルジャジーラ川口外相の拘束者へのメッセージを放映。「自衛隊撤退を拒否」した。

4月11日(日)午前3時

アルジャジーラTVが「24時間以内に解放する。日本の市民はひきつづき自衛隊の撤退を小泉政権に圧力をかけてもらいたい」との「声明」を発表した。4時43分、「家族の声明」を発表。「自衛隊の即時撤退と川口外相コメントの一部削除」を要求。

4月11日(日)昼

議面&官邸前のWPNに2500人の市民が結集する。民主、共産、社民の国会議員、小坂弁護士、北海道ピースネットの本田さんらが発言。昨日のカンパのお礼が言いたいといって、家族のみなさんが集会に来る。

WPNは拘束者グループからの解放約束の経過を仲介した在パリのCONDIのアブドゥルアミル・アル・リカービ氏の名前と共に公表した。そして、小泉内閣が救出どころか、何もしなかっただけでなく、自衛隊の撤退要求をハナから拒否し、米軍に救出を打診するなど、妨害までやったことを暴露した。このリカービ氏は昨年12月、来日し、小泉首相と会ってその握手した写真が日本の各紙に掲載された人物だ。首相は自衛隊のイラク南部への派兵のために、南部出身の有力者ともあって根回ししているとのアピールのためにリカービ氏を利用した。直後、私を含め日本の市民運動と会ったリカービ氏は、用意されていた川口外相との会見をキャンセルすると言明した。今回の件で、リカービ氏は首相筋からは一切の接触がなかったと証言した。もし、小泉首相が3人の解放のためのあらゆる手だてを使おうとしたら、当然浮上していいはずの人物だ。小泉首相がいかにいいかげんにしか対策をとっていないかの証明にもなるエピソードだ。ここでもカンパが65万円集まった。

WPNの構成団体でもあるピースボートの吉岡達也共同代表は官邸前の反戦デモのビデオなどをもって、出演依頼をするためにアルジャジーラの本社があるカタールに飛び(10日夜、出発、11日午後現地到着)、生出演し、拘束者やイラクの人びとに訴えた。

4月11日(日)

WPNは次のような緊急声明を発表した。

本日、4月11日早朝(日本時間)アルジャジーラTVは、高遠奈穂子さん、郡山総一郎さん、今井紀明さんを人質にとった「サラヤ・アルムジャヒディン」が 24時間以内に3人を解放すると声明した、と発表しました。解放について、実際に3人の顔を見るまでは安心できないとはいえ、私たちはこの「解放声明」を 心から歓迎します。

3人の「解放声明」は、なによりも3人がイラク民衆を支援するために献身的に行動しつづけた姿がイラク民衆の心に届いたためです。また、家族の皆さんや、 全国の市民たちが3人の命を救うためにあらゆる手だてを通して、僅かな期間に昼夜の別なく全力をあげて活動した結果です。家族や市民たちの訴えが、イラク の人びとを動かし、「サラヤ・アルムジャヒディン」をも動かしたのです。「日本国民が、自衛隊を撤退させるために小泉政権に圧力をかけ続けることを望む」という趣旨の「サラヤ・アルムジャヒディン」の声明はこの事実を物語っています。他方、事件発生以来の小泉政権や与党の対応は、まったく許しがたいもので した。小泉首相は「テロに屈しない」「自衛隊を撤退しない」と断言し、「救出」を「交渉はしない」と主張する米軍の手に委ねました。小泉首相は、人質の生命に迫った危険を顧みることなく、あくまで米ブッシュ政権の侵略戦争と軍事占領に追随して自衛隊を派兵し続ける政策に固執しました。小泉首相は、家族の必 死の訴えにもかかわらず、「会ってもしょうがない」という冷たい態度に終始してきました。マスメディアの多くも、「撤退すべきではない」として小泉政権の 政策を事実上支持してきました。「人の命よりも自分たちの体面が大事」というこうしたあり方に、私たちは怒りを禁じ得ません。

私たちは3人の解放後も、イラク全土でアメリカをはじめとした占領軍による市民たちへの虐殺が激しさを増していることを忘れません。占領軍による暴虐きわ まる無差別の殺りくは、イラク民衆の激しい抵抗をもたらすのは必然です。自衛隊はけっして「復興人道支援」のために送られたものではありません。自衛隊は イラクの人びとを殺し、人権を奪い、生活を破壊する占領に参加するためにイラクに送られているのです。

今回の事件は、侵略戦争と軍事的占領支配がいかにイラクの人びとを苦しめているかをあらためて示すとともに、自衛隊の存在がNGOなどの復興支援活動をい かに妨げているかを明らかにしています。私たちは、占領軍が軍事攻撃を中止し、自衛隊を含む全占領軍をただちに撤退させ、イラク人自身によるイラクを実現 するよう求めます。私たちはイラクと全世界の平和を願う人びととともに、戦禍に苦しむ人びとを支援し、戦争・占領をやめさせるために今後も行動し続けます。

4月11日(日)午後

CONDIを通じて、「川口外相が『自衛隊は撤退しない』とビデオで語った日本政府の姿勢に拉致グループが反発して、一時は解放の約束を取り下げる案もでている」という連絡をうける。

4月11日(日)夜

WPNの議面&官邸前行動に2500人が再結集。ここにも再度、家族のみなさんが来る。

●飯島勲首相秘書官「まいっちゃうよ、家族の中に過激派集団がいてさ」

4月12日(月)午前

チェイニー副大統領と小泉首相の会談。

4月12日(月)昼

議面&官邸前行動に600人。民主、共産、社民の国会議員と北海道ピースネットの七尾さん、チョウ・ミスピースボート共同代表、ATTACジャパンの田中徹二代表、赤石千衣子ふえみん共同代表らが発言。

●竹内行夫外務事務次官「外務省の我々の同僚は命をかけて治安情報を収集し、危険情報を国民に周知している。イラクについては今年に入り退避勧告を13回も出している。自己責任の原則を自覚してもらいたい」と発言。

4月12日(月)AM4:00頃

「3人は元気である」という連絡を受ける。

午前、「安全上の問題で解放が遅れる」との連絡あり。

午後、「プロの詐欺師であるドレイミが暗躍しているようだ。拉致グループに接触して、身代金を要求したらどうか、といっていて、交渉が難航している」という連絡を受ける。

4月12日(月)夜

議面&官邸前 1200人。機動隊の従来とは大きく変化した不当な制限と妨害が激しかったが、毅然として官邸前抗議行動を貫徹した。

4月13日(火)午前3時頃

「トラブルは解消したので、数時間以内に解放される」という連絡を受ける。
その後、連絡が途絶える。INDCから「解放に向けたプロセスに入っているのは間違いないが、連絡がとれない」との連絡を受ける。

4月13日(火)夜

議面&官邸前に800人が参加。

4月13日(火)

ピースボートの吉岡達也共同代表は再度、アルジャジーラに出演、3人の即時解放を訴えた。

4月14日(水)

この日、新たに2人の日本人が拘束された。

4月15日(木)午後

参議院議員会館 60人 WPNが主催して国会議員と市民の集会。民主、社民、緑の会議などの国会議員が出席。相沢泰行さん(NPO法人ピース・オン)、熊岡路矢さん(JVC)、豊田直巳さん(フォトジャーナリスト)などがイラク現地報告。この院内集会の案内は事前にすべての国会議員のポストに配布された。

4月15日(木)20:40頃

「人質は解放された」という連絡を受ける。拘束者は「日本の市民が自衛隊の撤退を要求して活動している。引きつづき活動してほしい」などと声明した。

● 小泉首相、「まだあきらかにできないこともございます。各方面へのいろんな働きかけが功を奏したんだと思っております」と発言。

4月15日(土)

新たに拘束された2人が解放された。しかし、先の3人と後の2人の件は性格が大きく異なる。2人の場合は要求も脅迫もない拘束事件だ。

4月18日(日)午後

宮下公園にWPNの主催で1800人の市民が参加して集会とパレード。解放されて本当によかったと喜び合う。志葉玲さん、豊田直巳さんが発言。

有事法制に反対してきた20労組なども次のような共同声明を発表した。

拘束された5人の解放を歓迎し、自衛隊の即時撤退を求めます

イラクで拘束された5人の日本人が解放されたことを心から歓迎するとともに、5人のご家族や友人の方々とともに喜びたいと思います。

解放実現のために力を尽くしてこられたイラクの人々の善意に、心からの感謝を表明します。また、5人の解放を求めて、あらゆる手段を駆使してイラクへメッセージを送るなど、必死の活動を続けてきた人々の努力に、心からの敬意と感謝を表明します。

イラクへの自衛隊派遣に反対し続けてきた多くの人々による運動が、今回の解放を実現したことに私たちは改めて大きな誇りを感じます。

しかし同時に、5人が拘束されたこと及び解放が遅れたことの責任が日本政府にあることを、私たちは重ねて強く指摘せねばなりません。自衛隊の撤退を決定し ていれば、確実に、しかももっと早い時期に5人を救出する方策があったにもかかわらず、これを拒否しつづけた政府の人命軽視の姿勢は絶対に許されません。 私たちの声を無視して、アメリカに追随してイラクへの自衛隊派遣を強行するという政府の行為によって、イラクの人々が抱いていた親日感情を大きく傷つける 結果になっていることを、小泉政権は重く受け止めるべきです。また、政府や首相の発言を契機として、拘束された5人の方やそのご家族に対して心無い中傷や 非難が浴びせられたことに対しても、私たちは心から憤りを感じます。

今回の事件によって、イラクへ派遣された自衛隊の即時撤退を求めてたたかっている日本の運動に対し、イラクの人々の期待がきわめて大きいことが明らかになりました。また、イラク特措法からしても、自衛隊がイラクから撤退することは当然のことです。有事関連7法案の早期成立を狙うなど「戦争をする国ニッポ ン」作りに奔走する政府の暴走を許さず、自衛隊のイラクからの即時撤退と有事法制の廃案を求めて、これまで以上に強く、広く運動を続けることを、改めてここに誓います。

以上

平和を作り出す宗教者ネット
平和を実現するキリスト者ネット
戦争反対・有事を作るな!市民緊急行動
陸・海・空・港湾労組20団体

感想 平和憲法を体現した市民たちの国際的ネットワークが五人を救出

日本の市民運動はこの11日間、5人の救出のため全力で活動した。イラクの戦場における「人質」の救出というきわめて困難な課題であったが、15日の3人の解放、17日の2人の解放を実現した。解放に際しては、首相官邸前で行われた連日の市民のデモをはじめとする日本の市民運動の努力と、今年の一月にインドのムンバイで開かれたワールド・ソーシャル・フォーラムなどの国際的な市民運動のネットワークがはたした役割は決定的だった。

拘束されたという報道があった翌日の9日には「WORLD PEACE NOW」実行委員会などの市民たちによる首相官邸前のデモが行われ、以降、5日間で官邸前ではのべ1万人に及んだ大衆的な行動が繰り広げられた(5日間の行動の中では、とりわけ、小泉・チェイニー会談が行われていた12日の官邸前での警備陣の妨害は激しかった。しかし、従来、請願行動しか許されていないこの国会議事堂と首相官邸の間の空間で5日間にわたって連日、デモが繰り広げられたことの意義は大きい。この非暴力の直接行動は機動隊の不当な規制行動を突き破って、勝ち取られた。機動隊は繰り返し市民の行動空間を狭めようと、阻止線を狭めてきた。これらは日本山妙法寺の僧侶らを先頭にした毅然とした抗議行動によって押し返された。突如として登場した機動隊の指揮官車は、そのうえから指揮者が数分間騒いだだけで、抗議され、退場した。国会議事堂内での議面集会では使用が禁止されている拡声器が、ワイアレスで窓の外から放送するという知恵で、堂々と使用でき、会場の後部では発言が聞き取れないという従来の議面集会の弱点をカバーし、盛り上がりをつくることができた。細かいことではあるが、これらの一つ一つは従来にはない画期的なことだった)。官邸前では市民の自主的な座り込みやハンストも行われ、都内主要駅頭をはじめ全国各地で市民たちは街頭宣伝、チラシの配布、救出署名、被害者家族への支援カンパなどに連日、全力で取り組んだ。「自衛隊の即時撤退、米軍のファルージャでの虐殺糾弾、イラク占領軍の撤退、3人を救え」という市民運動は急速に広がった。海外のメディアの報道によって、この映像は世界を駆けめぐり、それはイラク国内にも届いた。

同時に市民たちはこの間の努力で築いてきた国際的なネットワークを通じて、拘束者とのコンタクトの方途をさぐり、「3人はイラクの人びとの友だ。イラク占領に反対し、自衛隊の撤退を闘う私たちの友だ。絶対に傷つけてはならない。無事に解放してほしい」というメッセージを届けようとした。メールが国境を越えて飛び交った。カタールのアルジャジーラ放送まで飛んで、出演し、解放を訴えたNGOもいた。これらのメッセージの一つが在仏のイラク民族民主潮流を経由してイラクに届けられ、拘束者たちに届き、「WORLD PEACE NOW」はマスコミ報道よりも12時間早い4月10日午後3時に、「1両日中に解放する」との約束を引き出していた。その後、拘束者、被拘束者の安全確保の問題など、若干の曲折はあったが、この約束は守られた。

5人を解放に導いた要因は、第1にこれらの人びとがこの間、身を挺してイラクの人びとの友としてボランテイアや報道の面で活動してきた、いわば憲法の平和主義を体現してきたような人びとだと言うことであり、第2に占領反対、自衛隊の撤退を闘う日本の市民運動のさまざまな努力の反映であり、第3に日本国憲法の平和主義のもとで、ともかくも動乱の地の中東に軍事介入をしないで来たことで、アラブの人びとの友と思われて来た歴史のゆえだ。

これと対照的に、この間、小泉内閣は妨害こそすれ、「人質の解放」にとって有効な行動は一切しなかった。窮地に陥った政府がやったことは「テロに屈しない」とか「自衛隊は撤退しない」などと言い張る一方で、「自作自演」説を流したり、「人質や家族は共産党だ、過激派だ」などと言いふらしたりしながら、「自己責任」キャンペーン、バッシングを繰り広げ、反撃することだった。あげくに「自衛隊撤退をいう人質は反日的分子だ」などと国会で発言する議員まで現れた。この「自己責任」キャンペーンは、解放され、帰国した今井君、郡山君がしばらく経ってから自らの意志でマスコミに向かって堂々と発言したことを契機に再度、形成が逆転した。しかし、この社会に根強いこのバッシングの思想的土壌を掘り崩す闘いはひきつづき残されていることを痛感する。

一連の反動は、この間、進められてきた反テロを名目とした駅や鉄道での放送、街の監視カメラの大増設などさまざまな危機管理の強化の動きの延長線上にあるもので、「立川反戦ビラ配布」弾圧事件、社保庁職員の赤旗号外配布での逮捕事件などと同様に、言論・思想統制の強化社会の軍事化を進めていくものであり、憲法の危機を示すものではないだろうか。

2003年春のWORLD PEACE NOWの運動はいくつかの特徴があった。第1に、米軍によるイラク攻撃(戦争)が起こる前に、その戦争を止めたいという意志のもとで広範な人びとが立ち上がった反戦運動であった。第2に、マスコミがいうインターネットなどを通じて、「フツーのひとびと」が大量に参加する行動になった。第3に欧米の反戦団体の呼びかけと直接インターネットを通じて連携した国際的な運動であった、などがその特徴である。

今回の「永田町を震撼させた」11日の闘いは、今年のムンバイでの世界社会フォーラムを含めて、その2003年の運動が作り上げた市民の反戦運動の主体と国際的なネットワークが具体的に、効果的に作動し、成果を上げるという、市民運動の国際化の画期をなすものであったと言ってよいだろう。

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