2003年5月3日憲法集会

戦争のできる国づくり、有事法制

社会民主党党首 土井 たか子

日本国憲法が施行されまして56回目の憲法記念日を迎えました。たくさんの皆さんが来てくださいまして、熱気で圧倒されるばかりでございます。それほど多くの皆さんが、わが国の有り様や憲法を取り巻く環境にたいして強い危機感をもっていらっしゃるということをひしひしと感じます。

小泉内閣ほど、憲法をないがしろにして顧みない内閣をいままで見たことがありません。少なくとも、最高法規であって根本法である憲法をないがしろにするわけですから、基本をまったくないがしろにした政治だとも言えるわけです。

小泉首相は、アメリカのイラクにたいする武力攻撃にたいして、日米同盟の重要性からこれを支持すると言われました。厳密に言えば、国連の決議なし、そして単独でも武力攻撃をやると初めからブッシュ大統領は発言しています。しかも、イラクから攻められているわけでもなんでもないんですから、先制攻撃だということは実にはっきりしているのではないでしょうか。国際社会から見れば、先制攻撃は国連憲章に違反している、国際法規にも違反している。国際ルールを顧みない、という点からすれば侵略行為と言わざるを得ないと思います。アメリカのこの戦争に対して、これを支持すると小泉内閣は言われるわけですが、なぜ支持するかという理由を問い質せば、日米同盟をあげられる。日米同盟の重要性からこれを支持すると言われるわけです。日米同盟とは何かということが、ここで問題になってまいります。日米同盟と言えば軍事同盟ということを意味することから、いままでは保守勢力の中でも、この言葉を使うことにはためらいがあったと思います。

しかし今、この日米同盟という言葉は、当たり前のように使われています。そして、同盟関係ならば、お互いが同等ですから、言うべきことははっきり言うというのがお互い同士としてその基本になければならないのではないでしょうか。少なくとも、私たち日本の立場から言えば、最高法規であり、基本法である憲法を無視してお互いの間でものを言うということは、国を代表している立場ではないということになるわけです。したがって憲法を取り巻く環境というのが、以前は日米同盟にためらいがちだった政府が、この言葉を当たり前のように使い始めたということからすると、ずいぶん状況は変化してきているということが読み取れるわけです。そして、非常に危ないということも、同時に痛感するわけでございます。

平和憲法、国連中心主義、これが一つあって、そしてもう一方に日米安保体制という問題があって、その間の非常に微妙なバランスの中に戦後の保守政権があったと申し上げてもいいと思います。しかし今、平和憲法も国連中心主義もかなぐり捨てて、ひたすらアメリカに追随していく立場を、日米軍事同盟の中身ということにしているのがいまの小泉内閣と申し上げなければならなくなっているわけです。従って、戦後の日本の有り様を根本から覆そうというのが、小泉内閣の姿・形ではないでしょうか。わざわざ「戦後政治の総決算」と誰かのように断らなくても、事実の方をまずやって、後で事実にあわせて憲法の中身や法律を考えていく、そういう姿勢がまさしくここにも出ているということを言わなければならないと思います。

小泉内閣のこの2年間、平和憲法に真っ向から挑戦するかっこうです。憲法解釈をねじまげて形骸化させて、そして憲法は条文を変えなくとも、実際の中身で形骸化していくという2年間であった、。言ってみれば、法の名において憲法違反を横行させて、そして、法によって法治主義を否定していく。これはあってはならない形でございますけれども、法ということで立法しているのだからいいでしょう、と言わんばかりに開き直っている。憲法違反の法律をまず作って、そしてそのことを今度は行政サイドからすれば実行する時には、さらに拡大解釈をして、憲法からずいぶん違反の度合が大きくなるような政治をまず先に作って、憲法に違反していないということを言う。これは憲法が認めない政治だと言わなければならないと私は思うのです。

どうも小泉内閣の頭の中は、アメリカ支持と自衛隊の派遣がまずあって、憲法の存在はそれに比べれば認識の外であるに違いないと思われてなりません。その考え方は一貫しております。今度のアメリカのイラクに対する武力攻撃に対しても、全く同じです。国連や国際社会の反対の意見を無視して、根拠も大義もないイラク攻撃に対していの一番にアメリカに対する支持を表明したのは、わが小泉総理です。国連決議もなく、主権国家に対する武力侵攻をすることは、侵略行為といわれて当然だと思います。憲法では戦争放棄をきちんと決めている国が、戦争を、しかも先制攻撃で不法な戦争をしかけていった国を支持するということくらい、大矛盾はないと言わざるをえません。

いま、イラクの戦後復興が大きな問題になっている。アメリカやイギリスが主導するのか、それとももう一度しっかりと復権をして国連が主導するのか、そのことによって今後の世界の有り様が大きく変わってくることは間違いないのです。しかし、この問題についても、小泉内閣はこれまでの政府の憲法解釈をずいぶんねじまげて、アメリカの国防総省のもとで占領行政を司る復興人道支援室と称するものへの要員派遣を決定してしまいました。国防総省のもとにある機関ですから、軍事占領行政を行うということは明々白々なんです。しかも、これは要請があってのことではなかったということも明らかになっています。

しかも追い討ちをかけて、いま与党からは必要ならイラクに自衛隊を派遣する用意があるとまで述べられています。前にアメリカ支持がまずあって、憲法解釈を後ろからこじつける。その国の最高法規を疎んじて粗末に扱うという政権に対して、尊敬の念や、まして信頼の念というものが近隣、近在の国々から寄せられることが果たして可能でしょうか。

連休が明けますと、いよいよ有事法制の取扱いが大きな問題になってきます。小泉内閣や与党が、有事法制のこの会期中の成立をめざしていることはまちがいありません。この前の国会は有事法制に反対という皆さん方の声が非常に高くて、政府もその皆さんの声に対して意識せざるを得なかったという面がある。私たちはもちろん廃案をめざしてがんばる以外にないと、歯をくいしばりましたけれども、しかし残念なことに今国会の中では同じ立場に立つ議席数が少ないんです。最後には議席の数がものをいうというのが、いまの与党の姿勢でして、審議もろくに尽くさず途中で強行採決をするというのはお得意の技になってしまいました。そして、1回、2回は大騒動になります。3回、4回、5回となると、これは当たり前の顔をしてまかりとるということにもなりかねない。非常に、これ自身が憂慮すべきことだと思います。法が憲法を変えていくという実態がいま動きつつあるわけですが、憲法の99条では、はっきり国務大臣、国会議員の一人ひとりに対して憲法尊重擁護の義務が定めてあるわけです。これを忘れ去って、99条にたいして認識すらもたないという人が増えているのではないですか。状況はだんだん戦前に似ていますけれども、しかし大変違うところがあります。何かといえば、主権者は国民のお一人ひとりの皆さん、そして私も含めて女性がただいまは政治に参加していること、地方自治がしっかり保障されているという問題です。それぞれの中味というのが十分に機能していればこのようにならないと私は思っています。どんなにこの有事関連3法案を政府が修正しようが取り繕おうが、国民の主権を侵害してわが国を戦争のできる国にするとつくりかえる本質には何の変化もありません。有事法制は修正ではなく、廃案以外にないと思っております。ことは緊急を要する問題だと思います。今日ただいまから、有事法案の廃案に向けて大きなうねりを全国津々浦々でもつくっていかなければならない。もし、有事法制の成立を許してしまうということになったら、つぎには教育基本法の改悪であり、解雇をルールとする中味の労働法改悪であり、それから総仕上げとして憲法の改悪です。いよいよ私たちの立場からするとのっぴきならないところに立たされているということをしっかり自覚しなければならないと思います。

この憲法改悪の動きがアメリカの軍事戦略に加担することを前提に周到に組み立てられていることを忘れてはならないと思っています。新ガイドラインとそれに基づく周辺事態法、テロ対策特措法、予定されているイラク新法もそうでしょう。有事法制もアメリカの軍事戦略に加担をして協力するものにほかならないということをしっかり受け止めて知るべきだと思います。ブッシュ政権の単独行動主義と先制攻撃論と憲法をないがしろにする小泉内閣が連携する超タカ派ラインのいきつく先を考えるとそら恐ろしいことになるわけです。

少なくとも、憲法の中味を生かせばことが起こってから有事と称してどうするではないのであって、有事をおこさせないための努力をすることこそ先決ではないでしょうか。どこまでいっても外交方策、また話し合い、お互いの対話が非常に大切だと思います。北東アジアにおいて、多国間で協調的な安全保障体制をつくらなければならない、単独で、1国が自分の気にいらないところは軍事力で排除する、おさえつける、そういうことがこのアジア北東地域でもまかり通るようなことは許せない。ならば、どうなのかといえば、やはり北東アジアで日ごろから多国間の協調的安全保障をしっかりつくらなければならない。有事法制をつくるというのは、これは脅威をつくることと同じだと思います。近隣の国から見て、脅威である国とどうしてにこやかな顔をして握手ができますか。むしろ警戒心旺盛になります。脅威をつくらない。むしろ、いかにしてお互いが率直にものが言い合う、協力しあって戦争を無くすことのためにまずはあらん限りの力を出す、その先頭に立つ、そういうことを指示しているのが日本国憲法ではないですか。日本の本領はそこにあると私は思うんです。この北東アジア地域で非核地帯を設置しようではありませんか。

56回目の憲法記念日。戦争の世紀と言われた20世紀を振り返り、いよいよ平和と安定の21世紀ということを願う私たちからすれば、いま日本の政治は岐路に立っているところです。世界の人たちと連帯し、わけてもアジアの人たちと連帯をして、憲法擁護、平和を守るという声をしっかりあげていくことだと思っております。憲法を生かし、政治の流れを変えるというのは皆さんと共に力を動かす以外にないわけですから、有事法制の廃案、憲法をしっかり生かすため、改めて私どももがんばりますという決意を申し上げて終えたいと思います。

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